説明

ヒドラジド化合物、金属キレート錯体化合物および該化合物を用いた光学記録媒体の記録層形成用色素

【課題】塗布溶媒への溶解性、耐光性のいずれにも優れ、青色レーザー記録に対応可能で、光学記録媒体の記録層形成用色素として有用な新規金属キレート錯体化合物を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表されるヒドラジド化合物。このヒドラジド化合物と金属原子からなる一般式(2)で表される金属キレート錯体化合物。この金属キレート錯体化合物を含む光学記録媒体の記録層形成用色素。


(一般式(1),(2)中、環Aは置換基を有していても良い芳香環を表し、Rは水素原子もしくは置換基を有していても良い芳香環基もしくは炭素数20以下の1価の非芳香環置換基を表し、R〜Rは、それぞれ独立に、置換基を有していても良い芳香環基もしくは炭素数20以下の1価の非芳香環置換基を表す。一般式(2)中、Mは金属原子を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学記録媒体の記録層形成用色素として有用な新規金属キレート錯体化合物のリガンドとなる新規ヒドラジド化合物と、このヒドラジド化合物と金属原子からなる新規金属キレート錯体化合物と、この金属キレート錯体化合物を含む光学記録媒体の記録層形成用色素に関するものである。特に、本発明は青色レーザー光対応の光学記録媒体の記録層形成用色素として有用な新規金属キレート錯体化合物と、この化合物を含む光学記録媒体の記録層形成用色素に関するものである。
本発明はまた、このような色素を用いた記録層を有する光学記録媒体と、この光学記録媒体の記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高密度での情報の記録保存/再生が可能なことから、レーザー光を用いた光学記録媒体、特に光ディスクについての開発が取り進められている。光ディスクの中でも最近注目を集めているものに、書き込み型コンパクトディスク(CD−R)がある。CD−Rは、通常、案内溝を有する円形のプラスチック基板上に、色素を主成分とする記録層、金属反射膜および保護膜が順次積層された構造をしている。CD−Rへの情報の記録は、主に、レーザー光を照射し、その照射エネルギーが記録層で吸収されることにより、レーザー光照射部分の記録層、反射層または基板に分解、蒸発、溶解等の熱的変形を生じさせる方法(ヒートモード)により行なわれる。また、記録された情報の再生は、レーザー光照射による熱的変形や色素構造の変化が起きている部分と起きていない部分のレーザー光に対する反射率の差を読み取ることにより行われる。従って、光学記録媒体の記録層はレーザー光のエネルギーを効率よく吸収する必要があり、記録層には一般的にレーザー光吸収色素が用いられている。
【0003】
レーザー光吸収色素として有機色素を利用した光学記録媒体は、有機色素溶液を塗布するという簡単な方法で記録層を形成し得るため、安価な光学記録媒体として今後益々普及することが期待されている。
【0004】
また、近年、記録の高密度化のため、記録に用いるレーザー光の波長を従来の半導体レーザーの発光波長である780nmを中心としたものから、405nm前後以下の青色光領域へと短波長化することが検討されつつある。
【0005】
さらに、近年、記録媒体の高容量化のため、記録媒体に記録層を2層作成することによって記憶容量の倍化を図った2層記録媒体の作成や、記録の高速化が検討されているため、記録層用色素化合物にはより一層の記録レーザーに対する高感度化が求められている。
【0006】
また、色素を用いて記録層を形成する場合、一般的にスピンコート法を用いて基板へ塗布する方法が、真空蒸着法に比べ、コスト面で有利であるため、光学記録媒体用色素は塗布溶媒に高い溶解性を示すことが必須である。現状では、塗布溶媒として2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール(TFP)や2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノール(OFP)などのフッ素系アルコール溶媒を用いて、ポリカーボネート基板に塗布するのが一般的であるため、記録層形成形色素には、これらの塗布溶媒に高い溶解性を示すことが求められる。
【0007】
また、一般的にデータの記録および読み出しはともにレーザー光によって行われ、読み出しレーザー光には、記録レーザー光よりも強度の弱いものが用いられる。従って、光学記録媒体の記録層を形成する色素が、読み出し光である弱いレーザー光照射によって分解されてしまうほど、該色素の耐光性が低いと、記録データの読み出しを行う際にデータエラーを生じる原因となる。また、光学記録媒体はその性質上記録面に太陽光や照明等が長時間照射される機会が多いため、色素が耐光性に劣ると光学記録媒体の記録データを長期保存することが困難になる。従って記録層形成用色素には高い耐光性が併せて求められる。
【0008】
イミン化合物は、その合成の簡便さおよび主に波長300nm以上に極大吸収を有することから、光学記録媒体への応用が期待される化合物の1つであり、これまでにも特許文献1〜2などの出願がなされている。
【特許文献1】特表2005−515914号公報
【特許文献2】国際公開2004−102551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、イミン化合物は、一般的に金属錯体でない場合、塗布溶媒への溶解性は優れるものの耐光性に著しく劣り、金属錯体である場合には、耐光性は改善される反面、塗布溶媒への溶解性が大きく低下する。すなわち、特許文献1〜2に記載のイミン化合物は、一般に塗布溶媒への溶解性もしくは耐光性のいずれか一方に著しく劣る。
【0010】
例えば、特許文献1においては、実施例として金属を含まないイミン化合物を用いた光学記録媒体のみしか記載がなく、本発明者らによる検討の結果、該実施例の化合物は耐光性に著しく劣ることが明らかとなった。また、特許文献2で実施例として挙げられているイミン金属錯体系化合物は、本発明者による検討の結果、特にフッ素系アルコール溶剤への溶解性に著しく劣ることが明らかとなった。さらに、イミン金属錯体系化合物のうち一般的なものであるサレン系錯体化合物に対しても同様の検討を行ったところ、やはりフッ素系アルコール溶媒への溶解性に著しく劣ることが明らかとなった。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、塗布溶媒への溶解性および耐光性のいずれにも優れ、青色レーザー光を用いた光記録にも対応可能な光学記録媒体の記録層形成用のイミン系色素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従来のイミン化合物が金属錯体でない場合、耐光性に著しく劣る理由としては、イミン構造が光に対して不安定であることが一因であると考えられ、金属錯体である場合、耐光性は改善される反面塗布溶媒への溶解性が大きく低下する理由としては、金属錯体化により化合物が剛直になるため、安定性は向上するが溶媒との親和性が低下するのが一因であると考えられる。
【0013】
一方、イミン化合物の一種であるヒドラジド化合物は、シッフ塩基に隣接したアミド基(−C=N−NH−C(=O)−骨格)を有する骨格を持つため、上記イミン化合物より化合物の剛直性が低く、金属錯体において溶媒に対する溶解性の向上が期待される。しかしながら、この骨格を金属錯体化した場合、金属への配位点がNとOとなり、配位が直接π共役構造に影響しないことから、安定性の向上がさほど見込めないと考えられており、光学記録媒体への応用は不可能であると思われていた。
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の一般式(1)で表される新規ヒドラジド化合物を開発し、かつ該化合物と金属原子からなる金属キレート錯体化合物が、塗布溶媒への溶解性および薄膜状態での耐光性に優れ、かつこれを記録層に用いた光学記録媒体が青色レーザー光で良好に記録できることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
本発明は、このような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0016】
[1] 下記一般式(1)で表されるヒドラジド化合物。
【化2】

(一般式(1)中、環Aは置換基を有していても良い芳香環を表し、Rは水素原子もしくは置換基を有していても良い芳香環基もしくは炭素数20以下の1価の非芳香環置換基を表し、R〜Rは、それぞれ独立に、置換基を有していても良い芳香環基もしくは炭素数20以下の1価の非芳香環置換基を表す。)
【0017】
[2] 環Aが芳香族炭化水素環であることを特徴とする[1]に記載のヒドラジド化合物。
【0018】
[3] [1]または[2]に記載のヒドラジド化合物と金属原子からなる金属キレート錯体化合物。
【0019】
[4] [3]に記載の金属キレート錯体化合物を含むことを特徴とする光学記録媒体の記録層形成用色素。
【0020】
[5] 基板と、該基板上に形成された記録層とを少なくとも有し、該記録層が、[4]に記載の光学記録媒体の記録層形成用色素を用いて形成されたものであることを特徴とする光学記録媒体。
【0021】
[6] [5]に記載の光学記録媒体に対し、波長350〜530nmのレーザー光を用いて記録を行なうことを特徴とする光学記録媒体の記録方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の新規ヒドラジド化合物から得られる新規金属キレート錯体化合物は、溶媒に対する溶解性、耐光性および青色レーザー記録感度に優れている。従って、この金属キレート錯体化合物を含む色素を光学記録媒体の記録層に用いることにより、青色レーザー光による記録特性に優れ、かつ耐光性も良好な高密度光学記録媒体を、良好な膜性のもとに、安価に提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。
【0024】
[ヒドラジド化合物および金属キレート錯体化合物]
本発明のヒドラジド化合物は、下記一般式(1)で表されるものであり、本発明の金属キレート錯体化合物は、このような本発明のヒドラジド化合物と金属原子とからなるものである。
【化3】

(一般式(1)中、環Aは置換基を有していても良い芳香環を表し、Rは水素原子もしくは置換基を有していても良い芳香環基もしくは炭素数20以下の1価の非芳香環置換基を表し、R〜Rは、それぞれ独立に、置換基を有していても良い芳香環基もしくは炭素数20以下の1価の非芳香環置換基を表す。)
【0025】
{語句の説明}
本発明において芳香環とは、芳香族性を有する環、すなわち(4n+2)π電子系(nは自然数)を有する環を意味する。その骨格構造は、通常、5または6員環の、単環または2〜6縮合環からなる芳香環であり、該芳香環には、芳香族炭化水素環、芳香族複素環の他、アントラセン環、カルバゾール環、アズレン環のような縮合環も含まれる。「芳香環基」等の「・・・・環基」とはこのような芳香環等の環から水素原子を1個取った1価の置換基である。
【0026】
また、「(ヘテロ)アリール」とは「アリール」と「ヘテロアリール」の両方を意味し、「(ヘテロ)アラルキル」とは「アラルキル」と「ヘテロアラルキル」の両方を意味する。
また、本発明において、「置換基を有していても良い」とは置換基を1以上有していても良いことを意味する。
【0027】
{一般式(1)}
<環A>
一般式(1)において、環Aは置換基を有していても良い芳香環を表す。その骨格構造の具体例としては、5員環単環としてフラン環、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサジアゾール環、6員環単環としてベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、縮合環としてナフタレン環、フェナンスレン環、アズレン環、ピレン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾフラン環、カルバゾール環、ジベンゾチオフェン環、アントラセン環等が挙げられる。これらのうち、合成上の理由から芳香族炭化水素環が好ましく、ベンゼン環やナフタレン環などの6員環がさらに好ましく、特に好ましくはベンゼン環である。
【0028】
環Aの芳香環が有していても良い置換基としては、炭素数20以下の、鎖状アルキル基、鎖状アルケニル基、鎖状アルキニル基、炭化水素環基、複素環基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、(ヘテロ)アリールオキシ基、(ヘテロ)アラルキルオキシ基、置換基を有していても良いアミノ基、ニトロ基、シアノ基、エステル基、置換基を有していても良いカルバモイル基、ハロゲン原子、水酸基などが挙げられる。
【0029】
鎖状アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基などの炭素数が通常1〜20、好ましくは1〜10の直鎖または分岐状のものが挙げられる。
【0030】
鎖状アルケニル基の例としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、ヘキセニル基、オクテニル基などの炭素数が通常2〜20、好ましくは2〜10の直鎖または分岐状のものが挙げられる。
【0031】
鎖状アルキニル基の例としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、2−メチル−1−プロピニル基、ヘキシニル基、オクチニル基などの炭素数が通常2〜20、好ましくは2〜10の直鎖または分岐状のものが挙げられる。
【0032】
炭化水素環基としてはシクロプロピル基、シクロヘキシル基、テトラデカヒドロアントラニル基などの炭素数が通常3〜20、好ましくは5〜10のシクロアルキル基、シクロヘキセニル基などの炭素数が通常3〜20、好ましくは5〜10のシクロアルケニル基、フェニル基、アントラニル基、フェナンスリル基、フェロセニル基などの炭素数が通常6〜18、好ましくは6〜10のアリール基が挙げられる。
【0033】
複素環基としては、5〜6員環の単環または2〜6縮合環からなるヘテロアリール基、5〜6員環の単環または2〜6縮合環からなるヘテロシクロアルキル基が挙げられ、ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などが挙げられる。具体的には、チエニル基などの5員環、ピリジル基、2−ピペリジニル基、2−ピペラジニル基などの6員環、ベンゾチエニル基、カルバゾリル基、キノリニル基、オクタヒドロキノリニル基などの5または6員環の2〜6縮合環由来の基が挙げられる。
【0034】
アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、iso−プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基などの炭素数が通常1〜9、好ましくは2〜8のものが挙げられる。
【0035】
アルキルカルボニル基としては、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、tert−ブチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基などの炭素数が通常2〜18、好ましくは2〜8のものが挙げられる。
【0036】
(ヘテロ)アリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等の炭素数が通常6〜18、好ましくは6〜10のアリールオキシ基や、2−チエニルオキシ基、2−フリルオキシ基、2−キノリルオキシ基等の炭素数が通常5〜18、好ましくは5〜10で、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、硫黄原子などから選ばれるものを含むヘテロアリールオキシ基などが挙げられる。
【0037】
(ヘテロ)アラルキルオキシ基の例としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、ナフチルメトキシ基等の炭素数が通常7〜18、好ましくは7〜12のアラルキルオキシ基や、2−チエニルメトキシ基、2−フリルメトキシ基、2−キノリルメトキシ基等の炭素数が通常6〜18、好ましくは6〜10で、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、硫黄原子などから選ばれるものを含むヘテロアラルキルオキシ基などが挙げられる。
【0038】
置換基を有していても良いアミノ基としては、アミノ基、アルキルアミノ基、(ヘテロ)アリールアミノ基などが挙げられる。
アルキルアミノ基の例としては、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、ピペリジル基などの炭素数が2〜20、好ましくは3〜10のものが挙げられる。
(ヘテロ)アリールアミノ基の例としては、ジフェニルアミノ基、ジナフチルアミノ基、ナフチルフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基等の炭素数が6〜30、好ましくは6〜15のアリールアミノ基や、ジ(2−チエニル)アミノ基、ジ(2−フリル)アミノ基などの炭素数が5〜30、好ましくは6〜15で、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、硫黄原子などから選ばれるものを含むヘテロアリールアミノ基、フェニル(2−チエニル)アミノ基等の炭素数が11〜30、好ましくは12〜16のアリールヘテロアリールアミノ基などが挙げられる。
【0039】
置換基を有していても良いカルバモイル基としては、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基などが挙げられる。
アルキルカルバモイル基としては、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N−エチル−N−シクロヘキシルカルバモイル基などの炭素数が通常2〜20、好ましくは2〜10のものが挙げられる。
【0040】
エステル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などの炭素数が2〜20、好ましくは2〜10のものが挙げられる。
【0041】
ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子などが挙げられる。
【0042】
なお、環Aが2つ以上の置換基を有する場合、該置換基同士が結合して環状構造をなしてもよい。例えば、環Aがベンゼン環である場合、該ベンゼン環が有する置換基同士が結合してヘテロ原子を含んでいても良い環状構造を形成している例として以下に示す構造が挙げられる。なお、以下において、点線がヒドラジド骨格への結合位置である。
【0043】
【化4】

【0044】
なお、環Aは、これらの置換基を有している方が記録層を形成する際に用いる溶媒に対する色素の溶解性が向上するので好ましいが、有していない方が合成上の面で好ましい。
【0045】
また、環Aがこれらの置換基を有している場合において、溶媒としてテトラフルオロプロパノールやメチルセロソルブなどの極性溶媒を用いる場合には、N,N−二置換カルバモイル基やエステル基などの極性置換基が含まれるのが好ましく、溶媒として塩化メチレン、ジブチルエーテルやメチルシクロヘキサンなどの非極性溶媒を用いる場合には、アルキル基やアルコキシ基などの非極性置換基が含まれることが好ましい。
【0046】
<R
一般式(1)において、Rは、水素原子、置換基を有していても良い芳香環基もしくは炭素数20以下の1価の非芳香環置換基を表す。
置換基を有していても良い芳香環基の具体例はとしては環Aの具体例として記載された芳香環由来の基が挙げられ、炭素数20以下の1価の非芳香環置換基の具体例としては環Aが有していても良い置換基として記載されたもののうち、芳香環基を除くものが挙げられる。
【0047】
はメチル基、エチル基などのアルキル基であることが合成面で好ましいが、置換されていても良いベンジル基などの脱離性置換基であることが記録媒体とした際の感度向上面で好ましい。
【0048】
<R〜R
一般式(1)において、R〜Rは、それぞれ独立に、置換基を有していても良い芳香環基もしくは炭素数20以下の1価の非芳香環置換基を表す。
置換基を有していても良い芳香環基の具体例はとしては環Aの具体例として記載された芳香環由来の基が挙げられ、炭素数20以下の1価の非芳香環置換基の具体例としては環Aが有していても良い置換基として記載されたもののうち、芳香環基を除くものが挙げられる。
【0049】
は芳香環基であることが化合物の安定性上好ましいが、芳香環基でないことが青色レーザーへの感度向上の点で好ましい。また、RおよびRのいずれか一方が置換されていても良いベンジル基、置換されていてもよいtert−ブチル基などの脱離性置換基であることが光学記録媒体とした際の感度向上の面で好ましいが、両方とも直鎖アルキル基であることが合成面で好ましい。
【0050】
{金属原子}
本発明の金属キレート錯体化合物に係る金属原子は、一般式(1)で表される本発明のヒドラジド化合物をヒドラジドリガンドとして、これと金属錯体を形成し得るものであれば何でもよく、具体例としてはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,Pt,Au,Er等が挙げられる。
【0051】
金属原子は経済面から周期表第4周期元素であることが好ましく、耐光性向上の面からCoであることが特に好ましい。
【0052】
{キレート錯体の形態}
本発明の金属キレート錯体化合物における一般式(1)で表されるヒドラジド化合物および金属原子の構成比率については、この金属キレート錯体化合物が中性であれば特に規定されないが、安定性向上の面から通常金属原子1に対してヒドラジド化合物2のモル比率であることが好ましい。
以下の一般式(2)に、本発明の金属キレート錯体化合物として好ましいキレート錯体骨格を示す。なお、一般式(2)において、Mは金属原子を表し、環AおよびR〜Rは、一般式(1)におけるものと同義である。
【0053】
【化5】

【0054】
{分子量}
本発明の金属キレート錯体化合物は、吸光度低下による感度低下防止の点から、通常分子量1,500以下、中でも1,000以下であることが好ましい。
【0055】
なお、本発明の金属キレート錯体化合物は、記録媒体の保存安定性を向上させる理由から、通常水不溶性であることが好ましい。ここで「水不溶性」とは、25℃、1気圧の条件下における水に対する溶解度が、通常0.1重量%以下、好ましくは0.01重量%以下であることを言う。
【0056】
{具体例}
一般式(1)で表される本発明のヒドラジド化合物と金属原子とからなる本発明の金属キレート錯体化合物のうち、前記一般式(2)で表される金属キレート錯体化合物の具体例を以下に例示するが、本発明はその要旨を超えない限りこれらに限定されるものではない。なお、以下において、Meはメチル基を、Etはエチル基を、Acはアセチル基を、Phはフェニル基を表す。
【0057】
【化6】

【0058】
【化7】

【0059】
【化8】

【0060】
{合成法}
一般式(1)で表される本発明のヒドラジド化合物は、以下に示す反応などによって容易に合成できる。
【0061】
【化9】

(上記反応式中、環A、R〜Rは一般式(1)におけると同義である。)
【0062】
この際、反応系に溶媒が存在しても、しなくても良い。
反応溶媒を用いる場合、該溶媒としてはエタノール、アセトニトリルなどの極性溶媒やトルエン、キシレンなどの非極性溶媒を用いることができ、さらに触媒として塩酸、酢酸、硫酸などの酸を添加しても良い。
この場合の触媒の添加量は反応が進行すれば特に規定されないが、基質に対して1/100〜1モル倍程度であることが好ましい。
反応温度は室温から溶媒が還流する程度であることが好ましく、反応時間は1分〜48時間程度であることが好ましい。
【0063】
また、このようなヒドラジド化合物と金属原子とからなる本発明の金属キレート錯体化合物は、上述の手法で合成されたヒドラジドリガンドを塩基で処理した後、遷移金属塩と溶媒の存在下もしくは非存在下、室温から溶媒が還流する程度の温度で加熱反応させることにより得ることができる。反応溶媒を用いる場合、該溶媒としては水、エタノール、アセトニトリルなどの極性溶媒やクロロホルム、トルエン、キシレンなどの非極性溶媒を用いることができる。塩基としては、水酸化ナトリウム、炭酸カリウムなどの無機塩基や、トリエチルアミンやピペリジンなどの有機塩基を用いることができる。
【0064】
なお、上記反応式において、ヒドラジド中間体(i−1)は市販化合物や市販化合物の定法による誘導化によって容易に用意することができ、ケトン中間体(i−2)は例えば“Tetrahedron、1969年(25巻)、2757−2766頁”などを参考に合成することができる。
【0065】
{耐光性および塗布溶媒への溶解性}
本発明の金属キレート錯体化合物のうち好ましいものは、耐光性および塗布溶媒への溶解性に優れ、さらに光学記録媒体の記録層形成に用いたときの膜性および記録感度に優れるという特徴がある。
【0066】
この場合の耐光性に優れるとは、約50nmの膜厚になるように形成した金属キレート錯体化合物薄膜に対し、温度58℃、湿度50%、キセノンランプ(強度0.55W/m)照射条件の耐光性試験を40時間行っても、当該薄膜中の金属キレート錯体化合物の通常70%以上、好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上が劣化せずに残存することを言う。ここで、劣化の度合いは300〜500nmにおける吸収極大の吸収減少率によって判定する。
【0067】
この耐光性の試験は、具体的には、次のようにして行われる。
まず、乾燥後の膜厚が約50nmとなるように、金属キレート錯体化合物を含む溶液を基板上に塗布した後、乾燥し、金属キレート錯体化合物を含む層を得る。得られた色素を含む層に対して、温度58℃、湿度50%の条件下、キセノンランプ(強度0.55W/m)の照射を所定時間行い、照射前後の吸収極大波長における吸光度を比較し、色素残存率を求めることにより実施される。
【0068】
また、塗布溶媒への溶解性に優れるとは、20℃、常圧条件において、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール(TFP)に0.7重量%以上、好ましくは1.0重量%以上、更に好ましくは1.5重量%以上溶解することを示す。溶解の判定は特定の濃度で化合物とTFPを混合したときに、溶媒中に化合物の結晶残渣が残存するか否かで行う。
なお、本発明の用途においては、溶解度の上限は特に制限されるものではないが、通常20重量%以下、中でも10重量%以下程度である。
【0069】
このように、本発明の金属キレート錯体化合物が耐光性および塗布溶媒への溶解性に優れる理由は、金属キレート化によりヒドラジド金属キレート錯体が安定化したこと、一般式(1)中の以下の骨格(1A)の部分が、立体的に嵩高く、分子同士の重なりを最小限に抑え溶解性を向上させたこと等が挙げられる。
【0070】
【化10】

【0071】
また、上記骨格(1A)の部分が比較的反応性に富むことから、通常の条件下では安定ながら記録レーザー照射条件下では不安定、即ち高感度であることが期待される。
【0072】
[光学記録媒体の記録層形成用色素]
本発明の光学記録媒体の記録層形成用色素は、上述のような本発明の金属キレート錯体化合物を含むものである。
本発明の光学記録媒体の記録層形成用色素中には、本発明の金属キレート錯体化合物を1種類のみ用いてもよく、本発明の金属キレート錯体化合物を2種類以上、任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。また、1種または2種以上の本発明の金属キレート錯体化合物に加えて、他の色素の1種または2種以上を併用してもよい。
但し、本発明の金属キレート錯体化合物以外の色素を併用する場合には、本発明の金属キレート錯体化合物の優れた特性を十分に発揮させる観点から、全色素の合計に対する本発明の金属キレート錯体化合物が占める比率を、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上とすることが好ましい。
【0073】
本発明の金属キレート錯体化合物と併用可能な他系統の色素としては、記録用のレーザー光波長域に吸収を有し、照射されたレーザー光のエネルギーを吸収して、照射部分の記録層、反射層または基板に、分解、蒸発、溶解等の熱的変形を伴うピットを形成させるものが好ましい。また、CD−R向けの770〜830nmの範囲から選ばれた波長の近赤外レーザー光やDVD−R向けの620〜690nmの範囲から選ばれた赤色レーザー光での記録に適する色素を併用して、複数の波長域のレーザー光での記録に対応する光学記録材料とすることもできる。
併用し得る他系統の色素としては、具体的には、含金属アゾ系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、シアニン系色素、アゾ系色素、スクアリリウム系色素、含金属インドアニリン系色素、トリアリールメタン系色素、メロシアニン系色素、アズレニウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素、インドフェノール系色素、キサンテン系色素、オキサジン系色素、ピリリウム系色素等が挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
なお、これら他系統の色素のうち、CD−R向けの770〜830nmの範囲から選ばれた波長の近赤外レーザー光やDVD−R向けの620〜690nmの範囲から選ばれた赤色レーザー光での記録に適する色素を併用して、複数の波長域のレーザー光での記録に対応する光学記録材料とすることもできる。
【0075】
[光学記録媒体]
{記録層}
本発明の光学記録媒体が有する記録層は、本発明の金属キレート錯体化合物の少なくとも1種を含有する本発明の光学記録媒体の記録層形成用色素(単に「本発明の色素」と称す場合がある。)を用いて形成されたものである。
即ち、本発明の光学記録媒体の記録層は、本発明の金属キレート錯体化合物の1種または2種以上を含有するものである。
【0076】
記録層に占める本発明の色素の割合は、通常10重量%以上、好ましくは50重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。
色素の割合が少なすぎると、記録感度が著しく低下するので好ましくない。本発明の色素として2種類以上の色素を併用する場合には、その合計が上記範囲を満たすようにする。また、後述のバインダーや各種の添加剤を用いる場合には、形成された記録層に占める本発明の色素の割合が上記の範囲内となるように、バインダーや添加剤の使用量を調整することが好ましい。なお、本発明の色素の優れた特性を十分に発揮させる観点から、本発明に係る記録層には、バインダーや添加剤が使用されないことが特に好ましい。
【0077】
記録層は成膜性を向上させるためにバインダーを含有していてもよい。バインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ケトン樹脂、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート等既知のものが1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いられる。
記録層に占めるバインダーの割合が高すぎると記録感度が著しく低下するので、バインダー、更には後述の各種添加剤を用いる場合、形成された記録層に占める本発明の色素の割合が、上記の範囲となるような量を用いる。
【0078】
また、記録層は、安定性や耐光性向上のための一重項酸素クエンチャーや記録感度向上剤などを含有していてもよい。
【0079】
一重項酸素クエンチャーとしては、アセチルアセトナート、ビスフェニルジチオール、サリチルアルデヒドオキシム、ビスジチオ−α−ジケトン等と遷移金属とのキレート化合物などが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
記録感度向上剤としては、遷移金属等の金属が原子、イオン、クラスター等の形で化合物に含まれる金属系化合物等が挙げられ、例えばエチレンジアミン系錯体、アゾメチン系錯体、フェニルヒドロキシアミン系錯体、フェナントロリン系錯体、ジヒドロキシアゾベンゼン系錯体、ジオキシム系錯体、ニトロソアミノフェノール系錯体、ピリジルトリアジン系錯体、アセチルアセトナート系錯体、メタロセン系錯体のような有機金属化合物などが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。金属原子の種類は特に限定されないが、遷移金属が好ましい。
【0081】
なお、一重項酸素クエンチャーは色素に対して通常5〜30重量%程度、記録感度向上剤は色素に対して通常10〜30重量%程度用いられる。
2種以上の一重項酸素クエンチャーを併用する場合や、2種以上の記録感度向上剤を併用する場合には、各々、その合計が上記範囲を満たすようにする。
【0082】
本発明の金属キレート錯体化合物を含む本発明の色素を用いて光学記録媒体の記録層を形成するには、真空蒸着法、スパッタリング法、ドクターブレード法、キャスト法、スピンコート法、浸漬法等の一般に行われている薄膜形成法を用いることができる。
これらのうち、量産性、コスト面からスピンコート法が好ましい。
スピンコート法により記録層を成膜する場合、回転数は500〜5000rpmが好ましく、スピンコート後、必要に応じて、加熱または溶媒蒸気にさらす等の処理を行ってもよい。
【0083】
記録層の膜厚は、特に限定されないが、通常10nm〜5μm、好ましくは20nm〜2μm、更に好ましくは50nm〜300nmである。記録層の膜厚がこの下限値より大きい場合は、熱拡散の影響を抑えることができ、良好な記録がしやすい。また、記録信号に歪みが発生しにくいため、信号振幅を大きくしやすい。記録層の膜厚が前記の上限値より小さい場合は、反射率を高くしやすく、再生信号特性を良好としやすい。
【0084】
記録層をドクターブレード法、キャスト法、スピンコート法、浸漬法等により形成する場合には、まず、本発明の記録層形成用色素、バインダー、一重項酸素クエンチャー、記録感度向上剤および他の色素等を溶媒に溶解させ、塗布液を作成する。
【0085】
溶媒としては、TFPを用いることが工業面で特に好ましいが、基板を侵さない溶媒であればTFPに限定されるものではなく、ジアセトンアルコール、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン等のケトンアルコール系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、n−ヘキサン、n−オクタン等の鎖状炭化水素系溶媒、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、t−ブチルシクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素系溶媒、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノール(OFP)、ヘキサフルオロブタノール等のフッ素系アルキルアルコール系溶媒、乳酸メチル、乳酸エチル、イソ酪酸メチル等のヒドロキシエステル系溶媒等を用いることもできる。なお、これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよいが、工業面からは1種を単独で用いることが好ましい。
【0086】
塗布液中の本発明の色素の濃度は、その溶媒溶解性に応じて適宜決定されるが、通常0.7重量%以上、好ましくは1.0重量%以上で、通常10重量%以下、好ましくは3.0重量%以下とされる。塗布液中の色素濃度が過度に低いと、記録層の形成効率が悪くなる。塗布液中の色素濃度が過度に高いと成膜工程において、色素の結晶化等の問題が発生する。
なお、スピンコート後の余剰色素を効率的に回収するためには、通常上述の塗布液の色素濃度の1.5倍以上、好ましくは2倍以上の濃度であっても、色素が塗布溶媒に溶解可能であることが好ましい。
【0087】
{光学記録媒体の層構成}
本発明の光学記録媒体は、基板上に、本発明の記録層形成用色素を用いて上述のようにして形成された記録層を有するものである。
【0088】
記録層を形成する光学記録媒体の基板としては、ガラスや種々のプラスチックなど、使用するレーザー光に対して透明なものが好ましく用いられる。プラスチックとしては、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ニトロセルロース、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられるが、生産性、コスト、耐吸湿性などの点からポリカーボネート樹脂を射出成形したものが好ましい。
【0089】
通常、基板上には、必要に応じて更に、反射層、保護層、下引き層などの記録層以外の層が設けられ、光学記録媒体として使用される。
【0090】
反射層としては、金、銀、アルミニウムまたはそれらの合金のような金属からなるもの等が挙げられるが、550nm以下の波長のレーザー光に対する反射率から、金やアルミニウムより、銀の方が好ましい。金属反射層は、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などによって記録層上に成膜される。ここで、金属反射層と記録層との間に層間の密着力を向上させるため、または、反射率を高める等の目的で中間層を設けてもよい。
反射層の膜厚は、通常50nm以上、300nm以下の範囲である。
【0091】
反射層の上に形成する保護層の材料は、反射層を外力から保護するものであれば特に限定されない。例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、UV(紫外線)硬化性樹脂等の有機物質、SiO、SiN、MgF、SnO等の無機物質などが挙げられる。
熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等は適当な溶媒に溶解して塗布液を塗布し、乾燥することによって形成することができる。
UV硬化性樹脂は、そのままもしくは適当な溶媒に溶解して塗布液を調製した後、この塗布液を塗布し、UV光を照射して硬化させることによって形成することができる。UV硬化性樹脂としては、例えば、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等のアクリレート系樹脂を用いることができる。これらの材料は1種を単独でまたは2種以上を混合して用いてもよいし、1層だけでなく多層膜にして用いてもよい。
【0092】
保護層の形成の方法としては、記録層と同様に、スピンコート法やキャスト法等の塗布法やスパッタ法や化学蒸着法等の方法が用いられるが、この中でもスピンコート法が好ましい。保護層の膜厚は、通常、0.1μm以上、100μm以下の範囲である。
【0093】
なお、各層間の接着力を高めるために、各層間に下引き層を用いても良い。下引き層の種類としては、各層の接着力を高め、かつ各層の性質に影響を与えないものであれば特に限定されないが、取扱いの容易さから有機層であることが好ましい。
【0094】
また、上記構成の光学記録媒体を接着層を介して2枚貼りあわせ、或いは、基板の片面だけでなく両面に反射層、記録層、保護層等を設けることにより、両面記録型光学記録媒体としてもよい。更には、基板上に反射層および記録層の組を、中間層を介して二組以上形成し、その上に保護層を設けることにより、多層型光記録媒体としてもよい。
【0095】
[光学記録媒体の記録方法]
{レーザー光}
上述のようにして得られた光学記録媒体への情報の記録は、通常、記録層に0.4〜0.6μm程度に集束したレーザー光を照射することにより行う。記録層がレーザー光のエネルギーを吸収すると、レーザー光照射部分では、分解、発熱、溶融等の熱的変形が起こる。記録された情報の再生は、レーザー光による上記熱的変形が起きている部分と起きていない部分の反射率の差を読み取ることにより行う。
【0096】
高密度記録のためには、記録時に使用するレーザー光の波長は短いほど好ましく、特に、本発明の光学記録媒体は、その記録層に上述した本発明の金属キレート錯体化合物を含有する利点を十分に発揮させる観点から、波長350nm〜530nmのレーザー光が好ましい(以下、このようなレーザー光を用いる記録方法を適宜「本発明の光学記録媒体の記録方法」或いは単に「本発明の記録方法」という。)。
【0097】
かかるレーザー光の代表例としては、例えば、中心波長405nm、410nmなどの青色レーザー光、中心波長515nmの青緑色の高出力半導体レーザー光が挙げられる。これら以外にも(a)基本発振波長が740〜960nmの連続発振可能な半導体レーザー光、または(b)半導体レーザー光によって励起されかつ基本発振波長が740〜960nmの連続発振可能な固体レーザー光のいずれかを、第二高調波発生素子(SHG)により波長変換することによって得られる光なども挙げられる。
【0098】
上記のSHGとしては、反射対称性を欠くピエゾ素子であればいかなるものでもよいが、KDP(KHPO)、ADP(NHPO)、BNN(BaNaNb15)、KN(KNbO)、LBO(LiB)、化合物半導体などが好ましい。第二高調波の具体例としては、基本発振波長が860nmの半導体レーザーの場合は、その倍波の波長430nm、また半導体レーザー励起の固体レーザーの場合は、CrドープしたLiSrAlF結晶(基本発振波長860nm)からの倍波の波長430nmなどが挙げられる。
これらのうち、中心波長405nmの青色レーザー光を使用することが特に好ましい。
【0099】
光学記録媒体が有する吸収波長および吸光度のうち、本発明の金属キレート錯体化合物のアセトニトリル中での吸収スペクトルの最大吸収波長(λmax)が380〜500nmであり、該λmaxにおけるOD係数(溶媒1Lに1g溶解させたと仮定した場合の吸光度)が40以上であることが、膜厚の制御およびレーザーへの高感度化の面で好ましい。
【0100】
{記録感度}
本発明の金属キレート錯体化合物は、記録レーザー感度に優れる。具体的には、本発明の金属キレート錯体化合物を記録層に含んだ光学記録媒体のうち好ましいものは、中心波長404nm、NA=0.85の青色レーザー光を照射した場合に、レーザー強度12mW以下、好ましくは10mW以下、特に好ましくは7.5mW以下においても良好な記録ピットの形成が可能である。
なお、ここで良好な記録ピットの形成が可能であるとは、特定のレーザー強度の青色レーザー光を光学記録媒体の記録面に照射した場合に、目視もしくは光学顕微鏡を用いてピットの形成を確認できることを言う。
【0101】
{膜性}
また、本発明に係る金属キレート錯体化合物は、膜性に優れている。すなわち、スピンコート法により記録層を形成後、ディスク表面に化合物の結晶化に由来する白化現象が認められない点においても、工業的に有利である。
【実施例】
【0102】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0103】
なお、以下において、DEI−MS(脱離イオン化質量分析法)分析は日本電子株式会社製JMS−700 MStation質量分析計を用い、加速電圧:10kV、昇温条件:0〜0.9A、1A/分の条件で行った。
また、紫外可視吸収スペクトルは、島津株式会社製UV−3150紫外可視近赤外分光光度計によって分析した。
核磁気共鳴(NMR)分析は、Bruker社AV−400M核磁気共鳴分析装置(400MHz)を用い、室温、重クロロホルム中にてプロトンの分析を行った。
【0104】
[実施例1]
<中間体(i−3)の合成>
【化11】

【0105】
2−エチル−3,3−ジメチル−3H−インドール(2.0g)と過酸化ベンゾイル(75%含湿品、1.9g)を四塩化炭素(100ml)中空気を吹き込みながら6時間加熱還流した。反応混合物を室温まで冷却し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで橙白色の目的化合物である2−アセチル−3,3−ジメチル−3H−インドール(i−3)(1.2g、収率56%)を得た。
得られた化合物の同定はH NMRにより行った。
NMR(CDCl)δ:7.90(m,1H)、7.5−7.3(m,3H)、2.66(s,3H)、1.47(s,6H)
【0106】
<ヒドラジドリガンド(L−1)の合成>
【化12】

【0107】
2−アセチル−3,3−ジメチル−3H−インドール(0.50g)とベンズヒドラジド(0.50g)を酢酸(0.1ml)およびメタノール(15ml)中で4時間加熱還流した。反応混合物を0℃まで冷却し、生成した固体を濾別した。冷メタノール(10ml)で洗浄し、乾燥させることで白色の目的化合物(L−1)(0.53g、収率65%)を得た。
得られた化合物の同定はDEI−MSにより行った。
DEI−MS(M) 計算値:305、実測値:305
【0108】
<例示化合物(A−1)の合成>
化合物(L−1)(0.53g)を熱メタノール(30ml)に溶解させた。該溶液にトリエチルアミン(0.18g)および酢酸コバルト四水和物(0.22g)をこの順番に加え、50℃で1時間撹拌した。反応混合物を濾過し、濾液を水(20ml)に滴下し、生成した固体を濾別し、水(10ml)で洗浄することで、下記の目的化合物(A−1)の黄色固体(0.50g、収率86%)を得た。
λmax(CHCN):421nm
λmaxでのOD:45
【0109】
【化13】

【0110】
得られた化合物(A−1)について、塗布溶媒に対する溶解性を以下に示す方法で試験した結果、濃度0.7重量%においては完全に溶解し、濃度1.0重量%においても不溶成分はわずかであることが確認された。
【0111】
<溶解性試験>
塗布溶媒として、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノールを用い、化合物(A−1)の濃度を0.7重量%、および1.0重量%として、20℃、常圧にて30分間超音波処理した後、濾紙(東洋濾紙社製定量濾紙「No.5C」)上に滴下し、室温で24時間乾燥させ、未溶解成分の結晶残渣が濾紙上に存在するか否かを目視観察した。
【0112】
<記録媒体の作製>
得られた化合物(A−1)を2,2,3,3−テトラフルオロプロパノールに濃度1.0重量%で溶解させ、濾過によって微細なゴミを取り除いた後、得られた溶液を、直径120mm、厚さ1.2mmの射出成形ポリカーボネート基板上に滴下し、スピンコート法(4900rpm)により塗布し、80℃で30分間乾燥させることにより、膜厚約50nmの透明色素膜(記録層)を形成し、光学記録媒体を作製した。
【0113】
得られた光学記録媒体について、以下に示す方法で記録感度を試験したところ、記録ピットの形成が確認された最高記録感度は9.0mWであった。
<記録感度試験>
中心波長404nm、NA=0.85の半導体レーザー光を照射し、光学顕微鏡により記録ピットの形成が確認された最高記録感度を測定した。
【0114】
更に、得られた光学記録媒体について、以下に示す方法で耐光性を試験したところ、色素残存率は84%であった。
<耐光性試験>
温度58℃、湿度50%の条件下で、0.55W/mの照射強度でキセノンランプを40時間照射した後の記録層について、吸収極大波長における照射前後の吸光度に基づいて色素残存率を求めた。
【0115】
[実施例2]
<ヒドラジドリガンド(L−2)の合成>
【化14】

2−アセチル−3,3−ジメチル−3H−インドール(0.40g)とp−ジメチルアミノベンズヒドラジド(0.50g)を酢酸(0.1ml)およびエタノール(15ml)中で3時間加熱還流した。反応混合物を0℃まで冷却し、生成した固体を濾別した。冷メタノール(10ml)で洗浄し、乾燥させることで黄色の目的化合物(L−2)(0.42g、収率56%)を得た。
得られた化合物の同定はDEI−MSにより行った。
DEI−MS(M) 計算値:348、実測値:348
【0116】
<例示化合物(A−5)の合成>
化合物(L−2)(0.42g)を熱メタノール(20ml)に溶解させた。該溶液にトリエチルアミン(0.13mg)および酢酸コバルト四水和物(0.16g)をこの順番に加え、50℃で1時間撹拌した。反応混合物に水(20ml)を加え、生成した固体を濾別し、水(10ml)およびメタノール(10ml)で洗浄することで、下記の目的化合物(A−5)の黄色固体(0.30g、収率65%)を得た。
λmax(CHCN):511nm
λmaxでのOD:60
【0117】
【化15】

【0118】
得られた化合物(A−5)について、塗布溶媒に対する溶解性を、実施例1に示した方法で試験した結果、濃度0.7重量%、および1.0重量%のいずれにおいても、完全に溶解していることが確認された。
次いで、得られた化合物(A−5)について実施例1と同様にして光学記録媒体を作製した。
得られた光学記録媒体について、実施例1に示した方法で記録感度を試験したところ、記録ピットの形成が確認された最高記録感度は9.0mWであった。
更に、得られた光学記録媒体について、実施例1に示した方法で耐光性を試験したところ、色素残存率は80%であった。
【0119】
[比較例1]
特許文献2に記載の下記化合物(B−2)ついて、塗布溶媒に対する溶解性を、実施例1に示した方法で試験した結果、濃度0.7重量%、および1.0重量%のいずれにおいても、不溶成分が多いことが確認された。
【0120】
【化16】

【0121】
[比較例2]
サレン金属錯体化合物である下記化合物(B−3)にいて、塗布溶媒に対する溶解性を、実施例1に示した方法で試験した結果、濃度0.7重量%、および1.0重量%のいずれにおいても、不溶成分が多いことが確認された。
【0122】
【化17】

【0123】
[比較例3]
特許文献1に記載の下記化合物(B−1)について、実施例1におけると同様にして光学記録媒体を作製し、得られた光学記録媒体について、実施例1に示した方法で耐光性を試験したところ、色素残存率は10%未満であった。
【0124】
【化18】

【0125】
実施例1,2および比較例1,2において示した溶解性試験の結果を、表1にまとめて示す。
【0126】
【表1】

【0127】
表1より次のことが明らかである。
実施例1,2の本発明の金属キレート錯体化合物は、それぞれ0.7〜1.0重量%TFP溶液を用いた場合でも濾紙上に未溶解成分がほとんど確認されず、高い溶解性を有する。
一方、比較例に示す化合物の溶解性は著しく悪く、本発明の化合物が塗布溶媒への溶解性に優れることが明らかである。
【0128】
また、実施例1,2および比較例3において示した記録感度試験および耐光性試験の結果を、表2にまとめて示す。
【0129】
【表2】

【0130】
表2から、本発明の金属キレート錯体化合物を用いて作成された光学記録媒体が、青色レーザー光に対する感度および耐光性の面で優れていることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるヒドラジド化合物。
【化1】

(一般式(1)中、環Aは置換基を有していても良い芳香環を表し、Rは水素原子もしくは置換基を有していても良い芳香環基もしくは炭素数20以下の1価の非芳香環置換基を表し、R〜Rは、それぞれ独立に、置換基を有していても良い芳香環基もしくは炭素数20以下の1価の非芳香環置換基を表す。)
【請求項2】
環Aが芳香族炭化水素環であることを特徴とする請求項1に記載のヒドラジド化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のヒドラジド化合物と金属原子からなる金属キレート錯体化合物。
【請求項4】
請求項3に記載の金属キレート錯体化合物を含むことを特徴とする光学記録媒体の記録層形成用色素。
【請求項5】
基板と、該基板上に形成された記録層とを少なくとも有し、該記録層が、請求項4に記載の光学記録媒体の記録層形成用色素を用いて形成されたものであることを特徴とする光学記録媒体。
【請求項6】
請求項5に記載の光学記録媒体に対し、波長350〜530nmのレーザー光を用いて記録を行なうことを特徴とする光学記録媒体の記録方法。

【公開番号】特開2008−45092(P2008−45092A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−224358(P2006−224358)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】