説明

ヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水の処理方法

【課題】ヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水を、ヒドラジンを効率よく分解処理することができるとともに、残存する錯体形成有機化合物は通常の活性汚泥法等の生物処理によって容易に処理することができるものとする。
【解決手段】ヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水に金属粉末を添加し、酸素含有ガスでヒドラジンを酸化分解する酸化工程と、この酸化工程において排水中に生成する金属粉末から一部溶解した金属イオンを還元剤で金属粉末に還元する還元工程と、この還元工程で生成した金属粉末を含む処理排水を固液分離し、金属粉末の濃縮水と分離水である処理水とを分離する分離工程とからなるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒドラジンはボイラー給水の腐食防止用脱酸素剤や洗浄剤等に使用されているが、その毒性や高いCOD値を示すことから排水処理が必要であり、従来よりヒドラジンを含む排水の処理方法が種々提案されている。例えば、特許文献1にはコバルトイオンを添加してpH8以上で空気酸化する方法が記載されている。また、特許文献2には硫酸銅、塩化銅あるいは酸化銅といった銅化合物を添加して、中性あるいは弱アルカリ性で空気酸化した後、ろ過により銅を回収し、空気酸化槽に返送する方法が記載されている。さらに、特許文献3には削り状銅または粉末銅といった金属銅あるいは銅イオンを添加してヒドラジンを空気酸化する方法が記載されている。
【0003】
一方、ヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水については、鉄、マンガン、亜鉛、クロム、ニッケル、コバルト、銅のうち少なくとも1種類の金属元素(イオン、金属単体、不溶性化合物のいずれも可、金属単体としての添加量は0.1〜100mg/L)を添加して、ヒドラジンを酸素含有ガスで酸化した後、生物処理により処理する方法が、特許文献4および5に記載されている。錯体形成有機化合物を含むBOD成分の処理は、活性汚泥法などの生物処理により行われているが、排水にヒドラジンが含まれる場合には、ヒドラジンの生物阻害性が高いため、ヒドラジンの含有量を1mg/L以下にする必要がある。
【0004】
このような観点から、特許文献6にはヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水に、高濃度の金属イオン(10〜1000mg/L)を添加して酸素含有ガスで酸化し、酸化後、残留する酸化剤を還元剤で還元処理し、この還元後の処理水中の金属イオンをキレート樹脂を用いて除去してから、残存する有機化合物を生物処理する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭49−9859号公報
【特許文献2】特開昭56−136695号公報
【特許文献3】特開昭57−27193号公報
【特許文献4】特開2002−79278号公報
【特許文献5】特開2002−79279号公報
【特許文献6】特開2003−39083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ヒドラジンの処理技術としては、金属イオンを添加して、アルカリ性条件で酸素により容易に分解する方法が確立されている。この時、添加した金属イオンは水酸化物の形でろ過することによりある程度回収でき、再利用を図ることが可能である。しかし、錯体形成有機化合物が存在すると金属イオンは錯イオンを形成するため、水酸化物としての回収が不可能になる。また、金属イオンが錯体を形成する結果、本来ヒドラジンの酸化触媒能として機能するはずの金属イオンの濃度が低下するために、それを見越して高濃度の金属イオンを添加することが行われており、極めて非効率的である。加えて、錯体形成有機化合物を処理するため、ヒドラジン分解後には生物処理(活性汚泥法等)が必要であるが、金属イオンは有害なものが多く、生物処理の前に金属イオンを完全に除去する必要がある。
【0007】
上記特許文献6ではヒドラジンの酸化触媒能を維持するために金属イオンを多量に用い、用いた金属イオンをキレート樹脂により除去処理しているが、金属イオンの回収は可能であるものの、一旦金属イオンが吸着したキレート樹脂は吸着能が除々に低下するために交換するか、あるいはキレート樹脂に吸着した金属イオンを回収する等の処理を行う必要がありコスト高である。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、効率よくヒドラジンを分解処理することができ、残存する錯体形成有機化合物等の有機物は通常の活性汚泥法等の生物処理によって容易に処理することが可能なヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水の処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水の処理方法は、ヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水に金属粉末を添加し、酸素含有ガスでヒドラジンを酸化分解する酸化工程と、該酸化工程において排水中に生成する前記金属粉末から一部溶解した金属イオンを還元剤で金属粉末に還元する還元工程と、該還元工程で生成した金属粉末を含む処理排水を固液分離し、前記金属粉末の濃縮水と分離水である処理水とに分離する分離工程とからなることを特徴とするものである。
【0010】
前記分離工程で分離した前記金属粉末の濃縮水を前記酸化工程に返送する返送工程をさらに含むことが好ましい。
前記還元剤は水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、ハイドロサルファイトからなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0011】
前記酸化工程と前記還元工程との間に、前記酸化工程で残存するヒドラジンを酸化剤でさらに酸化分解する第2の酸化工程を設ける態様としてもよい。
前記分離工程は膜分離装置により分離するものであることが好ましい。
前記分離工程の処理水を生物処理することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水の処理方法は、ヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水に金属粉末を添加し、酸素含有ガスでヒドラジンを酸化分解する酸化工程と、この酸化工程において排水中に生成する金属粉末から一部溶解した金属イオンを還元剤で金属粉末に還元する還元工程と、この還元工程で生成した金属粉末を含む処理排水を固液分離し、金属粉末の濃縮水と分離水である処理水とに分離する分離工程とからなることを特徴とし、ヒドラジンの酸化分解に金属粉末を用いるので金属イオンを用いる場合に比べて、ヒドラジンの酸化触媒能の低下を抑制することができるので、酸化触媒能の低下を見越して不必要に多量の金属粉末を用いる必要がなく、また、金属粉末から一部溶解した金属イオンを還元剤で金属粉末に還元するので、生物処理の前に金属粉末の濃縮水と分離水である処理水とに分離することができ、金属イオンを完全に除去することが容易となる。
【0013】
また、分離工程で分離した金属粉末の濃縮水を酸化工程に返送する返送工程をさらに含むものとすれば、分離工程で分離した金属粉末の濃縮水は酸化工程の金属粉末としてそのまま再利用することが可能であるため、排水処理に使用する金属粉末の絶対量を軽減することが可能となって、ヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水の処理方法にかかる費用の低減につながるとともに、再利用できる状態で金属を分離しない場合には、金属の産業廃棄物処理費用が必要であるが、本発明においてはこのような費用が生じないため、さらなるコスト軽減につなげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水の処理方法の一実施の態様を示すフロー図である。
【図2】本発明のヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水の処理方法の別の実施の態様を示すフロー図である。
【図3】本発明のヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水の処理方法のさらに別の一実施の態様を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水の処理方法を図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明のヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水の処理方法(以下、単に本発明の排水処理方法ともいう)の一実施の態様を示すフロー図である。図1に示すように、本発明の排水処理方法は、ヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水に金属粉末を添加し、酸素含有ガスでヒドラジンを酸化分解する酸化工程と、この酸化工程において排水中に生成する金属粉末から一部溶解した金属イオンを還元剤で金属粉末に還元する還元工程と、この還元工程で生成した金属粉末を含む処理排水を沈殿槽で固液分離し、金属粉末の濃縮水と分離水である処理水とに分離する分離工程とからなる。なお、図1中のMは撹拌子を駆動するモーター、Bは酸素含有ガスを送り込むブロワー、Pはポンプを示している(以下、他の図面においても同様)。
【0016】
排水は一般に、懸濁物質(SS)を含んでいるため、酸化工程に供される排水は、凝集沈殿分離など公知の手段により排水中のSSを除去することが好ましい。また、金属イオンと反応して錯体を形成するアンモニウムイオンが排水に含まれている場合には、酸化工程の前工程において、アンモニアストリッピングなど公知の手段により排水中のアンモニウムイオンを除去することが好ましい。
【0017】
酸化工程において添加する金属粉末としては鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、銅を好ましく使用することができる。特に銅はヒドラジンの分解速度が速く、効果的であるためより好ましく用いることができる。金属粉末の添加量は排水に含まれるヒドラジンの量にもよるが、10〜500mg/Lの範囲が一般的であり、20〜200mg/Lの範囲がより好ましい。金属粉末はヒドラジンの酸化過程でその一部が溶解するため、添加量が多くなると溶解した金属イオンを金属粉末に還元するための還元剤の添加量が多くなるため、コスト増となるため好ましくない。
【0018】
ヒドラジンの酸化工程のpHはアルカリ性であればよく、pH9〜13であることが好ましく、pH11〜12がより好ましい。pHコントロールのために、必要に応じてアルカリ性物質、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等、あるいは酸性物質、例えば硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、カルボン酸等をそのまま、あるいは水溶液等として添加してもよい。
【0019】
ヒドラジンの酸化速度を向上させるためには排水の温度を高くすることが効果的であり、排水の温度は30℃以上が好ましく、さらには40〜50℃の範囲がより好ましい。ヒドラジン分解後には錯体形成有機化合物の生物処理が必要であるため、50℃よりも高い水温では加温のエネルギーと冷却のエネルギーが必要となるほか、酸化工程に用いる槽の材質的な制限が生じてくるため好ましくない。
【0020】
酸素含有ガスとしては空気、純酸素ガス、酸素富化ガスを好ましく使用することができる。酸素含有ガス供給量は排水中に含まれるヒドラジンの含有量により決まる。排水中のヒドラジンは供給された酸素により以下の式に従って分解される。
24 + O2 → N2 + 2H2
【0021】
このため、ヒドラジン(分子量32)の含有量と同量以上の酸素(分子量32)を供給する必要がある。ヒドラジン濃度が高濃度の場合には、酸素供給能力の高い装置が必要であるが、ヒドラジン濃度が低濃度の場合は酸素供給能力が低い装置であってもかまわない。但し、酸化工程を行う酸化槽内に添加した金属粉末を均質に分散させるだけの攪拌動力が足りない場合には別途攪拌装置を設置することが好ましい(なお、図1では別途撹拌装置を備えた態様を示している)。
【0022】
排水と酸素含有ガスとの接触方式に特に制限は無く、回分式、連続式、多段連続式等の各種方式を使用できるが、運転が容易で、かつ酸化槽容量を削減できる2段以上の直列多段連続式とすることが好ましい。反応槽形状としては曝気槽、充填塔、濡れ壁塔、気泡塔、スクラバーなどを使用することができる。充填塔、濡れ壁塔を用いる場合には、金属粉末が一箇所に集まらないように、反応液循環のための下部受槽内を攪拌する等の工夫をすることが好ましい。
【0023】
金属粉末によるヒドラジンの酸化分解の機構は必ずしも明らかではないが、ヒドラジンの分解に伴い、添加した金属粉末が一部イオンとして溶解する現象が認められ、金属粉末と金属イオンの両者による触媒作用の相乗効果と考えられる。通常、ヒドラジンの酸化反応では銅イオンの場合、1mg/L程度の銅イオン濃度で十分であるが、錯体形成有機化合物が存在すると銅イオンとの錯体が形成され、ヒドラジンの酸化反応が抑制される。従って、金属粉末を添加することにより、酸化工程では金属粉末と金属イオンの両者が存在することとなり、金属イオンとして添加するよりも、より効率的にヒドラジンの酸化分解が可能となる。
【0024】
酸化工程で溶解した金属イオンは排水中の錯体形成有機化合物と錯体を形成し、高pHでも沈殿物とならずに溶解性化合物として安定している。このような溶解性化合物となった金属イオンの除去方法として、従来はキレート樹脂等による吸着技術等に限られていたが、本発明ではこのような錯体を形成した金属イオンを還元剤で金属粉末まで還元することにより、簡単に固液分離することが可能となる。
【0025】
使用する還元剤としては、金属イオンを金属粉末まで還元できる能力を有する還元剤であれば特に制限はないが、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、ハイドロサルファイト(亜ジオン酸ナトリウムの二水和物:S242-)からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、これらは単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。価格、毒性、環境への負荷等を考慮すれば、ハイドロサルファイトをより好ましく用いることができる。
【0026】
還元剤の添加量は、生成する金属イオン濃度の変動が少ない場合には必要量を定量注入することができるが、金属イオン濃度が変動する場合は、ORP計により還元剤の注入を制御することもできる。この場合、制御ORPとしては−400mv以下、より好ましくは−500mv以下とすることが好ましい。
【0027】
還元処理後、生成した金属粉末を含む処理排水を固液分離し、金属粉末の濃縮水と分離水である処理水とに分離する。固液分離方法としては図1に示すような沈殿槽の他、図2に示すような膜分離装置を使用することができる。膜分離装置の場合は金属粉末を完全に捕捉できるため、処理水中に金属粉末が流出することがなく、良好な処理水を得ることができる。
【0028】
膜分離装置の膜としては平膜、中空糸膜、チューブラー膜等を使用することができる。なお、膜分離装置の膜が平膜、中空糸膜の場合には、膜表面への固形物付着防止のために気体による曝気が必要であり、これには通常は空気が使用されるが、本発明のように還元雰囲気で使用すると酸素が供給される結果、還元剤の分解と金属粉末の再溶解の怖れがある。このため、酸素を含まない窒素やその他の不活性ガスを使用することが好ましい。チューブラー膜の場合は膜表面への固形物付着防止に曝気を必要としないので、酸素が溶解することはなく、金属粉末が再溶解することがないためより好ましい。
【0029】
膜がチューブラー膜の場合には図2に示すように濃縮槽を設け、還元後の金属粉末を含む処理排水を圧力ポンプによりチューブラー膜モジュールに通液し、膜ろ過水を得るとともに、濃縮液は濃縮槽に返送する。一方、膜が平膜、中空糸膜の場合には濃縮槽は膜分離装置に内蔵することが可能である。
【0030】
還元工程で生成した金属粉末を含む処理排水を沈殿槽あるいは膜分離装置によって固液分離し、金属粉末の濃縮水と分離水である処理水とに分離する。上記の工程により排水中のヒドラジンは酸化分解により除去され、金属イオンは金属粉末として除去されるので、処理水を生物処理に供しても、ヒドラジンや金属イオンによって錯体形成有機化合物の処理が阻害されることを防止することができる。本発明に用いる生物処理方法に特に制限はなく、例えば、活性汚泥法、生物膜法などの好気性生物処理や、嫌気性生物処理などを挙げることができる。これらの中で、活性汚泥法を好適に用いることができる。
【0031】
分離工程で分離した金属粉末の濃縮水は、ポンプ等によって酸化工程(あるいは酸化工程に導入される排水と一緒に)に返送することが好ましい。このように金属粉末の濃縮水を酸化工程の金属粉末として再利用することにより、本発明の排水処理に用いる金属粉末の絶対量を軽減することが可能となって、排水処理にかかる費用を抑制することができる。また、再利用できる状態で金属を分離しない場合には、金属の産業廃棄物処理費用が必要であるが、本発明においてはこのような費用が生じないため、さらなるコスト軽減につなげることができる。
【0032】
上記の酸化工程によるヒドラジンの酸化分解が十分でない場合には、図3に示すように、酸化工程と還元工程との間に、酸化剤でさらに酸化分解する第2の酸化工程を設ける態様としてもよい。酸化剤としては、過酸化水素、オゾン、次亜塩素酸ソーダ等を単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。酸化剤の添加量はヒドラジンの酸化に必要な化学量論量の1.1〜10倍、好ましくは2〜6倍であることが望ましい。
【0033】
この第2の酸化工程における接触方式は特に制限はなく、回分式、連続式、多段連続式の方式を使用できるが、運転が容易で、かつ酸化剤添加量を削減し、コスト軽減につなげることができる2段以上の直列多段連続式とすることが好ましい。2段以上の直列多段連続式の場合、酸化剤は各反応槽への分注が好ましく、また、ヒドラジン濃度が低濃度になるほど分解作用が低下するため、前段の反応槽よりも後段の反応槽における酸化剤の添加比率を高くすることがより好ましい。なお、各反応槽の酸化剤は同じものを使用してもよいし、異なるものを用いてもよい。この第2の酸化工程は機械攪拌を実施するが、空気供給による攪拌であってもよい。この場合、金属粉末が沈殿しないように十分な攪拌強度に調整することが好ましい。
【0034】
また、第2の酸化工程におけるpH、水温はともに酸素含有ガスによる酸化工程と同等であることが好ましく、ヒドラジンの安定した分解処理を維持するために、第2の酸化工程の最終槽のヒドラジン濃度をヒドラジン計で測定し、目標水質との濃度差に応じて前段での酸化剤添加量を増減させる制御システムを設置することが好ましい。
以下、実施例により本発明の排水処理方法をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
ヒドラジン4000mg/L、クエン酸3000mg/L、pH13.1の工場排水1Lに銅粉末を20mg/Lとなるように添加し、水温をほぼ30℃に維持できる恒温槽内に設置した2Lの反応容器内に導入し、攪拌機で攪拌しつつ3L/分の空気を散気管により供給した。10時間後の排水中のヒドラジン濃度は230mg/L、pH11.3、銅イオン15mg/Lであった。
【0036】
(実施例2)
実施例1と同様にして、銅粉末添加量を2mg/L、200mg/L、500mg/L、1000mg/Lとして空気酸化処理を行った。10時間後の排水中のヒドラジン濃度はそれぞれ、3700mg/L、110mg/L、78mg/L、70mg/Lであった。
【0037】
(実施例3)
実施例1の除理後に過酸化水素を550mg/L添加し、水温をほぼ30℃に維持して1時間攪拌機で攪拌した。排水中のヒドラジン濃度は17.5mg/Lであった。再度過酸化水素を150mg/L添加したところ、排水中のヒドラジン濃度は3.5mg/Lまで減少し、pH10.0であった。
【0038】
(実施例4)
実施例3の処理水を別途容器に移し、ハイドロサルファイト80mg/Lを添加してスターラーで攪拌した。1時間後の処理水水質はpH9.5、ORPは−580mVであり、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過液を採取して分析したところ、銅粉末は存在せず、銅イオンは0.1mg/L以下であった。
【0039】
上記実施例1および2の結果から、実施例における排水のヒドラジン濃度の場合には、銅粉末濃度200〜500mg/Lで、排水のヒドラジン濃度を110mg/L以下とすることができ、第2の酸化工程を加えた場合(実施例3)には、銅粉末濃度が20mg/Lであっても、ヒドラジン濃度を17.5mg/L、さらに第2の酸化工程を二段階にした場合には、ヒドラジン濃度を3.5mg/Lまで低減することができた。そして、この実施例3の処理水を還元剤で還元したものには実施例4に記載のとおり、銅粉末は存在しておらず、銅イオンは0.1mg/L以下であった。
【0040】
上記のように還元剤で処理した処理水には、生物処理を阻害する濃度で銅イオンやヒドラジンを含まないため、処理水に残存する錯体形成有機化合物等の有機物は、通常の活性汚泥法等の生物処理によって容易に処理することができる。また、採取した金属粉末を排水の酸化工程に戻せば、酸化工程に投入する金属粉末を再利用することが可能となって、排水処理にかかる費用の低減につながる。加えて、再利用できる状態で金属を分離しない場合には、金属の産業廃棄物処理費用が必要であるが、本発明ではこのような費用が生じないため、さらなるコスト軽減につなげることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水に金属粉末を添加し、酸素含有ガスでヒドラジンを酸化分解する酸化工程と、該酸化工程において排水中に生成する前記金属粉末から一部溶解した金属イオンを還元剤で金属粉末に還元する還元工程と、該還元工程で生成した金属粉末を含む処理排水を固液分離し、前記金属粉末の濃縮水と分離水である処理水とに分離する分離工程とからなることを特徴とするヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水の処理方法。
【請求項2】
前記分離工程で分離した前記金属粉末の濃縮水を前記酸化工程に返送する返送工程をさらに含むことを特徴とする請求項1記載のヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水の処理方法。
【請求項3】
前記還元剤が水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、ハイドロサルファイトからなる群より選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1または2記載のヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水の処理方法。
【請求項4】
前記酸化工程と前記還元工程との間に、前記酸化工程で残存するヒドラジンを酸化剤でさらに酸化分解する第2の酸化工程を設けることを特徴とする請求項1、2または3記載のヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水の処理方法。
【請求項5】
前記分離工程が膜分離装置により分離するものであることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水の処理方法。
【請求項6】
前記分離工程の処理水を生物処理することを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載のヒドラジンと錯体形成有機化合物を含む排水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−240303(P2011−240303A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117078(P2010−117078)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000101374)アタカ大機株式会社 (55)
【復代理人】
【識別番号】100111040
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 淑子
【Fターム(参考)】