説明

ヒータ、及び、このヒータを用いた定着装置

【課題】 絶縁基板上に、発熱体層、導電体層、発熱体及び導電体を保護するためのガラス保護層が厚膜印刷・焼成により多層構成で形成されるヒータがある。そのヒータにおいて、ガラス保護層を焼成する際に、発熱体層に熱応力が生じて、抵抗分布が、印刷時に設定した分布と変わってしまい、仕様どおりの発熱分布にならなくなるという課題がある。
【解決手段】 絶縁基板上の発熱体層を覆うように前記絶縁基板上に形成された第―のガラス保護層と、前記第一のガラス保護層に積層して形成された第二のガラス保護層と、を有するヒータにおいて、第一のガラス保護層の軟化点を、前記第二のガラス保護層の軟化点、及び、前記発熱体層の軟化点よりも低くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真プロセスを用いたプリンタの定着装置などに使用されるヒータ、及びこのヒータを用いた定着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真プロセスを用いた画像形成装置の定着装置の加熱手段として、AlやAlNなどのセラミック絶縁基板上に発熱体が印刷形成されたセラミックヒータを用いることがある(特許文献1,2)。セラミックヒータは、AlやALNやSiCなどの焼結成形されたセラミック系の絶縁基板上に、発熱体層、導電体層、ガラス保護層が厚膜印刷・焼成により形成されている。導電体層は、発熱体層に電気的に接続し電力を供給するためのもので、ガラス保護層は、発熱体層及び導電体層を保護するためのものである。
【0003】
前記発熱体層は、銀(Ag)や銀・パラジウム合金(Ag・Pd)や銀・白金合金(Ag・Pt)等の抵抗体粉末と無機酸化物を含んだホウ珪酸系ガラスやホウ珪酸亜鉛系ガラスを混練した抵抗体を前記絶縁基板上に印刷・焼成し形成される。
【0004】
次に、前記ガラス保護層は無機酸化物を含んだホウ珪酸系ガラスやホウ珪酸亜鉛系ガラスを混練したガラスを発熱体層及び導電体層の上に印刷し焼成される。ガラス保護層は耐圧性と平滑性を満足させるために、多層構成で形成されることがある。先行技術文献には、後から印刷・焼成されるガラス保護層ほど軟化点を低く設定すると記載されている(特許文献1,3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−108120
【特許文献2】特開2001−100557
【特許文献3】特開2002−270344
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の先行技術文献に記載の設定においては、最後に印刷・焼成される軟化点が最も低いガラス保護層は、ヒータの使用時の最大温度で軟化しないようにする必要がある。
【0007】
よって、後から印刷・焼成されるガラス保護層ほど軟化点を低く設定してしまうと、発熱体層上に積層するように最初に印刷・焼成されるガラス保護層の軟化点は高い温度になる場合がある。
【0008】
ガラス保護層の焼成後の冷却時に発熱体層に発生する熱応力の大きさは、発熱体層上に積層するガラス保護層の軟化点、及び、発熱体層の熱膨張係数と発熱体層上に積層するガラス保護層の熱膨張係数の差分に比例する。
【0009】
発熱体層の熱膨張係数はガラス保護層に比較して大きいため、発熱体層上に積層するガラス保護層の軟化点が高いと、そのガラス保護層の焼成後の冷却時に発熱体層に発生する熱応力(引っ張り応力)が大きくなる。
【0010】
その結果、発熱体層に発生した熱応力(引っ張り応力)によって、発熱体層中の抵抗体が微小な領域において分断し、前記絶縁基板の長手方向に対して発熱体層の抵抗値が局所的に増加する可能性がある。
【0011】
よって、ガラス保護層の焼成後の長手方向の発熱体の抵抗分布が、印刷時に設定した分布と異なるため、ヒータとして仕様どおりの発熱分布にならなくなるという課題が生じる。
【0012】
本出願に係る発明の目的は、発熱体層上に多層のガラス保護層を印刷・焼成しても発熱体層の抵抗値が局所的に増加する原因となる熱応力を抑制し、発熱体の抵抗分布が設定した通りの分布となるヒータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、絶縁基板と、結着用ガラスを含有した抵抗体で前記絶縁基板上に形成された発熱体層と、前記発熱体層を覆うように前記絶縁基板上に形成された第一のガラス保護層と、前記第一のガラス保護層に積層して形成された第二のガラス保護層と、を有するヒータにおいて、前記第一のガラス保護層の軟化点は、前記第二のガラス保護層の軟化点、及び、前記発熱体層の軟化点よりも低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、発熱体層上に多層のガラス保護層を印刷・焼成しても発熱体層の抵抗値を局所的に増加させる原因となる熱応力の発生を抑制することができる。よって、ガラス保護層焼成後の発熱体の抵抗分布が発熱体印刷時に設定したとおりの分布となるヒータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施例に係るヒータの断面図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係るヒータの平面図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係るヒータの構成部の軟化点、及び、焼成温度の相対的な高低を表した図である。
【図4】本発明の第2の実施例に係る定着装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施例1)
図1は実施例1に係るセラミックヒータの断面図であり、図2はセラミックヒータの発熱体層面側の平面図である。以下にヒータの構成部について説明する。
1はAl,AlN,SiCなどの電気絶縁性・良熱伝導性・低熱容量のセラミック系絶縁基板である。
2は絶縁基板1上にその長手方向に沿って帯状に形成された発熱体層である。発熱体層2は銀(Ag)や銀・パラジウム合金(Ag・Pd)や銀・白金合金(Ag・Pt)等の抵抗体にAl,MgO,BaO,KO,ZrO,CaO,LiO,NaO,SrOなどの無機酸化物を含んだSiO,B,ZnOなどを主成分とするホウ珪酸系ガラスやホウ珪酸亜鉛系ガラスを混練して結着した抵抗体を絶縁基板1上に印刷・焼成し形成される。
【0017】
3は発熱体層2と電気的に接続し、発熱体層2に電力を供給するための電極と導電路を有する導電体層であり、絶縁基板上に形成されている。導電体層3は銀(Ag)や銀・パラジウム合金(Ag・Pd)や銀・白金合金(Ag・Pt)等の導体と無機酸化物を含んだSiO,B,ZnOなどを主成分とするホウ珪酸系ガラスやホウ珪酸亜鉛系ガラスを混練した良導電体を絶縁基板1上に印刷・焼成し形成される。
【0018】
4は発熱体層2と導電体層3の一部の導電路を覆うように保護して形成される第一のガラス保護層である。第一のガラス保護層4はAl,MgO,BaO,KO,ZrO,CaO,LiO,NaO,SrOなどの無機酸化物やAlNやBNなどの窒化物の添加剤を含んだSiO,B,ZnOなどを主成分とするホウ珪酸系ガラスやホウ珪酸亜鉛系ガラスを印刷・焼成し形成される。第一のガラス保護層4は、上記添加剤により、高熱伝導でAlNなどの絶縁基板1と密着性が良く、発熱体層2及び導電体層3と反応が少なくなるように調整している。
【0019】
5は第一のガラス保護層4上に積層して形成されている第二のガラス保護層である。第二のガラス保護層5は、第一のガラス保護層4と同様に、無機酸化物や窒化物の添加剤を含んだSiO,B,ZnOなどを主成分とするホウ珪酸系ガラスやホウ珪酸亜鉛系ガラスを印刷・焼成し形成される。第二のガラス保護層5は、上記添加剤により、高熱伝導でAlNなどの絶縁基板1と密着性が良く、かつ、高耐圧になるように調整している。
【0020】
6は第二のガラス保護層5に積層するように形成されている第三のガラス保護層である。第三のガラス層6は、第一のガラス層4と同様に、無機酸化物や窒化物の添加剤を含んだSiO,B,ZnOなどを主成分とするホウ珪酸系ガラスやホウ珪酸亜鉛系ガラスを印刷・焼成し形成される。第三のガラス保護層6は、上記添加剤により、表面の平滑性が良好になるように調整されている。
【0021】
7は、絶縁基板1上の発熱体層面とは反対の面に形成される保護層である。保護層7はガラス以外の材料、例えば、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂,フッ素樹脂で形成しても良い。また、保護層7が無いヒータもある。
【0022】
ここで、図3に発熱体層2、導電体層3、ガラス保護層4〜6からなるヒータの各構成部の軟化点とそれらを焼成する焼成温度の高低を示す。
【0023】
まず、第一のガラス保護層4の軟化点は、上層にある第二のガラス保護層5、及び、第三のガラス保護層6の軟化点よりもそれぞれ30〜300℃程度低くなるように調整している。
【0024】
第三のガラス保護層6の軟化点は、第二のガラス保護層5の軟化点と同程度もしくは、それ以下としている。また、ガラス保護層4〜6の軟化点は、発熱体層2及び導電体層3の軟化点よりも低い。
【0025】
発熱体層2,導電体層3,ガラス保護層4〜6の各層を印刷し焼成する焼成温度は、焼成工程の簡略化のため、800〜950℃程度で共通の温度設定とする。ただし、各層毎に軟化点以上の個別の焼成温度(500〜1000℃)に設定しても良い。
【0026】
ここで、発熱体層2に発生する熱応力について説明する。
発熱体層2は、抵抗体粉末にガラスを混練して結着させた抵抗体であるため、第一のガラス保護層4を焼成・印刷する過程では、第一のガラス保護層と密着する。よって、発熱体層2と第一のガラス保護層4の境界において引っ張り方向の熱応力が発生すると、発熱体層2はその熱応力の影響を受ける。
【0027】
発熱体層2に発生する熱応力の大きさは、発熱体層2上に積層する第一のガラス保護層4の軟化点、及び、発熱体層2の熱膨張係数と第一のガラス保護層4の熱膨張係数の差分に比例する。また、抵抗体である発熱体層2の熱膨張係数は第一のガラス保護層4に比較して大きいため、焼成後の冷却時に発熱体層に発生する熱応力は引っ張り応力になる。
【0028】
本実施例のように、第一のガラス保護層4の軟化点を第二のガラス保護層5の軟化点よりも低く設定すると、第二のガラス保護層5の焼成時に第一のガラス保護層4も軟化する。
第二のガラス保護層5の焼成後の冷却時において、第一のガラス保護層4の温度が軟化点よりも高い時は、第一のガラス保護層4は軟化状態であるため、発熱体層2に熱応力は発生しない。その後、第一のガラス保護層4の温度が軟化点以下なった時点から、第一のガラス保護層4が硬化して収縮するために、発熱体層2に熱応力(引っ張り応力)が発生する。
【0029】
よって、第一のガラス保護層4の軟化点を第二のガラス保護層5よりも低い温度に設定することによって、第二のガラス保護層5の焼成後の冷却時に、発熱体層2に作用する熱応力(引っ張り応力)を抑制できるという有利な効果がある。
【0030】
また、第三のガラス保護層6の焼成時においても、第一のガラス保護層4は軟化し、第一のガラス保護層4の温度が軟化点以下になった時点から発熱体層2に熱応力(引っ張り応力)が発生する。よって、第一のガラス保護層4の軟化点を第三のガラス保護層6よりも低い温度に設定することによって、第三のガラス保護層6の焼成後の冷却時に、発熱体層2に発生する熱応力(引っ張り応力)を抑制できるという効果もある。
【0031】
以上から、本実施例によって、発熱体層3の抵抗値が高く発熱体層中の抵抗体路が細い場合であっても、発熱体に作用する熱応力を抑制することができるため、抵抗体路が微小な領域においても分断されにくくなる。その結果、ガラス保護層を印刷焼成しても発熱体の抵抗値が局所的に増加することなく、発熱体の抵抗分布が設定したとおりの分布となるヒータを提供することができる。また、ガラス保護層5、6は、発熱体層2に生じる熱応力を気にすることなく、ガラス保護層として必要な特性を設定することができる。
【0032】
尚、本実施例では、ヒータが有するガラス保護層として、三層構成(第一のガラス保護層4、第二のガラス保護層5、第三のガラス保護層6)を示したが、第三のガラス保護層を無くした二層構成でも同じ効果が得られる。
【0033】
(実施例2)
次に、本発明の実施の形態に係る定着装置109を説明する。
【0034】
図4は本発明の実施例2に係る定着装置の断面図であり、実施例1の形態におけるセラミックヒータ24を備えている。セラミックヒータ24は、フィルムガイド62によって支持されている。
【0035】
61は、フィルムガイド62に外嵌させた筒状のフィルムで、その内面がセラミックヒータ24と摺動する。そして、セラミックヒータ24と加圧部材63は、フィルム61を介して所定の加圧力で圧接してニップ部を形成する。そのニップ部で記録材を挟持搬送し、記録材上のトナー像をセラミックヒータ24で加熱されたフィルム61で記録材に定着する。
【0036】
また、過昇温防止手段23、例えば、サーモスタットがセラミックヒータ24の絶縁基板31面上または、保護層34面上に当接されている。サーモスタット23はフィルムガイド62に位置を矯正され、サーモスタット23の感熱面がセラミックヒータ24の面上に当接されている。図示はしていないが、温度検出素子も同様にセラミックヒータ24の面上に当接されている。
【0037】
本実施例におけるセラミックヒータ24は、ガラス保護層焼成前後で発熱体の抵抗分布が変化しにくいため、ガラス焼成後においても印刷設定どおりの抵抗分布となっている。よって、発熱分布が設計どおりの分布となるため、セラミックヒータ24上に配設されているサーモスタット23や温度検出素子が発熱分布のばらつきによる誤検知が少なく、安定した制御をおこなうことができる。
【符号の説明】
【0038】
1 セラミック系絶縁基板
2 発熱体層
3 導電体層
4〜6 ガラス保護層
109 定着装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、結着用のガラスを含有した抵抗体で前記絶縁基板上に形成された発熱体層と、前記発熱体層を覆うように前記絶縁基板上に形成された第一のガラス保護層と、前記第一のガラス保護層上に積層して形成された第二のガラス保護層と、を有するヒータにおいて、
前記第一のガラス保護層の軟化点は、前記第二のガラス保護層の軟化点、及び、前記発熱体層の軟化点よりも低いことを特徴とするヒータ。
【請求項2】
第三のガラス保護層が前記第二のガラス保護層上に積層され、前記第一のガラス保護層の軟化点は、前記第三のガラス保護層の軟化点よりも低いことを特徴とする請求項1に記載されたヒータ。
【請求項3】
ヒータと、前記ヒータと摺動する筒状のフィルムと、前記フィルムを介して前記ヒータと圧接してニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部で記録材を挟持搬送して、記録材上のトナー像を前記ヒータで加熱して記録材に定着する定着装置において、
前記ヒータが請求項1又は2に記載されたヒータであることを特徴とする定着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−160297(P2012−160297A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18281(P2011−18281)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】