説明

ヒータおよびこれを備えたグロープラグ

【課題】 パルス駆動、DC駆動あるいは急速昇温等の際に抵抗体に大電流が流れても抵抗体とリードとの接続部へのマイクロクラックの発生や製品抵抗の変化が抑制された高い信頼性および耐久性を有するヒータおよびこれを備えたグロープラグを提供する。
【解決手段】 本発明は、絶縁基体9と、絶縁基体9に埋設され、折返し形状をなしている抵抗体3と、絶縁基体9に埋設され、先端側で抵抗体3に接続されるとともに後端側で絶縁基体9の表面に導出された一対のリード8とを備えたヒータ1であって、抵抗体3と一対のリード8との二つの境界面2は、一対のリード8のそれぞれの軸の両方を含む平面に垂直であり、両方とも先端側が内側または外側に向かって傾斜しかつそれぞれ異なる角度で傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃焼式車載暖房装置における点火用若しくは炎検知用のヒータ、石油ファンヒータ等の各種燃焼機器の点火用のヒータ、自動車エンジンのグロープラグ用のヒータ、酸素センサ等の各種センサ用のヒータ、測定機器の加熱用のヒータ等に利用されるヒータおよびこれを備えたグロープラグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンのグロープラグ等に用いられるヒータは、発熱部を有する抵抗体、リードおよび絶縁基体を含む構成になっている。そして、リードの抵抗が抵抗体の抵抗より小さくなるように、これらの材料の選定や設計がされている。
【0003】
ここで、抵抗体とリードとの接続部は、形状変化点であったり材料組成変化点であったりするので、使用時の発熱や冷却での熱膨張の差に起因した影響を受けないように接合面積を大きくする目的で、図12(a)に示すように、リード8の軸方向に平行な断面で視たときに抵抗体3とリード8との境界面が対称に斜めになっているものが知られている(例えば、特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-334768号公報
【特許文献2】特開2003-22889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、エンジンの燃焼状態を最適化するために、ヒータの駆動方法としてECUからの制御信号がパルス化した駆動方法がとられるようになってきた。
【0006】
ここで、パルスとしては矩形波を用いることが多い。パルスの立ち上がり部分には高周波成分があって、この高周波成分はリードの表面部で伝送する。ところが、異なるインピーダンスを持つリードの端面と抵抗体の端面とが対向するようにして継ぎ目部分(境界面)が形成されていると、インピーダンスの整合が取れなかった高周波成分の一部は、境界面で反射したり、境界面をアンテナとして機能させて周囲の誘電体を介しながらリード表面から散逸したりする。
【0007】
従来のヒータでは、リードの軸方向に平行な断面で見たときに2箇所の境界面がねじれの位置にならないように対称に斜めに対向した配置となっているので、ちょうど送受信信号の位相が一致するように2枚の平面アンテナが配置されている構造になり、電力入力側(陽極側)の境界面から電力出力側(陰極側)の境界面へ混信現象(クロストーク現象)が生じていた。
【0008】
したがって、電力出力側(陰極側)の境界面でインピーダンスの整合が取れず、ジュール熱として散逸し、境界面が局所的に発熱する。このとき、リードの熱膨張率と抵抗体の熱膨張率とが異なることに起因して、リードと抵抗体との境界面にマイクロクラックが発生し、この境界面に沿って亀裂が一気に進展して、抵抗値が変化する問題点が生じてきた。
【0009】
また、パルス駆動を採用せずに、DC駆動を採用した場合でも、同じような問題点が生
じてきた。すなわち、近年のECUでは回路ロスがなくなったために、急速昇温を目的として、エンジン動作開始時に抵抗体に大電流が流れるようになっている。したがって、パルスの矩形波のように、電力突入の立ち上がりが急峻になり、高周波成分を含んだ高電力が、ヒータに突入してくるようになってきたため、同じような問題点が生じてきた。
【0010】
さらに、DC駆動では陰極側のリードは常に接地されているので、陽極側のリードに電力が印加されるまでは、リードも抵抗体もグランドと等電位になるように自由電子が分散している。そこに直流電圧が急激に突入すると、電位差に応じて自由電子が移動を開始し、電力突入時の過渡状態では、瞬間的にリードと抵抗体の接続部である境界面の抵抗値が高くなり境界面が急速に発熱する。瞬間的に境界面が発熱すると周囲の絶縁基体(セラミックス)が発熱するよりも先に境界面だけが熱膨張を開始する。なかでも、リードよりも抵抗値の高い抵抗体の方がより発熱して熱膨張が激しくなり、導体(リード、抵抗体)とセラミックスとの境目には、セラミックスを引きちぎろうとするせん断応力が境目から発生する。その主な方向は、境界面の延長方向になるので、境界面が対称に斜めになっていると、リードと抵抗体との境界面にマイクロクラックが発生すると同時に、ヒータ中心から陽極側と陰極側とに対称に応力が伝播して陽極側の応力と陰極側の応力が相互干渉してマイクロクラックがつながり、リードと抵抗体との境界面に沿ってヒータを一周するように亀裂が一気に進展して、抵抗値が変化する問題点が生じてきた。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、パルス駆動、DC駆動あるいは急速昇温等の際に抵抗体に大電流が流れても、高周波のクロストーク現象を抑止し、応力の伝播方向を分散することで、抵抗体とリードとの境界面へのマイクロクラックの発生、境界面での亀裂の進展および製品抵抗の変化が抑制された高い信頼性および耐久性を有するヒータおよびこれを備えたグロープラグを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のヒータは、絶縁基体と、該絶縁基体に埋設され、折返し形状をなしている抵抗体と、前記絶縁基体に埋設され、先端側で前記抵抗体に接続されるとともに後端側で前記絶縁基体の表面に導出された一対のリードとを備えたヒータにおいて、前記抵抗体と前記一対のリードとの二つの境界面は、該一対のリードのそれぞれの軸の両方を含む平面に垂直であり、両方とも先端側が内側または外側に向かって傾斜しかつそれぞれ異なる角度で傾斜していることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のヒータは、上記の構成において、陰極側の境界面の軸方向に垂直な断面に対する傾斜角は、陽極側の境界面の前記軸方向に垂直な断面に対する傾斜角よりも小さいことを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のヒータは、上記の構成において、それぞれの前記境界面と交わる前記軸方向に垂直な断面で見たとき、陽極側の横断面の面積よりも陰極側の横断面の面積のほうが大きいことを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のヒータは、上記の構成において、それぞれの前記境界面と交わる前記軸方向に垂直な断面のうち、前記抵抗体が前記一対のリードにそれぞれ取り囲まれている断面があることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明は、上記の構成のいずれかに記載のヒータと、前記リードと電気的に接続されて前記ヒータを保持する金属製保持部材とを備えたことを特徴とするグロープラグである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のヒータによれば、電力入力側(陽極側)境界面から伝播する高周波の位相と電力出力側(陰極側)境界面に到達する高周波の位相が一致しにくくなるので、高周波信号が相互に混信するクロストーク現象を抑止することができる。その結果、境界面での異常発熱と、異常発熱に起因したマイクロクラックの発生を抑制することができる。また、直流電圧が急激に突入しても、境界面でのリードと抵抗体との熱膨張に起因した応力の方向が陽極側と陰極側とで非対称な方向となっているので、応力の伝播方向を分散することができる。
【0018】
したがって、パルス駆動、DC駆動にかかわらず、電力突入の立ち上がりが急峻になっても、抵抗体とリードとの境界面へのマイクロクラックの発生および境界面での亀裂の進展が抑制され、長期間抵抗が安定する。これにより、ヒータの信頼性および耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のヒータの実施の形態の一例を示す縦断面図である。
【図2】(a)は図1に示す抵抗体とリードとの境界面を含む領域Aを拡大した拡大断面図であり、(b)は(a)に示すX−X線における横断面図である。
【図3】(a)は本発明のヒータの実施の形態の他の例の要部を示す拡大断面図であり、(b)は(a)に示すX−X線における横断面図である。
【図4】(a)は本発明のヒータの実施の形態の他の例の要部を示す拡大断面図であり、(b)は(a)に示すX−X線における横断面図である。
【図5】(a)は本発明のヒータの実施の形態の他の例の要部を示す拡大断面図であり、(b)は(a)に示すX−X線における横断面図である。
【図6】(a)は本発明のヒータの実施の形態の他の例の要部を示す拡大断面図であり、(b)は(a)に示すX−X線における横断面図である。
【図7】(a)は本発明のヒータの実施の形態の他の例の要部を示す拡大断面図であり、(b)は(a)に示すX−X線における横断面図である。
【図8】(a)は本発明のヒータの実施の形態の他の例の要部を示す拡大断面図であり、(b)は(a)に示すX−X線における横断面図である。
【図9】(a)は本発明のヒータの実施の形態の他の例の要部を示す拡大断面図であり、(b)は(a)に示すX−X線における横断面図である。
【図10】(a)は本発明のヒータの実施の形態の他の例の要部を示す拡大断面図であり、(b)は(a)に示すX−X線における横断面図である。
【図11】(a)は本発明のヒータの実施の形態の他の例の要部を示す拡大断面図であり、(b)は(a)に示すX−X線における横断面図である。
【図12】(a)は従来のヒータの要部を示す縦断面図であり、(b)は(a)に示すX−X線における横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のヒータについて実施の形態の例について図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明のヒータの実施の形態の一例を示す縦断面図であり、図2(a)は図1に示す抵抗体3とリード8との境界面を含む領域Aを拡大した拡大断面図であり、図2(b)は図2(a)に示すX−X線における横断面図である。
【0022】
本実施の形態のヒータ1は、絶縁基体9と、絶縁基体9に埋設され折返し形状をなしている抵抗体3と、絶縁基体9に埋設され先端側で抵抗体3に接続されるとともに後端側で絶縁基体9の表面に導出された一対のリード8を備えたヒータであって、抵抗体3と一対のリード8との二つの境界面2は、一対のリード8のそれぞれの軸の両方を含む平面に垂
直であり、両方とも先端側が内側または外側に向かって傾斜しかつそれぞれ異なる角度で傾斜しているものである。
【0023】
本実施の形態のヒータ1における絶縁基体9は、例えば棒状に形成されたものである。この絶縁基体9は抵抗体3およびリード8を被覆しており、言い換えると、抵抗体3およびリード8が絶縁基体9に埋設されている。ここで、絶縁基体9はセラミックスからなることが好ましく、これにより、金属よりも高温まで耐えることができるようになるので、急速昇温時の信頼性がより向上したヒータ1を提供することが可能になる。具体的には、酸化物セラミックス,窒化物セラミックス,炭化物セラミックス等の電気的な絶縁性を有するセラミックスが挙げられる。特に、絶縁基体9は、窒化珪素質セラミックスからなることが好適である。窒化珪素質セラミックスは、主成分である窒化珪素が高強度、高靱性、高絶縁性および耐熱性の観点で優れているからである。この窒化珪素質セラミックスは、例えば、主成分の窒化珪素に対して、焼結助剤として3〜12質量%のY,Yb,Er等の希土類元素酸化物、0.5〜3質量%のAl、さらに焼結体に
含まれるSiO量として1.5〜5質量%となるようにSiOを混合し、所定の形状に
成形し、その後、例えば1650〜1780℃でホットプレス焼成することにより得ることができる。
【0024】
また、絶縁基体9として窒化珪素質セラミックスから成るものを用いる場合、MoSi,WSi等を混合し分散させることが好ましい。この場合、母材である窒化珪素質セラミックスの熱膨張率を抵抗体3の熱膨張率に近づけることができ、ヒータ1の耐久性を向上させることができる。
【0025】
抵抗体3は、特に発熱する領域である発熱部4を有しており、一部断面積を小さくした領域やらせん形状の領域を設けることで、この領域を発熱部4とすることができる。抵抗体3が図1に示すような折返し形状をなしている場合は、折返しの中間点付近が最も発熱する発熱部4となる。
【0026】
この抵抗体3としては、W,Mo,Tiなどの炭化物、窒化物、珪化物などを主成分とするものを使用することができる。絶縁基体9が上述の材料の場合、絶縁基体9との熱膨張率の差が小さい点、高い耐熱性を有する点および比抵抗が小さい点で、上記の材料のなかでも炭化タングステン(WC)が抵抗体3の材料として優れている。さらに、絶縁基体9が窒化珪素質セラミックスからなる場合、抵抗体3は、無機導電体のWCを主成分とし、これに添加される窒化珪素の含有率が20質量%以上であるものが好ましい。例えば、窒化珪素質セラミックスから成る絶縁基体9中において、抵抗体3となる導体成分は窒化珪素と比較して熱膨張率が大きいため、通常は引張応力がかかった状態にある。これに対して、抵抗体3中に窒化珪素を添加することにより、抵抗体3の熱膨張率を絶縁基体9の熱膨張率に近づけて、ヒータ1の昇温時および降温時の熱膨張率の差による応力を緩和することができる。
【0027】
また、抵抗体3に含まれる窒化珪素の含有量が40質量%以下であるときには、抵抗体3の抵抗値を比較的小さくして安定させることができる。従って、抵抗体3に含まれる窒化珪素の含有量は20質量%〜40質量%であることが好ましい。より好ましくは、窒化珪素の含有量は25質量%〜35質量%がよい。また、抵抗体3への同様の添加物として、窒化珪素の代わりに窒化硼素を4質量%〜12質量%添加することもできる。
【0028】
また、抵抗体3の厚みは0.5mm〜1.5mm程度がよく、抵抗体3の幅は0.3mm〜1.3mm程度がよい。この範囲内とすることにより、抵抗体3の抵抗が小さくなって効率良く発熱するものとなり、また、積層構造の絶縁基体9の積層界面の密着性を保持することができる。
【0029】
先端側で抵抗体3に接続されるとともに後端側で絶縁基体9の表面に導出された一対のリード8は、W,Mo,Tiなどの炭化物、窒化物、珪化物などを主成分とする抵抗体3と同様の材料を使用することができる。特に、WCが、絶縁基体9との熱膨張率の差が小さい点、高い耐熱性を有する点および比抵抗が小さい点で、リード8の材料として好適である。また、絶縁基体9が窒化珪素質セラミックスからなる場合、リード8は、無機導電体であるWCを主成分とし、これに窒化珪素を含有量が15質量%以上となるように添加することが好ましい。窒化珪素の含有量が増すにつれてリード8の熱膨張率を絶縁基体9の熱膨張率に近づけることができる。また、窒化珪素の含有量が40質量%以下であるときには、リード8の抵抗値が小さくなるとともに安定する。従って、窒化珪素の含有量は15質量%〜40質量%が好ましい。より好ましくは、窒化珪素の含有量は20質量%〜35質量%とするのがよい。なお、リード8は、絶縁基体9の形成材料の含有量を抵抗体3よりも少なくすることによって抵抗体3よりも単位長さ当たりの抵抗値が低くなっていてもよく、抵抗体3よりも断面積を大きくすることによって抵抗体3よりも単位長さ当たりの抵抗値が低くなっていてもよい。
【0030】
そして、図2に示すように、抵抗体3と一対のリード8との二つの境界面2は、一対のリード8のそれぞれの軸の両方を含む平面に垂直であり、両方とも先端側が内側または外側に向かって傾斜しかつそれぞれ異なる角度で傾斜している。
【0031】
例えば、軸方向に垂直な断面に対する境界面の傾斜角としては、例えば10〜80度であり、異なる角度とは、陽極側境界面のリード8軸方向に垂直な断面に対する傾斜角aと陰極側境界面のリード8軸方向に垂直な断面に対する傾斜角bとが異なっていることをいい、具体的には陽極側境界面の傾斜角aと陰極側境界面の傾斜角bとの角度の差が5度以上あることをいう。なお、図2に示すように傾斜角aおよび傾斜角bはともにリード8軸方向に垂直な断面との関係で90度未満となるほうの角度のことである。また、本実施形態における陰極側境界面とは、図の下側に位置する境界面2である。
【0032】
このような構成とすることで、抵抗体3とリード8との境界面2でインピーダンスの整合が取れなかった高周波成分の一部が、境界面2をアンテナとして機能させて、周囲の誘電体を介しながらリード表面から散逸しても、2枚の平面アンテナの面(境界面)同士が、非対称の位置になるように配置されているので、送受信信号の位相が一致しにくいことで、電力入力側(陽極側)の境界面2から、電力出力側(陰極側)の境界面2へ混信現象(クロストーク現象)を抑止することができる。その結果、境界面での異常発熱と異常発熱に起因したマイクロクラックの発生を抑制することができる。
【0033】
さらには、DC駆動で直流電圧が急激に突入しても、境界面でのリード8と抵抗体3との熱膨張に起因した応力の方向が陽極側と陰極側とで非対称な方向となっているので、応力の伝播方向を分散することができる。
【0034】
したがって、パルス駆動、DC駆動にかかわらず、電力突入の立ち上がりが急峻になっても、抵抗体3とリード8との境界面へのマイクロクラックの発生および境界面での亀裂の進展が抑制され、長期間抵抗が安定する。これにより、ヒータの信頼性および耐久性が向上する。
【0035】
ここで、陰極側の境界面2の軸方向に垂直な断面に対する傾斜角は、陽極側の境界面2の軸方向に垂直な断面に対する傾斜角よりも小さくなっているのが好ましい。例えば、陰極側の境界面2の傾斜角が陽極側の境界面2の傾斜角よりも5度以上小さくなっているのが好ましい。これにより、グランドに接続した陰極側の境界面2の面積(抵抗体3とリード8との接触面積)が小さくなって低抵抗になるので、突入電力をグランドへ流しやすく
することができる。
【0036】
なお、図2に示すヒータは、抵抗体3と一対のリード8との二つの境界面2が、一対のリード8のそれぞれの軸の両方を含む平面に垂直であり、両方とも先端側が内側に向かって傾斜し、かつ陰極側の境界面2の軸方向に垂直な断面に対する傾斜角が陽極側の境界面2の軸方向に垂直な断面に対する傾斜角よりも小さくなっている構成であるが、このような構成に限らず以下のような構成の形態であってもよい。
【0037】
図3に示すヒータは、抵抗体3と一対のリード8との二つの境界面2が、一対のリード8のそれぞれの軸の両方を含む平面に垂直であり、両方とも先端側が外側に向かって傾斜しかつそれぞれ異なる角度で傾斜している形態である。なお、この形態における陽極側境界面のリード8軸方向に垂直な断面に対する傾斜角はaで示し、陰極側境界面のリード8軸方向に垂直な断面に対する傾斜角はbで示している。
【0038】
そして、図4に示すヒータは、抵抗体3と一対のリード8との二つの境界面2が、両方とも先端側が内側に向かうように傾斜していて、陽極側陰極側ともにリード8の幅が抵抗体3の幅よりも広く、リード8の横断面の面積が抵抗体3の横断面の面積より大きくなっている構成である。
【0039】
また、図5に示すヒータは、抵抗体3と一対のリード8との二つの境界面2が、両方とも先端側が内側に向かうように傾斜していて、陰極側のリード8および抵抗体3の厚み(図5(b)における上下方向の厚み)と陽極側のリード8および抵抗体3の厚み(図5(b)における上下方向の厚み)とが同じであって、陰極側のリード8および抵抗体3の幅(図5(b)における水平方向の幅)のほうが陽極側のリード8および抵抗体3の幅(図5(b)における水平方向の幅)よりも広くなっている構成である。
【0040】
また、図6に示すヒータは、抵抗体3と一対のリード8との二つの境界面2が、両方とも先端側が内側に向かうように傾斜していて、陰極側のリード8および抵抗体3の厚み(図6(b)における上下方向の厚み)のほうが陽極側のリード8および抵抗体3の厚み(図6(b)における上下方向の厚み)よりも厚く、陰極側のリード8および抵抗体3の幅(図6(b)における水平方向の幅)のほうが陽極側のリード8および抵抗体3の幅(図6(b)における水平方向の幅)よりも広くなっている構成である。
【0041】
また、図7に示すヒータは、抵抗体3と一対のリード8との二つの境界面2が、両方とも先端側が外側に向かうように傾斜していて、陰極側のリード8および抵抗体3の厚み(図7(b)における上下方向の厚み)と陽極側のリード8および抵抗体3の厚み(図7(b)における上下方向の厚み)とが同じであって、陰極側のリード8および抵抗体3の幅(図7(b)における水平方向の幅)のほうが陽極側のリード8および抵抗体3の幅(図7(b)における水平方向の幅)よりも広くなっている構成である。
【0042】
また、図8に示すヒータは、抵抗体3と一対のリード8との二つの境界面2が、両方とも先端側が外側に向かうように傾斜していて、陰極側のリード8および抵抗体3の厚み(図8(b)における上下方向の厚み)のほうが陽極側のリード8および抵抗体3の厚み(図8(b)における上下方向の厚み)よりも厚く、陰極側のリード8および抵抗体3の幅(図8(b)における水平方向の幅)のほうが陽極側のリード8および抵抗体3の幅(図8(b)における水平方向の幅)よりも広くなっている構成である。
【0043】
また、図9に示すヒータは、抵抗体3と一対のリード8との二つの境界面2が、両方とも先端側が外側に向かうように傾斜していて、陰極側のリード8の幅が抵抗体3の幅よりも広く、陰極側のリード8の横断面の面積が抵抗体3の横断面の面積より大きくなってい
る構成である。
【0044】
また、図10に示すヒータは、抵抗体3と一対のリード8との二つの境界面2が、両方とも先端側が外側に向かうように傾斜していて、陽極側陰極側ともにリード8の幅が抵抗体3の幅よりも広く、陽極側陰極側ともにリード8の横断面の面積が抵抗体3の横断面の面積より大きくなっている構成である。
【0045】
また、図11に示すヒータは、それぞれの境界面2と交わる軸方向に垂直な断面のうち、抵抗体3が一対のリード8にそれぞれ取り囲まれている断面がある構成である。
【0046】
なお、それぞれの形態における境界面2のリードの軸方向に関する端から端までの距離は、例えば0.1〜10mmである。また、図2〜図11に示す形態は、全て陰極側の境界面2
の軸方向に垂直な断面に対する傾斜角が陽極側の境界面2の軸方向に垂直な断面に対する傾斜角よりも小さくなっているものであるが、本発明はこの形態に限定はされない。
【0047】
また、図5〜図9のように、それぞれの境界面2と交わる軸方向に垂直な断面で見たとき、陽極側の横断面の面積よりも陰極側の横断面の面積のほうが大きいのが好ましい。具体的には、図に示すように、少なくとも陰極側のリード8の厚みを陽極側のリード8の厚みよりも厚くするかまたは陰極側のリード8の幅を陽極側のリード8の幅よりも広くすることで、陽極側の横断面の面積よりも陰極側の横断面の面積を大きくする。このようにすることで、グランドに接続した陰極側の境界面2をさらに低抵抗にできるので、突入電力をグランドへ流しやすくすることができる。
【0048】
これは、陰極側のリード8は常に接地されているので、陽極側のリード8に電力が印加されるまでは、リード8も抵抗体3もグランドと等電位になるように自由電子が分散していて、そこに直流電圧が急激に突入すると、電位差に応じて自由電子が移動開始するが、このときにグランドに接続した陰極側の面積を大きくすることで、グランドからの自由電子の流入を容易にできるので、電力突入時の過渡状態でも、陰極側境界面の発熱を抑止し、さらには、陽極側境界面への自由電子の流入をも可能となり、陽極側境界面の発熱も抑止することができるからである。
【0049】
また、陰極側のリード8は常に接地されているので、グランドに接続した陰極側の面積を大きくすることで、電力入力側(陽極側)の境界面2からクロストーク現象で伝播してきた高周波信号がすぐにグランドに吸収されることになり、その結果、境界面2での異常発熱と、異常発熱に起因したマイクロクラックの発生を抑制することができる。
【0050】
図5〜図9のように陽極側の横断面の面積よりも陰極側の横断面の面積のほうが大きい場合において、特に図6(b)や図8(b)のように陰極側境界面を厚みが厚くなるようにする(縦方向に大きくなるようにする)ことで、境界面2が加熱して応力が発生する際の起点の位置を陽極側と陰極側とで非対称とすることができるので、断面で見たときの応力分布も非対称となり、陽極側と陰極側の応力の相互干渉を抑止できるので好ましい。
【0051】
また、図4、図9、図10のようにリード8の断面を抵抗体3よりも大きくして接合させることで、境界面2が加熱したときに、リード8の方へ熱を散逸することができるので、境界面2の加熱を抑止できる。さらに、熱膨張が大きくなる抵抗体3の体積を小さくでき、発生する熱応力も小さくできるので、抵抗体3とリード8との境界面2へのマイクロクラックの発生および境界面での亀裂の進展が抑制され、長期間抵抗が安定する。これにより、ヒータの信頼性および耐久性が向上する。
【0052】
また、図11のようにそれぞれの境界面2と交わる軸方向に垂直な断面のうち、抵抗体3
が一対のリード8にそれぞれ取り囲まれている断面があることで、抵抗体3が熱膨張しても応力を完全に閉じ込めることができる。さらに、リード8の表面に沿って伝播してきた高周波成分は、抵抗体3との接続部でインピーダンスの整合が取れない一部が反射し、残りは周囲の誘電体を介してジュール熱として散逸し、接続部が局所的に加熱するが、このとき、接続部の後端側において抵抗体3がリード8に包みこまれていると、接続部で反射した高周波がこの領域に集中して、全てジュール熱に変換できるので、高周波成分の反射をなくすことができる。結果的に、リード8と抵抗体3との接続部にマイクロクラックが発生しにくくなり、境界面に沿って亀裂が一気に進展することを抑止し、長期間抵抗値が安定する。
【0053】
また、本実施の形態のヒータ1は、上記の構成のいずれかに記載のヒータ1と、リード8の端子部(図示せず)に電気的に接続されるとともにヒータ1を保持する金属製保持部材とを備えたグロープラグとして使用することが好ましい。具体的には、ヒータ1は、棒状の絶縁基体9の内部に、折返し形状をなした抵抗体3が埋設されているとともに一対のリード8が抵抗体3の両端部にそれぞれ電気的に接続されて埋設されていて、一方のリード8に電気的に接続された金属製保持部材(シース金具)と、他方のリード8に電気的に接続されたワイヤとを備えたグロープラグとして使用することが好ましい。
【0054】
なお、金属製保持部材(シース金具)は、ヒータ1を保持する金属製の筒状体であり、セラミック基体9の側面に引き出された一方のリード8にロウ材などで接合される。また、ワイヤは、他方のセラミック基体9の後端に引き出された他方のリード8にロウ材などで接合される。これにより、高温のエンジン中でON/OFFが繰り返されながら長期使用しても、ヒータ1の抵抗が変化しないので、どんなときでも着火性に優れたグロープラグを提供できる。
【0055】
次に、本実施の形態のヒータ1の製造方法について説明する。
【0056】
本実施の形態のヒータ1は、例えば、抵抗体3、リード8および絶縁基体9の形状の金型を用いた射出成形法等によって形成することができる。
【0057】
まず、導電性セラミック粉末,樹脂バインダー等を含む、抵抗体3およびリード8となる導電性ペーストを作製するとともに、絶縁性セラミック粉末,樹脂バインダー等を含む絶縁基体9となるセラミックペーストを作製する。
【0058】
次に、導電性ペーストを用いて射出成形法等によって抵抗体3となる所定パターンの導電性ペーストの成形体(成形体a)を形成する。そして、成形体aを金型内に保持した状態で、導電性ペーストを金型内に充填してリード8となる所定パターンの導電性ペーストの成形体(成形体b)を形成する。これにより、成形体aと、この成形体aに接続された成形体bとが、金型内に保持された状態となる。
【0059】
次に、金型内に成形体aおよび成形体bを保持した状態で、金型の一部を絶縁基体9の成形用のものに取り替えた後、金型内に絶縁基体9となるセラミックペーストを充填する。これにより、成形体aおよび成形体bがセラミックペーストの成形体(成形体c)で覆われたヒータ1の成形体(成形体d)が得られる。
【0060】
次に、得られた成形体dを例えば1650℃〜1780℃の温度、30MPa〜50MPaの圧力で焼成することにより、ヒータ1を作製することができる。なお、焼成は水素ガス等の非酸化性ガス雰囲気中で行なうことが好ましい。
【実施例】
【0061】
本発明の実施例のヒータを以下のようにして作製した。
【0062】
まず、炭化タングステン(WC)粉末を50質量%、窒化珪素(Si)粉末を35質量%、樹脂バインダーを15質量%含む導電性ペーストを、金型内に射出成形して抵抗体となる成形体aを作製した。
【0063】
次に、この成形体aを金型内に保持した状態で、リードとなる上記の導電性ペーストを金型内に充填することにより、成形体aと接続させてリードとなる成形体bを形成した。このとき、表1および表2に示すように、種々の形状を有する金型を用いて、4種の形状の抵抗体とリードとの接続部を形成した。
【0064】
境界面が斜めになっていることから、表1および表2における抵抗体断面積とリード断面積については、陽極側と陰極側のそれぞれの境界面の端部での抵抗体の横断面の面積とリードの横断面の面積を記した。
【0065】
次に、成形体aおよび成形体bを金型内に保持した状態で、窒化珪素(Si)粉末を85質量%、焼結助剤としてのイッテリビウム(Yb)の酸化物(Yb)を10質量%、抵抗体およびリードに熱膨張率を近づけるための炭化タングステン(WC)を5質量%含むセラミックペーストを、金型内に射出成形した。これにより、絶縁基体となる成形体c中に成形体aおよび成形体bが埋設された構成の成形体dを形成した。
【0066】
次に、得られた成形体dを円筒状の炭素製の型に入れた後、窒素ガスから成る非酸化性ガス雰囲気中で、1700℃、35MPaの圧力でホットプレスを行ない焼結してヒータを作製した。得られた焼結体の表面に露出したリード端部(端子部)に筒状の金属製保持部材(シース金具)をロウ付けしてグロープラグを作製した。
【0067】
このグロープラグの電極にパルスパターンジェネレータを接続し、印加電圧7V、パルス幅10μs、パルス間隔1μsの矩形パルスを連続通電した。1000時間経過後、通電前後の抵抗値の変化率((通電後の抵抗値−通電前の抵抗値)/通電前の抵抗値)を測定した。その結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示すように、試料番号1は、最も発熱した箇所がリードと抵抗体との境界面であった。そして、通電状態を確認するために、オシロスコープを用いて試料番号1のヒータに流れるパルス波形を確認したところ、入力波形と異なり、パルスの立ち上がりが急峻に
ならず、7Vに到達するまで1μs要し、オーバーシュートしながら波打っていた。
【0070】
これは、試料番号1のヒータでは、パルスの立ち上がり部分に含まれる高周波成分が、クロストーク現象により波形が合成されたものと考えられる。また、ヒータの最も発熱した箇所が、リードと抵抗体との境界面で特に陰極側となっていることについても、クロストークに起因した異常パルスによって、陰極側のリードと抵抗体との境界面でインピーダンスの整合が取れないことで、局所的な発熱が生じたものと考えられる。
【0071】
さらに、試料番号1の通電前後の抵抗変化は55%と非常に大きくなったため、パルス通電後、走査型電子顕微鏡で試料番号1のリードと抵抗体との境界面を観察したところ、境界面に外周方向から内側に向けて、マイクロクラックが生じていることを確認した。
【0072】
一方、試料番号2〜4については、最も発熱した箇所はヒータ先端の抵抗体発熱部であった。そして、通電状態を確認するために、オシロスコープを用いてヒータに流れるパルス波形を確認したところ、入力波形とほぼ同じ波形であった。これは、リードと抵抗体との境界面で異常加熱せずに通電できたことを示している。
【0073】
また、試料番号2〜4の通電前後の抵抗変化は5%以下と小さく、パルス通電後、走査型電子顕微鏡でこれらの試料番号のリードと抵抗体との境界面を観察したところ、マイクロクラックは無かった。
【0074】
次に、ヒータにDC電源を接続して抵抗体の温度が1400℃になるように印加電圧を設定し、1)5分間通電、2)2分間非通電の1),2)を1サイクルとし、1万サイクル繰り返した。通電前後のヒータの抵抗値の変化率を測定した。
【0075】
【表2】

【0076】
表2に示すように、試料番号1の通電前後の抵抗変化は55%と非常に大きくなったため、DC通電後、走査型電子顕微鏡で試料番号1のリードと抵抗体との境界面を観察したところ、境界面に外周方向から内側に向けてマイクロクラックが生じていることを確認した。
【0077】
一方、試料番号2〜4については、通電前後の抵抗変化は5%以下と小さく、DC通電後に走査型電子顕微鏡でこれらの試料番号のリードと抵抗体との境界面を観察したところ、マイクロクラックは無かった。
【符号の説明】
【0078】
1:ヒータ
2:境界面
3:抵抗体
4:発熱部
8:リード
9:絶縁基体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基体と、
該絶縁基体に埋設され、折返し形状をなしている抵抗体と、
前記絶縁基体に埋設され、先端側で前記抵抗体に接続されるとともに後端側で前記絶縁基体の表面に導出された一対のリードとを備えたヒータにおいて、
前記抵抗体と前記一対のリードとの二つの境界面は、該一対のリードのそれぞれの軸の両方を含む平面に垂直であり、両方とも先端側が内側または外側に向かって傾斜しかつそれぞれ異なる角度で傾斜していることを特徴とするヒータ。
【請求項2】
陰極側の境界面の軸方向に垂直な断面に対する傾斜角は、陽極側の境界面の前記軸方向に垂直な断面に対する傾斜角よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のヒータ。
【請求項3】
それぞれの前記境界面と交わる前記軸方向に垂直な断面で見たとき、陽極側の横断面の面積よりも陰極側の横断面の面積のほうが大きいことを特徴とする請求項1に記載のヒータ。
【請求項4】
それぞれの前記境界面と交わる前記軸方向に垂直な断面のうち、前記抵抗体が前記一対のリードにそれぞれ取り囲まれている断面があることを特徴とする請求項1に記載のヒータ。
【請求項5】
請求項1に記載のヒータと、前記一対のリードのうちの一方のリードと電気的に接続されて前記ヒータを保持する金属製保持部材とを備えたことを特徴とするグロープラグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−38003(P2013−38003A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175087(P2011−175087)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】