説明

ビアリール化合物の製造方法

【課題】美白剤として有用なチロシナーゼ阻害活性のあるビアリール化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】2位の水酸基を所定の保護基で保護し、5位をホウ素化した6−メトキシ安息香酸メチル誘導体と、2位および4位の水酸基を所定の保護基で保護した6−メチルベンジルブロマイド誘導体とを反応させた後、脱保護して、


で表されるビアリール化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美白剤として有用なチロシナーゼ阻害活性のあるビアリール化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肌の黒化、シミ、ソバカスなどは、ホルモンの分泌異常や紫外線刺激などの影響を受けて増加または活性化したメラノサイト中でチロシナーゼの働きによってチロシンからメラニンが生成し、それが皮膚組織に放出され沈着するために生じる。
【0003】
そこで、上記機構によるメラニンの生成を阻止するため、チロシナーゼの作用を阻害する種々の物質が化粧品や食品の分野で従来から使われ、または提案されている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、ハナビラタケ科ハナビラタケ属に属する食用キノコであるハナビラタケ(学名:Sparassis crispa)の抽出物を含む化粧料が開示されている。特許文献1では、チロシナーゼ阻害活性を有して美白効果のあるハナビラタケ抽出物として、ハナビラタケからクロロホルムを用いて抽出される画分、ならびにハナビラタケからエタノール、アセトンおよびヘキサンを用いて抽出される画分が挙げられている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−281224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されるように、チロシナーゼ阻害活性を有する物質として、キノコ類などの植物の抽出物は、数多く提案されている。しかしながら、チロシナーゼ阻害活性を有する化合物を、化学合成法によって得ることは、あまり提案されていないのが現状である。
【0007】
したがって本発明の目的は、美白剤として有用なチロシナーゼ阻害活性のあるビアリール化合物を、化学合成法によって得るビアリール化合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、2位の水酸基を所定の保護基で保護し、5位をホウ素化した下記式(1)
【0009】
【化10】

[式中、(Pr1)は保護基を示す。]
【0010】
で表される化合物と、
2位および4位の水酸基を所定の保護基で保護し、1位を臭素化した下記式(2)
【0011】
【化11】

[式中、(Pr2)は保護基を示す。]
【0012】
で表される化合物とを反応させた後、脱保護して、下記構造式(3)
【0013】
【化12】

【0014】
で表されるビアリール化合物を得ることを特徴とするビアリール化合物の製造方法である。
【0015】
また本発明は、2位の水酸基を所定の保護基で保護し、5位をホウ素化した下記式(4)
【0016】
【化13】

[式中、(Pr3)は保護基を示す。]
【0017】
で表される化合物と、
2位および4位の水酸基を所定の保護基で保護し、1位を臭素化した下記式(5)
【0018】
【化14】

[式中、(Pr4)は保護基を示す。]
【0019】
で表される化合物とを反応させた後、脱保護して、下記構造式(6)
【0020】
【化15】

【0021】
で表されるビアリール化合物を得ることを特徴とするビアリール化合物の製造方法である。
【0022】
また本発明は、2位の水酸基を所定の保護基で保護し、5位をホウ素化した下記式(7)
【0023】
【化16】

[式中、(Pr5)は保護基を示す。]
【0024】
で表される化合物と、
2位および4位の水酸基を所定の保護基で保護し、1位を臭素化した下記式(8)
【0025】
【化17】

[式中、(Pr6)は保護基を示す。]
【0026】
で表される化合物とを反応させた後、脱保護して、下記構造式(9)
【0027】
【化18】

【0028】
で表されるビアリール化合物を得ることを特徴とするビアリール化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、2位の水酸基を所定の保護基で保護し、5位をホウ素化した式(1)で表される化合物と、2位および4位の水酸基を所定の保護基で保護し、1位を臭素化した式(2)で表される化合物とを反応させた後、脱保護して、下記構造式(3)
【0030】
【化19】

【0031】
で表されるビアリール化合物を合成することができる。この構造式(3)で表されるビアリール化合物は、チロシナーゼに対する阻害活性(以下「チロシナーゼ阻害活性」という)を有し、美白効果が期待できる。
【0032】
また本発明によれば、2位の水酸基を所定の保護基で保護し、5位をホウ素化した式(4)で表される化合物と、2位および4位の水酸基を所定の保護基で保護し、1位を臭素化した式(5)で表される化合物とを反応させた後、脱保護して、下記構造式(6)
【0033】
【化20】

【0034】
で表されるビアリール化合物を合成することができる。この構造式(6)で表されるビアリール化合物は、チロシナーゼ阻害活性を有し、美白効果が期待できる。
【0035】
また本発明によれば、2位の水酸基を所定の保護基で保護し、5位をホウ素化した式(7)で表される化合物と、2位および4位の水酸基を所定の保護基で保護し、1位を臭素化した式(8)で表される化合物とを反応させた後、脱保護して、下記構造式(9)
【0036】
【化21】

【0037】
で表されるビアリール化合物を合成することができる。この構造式(9)で表されるビアリール化合物は、チロシナーゼ阻害活性を有し、美白効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明は、化粧料の材料として有用なチロシナーゼ阻害活性を有するビアリール化合物を化学合成法によって得るビアリール化合物の製造方法を提供する。本発明のビアリール化合物の製造方法では、2位の水酸基を所定の保護基で保護し、5位をホウ素化した特定構造の化合物と、2位および4位の水酸基を所定の保護基で保護し、1位を臭素化した特定構造の化合物とを反応させた後、脱保護して、特定構造を有するビアリール化合物1、2および3を化学合成して得る。
【0039】
以下、本発明の詳細を、実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
<ビアリール化合物1の製造>
本実施例では、下記構造式(I)で表されるビアリール化合物1である3−(2,4−ジヒドロキシ−6−メチルベンジル)−6−ヒドロキシ−2−メトキシ−4−メチル安息香酸(3-(2,4-dihydroxy-6-methylbenzyl)-6-hydroxy-2-methoxy-4-methylbenzoic acid
)を化学合成して得る。ここで、下記構造式(I)は、前記構造式(3)に対応する。
【0040】
【化22】

【0041】
ビアリール化合物1の合成は、3つのステップからなる。ステップ1では、原料化合物1から中間体1,2を生成し、さらに中間体2から中間体3を生成する。ステップ2では、原料化合物2から中間体4,5を生成し、さらに中間体5から中間体6を生成する。ステップ3では、中間体3から中間体7を生成し、得られた中間体7と中間体6とを反応させて中間体8を生成する。そして、得られた中間体8から中間体9,10を生成し、さらに中間体10から最終生成物であるビアリール化合物1を生成する。
【0042】
[ステップ1]
(中間体1の合成)
下記構造式(II)で表される原料化合物1(Methyl-2,6-dihydroxy-4-methyl-
benzoate)の2位の水酸基を保護基で保護して、中間体1を得る。
【0043】
【化23】

【0044】
原料化合物1の2位の水酸基の保護基としては、2位の水酸基を保護するとともに、後述する中間体3において5位の位置に選択的に臭素を導入できるように、立体構造の大きい基である必要がある。このような保護基としては、たとえば、tert−ブチルジメチルシリル(tert-butyldimethylsilyl)基、トリメチルシリル(trimethylsilyl)基、トリエチルシリル(triethylsilyl)基、トリイソプロピルシリル(triisopropylsilyl)基、tert−ブチルジフェニルシリル(tert-butyldiphenylsilyl)基、ジエチルイソプロピルシリル(diethylisopropylsilyl)基、ジメチルイソプロピルシリル(
dimethylisopropylsilyl)基、ジメチルフェニルシリル(dimethylphenylsilyl)基、
ジフェニルイソプロピルシリル(diphenylisopropylsilyl)基、ジ−tert−ブチルメチルシリル(di-tert-butylmethylsilyl)基、メチルジイソプロピルシリル(
methyldiisopropylsilyl)基、メチルジフェニルシリル(methyldiphenylsilyl)基、
tert−ブチルフェニルシリル(tert-butylphenylsilyl)基、tert−ブチルメトキシフェニルシリル(tert-butylmethoxyphenylsilyl)基、テキシルジメチルシリル(
thexyldimethylsilyl)基などを挙げることができる。
【0045】
本実施例では、上記保護基の中でも、tert−ブチルジメチルシリル(tert-
butyldimethylsilyl)基(略称:TBS基)で、原料化合物1の2位の水酸基を保護して中間体1(Methyl-2-tert-butyldimethylsilyl-6-hydroxy-4-methylbenzoate)を得る。その反応式(III)を以下に示す。
【0046】
【化24】

【0047】
反応式(III)に示す反応は、アルゴン雰囲気下で行った。60%NaH(ナトリウムハイドライド)720mg(18mmol)を無水THF(テトラヒドロフラン)に懸濁し、無水THFに原料化合物1を1.093g(6mmol)溶解した溶液を0℃で滴下した。その後、混合液を30分間撹拌し、無水THFにtert−ブチルジメチルシリルクロライド(tert-butyldimethylsilyl chrolide、略称:TBS−Cl)を1.085g(7.2mmol)溶解した溶液を0℃でゆっくりと滴下した。その後、室温(20〜30℃程度)で一晩撹拌して反応させた。
【0048】
なお、薄層クロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で、中間体1(Methyl-2-tert-butyldimethylsilyl-6-hydroxy-4-methylbenzoate)が生成していることを確認した。
【0049】
(中間体2の合成)
前述のようにして合成した中間体1の6位の水酸基をメトキシ基として中間体2を得る。その反応式(IV)を以下に示す。
【0050】
【化25】

【0051】
反応式(IV)に示す反応は、アルゴン雰囲気下で行った。前述のようにして中間体1が生成された反応液に、ヨウ化メチル(CHI)を740μl(12mmol)滴下し、20〜80℃(本実施例では40℃)で2時間還流した。反応終了後、反応液に水と酢酸エチルを添加して相分離させ、回収した酢酸エチル相を水と飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。その液をろ過し、ろ液を減圧下で濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=9:1)を用いて精製し、297.9g(0.96mmol)の中間体2(Methyl-2-tert-butyldimethylsilyl-6-
methoxy-4-methylbenzoate)を得た。このとき、反応式(IV)で示される反応において、中間体1から中間体2を生成する収率は16%であった。
【0052】
(中間体3の合成)
前述のようにして合成した中間体2の5位に臭素を導入して中間体3を得る。その反応式(V)を以下に示す。
【0053】
【化26】

【0054】
反応式(V)に示す反応は、空気中で行った。まず、N−ブロモこはく酸イミド(N-
Bromosuccinimide、略称:NBS)170.9mg(0.96mmol)と、塩化鉄(III)(FeCl)15.6mg(0.096mmol)とを無水アセトニトリルに溶解した。そして、この溶液に中間体2を297.9mg(0.96mmol)添加し、室温(20〜30℃程度)で20分間反応させた。
【0055】
このとき、NBSとFeClとを無水アセトニトリルに溶解した後に、中間体2を添加して反応させることが重要である。つまり、たとえば、無水アセトニトリルにNBSを溶解させた溶液に中間体2を添加し、次いでFeClを添加しても、反応は全く進行しない。
【0056】
反応終了後、反応液に水と酢酸エチルを添加して相分離させ、回収した酢酸エチル相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。その液をろ過し、ろ液を減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=9:1)を用いて精製し、33.4mg(0.086mmol)の中間体3(Methyl-2-tert-butyldimethylsilyl-
5-bromo-6-methoxy-4-methylbenzoate)を得た。このとき、反応式(V)で示される反応において、中間体2から中間体3を生成する収率は9%であった。
【0057】
得られた中間体3について、MSおよびH−NMRスペクトルを測定した。その中間体3のスペクトルデータを表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
一般的にTBS基のtert−ブチル基はイオン化しやすい。そのため、MSデータにおいて、MSは分子量から57(tert−ブチル基)少ないイオンピークが大きく検出される。そのため、分子イオンピークは極端に小さい、もしくは検出されない。なお、臭素の付加位置については、NOEで6.66ppm(ベンゼン環由来の水素)を照射した時に、2.37ppmのメチル基のシグナルが増幅することにより確認した。
【0060】
[ステップ2]
(中間体4の合成)
下記構造式(VI)で表される原料化合物2(2,4-dihydroxy-6-methylbenzaldehyde)の2位および4位の水酸基を保護基で保護して、中間体4を得る。
【0061】
【化27】

【0062】
原料化合物2の2位および4位の水酸基の保護基としては、たとえば、メチルメチルエーテル(methylmethylether)基、tert−ブトキシカルボニル(tert-butoxycarbonyl)基、2−メトキシエトキシメチル(2-methoxyethoxymethyl)基、tert−ブチル(
tert-butyl)基、メチルチオメチル(methylthiomethyl)基、tert−ブチルジメチルシリル(tert-butyldimethylsilyl)基、トリメチルシリル(trimethylsilyl)基、トリエチルシリル(triethylsilyl)基、トリイソプロピルシリル(triisopropylsilyl)基、tert−ブチルジフェニルシリル(tert-butyldiphenylsilyl)基、ジエチルイソプロピルシリル(diethylisopropylsilyl)基、ジメチルイソプロピルシリル(
dimethylisopropylsilyl)基、ジメチルフェニルシリル(dimethylphenylsilyl)基、ジフェニルイソプロピルシリル(diphenylisopropylsilyl)基、ジ−tert−ブチルメチルシリル(di-tert-butylmethylsilyl)基、メチルジイソプロピルシリル(
methyldiisopropylsilyl)基、メチルジフェニルシリル(methyldiphenylsilyl)基、tert−ブチルフェニルシリル(tert-butylphenylsilyl)基、tert−ブチルメトキシフェニルシリル(tert-butylmethoxyphenylsilyl)基、テキシルジメチルシリル(
thexyldimethylsilyl)基などを挙げることができる。
【0063】
本実施例では、上記保護基の中でも、メチルメチルエーテル(methylmethylether)基(略称:MOM基)で、原料化合物2の2位および4位の水酸基を保護して、中間体4(
2,4-dimethoxymethyl-6-methylbenzaldehyde)を得る。その反応式(VII)を以下に示す。
【0064】
【化28】

【0065】
反応式(VII)に示す反応は、アルゴン雰囲気下で行った。60%NaH(ナトリウムハライド)948mg(39.5mmol)と原料化合物2の2.0029g(13.2mmol)とを、無水THFに懸濁し、0℃で5分間撹拌した。その後、混合液に、クロロメチルメチルエーテル(Chloromethylmethylether、略称:MOM−Cl)を3.0ml(39.5mmol)滴下し、25〜80℃(本実施例では65℃)で一晩撹拌した。反応終了後、反応液に水と酢酸エチルを添加して相分離させ、回収した酢酸エチル相を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。その液をろ過し、ろ液を減圧下で濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=9:1)を用いて精製し、2.3g(9.6mmol)の中間体4(2,4-dimethoxymethyl-6-methylbenzaldehyde)を得た。このとき、反応式(VII)で示される反応において、原料化合物2から中間体4を生成する収率は73%であった。
【0066】
(中間体5の合成)
前述のようにして合成した中間体4のアルデヒド基を水酸基として中間体5を得る。ここで、中間体4はアルデヒドであるので、カルボン酸へと酸化しやすい。そのため、中間体4を得る反応が終了して直ちに、中間体5を得る反応を進めなければならない。その反応式(VIII)を以下に示す。
【0067】
【化29】

【0068】
反応式(VIII)に示す反応は、空気中で行った。水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)723mg(19.1mmol)をメタノールに溶解し、そこへメタノールに中間体4を2.3g(9.6mmol)溶解した溶液を滴下し、30分間撹拌した。その後、反応液に水とクロロホルムを添加して相分離させ、回収したクロロホルム相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。その液をろ過し、ろ液を減圧下で濃縮し、1.7g(7.0mmol)の中間体5(2,4-dimethoxymethyl-6-methylbenzylalcohol)を得た。このとき、反応式(VIII)で示される反応において、中間体4から中間体5を生成する収率は73%であった。
【0069】
(中間体6の合成)
前述のようにして合成した中間体5の水酸基を臭素化して中間体6を得る。その反応式(IX)を以下に示す。
【0070】
【化30】

【0071】
反応式(IX)に示す反応は、アルゴン雰囲気下で行った。N−ブロモこはく酸イミド(N-Bromosuccinimide、略称:NBS)107mg(0.6mmol)と、ジメチルスルフィド((CHS)53ml(0.5mmol)とを無水ジクロロメタンに溶解し、0℃で10分間撹拌した。反応液を0℃未満(本実施例では−20℃)にして、中間体5を97mg(0.4mmol)添加し、その後、0℃で2時間撹拌した。そして、反応液に水とジクロロメタンを添加して相分離させ、回収したジクロロメタン相を炭酸水素ナトリウム溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。その液をろ過し、ろ液を減圧下で濃縮後、活性アルミナが充填されたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=9:1)を用いて精製し、36mg(0.12mmol)の中間体6(
2,4-Dimethoxymethyl-6-methylbenzyl-bromide)を得た。このとき、反応式(IX)で示される反応において、中間体5から中間体6を生成する収率は30%であった。
【0072】
得られた中間体6について、MSおよびH−NMRスペクトルを測定した。その中間体6のスペクトルデータを表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
ここで、中間体5を反応液に添加するときの温度は、前述したように0℃未満であることが重要である。中間体5を反応液に添加するときの温度が0℃以上である場合には、目的とする中間体6を得ることができない。また、臭素化に使用する試薬は、NBSと(CHSとの組み合わせであることが重要である。たとえば、四臭化炭素(CBr)とトリフェニルホスフィン(PhP)との組み合わせ、NBSとPhPとの組み合わせ、トリブロモホスフィン(PBr)とピリジンとの組み合わせでは、反応が進まず中間体6を得ることができない。また、臭素以外の他のハロゲンである塩素やヨウ素では、中間体5の水酸基をハロゲン化することができない。また、中間体6は不安定で、薄黄色の油状物質が橙色の結晶へとすぐに変化してしまう。そのため、生成物である中間体6を精製するときには、前述したように、活性アルミナを用いた精製を行う必要があり、シリカゲルカラムでは中間体6が分解してしまう。
【0075】
[ステップ3]
(中間体7の合成)
中間体3の5位の臭素をホウ素化して中間体7を得る。その反応式(X)を以下に示す。
【0076】
【化31】

【0077】
反応式(X)に示す反応は、アルゴン雰囲気下で行った。PdCl(dppf)2.1mg(2.58μmol)をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した。PdClの代わりに、PdCl(PPh、Pd(dba)、Pt(dba)、Pd(PPhを用いても構わない。そして、酢酸カリウム(KOAc)25.3mg(0.258mmol)と、ビス(ピナコラート)ジボロン(Bis(pinacolate)diboron)24.0mg(0.0946mmol)を添加後、次いで中間体3の33.4mg(0.086mmol)を加え、40〜100℃(本実施例では80℃)で2時間還流した。このとき、酢酸カルシウムの代わりに、カリウムフェノキシド、トリエチルアミン(Triethylamine)、ジイソプロピルエチルアミン(diisopropylethylamine)、炭酸カリウムを用いても構わない。
【0078】
なお、薄層クロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で、中間体7(Methyl-6-(tert-butyldimethylsiloxy)-2-methoxy-4-methyl-3-(4,4,5,5-
tetramethyl-1,3,2-dioxaborolan-2-yl)benzoate)が生成していることを確認した。
【0079】
ここで、本実施例では、前述のように、ホウ素化を行う試薬としてビス(ピナコラート)ジボロンを用いたが、1量体であるピナコールボラン(4,4,5,5-Tetramethyl-1,3,2-
dioxaborolane)をホウ素化試薬として用いた場合には、中間体3の5位の臭素をホウ素化することができない。
【0080】
(中間体8の合成)
2位の水酸基をTBS基で保護し、5位をホウ素化した化合物である中間体7と、2位および4位の水酸基をMOM基で保護し、1位を臭素化した中間体6とを反応させて中間体8を得る。その反応式(XI)を以下に示す。
【0081】
【化32】

【0082】
反応式(XI)に示す反応は、アルゴン雰囲気下で行った。前述のようにして中間体7が生成された反応液に、Ba(OH)・8HOを81.4mg(0.258mmol)、中間体6を26.2mg(0.086mmol)加え、60〜120℃(本実施例では100℃)で1時間還流した。反応液をセライトろ過し、ジクロロメタンで抽出後、飽和食塩水で洗浄した。ジクロロメタン相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、そのろ液を減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=2:1)を用いて精製し、33.1mg(61.9μmol)の中間体8(
Methyl-3-(2,4-bis(methoxymethyl)-6-methylbenzyl)-6-(tert-butyldimethyl-silyloxy)-2-methoxy-4-methylbenzoate)を得た。このとき、反応式(XI)で示される反応において、中間体7と中間体6とを反応させて中間体8を生成する収率は72%であった。
【0083】
(中間体9の合成)
前述のようにして合成した中間体8のTBS保護基を脱離して脱保護し、中間体9を得る。その反応式(XII)を以下に示す。
【0084】
【化33】

【0085】
反応式(XII)に示す反応は、空気中で行った。中間体8の33.1mg(61.9μmol)をTHFに溶解し、そこへBuNFを64.7mg(0.2476mmol)加えて、室温(20〜30℃程度)で20分間反応させた。その後、酢酸エチルを加え、飽和リン酸二水素ナトリウム水溶液で洗浄した。そして、酢酸エチル相をさらに飽和リン酸二水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。その液をろ過し、ろ液を減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;酢酸エチル)を用いて精製し、17.6mg(42.0μmol)の中間体9(Methyl-3-(2,4-
bis(methoxymethyl)-6-methylbenzyl)-6-hydroxy-2-methoxy-4-methylbenzoate)を得た。このとき、反応式(XII)で示される反応において、中間体8から中間体9を生成する収率は68%であった。
【0086】
(中間体10の合成)
前述のようにして合成した中間体9のMOM保護基を脱離して脱保護し、中間体10を得る。その反応式(XIII)を以下に示す。
【0087】
【化34】

【0088】
反応式(XIII)に示す反応は、空気中で行った。ヨウ化ナトリウム(NaI)63.0mg(0.42mmol)と、トリメチルシリルクロライド(
Trimethylsilylchrolide、略称TMS−Cl)45.6mg(0.42mmol)とをアセトニトリルに溶解し、そこへ中間体9を17.6mg(42.0μmol)添加して、室温(20〜30℃程度)で15分間反応させた。その後、酢酸エチルと飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液とを加えて、さらに1時間撹拌し、酢酸エチル相を回収した。酢酸エチル相を飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液、水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過したろ液を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;クロロホルム:メタノール=20:1)を用いて精製し、11.9mg(35.7μmol)の中間体10(Methyl-3-(2,4-dihydroxy-6-methylbenzyl)-6-hydroxy-2-methoxy-4-methylbenzoate)を得た。このとき、反応式(XIII)で示される反応において、中間体9から中間体10を生成する収率は85%であった。
【0089】
(ビアリール化合物1の合成)
前述のようにして合成した中間体10から目的化合物である構造式(I)で表されるビアリール化合物1を得る。その反応式(XIV)を以下に示す。
【0090】
【化35】

【0091】
反応式(XIV)に示す反応は、空気中で行った。中間体10の11.9mg(35.7μmol)をアセトニトリルに溶解し、水酸化ナトリウム(NaOH)を0.01Nになるように加え、室温(20〜30℃程度)で1時間反応させた。その後、反応液に酢酸エチルを加え、酢酸エチル相を水で洗浄し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;クロロホルム:メタノール=5:1)を用いて精製し、6.9mg(21.7μmol)のビアリール化合物1(3-(2,4-dihydroxy-
6-methylbenzyl)-6-hydroxy-2-methoxy-4-methylbenzoic acid)を得た。このとき、反応式(XIV)で示される反応において、中間体10からビアリール化合物1を生成する収率は61%であった。
【0092】
得られたビアリール化合物1について、MSおよびH−NMRスペクトルを測定した。そのビアリール化合物1のスペクトルデータを表3に示す。
【0093】
【表3】

【0094】
以上のようにして製造されたビアリール化合物1における、チロシナーゼ阻害活性を評価した。
【0095】
[チロシナーゼ阻害活性評価方法]
(a)原理
チロシナーゼ(EC 1.14.18.1)は、メラニン生成の初期反応であるアミノ酸チロシンからL−DOPA(L−β−(3,4−Dihydroxyphenyl)alanine)への水酸化、L−DOPAからDOPAキノンへの酸化を触媒する酵素である。本試験では、L−DOPAを基質として用い、その反応生成物であるDOPAキノンの吸収波長である475nmにおける吸光度を測定し、DOPAキノンの生成阻害からチロシナーゼ活性阻害率を求めた。
【0096】
(b)試験方法
前述のようにして合成したビアリール化合物1を、任意の濃度で20%DMSO−1/15Mリン酸緩衝液(pH6.8)に溶解させて試料溶液を調製する。調製した試料溶液100μLと1/15Mリン酸緩衝液(pH6.8、株式会社ヤトロン製)400μLとを混合し、これにチロシナーゼ(30units、シグマ(SIGMA)社製)60μLを加え、37℃のウォーターバス上で20分間馴致した。その後、2mMに調製したL−DOPA(和光純薬株式会社製)440μLを加えて、37℃で5分間反応させた。これをサンプルSとする。
【0097】
また同様にして、試料溶液を添加しないもの(以下「コントロールC」という)、チロシナーゼを添加しないもの(以下「サンプルブランクSBl」という)、ならびに試料溶液およびチロシナーゼをともに添加しないもの(以下「コントロールブランクCBl)を準備した。検定試料、チロシナーゼおよびL−DOPAは、いずれも1/15Mリン酸緩衝液(pH6.8)で溶解して試験に用いた。
【0098】
コントロールブランクCBlを測定ブランクとして、サンプルS、コントロールCおよびコントロールブランクCBlについて、波長475nmにおける吸光度を測定した。測定結果から、チロシナーゼ活性阻害率を下記式(A)に従い、算出した。試験は3回行い、その平均を1データとして表した。チロシナーゼ活性阻害率は、その値が大きいほど、チロシナーゼ阻害活性が高いことを示す。
チロシナーゼ活性阻害率(%)=C−{S−(SBl)}/C …(A)
[式中、符号CはコントロールCの吸光度を示し、SはサンプルSの吸光度を示し、SBlはサンプルブランクSBlの吸光度を示す。]
【0099】
[チロシナーゼ阻害活性評価結果]
前述のようにして製造したビアリール化合物1のチロシナーゼ活性阻害率は、処理濃度50μg/mlで89.9%であり、美白効果が期待できる結果となった。
【0100】
(実施例2)
<ビアリール化合物2の製造>
本実施例では、下記構造式(XV)で表されるビアリール化合物2である4−(4−ヒドロキシ−6−メトキシ−2,3−ジメチルベンジル)−5−メチルベンゼン−1,3−ジオール(4-(4-Hydroxy-6-methoxy-2,3-dimethylbenzyl)-5-methyl-benzene-1,3-diol)を化学合成して得る。ここで、下記構造式(XV)は、前記構造式(6)に対応する。
【0101】
【化36】

【0102】
ビアリール化合物2は、前述したビアリール化合物1と同様にして合成することができる。
【0103】
具体的には、前述した原料化合物1の代わりに、下記構造式(XVI)で表される原料化合物3を用いて、ステップ1に対応した反応を行う。なお、ステップ2はビアリール化合物1と同様にして行う。
【0104】
【化37】

【0105】
ビアリール化合物2の製造においては、前述したステップ1に対応して、原料化合物3の2位の水酸基をTBS基などの保護基で保護し、6位の水酸基をメトキシ基とし、5位に臭素を導入する。そして、5位の臭素をホウ素化して下記構造式(XVII)で表される中間体11を得る。
【0106】
【化38】

【0107】
そして、前述したステップ3に対応して、中間体11と、前述したステップ2で生成した中間体6とを反応させた後、脱保護して、構造式(XV)で表されるビアリール化合物2(4-(4-Hydroxy-6-methoxy-2,3-dimethylbenzyl)-5-methyl-benzene-1,3-diol)を得ることができる。
【0108】
(実施例3)
<ビアリール化合物3の製造>
本実施例では、下記構造式(XVIII)で表されるビアリール化合物3である4−(4−ヒドロキシ−2−メトキシ−6−メチルベンジル)−5−メチルベンゼン−1,3−ジオール(4-(4-Hydroxy-2-methoxy-6-methyl-benzyl)-5-methyl-benzene-1,3-diol)を化学合成して得る。ここで、下記構造式(XVIII)は、前記構造式(9)に対応する。
【0109】
【化39】

【0110】
ビアリール化合物3は、前述したビアリール化合物1と同様にして合成することができる。
【0111】
具体的には、前述した原料化合物1の代わりに、下記構造式(XIX)で表される原料化合物4を用いて、ステップ1に対応した反応を行う。なお、ステップ2はビアリール化合物1と同様にして行う。
【0112】
【化40】

【0113】
ビアリール化合物3の製造においては、前述したステップ1に対応して、原料化合物4の2位の水酸基をTBS基などの保護基で保護し、6位の水酸基をメトキシ基とし、5位に臭素を導入する。そして、5位の臭素をホウ素化して下記構造式(XX)で表される中間体12を得る。
【0114】
【化41】

【0115】
そして、前述したステップ3に対応して、中間体12と、前述したステップ2で生成した中間体6とを反応させた後、脱保護して、構造式(XVIII)で表されるビアリール化合物3(4-(4-Hydroxy-2-methoxy-6-methyl-benzyl)-5-methyl-benzene-1,3-diol)を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2位の水酸基を所定の保護基で保護し、5位をホウ素化した下記式(1)
【化1】

[式中、(Pr1)は保護基を示す。]
で表される化合物と、
2位および4位の水酸基を所定の保護基で保護し、1位を臭素化した下記式(2)
【化2】

[式中、(Pr2)は保護基を示す。]
で表される化合物とを反応させた後、脱保護して、下記構造式(3)
【化3】

で表されるビアリール化合物を得ることを特徴とするビアリール化合物の製造方法。
【請求項2】
2位の水酸基を所定の保護基で保護し、5位をホウ素化した下記式(4)
【化4】

[式中、(Pr3)は保護基を示す。]
で表される化合物と、
2位および4位の水酸基を所定の保護基で保護し、1位を臭素化した下記式(5)
【化5】

[式中、(Pr4)は保護基を示す。]
で表される化合物とを反応させた後、脱保護して、下記構造式(6)
【化6】

で表されるビアリール化合物を得ることを特徴とするビアリール化合物の製造方法。
【請求項3】
2位の水酸基を所定の保護基で保護し、5位をホウ素化した下記式(7)
【化7】

[式中、(Pr5)は保護基を示す。]
で表される化合物と、
2位および4位の水酸基を所定の保護基で保護し、1位を臭素化した下記式(8)
【化8】

[式中、(Pr6)は保護基を示す。]
で表される化合物とを反応させた後、脱保護して、下記構造式(9)
【化9】

で表されるビアリール化合物を得ることを特徴とするビアリール化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−37238(P2010−37238A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200266(P2008−200266)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(395005424)
【Fターム(参考)】