説明

ビタミンD類似体:NEL、その方法および使用

式中、X1、X2およびX3がHまたはヒドロキシ保護基から独立して選択され、R1が、1〜8個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルキル基; 2〜8個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルケニル基; 1〜8個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖ヒドロキシ置換アルキル基; 2〜8個の炭素原子を有する直鎖および分枝鎖ヒドロキシ置換アルケニル基から選択される、式IAまたはIBの化合物が提供される。このような化合物は薬学的組成物の調製に使用され、さまざまな生物学的状態の処置に有用である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2006年2月2日付で出願された米国特許仮出願第60/743,217号の優先権を要求する。
【0002】
発明の分野
本発明はビタミンD化合物に関し、より詳しくは、(20R, 25S)-2-メチレン-19,26-ジノル-1α,25-ジヒドロキシビタミンD3 (NEL)およびこの化合物を含む薬学的配合物に関する。本発明は同様に、種々の疾患の処置で用いる薬物の調製における(20R, 25S)-2-メチレン-19,26-ジノル-1α,25-ジヒドロキシビタミンD3またはその塩の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
天然のホルモンである1α,25-ジヒドロキシビタミンD3 (1α,25-ジヒドロキシコレカルシフェロールおよびカルシトリオールともいわれる)ならびにエルゴステロール系列のその類似体、すなわち1α,25-ジヒドロキシビタミンD2は、動物およびヒトにおけるカルシウムの恒常性の非常に強力な調節因子であることが公知であり、細胞分化におけるその活性も確立されている。Ostrem et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 2610 (1987)(非特許文献1)。1α-ヒドロキシビタミンD3、1α-ヒドロキシビタミンD2、種々の側鎖相同ビタミンおよびフッ素化類似体を含めて、これらの代謝物の多くの構造類似体が調製され試験されている。これらの化合物には、細胞分化およびカルシウム調節における活性の興味深い区分けを示すものがある。この活性の差異は、腎性骨ジストロフィー、ビタミンD抵抗性くる病、骨粗しょう症、乾癬およびある種の悪性病変のような、当技術分野において確立されている種々の疾患の処置に有用である(例えば、Zemplar, Calcipotriol, MC-903, Dovonex, 22-オキサ-1α,25-(OH)2D3を参照のこと)。
【0004】
腎性骨ジストロフィーは、腎臓が血中のカルシウムおよびリンの適切な濃度を維持できない場合に起こる骨疾患である。腎性骨ジストロフィーは、腎疾患を有する者に共通の問題であり、透析患者の90パーセントに影響を与えている。
【0005】
腎性骨ジストロフィーは小児において最も深刻である。何故なら、その骨は依然として成長中だからである。この状態は骨成長を減速し、奇形を引き起こす。脚が互いに向かって内側へ曲がるかまたは互いから離れて外側に曲がる場合にそのような奇形の一つが起こる; この奇形は「腎性くる病」といわれる。もう一つの重大な結果が低身長である。症状は腎疾患を有する成長中の小児において、それらが透析を始める前でさえ見られる。
【0006】
腎性骨ジストロフィー由来の骨変化は、腎疾患を有する成人に症状が現れるより何年も前から始まりうる。腎性骨ジストロフィーの症状は成人では、それらが数年間透析を受けるまで通常見られない。高齢の患者および閉経を経験した女性は、それらが腎疾患を抱えていなくても、骨粗しょう症に対して既に脆弱であるため、この疾患の危険性がより高い。未処置のまま放置されると、骨は徐々に薄く弱くなり、腎性骨ジストロフィーを有する者は、骨および関節の痛みならびに骨折の危険性の増大を経験し始める。
【0007】
成人健常者では、骨組織は持続的に再形成され再構築されている。腎臓は、血中のカルシウムおよびリン濃度のバランスを保つので、健常な骨量および骨格の維持に重要な役割を果たす。血中のカルシウム濃度があまりにも低くなると、副甲状腺が副甲状腺ホルモン(PTH)を放出する。このホルモンは骨からカルシウムを取り出して、血中カルシウム濃度を上昇させる。血中の過剰なPTHはカルシウムおよびリンの恒常性のかく乱を引き起こす。これが今度は骨から過剰なカルシウムを除去し; 長期にわたって、絶えず続くカルシウムの除去が骨を弱体化する。
【0008】
続発性上皮小体機能亢進症は、不十分な濃度の活性なビタミンDホルモンに関連するPTHの上昇によって特徴付けられる。典型的には、ビタミンDは、ビタミンD受容体(VDR)を結合するのにおよび活性化するのに肝臓および腎臓中での二連続の水酸化を必要とする。内因性のVDR活性化因子であるカルシトリオール[1,25(OH)2 D3]は、副甲状腺機能ならびにカルシウムおよびリンの恒常性を維持するため副甲状腺、腸、腎臓および骨において発現されるVDRに、ならびに前立腺、内皮および免疫細胞を含む、その他多くの組織において見られるVDRに結合するホルモンである。リンも骨中のカルシウム濃度を調節するのに役立つ。健常な腎臓は過剰のリンを血液から除去する。腎臓が正常に働けなくなると、血中のリン濃度は高くなり過ぎて、いっそう低い血中カルシウム濃度をもたらし、骨からのカルシウムの喪失を引き起こしうる。
【0009】
健常な腎臓はカルシトリオールを産生して、身体が食事性カルシウムを血中および骨中に吸収するのを助ける。カルシトリオール濃度が低く下がり過ぎると、PTH濃度が増大して、カルシウムが骨から除去される。カルシトリオールおよびPTHは協調して働き、カルシウムバランスを正常におよび骨を健常に保つ。腎不全を有する患者では、腎臓がカルシトリオールの生成を停止し、食事性カルシウムが吸収されず、カルシウムが骨から除去される。
【0010】
PTH濃度の制御は、カルシウムが骨から取り除かれるのを阻止する。通常、過敏性の副甲状腺は食事の変更、透析処置または薬物療法により制御可能である。2004年に食品医薬品局によって承認された、薬物シナカルセト塩酸塩(Sensipar)は、PTHの放出を制御するカルシウム受容体に結合することでPTH濃度を低下させる。PTH濃度を制御できないなら、副甲状腺は外科的に切除されることが必要になるかもしれない。この状態に対する他の処置としては、合成カルシトリオールを丸剤としてまたは注射可能な形態で服用することが挙げられる。
【0011】
腎性骨ジストロフィーは食事の変更により処置することもできる。食事によるリン摂取の低減は、骨疾患の予防における最も重要な段階の一つである。多くの場合、炭酸カルシウム(Tums)、酢酸カルシウム(PhosLo)、塩酸セベラマー(Renagel)または炭酸ランタン(Fosrenol)のような薬物を食事および軽食とともに処方して腸内のリンを結合し、これによって血中へのリンの吸収を減らす。
【0012】
腎性骨ジストロフィーに対する他の処置選択肢には、ゼンプラーの活性成分であるパリカルシトール(パラカルシトール注射液、USP)があり、これは側鎖およびA (19-ノル)環に修飾の有る、カルシトリオールの生物学的に活性な合成ビタミンD類似体である。前臨床およびインビトロの試験から、パリカルシトールの作用はVDRへの結合を通じて媒介されており、ビタミンD受容体経路の選択的な活性化をもたらすことが実証されている。カルシトリオールおよびパリカルシトールは、PTH合成および分泌を阻害することで副甲状腺ホルモン濃度を減少させることが示されている。

【0013】
1α,25-ジヒドロキシビタミンD3の構造およびこの化合物中の炭素原子を示すために使われた付番方式を以下に示す。

【0014】
典型的には、19-ノル-ビタミンD化合物のような、ビタミンD類似体の部類は、ビタミンD系に特有の、A-環の環外メチレン基の炭素19が存在しないことによって特徴付けられる。このような19-ノル-類似体(例えば、1α,25-ジヒドロキシ-19-ノル-ビタミンD3)の生物学的試験は、細胞分化の誘発において高い力価を有する選択的活性プロファイル、および非常に低いカルシウム動員活性を明らかにした。すなわち、これらの化合物は、悪性病変の処置、または種々の皮膚障害の処置のための治療剤として有用な可能性がある。このような19-ノル-ビタミンD類似体の二つの異なる合成法が報告されている(Perlman et al., Tetrahedron Lett. 31, 1823 (1990)(非特許文献2); Perlman et al., Tetrahedron Lett. 32, 7663 (1991)(非特許文献3)、およびDeLuca et al., 米国特許第5,086,191号(特許文献1))。
【0015】
米国特許第4,666,634号(特許文献2)では、1α,25-ジヒドロキシビタミンD3の2β-ヒドロキシおよびアルコキシ(例えば、ED-71)類似体がChugaiのグループにより骨粗しょう症の潜在的な薬物としておよび抗腫瘍剤として報告され試験されている。Okano et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 163, 1444 (1989)(非特許文献4)も参照されたい。1α,25-ジヒドロキシビタミンD3の他の2-置換(ヒドロキシアルキルを有する、例えばED-120、およびフルオロアルキル基を有する) A-環類似体も調製され試験されている(Miyamoto et al., Chem. Pharm. Bull. 41, 1111 (1993)(非特許文献5); Nishii et al., Osteoporosis Int. Suppl. 1, 190 (1993)(非特許文献6); Posner et al., J. Org. Chem. 59, 7855 (1994)(非特許文献7)、およびJ. Org. Chem. 60, 4617 (1995)(非特許文献8))。
【0016】
1α,25-ジヒドロキシ-19-ノル-ビタミンD3のさまざまな2-置換類似体、すなわち2-位で、ヒドロキシまたはアルコキシ基により置換された化合物(DeLuca et al., 米国特許第5,536,713号(特許文献3))、2-アルキル基により置換された化合物(DeLuca et al., 米国特許第5,945,410号(特許文献4))、および2-アルキリデン基により置換された化合物(DeLuca et al., 米国特許第5,843,928号(特許文献5))も合成されており、これらの類似体は興味深く、選択的な活性プロファイルを示す。これらの全ての研究から、ビタミンD受容体中の結合部位が、合成されたビタミンD類似体中のC-2位の異なる置換基を収容できることが示唆される。
【0017】
19-ノル部類の薬理学的に重要なビタミンD化合物を探索するための継続的な努力において、炭素2 (C-2)にメチレン置換基、炭素1 (C-1)にヒドロキシル基、および炭素20 (C-20)に付着された短縮側鎖の存在によって特徴付けられる類似体も合成され試験されている。1α-ヒドロキシ-2-メチレン-19-ノル-プレグナカルシフェロールは米国特許第6,566,352号(特許文献6)に記述されており、その一方で1α-ヒドロキシ-2-メチレン-19-ノル-(20S)-ホモプレグナカルシフェロールは米国特許第6,579,861号(特許文献7)に記述されており、1α-ヒドロキシ-2-メチレン-19-ノル-ビスホモプレグナカルシフェロールは米国特許第6,627,622号(特許文献8)に記述されている。これらの化合物の三つ全てがビタミンD受容体に対する比較的高い結合活性および比較的高い細胞分化活性を有するが、1α,25-ジヒドロキシビタミンD3と比較して血中カルシウム上昇作用はあるとしてもほとんどない。それらの生物学的活性が、前記‘352号(特許文献6)、‘861号(特許文献7)および‘622号(特許文献8)の特許に記載されているように、これらの化合物をさまざまな薬学的用途のための優れた候補にしている。他の19-ノル化合物は米国特許出願第10/996,642号(特許文献9)および同第10/997,698号(特許文献10)に開示されている。
【0018】
上記の化合物および配合物を含めて、現在利用できる処置は多かれ少なかれ種々の制限があるので、PTHを抑制する能力を保持しながら血中カルシウム上昇作用を減少し続ける新たな化合物および薬学的配合物が望ましい。
【0019】
【特許文献1】米国特許第5,086,191号
【特許文献2】米国特許第4,666,634号
【特許文献3】DeLuca et al., 米国特許第5,536,713号
【特許文献4】DeLuca et al., 米国特許第5,945,410号
【特許文献5】DeLuca et al., 米国特許第5,843,928号
【特許文献6】米国特許第6,566,352号
【特許文献7】米国特許第6,579,861号
【特許文献8】米国特許第6,627,622号
【特許文献9】米国特許出願第10/996,642号
【特許文献10】米国特許出願第10/997,698号
【非特許文献1】Ostrem et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 2610 (1987)
【非特許文献2】Perlman et al., Tetrahedron Lett. 31, 1823 (1990)
【非特許文献3】Perlman et al., Tetrahedron Lett. 32, 7663 (1991)
【非特許文献4】Okano et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 163, 1444 (1989)
【非特許文献5】Miyamoto et al., Chem. Pharm. Bull. 41, 1111 (1993)
【非特許文献6】Nishii et al., Osteoporosis Int. Suppl. 1, 190 (1993)
【非特許文献7】Posner et al., J. Org. Chem. 59, 7855 (1994)
【非特許文献8】J. Org. Chem. 60, 4617 (1995)
【発明の開示】
【0020】
発明の概要
本発明は全体として、(20R, 25S)-2-メチレン-19,26-ジノル-1α,25-ジヒドロキシビタミンD3 (NEL)および関連化合物、NELを含む薬学的配合物ならびに種々の疾患状態の処置で用いる薬物の調製におけるこの化合物の使用を提供する。
【0021】
したがって、一つの局面において、本発明は以下に示される式IAまたはIBを有する化合物を提供する。

式中X1、X2およびX3は同じものまたは異なるものであり、Hまたはヒドロキシ保護基から独立して選択される。いくつかの態様において、X1、X2およびX3はシリル基のようなヒドロキシ保護基である。いくつかのそのような態様において、X1、X2およびX3はt-ブチルジメチルシリル基である。ある種の態様において、R1は1〜8個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、2〜8個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルケニル基、1〜8個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖ヒドロキシ置換アルキル基、または2〜8個の炭素原子を有する直鎖および分枝鎖ヒドロキシ置換アルケニル基から選択される。いくつかのそのような態様において、R1は2〜7個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、2〜7個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルケニル基、2〜6個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖ヒドロキシ置換アルキル基、または2〜6個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖ヒドロキシ置換アルケニル基から選択される。他のそのような態様において、R1は2〜7個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、2〜7個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルケニル基、または2〜6個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖ヒドロキシ置換アルケニル基から選択される。
【0022】
他の態様において、化合物が以下に示されるとおり、式IIAを有する(20R, 25S)-2-メチレン-19,26-ジノル-1α,25-ジヒドロキシビタミンD3であるか、または式IIBを有する(20S, 25S)-2-メチレン-19,26-ジノル-1α,25-ジヒドロキシビタミンD3であるように、X1、X2およびX3はHであり、R1はCH3である。

【0023】
本発明の別の態様では、有効量の式IAまたはIBの化合物および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物を提供する。この薬学的組成物において、有効量には組成物1グラム当たり化合物約0.01 μg〜約1 mgが含まれる。より好ましくは、有効量には組成物1グラム当たり化合物約0.1 μg〜約500 μgが含まれる。
【0024】
ある種の態様において、本発明は、乾癬; 白血病; 大腸がん; 乳がん; 前立腺がん; 多発性硬化症; 狼瘡; 糖尿病; 宿主対移植片反応; 臓器移植の拒絶反応; 慢性関節リウマチ、喘息、もしくは炎症性腸疾患から選択される炎症性疾患; しわ、十分な皮膚硬度の不足、十分な皮膚水和作用の不足、もしくは不十分な皮脂分泌から選択される皮膚状態; 腎性骨ジストロフィー; または骨粗しょう症から選択される生物学的状態に苦しむ被験体を処置する方法であって、有効量の式IAまたはIBの化合物を被験体に投与する段階を含む方法を提供する。好ましい態様において、生物学的状態は腎性骨ジストロフィー、ビタミンD抵抗性くる病、骨粗しょう症または乾癬性関節炎である。別の好ましい態様において、生物学的状態は白血病、大腸がん、乳がん、または前立腺がんから選択される。さらに別の好ましい態様において、生物学的状態は多発性硬化症、狼瘡、糖尿病、宿主対移植片反応、または臓器移植の拒絶反応から選択される。さらに他の好ましい態様において、生物学的状態は慢性関節リウマチ、喘息、またはセリアック病、潰瘍性大腸炎およびクローン病から選択される炎症性腸疾患から選択される。さらに他の好ましい態様において、生物学的状態はしわ、十分な皮膚硬度の不足、十分な皮膚水和作用の不足、または不十分な皮脂分泌から選択される。
【0025】
また好ましくは、この態様において、有効量の化合物は被験体に経口的に、非経口的に、経皮的にまたは局所的に投与される。さらにより好ましくは、有効量の化合物は腹腔内に投与される。この態様において、化合物は1日当たり0.01 μg〜1日当たり1 mgの投与量で投与される。
【0026】
本発明の別の局面では、乾癬; 白血病; 大腸がん; 乳がん; 前立腺がん; 多発性硬化症; 狼瘡; 糖尿病; 宿主対移植片反応; 臓器移植の拒絶反応; 慢性関節リウマチ、喘息、もしくは炎症性腸疾患から選択される炎症性疾患; しわ、十分な皮膚硬度の不足、十分な皮膚水和作用の不足、もしくは不十分な皮脂分泌から選択される皮膚状態; 腎性骨ジストロフィー; または骨粗しょう症から選択される生物学的状態の処置のための薬物の調製における式IAまたはIBの化合物の使用を提供する。
【0027】
さらに別の好ましい態様において、本発明は動物被験体における、所与の体重の維持のための、美容的な減量の促進のための、またはしわの抑制、十分な皮膚硬度の不足の改善、十分な皮膚水和作用もしくは不十分な皮脂分泌の促進を含む有益な皮膚状態の促進のための美容的方法であって、式IAまたはIBの化合物を使用する段階を含む方法を提供する。
【0028】
本発明のさらに別の好ましい態様では、式IIAを有する化合物を提供する。

【0029】
本発明は同様に、有効量の式IIAの化合物および薬学的に許容される担体を有する薬学的組成物を教示する。
【0030】
本発明の別の局面では、乾癬; 白血病; 大腸がん; 乳がん; 前立腺がん; 多発性硬化症; 狼瘡; 糖尿病; 宿主対移植片反応; 臓器移植の拒絶反応; 慢性関節リウマチ、喘息、もしくは炎症性腸疾患から選択される炎症性疾患; しわ、十分な皮膚硬度の不足、十分な皮膚水和作用の不足、もしくは不十分な皮脂分泌から選択される皮膚状態; 腎性骨ジストロフィー; または骨粗しょう症から選択される生物学的状態の処置のための薬物の調製における式IIAの化合物の使用を提供する。
【0031】
本発明のさらなる目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明、図面および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0032】
発明の詳細な説明
全体として、本発明は以下に示される式IAまたはIBを有する化合物を提供する:

式中X1、X2およびX3は同じものまたは異なるものであり、Hまたはヒドロキシ保護基から独立して選択される。いくつかの態様において、X1、X2およびX3はシリル基のようなヒドロキシ保護基である。いくつかのそのような態様において、X1、X2およびX3はt-ブチルジメチルシリル基である。ある種の態様において、R1は1〜8個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、2〜8個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルケニル基、1〜8個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖ヒドロキシ置換アルキル基、または2〜8個の炭素原子を有する直鎖および分枝鎖ヒドロキシ置換アルケニル基から選択される。いくつかのそのような態様において、R1は2〜7個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、2〜7個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルケニル基、2〜6個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖ヒドロキシ置換アルキル基、または2〜6個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖ヒドロキシ置換アルケニル基から選択される。他のそのような態様において、R1は2〜7個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、2〜7個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルケニル基、または2〜6個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖ヒドロキシ置換アルケニル基から選択される。
【0033】
本明細書において用いられる場合、「直鎖および分枝鎖アルキル基」という語句は、炭素-炭素単結合および炭素-水素単結合しか含まない炭素および水素原子を含む基をいう。これらの基はヘテロ原子(HまたはC以外の原子)を含まない。このように「直鎖および分枝鎖アルキル基」という語句は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルおよびオクチル基のような直鎖アルキル基、ならびにほんの一例として示される以下: -CH(CH3)2、-CH(CH3)(CH2CH3)、-CH(CH2CH3)2、-C(CH3)3、-C(CH2CH3)3、-CH2CH(CH3)2、-CH2CH(CH3)(CH2CH3)、-CH2CH(CH2CH3)2、-CH2C(CH3)3、-CH2C(CH2CH3)3、-CH(CH3)CH(CH3)(CH2CH3)、-CH2CH2CH(CH3)2、-CH2CH2CH(CH3)(CH2CH3)、-CH2CH2CH(CH2CH3)2、-CH2CH2C(CH3)3、-CH(CH3)CH2CH(CH3)2、-CH(CH3)CH(CH3)CH(CH3)2、-CH2CH2CH2C(CH3)3、-CH2CH2CH2CH(CH3)2、-CH2CH2CH(CH3)C(CH3)3、-CH2CH2CH(CH3)CH(CH3)2などを含むが、これらに限定されない直鎖アルキル基の分枝鎖異性体を含む。
【0034】
本明細書において用いられる場合、「ヒドロキシ-置換アルキル基」という語句は、炭素または水素原子への結合がヒドロキシル(-OH)基への結合に置き換えられている上記に定義される「直鎖および分枝鎖アルキル基」をいう。
【0035】
本明細書において用いられる場合、「直鎖および分枝鎖アルケニル基」という語句は、少なくとも一つの二重結合が炭素原子の二つの間に存在することを除けば、上記に定義される「直鎖および分枝鎖アルキル基」をいう。例としては-CH=CH2、-CH=C(H)(CH3)、-CH=C(CH3)2、-C(CH3)=C(H)2、-C(CH3)=C(H)(CH3)、-C(CH2CH3)=CH2、-C(H)=C(H)CH2CH(CH3)2、-C(H)=C(H)CH(CH3)CH(CH3)2、-C(H)=C(H)CH2C(CH3)3、-C(H)=C(H)CH(CH3)C(CH3)3などのシスおよびトランス(ZおよびE)異性体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本明細書において用いられる場合、「ヒドロキシ-置換アルケニル基」という語句は、「直鎖および分枝鎖アルケニル基」に関して「ヒドロキシ-置換アルキル基」が「直鎖および分枝鎖アルキル基」に関して有したのと同じ意味を有する。それゆえに、「ヒドロキシ-置換アルケニル基」は、別の炭素原子に二重結合されていない炭素原子または水素原子への結合がヒドロキシル(-OH)基への結合に置き換えられている「直鎖および分枝鎖アルケニル基」である。
【0037】
本明細書において用いられる場合、「ヒドロキシ-保護基」という用語は、以下に限定されるものではないが、アルコキシカルボニル、アシル、アルキルシリルまたはアルキルアリールシリル基(以下、簡単に「シリル」基といわれる)、およびアルコキシアルキル基のような、ヒドロキシ(-OH)官能基の一時的な保護によく使われる任意の基を意味する。アルコキシルカルボニル保護基はメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、tert-ブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニルまたはアリルオキシカルボニルのようなアルキル-O-CO-基である。「アシル」という用語は異性形態の全ての、炭素1〜6個のアルカノイル基、または炭素1〜6個のカルボキシアルカノイル基、例えばオキサリル、マロニル、スクシニル、グルタリル基、または芳香族アシル基、例えばベンゾイル、あるいはハロ、ニトロまたはアルキル置換ベンゾイル基を意味する。アルコキシアルキル保護基はメトキシメチル、エトキシメチル、メトキシエトキシメチル、またはテトラヒドロフラニルおよびテトラヒドロピラニルのような群である。好ましいシリル-保護基はトリメチルシリル、トリエチルシリル、t-ブチルジメチルシリル、ジブチルメチルシリル、ジフェニルメチルシリル、フェニルジメチルシリル、ジフェニル-t-ブチルシリルおよび類似のアルキル化シリル基である。「アリール」という用語はフェニル基、またはアルキル-、ニトロ-もしくはハロ-置換フェニル基を意味する。ヒドロキシ官能基のための保護基の広範囲にわたるリストは、Protective Groups in Organic Synthesis, Greene, T. W.; Wuts, P. G. M., John Wiley & Sons, New York, NY, (3rd Edition, 1999)のなかで見出され、それらの保護基はその文献に記載の手順を用いて付加または除去することができる。
【0038】
「保護ヒドロキシ」基はヒドロキシ官能基の一時的または永続的な保護のためによく使われる上記の基、例えば、先に定義されている、シリル、アルコキシアルキル、アシルまたはアルコキシカルボニル基のいずれかによって誘導体化または保護されたヒドロキシ基である。
【0039】
他の態様において、化合物が以下に示されるとおり、式IIAを有する(20R, 25S)-2-メチレン-19,26-ジノル-1α,25-ジヒドロキシビタミンD3であるか、または式IIBを有する(20S, 25S)-2-メチレン-19,26-ジノル-1α,25-ジヒドロキシビタミンD3であるように、X1、X2およびX3はHであり、R1はCH3である。

【0040】
式IIAの化合物(NEL)は望ましい、かつ非常に有利な、生物学的活性パターンを示す。この化合物は、1α,25-ジヒドロキシビタミンD3のものと比較してビタミンD受容体への結合が相対的に高いが腸カルシウム輸送活性が非常に低いことによって特徴付けられ、1,25-ジヒドロキシビタミンD3と比較して、骨からカルシウムを動員する能力が非常に低い。ゆえに、この化合物は、血中カルシウム上昇作用があるとしてもほとんどないと特徴付けることができる。したがって、それは続発性上皮小体機能亢進症または腎性骨ジストロフィーの抑制のための治療法として有用である。
【0041】
本発明の化合物は同様に、多発性硬化症、狼瘡、糖尿病、宿主対移植片反応、および臓器移植の拒絶反応を含む、例えば自己免疫疾患における免疫系の不均衡によって特徴付けられるヒト障害の処置および予防に; かつさらに炎症性疾患、例えば慢性関節リウマチ、喘息、ならびに炎症性腸疾患、例えばセリアック病、潰瘍性大腸炎およびクローン病の処置にとりわけ適している。座瘡、脱毛症および高血圧症は、本発明の化合物により処置できる他の状態である。
【0042】
上記の化合物は同様に、比較的高い細胞分化活性によって特徴付けられる。すなわち、この化合物は同様に、乾癬の処置のための治療剤、またはとりわけ白血病、大腸がん、乳がんおよび前立腺がんに対する、抗がん剤を提供する。さらに、その比較的高い細胞分化活性によって、この化合物はしわ、十分な皮膚水和作用の不足、すなわち乾燥皮膚、十分な皮膚硬度の不足、すなわち弛緩皮膚、および不十分な皮脂分泌を含むさまざまな皮膚状態の処置のための治療剤および/または美容剤を提供する。この化合物の使用はしたがって、皮膚の保湿をもたらすだけでなく、皮膚の関門機能も改善する。
【0043】
本発明の化合物は、薬学的に許容される担体との組み合わせで本発明の化合物を含む薬学的配合物または薬物を調製するために使用される。このような薬学的配合物および薬物は、本明細書において記述されているものなどのさまざまな生物学的障害を処置するために使用される。そのような障害を処置する方法は、典型的には、有効な量の化合物または適切な量の、化合物を含む薬学的配合物もしくは薬物を生物学的障害に苦しむ被験体に投与する段階を含む。いくつかの態様において、被験体は哺乳類である。いくつかのそのような態様において、哺乳類はげっ歯類、霊長類、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、クマ、ブタ、ウサギまたはモルモットから選択される。いくつかのそのような態様において、哺乳類はラットであるかまたはマウスである。いくつかの態様において、被験体は霊長類、例えば、いくつかの態様において、ヒトである。
【0044】
当該化合物は上記の疾患および障害を処置するための組成物の中に、約0.01 μg/組成物1gm〜約1 mg/組成物1gm、好ましくは約0.1 μg/組成物1gm〜約500 μg/組成物1gmの量で存在し、約0.01 μg/日〜約1 mg/日、好ましくは約0.1 μg/日〜約500 μg/日の投与量で局所的に、経皮的に、経口的にまたは非経口的に投与される。
【0045】
一つの態様において、化合物IAまたはIBは、以下に示される化合物IIAまたはIIBである。

【0046】
好ましい態様において、(20R, 25S)-2-メチレン-19,26-ジノル-1α,25-ジヒドロキシビタミンD3 (NEL)を合成し、試験したところ、本明細書に記述するさまざまな生物学的状態の処置に有用である。
【0047】
(20R, 25S)-2-メチレン-19,26-ジノル-1α,25-ジヒドロキシビタミンD3の調製は、適切な二環式ウィンダウス-グランドマン(Windaus-Grundmann)型ケトン(III)をアリル型ホスフィンオキシドIVと縮合し、引き続いて脱保護(Y1およびY2基の除去)により達成することができる。本発明の他の化合物は同様に合成される。

【0048】
ケトンIIIにおいて、Y4はシリル保護基のような、ヒドロキシ-保護基であることが好ましい。t-ブチルジメチルシリル(TBDMS)基は、特に有用なヒドロキシ-保護基の一例である。ホスフィンオキシドIVにおいて、Y1およびY2はシリル保護基のような、ヒドロキシ-保護基であることが好ましい。t-ブチルジメチルシリル(TBDMS)基は、特に有用なヒドロキシ-保護基の一例である。上記の工程は収束的な合成概念の適用を表わし、これを多数のビタミンD化合物の調製に効果的に適用した(Lythgoe et al., J. Chem. Soc. Perkin Trans. I, 590 (1978); Lythgoe, Chem. Soc. Rev. 9, 449 (1983); Toh et al., J. Org. Chem. 48, 1414 (1983); Baggiolini et al., J. Org. Chem. 51, 3098 (1986); Sardina et al., J. Org. Chem. 51, 1264 (1986); J. Org. Chem. 51, 1269 (1986); DeLuca et al., 米国特許第5,086,191号; DeLuca et al., 米国特許第5,536,713号; およびDeLuca et al., 米国特許第5,843,928号を参照のこと)。
【0049】
ホスフィンオキシドIVは多くの19-ノルビタミンD化合物を調製するために使用できる便利な試薬であり、Sicinski et al., J. Med. Chem., 41, 4662 (1998), DeLuca et al., 米国特許第5,843,928号; Perlman et al., Tetrahedron Lett. 32, 7663 (1991); およびDeLuca et al., 米国特許第5,086,191号により記述されている手順にしたがって調製される。スキームIは米国特許第5,843,928号に概略のホスフィンオキシドIVを合成するための一般手順を示す。当業者には明らかなように、多数のビタミンD類似体を生成するためにスキームIに示される方法の変形が使用される。例えば、ケトンBをアルケンCに変換するために使用されるMePh3P+ Br-の代わりに多種多様なホスホニウム化合物が使用される。このような化合物の例としては、EtPh3P+ Br-、PrPh3P+ Br-、ならびにハロゲン化アルキル、ハロゲン化アルケニル、保護ハロゲン化ヒドロキシアルキルおよび保護ハロゲン化ヒドロキシアルケニルとのトリフェニルホスフィンの反応によって一般的に調製される化合物が挙げられる。この手順を用いて調製されたアルケンをその後、スキームIにおいてホスフィンオキシドHを調製するために使用されたのと類似の方法で完成させてホスフィンオキシドを調製することができる。あるいは、他のビタミンD類似体を得るためにスキームIの化合物Cに類似のアルケンを(Ph3P)3RhClおよびH2で還元する。米国特許第5,945,410号およびSicinski, R. R. et al., J. Med. Chem., 41, 4662-4674 (1998)を参照されたい。したがって、スキームIに示されるホスフィンオキシドを形成するための手順は、本発明の化合物に加えて多種多様なビタミンD類似体を調製するために使用される。
【0050】
スキームI

【0051】
当業者には容易に明らかなように、および本明細書において記述されているように、公知の方法または適合の方法により構造IIIのヒドラインダノンを調製することができる。ビタミンD類似体を合成するために使用されるいくつかの重要な二環式ケトンの具体例は、Mincione et al., Synth. Commun 19, 723, (1989); およびPeterson et al., J. Org. Chem. 51, 1948, (1986)に記述されているものである。
【0052】
一つの好ましい態様において、Y4 = TBSO (12)基を有するケトンIIIは、以下に示されるように、スキームIIおよびIIIによって合成される。
【0053】
スキームII

【0054】
2-アルキリデン-19-ノル-ビタミンD化合物を合成するための全行程は米国特許第5,843,928号、米国特許第6,627,622号、米国特許第6,579,861号、米国特許第5,086,191号、米国特許第5,585,369号および米国特許第6,537,981号に例示され記述されている。
【0055】
一つの好ましい態様において、式IIAの化合物(NEL)は、以下のスキームIIIにより調製された。
【0056】
スキームIII

【0057】
式I、式IAおよび式IBならびに式II、式IIAおよび式IIBの化合物は、スキームI、IIおよびIIIに示される方法を用いて調製することができる。式IIAの化合物の場合、出発材料の化合物4は以下スキームIVに示されるように、公知の手順を用いて調製された。同様に、Andrzej R. Daniewski and Wen Liu (J. Org. Chem. 66, 626-628 (2001))を参照されたい。
【0058】
スキームIV

【0059】
以下の例は本発明において示される化合物の合成および生物学的活性を例示する。これらの実施例は例示の目的のためだけであり、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではない。
【0060】
実施例I: NEL合成
(3S)-1-p-トルエンスルホニルオキシ-3-トリエチルシリルオキシ-ブタン(2)の調製
(S)-(+)-1,3-ブタンジオール1 (1 g, 11.1 mmol)、DMAP (30 mg, 0.25 mmol)およびEt3N (4.6 mL, 3.33 g, 33 mmol)の無水塩化メチレン(20 mL)撹拌溶液に、p-トルエンスルホニルクロリド(2.54 g, 13.3 mmol)を0℃で添加した。反応混合物を4℃で22時間撹拌した。塩化メチレンを添加し、混合物を水で洗浄し、乾燥し(Na2SO4)、減圧下で濃縮した。残留物をヘキサン/酢酸エチル(8:2、その後1:1)によりシリカゲルにてクロマトグラフィー法で分離して、トシル化物(2.31 g, 収率85%)を無色の油状物として得た。
【0061】
トシル化物(2.31 g, 9.5 mmol)および2,6-ルチジン(1.2 mL, 1.12 g, 10.5 mmol)の無水塩化メチレン(15 mL)撹拌溶液に、トリフルオロメタンスルホン酸トリエチルシリル(2.1 mL, 2.51 g, 9.5 mmol)を-50℃で添加した。反応混合物を室温に加温させ(4時間)、撹拌をさらに20時間継続した。塩化メチレンを添加し、混合物を水で洗浄し、乾燥し(Na2SO4)、減圧下で濃縮した。残留物をヘキサン/酢酸エチル(97:3)によりシリカゲルにてクロマトグラフィー法で分離して、生成物2 (2.71 g, 収率80%)を無色の油状物として得た。

【0062】
(3S)-1-ヨード-3-トリエチルシリルオキシ-ブタン(3)の調製
トシル化物2 (2.71 g, 7.6 mmol)の無水アセトン(50 mL)撹拌溶液に、ヨウ化カリウム(8 g, 48 mmol)を添加し、反応混合物を10時間還流した。水(30 mL)を添加し、溶液を酢酸エチルで抽出した。合わせた有機相を乾燥し(Na2SO4)、減圧下で濃縮した。残留物をヘキサン/酢酸エチル(97:3)によりシリカゲルにてクロマトグラフィー法で分離して、アルコール3 (2.26 g, 収率95%)を無色の油状物として得た。

【0063】
(3S)-ヒドロキシブチル-トリフェニルホスホニウムヨージド(4)の調製
ヨージド3 (1.67 g, 5.3 mmol)のアセトニトリル(50 mL)撹拌溶液に、トリフェニルホスフィン(4.2 g, 16 mmol)を添加し、反応混合物を2日間還流した。アセトニトリルを減圧下で蒸発させ、酢酸エチル(50 mL)を添加し、混合物を室温で4時間撹拌した。ろ過による溶媒の除去後、固形物を酢酸エチルで洗浄し、ろ去し、乾燥した。純粋なホスホニウム塩4 (1.77 g, 収率87%)を白色の結晶として得た。

【0064】
(8S,20S)-de-A,B-20-(ヒドロキシメチル)プレグナン-8-オール(5)の調製
オゾンを-78℃で50分間ビタミンD2 (3 g, 7.6 mmol)のメタノール(250 mL)およびピリジン(2.44 g, 2.5 mL, 31 mmol)溶液に通した。その後、反応混合物を15分間酸素で洗って残留オゾンを除去し、溶液をNaBH4 (0.75 g, 20 mmol)で処理した。20分後、第2部のNaBH4 (0.75 g, 20 mmol)を添加し、混合物を室温に加温させた。次いで、第3部のNaBH4 (0.75 g, 20 mmol)を添加し、反応混合物を18時間撹拌した。反応物を水(40 mL)で反応停止し、溶液を減圧下で濃縮した。残留物を酢酸エチルで抽出し、合わせた有機相を1 M HCl水溶液、NaHCO3飽和水溶液で洗浄し、乾燥し(Na2SO4)、減圧下で濃縮した。残留物をヘキサン/酢酸エチル(75:25)によりシリカゲルにてクロマトグラフィー法で分離して、ジオール5 (1.21 g, 収率75%)を白色の結晶として得た。

【0065】
(8S,20S)-de-A,B-8-ベンゾイルオキシ-20-(ヒドロキシメチル)プレグナン(6)の調製
塩化ベンゾイル(2.4 g, 2 mL, 17 mmol)を0℃でジオール5 (1.2 g, 5.7 mmol)およびDMAP (30 mg, 0.2 mmol)の無水ピリジン(20 mL)溶液に添加した。反応混合物を4℃で24時間撹拌し、塩化メチレン(100 mL)で希釈し、5% HCl水溶液、水、NaHCO3飽和水溶液で洗浄し、乾燥し(Na2SO4)、減圧下で濃縮した。残留物(3.39 g)を室温でKOH (1 g, 15.5 mmol)の無水エタノール(30 mL)溶液で処理した。3時間の反応混合物の撹拌後、氷および5% HCl水溶液をpH=6まで添加した。溶液を酢酸エチル(3×50 mL)で抽出し、合わせた有機相をNaHCO3飽和水溶液で洗浄し、乾燥し(Na2SO4)、減圧下で濃縮した。残留物をヘキサン/酢酸エチル(75:25)によりシリカゲルにてクロマトグラフィー法で分離して、アルコール6 (1.67 g, 収率93%)を無色の油状物として得た。

【0066】
(8S,20S)-de-A,B-8-ベンゾイルオキシ-20-ホルミルプレグナン(7)の調製
三酸化硫黄ピリジン錯体(1.94 g, 12.2 mmol)を0℃でアルコール6 (640 mg, 2.03 mmol)、トリエチルアミン(1.41 mL, 1.02 g, 10.1 mmol)の無水塩化メチレン(10 mL)および無水DMSO (2 mL)溶液に添加した。反応混合物を0℃で1時間アルゴン下にて撹拌し、その後に濃縮した。残留物を酢酸エチルで希釈し、塩水で洗浄し、乾燥し(Na2SO4)、濃縮した。残留物をヘキサン/酢酸エチル(95:5)によりシリカゲルにてカラムクロマトグラフィーで精製して、アルデヒド7 (529 mg, 収率83%)を油状物として得た。

【0067】
(8S,20R)-de-A,B-8-ベンゾイルオキシ-20-[(4S)-ヒドロキシ-ペンタ-(1E)-エニル]プレグナン(8)の調製
ホスホニウム塩4 (310 mg, 0.67 mmol)の無水THF (5 mL)撹拌懸濁液に、ブチルリチウム(1.6 M, 840 μL, 1.34 mmol)を-20℃で添加した。溶液は深橙色に変化した。1時間後、アルデヒド7 (70 mg, 0.22 mmol)の無水THF (2 mL)予冷(-20℃)溶液を添加し、反応混合物を-20℃で3時間および室温で18時間撹拌した。反応物を水で反応停止し、混合物を酢酸エチルで抽出した。合わせた有機相を塩水で洗浄し、乾燥し(Na2SO4)、蒸発させた。残留物をヘキサン/酢酸エチル(95:5)によりシリカゲルにてクロマトグラフィー法で分離して、生成物8 (42 mg, 収率52%)を得た。

【0068】
(8S,20R)-de-A,B-8-ベンゾイルオキシ-20-[(4S)-ヒドロキシ-ペンチル]プレグナン(9)の調製
化合物8 (42 mg, 0.11 mmol)のメタノール(6 mL)溶液を粉末木炭上の10%パラジウム(7 mg)の存在下において17時間水素化した。反応混合物をセライトのベッドを通してろ過し、数回のメタノール洗浄を行い、ろ液を濃縮し、残留物をヘキサン/酢酸エチル(95:5)によりシリカゲルにてクロマトグラフィー法で分離して、生成物9 (32 mg, 収率78%)を得た。

【0069】
(8S,20R)-de-A,B-8-ベンゾイルオキシ-20-[(4S)-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-ペンチル]プレグナン(10)の調製
トリフルオロメタンスルホン酸tert-ブチルジメチルシリル(37 μL, 42 mg, 0.16 mmol)を-20℃でアルコール9 (32 mg, 0.09 mmol)および2,6-ルチジン(37 μL, 34 mg, 0.32 mmol)の無水塩化メチレン(3 mL)溶液に添加した。混合物を0℃で1時間アルゴン下にて撹拌した。反応物を水で反応停止し、塩化メチレンで抽出した。合わせた有機相を塩水で洗浄し、乾燥し(Na2SO4)、減圧下で濃縮した。残留物をヘキサンおよびヘキサン/酢酸エチル(97:3)によりシリカゲルにてクロマトグラフィー法で分離して、生成物10 (42 mg, 収率96%)を得た。

【0070】
(8S,20R)-de-A,B-20-[(4S)-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-ペンチル]プレグナン-8-オール(11)の調製
水酸化ナトリウムのエタノール(2.5 M, 2 mL)溶液を安息香酸エステル10 (42 mg, 86 μmol)の無水エタノール(10 mL)撹拌溶液に添加し、反応混合物を18時間還流した。混合物を室温に冷却し、5% HCl水溶液で中和し、ジクロロメタンで抽出した。合わせた有機相をNaHCO3飽和水溶液で洗浄し、乾燥し(Na2SO4)、蒸発させた。残留物をヘキサン/酢酸エチル(95:5)によりシリカゲルにてクロマトグラフィー法で分離して、アルコール11 (24 mg, 収率73%)を得た。

【0071】
(20R)-de-A,B-20-[(4S)-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-ペンチル]プレグナン-8-オン(12)の調製
重クロム酸ピリジニウム(118 mg, 315 μmol)をアルコール11 (24 mg, 63 μmol)およびp-トルエンスルホン酸ピリジニウム(3 mg, 12 μmol)の無水塩化メチレン(5 mL)溶液に添加した。得られた懸濁液を室温で3時間撹拌した。反応混合物をWatersシリカSep-Pakカートリッジ(5 g)を通してろ過し、これをヘキサン/酢酸エチル(8:2)でさらに洗浄した。溶媒の除去後、ケトン12 (18 mg, 収率75%)を無色の油状物として得た。

【0072】
(20R,25S)-2-メチレン-19,26-ジノル-1α-ジヒドロキシビタミンD3 (15)の調製
-20℃でホスフィンオキシド13 (73 mg, 125 μmol)の無水THF (400 μL)溶液に、撹拌しながらアルゴン下にてPhLi (ジ-n-ブチルエーテル中1.8 M, 85 μL, 153 μmol)をゆっくり添加した。溶液は深橙色に変化した。30分後、混合物を-78℃に冷却し、ケトン12 (18 mg, 47 μmol)の無水THF (200 + 100 μL)予冷(-78℃)溶液をゆっくり添加した。混合物を-78℃で3時間および0℃で18時間アルゴン下にて撹拌した。酢酸エチルを添加し、有機相を塩水で洗浄し、乾燥し(Na2SO4)、蒸発させた。残留物をヘキサンに溶解し、WatersシリカSep-Pakカートリッジ(2 g)に加えた。カートリッジをヘキサンおよびヘキサン/酢酸エチル(99.5:0.5)で洗浄して、19-ノルビタミン誘導体14 (25 mg, 収率71%)を得た。その後、Sep-Pakを酢酸エチルで洗浄して、ジフェニルホスフィンオキシド13 (43 mg)を回収した。分析の目的で、保護ビタミン14のサンプルをHPLC (9.4×250 mm Zorbax Silカラム, 4 mL/分, ヘキサン/2-プロパノール(99.9:0.1)溶媒系, Rt= 3.77分)によってさらに精製した。
UV (ヘキサン中) λmax 263.1, 253.2, 244.3 nm;

【0073】
保護ビタミン14 (25 mg, 34 μmol)をTHF (2 mL)およびアセトニトリル(2 mL)に溶解した。48% 水性HFのアセトニトリル(比率1:9, 2 mL)溶液を0℃で添加し、得られた混合物を室温で8時間撹拌した。NaHCO3飽和水溶液を添加し、反応混合物を酢酸エチルで抽出した。合わせた有機相を塩水で洗浄し、乾燥し(Na2SO4)、減圧下で濃縮した。残留物をヘキサン/酢酸エチル(8:2) 2 mLで希釈し、WatersシリカSep-Pakカートリッジ(2 g)に加えた。ヘキサン/酢酸エチル(8:2)でのおよびその後に酢酸エチルでの溶出により、粗生成物15 (15 mg)を得た。ビタミン15をストレート相(straight phase)HPLC [9.4×250 mm Zorbax Silカラム, 4 mL/分, ヘキサン/2-プロパノール(85:15)溶媒系, Rt= 9.31分]によりおよび逆相HPLC [9.4×250 mm Zorbax Eclipse XDB-C18カラム, 3 mL/分, メタノール/水 (85:15)溶媒系, Rt= 10.16分]によりさらに精製して、無色の油状物(12.6 mg, 収率92%)を得た。
UV (EtOH中) λmax 262.1, 252.6, 244.1 nm;

【0074】
実施例II: 生物学的活性
(A) ビタミンD受容体結合
試験材料
タンパク質供給源
完全長の組換えラット受容体を大腸菌(E. coli) BL21(DE3) Codon Plus RIL細胞において発現させ、2種の異なるカラムクロマトグラフィー系により均一にまで精製した。最初の系は、このタンパク質上のC末端ヒスチジンタグを利用するニッケル親和性樹脂であった。この樹脂から溶出されたタンパク質をイオン交換クロマトグラフィー(S-Sepharose Fast Flow)によってさらに精製した。精製タンパク質の一定分量を液体窒素中で急速凍結し、使用まで-80℃で貯蔵した。結合アッセイで用いる場合、タンパク質を0.1% Chaps界面活性剤入りのTEDK50 (50 mM Tris, 1.5 mM EDTA, pH7.4, 5 mM DTT, 150 mM KCl)中で希釈した。添加された放射標識リガンドの20%以下しか受容体に結合しないように、受容体タンパク質およびリガンドの濃度を最適化した。
【0075】
試験薬
非標識リガンドをエタノールに溶解し、濃度をUV分光光度法により測定した(1,25(OH)2D3: モル吸光係数 = 18,200およびλmax = 265 nm; 類似体: モル吸光係数 = 42,000およびλmax = 252 nm)。放射標識リガンド(3H-1,25(OH)2D3、約159 Ci/mmole)をエタノールに1 nMの最終濃度で添加した。
【0076】
アッセイ条件
放射標識および非標識リガンドを100 mclの希釈タンパク質に10%未満のエタノール終濃度で添加し、混合し、氷上で終夜インキュベートして結合平衡に到達させた。翌日、100 mclのヒドロキシルアパタイトスラリー(50%)を各試験管に添加し、10分の間隔で30分間混合した。ヒドロキシルアパタイトを遠心分離によって収集し、その後0.5% Titron X-100を含有するTris-EDTA緩衝液(50 mM Tris, 1.5 mM EDTA, pH 7.4)で3回洗浄した。最後の洗浄後、ペレットをBiosafe IIシンチレーションカクテル4 mlを含有するシンチレーションバイアルに移し、混合し、シンチレーション計測器に入れた。放射標識リガンドのみを含有する試験管から全結合を測定した。
【0077】
(B) HL-60分化
試験材料
試験薬
試験薬をエタノールに溶解し、濃度をUV分光光度法により測定した。細胞培養物の中に存在するエタノールの終濃度(≦0.2%)を変化させずに一連の薬物濃度を試験できるように、連続希釈物を調製した。
【0078】
細胞
ヒト前骨髄球性白血病(HL60)細胞を10%ウシ胎児血清を含有するRPMI-1640培地中で増殖させた。細胞を5% CO2の存在下にて37℃でインキュベートした。
【0079】
アッセイ条件
HL60細胞を細胞1.2×105個/mlでプレーティングした。プレーティングから18時間後、二つ組の細胞を薬物で処理した。4日後、細胞を収集し、ニトロブルーテトラゾリウム還元アッセイを行った(Collins et al., 1979; J. Exp. Med. 149:969-974)。計200個の細胞を計測し、細胞内に黒〜青色のホルマザン沈着を含む細胞数を記録することにより、分化細胞の割合を測定した。食作用活性を測定することにより、単球細胞への分化の検証を確定した(データは示されていない)。
【0080】
(C) インビトロ転写アッセイ
転写活性を、ルシフェラーゼレポーター遺伝子上流に24-ヒドロキシラーゼ(24Ohase)遺伝子プロモーターを安定的にトランスフェクトしたROS 17/2.8(骨)細胞において測定した(Arbour et al., 1998)。細胞に一連の用量で薬物を与えた。投薬から16時間後に、細胞を収集し、ルシフェラーゼ活性をルミノメータにより測定した。(RLU = 相対ルシフェラーゼ単位)
【0081】
(D) 腸のカルシウム輸送および骨のカルシウム動員
雄性の、離乳期Sprague-Dawley系ラットを、Diet 11 (0.47% Ca)飼料+AEKで1週間、次いでDiet 11 (0.02% Ca)+AEKで3週間飼育した。次に、ラットを1週間0.47% Ca含有飼料に切り換えた後、2週間0.02% Ca含有飼料に切り換えた。0.02%カルシウム飼料での最終週の間に用量投与を開始した。4回の連続的な腹腔内投与は約24時間の間隔で行った。最終投与から24時間の後、切断された首から採血し、骨のカルシウム動員の尺度として血清カルシウムの濃度を測定した。反転腸管法(everted gut sac method)を用いた腸のカルシウム輸送分析のために腸の最初の10 cmも回収した。
【0082】
(E) PTH抑制および高カルシウム血症

成体の、雌性Sprague-Dawley系ラットをHarlan (Madison, WI)から入手する。
【0083】
動物の管理
受け取り後、動物は個々の尾標識により識別する。その後、動物は懸垂式、ステンレス製の、金網底ケージに収容することができる。各ケージには動物一匹を入れることができる。動物室は温度68〜72°Fおよび相対湿度25〜75%で維持する。保持室は1日当たり12時間の明かりを与えるように設定する。水、ならびに0.47%および0.3%のリンならびに脂溶性ビタミンA、D、EおよびKを含有するげっ歯類精製飼料(Suda et al., Purified Rodent Diet-Diet 11)を随意に与える。
【0084】
処置群
動物を処置群に無作為に割り当てる(動物5匹/群)。用量は全てプロピレングリコール100マイクロリットル中で腹腔内に投与する。4〜7回の連続的な投与を約24時間の間隔で行う。動物を少なくとも一週間順化させた後に、投薬を開始する。
【0085】
用量調製
対照材料
A. 陰性対照材料
陰性対照材料はエタノール(< 5%)およびプロピレングリコールを容量測定的に計量し、混合し、その後2〜8℃で貯蔵室に保存することにより調製する。
【0086】
B. 陽性対照材料
1,25(OH)2D3はUV分光光度法によりエタノール原液の濃度を測定することにより調製する(吸光係数 = 18,200; λmax = 265 nm)。最終溶液中のエタノールが5%未満であるように、1,25(OH)2D3の必要量をプロピレングリコール中に容量測定的に計量する。この溶液を混合し、その後2〜8℃で保存する。
【0087】
試験材料
類似体はUV分光光度法によりエタノール原液の濃度を最初に測定することにより調製する(吸光係数 = 42,000; λmax = 252 nm)。その後、最終溶液中のエタノールが5%未満であるように、類似体の溶液をプロピレングリコールに容量測定的に添加する。この溶液を混合し、2〜8℃で保存する。
【0088】
用量投与法
対照物質および試験物質は両方、約24時間の間隔を空けて4〜7日間連続で、100マイクロリットル中にて腹腔内注射により投与する。1,25(OH)2D3は4日間連続で与え、その一方、試験薬は7日間連続で与える。
【0089】
血清PTH濃度
最終投与から24時間後、尾動脈から採血し、生物活性の血清PTHの濃度をImmutopics, Inc. (San Clemente, CA)のラットBioActive Intact PTH ELISA Kitにより測定する。
【0090】
血清カルシウム分析
最終投与から24時間後、血液約1 mlを各実験動物の尾動脈から採取する。血液を室温で凝固させ、その後15分間3000×gで遠心分離する。血清をポリプロピレン試験管に移し、-20℃で凍結保存する。血清を0.1%塩化ランタン(lanthum chloride)に希釈し、原子吸光分光光度計(Perkin Elmer Model 3110, Shelton, CT)にて吸光度を測定することによりカルシウムの濃度を測定する。
【0091】
(20R, 25S)-2-メチレン-19,26-ジノル-1α,25-ジヒドロキシビタミンD3 (NEL)は組換えビタミンD受容体に結合するが、しかしこの点では1α,25-ジヒドロキシビタミンD3よりも若干活性がある(図1参照)。さらに、それはRos17/2.8 (骨)細胞において安定的にトランスフェクトされたレポーター遺伝子の転写を刺激するうえで等しく活性であることから、1α,25-ジヒドロキシビタミンD3としてのいっそう高い生物学的活性が示唆される(図5参照)。それはHL-60細胞の分化を誘導するうえで1α,25-ジヒドロキシビタミンD3としても等しく活性である(図4参照)。等モル量で腸のカルシウム輸送もしくは骨のカルシウム動員のいずれかにより測定された場合、または1α,25-ジヒドロキシビタミンD3の用量の27倍で投与された場合でさえも、それは血中カルシウム上昇作用が限定的である(図2および3参照)。したがって、NELは正常ラットにおいて副甲状腺ホルモン濃度を抑制するうえで顕著な活性を保有すると期待される。
【0092】
同様に、式IA、IBに示される本発明の他の類似の化合物は、ビタミンD受容体に結合する、Ros17/2.8 (骨)細胞において安定的にトランスフェクトされたレポーター遺伝子の転写を刺激する、HL-60細胞の分化を誘導する、腸のカルシウム輸送または骨のカルシウム動員のいずれかにより測定された場合に1α,25-ジヒドロキシビタミンD3よりも血中カルシウム上昇作用が限定的である、および正常ラットにおいて副甲状腺ホルモン濃度を抑制するうえで顕著な活性を保有することが期待される。
【0093】
したがって、この化合物NELおよび本発明において記述されている他の化合物は、自己免疫疾患、例えば多発性硬化症、I型糖尿病、慢性関節リウマチ、狼瘡および他の類似の変性疾患の処置においてその用途が見つかる。これらの組成物は同様に、結腸直腸がん、乳がんおよび前立腺がんなどの悪性増殖の処置において顕著な活性を有する。上記の用途に向けた本明細書に記述した組成物の適合性は、血清カルシウム濃度の増大がないことから明らかである(図3参照)。これらの化合物は同様に、血液透析または腹膜透析の患者などの、腎機能を失った患者に見られる続発性上皮小体機能亢進症の処置において有望である。
【0094】
一つの態様において、式IAまたはIBの化合物は薬学的組成物に使用される。例えば、薬学的組成物の各mlは該化合物5 μg、30% (v/v)プロピレングリコールおよび20% (v/v)アルコールを含むことができる。
【0095】
本発明の化合物は動物被験体における、肥満の予防もしくは処置、脂肪細胞分化の阻害、SCD-1遺伝子転写の阻害、および/または体脂肪の低減においても有用である。それゆえに、いくつかの態様において、動物被験体における肥満の予防もしくは処置の方法、脂肪細胞分化の阻害の方法、SCD-1遺伝子転写の阻害の方法、およびまたは体脂肪の低減の方法は、動物被験体に、有効量の該化合物または該化合物を含む薬学的組成物を投与する段階を含む。被験体への該化合物または該薬学的組成物の投与は、動物被験体において、脂肪細胞分化を阻害し、遺伝子転写を阻害し、および/または体脂肪を低減する。さらに、本明細書において記述されている化合物は、過体重の美容的処置に有用であることが理解されるべきである。そういった場合には、該組成物は美容的目標を実現するのに有効な量で、望ましい任意の方法において投与される。
【0096】
処置の目的で、式I、すなわち、式IAおよび式IB、ならびに式II、すなわち、式IIAおよびIIBにより定義される化合物を、当技術分野において公知の従来法にしたがい、無毒溶媒中の溶液として、または適当な溶媒もしくは担体中の乳濁液、懸濁液もしくは分散液として、または固形担体とともに、丸剤、錠剤もしくはカプセル剤として、薬学的用途のために配合する。このような任意の配合物は安定剤、抗酸化剤、結合剤、着色剤または乳化もしくは味覚修飾剤などの、他の薬学的に許容されかつ無毒な賦形剤も含有してもよい。薬学的に許容される賦形剤および担体は当業者には一般的に知られており、したがって本発明の中に含まれる。このような賦形剤および担体は、例えば、「Remingtons Pharmaceutical Sciences」Mack Pub. Co., New Jersey (1991)に記述されている。
【0097】
該化合物は経口的に、局所的に、非経口的にまたは経皮的に投与される。該化合物は、注射によりまたは静脈内注入もしくは適当な無菌溶液により、または消化管を経る液体もしくは固体用量の形態で、またはクリーム、軟膏、パッチ、もしくは経皮投与に適した同様の媒体の形態で有利に投与される。いくつかの態様において、1日当たり化合物0.001 μg〜約1 mgの用量が処置の目的に適している。いくつかのそのような態様において、適切なかつ有効な用量は1日当たり化合物0.01 μg〜1 mgの範囲であり得る。他のそのような態様において、適切なかつ有効な用量は1日当たり化合物0.1 μg〜500 μgの範囲であり得る。このような用量は当技術分野において十分に理解されているように、処置される疾患または状態の種類、疾患または状態の重症度、および被験体の反応にしたがって調整されるであろう。該化合物は単独で、または別の活性なビタミンD化合物と一緒に適切に投与される。
【0098】
一つの態様において、式IIAの化合物は薬学的組成物に使用される。例えば、薬学的組成物の各mlは5 μgの該化合物、30% (v/v)のプロピレングリコールおよび20% (v/v)のアルコールを含むことができる。
【0099】
本発明で用いられる組成物は、活性成分として有効量の(20R, 25S)-2-メチレン-19,26-ジノル-1α,25-ジヒドロキシビタミンD3または(20S, 25S)-2-メチレン-19,26-ジノル-1α,25-ジヒドロキシビタミンD3、および適当な担体を含む。本発明のいくつかの態様にしたがって用いられる化合物の有効量は、一般的に本明細書において記述されているものなどの投与量であり、局所的に、経皮的に、経口的に、経鼻的に、直腸的に、または非経口的に投与される。一つの態様において、投与量は腹腔内に投与される。
【0100】
式IA、IB、IIAまたはIIBの化合物は正常なマクロファージへの前骨髄球の分化を達成するのに十分な量で有利に投与される。上記の投与量は適当であるが、当技術分野において十分に理解されているように、投与される量は疾患の重症度、ならびに被験体の状態および反応にしたがって調整されるべきであると理解されよう。
【0101】
該化合物はクリーム、ローション、軟膏、エアロゾル、坐剤、局所パッチ、丸剤、カプセル剤もしくは錠剤として、または薬学的に無毒なかつ許容される溶媒もしくは油中の溶液、乳濁液、分散液もしくは懸濁液として液体形態で配合され、このような調製物は、さらに、安定剤、抗酸化剤、乳化剤、着色剤、結合剤または味覚修飾剤などの、他の薬学的に無毒なまたは有益な成分を含有してもよい。
【0102】
したがって本発明の配合物は、薬学的に許容される担体と結合した活性成分、および任意で他の治療成分を含む。担体は、配合物の他の成分と適合性であり、かつその受容者にとって有害ではないという意味において「許容され」なければならない。
【0103】
経口投与に適した本発明の配合物は、各々が所定量の活性成分を含有するカプセル剤、サシェ剤、錠剤もしくはトローチ剤として個別単位の形態であるか; 粉末もしくは顆粒の形態であるか; 水性液もしくは非水性液の状態の溶液もしくは懸濁液の形態であるか; または水中油型乳濁液もしくは油中水型乳濁液の形態である。
【0104】
直腸投与用の配合物は、活性成分およびカカオ脂のような担体を組み入れた坐剤の形態であるか、または浣腸剤の形態である。
【0105】
非経口投与に適した配合物は、好ましくは受容者の血液と等張性である、活性成分の無菌の油性または水性調製物を含むことが好都合である。
【0106】
局所投与に適した配合物は、液体または半液体調製物、例えばリニメント剤、ローション、塗布薬(applicant)、水中油型もしくは油中水型乳濁液、例えばクリーム、軟膏もしくは糊状剤; または溶液もしくは懸濁液、例えば点滴薬; またはスプレーを含む。
【0107】
経鼻投与の場合、粉末の吸入、スプレー缶か、噴霧器か、もしくは霧吹きで投薬される自己推進式(self-propelling)またはスプレーの配合物を使用することができる。配合物は、分配時に、10〜100ミクロンの範囲の粒径を有することが好ましい。
【0108】
配合物は好都合には投与量単位剤形で与えることができ、製薬学の分野において周知の任意の方法によって調製される。用語「投与量単位」とは、活性成分をそのまま含むか、または活性成分を固体もしくは液体の薬学的希釈剤もしくは担体との混合物として含む物理的におよび化学的に安定な単位用量として患者に投与されうる単位の、すなわち、単一の用量を意味する。
【0109】
本発明は、例示のために本明細書に記載されている態様に限定されるのではなく、添付の特許請求の範囲内に入る全ての形態を包含するものと理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0110】
図1〜5は(20R, 25S)-2-メチレン-19,26-ジノル-1α,25-ジヒドロキシビタミンD3 (図中「NEL」といわれる)のさまざまな生物学的活性を天然ホルモン1α, 25-ジヒドロキシビタミンD3 (図中「1, 25(OH)2D3」といわれる)のものと比較して例示する。
【0111】
【図1】[3H]-1,25-(OH)2-D3とともに完全長の組換えラットビタミンD受容体への結合をめぐって競合するNELおよび1,25(OH)2D3の相対活性を比較しているグラフである。
【図2】NELの骨カルシウム動員活性を1,25(OH)2D3のものと比較している棒グラフである。
【図3】NELの腸カルシウム輸送活性を1,25(OH)2D3のものと比較している棒グラフである。
【図4】NELの濃度に応じたHL-60細胞の分化度を1,25(OH)2D3のものと比較しているグラフである。
【図5】NELのインビトロ転写活性を1,25(OH)2D3のものと比較しているグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式IAまたはIBを有する化合物:

式中X1、X2およびX3がHおよびヒドロキシ保護基から独立して選択され; ならびにR1が1〜8個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルキル基、2〜8個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルケニル基、1〜8個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖ヒドロキシ置換アルキル基、2〜8個の炭素原子を有する直鎖および分枝鎖ヒドロキシ置換アルケニル基から選択される。
【請求項2】
X1、X2およびX3がヒドロキシ保護基である、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
X1、X2およびX3がt-ブチルジメチルシリル基である、請求項2記載の化合物。
【請求項4】
X1、X2およびX3がHであり、R1がCH3であり、式IIAまたはIIB:

を有する、請求項1記載の化合物。
【請求項5】
有効量の請求項1記載の化合物および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項6】
有効量が組成物1グラム当たり化合物約0.01 μg〜約1 mgを含む、請求項5記載の薬学的組成物。
【請求項7】
有効量が組成物1グラム当たり化合物約0.1 μg〜約500 μgを含む、請求項5記載の薬学的組成物。
【請求項8】
乾癬; 白血病; 大腸がん; 乳がん; 前立腺がん; 多発性硬化症; 狼瘡; 糖尿病; 宿主対移植片反応; 臓器移植の拒絶反応; 慢性関節リウマチ、喘息、もしくは炎症性腸疾患から選択される炎症性疾患; しわ、十分な皮膚硬度の不足、十分な皮膚水和作用の不足、もしくは不十分な皮脂分泌から選択される皮膚状態; 腎性骨ジストロフィー; または骨粗しょう症から選択される生物学的状態に苦しむ被験体を処置する方法であって、有効量の請求項1記載の化合物を被験体に投与する段階を含む方法。
【請求項9】
生物学的状態が腎性骨ジストロフィー、ビタミンD抵抗性くる病、骨粗しょう症または乾癬性関節炎である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
生物学的状態が白血病、大腸がん、乳がん、または前立腺がんから選択される、請求項8記載の方法。
【請求項11】
生物学的状態が多発性硬化症、狼瘡、糖尿病、宿主対移植片反応、または臓器移植の拒絶反応から選択される、請求項8記載の方法。
【請求項12】
生物学的状態が慢性関節リウマチ、喘息、またはセリアック病、潰瘍性大腸炎およびクローン病から選択される炎症性腸疾患から選択される、請求項8記載の方法。
【請求項13】
生物学的状態がしわ、十分な皮膚硬度の不足、十分な皮膚水和作用の不足、または不十分な皮脂分泌から選択される、請求項8記載の方法。
【請求項14】
化合物が被験体に経口的に、非経口的に、経皮的にまたは局所的に投与される、請求項8記載の方法。
【請求項15】
化合物が腹腔内に投与される、請求項8記載の方法。
【請求項16】
化合物が1日当たり0.01 μg〜1日当たり1 mgの投与量で投与される、請求項8記載の方法。
【請求項17】
乾癬; 白血病; 大腸がん; 乳がん; 前立腺がん; 多発性硬化症; 狼瘡; 糖尿病; 宿主対移植片反応; 臓器移植の拒絶反応; 慢性関節リウマチ、喘息、もしくは炎症性腸疾患から選択される炎症性疾患; しわ、十分な皮膚硬度の不足、十分な皮膚水和作用の不足、もしくは不十分な皮脂分泌から選択される皮膚状態; 腎性骨ジストロフィー; または骨粗しょう症から選択される生物学的状態の処置のための薬物の調製における請求項1記載の化合物の使用。
【請求項18】
動物被験体における、所与の体重の維持のための、美容的な減量の促進のための、またはしわの抑制、十分な皮膚硬度の不足の改善、十分な皮膚水和作用もしくは不十分な皮脂分泌の促進を含む有益な皮膚状態の促進のための美容的方法であって、請求項1記載の化合物を使用する段階を含む方法。
【請求項19】
化合物が1日当たり約0.01 μg〜1日当たり約1 mgの投与量範囲に等しい量で与えられる、請求項18記載の方法。
【請求項20】
動物が哺乳類である、請求項18〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
哺乳類がヒトである、請求項18〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
式IIA:

を有する化合物。
【請求項23】
有効量の請求項22記載の化合物および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項24】
乾癬; 白血病; 大腸がん; 乳がん; 前立腺がん; 多発性硬化症; 狼瘡; 糖尿病; 宿主対移植片反応; 臓器移植の拒絶反応; 慢性関節リウマチ、喘息、もしくは炎症性腸疾患から選択される炎症性疾患; しわ、十分な皮膚硬度の不足、十分な皮膚水和作用の不足、もしくは不十分な皮脂分泌から選択される皮膚状態; 腎性骨ジストロフィー; または骨粗しょう症から選択される生物学的状態の処置のための薬物の調製における請求項23記載の化合物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−525980(P2009−525980A)
【公表日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−553484(P2008−553484)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【国際出願番号】PCT/US2007/061402
【国際公開番号】WO2007/092720
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(505098661)ウイスコンシン アラムニ リサーチ ファンデーション (11)
【Fターム(参考)】