説明

ピストン駆動機構の静圧気体軸受及び気体圧アクチュエータ

【課題】ピストン駆動機構の静圧気体軸受において、径方向の衝撃に対する軸受摺動面の損傷を防止することである。
【解決手段】ピストン駆動機構10はピストンロッド12と、シリンダの機能を有するハウジングを有し、ハウジング20の前後側のエンドプレート24,26はピストンロッド12の前後端を軸方向移動自在に支持し、そこに静圧気体軸受100が設けられる。静圧気体軸受100のところにおいて、銅系材料で構成される潤滑用メタル筒材18,19がピストンロッド12に一体化されて設けられる。潤滑用メタル筒材18,19をピストンロッド12ではなくて、ハウジングの静圧気体軸受部に設けることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストン及びシリンダを備えるピストン駆動機構の静圧気体軸受及び気体圧アクチュエータに係り、特に気体圧によりピストン駆動機構の直進軸をハウジングに対して浮上支持する静圧気体軸受及びこれを備える気体圧アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
ピストン及びシリンダを備えるピストン駆動機構は、流体圧を用いるアクチュエータとして、様々な産業分野において利用されていることは周知の通りである。ピストンを駆動するための流体圧としては、油圧、蒸気圧のほか、乾燥空気や不活性ガス等の気体圧が用いられる。特に気体圧を用いる気体圧ピストン駆動機構は、油圧を用いるものに比べてコンタミネーションの問題が少なく、扱いやすい駆動機構として期待されており、例えば車両の動揺抑制に空気圧サーボシリンダが用いられることが特許文献1に記載されている。このピストン駆動機構において、駆動力を外部に取り出す直進軸は、シリンダを構成するハウジングとの間で軸受によって支持される。この支持軸受構造は、直進方向の摺動支持のためであるが、軸方向の移動により流体圧がもれないように工夫がなされ、例えば精密に仕上げ加工された面支持構造等が用いられる。
【0003】
【特許文献1】特開平10−129478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の動揺防止以外にも、気体圧を用いるピストン駆動機構の検討が行われている。例えば、引張圧縮試験機等の試験機においては、変位と荷重を正確にコントロールする必要があり、取り扱いの利便性等から気体圧を用いるピストン駆動機構が期待されている。
【0005】
この場合において、直進軸とハウジングとの間の軸受にも気体軸受構造を採用することが考えられる。ピストン駆動にも軸受支持にも気体圧を用いれば、コンタミネーションの排除のほか、いっそう滑らかな動きとなり、例えば引張圧縮試験機等の試験機における精度向上が期待される。
【0006】
気体軸受構造は、直進軸をハウジングとの間の隙間に気体圧を供給し、その静圧によって直進軸をハウジングに対し浮上させるものである。したがって、直進軸とハウジングとの間に浮上圧以上の軸の径方向衝撃が加わると、直進軸がハウジングに衝突し、軸受構造の摺動面が損傷を受け、あるいは変形を生じて試験等のための動作を行うことが困難になる恐れがある。
【0007】
本発明の目的は、ピストン駆動機構における径方向の衝撃に対する軸受摺動面の損傷の防止を可能とするピストン駆動機構の静圧気体軸受及びこれを備える気体圧アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るピストン駆動機構の静圧気体軸受は、ピストン駆動機構の直進軸をハウジングに対して浮上支持する静圧気体軸受において、直進軸と一体化して設けられ、外周面が静圧気体軸受の気体受面となる潤滑用メタル筒材を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るピストン駆動機構の静圧気体軸受は、ピストン駆動機構の直進軸をハウジングに対して浮上支持する静圧気体軸受において、ハウジングの静圧気体軸受部に設けられ、内周面が静圧気体軸受の気体噴出面となる潤滑用メタル筒材を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るピストン駆動機構の静圧気体軸受において、潤滑用メタル筒材は、焼きバメまたは冷しバメまたは接着によって直進軸と一体化された筒材であることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係るピストン駆動機構の静圧気体軸受において、潤滑用メタル筒材は、銅系メタル筒材であることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る気体圧アクチュエータは、ピストンに接続される直進軸と、ピストン直進軸を直進自在に支持する静圧気体軸受部を有するシリンダハウジングと、ピストン直進軸と一体化して設けられ、外周面が静圧気体軸受部に対する気体受面となる潤滑用メタル筒材と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る気体圧アクチュエータは、ピストンに接続される直進軸と、ピストン直進軸を直進自在に支持する静圧気体軸受部を有するシリンダハウジングと、シリンダハウジングの静圧気体軸受部に設けられ、内周面が静圧気体軸受の気体噴出面となる潤滑用メタル筒材と、を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記構成の少なくとも1つによれば、ピストン駆動機構の静圧気体軸受は、直進軸と一体化して設けられ、外周面が静圧気体軸受の気体受面となる潤滑用メタル筒材を備える。このように、潤滑用メタル筒材は軸受摺動面に設けられるので、ピストン駆動機構における径方向の衝撃があっても、直進軸あるいはハウジングにおける軸受摺動面の損傷の防止を可能とする。また、潤滑用メタル筒材は直進軸に一体化して設けられ、静圧気体軸受そのものの構造は変わらないので、静圧気体軸受の性能をそのまま発揮できる。
【0015】
また、上記構成の少なくとも1つによれば、ピストン駆動機構の静圧気体軸受は、ハウジングの静圧気体軸受部に設けられ、内周面が静圧気体軸受の気体噴出面となる潤滑用メタル筒材を備える。このように、潤滑用メタル筒材は軸受摺動面に設けられるので、ピストン駆動機構における径方向の衝撃があっても、直進軸あるいはハウジングにおける軸受摺動面の損傷の防止を可能とする。また、潤滑用メタル筒材はハウジングの静圧気体軸受部に設けられるので、直進軸に潤滑用メタル筒材を設ける場合に比べ、直進軸のストロークの長さの影響を受けないので、潤滑用メタル筒材の長さを短く一定のものとできる。
【0016】
また、ピストン駆動機構の静圧気体軸受において、潤滑用メタル筒材は、焼きバメまたは冷しバメまたは接着によって直進軸と一体化された筒材であるので、しっかりと直進軸と一体化できる。
【0017】
また、ピストン駆動機構の静圧気体軸受において、潤滑用メタル筒材は、銅系メタル筒材であるので、ピストン駆動機構における径方向の衝撃があっても、適当な緩衝材となり、潤滑用メタル筒材に覆われる心材である直進軸あるいはハウジングの損傷を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、引張圧縮試験機に用いられるピストン駆動機構の静圧気体軸受について説明するが、ピストン駆動機構の静圧気体軸受が適用される対象は、このような試験機以外でも、ピストン駆動機構の直進軸をハウジングに対して浮上支持させる装置であれば適用できる。たとえば、直進軸を静圧気体軸受で支持する一般的なアクチュエータであってもよい。また、以下の説明で用いる寸法、材質等は一例であって、静圧気体軸受の機能である浮上支持が十分確保できる範囲であれば、それ以外の寸法であってもよく、また、摺動面の損傷を防止できるものであれば、それ以外の材質であってもよい。また、潤滑用メタル筒材とともに、静圧気体軸受の軸受面に、適当な潤滑材を併用するものとできる。例えば、適当なグリース、二硫化モリブデン等を軸受面に設けることができる。
【実施例1】
【0019】
図1は、静圧気体軸受100が用いられる引張圧縮試験機用のピストン駆動機構10の構成を示す図である。ピストン駆動機構10は、ピストンロッド12と、シリンダの機能を有するハウジング20と、制御された気体圧を供給する気体圧制御弁40とを含んで構成される。静圧気体軸受100は、ピストンロッド12がハウジング20に対し軸方向に移動可能に支持されるところに設けられる。また、気体圧制御弁40とハウジング20との間には、マニホールド30が設けられ、気体圧制御弁40によって制御された気体圧を制御気体流路34によりハウジング20の内部に導く。そして、ピストンロッド12の一方側の先端は荷重を検出するロードセル16を介して引張圧縮試験の対象物に接続され、他方側の先端にはピストンロッド12の軸方向の変位を検出する変位センサ50が設けられる。
【0020】
ピストン駆動機構10において、ピストンロッド12は、フランジ部14を有し、ハウジング20の内部を前後側の気体室36,38に区切り、それぞれの気体室36,38に気体圧制御弁40より制御された気体圧が制御気体流路34を通って供給され、前後側の気体室36,38の気体圧の差によってフランジ部14が軸方向、すなわち図1に示すX方向に移動駆動される。このように、引張圧縮試験機に用いられるピストン駆動機構10は、気体圧によってピストンロッド12を軸方向に移動させ、ピストンロッド12の先端に設けられたロードセル16を介して図示されていない試験対象物に荷重を印加し、そのときの変位を測定することができる機能を有する。
【0021】
ピストンロッド12は、引張圧縮試験機における荷重軸の機能を有する細長い棒状の部材で、軸方向のほぼ中間部分に直径の大きいフランジ部14を有する。フランジ部14の外周はハウジング20の内周壁と摺動もしくは接触することがあるので、十分滑らかな表面処理及び必要に応じ適当な硬化処理を施されるのが好ましい。また、ピストンロッド12の両端部はハウジング20に軸方向移動自在に支持されるが、その部分には、引張圧縮試験の過程で径方向の衝撃が加わるときに損傷を受けないように、後述する潤滑用メタル筒材18,19がピストンロッド12と一体化して設けられる。かかるピストンロッド12は、十分な機械的剛性を有する金属材料を加工し、必要な表面処理等を施して得ることができる。例えば高張力鋼や工具鋼等の材料をフランジ付き円柱に加工し、表面硬化処理、表面研摩処理、潤滑めっき処理等を施して用いることができる。
【0022】
ピストンロッド12の一方側の先端には、上記のように、荷重を検出するロードセル16が取り付けられる。ロードセル16は例えば歪みゲージ等を設けた荷重台を用いることができる。また、上記のように、ピストンロッド12の他方側の先端には変位センサ50が設けられる。変位センサ50は差動変圧器方式のものを用いることができる。変位センサ50としては、その他に光学式、磁気式等、一般に用いられる方式のものを用いてもよい。
【0023】
ロードセル16及び変位センサ50の出力は、そのまま引張圧縮試験機の荷重−変位データとして用いられるとともに、図示されていない引張圧縮試験機の制御部にフィードバックされ、気体圧制御弁40の制御データとして用いられる。
【0024】
ハウジング20は、ピストンロッド12のフランジ部14を内部に収容し、ピストンロッド12の両端を外部に突き出させ、軸方向移動自在に案内支持する機能を有する一応気密の筐体である。ここで一応気密とは、ピストンロッド12が径方向の衝撃を受ける等で軸方向に異常に傾くときを除き、引張圧縮試験機の性能上十分な程度の気密という意味である。ハウジング20は、シリンダチューブ22と前後側のエンドプレート24,26とから構成される。すなわち、略円環状のシリンダチューブ22の両側開口に、ピストンロッド12の両端部との間において静圧気体軸受100を構成する前後側のエンドプレート24,26がそれぞれ配置され、全体としてシリンダ筐体を構成する。
【0025】
シリンダチューブ22は、ピストンロッド12のフランジ部14の直径よりやや大きめの内径を有する円環状の部材である。その内周壁は、ピストンロッド12のフランジ部14の外周と、摺動又は接触することがあるので、十分滑らかな表面処理及び必要に応じ適当な硬化処理を施されるのが好ましい。かかるシリンダチューブ22は、十分な機械的剛性を有する金属材料を加工し、必要な表面処理等を施して得ることができる。例えば高張力ジュラルミンやステンレス鋼等の材料からなる適当な管材の外周及び内周を所定寸法に加工し、表面硬化処理、表面研摩処理、潤滑めっき処理等を施して用いることができる。
【0026】
前後側のエンドプレート24,26は、ほぼ同様の形状を有する一対の部材で、中央にピストンロッド12を通し支持するロッド支持穴を有し、シリンダチューブ22の両側開口をピストンロッド12でふさぎながら、ピストンロッド12を軸方向移動可能に支持する機能を有する部材である。
【0027】
ロッド支持穴の内径は、ピストンロッド12の両端側の直径よりやや大きめである。このロッド支持穴のところには、排気溝42と、表面絞り46等が設けられ、ピストンロッド12とともに静圧気体軸受100を構成するが、これらの詳細については後述する。
【0028】
また、前後側のエンドプレート24,26は、マニホールド30を介し、気体圧制御弁40からの制御された気体圧をハウジング20の内部に導く制御気体流路34を有する。また、ピストンロッド12の軸方向移動が大きすぎてフランジ部14が前後側のエンドプレート24,26に衝突するときの衝撃を和らげるストッパ56が設けられる。かかる前後側のエンドプレート24,26は、十分な機械的剛性を有する金属材料を加工し、必要な表面処理等を施して得ることができる。例えば高張力ジュラルミン、ステンレス鋼等の材料をフランジ付き円柱に加工し、表面硬化処理、表面研摩処理、潤滑めっき処理等を施して用いることができる。
【0029】
シリンダチューブ22と前後側のエンドプレート24,26とピストンロッド12とは、次のような手順で組み立てられる。すなわち、最初に、シリンダチューブ22の中にピストンロッド12を通す。なお、ここで、ピストンロッド12の両端部には、後述するように焼きバメ等によって潤滑用メタル筒材18,19が一体化されて取付けられている。次に、ピストンロッド12のフランジ部14を挟んでロードセル16側に前側のエンドプレート24、変位センサ50側に後側のエンドプレート26を、それぞれのロッド支持穴にピストンロッド12の端部を通すように配置する。そして、前側のエンドプレート24をシリンダチューブ22のロードセル16側の開口をふさぐように合わせ、同様に後側のエンドプレート26をシリンダチューブ22の変位センサ50側の開口をふさぐように合わせる。そして、制御気体流路34のマニホールド30側の開口が同じ平面上に揃うように、前後側のエンドプレート24,26の相対位置を調整する。調整が終われば、制御気体流路34がマニホールド30と前後側のエンドプレート24,26の間で合うことを確かめ、シリンダチューブ22と前後側のエンドプレート24,26との合わせ目を気密封止する。気密封止はOリング等のパッキングを介したねじ止め等を用いてもよく、また完全な気密封止が必要でない場合は、金属合わせ面による封止を用いてもよい。このようにして、ハウジング20とピストンロッド12との組立体が得られ、これをピストン・シリンダサブアセンブリと呼ぶことができる。
【0030】
マニホールド30は、気体圧制御弁40とハウジング20の制御気体流路34とを接続するための中間部材で、図示されていないが、制御気体流路34に対応する制御気体流路を内部に備える。かかるマニホールド30は、適当な金属材料等を加工して得ることができる。マニホールド30は、ピストン・シリンダサブアセンブリの制御気体流路34に図示されていない内部の制御気体流路を合わせるようにして、気密にしっかりと接続される。気密接続は、適当な気密パッキングを用いたねじ止め等を用いることができる。
【0031】
気体圧制御弁40は、図示されていない引張圧縮試験機の制御部の指示により、2つの制御された気体圧を生成する機能を有する制御弁である。2つの制御された気体圧は、それぞれマニホールド30の内部の制御気体流路と、前側のエンドプレート24及び後側のエンドプレート26の制御気体流路34を通り、ハウジング20内部の前後側の気体室36,38に供給される。例えば、ピストンロッド12をロードセル16側に所定の荷重で変位させたいときは、気体室36に供給する気体圧より気体室38に供給する気体圧の方を大きくするようにし、その気体圧の差圧にフランジ部14の気体圧の受圧面積を乗じたものが荷重となるように、気体圧制御弁40は2つの気体圧を生成する。かかる気体圧制御弁としては、周知のスプール・スリーブ型気体圧制御弁等を用いることができる。
【0032】
次に、静圧気体軸受100の構成について、特にロッド支持穴に設けられる排気溝42及び表面絞り46について説明する。静圧気体軸受100は、ピストンロッド12の両端部、すなわち前側のエンドプレート24におけるピストンロッド12の前方側の支持部分と、後側のエンドプレート26におけるピストンロッド12の後方側の支持部分とにそれぞれ設けられる。
【0033】
以下では、ピストンロッド12の後方側の支持部分を例にとって説明する。上記のように、ロッド支持穴の内径は、ピストンロッド12の端部の直径よりもやや大きいので、後側のエンドプレート26のロッド支持穴とピストンロッド12との間には隙間がある。この隙間に沿って、後側の気体室38の側の端部から、外部の大気開放52の側に向かって、排気溝42、表面絞り46がこの順で配置される。
【0034】
排気溝42は、後側の気体室38から、ロッド支持穴とピストンロッド12との間の隙間を通って漏れてくる気体を集め、図示されていない排気路へ流す機能を有する。排気路に入った気体は、例えば再び気体圧の制御ルートに戻すことができる。つまり、排気溝42は、後側の気体室38からロッド支持穴とピストンロッド12との間の隙間を通って漏れてくる気体を大気開放52の方に無制限に流れることをここで抑制する機能を有する。
【0035】
表面絞り46は、ロッド支持穴の内壁に設けられた複数の浅溝で、軸方向に所定の幅、長さ、溝深さを有し、ピストンロッド12を静圧気体軸受の原理で浮上させる機能を有する。溝の長さは、一端側は排気溝42と軸方向に十分間隔をあけ、他方端は大気開放52の側の端部から十分間隔をあけるように設定される。そして、各表面絞り46の軸方向に沿った長さの略中央部を結んでロッド支持穴の内壁にやや深めの溝が設けられ、そこに気体供給路48の開口が接続される。この気体供給路48には、図示されていない気体源から所定の供給圧の気体が供給される。このような構成の表面絞り46は、気体供給路48からの高圧気体が開口から導かれて浅溝に沿って流れ、一方は排気溝42の方へ、他方は大気開放52側の端部へ向かう。そして浅溝が切れたところでより狭い隙間に向かって絞られて低圧側、すなわち排気溝42あるいは大気開放52の側に流れるので、いわゆる表面絞り装置となる。この絞り効果のため、絞り部分で圧力上昇を生じ、ピストンロッド12をロッド支持穴に対し浮上させる。
【0036】
表面絞り46の浅溝の深さは、ロッド支持穴とピストンロッド12との間の隙間の大きさとも関係するが、1例を上げると、中立状態の隙間を約10μmとして、浅溝の深さを約10〜15μmとすることができる。また、気体供給路48に供給される気体圧は約0.5Mpa程度とすることができる。
【0037】
次に、潤滑用メタル筒材18,19について説明する。潤滑用メタル筒材18,19は、直進軸であるピストンロッド12と一体化して設けられる軟質の金属材料筒材であり、引張圧縮試験の過程で径方向の衝撃が加わるときに、静圧気体軸受100の部分のピストンロッド12及びハウジング20が損傷を受けないようにする機能を有する。筒材の肉厚は、例えば数mm程度でよい。かかる潤滑用メタル筒材18,19は、給油を要しないメタル軸受としていわゆるオイルレスベアリングと呼ばれるものを用いることができる。その材質としては、銅系のものが好ましい。また含油性の材質の方が好ましい。場合によっては、多孔質の金属材料を用いることができ、また、この多孔質を利用して含油性を持たせるものとしてもよい。
【0038】
潤滑用メタル筒材18,19は、上記のように、径方向の衝撃に対し、静圧気体軸受100部分を保護する目的であるので、直進軸であるピストンロッド12のストロークSに対し、十分な軸方向長さを有する必要がある。図2は、潤滑用メタル筒材18,19の必要長さを説明する図である。ここでは、図1において必要な部分が模式的に示されており、図1と同様の要素には同一の符号が付されている。ここで、軸方向、すなわちX方向に沿った長さについて、ピストンロッド12のストロークをS、フランジ部14の長さをA、ハウジング20の長さをBとすると、ハウジング20の内部気体室の長さは、A+2Sとなる。そして、潤滑用メタル筒材18,19の長さにフランジ部14の長さを加えた長さは、B+2Sとなる。したがって、潤滑用メタル筒材18,19は、それぞれの軸方向の長さとして、{(B+2S)−A}/2が必要となる。
【0039】
かかる必要長さを有する潤滑用メタル筒材18,19は、直進軸であるピストンロッド12と一体化されて取付けられる。一体化の方法として、焼きバメまたは冷しバメまたは接着等を用いることができる。図3は、焼きバメまたは冷しバメによってピストンロッド12と潤滑用メタル筒材18,19とを一体化する様子を説明する図である。
【0040】
まず、図3の(a)に示されるように、ピストンロッド12と潤滑用メタル筒材18,19が準備される。ここでは、ピストンロッド12の両端部の外径よりも潤滑用メタル筒材18,19の内径が小さく設定されている。接着によって固定される場合は、例えば、ピストンロッド12の外周に接着剤を塗布して、潤滑用メタル筒材18,19を挿入し、適当な接着硬化処理等を行う。また、焼きバメ法を用いる場合には、潤滑用メタル筒材18,19を適当に昇温し、その内径を常温状態よりも拡げ、その状態で常温のピストンロッド12の両端部にそれぞれ挿入する。そして、自然冷却することで、潤滑用メタル筒材18,19の内径がもとの状態に戻ろうとして、ピストンロッド12の両端部の外周部にしっかりと固定され、これにより一体化が行われる。
【0041】
なお、冷やしバメ法を用いるときは、ピストンロッド12の方を適当に冷却し、その外径を常温状態よりも縮め、その状態で常温の潤滑用メタル筒材18,19をピストンロッド12の両端部にそれぞれ挿入する。そして、自然放置することで、ピストンロッド12の外径がもとの状態に戻ろうとして、潤滑用メタル筒材18,19としっかりと固定され、これにより一体化が行われる。
【0042】
その状態が図3(b)に示される。なお、潤滑用メタル筒材18,10が一体化されたピストンロッド12は、図1で説明したように、静圧気体軸受100の構成要素となるので、その外径を精度よく、その表面粗さを十分滑らかなものとすることが好ましい。したがって、一体化された後に、潤滑用メタル筒材18,19の表面が研削等によって、精密に寸法出しを行い、あわせて表面粗さの向上を図ることがよい。
【0043】
このようにして、ピストン駆動機構の直進軸であるピストンロッド12をハウジング20に対して浮上支持する静圧気体軸受100において、直進軸であるピストンロッド12と一体化して設けられ、外周面が静圧気体軸受100の気体受面となる潤滑用メタル筒材18,19を備えることで、ピストン駆動機構における径方向の衝撃に対する軸受摺動面の損傷を防止することができる。
【0044】
上記では、潤滑用メタル筒材をピストンロッドに一体化する構成である。この構成によって、ハウジング側の浅溝構造については、高張力ジュラルミン、ステンレス鋼等の十分な機械的剛性を有する金属材料を加工して得ることができる。一方で、ピストンロッドのストローク分に対応するために、潤滑用メタル筒材の長さが長くなる。
【0045】
これに対し、潤滑用メタル筒材をハウジングの静圧軸受部に設けることもできる。図4にその場合の構造の例を示す。以下では、図1と同様の要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。図4に示されるピストン駆動機構60は、図1と比較して、潤滑用メタル筒材68,69がピストンロッド62ではなくて、ハウジング20の前側のエンドプレート64、後側のエンドプレート66の静圧気体軸受100の部分に一体化して設けられるところが相違する。
【0046】
潤滑用メタル筒材68,69は、筒状部材で、内周側に排気溝42、表面絞り46がそれぞれ形成され、外周側で前側のエンドプレート64、後側のエンドプレート66と一体化されて固定される。排気溝42、表面絞り46の内容は、図1に関連して説明したものと同じである。また、潤滑用メタル筒材68,69の材質、一体化の方法等についても、図1に関連した内容と同様のものと出来る。
【0047】
このように、潤滑用メタル筒材68,69をハウジング20に設けることで、潤滑用メタル筒材68,69の小型化を図ることができる。図2を参照して、そこで説明した記号をそのまま用いるものとすると、潤滑用メタル筒材68,69の長さは、{B−(A+2S)}/2とできる。図1の場合には、潤滑用メタル筒材18,19の長さは、{(B+2S)−A}/2であるので、これに比べ、短い長さで済むことになる。なお、ピストンロッド62は、表面処理等によって、潤滑用メタル筒材68,69よりの硬度を高くするもとが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る実施の形態における静圧気体軸受が用いられる引張圧縮試験機用ピストン駆動機構の構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、潤滑用メタル筒材の必要長さを説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、焼きバメまたは冷しバメによってピストンロッドと潤滑用メタル筒材とを一体化する様子を説明する図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、潤滑用メタル軸受の別の設け方を説明する図である。
【符号の説明】
【0049】
10,60 ピストン駆動機構、12,62 ピストンロッド、14 フランジ部、16 ロードセル、18,19,68,69 潤滑用メタル筒材、20 ハウジング、22 シリンダチューブ、24,26,64,66 エンドプレート、30 マニホールド、34 制御気体流路、36,38 気体室、40 気体圧制御弁、42 排気溝、46 表面絞り、48 気体供給路、50 変位センサ、52 大気開放、56 ストッパ、100 静圧気体軸受。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン駆動機構の直進軸をハウジングに対して浮上支持する静圧気体軸受において、
直進軸と一体化して設けられ、外周面が静圧気体軸受の気体受面となる潤滑用メタル筒材を備えることを特徴とするピストン駆動機構の静圧気体軸受。
【請求項2】
ピストン駆動機構の直進軸をハウジングに対して浮上支持する静圧気体軸受において、
ハウジングの静圧気体軸受部に設けられ、内周面が静圧気体軸受の気体噴出面となる潤滑用メタル筒材を備えることを特徴とするピストン駆動機構の静圧気体軸受。
【請求項3】
請求項1に記載のピストン駆動機構の静圧気体軸受において、
潤滑用メタル筒材は、焼きバメまたは冷しバメまたは接着によって直進軸と一体化された筒材であることを特徴とするピストン駆動機構の静圧気体軸受。
【請求項4】
請求項1または2に記載のピストン駆動機構の静圧気体軸受において、
潤滑用メタル筒材は、銅系メタル筒材であることを特徴とするピストン駆動機構の静圧気体軸受。
【請求項5】
ピストンに接続される直進軸と、
ピストン直進軸を直進自在に支持する静圧気体軸受部を有するシリンダハウジングと、
ピストン直進軸と一体化して設けられ、外周面が静圧気体軸受部に対する気体受面となる潤滑用メタル筒材と、
を備えることを特徴とする気体圧アクチュエータ。
【請求項6】
ピストンに接続される直進軸と、
ピストン直進軸を直進自在に支持する静圧気体軸受部を有するシリンダハウジングと、
シリンダハウジングの静圧気体軸受部に設けられ、内周面が静圧気体軸受の気体噴出面となる潤滑用メタル筒材と、
を備えることを特徴とする気体圧アクチュエータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−185926(P2009−185926A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27411(P2008−27411)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(503094070)ピー・エス・シー株式会社 (36)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】