説明

ピッチ系黒鉛化短繊維

【課題】樹脂への充填性に優れており、成形体に高い熱伝導性および表面意匠性を付与できる熱伝導剤を提供すること。
【解決手段】平均繊維径が5〜15μmであり、体積換算平均繊維長が20〜30μmであり、最大繊維長が100μm以下であり、繊維長50μm以下である短繊維の割合が95%以上であることを特徴とするピッチ系黒鉛化短繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂への充填性に優れ、高い熱伝導性を付与することのできるピッチ系黒鉛化短繊維、およびそれからの熱伝導性組成物に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
高性能の炭素繊維はポリアクリロニトリル(PAN)を原料とするPAN系炭素繊維と、一連のピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に分類できる。そして炭素繊維は強度・弾性率が通常の合成高分子に比較して著しく高いという特徴を利用し、航空・宇宙用途、建築・土木用途、産業用ロボット、スポーツ・レジャー用途など広く用いられている。また、PAN系炭素繊維は、主として、その強度を利用する分野に、そしてピッチ系炭素繊維は、弾性率を利用する分野に用いられることが多い。
【0003】
近年、省エネルギーに代表されるエネルギーの効率的使用方法が注目されている一方で、高速化されたCPUや電子回路のジュール熱による発熱が重篤な問題として認識されつつある。また、電子注入を発光原理とするエレクトロルミネッセンス素子においても同様に重篤な問題として顕在化している。一方、各種素子を形成するプロセスに目を向けると環境配慮型プロセスが求められており、その対策として鉛が添加されていない所謂鉛フリー半田への切り替えがなされている。鉛フリー半田は融点が通常の鉛含有半田に比較して高いため、プロセスの熱の効率的な使用が要求されている。そして、このような製品・プロセスが内包する熱に由来する問題を解決するためには、熱の効率的な処理(サーマルマネジメント)を達成する必要がある。
【0004】
一般に炭素繊維は、他の合成高分子に比較して熱伝導率が高いと言われているが、サーマルマネジメント用途に向けた、さらなる熱伝導の向上が検討されている。ところが、市販されているPAN系炭素繊維の熱伝導率は通常200W/(m・K)よりも小さい。これは、PAN系炭素繊維が所謂難黒鉛化炭素繊維であり、熱伝導を担う黒鉛性を高めることが非常に困難なことに由来している。これに対して、ピッチ系炭素繊維は易黒鉛化炭素繊維と呼ばれ、PAN系炭素繊維に比べて、黒鉛性を高くすることができるため、高熱伝導率を達成しやすいと認識されている。よって、効率的に熱伝導性を発現できる形状にまで配慮がなされた高熱伝導性フィラーにできる可能性がある。
【0005】
次にサーマルマネジメントに用いる成形体の特徴について考察する。一般的に成形体に高い熱伝導率を付与するには、優れた熱伝導性を有する熱伝導剤を高充填するのが好ましい。高いアスペクト比を有する熱伝導剤は熱伝導剤同士が接触しネットワークを形成するため、高い熱伝導率を発揮しやすくなる一方で、樹脂との混練時に増粘効果が大きくなり、結果として高充填しにくくなる。そこで、効率的な熱伝導率を達成するために、繊維長を制御した炭素繊維が、様々に提案されてきた(特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−214819号公報
【特許文献2】特開2009−108119号公報
【特許文献3】特開2009−108424号公報
【特許文献4】国際公開2008/108482号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、樹脂への充填性に優れ、高い熱伝導性を付与することのできるピッチ系黒鉛化短繊維を提供することにある。また本発明の目的はピッチ系黒鉛化短繊維と、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、アラミド樹脂、およびゴムからなる群から選択される少なくとも1種のマトリクス成分とからなる熱伝導性組成物、さらにそれからの熱伝導性および表面性に優れた成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、熱伝導性に優れた放熱材料を作成するための熱伝導剤を得ようと鋭意検討を重ねた結果、ピッチ系黒鉛化短繊維の繊維長を制御させることで、これを用いて熱伝導性組成物、および熱伝導性および表面性に優れた成形体を提供することが可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
本発明は、平均繊維径が5〜15μmであり、体積換算平均繊維長が20〜30μmであり、最大繊維長が100μm以下であり、繊維長50μm以下である短繊維の割合が95%以上であることを特徴とするピッチ系黒鉛化短繊維である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、充填性が高く、熱伝導性組成物及び成形体が高い熱伝導性を得ることを可能にせしめている。本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、マトリクスと混合し、必要に応じて溶媒を加えることで塗料やペーストとして使用することができる。本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は長い繊維長成分を含まないことで、表面性、意匠性に優れた成形品や塗膜が得られる。本発明のピッチ系黒鉛化短繊維より得られた塗料、ペーストを用いて、電極等として使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について順次説明する。
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、平均繊維径が5〜15μmであり、体積換算平均繊維長が20〜30μmであり、最大繊維長が100μm以下であり、繊維長50μm以下である短繊維の割合が95%以上であることを特徴とする。
【0012】
成形体の熱伝導率は、充填する熱伝導剤同士の相互作用が大きくない範囲においては、熱伝導剤の充填量に大きく依存する。また、熱伝導剤の形状が繊維状の様に相互作用が大きい場合でも、一般的には熱伝導剤の配向方向のみに相互作用を示すのみで、その他の方向にはほとんど相互作用を示さない。そのため、例えば平板形状にした場合、平板の厚み方向の熱伝導率は、熱伝導剤の充填剤に大きく依存する。
【0013】
熱伝導剤の充填量は、マトリクスと熱伝導剤を混練する時の粘度によって決まる。この粘度は熱伝導剤同士の相互作用が寄与するが、相互作用は熱伝導剤のアスペクト比や表面形状が影響する。更に、アスペクト比が高い熱伝導剤が少量でも含まれると、粘度は急激に上がる傾向にあるため、高いアスペクト比を持つ熱伝導剤、すなわちピッチ系黒鉛化短繊維中の長繊維成分は極力除去するのが好ましい。
【0014】
この条件を満たす範囲として、平均繊維径が5〜15μmであり、体積換算平均繊維長が20〜30μmであり、最大繊維長が100μm以下であり、繊維長50μm以下である短繊維の割合が95%以上であることが挙げられる。
【0015】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、光学顕微鏡で観測した平均繊維径が5〜15μmである。平均繊維径が5μmを下回る場合、アスペクト比が高くなることになり、マトリクスと複合する際にマトリクス/短繊維混合物の粘度が高くなり、充填性が低下する。逆に平均繊維径が15μmを超えると、粉砕時に微粉が生成されやすくなり、微粉によってマトリクス/短繊維混合物の粘度が高くなり充填性が低下する。より好ましくは7〜13μmである。
【0016】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、体積換算平均繊維長が20〜30μmである。体積換算平均繊維長が20μmを下回る場合、実質的に微粉を含む割合が高くなり、トリクス/短繊維混合物の粘度が高くなり、充填性が低下する。逆に体積換算平均繊維長が30μmを超えると、長繊維成分によりマトリクス/短繊維混合物の粘度が高くなり充填性が低下する。より好ましくは20〜25μmである。体積換算平均繊維長は特定本数について繊維長を測定し、各繊維長の2乗値の平均値を求め、この平均値の平方根として求める。
【0017】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、最大繊維長が100μm以下ある。最大繊維長が100μmを超えると、長繊維成分によりマトリクス/短繊維混合物の粘度が高くなり充填性が低下する。より好ましくは最大繊維長が90μm以下である。
【0018】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、繊維長50μm以下である割合が95%以上である。繊維長50μm以下である割合が95%を下回ると、長繊維成分によりマトリクス/短繊維混合物の粘度が高くなり充填性が低下する。より好ましくは繊維長50μm以下である割合が97%以上である。ここで繊維長50μm以下の短繊維の割合は、1μm以上の短繊維の本数を分母にとり、そのうち繊維長50μm以下の短繊維の本数を分子として算出する。
【0019】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、ミリング後のピッチ系炭素短繊維もしくはピッチ系黒鉛化短繊維をスクリーン径50μm以下のメッシュ等による分級を複数回実施することで得ることができる。この時、一般的に、繊維径が太い時に分級を実施する方が、長繊維がメッシュに対し縦向きに通過する割合が低下するため、効率的に分級できる。ピッチ系炭素短繊維を黒鉛化してピッチ系黒鉛化短繊維を得る際に、繊維径が小さくなる傾向にあるため、黒鉛化前のピッチ系炭素短繊維の状態で分級をするのが好ましい。
【0020】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、光学顕微鏡で観測したピッチ系黒鉛化短繊維における繊維径分散の平均繊維径に対する百分率(CV値)は3〜15%が好ましい。CV値は繊維径のバラツキの指標であり、小さい程、工程安定性が高く、製品のバラツキが小さいことを意味している。CV値が3%より小さい時、繊維径が極めて揃っているため、ピッチ系黒鉛化短繊維の間隙に入るサイズの小さな短繊維の量が少なくなり、ピッチ系黒鉛化短繊維をより密に充填するのが困難になり、結果として高性能の複合材を得にくくなることがある。逆にCV値が15%より大きい場合、マトリクスと複合する際に、分散性が悪くなり、均一な性能を有する複合材を得ることが困難になることがある。CV値は好ましくは、5〜13%である。CV値は、紡糸時の溶融メソフェーズピッチの粘度を調節すること、具体的には、メルトブロー法にて紡糸する際は、紡糸時のノズル孔での溶融粘度を5.0〜25.0Pa・Sに調整することで実現できる。
【0021】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、黒鉛結晶からなり、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上であることが好ましい。結晶子サイズは六角網面の成長方向のいずれも、黒鉛化度に対応するものであり、熱物性を発現するためには、一定サイズ以上が必要である。六角網面の成長方向の結晶子サイズは、X線回折法で求めることができる。測定手法は集中法とし、解析手法としては学振法が好適に用いられる。六角網面の成長方向の結晶子サイズは、(110)面からの回折線を用いて求めることができる。
【0022】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、透過型電子顕微鏡による繊維末端観察において、グラフェンシートの端面が閉じていることが好ましい。グラフェンシートの端面が閉じている場合、余分な官能基の発生や、形状に起因する電子の局在化が起こり難い。このため、ピッチ系黒鉛化短繊維に活性点が生じず、シリコーン樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂との混練で、触媒活性点の低下による硬化の抑制が可能となる。また、グラフェンシートの端面が閉じていることで、水などの吸着も低減でき、例えばポリエステルのような加水分解を伴う樹脂との混練においても、著しい湿熱耐久性能向上をもたらすことが出来る。
【0023】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は50万〜400万倍に拡大した透過型電子顕微鏡による視野範囲で、グラフェンシートの端面は80%閉じていることが好ましい。グラフェンシート端面の閉鎖率が80%以下であると余分な官能基の発生や、形状に起因する電子の局在化を引き起こし、他材料との反応を促進する可能性があるため好ましくない。グラフェンシート端面の閉鎖率は90%以上が好ましく、更には95%以上が更に好ましい。
【0024】
グラフェンシート端面構造は、黒鉛化の前に粉砕を実施するか、黒鉛化の後に粉砕を実施するかにより、大きく異なる。すなわち、黒鉛化後に粉砕処理を行った場合、黒鉛化で成長したグラフェンシートが切断破断され、グラフェンシート端面が開いた状態になり易い。一方、粉砕を行った後黒鉛化処理を行った場合、黒鉛の成長過程でグラフェンシート端面がU字上に湾曲し、湾曲部分がピッチ系黒鉛化短繊維端部に露出した構造になり易い。このため、グラフェンシート端面閉鎖率が80%を超えるようなピッチ系黒鉛化短繊維を得るためには、粉砕を行った後に黒鉛化処理することが好ましい。
【0025】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は走査型電子顕微鏡での側面の観察表面が実質的に平坦であることが好ましい。ここで、実質的に平坦であるとは、フィブリル構造のような激しい凹凸をピッチ系黒鉛化短繊維に有しないことを意味する。ピッチ系黒鉛化短繊維の表面に激しい凹凸のような欠陥が存在する場合には、マトリクスとの混練に際して表面積の増大に伴う粘度の増大を引き起こし、成形性を悪化させる。よって、表面凹凸のような欠陥はできるだけ小さい状態が望ましい。より具体的には、走査型電子顕微鏡において800〜1000倍で観察した像での観察視野に、凹凸のような欠陥が10箇所以下であることとする。この様なピッチ系黒鉛化短繊維を得る手法としては、ミリングを行った後に黒鉛化処理を実施することによって、好ましく得ることができる。
【0026】
以下本発明のピッチ系炭素短繊維の好ましい製造法について述べる。
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維の原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が挙げられる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましい。
【0027】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維の原料としてはメソフェーズピッチを用いる。メソフェーズピッチのメソフェーズ率としては少なくとも90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上である。なお、メソフェーズピッチのメソフェーズ率は、溶融状態にあるピッチを偏光顕微鏡で観察することで確認出来る。
【0028】
更に、原料ピッチの軟化点としては、230℃〜340℃が好ましい。不融化処理は、軟化点よりも低温で処理する必要がある。このため、軟化点が230℃より低いと、不融化処理を少なくとも軟化点未満の低い温度でする必要があり、結果として不融化に長時間を要するため好ましくない。一方、軟化点が340℃を超えると、紡糸に340℃を超える高温が必要となり、ピッチの熱分解を引き起こし、発生したガスで糸に気泡が発生するなどの問題を生じるため好ましくない。軟化点のより好ましい範囲は250℃〜320℃、更に好ましくは260℃〜310℃である。なお、原料ピッチの軟化点はメトラー法により求めることが出来る。原料ピッチは、二種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。組み合わせる原料ピッチのメソフェーズ率は少なくとも90%以上であり、軟化点が230℃〜340℃であることが好ましい。
【0029】
メソフェーズピッチは溶融法により紡糸され、その後不融化、炭化、粉砕、黒鉛化によってピッチ系黒鉛化短繊維となる。本発明においては、粉砕もしくは黒鉛化後、分級工程を入れるが、粉砕後に分級工程を入れるのが好ましい。
【0030】
以下各工程の好ましい態様について説明する。
紡糸方法には、特に制限はないが、所謂溶融紡糸法を適応することができる。具体的には、口金から吐出したメソフェーズピッチをワインダーで引き取る通常の紡糸延伸法、熱風をアトマイジング源として用いるメルトブロー法、遠心力を利用してメソフェーズピッチを引き取る遠心紡糸法などが挙げられる。中でもピッチ系炭素繊維前駆体の形態の制御、生産性の高さなどの理由からメルトブロー法を用いることが望ましい。このため以下本発明のピッチ系黒鉛化短繊維の製造方法に関してはメルトブロー法について記載する。
【0031】
ピッチ系炭素繊維前駆体を形成する紡糸ノズルの形状はどのようなものであっても良い。通常真円状のものが使用されるが、適時楕円などの異型形状のノズルを用いても何ら問題ない。ノズル孔の長さ(LN)と孔径(DN)の比(LN/DN)としては、2〜20の範囲が好ましい。LN/DNが20を超えると、ノズルを通過するメソフェーズピッチに強いせん断力が付与され、繊維断面にラジアル構造が発現する。ラジアル構造の発現は、黒鉛化の過程で繊維断面に割れを生じさせることがあり、機械特性の低下を引き起こすことがあるため好ましくない。一方、LN/DNが2未満では、原料ピッチにせん断を付与することが出来ず、結果として黒鉛の配向が低いピッチ系炭素繊維前駆体となる。このため、黒鉛化しても黒鉛化度を十分に上げることが出来ず、熱伝導性を向上させ難く好ましくない。機械強度と熱伝導性の両立を達成するには、メソフェーズピッチに適度のせん断を付与する必要がある。このため、ノズル孔の長さ(LN)と孔径(DN)の比(LN/DN)は2〜20の範囲が好ましく、更には3〜12の範囲が特に好ましい。
【0032】
紡糸時のノズルの温度、メソフェーズピッチがノズルを通過する際のせん断速度、ノズルからブローされる風量、風の温度等についても特に制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる条件、即ち、メソフェーズピッチのノズル孔での溶融粘度が1〜100Pa・sの範囲とすることが好ましい。
【0033】
ノズルを通過するメソフェーズピッチの溶融粘度が1Pa・s未満の場合、溶融粘度が低すぎて糸形状を維持することが出来ず好ましくない。一方、メソフェーズピッチの溶融粘度が100Pa・sを超える場合、メソフェーズピッチに強いせん断力が付与され、繊維断面にラジアル構造を形成するため好ましくない。メソフェーズピッチに付与するせん断力を適切な範囲にせしめ、かつ繊維形状を維持するためには、ノズルを通過するメソフェーズピッチの溶融粘度を制御する必要がある。このため、メソフェーズピッチの溶融粘度を1〜100Pa・sの範囲にするのが好ましく、更には3〜30Pa・sの範囲にすることが好ましく、5〜25Pa・sの範囲にすることが更に好ましい。
【0034】
メソフェーズピッチがノズルを通過する際のせん断速度は5000〜15000s−1であることが好ましい。
【0035】
ブロー気流の方向は特に制限が無いが、紡糸方向に対して20〜70度であることが好ましく、より好ましくは30〜60度である。
【0036】
ノズルからブローされる風量は線速5000〜20000m/分であることが好ましい。より好ましくは線速8000〜15000m/分である。
【0037】
ノズルからブローされる気流の速度は330〜370℃であることが好ましく、より好ましくは340〜360℃である。
【0038】
本発明ピッチ系黒鉛化短繊維は、平均繊維径が5〜15μm以下であるが、ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径の制御は、ノズルの孔径を変更する、あるいはノズルからの原料ピッチの吐出量を変更する、あるいはドラフト比を変更することで調整可能である。ドラフト比の変更は、100〜400℃に加温された毎分5000〜20000m/分の線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって達成することができる。吹き付けるガスに特に制限は無いが、コストパフォーマンスと安全性の面から空気が望ましい。
【0039】
ピッチ系炭素繊維前駆体は、金網等のベルトに捕集されピッチ系炭素繊維前駆体ウェブとなる。その際、ベルト搬送速度により任意の目付量に調整できるが、必要に応じ、クロスラップ等の方法により積層させてもよい。ピッチ系炭素繊維前駆体ウェブの目付量は生産性及び工程安定性を考慮して、150〜1000g/mが好ましい。
【0040】
このようにして得られたピッチ系炭素繊維前駆体ウェブは、不融化処理し、ピッチ系不融化繊維ウェブにする。不融化は、空気、或いはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いた酸化性雰囲気下で実施できるが、安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが望ましい。また、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、生産性を考慮すると連続処理が望ましい。不融化処理は150〜350℃の温度で、一定時間の熱処理を付与することで達成される。より好ましい温度範囲は、160〜340℃である。昇温速度は1〜10℃/分が好適に用いられ、連続処理の場合は任意の温度に設定した複数の反応室を順次通過させることで、上記昇温速度を達成できる。昇温速度のより好ましい範囲は、生産性及び工程安定性を考慮して、3〜9℃/分である。
【0041】
ピッチ系不融化繊維ウェブは、600〜2000℃の温度で、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気中で炭化処理され、ピッチ系炭素繊維ウェブになる。炭化処理は、コスト面を考慮して、常圧かつ窒素雰囲気下での処理が望ましい。また、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、生産性を考慮すれば連続処理が望ましい。
【0042】
炭化処理されたピッチ系炭素繊維ウェブは、所望の繊維長にするために、切断、破砕・粉砕等の処理が実施される。処理方式は所望の繊維長に応じて選定されるが、体積換算平均繊維長を20〜30μmとする場合にはハンマ、ブレード及びピン等の衝撃力を利用した高速回転衝撃式粉砕機、高速気流の持つ運動エネルギーを利用する気流式粉砕機、圧縮力下でのせん断摩擦を利用したせん断摩擦式粉砕機及びボールやビーズ等の粉砕媒体を利用する媒体式粉砕機等が好適に使用される。また、効率良く粉砕するために、上記粉砕の前処理として、ギロチン式、1軸、2軸及び多軸回転式のカッター及びロール式粉砕機等を用いて、数十μm〜数mmまで切断及び粗粉砕することもできる。なお、所望の繊維長を得るために多種複数の粉砕機で構成してもよく、処理雰囲気は乾式、湿式のどちらでもよい。さらに、粉砕機の機種選定のみならず、ロータ・回転刃等の回転数、気流圧力、供給量、刃間クリアランス及び粉砕機内滞留時間等を制御することによっても得ることができる。
【0043】
最大繊維長を100μm以下、繊維長50μm以下の割合を95%以上とする場合には、粉砕もしくは黒鉛化後に分級処理を実施する。先述にある通り、好ましくは粉砕後の黒鉛化前に実施する。処理方式としては、攪拌篩い式、振動篩い式、遠心分離式、重力式、慣性力式及び濾過式等の分級機等が使用されるが、最大繊維長を100μm以下、繊維長50μm以下の割合を95%以上とする場合には、攪拌篩い式が好適に使用される。攪拌篩い式分級機のスクリーン径によって繊維長を制御することができるが、最大繊維長を100μm以下、繊維長50μm以下の割合を95%以上とする場合には、スクリーン径を50μm以下とし、複数回実施することが望ましい。また、分級処理によって発生した所望外繊維長の繊維は、生産性向上のために粉砕機へ循環させることもできる。
【0044】
上記の切断・破砕・粉砕処理、分級処理を用いて作成したピッチ系炭素短繊維は、2000〜3500℃に加熱し黒鉛化して最終的なピッチ系黒鉛化短繊維とする。黒鉛化は、アチソン炉、電気炉等にて実施され、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気下等で実施される。
【0045】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、マトリクスと複合してコンパウンド、シート、グリース、接着剤等の熱伝導性組成物や成形体を得ることができる。この際、表面処理ピッチ系黒鉛化短繊維は、マトリクス100重量部に対して3〜500重量部を添加させる。3重量部より少ない添加量では、熱伝導性を十分に確保することが難しい。一方、500重量部より多いピッチ系黒鉛化短繊維のマトリクスへの添加は困難であることが多い。
【0046】
マトリクスは、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、アラミド樹脂及びゴムからなる群から選択される少なくとも1種である。成形体に所望の物性を発現させるために熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂を適宜混合して用いることもできる。すなわち本発明は、ピッチ系黒鉛化短繊維と、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、アラミド樹脂、およびゴムからなる群から選択される少なくとも1種のマトリクス成分とからなり、マトリクス成分100重量部に対して3〜300重量部の表面処理ピッチ系黒鉛化短繊維を含有する熱伝導性組成物を包含する。
【0047】
マトリクスに用いることができる熱可塑性樹脂としてポリオレフィン及びその共重合体(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体など)、ポリメタクリル酸及びその共重合体(ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリル酸エステルなど)、ポリアクリル酸及びその共重合体、ポリアセタール及びその共重合体、フッ素樹脂及びその共重合体(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエステル及びその共重合体(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6ナフタレート、液晶性ポリマーなど)、ポリスチレン及びその共重合体(スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂など)、ポリアクリロニトリル及びその共重合体、ポリフェニレンエーテル(PPE)及びその共重合体(変性PPE樹脂なども含む)、脂肪族ポリアミド及びその共重合体、ポリカーボネート及びその共重合体、ポリフェニレンスルフィド及びその共重合体、ポリサルホン及びその共重合体、ポリエーテルサルホン及びその共重合体、ポリエーテルニトリル及びその共重合体、ポリエーテルケトン及びその共重合体、ポリエーテルエーテルケトン及びその共重合体、ポリケトン及びその共重合体、エラストマー、アクリル及びその共重合体、液晶性ポリマー等が挙げられる。
【0048】
中でもポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、脂肪族ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、及びアクリルニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合樹脂、アクリルからなる郡より選ばれる少なくとも一種の樹脂が好ましい。また、これらから一種を単独で用いても、二種以上を適宜組み合わせて用いても良い。
【0049】
また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、熱硬化型変性PPE樹脂及び熱硬化型PPE樹脂、ポリイミド樹脂及びその共重合体、芳香族ポリアミドイミド樹脂及びその共重合体などが挙げられ、これらから一種を単独で用いても、二種以上を適宜組み合わせて用いても良い。
【0050】
アラミド樹脂としてはテレフタル酸及び/またはイソフタル酸からなる芳香族ジカルボン酸成分と、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及び1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンからなる郡より選ばれる少なくとも一種の芳香族ジアミン成分に由来する全芳香族ポリアミドが例示される。
【0051】
ゴムとしては特に限定は無いが天然ゴム(NR)、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBRゴム)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム及びその共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴムなどがある。
【0052】
本発明の熱伝導性組成物は、ピッチ系黒鉛化短繊維とマトリクスとを混合して作製するが、混合の際には、ニーダー、各種ミキサー、ブレンダー、ロール、押出機、ミリング機、自公転式の撹拌機などの混合装置又は混練装置が好適に用いられる。
【0053】
本発明の組成物の熱伝導率をより高めるために、ピッチ系黒鉛化短繊維以外のフィラーを必要に応じて添加してもよい。具体的には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛などの金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、酸化窒化アルミニウムなどの金属酸窒化物、炭化珪素などの金属炭化物、金、銀、銅、アルミニウム、金属珪素などの金属もしくは金属合金、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、ダイヤモンドなどの炭素材料などが挙げられる。これらを機能に応じて適宜添加してもよい。また、2種類以上併用することも可能である。ただ、上記化合物は、密度がピッチ系黒鉛化短繊維より大きなものが多く、軽量化を目的とするときには、添加量や添加比率に気を配る必要がある。また、上記化合物の形状によっては、マトリクスと混練する際に粘度が上昇し、充填性が低下するため、形状や添加比率に気を配る必要がある。
【0054】
さらに、成形性、機械物性などのその他特性をより高めるために、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼化アルミニウムウィスカ、窒化ホウ素ウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維、石膏繊維、金属繊維などの繊維状フィラーを必要な機能に応じて、また充填性を損なわない範囲で適宜添加してもよい。これらを2種類以上併用することも可能である。ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスビーズ、ガラスフレーク及びセラミックビーズなどの非繊維状フィラーも必要に応じてまた充填性を損なわない範囲で適宜添加することが可能である。これらは中空であってもよく、さらにはこれらを2種類以上併用することも可能である。ただ、上記化合物は、密度がピッチ系黒鉛化短繊維より大きなものが多く、軽量化を目的とするときには、添加量や添加比率に気を配る必要がある。
【0055】
また、必要に応じて他の添加剤を複数、組成物に添加しても構わない。他の添加剤としては離型剤、難燃剤、乳化剤、軟化剤、可塑剤、界面活性剤を挙げることができる。
【0056】
より具体的に、組成物の用途について説明する。当該組成物は、電子機器等において半導体素子や電源、光源などの電子部品が発生する熱を効果的に外部へ放散させるための放熱部材、伝熱部材あるいはそれらの構成材料等として用いることができる。
【0057】
マトリクスが熱可塑性樹脂からなる熱伝導性組成物の場合は、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、押出成形法、注型成形法、およびブロー成形法からなる群より選ばれる少なくとも一種の方法により成形して、成形体を得ることができる。そして、シート状成形体は、ロールによる押し出しや、ダイによる押し出しなど押出成形法にて、成形することが可能である。成形条件は、成形手法とマトリクスに依存し、当該樹脂の溶融粘度より温度を上げた状態で成形を実施する。
【0058】
マトリクスが熱硬化性樹脂からなる熱伝導性組成物の場合は、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、押出成形法および注型成形法からなる群より選ばれる少なくとも一種の方法により成形して、成形体を得ることができる。成形条件は、成形方法とマトリクスに依存し、適切な型において、当該樹脂の硬化温度を付与するといった方法を挙げることができる。
【0059】
マトリクスがアラミド樹脂からなる熱伝導性組成物の場合は、アラミド樹脂を溶媒に溶解させ、ここにピッチ系黒鉛化短繊維を混合し、キャスト法を用いて成形することができる。ここで溶媒としてはアラミド樹脂が溶解できれば特に限定は無いが、具体的にはN.N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒を用いることができる。
【0060】
マトリクスがゴムからなる熱伝導性組成物の場合は、プレス成形法、カレンダー成形法、ロール成形法からなる郡より選ばれる少なくとも一種の方法により成形して、成形体を得ることができる。成形条件は、成形手法とマトリクスに依存し、当該ゴムの加硫温度を付与するといった方法を挙げることができる。
【0061】
本発明はこのように上記熱伝導性組成物を成形して得られる成形体を包含する。
本発明の組成物は、その熱伝導率の高さを利用することで、電子部品用放熱板として用いることができる。また、ピッチ系黒鉛化短繊維の添加量を多くすることで、高い熱伝導度が得られるため、電子部品においても、比較的耐熱性が要求される自動車や大電流を必要とする産業用パワーモジュールのコネクタ等に好適に用いることができる。より具体的には、放熱板、半導体パッケージ用部品、ヒートシンク、ヒートスプレッダー、ダイパッド、プリント配線基板、冷却ファン用部品、筐体等に用いることができる。また、熱交換器の部品として用いることもできる。ヒートパイプに用いることができる。さらに、ピッチ系黒鉛化短繊維の電波遮蔽性を利用し、特にGHz帯の電波遮蔽用部材として好適に用いることができる。
【0062】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、上記に記載したマトリクスと混合し、必要に応じて溶媒を加えることで塗料やペーストとして使用することができる。更に、本発明のピッチ系黒鉛化短繊維より得られた塗料、ペーストを用いて、電極等として使用することができる。
【実施例】
【0063】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は、JIS R7607に準じ、光学顕微鏡下でスケールを用いて60本測定し、その平均値から求めた。
(2)ピッチ系黒鉛化短繊維の体積換算平均繊維長、最大繊維長、繊維長50μm以下の割合は、セイシン企業製PITA1を用いて繊維長1μm以上のもの3000本測定し、各繊維長の2乗値の平均値を求め、この平均値の平方根より体積換算平均繊維長を求めた。また3000本中最長の短繊維の長さより最大繊維長を、また3000本中の繊維長50μm以下の本数から繊維長50μm以下の割合を求めた。
(3)ピッチ系黒鉛化短繊維の結晶子サイズは、X線回折に現れる(110)面からの反射を測定し、学振法にて求めた。
(4)ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は、透過型電子顕微鏡で100万倍の倍率で観察し、400万倍に写真上で拡大し、グラフェンシートを確認した。
(5)ピッチ系黒鉛化短繊維の表面は走査型電子顕微鏡で1000倍の倍率で観察し、凹凸を確認した。
(6)熱伝導性成形体の熱伝導率は、NETZSCH製LFA−447(レーザーフラッシュ法)で測定した。
(7)熱伝導性成形体の表面性は得られた成形体の表面を目視で観察し、気泡の有無を確認した。
【0064】
[実施例1]
縮合多環炭化水素化合物より主としてなるピッチを主原料とした。原料ピッチの光学的異方性割合は100%、軟化点が283℃であった。直径0.2mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分5500mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径11.2μmのピッチ系短繊維を作製した。この時の紡糸温度は325℃であり、溶融粘度は17.5Pa・S(175poise)であった。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付350g/mのピッチ系炭素繊維前駆体からなるピッチ系炭素繊維前駆体ウェブとした。
このピッチ系炭素繊維前駆体ウェブを空気中で170℃から300℃まで平均昇温速度5℃/分で昇温して不融化、更に800℃で焼成を行った。このピッチ系炭素繊維ウェブをカッター(ターボ工業製)を用いて1000rpmで粉砕し、スクリーン径30μmのメッシュを3回通して分級し、篩い下の成分を3000℃で黒鉛化した。
ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は8.1μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比(CV値)は11%であった。体積換算平均繊維長は23μm、最大繊維長は90μm、繊維長50μm以下の割合は97%であった。六角網面の成長方向に由来する結晶サイズは80nmであった。
ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は透過型顕微鏡の観察によりグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、表面は走査型電子顕微鏡の観察により、凹凸は1個であり実質的に平滑であった。
【0065】
[実施例2]
二液硬化型シリコーン樹脂(東レダウシリコーン製商品名「SE1740A&B」)100重量部に対し、実施例1で得られたピッチ系黒鉛化短繊維を添加していき、真空式自公転混合機(シンキー製あわとり練太郎ARV−310)を用いて混合し、マトリクス/ピッチ系黒鉛化短繊維が流動性を失うところまで添加した。この時の添加量は410重量部であった。この混合物を130℃で2時間硬化することで、熱伝導性成形体を作成した。熱伝導性成形体の熱伝導率は3.2W/(m・K)であった。また、得られた成形体の表面に気泡等の成形不良は観察されなかった。
【0066】
[比較例1]
分級時にスクリーン径100μmのメッシュを使用した以外は、実施例1と同様にピッチ系黒鉛化短繊維を得た。
ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は8.1μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比(CV値)は11%であった。体積換算平均繊維長は28μm、最大繊維長は140μm、繊維長50μm以下の割合は85%であった。六角網面の成長方向に由来する結晶サイズは80nmであった。
ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は透過型顕微鏡の観察によりグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、表面は走査型電子顕微鏡の観察により、凹凸は1個であり実質的に平滑であった。
【0067】
[比較例2]
分級時の回数を1回にした以外は、実施例1と同様にピッチ系黒鉛化短繊維を得た。
ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は8.1μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比(CV値)は11%であった。体積換算平均繊維長は24μm、最大繊維長は110μm、繊維長50μm以下の割合は81%であった。六角網面の成長方向に由来する結晶サイズは80nmであった。
ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は透過型顕微鏡の観察によりグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、表面は走査型電子顕微鏡の観察により、凹凸は1個であり実質的に平滑であった。
【0068】
[比較例3]
縮合多環炭化水素化合物より主としてなるピッチを主原料とした。原料ピッチの光学的異方性割合は100%、軟化点が283℃であった。直径0.2mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分5500mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径14.5μmのピッチ系短繊維を作製した。この時の紡糸温度は337℃であり、溶融粘度は8.0Pa・s(80poise)であった。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付320g/mのピッチ系炭素繊維前駆体からなるピッチ系炭素繊維前駆体ウェブとした。
このピッチ系炭素繊維前駆体ウェブを空気中で170℃から300℃まで平均昇温速度5℃/分で昇温して不融化、更に800℃で焼成を行った。このピッチ系炭素繊維ウェブをカッター(ターボ工業製)を用いて800rpmで粉砕し、スクリーン径100μmのメッシュを通して分級し、篩い上の成分を3000℃で黒鉛化した。
ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は8.8μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比(CV値)は12%であった。体積換算平均繊維長は240μm、最大繊維長は1200μm、繊維長50μm以下の割合は48%であった。六角網面の成長方向に由来する結晶サイズは70nmであった。
ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は透過型顕微鏡の観察によりグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、表面は走査型電子顕微鏡の観察により、凹凸は1個であり実質的に平滑であった。
【0069】
[比較例4]
二液硬化型シリコーン樹脂(東レダウシリコーン製商品名「SE1740A&B」)100重量部に対し、比較例1で得られたピッチ系黒鉛化短繊維を添加していき、真空式自公転混合機(シンキー製あわとり練太郎ARV−310)を用いて混合し、マトリクス/ピッチ系黒鉛化短繊維が流動性を失うところまで添加した。この時の添加量は330重量部であった。この混合物を130℃で2時間硬化することで、熱伝導性成形体を作成した。熱伝導性成形体の熱伝導率は2.2W/(m・K)であった。得られた成形体の表面に1mm程度の気泡が5cm×5cm辺り3個観察された。
【0070】
[比較例5]
二液硬化型シリコーン樹脂(東レダウシリコーン製商品名「SE1740A&B」)100重量部に対し、比較例2で得られたピッチ系黒鉛化短繊維を添加していき、真空式自公転混合機(シンキー製あわとり練太郎ARV−310)を用いて混合し、マトリクス/ピッチ系黒鉛化短繊維が流動性を失うところまで添加した。この時の添加量は310重量部であった。この混合物を130℃で2時間硬化することで、熱伝導性成形体を作成した。熱伝導性成形体の熱伝導率は1.9W/(m・K)であった。得られた成形体の表面に1mm程度の気泡が5cm×5cm辺り5個観察された。
【0071】
[比較例6]
二液硬化型シリコーン樹脂(東レダウシリコーン製商品名「SE1740A&B」)100重量部に対し、比較例3で得られたピッチ系黒鉛化短繊維を添加していき、真空式自公転混合機(シンキー製あわとり練太郎ARV−310)を用いて混合し、マトリクス/ピッチ系黒鉛化短繊維が流動性を失うところまで添加した。この時の添加量は100重量部であった。この混合物を130℃で2時間硬化することで、熱伝導性成形体を作成した。熱伝導性成形体の熱伝導率は2.0W/(m・K)であった。得られた成形体の表面に3mm程度の気泡が5cm×5cm辺り8個観察された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、熱伝導率に優れるピッチ系黒鉛化短繊維の繊維長を制御することで、ピッチ系黒鉛化短繊維の充填性を向上させ、成形体に高い熱伝導性および優れた表面性を付与することを可能にせしめている。これにより、高い放熱特性と意匠性が要求される電子機器に幅広く用いることが可能になり、サーマルマネジメントを確実なものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が5〜15μmであり、体積換算平均繊維長が20〜30μmであり、最大繊維長が100μm以下であり、繊維長50μm以下である短繊維の割合が95%以上であることを特徴とするピッチ系黒鉛化短繊維。
【請求項2】
該ピッチ系黒鉛化短繊維が、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV値)が3〜15%であり、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上であり、透過型電子顕微鏡によるフィラー端面観察においてグラフェンシートが閉じており、かつ走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平坦である請求項1に記載のピッチ系黒鉛化短繊維。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれか1項に記載のピッチ系黒鉛化短繊維と、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、アラミド樹脂、およびゴムからなる群から選択される少なくとも1種のマトリクス成分とからなり、マトリクス成分100重量部に対して3〜500重量部のピッチ系黒鉛化短繊維を含有する熱伝導性組成物。
【請求項4】
該熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2、6−ナフタレート、脂肪族ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、アクリル及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂である請求項3に記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
該熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、熱硬化型変性PPE樹脂、熱硬化型PPE類、ポリイミド樹脂及びその共重合体、芳香族ポリアミドイミド樹脂及びその共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂である請求項3に記載の熱伝導性組成物。
【請求項6】
該ゴムが、天然ゴム、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、およびブチルゴムからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項3に記載の熱伝導性組成物。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか1項に記載の熱伝導性組成物を、成形してなる熱伝導性成形体。

【公開番号】特開2011−184827(P2011−184827A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51729(P2010−51729)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】