説明

ピペッタ用アダプタ

【課題】光が通過する試料の厚さを正確に設定することができるピペッタ用アダプタを提供することにある。
【解決手段】
本発明のアダプタは、本体、セル及び先端部を有し、セルは四角形断面を有する筒状体に形成され、交換可能である。アダプタの本体には、セルの両側の面を露出させる窓が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はピペッタの先端に装着するためのアダプタに関し、特に、分光光度計に使用して好適なピペッタ用アダプタに関する。
【背景技術】
【0002】
分光光度計を用いた分析では、試料セルに試料を充填し、それに光を照射し、透過光、蛍光等を測定する。近年、分光光度計用の試料としてタンパク質、DNA等の生体物質が用いられる。これらの試料は、微量であり且つ測定後に回収する必要がある。また、これらの試料は粘性が高く試料セルに付着し易い。従って、試料セルの洗浄が困難である。
【0003】
特開平7-301596号公報には、試料の採取手段を備えた試料セルの技術が開示されている。また、特開2005-147826号公報には、微量な物質の蛍光を測定する蛍光測定装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−301596号公報
【特許文献2】特開2005−147826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された濃度計では、ノズル部の液流路の両側に石英又はガラス製の円板状測光窓を設け、保持部材によって円板状測光窓を保持する。2つの円板状測光窓の間の距離が、光が通過する試料厚さとなる。特許文献2に記載された装置では、ピペットアダプタに装着されたチップ内に試料が保持される。チップ内の試料の深さが、光が通過する試料厚さである。
【0006】
このように、従来の技術では、光が通過する試料厚さを正確に設定することは困難である。
【0007】
本発明の目的は、光が通過する試料の厚さを正確に設定することができるピペッタ用アダプタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアダプタは、アダプタは、本体、セル及び先端部を有し、セルは四角形断面を有する筒状体に形成され、交換可能である。アダプタの本体には、セルの両側の面を露出させる窓が設けられている。
【発明の効果】
【0009】
本発明のピペッタ用アダプタによると、光が通過する試料の厚さを正確に設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1を参照して本発明によるアダプタの例を説明する。本発明のアダプタ2は、市販の汎用のピペッタ1の先端に装着可能である。ピペッタ1は先端部11、本体12、把持部13及び押圧部14を有し、先端部11にチップを装着する。押圧部14を押し込んで開放すると先端部11からチップに試料が吸引される。次に、押圧部14を押し込むと先端部11からチップ内の試料が吐き出される。
【0011】
本例では、チップの代わりに、アダプタ2をピペッタ1の先端部11に装着する。図1aは、アダプタ2がピペッタ1から分離された状態を示し、図1bは、アダプタ2がピペッタ1に装着された状態を示す。
【0012】
図2及び図3を参照して本発明のアダプタの構成を説明する。図2は本例のアダプタ2の正面構成を示し、図3は本例のアダプタ2の側面構成を示す。図2a及び図3aは本例のアダプタ2の外観を示し、図2b及び図3bは本例のアダプタ2の断面構造を示し、図2c及び図3cは本例のアダプタの分解構造を示す。
【0013】
図2c及び図3cに示すように、本例のアダプタ2は、本体21、セル22及び先端部23を有する。本体21は、ピペッタ1を受け入れるためのピペッタ装着部211とセル22を収容するためのセル収容部212とを有する。ピペッタ装着部211はピペッタ1の先端部11の外形に対応した円錐形状の穴211aを有し、セル収容部212にはセル22の外形に対応した四角形断面の穴212aを有する。ピペッタ装着部211の穴211aはセル収容部212の穴212aに接続されている。
【0014】
図2aに示すように、本体21のセル収容部212には窓24が形成されている。窓24は、セル収容部212の両側に設けられている。図2cに示すようにセル収容部212の外周には突起214が設けられている。
【0015】
セル22は断面が四角形の、好ましくは正方形の筒状体であり石英製である。尚、セル22は、少なくとも1対の平行な透明な面を有すればよい。マイクロリッタ以下の微量試料を測定する場合には、セル22の容積は微小である。先端部23は、本体係合部231とそれに接続された円錐部232を有する。
【0016】
図2c及び図3cに示すように、先端部23の本体係合部231には、本体21のセル収容部212が係合するための凹部231aが形成されている。先端部23の円錐部232には細孔232aが形成されている。細孔232aは、凹部231aの底面に接続されている。図2cに示すように、凹部231aの内壁には溝234が形成されている。図3aに示すように、先端部23の本体収容部231には、軸線方向に延びる切り込み235が形成されている。こうして切り込み235を設けることにより、本体収容部231が半径方向外方に容易に延びることができる。本体21及び先端部23は、樹脂、ゴム、プラスチック材等によって製造されてよい。
【0017】
本例のアダプタの組立方法を説明する。先ず、セル22を本体21のセル収容部212に挿入する。図2bに示すように、セル22がセル収容部212に挿入されると、セル22の端面はセル収容部212より僅かだけ突出してよい。
【0018】
次に、本体21のセル収容部212を先端部23の本体係合部231に係合させる。本体21のセル収容部212の外周の寸法は、先端部23の本体収容部231の凹部231aの内周の寸法より僅かに大きくてよい。この場合、先端部23の本体収容部231が半径方向外方に延びる。本例では、先端部23の本体収容部231に切り込み235が形成されているため、本体収容部231は容易に半径方向外方に容易に延びることができる。
【0019】
図2bに示すように、本体21のセル収容部212の突起214は、先端部23の本体係合部231の凹部231aの溝234に係合する。それによって、本体21、セル22及び先端部23は一体的に組み立てられる。
【0020】
セル22の外形と本体21のセル収容部212の凹部212aは互いに対応した形状を有し、セル22が本体21のセル収容部212の凹部212aに挿入されると両者はガタが無い状態で結合する。同様に、本体21のセル収容部212の外形と本体係合部231の凹部231aは互いに対応した形状を有し、本体21のセル収容部212が先端部23の本体係合部231の凹部231aに係合すると、両者はガタが無い状態で結合する。本体21、セル22及び先端部23は一体的に結合し、接合部に隙間が生じることはない。従って、図2b及び図3bに示すように、本体21のピペッタ装着部211の穴211a、セル22、及び、先端部23の細孔232aは1本の密閉通路を形成する。
【0021】
図4及び図5は本発明の分光光度計用試料装置を示す。分光光度計用試料装置は、アダプタ2が装着されたピペッタ1、ピペッタに装着されたロック解除機構41、及び、固定台42に装着されたロック機構43を有する。
【0022】
次に、図4を参照して本発明の分光光度計用試料装置を用いて試料を分析する方法を説明する。図4aは、本発明のアダプタ2が装着されたピペッタ1を用いて、試料を採取する方法を示す。尚、本例では、ピペッタ1にロック解除機構41が装着されている。ロック解除機構41は、ピペッタ1に対して自由に移動することができる。アダプタ2の先端が、容器4の試料3に浸かるようにピペッタ1を配置する。押圧部14を押し込んで開放するとアダプタ2に試料が吸引される。吸引された試料はセル22に保持される。
【0023】
次に、図4bに示すように、ロック機構43が装着された固定台42を用意する。ロック機構43は、括れ部431と係合部432を有し、板バネとして機能する金属板によって構成されている。固定台42にはアダプタ2の先端部23が係合するための凹部421を有する。
【0024】
アダプタ2が装着されたピペッタ1を下方に移動させる。アダプタ2がロック機構43の括れ部431に進入すると、括れ部431は開く。ピペッタ1を更に下方に移動させると、アダプタ2の本体21が係合部432に進入し、係合部432は開く。
【0025】
図4cに示すように、アダプタ2の本体21が係合部432を通過すると、板バネの作用により係合部432は元の位置に戻るように変形する。それによってアダプタ2の本体21の端部が係合部432に係合する。このとき、アダプタ2の先端部23は固定台42の凹部421に係合している。尚、ロック解除機構41は自由に移動することができるから、ロック機構43の上端に係合した状態で、そこに保持される。
【0026】
次に、図4dに示すように、ピペッタ1を上方に移動させる。ピペッタ1は上方に移動するが、アダプタ2の本体21の端部が係合部432に係合しているため、アダプタ2は移動しない。従って、アダプタ2のみが固定台42に保持される。
【0027】
この状態で分光光度計によって試料の濃度等を測定する。分光光度計の構造は既知であり、ここでは説明しない。分光光度計は、少なくとも、光を照射する光源と光を受光する受光部を有する。光源からの光は、アダプタ2の本体21の窓24に照射される。光は、窓24を経由してセル22を透過し、反対側の窓24から出射され、受光部によって受光される。受光部によって受光された光量によって試料の濃度が検出される。
【0028】
本例によると、光は一方の窓から照射され反対側の窓から出射される。従って、光は、セルの一方の面から入り反対側の面から出る。セルは四角形断面の筒状体である。セルの互いに向かい合う2つの内面の間の距離をdとすると、dは光が通過する試料の厚さを表わす。セルを高精度にて製造することにより、試料の厚さdは、常に一定となる。本例によると、従来の技術のように、光が通過する試料の厚さdの誤差に起因する測定精度の誤差は生じない。本例によると、セルに保持されている試料の量が多少変動しても、試料厚さは一定であり変化しない。
【0029】
本例によると、セルは4つの面を有し、これらの4つの面のいずれも測定に使用することができる。4つの面のうち窓に接するように配置された2つの面が使用される。しかしながら、長時間の使用後に、セルを90度回転させて再び本体に装着してよい。それによって、セルの他の2つの面を使用することができる。
【0030】
セルは交換可能な部材である。セルの4つの面を十分使用したのち新たにセルに交換することができる。
【0031】
図5を参照して、本発明の分光光度計用試料装置を用いて試料を分析した後に試料を回収する方法を説明する。分光光度計による試料の測定が終了すると、図5aに示すように、ピペッタ1を下方に移動させる。図5bに示すように、ロック解除機構41を手で押えて下方に移動させる。それによって、ロック機構43の括れ部431が開く。ロック解除機構41を更に下方に移動させると、ロック機構43を構成する金属板が開き、係合部432が開く。それによって、ロック機構43の係合部432はアダプタ2の本体21から離れる。ピペッタ1を更に下方に移動させると、ピペッタ1の先端部11がアダプタ2に係合する。
【0032】
次に、図5cに示すように、ピペッタ1を上方に移動させる。アダプタ2はピペッタ1と共に上方に移動する。アダプタ2が装着されたピペッタ1が上方に移動すると、ロック解除機構41は金属板の板バネの作用により、元の状態に戻る。
【0033】
図5dに示すように、アダプタ2が装着されたピペッタ1を、容器4の上に移動させ、ピペッタ1の押圧部14を押し込む。セル22に収容されている試料は容器4に排出される。こうして本例では、試料の回収を容易に行うことができる。
【0034】
図6は、本例のアダプタ2を、本体21、セル22及び先端部23の3つの要素に分解し、それを洗浄液6内に保持した状態を示す。この状態で、例えば超音波洗浄器に装填してよい。本例では、アダプタ2を分解することができるから、洗浄が容易であり、且つ、部品の交換が容易である。例えば、セル22を他のセルと交換して用いることができる。
【0035】
以上本発明の例を説明したが本発明は上述の例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲にて様々な変更が可能であることは当業者に容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明によるアダプタを汎用のピペッタに装着する方法を示す図である。
【図2】本発明によるアダプタの正面構成を示す図である。
【図3】本発明によるアダプタの側面構成を示す図である。
【図4】本発明の分光光度計用試料装置を用いて試料を分析する方法を説明するための図である。
【図5】本発明の分光光度計用試料装置を用いて試料を回収する方法を説明するための図である。
【図6】本発明によるアダプタの洗浄方法を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1…ピペッタ、2…アダプタ、3…試料、4…容器、6…洗浄液、11…先端部、12…本体、13…把持部、14…押圧部、21…本体、22…セル、23…先端部、24…窓、41…ロック解除機構、42…固定台、43…ロック機構、211…ピペッタ装着部、211a…穴、212…セル収容部、231…本体係合部、231a…凹部、232…円錐部、232a…細孔、234…溝、235…切り込み、421…凹部、431…括れ部、432…係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピペッタに係合する本体と、先端部と、上記本体と上記先端部の間に保持された1対の平行な面を有する筒状体である透明な交換可能なセルと、を有し、上記本体には上記セルの平行な面を露出させる窓が設けられているピペッタ用アダプタ。
【請求項2】
請求項1記載のピペッタ用アダプタにおいて、上記本体はピペッタを受け入れるためのピペッタ装着部と上記セルを収容するためのセル収容部とを有し、上記先端部は上記本体のセル収容部を受け入れるための凹部と該凹部に接続された孔を有し、上記本体のピペッタ装着部に受け入れられたピペッタの先端から上記セルを経由し、上記先端部の孔まで密閉された通路が形成されることを特徴とするピペッタ用アダプタ。
【請求項3】
請求項2記載のピペッタ用アダプタにおいて、上記先端部の凹部の内面には溝が形成され、上記本体のセル収容部の外面には突起が形成され、上記先端部の凹部に上記本体のセル収容部が受け入れられたとき、上記本体のセル収容部の外面の突起は上記先端部の凹部の内面の溝に係合することを特徴とするピペッタ用アダプタ。
【請求項4】
請求項2記載のピペッタ用アダプタにおいて、上記先端部の凹部を形成する部材に軸線方向に延びる切り欠きが形成されていることを特徴とするピペッタ用アダプタ。
【請求項5】
請求項1記載のピペッタ用アダプタにおいて、上記本体、上記先端部及び上記セルは分解可能であることを特徴とするピペッタ用アダプタ。
【請求項6】
請求項1記載のピペッタ用アダプタにおいて、上記ピペッタは市販の汎用のピペッタであることを特徴とするピペッタ用アダプタ。
【請求項7】
ピペッタと、四角形の筒状体である透明なセルと該セルの両側の面を露出させる窓を有し上記ピペッタの先端に装着されたアダプタと、板バネ機構を備えた係合部を有するロック機構と、を有し、上記アダプタが装着されたピペッタを上記ロック機構に挿入し、上記アダプタを上記ロック機構の係合部に係合させ、次に、上記ピペッタを上記ロック機構より抜き出すと、上記アダプタは上記ピペッタより外れ、上記ピペッタのみが抜き出されることを特徴とする分光光度計用試料装置。
【請求項8】
請求項7記載の分光光度計用試料装置において、上記ピペッタはロック解除機構を有し、上記アダプタが上記係合部に係合して保持されている上記ロック機構に上記ピペッタを挿入し、上記ロック解除機構によって上記アダプタと上記ロック機構の係合部の係合が解除されるように構成されている分光光度計用試料装置。
【請求項9】
本体と先端部と上記本体と上記先端部の間に配置された四角形の筒状体である透明なセルと、を有し、上記本体には上記セルの両側の面を露出させる窓が設けられているアダプタをピペッタの先端に装着することと、
上記ピペッタの先端に装着された上記アダプタの先端を試料に漬けることと、
上記ピペッタを操作し、上記試料を上記アダプタのセルに吸引することと、
係合部を有するロック機構を用意することと、
上記アダプタが装着されたピペッタを上記ロック機構に挿入することと、
上記アダプタが上記ロック機構の係合部に係合したとき上記ピペッタを上記ロック機構より引き抜くことと、
上記アダプタが保持された上記ロック機構を分光光度計に装填することと、
上記分光光度計からの光を上記アダプタの一方の窓に照射することと、
上記アダプタの他方の窓からの光を受光することと、
を含む分光光度計による試料の測定方法。
【請求項10】
請求項9記載の分光光度計による試料の測定方法において、
ロック解除機構が装着されたピペッタを上記アダプタが保持された上記ロック機構に挿入することと、
上記ロック解除機構を用いて上記アダプタと上記ロック機構の係合部の係合を解除することと、
上記ピペッタの先端に上記アダプタを係合させ、上記ピペッタを上記ロック機構より引き抜くことと、
上記ピペッタを操作し上記アダプタのセルに収容された上記試料を排出することと、
を含む分光光度計による試料の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−333437(P2007−333437A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162864(P2006−162864)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(505099772)株式会社日立ハイテクマニファクチャ&サービス (11)
【Fターム(参考)】