説明

ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン及びピロロ[2,3−d]ピリミジンの4−置換誘導体並びにそれらの使用

ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン及びピロロ[2,3−d]ピリミジンの4−置換誘導体を記載する。これらの化合物は抗腫瘍剤として活性である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン及びピロロ[2,3−d]ピリミジンの4−置換誘導体に関する。加えて、本発明は、限定されるものではないが特に腫瘍及び白血病の治療のための薬剤としての本明細書に記載した化合物の使用、医薬組成物調製のためのそれらの使用、化合物及びそれらの中間体の合成法、に関する。
【背景技術】
【0002】
過去30年にわたり、腫瘍性疾患が欧米人の間で第二の最も一般的な死亡原因となっており、罹患率は時とともに増加している。その間、ガン患者の生存率が大幅に上昇しているとしても、罹患率はなお非常に高い。標準的なものから腫瘍性のものへの表現型の変化は、相当複雑な生物学的事象であり、細胞生理学における多くの変化を含んでいる。これらのなかでは伝達因子の過剰発現が決定的役割を有しており、最も研究され且つ興味深い変化の一つはSrcチロシンキナーゼ(TK)の過剰発現に関係のある変化である。そのようなTKは、プロテインキナーゼ(PTK)の非受容体Srcファミリーのプロトタイプメンバーである。Srcは細胞受容体の多くの様々なクラスの関与に続いて活性化され、様々なシグナル伝達経路中の収束点として関与している4,5。この点で、SrcはTK結合型受容体、例えば、上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)及びGタンパク結合型受容体など、によって開始される信号伝達カスケードの決定的に重要な成分であり、EGFR及びHER-2/neu PTK受容体6,7(これらの両者とも癌に関係がある)と直接関係があり、さらにそれらを介してシグナル伝達を調節しうる。最後に、Src過剰発現及び過剰活性化は、Srcが関与している非常に多数の成長調節プロセスと関連している。Srcの活性化のプロセスはチロシン416のリン酸化が介在する;これに基づき、Srcのリン酸化プロセスの阻害は制御不能な腫瘍細胞増殖を停止させ、ガンの治療のための新たな治療薬として重要な役割を演じる可能性がある。
【0003】
本発明者らは、新規な種類のピラゾロ[3,4−d]ピリミジン誘導体を設計し合成した。本発明者らはさらに、それらの化合物のいくつかがA431、8701-BC、及び白血病細胞株に対する細胞増殖阻害剤であることを発見した。したがって、前記の新規な化合物は可能性のある抗腫瘍剤及び抗白血病剤と考えることができる。それゆえ、本発明の対象は、下記式(I)を有するピラゾロ[3,4−d]ピリミジン又はピロロ[2,3−d]ピリミジン4−置換誘導体である。
【0004】
【化1】

【0005】
上記式中:
X=CH又はN;
R=H、アルキルチオ、又はアミノアルキルチオ;
=NHシクロプロピル、又はNHC、又はNHC、又はN(CHCH、又はNHCHCHOC、又は1−ピロリジニル、又は1−ピペリジニル、又は4−モルホリニル、又はNHシクロへキシル、又は1−ヘキサヒドロアゼピニル、又はNHCH、又はNHCHCH
=H、又は下記式:
【0006】
【化2】

【0007】
(式中、R=H、ハロゲン、アルキル)であり;
=下記式:
【0008】
【化3】

【0009】
であり;
=Cl、Br、又はOH、である。
【0010】
好ましくは、X=N;R=H又はSCH、又はSC;R=NHC、又はNHC、又はN(CHCH、又はNHCHCHOC、又は1−ピロリジニル、又は1−ピペリジニル、又は4−モルホリニル、又はNHシクロへキシル、又は1−ヘキサヒドロアゼピニル、又はNHCH、又はNHCHCH
=H;R=H;
=下記式:
【0011】
【化4】

【0012】
であり、
=Cl、Br、OH、である。
【0013】
好ましくは、X=N;R=SCH;Rは以下の残基の1つ:NHC、又は1−ピペリジニル、又は4−モルホリニル、又はNHCH、又はNHCHCH;R=R=H;R=2−クロロ−2−フェニルエチル、である。
【0014】
好ましくは、X=N;R=SC;Rは以下の残基の1つ:NHC、又はNHC、又はNHCH;R=R=H;R=2−クロロ−2−フェニルエチル、である。
【0015】
好ましくは、X=N;R=H;Rは以下の残基の1つ:NHC、又はNHシクロへキシル;R=R=H;R=2−ブロモ−2−フェニルエチル、である。
【0016】
好ましくは、X=N;R=H;Rは以下の残基の1つ:1−ピペリジニル、又はNHCH、又はNHCHCH;R=R=H;R=2−ヒドロキシ−2−フェニルエチル、である。
【0017】
好ましくは、X=N;R=H;Rは以下の残基の1つ:NHCHCHOC、又はNHCH、又はNHCHCH;R=R=H;R=スチリル、である。
【0018】
本発明の1つの態様においては、本発明の上記化合物は医薬として、好ましくは抗腫瘍剤及び/又は抗白血病剤として用いられる。
【0019】
本発明の別の対象は、少なくとも1種の本発明の化合物又はそれらの医薬として許容可能な塩、及び適切な賦形剤及び/又は希釈剤を含む医薬組成物である。
【0020】
本発明の化合物又はそれらの塩は、純粋なものとして又は医薬組成物、すなわち、非経口投与、経口投与、又は直腸投与に適した医薬組成物として投与されうる。前記組成物のそれぞれは、選択した医薬剤形に適した、賦形剤及び/又はフィラー及び/又は添加剤及び/又はバインダー、コーティング剤及び/又は懸濁剤及び/又は乳化剤、保存剤及び/又は放出制御剤、を含むことができる。
【0021】
本発明は図1〜5を参照して説明される。
【0022】
〔実施例1 化学:物質及び合成方法〕
化合物1〜2(図(Figure )1)は、我々が報告した手順に従って得られる5-アミノ-1-(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)-1H-ピラゾロ-4-カルボン酸エチルエステル5から出発して調製した。THF中で8時間還流してベンゾイルイソチオシアネートと化合物5を反応させることにより中間体6が得られ、中間体6は100℃で10分間、1M NaOHで処理し、続いて酢酸で酸性化することによりピラゾロ[3,4−d]ピリミジン7に環化させた(80%収率)。THF中で還流下、ヨウ化メチル又はヨウ化エチルで6位のチオ基をアルキル化することにより、6-チオアルキル誘導体8が得られ、これを次にCHCl3中、ビルスマイヤー(Vilsmeier)錯体(POCl3:DMF、4当量)で処理して、ピリミジン核の4位とN1側鎖の両方に塩素原子を有するジハロゲン化化合物9を得た。化合物9をシリカゲルカラムでのクロマトグラフィーによって良好な収率で精製した。最後に、過剰の様々なアミン類でC4位の塩素原子を位置選択的に置換することにより、60〜80%の範囲の収率で所望する化合物1〜2を得た。特に、CH2-CH側鎖の1H NMRのケミカルシフト(これは出発物質のパターンと同じABXの複雑なパターンを与える)によって示されるとおり、側鎖の塩素原子はベンジル位であるにも関わらず、アミンによって置換されない。
【0023】
190℃で8時間の、過剰のホルムアミドと化合物5との反応は、ピラゾロ[3,4-d]ピリミジノン10を与え、これは粗生成物を2M NaOH中に溶かし、活性炭とともに煮沸し、次に酢酸で沈殿させることによって精製した(収率70%、m.p.271〜272℃)。
【0024】
化合物11は、BealとVeliz9の手順に従い、化合物10をアセトニトリル中、−20℃でHMPT/NBSの混合物で処理し、次にLiBrを加えて還流することにより44%の収率で調製した。側鎖上の二級OHは、その1H NMRスペクトルによって示されるように、この手順によって変化せずに残ることを指摘することは興味ぶかいことである。化合物11をモルホリン、ブチルアミン、又はピペリジンで処理することにより、所望する化合物3a〜cが得られた。
【0025】
還流下、POCl3と化合物10を反応させることにより1-スチリル誘導体12が得られ、これを過剰の様々なアミン類とトルエン中で反応させて、化合物4a〜dが好収率で得られた。
【0026】
出発物質はAldrich-Italia(ミラノ、イタリア)から購入した。融点は、Buechi 530装置で測定し、補正はしていない。IRスペクトルは、Perkin-Elmer 398分光計によりKBr中で測定した。1H NMRスペクトルは、Varian Gemini 200 (200 MHz)装置により(CD3)2SO中で測定した。ケミカルシフトは、内部標準としてのTMSに対するδ(ppm)とし、JはHz単位で報告する。1Hパターンは、以下の略号を用いて記載する:s=一重線(シングレット)、d=二重線(ダブレット)、t=三重線(トリップレット)、q=四重線(カルテット)、sx=六重線(セクステット)、m=多重線(マルチプレット)、br=幅広い(ブロード)。全ての化合物はTLC (Merck、Silica gel 60 F254、溶離液CHCl3)によって純度を試験した。C、H、Nについての分析は、理論値の±0.3%以内だった。
【0027】
スキームを図(Figure)1に示す。
【0028】
エチル5-{[(ベンゾイルアミノ)カルボノチオイル]アミノ}-1-(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)-1H-ピラゾール-4-カルボキシレート(6)
無水テトラヒドロフラン(THF)(20mL)中の化合物5(2.7g、10mmol)及びベンゾイルイソチオシアネート(1.7g、11mmol)の懸濁液を12時間還流させた。溶媒を減圧下で留去した;油状残留物はジエチルエーテル(30mL)を加えて結晶化させ、白色固体として純粋な生成物6(4.07g、93%)を得た;mp171〜172℃)。
【0029】
【数1】

【0030】
1-(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)-6-チオキソ-1,5,6,7-テトラヒドロ-4H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-オン(7)
2M NaOH(40mL)中の化合物6(4.38g、10mmol)の溶液を10分間還流させ、次にH2O(40mL)で希釈した。この溶液を氷酢酸で酸性化した。12時間、冷凍庫中に置いて、固体が結晶化し、ろ過し、無水エタノールから再結晶して白色固体として化合物7を得た(2.3g、80%);mp264〜265℃。
【0031】
【数2】

【0032】
1-(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)-6-(メチルチオ)-1,5-ジヒドロ-4H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-オン(8a)
無水THF(20mL)中の化合物7(2.88g、10mmol)とヨウ化メチル(7.10g、50mmol)の溶液を12時間還流させた。溶媒と過剰なヨウ化メチルを減圧下で蒸留により除去した;CHCl3(10mL)を加えて油状残留物を結晶化させ、無水エタノールでの再結晶により精製して化合物8aを白色固体として得た(2.17g、72%);mp208〜209℃。
【0033】
【数3】

【0034】
1-(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)-6-(エチルチオ)-1,5-ジヒドロ-4H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-オン(8b)
化合物8aについて説明した合成スキームにしたがい、アルキル化剤としてヨウ化エチルを用いることにより、化合物8bを調製した。この場合、粗生成物は溶離液としてCHCl3:MeOH(9:1)の混合物を用い、カラムクロマトグラフィー(Silica Gel、100メッシュ)によって精製し、純粋な生成物8bを淡黄色固体として得た(2.05g、65%):mp199〜200℃。
【0035】
【数4】

【0036】
4-クロロ-1-(2-クロロ-2-フェニルエチル)-6-(メチルチオ)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン(9a)
POCl3(6.13g、40mmol)及び無水ジメチルホルムアミド(DMF)(2.92g、40mmol)から予め調製したビルスマイヤー(Vilsmeier)錯体を、CHCl3(20mL)中の化合物8a(3.02g、10mmol)の懸濁液に加えた。この混合物を4時間還流させた。この溶液をH2O(2×20mL)で洗浄し、乾燥し(MgSO4)、ろ過し、さらに減圧下で濃縮した。未精製オイルを、溶離液としてジエチルエーテル/石油エーテル(bp40〜60℃)(1:1)の混合物を用い、カラムクロマトグラフィー(Silica gel、100メッシュ)で精製し、純粋な生成物9a(2.2g、65%)を白色固体として得た。mp95〜96℃。
【0037】
【数5】

【0038】
4-クロロ-1-(2-クロロ-2-フェニルエチル)-6-(エチルチオ)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン(9b)
化合物8bから出発し、化合物9aについて説明した合成スキームにしたがって化合物9bを調製し、純粋な生成物9b(2.12g、60%)を白色固体として得た。mp89〜90℃。
【0039】
【数6】

【0040】
化合物1a〜f及び2a〜cのための一般手順
無水トルエン(20mL)中の化合物9a又は9b(10mmol)の溶液に、適切なアミン(40mmol)を加え、反応混合物を室温で24時間撹拌した。混合物をH2Oで洗浄し、有機相を乾燥し(MgSO4)さらに減圧下で留去した;石油エーテル(bp40〜60℃)(10mL)を加えることによって残留オイルを結晶化させて、生成物1a〜f及び2a〜cを得た。
【0041】
【数7A】

【数7B】

【0042】
1-(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)-1,5-ジヒドロ-4H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-オン(10)
ホルムアミド(10g、333mmol)中の化合物5(2.75g、10mmol)の懸濁液を190℃に8時間加熱し、次にH2O(300mL)に注いだ。粗生成物をろ過し、2M NaOH(100mL)中に溶解し、活性炭とともに煮沸し、氷酢酸で沈殿させることによって精製した。固体をろ過し、無水エタノールから再結晶して、化合物10(1.79g、70%)を白色固体として得た:mp270〜271℃。
【0043】
【数8】

【0044】
2-(4-ブロモ-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)-1-フェニルエタノール(11)
無水アセトニトリル(20mL)中の化合物10(2.56g、10mmol)及びNBS(7.12g、40mmol)の冷却した懸濁液(-20℃)に、ヘキサメチルホスホラストリアミド(HMPT)(6.53g、40mmol)を滴下して加えた。添加後、冷却浴を取り除き、反応混合物を室温で0.5時間撹拌した。LiBr(3.44g、40mmol)を加えて混合物を70℃で5時間加熱した。混合物は減圧下で溶媒留去した。暗色オイルを、溶離液としてCHCl3を用いたカラムクロマトグラフィー(Silica Gel、100メッシュ)によって精製し、純粋な生成物11(1.40g、44%)を白色固体として得た。mp146〜147℃。
【0045】
【数9】

【0046】
[化合物3a、bのための一般的手順]
化合物3a、bは、生成物11から出発して、化合物1及び2について説明した合成スキームに従い調製される。
【0047】
【数10】

【0048】
4-クロロ-1-(2-フェニルビニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン(12)
化合物10(2.56g、10mmol)にPOCl3(14g、91mmol)を加え、混合物を12時間還流させ、次に室温まで冷却した。過剰のPOCl3を減圧下、蒸留により除去した。残留物にH2O(20mL)を注意深く加え、懸濁液をCHCl3(3×20mL)で抽出した。有機溶液をH2O(10mL)で洗浄し、乾燥し(MgSO4)、ろ過し、さらに減圧下で濃縮した。未精製茶色オイルを溶離液としてCHCl3を用いたカラムクロマトグラフィー(Florisil(登録商標)100〜200メッシュ)によって精製し、純粋な生成物12(1.66g、65%)を白色固体として得た。mp139〜140℃。
【0049】
【数11】

【0050】
[化合物4a〜dのための一般的手順]
化合物4a〜dは、生成物12から出発して、化合物1、2、及び3について説明した合成スキームに従い調製される。
【0051】
【数12】

【0052】
1-(2-ブロモ-2-フェニルエチル)-1,5-ジヒドロ-4H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-オン(13)
0℃に冷却した、無水DMF(20mL)中の化合物10(2.56g、10mmol)の懸濁液に、予め調製しておいた、三臭化リン(3.27g、12.1mmol)、ピリジン(0.5mL)、及びトルエン(5mL)の溶液を滴下して加えた。混合物を室温で3日間撹拌した。溶媒を減圧下で除去し、残留物を氷水(200mL)に注いだ。白色固体をろ過し、無水エタノールから結晶化させ、純粋な生成物3(1.91g、60%)を得た。mp230〜231℃。
【0053】
【数13】

【0054】
1-(2-ブロモ-2-フェニルエチル)-4クロロ-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン(14)
POCl3(2.45g、16mmol)と無水ジメチルホルムアミド(DMF)(1.16g、16mmol)から予め調製したビルスマイヤー錯体を、CHCl3(10mL)中の化合物3(0.5g、1.56mmol)の懸濁液に加えた。混合物を12時間還流させた。溶液をH2O(2×20mL)で洗浄し、乾燥し(MgSO4)、ろ過し、さらに減圧下で濃縮した。未精製オイルを溶離液としてCH2Cl2を用いるカラムクロマトグラフィー(Florisil(登録商標)、100メッシュ)で精製して、純粋な生成物4(0.41g、78%)を白色固体として得た。mp114〜115℃。
【0055】
【数14】

【0056】
1-(2-ブロモ-2-フェニルエチル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン 4-アミノ置換体5a〜k
無水トルエン(5mL)中の化合物14(0.3g、1mmol)に、適切なアミン(4mmol)を加え、反応混合物を室温で36時間撹拌した。H2O(10mL)で抽出した後、有機相を乾燥し(MgSO4)、ろ過し、減圧下で濃縮した。無水エタノール(10mL)を加えて油状残留物を結晶化させ、生成物5a〜kを得た。
【0057】
【数15A】

【数15B】

【0058】
〔実施例2 様々な腫瘍細胞株にたいする抑制(阻害)活性〕
本試験の目的は、発明した化合物の抗増殖活性の評価である。特に、腫瘍細胞増殖を抑制するその能力について、これらの化合物を評価した。様々な新生物標的に対するこれらの化合物の可能性ある応用性を示すために、以下の4種の異なる細胞株を選択した:1)A431ヒト表皮ガン細胞10、これは上皮増殖因子受容体(EGFR)及びSrcの両方の過剰発現として公知である。;2)8701-BC乳ガン細胞11、これは原発性脈管浸潤上皮性悪性腫瘍から、すなわち、転移プロセスのクローン選択前に確立された。この細胞株は哺乳動物腫瘍細胞に典型的な多くの培養物の性質を保っており、Srcチロシンキナーゼ(TK)を過剰発現していることが知られている12。;3)K-562細胞株は、終末期急性転化にあった慢性骨髄性白血病の53歳の女性の胸水から確立された。K-562芽細胞は、自発的に分化しうる多分化能のある造血系悪性細胞である。;4)MEG-01細胞株は、慢性骨髄性白血病の巨核芽
球性急性転化の患者から採取した骨髄細胞から1983年に誘導された。K-562及びMEG-01細胞は、骨髄性細胞で発現される2、3のキナーゼ類であるBcr-Ablに対してポジティブであり、それぞれSrcチロシンキナーゼファミリーのLyn及びHckメンバーに属している。
【0059】
〔材料及び方法〕
化合物類は0.1M DMSO中に溶解し、さらに適した細胞培養媒体中で適切な濃度に希釈した。PP2、(1-(t-ブチル)-3-(4-メチルフェニル)-4-アミノピラゾロ[3,4-d]ピリミジンを、チロシンキナーゼのSrcファミリーに対するその有効性及び選択的効果についての比較化合物として選択した13〜18
【0060】
〔細胞増殖アッセイ〕
A431(2×104細胞/mL)を、100μLのDMEM培地(BioWhittaker、Vallensbaek、DK)中でインキュベートした。別に、8701-BC(2×104細胞/mL)を100μLのRPMI 1640培地(BioWhittaker、Vallensbaek、DK)中でインキュベートした。両細胞株には10%ウシ胎仔血清(FCS;BioWhittaker、Vallensbaek、DK)及び抗生物質(100U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシン)を5%CO2中37℃で8時間与えて付着させた。付着後、培地を、0.5%FCSを補った100μL培地と交換した。夜通しのインキュベーション後、培地を交換し、様々な濃度(0〜100μM)の試験化合物とともに10%FCSを含む100μL DMEMを細胞培養物に添加した。
【0061】
続く72時間、細胞を、10μLの3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホニル)-2H-テトラゾリウム(MTT)溶液(5mg/mL)で処理した。4時間後、0.04M HCl溶液中の100μLのプロパン-2-オールを加え、ホルマザン生成物を溶かした。630nmの参照波長を用いて570nmでELISAプレートリーダーを使用してミクロプレートを読みとった。
【0062】
MEG-01及びK562(2×104細胞/mL)を5%CO2中37℃で、10%ウシ胎仔血清(FCS;BioWhittaker、Vallensbaek、DK)及び抗生物質(100U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシン)を補って、100μL RPMI 1640培地(BioWhittaker、Vallensbaek、DK)中でインキュベートした。0.5%FSCを補った100μL培地での夜通しのインキュベーション後、培地を交換し、異なる濃度(0〜100μM)の試験化合物とともに10%FSCを含む100μL RPMI 1640を細胞培養物に添加した。
【0063】
〔A431及び8701-BC細胞に対する、化合物によるホスホ-Src抑制〕
Src (Tyr416)に対するホスホ-特異的抗体を用いて免疫ブロット分析を行った。フィルターはストリッピング後、特異的非ホスホ抗Src抗体で再検査した。
【0064】
[8701-BC免疫ブロット分析]
細胞を上で報告したように処理したが、細胞を上記化合物に3時間曝露させ、次に100nM EGF (Cell Signaling Technology, MA, USA) で処理した。5分後、細胞を採取し、1%Triton X-100を含む適切な緩衝液中で溶解した。タンパク質をBCA法(Pierce Rockford, U.S.A)によって定量した。等量の全細胞タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、ニトロセルロースフィルターに移し、Src (Y416)に対するホスホ-特異的抗体及び対照として非ホスホ-特異的Src (Cell Signaling Technology, MA, U.S.A)を用いて免疫ブロットにかけた。
【0065】
〔A431免疫ブロット分析〕
Src Tyr416のリン酸化は、酵素活性化の機構において重要なステップである19。A431細胞は、EGF依存性シグナル伝達に関して、特性がよく明らかにされている。より詳細には、これらの細胞はその表面上で高いレベルのEGF受容体を発現し、トランスフォーミング成長因子-αの自己分泌に応答して増殖するが20、それらはまた、増殖するためにSrcのリン酸化を必要とする。これらのピラゾロ-ピリミジン化合物類がSrc Tyr416のリン酸化を抑制することができるか否かを決定するために、ホスホ特異的抗-Src (Tyr416)抗体(Cell Signaling Technology, MA, U.S.A.)を用いた。参照化合物として用いたPP2は、Src選択的チロシンキナーゼ阻害剤として特定されており、幹細胞因子(stem cell factor(SCF))受容体c-Kitの下流での事象を含んでいる、Srcキナーゼと関連するシグナル伝達経路を調べるために広範囲に用いられている16。結果として、我々は、化合物1b、1e、及び2cがPP2とほとんど同じ有効性でSrcリン酸化を抑制可能であることを発見した(図(Figure)4、表(Table)3)。
【0066】
〔細胞毒性〕
化合物の細胞毒性効果を、トリパンブルー排除法によって評価した。細胞は、1%FCS中、漸次増加させた濃度(10nM〜10μM)を用いて37℃で1時間刺激した。細胞を次にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で5分間、0.4%トリパンブルーによって染色した。死滅細胞数及び生存細胞数を盲検法により顕微鏡で計数した。全細胞数に対する死滅細胞のパーセンテージを計算した。表1に報告した全ての化合物は、報告した細胞株に対して(試験した濃度において)細胞毒性を示さなかった。
【0067】
〔結果〕
A431及び8701-BC細胞に対しての本化合物の抗増殖活性の結果を、参照化合物として選択したPP2の活性と比較して表1に報告する。
【0068】
【表1A】

【表1B】

【表1C】

【0069】
〔表1についての説明〕
MTTアッセイ21を用いて72時間の間、各化合物(0〜100μM)でインキュベートされた指数関数的に増殖する8701-BC細胞について、IC50値を決定した。このIC50値は2通りで実施した3つの独立した試験の平均±SEMである。NA=100μM濃度で不活性。IC50値は、それぞれ4通りで行った一連の個別アッセイの平均±SEMである。
我々のシステムを試験するために、我々は周知の抗増殖剤AG1478を用いている。結果として、A431細胞に対するその化合物のIC50(20μM)は、文献22で報告されたものと同程度だった。しかし、試験した化合物がSrcリン酸化を抑制することを発見したため、我々はSrcリン酸化の非常に強力かつ選択的阻害剤として公知のPP2の活性と比較して、試験した化合物の構造活性相関を論じた。IC50値はそれぞれ4通りで行った一連の個別アッセイの平均±SEMである。
【0070】
これらの化合物の抗増殖活性を調べるために、Src (Tyr416)のリン酸化に対する阻害効果を、100nM (上皮細胞増殖因子)EGFで処理した8701-BC細胞について試験した。新しく合成した化合物の多く(すなわち、1b-g、1i-k、2c、d、f、3f、g、及び4b、e-h、これらは化合物の全体数の約50%に相当する。)が、8701-BC細胞に対する抗増殖活性によって特徴づけられ、これは31.2μM (1f)と64.2μM(1b)の間の範囲にあって、PP2のもの(61.8μM、図(Figure)2、表1)と同程度か又はより優れている。
【0071】
【表2】

【0072】
さらに、可能性ある標的の一つ(しかし唯一ではない)は、Src酵素のリン酸化の阻害に代表されることから、我々はA431及び8701-BC細胞の両方における、化合物によるホスホ-Src阻害を試験した。Src (Tyr416)にホスホ-特異的抗体を用いて行う免疫ブロット分析法は、対照に対して、試験した化合物に曝した8701-BC細胞のSrc活性化-リン酸化の阻害を明確に示した。特に、化合物1a、1e、及び1fは、参照化合物PP2よりも良好にSrcリン酸化の抑制を示すことを発見した(図(Figure)3)。それと別に、化合物2cはかなりの阻害(抑制)活性を保持していたが、PP2よりは強力でないことが発見された。同時に、Srcリン酸化及び細胞増殖の抑制(阻害)の低下の発生は、我々の化合物がSrcリン酸化の阻害を通して増殖を抑制しうると考えられ、なぜなら、Srcリン酸化は細胞増殖及び運動性の刺激をもたらすカスケードを仲介するからである。
【0073】
A431細胞に対する抗増殖活性に関しては、11種の化合物(すなわち、1b-g、1i、3c、e及び4i、j、表1)が、参照化合物PP2 (32μM)の活性と同程度か又はより優れたIC50活性値をもつことを発見した。図(Figure)4及び表3は、PP2に対し、最も興味ある化合物(1b、1e及び2c)の抗増殖活性を示している。
【0074】
【表3】

【0075】
さらに、ホスホ-Src阻害試験の結果は、化合物1b、2c、及び1eが、PP2とほぼ同じ有効性でSrcリン酸化を抑制しうることを示した(図(Figure)5)。
【0076】
Srcリン酸化の低減は、細胞増殖の唯一ではないが確実に一つの機構である。我々の化合物がSrcリン酸化を阻害しうることが判っているが、それはリン酸化が細胞増殖及び運動性の刺激を直接もたらすシグナル伝達カスケードを仲介しているからである。
【0077】
最後に、いくつかの化合物は、参照化合物のものよりも低いIC50で、2種の慢性骨髄性白血病細胞株Meg-01及びK562に対する阻害効果をも示している。特に、2c及び2dは50μMよりも良好な活性を示した。
【0078】
【表4】

【0079】
〔参考文献〕


【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図(Figure)1は、化合物(Compound)1〜5の合成経路を示す。
【図2】図(Figure)2は、MTTアッセイによって測定した、8701-BC細胞の増殖への化合物1a、1e、1f、及び2cの抑制効果を示す。値は、2通り実施した3つの独立した試験の平均±SEMである。
【図3】図(Figure)3は、参照化合物PP2に対する、8701-BC細胞の増殖への化合物1a、1e、1f、及び2cによるホスホ-Src抑制を示す。免疫ブロット法分析は、Src (Tyr416)に対するホスホ-特異的抗体を用いて行った。フィルターはストリッピング後に、特異的非ホスホ-抗Src抗体でさらに再検出をした。1列:細胞コントロール;2列:EGF(100nM)で15分間処理した細胞;3〜7列:特定した化合物10μMの存在下で3時間処理し、次にEGF(100nM)で15分間処理した細胞。結果は3つの独立した試験の代表値である。
【図4】図(Figure)4は、MTTアッセイ21によって測定した、A431細胞の増殖への化合物2c、1b、及び1eの抑制効果である。値は、2通り行った3つの独立した試験の平均±SEMである。
【図5】図(Figure)5は、参照化合物PP2と比較した、A431細胞に対する化合物1b、2c、及び1eによるホスホ-Src抑制を示す。細胞は、37℃で3時間、特定化合物10μMの存在下で、203細胞/mLの濃度で培養した。EGF(0.1μM、Cell Signaling Technology社、 MA、USA)は細胞溶解前10分に加えた。細胞溶解液(40μgタンパク質)をSDS-PAGEにかけ、電気泳動によってポリフッ化ビニリデン膜に移した。特異的抗体を用いて免疫ブロッティングを行った。膜は発光性物質で可視化した。図(Figure)は、3つの類似試験の代表的ゲルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)を有するピラゾロ[3,4-d]ピリミジン及びピロロ[2,3-d]ピリミジンの4-置換誘導体。
【化1】

[上記式中:
X=CH又はN;
R=H、アルキルチオ、又はアミノアルキルチオ;
=NHシクロプロピル、又はNHC、又はNHC、又はN(CHCH、又はNHCHCHOC、又は1−ピロリジニル、又は1−ピペリジニル、又は4−モルホリニル、又はNHシクロへキシル、又は1−ヘキサヒドロアゼピニル、又はNHCH、又はNHCHCH
=H、又は下記式:
【化2】

(式中、R=H、ハロゲン、アルキル)であり;
=下記式:
【化3】

であり;
=Cl、Br、又はOH、である。]
【請求項2】
X=N;R=H又はSCH、又はSC;R=NHC、又はNHC、又はN(CHCH、又はNHCHCHOC、又は1−ピロリジニル、又は1−ピペリジニル、又は4−モルホリニル、又はNHシクロへキシル、又は1−ヘキサヒドロアゼピニル、又はNHCH、又はNHCHCH
=H;R=H;
=下記式:
【化4】

であり、
=Cl、Br、OH、である、
請求項1記載の、ピラゾロ[3,4-d]ピリミジンの4-置換誘導体。
【請求項3】
X=N;R=SCH;Rは以下の残基の1つ:NHC、又は1−ピペリジニル、又は4−モルホリニル、又はNHCH、又はNHCHCH;R=R=H;R=2−クロロ−2−フェニルエチル、である、
請求項1記載の1-(2-クロロ-2-フェニルエチル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジンの4-置換誘導体。
【請求項4】
X=N;R=SC;Rは以下の残基の1つ:NHC、又はNHC、又はNHCH;R=R=H;R=2−クロロ−2−フェニルエチル、である、
請求項1記載の1-(2-クロロ-2-フェニルエチル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジンの4-置換誘導体。
【請求項5】
X=N;R=H;Rは以下の残基の1つ:NHC、又はNHシクロへキシル;R=R=H;R=2−ブロモ−2−フェニルエチル、である、
請求項1記載の1-(2-ブロモ-2-フェニルエチル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジンの4-置換誘導体。
【請求項6】
X=N;R=H;Rは以下の残基の1つ:1-ピペリジニル、又はNHCH、又はNHCHCH;R=R=H;R=2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル、である、請求項1記載の1-(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジンの4-置換誘導体。
【請求項7】
X=N;R=H;Rは以下の残基の1つ:NHCHCHOC、又はNHCH、又はNHCHCH;R=R=H;R=スチリル、である、請求項1記載の1-スチリル-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジンの4-置換誘導体。
【請求項8】
医療に使用するための、請求項1〜7のいずれか一項に記載のピラゾロ[3,4-d]ピリミジン及びピロロ[2,3-d]ピリミジンの4-置換誘導体。
【請求項9】
抗腫瘍治療及び抗白血病治療用の、請求項1〜7のいずれか一項に記載のピラゾロ[3,4-d]ピリミジン及びピロロ[2,3-d]ピリミジンの4-置換誘導体。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のピラゾロ[3,4-d]ピリミジン及びピロロ[2,3-d]ピリミジンの4-置換誘導体又はそれらの医薬として許容可能な塩、並びに適切な賦形剤及び/又は希釈剤を含む医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−500206(P2007−500206A)
【公表日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−531028(P2006−531028)
【出願日】平成16年5月26日(2004.5.26)
【国際出願番号】PCT/IT2004/000303
【国際公開番号】WO2004/106340
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(504414721)ユニバーシタ・デグリ・スタディ・ディ・シエナ (4)
【Fターム(参考)】