説明

ピラゾール−3−カルボキサミド誘導体の経口投与のための医薬組成物

ピラゾール−3−カルボキサミド誘導体が、1又はいくつかの脂質溶媒及び非イオン性親水性界面活性剤を含む両親媒性混合物中に溶解している、ピラゾール−3−カルボキサミド誘導体の経口投与のための、水性媒質中で自己乳化性又は自己乳化性である液体又は半固体形態の医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピラゾール−3−カルボキサミド誘導体及びその医薬適合性の塩及びその溶媒和物の経口投与のために医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
「ピラゾール−3−カルボキサミド誘導体」という用語は、N−ピペリジノ−5−(4−ブロモフェニル)−1−(2,4−ジクロロフェニル)−4−エチルピラゾール−3−カルボキサミド及びN−ピペリジノ−5−(4−クロロフェニル)−1−(2,4−ジクロロフェニル)−4−メチルピラゾール−3−カルボキサミドから選択される化合物を意味する。本明細書では、これらの化合物を「本発明に従った有効成分」と称する。
【0003】
以下で化合物Aと称する、N−ピペリジノ−5−(4−ブロモフェニル)−1−(2,4−ジクロロフェニル)−4−エチルピラゾール−3−カルボキサミドは、欧州特許第EP−B−1 150 961号に記述されている。以下で化合物Bと称する、N−ピペリジノ−5−(4−クロロフェニル)−1−(2,4−ジクロロフェニル)−4−メチルピラゾール−3−カルボキサミドは、その国際一般名がリモノバントであり、欧州特許第EP−B−656 354号に記述されている。これらの化合物はカンナビノイドCB受容体アンタゴニストである。
【0004】
これらの化合物は水に非常に難溶性の分子であり、pH=6.5でそれぞれ0.1μg/ml及び1μg/lしか溶けない。さらに、これらの化合物は高い膜透過係数を有しており、M.C.GresらがPharmaceutical Research,1198,15(5),726−7333の中で述べているように、CaCO細胞モデルでそれぞれ78×10−7cm/秒及び96×10−7cm/秒である。
【0005】
微粉化形態のピラゾール−3−カルボキサミド誘導体と界面活性湿潤剤を含有する医薬組成物は、欧州特許第EP−B−969 832号に述べられている。ポロキサマー127及びマクロゴルグリセリド(macrogolglyceride)と混合した化合物Bを含有する医薬組成物は、国際特許出願第WO98/43635号に述べられている。
【0006】
国際特許出願第WO2004/009057号は、水性媒質中の結晶性ナノ粒子の分散を作製するための工程と、前記ナノ粒子の溶解を回避することを可能にする低濃度の界面活性剤の使用を述べており、実施例は特に化合物A及び化合物Bに関する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
今や、本発明に従った有効成分の溶解及び絶食状態のヒトへのバイオアベイラビリティーを改善することができる、本発明に従ったピラゾール−3−カルボキサミド誘導体を含有する医薬組成物が見出された。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの医薬組成物は、本発明に従った有効成分が、水性媒質中に希釈する間に自発的に微細エマルジョン又はマイクロエマルジョンを形成するように親水性界面活性剤を添加した脂質溶媒に溶解している、水分散性の均質な混合物から成る。これらの組成物は、自己乳化又は自己ミクロ乳化組成物として知られる。
【0009】
マイクロエマルジョンは、熱力学的に安定な透明の系である(Microemulsion and related system in Surfactant Sciences Series,Marcel Dekker Inc.,1988,30,p.p.25−26)。
【0010】
「微細エマルジョン」という用語は、分散乳球の大きさが5μm未満であるエマルジョンを意味する。この微細エマルジョンは、吸収部位まで、すなわち腸まで、胃腸管内で生存するのに十分なだけ安定であることを特徴とする。
【0011】
したがって、本発明は、N−ピペリジノ−5−(4−ブロモフェニル)−1−(2,4−ジクロロフェニル)−4−エチルピラゾール−3−カルボキサミド及びN−ピペリジノ−5−(4−クロロフェニル)−1−(2,4−ジクロロフェニル)−4−メチルピラゾール−3−カルボキサミドから選択されるピラゾール−3−カルボキサミド誘導体が、ピラゾール−3−カルボキサミド誘導体のための1又はそれ以上の脂質溶媒及び親水性/親油性バランスが10より大きい、好ましくは10から18の間である非イオン性親水性界面活性剤を含む混合物中に溶解している、前記ピラゾール−3−カルボキサミド誘導体の経口投与のための、水性媒質中に自己乳化する又は自己ミクロ乳化する、液体又は半固体形態の医薬組成物に関する。
【0012】
本発明によれば、有効成分の重量比は0.1から6%の間、好ましくは0.1から5%の間である。
【0013】
本発明に従った医薬組成物では、脂質溶媒又は脂質溶媒の混合物の重量比は35%から75%、好ましくは35%から55%である。
【0014】
好ましくは、本発明に従った医薬組成物の混合物はまた、両親媒性共溶媒又は両親媒性共溶媒の混合物を含む。このような両親媒性共溶媒の存在は、本発明に従った有効成分の溶解及び続く水性媒質中での医薬組成物の乳化を促進する。存在するとき、両親媒性共溶媒又は複数の両親媒性共溶媒の各々は、30%未満の重量比である。2つの両親媒性共溶媒が存在するとき、これらは、合計重量比が50%未満、好ましくは45%未満である。
【0015】
このように、本発明に従った医薬組成物は、好ましくは10%から50%、より特定すると10%から45%の両親媒性共溶媒を含む。
【0016】
好ましくは、非イオン性親水性界面活性剤は、親水性/親油性バランスが10より大きい単一界面活性剤、又は親水性/親油性バランスが10より大きい界面活性剤の混合物のいずれかから成る。本発明によれば、界面活性剤は、5%から50%、好ましくは5%から25%、最適には5%から15%の重量比である。
【0017】
したがって、本発明に従って使用される界面活性剤の濃度は、本発明の条件下での界面活性剤の可溶化能力を利用するために、臨界ミセル濃度(CMC)よりも著しく高い。
【0018】
本発明に従った医薬組成物は、軟ゼラチンカプセル又は封入もしくはフィルム被覆硬ゼラチンカプセル中で投与し得る。
【0019】
本発明によれば、
ポリオキシエチレン35硬化ヒマシ油:Cremophor(登録商標)EL、ポリオキシエチレン40硬化ヒマシ油:Cremophor(登録商標)RH40、どちらもBASFにより販売;
ポリオキシエチレンポリソルベート:Tween(登録商標)80、Tween(登録商標)20、Tween(登録商標)60、Tween(登録商標)85、ICIにより販売;
モノラウリン酸ソルビタン:Span 20、モノオレイン酸ソルビタン:Span 80、どちらもICIにより販売;
ビタミンE/TPGS:トコフェリルプロピレングリコール1000スクシネート、Eastmanにより販売;
ポリエチレングリコール15ヒドロキシステアレート:Solutol(登録商標)HS15、BASFにより販売、
などの非イオン性界面活性剤を使用することが可能である。
【0020】
好ましい親水性界面活性剤は、単独で又は混合物として、Cremophor(登録商標)RH40、Cremophor(登録商標)EL、ビタミンE TPGS及びTween 80である。
【0021】
Span製品などの界面活性剤は親油性であるので、これらは、界面活性剤混合物の親水性/親油性バランスが10より大きくなるように他の界面活性剤との混合物として使用される。
【0022】
「脂質溶媒」及び「両親媒性共溶媒」という用語は、アルコール:
−グリセロール(モノ、ジ又はトリグリセリド)、
−又はグリコール、場合により長鎖グリコール(マクロゴルグリセリド)
によるエステル化によって得られる、好ましくは植物由来の、天然脂肪酸誘導体を意味する。
【0023】
脂肪酸の鎖の長さ及びアルコールの性質に依存して、これらの溶媒は大なり小なり両親媒性を有する。
【0024】
本発明によれば、
オレオイルマクロゴル6グリセリド(ポリグリコシル化不飽和グリセリド):Labrafil(登録商標)1944CS、Gattefosseにより販売;
カプリル酸カプリン酸プロピレングリコール;Labrafac(登録商標)PG、Gattefosseにより販売;
プロピレングリコールカプリル酸モノエステル:Capmul(登録商標)PG−8、Abitecにより販売;
オレイン酸グリセリル:Peceol(登録商標)、Gattefosseにより販売;
中鎖モノ及びジグリセリド(カプリン酸カプリル酸):Capmul(登録商標)MCM、Abitecにより販売;
オレイン酸ポリグリセロール:Plurol(登録商標)オレイン酸、Gattefosseにより販売;
カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド:Miglyol(登録商標)812、Dynamit Nobelにより販売、Labrafac(登録商標)CC、Gattefosseにより販売、
などの脂質溶媒を使用することが可能である。
【0025】
好ましい脂質溶媒は、単独で又は混合物として、Labrafil(登録商標)1944 CS及びMiglyol(登録商標)812又はLabrafac(登録商標)CC又はCapmul(登録商標)MCMである。
【0026】
本発明によれば、
モノラウリン酸プロピレングリコール:Capmul(登録商標)PG12、Abitecにより販売;
モノラウリン酸プロピレングリコール:Lauroglycol(登録商標)90、Gattefosseにより販売;
カプリロカプロイルマクロゴル8グリセリド:(エチルジグリコシル化飽和グリセリド)Labrasol(登録商標)、Gelucire 44−14、Gattefosseにより販売、ジエチレングリコールモノエチルエーテル:Transcutol(登録商標)、Gattefosseにより販売;
PEG400:ポリエチレングリコール400、Huls又はICIにより販売、
などの両親媒性共溶媒が使用し得る。
【0027】
好ましい両親媒性溶媒は、単独で又は混合物として、Labrasol及びGelucire 44−14、Capmul(登録商標)PG12又はLauroglycol(登録商標)90である。
【実施例】
【0028】
以下の手順を用いて本発明に従ったいくつかの医薬組成物を作製する。選択した脂質溶媒と界面活性剤を30から65℃の間、好ましくは40から45℃の間の温度で攪拌しながら混合する。これは、必要に応じて、様々な溶媒を融解した後に実施する。有効成分を溶解するために必要な時間攪拌を維持しながら有効成分を組み込み、このようにして得られた製剤を、次に、ゲルカプセルに入れるための位置(station)に移す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】




【0031】
微細で安定なエマルジョンを形成する能力を、上記製剤の各々に関して、それらをpH6の模擬腸媒質中で10倍に希釈することによって評価する。
【0032】
第一に、エマルジョンの安定性を指示する、傾瀉の開始までの時間、及び第二に、顕微鏡下で、その微細性を管理するために水相に分散した油球の大きさを観測する。
【0033】
全ての場合に、傾瀉の開始までの時間は大部分が24時間を超える。
【0034】
光学顕微鏡によって可視である油球はしばしば約1ミクロンの直径を有し、最大でおそらく5ミクロンまでである。
【0035】
インビトロでの溶解速度の測定:
溶解速度を、75rpmで攪拌しながら37℃で、pH6の模擬生理的媒質中のパドルマシン(薬局方の器械No.2)において試験する。
【0036】
ゲルカプセル製剤を0時点で溶解器に導入し、15、30、60分及び2、3及び4時間目の時点で、5μmでのろ過後、溶解媒質のHPLCアッセイによって微細乳化生成物のパーセンテージを測定する。(これは、5μmフィルターによって保持されない、十分に微細なエマルジョンの形態である有効成分だけを検定することを確実にする)。
【0037】
実験の時間は、主たる吸収部位である腸に達するために必要な時間(2から3時間)よりも長い。
【0038】
比較のために、以下に示す標準製剤を用いて同じ溶解試験を実施した:
標準製剤:
成分 mg/単位
化合物A 10
トウモロコシデンプン 80
ラクトース一水和物200メッシュ 274
ヒプロメロース 10
ラウリル硫酸ナトリウム 2
精製水 適量
クロスカルメロースナトリウム 20
ステアリン酸マグネシウム 4
サイズNo.0ゲルカプセル 400mg充填ゲルカプセル
【0039】
実験は、各々の溶解試験について媒質中の同じ初期濃度の化合物Aに関して実施する。したがって、溶解媒質250ml中に化合物A 10mg、すなわち製剤1.1から又は製剤2.1から作製したゲルカプセルから生じる化合物A 10mgを含有する1個の標準ゲルカプセルを入れる。
【0040】
【表3】

【0041】
本発明に従った製剤は、微細エマルジョンによって30分間で本発明に従った化合物の80%以上を溶解することを可能にし、この溶解状態は少なくとも4時間持続することが認められる。これに対し、標準製剤は有効成分の約25%だけを溶解することができる。
【0042】
ヒトにおけるバイオアベイラビリティーの測定:
本発明に従った医薬組成物が絶食状態及び摂食後の有効成分のバイオアベイラビリティーに及ぼす影響を調べるために、本発明に従った医薬組成物をヒトにおいてインビボでも評価した。
【0043】
最初の試験では、上述した標準製剤に関して絶食状態と摂食後状態の有効成分のバイオアベイラビリティーを比較した。
【0044】
この試験では、化合物A 50mgの用量を、単回摂取で、12名の健常志願者に経口投与し、絶食状態と摂食後の2つの投与を無作為に21日の間隔を置いて実施する。
【0045】
投与後以下の時点で血液試料を採取する:30分、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、4時間、6時間、8時間、12時間、24時間、36時間、48時間、72時間、120時間及び168時間。有効成分のバイオアベイラビリティーを確認することができる様々な薬物動態パラメータを測定する。
【0046】
【表4】

【0047】
標準製剤に関して、Cmax及びAUC(曲線下面積)の値は、絶食状態の個人に関するよりも摂食後個人に関してそれぞれ4.3倍及び3.5倍大きい。
【0048】
2番目の試験では、有効成分のバイオアベイラビリティーを本発明に従った製剤に関して評価した。
【0049】
この試験では、化合物A 10mgの用量を、標準製剤、硬ゼラチンカプセル中の製剤1.1、又は軟ゼラチンカプセル中の製剤2.1によって、単回経口摂取として、12名の絶食健常志願者に経口投与する。投与は、8日の間隔を置いて無作為に実施する。上記試験におけるように血液試料を採取し、薬物動態パラメータを測定する。
【0050】
結果は、標準製剤に関して得た結果と比較して、絶食状態での有効成分のバイオアベイラビリティーの改善を示す。
【0051】
15日の間隔を置いた後、製剤2.1を同じ条件下で同じ摂食後患者に投与し、薬物動態パラメータを測定した。
【0052】
【表5】

【0053】
括弧内の数値は標準偏差を示す。
【0054】
本発明に従った製剤に関して、個人が絶食状態であるときは、製剤に関わりなくCmax及びAUC値は同様であることが認められる。
【0055】
絶食状態でのバイオアベイラビリティーの改善は、AUCの上昇に基づき、標準製剤と比較して製剤2.1及び1.1についてそれぞれ165%及び152%である。
【0056】
さらに、製剤2.1に関しては、絶食状態と摂食後状態でのバイオアベイラビリティーの差はもはや有意ではないことが認められる。
【0057】
したがって、本発明に従った製剤は、絶食状態でのバイオアベイラビリティーを有意に改善することができ、その結果摂食後状態と絶食状態の間でのバイオアベイラビリティーの差の排除を導く。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−ピペリジノ−5−(4−ブロモフェニル)−1−(2,4−ジクロロフェニル)−4−エチルピラゾール−3−カルボキサミド及びN−ピペリジノ−5−(4−クロロフェニル)−1−(2,4−ジクロロフェニル)−4−メチルピラゾール−3−カルボキサミドから選択されるピラゾール−3−カルボキサミド誘導体が、前記ピラゾール−3−カルボキサミド誘導体のための1又はそれ以上の脂質溶媒及び親水性/親油性バランスが10より大きい非イオン性親水性界面活性剤を含む混合物中に溶解している、前記ピラゾール−3−カルボキサミド誘導体の経口投与のための、水性媒質中で自己乳化する又は自己ミクロ乳化する、液体又は半固体形態の医薬組成物。
【請求項2】
両親媒性共溶媒又は両親媒性共溶媒の混合物も含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
存在する前記両親媒性共溶媒又は複数の両親媒性共溶媒の各々が30%未満の重量比である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記両親媒性共溶媒又は両親媒性共溶媒の混合物が10%から50%の重量比である、請求項2及び3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記脂質溶媒又は脂質溶媒の混合物が35%から75%の重量比である、請求項1から4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記脂質溶媒又は脂質溶媒の混合物が35%から55%の重量比である、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記界面活性剤が、親水性/親油性バランスが10から18の間である単一界面活性剤又は界面活性剤の混合物から成る、請求項1から6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記界面活性剤が5%から50%の重量比である、請求項1から7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記界面活性剤が5%から15%の重量比である、請求項1から8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記ピラゾール−3−カルボキサミド誘導体が0.1%から6%の重量比である、請求項1から9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
軟ゼラチンカプセル中で投与し得る、請求項1から10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
封入又はフィルム被覆硬ゼラチンカプセル中で投与し得る、請求項1から10のいずれか一項に記載の医薬組成物。

【公表番号】特表2007−516960(P2007−516960A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538894(P2006−538894)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【国際出願番号】PCT/FR2004/002875
【国際公開番号】WO2005/046690
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(504456798)サノフイ−アベンテイス (433)
【Fターム(参考)】