説明

ピリジン化合物の製造方法

【課題】 低コストで環境に配慮した製造適性の高いジヒドロピリジン化合物の酸化法によるピリジン化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも一種の塩基、および過酸化水素水の存在下において、一般式(I)で表されるジヒドロピリジン化合物を酸化することを特徴とする、一般式(II)で表されるピリジン化合物の製造方法。
一般式(I)
【化1】


(一般式(I)中、R1〜R5はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。Lは置換基を有しても良いアルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアリールオキシ基を表す。)
一般式(II)
【化2】


(一般式(II)中、R1〜R5は前記と同じ意味をもつ。)

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、写真用添加剤、増感色素、医薬品、有機EL材料、液晶材料、非線型光学材料等、またはそれらの合成中間体として有用なピリジン化合物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ジヒドロピリジン化合物の酸化によるピリジン化合物の合成法としては、酸素による酸化法(Bull.Chem.Soc.Jpn.,57(7),1994−1999(1984);Tetrahedron Lett.,23(4),429−432(1982);Synth.Commun.,21(3),401−406(1991)等に記載の方法)、硫黄による酸化法(Chem.Pharm.Bull.,38(1),45−48(1990);J.Org.Chem.,53(18),4223−4227,(1988);特開平6−172347号等に記載の方法)、o−クロラニルによる酸化法(J.Org.Chem.,48(24),4597−4605,(1983);Heterocycles,22(2),339−344(1984)等に記載の方法)、DDQによる酸化法(Tetrahedron,48(27),5647−5656(1992);Heterocycles,45(3),434−438(1997)等に記載の方法)等が知られているが、反応に長時間や高温を要したり、残渣の除去や廃液の処理といった手間が掛かるなどの欠点があり、コスト、環境の両面から工業的に適した方法とはいえなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、低コストで環境に配慮した製造適性の高いジヒドロピリジン化合物の酸化法によるピリジン化合物の製造方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明の目的は次の手段によって達成された。
(1)少なくとも一種の塩基、および過酸化水素水の存在下において、一般式(I)で表されるジヒドロピリジン化合物を酸化することを特徴とする、一般式(II)で表されるピリジン化合物の製造方法。
一般式(I)
【0005】
【化3】


【0006】(一般式(I)中、R1〜R5はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。Lは置換基を有しても良いアルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアリールオキシ基を表す。)
一般式(II)
【0007】
【化4】


【0008】(一般式(II)中、R1〜R5は前記と同じ意味をもつ。)
(2)上記塩基が無機塩基、またはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のアルコキシドであることを特徴とする、(1)項記載のピリジン化合物の製造方法。
(3)一般式(I)および一般式(II)におけるR1、R2、R4およびR5が水素原子である、(1)または(2)項に記載のピリジン化合物の製造方法。
【0009】
【発明の実施の形態】以下に本発明の製造方法について詳しく説明する。本発明において用いられる一般式(I)で表されるジヒドロピリジン化合物、および本発明の方法において製造される一般式(II)で表されるピリジン化合物について説明する。一般式(I)および一般式(II)において、R1〜R5はそれぞれ独立に水素原子、または置換基を表す。置換基の例としては、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(例えばメチル、エチル)、アリール基(例えばフェニル、ナフチル)、アルケニル基(例えばビニル)、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル)、アリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル)、置換又は無置換のカルバモイル基(例えばカルバモイル、N−フェニルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル)、アルキルカルボニル基(例えばアセチル)、アリールカルボニル基(例えばベンゾイル)、ニトロ基、置換または無置換のアミノ基(例えばアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ)、アシルアミノ基(例えばアセトアミド、エトキシカルボニルアミノ)、スルホンアミド基(例えばメタンスルホンアミド)、イミド基(例えばスクシンイミド、フタルイミド)、イミノ基(例えばベンジリデンアミノ)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(例えばメトキシ)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ)、アシルオキシ基(例えばアセトキシ)、アルキルスルホニルオキシ基(例えばメタンスルホニルオキシ)、アリールスルホニルオキシ基(例えばベンゼンスルホニルオキシ)、スルホ基、置換または無置換のスルファモイル基(例えばスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、アルキルチオ基(例えばメチルチオ)、アリールチオ基(例えばフェニルチオ)、アルキルスルホニル基(例えばメタンスルホニル)、アリールスルホニル基(例えばベンゼンスルホニル)、シリル基(例えばジメチルフェニルシリル、トリフェニルシリル)、ホスホリル基(例えばジメトキシホスホリル)、ヘテロ環基(N、OおよびSのうちの少なくとも一つの原子を含む3〜10員の飽和もしくは不飽和のヘテロ環基であり、該環は単環であっても良いし、更に他の環と縮合することによる縮合環であっても良い。ヘテロ環基として好ましくは、5〜6員のヘテロ環基であり、より好ましくは窒素原子を含む5員のヘテロ環基である。)などを挙げることができる。また、置換基は更に置換されていても良く、置換基が複数ある場合は、同じでも異なっても良い。また隣り合った置換基が互いに結合して環を形成しても良い。
【0010】R1〜R5として好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルケニル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、置換又は無置換のカルバモイル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、ニトロ基、置換または無置換のアミノ基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、スルホ基、置換または無置換のスルファモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、シリル基、ホスホリル基、ヘテロ環基である。R1〜R5としてより好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルケニル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、置換又は無置換のカルバモイル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、ニトロ基、アシルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アリールスルホニル基、シリル基、ホスホリル基、ヘテロ環基である。
【0011】R1〜R5として更に好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、置換又は無置換のカルバモイル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ヘテロ環基である。特に好ましくは、R1、R2、R4およびR5がいずれも水素原子であり、かつR3がアリール基である化合物である。
【0012】一般式(I)において、Lは置換基を有しても良いアルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアリールオキシ基を表す。Lで表されるアルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアリールオキシ基はさらに置換基で置換されていても良く、置換基としては、R1〜R5として挙げた置換基が適用できる。Lにおいて、アルキル基およびアルコキシ基は、好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは1〜20、さらに好ましくは1〜15のアルキル基およびアルコキシ基を表し、分岐や環構造形成(すなわち、分岐アルキル基、分岐アルキルオキシ基、シクロアルキル基、シクロアルコキシ基)していても良い。Lにおいて、アリール基およびアリールオキシ基は、好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは6〜20、さらに好ましくは6〜11のアリール基およびアリールオキシ基を表す。
【0013】次に本発明の一般式(I)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
【化5】


【0015】
【化6】


【0016】
【化7】


【0017】
【化8】


【0018】
【化9】


【0019】
【化10】


【0020】
【化11】


【0021】
【化12】


【0022】
【化13】


【0023】
【化14】


【0024】
【化15】


【0025】次に本発明の一般式(II)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
【化16】


【0027】
【化17】


【0028】
【化18】


【0029】
【化19】


【0030】
【化20】


【0031】次に一般式(II)で表される化合物の製造方法について詳細に説明する。原料である一般式(I)で表されるジヒドロピリジン化合物は種々の合成法が知られている。例えば、4級ピリジニウム塩に対する求核剤の付加反応(例えば、J.Org.Chem.,47,4315(1982);Heterocycles,36(3),507−518(1993);同,43(11),2425−2434(1996);同,46,83−86(1996);同,48(12),2653−2660(1998);同,51(4),737−750(1999);J.Heterocycl.Chem.,34(1)129−142(1997);Tetrahedron Lett.,40(22),4231−4234(1999);同,40(22),4231−4234(1999);同,40(34),6241−6244(1999);J.Med.Chem.,42(5),779−783(1999);特開平10−114743号等に記載の方法)で有利に合成することができる。
【0032】以下に、一般式(I)で表されるジヒドロピリジン化合物から、一般式(II)で表されるピリジン化合物を製造する方法を詳細に説明する。本発明の反応において使用する塩基に特に限定はなく、例えばアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、カルボン酸塩、アルコキシドなどの他に、有機塩基であるアミン類(例えばアンモニア、ジエチルアミン、トリエチルアミン)等を用いることができ、これらの塩基を2種類以上併用しても良い。塩基は、好ましくはアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、ナトリウムメトキシド、アンモニアであり、更に好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、アンモニアであり、特に好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、ナトリウムメトキシドである。
【0033】本発明の反応において使用する塩基の添加量は、ジヒドロピリジン化合物に対して好ましくは1〜100倍モル、さらに好ましくは1〜20倍モルである。本発明の反応において使用する過酸化水素水の濃度に特に限定はなく、市販のものを使用しても良いし、希釈して用いても良い。添加する過酸化水素水の濃度は通常1〜80質量%であり、好ましくは3〜70質量%であり、5〜50質量%が特に好ましい。本発明の反応において使用する過酸化水素水の添加量は、過酸化水素のモルとしてジヒドロピリジン化合物に対して好ましくは1〜100倍モル、さらに好ましくは1〜20倍モルである。原料の添加順序は特に限定はなく、ジヒドロピリジン化合物、溶媒、塩基、過酸化水素水を同時に加えても良いし、例えば塩基を入れて加熱した後に過酸化水素水を添加しても良い。
【0034】本発明の反応は無溶媒でも良いが、溶媒を使用することもできる。反応に用いる溶媒は、溶媒自体が一般式(I)や(II)の化合物と直接、置換反応や付加反応等の反応に関与しない限り限定されないが、水、あるいは有機溶媒を使用できる。有機溶媒としては、例えば、アルコール類(例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール等)、ケトン類(例えばアセトン、メチルエチルケトン等)、エステル類(例えば酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル等)、脂肪族炭化水素類(例えばn−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等)、芳香族炭化水素類(例えばトルエン、キシレン、クロロベンゼン等)、エーテル類(例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン等)、ジメチルスルホキシド、スルホラン、アセトニトリル等を挙げることができる。溶媒として好ましくは、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、n−ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、アセトニトリルであり、より好ましくは、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン、酢酸エチル、トルエン、アセトニトリルであり、水、メタノール、エタノール、2−プロパノールが特に好ましい。また、2種以上の溶媒を併用しても良い。
【0035】本発明の反応の反応温度は、通常−10℃〜120℃が好ましく、さらに好ましくは10℃〜100℃である。また反応時間は、反応原料、反応温度、反応濃度、反応スケール等によって異なるが、通常0.1〜36時間の範囲であり、好ましくは0.5〜12時間の範囲である。
【0036】
【実施例】次に実施例に基づき本発明を更に詳細に説明する。
【0037】<参考例1>1−(2−エチルヘキシルオキシカルボニル)−4−フェニル−1,4−ジヒドロピリジン(化合物I−3)の合成。
ピリジン18.7g(0.236モル)、テトラヒドロフラン150mlを窒素雰囲気下攪拌しながら、CuI1.9g(0.01モル)を添加した。室温で均一溶液になるまで攪拌した後、クロロギ酸2−エチルヘキシル40.5g(0.21モル)とテトラヒドロフラン20mlの溶液を内温が20℃を越えないように氷冷下滴下した。さらに2Mフェニルマグネシウムクロライド100ml(0.2モル;THF溶液)を内温が0±3℃の範囲で、1時間かけて滴下した。0±3℃で20分攪拌し、さらに25℃で1時間攪拌した。テトラヒドロフラン約60mlを減圧留去した後、トルエン180mlを加え、10%硫酸60g(0.061モル)を滴下した。生じた沈殿をセライト濾過し、セライトを40mlのトルエンで洗浄した。濾液の水層を除去した後、10%塩酸180mlで2回、水180mlで2回洗浄した。有機層を減圧濃縮し、収量63.1g、純度83.0%(HPLCで確認した。)、収率83.5%で(化合物I−3)を得た。
【0038】<実施例1>4−フェニルピリジン(化合物II−1)の合成と精製。
<参考例1>で得た(化合物I−3)52.9g(0.14モル)水酸化ナトリウム16.8g(0.42モル)をメタノール90mlに溶解し、60℃で1時間攪拌した後、30℃まで放冷し、31%過酸化水素水39.5g(0.36モル)添加した。この時内温は約35℃まで上昇した。50℃で3時間反応させた後、トルエン100ml、および亜硫酸ナトリウム50g(0.40モル)を水150mlに溶解した水溶液を添加した。攪拌した後水層を除去し、有機層を水100mlで2回洗浄した。10%塩酸100mlで2回抽出し、集めた水層を25%水酸化ナトリウム水溶液でpH7〜8に調整した。20℃で1時間攪拌し、生成した粗結晶を減圧下濾取し、水洗、乾燥した。収量15.2g、HPLC面積純度99.7%、収率70.0%で(化合物II−1)の白色結晶を得た。目的物である(化合物II−1)の構造は1H−NMRで確認した。
1H−NMR(300MHz:溶媒CDCl3 内部標準:TMS)
δ ppm 7.5(m,5H)
7.65(d,2H)
8.65(d,2H)
【0039】<比較例1><参考例1>で得た(化合物I−3)2g(6.38ミリモル)をメタノール4mlに溶解し、31%過酸化水素水1.8g(16.4ミリモル)添加した。50℃で3時間反応させた後、酢酸エチル10ml、および飽和亜硫酸ナトリウム水溶液10mlを加え攪拌した後水層を除去した。HPLCの内部標準として、ビフェニル100mg(0.648ミリモル)を有機層に添加し、攪拌、溶解した後HPLCで定量したところ、4−フェニルピリジンの収率は4%であった。
【0040】
【発明の効果】本発明により、写真用添加剤、増感色素、医薬品、有機EL材料、液晶材料、非線型光学材料等、またはそれらの合成中間体として有用なピリジン化合物を、低コストで環境に配慮した工業的に有利な方法で製造することが可能になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも一種の塩基、および過酸化水素水の存在下において、一般式(I)で表されるジヒドロピリジン化合物を酸化することを特徴とする、一般式(II)で表されるピリジン化合物の製造方法。
一般式(I)
【化1】


(一般式(I)中、R1〜R5はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。Lは置換基を有しても良いアルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアリールオキシ基を表す。)
一般式(II)
【化2】


(一般式(II)中、R1〜R5は前記と同じ意味をもつ。)
【請求項2】 上記塩基が無機塩基、またはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のアルコキシドであることを特徴とする、請求項1記載のピリジン化合物の製造方法。
【請求項3】 一般式(I)および一般式(II)におけるR1、R2、R4およびR5が水素原子である、請求項1または2に記載のピリジン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2002−105054(P2002−105054A)
【公開日】平成14年4月10日(2002.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−295071(P2000−295071)
【出願日】平成12年9月27日(2000.9.27)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】