説明

ピリジン誘導体の合成法

【課題】 医薬品や農薬、電子写真感光体、染料等の中間体として有用なピリジン誘導体を、高価な触媒や特殊な設備を用いることなく、工業的規模で生産可能な製造方法を提供すること、更に詳しくは高純度、高収率、低コストで製造でき、公害問題を生じない、位置特異的なピリジン誘導体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 特定のアセチル化合物と特定の3−アミノ−2−プロペニリデンアンモニウム塩類を反応させる工程を含むことを特徴とするピリジン誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、医薬品、農薬、触媒配位子、有機エレクトロルミネッセンス素子、電荷移動体、電子写真感光体、染料等の分野において重要な中間体となるピリジン誘導体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】アセチル化合物を出発物質としてピリジン環を生成する従来の方法は、総説(Synthesis,pp.1(1976))に紹介されている。例えば、アセチル化合物のケトンのα−位をハロゲン化した後にピリジニウムイオンとし、α,β−不飽和ケトン誘導体と反応させてピリジン環を形成する反応が報告されているが、ハロゲンに活性な置換基が分子内にある場合は適応できない。また、この方法では2位に置換基のあるピリジン環の合成には適用するが、3位に置換基のあるピリジン環の合成には不向きである。
【0003】また、2−ピリジルピリジン誘導体の合成法を例に取ると、ニトロベンゼン中2−ブロモピリジンと4−クロロピリジン同士のウルマン反応(Khim.Geol.Nauk.,pp.114(1970))やコバルト触媒を利用したもの(Synthesis,pp.600(1975)、 Chem.Pharm.Bull.,33,pp.4755(1985)) 、更にはPd触媒存在下アルキルスズ誘導体とハロゲン化ピリジンのカップリング反応(Tetrahedron Lett.,33,pp.2199(1992))、Ni金属触媒下、ハロゲン化ピリジン誘導体同士のカップリング反応(WO9852922号)などが知られているが、使用する触媒や試薬が非常に高価なこと、金属廃液などに特別の処理が必要なこと、副生成物の分離が困難なこと等の問題点が多く、工業的に有利な方法とは言えない。
【0004】また、グリニヤ−ル反応を利用したクロスカップリング反応(特開昭64−3169号、Tetrahedron Lett.,28,pp.5845(1987))やハロゲン化ピリジン誘導体同士のLi金属存在下での超音波を照射してのウルツ反応による合成(Tetrahedron Lett.,30,pp.3567(1989)、Synthesis,pp.564(1986))も提案されているが、専用の設備が必要であり、大量生産するには問題点が多い。
【0005】また、アセチルピリジン誘導体をヨウ素化し、ピリジニウムイオンを経由してピリジン環を形成する方法(Synthesis,pp.815(1999))が提案されている。しかし、この場合ヨウ素化の際のヨウ素が残存すると、次工程で副生物が生じるため、ヨウ素化の後に精製工程が必要となり大量合成には不向きである。また、ハロゲン化により環境上の問題も懸念される。
【0006】更に、下記に示すような四級塩を利用してのピリジン環の形成反応も報告されている(Indian J.Chem.,Sect B.,pp.341(1985)、Indian J. Chem.,Sect B.,pp.559(1988))が、この場合は多段階反応で取り出しが必要なこと、収率が低いこと等の問題点があった。
【0007】
【化4】


【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、医薬品や農薬、電子写真感光体、染料等の中間体として有用なピリジン誘導体を、高価な触媒や特殊な設備を用いることなく、工業的規模で生産可能な製造方法を提供することにある。更に詳しくは高純度、高収率、低コストで製造でき、公害問題を生じない、位置特異的なピリジン誘導体の製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の方法によって上記目的が達成されることを見出した。即ち、(1)一般式(I)で表されるアセチル化合物と一般式(II)で表される3−アミノ−2−プロペニリデンアンモニウム塩類を反応させる工程を含むことを特徴とするピリジン誘導体の製造方法。
【0010】
【化5】


【0011】式中、R1は水素原子、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアリ−ル基、置換または未置換のヘテロ環残基、置換または未置換のアルケニル基、置換または未置換のアルキニル基、カルボニル基、スルホニル基、シアノ基を表す。R2は水素原子、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアリ−ル基、置換または未置換のヘテロ環残基、置換または未置換のアルケニル基、置換または未置換のアルキニル基、アルコキシ基、アリ−ルオキシ基、ヒドロキシル基、アルキルチオ基、アリ−ルチオ基、カルボニル基、スルホニル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子を表わす。また、R1、R2は結合して、それらが結合している炭素原子と共に非金属原子からなる置換または非置換の環を形成してもよい。
【0012】
【化6】


【0013】式中、R3、R4、R6、R7はそれぞれ独立に水素原子、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアリ−ル基、置換または未置換のヘテロ環残基、カルボニル基を表す。R3とR4、R6とR7は各々結合して、それらが結合している窒素原子と共に非金属原子からなる置換または非置換の環を形成してもよい。R5は、水素原子、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアリ−ル基、置換または未置換のヘテロ環残基、置換または未置換のアルケニル基、置換または未置換のアルキニル基、ヒドロキシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、スルホニル基、置換または未置換のアミノ基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子を表す。X-は四級アンモニウム塩の対イオンであり、ハロゲン化物イオン、過ハロゲン酸イオン、有機酸イオン、無機イオンを表す。
(2)上記(1)に記載の一般式(I)で表されるアセチル化合物と下記一般式(III)で表される3−イミノプロペニルアミノ化合物とを反応させる工程を含むことを特徴とするピリジン誘導体の製造方法。
【0014】
【化7】


【0015】式中、R3、R4、R6はそれぞれ独立に水素原子、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアリ−ル基、置換または未置換のヘテロ環残基、アシル基を表す。R3とR4は結合して、それらが結合している窒素原子と共に非金属原子からなる置換または非置換の環を形成してもよい。R5は、水素原子、ハロゲン、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアリ−ル基、置換または未置換のヘテロ環残基、置換または未置換のアルケニル基、置換または未置換のアルキニル基、ヒドロキシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基、アリ−ルオキシ基、カルボニル基、スルホニル基、置換または未置換のアミノ基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子を表す。
【0016】
【発明の実施の形態】以下に本発明について更に詳しく説明する。本発明の方法をより詳しく説明するために、本発明の方法の一態様(R3とR4、またはR6とR7が共に水素原子以外の場合)を一例として下記に示すが、本発明の内容がこれに限定されるものではない。
【0017】
【化8】


【0018】本発明において、前記一般式(I)で表される化合物中、R1は具体的には水素原子、置換もしくは未置換の直鎖、分岐または環状アルキル基(メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、n−オクチル、n−ドデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、メトキシエチル、2−クロロエチル、ベンジル、3−ジメチルアミノメチル、ブロモシクロヘキシル、2−ノルボルニル等)、置換または未置換のアリール基(フェニル、ナフチル、フェナントリル、トリル、キノリル、クロロフェニル、ヒドロキシフェニル、エチルアミノフェニル等)、置換または未置換のヘテロ環残基(ピラゾリル、イミダゾリル、ピリジル、ピリミジニル、チエニル、チアゾリル、フリル、イソキサゾリル、ベンゾチアゾリル、フェノキサジニル、2−メチルイミダゾリル、3−アミノピリジル、4−フェニルイソキサゾリル等)、置換または未置換のアルケニル基(ビニル、アリル、2−ブテニル、シンナミル、2−クロロエテニル等)、置換または未置換のアルキニル基(エチニル、1−プロピニル、1−ブチニル、トリメチルシリルエチニル等)、カルボニル基[アシル基(アセチル、ピバロイル、ベンゾイル等)、アルコキシカルボニル(メトキシカルボニル、エトキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル(フェニルオキシカルボニル等)、カルバモイル基(未置換カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジエチルカルバモイル等)]、スルホニル基(メチルスルホニル、フェニルスルホニル、未置換スルファモイル、N−エチルスルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル等)、シアノ基が挙げられる。好ましくは水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、ヘテロ環残基であり、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、5員環または6員環の含窒素ヘテロ環残基および含硫黄ヘテロ環残基である。
【0019】R2は具体的には、水素原子、置換もしくは未置換の直鎖、分岐または環状アルキル基(メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、n−オクチル、n−ドデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、メトキシエチル、2−クロロエチル、ベンジル、3−ジメチルアミノメチル、ブロモシクロヘキシル、2−ノルボルニル等)、置換または未置換のアリール基(フェニル、ナフチル、フェナントリル、トリル、キノリル、クロロフェニル、ヒドロキシフェニル、エチルアミノフェニル等)、置換または未置換のヘテロ環残基(ピラゾリル、イミダゾリル、ピリジル、ピリミジニル、チエニル、チアゾリル、フリル、イソキサゾリル、2−メチルイミダゾリル、3−フェニルピリジル、4−エチルイソキサゾリル等)、置換または未置換のアルケニル基(ビニル、アリル、2−ブテニル、シンナミル、2−クロロエテニル等)、置換または未置換のアルキニル基(エチニル、1−プロピニル、1−ブチニル、トリメチルシリルエチニル等)、ヒドロキシル基、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ等)、アリ−ルオキシ基(フェノキシ、2−ナフチルオキシ等)、アルキルチオ基(メチルチオ、エチルチオ等)、アリ−ルチオ基(フェニルチオ、ナフチルチオ等)、カルボニル基[アシル基(アセチル、ピバロイル、ベンゾイル等)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル、エトキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(フェニルオキシカルボニル等)、カルバモイル基(無置換カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジエチルカルバモイル等)]、スルホニル基(メチルスルホニル、フェニルスルホニル、無置換スルファモイル、N−エチルスルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル等)、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子(塩素、沃素、臭素等)を表わす。好ましくは水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数2〜10のアシル基、炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基、含窒素ヘテロ環残基が挙げられ、より好ましくは水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基、フェニル基、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基である。
【0020】R1、R2は結合して、それらが結合している炭素原子と共に非金属原子からなる置換または非置換の環を形成してもよく、具体的にはシクロペンタノン、シクロヘキサノン、ベンゾシクロペンタノン、ベンゾシクロヘキサノン、テトラヒドロピラン−4−ノン等が挙げられる。
【0021】前記一般式(II)または一般式(III)で表される化合物中、R3,R4,R6,R7は各々独立して、具体的には水素原子、置換もしくは未置換の直鎖、分岐または環状アルキル基(メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、n−オクチル、n−ドデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、メトキシエチル、2−クロロエチル、ベンジル、3−ジメチルアミノメチル、ブロモシクロヘキシル、2−ノルボルニル等)、置換または未置換のアリール基(フェニル、ナフチル、フェナントリル、トリル、キノリル、クロロフェニル、ヒドロキシフェニル、エチルアミノフェニル等)、置換または未置換のヘテロ環残基(ピラゾリル、イミダゾリル、ピリジル、ピリミジニル、チエニル、チアゾリル、フリル、イソキサゾリル、2−メチルイミダゾリル、3−フェニルピリジル、4−エチルイソキサゾリル等)、カルボニル基[アシル基(アセチル、ピバロイル、ベンゾイル等)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル、エトキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(フェニルオキシカルボニル等)、カルバモイル基(無置換カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジエチルカルバモイル等)]が挙げられる。好ましくは炭素数1〜4の低級アルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアシル基であり、より好ましくはメチル基、フェニル基、アシル基、特に好ましくはメチル基である。
【0022】R3とR4、R6とR7は各々結合して、それらが結合している窒素原子と共に非金属原子からなる置換または非置換の環を形成してもよい。具体的にはピロリジン環、ピペリジン環、モルホリン環などが挙げられ、好ましくはピペリジン環である。
【0023】R5は、具体的には水素原子、置換もしくは未置換の直鎖、分岐または環状アルキル基(メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、n−オクチル、n−ドデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、メトキシエチル、2−クロロエチル、ベンジル、3−ジメチルアミノメチル、ブロモシクロヘキシル、2−ノルボルニル等)、置換または未置換のアリール基(フェニル、ナフチル、フェナントリル、トリル、キノリル、クロロフェニル、ヒドロキシフェニル、エチルアミノフェニル等)、置換または未置換のヘテロ環残基(ピラゾリル、イミダゾリル、ピリジル、ピリミジニル、チエニル、チアゾリル、フリル、イソキサゾリル、ベンゾチアゾリル、フェノキサジニル、2−メチルイミダゾリル、3−アミノピリジル、4−フェニルイソキサゾリル等等)、置換または未置換のアルケニル基(ビニル、アリル、2−ブテニル、シンナミル、2−クロロエテニル等)、置換または未置換のアルキニル基(エチニル、1−プロピニル、1−ブチニル、トリメチルシリルエチニル等)、ヒドロキシル基、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ等)、アリ−ルオキシ基(フェノキシ、2−ナフチルオキシ等)、アルキルチオ基(メチルチオ、エチルチオ等)、アリ−ルチオ基(フェニルチオ、ナフチルチオ等)、カルボニル基[アシル基(アセチル、ピバロイル、ベンゾイル等)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル、エトキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(フェニルオキシカルボニル等)、カルバモイル基(未置換カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジエチルカルバモイル等)]、スルホニル基(メチルスルホニル、フェニルスルホニル、未置換スルファモイル、N−エチルスルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル等)、置換または未置換のアミノ基(アミノ、N−エチルアミノ、N,N−ジメチルアミノ、N,N−ジフェニルアミノ、メトキシカルボニルアミノ、フェノキシカルボニルアミノ、アセチルアミノ、ウレイド、メチルスルホニルアミノ、フェニルスルホニルアミノ等)、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子(塩素、沃素、臭素等)が挙げられる。好ましくは、炭素数1〜4の低級アルキル基、炭素数6〜10のアリール基、含窒素ヘテロ環残基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子であり、より好ましくはメチル基、フェニル基、ピリジル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子であり、特に好ましくは、メチル基、フェニル基、塩素原子が挙げられる。
【0024】X-は四級アンモニウム塩の対イオンであり、具体的にはハロゲン化物イオン(フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等)、過ハロゲン酸イオン(過塩素酸イオン、過臭素酸イオン、過ヨウ素酸イオン等)、有機酸イオン(p−トルエンスルホン酸イオン、1,5−ジナフタレンスルホン酸等)、無機イオン(硫酸イオン、硝酸イオン、テトラフルオロボロンイオン、ヘキサフルオロリンイオン等)が挙げられる。好ましくは、単離が容易で安価な塩化物イオン、過塩素酸イオン、1,5−ジナフタレンスルホン酸、テトラフルオロボロンイオンであり、より好ましくは四級アミンと非水溶性のイオン対を形成できる過塩素酸イオンである。
【0025】本発明の方法で使用されるアセチル化合物は、市販品として容易に入手可能である。また、芳香族アセチル化合物はフリーデルクラフツ反応によるアシル化などにより導入することができる(J.Org.Chem.,38,pp.1445(1973);J.Am.Chem.Soc.,79,pp.1445(1957);J.Am.Chem.Soc.,84,pp.813(1962))。β−ケトエステル類や1、3−ジケトン類等はOrg.Synth.,III, pp.379(1955);Org.Synth.,IV, pp.415(1963);J.Org.Chem.,59, pp.488(1994)等の方法で簡単に合成することもできるし、 Tetrahedron Lett.,28(44), pp.5361(1987)に記載のごとく、ニトロ化合物からNef反応により調製ことも可能である
【0026】本発明の方法で使用される3−アミノ−2−プロペニリデンアンモニウム塩類は、対応するアセタール化合物、ビニルエーテル類、カルボン酸誘導体をVilsmeier試薬と反応させる(Tetrahedron,43,pp.171(1987)、J.Am.Chem.Soc.,103,pp.3030(1981)、Synthesis,pp.641(1983)、 Zh.Org.Khim.,8,pp.1394(1972))か、あるいはその後処理液で適当な二級アミンを反応させる(J.Org.Chem.,51,pp.2961(1986)、Collect.Czech.Chem.Commun,pp.1637(1996))ことにより、調整可能である。
【0027】本発明の方法で使用される3−イミノプロペニルアミノ化合物は、市販品として容易に入手できる。また、対応するアセタール化合物、ビニルエーテル類、カルボン酸誘導体をVilsmeier試薬と反応させたのち(Tetrahedron,43,pp.171(1987)、J.Am.Chem.Soc.,103,pp.3030(1981)、Synthesis,pp.641(1983)、 Zh.Org.Khim.,8,pp.1394(1972))、適当なアミン類で後処理することにより調整可能である。
【0028】以下に一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)で表される各化合物の具体例をに示すが、本発明はこれらの化合物に限定されるものではない。
【0029】
【化9】


【0030】
【化10】


【0031】
【化11】


【0032】次に、製法について詳しく説明する。本発明においては、すべての工程を通して反応溶媒は使用しなくても良いが、必要に応じベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族溶媒、ピリジン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどの極性溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、t−ブタノールなどのアルコール系溶媒等、極性、非極性を問わずいずれの有機溶媒も利用し得るが、好ましくはジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THFと略記する)などのエーテル系溶媒であり、より好ましくはTHFである。また2種以上の溶媒を混合して用いることができ、混合使用の際の混合比は任意に定めることができる。上記反応溶媒の使用量はアセチル化合物に対して、通常1〜50倍重量の範囲で使用されるが、より好ましくは2〜30倍重量、より好ましくは4〜8倍重量の範囲である。
【0033】本発明において、アセチル化合物と3−アミノ−2−プロペニリデンアンモニウム塩類または3−イミノプロペニルアミノ化合物とを反応させる際に塩基を存在させることが好ましい。本反応に用いる塩基は、いかなるものでも使用可能であるが、通常はカリウムt−ブトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、ナトリウムエトキシドなどの金属アルコキシド、水素化ナトリウム、金属ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミンのような有機塩基などが用いられる。好ましくはカリウムt−ブトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、水素化ナトリウムであり、より好ましくはカリウムt−ブトキシドである。上記塩基の使用量はアセチル化合物1モルに対し、通常0.1〜10モル量、好ましくは0.8〜2.0モル量、より好ましくは0.9〜1.2モル量の範囲である。
【0034】本発明において、アセチル化合物と3−アミノ−2−プロペニリデンアンモニウム塩類または3−イミノプロペニルアミノ化合物を反応させる際の反応温度は、通常20〜200℃の範囲であり、好ましくは30〜100℃、より好ましくは40〜80℃である。これらの反応は通常24時間以内で終了し、多くの場合10分〜12時間で原料の消失が確認される。
【0035】本発明の製造方法においては、特に触媒を必要としないが、アセチル化合物と3−イミノプロペニルアミノ化合物とを反応させる場合は二級アミンを用いて活性化する方法も良好な結果を与える。この際に使用する二級アミンとしてはいかなるものでも使用できるが、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミンなどの脂肪族二級アミン、ピロリジン、ピペリジン等の脂肪族環状二級アミン、モルホリン等の環状6員環ヘテロ脂肪族二級アミン、メチルフェニルアミン、エチルフェニルアミンなどの脂肪族と芳香族が置換した二級アミン、ジフェニルアミンなどの芳香族二級アミンがある。好ましくは、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ピロリジン、ピペリジンであり、より好ましくは、ジメチルアミン、ピロリジン、ピペリジンである。上記二級アミンの使用量はアセチル化合物1モルに対し、通常0.1〜10モル量、好ましくは0.8〜8.0モル量、より好ましくは1.0〜6.0モルの範囲で実施するのがよい。
【0036】アセチル化合物と3−イミノプロペニルアミノ化合物とを反応させる場合に、塩基と共に酸無水物あるいは酸ハライドを必要に応じて用いても良好な結果を与える。使用する酸無水物としてはいかなるものでも使用できるが、無水酢酸、無水安息香酸が安価であり良好な結果を与える。また、酸ハライドとしてはいかなるものも使用できるが、酢酸クロリド、ベンゾイルクロリドが安価であり良好な結果を与える。酸無水物の使用量はアセチル化合物1モルに対し、通常0.1〜10.0モル量、好ましくは0.8〜3.5モル量、より好ましくは2.0〜2.5モルの範囲で使用するのがよい。 酸クロリドの使用量はアセチル化合物1モルに対し、通常0.1〜10.0モル量、好ましくは0.8〜3.5モル量、より好ましくは2.0〜2.5モル量の範囲で使用するのがよい。
【0037】酸無水物あるいは酸ハライドを使用する際に必要に応じて使用する塩基としては、いかなるものも使用できるが、トリエチルアミン、ピリジン、無水炭酸ナトリウムなどが安価であり良好な結果を与える。上記塩基の使用量はアセチル化合物1モルに対し、0.1〜10モル量、好ましくは0.8〜8.0モル量、より好ましくは2.1〜4.1モル量の範囲で使用するのがよい。
【0038】本発明において、上述した、アセチル化合物と3−アミノ−2−プロペニリデンアンモニウム塩類または3−イミノプロペニルアミノ化合物を反応させる工程の後に、その反応物においてピリジン環を形成させる工程を行なう。そのピリジン環を形成する工程において、ピリジン環の窒素原子の供給源としては、1)新たに反応系に添加する窒素原子含有化合物(好ましくはアンモニアあるいはア ンモニウム塩)、2)一般式(II)あるいは一般式(III)で示される化合物中の窒素原子(一般式(II )または一般式(III)中のR3とR4が共に水素原子の場合、一般式(II)中 のR6とR7が共に水素原子である場合、及び/又は一般式(III)のR6が水素 原子である場合)3)が挙げられる。
【0039】本発明において、上記2)の場合、アンモニアまたはアンモニウム塩を添加せずとも反応は進行、完結するが、新たにアンモニアまたはアンモニウム塩を添加してもよい。上記1)の場合アンモニア又はアンモニウム塩を添加する必要がある。用いるアンモニアまたはアンモニウム塩はいかなる形態のものでも使用可能であるが、通常はアンモニアガス、アンモニア水、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウムなどが用いられる。好ましくは塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウムであり、より好ましくは酢酸アンモニウムが用いられる。これらの添加量は、アセチル化合物1モルに対し1〜30倍モル、好ましくは3〜15倍モル、より好ましくは6〜10倍モルの範囲で実施するのがよい。また、2種以上の異なる形態のアンモニアを混合して用いることができ、混合使用の際の混合比は任意に定めることができる。
【0040】本発明の製造方法においては、特に触媒を必要としないが、アセチル化合物と3−アミノ−2−プロペニリデンアンモニウム塩類または3−イミノプロペニルアミノ化合物の反応物において、ピリジン環を形成させる反応では、必要に応じて酸触媒を使用すると反応がより短時間で終了するので好ましい。酸触媒としては、いかなるものも使用できるが、硫酸、塩酸などの無機酸、p−トルエンスルホン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸などの有機酸、アンバーライト、アンバーリストなどの強酸性のイオン交換樹脂などが使用され、好ましくは反応系中を弱酸性に保つことができるギ酸、酢酸、プロピオン酸であり、より好ましくは酢酸である。
【0041】本発明において、ピリジン環形成反応の反応温度は、通常40〜200℃の範囲であり、好ましくは50〜150℃、より好ましくは60〜110℃である。これらの反応時間は通常1〜20時間、好ましくは1.5〜10時間、好ましくは2〜5時間である。
【0042】反応終了後、目的物であるピリジン誘導体を精製する方法としては、アルコール、へキサン、トルエンなどを用いた再結晶、シリカゲルを用いたカラム精製、減圧蒸留などが挙げられる。これらの方法は、単独又は2つ以上組み合わせて精製を行うことにより、目的物を高純度で得ることが可能である。
【0043】
【実施例】次に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、純度の評価は高速液体クロマトグラフィー(HPLCと略記する)によった。
【0044】実施例1 4,4’−ジメチル−2,2’−ジピリジル(V−1)の合成(2−メチル−3−ピペリジルプロパ−2−エニリデン)ピペリジン過塩素酸塩(IV−1)9.62g(0.03モル)と4−メチル−2−アセチルピリジン4.06g(0.030モル)をテトラヒドロフラン14mlに溶解し、カリウムt−ブトキシド3.63g(0.032モル)を加え60℃で30分間反応した。次いで酢酸アンモニウム9.25g(0.12モル)と酢酸7mlを加え、60℃で2時間反応後、内温を85℃まで上昇させながらテトラヒドロフランを濃縮除去し、85℃で2時間反応した。放冷後、反応液にトルエン40mlと25%NaOH水溶液30mlを加え、トルエン20mlで計4回抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、それをろ過して濃縮した。トルエンを加えて再結晶し、淡黄色粉末5.53g(収率75.0%)を得た。HPLC分析(カラム ODS−80TM、検出UV 254nm、流量1.0ml/min、溶離液 メタノール/水=40/60 バッファー トリエチルアミンおよび酢酸0.1%)の結果、純度は98.0%であった。融点 170℃〜172℃。
【0045】実施例2 3−(2−ピリジル)キノリン(V−2)の合成3−アセチルキノリン5.14g(0.030モル)と(3−ピペリジルプロパ−2−エニリデン)ピペリジン過塩素酸塩(IV−2)9.20g(0.030モル)をテトラヒドロフラン15mlに溶解し、カリウムt−ブトキシド3.64g(0.032モル)を加え10分間60℃で反応した。次いで酢酸アンモニウム9.25g(0.12モル)と酢酸7mlを加え、60℃で2時間反応後、内温を85℃まで上昇させながらテトラヒドロフランを濃縮除去し、更に85℃で2時間反応した。放冷して25%NaOH水溶液60mlを加え、トルエン100mlで計4回抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過して濃縮した。減圧蒸留(bp.166−170℃/0.1Torr)を行い、目的物の淡黄色液体5.26g(収率85.0%)を得た。 HPLC分析(カラムODS−80TM、検出UV 264nm、流量1.0ml/min、溶離液アセトニトリル/水=80/20 バッファー トリエチルアミンおよび酢酸0.1%)の結果、純度は99.3%であった。
【0046】実施例3 2,4’−ジピリジル(V−3)の合成(4−アザ−4−フェニルブタ−1,3−ジエニル)フェニルアミン塩酸塩(IV−3)56.93g(0.220モル)、ピペリジン138ml、およびメタノ−ル120mlを加え、1時間加熱還流した。90℃まで温度を上げてメタノ−ルを留去した。内温30℃まで放冷し、カリウムt−ブトキシド24.24g(0.216モル)、4−アセチルピリジン24.23g(0.200モル)を加え、60℃で30分反応した。40℃まで放冷し、酢酸アンモニウム92.50g(1.20モル)を加え、酢酸70mlを手早く滴下し、内温85℃で1.5時間反応した。反応後、内温を80℃まで下げてトルエン140mlを加えた。内温30〜50℃で25%NaOH水溶液300mlを滴下した。滴下終了後、内温が30℃になった時点でセライト濾過し、濾液をトルエン50mlで抽出した。更にトルエン100mlで2回抽出し、有機層をあわせて濃縮、セライト濾過した。更に濃縮し、減圧蒸留し、淡黄色固体25.1g(収率80.3%)を得た。HPLC分析(カラム ODS−80TM、検出UV 254nm、流量1.0ml/min、溶離液 アセトニトリル/水=50/50 バッファ− トリエチルアミン 及び酢酸0.1%)の結果、純度は99.5%であった。融点55.9〜56.0℃
【0047】実施例4 5−クロロ−2−(4−ピリジル)ピリジン(V−4)の合成4−アセチルピリジン3.63g(0.030モル)と(3−(ジメチルアミノ)プロパ−2−エニリデン)ジメチルアミン過塩素酸塩(IV−4)8.22g(0.032モル)をテトラヒドロフラン23mlに溶解し、カリウムt−ブトキシド3.63g(0.032モル)を加え、10分間60℃で反応した。次いで酢酸アンモニウム13.87g(0.18モル)と酢酸10mlを加えて60℃で2時間反応後、内温を85℃まで上昇させながら、テトラヒドロフランを濃縮除去し、更に85℃で2時間反応した。放冷して25%NaOH水溶液60mlを加え、トルエン100mlで計4回抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過して濃縮した。再結晶をトルエン/へキサンの混合液から行い、無色針状結晶4.69g(収率 82.0%)を得た。HPLC分析(カラムODS−80TM、検出UV 254nm、流量1.0ml/min、溶離液アセトニトリル/水=70/30 バッファ− トリエチルアミン及び酢酸0.1%)の結果、純度は99.9%であった。融点 111.7〜112.3℃用いた3−アミノ−2−プロペニリデンアンモニウム塩類または3−イミノプロペニルアミノ化合物の構造と、実施例1〜4で合成した目的物の構造を以下に示す
【0048】
【化12】


【0049】
【化13】


【0050】実施例5〜9上記実施例4と同様の操作を行い、V−5〜V−9の化合物を合成した。その結果を表1に示す。また、以下に実施例5〜9で合成した化合物の構造を示す。
【0051】
【表1】


【0052】
【化14】


【0053】同様の方法で、下記に示す化合物V−10〜V−20も合成した。
【0054】
【化15】


【0055】比較例1Khim.Geol.Nauk.,pp.114(1970)に記載の方法で、2−ブロモピリジンと4−クロロピリジンからウルマン反応により2,4−ジピリジル(V−3)を合成し、実施例3と比較した。その結果を表2に、副生物の構造を以下に示す。
【0056】
【表2】


【0057】
【化16】


【0058】表からも明らかなように、比較例の方法では比較的単純な化合物同士の反応で合成できるが、その選択性は低く、本発明が選択性が高いことは明らかである。
【0059】
【発明の効果】本発明によれば、医薬品や農薬、電子写真感光体、染料等の中間体として有用なピリジン誘導体を、高価な触媒や特殊な設備を用いることなく、工業的規模で製造することができる。更に詳しくは高純度、高収率、低コストで製造でき、公害問題を生じない、位置特異的なピリジン誘導体を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】一般式(I)で表されるアセチル化合物と一般式(II)で表される3−アミノ−2−プロペニリデンアンモニウム塩類を反応させる工程を含むことを特徴とするピリジン誘導体の製造方法。
【化1】


式中、R1は水素原子、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアリ−ル基、置換または未置換のヘテロ環残基、置換または未置換のアルケニル基、置換または未置換のアルキニル基、カルボニル基、スルホニル基、シアノ基を表す。R2は水素原子、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアリ−ル基、置換または未置換のヘテロ環残基、置換または未置換のアルケニル基、置換または未置換のアルキニル基、アルコキシ基、アリ−ルオキシ基、ヒドロキシル基、アルキルチオ基、アリ−ルチオ基、カルボニル基、スルホニル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子を表わす。また、R1、R2は結合して、それらが結合している炭素原子と共に非金属原子からなる置換または非置換の環を形成してもよい。
【化2】


式中、R3、R4、R6、R7はそれぞれ独立に水素原子、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアリ−ル基、置換または未置換のヘテロ環残基、カルボニル基を表す。R3とR4、R6とR7は各々結合して、それらが結合している窒素原子と共に非金属原子からなる置換または非置換の環を形成してもよい。R5は、水素原子、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアリ−ル基、置換または未置換のヘテロ環残基、置換または未置換のアルケニル基、置換または未置換のアルキニル基、ヒドロキシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、スルホニル基、置換または未置換のアミノ基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子を表す。X-は四級アンモニウム塩の対イオンであり、ハロゲン化物イオン、過ハロゲン酸イオン、有機酸イオン、無機イオンを表す。
【請求項2】請求項1に記載の一般式(I)で表されるアセチル化合物と下記一般式(III)で表される3−イミノプロペニルアミノ化合物とを反応させる工程を含むことを特徴とするピリジン誘導体の製造方法。
【化3】


式中、R3、R4、R6はそれぞれ独立に水素原子、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアリ−ル基、置換または未置換のヘテロ環残基、アシル基を表す。R3とR4は結合して、それらが結合している窒素原子と共に非金属原子からなる置換または非置換の環を形成してもよい。R5は、水素原子、ハロゲン、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアリ−ル基、置換または未置換のヘテロ環残基、置換または未置換のアルケニル基、置換または未置換のアルキニル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリ−ルオキシ基、カルボニル基、スルホニル基、置換または未置換のアミノ基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子を表す。

【公開番号】特開2001−261653(P2001−261653A)
【公開日】平成13年9月26日(2001.9.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−75518(P2000−75518)
【出願日】平成12年3月17日(2000.3.17)
【出願人】(000175607)三協化学株式会社 (34)
【Fターム(参考)】