説明

ファンフィルタユニットのファン構造

【課題】 本発明は、極めて軽量にして強度と耐薬品性等に優れたファンフィルタユニット用のファン構造を新規に提供するものである。
【解決手段】 本発明はクリーンルーム内にクリーンエアーを供給するファンフィルタユニットのファンを発泡率を10〜30%とする発泡スチロールにて形成し、且つ該ファンの全表を無電解ニッケルメッキにて被膜してなる。新規のファンフィルタユニットのファンまたは既存のファンの交換用として広く利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はクリーンルーム内にクリーンエアーを供給するファンフィルタユニット(FFU)のファン構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、クリーンルーム内には、特開2000−205621号公報の3頁4項の23行以下に記載されているように「クリーンルームでは種々の薬品が使用されることから、これらの薬品に侵される可能性がある樹脂製のものよりも、金属(例えば、アルミニウムやステンレス鋼等)部材によって形成されることが好ましい。」とされ、ファンはアルミニウム,ステンレス,メッキ鋼板,鋼板を加工後塗装したものなど0.5〜1.0mm厚程度の金属板の板金加工と組立てによって形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−205621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さらに従来のファンは図4乃至5に示すように、中央を凹部とする平面視円形をした板状の主支持部材Aと該主支持部材Aと同外周径をもって内周側を該主支持部材の凹部と同じ方向に絞り曲げした環状の副支持部材Bと、該主・副支持部材A,B間に跨り且つ相互に等間隔を置いて斜め放射状にて縦設する5つの羽根部材Cと、モータ軸接合用ボスDとを各別に形成し、主/副支持部材A,Bの間に羽根部材Cを位置合わせして、羽根部材Cに設けた爪片cを両支持部材A,Bの貫通穴を通して外側で曲げ止め、接合用ボスDを主支持部材Aの凹部中心に合わせてリベットE止めして接合組立てするので、熟練を要す多数の製造工程を必要とし、さらにプレス成型,組立て用の型費用が例えば外形390φのもので10,000,000円〜20,000,000円というように高額となるためにファンの製造コストが高いものになっているという課題がある。
【0005】
また、ファンを安定回転させて振動の発生を防止するためにはファンの重量バランスに偏りのないことが重要であるところ、上記のように組み立てた板金製のファンではプレスや溶接時の歪み,接合組立て時のズレなどによって重量バランスにバラつきが生ずることが常であり、このアンバランスを修正するためにはバランシングマシーンで1つひとつのファンを回転させて重量偏位の位置と量とを測り、その反対側にカウンターバランスの錘を固定取付けしてアンバランスを取り除くバランス調整工程を要するため、この手間もコスト高を招く要因のひとつになっているという課題がある。
【0006】
さらに、金属製で重いファンを組込んだファンフィルタユニットは輸送時にファンの自重で振動し、その振動によって各部材に歪みが生じて新たなアンバランス状態を引き起こして、バランスの再調整を要することがあるという課題がある。
ファンの自重に相乗される衝撃で、モータ回転軸を支持する軸受を損傷することも多く、損傷すると運転時の振動が大きくなったりモータから異音が発生する不具合に繋がるという課題がある。
【0007】
また、ファンの重量が重いほど規定回転数までの起動時間が長くなるので、短時間にて規定回転数に到達させるためには通常運転に要するよりも大きめのトルクをもった大型モータを使用する必要があるという課題がある。
またファンのような回転体は遠心力が大きくなるに連れて振動や騒音を発生しやすくなるという問題があり、これを解消するには動バランス修正をしたり、軽量化することが現実的な対応手段であるところ、ファンの安易な軽量化には新たに回転速度(破壊回転数)の課題が生ずることとなる。
【0008】
なおクリーンルームの天井などには多数のファンフィルタユニットを設置するためにできるだけ軽量化されることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ファンを発泡率10〜30%(容積率1.1〜1.3倍)とする発泡スチロールにて形成し、且つ該ファンの全表面を無電解ニッケルメッキによって被膜して、かかる課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の発泡スチロールにて成型するファンは、板金製品に要するプレス型と組立用の型の費用に較べて金型費を10分の1以下とすることができるので初期投資コストを著しく低く抑えることができ、さらに金属板材に比較して格段に廉価な発泡スチロール材を使用することで、ファンの製造コストを飛躍的に低廉にすることができるという効果を生ずる。
【0011】
ファンは発泡スチロールの発泡成型にて一体成型または接合の容易な2分割体などにて成型することができるので、製造能率を飛躍的に向上することができるという効果を生ずる。しかも絶対重量がごく小さくなるので、例えば重量バランスに偏位があっても回転に悪影響を及ぼすほどとはならず、すなわち、質量軽減率と同比率で遠心力が抑えられるため偏重心によるアンバランスが生じても影響がでない範囲にとどまるため、ファンのバランス調整の手間を省略することができるという効果を生ずる。
【0012】
ファンが軽量化されたことでファンフィルタユニットの輸送時の振動が軽減して、振動歪みによるバランス崩れの発生を防止することができ、また、モータ軸を支持する軸受の損傷を回避することができるという効果を生ずる。
【0013】
ファンを軽量化したことにより駆動モータのサイズを小型なものにしても短時間にて規定回転数に到達させるができるので、設備費ならび運転費を軽減することができるという効果を生ずる。
【0014】
ファンは吸音性能が大きい発泡スチロールで形成したので、特別な防振構造を備えなくとも風切り音,モータからの振動を軽減することができるという効果を生ずる。またファンを無電解ニッケルメッキにより被膜したので、発泡スチロール製品の弱点である耐薬品性、耐油性,耐熱性および強度が格段に向上し、発泡スチロールが傷つくことにより生ずる発塵を妨げるとともに、発泡スチロールから発生するガスの飛散を防止することができ、従来の板金製と同等に長年の使用に供することができるという効果を生ずる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ファンの成型状態を示す縦断側面図
【図2】無電解ニッケルメッキを施したファンの平面図
【図3】ファンフィルタユニットに組立てた状態を示す縦断側面図
【図4】従来例の板金製ファンの組立て前の状態にて示す縦断側面図
【図5】同、組立て状態の平面図
【符号の説明】
【0016】
1はファン
1aは主支持部材
1bは副支持部材
1cは羽根部材
1dはモータ軸接合用ボス
2は金型
3は無電解ニッケルメッキ
4はモジュウル
5はモータ
5aはモータの回転軸
6はネジ
7は外箱
8はファフィルタユニット
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、ファンフィルタユニットのファンを発泡率10〜30%とする発泡スチロール材にて形成し、該ファンの全表面を無電解ニッケルメッキにて被膜するようにしたのである。
発泡スチロール成型によりファン製造の型費と材料費を従来の板金製に較べて著しく安価とし、組立て不要の精密な一体成型によりバランス調整を不要にし、大幅な軽量化により輸送時の振動を抑えて新たな歪みの発生を防止し、従来よりも小型のモータによる運転を可能にして、しかも連続運転にも十二分な強度と板金製のファンと同等の耐薬品性、耐油性,耐熱性が得られるようにしたのである。
【実施例1】
【0018】
図1乃至図3は1実施例を示すもので、発泡スチロールの材料であるポリスチレンをブタン・ペンタンなどの炭化水素ガスで発泡させて直径1mm程度の細粒状ポリスチレン=ポリスチレンビーズに炭化水素ガスを吸収させ、これにポリスチレンの耐熱温度80〜90℃を越える100℃以上の高温蒸気を当てて樹脂を軟化・融解させると共に圧力を加えて発泡させ、発泡したビーズ同士を融着させるビーズ法発泡スチロール (expanded polystyrene、EPS)にて金型2内にてファン1を一体成型する。
【0019】
より具体的には、予備発泡としてポリスチレンビーズを発泡機内に投入し、撹拌しつつ蒸気で加熱してポリスチレンビーズを膨張させる。この工程で発泡率が10〜30%(容積率1.1倍〜1.3倍)の設定値となるようにコントロールしておいてから熟成用サイロの中に移して8〜24時間程度粒子を熟成させて粒子内の圧力を安定させ、その後ポリスチレンビーズをファン成型用の金型2の中に充填し、蒸気により2次発泡させると同時にビーズ間同士を融着させファン1を成型するのである。なお、材料のポリスチレンにあらかじめヘキサ・ブロモ・シクロ・ドデカン(HBCDD)などの自己消火性の高い難燃助剤を練り込み添加して発泡スチロールの難燃性を高めるようにすることもある。
【0020】
金型2はファン1を構成する主支持部材1aと副支持部材1bと羽根部材1cおよびモータ軸接合用ボス1dを一体成型するように造られているので、脱型時に一切の接合組立て作業を要しない一体成型にて完成したファン1が得られるのである。
なお、主支持部材1aとモータ軸接合用のボス1d、副支持部材と1bと羽根部材1cをそれぞれ一体とした2分割などの分割体にて成型し、これらを接着等の手段を用いて接合するようにすることもある。いずれにしても板金製に較べて、組立て作業はごく容易なものとなり、プレスや溶接作業を要しないために歪みが発生することはないものとなる。
【0021】
ポリスチレンビーズの発泡率を10〜30%にとどめることで、射出成型のプラスチック製品のように強度を非常に高くすることができ、しかも寸法安定性が高く成型精度に優れたファン1を得ることができる。板金製に近い厚みにてファン1、特に羽根部材1cを成型することができるため、従来型の空力特性の設計思想をそのまま活かすことのできるファン1ができるのである。なお、発泡率を10%より低くするとポリスチレンビーズ間の融着力が弱まって成型精度が低くなり、30%より高くすると加工厚みの最低限度が上がり厚みが増すことで空気が流れる側の羽根部材の形状が再現できなくなるおそれがある。また低発泡用ということで耐高圧性を要しない金型2は材質,強度の点できわめて低価格にて製造することが可能である。
【0022】
また、発泡スチロールの原料であるポリスチレンの比重は1.05であるから、発泡率10〜30%にて成型する発泡スチロール製のファン1の重量はステンレス(合金)製のファンに比較して約8分の1〜10分の1、アルミニウム(合金)製の約3分の1〜3.5分の1程度に著しく軽量化されるのである。
【0023】
次いで脱型したファン1を無電解メッキ槽に入れて5〜20μm厚の無電解ニッケルメッキ3を施すのである。無電解メッキは還元剤の酸化によって放たれる電子イオンが金属イオンに転移して金属皮膜を形成する化学メッキにより発泡スチロールなどの不導体上にも良好な密着製をもって被膜することができて、特にNi−P(ニッケル−リン)合金による無電解ニッケルメッキは、ファン1のような複雑な形状においても均一な膜厚で皮膜を形成する膜厚精度がきわめて高い(±5%)ので、一体成型で得たファン1の重量バランスを損なうことなくして表面硬度を高め、耐食性に優れたものとすることができる。また無電解ニッケルメッキは延性が高いので送風時抵抗による微変形に対しても追従性と復元性の優れたものとなる。この無電解ニッケルメッキによって、発泡スチロールの弱点である耐薬品性,耐油性等が高められ、発泡スチロールが傷つくことによって生ずる発塵を防ぎ、また、発泡スチロールから発生するガスを閉じこめてクリーンルーム内に吹き込むことを防止することができる。さらに,耐熱性が向上することによって消防法上に求められる難燃性の数値をクリアすることもできることとなる。
【0024】
以上のようにして製造したファン1は、モータ軸接合用ボスDをモジュウル4に固定したモータ5の軸5aに嵌着し、ネジ6止め固定する。このモジュウル4を外箱に取付けてファンフィルタユニット6とするのである。ファン1がごく軽量化されたことによってモータ5は従来に較べて小型のものを使用しても規定回転数までの起動時間を短くすることができる。またファン1の軽量化によって輸送時の振動発生が低減されて歪みなどによるアンバランスの生ずること、モータ軸受が損傷することなどが予防されることとなり、さらに吸音性が大きい発泡スチロールにて形成することで、特別な防振構造を設けることなくして風切り音やモータからの振動を減衰することができるものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の発泡スチロール製のファンは、新規のファンフィルタユニットのファンまたは既存のファンの交換用として広く利用されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリーンルーム内にクリーンエアーを供給するファンフィルタユニット用のファンであって、回転軸に発泡率10〜30%とする発泡スチロールにて形成したファンを取付け、該ファンの全表を無電解ニッケルメッキにて被膜したことを特徴とするファンフィルタユニットのファン構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−61097(P2013−61097A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198103(P2011−198103)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(500054031)株式会社上村工業 (8)
【Fターム(参考)】