フィブリンおよびアガロース生体材料を用いる組織工学による、人工組織の製造
本発明は、生物医学の分野、より具体的には、組織工学の分野に包含される。本発明は、具体的には、人工組織を製造するためのインビトロ法、この方法によって得ることができる人工組織、および損傷した組織または臓器の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための人工組織の使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学の分野に包含され、より具体的には、組織工学の分野に包含される。本発明は、具体的には、人工組織を製造するためのインビトロで行われる方法、この方法によって得ることができる人工組織、および損傷した組織または臓器の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるためのこの人工組織の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
組織工学は、生検から得られる組織サンプルに由来する幹細胞から実験室で人工組織を設計し、作製することを可能とし、それによって臓器移植および再生医療に大きな飛躍的進歩をもたらす一連の技術および学問である。組織工学は、インビトロで組織および臓器を産生し、これらの組織を必要とする患者に移植するという有望な用途のため、近年最も大きく進歩してきたバイオテクノロジー領域の一領域である。とはいえ、現時点までに記載されている人工組織には、いくつかの問題および合併症がある。例として、皮膚、角膜、膀胱、尿道等由来の人工組織を用いた場合について、そのうちのいくつかを以下に述べる。
【0003】
膀胱は、尿を受け取り、貯蔵する役割を担う臓器である。膀胱は、骨盤底に位置し、尿を貯蔵、保持する能力、伸展性を特徴とする。随意調節は、尿道括約筋が収縮して尿道を閉じ、膀胱頸が尿漏れを防ぐ結果であり、さらに、尿を貯蔵するために膀胱を緩め、緩和する結果であり、これにより膀胱の中に尿が溜まることとなる。多くの先天的または後天的な病的状態が、膀胱のコンシステンシーに影響を及ぼし、膀胱の自制機能を変えてしまうことがある。一方で、膀胱の奇形は、緊急に手術によって修復する必要がある重篤な膀胱壁の欠陥を伴う傾向がある。他方で、骨盤の外傷、膀胱癌、および外傷性の脊髄損傷は、損傷した膀胱を修復するために膀胱外の組織の使用を必要とする、よくある病的状態である。この場合、現時点では、腸を用い(腸による膀胱形成術)、胃を用い(胃による膀胱形成術)、または尿路上皮を用い(尿管による膀胱形成術)、膀胱の拡張を行っており、これらの技術に関連する合併症が非常によく起こる。
【0004】
今まで、臨床で使用される膀胱置換モデルは、ほとんど記載されていない。近年では(Atalaら、Lancet.2006年4月15日;367(9518):1241−6)、ボストン小児病院の研究者らは、コラーゲンおよびポリグリコール酸から作製した人工膀胱代替物を、重篤な膀胱損傷を負った患者7例に移植し、成功した。しかし、人工膀胱を必要とする患者を処置するのに利用可能な人工膀胱モデルはきわめて限定されており、品質が悪い、作製した組織の操作性が限定されているといった数多くの欠点がある。さらに、コラーゲンは、組織工学で使用する場合、収縮し、体積が小さくなってしまう傾向がある生成物であり、コンシステンシーが限定されており、したがって、手術での操作性も限定されている。
【0005】
尿道は、膀胱に貯蔵されている尿が通り、外側に取り出される管である。両方の性別での排泄機能に加え、尿道は、男性では、射精の間に精嚢からの精子内容物の経路となることによって、生殖機能も担う。尿道の機能的コンシステンシーに影響を与え、正常な機能を再び確立するために、膀胱をかなりの程度または少しだけ置換することが必要な、多くの先天的な疾患(主に、尿道下裂および尿道上裂)または後天的な疾患(外傷性傷害、狭窄など)が存在する(Bairdら、J Urol.2005;174:1421−4;Persichettiら、Plast Reconstr Surg.2006;117:708−10)。
【0006】
傷害のある組織は、昔から、人工装具要素または患者自身の一部から採取した組織(自家移植片(autograftまたはautotransplant))または別の個体から採取した組織(異種移植片)を用いて修復されている。尿道のほとんどの病的状態を正すために、自己に隣接する組織の組織片、または主に膀胱または口腔粘膜の遊離移植片がよく用いられている。しかし、常に局所組織片を得ることができるとは限らず、膀胱または口腔粘膜からの除去は、ドナーおよびレシピエントの両方の領域で、合併症および副作用と無縁ではない(Corvinら、Urologe A.2004;43(10):1213−6;Schultheissら、World J Urol.2000;18:84−90)。一方、異種組織を使用すると、尿道置換の結果はかなり悪くなり、移植した組織の免疫拒絶反応が非常によく起こる。
【0007】
今まで、臨床的に可能性のある用途をもつ尿道置換モデルはほとんど記載されておらず、尿道代替物を患者に移植するということが文献で記載されている症例は非常に限定されている。現在までに記載されているモデルは、ほとんどがコラーゲン生体材料に基づくものである(De Filippoら、J Urol.2002 Oct;168(4 Pt 2):1789−92;El−Kassabyら、J Urol.2003 Jan;169(1):170−3;discussion 173)か、または患者自体の皮膚に基づくものである(Linら、Zhonghua Yi Xue Za Zhi.2005 Apr 20;85(15):1057−9)。しかし、これらのモデルはすべていくつかの問題および合併症があり、これらの問題をもたない尿道代替物はまだ開発されていない。一方で、コラーゲンは、組織工学で使用する場合、収縮し、体積が小さくなってしまう傾向がある産物であり、コンシステンシーが限定されており、したがって、手術での操作性も限定されている。他方で、自己の皮膚の使用は、尿道の疾患に適応すべき能力が十分に示されておらず、脱細胞化した真皮の一部を再び細胞化させることはきわめて困難である。
【0008】
角膜は、目の中を光が透過し、外側環境に対し眼球の主要な障壁を形成する、血管のない透明な構造である。このため、正しい視覚機能にとって、コンシステンシーおよび正しい操作は必須である。先天的または後天的な角膜の病的な状態は、眼科で最もよくある問題のひとつであり、生理機能および角膜の構造をひどく変えてしまう多くの原因が存在する。これらの場合には、合併症と無縁ではない積極的な処置は、異なる種類の人工角膜移植術(例えば、羊膜移植)に頼る傾向があり、ときには、異種角膜移植(角膜形成術)にさえ頼る傾向がある。しかし、角膜移植は、死亡したドナーに由来する角膜の入手可能性に大きく依存する技術であり、このことは、多くの人が非常に長い期間にわたって移植待機リストにとどまってしまうことを意味する。一方、ドナーに由来する臓器移植は、臓器を移植したときに免疫拒絶を起こす可能性があり、患者は残りの人生でずっと免疫抑制治療を受けさせられることはよく知られている。最後に、角膜を含む任意の種類の臓器または組織の移植は、HIV、肝炎、ヘルペス、細菌性疾患および真菌性疾患などを含め、あらゆる種類の感染性疾患がドナーからレシピエントに移る可能性がある技術である。角膜移植から生じるこれらすべての問題および合併症があるため、異種移植に代わる治療の探索が必要とされている。
【0009】
角膜代替物(角膜構築物または人工角膜)を実験室で作製することは、組織工学の中で重要性が増しつつある分野のひとつであり、多くの実験室で現在も試みられているが、ヒトの臨床診療で、または薬理学的かつ化学的生産物を評価するために使用可能である良好な品質の角膜代替物を得ることは、あまりうまくいっていない(Griffithら、Functional Human corneal equivalents constructed from cell lines.Science.1999;286(5447):2169−72;Orwinら、Tissue Eng.2000;6(4):307−19;Reichlら、Int J Pharm.2003;250:191−201)。この観点で、動物およびヒトに由来する人工角膜が開発されている。両方の場合で、異なる生体材料、例えば、I型コラーゲン、絹フィブロイン(HigaおよびShimazaki.Cornea.2008 Sep;27 Suppl 1:S41−7)、キトサン(Gaoら、J Mater Sci Mater Med.2008 Dec;19(12):3611−9)、ポリグリコール酸(Huら、Tissue Eng.2005 Nov−Dec;11(11−12):1710−7)、アガロースを含むフィブリン(Alaminosら、Invest Ophthalmol Vis Sci(IOVS).2006;47:3311−3317;Gonzaelez−Andradesら、J Tissue Eng Regen Med.2009 May 5)を用い、モデルを開発した。これらの全生体材料の中で、現在までで最もよい結果を与えたのは、フィブリンと、塩基としてアガロースとを含むものである。I型コラーゲンで作られる角膜は、体積が減り、収縮してしまう傾向があり、使用するコラーゲンが動物由来であるというさらなる欠点がある。フィブロインおよびキトサンは、無脊椎動物から作られる産物であり、顕著な生体適合性の問題を生じる。フィブリンおよびアガロースから開発された角膜は、対照的に、同じ患者の血液に由来するフィブリンを含むという利点をもち、一方、アガロースは、免疫学的観点から不活性な産物を生成する。
【0010】
皮膚は、ヒトの体のなかで最も大きな器官であり、体内バランスを維持するのに必須の役割を果たし、任意の種類の外からの攻撃に対する主要な有機体の保護障壁を形成する。多くの皮膚の病的状態が存在し、創傷、褥瘡、および熱傷が最も一般的なものである。皮膚組織片もしくは移植片の使用に基づく現時点での処置は、またはドナーに由来する皮膚を移植することに基づくものでさえも、いくつかの問題を伴う。
【0011】
これらの問題を解決する必要性から、組織工学の必要性によって、ヒト人工皮膚産物の製造に基づく代替物質の研究がおこなわれている(Horchら、Burns.2005 Aug;31(5):597−602)。具体的には、現在までに、合成または生物系の皮膚カバーを含む、異なる種類の人工皮膚が設計されているが、元々のヒトの皮膚がもつ構造や機能を正確にうまく再現できたものはない。一方で、合成の皮膚カバーは、生きた細胞を含まず、非吸収性の生体材料で構成されており、一時的なカバーまたはガイド下組織修復誘発剤として使用可能である。これらの人工で不活性な組織は、生体活性はきわめて乏しく、したがって、深い傷または広範囲の傷には使用することができない。他方で、生物系のカバーは、人工のヒト皮膚を用いて構成され、通常のヒトの皮膚構造を再生しようとする生きた細胞および細胞外基質が存在する。今まで、最もよい結果を与えた人工のヒトの皮膚は、生体材料としてヒト血漿に由来するフィブリンを用いた皮膚幹細胞から組織工学によって作られた人工皮膚である(Meanaら、Burns 1998;24:621−630;Del Rioら、Hum Gene Ther.2002 May 20;13(8):959−68;Llamesら、Transplantation.2004 Feb 15;77(3):350−5;Llamesら、Cell Tissue Bank 2006;7:4753)。これらの技術は、多くの飛躍的進歩を引き起こしたが、主に、コンシステンシーが制限され、操作が困難であり、非常に脆いため、臨床での使用が制限されている。最もコンシステンシーの高い組織代替物のひとつは、フィブリンとアガロースの併用である。今まで、アガロースは、軟骨の代替物(Miyataら、J Biomech Eng.2008 Oct;130(5):051016)、角膜の代替物(Alaminosら、Invest Ophthalmol Vis Sci(IOVS).2006;47:3311−3317)、およびヒト口腔粘膜の代替物(Alaminosら、J Tissue Eng Regen Med.2007 Sep−Oct;1(5):350−9;Saenchez−Quevedoら、Histol Histopathol.2007 Jun;22(6):631−40)を作るために使用されているが、人工の皮膚を作るためにこの生体材料を使用した従来の経験は存在しない。
【0012】
組織工学は、バイオテクノロジーの中でも重要性が大きくなってきている領域のひとつである。しかし、現時点までに存在する人工組織の欠点から、ヒトの臨床診療で、または薬理学的産物および化学的産物を評価するために使用可能である人工組織を得ることができる新しい技術を開発し、今までにわかっている制限を克服することが必要とされている。
【発明の概要】
【0013】
第1の態様において、本発明は、人工組織を製造するためのインビトロで行われる方法であって、
(a)フィブリノゲンを含む組成物を、単離された細胞のサンプルに加える工程と、
(b)工程(a)から得られた生成物に抗線維素溶解薬を加える工程と、
(c)工程(b)から得られた生成物に、少なくとも1つの凝固因子、カルシウム源、トロンビン、またはこれらの任意の組み合わせを加える工程と、
(d)工程(c)から得られた生成物に多糖組成物を加える工程と、
(e)工程(d)から得られた生成物の中または表面で、単離された細胞を培養する工程と、そして
(f)工程(e)から得られた生成物のナノ構造化を誘発する工程と
を含んでなることを特徴とする方法に関する。
【0014】
第2の態様において、本発明は、上記本発明の方法によって得ることのできる人工組織に関する。
【0015】
第3の態様において、本発明は、上記本発明の人工組織の医薬としての使用に関する。
【0016】
第4の態様において、本発明は、病変または損傷した組織または臓器の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換える薬剤を製造するための上記本発明の人工組織の使用に関する。
【0017】
第5の態様において、本発明は、上記本発明の人工組織を含んでなる医薬組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、人工組織をナノ構造化するために使用される方法の模式図を示す。
【図2A】図2は、人工のヒト皮膚産物の評価を示す。A.インビトロ顕微鏡分析。
【図2B】B.インビボで評価した人工のヒト皮膚の肉眼での分析および顕微鏡分析。
【図2C】C.免疫組織化学的分析。
【図3A】図3は、ウォートンジェリー(Wharton’s jelly)の細胞を用いた人工のヒト皮膚産物の評価を示す。A.ウォートンジェリー幹細胞の生存能力の決定。
【図3B】B.顕微鏡分析。
【図3C】C.以下のタンパク質の免疫組織化学的分析:パンサイトケラチン(PANC)、ケラチン1(KRT1)、ケラチン10(KRT10)、インボルクリン(INVOL)、フィラグリン(F I LAG)。
【図4A】図4は、角膜産物の評価を示す。A.顕微鏡分析および免疫組織化学的分析:ヒトコントロールである角膜上皮(C)、および異なる成熟段階および成長段階にインビトロで維持した角膜産物の上皮(1:1層の上皮層をもつ角膜、2:2〜3層をもつ角膜、3:層状になった上皮をもつ角膜、4:層状になった上皮をもち、空気−液体技術(air−liquid technique)を付した角膜)における、細胞間結合に関連する異なるタンパク質の免疫蛍光。
【図4B】B.レオロジーによる品質制御。
【図4C】C.光学的な品質制御。
【図4D】D.遺伝的な制御:組織工学によって作られた、人工の角膜構築物によって発現した主な遺伝子機能。
【図4E】E.動物モデルにおける、人工の角膜産物の臨床的な性能をインビボで評価。A:前側の半分の角膜を除去した後、角膜構築物を間質の表面に置いた。B:縫合したときの最終的な外観。C:3週間後の進化。D:6週間後の進化。
【図5A】図5は、人工のヒト尿道産物の評価を示す。A.顕微鏡分析。
【図5B】B.免疫組織化学的分析(インテグリン発現)。
【図6A】図6は、人工の膀胱産物の評価を示す。A.顕微鏡分析:それぞれ、実験室で作られ、1週間、3週間培養された人工のヒト膀胱。
【図6B】B.免疫組織化学的分析:組織工学を用いて作られた人工のヒト膀胱、および正常なコントロールであるヒト膀胱における、免疫蛍光を用いた、サイトケラチン(CK)7、8、4、13、パンサイトケラチンの分析。
【図7A】図7は、人工のヒト口腔粘膜産物の評価を示す。A.培養して、1、2、3、4週間成長させた後のフィブリン、アガロース、およびコラーゲン組織(最終濃度2.8g/Lのコラーゲン)、ならびにコントロールとしてヒト口腔粘膜の間質を、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した光学顕微鏡による分析。
【図7B】B.最終的な好ましいコラーゲン濃度である2.8g/Lになったフィブリン系、アガロース系、コラーゲン系の人工組織(A)を、最終コラーゲン濃度が3.8g/Lの人工フィブリン、アガロース、コラーゲン組織(B)、最終コラーゲン濃度が1.9g/Lの人工フィブリン、アガロース、コラーゲン組織(C)、またはフィブリン、アガロースが存在しない、最終濃度が5.6g/Lのコラーゲン組織(D)、コントロールとして使用した正常なヒト口腔粘膜の間質(E)と比較した、走査型電子顕微鏡を用いた分析。
【図7C】C.最終的な好ましいコラーゲン濃度である2.8g/Lになったフィブリン系、アガロース系、コラーゲン系の人工組織(A)を、最終コラーゲン濃度が3.8g/Lの人工フィブリン、アガロース、コラーゲン組織(B)、最終コラーゲン濃度が1.9g/Lの人工フィブリン、アガロース、コラーゲン組織(C)、またはフィブリン、アガロースが存在しない、最終濃度が5.6g/Lのコラーゲン組織(D)と比較した、限界応力。
【図8】図8は、非ナノ構造の組織に対し、ナノ構造の組織の限界応力(単位パスカル)が向上していることを示す。
【図9】図9は、ナノ構造化に付したサンプルおよび非ナノ構造のサンプルの粘性係数G’’を示す(単位パスカルでのデータ)。
【図10】図10は、ナノ構造の組織と、元々の非ナノ構造の生体材料の弾性係数G’を示す。
【図11】図11は、0.1%フィブリン−アガロースナノ構造化に付した組織と、非ナノ構造の0.1%フィブリン−アガロース生体材料の透明度を示す。このデータは、可視光スペクトルの透過率%で与えられている(約400〜700nm)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
組織工学は、インビトロで組織および臓器を産生し、これらの組織を必要とする患者に移植するという用途のため、近年最も大きく進歩してきたバイオテクノロジー領域の一領域である。しかし、現時点で存在する人工組織には制限事項があるため、ヒトの臨床診療において、または薬理学的および化学的産物を評価するために使用可能な人工組織を得ることができる、新しい技術を開発することが求められている。
【0020】
本発明の方法
本発明は、人工組織を製造するためのインビトロで行われる方法、この方法によって得ることができる人工組織、および損傷した組織または臓器の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための、この人工組織の使用を提供する。
【0021】
本発明の第1の態様は、人工組織を製造するためのインビトロで行われる方法(以下、本発明の方法)であって、
(a)フィブリノゲンを含む組成物を、単離された細胞のサンプルに加える工程と、
(b)工程(a)から得られた生成物に抗線維素溶解薬を加える工程と、
(c)工程(b)から得られた生成物に、少なくとも1つの凝固因子、カルシウム源、トロンビン、またはこれらの任意の組み合わせを加える工程と、
(d)工程(c)から得られた生成物に多糖組成物を加える工程と、
(e)工程(d)から得られた生成物の中または表面で、単離された細胞を培養する工程と、そして
(f)工程(e)から得られた生成物のナノ構造化を誘発する工程と
を含んでなる方法に関する。
【0022】
本発明の方法の工程(a)において、フィブリノゲンを含む組成物を、単離された細胞に、好ましくは哺乳動物から単離された細胞に加える。この細胞は、特定の関連する細胞種によって異なり得る、当該技術分野で記載されている様々な方法によって得ることができる。これらの方法には、例えば生体組織検査法、機械的な処理、酵素による処理(例えば、これらに限定されないが、トリプシンまたはI型コラゲナーゼを用いた処理)、遠心分離、赤血球の溶解、濾過、この細胞種が選択的に増殖しやすい担持体または培地での培養、またはイムノサイトメトリーがあるが、これらに限定されるものではない。これらの方法のうち、いくつかを本明細書の実施例で詳細に記載する。
【0023】
工程(a)の細胞は、例えば、これらに限定されるものではないが、線維芽細胞、有角赤血球、または平滑筋細胞のような分化した細胞であってもよく、あるいは、例えば成人幹細胞のような細胞に分化する能力をもつ未分化細胞であってもよい。
【0024】
本発明の方法の好ましい実施形態によれば、工程(a)の細胞は、線維芽細胞であるか、または線維芽細胞に分化する能力をもつ未分化細胞である。線維芽細胞は、任意の組織または臓器から得ることができるが、工程(a)の線維芽細胞は、好ましくは、人工組織を代替物として使用し得る組織または臓器に由来する。例えば、本発明の方法を、皮膚を置換する組織または人工の皮膚を製造するために用いる場合、線維芽細胞は、好ましくは、皮膚に由来し(真皮の線維芽細胞)、膀胱を置換する組織または人工膀胱を製造するために用いる場合、線維芽細胞は、好ましくは、膀胱に由来し、尿道を置換する組織または人工尿道を製造するために用いる場合、線維芽細胞は、好ましくは、尿道に由来し、または、口腔粘膜を置換する組織または人工口腔粘膜を製造するために用いる場合、線維芽細胞は、好ましくは、口腔粘膜に由来する。とはいえ、線維芽細胞は、例えば、口腔粘膜、腹壁または任意の結合組織のような組織または臓器から得てもよい。口腔粘膜から得られた線維芽細胞を、例えば、皮膚を置換する組織または人工皮膚、膀胱を置換する組織または人工膀胱、尿道を置換する組織または人工尿道、または角膜を置換する組織または人工角膜を製造するために用いてもよい。
【0025】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、工程(a)の細胞は、有角赤血球であるか、または有角赤血球に分化する能力をもつ未分化細胞である。本発明の方法を、例えば角膜を置換する組織または人工角膜を製造するために用いる場合、好ましくは角膜間質から得た有角赤血球が用いられる。
【0026】
人工組織のすべての成分を自己由来の成分にすることができれば、移植する被検体の免疫系を抑制する必要なく、この組織の移植を行うことができる。しかし、人工組織の成分は、同種異系に由来するものであってもよく、すなわち、人工組織の成分は、人工組織が移植される個体とは別の個体に由来していてもよい。この成分の由来となる種が異なっていてもよく、この場合、組織の供給源は、異種であると呼ばれる。異種のものは、緊急で人工組織が必要な場合に、人工組織を前もって製造する可能性を広げるものであるが、この場合、人工組織が移植される被検体の免疫系を抑制することが推奨されるだろう。
【0027】
したがって、好ましい実施形態では、本発明の工程(a)の細胞は、自己由来である。とはいえ、工程(a)の細胞は、同種異系または異種に由来していてもよい。
【0028】
本発明の方法の工程(a)〜(d)に記載する異なる成分を工程(a)の細胞に加え、工程(e)から得られた生成物を担持体に固定して、フィブリン、多糖、そして相当する場合、つまり工程(d2)を適用した場合には、工程(d2)で加えられるタンパク質を含んでなる、マトリックスが形成され、細胞はその中に埋め込まれ、かつ細胞はその表面および/またはその内部で成長可能とされる。好ましくは、工程(a)の細胞は、このマトリックスの内部で成長する。
【0029】
フィブリンマトリックスの作製は、トロンビンによって誘発されるフィブリノゲン重合によって起こる。フィブリノゲンは、血漿に存在する高分子量タンパク質である。トロンビンは、フィブリノゲン分子を低分子量ポリペプチドとフィブリンモノマーに分解するタンパク質分解酵素である。このモノマーは、重合して二量体になり、次いで、トロンビンによってすでに活性化されていた第XIII因子の作用によって、カルシウムイオン存在下で共有結合を介して互いに結合する。
【0030】
工程(a)のフィブリノゲンを含む組成物は、例えば、これに限定されるものではないが、血漿であってもよい。また、工程(a)の組成物は、血漿誘導体(例えば、これらに限定されないが、フィブリノゲンの寒冷沈降物(クリオプレシピテート)または濃縮物)から製造されてもよい。工程(a)の組成物は、フィブリノゲンに加え、他の凝固因子を含んでいてもよい。
【0031】
好ましい実施形態では、工程(c)から得られた生成物のフィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/L、場合により、1〜10g/Lである。さらに好ましい実施形態では、工程(d)から得られた生成物のフィブリノゲン濃度は、1〜4g/L、場合により、2〜4g/Lである。とはいえ、これより大きな濃度または小さな濃度を使用してもよい。
【0032】
好ましい実施形態では、工程(a)の組成物のフィブリノゲン、または、工程(a)のフィブリノゲンを含む組成物は、自己由来である。とはいえ、工程(a)の組成物のフィブリノゲン、または、工程(a)のフィブリノゲンを含む組成物は、同種異系または異種に由来していてもよい。
【0033】
この本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、工程(a)のフィブリノゲンを含む組成物は、血漿である。この場合、フィブリノゲン重合は、工程(c)でカルシウム源を加えることによって誘発させることができる。
【0034】
この本発明の第1の態様のさらに好ましい実施形態では、工程(c)のカルシウム源は、例えば、これらに限定されるものではないが、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウムまたは両者の組み合わせのようなカルシウム塩である。カルシウム塩の濃度は、フィブリノゲン重合を誘発するのに十分な濃度でなければならない。より好ましい実施形態では、カルシウム塩は、塩化カルシウムである。さらにより好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物中の塩化カルシウム濃度は、0.25〜3g/L、場合により、0.5〜4g/Lである。とはいえ、これより大きな濃度または小さな濃度を使用してもよい。
【0035】
本明細書で使用する場合、用語「凝固因子」は、血漿中に存在し、凝固させる連鎖反応を起こす成分(一般的に、タンパク質)を指す。13種類の凝固因子が存在し、ローマ数字で番号が付けられている。I:フィブリノゲン;II:プロトロンビン;III:組織因子またはトロンボプラスチン;IV:カルシウム;V:プロアクセレリン;VI:不活性因子またはチモーゲン;VII:プロコンベルチン;VIII:抗血友病因子Aまたはフォン・ヴィレブランド因子;IX:抗血友病因子Bまたはクリスマス因子;X:スチュアート・ブラウワー因子;XI:抗血友病因子C;XII:ハーゲマン因子;XIII:フィブリン安定化因子;XIV:フィッツジェラルド;XV:フレッチャー;XVI:血小板;およびXVII:ソモカーシオ(Somocurcio)。好ましくは、本発明の方法の工程(c)で加える他の凝固因子は、第XIII因子である。
【0036】
フィブリンポリマーは、線維素溶解と呼ばれるプロセスによって分解することができる。線維素溶解の間、プラスミノーゲンは、プラスミノーゲン組織活性化剤によって活性プラスミン酵素に変換され、プラスミンは、結合部位を介してフィブリン表面に結合し、フィブリンポリマーを分解する。フィブリン基質の線維素溶解を防ぐために、本発明の工程(b)で、例えば、これらに限定されるものではないが、ε−アミノカプロン酸、トラネキサム酸またはアプロチニンのような抗線維素溶解薬を加える。
【0037】
トラネキサム酸は、プラスミノーゲンのリジン結合部位に高い親和性をもつアミノ酸であるリジンから誘導した合成生成物であり、これらの部位をブロックし、活性化したプラスミノーゲンがフィブリン表面に結合するのを防ぎ、抗線維素溶解効果を発揮する。トラネキサム酸は、動物由来の他の抗線維素溶解薬と比較して、疾患を伝搬しないという利点がある。したがって、好ましい実施形態では、抗線維素溶解薬は、トラネキサム酸である。さらに好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物中のトラネキサム酸濃度は、0.5〜2g/L、好ましくは、1〜2g/Lである。とはいえ、これより大きな濃度または小さな濃度を使用してもよい。
【0038】
フィブリン基質は、非常に多目的に使え、したがって、様々な人工組織を製造するのに使用されるが、主に、コンシステンシーが制限され、操作が困難であり、非常に脆いため、臨床での使用が制限されている。このため、本発明の方法の工程(d)では、多糖が加えられる。多糖は、一般的に、組織に耐性およびコンシステンシーを与えるために使用され、多糖は組織に溶解するため、便利である。本発明の方法の工程(d)で使用可能な多糖の例は、これらに限定されるものではないが、寒天、アガロース、アルギネート、キトサンもしくはカラギネート、またはこれらの任意の組み合わせである。
【0039】
アガロースは、GellidiumまたはGracillariaのような属の藻類から抽出したα−ガラクトースおよびβ−ガラクトースから作られる多糖である。アガロースは、本発明の工程(d)で使用可能な他の多糖と比較して、免疫学的な観点で不活性な基質を形成するという利点がある。したがって、好ましい実施形態では、本発明の方法の工程(d)の多糖は、アガロースである。例えば、ゲル化温度、ゲル耐性および/または空隙率のような物理特性および化学特性が様々なアガロースが存在する。好ましくは、本発明の方法の工程(d)のアガロースは、低融点のアガロースであり、すなわち、所定の温度(好ましくは、65℃未満、より好ましくは、40℃未満の温度)で再重合し、固化するアガロースであり、このため、細胞死の可能性を最低限にするような非常に低い温度で組織を製造するために使用することができる。より好ましい実施形態では、本発明の方法の工程(d)で使用するアガロースは、VII型アガロースである。さらにより好ましい実施形態では、アガロース、好ましくは、VII型アガロースは、工程(e)から得られた生成物中に所定の濃度で存在し、有益には、0.1〜6g/L、場合により、0.2〜6g/L、好ましくは、0.15〜3g/L、場合により、0.3〜3g/L、より好ましくは、0.25〜2g/L、場合により、0.5〜2g/Lの濃度で存在する。とはいえ、これより大きな濃度または小さな濃度を使用してもよい。
【0040】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、工程(b)と工程(c)の間に、タンパク質を加えるさらなる工程(工程(b2))を含む。本発明の方法の工程(b2)で使用可能なタンパク質の例は、これらに限定されるものではないが、フィブロネクチン、ラミニン、VII型コラーゲンもしくはエンタクチン、またはこれらの任意の組み合わせである。上記の組織では、これらのタンパク質は、通常は、結合組織の細胞外基質の一部を形成しており、したがって、本発明の方法によって得られた人工組織に包埋される細胞は、生理学的環境とよく似た微細環境にあり、細胞の接着性、分化および/または生存が向上する。
【0041】
好ましい実施形態では、工程(b2)で加えられるタンパク質は、フィブロネクチンである。フィブロネクチンは、ほとんどの動物の細胞組織の細胞外基質(ECM)に存在する糖タンパク質であり、基質細胞の接着に重要な役割を果たす。より好ましい実施形態では、本発明の方法の工程(b)および工程(c)の間に加えられるタンパク質は、フィブロネクチンである。この添加の目的は、工程(d)から得られた生成物に、工程(e)の細胞が接着しやすくすることである。例えば、本発明の方法が、角膜を置換する組織または人工角膜を製造するために使用される場合、フィブロネクチンを加えると、工程(e)で加えられる角膜上皮細胞の脱離が減り、当該技術分野で記載される他の方法よりも顕著な利点を与える。さらにより好ましい実施形態では、工程(d)から得られた生成物のフィブロネクチン濃度は、0.25〜1g/L、場合により、0.5〜1g/Lである。とはいえ、これより大きな濃度または小さな濃度を使用してもよい。
【0042】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、工程(d)と工程(e)の間に、工程(d)から得られた生成物に、タンパク質を含む組成物を加えることを含んでなるさらなる工程(工程(b2))を含む。本発明の方法の工程(e)で使用可能なタンパク質の例は、これらに限定されるものではないが、コラーゲン、レチクリンまたはエラスチンである。工程(d)と工程(e)の間でタンパク質を加えると、間質のレベルで原線維密度の大きな組織が得られ、粘弾性挙動がよくなり、限界応力が大きくなる。さらにより好ましい実施形態では、工程(d2)で加えられるタンパク質は、コラーゲンである。
【0043】
本発明の方法の工程(d2)で上記タンパク質を加えることによって、得られる人工組織の物理特性(レオロジー特性、機械特性または生物力学特性)も向上する。本明細書の実施例は、フィブリン、アガロース、コラーゲンを含む人工組織において、コラーゲン濃度を高めると粘弾性挙動が向上することを示しており、コラーゲン濃度に依存して限界応力が高くなることによって明確に示される。
【0044】
固体材料または半固体材料の主なレオロジー特性は、粘度および弾性である。粘度は、接線方向の変形に対する液体の抵抗であり、コンシステンシーまたは剛性と等価であろう。弾性は、特定の物質に外部から力が作用したときに可逆的な変形を受け、その外部からの力が止まったときに元の形に回復する機械特性である。これらのパラメータは、レオメーターと呼ばれる装置を用いた物理的な技術であるレオメトリーを用いて分析される。
【0045】
限界応力は、固体または流体が不可逆的な変形を起こすのに必要なエネルギーである。通常は、すべての材料は、弾性域をもち、弾性域では、加えられた力は、力が止むと完全に可逆的な変形を生じる。この力が限界点(弾性係数)を超えると、変形は不可逆なものとなり、塑性域に入る。最後に、この力が塑性係数を超えると、材料は破壊する(降伏点)。
【0046】
コラーゲンは、天然で簡単に入手可能なタンパク質であり、生物学的には、免疫が低く、組織活性が高いことを特徴とする。コラーゲンは、可とう性であるが、大きな引張耐性を与えるコラーゲン繊維を形成する。本発明は、人工のフィブリン、アガロース、およびコラーゲン組織が、間質のレベルで原線維密度が大きく、コラーゲン濃度を大きくするにつれて、人工のコラーゲン組織よりも粘弾性挙動がよくなり、限界応力が大きくなることを示す。したがって、好ましい実施形態では、工程(e)で加えられるタンパク質は、コラーゲンである。
【0047】
好ましい実施形態では、工程(d2)で加えられるコラーゲンは、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、V型コラーゲン、VI型コラーゲン、VII型コラーゲン、VIII型コラーゲン、IX型コラーゲン、X型コラーゲン、XI型コラーゲン、XII型コラーゲン、XIII型コラーゲン、またはこれらの任意の組み合わせを含むリストから選択される。さらに好ましい実施形態では、工程(e)で加えられるコラーゲンは、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、V型コラーゲン、IX型コラーゲン、またはこれらの任意の組み合わせを含むリストから選択される。本発明の方法の工程(e)における特定の種類のコラーゲンの選択は、製造される人工組織によって変わり、当該技術分野で知られている各コラーゲンの特徴に依存して作られる。
【0048】
例えば、I型コラーゲンの主な機能は、伸びに対する抵抗であり、真皮、骨、腱、および角膜中で豊富に発見される。したがって、本発明は、工程(e)にI型コラーゲンを加えると、例えば、これに限定されるものではないが、角膜を置換する組織または人工角膜が製造されるような人工組織に優れた特性を与えることを示す。したがって、好ましい実施形態では、コラーゲンは、I型コラーゲンである。
【0049】
さらにより好ましい実施形態では、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)は、工程(d)から得られた生成物中で、有益には、濃度が0.5〜5g/L、好ましくは1.8〜3.7g/L、より好ましくは、2.5〜3g/Lである。とはいえ、これより大きな濃度または小さな濃度を使用してもよい。
【0050】
特定の実施形態では、使用されるコラーゲンは、アテロコラーゲンである(すなわち、テロペプチドと呼ばれる非螺旋状構造の末端領域が除去されているコラーゲン)。これらのテロペプチドは、コラーゲンの抗原決定基のキャリアであり、コラーゲンを不溶性にする場合がある。アテロコラーゲンは、例えば、ペプシンを用いてプロテアーゼ処理することによって得られる。
【0051】
工程(d)で使用する多糖濃度が、工程(a)で使用するフィブリノゲン濃度に依存し、工程(d2)を適用する場合には、工程(d2)で使用するコラーゲン濃度に依存して、工程(e)で得られる人工組織が、さまざまな濃度の二成分/三成分を含んでいてもよい。
【0052】
好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.1〜6g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、0.5〜5g/Lである。
【0053】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.15〜3g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、0.5〜5g/Lである。
【0054】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.25〜2g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、0.5〜5g/Lである。
【0055】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.1〜6g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、1.8〜3.7g/Lである。
【0056】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.15〜3g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、1.8〜3.7g/Lである。
【0057】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.25〜2g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、1.8〜3.7g/Lである。
【0058】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.1〜6g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、2.5〜3g/Lである。
【0059】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.15〜3g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、2.5〜3g/Lである。
【0060】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.25〜2g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、2.5〜3g/Lである。
【0061】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、1〜4g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.1〜6g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、0.5〜5g/Lである。
【0062】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、1〜4g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.15〜3g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、0.5〜5g/Lである。
【0063】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、1〜4g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.25〜2g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、0.5〜5g/Lである。
【0064】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、1〜4g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.1〜6g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、1.8〜3.7g/Lである。
【0065】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、1〜4g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.15〜3g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、1.8〜3.7g/Lである。
【0066】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、1〜4g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.25〜2g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、1.8〜3.7g/Lである。
【0067】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、1〜4g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.1〜6g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、2.5〜3g/Lである。
【0068】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、1〜4g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.15〜3g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、2.5〜3g/Lである。
【0069】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、1〜4g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.25〜2g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、2.5〜3g/Lである。
【0070】
工程(a)の細胞に、記載されている異なる成分を加えることによって、本発明の方法の工程(a)〜(d)を行い、工程(e)から得られた生成物を担持体に固定して、フィブリン、多糖、工程(d2)が含まれる場合には、この工程で加えられたタンパク質を含んでなるマトリックスが形成され、細胞はその中に埋め込まれ、かつ細胞はその表面および/またはその内部で成長可能とされる。好ましくは、工程(a)の細胞は、このマトリックスの内部で成長する。
【0071】
本発明の方法の工程(a)〜(d)を行い、工程(d)から得られた生成物は担持体に固定された状態となり、その結果、フィブリンと、多糖と、工程(b2)を行うかどうかによって、この工程で加えられたタンパク質とを含むマトリックスが作られ、このマトリックスに工程(a)の細胞が埋め込まれる。使用可能な担持体は、例えば、これらに限定されないが、培養組織皿または多孔性細胞培養挿入物である。好ましくは、この担持体は滅菌状態である。
【0072】
本発明の方法の工程(e)は、単離された細胞、好ましくは、哺乳動物から単離された細胞を、工程(e)から得られた生成物の中または表面で培養することからなる。この細胞は、当該技術分野で記載されている異なる方法によって得ることができ、特定の関連する細胞種によって異なり得る。これらの方法には、例えば、これらに限定されるものではないが、生体組織検査法、機械的な処理、酵素による処理(例えば、これらに限定されないが、トリプシンまたはI型コラゲナーゼを用いた処理)、遠心分離、赤血球の溶解、濾過、この細胞種が選択的に増殖しやすい担持体または培地での培養、またはイムノサイトメトリーがある。これらの方法のうち、いくつかを本明細書の実施例で詳細に記載する。
【0073】
工程(e)の細胞は、例えば、これに限定されないが、上皮細胞のような分化した細胞であってもよく、または、例えば成人幹細胞のような細胞に分化する能力をもつ未分化細胞であってもよい。
【0074】
好ましい実施形態では、工程(e)の分化した細胞は、例えば、これらに限定されるものではないが、角化細胞、口腔粘膜上皮細胞、膀胱上皮細胞、尿道上皮細胞、角膜上皮細胞または血管内皮細胞などの上皮細胞である。
【0075】
好ましくは、工程(e)の上皮細胞は、人工組織が代替物として使用される組織または臓器に由来する。例えば、本発明の方法を、皮膚を置換する組織または人工皮膚を製造するために用いる場合、上皮細胞は、好ましくは、皮膚表皮に由来し(すなわち、上皮細胞は、角化細胞である)、膀胱を置換する組織または人工膀胱を製造するために用いる場合、上皮細胞は、好ましくは、膀胱上皮または尿路上皮に由来し、尿道を置換する組織または人工尿道を製造するために用いる場合、上皮細胞は、好ましくは、尿道の上皮に由来し、角膜を置換する組織または人工角膜を製造するために用いる場合、好ましくは、上皮細胞は、角膜上皮細胞であり、口腔粘膜を置換する組織を製造するために用いる場合、好ましくは、上皮細胞は、好ましくは、口腔粘膜上皮に由来する。
【0076】
しかし、工程(e)の上皮細胞は、人工組織が代替物として使用される組織または臓器とは異なる組織または臓器から得られてもよい。例えば、本発明の方法を、皮膚を置換する組織もしくは人工皮膚、膀胱を置換する組織もしくは人工膀胱、尿道を置換する組織もしくは人工尿道、または角膜を置換する組織または人工角膜を製造するために用いる場合、工程(e)の上皮細胞は、口腔粘膜上皮細胞であってもよい。または、例えば、本発明の方法を、膀胱を置換する組織または人工膀胱を製造するために用いる場合、または、尿道を置換する組織または人工尿道を製造するために用いる場合、上皮細胞は、角化細胞であってもよい。
【0077】
実験室で人工組織を作製することに関連する課題のひとつは、かなりの数の分化した細胞の生産であり、この細胞に分化する能力をもつ幹細胞の使用は、従って、一般的に代替供給源と考えられる。「幹細胞」は、分裂し、異なる種類の多くの特殊な細胞に形態学的および機能的に分化する高い能力をもつと理解されている。分化プロセスの間に、未分化細胞は、特殊な構造および機能をもつ分化した細胞に変換される表現型および形態に変化する。
【0078】
幹細胞は、その潜在能力(すなわち、さまざまな細胞種に分化する能力)にしたがって分類することができる。(a)全能性:胚組織および胚外組織の両方に分化することが可能;(b)3種類の胚葉(内胚葉、中胚葉、外胚葉)に由来する任意の組織に分化する能力をもつ多能性;(c)多型潜在性(多能性):ある胚葉および同じ胚葉(内胚葉、中胚葉または外胚葉)に由来するさまざまな細胞種に分化することが可能;(d)単能性:単一の細胞系統を形成する能力。
【0079】
起源によって、幹細胞は以下のように分けられる。(a)胚幹細胞:着床前の胚段階の胞胚の内部細胞塊または生殖堤に由来、全能性または多能性である;(b)成人幹細胞:成人の場合、胎児および臍帯、多型潜在性であるか、単能性である。さまざまな臓器(例えば、これらに限定されるものではないが、骨髄、末梢血、脂肪組織または臍帯)の結合組織に分布している間葉幹細胞は、成人幹細胞に含まれる。好ましい実施形態では、成人幹細胞は、骨髄、脂肪組織または臍帯からの成人幹細胞である。
【0080】
臍帯は、他の供給源から得られる成人幹細胞とは異なり、(a)入手する方法が、侵襲的でもなく、痛みも伴わない;(b)増殖能力および分化潜在能力が、時間経過に伴って落ちないという事実のため、成人幹細胞の興味深い供給源である。様々な供給源の臍帯血の幹細胞の中で、いわゆる臍帯ウォートンジェリー幹細胞は、(a)増殖能力が大きく、培地で拡散していく速度が大きい;(b)主要組織適合遺伝子複合体クラスIの発現量が少なく、主要組織適合遺伝子複合体クラスIIが発現せず、同種異系の細胞治療の良好な候補物となるため、卓越している。
【0081】
したがって、別の好ましい実施形態では、工程(e)の細胞は、臍帯ウォートンジェリー幹細胞である。これらの細胞は、表面で、さまざまな間葉細胞に特徴的なマーカー(例えば、SH2、SH3、CD10、CD13、CD29、CD44、CD54、CD73、CD90、CD105またはCD166)を発現し、造血系マーカー、例えば、CD31、CD34、CD38、CD40またはCD45をもたない。臍帯ウォートンジェリー幹細胞は、例えば、軟骨芽細胞、骨芽細胞、脂肪細胞、神経前駆体、心筋細胞、骨格筋細胞、内皮細胞または肝細胞に分化することができる。
【0082】
成人幹細胞は、未分化状態の指標となる表面および/または細胞内のタンパク質、遺伝子、および/または他のマーカーを、当該技術分野で知られている様々な方法(例えば、これらに限定されるものではないが、イムノサイトメトリー、免疫組織化学分析、ノーザンブロット分析、RT−PCR、マイクロアレイでの遺伝子発現分析、プロテオーム試験またはディファレンシャルディスプレイ分析が挙げられる)によって特定することによって特性決定することができる。
【0083】
幹細胞を誘発してインビトロで分化させ、分化した細胞の少なくとも1つ以上の典型的な特徴を発現する細胞を産生してもよい。幹細胞から分化させることが可能な、分化した細胞の例は、これらに限定されるものではないが、線維芽細胞、角化細胞、尿路上皮細胞、尿道上皮細胞、角膜上皮細胞、口腔粘膜上皮細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞、脂肪細胞またはニューロンである。本発明の好ましい実施形態では、本発明の多能性幹細胞から分化した細胞は、線維芽細胞、角化細胞、尿路上皮細胞、尿道上皮細胞、角膜上皮細胞、口腔粘膜上皮細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞、脂肪細胞またはニューロンを含んでなるリストから選択される分化した細胞の1つ以上の典型的な特徴を発現する。
【0084】
分化した細胞は、分化した状態の指標となる表面および/または細胞内のタンパク質、遺伝子、および/または他のマーカーを、当該技術分野で知られているさまざまな方法(例えば、これらに限定されないが、イムノサイトメトリー、免疫組織化学分析、ノーザンブロット分析、RT−PCR、マイクロアレイでの遺伝子発現分析、プロテオーム試験またはディファレンシャルディスプレイ分析が挙げられる)によって特定することによって、特性決定することができる。
【0085】
好ましい実施形態では、本発明の工程(e)の細胞は、自己由来である。とはいえ、工程(e)の細胞は、同種異系または異種に由来していてもよい。
【0086】
工程(e)の細胞は、工程(d)から得られた生成物の表面および/または工程(d)から得られた生成物の中で増殖することができる。好ましくは、工程(e)の細胞は、工程(d)から得られた生成物の表面で増殖する。
【0087】
工程(e)の細胞は、典型的には、少なくとも70%のコンフルエンス、有益には、少なくとも80%のコンフルエンス、好ましくは、少なくとも90%のコンフルエンス、より好ましくは、少なくとも95%のコンフルエンス、さらにより好ましくは、少なくとも100%のコンフルエンスになる適切な数に達するまで増殖する。細胞を培養し続けている間、枯渇した成分を置き換え、有害な可能性がある代謝産物および異化生成物を除去するために、細胞が培養される培地を、新しい培地と部分的または完全に置き換えてもよい。
【0088】
ある種の細胞型を正しく分化させるために、追加の工程が必要な場合がある。例えば、口腔粘膜上皮細胞、角化細胞または角膜上皮細胞の場合、培地に沈んだままの工程(a)の細胞を含む基質を、正しい上皮層形成および成熟を促すために、上皮表面を空気にさらす必要がある場合がある(空気液体技術)。
【0089】
したがって、好ましい実施形態では、本発明の方法は、上述の工程(a)〜(f)に加え、工程(e)から得られた生成物が空気にさらされる追加の工程を含む。本発明の方法は、一般的に、天然組織の代替となる人工組織を得るために使用されるときにこの工程を含み、通常は上皮(例えば、これらに限定されるものではないが、皮膚、角膜、口腔粘膜、尿道または膣)が空気にさらされる。好ましくは、この工程は、皮膚を置換する組織もしくは人工皮膚を製造するとき、または、角膜を置換する組織もしくは人工角膜を製造するとき、または口腔粘膜を置換する組織もしくは人工口腔粘膜を製造するときに行われる。
【0090】
本発明の方法の最も顕著な革新的な部分のひとつは、工程(e)から得られた生成物のナノ構造化が誘発される工程(f)が存在することからなる。本明細書で使用する場合、「ナノ構造化」という表現は、フィブリン線維の間、およびフィブリン線維とアガロース分子との間に1ミクロン未満の大きさの結合を生成することからなる構造変化に関する。このナノ構造化プロセスによって、構造化されていない生体材料よりも予期せぬ有益な性質を示す人工組織を得ることができる。具体的には、本発明のナノ構造化プロセスを行った生体材料は、(i)組織の生物力学的特性が顕著に向上し、ナノ構造の組織を操作することができ、生体材料レオロジー特性が実質的に、抵抗が大きく(図8を参照)、弾性が大きい(図9および図10)ことで特性決定されるような、予測できない程度向上することに関与し;(ii)ナノ構造の組織の操作性を実質的に高め、手術による操作、レシピエントのベッドでの縫合、試験動物の移植を可能にし、(iii)ナノ構造化を受けた組織の透明度を顕著に高め(図11を参照)(このことは、ナノ構造の組織が、非ナノ構造の組織よりも密度が高く、水の含有量が少ないため、完全に予測できることである)、(iv)一方、生体材料の適切な生物力学特性が大きくなることによって、関連する実験動物に移植したら良好な臨床結果を与え、他方では、ナノ構造化を受けた生体材料が、1mm2あたりの線維密度が大きく、したがって、受容する有機体によってゆっくりと作り替えられる。
【0091】
好ましい実施形態では、工程(f)のナノ構造化誘発は、工程(e)から得られた生成物の脱水および/または機械的圧縮を含む。工程(f)の目的は、人工組織のフィブリン線維とアガロース分子との構造変化を作り出し、最適なコンシステンシーおよび弾性レベルを与えることであり、この目的は、当該技術分野で記載されている他の方法を用いても得られない。最終結果は、手術操作および臨床での移植にとって非常に望ましい生物力学的品質を作り出す、線維の不可逆性の変化である。
【0092】
用語「脱水」は、工程(e)から得られた生成物からの間隙液を部分的および/または完全に除去することを指す。例えば、工程(e)から得られた生成物から除去された間隙液の量は、工程(e)から得られた生成物に元々含まれる間隙液の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも99%であってもよい。
【0093】
工程(e)から得られた生成物を、任意の物理的または化学的な方法によって脱水してもよい。好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物の脱水は、水切り、エバポレーション、吸引、毛細管圧、浸透または電気浸透を含むリストから選択される方法を含む。
【0094】
間隙液は、工程(e)から得られた生成物を傾けることによって除去されてもよく、次いで、間隙液を重力および勾配の効果によって排出する。
【0095】
この液を、例えば、機械的なポンプを用い、工程(e)から得られた生成物が存在する表面を減圧することによって、吸引によって除去してもよい。
【0096】
間隙液を、例えば、工程(e)から得られた生成物を、エバポレーションを促進する条件、例えば、大気圧より低い圧力および/または室温よりも高い温度でインキュベートすることによって、エバポレーションによって除去してもよい。
【0097】
また、間隙液を、水を吸収する傾向がある浸透物質(例えば、限定されないが、高浸透圧の塩化ナトリウム溶液)を用いて除去し、この溶液から、半透過性の膜、スポンジまたは別の乾燥材料を用い、工程(e)から得られた生成物を分離してもよい。
【0098】
好ましい実施形態では、間隙液を、例えば、吸収材料を、工程(e)から得られた生成物に適用することによって、毛細管圧によって除去してもよい。本発明の工程(f)で使用可能な吸収材料のある例は、これらに限定されないが、濾紙、Whatman社製の3M紙、セルロース繊維、または吸収繊維である。吸収材料は、好ましくは滅菌されているだろう。
【0099】
脱水に必要な時間は、使用する1つ以上の方法によって変わると思われ、当業者ならば簡単に決定することができる。特定の脱水方法を特定の時間適用することによって得られる人工組織の適切さは、当該技術分野の最新の既知の異なる評価方法、例えば、これに限定されないが、本明細書の実施例に記載されている方法によって確認することができる。
【0100】
また、間隙液は、工程(e)から得られた生成物を機械的圧縮することによって除去してもよい。また、工程(e)から得られた生成物を機械的に圧縮することによって、工程(e)から得られた生成物を特定の望ましい形態にしてもよい。
【0101】
工程(e)から得られた生成物を、最新の当該技術分野に記載されている任意の方法によって圧縮してもよい。工程(e)から得られた生成物が静止したままである「静的」圧縮方法の適用、例えば、これに限定されないが、静荷重(例えば、死荷重)、水圧要素またはカムの適用を用いてもよい。また、例えば、1つ以上のローラーを適用することによって、または狭くなった穴を通して押出すことによる、工程(e)から得られた生成物が圧縮中に移動する「動的」圧縮を用いてもよい。
【0102】
工程(e)から得られた生成物を、押出によって、例えば、工程(e)から得られた生成物を、狭くなっている穴(例えば、円錐形のチャンバ)に通すことによって機械的に圧縮してもよい。円錐形のチャンバは、多孔性の壁を有していてもよく、その結果、工程(e)から得られた生成物が通過している間に、この生成物から間隙液を除去することができるだろう。
【0103】
工程(e)から得られた生成物を、工程(e)から得られた生成物を遠心分離することによって圧縮してもよい。例えば、工程(e)から得られた生成物を、多孔性の底部を有する管に入れてもよく、機械的圧縮に加え、工程(e)から得られた生成物から間隙液の除去を行ってもよい。
【0104】
工程(e)から得られた生成物を、バルーンを適用することによって圧縮し、工程(e)から得られた生成物を固体表面に対して圧縮してもよい。固体表面は、例えば、工程(e)から得られた生成物の周囲に管を形成し、これによって、人工の管状組織を作製することができる。
【0105】
好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物の圧縮は、工程(e)から得られた生成物の上部に重りを適用することを含み、その結果、圧力の機械的な作用が組織に働く。重りが重いほど、適切な特徴をもつ人工組織を得るのに必要な時間は小さくなるだろうということは明らかである。圧縮に使用する重りは、平坦な表面をもっていてもよく、または、平坦な表面をもつ材料(例えば、プラスチック、セラミック、金属または木材)の上に置かれていてもよい。
【0106】
本明細書の図1は、工程(e)から得られた生成物のナノ構造化を、脱水および圧縮によって行うことができるという非限定的な図を示す。工程(e)から得られた生成物を2枚の滅菌濾紙の間に配置し、その上に、滅菌した平坦なガラス表面の上に約250gの重り(約2,000N/m2に相当)を約10分間置くことによって、どのようにしてナノ構造化を行うのかを、この図で観察することができ、多孔性材料が、組織と、工程(e)から得られた生成物が濾紙に接着するのを防ぐよう重りが置かれる濾紙との間に配置されていてもよい。接着を防ぐために用いられる材料は、組織から脱水剤の方へ水が出ていくことができるように、多孔性でなければならず、接着を防ぐために使用される多孔性材料は、例えば、これらに限定されるものではないが、ナイロン、ガラス、セラミック、パンチングメタルまたはポリカーボネート膜であってもよい。
【0107】
好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物の圧縮は、この生成物に圧力を適用することを含む。圧力の大きさは、好ましくは、1,000〜5,000N/m2、より好ましくは、1,500〜2,500N/m2、さらにより好ましくは、約2,000N/m2である。この圧力は、手動、自動、または半自動で適用されてもよい。圧力をかけるのに必要な時間は、適用される圧力の大きさによって変わり、当業者ならば簡単に決定することができる。圧力が大きいほど、適切な特徴をもつ人工組織を得るために必要な時間は短くなるだろうことは明らかである。特定の大きさの圧力を特定の時間適用することによって得られる人工組織の適切さは、最新の当該技術分野で知られているさまざまな評価方法(例えば、これに限定されないが、本明細書の実施例に記載されている方法)によって確認することができる。
【0108】
工程(e)から得られた生成物のナノ構造化を誘発するために、1つ以上の方法を順次用いてもよく、同時に用いてもよい。ナノ構造化に必要な時間は、12時間未満、6時間未満、3時間未満、1時間未満、30分未満、10分未満、2分未満、または1分未満であってもよい。ナノ構造化に必要な時間は、使用される1つ以上の方法によって変わると思われ、当業者ならば簡単に決定することができる。特定の方法を特定の時間適用することによって得られる人工組織の適切さは、当該技術分野の最新の既知の異なる評価方法、例えば、これに限定されないが、本明細書の実施例に記載されている方法によって確認することができる。
【0109】
本発明の人工組織
本発明の第2の態様は、上述の本発明の方法によって得ることができる人工組織(以下、本発明の人工組織)に関する。
【0110】
この本発明の第2の態様の好ましい実施形態では、本発明の人工組織は、皮膚を置換する組織または人工皮膚である。
【0111】
この本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態では、人工組織は、膀胱を置換する組織または人工膀胱である。
【0112】
この本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態では、本発明の人工組織は、尿道を置換する組織または人工尿道である。
【0113】
この本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態では、本発明の人工組織は、角膜を置換する組織または人工角膜である。
【0114】
この本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態では、本発明の人工組織は、粘膜を置換する組織または人工粘膜である。
【0115】
本発明の方法によって得ることができる人工組織を、望ましい大きさに切断してもよく、および/または、使用に適した形状を与えてもよい。
【0116】
使用前に、その機能を発揮するための本発明の人工組織の適切さを、例えば、これに限定されないが、本明細書の実施例に記載されている任意の方法によって評価することができる。
【0117】
薬理学的または化学的な生成物の評価における、本発明の人工組織の使用
薬物および化学生成物は、試験動物に投与する前に評価されなければならない。この観点から、化粧品の部門で動物試験を制限し、ときには禁止する目的で、欧州連合によって承認されているいくつかの報告および指示が存在し(化粧品に対する加盟国の法律に類似するものに関連する欧州理事会のDirective 76/768/EEC)、完全な禁止は、次の数年は有効であると考えられる。欧州連合は、すべての測定値を支持し、その主な目的は、試験目的で用いられる動物の幸福であり、試験に用いられる動物の数を最低限に減らすための科学的な置換方法を達成するためのものである(1998年3月23日付けの議会の決定1999/575/EEC、実験および他の科学目的で用いられる脊椎動物を保護するための、欧州条約の共同体による結論に関連する、1999年8月24日のOfficial Record L 222)。
【0118】
したがって、本発明の第3の態様は、医薬品および/または化学生成物を評価するための本発明の人工組織の使用に関する。
【0119】
本発明の人工組織の治療での使用
感染性疾患、炎症性疾患、遺伝性疾患もしくは変性疾患、物理的もしくは化学的な損傷、または血流の遮断によって、組織または臓器から細胞が失われることがある。この細胞の消失によって、この組織または臓器の正常な機能が変わってしまい、その結果、患者の生活の質を低下させてしまう疾患または身体的影響が進行してしまうことがある。したがって、この組織または臓器の正常な機能を再生するか、または再確立する試みは重要である。損傷した組織または臓器を、組織工学の技術を用いて実験室で作られた新しい組織または臓器と置き換えてもよい。組織工学の目的は、人工の生体組織を構築し、これを医薬用途に使用し、疾患のある組織および臓器の機能活性を回復させ、置き換え、または高めることである。この種の技術の治療への使用は、実際には、あらゆる分野の用途に対し、制限はない。組織工学技術を使用することで、組織および臓器の待機リストを減らすことができ、その結果、レシピエントにおける疾患の罹患率−死亡率を減らすことができる。結果として、臓器ドナーにおける罹患率−死亡率は、論理的に下がる。それに加えて、自系の細胞または組織を組織工学で用いることに関連する多くの利点が存在し、以下のものを含む。(a)ドナーからレシピエントへ、感染性薬剤による多くの感染を顕著に減らすこと、(b)宿主免疫移植拒絶が起こらず、したがって、患者は、免疫抑制処置を受ける必要がなく、免疫抑制に関連する影響および問題が予防される。
【0120】
したがって、本発明の第4の態様は、病変または損傷した組織または臓器の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。
【0121】
本発明の人工組織を使用し、生きている有機体の病変または損傷した組織または臓器の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えてもよい。組織または臓器は、内部の組織または臓器(例えば、これらに限定されないが、尿道または膀胱)であってもよく、または外部の組織または臓器(例えば、これらに限定されないが、または角膜または皮膚)であってもよい。好ましい実施形態では、損傷した組織または臓器は、皮膚、膀胱、尿道、角膜、粘膜、結膜、腹壁、結膜、鼓膜、咽頭、喉頭、腸、腹膜、靭帯、腱、骨、髄膜または膣を含むリストから選択される。組織または臓器は、機能不全、損傷または疾患、例えば、これらに限定されないが、感染性疾患、炎症性疾患、遺伝性疾患もしくは変性疾患;外傷性傷害もしくは手術による介入のような物理的な損傷、化学的損傷または血流の遮断の結果として、病変または損傷していてもよい。
【0122】
この第5の態様の好ましい実施形態は、皮膚の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。より好ましい実施形態は、創傷、潰瘍、熱傷、良性もしくは悪性の新生物、感染、打撲、外傷性傷害、苛性化または先天性奇形を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した皮膚の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。
【0123】
この第5の態様の好ましい実施形態は、膀胱の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。より好ましい実施形態は、良性もしくは悪性の新生物、感染、外傷性傷害、先天性奇形(例えば、これらに限定されないが、膀胱外反症、萎縮膀胱または総排泄腔外反)、神経因性膀胱、尿失禁、膀胱機能不全、感染または膀胱結石を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した膀胱の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。
【0124】
この第5の態様の好ましい実施形態は、尿道の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。より好ましい実施形態は、良性もしくは悪性の新生物、感染、外傷性傷害、先天性奇形(例えば、これらに限定されないが、尿道下裂または尿道上裂)または狭窄を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した尿道の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。
【0125】
この第5の態様の好ましい実施形態は、角膜の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。より好ましい実施形態は、角膜潰瘍、円錐角膜、球状角膜、デスメ膜瘤、外傷性傷害、苛性化、大脳辺縁系の欠損、萎縮性角膜炎、角膜ジストロフィー、原発性もしくは続発性の角膜症、感染、白斑、水疱性角膜症、角膜内皮の障害または良性もしくは悪性の新生物を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した角膜の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。
【0126】
この第5の態様の好ましい実施形態は、粘膜、好ましくは口腔粘膜の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。さらにより好ましい実施形態は、創傷、潰瘍、熱傷、良性もしくは悪性の新生物、感染、打撲、外傷性傷害、苛性化、先天性奇形、実質欠損または歯周疾患を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した口腔粘膜の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。好ましい実施形態では、粘膜の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるために使用される組織は、工程(d)と工程(e)の間にタンパク質を加える工程(d2)を付した組織である。さらにより好ましい実施形態では、この工程は、以下に詳細に記載する工程(d)で得られる材料に、コラーゲンを含む組成物を加えることによって行われる。
【0127】
本発明の第5の態様は、薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。
【0128】
この薬剤は、体細胞治療のための薬剤である。「体細胞治療」は、生きている体細胞、自系の体細胞、同種異系の体細胞または異種体細胞を用いるときに、生物学的特徴が、代謝、薬理学的手段または免疫学的手段によって治療、診断または予防の効果を与えるための操作の結果、実質的に変えられることであると理解される。体細胞治療のための薬剤の中で、例えば、これらに限定されないが、定性的および定量的な態様で、免疫学、代謝または他の種類の機能特性を修正するように操作された細胞;最終産物を得る目的の製造プロセスを行った後に、並べられ、選択され、操作された細胞;操作され、最終産物への作用を目的とする原理を行う非細胞成分(例えば、生体基質または不活性基質または医療用デバイス)と組み合わせた細胞;特定の培養条件で、エキソビボ(インビトロ)で発現する自系細胞誘導体;遺伝子改変されるか、または、同族の機能を発現するか、または以前には発現していない非同族の機能を発現するように別の種類の操作を行った細胞である。
【0129】
本発明の第5の態様は、組織または臓器の機能活性を回復させ、置き換え、または高める薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。好ましい実施形態では、損傷した組織または臓器は、皮膚、膀胱、尿道、角膜、粘膜、結膜、腹壁、結膜、鼓膜、咽頭、喉頭、腸、腹膜、靭帯、腱、骨、髄膜または膣を含むリストから選択される。
【0130】
この第5の形態の好ましい実施形態は、感染性疾患、炎症性疾患、遺伝性疾患もしくは変性疾患、物理的な損傷もしくは化学的損傷または血流の遮断の結果として、病変または損傷した組織または臓器の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。
【0131】
この第5の形態のもっと好ましい実施形態は、皮膚の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。さらにより好ましい実施形態は、創傷、潰瘍、熱傷、良性もしくは悪性の新生物、感染、打撲、外傷性傷害、苛性化または先天性奇形を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した皮膚の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。
【0132】
この第5の形態のもっと好ましい実施形態は、膀胱の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。この第5の態様のさらにより好ましい実施形態は、良性もしくは悪性の新生物、感染、外傷性傷害、先天性奇形(例えば、これらに限定されないが、膀胱外反症、萎縮膀胱または総排泄腔外反)、神経因性膀胱、尿失禁、膀胱機能不全、感染または膀胱結石を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した膀胱の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。
【0133】
この第5の形態のもっと好ましい実施形態は、尿道の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。この第5の態様のさらにより好ましい実施形態は、良性もしくは悪性の新生物、感染、外傷性傷害、先天性奇形(例えば、これらに限定されないが、尿道下裂または尿道上裂)または狭窄を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した尿道の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。
【0134】
この第5の態様のもっと好ましい実施形態は、角膜の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。この第5の態様のさらにより好ましい実施形態は、角膜潰瘍、円錐角膜、球状角膜、デスメ膜瘤、外傷性傷害、苛性化、大脳辺縁系の欠損、萎縮性角膜炎、角膜ジストロフィー、原発性もしくは続発性の角膜症、感染、白斑、水疱性角膜症、角膜内皮の障害または良性もしくは悪性の新生物を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した角膜の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。
【0135】
この第5の形態のもっと好ましい実施形態は、粘膜、好ましくは口腔粘膜の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。さらにもっと好ましい実施形態は、創傷、潰瘍、熱傷、良性または悪性の新生物、感染、打撲、外傷性傷害、苛性化、先天性奇形、実質欠損または歯周疾患を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した口腔粘膜の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。好ましい実施形態では、粘膜の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるために使用される組織は、工程(d)と工程(e)の間にタンパク質を加える工程(d2)を受けた組織である。さらにもっと好ましい実施形態では、この工程は、以下に詳細に記載する工程(d)で得られる材料に、コラーゲンを含む組成物を加えることによって行われる。
【0136】
本発明の第6の態様は、本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。
【0137】
この本発明の第6の態様の好ましい実施形態は、体細胞治療に使用するための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。
【0138】
この本発明の第6の態様のもっと好ましい実施形態は、組織または臓器の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。
【0139】
この本発明の第6の態様の好ましい実施形態は、感染性疾患、炎症性疾患、遺伝性疾患または変性疾患、物理的な損傷または化学的損傷または血流の遮断の結果として、病変または損傷した組織または臓器の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。
【0140】
この本発明の第6の態様のもっと好ましい実施形態は、皮膚の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。さらにもっと好ましい実施形態は、創傷、潰瘍、熱傷、良性または悪性の新生物、感染、打撲、外傷性傷害、苛性化または先天性奇形を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した皮膚の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。
【0141】
この本発明の第6の態様のもっと好ましい実施形態は、膀胱の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。さらにもっと好ましい実施形態は、良性または悪性の新生物、感染、外傷性傷害、先天性奇形(例えば、これらに限定されないが、膀胱外反症、萎縮膀胱または総排泄腔外反)、神経因性膀胱、尿失禁、膀胱機能不全、感染または膀胱結石を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した膀胱の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。
【0142】
この本発明の第6の態様のもっと好ましい実施形態は、尿道の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。さらにもっと好ましい実施形態は、良性または悪性の新生物、感染、外傷性傷害、先天性奇形(例えば、これらに限定されないが、尿道下裂または尿道上裂)または狭窄を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した尿道の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。
【0143】
この本発明の第6の態様のもっと好ましい実施形態は、角膜の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。さらにもっと好ましい実施形態は、角膜潰瘍、円錐角膜、球状角膜、デスメ膜瘤、外傷性傷害、苛性化、大脳辺縁系の欠損、萎縮性角膜炎、角膜ジストロフィー、原発性または続発性の角膜症、感染、白斑、水疱性角膜症、角膜内皮の障害または良性または悪性の新生物を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した角膜の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。
【0144】
この第5の態様のもっと好ましい実施形態は、粘膜、好ましくは口腔粘膜の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。さらにもっと好ましい実施形態は、創傷、潰瘍、熱傷、良性または悪性の新生物、感染、打撲、外傷性傷害、苛性化、先天性奇形、実質欠損または歯周疾患を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した口腔粘膜の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。ある形態で、粘膜または口腔粘膜の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織を含む医薬組成物は、工程(d)と工程(e)の間にタンパク質を加える工程(d2)を受けた組織である。さらにもっと好ましい実施形態では、この工程は、以下に詳細に記載する工程(d)で得られる材料に、コラーゲンを含む組成物を加えることによって行われる。
【0145】
本発明のこの態様の好ましい実施形態では、医薬組成物は、本発明の人工組織と、さらに医薬的に許容されるキャリアとを含む。本発明のこの態様の別の好ましい実施形態では、医薬組成物は、本発明の人工組織と、さらに、別の活性成分とを含む。本発明のこの態様の好ましい実施形態では、医薬組成物は、本発明の人工組織と、さらに、医薬的に許容されるキャリアとともに別の活性成分を含む。
【0146】
本明細書で使用する場合、用語「活性成分」、「活性基質」、「医薬的に活性な基質」、「活性成分」または「医薬的に活性な成分」は、薬理活性または疾患を診断し、治癒し、軽減し、治療するか、または予防することについて別の異なる効果を与える潜在能力をもつ任意の成分、またはヒトの体または他の動物の体の構造または機能に影響を及ぼす任意の成分を意味する。
【0147】
本発明の医薬組成物は、単離された様式または他の医薬化合物と一緒に処置方法で使用してもよい。
【0148】
特許請求の記載に沿って、語句「〜を含む(comprise)」およびその変形は、他の技術的特徴、付属物、成分または工程を除外することを意図したものではない。当業者にとっては、本発明の利点および特徴は、一部分は本記載から、一部分は本発明の実施から理解されるだろう。以下の実施例および図面は、説明のために与えられ、これらは本発明を限定するものとなることを意味していない。
【実施例】
【0149】
この特許文書で与えられる以下の特定の例は、本発明の性質を説明する役割をもつ。これらの実施例は、単に説明する目的のために含まれており、ここで請求項に記載されている発明はこれらに限定されると解釈されるべきではない。したがって、以下に記載する実施例は、応用範囲を限定することなく、本発明を説明するものである。
【0150】
実施例1.人工ヒト皮膚産物を製造するプロトコル
A.ヒト皮膚サンプルを得ること
局所および局所領域へ麻酔を行い、ドナーから得た完全な厚みをもつ皮膚サンプルを使用する。このサンプルを滅菌状態で得たら、真皮層が露出するまで、ハサミを用いて皮下脂肪組織を除去する。次いで、サンプルの汚染を可能な限り防ぐために、除去した組織を、抗生物質(ペニシリンG 500U/mlおよびストレプトマイシン500μg/ml)および抗真菌薬(アンホテリシンB 1.25μg/ml)を加えたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)から作られた滅菌輸送媒体にすぐに入れた。
【0151】
B.初代線維芽細胞および角化細胞の培養物を作製
輸送期間の後に、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンB(それぞれ、500U/ml、500μg/ml、1.25μg/ml)を含む滅菌PBS溶液ですべてのサンプルを2回洗浄し、サンプルに付着しているかもしれない血液、フィブリン、脂肪または外来物質をすべて除去しなければならない。
【0152】
まず、表皮から真皮を分離するために、2mg/mlのディスパーゼIIを含む滅菌PBS溶液中、サンプルを37℃でインキュベートした。上皮を真皮に固定している基底膜が分解し、したがって、その後で、一方で上皮が、他方で真皮が機械的に分離する。
【0153】
分離したら、表皮に対応する上皮を小片が得られるまでハサミで細断し、その後、これをトリプシン−EDTA溶液中でインキュベートする。この上皮を、トリプシン−EDTAで湿らせたピペットを用い、あらかじめ滅菌したマグネチックスターラーを入れたフラスコに移す。スターラーを使いつつ、このフラスコにトリプシン−EDTA 2.5mlを加え、37℃で10分間インキュベートし、表皮から角化細胞を酵素によって分離する。この時間の後、分離した角化細胞が含まれているトリプシンを、存在する上皮片を引っ張らないようにしつつ、ピペットを用いて50mlのコニカル管に移す。10%ウシ胎仔血清を加えた当量の培地で中和し、1000rpmで10分間遠心分離処理する。得られたペレットは大量の分離した角化細胞を含んでおり、好ましくは、線維芽細胞よりも上皮細胞が成長しやすい角化細胞培地2〜3mLに再び懸濁させる。この培地は、グルコースを豊富に含むDMEM培地3部と、Ham F−12培地1部で構成されており、これらには、すべて10%ウシ胎仔血清、抗生物質−抗真菌薬(ペニシリンG 100U/ml、ストレプトマイシン100μg/ml、アンホテリシンB 0.25μg/ml)、アデニンおよび異なる成長因子24μg/ml、ヒドロコルチゾン0.4μg/ml、インスリン5μg/ml、上皮成長因子(EGF)10ng/ml、トリヨードチロニン 1.3ng/ml、コレラ毒素8ng/mlが加えられている。
【0154】
皮膚の真皮の細胞外基質を消化し、この基質に含まれている間質線維芽細胞を分離するために、サンプルを、ウシ胎仔血清を含まないDMEM培地中、2mg/mlのClostridium hystoliticum I型コラゲナーゼ滅菌溶液中、37℃で6時間インキュベートしなければならない。この溶液は、真皮のコラーゲンを消化し、間質線維芽細胞を遊離させることができる。初代線維芽細胞の培養物を得るために、消化された真皮の間質細胞を含む消化溶液を、1,000rpmで10分間遠心分離処理しなければならず、線維芽細胞に対応する細胞ペレットを、表面積が15cm2の培養フラスコ中で培養する。グルコースを豊富に含み、抗生物質および抗真菌薬(ペニシリンG 100U/ml、ストレプトマイシン 100μg/ml、アンホテリシンB 0.25μg/ml)を加えたDMEMを培地として用いる。この基本的な培地は、線維芽細胞培地と呼ばれる。
【0155】
すべての場合で、細胞を、標準的な細胞培養条件で、37℃、5%二酸化炭素を含む状態でインキュベートする。培地を3日ごとに新しいものに交換する。
【0156】
C.初代皮膚培養物に由来する細胞の継代
細胞がコンフルエンス状態に達したら、異なる線維芽細胞または角化細胞の細胞培養物を滅菌PBSで洗浄し、トリプシン 0.5g/LおよびEDTA 0.2g/Lの溶液1〜3mL中、37℃で10分間インキュベートしなければならない。したがって、細胞接着機構は崩壊し、角化細胞および真皮の培養フラスコ表面に付着しておらず、分離された細胞が得られる。
【0157】
真皮の場合には、培養フラスコの表面から細胞がはがれたら、使用したトリプシンを、線維芽細胞培地10mLを加えることによって不活性化する。血清タンパク質が豊富に存在すると、トリプシンのタンパク質分解作用を不活性化することができる。角化細胞培地を角化細胞に用いる。
【0158】
はがれた細胞が見られる角化細胞および線維芽細胞の溶液を、次に1000rpmで10分間遠心分離処理し、目的の細胞を含む細胞ペレットまたはクラスターを得て、トリプシンを含む上澄みを捨てる。この細胞ペレットを培地5mLに注意深く再懸濁させ、これらの細胞を、15、25または75cm2の表面積をもつ培養フラスコ中で培養させる。
【0159】
角化細胞の培養物は、通常は、新しい培養フラスコ中で約5倍まで広がる。
【0160】
すべての場合で、細胞の生存能力を十分に確保するために、4つの1回目の継代培養物に対応する細胞を用い、皮膚の代替物を製造した。
【0161】
D.フィブリン系およびアガロース系の人工ヒト皮膚産物を、組織工学を用いて構築
1−細胞外のフィブリンおよびアガロースの基質を用い、その中に線維芽細胞を浸して真皮代替物を作製する。これらの真皮代替物を、栄養物は通るが、細胞自体は通らないような、直径が0.4μmの多孔性挿入物の上で直接作製する。真皮代替物10mlを以下の様式で製造する。
−献血によって、ヒト血漿7.6mLを得る(自系由来でもよい)。
−あらかじめ培養しておいた150,000個のヒト皮膚線維芽細胞を加え、DMEM培地750μlに再懸濁させる
−トラネキサム酸150μlを加え、フィブリンゲルの線維素溶解を防ぐ。
−1% ClCa2 1mlを加え、凝固反応を誘発させ、フィブリン線維網を作製する。
−PBSに分散させた2%VII型アガロース0.5mlをすばやく加え、融点に達するまで加熱し、撹拌によって穏やかに混合する。混合物中の最終アガロース濃度は、0.1%であろう。生存能力のある真皮産物を可能にするアガロース濃度範囲は、0.025%〜0.3%であり、使用する患者の目的と関連して達成されなければならない。
−多孔性細胞培養挿入物を可能な限り等分する。
−これを少なくとも30分間休ませ、重合させる。
【0162】
2−真皮代替物の上にある角化細胞を継代培養することによる、真皮代替物の表面にある上皮層(表皮)の成長。角化細胞に特異的な培地で覆う。
【0163】
3−標準的な細胞培養プロトコルにしたがって、37℃のインキュベーター中、高湿環境下、5% CO2を含む状態で維持する。上皮細胞が、真皮代替物の表面でコンフルエンス状態に達するまで、培地を3日ごとに新しいものに換える(約1週間)。
【0164】
4−真皮代替物を培地の中に沈めたままで、上皮表面を空気にさらし(空気−液体技術)、表皮層形成および成熟を促す(約1週間)。
【0165】
5−培養物表面から人工ヒト皮膚産物を除去し、平坦な滅菌ガラス表面に置かれた、厚みが3〜5mmの滅菌濾紙の上に置くことによって、部分的に脱水する。70%アルコールで滅菌したナイロンから作られた多孔性のチュール片または布を、皮膚代替物の表面に置き、皮膚代替物の上皮層が濾紙に付着するのを防ぐ。この後に、第2の厚みが3〜5mmの滅菌濾紙を、この布地で覆われた皮膚代替物の上に置く。その表面に平坦な滅菌ガラス片を置き、約250gの重さの物体を後者の上に置く(図1)。すべてのプロセスは、ラミナ―フローフード中、室温、10分間で行わなければならない。このプロセスの目的は、最適なコンシステンシーおよび弾性のレベルにするため、生成物の水分濃度をかなり減らすことである。
【0166】
人工ヒト皮膚産物の評価(図2):
(1)人工ヒト皮膚産物の顕微鏡分析(組織学的品質制御)。
人工皮膚サンプルの評価から、これらのサンプルの構造は、正常な天然のヒト皮膚と非常によく似ていることがわかったが、培地中での成長時間が、これらの人工産物の構造に直接影響を与えていた。特定的には、培養物中に4週間維持されたサンプルの分析から、以下のことがわかった。
【0167】
インビトロ評価(図2A):
・製造から1週間後に評価した皮膚産物は、厚い間質層を有しており、その中に、多くの増殖している線維芽細胞の集合が存在している。上皮細胞の単一層がこの間質代替物の表面に存在しているようであった。
・培養物を2週間成長させると、間質中にかなり多くの細胞が観察され、また、初期の上皮層形成も見られ、その表面に1列または2列の角化細胞が生成している。
・このときから、角化細胞の増殖は続き、3週目には、上皮中に新しい細胞の列が観察されている。
・4週目に、全部で3〜4列の細胞が存在していたが、上皮の異なる層を区別することはできなかった。乳頭、皮膚付属器または角質層はみられなかった。
【0168】
インビボ評価(図2B):培地中に維持された人工皮膚産物で観察されたものとは異なり、動物モデルに移植された人工皮膚は、以下に記載するように、かなり十分な組織構造化と分化を起こした。
・マウスに上の産物を移植してから10日目に、細胞中に非常に大量の真皮が存在し、無秩序な細胞外線維および物質を観察することができた。真皮中に白血球性浸潤物が存在し、また、細動脈、小静脈、毛細管を含む重要な血管組織の新生物が存在することを強調しておく。上皮レベルで、3〜5の細胞層が観察され、有棘層および顆粒層は明確にはわからないが、基底層および初期角質層は明確にみられた。同様に、乳頭または皮膚付属器は存在していないものの、均質な真皮の線がみられる。
・無胸腺動物に移植してから20日後、真皮において線維芽細胞および白血球の濃度が低下し、真皮の原線維含有量が顕著に高まった。4〜6の表皮角化細胞の間に存在しているのも観察され、この時点で、基底層、有棘層、顆粒層、角質層の4種類の異なる層が区別され、有棘層は、4種類の中で一番明確ではかった。進化10日目の場合と同様に、乳頭または皮膚付属器は存在していないものの、均質な真皮の線がみられる。
・30日目のサンプルでは、それまでよりも真皮の原線維含有量が多くなっているのが観察され、大量の上皮層がみられ、6〜9の角化細胞層の間に存在し、明らかな上皮層の分化(基底層、有棘層、顆粒層、角質層)がみられた。乳頭または皮膚付属器は、ここでもみられなかった。
・インビボ進化の40日目、真皮層にもっと多くの線維が含まれているのが観察され、上皮角化細胞層の数(6〜9)が確立された。真皮接合部の乳頭または皮膚付属器は、明確ではなかった。
【0169】
(2)人工ヒト皮膚産物の免疫組織化学的分析(図2C)。
正常なヒト皮膚コントロールと、実験室で得た皮膚産物について、サイトケラチン(パンサイトケラチン、サイトケラチン1、サイトケラチン10)、フィラグリンおよびインボルクリンの発現を分析し、それぞれの種類のサンプルについて、これらのタンパク質の特異的な発現パターンを決定し、この結果は、人工のヒト皮膚は、正常なヒト皮膚と同じ表面タンパク質を発現することができることを示している。
【0170】
実施例2.ウォートンジェリー幹細胞を用いた人工ヒト皮膚産物を製造
A.皮膚およびヒト臍帯サンプルを得る
局所および局所領域へ麻酔を行い、ドナーから得た完全な厚みをもつ皮膚サンプルを使用する。このサンプルを滅菌状態で得たら、真皮層が露出するまで、ハサミを用いて皮下脂肪組織を除去する。次いで、サンプルの汚染を可能な限り防ぐために、除去した組織を、抗生物質(ペニシリンG 500U/mlおよびストレプトマイシン500μg/ml)および抗真菌薬(アンホテリシンB 1.25μg/ml)を加えたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)から作られた滅菌輸送媒体にすぐに入れた。
【0171】
使用した臍帯は、正常な満期妊娠の帝王切開分娩から得られる。分娩の後、10〜15cmの臍帯片を得て、これを、皮膚で使用したのと同じ輸送媒体に入れ、すぐに実験室に送る。
【0172】
B.初代線維芽細胞およびウォートンジェリー幹細胞の培養物を作製
輸送期間の後に、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンB(それぞれ、500U/ml、500μg/ml、1.25μg/ml)を含む滅菌PBS溶液ですべてのサンプルを2回洗浄し、サンプルに付着しているかもしれない血液、フィブリン、脂肪または外来物質をすべて除去しなければならない。次いで、それぞれのサンプルを独立して処理する。
【0173】
−皮膚の場合、まず、2mg/mlのディスパーゼIIを含む滅菌PBS溶液中、サンプルを37℃でインキュベートすることによって真皮を分離する。上皮を真皮に固定している基底膜が分解し、したがって、その後で、一方で上皮が、他方で真皮が機械的に分離する。
【0174】
皮膚の真皮の細胞外基質を消化し、この基質に含まれている間質線維芽細胞を分離するために、サンプルを、ウシ胎仔血清を含まないDMEM培地中、2mg/mlのClostridium hystoliticum I型コラゲナーゼ滅菌溶液中、37℃で6時間インキュベートしなければならない。この溶液は、真皮のコラーゲンを消化し、間質線維芽細胞を遊離させることができる。初代線維芽細胞の培養物を得るために、消化された真皮の間質細胞を含む消化溶液を、1,000rpmで10分間遠心分離処理しなければならず、線維芽細胞に対応する細胞ペレットを、表面積が15cm2の培養フラスコ中で培養する。グルコースを豊富に含み、抗生物質および抗真菌薬(ペニシリンG 100U/ml、ストレプトマイシン 100μg/ml、アンホテリシンB 0.25μg/ml)を加えたDMEMを培地として用いる。この基本的な培地は、線維芽細胞培地と呼ばれる。
【0175】
−臍帯の場合、臍静脈に沿って長手方向にサンプルを切断する。ウォートンジェリーを分離するために、動脈および臍静脈を注意深く取り除く。次いで、ウォートンジェリーを、非常に小さな組織片になるまで切断する。これらのウォートンジェリー片を、I型コラゲナーゼ(Gibco BRL Life Technologies、カールスルーエ、ドイツ)30ml中、撹拌しつつ37℃で約4〜6時間インキュベートし、その後に、毎分1050回転(rpm)で7分間遠心分離処理することによって、解離した細胞を集める。次いで、上澄みを注意深く取り除き、細胞ペレットを、あらかじめ希釈しておいたトリプシン(Sigma−Aldrich)5〜10mlに再懸濁させる。振とう浴中、37℃で30分間、再びインキュベートする。次いで、10%ウシ胎仔血清を加えた培地10〜20mlを加えることによってトリプシンの効果を中和し、1000rpmで10分間遠心分離処理し、単離された細胞を得る。これらの細胞を、25cm2の培養フラスコ中、最終的にAmniomax培地に再び懸濁させる。
【0176】
いずれの場合も、細胞を、標準的な細胞培養条件で、37℃、5%二酸化炭素を含む状態でインキュベートする。培地を3日ごとに新しいものに交換する。
【0177】
C.初代皮膚培養物およびウォートンジェリー幹細胞培養物に由来する細胞の継代
細胞がコンフルエンス状態に達したら、異なる線維芽細胞培養物またはウォートンジェリー幹細胞培養物を滅菌PBSで洗浄し、トリプシン 0.5g/LおよびEDTA 0.2g/Lの溶液1〜3mL中、37℃で10分間インキュベートしなければならない。
【0178】
したがって、細胞接着機構は崩壊し、角化細胞および真皮の培養フラスコ表面に付着しておらず、分離された細胞が得られる。
【0179】
培養フラスコの表面から細胞がはがれたら、使用したトリプシンを、線維芽細胞培地10mLを加えることによって不活性化する。血清タンパク質が豊富に存在すると、トリプシンのタンパク質分解作用を不活性化することができる。
【0180】
はがれた細胞が見られる溶液を、次に1000rpmで10分間遠心分離処理し、目的の細胞を含む細胞ペレットまたはクラスターを得て、トリプシンを含む上澄みを捨てる。この細胞ペレットを培地5mLに注意深く再懸濁させ、これらの細胞を、15、25または75cm2の表面積をもつ培養フラスコ中で培養させる。
【0181】
角化細胞の培養物は、通常は、新しい培養フラスコ中で約5倍まで広がる。
【0182】
D.フィブリン系およびアガロース系の人工ヒト皮膚産物を、組織工学を用いて構築
1−細胞外のフィブリンおよびアガロースの基質を用い、その中に線維芽細胞を浸して真皮代替物を作製する。これらの真皮代替物を、栄養物は通るが、細胞自体は通らないような、直径が0.4μmの多孔性挿入物の上で直接作製する。真皮代替物10mlを以下の様式で製造する。
−献血によって、ヒト血漿7.6mLを得る(自系由来でもよい)。
−あらかじめ培養しておいた150,000個のヒト皮膚線維芽細胞を加え、DMEM培地750μlに再懸濁させる。
−トラネキサム酸150μlを加え、フィブリンゲルの線維素溶解を防ぐ。
−1% ClCa2 1mlを加え、凝固反応を誘発させ、フィブリン線維網を作製する。
−PBSに分散させた2%VII型アガロース0.5mlをすばやく加え、融点に達するまで加熱し、撹拌によって穏やかに混合する。混合物中の最終アガロース濃度は、0.1%であろう。生存能力のある真皮産物を可能にするアガロース濃度範囲は、0.025%〜0.3%であり、使用する患者の目的と関連して達成されなければならない。
−多孔性細胞培養挿入物を可能な限り等分する。
−これを少なくとも30分間休ませ、重合させる。
【0183】
2−真皮代替物の上にあるウォートンジェリー幹細胞を継代培養することによる、真皮代替物の表面にある上皮層(表皮)の成長。角化細胞に特異的な培地で覆う。この培地は、グルコースを豊富に含むDMEM培地3部と、Ham F−12培地1部で構成されており、これらには、すべて10%ウシ胎仔血清、抗生物質−抗真菌薬(ペニシリンG 100U/ml、ストレプトマイシン100μg/ml、アンホテリシンB 0.25μg/ml)、アデニンおよび異なる成長因子24μg/ml、ヒドロコルチゾン0.4μg/ml、インスリン5μg/ml、上皮成長因子(EGF)10ng/ml、トリヨードチロニン1.3ng/ml、コレラ毒素8ng/mlが加えられている。
【0184】
3−標準的な細胞培養プロトコルにしたがって、37℃のインキュベーター中、高湿環境下、5% CO2を含む状態で維持する。上皮細胞が、真皮代替物の表面でコンフルエンス状態に達するまで、培地を3日ごとに新しいものに換える(約1週間)。
【0185】
4−真皮代替物を培地の中に沈めたままで、上皮表面を空気にさらし(空気−液体技術)、表皮層形成および成熟を促す(約1週間)。
【0186】
5−培養物表面から人工ヒト皮膚産物を除去し、平坦な滅菌ガラス表面に置かれた、厚みが3〜5mmの滅菌濾紙の上に置くことによって、部分的に脱水する。70%アルコールで滅菌したナイロンから作られた多孔性のチュール片または布を、皮膚代替物の表面に置き、皮膚代替物の上皮層が濾紙に付着するのを防ぐ。この後に、第2の厚みが3〜5mmの滅菌濾紙を、この布地で覆われた皮膚代替物の上に置く。その表面に平坦な滅菌ガラス片を置き、約250gの重さの物体を後者の上に置く(図1)。すべてのプロセスは、ラミナ―フローフード中、室温、10分間で行わなければならない。このプロセスの目的は、最適なコンシステンシーおよび弾性のレベルにするため、生成物の水分濃度をかなり減らすことである。
【0187】
ウォートンジェリー細胞によって産生した人工ヒト皮膚の評価(図3):
(1)ウォートンジェリー幹細胞の生存能力の決定(顕微鏡分析による品質制御)(図3A)。
エネルギー分散型のx線顕微鏡分析技術によって細胞の生存能力を決定すると、細胞内のNa、Mg、P、Cl、K、S、Caイオンの濃度プロフィールを決定することができ、それによって、この次の人工組織を構築するときに使用するのに最も適した継代培養物を知ることができる。この目的のために、以下の方法論を行うことが必要である。
(a)樹脂(ピオロフォーム)の層であらかじめコーティングしておいた金の格子の上で、細胞を培養すること。細胞がサブコンフルエンス状態に達したら、格子を4℃の水道水で10秒間洗浄し、培地を取り除く。
(b)細胞を液体窒素中で凍らせて固定すること。
(c)凍らせて固定したサンプルに、低温(−100℃)で20分間、減圧凍結乾燥技術を用いることによって乾燥させること。凍らせて固定するのは、Polaron E5300凍結乾燥器で行う。
(d)凍らせて固定し、乾燥させたサンプルを、特定のサンプルフォルダに取り付けること。
(e)Sputtering Polaron E−5000中、細胞を炭素でコーティングすること。
(f)エネルギー分散型x線検出器(EDAX)と、逆分散する電子の検出器とを備えるPhilips XL−30 Scanning Electron Microscopeで観察すること。
(g)以下の定数を用いる、定性的な微量分析による分析。電圧10Kv、倍率10,000倍、表面の角度0°、観察角度35°、500cps、計測蓄積時間200秒。定性的なスペクトルをそれぞれの試験した細胞について得る。このスペクトルで、K軌道でのNa、Mg、P、Cl、K、Caの値を選び、1秒あたりの計測(CPS)、バックグラウンド(BKGD)または特徴的ではない放射線、ピーク/バックグラウンド(P/B)指数を計測する。
(h)定量的な微量分析による分析。乾燥重量1kgあたり、単位mmol/KgでのNa、Mg、P、Cl、S、K、Ca元素の濃度を、Hall法を変えることによって最初に定量する(Hallら、1973;Staham and Pawley、1978)。この目的のために、標準的なNa、Mg、P、Cl、K、S、Ca塩を20%デキストラン(300,000ダルトン)に溶解したものを用い、標準的な曲線または直線を得る。これらの塩を、分析する標本と同じ様式で処理する。それぞれの分析した元素の濃度は、最後に標準的な曲線からの線形回帰法を用いて算出する。
【0188】
ウォートンジェリー幹細胞のイオン濃度を定量化した後に得られた結果は、明らかに、4回目および5回目の継代培養に対応するK/Na指数の値が最も大きく、したがって、これらの培養物が、組織工学を用いてヒト皮膚を産生するときに利用するのに最も理想的であると考えられることを示している。
【0189】
(2)人工ヒト皮膚産物の顕微鏡分析(組織学的品質制御)(図3B)。
人工皮膚サンプルの評価から、これらのサンプルの構造は、正常な天然のヒト皮膚と非常によく似ていることがわかったが、培地中での成長時間が、これらの人工産物の構造に直接影響を与えていた。特定的には、培養物中に4週間維持されたサンプルの分析から、5つまでの上皮層は、構築物の表面に次々と作製されるが、最後の段階になるまで、細胞間の接合は形成されないことがわかった。次に行った、ウォートンジェリー幹細胞を用いて作製したヒト皮膚産物のインビボ評価は、人工間質の上に厚い上皮層が成長し、多くのデスモソーム型細胞間接合および十分に構築された基底膜が作製されることを示していた。これらすべてのことから、通常の天然ヒト皮膚と見分けがつかない人工皮膚が得られ、作製した産物の有用性を示している。
【0190】
(3)人工ヒト皮膚産物の免疫組織化学的分析(図3C)。
正常なヒト皮膚コントロールと、実験室でウォートンジェリー幹細胞から得た皮膚産物について、サイトケラチン(パンサイトケラチン、サイトケラチン1、サイトケラチン10)、フィラグリンおよびインボルクリンの発現を分析し、それぞれの種類のサンプルについて、これらのタンパク質の特異的な発現パターンを決定し、この結果は、人工のヒト皮膚は、正常なヒト皮膚と同じ表面タンパク質を発現することができることを示している。
【0191】
実施例3.人工角膜を製造
人工角膜を製造するためのプロトコル
以下に記載するプロトコルは、ヒトおよび動物の角膜産物のプロトコルに似ており、ただし、動物の角膜産物に内皮層を組み込むことだけが異なる。
【0192】
A.初代角膜細胞培養物を作製。初代角膜上皮、間質有角赤血球、角膜内皮培養物を確立するために、適切な場合、以下の方法およびプロトコルを使用した。
−局所および全身領域へ麻酔を行い、角膜縁から生体組織を得て、これを滅菌生理食塩水に入れて実験室に輸送する。
−角膜を手術によって除き、虹彩、結膜、血餅残渣を除去する。
−動物の角膜産物の場合、デスメ膜を手術で切除し、上皮細胞を単離し、これを内皮細胞用培地で培養する。この培地の組成は、DMEM培地3部と、Ham F−12培地1部であり、すべて、10%ウシ胎仔血清、抗生物質−抗真菌薬、アデニン24μg/mlおよび異なる成長因子:ヒドロコルチゾン0.4μg/ml、インスリン5μg/ml、トリヨードチロニン1.3ng/ml、コレラ毒素8ng/ml、上皮成長因子(EGF)10ng/mlが加えられていた。
−角膜中央部2mmを切断し、2% コラゲナーゼI中、37℃で6時間インキュベートする。1000rpmで10分間遠心分離し、角膜基質の成人幹細胞(有角赤血球)を集め、これを、10%ウシ胎仔血清および抗生物質を含むDMEM培地(ダルベッコ変法イーグル培地)中で培養させる。
−約1mmの小さな外植片中、角膜縁を断片化し、初代角膜上皮細胞を得るために、これらの外植片を培養フラスコ表面で直接培養する。
【0193】
標準的な細胞培養プロトコルにしたがって、37℃のインキュベーター中、高湿環境下、5% CO2を含む状態で全ての培養物を維持する。培養物中で細胞がコンフルエンス状態に達するまで、培地を3日ごとに新しいものに換える。
【0194】
B.実験室で組織工学を用いることによって角膜産物を構築
1−栄養物は通るが、細胞自体は通らないような、直径が0.4μmの多孔性挿入物を用い、あらかじめ単離しておいた内皮細胞を継代する。選択される細胞は、4回目の継代培養物に属していなければならない(内皮細胞の生存能力が最大)。この第1の工程は、動物の三層構造の角膜産物を作製するためだけに行われるだろう。
2−直径が0.4μmの多孔性挿入物の上で、細胞外フィブリンおよびアガロースの基質を用い、有角赤血球が中に含まれている角膜間質代替物を作製する(これは、二層構造のヒト角膜産物の場合には、第1の工程であろう)。間質代替物10mlを製造するために、
−献血によってヒト血漿7.6mlを得る(自系由来でもよい)。
−あらかじめ培養しておいた150,000個のヒト有角赤血球を加え、DMEM培地750μlに再懸濁させる。
−トラネキサム酸150μlを加え、フィブリンゲルの線維素溶解を防ぐ。
−フィブロネクチン10μlを濃度500mg/mlで加える。この目的は、間質代替物に表面上皮細胞が接着しやすくなり、現時点で開発されている角膜産物中に存在する分離の危険性をなくすことである。
−1% ClCa2 1mlを加え、凝固反応を誘発させ、フィブリン線維網を作製する。
−PBSに分散させた2%VII型アガロース0.5mlをすばやく加え、融点に達するまで加熱し、撹拌によって穏やかに混合する。混合物中の最終アガロース濃度は、0.1%であろう。生存能力のある真皮産物を可能にするアガロース濃度範囲は、0.025%〜0.3%であり、使用する患者の目的と関連して達成されなければならない。
−多孔性細胞培養挿入物を可能な限り等分する。
−これを少なくとも30分間休ませ、重合させる。
【0195】
3−間質代替物の上にある角膜上皮細胞を継代培養することによる、角膜間質代替物の表面にある角膜上皮層の成長。上皮細胞に特異的な培地で覆う。
【0196】
4−標準的な細胞培養プロトコルにしたがって、37℃のインキュベーター中、高湿環境下、5% CO2を含む状態で維持する。上皮細胞が、真皮代替物の表面でコンフルエンス状態に達するまで、培地を3日ごとに新しいものに換える(約1週間)。
【0197】
5−間質代替物を培地の中に沈めたままで、上皮表面を空気にさらし(空気−液体技術)、角膜の上皮層形成および成熟を促す(約1週間)。
【0198】
6−培養物表面から人工ヒト皮膚産物を除去し、平坦な滅菌ガラス表面に置かれた、厚みが3〜5mmの滅菌濾紙の上に置くことによって、部分的に脱水する。70%アルコールで滅菌したナイロンから作られた多孔性のチュール片または布を、皮膚代替物の表面に置き、皮膚代替物の上皮層が濾紙に付着するのを防ぐ。この後に、第2の厚みが3〜5mmの滅菌濾紙を、この布地で覆われた皮膚代替物の上に置く。その表面に平坦な滅菌ガラス片を置き、約250gの重さの物体を後者の上に置く(図1)。すべてのプロセスは、ラミナ―フローフード中、室温、10分間で行わなければならない。このプロセスの目的は、最適なコンシステンシーおよび弾性のレベルにするため、生成物の水分濃度をかなり減らすことである。
【0199】
角膜産物の評価(図4)
(1)角膜産物の顕微鏡分析および免疫組織化学的分析(組織学的品質制御)(図4A)。
顕微鏡分析から、組織工学によって作られた角膜産物が、コントロールとして使用した天然の角膜と構造的によく似ていることがわかった。特定的には、十分に形成された角膜上皮がみられ、多くの細胞間接合と間質が、その間に有角赤血球を含む多くのフィブリン線維で構成されている。これらすべてのことから、上述のプロトコルに基づいて作られた二層構造または三層構造の人工角膜産物は、ヒトおよび動物の正所性角膜と適合性であることを示唆している。
【0200】
角膜産物の上皮構造の観点で、上皮細胞は、すべての上皮細胞は、典型的な角膜上皮に排他的なサイトケラチン(CK3およびCK12)を高濃度で発現し、このことから、これらの細胞がインビトロで機能していることが示唆されることを強調しておくべきである。同様に、細胞間接合に関連するタンパク質の分析から、異なるデスモソーム成分(プラコグロビン、デスモグレイン3およびデスモプラキン)、上皮レベルでの密着結合(ZO−1およびZO−2)、ギャップをつなぐ接合(コネキシン37)が続けて発現し、これらはすべて、正常な天然の角膜と似ていることがわかった。
【0201】
(2)レオロジーによる品質制御(図4B)。
二層構造または三層構造の人工角膜産物の機械特性の分析は、上述のプロトコルに基づいて行われ、この組織の粘弾挙動を示し、角膜では、アガロース含有量が増えるにつれて弾性係数が大きくなり、アガロースが低濃度で使用される場合、降伏点が顕著に低下する。粘弾性および降伏点の分析から、フィブリンおよびアガロースの産物の物理特性は、フィブリンまたはコラーゲンのみを含む産物よりも大きいことがわかった。これらすべてのことから、フィブリンおよびアガロースの角膜の物理特性は最適であり、コントロールとして使用する正常なヒト角膜と部分的に似ていることが示唆される。
【0202】
(3)光学的な品質制御(図4C)
人工角膜産物の光学特性は、ヒトまたは動物の角膜の機能を発揮しなければならない組織にとって適切であった。特定的には、分光透過率の分析から、角膜産物が、非常に適切なレベルの透明度を示す傾向があり、この透明度が、正常なヒト角膜に匹敵し、非常によく似た散乱度を示すことが示された。さらに、フィブリンおよびアガロースの産物の吸収係数、分散係数、吸光係数は、フィブリン組織を用いて得られる係数よりも大きかった。しかし、短波長(紫外線範囲)での吸光度は、二層構造または三層構造の人工角膜産物において、コントロールよりも小さく、このことは、この種類の産物に紫外光フィルタを用いる必要性を示唆している。全体的に、角膜産物の透明度は、特に、厚みが0.7mmを超えない生成物では、許容される範囲にある。
【0203】
(4)遺伝的な品質制御(図4Cおよび4D)
遺伝子発現分析の場合、ヒト上皮および間質の有角赤血球細胞の初代角膜培養物およびヒトの二層人工角膜産物からから全RNAを抽出し、後者は、顕微鏡によって分析されている(Affymetrix Human Genome U133 plus 2.0(登録商標))。この分析は、ヒト人工角膜産物で発現した遺伝子は、正常な角膜の機能と適合性であるが、組織の成長に関連する多くの遺伝子が、正常な角膜に関連して過剰に発現することを示している。特定的には、人工角膜産物は、細胞間接合(コネキシン、インテグリン、デスモプラキン、プラコグロビンなど)、上皮の成長(Sema3A、RUNX2、TBX1)、細胞の分化(PLXNA4A、FLG、DKK4、DCN)、基底膜(ラミニン、コラーゲンIV)、細胞外基質(コラーゲン、デコリン、ビグリカン、MMP、フィブロネクチン)などを確立することに集中した機能をもつ大量の遺伝子を発現した。これらの結果は、作られた角膜産物が、正常な角膜で起こるのと同じ進化プロセスを受けることができ、これらの産物によって発現する遺伝子の機能が、正常なものに匹敵することを示唆している。
【0204】
(4)インビボ評価(図4E)
人工角膜産物6の臨床的な挙動を評価するために、部分的な厚みをもつ二層構造のヒト角膜を実験用ウサギに移植し、その進化を6ヵ月間追いかけた。このアッセイの結果は、適切な生体適合性レベルを示し、炎症または完全はまったく存在せず、良好な透明度を維持していることを示している。これらすべてのことから、組織工学によって作製した角膜産物は、実験的な薬理学および臨床の観点から有用である潜在能力をもつことを示唆している。
【0205】
実施例4.人工ヒト尿道産物を製造
人工ヒト尿道産物を製造するプロトコル:
A.ヒト尿道サンプルを得ること
人工尿道を作製するために、正常な患者またはドナーの内視鏡検査によって得られた正常なヒト尿道の小さな生体組織を使用する。このサンプルを滅菌状態で得たら、真皮層が露出するまで、ハサミを用いて皮下脂肪組織を除去する。次いで、サンプルの汚染を可能な限り防ぐために、除去した組織を、抗生物質(ペニシリンG 500U/mlおよびストレプトマイシン500μg/ml)および抗真菌薬(アンホテリシンB 1.25μg/ml)を加えたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)から作られた滅菌輸送媒体にすぐに入れた。
【0206】
または、ヒト尿道サンプルを得ることが実現可能ではない場合には、口腔粘膜サンプルまたは皮膚サンプルを用い、尿道代替物を作製してもよい。
【0207】
B.初代間質および上皮細胞の培養物の作製
輸送期間の後に、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンB(それぞれ、500U/ml、500μg/ml、1.25μg/ml)を含む滅菌PBS溶液ですべてのサンプルを2回洗浄し、サンプルに付着しているかもしれない血液、フィブリン、脂肪または外来物質をすべて除去しなければならない。
【0208】
まず、上皮から間質を分離するために、トリプシン 0.5g/LおよびEDTA 0.2g/Lを含む滅菌PBS溶液中、サンプルを37℃でインキュベートし、遠心分離をおおなった30分後に、細胞を含む上澄みを集める。その都度新しいトリプシン−EDTA溶液を加え、このプロセスを5回まで繰り返す。このようにしてかなりの量の尿道上皮細胞が得られ、好ましくは、線維芽細胞よりも上皮細胞が成長しやすい上皮細胞培地中で培養する。この培地は、グルコースを豊富に含むDMEM培地3部と、Ham F−12培地1部で構成されており、これらには、すべて10%ウシ胎仔血清、抗生物質−抗真菌薬(ペニシリンG 100U/ml、ストレプトマイシン100μg/ml、アンホテリシンB 0.25μg/ml)、アデニンおよび異なる成長因子24μg/ml、ヒドロコルチゾン0.4μg/ml、インスリン5μg/ml、上皮成長因子(EGF)10ng/ml、トリヨードチロニン 1.3ng/ml、コレラ毒素8ng/mlが加えられている。
【0209】
尿道間質の細胞外基質を消化し、この基質に含まれている間質線維芽細胞を分離するために、サンプルを、ウシ胎仔血清を含まないDMEM培地中、2mg/mlのClostridium hystoliticum I型コラゲナーゼ滅菌溶液中、37℃で6時間インキュベートしなければならない。この溶液は、真皮のコラーゲンを消化し、間質線維芽細胞を遊離させることができる。初代線維芽細胞の培養物を得るために、消化された真皮の間質細胞を含む消化溶液を、1,000rpmで10分間遠心分離処理しなければならず、線維芽細胞に対応する細胞ペレットを、表面積が15cm2の培養フラスコ中で培養する。グルコースを豊富に含み、抗生物質および抗真菌薬(ペニシリンG 100U/ml、ストレプトマイシン 100μg/ml、アンホテリシンB 0.25μg/ml)を加えたDMEMを培地として用いる。この基本的な培地は、線維芽細胞培地と呼ばれる。
【0210】
すべての場合で、細胞を、標準的な細胞培養条件で、37℃、5%二酸化炭素を含む状態でインキュベートする。培地を3日ごとに新しいものに交換する。
【0211】
C.フィブリン系およびアガロース系の人工ヒト尿道産物を、組織工学を用いて構築
1−細胞外のフィブリンおよびアガロースの基質を用い、その中に線維芽細胞を浸して間質代替物を作製する。これらの間質代替物を、細胞培養ペトリ皿の上で直接作製する。間質代替物10mlを以下の様式で製造する。
−献血によって、ヒト血漿7.6mLを得る(自系由来でもよい)。
−あらかじめ培養しておいた150,000個のヒト皮膚線維芽細胞を加え、DMEM培地750μlに再懸濁させる。
−トラネキサム酸150μlを加え、フィブリンゲルの線維素溶解を防ぐ。
−1% ClCa2 1mlを加え、凝固反応を誘発させ、フィブリン線維網を作製する。
−PBSに分散させた2%VII型アガロース0.5mlをすばやく加え、融点に達するまで加熱し、撹拌によって穏やかに混合する。混合物中の最終アガロース濃度は、0.1%であろう。生存能力のある真皮産物を可能にするアガロース濃度範囲は、0.025%〜0.3%であり、使用する患者の目的と関連して達成されなければならない。
−細胞培養ペトリ皿に、可能な限り等分する。
−これを少なくとも30分間休ませ、重合させる。
【0212】
2−間質代替物の上にある上皮細胞を継代培養することによる、真皮代替物の表面にある角膜上皮層(表皮)の成長。上皮細胞に特異的な培地で覆う。
【0213】
3−標準的な細胞培養プロトコルにしたがって、37℃のインキュベーター中、高湿環境下、5% CO2を含む状態で維持する。上皮細胞が、真皮代替物の表面でコンフルエンス状態に達するまで、培地を3日ごとに新しいものに換える(約1週間)。
【0214】
4−培養物表面から人工尿道ヒト産物を除去し、平坦な滅菌ガラス表面に置かれた、厚みが3〜5mmの滅菌濾紙の上に置くことによって、部分的に脱水する。70%アルコールで滅菌したナイロンから作られた多孔性のチュール片または布を、皮膚代替物の表面に置き、皮膚代替物の上皮層が濾紙に付着するのを防ぐ。この後に、第2の厚みが3〜5mmの滅菌濾紙を、この布地で覆われた皮膚代替物の上に置く。その表面に平坦な滅菌ガラス片を置き、約250gの重さの物体を後者の上に置く(図1)。すべてのプロセスは、ラミナ―フローフード中、室温、10分間で行わなければならない。このプロセスの目的は、最適なコンシステンシーおよび弾性のレベルにするため、生成物の水分濃度をかなり減らすことである。
【0215】
5−組織を脱水したら、尿道代替物を切断して測定し、丸める、次いで、モノフィラメント縫合糸で縫合する。このようにして、天然のヒト尿道に非常によく似た管状の尿道代替物が得られる。組織を脱水すると、最適なコンシステンシーおよび弾性のレベルが得られ、これによって、なんら困難なく、丸めたり、縫合したりすることができることを強調しておくべきである。
【0216】
人工ヒト尿道産物の評価(図5):
(1)人工ヒト尿道産物の顕微鏡分析(組織学的品質制御)(図5A)。
人工尿道サンプルの評価から、これらのサンプルの構造は、正常な天然のヒト尿道と非常によく似ていることがわかった。特定的には、培養物中に4週間維持されたサンプルの分析から、人工間質の表面に層状の扁平上皮が生成し、線維を多く含む密度の大きな間質を生成することがわかり、間質細胞は、活発に増殖することがわかった。これらすべてのことから、人工尿道の構造は、正常な天然の尿道の構造と同じであった。
【0217】
口腔粘膜の細胞を使用する場合では、尿道細胞から得たものと非常に似た間質代替物が得られた。
【0218】
(2)人工ヒト尿道の免疫組織化学的分析(図5B)
正常な尿道コントロールと、実験室で得た人工尿道産物について、サイトケラチン発現の分析から、人工尿道上皮によるインテグリンの発現が示され、このことは、この上皮が完全な機能をもち、ヒト尿道を置換するのに使用可能であることを示唆している。
【0219】
実施例5.人工尿膀胱産物の製造
人工尿膀胱産物を製造するプロトコル:
A.ヒト膀胱サンプルを得ること
人工膀胱代替物を作製するために、正常な患者またはドナーの内視鏡検査によって得られた正常なヒト膀胱の小さな生体組織を使用する。このサンプルを滅菌状態で得たら、サンプルの汚染を可能な限り防ぐために、除去した組織を、抗生物質(ペニシリンG 500U/mlおよびストレプトマイシン500μg/ml)および抗真菌薬(アンホテリシンB 1.25μg/ml)を加えたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)から作られた滅菌輸送媒体にすぐに入れた。
【0220】
または、ヒト膀胱サンプルを得ることが実現可能ではない場合には、口腔粘膜サンプルまたは皮膚サンプルを用い、膀胱代替物を作製してもよい。
【0221】
B.初代間質および上皮細胞の培養物の作製
輸送期間の後に、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンB(それぞれ、500U/ml、500μg/ml、1.25μg/ml)を含む滅菌PBS溶液ですべてのサンプルを2回洗浄し、サンプルに付着しているかもしれない血液、フィブリン、脂肪または外来物質をすべて除去しなければならない。
【0222】
まず、上皮から間質を分離するために、トリプシン 0.5g/LおよびEDTA 0.2g/Lを含む滅菌PBS溶液中、サンプルを37℃でインキュベートし、遠心分離をおおなった30分後に、細胞を含む上澄みを集める。その都度新しいトリプシン−EDTA溶液を加え、このプロセスを5回まで繰り返す。このようにしてかなりの量の尿道上皮細胞が得られ、好ましくは、線維芽細胞よりも上皮細胞が成長しやすい上皮細胞培地中で培養する。この培地は、グルコースを豊富に含むDMEM培地3部と、Ham F−12培地1部で構成されており、これらには、すべて10%ウシ胎仔血清、抗生物質−抗真菌薬(ペニシリンG 100U/ml、ストレプトマイシン100μg/ml、アンホテリシンB 0.25μg/ml)、アデニンおよび異なる成長因子24μg/ml、ヒドロコルチゾン0.4μg/ml、インスリン5μg/ml、上皮成長因子(EGF)10ng/ml、トリヨードチロニン 1.3ng/ml、コレラ毒素8ng/mlが加えられている。
【0223】
膀胱間質の細胞外基質を消化し、この基質に含まれている間質線維芽細胞を分離するために、サンプルを、ウシ胎仔血清を含まないDMEM培地中、2mg/mlのClostridium hystoliticum I型コラゲナーゼ滅菌溶液中、37℃で6時間インキュベートしなければならない。この溶液は、真皮のコラーゲンを消化し、間質線維芽細胞を遊離させることができる。初代線維芽細胞の培養物を得るために、消化された真皮の間質細胞を含む消化溶液を、1,000rpmで10分間遠心分離処理しなければならず、線維芽細胞に対応する細胞ペレットを、表面積が15cm2の培養フラスコ中で培養する。グルコースを豊富に含み、抗生物質および抗真菌薬(ペニシリンG 100U/ml、ストレプトマイシン 100μg/ml、アンホテリシンB 0.25μg/ml)を加えたDMEMを培地として用いる。この基本的な培地は、線維芽細胞培地と呼ばれる。
【0224】
すべての場合で、細胞を、標準的な細胞培養条件で、37℃、5%二酸化炭素を含む状態でインキュベートする。培地を3日ごとに新しいものに交換する。
【0225】
C.フィブリン系およびアガロース系の人工ヒト尿道産物を、組織工学を用いて構築
1−細胞外のフィブリンおよびアガロースの基質を用い、その中に線維芽細胞を浸して間質代替物を作製する。これらの間質代替物を、細胞培養ペトリ皿の上で直接作製する。間質代替物10mlを以下の様式で製造する。
−献血によって、ヒト血漿7.6mLを得る(自系由来でもよい)。
−あらかじめ培養しておいた150,000個のヒト皮膚線維芽細胞を加え、DMEM培地750μlに再懸濁させる。
−トラネキサム酸150μlを加え、フィブリンゲルの線維素溶解を防ぐ。
−1% ClCa2 1mlを加え、凝固反応を誘発させ、フィブリン線維網を作製する。
−PBSに溶解させた2%VII型アガロース0.5mlをすばやく加え、融点に達するまで加熱し、撹拌によって穏やかに混合する。混合物中の最終アガロース濃度は、0.1%であろう。生存能力のある真皮産物を可能にするアガロース濃度範囲は、0.025%〜0.3%であり、使用する患者の目的と関連して達成されなければならない。
−細胞培養ペトリ皿でできる限りすばやく等分する。
−これを少なくとも30分間休ませ、重合させる。
【0226】
2−この代替物の上にある上皮細胞を継代培養することによる、間質代替物の表面にある上皮層(尿路上皮)の成長。上皮細胞に特異的な培地で覆う。
【0227】
3−標準的な細胞培養プロトコルにしたがって、37℃のインキュベーター中、高湿環境下、5% CO2を含む状態で維持する。上皮細胞が、真皮代替物の表面でコンフルエンス状態に達するまで、培地を3日ごとに新しいものに換える(約1週間)。
【0228】
4−培養物表面から人工膀胱ヒト産物を除去し、平坦な滅菌ガラス表面に置かれた、厚みが3〜5mmの滅菌濾紙の上に置くことによって、部分的に脱水する。70%アルコールで滅菌したナイロンから作られた多孔性のチュール片または布を、皮膚代替物の表面に置き、皮膚代替物の上皮層が濾紙に付着するのを防ぐ。この後に、第2の厚みが3〜5mmの滅菌濾紙を、この布地で覆われた皮膚代替物の上に置く。その表面に平坦な滅菌ガラス片を置き、約250gの重さの物体を後者の上に置く(図1)。すべてのプロセスは、ラミナ―フローフード中、室温、10分間で行わなければならない。このプロセスの目的は、最適なコンシステンシーおよび弾性のレベルにするため、生成物の水分濃度をかなり減らすことである。
【0229】
5−組織を脱水したら、膀胱代替物を切断して測定し、代替物自体と縫合し、モノフィラメント縫合糸を用いて望ましい形態を得る。組織を脱水すると、最適なコンシステンシーおよび弾性のレベルが得られ、これによって、なんら困難なく、縫合することができることを強調しておくべきである。
【0230】
人工ヒト膀胱産物の評価(図6)
(1)人工ヒト膀胱産物の顕微鏡分析および免疫組織化学的分析(組織学的品質制御)(図6Aおよび6B)。
人工膀胱産物の評価から、これらの構造は、正常な天然のヒト膀胱に非常によく似ていることがわかった。特定的には、培養物中に4週間維持されたサンプルの分析から、人工間質の表面に立方形または扁平状態の単層上皮が生成し、線維を多く含む密度の大きな間質を生成することがわかり、間質細胞は、活発に増殖することがわかった(図6A)。
【0231】
免疫組織化学的分析から、これらの組織は、正常なコントロールであるヒト膀胱組織と同様にサイトケラチン13およびパンサイトケラチンを発現し、胚組織または成熟組織に典型的なサイトケラチン7および8を発現することがわかった(図6B)。これらすべてから、人工膀胱の構造は、正常な天然の膀胱と同じであることを示唆している。
【0232】
口腔粘膜の細胞を使用する場合では、膀胱細胞から得たものと非常に似た間質代替物が得られた。
【0233】
実施例6.フィブリン、アガロース、コラーゲンの生体材料を用い、人工産物を製造
人工ヒト口腔粘膜産物を製造するプロトコル:
A.初代上皮細胞および間質細胞を作製
上皮細胞(口腔粘膜上皮細胞)および間質細胞(線維芽細胞)の一次培養を確立するために、以下の方法およびプロトコルを用い、ヒトドナーまたは実験動物に由来する正常な口腔粘膜の試験組織を用いる。
−口腔粘膜の生体組織を得て、滅菌生理食塩水中で実験室に移す、
−標準的な酵素消化技術(上皮単離のために、トリプシンまたはディスパーゼ、間質単離のために、コラゲナーゼ)または標準的な組織移植技術を用い、上皮細胞および間質細胞を単離し、培養する、
−細胞がコンフルエンス状態になるまで、上皮細胞または間質細胞に特異的な培地中で培養する。
【0234】
すべての培養物は、標準的な細胞培養プロトコルにしたがって、37℃、5%二酸化炭素を含む状態に維持される。培地内で細胞がコンフルエンス状態に達するまで、培地を3日ごとに新しいものに交換する。
【0235】
B.組織工学を用い、実験室でフィブリン、アガロース、コラーゲンの組織代替物を構築
1−間質細胞が中に入った組織間質代替物を作製する。間質代替物20mlを製造するために、
a.−濃度が6.4mg/mlの液体コラーゲン濃縮物8.81mlを取ることによって、液体のI型コラーゲン10mlを製造する。10倍のPBS 1.1mlを加え、NaOH 約90μLを用い、pHを7.4±0.2に調節する。0.1〜1Mの濃度でのNaOHのpHを上げることが通常行われるが、他の生成物を用いてもよい。予定よりも早くゲル化してしまうのを防ぐために、穏やかに撹拌し、氷中で撹拌を維持することによって混合する。
b.−フィブリンおよびアガロースの混合物10mlを以下の様式で製造する。
−献血によって、ヒト血漿7.6mLを得る(自系由来でもよい)。
−あらかじめ培養しておいた150,000個のヒト皮膚線維芽細胞を加え、DMEM培地750μlに再懸濁させる。
−トラネキサム酸150μlを加え、フィブリンゲルの線維素溶解を防ぐ。
−1% ClCa2 1mlを加え、凝固反応を誘発させ、フィブリン線維網を作製する。
−PBSに分散させた2%VII型アガロース0.5mlをすばやく加え、融点に達するまで加熱し、撹拌によって穏やかに混合する。混合物中の最終アガロース濃度は、0.1%であろう。生存能力のある真皮産物を可能にするアガロース濃度範囲は、0.025%〜0.3%であり、使用する患者の目的と関連して達成されなければならない。
c.−作製する生成物に依存して、両溶液(コラーゲン溶液およびフィブリン−アガロース溶液)を種々の比率で混合する。すべての場合において、混合のときまでコラーゲン溶液を冷やしておき、両溶液はできるだけすばやく混合する。
−コラーゲン溶液10mlと、フィブリン−アガロース溶液10mlとを加え、生成物A(コラーゲン2.8g/L、フィブリン1.25g/L、アガロース0.5g/L)を作製する。
−コラーゲン溶液15mlと、フィブリン−アガロース溶液5mlとを加え、生成物B(コラーゲン3.8g/L、フィブリン0.6g/L、アガロース0.25g/L)を作製する。
−コラーゲン溶液5mlと、フィブリン−アガロース溶液15mlとを加え、生成物C(コラーゲン1.9g/L、フィブリン1.9g/L、アガロース0.75g/L)を作製する。
d.−多孔性細胞培養挿入物またはペトリ皿に、可能な限り等分する。
e.−これを37℃のインキュベーターで少なくとも30分間休ませ、重合させる。
2−間質代替物の上にある口腔粘膜上皮細胞を継代培養することによる、間質代替物の表面にある上皮層の成長。上皮細胞に特異的な培地で覆う。
3−標準的な細胞培養プロトコルにしたがって、37℃のインキュベーター中、高湿環境下、5% CO2を含む状態で維持する。上皮細胞が、間質代替物の表面でコンフルエンス状態に達するまで、培地を3日ごとに新しいものに換える(約1週間)。
4−間質代替物を培地の中に沈めたままで、上皮表面を空気にさらし(空気−液体技術)、上皮層形成および成熟を促す(約1週間)。
5−培養物表面から人工ヒト皮膚産物を除去し、平坦な滅菌ガラス表面に置かれた、厚みが3〜5mmの滅菌濾紙の上に置くことによって、部分的に脱水する。70%アルコールで滅菌したナイロンから作られた多孔性のチュール片または布を、皮膚代替物の表面に置き、皮膚代替物の上皮層が濾紙に付着するのを防ぐ。この後に、第2の厚みが3〜5mmの滅菌濾紙を、この布地で覆われた皮膚代替物の上に置く。その表面に平坦な滅菌ガラス片を置き、約250gの重さの物体を後者の上に置く(図1)。すべてのプロセスは、ラミナ―フローフード中、室温、10分間で行わなければならない。このプロセスの目的は、最適なコンシステンシーおよび弾性のレベルにするため、生成物の水分濃度をかなり減らすことである。
6−組織を脱水したら、測定するために切断し、モノフィラメント縫合糸を用いることによって、望ましい形態を与える。組織を脱水すると、適切なコンシステンシーおよび弾性のレベルが得られ、これによって、なんら困難なく縫合することができる。
【0236】
C.組織工学を用い、実験室でコラーゲン組織代替物を構築
1−間質細胞が中に入った組織間質代替物を作製する。間質代替物20mlを製造するために、
−濃度が6.4mg/mlの液体コラーゲン濃縮物17.62mlを取ること;10倍のPBS1.45mlを加え、NaOHを約180μL用い、pHを7.4±0.2に調節すること。0.1〜1Mの濃度でのNaOHのpHを上げることが通常行われるが、他の生成物を用いてもよい。予定よりも早くゲル化してしまうのを防ぐために、穏やかに撹拌し、氷中で撹拌を維持することによって混合する。
−あらかじめ培養しておいた150,000個の間質細胞を加え、DMEM培地750μlに再懸濁させる。
−多孔性細胞培養挿入物またはペトリ皿に、可能な限り等分する。
−これを37℃のインキュベーターで少なくとも30分間休ませ、重合させる。
2−間質代替物の上にある口腔粘膜上皮細胞を継代培養することによる、間質代替物の表面にある上皮層の成長。上皮細胞に特異的な培地で覆う。
3−標準的な細胞培養プロトコルにしたがって、37℃のインキュベーター中、高湿環境下、5% CO2を含む状態で維持する。上皮細胞が、間質代替物の表面でコンフルエンス状態に達するまで、培地を3日ごとに新しいものに換える(約1週間)。
4−間質代替物を培地の中に沈めたままで、上皮表面を空気にさらし(空気−液体技術)、上皮層形成および成熟を促す(約1週間)。
5−培養物表面から人工ヒト皮膚産物を除去し、平坦な滅菌ガラス表面に置かれた、厚みが3〜5mmの滅菌濾紙の上に置くことによって、部分的に脱水する。70%アルコールで滅菌したナイロンから作られた多孔性のチュール片または布を、皮膚代替物の表面に置き、皮膚代替物の上皮層が濾紙に付着するのを防ぐ。この後に、第2の厚みが3〜5mmの滅菌濾紙を、この布地で覆われた皮膚代替物の上に置く。その表面に平坦な滅菌ガラス片を置き、約250gの重さの物体を後者の上に置く(図1)。すべてのプロセスは、ラミナ―フローフード中、室温、10分間で行わなければならない。
6−組織を脱水したら、測定するために切断し、モノフィラメント縫合糸を用いることによって、望ましい形態を与える。
【0237】
人工ヒト口腔粘膜産物の評価(図7):
上のプロトコルにしたがって得られた産物を評価した。製造したそれぞれの産物のフィブリン、アガロース、コラーゲンの濃度を以下に示す。
A.−フィブリン(1.25g/L)、アガロース(0.5g/L)、コラーゲン(2.8g/L)。
B.−フィブリン(0.6g/L)、アガロース(0.25g/L)、コラーゲン(3.8g/L)。
C.−フィブリン(1.9g/L)、アガロース(0.75g/L)、コラーゲン(1.9g/L)。
D.−フィブリン(0g/L)、アガロース(0g/L)、コラーゲン(5.6g/L)。
【0238】
(1)人工組織の顕微鏡分析(組織学的品質制御)(図7A)。
顕微鏡分析から、組織工学を用いて作製した人工組織は、コントロールとして使用した天然の組織と構造的に似ていることがわかった。特定的には、間質細胞の間に、多くの線維で構成された間質がみられ、このことは、適切な細胞増殖レベルであることを示す。すでに記載した他のモデルと比較して(特に、フィブリンモデル、アガロースを含むフィブリンモデル)、フィブリン、アガロース、コラーゲンの組織は、間質レベルで原線維の密度が大きい。これらすべてのことから、上述のプロトコルに基づいて構築された組織産物は、正常な天然ヒト組織と適合性であることを示唆している。
【0239】
(2)レオロジーによる品質制御(図7B)。
上述のプロトコルに基づいて構築された組織産物の生物力学特性をレオメーターによって分析する。結果を図7Cに示し、この結果から、最もよい組織は、生成物Aであり、Cがそれに続き、Bは、D(コラーゲンのみ)と非常に似ていることがわかる。したがって、分析結果から、コラーゲン濃度を高めることによって、人工コラーゲン組織で示される値よりも粘弾性挙動が向上し、限界応力が大きくなることが示された。
【0240】
これらの実施例で示されたデータは、フィブリン、アガロース、コラーゲンの組織の物理特性は最適であり、コントロールとして使用する正常なヒト組織と似ていることが示され、臨床用途に関して、記載されている人工組織は向上がみられる。
【0241】
実施例8:構造化技術を適用した後の、フィブリン−アガロース生体材料の改良
ナノ構造化技術を適用すると、このプロセスを受けた生体材料の構造および挙動を実質的に変えることができる。0.1%フィブリンおよびアガロース生体材料(この特許出願の最終的な好ましい濃度)に対するナノ構造化の主な効果は、以下のとおりである。
−組織の生物力学特性が顕著に向上。これにより、ナノ構造の組織を操作することができ、生体材料のレオロジー特性をかなり大きく、予測できないレベルで向上させる。図8に示されるように、限界応力は、ナノ構造の組織は、非ナノ構造の組織に比べ、3.8倍大きかった(それぞれ、16.2パスカル、4.23パスカル)。一方、ナノ構造化を受けたサンプルの粘性係数G”は、非ナノ構造のサンプルと比べ、5.26倍大きかった(それぞれ、19.3Pa、3.67Pa)(図9)。これらのデータは、ナノ構造の生体材料の耐性は、非ナノ構造の組織の耐性よりもかなり大きいことを示す。
【0242】
同様に、ナノ構造の組織の弾性係数G’は、天然の非ナノ構造の生体材料に比べ、5.55倍大きく(図10)(それぞれ、152Pa、27.4Pa)、このことは、これらの組織の男性レベルが顕著に高いことを意味する。
【0243】
これらすべての現象は非常に顕著であり、明らかに、生体材料中の水濃度には依存しておらず、ナノ構造化プロセスの結果として生体材料内で発生する内部反応に依存している。
【0244】
−ナノ構造の組織の操作性は、手術での操作が可能になるほど、かなり向上しており、レシピエントをベッドで縫合したり、試験動物に移植したりすることができる。非ナノ構造の組織は、操作するのが顕著に困難であり、臨床的に縫合または移植すると壊れてしまう傾向があり、かなり複雑化することを強調しておくことは重要である。この向上は非常に顕著であり、単純に生体材料の水濃度を減らしたことによって説明することはできず、異なるフィブリン線維およびアガロース繊維を結合させる三次元構造の形成、予想できないレベルで改質された生体材料の性質によって説明することができる。
【0245】
−ナノ構造化を受けた組織の透明度が顕著に向上。0.1%の非ナノ構造のフィブリン−アガロース生体材料の透明度は、可視光スペクトル(約400〜700nm)の透過率%を測定すると、考慮する波長によっては90〜94%に達し(平均で92%)、一方、非ナノ構造の生体材料は、透過率が87〜90%であった(平均で88.5%)(図10)。したがって、ナノ構造化プロセスを受けた生体材料では、透明度が高い(可視光の透過率が大きい)。以前の場合と同様に、この現象は、生体材料の内部構造に起こる化学反応および物理反応の複雑なプロセスの結果であり、透明度の向上は、ナノ構造の組織が高密度であり、非ナノ構造の組織よりも水含有量が少ないという点だけで完全に予想することはできない。
【0246】
−実験動物に移植した臨床結果。ナノ構造化を受けた生体材料を移植すると、構造化されていない生体材料よりも臨床という観点で有効であることが示されている。この事実は、前もって予測することができないものであり、生体材料の適切な生物力学特性によって、臨床的なインプラントの効率が大きくなり、他方で、ナノ構造化を受けた生体材料の1mm2あたりの線維密度が大きく、したがって、受け入れる有機体による再構築が遅いという事実に関連しているはずである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学の分野に包含され、より具体的には、組織工学の分野に包含される。本発明は、具体的には、人工組織を製造するためのインビトロで行われる方法、この方法によって得ることができる人工組織、および損傷した組織または臓器の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるためのこの人工組織の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
組織工学は、生検から得られる組織サンプルに由来する幹細胞から実験室で人工組織を設計し、作製することを可能とし、それによって臓器移植および再生医療に大きな飛躍的進歩をもたらす一連の技術および学問である。組織工学は、インビトロで組織および臓器を産生し、これらの組織を必要とする患者に移植するという有望な用途のため、近年最も大きく進歩してきたバイオテクノロジー領域の一領域である。とはいえ、現時点までに記載されている人工組織には、いくつかの問題および合併症がある。例として、皮膚、角膜、膀胱、尿道等由来の人工組織を用いた場合について、そのうちのいくつかを以下に述べる。
【0003】
膀胱は、尿を受け取り、貯蔵する役割を担う臓器である。膀胱は、骨盤底に位置し、尿を貯蔵、保持する能力、伸展性を特徴とする。随意調節は、尿道括約筋が収縮して尿道を閉じ、膀胱頸が尿漏れを防ぐ結果であり、さらに、尿を貯蔵するために膀胱を緩め、緩和する結果であり、これにより膀胱の中に尿が溜まることとなる。多くの先天的または後天的な病的状態が、膀胱のコンシステンシーに影響を及ぼし、膀胱の自制機能を変えてしまうことがある。一方で、膀胱の奇形は、緊急に手術によって修復する必要がある重篤な膀胱壁の欠陥を伴う傾向がある。他方で、骨盤の外傷、膀胱癌、および外傷性の脊髄損傷は、損傷した膀胱を修復するために膀胱外の組織の使用を必要とする、よくある病的状態である。この場合、現時点では、腸を用い(腸による膀胱形成術)、胃を用い(胃による膀胱形成術)、または尿路上皮を用い(尿管による膀胱形成術)、膀胱の拡張を行っており、これらの技術に関連する合併症が非常によく起こる。
【0004】
今まで、臨床で使用される膀胱置換モデルは、ほとんど記載されていない。近年では(Atalaら、Lancet.2006年4月15日;367(9518):1241−6)、ボストン小児病院の研究者らは、コラーゲンおよびポリグリコール酸から作製した人工膀胱代替物を、重篤な膀胱損傷を負った患者7例に移植し、成功した。しかし、人工膀胱を必要とする患者を処置するのに利用可能な人工膀胱モデルはきわめて限定されており、品質が悪い、作製した組織の操作性が限定されているといった数多くの欠点がある。さらに、コラーゲンは、組織工学で使用する場合、収縮し、体積が小さくなってしまう傾向がある生成物であり、コンシステンシーが限定されており、したがって、手術での操作性も限定されている。
【0005】
尿道は、膀胱に貯蔵されている尿が通り、外側に取り出される管である。両方の性別での排泄機能に加え、尿道は、男性では、射精の間に精嚢からの精子内容物の経路となることによって、生殖機能も担う。尿道の機能的コンシステンシーに影響を与え、正常な機能を再び確立するために、膀胱をかなりの程度または少しだけ置換することが必要な、多くの先天的な疾患(主に、尿道下裂および尿道上裂)または後天的な疾患(外傷性傷害、狭窄など)が存在する(Bairdら、J Urol.2005;174:1421−4;Persichettiら、Plast Reconstr Surg.2006;117:708−10)。
【0006】
傷害のある組織は、昔から、人工装具要素または患者自身の一部から採取した組織(自家移植片(autograftまたはautotransplant))または別の個体から採取した組織(異種移植片)を用いて修復されている。尿道のほとんどの病的状態を正すために、自己に隣接する組織の組織片、または主に膀胱または口腔粘膜の遊離移植片がよく用いられている。しかし、常に局所組織片を得ることができるとは限らず、膀胱または口腔粘膜からの除去は、ドナーおよびレシピエントの両方の領域で、合併症および副作用と無縁ではない(Corvinら、Urologe A.2004;43(10):1213−6;Schultheissら、World J Urol.2000;18:84−90)。一方、異種組織を使用すると、尿道置換の結果はかなり悪くなり、移植した組織の免疫拒絶反応が非常によく起こる。
【0007】
今まで、臨床的に可能性のある用途をもつ尿道置換モデルはほとんど記載されておらず、尿道代替物を患者に移植するということが文献で記載されている症例は非常に限定されている。現在までに記載されているモデルは、ほとんどがコラーゲン生体材料に基づくものである(De Filippoら、J Urol.2002 Oct;168(4 Pt 2):1789−92;El−Kassabyら、J Urol.2003 Jan;169(1):170−3;discussion 173)か、または患者自体の皮膚に基づくものである(Linら、Zhonghua Yi Xue Za Zhi.2005 Apr 20;85(15):1057−9)。しかし、これらのモデルはすべていくつかの問題および合併症があり、これらの問題をもたない尿道代替物はまだ開発されていない。一方で、コラーゲンは、組織工学で使用する場合、収縮し、体積が小さくなってしまう傾向がある産物であり、コンシステンシーが限定されており、したがって、手術での操作性も限定されている。他方で、自己の皮膚の使用は、尿道の疾患に適応すべき能力が十分に示されておらず、脱細胞化した真皮の一部を再び細胞化させることはきわめて困難である。
【0008】
角膜は、目の中を光が透過し、外側環境に対し眼球の主要な障壁を形成する、血管のない透明な構造である。このため、正しい視覚機能にとって、コンシステンシーおよび正しい操作は必須である。先天的または後天的な角膜の病的な状態は、眼科で最もよくある問題のひとつであり、生理機能および角膜の構造をひどく変えてしまう多くの原因が存在する。これらの場合には、合併症と無縁ではない積極的な処置は、異なる種類の人工角膜移植術(例えば、羊膜移植)に頼る傾向があり、ときには、異種角膜移植(角膜形成術)にさえ頼る傾向がある。しかし、角膜移植は、死亡したドナーに由来する角膜の入手可能性に大きく依存する技術であり、このことは、多くの人が非常に長い期間にわたって移植待機リストにとどまってしまうことを意味する。一方、ドナーに由来する臓器移植は、臓器を移植したときに免疫拒絶を起こす可能性があり、患者は残りの人生でずっと免疫抑制治療を受けさせられることはよく知られている。最後に、角膜を含む任意の種類の臓器または組織の移植は、HIV、肝炎、ヘルペス、細菌性疾患および真菌性疾患などを含め、あらゆる種類の感染性疾患がドナーからレシピエントに移る可能性がある技術である。角膜移植から生じるこれらすべての問題および合併症があるため、異種移植に代わる治療の探索が必要とされている。
【0009】
角膜代替物(角膜構築物または人工角膜)を実験室で作製することは、組織工学の中で重要性が増しつつある分野のひとつであり、多くの実験室で現在も試みられているが、ヒトの臨床診療で、または薬理学的かつ化学的生産物を評価するために使用可能である良好な品質の角膜代替物を得ることは、あまりうまくいっていない(Griffithら、Functional Human corneal equivalents constructed from cell lines.Science.1999;286(5447):2169−72;Orwinら、Tissue Eng.2000;6(4):307−19;Reichlら、Int J Pharm.2003;250:191−201)。この観点で、動物およびヒトに由来する人工角膜が開発されている。両方の場合で、異なる生体材料、例えば、I型コラーゲン、絹フィブロイン(HigaおよびShimazaki.Cornea.2008 Sep;27 Suppl 1:S41−7)、キトサン(Gaoら、J Mater Sci Mater Med.2008 Dec;19(12):3611−9)、ポリグリコール酸(Huら、Tissue Eng.2005 Nov−Dec;11(11−12):1710−7)、アガロースを含むフィブリン(Alaminosら、Invest Ophthalmol Vis Sci(IOVS).2006;47:3311−3317;Gonzaelez−Andradesら、J Tissue Eng Regen Med.2009 May 5)を用い、モデルを開発した。これらの全生体材料の中で、現在までで最もよい結果を与えたのは、フィブリンと、塩基としてアガロースとを含むものである。I型コラーゲンで作られる角膜は、体積が減り、収縮してしまう傾向があり、使用するコラーゲンが動物由来であるというさらなる欠点がある。フィブロインおよびキトサンは、無脊椎動物から作られる産物であり、顕著な生体適合性の問題を生じる。フィブリンおよびアガロースから開発された角膜は、対照的に、同じ患者の血液に由来するフィブリンを含むという利点をもち、一方、アガロースは、免疫学的観点から不活性な産物を生成する。
【0010】
皮膚は、ヒトの体のなかで最も大きな器官であり、体内バランスを維持するのに必須の役割を果たし、任意の種類の外からの攻撃に対する主要な有機体の保護障壁を形成する。多くの皮膚の病的状態が存在し、創傷、褥瘡、および熱傷が最も一般的なものである。皮膚組織片もしくは移植片の使用に基づく現時点での処置は、またはドナーに由来する皮膚を移植することに基づくものでさえも、いくつかの問題を伴う。
【0011】
これらの問題を解決する必要性から、組織工学の必要性によって、ヒト人工皮膚産物の製造に基づく代替物質の研究がおこなわれている(Horchら、Burns.2005 Aug;31(5):597−602)。具体的には、現在までに、合成または生物系の皮膚カバーを含む、異なる種類の人工皮膚が設計されているが、元々のヒトの皮膚がもつ構造や機能を正確にうまく再現できたものはない。一方で、合成の皮膚カバーは、生きた細胞を含まず、非吸収性の生体材料で構成されており、一時的なカバーまたはガイド下組織修復誘発剤として使用可能である。これらの人工で不活性な組織は、生体活性はきわめて乏しく、したがって、深い傷または広範囲の傷には使用することができない。他方で、生物系のカバーは、人工のヒト皮膚を用いて構成され、通常のヒトの皮膚構造を再生しようとする生きた細胞および細胞外基質が存在する。今まで、最もよい結果を与えた人工のヒトの皮膚は、生体材料としてヒト血漿に由来するフィブリンを用いた皮膚幹細胞から組織工学によって作られた人工皮膚である(Meanaら、Burns 1998;24:621−630;Del Rioら、Hum Gene Ther.2002 May 20;13(8):959−68;Llamesら、Transplantation.2004 Feb 15;77(3):350−5;Llamesら、Cell Tissue Bank 2006;7:4753)。これらの技術は、多くの飛躍的進歩を引き起こしたが、主に、コンシステンシーが制限され、操作が困難であり、非常に脆いため、臨床での使用が制限されている。最もコンシステンシーの高い組織代替物のひとつは、フィブリンとアガロースの併用である。今まで、アガロースは、軟骨の代替物(Miyataら、J Biomech Eng.2008 Oct;130(5):051016)、角膜の代替物(Alaminosら、Invest Ophthalmol Vis Sci(IOVS).2006;47:3311−3317)、およびヒト口腔粘膜の代替物(Alaminosら、J Tissue Eng Regen Med.2007 Sep−Oct;1(5):350−9;Saenchez−Quevedoら、Histol Histopathol.2007 Jun;22(6):631−40)を作るために使用されているが、人工の皮膚を作るためにこの生体材料を使用した従来の経験は存在しない。
【0012】
組織工学は、バイオテクノロジーの中でも重要性が大きくなってきている領域のひとつである。しかし、現時点までに存在する人工組織の欠点から、ヒトの臨床診療で、または薬理学的産物および化学的産物を評価するために使用可能である人工組織を得ることができる新しい技術を開発し、今までにわかっている制限を克服することが必要とされている。
【発明の概要】
【0013】
第1の態様において、本発明は、人工組織を製造するためのインビトロで行われる方法であって、
(a)フィブリノゲンを含む組成物を、単離された細胞のサンプルに加える工程と、
(b)工程(a)から得られた生成物に抗線維素溶解薬を加える工程と、
(c)工程(b)から得られた生成物に、少なくとも1つの凝固因子、カルシウム源、トロンビン、またはこれらの任意の組み合わせを加える工程と、
(d)工程(c)から得られた生成物に多糖組成物を加える工程と、
(e)工程(d)から得られた生成物の中または表面で、単離された細胞を培養する工程と、そして
(f)工程(e)から得られた生成物のナノ構造化を誘発する工程と
を含んでなることを特徴とする方法に関する。
【0014】
第2の態様において、本発明は、上記本発明の方法によって得ることのできる人工組織に関する。
【0015】
第3の態様において、本発明は、上記本発明の人工組織の医薬としての使用に関する。
【0016】
第4の態様において、本発明は、病変または損傷した組織または臓器の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換える薬剤を製造するための上記本発明の人工組織の使用に関する。
【0017】
第5の態様において、本発明は、上記本発明の人工組織を含んでなる医薬組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、人工組織をナノ構造化するために使用される方法の模式図を示す。
【図2A】図2は、人工のヒト皮膚産物の評価を示す。A.インビトロ顕微鏡分析。
【図2B】B.インビボで評価した人工のヒト皮膚の肉眼での分析および顕微鏡分析。
【図2C】C.免疫組織化学的分析。
【図3A】図3は、ウォートンジェリー(Wharton’s jelly)の細胞を用いた人工のヒト皮膚産物の評価を示す。A.ウォートンジェリー幹細胞の生存能力の決定。
【図3B】B.顕微鏡分析。
【図3C】C.以下のタンパク質の免疫組織化学的分析:パンサイトケラチン(PANC)、ケラチン1(KRT1)、ケラチン10(KRT10)、インボルクリン(INVOL)、フィラグリン(F I LAG)。
【図4A】図4は、角膜産物の評価を示す。A.顕微鏡分析および免疫組織化学的分析:ヒトコントロールである角膜上皮(C)、および異なる成熟段階および成長段階にインビトロで維持した角膜産物の上皮(1:1層の上皮層をもつ角膜、2:2〜3層をもつ角膜、3:層状になった上皮をもつ角膜、4:層状になった上皮をもち、空気−液体技術(air−liquid technique)を付した角膜)における、細胞間結合に関連する異なるタンパク質の免疫蛍光。
【図4B】B.レオロジーによる品質制御。
【図4C】C.光学的な品質制御。
【図4D】D.遺伝的な制御:組織工学によって作られた、人工の角膜構築物によって発現した主な遺伝子機能。
【図4E】E.動物モデルにおける、人工の角膜産物の臨床的な性能をインビボで評価。A:前側の半分の角膜を除去した後、角膜構築物を間質の表面に置いた。B:縫合したときの最終的な外観。C:3週間後の進化。D:6週間後の進化。
【図5A】図5は、人工のヒト尿道産物の評価を示す。A.顕微鏡分析。
【図5B】B.免疫組織化学的分析(インテグリン発現)。
【図6A】図6は、人工の膀胱産物の評価を示す。A.顕微鏡分析:それぞれ、実験室で作られ、1週間、3週間培養された人工のヒト膀胱。
【図6B】B.免疫組織化学的分析:組織工学を用いて作られた人工のヒト膀胱、および正常なコントロールであるヒト膀胱における、免疫蛍光を用いた、サイトケラチン(CK)7、8、4、13、パンサイトケラチンの分析。
【図7A】図7は、人工のヒト口腔粘膜産物の評価を示す。A.培養して、1、2、3、4週間成長させた後のフィブリン、アガロース、およびコラーゲン組織(最終濃度2.8g/Lのコラーゲン)、ならびにコントロールとしてヒト口腔粘膜の間質を、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した光学顕微鏡による分析。
【図7B】B.最終的な好ましいコラーゲン濃度である2.8g/Lになったフィブリン系、アガロース系、コラーゲン系の人工組織(A)を、最終コラーゲン濃度が3.8g/Lの人工フィブリン、アガロース、コラーゲン組織(B)、最終コラーゲン濃度が1.9g/Lの人工フィブリン、アガロース、コラーゲン組織(C)、またはフィブリン、アガロースが存在しない、最終濃度が5.6g/Lのコラーゲン組織(D)、コントロールとして使用した正常なヒト口腔粘膜の間質(E)と比較した、走査型電子顕微鏡を用いた分析。
【図7C】C.最終的な好ましいコラーゲン濃度である2.8g/Lになったフィブリン系、アガロース系、コラーゲン系の人工組織(A)を、最終コラーゲン濃度が3.8g/Lの人工フィブリン、アガロース、コラーゲン組織(B)、最終コラーゲン濃度が1.9g/Lの人工フィブリン、アガロース、コラーゲン組織(C)、またはフィブリン、アガロースが存在しない、最終濃度が5.6g/Lのコラーゲン組織(D)と比較した、限界応力。
【図8】図8は、非ナノ構造の組織に対し、ナノ構造の組織の限界応力(単位パスカル)が向上していることを示す。
【図9】図9は、ナノ構造化に付したサンプルおよび非ナノ構造のサンプルの粘性係数G’’を示す(単位パスカルでのデータ)。
【図10】図10は、ナノ構造の組織と、元々の非ナノ構造の生体材料の弾性係数G’を示す。
【図11】図11は、0.1%フィブリン−アガロースナノ構造化に付した組織と、非ナノ構造の0.1%フィブリン−アガロース生体材料の透明度を示す。このデータは、可視光スペクトルの透過率%で与えられている(約400〜700nm)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
組織工学は、インビトロで組織および臓器を産生し、これらの組織を必要とする患者に移植するという用途のため、近年最も大きく進歩してきたバイオテクノロジー領域の一領域である。しかし、現時点で存在する人工組織には制限事項があるため、ヒトの臨床診療において、または薬理学的および化学的産物を評価するために使用可能な人工組織を得ることができる、新しい技術を開発することが求められている。
【0020】
本発明の方法
本発明は、人工組織を製造するためのインビトロで行われる方法、この方法によって得ることができる人工組織、および損傷した組織または臓器の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための、この人工組織の使用を提供する。
【0021】
本発明の第1の態様は、人工組織を製造するためのインビトロで行われる方法(以下、本発明の方法)であって、
(a)フィブリノゲンを含む組成物を、単離された細胞のサンプルに加える工程と、
(b)工程(a)から得られた生成物に抗線維素溶解薬を加える工程と、
(c)工程(b)から得られた生成物に、少なくとも1つの凝固因子、カルシウム源、トロンビン、またはこれらの任意の組み合わせを加える工程と、
(d)工程(c)から得られた生成物に多糖組成物を加える工程と、
(e)工程(d)から得られた生成物の中または表面で、単離された細胞を培養する工程と、そして
(f)工程(e)から得られた生成物のナノ構造化を誘発する工程と
を含んでなる方法に関する。
【0022】
本発明の方法の工程(a)において、フィブリノゲンを含む組成物を、単離された細胞に、好ましくは哺乳動物から単離された細胞に加える。この細胞は、特定の関連する細胞種によって異なり得る、当該技術分野で記載されている様々な方法によって得ることができる。これらの方法には、例えば生体組織検査法、機械的な処理、酵素による処理(例えば、これらに限定されないが、トリプシンまたはI型コラゲナーゼを用いた処理)、遠心分離、赤血球の溶解、濾過、この細胞種が選択的に増殖しやすい担持体または培地での培養、またはイムノサイトメトリーがあるが、これらに限定されるものではない。これらの方法のうち、いくつかを本明細書の実施例で詳細に記載する。
【0023】
工程(a)の細胞は、例えば、これらに限定されるものではないが、線維芽細胞、有角赤血球、または平滑筋細胞のような分化した細胞であってもよく、あるいは、例えば成人幹細胞のような細胞に分化する能力をもつ未分化細胞であってもよい。
【0024】
本発明の方法の好ましい実施形態によれば、工程(a)の細胞は、線維芽細胞であるか、または線維芽細胞に分化する能力をもつ未分化細胞である。線維芽細胞は、任意の組織または臓器から得ることができるが、工程(a)の線維芽細胞は、好ましくは、人工組織を代替物として使用し得る組織または臓器に由来する。例えば、本発明の方法を、皮膚を置換する組織または人工の皮膚を製造するために用いる場合、線維芽細胞は、好ましくは、皮膚に由来し(真皮の線維芽細胞)、膀胱を置換する組織または人工膀胱を製造するために用いる場合、線維芽細胞は、好ましくは、膀胱に由来し、尿道を置換する組織または人工尿道を製造するために用いる場合、線維芽細胞は、好ましくは、尿道に由来し、または、口腔粘膜を置換する組織または人工口腔粘膜を製造するために用いる場合、線維芽細胞は、好ましくは、口腔粘膜に由来する。とはいえ、線維芽細胞は、例えば、口腔粘膜、腹壁または任意の結合組織のような組織または臓器から得てもよい。口腔粘膜から得られた線維芽細胞を、例えば、皮膚を置換する組織または人工皮膚、膀胱を置換する組織または人工膀胱、尿道を置換する組織または人工尿道、または角膜を置換する組織または人工角膜を製造するために用いてもよい。
【0025】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、工程(a)の細胞は、有角赤血球であるか、または有角赤血球に分化する能力をもつ未分化細胞である。本発明の方法を、例えば角膜を置換する組織または人工角膜を製造するために用いる場合、好ましくは角膜間質から得た有角赤血球が用いられる。
【0026】
人工組織のすべての成分を自己由来の成分にすることができれば、移植する被検体の免疫系を抑制する必要なく、この組織の移植を行うことができる。しかし、人工組織の成分は、同種異系に由来するものであってもよく、すなわち、人工組織の成分は、人工組織が移植される個体とは別の個体に由来していてもよい。この成分の由来となる種が異なっていてもよく、この場合、組織の供給源は、異種であると呼ばれる。異種のものは、緊急で人工組織が必要な場合に、人工組織を前もって製造する可能性を広げるものであるが、この場合、人工組織が移植される被検体の免疫系を抑制することが推奨されるだろう。
【0027】
したがって、好ましい実施形態では、本発明の工程(a)の細胞は、自己由来である。とはいえ、工程(a)の細胞は、同種異系または異種に由来していてもよい。
【0028】
本発明の方法の工程(a)〜(d)に記載する異なる成分を工程(a)の細胞に加え、工程(e)から得られた生成物を担持体に固定して、フィブリン、多糖、そして相当する場合、つまり工程(d2)を適用した場合には、工程(d2)で加えられるタンパク質を含んでなる、マトリックスが形成され、細胞はその中に埋め込まれ、かつ細胞はその表面および/またはその内部で成長可能とされる。好ましくは、工程(a)の細胞は、このマトリックスの内部で成長する。
【0029】
フィブリンマトリックスの作製は、トロンビンによって誘発されるフィブリノゲン重合によって起こる。フィブリノゲンは、血漿に存在する高分子量タンパク質である。トロンビンは、フィブリノゲン分子を低分子量ポリペプチドとフィブリンモノマーに分解するタンパク質分解酵素である。このモノマーは、重合して二量体になり、次いで、トロンビンによってすでに活性化されていた第XIII因子の作用によって、カルシウムイオン存在下で共有結合を介して互いに結合する。
【0030】
工程(a)のフィブリノゲンを含む組成物は、例えば、これに限定されるものではないが、血漿であってもよい。また、工程(a)の組成物は、血漿誘導体(例えば、これらに限定されないが、フィブリノゲンの寒冷沈降物(クリオプレシピテート)または濃縮物)から製造されてもよい。工程(a)の組成物は、フィブリノゲンに加え、他の凝固因子を含んでいてもよい。
【0031】
好ましい実施形態では、工程(c)から得られた生成物のフィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/L、場合により、1〜10g/Lである。さらに好ましい実施形態では、工程(d)から得られた生成物のフィブリノゲン濃度は、1〜4g/L、場合により、2〜4g/Lである。とはいえ、これより大きな濃度または小さな濃度を使用してもよい。
【0032】
好ましい実施形態では、工程(a)の組成物のフィブリノゲン、または、工程(a)のフィブリノゲンを含む組成物は、自己由来である。とはいえ、工程(a)の組成物のフィブリノゲン、または、工程(a)のフィブリノゲンを含む組成物は、同種異系または異種に由来していてもよい。
【0033】
この本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、工程(a)のフィブリノゲンを含む組成物は、血漿である。この場合、フィブリノゲン重合は、工程(c)でカルシウム源を加えることによって誘発させることができる。
【0034】
この本発明の第1の態様のさらに好ましい実施形態では、工程(c)のカルシウム源は、例えば、これらに限定されるものではないが、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウムまたは両者の組み合わせのようなカルシウム塩である。カルシウム塩の濃度は、フィブリノゲン重合を誘発するのに十分な濃度でなければならない。より好ましい実施形態では、カルシウム塩は、塩化カルシウムである。さらにより好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物中の塩化カルシウム濃度は、0.25〜3g/L、場合により、0.5〜4g/Lである。とはいえ、これより大きな濃度または小さな濃度を使用してもよい。
【0035】
本明細書で使用する場合、用語「凝固因子」は、血漿中に存在し、凝固させる連鎖反応を起こす成分(一般的に、タンパク質)を指す。13種類の凝固因子が存在し、ローマ数字で番号が付けられている。I:フィブリノゲン;II:プロトロンビン;III:組織因子またはトロンボプラスチン;IV:カルシウム;V:プロアクセレリン;VI:不活性因子またはチモーゲン;VII:プロコンベルチン;VIII:抗血友病因子Aまたはフォン・ヴィレブランド因子;IX:抗血友病因子Bまたはクリスマス因子;X:スチュアート・ブラウワー因子;XI:抗血友病因子C;XII:ハーゲマン因子;XIII:フィブリン安定化因子;XIV:フィッツジェラルド;XV:フレッチャー;XVI:血小板;およびXVII:ソモカーシオ(Somocurcio)。好ましくは、本発明の方法の工程(c)で加える他の凝固因子は、第XIII因子である。
【0036】
フィブリンポリマーは、線維素溶解と呼ばれるプロセスによって分解することができる。線維素溶解の間、プラスミノーゲンは、プラスミノーゲン組織活性化剤によって活性プラスミン酵素に変換され、プラスミンは、結合部位を介してフィブリン表面に結合し、フィブリンポリマーを分解する。フィブリン基質の線維素溶解を防ぐために、本発明の工程(b)で、例えば、これらに限定されるものではないが、ε−アミノカプロン酸、トラネキサム酸またはアプロチニンのような抗線維素溶解薬を加える。
【0037】
トラネキサム酸は、プラスミノーゲンのリジン結合部位に高い親和性をもつアミノ酸であるリジンから誘導した合成生成物であり、これらの部位をブロックし、活性化したプラスミノーゲンがフィブリン表面に結合するのを防ぎ、抗線維素溶解効果を発揮する。トラネキサム酸は、動物由来の他の抗線維素溶解薬と比較して、疾患を伝搬しないという利点がある。したがって、好ましい実施形態では、抗線維素溶解薬は、トラネキサム酸である。さらに好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物中のトラネキサム酸濃度は、0.5〜2g/L、好ましくは、1〜2g/Lである。とはいえ、これより大きな濃度または小さな濃度を使用してもよい。
【0038】
フィブリン基質は、非常に多目的に使え、したがって、様々な人工組織を製造するのに使用されるが、主に、コンシステンシーが制限され、操作が困難であり、非常に脆いため、臨床での使用が制限されている。このため、本発明の方法の工程(d)では、多糖が加えられる。多糖は、一般的に、組織に耐性およびコンシステンシーを与えるために使用され、多糖は組織に溶解するため、便利である。本発明の方法の工程(d)で使用可能な多糖の例は、これらに限定されるものではないが、寒天、アガロース、アルギネート、キトサンもしくはカラギネート、またはこれらの任意の組み合わせである。
【0039】
アガロースは、GellidiumまたはGracillariaのような属の藻類から抽出したα−ガラクトースおよびβ−ガラクトースから作られる多糖である。アガロースは、本発明の工程(d)で使用可能な他の多糖と比較して、免疫学的な観点で不活性な基質を形成するという利点がある。したがって、好ましい実施形態では、本発明の方法の工程(d)の多糖は、アガロースである。例えば、ゲル化温度、ゲル耐性および/または空隙率のような物理特性および化学特性が様々なアガロースが存在する。好ましくは、本発明の方法の工程(d)のアガロースは、低融点のアガロースであり、すなわち、所定の温度(好ましくは、65℃未満、より好ましくは、40℃未満の温度)で再重合し、固化するアガロースであり、このため、細胞死の可能性を最低限にするような非常に低い温度で組織を製造するために使用することができる。より好ましい実施形態では、本発明の方法の工程(d)で使用するアガロースは、VII型アガロースである。さらにより好ましい実施形態では、アガロース、好ましくは、VII型アガロースは、工程(e)から得られた生成物中に所定の濃度で存在し、有益には、0.1〜6g/L、場合により、0.2〜6g/L、好ましくは、0.15〜3g/L、場合により、0.3〜3g/L、より好ましくは、0.25〜2g/L、場合により、0.5〜2g/Lの濃度で存在する。とはいえ、これより大きな濃度または小さな濃度を使用してもよい。
【0040】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、工程(b)と工程(c)の間に、タンパク質を加えるさらなる工程(工程(b2))を含む。本発明の方法の工程(b2)で使用可能なタンパク質の例は、これらに限定されるものではないが、フィブロネクチン、ラミニン、VII型コラーゲンもしくはエンタクチン、またはこれらの任意の組み合わせである。上記の組織では、これらのタンパク質は、通常は、結合組織の細胞外基質の一部を形成しており、したがって、本発明の方法によって得られた人工組織に包埋される細胞は、生理学的環境とよく似た微細環境にあり、細胞の接着性、分化および/または生存が向上する。
【0041】
好ましい実施形態では、工程(b2)で加えられるタンパク質は、フィブロネクチンである。フィブロネクチンは、ほとんどの動物の細胞組織の細胞外基質(ECM)に存在する糖タンパク質であり、基質細胞の接着に重要な役割を果たす。より好ましい実施形態では、本発明の方法の工程(b)および工程(c)の間に加えられるタンパク質は、フィブロネクチンである。この添加の目的は、工程(d)から得られた生成物に、工程(e)の細胞が接着しやすくすることである。例えば、本発明の方法が、角膜を置換する組織または人工角膜を製造するために使用される場合、フィブロネクチンを加えると、工程(e)で加えられる角膜上皮細胞の脱離が減り、当該技術分野で記載される他の方法よりも顕著な利点を与える。さらにより好ましい実施形態では、工程(d)から得られた生成物のフィブロネクチン濃度は、0.25〜1g/L、場合により、0.5〜1g/Lである。とはいえ、これより大きな濃度または小さな濃度を使用してもよい。
【0042】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、工程(d)と工程(e)の間に、工程(d)から得られた生成物に、タンパク質を含む組成物を加えることを含んでなるさらなる工程(工程(b2))を含む。本発明の方法の工程(e)で使用可能なタンパク質の例は、これらに限定されるものではないが、コラーゲン、レチクリンまたはエラスチンである。工程(d)と工程(e)の間でタンパク質を加えると、間質のレベルで原線維密度の大きな組織が得られ、粘弾性挙動がよくなり、限界応力が大きくなる。さらにより好ましい実施形態では、工程(d2)で加えられるタンパク質は、コラーゲンである。
【0043】
本発明の方法の工程(d2)で上記タンパク質を加えることによって、得られる人工組織の物理特性(レオロジー特性、機械特性または生物力学特性)も向上する。本明細書の実施例は、フィブリン、アガロース、コラーゲンを含む人工組織において、コラーゲン濃度を高めると粘弾性挙動が向上することを示しており、コラーゲン濃度に依存して限界応力が高くなることによって明確に示される。
【0044】
固体材料または半固体材料の主なレオロジー特性は、粘度および弾性である。粘度は、接線方向の変形に対する液体の抵抗であり、コンシステンシーまたは剛性と等価であろう。弾性は、特定の物質に外部から力が作用したときに可逆的な変形を受け、その外部からの力が止まったときに元の形に回復する機械特性である。これらのパラメータは、レオメーターと呼ばれる装置を用いた物理的な技術であるレオメトリーを用いて分析される。
【0045】
限界応力は、固体または流体が不可逆的な変形を起こすのに必要なエネルギーである。通常は、すべての材料は、弾性域をもち、弾性域では、加えられた力は、力が止むと完全に可逆的な変形を生じる。この力が限界点(弾性係数)を超えると、変形は不可逆なものとなり、塑性域に入る。最後に、この力が塑性係数を超えると、材料は破壊する(降伏点)。
【0046】
コラーゲンは、天然で簡単に入手可能なタンパク質であり、生物学的には、免疫が低く、組織活性が高いことを特徴とする。コラーゲンは、可とう性であるが、大きな引張耐性を与えるコラーゲン繊維を形成する。本発明は、人工のフィブリン、アガロース、およびコラーゲン組織が、間質のレベルで原線維密度が大きく、コラーゲン濃度を大きくするにつれて、人工のコラーゲン組織よりも粘弾性挙動がよくなり、限界応力が大きくなることを示す。したがって、好ましい実施形態では、工程(e)で加えられるタンパク質は、コラーゲンである。
【0047】
好ましい実施形態では、工程(d2)で加えられるコラーゲンは、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、V型コラーゲン、VI型コラーゲン、VII型コラーゲン、VIII型コラーゲン、IX型コラーゲン、X型コラーゲン、XI型コラーゲン、XII型コラーゲン、XIII型コラーゲン、またはこれらの任意の組み合わせを含むリストから選択される。さらに好ましい実施形態では、工程(e)で加えられるコラーゲンは、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、V型コラーゲン、IX型コラーゲン、またはこれらの任意の組み合わせを含むリストから選択される。本発明の方法の工程(e)における特定の種類のコラーゲンの選択は、製造される人工組織によって変わり、当該技術分野で知られている各コラーゲンの特徴に依存して作られる。
【0048】
例えば、I型コラーゲンの主な機能は、伸びに対する抵抗であり、真皮、骨、腱、および角膜中で豊富に発見される。したがって、本発明は、工程(e)にI型コラーゲンを加えると、例えば、これに限定されるものではないが、角膜を置換する組織または人工角膜が製造されるような人工組織に優れた特性を与えることを示す。したがって、好ましい実施形態では、コラーゲンは、I型コラーゲンである。
【0049】
さらにより好ましい実施形態では、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)は、工程(d)から得られた生成物中で、有益には、濃度が0.5〜5g/L、好ましくは1.8〜3.7g/L、より好ましくは、2.5〜3g/Lである。とはいえ、これより大きな濃度または小さな濃度を使用してもよい。
【0050】
特定の実施形態では、使用されるコラーゲンは、アテロコラーゲンである(すなわち、テロペプチドと呼ばれる非螺旋状構造の末端領域が除去されているコラーゲン)。これらのテロペプチドは、コラーゲンの抗原決定基のキャリアであり、コラーゲンを不溶性にする場合がある。アテロコラーゲンは、例えば、ペプシンを用いてプロテアーゼ処理することによって得られる。
【0051】
工程(d)で使用する多糖濃度が、工程(a)で使用するフィブリノゲン濃度に依存し、工程(d2)を適用する場合には、工程(d2)で使用するコラーゲン濃度に依存して、工程(e)で得られる人工組織が、さまざまな濃度の二成分/三成分を含んでいてもよい。
【0052】
好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.1〜6g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、0.5〜5g/Lである。
【0053】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.15〜3g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、0.5〜5g/Lである。
【0054】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.25〜2g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、0.5〜5g/Lである。
【0055】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.1〜6g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、1.8〜3.7g/Lである。
【0056】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.15〜3g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、1.8〜3.7g/Lである。
【0057】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.25〜2g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、1.8〜3.7g/Lである。
【0058】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.1〜6g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、2.5〜3g/Lである。
【0059】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.15〜3g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、2.5〜3g/Lである。
【0060】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、0.5〜10g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.25〜2g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、2.5〜3g/Lである。
【0061】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、1〜4g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.1〜6g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、0.5〜5g/Lである。
【0062】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、1〜4g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.15〜3g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、0.5〜5g/Lである。
【0063】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、1〜4g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.25〜2g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、0.5〜5g/Lである。
【0064】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、1〜4g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.1〜6g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、1.8〜3.7g/Lである。
【0065】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、1〜4g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.15〜3g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、1.8〜3.7g/Lである。
【0066】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、1〜4g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.25〜2g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、1.8〜3.7g/Lである。
【0067】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、1〜4g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.1〜6g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、2.5〜3g/Lである。
【0068】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、1〜4g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.15〜3g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、2.5〜3g/Lである。
【0069】
別の好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物において、フィブリノゲン濃度は、1〜4g/Lであり、アガロース(好ましくは、VII型アガロース)濃度は、0.25〜2g/Lである。工程(d2)が含まれる場合、コラーゲン(好ましくは、I型コラーゲン)濃度は、2.5〜3g/Lである。
【0070】
工程(a)の細胞に、記載されている異なる成分を加えることによって、本発明の方法の工程(a)〜(d)を行い、工程(e)から得られた生成物を担持体に固定して、フィブリン、多糖、工程(d2)が含まれる場合には、この工程で加えられたタンパク質を含んでなるマトリックスが形成され、細胞はその中に埋め込まれ、かつ細胞はその表面および/またはその内部で成長可能とされる。好ましくは、工程(a)の細胞は、このマトリックスの内部で成長する。
【0071】
本発明の方法の工程(a)〜(d)を行い、工程(d)から得られた生成物は担持体に固定された状態となり、その結果、フィブリンと、多糖と、工程(b2)を行うかどうかによって、この工程で加えられたタンパク質とを含むマトリックスが作られ、このマトリックスに工程(a)の細胞が埋め込まれる。使用可能な担持体は、例えば、これらに限定されないが、培養組織皿または多孔性細胞培養挿入物である。好ましくは、この担持体は滅菌状態である。
【0072】
本発明の方法の工程(e)は、単離された細胞、好ましくは、哺乳動物から単離された細胞を、工程(e)から得られた生成物の中または表面で培養することからなる。この細胞は、当該技術分野で記載されている異なる方法によって得ることができ、特定の関連する細胞種によって異なり得る。これらの方法には、例えば、これらに限定されるものではないが、生体組織検査法、機械的な処理、酵素による処理(例えば、これらに限定されないが、トリプシンまたはI型コラゲナーゼを用いた処理)、遠心分離、赤血球の溶解、濾過、この細胞種が選択的に増殖しやすい担持体または培地での培養、またはイムノサイトメトリーがある。これらの方法のうち、いくつかを本明細書の実施例で詳細に記載する。
【0073】
工程(e)の細胞は、例えば、これに限定されないが、上皮細胞のような分化した細胞であってもよく、または、例えば成人幹細胞のような細胞に分化する能力をもつ未分化細胞であってもよい。
【0074】
好ましい実施形態では、工程(e)の分化した細胞は、例えば、これらに限定されるものではないが、角化細胞、口腔粘膜上皮細胞、膀胱上皮細胞、尿道上皮細胞、角膜上皮細胞または血管内皮細胞などの上皮細胞である。
【0075】
好ましくは、工程(e)の上皮細胞は、人工組織が代替物として使用される組織または臓器に由来する。例えば、本発明の方法を、皮膚を置換する組織または人工皮膚を製造するために用いる場合、上皮細胞は、好ましくは、皮膚表皮に由来し(すなわち、上皮細胞は、角化細胞である)、膀胱を置換する組織または人工膀胱を製造するために用いる場合、上皮細胞は、好ましくは、膀胱上皮または尿路上皮に由来し、尿道を置換する組織または人工尿道を製造するために用いる場合、上皮細胞は、好ましくは、尿道の上皮に由来し、角膜を置換する組織または人工角膜を製造するために用いる場合、好ましくは、上皮細胞は、角膜上皮細胞であり、口腔粘膜を置換する組織を製造するために用いる場合、好ましくは、上皮細胞は、好ましくは、口腔粘膜上皮に由来する。
【0076】
しかし、工程(e)の上皮細胞は、人工組織が代替物として使用される組織または臓器とは異なる組織または臓器から得られてもよい。例えば、本発明の方法を、皮膚を置換する組織もしくは人工皮膚、膀胱を置換する組織もしくは人工膀胱、尿道を置換する組織もしくは人工尿道、または角膜を置換する組織または人工角膜を製造するために用いる場合、工程(e)の上皮細胞は、口腔粘膜上皮細胞であってもよい。または、例えば、本発明の方法を、膀胱を置換する組織または人工膀胱を製造するために用いる場合、または、尿道を置換する組織または人工尿道を製造するために用いる場合、上皮細胞は、角化細胞であってもよい。
【0077】
実験室で人工組織を作製することに関連する課題のひとつは、かなりの数の分化した細胞の生産であり、この細胞に分化する能力をもつ幹細胞の使用は、従って、一般的に代替供給源と考えられる。「幹細胞」は、分裂し、異なる種類の多くの特殊な細胞に形態学的および機能的に分化する高い能力をもつと理解されている。分化プロセスの間に、未分化細胞は、特殊な構造および機能をもつ分化した細胞に変換される表現型および形態に変化する。
【0078】
幹細胞は、その潜在能力(すなわち、さまざまな細胞種に分化する能力)にしたがって分類することができる。(a)全能性:胚組織および胚外組織の両方に分化することが可能;(b)3種類の胚葉(内胚葉、中胚葉、外胚葉)に由来する任意の組織に分化する能力をもつ多能性;(c)多型潜在性(多能性):ある胚葉および同じ胚葉(内胚葉、中胚葉または外胚葉)に由来するさまざまな細胞種に分化することが可能;(d)単能性:単一の細胞系統を形成する能力。
【0079】
起源によって、幹細胞は以下のように分けられる。(a)胚幹細胞:着床前の胚段階の胞胚の内部細胞塊または生殖堤に由来、全能性または多能性である;(b)成人幹細胞:成人の場合、胎児および臍帯、多型潜在性であるか、単能性である。さまざまな臓器(例えば、これらに限定されるものではないが、骨髄、末梢血、脂肪組織または臍帯)の結合組織に分布している間葉幹細胞は、成人幹細胞に含まれる。好ましい実施形態では、成人幹細胞は、骨髄、脂肪組織または臍帯からの成人幹細胞である。
【0080】
臍帯は、他の供給源から得られる成人幹細胞とは異なり、(a)入手する方法が、侵襲的でもなく、痛みも伴わない;(b)増殖能力および分化潜在能力が、時間経過に伴って落ちないという事実のため、成人幹細胞の興味深い供給源である。様々な供給源の臍帯血の幹細胞の中で、いわゆる臍帯ウォートンジェリー幹細胞は、(a)増殖能力が大きく、培地で拡散していく速度が大きい;(b)主要組織適合遺伝子複合体クラスIの発現量が少なく、主要組織適合遺伝子複合体クラスIIが発現せず、同種異系の細胞治療の良好な候補物となるため、卓越している。
【0081】
したがって、別の好ましい実施形態では、工程(e)の細胞は、臍帯ウォートンジェリー幹細胞である。これらの細胞は、表面で、さまざまな間葉細胞に特徴的なマーカー(例えば、SH2、SH3、CD10、CD13、CD29、CD44、CD54、CD73、CD90、CD105またはCD166)を発現し、造血系マーカー、例えば、CD31、CD34、CD38、CD40またはCD45をもたない。臍帯ウォートンジェリー幹細胞は、例えば、軟骨芽細胞、骨芽細胞、脂肪細胞、神経前駆体、心筋細胞、骨格筋細胞、内皮細胞または肝細胞に分化することができる。
【0082】
成人幹細胞は、未分化状態の指標となる表面および/または細胞内のタンパク質、遺伝子、および/または他のマーカーを、当該技術分野で知られている様々な方法(例えば、これらに限定されるものではないが、イムノサイトメトリー、免疫組織化学分析、ノーザンブロット分析、RT−PCR、マイクロアレイでの遺伝子発現分析、プロテオーム試験またはディファレンシャルディスプレイ分析が挙げられる)によって特定することによって特性決定することができる。
【0083】
幹細胞を誘発してインビトロで分化させ、分化した細胞の少なくとも1つ以上の典型的な特徴を発現する細胞を産生してもよい。幹細胞から分化させることが可能な、分化した細胞の例は、これらに限定されるものではないが、線維芽細胞、角化細胞、尿路上皮細胞、尿道上皮細胞、角膜上皮細胞、口腔粘膜上皮細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞、脂肪細胞またはニューロンである。本発明の好ましい実施形態では、本発明の多能性幹細胞から分化した細胞は、線維芽細胞、角化細胞、尿路上皮細胞、尿道上皮細胞、角膜上皮細胞、口腔粘膜上皮細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞、脂肪細胞またはニューロンを含んでなるリストから選択される分化した細胞の1つ以上の典型的な特徴を発現する。
【0084】
分化した細胞は、分化した状態の指標となる表面および/または細胞内のタンパク質、遺伝子、および/または他のマーカーを、当該技術分野で知られているさまざまな方法(例えば、これらに限定されないが、イムノサイトメトリー、免疫組織化学分析、ノーザンブロット分析、RT−PCR、マイクロアレイでの遺伝子発現分析、プロテオーム試験またはディファレンシャルディスプレイ分析が挙げられる)によって特定することによって、特性決定することができる。
【0085】
好ましい実施形態では、本発明の工程(e)の細胞は、自己由来である。とはいえ、工程(e)の細胞は、同種異系または異種に由来していてもよい。
【0086】
工程(e)の細胞は、工程(d)から得られた生成物の表面および/または工程(d)から得られた生成物の中で増殖することができる。好ましくは、工程(e)の細胞は、工程(d)から得られた生成物の表面で増殖する。
【0087】
工程(e)の細胞は、典型的には、少なくとも70%のコンフルエンス、有益には、少なくとも80%のコンフルエンス、好ましくは、少なくとも90%のコンフルエンス、より好ましくは、少なくとも95%のコンフルエンス、さらにより好ましくは、少なくとも100%のコンフルエンスになる適切な数に達するまで増殖する。細胞を培養し続けている間、枯渇した成分を置き換え、有害な可能性がある代謝産物および異化生成物を除去するために、細胞が培養される培地を、新しい培地と部分的または完全に置き換えてもよい。
【0088】
ある種の細胞型を正しく分化させるために、追加の工程が必要な場合がある。例えば、口腔粘膜上皮細胞、角化細胞または角膜上皮細胞の場合、培地に沈んだままの工程(a)の細胞を含む基質を、正しい上皮層形成および成熟を促すために、上皮表面を空気にさらす必要がある場合がある(空気液体技術)。
【0089】
したがって、好ましい実施形態では、本発明の方法は、上述の工程(a)〜(f)に加え、工程(e)から得られた生成物が空気にさらされる追加の工程を含む。本発明の方法は、一般的に、天然組織の代替となる人工組織を得るために使用されるときにこの工程を含み、通常は上皮(例えば、これらに限定されるものではないが、皮膚、角膜、口腔粘膜、尿道または膣)が空気にさらされる。好ましくは、この工程は、皮膚を置換する組織もしくは人工皮膚を製造するとき、または、角膜を置換する組織もしくは人工角膜を製造するとき、または口腔粘膜を置換する組織もしくは人工口腔粘膜を製造するときに行われる。
【0090】
本発明の方法の最も顕著な革新的な部分のひとつは、工程(e)から得られた生成物のナノ構造化が誘発される工程(f)が存在することからなる。本明細書で使用する場合、「ナノ構造化」という表現は、フィブリン線維の間、およびフィブリン線維とアガロース分子との間に1ミクロン未満の大きさの結合を生成することからなる構造変化に関する。このナノ構造化プロセスによって、構造化されていない生体材料よりも予期せぬ有益な性質を示す人工組織を得ることができる。具体的には、本発明のナノ構造化プロセスを行った生体材料は、(i)組織の生物力学的特性が顕著に向上し、ナノ構造の組織を操作することができ、生体材料レオロジー特性が実質的に、抵抗が大きく(図8を参照)、弾性が大きい(図9および図10)ことで特性決定されるような、予測できない程度向上することに関与し;(ii)ナノ構造の組織の操作性を実質的に高め、手術による操作、レシピエントのベッドでの縫合、試験動物の移植を可能にし、(iii)ナノ構造化を受けた組織の透明度を顕著に高め(図11を参照)(このことは、ナノ構造の組織が、非ナノ構造の組織よりも密度が高く、水の含有量が少ないため、完全に予測できることである)、(iv)一方、生体材料の適切な生物力学特性が大きくなることによって、関連する実験動物に移植したら良好な臨床結果を与え、他方では、ナノ構造化を受けた生体材料が、1mm2あたりの線維密度が大きく、したがって、受容する有機体によってゆっくりと作り替えられる。
【0091】
好ましい実施形態では、工程(f)のナノ構造化誘発は、工程(e)から得られた生成物の脱水および/または機械的圧縮を含む。工程(f)の目的は、人工組織のフィブリン線維とアガロース分子との構造変化を作り出し、最適なコンシステンシーおよび弾性レベルを与えることであり、この目的は、当該技術分野で記載されている他の方法を用いても得られない。最終結果は、手術操作および臨床での移植にとって非常に望ましい生物力学的品質を作り出す、線維の不可逆性の変化である。
【0092】
用語「脱水」は、工程(e)から得られた生成物からの間隙液を部分的および/または完全に除去することを指す。例えば、工程(e)から得られた生成物から除去された間隙液の量は、工程(e)から得られた生成物に元々含まれる間隙液の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも99%であってもよい。
【0093】
工程(e)から得られた生成物を、任意の物理的または化学的な方法によって脱水してもよい。好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物の脱水は、水切り、エバポレーション、吸引、毛細管圧、浸透または電気浸透を含むリストから選択される方法を含む。
【0094】
間隙液は、工程(e)から得られた生成物を傾けることによって除去されてもよく、次いで、間隙液を重力および勾配の効果によって排出する。
【0095】
この液を、例えば、機械的なポンプを用い、工程(e)から得られた生成物が存在する表面を減圧することによって、吸引によって除去してもよい。
【0096】
間隙液を、例えば、工程(e)から得られた生成物を、エバポレーションを促進する条件、例えば、大気圧より低い圧力および/または室温よりも高い温度でインキュベートすることによって、エバポレーションによって除去してもよい。
【0097】
また、間隙液を、水を吸収する傾向がある浸透物質(例えば、限定されないが、高浸透圧の塩化ナトリウム溶液)を用いて除去し、この溶液から、半透過性の膜、スポンジまたは別の乾燥材料を用い、工程(e)から得られた生成物を分離してもよい。
【0098】
好ましい実施形態では、間隙液を、例えば、吸収材料を、工程(e)から得られた生成物に適用することによって、毛細管圧によって除去してもよい。本発明の工程(f)で使用可能な吸収材料のある例は、これらに限定されないが、濾紙、Whatman社製の3M紙、セルロース繊維、または吸収繊維である。吸収材料は、好ましくは滅菌されているだろう。
【0099】
脱水に必要な時間は、使用する1つ以上の方法によって変わると思われ、当業者ならば簡単に決定することができる。特定の脱水方法を特定の時間適用することによって得られる人工組織の適切さは、当該技術分野の最新の既知の異なる評価方法、例えば、これに限定されないが、本明細書の実施例に記載されている方法によって確認することができる。
【0100】
また、間隙液は、工程(e)から得られた生成物を機械的圧縮することによって除去してもよい。また、工程(e)から得られた生成物を機械的に圧縮することによって、工程(e)から得られた生成物を特定の望ましい形態にしてもよい。
【0101】
工程(e)から得られた生成物を、最新の当該技術分野に記載されている任意の方法によって圧縮してもよい。工程(e)から得られた生成物が静止したままである「静的」圧縮方法の適用、例えば、これに限定されないが、静荷重(例えば、死荷重)、水圧要素またはカムの適用を用いてもよい。また、例えば、1つ以上のローラーを適用することによって、または狭くなった穴を通して押出すことによる、工程(e)から得られた生成物が圧縮中に移動する「動的」圧縮を用いてもよい。
【0102】
工程(e)から得られた生成物を、押出によって、例えば、工程(e)から得られた生成物を、狭くなっている穴(例えば、円錐形のチャンバ)に通すことによって機械的に圧縮してもよい。円錐形のチャンバは、多孔性の壁を有していてもよく、その結果、工程(e)から得られた生成物が通過している間に、この生成物から間隙液を除去することができるだろう。
【0103】
工程(e)から得られた生成物を、工程(e)から得られた生成物を遠心分離することによって圧縮してもよい。例えば、工程(e)から得られた生成物を、多孔性の底部を有する管に入れてもよく、機械的圧縮に加え、工程(e)から得られた生成物から間隙液の除去を行ってもよい。
【0104】
工程(e)から得られた生成物を、バルーンを適用することによって圧縮し、工程(e)から得られた生成物を固体表面に対して圧縮してもよい。固体表面は、例えば、工程(e)から得られた生成物の周囲に管を形成し、これによって、人工の管状組織を作製することができる。
【0105】
好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物の圧縮は、工程(e)から得られた生成物の上部に重りを適用することを含み、その結果、圧力の機械的な作用が組織に働く。重りが重いほど、適切な特徴をもつ人工組織を得るのに必要な時間は小さくなるだろうということは明らかである。圧縮に使用する重りは、平坦な表面をもっていてもよく、または、平坦な表面をもつ材料(例えば、プラスチック、セラミック、金属または木材)の上に置かれていてもよい。
【0106】
本明細書の図1は、工程(e)から得られた生成物のナノ構造化を、脱水および圧縮によって行うことができるという非限定的な図を示す。工程(e)から得られた生成物を2枚の滅菌濾紙の間に配置し、その上に、滅菌した平坦なガラス表面の上に約250gの重り(約2,000N/m2に相当)を約10分間置くことによって、どのようにしてナノ構造化を行うのかを、この図で観察することができ、多孔性材料が、組織と、工程(e)から得られた生成物が濾紙に接着するのを防ぐよう重りが置かれる濾紙との間に配置されていてもよい。接着を防ぐために用いられる材料は、組織から脱水剤の方へ水が出ていくことができるように、多孔性でなければならず、接着を防ぐために使用される多孔性材料は、例えば、これらに限定されるものではないが、ナイロン、ガラス、セラミック、パンチングメタルまたはポリカーボネート膜であってもよい。
【0107】
好ましい実施形態では、工程(e)から得られた生成物の圧縮は、この生成物に圧力を適用することを含む。圧力の大きさは、好ましくは、1,000〜5,000N/m2、より好ましくは、1,500〜2,500N/m2、さらにより好ましくは、約2,000N/m2である。この圧力は、手動、自動、または半自動で適用されてもよい。圧力をかけるのに必要な時間は、適用される圧力の大きさによって変わり、当業者ならば簡単に決定することができる。圧力が大きいほど、適切な特徴をもつ人工組織を得るために必要な時間は短くなるだろうことは明らかである。特定の大きさの圧力を特定の時間適用することによって得られる人工組織の適切さは、最新の当該技術分野で知られているさまざまな評価方法(例えば、これに限定されないが、本明細書の実施例に記載されている方法)によって確認することができる。
【0108】
工程(e)から得られた生成物のナノ構造化を誘発するために、1つ以上の方法を順次用いてもよく、同時に用いてもよい。ナノ構造化に必要な時間は、12時間未満、6時間未満、3時間未満、1時間未満、30分未満、10分未満、2分未満、または1分未満であってもよい。ナノ構造化に必要な時間は、使用される1つ以上の方法によって変わると思われ、当業者ならば簡単に決定することができる。特定の方法を特定の時間適用することによって得られる人工組織の適切さは、当該技術分野の最新の既知の異なる評価方法、例えば、これに限定されないが、本明細書の実施例に記載されている方法によって確認することができる。
【0109】
本発明の人工組織
本発明の第2の態様は、上述の本発明の方法によって得ることができる人工組織(以下、本発明の人工組織)に関する。
【0110】
この本発明の第2の態様の好ましい実施形態では、本発明の人工組織は、皮膚を置換する組織または人工皮膚である。
【0111】
この本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態では、人工組織は、膀胱を置換する組織または人工膀胱である。
【0112】
この本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態では、本発明の人工組織は、尿道を置換する組織または人工尿道である。
【0113】
この本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態では、本発明の人工組織は、角膜を置換する組織または人工角膜である。
【0114】
この本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態では、本発明の人工組織は、粘膜を置換する組織または人工粘膜である。
【0115】
本発明の方法によって得ることができる人工組織を、望ましい大きさに切断してもよく、および/または、使用に適した形状を与えてもよい。
【0116】
使用前に、その機能を発揮するための本発明の人工組織の適切さを、例えば、これに限定されないが、本明細書の実施例に記載されている任意の方法によって評価することができる。
【0117】
薬理学的または化学的な生成物の評価における、本発明の人工組織の使用
薬物および化学生成物は、試験動物に投与する前に評価されなければならない。この観点から、化粧品の部門で動物試験を制限し、ときには禁止する目的で、欧州連合によって承認されているいくつかの報告および指示が存在し(化粧品に対する加盟国の法律に類似するものに関連する欧州理事会のDirective 76/768/EEC)、完全な禁止は、次の数年は有効であると考えられる。欧州連合は、すべての測定値を支持し、その主な目的は、試験目的で用いられる動物の幸福であり、試験に用いられる動物の数を最低限に減らすための科学的な置換方法を達成するためのものである(1998年3月23日付けの議会の決定1999/575/EEC、実験および他の科学目的で用いられる脊椎動物を保護するための、欧州条約の共同体による結論に関連する、1999年8月24日のOfficial Record L 222)。
【0118】
したがって、本発明の第3の態様は、医薬品および/または化学生成物を評価するための本発明の人工組織の使用に関する。
【0119】
本発明の人工組織の治療での使用
感染性疾患、炎症性疾患、遺伝性疾患もしくは変性疾患、物理的もしくは化学的な損傷、または血流の遮断によって、組織または臓器から細胞が失われることがある。この細胞の消失によって、この組織または臓器の正常な機能が変わってしまい、その結果、患者の生活の質を低下させてしまう疾患または身体的影響が進行してしまうことがある。したがって、この組織または臓器の正常な機能を再生するか、または再確立する試みは重要である。損傷した組織または臓器を、組織工学の技術を用いて実験室で作られた新しい組織または臓器と置き換えてもよい。組織工学の目的は、人工の生体組織を構築し、これを医薬用途に使用し、疾患のある組織および臓器の機能活性を回復させ、置き換え、または高めることである。この種の技術の治療への使用は、実際には、あらゆる分野の用途に対し、制限はない。組織工学技術を使用することで、組織および臓器の待機リストを減らすことができ、その結果、レシピエントにおける疾患の罹患率−死亡率を減らすことができる。結果として、臓器ドナーにおける罹患率−死亡率は、論理的に下がる。それに加えて、自系の細胞または組織を組織工学で用いることに関連する多くの利点が存在し、以下のものを含む。(a)ドナーからレシピエントへ、感染性薬剤による多くの感染を顕著に減らすこと、(b)宿主免疫移植拒絶が起こらず、したがって、患者は、免疫抑制処置を受ける必要がなく、免疫抑制に関連する影響および問題が予防される。
【0120】
したがって、本発明の第4の態様は、病変または損傷した組織または臓器の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。
【0121】
本発明の人工組織を使用し、生きている有機体の病変または損傷した組織または臓器の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えてもよい。組織または臓器は、内部の組織または臓器(例えば、これらに限定されないが、尿道または膀胱)であってもよく、または外部の組織または臓器(例えば、これらに限定されないが、または角膜または皮膚)であってもよい。好ましい実施形態では、損傷した組織または臓器は、皮膚、膀胱、尿道、角膜、粘膜、結膜、腹壁、結膜、鼓膜、咽頭、喉頭、腸、腹膜、靭帯、腱、骨、髄膜または膣を含むリストから選択される。組織または臓器は、機能不全、損傷または疾患、例えば、これらに限定されないが、感染性疾患、炎症性疾患、遺伝性疾患もしくは変性疾患;外傷性傷害もしくは手術による介入のような物理的な損傷、化学的損傷または血流の遮断の結果として、病変または損傷していてもよい。
【0122】
この第5の態様の好ましい実施形態は、皮膚の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。より好ましい実施形態は、創傷、潰瘍、熱傷、良性もしくは悪性の新生物、感染、打撲、外傷性傷害、苛性化または先天性奇形を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した皮膚の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。
【0123】
この第5の態様の好ましい実施形態は、膀胱の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。より好ましい実施形態は、良性もしくは悪性の新生物、感染、外傷性傷害、先天性奇形(例えば、これらに限定されないが、膀胱外反症、萎縮膀胱または総排泄腔外反)、神経因性膀胱、尿失禁、膀胱機能不全、感染または膀胱結石を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した膀胱の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。
【0124】
この第5の態様の好ましい実施形態は、尿道の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。より好ましい実施形態は、良性もしくは悪性の新生物、感染、外傷性傷害、先天性奇形(例えば、これらに限定されないが、尿道下裂または尿道上裂)または狭窄を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した尿道の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。
【0125】
この第5の態様の好ましい実施形態は、角膜の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。より好ましい実施形態は、角膜潰瘍、円錐角膜、球状角膜、デスメ膜瘤、外傷性傷害、苛性化、大脳辺縁系の欠損、萎縮性角膜炎、角膜ジストロフィー、原発性もしくは続発性の角膜症、感染、白斑、水疱性角膜症、角膜内皮の障害または良性もしくは悪性の新生物を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した角膜の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。
【0126】
この第5の態様の好ましい実施形態は、粘膜、好ましくは口腔粘膜の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。さらにより好ましい実施形態は、創傷、潰瘍、熱傷、良性もしくは悪性の新生物、感染、打撲、外傷性傷害、苛性化、先天性奇形、実質欠損または歯周疾患を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した口腔粘膜の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるための本発明の人工組織の使用に関する。好ましい実施形態では、粘膜の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換えるために使用される組織は、工程(d)と工程(e)の間にタンパク質を加える工程(d2)を付した組織である。さらにより好ましい実施形態では、この工程は、以下に詳細に記載する工程(d)で得られる材料に、コラーゲンを含む組成物を加えることによって行われる。
【0127】
本発明の第5の態様は、薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。
【0128】
この薬剤は、体細胞治療のための薬剤である。「体細胞治療」は、生きている体細胞、自系の体細胞、同種異系の体細胞または異種体細胞を用いるときに、生物学的特徴が、代謝、薬理学的手段または免疫学的手段によって治療、診断または予防の効果を与えるための操作の結果、実質的に変えられることであると理解される。体細胞治療のための薬剤の中で、例えば、これらに限定されないが、定性的および定量的な態様で、免疫学、代謝または他の種類の機能特性を修正するように操作された細胞;最終産物を得る目的の製造プロセスを行った後に、並べられ、選択され、操作された細胞;操作され、最終産物への作用を目的とする原理を行う非細胞成分(例えば、生体基質または不活性基質または医療用デバイス)と組み合わせた細胞;特定の培養条件で、エキソビボ(インビトロ)で発現する自系細胞誘導体;遺伝子改変されるか、または、同族の機能を発現するか、または以前には発現していない非同族の機能を発現するように別の種類の操作を行った細胞である。
【0129】
本発明の第5の態様は、組織または臓器の機能活性を回復させ、置き換え、または高める薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。好ましい実施形態では、損傷した組織または臓器は、皮膚、膀胱、尿道、角膜、粘膜、結膜、腹壁、結膜、鼓膜、咽頭、喉頭、腸、腹膜、靭帯、腱、骨、髄膜または膣を含むリストから選択される。
【0130】
この第5の形態の好ましい実施形態は、感染性疾患、炎症性疾患、遺伝性疾患もしくは変性疾患、物理的な損傷もしくは化学的損傷または血流の遮断の結果として、病変または損傷した組織または臓器の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。
【0131】
この第5の形態のもっと好ましい実施形態は、皮膚の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。さらにより好ましい実施形態は、創傷、潰瘍、熱傷、良性もしくは悪性の新生物、感染、打撲、外傷性傷害、苛性化または先天性奇形を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した皮膚の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。
【0132】
この第5の形態のもっと好ましい実施形態は、膀胱の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。この第5の態様のさらにより好ましい実施形態は、良性もしくは悪性の新生物、感染、外傷性傷害、先天性奇形(例えば、これらに限定されないが、膀胱外反症、萎縮膀胱または総排泄腔外反)、神経因性膀胱、尿失禁、膀胱機能不全、感染または膀胱結石を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した膀胱の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。
【0133】
この第5の形態のもっと好ましい実施形態は、尿道の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。この第5の態様のさらにより好ましい実施形態は、良性もしくは悪性の新生物、感染、外傷性傷害、先天性奇形(例えば、これらに限定されないが、尿道下裂または尿道上裂)または狭窄を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した尿道の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。
【0134】
この第5の態様のもっと好ましい実施形態は、角膜の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。この第5の態様のさらにより好ましい実施形態は、角膜潰瘍、円錐角膜、球状角膜、デスメ膜瘤、外傷性傷害、苛性化、大脳辺縁系の欠損、萎縮性角膜炎、角膜ジストロフィー、原発性もしくは続発性の角膜症、感染、白斑、水疱性角膜症、角膜内皮の障害または良性もしくは悪性の新生物を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した角膜の機能活性を部分的または完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。
【0135】
この第5の形態のもっと好ましい実施形態は、粘膜、好ましくは口腔粘膜の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。さらにもっと好ましい実施形態は、創傷、潰瘍、熱傷、良性または悪性の新生物、感染、打撲、外傷性傷害、苛性化、先天性奇形、実質欠損または歯周疾患を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した口腔粘膜の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織の使用に関する。好ましい実施形態では、粘膜の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるために使用される組織は、工程(d)と工程(e)の間にタンパク質を加える工程(d2)を受けた組織である。さらにもっと好ましい実施形態では、この工程は、以下に詳細に記載する工程(d)で得られる材料に、コラーゲンを含む組成物を加えることによって行われる。
【0136】
本発明の第6の態様は、本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。
【0137】
この本発明の第6の態様の好ましい実施形態は、体細胞治療に使用するための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。
【0138】
この本発明の第6の態様のもっと好ましい実施形態は、組織または臓器の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。
【0139】
この本発明の第6の態様の好ましい実施形態は、感染性疾患、炎症性疾患、遺伝性疾患または変性疾患、物理的な損傷または化学的損傷または血流の遮断の結果として、病変または損傷した組織または臓器の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。
【0140】
この本発明の第6の態様のもっと好ましい実施形態は、皮膚の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。さらにもっと好ましい実施形態は、創傷、潰瘍、熱傷、良性または悪性の新生物、感染、打撲、外傷性傷害、苛性化または先天性奇形を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した皮膚の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。
【0141】
この本発明の第6の態様のもっと好ましい実施形態は、膀胱の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。さらにもっと好ましい実施形態は、良性または悪性の新生物、感染、外傷性傷害、先天性奇形(例えば、これらに限定されないが、膀胱外反症、萎縮膀胱または総排泄腔外反)、神経因性膀胱、尿失禁、膀胱機能不全、感染または膀胱結石を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した膀胱の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。
【0142】
この本発明の第6の態様のもっと好ましい実施形態は、尿道の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。さらにもっと好ましい実施形態は、良性または悪性の新生物、感染、外傷性傷害、先天性奇形(例えば、これらに限定されないが、尿道下裂または尿道上裂)または狭窄を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した尿道の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。
【0143】
この本発明の第6の態様のもっと好ましい実施形態は、角膜の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。さらにもっと好ましい実施形態は、角膜潰瘍、円錐角膜、球状角膜、デスメ膜瘤、外傷性傷害、苛性化、大脳辺縁系の欠損、萎縮性角膜炎、角膜ジストロフィー、原発性または続発性の角膜症、感染、白斑、水疱性角膜症、角膜内皮の障害または良性または悪性の新生物を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した角膜の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。
【0144】
この第5の態様のもっと好ましい実施形態は、粘膜、好ましくは口腔粘膜の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。さらにもっと好ましい実施形態は、創傷、潰瘍、熱傷、良性または悪性の新生物、感染、打撲、外傷性傷害、苛性化、先天性奇形、実質欠損または歯周疾患を含むリストから選択される機能不全、損傷または疾患の結果として、病変または損傷した口腔粘膜の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換えるための本発明の人工組織を含む医薬組成物に関する。ある形態で、粘膜または口腔粘膜の機能活性を部分的または完全に高めるか、回復させるか、または置き換える薬剤を製造するための本発明の人工組織を含む医薬組成物は、工程(d)と工程(e)の間にタンパク質を加える工程(d2)を受けた組織である。さらにもっと好ましい実施形態では、この工程は、以下に詳細に記載する工程(d)で得られる材料に、コラーゲンを含む組成物を加えることによって行われる。
【0145】
本発明のこの態様の好ましい実施形態では、医薬組成物は、本発明の人工組織と、さらに医薬的に許容されるキャリアとを含む。本発明のこの態様の別の好ましい実施形態では、医薬組成物は、本発明の人工組織と、さらに、別の活性成分とを含む。本発明のこの態様の好ましい実施形態では、医薬組成物は、本発明の人工組織と、さらに、医薬的に許容されるキャリアとともに別の活性成分を含む。
【0146】
本明細書で使用する場合、用語「活性成分」、「活性基質」、「医薬的に活性な基質」、「活性成分」または「医薬的に活性な成分」は、薬理活性または疾患を診断し、治癒し、軽減し、治療するか、または予防することについて別の異なる効果を与える潜在能力をもつ任意の成分、またはヒトの体または他の動物の体の構造または機能に影響を及ぼす任意の成分を意味する。
【0147】
本発明の医薬組成物は、単離された様式または他の医薬化合物と一緒に処置方法で使用してもよい。
【0148】
特許請求の記載に沿って、語句「〜を含む(comprise)」およびその変形は、他の技術的特徴、付属物、成分または工程を除外することを意図したものではない。当業者にとっては、本発明の利点および特徴は、一部分は本記載から、一部分は本発明の実施から理解されるだろう。以下の実施例および図面は、説明のために与えられ、これらは本発明を限定するものとなることを意味していない。
【実施例】
【0149】
この特許文書で与えられる以下の特定の例は、本発明の性質を説明する役割をもつ。これらの実施例は、単に説明する目的のために含まれており、ここで請求項に記載されている発明はこれらに限定されると解釈されるべきではない。したがって、以下に記載する実施例は、応用範囲を限定することなく、本発明を説明するものである。
【0150】
実施例1.人工ヒト皮膚産物を製造するプロトコル
A.ヒト皮膚サンプルを得ること
局所および局所領域へ麻酔を行い、ドナーから得た完全な厚みをもつ皮膚サンプルを使用する。このサンプルを滅菌状態で得たら、真皮層が露出するまで、ハサミを用いて皮下脂肪組織を除去する。次いで、サンプルの汚染を可能な限り防ぐために、除去した組織を、抗生物質(ペニシリンG 500U/mlおよびストレプトマイシン500μg/ml)および抗真菌薬(アンホテリシンB 1.25μg/ml)を加えたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)から作られた滅菌輸送媒体にすぐに入れた。
【0151】
B.初代線維芽細胞および角化細胞の培養物を作製
輸送期間の後に、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンB(それぞれ、500U/ml、500μg/ml、1.25μg/ml)を含む滅菌PBS溶液ですべてのサンプルを2回洗浄し、サンプルに付着しているかもしれない血液、フィブリン、脂肪または外来物質をすべて除去しなければならない。
【0152】
まず、表皮から真皮を分離するために、2mg/mlのディスパーゼIIを含む滅菌PBS溶液中、サンプルを37℃でインキュベートした。上皮を真皮に固定している基底膜が分解し、したがって、その後で、一方で上皮が、他方で真皮が機械的に分離する。
【0153】
分離したら、表皮に対応する上皮を小片が得られるまでハサミで細断し、その後、これをトリプシン−EDTA溶液中でインキュベートする。この上皮を、トリプシン−EDTAで湿らせたピペットを用い、あらかじめ滅菌したマグネチックスターラーを入れたフラスコに移す。スターラーを使いつつ、このフラスコにトリプシン−EDTA 2.5mlを加え、37℃で10分間インキュベートし、表皮から角化細胞を酵素によって分離する。この時間の後、分離した角化細胞が含まれているトリプシンを、存在する上皮片を引っ張らないようにしつつ、ピペットを用いて50mlのコニカル管に移す。10%ウシ胎仔血清を加えた当量の培地で中和し、1000rpmで10分間遠心分離処理する。得られたペレットは大量の分離した角化細胞を含んでおり、好ましくは、線維芽細胞よりも上皮細胞が成長しやすい角化細胞培地2〜3mLに再び懸濁させる。この培地は、グルコースを豊富に含むDMEM培地3部と、Ham F−12培地1部で構成されており、これらには、すべて10%ウシ胎仔血清、抗生物質−抗真菌薬(ペニシリンG 100U/ml、ストレプトマイシン100μg/ml、アンホテリシンB 0.25μg/ml)、アデニンおよび異なる成長因子24μg/ml、ヒドロコルチゾン0.4μg/ml、インスリン5μg/ml、上皮成長因子(EGF)10ng/ml、トリヨードチロニン 1.3ng/ml、コレラ毒素8ng/mlが加えられている。
【0154】
皮膚の真皮の細胞外基質を消化し、この基質に含まれている間質線維芽細胞を分離するために、サンプルを、ウシ胎仔血清を含まないDMEM培地中、2mg/mlのClostridium hystoliticum I型コラゲナーゼ滅菌溶液中、37℃で6時間インキュベートしなければならない。この溶液は、真皮のコラーゲンを消化し、間質線維芽細胞を遊離させることができる。初代線維芽細胞の培養物を得るために、消化された真皮の間質細胞を含む消化溶液を、1,000rpmで10分間遠心分離処理しなければならず、線維芽細胞に対応する細胞ペレットを、表面積が15cm2の培養フラスコ中で培養する。グルコースを豊富に含み、抗生物質および抗真菌薬(ペニシリンG 100U/ml、ストレプトマイシン 100μg/ml、アンホテリシンB 0.25μg/ml)を加えたDMEMを培地として用いる。この基本的な培地は、線維芽細胞培地と呼ばれる。
【0155】
すべての場合で、細胞を、標準的な細胞培養条件で、37℃、5%二酸化炭素を含む状態でインキュベートする。培地を3日ごとに新しいものに交換する。
【0156】
C.初代皮膚培養物に由来する細胞の継代
細胞がコンフルエンス状態に達したら、異なる線維芽細胞または角化細胞の細胞培養物を滅菌PBSで洗浄し、トリプシン 0.5g/LおよびEDTA 0.2g/Lの溶液1〜3mL中、37℃で10分間インキュベートしなければならない。したがって、細胞接着機構は崩壊し、角化細胞および真皮の培養フラスコ表面に付着しておらず、分離された細胞が得られる。
【0157】
真皮の場合には、培養フラスコの表面から細胞がはがれたら、使用したトリプシンを、線維芽細胞培地10mLを加えることによって不活性化する。血清タンパク質が豊富に存在すると、トリプシンのタンパク質分解作用を不活性化することができる。角化細胞培地を角化細胞に用いる。
【0158】
はがれた細胞が見られる角化細胞および線維芽細胞の溶液を、次に1000rpmで10分間遠心分離処理し、目的の細胞を含む細胞ペレットまたはクラスターを得て、トリプシンを含む上澄みを捨てる。この細胞ペレットを培地5mLに注意深く再懸濁させ、これらの細胞を、15、25または75cm2の表面積をもつ培養フラスコ中で培養させる。
【0159】
角化細胞の培養物は、通常は、新しい培養フラスコ中で約5倍まで広がる。
【0160】
すべての場合で、細胞の生存能力を十分に確保するために、4つの1回目の継代培養物に対応する細胞を用い、皮膚の代替物を製造した。
【0161】
D.フィブリン系およびアガロース系の人工ヒト皮膚産物を、組織工学を用いて構築
1−細胞外のフィブリンおよびアガロースの基質を用い、その中に線維芽細胞を浸して真皮代替物を作製する。これらの真皮代替物を、栄養物は通るが、細胞自体は通らないような、直径が0.4μmの多孔性挿入物の上で直接作製する。真皮代替物10mlを以下の様式で製造する。
−献血によって、ヒト血漿7.6mLを得る(自系由来でもよい)。
−あらかじめ培養しておいた150,000個のヒト皮膚線維芽細胞を加え、DMEM培地750μlに再懸濁させる
−トラネキサム酸150μlを加え、フィブリンゲルの線維素溶解を防ぐ。
−1% ClCa2 1mlを加え、凝固反応を誘発させ、フィブリン線維網を作製する。
−PBSに分散させた2%VII型アガロース0.5mlをすばやく加え、融点に達するまで加熱し、撹拌によって穏やかに混合する。混合物中の最終アガロース濃度は、0.1%であろう。生存能力のある真皮産物を可能にするアガロース濃度範囲は、0.025%〜0.3%であり、使用する患者の目的と関連して達成されなければならない。
−多孔性細胞培養挿入物を可能な限り等分する。
−これを少なくとも30分間休ませ、重合させる。
【0162】
2−真皮代替物の上にある角化細胞を継代培養することによる、真皮代替物の表面にある上皮層(表皮)の成長。角化細胞に特異的な培地で覆う。
【0163】
3−標準的な細胞培養プロトコルにしたがって、37℃のインキュベーター中、高湿環境下、5% CO2を含む状態で維持する。上皮細胞が、真皮代替物の表面でコンフルエンス状態に達するまで、培地を3日ごとに新しいものに換える(約1週間)。
【0164】
4−真皮代替物を培地の中に沈めたままで、上皮表面を空気にさらし(空気−液体技術)、表皮層形成および成熟を促す(約1週間)。
【0165】
5−培養物表面から人工ヒト皮膚産物を除去し、平坦な滅菌ガラス表面に置かれた、厚みが3〜5mmの滅菌濾紙の上に置くことによって、部分的に脱水する。70%アルコールで滅菌したナイロンから作られた多孔性のチュール片または布を、皮膚代替物の表面に置き、皮膚代替物の上皮層が濾紙に付着するのを防ぐ。この後に、第2の厚みが3〜5mmの滅菌濾紙を、この布地で覆われた皮膚代替物の上に置く。その表面に平坦な滅菌ガラス片を置き、約250gの重さの物体を後者の上に置く(図1)。すべてのプロセスは、ラミナ―フローフード中、室温、10分間で行わなければならない。このプロセスの目的は、最適なコンシステンシーおよび弾性のレベルにするため、生成物の水分濃度をかなり減らすことである。
【0166】
人工ヒト皮膚産物の評価(図2):
(1)人工ヒト皮膚産物の顕微鏡分析(組織学的品質制御)。
人工皮膚サンプルの評価から、これらのサンプルの構造は、正常な天然のヒト皮膚と非常によく似ていることがわかったが、培地中での成長時間が、これらの人工産物の構造に直接影響を与えていた。特定的には、培養物中に4週間維持されたサンプルの分析から、以下のことがわかった。
【0167】
インビトロ評価(図2A):
・製造から1週間後に評価した皮膚産物は、厚い間質層を有しており、その中に、多くの増殖している線維芽細胞の集合が存在している。上皮細胞の単一層がこの間質代替物の表面に存在しているようであった。
・培養物を2週間成長させると、間質中にかなり多くの細胞が観察され、また、初期の上皮層形成も見られ、その表面に1列または2列の角化細胞が生成している。
・このときから、角化細胞の増殖は続き、3週目には、上皮中に新しい細胞の列が観察されている。
・4週目に、全部で3〜4列の細胞が存在していたが、上皮の異なる層を区別することはできなかった。乳頭、皮膚付属器または角質層はみられなかった。
【0168】
インビボ評価(図2B):培地中に維持された人工皮膚産物で観察されたものとは異なり、動物モデルに移植された人工皮膚は、以下に記載するように、かなり十分な組織構造化と分化を起こした。
・マウスに上の産物を移植してから10日目に、細胞中に非常に大量の真皮が存在し、無秩序な細胞外線維および物質を観察することができた。真皮中に白血球性浸潤物が存在し、また、細動脈、小静脈、毛細管を含む重要な血管組織の新生物が存在することを強調しておく。上皮レベルで、3〜5の細胞層が観察され、有棘層および顆粒層は明確にはわからないが、基底層および初期角質層は明確にみられた。同様に、乳頭または皮膚付属器は存在していないものの、均質な真皮の線がみられる。
・無胸腺動物に移植してから20日後、真皮において線維芽細胞および白血球の濃度が低下し、真皮の原線維含有量が顕著に高まった。4〜6の表皮角化細胞の間に存在しているのも観察され、この時点で、基底層、有棘層、顆粒層、角質層の4種類の異なる層が区別され、有棘層は、4種類の中で一番明確ではかった。進化10日目の場合と同様に、乳頭または皮膚付属器は存在していないものの、均質な真皮の線がみられる。
・30日目のサンプルでは、それまでよりも真皮の原線維含有量が多くなっているのが観察され、大量の上皮層がみられ、6〜9の角化細胞層の間に存在し、明らかな上皮層の分化(基底層、有棘層、顆粒層、角質層)がみられた。乳頭または皮膚付属器は、ここでもみられなかった。
・インビボ進化の40日目、真皮層にもっと多くの線維が含まれているのが観察され、上皮角化細胞層の数(6〜9)が確立された。真皮接合部の乳頭または皮膚付属器は、明確ではなかった。
【0169】
(2)人工ヒト皮膚産物の免疫組織化学的分析(図2C)。
正常なヒト皮膚コントロールと、実験室で得た皮膚産物について、サイトケラチン(パンサイトケラチン、サイトケラチン1、サイトケラチン10)、フィラグリンおよびインボルクリンの発現を分析し、それぞれの種類のサンプルについて、これらのタンパク質の特異的な発現パターンを決定し、この結果は、人工のヒト皮膚は、正常なヒト皮膚と同じ表面タンパク質を発現することができることを示している。
【0170】
実施例2.ウォートンジェリー幹細胞を用いた人工ヒト皮膚産物を製造
A.皮膚およびヒト臍帯サンプルを得る
局所および局所領域へ麻酔を行い、ドナーから得た完全な厚みをもつ皮膚サンプルを使用する。このサンプルを滅菌状態で得たら、真皮層が露出するまで、ハサミを用いて皮下脂肪組織を除去する。次いで、サンプルの汚染を可能な限り防ぐために、除去した組織を、抗生物質(ペニシリンG 500U/mlおよびストレプトマイシン500μg/ml)および抗真菌薬(アンホテリシンB 1.25μg/ml)を加えたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)から作られた滅菌輸送媒体にすぐに入れた。
【0171】
使用した臍帯は、正常な満期妊娠の帝王切開分娩から得られる。分娩の後、10〜15cmの臍帯片を得て、これを、皮膚で使用したのと同じ輸送媒体に入れ、すぐに実験室に送る。
【0172】
B.初代線維芽細胞およびウォートンジェリー幹細胞の培養物を作製
輸送期間の後に、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンB(それぞれ、500U/ml、500μg/ml、1.25μg/ml)を含む滅菌PBS溶液ですべてのサンプルを2回洗浄し、サンプルに付着しているかもしれない血液、フィブリン、脂肪または外来物質をすべて除去しなければならない。次いで、それぞれのサンプルを独立して処理する。
【0173】
−皮膚の場合、まず、2mg/mlのディスパーゼIIを含む滅菌PBS溶液中、サンプルを37℃でインキュベートすることによって真皮を分離する。上皮を真皮に固定している基底膜が分解し、したがって、その後で、一方で上皮が、他方で真皮が機械的に分離する。
【0174】
皮膚の真皮の細胞外基質を消化し、この基質に含まれている間質線維芽細胞を分離するために、サンプルを、ウシ胎仔血清を含まないDMEM培地中、2mg/mlのClostridium hystoliticum I型コラゲナーゼ滅菌溶液中、37℃で6時間インキュベートしなければならない。この溶液は、真皮のコラーゲンを消化し、間質線維芽細胞を遊離させることができる。初代線維芽細胞の培養物を得るために、消化された真皮の間質細胞を含む消化溶液を、1,000rpmで10分間遠心分離処理しなければならず、線維芽細胞に対応する細胞ペレットを、表面積が15cm2の培養フラスコ中で培養する。グルコースを豊富に含み、抗生物質および抗真菌薬(ペニシリンG 100U/ml、ストレプトマイシン 100μg/ml、アンホテリシンB 0.25μg/ml)を加えたDMEMを培地として用いる。この基本的な培地は、線維芽細胞培地と呼ばれる。
【0175】
−臍帯の場合、臍静脈に沿って長手方向にサンプルを切断する。ウォートンジェリーを分離するために、動脈および臍静脈を注意深く取り除く。次いで、ウォートンジェリーを、非常に小さな組織片になるまで切断する。これらのウォートンジェリー片を、I型コラゲナーゼ(Gibco BRL Life Technologies、カールスルーエ、ドイツ)30ml中、撹拌しつつ37℃で約4〜6時間インキュベートし、その後に、毎分1050回転(rpm)で7分間遠心分離処理することによって、解離した細胞を集める。次いで、上澄みを注意深く取り除き、細胞ペレットを、あらかじめ希釈しておいたトリプシン(Sigma−Aldrich)5〜10mlに再懸濁させる。振とう浴中、37℃で30分間、再びインキュベートする。次いで、10%ウシ胎仔血清を加えた培地10〜20mlを加えることによってトリプシンの効果を中和し、1000rpmで10分間遠心分離処理し、単離された細胞を得る。これらの細胞を、25cm2の培養フラスコ中、最終的にAmniomax培地に再び懸濁させる。
【0176】
いずれの場合も、細胞を、標準的な細胞培養条件で、37℃、5%二酸化炭素を含む状態でインキュベートする。培地を3日ごとに新しいものに交換する。
【0177】
C.初代皮膚培養物およびウォートンジェリー幹細胞培養物に由来する細胞の継代
細胞がコンフルエンス状態に達したら、異なる線維芽細胞培養物またはウォートンジェリー幹細胞培養物を滅菌PBSで洗浄し、トリプシン 0.5g/LおよびEDTA 0.2g/Lの溶液1〜3mL中、37℃で10分間インキュベートしなければならない。
【0178】
したがって、細胞接着機構は崩壊し、角化細胞および真皮の培養フラスコ表面に付着しておらず、分離された細胞が得られる。
【0179】
培養フラスコの表面から細胞がはがれたら、使用したトリプシンを、線維芽細胞培地10mLを加えることによって不活性化する。血清タンパク質が豊富に存在すると、トリプシンのタンパク質分解作用を不活性化することができる。
【0180】
はがれた細胞が見られる溶液を、次に1000rpmで10分間遠心分離処理し、目的の細胞を含む細胞ペレットまたはクラスターを得て、トリプシンを含む上澄みを捨てる。この細胞ペレットを培地5mLに注意深く再懸濁させ、これらの細胞を、15、25または75cm2の表面積をもつ培養フラスコ中で培養させる。
【0181】
角化細胞の培養物は、通常は、新しい培養フラスコ中で約5倍まで広がる。
【0182】
D.フィブリン系およびアガロース系の人工ヒト皮膚産物を、組織工学を用いて構築
1−細胞外のフィブリンおよびアガロースの基質を用い、その中に線維芽細胞を浸して真皮代替物を作製する。これらの真皮代替物を、栄養物は通るが、細胞自体は通らないような、直径が0.4μmの多孔性挿入物の上で直接作製する。真皮代替物10mlを以下の様式で製造する。
−献血によって、ヒト血漿7.6mLを得る(自系由来でもよい)。
−あらかじめ培養しておいた150,000個のヒト皮膚線維芽細胞を加え、DMEM培地750μlに再懸濁させる。
−トラネキサム酸150μlを加え、フィブリンゲルの線維素溶解を防ぐ。
−1% ClCa2 1mlを加え、凝固反応を誘発させ、フィブリン線維網を作製する。
−PBSに分散させた2%VII型アガロース0.5mlをすばやく加え、融点に達するまで加熱し、撹拌によって穏やかに混合する。混合物中の最終アガロース濃度は、0.1%であろう。生存能力のある真皮産物を可能にするアガロース濃度範囲は、0.025%〜0.3%であり、使用する患者の目的と関連して達成されなければならない。
−多孔性細胞培養挿入物を可能な限り等分する。
−これを少なくとも30分間休ませ、重合させる。
【0183】
2−真皮代替物の上にあるウォートンジェリー幹細胞を継代培養することによる、真皮代替物の表面にある上皮層(表皮)の成長。角化細胞に特異的な培地で覆う。この培地は、グルコースを豊富に含むDMEM培地3部と、Ham F−12培地1部で構成されており、これらには、すべて10%ウシ胎仔血清、抗生物質−抗真菌薬(ペニシリンG 100U/ml、ストレプトマイシン100μg/ml、アンホテリシンB 0.25μg/ml)、アデニンおよび異なる成長因子24μg/ml、ヒドロコルチゾン0.4μg/ml、インスリン5μg/ml、上皮成長因子(EGF)10ng/ml、トリヨードチロニン1.3ng/ml、コレラ毒素8ng/mlが加えられている。
【0184】
3−標準的な細胞培養プロトコルにしたがって、37℃のインキュベーター中、高湿環境下、5% CO2を含む状態で維持する。上皮細胞が、真皮代替物の表面でコンフルエンス状態に達するまで、培地を3日ごとに新しいものに換える(約1週間)。
【0185】
4−真皮代替物を培地の中に沈めたままで、上皮表面を空気にさらし(空気−液体技術)、表皮層形成および成熟を促す(約1週間)。
【0186】
5−培養物表面から人工ヒト皮膚産物を除去し、平坦な滅菌ガラス表面に置かれた、厚みが3〜5mmの滅菌濾紙の上に置くことによって、部分的に脱水する。70%アルコールで滅菌したナイロンから作られた多孔性のチュール片または布を、皮膚代替物の表面に置き、皮膚代替物の上皮層が濾紙に付着するのを防ぐ。この後に、第2の厚みが3〜5mmの滅菌濾紙を、この布地で覆われた皮膚代替物の上に置く。その表面に平坦な滅菌ガラス片を置き、約250gの重さの物体を後者の上に置く(図1)。すべてのプロセスは、ラミナ―フローフード中、室温、10分間で行わなければならない。このプロセスの目的は、最適なコンシステンシーおよび弾性のレベルにするため、生成物の水分濃度をかなり減らすことである。
【0187】
ウォートンジェリー細胞によって産生した人工ヒト皮膚の評価(図3):
(1)ウォートンジェリー幹細胞の生存能力の決定(顕微鏡分析による品質制御)(図3A)。
エネルギー分散型のx線顕微鏡分析技術によって細胞の生存能力を決定すると、細胞内のNa、Mg、P、Cl、K、S、Caイオンの濃度プロフィールを決定することができ、それによって、この次の人工組織を構築するときに使用するのに最も適した継代培養物を知ることができる。この目的のために、以下の方法論を行うことが必要である。
(a)樹脂(ピオロフォーム)の層であらかじめコーティングしておいた金の格子の上で、細胞を培養すること。細胞がサブコンフルエンス状態に達したら、格子を4℃の水道水で10秒間洗浄し、培地を取り除く。
(b)細胞を液体窒素中で凍らせて固定すること。
(c)凍らせて固定したサンプルに、低温(−100℃)で20分間、減圧凍結乾燥技術を用いることによって乾燥させること。凍らせて固定するのは、Polaron E5300凍結乾燥器で行う。
(d)凍らせて固定し、乾燥させたサンプルを、特定のサンプルフォルダに取り付けること。
(e)Sputtering Polaron E−5000中、細胞を炭素でコーティングすること。
(f)エネルギー分散型x線検出器(EDAX)と、逆分散する電子の検出器とを備えるPhilips XL−30 Scanning Electron Microscopeで観察すること。
(g)以下の定数を用いる、定性的な微量分析による分析。電圧10Kv、倍率10,000倍、表面の角度0°、観察角度35°、500cps、計測蓄積時間200秒。定性的なスペクトルをそれぞれの試験した細胞について得る。このスペクトルで、K軌道でのNa、Mg、P、Cl、K、Caの値を選び、1秒あたりの計測(CPS)、バックグラウンド(BKGD)または特徴的ではない放射線、ピーク/バックグラウンド(P/B)指数を計測する。
(h)定量的な微量分析による分析。乾燥重量1kgあたり、単位mmol/KgでのNa、Mg、P、Cl、S、K、Ca元素の濃度を、Hall法を変えることによって最初に定量する(Hallら、1973;Staham and Pawley、1978)。この目的のために、標準的なNa、Mg、P、Cl、K、S、Ca塩を20%デキストラン(300,000ダルトン)に溶解したものを用い、標準的な曲線または直線を得る。これらの塩を、分析する標本と同じ様式で処理する。それぞれの分析した元素の濃度は、最後に標準的な曲線からの線形回帰法を用いて算出する。
【0188】
ウォートンジェリー幹細胞のイオン濃度を定量化した後に得られた結果は、明らかに、4回目および5回目の継代培養に対応するK/Na指数の値が最も大きく、したがって、これらの培養物が、組織工学を用いてヒト皮膚を産生するときに利用するのに最も理想的であると考えられることを示している。
【0189】
(2)人工ヒト皮膚産物の顕微鏡分析(組織学的品質制御)(図3B)。
人工皮膚サンプルの評価から、これらのサンプルの構造は、正常な天然のヒト皮膚と非常によく似ていることがわかったが、培地中での成長時間が、これらの人工産物の構造に直接影響を与えていた。特定的には、培養物中に4週間維持されたサンプルの分析から、5つまでの上皮層は、構築物の表面に次々と作製されるが、最後の段階になるまで、細胞間の接合は形成されないことがわかった。次に行った、ウォートンジェリー幹細胞を用いて作製したヒト皮膚産物のインビボ評価は、人工間質の上に厚い上皮層が成長し、多くのデスモソーム型細胞間接合および十分に構築された基底膜が作製されることを示していた。これらすべてのことから、通常の天然ヒト皮膚と見分けがつかない人工皮膚が得られ、作製した産物の有用性を示している。
【0190】
(3)人工ヒト皮膚産物の免疫組織化学的分析(図3C)。
正常なヒト皮膚コントロールと、実験室でウォートンジェリー幹細胞から得た皮膚産物について、サイトケラチン(パンサイトケラチン、サイトケラチン1、サイトケラチン10)、フィラグリンおよびインボルクリンの発現を分析し、それぞれの種類のサンプルについて、これらのタンパク質の特異的な発現パターンを決定し、この結果は、人工のヒト皮膚は、正常なヒト皮膚と同じ表面タンパク質を発現することができることを示している。
【0191】
実施例3.人工角膜を製造
人工角膜を製造するためのプロトコル
以下に記載するプロトコルは、ヒトおよび動物の角膜産物のプロトコルに似ており、ただし、動物の角膜産物に内皮層を組み込むことだけが異なる。
【0192】
A.初代角膜細胞培養物を作製。初代角膜上皮、間質有角赤血球、角膜内皮培養物を確立するために、適切な場合、以下の方法およびプロトコルを使用した。
−局所および全身領域へ麻酔を行い、角膜縁から生体組織を得て、これを滅菌生理食塩水に入れて実験室に輸送する。
−角膜を手術によって除き、虹彩、結膜、血餅残渣を除去する。
−動物の角膜産物の場合、デスメ膜を手術で切除し、上皮細胞を単離し、これを内皮細胞用培地で培養する。この培地の組成は、DMEM培地3部と、Ham F−12培地1部であり、すべて、10%ウシ胎仔血清、抗生物質−抗真菌薬、アデニン24μg/mlおよび異なる成長因子:ヒドロコルチゾン0.4μg/ml、インスリン5μg/ml、トリヨードチロニン1.3ng/ml、コレラ毒素8ng/ml、上皮成長因子(EGF)10ng/mlが加えられていた。
−角膜中央部2mmを切断し、2% コラゲナーゼI中、37℃で6時間インキュベートする。1000rpmで10分間遠心分離し、角膜基質の成人幹細胞(有角赤血球)を集め、これを、10%ウシ胎仔血清および抗生物質を含むDMEM培地(ダルベッコ変法イーグル培地)中で培養させる。
−約1mmの小さな外植片中、角膜縁を断片化し、初代角膜上皮細胞を得るために、これらの外植片を培養フラスコ表面で直接培養する。
【0193】
標準的な細胞培養プロトコルにしたがって、37℃のインキュベーター中、高湿環境下、5% CO2を含む状態で全ての培養物を維持する。培養物中で細胞がコンフルエンス状態に達するまで、培地を3日ごとに新しいものに換える。
【0194】
B.実験室で組織工学を用いることによって角膜産物を構築
1−栄養物は通るが、細胞自体は通らないような、直径が0.4μmの多孔性挿入物を用い、あらかじめ単離しておいた内皮細胞を継代する。選択される細胞は、4回目の継代培養物に属していなければならない(内皮細胞の生存能力が最大)。この第1の工程は、動物の三層構造の角膜産物を作製するためだけに行われるだろう。
2−直径が0.4μmの多孔性挿入物の上で、細胞外フィブリンおよびアガロースの基質を用い、有角赤血球が中に含まれている角膜間質代替物を作製する(これは、二層構造のヒト角膜産物の場合には、第1の工程であろう)。間質代替物10mlを製造するために、
−献血によってヒト血漿7.6mlを得る(自系由来でもよい)。
−あらかじめ培養しておいた150,000個のヒト有角赤血球を加え、DMEM培地750μlに再懸濁させる。
−トラネキサム酸150μlを加え、フィブリンゲルの線維素溶解を防ぐ。
−フィブロネクチン10μlを濃度500mg/mlで加える。この目的は、間質代替物に表面上皮細胞が接着しやすくなり、現時点で開発されている角膜産物中に存在する分離の危険性をなくすことである。
−1% ClCa2 1mlを加え、凝固反応を誘発させ、フィブリン線維網を作製する。
−PBSに分散させた2%VII型アガロース0.5mlをすばやく加え、融点に達するまで加熱し、撹拌によって穏やかに混合する。混合物中の最終アガロース濃度は、0.1%であろう。生存能力のある真皮産物を可能にするアガロース濃度範囲は、0.025%〜0.3%であり、使用する患者の目的と関連して達成されなければならない。
−多孔性細胞培養挿入物を可能な限り等分する。
−これを少なくとも30分間休ませ、重合させる。
【0195】
3−間質代替物の上にある角膜上皮細胞を継代培養することによる、角膜間質代替物の表面にある角膜上皮層の成長。上皮細胞に特異的な培地で覆う。
【0196】
4−標準的な細胞培養プロトコルにしたがって、37℃のインキュベーター中、高湿環境下、5% CO2を含む状態で維持する。上皮細胞が、真皮代替物の表面でコンフルエンス状態に達するまで、培地を3日ごとに新しいものに換える(約1週間)。
【0197】
5−間質代替物を培地の中に沈めたままで、上皮表面を空気にさらし(空気−液体技術)、角膜の上皮層形成および成熟を促す(約1週間)。
【0198】
6−培養物表面から人工ヒト皮膚産物を除去し、平坦な滅菌ガラス表面に置かれた、厚みが3〜5mmの滅菌濾紙の上に置くことによって、部分的に脱水する。70%アルコールで滅菌したナイロンから作られた多孔性のチュール片または布を、皮膚代替物の表面に置き、皮膚代替物の上皮層が濾紙に付着するのを防ぐ。この後に、第2の厚みが3〜5mmの滅菌濾紙を、この布地で覆われた皮膚代替物の上に置く。その表面に平坦な滅菌ガラス片を置き、約250gの重さの物体を後者の上に置く(図1)。すべてのプロセスは、ラミナ―フローフード中、室温、10分間で行わなければならない。このプロセスの目的は、最適なコンシステンシーおよび弾性のレベルにするため、生成物の水分濃度をかなり減らすことである。
【0199】
角膜産物の評価(図4)
(1)角膜産物の顕微鏡分析および免疫組織化学的分析(組織学的品質制御)(図4A)。
顕微鏡分析から、組織工学によって作られた角膜産物が、コントロールとして使用した天然の角膜と構造的によく似ていることがわかった。特定的には、十分に形成された角膜上皮がみられ、多くの細胞間接合と間質が、その間に有角赤血球を含む多くのフィブリン線維で構成されている。これらすべてのことから、上述のプロトコルに基づいて作られた二層構造または三層構造の人工角膜産物は、ヒトおよび動物の正所性角膜と適合性であることを示唆している。
【0200】
角膜産物の上皮構造の観点で、上皮細胞は、すべての上皮細胞は、典型的な角膜上皮に排他的なサイトケラチン(CK3およびCK12)を高濃度で発現し、このことから、これらの細胞がインビトロで機能していることが示唆されることを強調しておくべきである。同様に、細胞間接合に関連するタンパク質の分析から、異なるデスモソーム成分(プラコグロビン、デスモグレイン3およびデスモプラキン)、上皮レベルでの密着結合(ZO−1およびZO−2)、ギャップをつなぐ接合(コネキシン37)が続けて発現し、これらはすべて、正常な天然の角膜と似ていることがわかった。
【0201】
(2)レオロジーによる品質制御(図4B)。
二層構造または三層構造の人工角膜産物の機械特性の分析は、上述のプロトコルに基づいて行われ、この組織の粘弾挙動を示し、角膜では、アガロース含有量が増えるにつれて弾性係数が大きくなり、アガロースが低濃度で使用される場合、降伏点が顕著に低下する。粘弾性および降伏点の分析から、フィブリンおよびアガロースの産物の物理特性は、フィブリンまたはコラーゲンのみを含む産物よりも大きいことがわかった。これらすべてのことから、フィブリンおよびアガロースの角膜の物理特性は最適であり、コントロールとして使用する正常なヒト角膜と部分的に似ていることが示唆される。
【0202】
(3)光学的な品質制御(図4C)
人工角膜産物の光学特性は、ヒトまたは動物の角膜の機能を発揮しなければならない組織にとって適切であった。特定的には、分光透過率の分析から、角膜産物が、非常に適切なレベルの透明度を示す傾向があり、この透明度が、正常なヒト角膜に匹敵し、非常によく似た散乱度を示すことが示された。さらに、フィブリンおよびアガロースの産物の吸収係数、分散係数、吸光係数は、フィブリン組織を用いて得られる係数よりも大きかった。しかし、短波長(紫外線範囲)での吸光度は、二層構造または三層構造の人工角膜産物において、コントロールよりも小さく、このことは、この種類の産物に紫外光フィルタを用いる必要性を示唆している。全体的に、角膜産物の透明度は、特に、厚みが0.7mmを超えない生成物では、許容される範囲にある。
【0203】
(4)遺伝的な品質制御(図4Cおよび4D)
遺伝子発現分析の場合、ヒト上皮および間質の有角赤血球細胞の初代角膜培養物およびヒトの二層人工角膜産物からから全RNAを抽出し、後者は、顕微鏡によって分析されている(Affymetrix Human Genome U133 plus 2.0(登録商標))。この分析は、ヒト人工角膜産物で発現した遺伝子は、正常な角膜の機能と適合性であるが、組織の成長に関連する多くの遺伝子が、正常な角膜に関連して過剰に発現することを示している。特定的には、人工角膜産物は、細胞間接合(コネキシン、インテグリン、デスモプラキン、プラコグロビンなど)、上皮の成長(Sema3A、RUNX2、TBX1)、細胞の分化(PLXNA4A、FLG、DKK4、DCN)、基底膜(ラミニン、コラーゲンIV)、細胞外基質(コラーゲン、デコリン、ビグリカン、MMP、フィブロネクチン)などを確立することに集中した機能をもつ大量の遺伝子を発現した。これらの結果は、作られた角膜産物が、正常な角膜で起こるのと同じ進化プロセスを受けることができ、これらの産物によって発現する遺伝子の機能が、正常なものに匹敵することを示唆している。
【0204】
(4)インビボ評価(図4E)
人工角膜産物6の臨床的な挙動を評価するために、部分的な厚みをもつ二層構造のヒト角膜を実験用ウサギに移植し、その進化を6ヵ月間追いかけた。このアッセイの結果は、適切な生体適合性レベルを示し、炎症または完全はまったく存在せず、良好な透明度を維持していることを示している。これらすべてのことから、組織工学によって作製した角膜産物は、実験的な薬理学および臨床の観点から有用である潜在能力をもつことを示唆している。
【0205】
実施例4.人工ヒト尿道産物を製造
人工ヒト尿道産物を製造するプロトコル:
A.ヒト尿道サンプルを得ること
人工尿道を作製するために、正常な患者またはドナーの内視鏡検査によって得られた正常なヒト尿道の小さな生体組織を使用する。このサンプルを滅菌状態で得たら、真皮層が露出するまで、ハサミを用いて皮下脂肪組織を除去する。次いで、サンプルの汚染を可能な限り防ぐために、除去した組織を、抗生物質(ペニシリンG 500U/mlおよびストレプトマイシン500μg/ml)および抗真菌薬(アンホテリシンB 1.25μg/ml)を加えたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)から作られた滅菌輸送媒体にすぐに入れた。
【0206】
または、ヒト尿道サンプルを得ることが実現可能ではない場合には、口腔粘膜サンプルまたは皮膚サンプルを用い、尿道代替物を作製してもよい。
【0207】
B.初代間質および上皮細胞の培養物の作製
輸送期間の後に、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンB(それぞれ、500U/ml、500μg/ml、1.25μg/ml)を含む滅菌PBS溶液ですべてのサンプルを2回洗浄し、サンプルに付着しているかもしれない血液、フィブリン、脂肪または外来物質をすべて除去しなければならない。
【0208】
まず、上皮から間質を分離するために、トリプシン 0.5g/LおよびEDTA 0.2g/Lを含む滅菌PBS溶液中、サンプルを37℃でインキュベートし、遠心分離をおおなった30分後に、細胞を含む上澄みを集める。その都度新しいトリプシン−EDTA溶液を加え、このプロセスを5回まで繰り返す。このようにしてかなりの量の尿道上皮細胞が得られ、好ましくは、線維芽細胞よりも上皮細胞が成長しやすい上皮細胞培地中で培養する。この培地は、グルコースを豊富に含むDMEM培地3部と、Ham F−12培地1部で構成されており、これらには、すべて10%ウシ胎仔血清、抗生物質−抗真菌薬(ペニシリンG 100U/ml、ストレプトマイシン100μg/ml、アンホテリシンB 0.25μg/ml)、アデニンおよび異なる成長因子24μg/ml、ヒドロコルチゾン0.4μg/ml、インスリン5μg/ml、上皮成長因子(EGF)10ng/ml、トリヨードチロニン 1.3ng/ml、コレラ毒素8ng/mlが加えられている。
【0209】
尿道間質の細胞外基質を消化し、この基質に含まれている間質線維芽細胞を分離するために、サンプルを、ウシ胎仔血清を含まないDMEM培地中、2mg/mlのClostridium hystoliticum I型コラゲナーゼ滅菌溶液中、37℃で6時間インキュベートしなければならない。この溶液は、真皮のコラーゲンを消化し、間質線維芽細胞を遊離させることができる。初代線維芽細胞の培養物を得るために、消化された真皮の間質細胞を含む消化溶液を、1,000rpmで10分間遠心分離処理しなければならず、線維芽細胞に対応する細胞ペレットを、表面積が15cm2の培養フラスコ中で培養する。グルコースを豊富に含み、抗生物質および抗真菌薬(ペニシリンG 100U/ml、ストレプトマイシン 100μg/ml、アンホテリシンB 0.25μg/ml)を加えたDMEMを培地として用いる。この基本的な培地は、線維芽細胞培地と呼ばれる。
【0210】
すべての場合で、細胞を、標準的な細胞培養条件で、37℃、5%二酸化炭素を含む状態でインキュベートする。培地を3日ごとに新しいものに交換する。
【0211】
C.フィブリン系およびアガロース系の人工ヒト尿道産物を、組織工学を用いて構築
1−細胞外のフィブリンおよびアガロースの基質を用い、その中に線維芽細胞を浸して間質代替物を作製する。これらの間質代替物を、細胞培養ペトリ皿の上で直接作製する。間質代替物10mlを以下の様式で製造する。
−献血によって、ヒト血漿7.6mLを得る(自系由来でもよい)。
−あらかじめ培養しておいた150,000個のヒト皮膚線維芽細胞を加え、DMEM培地750μlに再懸濁させる。
−トラネキサム酸150μlを加え、フィブリンゲルの線維素溶解を防ぐ。
−1% ClCa2 1mlを加え、凝固反応を誘発させ、フィブリン線維網を作製する。
−PBSに分散させた2%VII型アガロース0.5mlをすばやく加え、融点に達するまで加熱し、撹拌によって穏やかに混合する。混合物中の最終アガロース濃度は、0.1%であろう。生存能力のある真皮産物を可能にするアガロース濃度範囲は、0.025%〜0.3%であり、使用する患者の目的と関連して達成されなければならない。
−細胞培養ペトリ皿に、可能な限り等分する。
−これを少なくとも30分間休ませ、重合させる。
【0212】
2−間質代替物の上にある上皮細胞を継代培養することによる、真皮代替物の表面にある角膜上皮層(表皮)の成長。上皮細胞に特異的な培地で覆う。
【0213】
3−標準的な細胞培養プロトコルにしたがって、37℃のインキュベーター中、高湿環境下、5% CO2を含む状態で維持する。上皮細胞が、真皮代替物の表面でコンフルエンス状態に達するまで、培地を3日ごとに新しいものに換える(約1週間)。
【0214】
4−培養物表面から人工尿道ヒト産物を除去し、平坦な滅菌ガラス表面に置かれた、厚みが3〜5mmの滅菌濾紙の上に置くことによって、部分的に脱水する。70%アルコールで滅菌したナイロンから作られた多孔性のチュール片または布を、皮膚代替物の表面に置き、皮膚代替物の上皮層が濾紙に付着するのを防ぐ。この後に、第2の厚みが3〜5mmの滅菌濾紙を、この布地で覆われた皮膚代替物の上に置く。その表面に平坦な滅菌ガラス片を置き、約250gの重さの物体を後者の上に置く(図1)。すべてのプロセスは、ラミナ―フローフード中、室温、10分間で行わなければならない。このプロセスの目的は、最適なコンシステンシーおよび弾性のレベルにするため、生成物の水分濃度をかなり減らすことである。
【0215】
5−組織を脱水したら、尿道代替物を切断して測定し、丸める、次いで、モノフィラメント縫合糸で縫合する。このようにして、天然のヒト尿道に非常によく似た管状の尿道代替物が得られる。組織を脱水すると、最適なコンシステンシーおよび弾性のレベルが得られ、これによって、なんら困難なく、丸めたり、縫合したりすることができることを強調しておくべきである。
【0216】
人工ヒト尿道産物の評価(図5):
(1)人工ヒト尿道産物の顕微鏡分析(組織学的品質制御)(図5A)。
人工尿道サンプルの評価から、これらのサンプルの構造は、正常な天然のヒト尿道と非常によく似ていることがわかった。特定的には、培養物中に4週間維持されたサンプルの分析から、人工間質の表面に層状の扁平上皮が生成し、線維を多く含む密度の大きな間質を生成することがわかり、間質細胞は、活発に増殖することがわかった。これらすべてのことから、人工尿道の構造は、正常な天然の尿道の構造と同じであった。
【0217】
口腔粘膜の細胞を使用する場合では、尿道細胞から得たものと非常に似た間質代替物が得られた。
【0218】
(2)人工ヒト尿道の免疫組織化学的分析(図5B)
正常な尿道コントロールと、実験室で得た人工尿道産物について、サイトケラチン発現の分析から、人工尿道上皮によるインテグリンの発現が示され、このことは、この上皮が完全な機能をもち、ヒト尿道を置換するのに使用可能であることを示唆している。
【0219】
実施例5.人工尿膀胱産物の製造
人工尿膀胱産物を製造するプロトコル:
A.ヒト膀胱サンプルを得ること
人工膀胱代替物を作製するために、正常な患者またはドナーの内視鏡検査によって得られた正常なヒト膀胱の小さな生体組織を使用する。このサンプルを滅菌状態で得たら、サンプルの汚染を可能な限り防ぐために、除去した組織を、抗生物質(ペニシリンG 500U/mlおよびストレプトマイシン500μg/ml)および抗真菌薬(アンホテリシンB 1.25μg/ml)を加えたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)から作られた滅菌輸送媒体にすぐに入れた。
【0220】
または、ヒト膀胱サンプルを得ることが実現可能ではない場合には、口腔粘膜サンプルまたは皮膚サンプルを用い、膀胱代替物を作製してもよい。
【0221】
B.初代間質および上皮細胞の培養物の作製
輸送期間の後に、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンB(それぞれ、500U/ml、500μg/ml、1.25μg/ml)を含む滅菌PBS溶液ですべてのサンプルを2回洗浄し、サンプルに付着しているかもしれない血液、フィブリン、脂肪または外来物質をすべて除去しなければならない。
【0222】
まず、上皮から間質を分離するために、トリプシン 0.5g/LおよびEDTA 0.2g/Lを含む滅菌PBS溶液中、サンプルを37℃でインキュベートし、遠心分離をおおなった30分後に、細胞を含む上澄みを集める。その都度新しいトリプシン−EDTA溶液を加え、このプロセスを5回まで繰り返す。このようにしてかなりの量の尿道上皮細胞が得られ、好ましくは、線維芽細胞よりも上皮細胞が成長しやすい上皮細胞培地中で培養する。この培地は、グルコースを豊富に含むDMEM培地3部と、Ham F−12培地1部で構成されており、これらには、すべて10%ウシ胎仔血清、抗生物質−抗真菌薬(ペニシリンG 100U/ml、ストレプトマイシン100μg/ml、アンホテリシンB 0.25μg/ml)、アデニンおよび異なる成長因子24μg/ml、ヒドロコルチゾン0.4μg/ml、インスリン5μg/ml、上皮成長因子(EGF)10ng/ml、トリヨードチロニン 1.3ng/ml、コレラ毒素8ng/mlが加えられている。
【0223】
膀胱間質の細胞外基質を消化し、この基質に含まれている間質線維芽細胞を分離するために、サンプルを、ウシ胎仔血清を含まないDMEM培地中、2mg/mlのClostridium hystoliticum I型コラゲナーゼ滅菌溶液中、37℃で6時間インキュベートしなければならない。この溶液は、真皮のコラーゲンを消化し、間質線維芽細胞を遊離させることができる。初代線維芽細胞の培養物を得るために、消化された真皮の間質細胞を含む消化溶液を、1,000rpmで10分間遠心分離処理しなければならず、線維芽細胞に対応する細胞ペレットを、表面積が15cm2の培養フラスコ中で培養する。グルコースを豊富に含み、抗生物質および抗真菌薬(ペニシリンG 100U/ml、ストレプトマイシン 100μg/ml、アンホテリシンB 0.25μg/ml)を加えたDMEMを培地として用いる。この基本的な培地は、線維芽細胞培地と呼ばれる。
【0224】
すべての場合で、細胞を、標準的な細胞培養条件で、37℃、5%二酸化炭素を含む状態でインキュベートする。培地を3日ごとに新しいものに交換する。
【0225】
C.フィブリン系およびアガロース系の人工ヒト尿道産物を、組織工学を用いて構築
1−細胞外のフィブリンおよびアガロースの基質を用い、その中に線維芽細胞を浸して間質代替物を作製する。これらの間質代替物を、細胞培養ペトリ皿の上で直接作製する。間質代替物10mlを以下の様式で製造する。
−献血によって、ヒト血漿7.6mLを得る(自系由来でもよい)。
−あらかじめ培養しておいた150,000個のヒト皮膚線維芽細胞を加え、DMEM培地750μlに再懸濁させる。
−トラネキサム酸150μlを加え、フィブリンゲルの線維素溶解を防ぐ。
−1% ClCa2 1mlを加え、凝固反応を誘発させ、フィブリン線維網を作製する。
−PBSに溶解させた2%VII型アガロース0.5mlをすばやく加え、融点に達するまで加熱し、撹拌によって穏やかに混合する。混合物中の最終アガロース濃度は、0.1%であろう。生存能力のある真皮産物を可能にするアガロース濃度範囲は、0.025%〜0.3%であり、使用する患者の目的と関連して達成されなければならない。
−細胞培養ペトリ皿でできる限りすばやく等分する。
−これを少なくとも30分間休ませ、重合させる。
【0226】
2−この代替物の上にある上皮細胞を継代培養することによる、間質代替物の表面にある上皮層(尿路上皮)の成長。上皮細胞に特異的な培地で覆う。
【0227】
3−標準的な細胞培養プロトコルにしたがって、37℃のインキュベーター中、高湿環境下、5% CO2を含む状態で維持する。上皮細胞が、真皮代替物の表面でコンフルエンス状態に達するまで、培地を3日ごとに新しいものに換える(約1週間)。
【0228】
4−培養物表面から人工膀胱ヒト産物を除去し、平坦な滅菌ガラス表面に置かれた、厚みが3〜5mmの滅菌濾紙の上に置くことによって、部分的に脱水する。70%アルコールで滅菌したナイロンから作られた多孔性のチュール片または布を、皮膚代替物の表面に置き、皮膚代替物の上皮層が濾紙に付着するのを防ぐ。この後に、第2の厚みが3〜5mmの滅菌濾紙を、この布地で覆われた皮膚代替物の上に置く。その表面に平坦な滅菌ガラス片を置き、約250gの重さの物体を後者の上に置く(図1)。すべてのプロセスは、ラミナ―フローフード中、室温、10分間で行わなければならない。このプロセスの目的は、最適なコンシステンシーおよび弾性のレベルにするため、生成物の水分濃度をかなり減らすことである。
【0229】
5−組織を脱水したら、膀胱代替物を切断して測定し、代替物自体と縫合し、モノフィラメント縫合糸を用いて望ましい形態を得る。組織を脱水すると、最適なコンシステンシーおよび弾性のレベルが得られ、これによって、なんら困難なく、縫合することができることを強調しておくべきである。
【0230】
人工ヒト膀胱産物の評価(図6)
(1)人工ヒト膀胱産物の顕微鏡分析および免疫組織化学的分析(組織学的品質制御)(図6Aおよび6B)。
人工膀胱産物の評価から、これらの構造は、正常な天然のヒト膀胱に非常によく似ていることがわかった。特定的には、培養物中に4週間維持されたサンプルの分析から、人工間質の表面に立方形または扁平状態の単層上皮が生成し、線維を多く含む密度の大きな間質を生成することがわかり、間質細胞は、活発に増殖することがわかった(図6A)。
【0231】
免疫組織化学的分析から、これらの組織は、正常なコントロールであるヒト膀胱組織と同様にサイトケラチン13およびパンサイトケラチンを発現し、胚組織または成熟組織に典型的なサイトケラチン7および8を発現することがわかった(図6B)。これらすべてから、人工膀胱の構造は、正常な天然の膀胱と同じであることを示唆している。
【0232】
口腔粘膜の細胞を使用する場合では、膀胱細胞から得たものと非常に似た間質代替物が得られた。
【0233】
実施例6.フィブリン、アガロース、コラーゲンの生体材料を用い、人工産物を製造
人工ヒト口腔粘膜産物を製造するプロトコル:
A.初代上皮細胞および間質細胞を作製
上皮細胞(口腔粘膜上皮細胞)および間質細胞(線維芽細胞)の一次培養を確立するために、以下の方法およびプロトコルを用い、ヒトドナーまたは実験動物に由来する正常な口腔粘膜の試験組織を用いる。
−口腔粘膜の生体組織を得て、滅菌生理食塩水中で実験室に移す、
−標準的な酵素消化技術(上皮単離のために、トリプシンまたはディスパーゼ、間質単離のために、コラゲナーゼ)または標準的な組織移植技術を用い、上皮細胞および間質細胞を単離し、培養する、
−細胞がコンフルエンス状態になるまで、上皮細胞または間質細胞に特異的な培地中で培養する。
【0234】
すべての培養物は、標準的な細胞培養プロトコルにしたがって、37℃、5%二酸化炭素を含む状態に維持される。培地内で細胞がコンフルエンス状態に達するまで、培地を3日ごとに新しいものに交換する。
【0235】
B.組織工学を用い、実験室でフィブリン、アガロース、コラーゲンの組織代替物を構築
1−間質細胞が中に入った組織間質代替物を作製する。間質代替物20mlを製造するために、
a.−濃度が6.4mg/mlの液体コラーゲン濃縮物8.81mlを取ることによって、液体のI型コラーゲン10mlを製造する。10倍のPBS 1.1mlを加え、NaOH 約90μLを用い、pHを7.4±0.2に調節する。0.1〜1Mの濃度でのNaOHのpHを上げることが通常行われるが、他の生成物を用いてもよい。予定よりも早くゲル化してしまうのを防ぐために、穏やかに撹拌し、氷中で撹拌を維持することによって混合する。
b.−フィブリンおよびアガロースの混合物10mlを以下の様式で製造する。
−献血によって、ヒト血漿7.6mLを得る(自系由来でもよい)。
−あらかじめ培養しておいた150,000個のヒト皮膚線維芽細胞を加え、DMEM培地750μlに再懸濁させる。
−トラネキサム酸150μlを加え、フィブリンゲルの線維素溶解を防ぐ。
−1% ClCa2 1mlを加え、凝固反応を誘発させ、フィブリン線維網を作製する。
−PBSに分散させた2%VII型アガロース0.5mlをすばやく加え、融点に達するまで加熱し、撹拌によって穏やかに混合する。混合物中の最終アガロース濃度は、0.1%であろう。生存能力のある真皮産物を可能にするアガロース濃度範囲は、0.025%〜0.3%であり、使用する患者の目的と関連して達成されなければならない。
c.−作製する生成物に依存して、両溶液(コラーゲン溶液およびフィブリン−アガロース溶液)を種々の比率で混合する。すべての場合において、混合のときまでコラーゲン溶液を冷やしておき、両溶液はできるだけすばやく混合する。
−コラーゲン溶液10mlと、フィブリン−アガロース溶液10mlとを加え、生成物A(コラーゲン2.8g/L、フィブリン1.25g/L、アガロース0.5g/L)を作製する。
−コラーゲン溶液15mlと、フィブリン−アガロース溶液5mlとを加え、生成物B(コラーゲン3.8g/L、フィブリン0.6g/L、アガロース0.25g/L)を作製する。
−コラーゲン溶液5mlと、フィブリン−アガロース溶液15mlとを加え、生成物C(コラーゲン1.9g/L、フィブリン1.9g/L、アガロース0.75g/L)を作製する。
d.−多孔性細胞培養挿入物またはペトリ皿に、可能な限り等分する。
e.−これを37℃のインキュベーターで少なくとも30分間休ませ、重合させる。
2−間質代替物の上にある口腔粘膜上皮細胞を継代培養することによる、間質代替物の表面にある上皮層の成長。上皮細胞に特異的な培地で覆う。
3−標準的な細胞培養プロトコルにしたがって、37℃のインキュベーター中、高湿環境下、5% CO2を含む状態で維持する。上皮細胞が、間質代替物の表面でコンフルエンス状態に達するまで、培地を3日ごとに新しいものに換える(約1週間)。
4−間質代替物を培地の中に沈めたままで、上皮表面を空気にさらし(空気−液体技術)、上皮層形成および成熟を促す(約1週間)。
5−培養物表面から人工ヒト皮膚産物を除去し、平坦な滅菌ガラス表面に置かれた、厚みが3〜5mmの滅菌濾紙の上に置くことによって、部分的に脱水する。70%アルコールで滅菌したナイロンから作られた多孔性のチュール片または布を、皮膚代替物の表面に置き、皮膚代替物の上皮層が濾紙に付着するのを防ぐ。この後に、第2の厚みが3〜5mmの滅菌濾紙を、この布地で覆われた皮膚代替物の上に置く。その表面に平坦な滅菌ガラス片を置き、約250gの重さの物体を後者の上に置く(図1)。すべてのプロセスは、ラミナ―フローフード中、室温、10分間で行わなければならない。このプロセスの目的は、最適なコンシステンシーおよび弾性のレベルにするため、生成物の水分濃度をかなり減らすことである。
6−組織を脱水したら、測定するために切断し、モノフィラメント縫合糸を用いることによって、望ましい形態を与える。組織を脱水すると、適切なコンシステンシーおよび弾性のレベルが得られ、これによって、なんら困難なく縫合することができる。
【0236】
C.組織工学を用い、実験室でコラーゲン組織代替物を構築
1−間質細胞が中に入った組織間質代替物を作製する。間質代替物20mlを製造するために、
−濃度が6.4mg/mlの液体コラーゲン濃縮物17.62mlを取ること;10倍のPBS1.45mlを加え、NaOHを約180μL用い、pHを7.4±0.2に調節すること。0.1〜1Mの濃度でのNaOHのpHを上げることが通常行われるが、他の生成物を用いてもよい。予定よりも早くゲル化してしまうのを防ぐために、穏やかに撹拌し、氷中で撹拌を維持することによって混合する。
−あらかじめ培養しておいた150,000個の間質細胞を加え、DMEM培地750μlに再懸濁させる。
−多孔性細胞培養挿入物またはペトリ皿に、可能な限り等分する。
−これを37℃のインキュベーターで少なくとも30分間休ませ、重合させる。
2−間質代替物の上にある口腔粘膜上皮細胞を継代培養することによる、間質代替物の表面にある上皮層の成長。上皮細胞に特異的な培地で覆う。
3−標準的な細胞培養プロトコルにしたがって、37℃のインキュベーター中、高湿環境下、5% CO2を含む状態で維持する。上皮細胞が、間質代替物の表面でコンフルエンス状態に達するまで、培地を3日ごとに新しいものに換える(約1週間)。
4−間質代替物を培地の中に沈めたままで、上皮表面を空気にさらし(空気−液体技術)、上皮層形成および成熟を促す(約1週間)。
5−培養物表面から人工ヒト皮膚産物を除去し、平坦な滅菌ガラス表面に置かれた、厚みが3〜5mmの滅菌濾紙の上に置くことによって、部分的に脱水する。70%アルコールで滅菌したナイロンから作られた多孔性のチュール片または布を、皮膚代替物の表面に置き、皮膚代替物の上皮層が濾紙に付着するのを防ぐ。この後に、第2の厚みが3〜5mmの滅菌濾紙を、この布地で覆われた皮膚代替物の上に置く。その表面に平坦な滅菌ガラス片を置き、約250gの重さの物体を後者の上に置く(図1)。すべてのプロセスは、ラミナ―フローフード中、室温、10分間で行わなければならない。
6−組織を脱水したら、測定するために切断し、モノフィラメント縫合糸を用いることによって、望ましい形態を与える。
【0237】
人工ヒト口腔粘膜産物の評価(図7):
上のプロトコルにしたがって得られた産物を評価した。製造したそれぞれの産物のフィブリン、アガロース、コラーゲンの濃度を以下に示す。
A.−フィブリン(1.25g/L)、アガロース(0.5g/L)、コラーゲン(2.8g/L)。
B.−フィブリン(0.6g/L)、アガロース(0.25g/L)、コラーゲン(3.8g/L)。
C.−フィブリン(1.9g/L)、アガロース(0.75g/L)、コラーゲン(1.9g/L)。
D.−フィブリン(0g/L)、アガロース(0g/L)、コラーゲン(5.6g/L)。
【0238】
(1)人工組織の顕微鏡分析(組織学的品質制御)(図7A)。
顕微鏡分析から、組織工学を用いて作製した人工組織は、コントロールとして使用した天然の組織と構造的に似ていることがわかった。特定的には、間質細胞の間に、多くの線維で構成された間質がみられ、このことは、適切な細胞増殖レベルであることを示す。すでに記載した他のモデルと比較して(特に、フィブリンモデル、アガロースを含むフィブリンモデル)、フィブリン、アガロース、コラーゲンの組織は、間質レベルで原線維の密度が大きい。これらすべてのことから、上述のプロトコルに基づいて構築された組織産物は、正常な天然ヒト組織と適合性であることを示唆している。
【0239】
(2)レオロジーによる品質制御(図7B)。
上述のプロトコルに基づいて構築された組織産物の生物力学特性をレオメーターによって分析する。結果を図7Cに示し、この結果から、最もよい組織は、生成物Aであり、Cがそれに続き、Bは、D(コラーゲンのみ)と非常に似ていることがわかる。したがって、分析結果から、コラーゲン濃度を高めることによって、人工コラーゲン組織で示される値よりも粘弾性挙動が向上し、限界応力が大きくなることが示された。
【0240】
これらの実施例で示されたデータは、フィブリン、アガロース、コラーゲンの組織の物理特性は最適であり、コントロールとして使用する正常なヒト組織と似ていることが示され、臨床用途に関して、記載されている人工組織は向上がみられる。
【0241】
実施例8:構造化技術を適用した後の、フィブリン−アガロース生体材料の改良
ナノ構造化技術を適用すると、このプロセスを受けた生体材料の構造および挙動を実質的に変えることができる。0.1%フィブリンおよびアガロース生体材料(この特許出願の最終的な好ましい濃度)に対するナノ構造化の主な効果は、以下のとおりである。
−組織の生物力学特性が顕著に向上。これにより、ナノ構造の組織を操作することができ、生体材料のレオロジー特性をかなり大きく、予測できないレベルで向上させる。図8に示されるように、限界応力は、ナノ構造の組織は、非ナノ構造の組織に比べ、3.8倍大きかった(それぞれ、16.2パスカル、4.23パスカル)。一方、ナノ構造化を受けたサンプルの粘性係数G”は、非ナノ構造のサンプルと比べ、5.26倍大きかった(それぞれ、19.3Pa、3.67Pa)(図9)。これらのデータは、ナノ構造の生体材料の耐性は、非ナノ構造の組織の耐性よりもかなり大きいことを示す。
【0242】
同様に、ナノ構造の組織の弾性係数G’は、天然の非ナノ構造の生体材料に比べ、5.55倍大きく(図10)(それぞれ、152Pa、27.4Pa)、このことは、これらの組織の男性レベルが顕著に高いことを意味する。
【0243】
これらすべての現象は非常に顕著であり、明らかに、生体材料中の水濃度には依存しておらず、ナノ構造化プロセスの結果として生体材料内で発生する内部反応に依存している。
【0244】
−ナノ構造の組織の操作性は、手術での操作が可能になるほど、かなり向上しており、レシピエントをベッドで縫合したり、試験動物に移植したりすることができる。非ナノ構造の組織は、操作するのが顕著に困難であり、臨床的に縫合または移植すると壊れてしまう傾向があり、かなり複雑化することを強調しておくことは重要である。この向上は非常に顕著であり、単純に生体材料の水濃度を減らしたことによって説明することはできず、異なるフィブリン線維およびアガロース繊維を結合させる三次元構造の形成、予想できないレベルで改質された生体材料の性質によって説明することができる。
【0245】
−ナノ構造化を受けた組織の透明度が顕著に向上。0.1%の非ナノ構造のフィブリン−アガロース生体材料の透明度は、可視光スペクトル(約400〜700nm)の透過率%を測定すると、考慮する波長によっては90〜94%に達し(平均で92%)、一方、非ナノ構造の生体材料は、透過率が87〜90%であった(平均で88.5%)(図10)。したがって、ナノ構造化プロセスを受けた生体材料では、透明度が高い(可視光の透過率が大きい)。以前の場合と同様に、この現象は、生体材料の内部構造に起こる化学反応および物理反応の複雑なプロセスの結果であり、透明度の向上は、ナノ構造の組織が高密度であり、非ナノ構造の組織よりも水含有量が少ないという点だけで完全に予想することはできない。
【0246】
−実験動物に移植した臨床結果。ナノ構造化を受けた生体材料を移植すると、構造化されていない生体材料よりも臨床という観点で有効であることが示されている。この事実は、前もって予測することができないものであり、生体材料の適切な生物力学特性によって、臨床的なインプラントの効率が大きくなり、他方で、ナノ構造化を受けた生体材料の1mm2あたりの線維密度が大きく、したがって、受け入れる有機体による再構築が遅いという事実に関連しているはずである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工組織を製造するためのインビトロで行われる方法であって、
(a)フィブリノゲンを含む組成物を、単離された細胞のサンプルに加える工程と、
(b)工程(a)から得られた生成物に抗線維素溶解薬を加える工程と、
(c)工程(b)から得られた生成物に、少なくとも1つの凝固因子、カルシウム源、トロンビン、またはこれらの任意の組み合わせを加える工程と、
(d)工程(c)から得られた生成物に多糖組成物を加える工程と、
(e)工程(d)から得られた生成物の内部または表面で、単離された細胞を培養する工程と、そして
(f)工程(e)から得られた生成物のナノ構造化を誘発する工程と
を含んでなる、方法。
【請求項2】
前記工程(a)の細胞が、線維芽細胞または有角赤血球である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記線維芽細胞が、口腔粘膜、腹壁、皮膚、膀胱、尿道または角膜を含んでなる群から選択される組織または臓器の間質に由来するものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(a)のフィブリノゲンを含む組成物が、血漿である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記血漿が、自己の血漿である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(b)の抗線維素溶解薬がトラネキサム酸である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(c)のカルシウム源がカルシウム塩である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(c)のカルシウム塩が塩化カルシウムである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(d)の多糖がアガロースである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記アガロースがVII型アガロースである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程(b)と(c)の間に、タンパク質を加える工程(工程b2)をさらに含んでなる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(b2)で加えられる前記タンパク質がフィブロネクチンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程(d)と(e)の間に、工程(d)から得られた生成物に、タンパク質を含んでなる組成物を加えることを含んでなる工程(d2)を含んでなる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程(d2)で加えられる前記タンパク質がコラーゲンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記コラーゲンがI型コラーゲンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程(e)の前記細胞が、臍帯血の幹細胞を含んでなるものである、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程(e)の前記細胞が上皮細胞を含んでなるものである、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程(e)の前記上皮細胞が、角化細胞、尿路上皮細胞、尿道上皮細胞、角膜上皮細胞または口腔粘膜上皮細胞を含んでなる群から選択されるものである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
工程(a)の前記細胞および/または工程(e)の前記細胞が自己細胞である、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
工程(f)のナノ構造化誘発が、工程(e)から得られた生成物の脱水および/または機械的圧縮を含むものである、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
工程(e)から得られた生成物の脱水が、水切り、エバポレーション、吸引、毛細管圧、浸透または電気浸透から選択される方法を含むものである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
毛細管圧による、工程(e)から得られた生成物の脱水が、工程(e)から得られた生成物に吸収材料を適用することを含むものである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
工程(f)の機械的圧縮が、静荷重の適用、水圧の適用、カムの適用、1つ以上のローラーの適用、バルーンの適用、押出または遠心分離から選択される方法を含むものである、請求項20〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
工程(f)の静荷重の適用が、工程(e)から得られた生成物に重りを置くことを含むものである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
工程(e)と工程(f)の間に、工程(e)から得られた生成物を空気にさらす追加の工程が存在する、請求項1〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
請求項1〜25のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる人工組織。
【請求項27】
医薬品および/または化学生成物を評価するための、請求項26に記載の人工組織の使用。
【請求項28】
医療における、請求項26に記載の人工組織の使用。
【請求項29】
病変または損傷した組織または臓器の機能活性を部分的にまたは完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための、請求項26に記載の人工組織の使用。
【請求項30】
損傷した組織または臓器が、皮膚、膀胱、尿道、角膜、粘膜、結膜、腹壁、結膜、鼓膜、咽頭、喉頭、腸、腹膜、靭帯、腱、骨、髄膜または膣を含んでなる群から選択されるものである、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
皮膚が、創傷、潰瘍、熱傷、良性もしくは悪性の新生物、感染、打撲、外傷性傷害、苛性化または先天性奇形を含んでなる群から選択される機能不全、損傷または疾患の結果として病変しているか、または損傷している、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
膀胱が、良性もしくは悪性の新生物、感染、外傷性傷害、先天性奇形、神経因性膀胱、尿失禁、膀胱機能不全、感染または膀胱結石を含んでなる群から選択される機能不全、損傷または疾患の結果として病変しているか、または損傷している、請求項30に記載の使用。
【請求項33】
尿道が、良性もしくは悪性の新生物、感染、外傷性傷害、先天性奇形または狭窄を含んでなる群から選択される機能不全、損傷または疾患の結果として病変しているか、または損傷している、請求項30に記載の使用。
【請求項34】
角膜が、角膜潰瘍、円錐角膜、球状角膜、デスメ膜瘤、外傷性傷害、苛性化、大脳辺縁系の欠損、萎縮性角膜炎、角膜ジストロフィー、原発性もしくは続発性の角膜症、感染、白斑、水疱性角膜症、角膜内皮の傷害、または良性もしくは悪性の新生物を含んでなる群から選択される機能不全、損傷または疾患の結果として病変しているか、または損傷している、請求項30に記載の使用。
【請求項35】
粘膜が、創傷、潰瘍、熱傷、良性もしくは悪性の新生物、感染、打撲、外傷性傷害、苛性化、先天性奇形、実質欠損または歯周疾患を含んでなる群から選択される機能不全、損傷または疾患の結果として病変しているか、または損傷している、請求項30に記載の人工組織の使用。
【請求項36】
粘膜が口腔粘膜である、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
組織が、工程(d2)を用いて得られたものである、請求項35または36に記載の使用。
【請求項38】
請求項26に記載の人工組織を含んでなる医薬組成物。
【請求項39】
医薬的に許容されるキャリアをさらに含んでなる、請求項38に記載の医薬組成物。
【請求項40】
別の活性成分をさらに含んでなる、請求項38または39のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項1】
人工組織を製造するためのインビトロで行われる方法であって、
(a)フィブリノゲンを含む組成物を、単離された細胞のサンプルに加える工程と、
(b)工程(a)から得られた生成物に抗線維素溶解薬を加える工程と、
(c)工程(b)から得られた生成物に、少なくとも1つの凝固因子、カルシウム源、トロンビン、またはこれらの任意の組み合わせを加える工程と、
(d)工程(c)から得られた生成物に多糖組成物を加える工程と、
(e)工程(d)から得られた生成物の内部または表面で、単離された細胞を培養する工程と、そして
(f)工程(e)から得られた生成物のナノ構造化を誘発する工程と
を含んでなる、方法。
【請求項2】
前記工程(a)の細胞が、線維芽細胞または有角赤血球である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記線維芽細胞が、口腔粘膜、腹壁、皮膚、膀胱、尿道または角膜を含んでなる群から選択される組織または臓器の間質に由来するものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(a)のフィブリノゲンを含む組成物が、血漿である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記血漿が、自己の血漿である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(b)の抗線維素溶解薬がトラネキサム酸である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(c)のカルシウム源がカルシウム塩である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(c)のカルシウム塩が塩化カルシウムである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(d)の多糖がアガロースである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記アガロースがVII型アガロースである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程(b)と(c)の間に、タンパク質を加える工程(工程b2)をさらに含んでなる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(b2)で加えられる前記タンパク質がフィブロネクチンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程(d)と(e)の間に、工程(d)から得られた生成物に、タンパク質を含んでなる組成物を加えることを含んでなる工程(d2)を含んでなる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程(d2)で加えられる前記タンパク質がコラーゲンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記コラーゲンがI型コラーゲンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程(e)の前記細胞が、臍帯血の幹細胞を含んでなるものである、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程(e)の前記細胞が上皮細胞を含んでなるものである、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程(e)の前記上皮細胞が、角化細胞、尿路上皮細胞、尿道上皮細胞、角膜上皮細胞または口腔粘膜上皮細胞を含んでなる群から選択されるものである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
工程(a)の前記細胞および/または工程(e)の前記細胞が自己細胞である、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
工程(f)のナノ構造化誘発が、工程(e)から得られた生成物の脱水および/または機械的圧縮を含むものである、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
工程(e)から得られた生成物の脱水が、水切り、エバポレーション、吸引、毛細管圧、浸透または電気浸透から選択される方法を含むものである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
毛細管圧による、工程(e)から得られた生成物の脱水が、工程(e)から得られた生成物に吸収材料を適用することを含むものである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
工程(f)の機械的圧縮が、静荷重の適用、水圧の適用、カムの適用、1つ以上のローラーの適用、バルーンの適用、押出または遠心分離から選択される方法を含むものである、請求項20〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
工程(f)の静荷重の適用が、工程(e)から得られた生成物に重りを置くことを含むものである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
工程(e)と工程(f)の間に、工程(e)から得られた生成物を空気にさらす追加の工程が存在する、請求項1〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
請求項1〜25のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる人工組織。
【請求項27】
医薬品および/または化学生成物を評価するための、請求項26に記載の人工組織の使用。
【請求項28】
医療における、請求項26に記載の人工組織の使用。
【請求項29】
病変または損傷した組織または臓器の機能活性を部分的にまたは完全に高め、回復させ、または置き換える薬剤を製造するための、請求項26に記載の人工組織の使用。
【請求項30】
損傷した組織または臓器が、皮膚、膀胱、尿道、角膜、粘膜、結膜、腹壁、結膜、鼓膜、咽頭、喉頭、腸、腹膜、靭帯、腱、骨、髄膜または膣を含んでなる群から選択されるものである、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
皮膚が、創傷、潰瘍、熱傷、良性もしくは悪性の新生物、感染、打撲、外傷性傷害、苛性化または先天性奇形を含んでなる群から選択される機能不全、損傷または疾患の結果として病変しているか、または損傷している、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
膀胱が、良性もしくは悪性の新生物、感染、外傷性傷害、先天性奇形、神経因性膀胱、尿失禁、膀胱機能不全、感染または膀胱結石を含んでなる群から選択される機能不全、損傷または疾患の結果として病変しているか、または損傷している、請求項30に記載の使用。
【請求項33】
尿道が、良性もしくは悪性の新生物、感染、外傷性傷害、先天性奇形または狭窄を含んでなる群から選択される機能不全、損傷または疾患の結果として病変しているか、または損傷している、請求項30に記載の使用。
【請求項34】
角膜が、角膜潰瘍、円錐角膜、球状角膜、デスメ膜瘤、外傷性傷害、苛性化、大脳辺縁系の欠損、萎縮性角膜炎、角膜ジストロフィー、原発性もしくは続発性の角膜症、感染、白斑、水疱性角膜症、角膜内皮の傷害、または良性もしくは悪性の新生物を含んでなる群から選択される機能不全、損傷または疾患の結果として病変しているか、または損傷している、請求項30に記載の使用。
【請求項35】
粘膜が、創傷、潰瘍、熱傷、良性もしくは悪性の新生物、感染、打撲、外傷性傷害、苛性化、先天性奇形、実質欠損または歯周疾患を含んでなる群から選択される機能不全、損傷または疾患の結果として病変しているか、または損傷している、請求項30に記載の人工組織の使用。
【請求項36】
粘膜が口腔粘膜である、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
組織が、工程(d2)を用いて得られたものである、請求項35または36に記載の使用。
【請求項38】
請求項26に記載の人工組織を含んでなる医薬組成物。
【請求項39】
医薬的に許容されるキャリアをさらに含んでなる、請求項38に記載の医薬組成物。
【請求項40】
別の活性成分をさらに含んでなる、請求項38または39のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4E】
【図5A】
【図5B】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3C】
【図4D】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4E】
【図5A】
【図5B】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3C】
【図4D】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【公表番号】特表2013−502915(P2013−502915A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526090(P2012−526090)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【国際出願番号】PCT/ES2010/070569
【国際公開番号】WO2011/023843
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(512047612)
【氏名又は名称原語表記】SERVICIO ANDALUZ DE SALUD
【出願人】(512047623)ウニベルシダ デ グラナダ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD DE GRANADA
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【国際出願番号】PCT/ES2010/070569
【国際公開番号】WO2011/023843
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(512047612)
【氏名又は名称原語表記】SERVICIO ANDALUZ DE SALUD
【出願人】(512047623)ウニベルシダ デ グラナダ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD DE GRANADA
【Fターム(参考)】
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