説明

フィラグリン生成促進剤

【課題】上皮系細胞におけるフィラグリン生成を促進することによる、花粉症の予防、治療や症状の改善に有効な剤を提供する。
【解決手段】本発明は、月下美人の抽出物を含有することを特徴とする上皮系細胞におけるフィラグリン生成促進剤に関する。本発明の月下美人抽出物は、上皮系細胞において、プロフィラグリンの発現量を増加させることにより、フィラグリンの生成を促進する作用を有し、花粉症の予防、治療や症状の改善に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラグリン生成促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アレルギー性疾患は先進国において最も発症率の高い疾患の一つであり、代表例として、花粉症、アレルギー性結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎等が挙げられる。これらの中でも、花粉症はI型に分類される即時型のアレルギー疾患で、日本における患者数が2000万人以上ともいわれており、大きな社会問題となっている現状がある。
【0003】
花粉症などのI型アレルギーは、抗原とそれに対する抗体によって活性化したT細胞、B細胞や肥満細胞等の免疫系細胞がヒスタミン等の化学伝達物質を遊離し、それを神経や血管などの受容体が受け取ることで生じると考えられている。
【0004】
従来、花粉症の予防又は治療に際して用いられているほとんどの剤は、受容体へのヒスタミン結合を競合的に阻害する抗ヒスタミン剤および免疫系細胞からの化学伝達物質の遊離を抑制する化学伝達物質遊離抑制剤であり、特許文献1や特許文献2など多くの報告がある。
【0005】
フィラグリン(フィラメント凝集タンパク質(filament
aggregating protein))は、角質層の形成において重要なタンパク質であり、特に、表皮分化を促進し、障壁機能を維持することにおいて重要であるとされている。このフィラグリンは、アトピー性皮膚炎の発症に強い関係性があるとされ(非特許文献1)、その他の様々なアレルギー疾患の発症にも関与していることが示唆されている。最近になって、花粉症の発症とフィラグリンの機能低下との関係も報告されており(非特許文献2、3)、花粉症の予防又は治療においてフィラグリンの機能増強が有効であると考えられる。
【0006】
一方、月下美人の抽出物は、化粧料(特許文献3)、老化防止用皮膚外用剤(特許文献4)、コラーゲン生成促進及び分解抑制剤(特許文献5)としての技術が開示されているが、フィラグリン生成促進効果および花粉症予防効果又は花粉症治療効果については報告がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−298425
【特許文献2】特開2008−280350
【特許文献3】特開平5−310527
【特許文献4】特開2003−342156
【特許文献5】特開2008−280296
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】安東嗣修,日本薬理学雑誌,2008,Vol.132(5),p318
【非特許文献2】Weidinger S,J Allergy Clin Immunol,2008,121(5),p1203−1209
【非特許文献3】意元義政,アレルギー,2008,57(9・10),p1399
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明においては、上皮系細胞におけるフィラグリン生成を促進することにより、花粉症の予防又は治療に効果を発揮する組成物を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この様な課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、月下美人の抽出物が、フィラグリン生成促進効果を持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、月下美人の抽出物を含有することを特徴とするフィラグリン生成促進剤である。
【0012】
本発明は、月下美人の抽出物を含有することを特徴とする花粉症予防剤又は花粉症治療剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、フィラグリン生成を促進することで、花粉症の予防又は治療に効果があると期待される、月下美人の抽出物を含有することを特徴とする花粉症予防剤又は花粉症治療剤である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で使用する月下美人とは、サボテン科クジャクサボテンの原種(Epiphyllum oxypetalum Haw.)及びその近縁種であり、その園芸品種の全草や花の乾燥物などを利用することができる。
【0015】
抽出部位は特に限定されず、すべての部位を用いることができ、好ましくは花が良い。抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出したものであっても良いし、常温抽出したものであっても良い。
【0016】
抽出する溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等)、液状多価アルコール(1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)などが挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール等の極性溶媒が良い。これらの溶媒は、一種でも二種以上を混合して用いても良い。
【0017】
上記抽出物は、抽出した溶液のまま用いても良く、必要に応じて、濃縮、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理をして用いても良い。更には、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いても良い。
【0018】
本発明のフィラグリン生成促進剤および花粉症予防剤又は花粉症治療剤は、医薬品、食品、化粧品いずれにも用いることができ、その剤型としては、例えば、散剤、丸剤、錠剤、注射剤、坐剤、乳剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤(チンキ剤、流エキス剤、酒精剤、懸濁剤、リモナーデ剤などを含む)、ゲル剤、エアゾール剤、軟膏、パップ剤、ペースト剤、プラスター剤、錠菓、飲料、化粧水、クリーム、乳液等が挙げられる。
【0019】
本発明のフィラグリン生成促進剤および花粉症予防剤又は花粉症治療剤は、通常全身的又は局所的に投与又は外用される。投与方法としては、経口投与又は経皮投与などが挙げられる。投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間などにより異なるが、通常成人1人当たり1回に1mg〜1g、好ましくは20mg〜200mgの範囲で1日1回から数回投与される。投与量は種々の条件で変動するので、上記投与範囲より少ない量で十分な場合もあるし、また、範囲を超えて投与する必要のある場合もある。
【0020】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いる抽出物の製造例、処方例及び実験例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例に示す配合量は重量%を示す。
【実施例1】
【0021】
製造例1 月下美人抽出物1
月下美人の花の乾燥物100gに精製水3Lを加え、95〜100℃で2時間抽出した。濾過した後、濾液を減圧濃縮し、更に凍結乾燥して月下美人抽出物48gを得た。
【0022】
製造例2 月下美人抽出物2
月下美人の地上部全草の乾燥物100gに30%エタノール水溶液1Lを加え、室温で1週間抽出した。濾過した後、濾液を減圧濃縮し、更に凍結乾燥して月下美人抽出物9gを得た。
【実施例2】
【0023】
次に、本発明に係る実施例の処方を示す。
【0024】
処方例1 飲料
処方 配合量(重量%)
1.月下美人抽出物1(製造例1) 1.0
2.ステビア 0.05
3.リンゴ酸 5.0
4.香料 0.1
5.精製水 93.85
[製造方法]成分1〜4を成分5の精製水の一部に撹拌溶解した。次いで、成分5の精製水の残りを加えて混合し、90℃に加熱して50mLのガラス瓶に充填した。
【0025】
比較例1 従来の飲料
処方例1において、月下美人抽出物1(製造例1)を精製水に置き換えたものを従来の飲料とした。
【0026】
処方例2 錠剤
処方 配合量(重量%)
1.月下美人抽出物2(製造例2) 1.0
2.トウモロコシデンプン 10.0
3.精製白糖 20.0
4.カルボキシメチルセルロース 10.0
5.微結晶セルロース 35.0
6.ポリビニルピロリドン 5.0
7.タルク 19.0
[製造方法]成分1〜5を混合し、次いで成分6の水溶液を結合剤として加えて常法により顆粒化した。これに滑沢剤として成分7を加えて配合した後、1錠100mgの錠剤に打錠した。
【0027】
処方例3 キャンディー
処方 配合量(重量%)
1.砂糖 48.0
2.水飴 35.0
3.精製水 13.6
4.クエン酸 2.0
5.香料 0.2
6.色素 0.2
7.月下美人抽出物1(製造例1) 1.0
[製造方法]成分1〜3を鍋にて混合し、煮沸溶解した。次いで鍋を火から下ろし、成分4〜7を撹拌溶解後、冷却した。これを切断、成型し、1個3gのキャンディーとした。
【実施例3】
【0028】
次に、本発明の効果を詳細に説明するため、実験例を挙げる。
【0029】
実験例1 フィラグリン生成促進試験
マウス角化細胞由来Pam212細胞におけるフィラグリン生成の促進効果をプロフィラグリン mRNAの発現量を指標として測定した。フィラグリンは、転写・翻訳されたプロフィラグリン(フィラグリンの繰り返し配列から成る)が分解されることで生み出されるタンパク質であるため、プロフィラグリン mRNAの発現量を指標として用いた。
【0030】
コンフルエントな状態のPam212細胞を10および100μg/mlの試料を添加したEagle’s MEM培地にてさらに24時間培養した後、総RNAの抽出をおこなった。総RNAの抽出には、ISOGEN(ニッポンジーン)を用いた。抽出した総RNAを基にRT−PCR法によりプロフィラグリン mRNA発現量の測定を行った。RT−PCR法にはTaKaRa RNA PCR Kit (AMV) Ver.2.1を用いた。また、内部標準としてはGAPDHを用いた。その他の操作は定められた方法に従い、PCR反応液をアガロースゲル電気泳動に供し、プロフィラグリンおよびGAPDHのmRNA発現をバンドとして確認した。これらのバンドをポラロイドカメラにて撮影してデンシトメーターを用いて定量化し、プロフィラグリン mRNAの発現量を内部標準であるGAPDH mRNA発現量に対する割合として求めた。コントロールのプロフィラグリン mRNA発現量に対する試料添加時のプロフィラグリン mRNA発現量の割合を算出し、フィラグリン生成率とした。尚、測定に使用したプライマーは以下の通りである。
【0031】
プロフィラグリン用のプライマーセット
GAATCCATATTTACAGCAAAGCACCTTG(配列番号1)
GGTATGTCCAATGTGATTGCACGATTG(配列番号2)
【0032】
GAPDH用のプライマーセット
ATGGTGAAGGTCGGTGTGAAC(配列番号3)
GCCTTGACTGTGCCGTTGAAT(配列番号4)
【0033】
これらの試験結果を表1に示した。値は平均値および標準偏差を示している。その結果、月下美人抽出物にはフィラグリン生成促進効果が認められた。
【0034】
【表1】

【0035】
実験例2 使用試験
花粉症を発症している男性被験者3名に、朝昼夕の3回、試料50ml(処方例1)を飲用してもらった。試験は7日間行い、起床から就寝までを1日とし、クシャミの回数(1回を1点とする)、鼻をかんだ回数(1回を1点とする)、喉の違和感の程度(0〜3点、違和感がひどいと点数が高い)により花粉症の症状を判定した。7日間の合計点数を算出し、3名の平均値として評価した。試料の飲用を止め何も処置をせずに過ごすと、3日後には試験以前の状態に戻ったので、試験終了後7日間を空けて、比較例1による試験を行った。
【0036】
これらの試験結果を表2に示した。値は平均値および標準偏差を示している。その結果、月下美人抽出物配合飲料の飲用期間において、明らかな花粉症の諸症状の改善が認められた。
【0037】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、上皮系細胞におけるフィラグリン生成を促進することにより、花粉症の予防剤又は治療剤、もしくは花粉症の予防用又は治療用の飲食品、飲食品添加剤、外用剤又は外用添加剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
月下美人の抽出物を含有することを特徴とするフィラグリン生成促進剤。
【請求項2】
月下美人の抽出物を含有することを特徴とする花粉症予防剤又は花粉症治療剤。




































【公開番号】特開2011−162515(P2011−162515A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29568(P2010−29568)
【出願日】平成22年2月13日(2010.2.13)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ポラロイド
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】