説明

フィラメントワインディング装置

【課題】品質低下を招くことなく繊維の掛け替えを円滑に行うことが可能なフィラメントワインディング装置を提供する。
【解決手段】回転されるライナー12の側方を移動するアイ口34,34Bを備え、このアイ口34A,34Bに繊維S1,S2を保持させてライナー12の回転軸に沿って移動させることにより、繊維S1,S2をライナー12に巻き付けるフィラメントワインディング装置21であって、互いに独立して移動可能な複数のアイ口34A,34Bを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転部材に繊維を巻き付けるフィラメントワインディング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素をはじめとするガスを充填する高圧ガスタンクは、樹脂から成形されたライナーの周囲をガラス繊維や炭素繊維などからなる繊維強化樹脂層によって覆ったタンク本体を有しており、繊維強化樹脂層を構成する繊維は、フィラメントワインディング法によって巻き付けられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2004−148777号公報
【特許文献2】特開2006−62355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ボビンを交換して繊維を補給する際は、まず、ボビンの残糸量を予め確認した上で、繊維がなくなる前に装置を停止させる。その後、繊維を切断してボビンに巻き取り、新たなボビンと交換して繊維を引き廻してタンク本体の口金部分に巻き付けて装置を駆動させる。ある程度ワインディングしたら、一旦装置を停止させ、口金部分に巻き付けた余分な繊維を切断除去する。
【0004】
このように、ボビンの交換による繊維の掛け替えには、多くの工程を行わなければならず、手間を要していた。しかも、装置を停止させ、交換したボビンの繊維を巻き付けていた繊維に緊結して装置を再駆動させる必要があるので、繊維の緊結部分が繊維強化樹脂層に残留してしまい、品質低下を招くおそれがある。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、品質低下を招くことなく繊維の掛け替えを円滑に行うことが可能なフィラメントワインディング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明に係るフィラメントワインディング装置は、回転軸によって支持された回転部材に繊維を巻付けるフィラメントワインディング装置において、前記回転軸の軸方向に沿って往復移動させることにより、前記回転部材に対する繊維の巻付け位置を規定する2つの規定手段と、一方の規定手段によって巻付けられる繊維の一部を、他方の規定手段によって巻付けられる繊維によって押止するように前記各規定手段を制御する制御手段とを具備することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、一方の規定手段によって巻付けられる繊維の一部を、他方の規定手段によって巻付けられる繊維によって押止するように各規定手段を制御するので、一方の規定手段によって対象物(回転部材)に巻き付けた繊維の一部(端部など)を、他の規定手段に保持させた繊維を対象物に巻き付けてこの繊維と対象物との間に挟持して固定することができる。
【0008】
これにより、掛け替える繊維を巻き付けていた繊維に緊結することなく、引き続き他方の規定手段によってワインディングを行うことができる。
つまり、装置を停止させて繊維同士を緊結して繋ぎわせて繊維の掛け替えを行う場合と比較して、緊結部分の残留による品質低下を招くことなく円滑に繊維の掛け替えを行うことができ、生産性の向上を図ることができる。
【0009】
ここで、上記構成にあっては、前記各規定手段は、繊維切断用のカッタを備え、前記制御手段は、一方の規定手段によって巻付けられる繊維の一部を、他方の規定手段によって巻付けられる繊維によって押止した後、一方の規定手段のカッタによって該一方の規定手段から前記回転部材に巻き付けられる繊維を切断する態様が好ましい。
【0010】
また、上記構成にあっては、前記各規定手段によって巻付けられる繊維の残量を検知する検知機構をさらに備え、前記制御手段は、前記検知機構によって一方の規定手段によって巻付けられる繊維の残量が閾値を下回ったと判断された場合に、他方の規定手段による繊維の巻付けを開始し、一方の規定手段によって巻付けられる繊維の一部を、他方の規定手段によって巻付けられる繊維によって押止する態様がさらに好ましい。
【0011】
また、上記構成にあっては、前記各規定手段に繊維を供給する繊維供給手段をさらに備え、前記繊維供給手段は、前記繊維を巻回した複数のボビンを有し、前記検知機構は、前記各ボビンに巻回された繊維の残量を検知する態様がさらに好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、品質低下を招くことなく繊維の掛け替えを円滑に行うことが可能なフィラメントワインディング装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るフィラメントワインディング装置について説明する。
【0014】
図1は、内部に高圧ガス(例えば水素ガス)を充填保管するためのガスタンク11を示すもので、このガスタンク11は、アルミや合成樹脂製のライナー(回転部材)12の外周側を、ガラス繊維や炭素繊維などからなる繊維強化樹脂層13によって覆った構成のタンク本体14を有している。なお、ライナー12の構成は特に限定されないが、例えば一対のライナー分割体を互いに突き合わせてレーザ溶着などで接合して一体化したもので構成してもよい。
【0015】
タンク本体14の両端には、ライナー12に形成された口部15に、口金部材16が取り付けられている。ただし、ガスタンク11の構成によっては、口金部材16が一端にのみ設けられたものや、口金部材16が設けられていないもの(例えばアルミライナーなど)もあり、これらにも同様に適用可能である。
【0016】
次に、ライナー12に繊維強化樹脂層13を構成する繊維をワインディングするフィラメントワインディング装置について説明する。
図2はフィラメントワインディング装置の概略構成図、図3はワインディング機構の概略構成図である。
【0017】
図2に示すように、このフィラメントワインディング装置21は、複数のボビン22から引き出された繊維Sを供給する送り出し機構(繊維供給手段)23と、これら送り出し機構23から送り出された繊維Sが通されることにより、繊維Sに溶融樹脂を付着させるレジンバス24と、樹脂が付着された繊維Sを束ねてライナー12に巻き付けるワインディング機構25とを備えている。
【0018】
図3に示すように、ワインディング機構25は、それぞれの口金部材16に取り付けられた支持軸(回転軸)31に連結される回転クランパ32A,32Bを備えている。これら回転クランパ32A,32Bの一方は駆動源によって回転駆動されるようになっており、これにより、これら回転クランパ32A,32Bに支持軸31が支持されたライナー12は、回転クランパ32A,32Bとともに、その軸線を中心として回転される。なお、これら回転クランパ32A,32Bは、それぞれ繊維Sのクランプも可能とされている。
【0019】
また、回転クランパ32A,32Bの側方には、固定クランパ33A,33Bが設けられており、これら固定クランパ33A,33Bは、繊維Sをクランプ可能とされている。
【0020】
また、ワインディング機構25は、繊維切断用のカッタを備えた二つのアイ口(規定手段)34A,34Bを備えており、それぞれ軸方向及び上下方向に往復移動とされている。これらのアイ口34A,34Bは、ライナー12に対する繊維Sの巻付け位置などを規定するものであり、各アイ口34A,34Bには挿通孔35が形成さている。この挿通孔35に繊維Sが挿通されるようになっている。
【0021】
さらに、ワインディング機構25には、回転クランパ32A,32Bによって支持したライナー12の口金部材16の付近に、繊維Sを切断するカッタ36A,36Bがそれぞれ設けられている。
【0022】
さらに、ワインディング機構25には、ワインディング装置の各部を制御する制御装置50が設けられている。制御装置50は、CPU、ROM、RAMなどから構成され、ライナー12の回転やアイ口34A,34Bの往復移動などを制御する。制御装置50は、ライナー12を回転させながら、アイ口34A,34Bのいずれか一方を、その挿通孔35に繊維Sを挿通させて保持させた状態にて軸方向へ往復移動させることにより、ライナー12の周囲に繊維Sがワインディングされる。
【0023】
次に、上記フィラメントワインディング装置21にて、繊維Sの掛け替えを行う場合について説明する。
【0024】
なお、ここでは、アイ口34Aにて繊維S1をライナー12にワインディングしている状態から繊維S1から繊維S2に掛け替える場合について説明する。
【0025】
図4(a)に示すように、アイ口34Aによる繊維S1のワインディング中に、掛け替える繊維S2を、予め人手または自動繊維送り機構(図示略)によってアイ口34Bの挿通孔35に通し、固定クランパ33Bに保持させる。
【0026】
この状態にて、ボビン22に設けられた残糸量検出センサ(図示略;検知機構)により、繊維S1のボビン22の残糸量が設定された閾値量を下回ったことが検知されると、制御装置50は、アイ口34Aを一端側に移動させる。なお、閾値量については、ワインディング装置21のメモリ(図示略)などに予め設定しておけば良い。また、この閾値量は固定値としても良いが、ワインディング装置21のオペレータ等によって設定・変更可能としても良い。
【0027】
そして、図4(b)に示すように、繊維S1を回転クランパ32Bにクランプさせるとともに、固定クランパ33Bを開放して繊維S1のクランプを解除させる。
また、制御装置(制御手段)50は、待機位置のアイ口34Bをアイ口34A側へ移動させるとともに、アイ口34Aを待機位置である下方へ移動させる。これにより、アイ口34Aに保持させた繊維S1の一部(端部など)は、巻付けを開始したアイ口34Bに保持させた繊維S2によってライナー12に押止される。その後、制御装置(制御手段)50は、アイ口34Aのカッタにて繊維S1を切断することになるが、繊維S1は繊維S2でライナー12側に押止されているため、繊維S1を切断しても繊維S1がライナー12から外れることがない。
【0028】
その後、図4(c)に示すように、制御装置50は、回転されているライナー12に対してアイ口34Bを軸方向へ往復移動させて繊維S2をライナー12にワインディングする。
【0029】
また、繊維S2を数サイクル巻き付けることにより、繊維S2の端部がライナー12の表面に固定されたら、制御装置50は、カッタ36Bによって口金部材16付近にて繊維S2を切断し、図4(d)に示すように、回転クランパ32Bを開放して繊維S2の切れ端を回収する。
【0030】
また、アイ口34Bによる繊維S2のワインディング中に、次に掛け替える繊維S1を、予め人手または自動繊維送り機構(図示略)によってアイ口34Aの挿通孔35に通し、固定クランパ33Aに保持させ、その後の掛け替えは、前述と同様に行う。
【0031】
以上、説明したように、上記実施形態に係るフィラメントワインディング装置によれば、互いに独立して移動可能な複数のアイ口34A,34Bを備え、かつ、一方のアイ口34Aによって巻付けられる繊維S1の一部を、他方のアイ口34Bによって巻付けられる繊維S2によって押止するように制御するので、掛け替える繊維S2を巻き付けていた繊維S1に緊結することなく他方のワイ口34Bによって引き続きワインディングを行うことができる。
【0032】
つまり、装置を停止させて繊維同士を緊結して繋ぎわせて繊維の掛け替えを行う場合と比較して、緊結部分の残留による品質低下を招くことなく円滑に繊維Sの掛け替えを行うことができ、生産性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ガスタンクの全体構造を示す断面図である。
【図2】フィラメントワインディング装置の全体構成を説明する概略構成図である。
【図3】ワインディング機構部分の構成を説明する概略構成図である。
【図4】(a)〜(d)は、それぞれ繊維の掛け替え手順を説明する概略構成図である。
【符号の説明】
【0034】
12…ライナー、21…フィラメントワインディング装置、25…ワインディング機構、34A,34B…アイ口、50…制御装置、S,S1,S2…繊維。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸によって支持された回転部材に繊維を巻付けるフィラメントワインディング装置において、
前記回転軸の軸方向に沿って往復移動させることにより、前記回転部材に対する繊維の巻付け位置を規定する2つの規定手段と、
一方の規定手段によって巻付けられる繊維の一部を、他方の規定手段によって巻付けられる繊維によって押止するように前記各規定手段を制御する制御手段と
を具備することを特徴とするフィラメントワインディング装置。
【請求項2】
前記各規定手段は、繊維切断用のカッタを備え、
前記制御手段は、一方の規定手段によって巻付けられる繊維の一部を、他方の規定手段によって巻付けられる繊維によって押止した後、一方の規定手段のカッタによって該一方の規定手段から前記回転部材に巻き付けられる繊維を切断することを特徴とする請求項1に記載のフィラメントワインディング装置。
【請求項3】
前記各規定手段によって巻付けられる繊維の残量を検知する検知機構をさらに備え、
前記制御手段は、前記検知機構によって一方の規定手段によって巻付けられる繊維の残量が閾値を下回ったと判断された場合に、他方の規定手段による繊維の巻付けを開始し、一方の規定手段によって巻付けられる繊維の一部を、他方の規定手段によって巻付けられる繊維によって押止することを特徴とする請求項1または2に記載のフィラメントワインディング装置。
【請求項4】
前記各規定手段に繊維を供給する繊維供給手段をさらに備え、
前記繊維供給手段は、前記繊維を巻回した複数のボビンを有し、
前記検知機構は、前記各ボビンに巻回された繊維の残量を検知することを特徴とする請求項3に記載のフィラメントワインディング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−307792(P2008−307792A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157873(P2007−157873)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】