説明

フィルタおよび分波器

【課題】通過帯域の2つの肩のTCFをともに改善することが可能なフィルタおよび分波器を提供すること。
【解決手段】本発明は、圧電材料(10)上に設けられた第1櫛形電極(12a)と、第1櫛型電極(12a)を被覆し設けられた第1誘電体膜(14a)と、を有する並列共振器(P1、P2)と、圧電材料(10)上に設けられた第2櫛型電極(12b)と、第2櫛型電極(12b)を被覆し設けられ第1誘電体膜(14a)と同じ材料で異なる膜厚の第2誘電体膜(14b)と、を有する直列共振器(S1、S2、S3)と、を具備するフィルタおよび分波器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルタおよび分波器に関し、特に弾性波デバイスを用いたフィルタおよび分波器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば携帯電話端末等の高周波無線機器には、弾性波デバイスを用いたバンドパスフィルタ等が用いられる。携帯電話端末等の高性能化に伴い、周波数温度係数(TCF:Temperature Coefficient of Frequency)の絶対値を小さくすることが求められる。TCFとは、環境温度の変化に対する周波数特性の変化率のことである。共振器の場合、環境温度1℃の変化に対して例えば共振周波数がどれだけ変化するかをppm/℃の単位で表す。TCFは圧電材料を伝搬する弾性波の速度の温度係数によってほぼ決まる。弾性表面波デバイスのTCFは、圧電材料としてニオブ酸リチウム(LiNbO)基板やタンタル酸リチウム(LiTaO)基板を用いた場合、−80〜−40ppm/℃程度と悪く、TCFの改善が求められている。
【0003】
弾性波デバイスのTCFを改善する技術として特許文献1には、ニオブ酸リチウム基板上の櫛型電極に酸化シリコン膜を被覆した弾性波デバイスが開示されている。特許文献1に係る弾性波デバイスにおいては、弾性波はニオブ酸リチウム基板だけでなく、酸化シリコン膜中も伝搬する。酸化シリコン膜における弾性波の伝搬速度の温度係数はニオブ酸リチウム基板における弾性波の伝搬速度の温度係数と逆符号となる。これにより、酸化シリコン膜の厚さを最適に設定することにより、トータルの弾性波の伝搬速度を温度によらずほぼ一定に保つことができる。つまり、酸化シリコン膜の厚さを最適に設定すれば、TCFを小さくすることができる。
【特許文献1】特開2003−209458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1はバンドパスフィルタの通過特性の模式図である。特許文献1の技術を用いることにより、通過帯域の高周波側の肩aのTCFをほぼ0とすることができる。しかしながら、通過帯域の低周波側の肩bのTCFは十分には改善されない。例えば、図1において、通過帯域の低周波側の肩bは高温となるとb´に変化してしまう。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、通過帯域の2つの肩のTCFをともに改善することが可能なフィルタおよび分波器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、圧電材料上に設けられた第1櫛形電極と、該第1櫛型電極を被覆し設けられた第1誘電体膜と、を有する並列共振器と、前記圧電材料上に設けられた第2櫛型電極と、該第2櫛型電極を被覆し設けられ前記第1誘電体膜と同じ材料で異なる膜厚の第2誘電体膜と、を有する直列共振器と、を具備することを特徴とするフィルタである。本発明によれば、通過帯域の両側の肩のTCFをともに改善することができる。
【0007】
本発明は、圧電材料上に設けられた第1櫛形電極と、該第1櫛型電極を被覆し設けられた第1誘電体膜と、を有する第1弾性波フィルタと、前記圧電材料上に設けられた第2櫛型電極と、該第2櫛型電極を被覆し設けられ前記第1誘電体膜と同じ材料で異なる膜厚の第2誘電体膜と、を有し、前記第1弾性波フィルタと直列に接続された第2弾性波フィルタと、を具備することを特徴とするフィルタである。本発明によれば、通過帯域の両側の肩のTCFをともに改善することができる。
【0008】
上記構成において、前記第1弾性波フィルタは1ポート共振器であり、前記第2弾性波フィルタは多重モード弾性波フィルタである構成とすることができる。また、上記構成において、前記第1弾性波フィルタおよび前記第2弾性波フィルタは多重モード弾性波フィルタである構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記第1誘電体膜および前記第2誘電体膜上に前記第1誘電体膜および前記第2誘電体膜より音速の速い第3誘電体膜を有する構成とすることができる。この構成によれば、弾性境界波を用いたフィルタにおいても、通過帯域の両側の肩のTCFをともに改善することができる。
【0010】
上記構成において、前記第1誘電体膜および前記第2誘電体膜は酸化シリコン膜である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記圧電材料はニオブ酸リチウムまたはタンタル酸リチウムである構成とすることができる。この構成によれば、電気機械結合係数の大きい圧電材料を用いることにより、挿入損失を低減することができる。
【0012】
上記構成において、前記第1櫛型電極および前記第2櫛型電極は銅を含む構成とすることができる。この構成によれば、櫛型電極の密度が大きくなるため、十分な弾性波の反射を得ることができる。
【0013】
本発明は、共通端子に接続され、圧電材料上に設けられた第1櫛形電極と、該第1櫛型電極を被覆し設けられた第1誘電体膜と、を有する第1弾性波フィルタと、前記共通端子に接続され、前記圧電材料上に設けられた第2櫛型電極と、該第2櫛型電極を被覆し設けられ前記第1誘電体膜と同じ材料で異なる膜厚の第2誘電体膜と、を有する第2弾性波フィルタと、を具備することを特徴とする分波器である。本発明によれば、第1弾性波フィルタおよび第2弾性波フィルタの阻止帯域と相手フィルタの通過帯域とのTCFをともに改善することができる。
【0014】
上記構成において、前記第1誘電体膜および前記第2誘電体膜上に前記第1誘電体膜および前記第2誘電体膜より音速の速い第3誘電体膜を有する構成とすることができる。この構成によれば、弾性境界波を用いた分波器においても、第1弾性波フィルタおよび第2弾性波フィルタの阻止帯域と相手フィルタの通過帯域とのTCFをともに改善することができる。
【0015】
上記構成において、前記第1誘電体膜および前記第2誘電体膜は酸化シリコン膜である構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記圧電材料はニオブ酸リチウムまたはタンタル酸リチウムである構成とすることができる。この構成によれば、電気機械結合係数の大きい圧電材料を用いることにより、挿入損失を低減することができる。
【0017】
上記構成において、前記第1櫛型電極および前記第2櫛型電極は銅を含む構成とすることができる。この構成によれば、櫛型電極の密度が大きくなるため、十分な弾性波の反射を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、通過帯域の2つの肩のTCFをともに改善することが可能なフィルタおよび分波器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
まず、本発明の原理について説明する。図2(a)は実験に用いた共振器の平面図、図2(b)は図2(a)のA−A断面図である。なお、図中の電極12の本数は実際のより本数を省略して図示している。30度回転YカットX伝搬のニオブ酸リチウム基板である圧電材料10上に、銅からなる電極12が設けられている。電極12は1対の櫛型電極である櫛型電極対(IDT:Interdigital Transducer)IDT0と反射器R0であるグレーティング電極である。電極12を被覆するように酸化シリコン膜からなる第1誘電体膜14が設けられている。第1誘電体膜14上に、酸化アルミニウム膜からなる第3誘電体膜16が設けられている。櫛型電極対IDT0は反射器R0の間に設けられている。櫛型電極対IDT0の一方の櫛型電極に高周波信号を印加すると、圧電材料10表面および第1誘電体膜14内に弾性境界波が励振される。弾性境界波は櫛型電極の周期λと弾性境界波の伝搬速度で決まる周波数で共振する。櫛型電極対IDT0の他方の櫛型電極に共振周波数の高周波信号が励起する。これによりフィルタとして機能する。第3誘電体膜16を第1誘電体膜14より音速の速い材料とすることにより、圧電材料10表面および第1誘電体膜14内に弾性境界波を閉じ込めることができる。
【0020】
図3は図2に係る共振器の共振周波数と反共振周波数を酸化シリコン膜厚に対するTCFについて示した図である。図中黒丸、白丸は測定結果を示し、実線、破線は近似直線を示す。なお、酸化アルミニウム膜厚は2μmである。
【0021】
図3を参照に、反共振周波数と共振周波数とでは酸化シリコン膜厚に対するTCFの関係が異なっている。反共振周波数は酸化シリコン膜厚が約0.8λのときTCFがほぼ0となる。一方、共振周波数は酸化シリコン膜厚が約0.6λのときTCFがほぼ0となる。このように、反共振周波数と共振周波数とでTCFが0となる酸化シリコン膜厚が異なる。したがって、同じ酸化シリコン膜では、反共振周波数のTCFと共振周波数のTCFとをともにほぼ0とすることができない。例えば、ラダー型フィルタでは、直列共振器の反共振点が通過帯域の高周波側の減衰極を形成し、並列共振器の共振点が通過帯域の低周波側の減衰極を形成する。このため、ラダー型フィルタにおいて、図1の通過帯域の高周波側の肩aのTCFをほぼ0としても、通過帯域の低周波側の肩bのTCFは十分には改善できない。
【0022】
弾性境界波デバイスのTCFは、圧電材料10および第1誘電体膜14の機械電気結合係数および誘電率の温度変化に起因する。共振周波数と反共振周波数とでは、これらの温度変化のTCFへの寄与度が異なるため、図3のように共振周波数と反共振周波数とでTCFが異なるものと考えられる。
【0023】
本発明は、反共振点を減衰極として用いる弾性波デバイスと共振点を減衰極として用いる弾性波デバイスとで第1誘電体膜14の膜厚を異ならせる。これにより、反共振点よりなる減衰極と共振点よりなる減衰極との両方のTCFを改善することを原理とする。
【実施例1】
【0024】
実施例1は1.9GHz帯のラダー型フィルタの例である。図4は比較例1に係るラダー型フィルタの平面模式図である。図4を参照に、黒塗り領域は圧電材料10上に形成された電極12および共振器を接続する配線11を示している。入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、直列共振器S1からS3が直列に接続されている。直列共振器S1とS2との間とグランドとの間に並列共振器P1が接続され、直列共振器S2とS3との間とグランドとの間に並列共振器P2が接続されている。直列共振器S1からS3および並列共振器P1およびP2は、櫛型電極対IDT0の両側に反射器R0を設けた1ポート型共振器である。直列共振器S1からS3および並列共振器P1およびP2には後述する誘電体積層膜18が設けられている。なお、電極12は、誘電体積層膜18を透過して図示している。
【0025】
図5は比較例1の直列共振器S1からS3並びに並列共振器P1およびP2の断面模式図である。30度回転YカットX伝搬のニオブ酸リチウム基板からなる圧電材料10上に銅(Cu)を主成分とし膜厚が180nmの電極12が設けられている。電極12の周期λは2μm、幅は0.5μmで形成されている。電極12を被覆するように膜厚1.26μmの酸化シリコン膜からなる第1誘電体膜14が設けられ、第1誘電体膜14上に膜厚が2μmの酸化アルミニウム膜からなる第3誘電体膜16が設けられている。第1誘電体膜14および第3誘電体膜16は誘電体積層膜18を構成する。
【0026】
図6は実施例1に係るラダー型フィルタの平面図である。比較例1の図4に対し、並列共振器P1およびP2には誘電体積層膜18aが設けられ、直列共振器S1からS3には誘電体積層膜18bが設けられている。図7は実施例1の断面模式図である。比較例1の図5に対し、並列共振器P1およびP2においては、膜厚が1.26μmの酸化シリコン膜である第1誘電体膜14aが電極12aを被覆して設けられている。第1誘電体膜14aと第1誘電体膜14a上に設けられた第3誘電体膜16は誘電体積層膜18aを形成する。一方、直列共振器S1からS3においては、膜厚が1.6μmの酸化シリコン膜である第2誘電体膜14bが電極12bを被覆して設けられている。このように、第2誘電体膜14bは第1誘電体膜14aよりh1として0.34μm厚い。第2誘電体膜14bと第2誘電体膜14b上に設けられた第3誘電体膜16は誘電体積層膜18bを形成する。その他の構成は比較例1と同じであり説明を省略する。
【0027】
比較例1においては、直列共振器S1からS3と並列共振器P1およびP2との第1誘電体膜の膜厚が同じである。このため、図3より、直列共振器S1からS3の反共振周波数のTCFと並列共振器P1およびP2の共振周波数のTCFとは20ppm程度異なる。よって、通過帯域の低周波側の肩(並列共振器の共振周波数に相当する)のTCFをほぼ0としても、通過帯域の高周波側の肩(直列共振器の反共振周波数に相当する)のTCFは−20ppm/℃程度になってしまう。
【0028】
実施例1においては、直列共振器S1からS3の第2誘電体膜14bの膜厚が並列共振器P1およびP2の第1誘電体膜14aの膜厚より厚い。このため、並列共振器P1およびP2の共振周波数並びに直列共振器S1からS3の反共振周波数のTCFをほぼ0とすることができる。
【0029】
実施例1に係るラダー型フィルタは、並列共振器P1およびP2は、圧電材料10上に設けられた電極12a(第1櫛形電極)と、電極12aを被覆し設けられた第1誘電体膜14aと、を有する。また、直列共振器S1からS3は、圧電材料10上に設けられた電極12b(第2櫛型電極)と、電極12bを被覆し設けられた第1誘電体膜14aと同じ材料で異なる膜厚の第2誘電体膜14bと、を有する。これにより、第1誘電体膜14aと第2誘電体膜14bとの膜厚を適宜設定することにより、通過帯域の両側の肩のTCFをともに改善することができる。
【0030】
圧電材料10としてニオブ酸リチウム基板を用い、第1誘電体膜14aおよび第2誘電体膜14bとして酸化シリコン膜を用いた場合について考える。図3を参照に、共振器の酸化シリコン膜厚が同じ場合、反共振周波数のTCFをほぼ0とすると、共振周波数のTCFは約20ppm/℃となる。そこで、共振周波数のTCFの絶対値を半分の10ppm/℃以下にしようとすると、酸化シリコン膜厚を0.1λから0.3λ小さくすることとなる。このように、第1誘電体膜14aの膜厚と第2誘電体膜14bの膜厚とは0.1λから0.3λ異なることが好ましい。
【実施例2】
【0031】
実施例2は1ポート共振器と多重モードフィルタとを直列に接続したフィルタの例である。図8は実施例2に係るフィルタの平面模式図である。第1弾性波フィルタF1の断面模式図は、実施例1の図7の並列共振器と同様であり、第2弾性波フィルタF2の断面模式図は、実施例1の図7の直列共振器と同様であるため図7を用い説明する。図8を参照に、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に第1弾性波フィルタF1と第2弾性波フィルタF2とが直列に接続されている。第1弾性波フィルタF1は、櫛型電極対IDT0の両側に反射器R0が設けられた1ポート共振器である。櫛型電極対IDT0は入力端子Tinと第2弾性波フィルタF2の入力IDT1とに接続されている。第1弾性波フィルタF1には第1誘電体膜14aと第3誘電体膜16との積層膜である誘電体積層膜18aが設けられている。第1弾性波フィルタF1の電極12aの膜厚は180nm,電極周期は2μm、電極幅は0.5μmであり、第1誘電体膜14aの膜厚は1.26μm、第3誘電体膜16の膜厚は2μmである。
【0032】
第2弾性波フィルタF2は入力IDT1の両側に出力IDT2、出力IDT2の外側に反射器R1が設けられた2重モードフィルタ(DMS)である。入力IDT1は第1弾性波フィルタF1のIDT0に接続され、出力IDT2は出力端子Toutに接続されている。第2弾性波フィルタF2には第2誘電体膜14bと第3誘電体膜16との積層膜である誘電体積層膜18bが設けられている。第2弾性波フィルタF2の電極12bの膜厚は180nm,電極周期は1.9μm、電極幅は0.5μmであり、第2誘電体膜14bの膜厚は1.6μm、第3誘電体膜16の膜厚は2μmである。
【0033】
実施例2においては、第1弾性波フィルタF1の共振点が通過帯域の低周波側の減衰極を形成し、第2弾性波フィルタF2の反共振点が通過帯域の高周波側の減衰極を形成している。よって、実施例1と同様に、第1誘電体膜14aと第2誘電体膜14bとの膜厚を適宜設定することにより、通過帯域の両側の肩のTCFをともに改善することができる。
【実施例3】
【0034】
実施例3は多重モードフィルタが直列に接続した(つまり縦続接続した)フィルタの例である。図9は実施例3に係るフィルタの平面模式図である。断面模式図は、実施例2と同様に実施例1の図7と同様であるため、図7を用い説明する。図9を参照に、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に第1弾性波フィルタF3と第2弾性波フィルタF4とが直列に接続されている。第1弾性波フィルタF3は、入力IDT1の両側に出力IDT2、出力IDT2の外側に反射器R1が設けられた2重モードフィルタである。入力IDT1は入力端子Tinに接続され、出力IDT2は第2弾性波フィルタF4の入力IDT3に接続されている。第1弾性波フィルタF3には第1誘電体膜14aと第3誘電体膜16との積層膜である誘電体積層膜18aが設けられている。第1弾性波フィルタF3の電極12aの膜厚は180nm,電極周期は2μm、電極幅は0.5μmであり、第1誘電体膜14aの膜厚は1.26μm、第3誘電体膜16の膜厚は2μmである。
【0035】
第2弾性波フィルタF4は、出力IDT4の両側に入力IDT3、入力IDT3の外側に反射器R2が設けられた2重モードフィルタである。入力IDT3は第1弾性波フィルタF3の出力IDT2に接続され、出力IDT4は出力端子Toutに接続されている。第2弾性波フィルタF4には第2誘電体膜14bと第3誘電体膜16との積層膜である誘電体積層膜18bが設けられている。第2弾性波フィルタF4の電極12bの膜厚は180nm,電極周期は1.9μm、電極幅は0.5μmであり、第2誘電体膜14bの膜厚は1.6μm、第3誘電体膜16の膜厚は2μmである。
【0036】
実施例3においては、第1弾性波フィルタF3の共振点が通過帯域の低周波側の減衰極を形成し、第2弾性波フィルタF4の反共振点が通過帯域の高周波側の減衰極を形成している。よって、実施例1と同様に、第1誘電体膜14aと第2誘電体膜14bとの膜厚を適宜設定することにより、通過帯域の両側の肩のTCFをともに改善することができる。
【0037】
実施例2および実施例3のように、共振点が通過帯域の低周波側の減衰点を形成している第1弾性波フィルタF1、F3と、反共振点が通過帯域の高周波側の減衰点を形成している第2弾性波フィルタF2、F4と、が直列に接続された弾性波フィルタにおいて、第1弾性波フィルタF1、F3の電極12a(第1櫛型電極)を被覆し設けられた第1誘電体膜14aと、第2弾性波フィルタF2、F4の電極12b(第2櫛型電極)を被覆し設けられた第2誘電体膜14bとを異なる膜厚とすることができる。これにより、第1誘電体膜14aと第2誘電体膜14bとの膜厚を適宜設定することにより、通過帯域の両側の肩のTCFをともに改善することができる。
【実施例4】
【0038】
実施例4は分波器の例である。図10は実施例4に係る分波器の平面模式図である。第1弾性波フィルタF5の断面模式図は、実施例1の図7の並列共振器と同様であり、第2弾性波フィルタF6の断面模式図は、実施例1の図7の直列共振器と同様であるため図7を用い説明する。図10を参照に、共通端子Antと第1端子T1との間に高周波側フィルタである第1弾性波フィルタF5が接続されている。共通端子Antと第2端子T2との間に低周波側フィルタである第2弾性波フィルタF6が接続されている。共通端子Antと第1弾性波フィルタF5および第2弾性波フィルタF6の少なくとも一方との間には整合回路(不図示)が設けられている。
【0039】
第1弾性波フィルタF5は共通端子Antと第1端子T1との間に直列共振器S11からS13が直列に接続され、並列共振器P11およびP12が並列に接続されている。第1弾性波フィルタF5には第1誘電体膜14aと第3誘電体膜16との積層膜である誘電体積層膜18aが設けられている。第1誘電体膜14aの膜厚は1.26μm、第3誘電体膜16の膜厚は2μmである。
【0040】
第2弾性波フィルタF6は共通端子Antと第2端子T2との間に直列共振器S21からS23が直列に接続され、並列共振器P21およびP22が並列に接続されている。第2弾性波フィルタF6には第2誘電体膜14bと第3誘電体膜16との積層膜である誘電体積層膜18bが設けられている。第2誘電体膜14bの膜厚は1.6μm、第3誘電体膜16の膜厚は2μmである。
【0041】
図11は分波器の通過特性の模式図である。分波器の第1弾性波フィルタF5の通過特性と第2弾性波フィルタF6の通過特性は中心周波数が異なっている。分波器のフィルタにおいては、阻止帯域(例えば第1弾性波フィルタF5において、第2弾性波フィルタF6の通過帯域)において減衰量を大きく保つことが求められる。阻止帯域と相手フィルタの通過帯域とのTCFが異なると、阻止帯域と相手フィルタの通過帯域との重なりがずれ、相手フィルタの通過帯域での抑圧が不十分となる。特に、第1弾性波フィルタF5の通過帯域の低周波側の肩cと第2弾性波フィルタF6の通過帯域の高周波側の肩d付近では減衰量を急峻にしている。このため肩cと肩dとのTCFが異なると、相手フィルタの通過帯域での抑圧が急激に悪化する。よって、肩cと肩dとのTCFをほぼ0とすることが好ましい。
【0042】
実施例4の分波器は、第1弾性波フィルタF5の第1誘電体膜14aと第2弾性波フィルタF6の第2誘電体膜14bとの膜厚が異なる。これにより、第1誘電体膜14aと第2誘電体膜14bとの膜厚を適宜設定することにより、第1弾性波フィルタF5および第2弾性波フィルタF6の阻止帯域と相手フィルタの通過帯域とのTCFをともに改善することができる。特に、第1弾性波フィルタF5の並列共振器P11およびP12の第1誘電体膜14aに対し、第2弾性波フィルタF6の直列共振器S21からS23の第2誘電体膜14bの膜厚が厚く形成されている。これにより、第1弾性波フィルタF5の通過帯域の低周波側の肩cと第2弾性波フィルタF6の通過帯域の高周波側の肩dとのTCFをともにほぼ0とすることができる。よって、温度により、相手フィルタの通過帯域での抑圧が急激に悪化することを抑制することができる。
【0043】
実施例1から実施例4においては、第1誘電体膜14aおよび第2誘電体膜14b上に第1誘電体膜14aおよび第2誘電体膜14bより音速の速い第3誘電体膜16を有する。これにより、弾性境界波を圧電材料10表面および第1誘電体膜14aまたは第2誘電体膜14bに閉じ込めた弾性波フィルタにおいて、通過帯域の両側の肩のTCFをともに改善することができる。
【0044】
実施例1から実施例3のフィルタおよび実施例4の分波器には、図12のようなラブ波を用いた弾性波デバイスに適用することもできる。図12を参照に、第2誘電体膜14bは第1誘電体膜14aに対し膜厚がh2厚い。また、実施例1の図7に対し、第3誘電体膜16が設けられていない。図12の弾性波デバイスにおいても、弾性波は圧電材料10表面および第1誘電体膜14aおよび第2誘電体膜14b内を伝搬する。よって、実施例1から実施例4と同様に、第1誘電体膜14aと第2誘電体膜14bとの膜厚を異なるように形成することにより、通過帯域の肩のTCFをともに改善することができる。
【0045】
実施例1から実施例4において、第1誘電体膜14aおよび第2誘電体膜14bは酸化シリコン膜には限られないが、酸化シリコン膜であることが好ましい。
【0046】
圧電材料10はニオブ酸リチウム基板を例に説明した。図13は図3に対し、圧電材料をタンタル酸リチウム基板とした場合の共振周波数および反共振周波数の酸化シリコン膜厚に対するTCFを示した図である。図3と同様に、共振周波数と反共振周波数とでは酸化シリコン膜厚に対するTCFが異なる。よって、タンタル酸リチウム基板を圧電材料として用いた場合も実施例1から実施例4のように、第1誘電体膜14aと第2誘電体膜14bとの膜厚を異なるように形成することにより、通過帯域の肩のTCFをともに改善することができる。弾性波は圧電材料10表面および第1誘電体膜14aおよび第2誘電体膜14b内を伝搬する。このため、他の圧電材料を用いた場合も、実施例1から実施例4と同様の効果を奏することができる。
【0047】
電極12aおよび12bは第1誘電体膜14aおよび第2誘電体膜14bより密度の大きい材料であることが好ましい。電極12aおよび12bを第1誘電体膜14より密度の大きい元素で構成することにより、電極12による十分な弾性波の反射を得ることができる。これにより、電極12a、12bの膜厚を薄くすることができる。よって、電極12aおよび12bは銅を含むことが好ましい。
【0048】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1はフィルタの通過特性の模式図である。
【図2】図2(a)は弾性境界波を用いた共振器の平面図、図2(b)は図2(a)のA−A断面図である。
【図3】図3はニオブ酸リチウムを用いた場合の酸化シリコン膜厚に対する共振周波数および反共振周波数のTCFである。
【図4】図4は比較例1に係るフィルタの平面模式図である。
【図5】図5は比較例1に係るフィルタの断面模式図である。
【図6】図6は実施例1に係るフィルタの平面模式図である。
【図7】図7は実施例1に係るフィルタの断面模式図である。
【図8】図8は実施例2に係るフィルタの平面模式図である。
【図9】図9は実施例3に係るフィルタの平面模式図である。
【図10】図10は実施例4に係る分波器の平面模式図である。
【図11】図11は分波器の通過特性の模式図である。
【図12】図12はラブ波を用いた弾性波デバイスの断面模式図である。
【図13】図13はタンタル酸リチウムを用いた場合の酸化シリコン膜厚に対する共振周波数および反共振周波数のTCFである。
【符号の説明】
【0050】
10 圧電材料
12、12a、12b 電極
14、14a 第1誘電体膜
14b 第2誘電体膜
16 第3誘電体膜
18、18a、18b 誘電体積層膜
S1、S2、S3 直列共振器
P1、P2 並列共振器
Ant 共通端子
F1、F3、F5 第1弾性波フィルタ
F2、F4、F6 第2弾性波フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料上に設けられた第1櫛形電極と、該第1櫛型電極を被覆し設けられた第1誘電体膜と、を有する並列共振器と、
前記圧電材料上に設けられた第2櫛型電極と、該第2櫛型電極を被覆し設けられ前記第1誘電体膜と同じ材料で異なる膜厚の第2誘電体膜と、を有する直列共振器と、を具備することを特徴とするフィルタ。
【請求項2】
圧電材料上に設けられた第1櫛形電極と、該第1櫛型電極を被覆し設けられた第1誘電体膜と、を有する第1弾性波フィルタと、
前記圧電材料上に設けられた第2櫛型電極と、該第2櫛型電極を被覆し設けられ前記第1誘電体膜と同じ材料で異なる膜厚の第2誘電体膜と、を有し、前記第1弾性波フィルタと直列に接続された第2弾性波フィルタと、を具備することを特徴とするフィルタ。
【請求項3】
前記第1弾性波フィルタは1ポート共振器であり、前記第2弾性波フィルタは多重モード弾性波フィルタであることを特徴とする請求項2記載のフィルタ。
【請求項4】
前記第1弾性波フィルタおよび前記第2弾性波フィルタは多重モード弾性波フィルタであることを特徴とする請求項2記載のフィルタ。
【請求項5】
前記第1誘電体膜および前記第2誘電体膜上に前記第1誘電体膜および前記第2誘電体膜より音速の速い第3誘電体膜を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載のフィルタ。
【請求項6】
前記第1誘電体膜および前記第2誘電体膜は酸化シリコン膜であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載のフィルタ。
【請求項7】
前記圧電材料はニオブ酸リチウムまたはタンタル酸リチウムであることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載のフィルタ。
【請求項8】
前記第1櫛型電極および前記第2櫛型電極は銅を含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載のフィルタ。
【請求項9】
共通端子に接続され、圧電材料上に設けられた第1櫛形電極と、該第1櫛型電極を被覆し設けられた第1誘電体膜と、を有する第1弾性波フィルタと、
前記共通端子に接続され、前記圧電材料上に設けられた第2櫛型電極と、該第2櫛型電極を被覆し設けられ前記第1誘電体膜と同じ材料で異なる膜厚の第2誘電体膜と、を有する第2弾性波フィルタと、を具備することを特徴とする分波器。
【請求項10】
前記第1誘電体膜および前記第2誘電体膜上に前記第1誘電体膜および前記第2誘電体膜より音速の速い第3誘電体膜を有することを特徴とする請求項9記載の分波器。
【請求項11】
前記第1誘電体膜および前記第2誘電体膜は酸化シリコン膜であることを特徴とする請求項9または10記載の分波器。
【請求項12】
前記圧電材料はニオブ酸リチウムまたはタンタル酸リチウムであることを特徴とする請求項9から11のいずれか一項記載の分波器。
【請求項13】
前記第1櫛型電極および前記第2櫛型電極は銅を含むことを特徴とする請求項9から12のいずれか一項記載の分波器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−79227(P2008−79227A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258956(P2006−258956)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(398067270)富士通メディアデバイス株式会社 (198)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】