説明

フィルター式モノクロメータ

【課題】多数のフィルターを装着し、且つ短時間でフィルター切換えが可能な、フィルター式モノクロメータの提供
【解決手段】光学干渉フィルター1が多重の同心円にそって設けた複数の貫通孔にそれぞれ着脱自在に配設された円盤状のターレット10と、ターレット10を周方向に回転させるための第1のモータ30と、ターレットを水平方向に移動させる並行する2本のガイドシャフト40と、シャフト軸方向移動自在の水平移動部材42と、を具備し、光源ランプユニットから集光レンズを介して照射する光路の位置を固定して、その光路の位置を基準にして、前記第1及び第2のモータ30,70を駆動して前記ターレット10を周方向に移動させ、所望の光学干渉フィルター1に逐次切換えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学干渉フィルターとその切替機構を設けた分光装置に関し、より詳しくは波長帯の異なる複数の光学干渉フィルターを円盤状の多重の同心円周にそって多数設けたターレットを用い、そのターレットを回転及び水平方向に移動させて、所望の光学干渉フィルターに逐次切換える切換機構を備えた分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分光技術には(a)プリズム、(b)回析格子、(c)光学干渉フィルターを用いた装置がある。
【0003】
(a)プリズム式は、回析格子を用いた分光装置より明るいが、波長分離が波長の逆数に比例し、従って長波長側での分離能力が低い欠点がある。
【0004】
(b)回析格子による分光装置は、波長分離、波長走査時間についてはプリズム式より優れているが、回析の高次光に入射光線が分かれるため使おうとする光量が減る欠点がある。また、スリットと呼ばれる細い窓を通過させる構成となるので、明るい分光装置の製造が難しい問題があった。
【0005】
(c)光学干渉フィルターは、従来のフィルター技術にあっては、構造上その波長(周波数特性)が使用環境によって時間経過と共に変化する「Aging」と呼ばれる現象が生じるため、高性能な分光装置に用いることが難しい問題があった。
【0006】
以上のように、従来の(a)、(b)の分光装置では「明るさ」と「波長選別走査時間、迷光」が取り合って、両者の性能を同時に満足させることは難しかった。
【0007】
しかし、最近は(c)光学干渉フィルターの欠点が解消されて精度が高く安定したフィルターの製造が可能となった。従って(a)プリズム式より波長分離能力が高く、(b)回析格子式より数十倍の明るさを有するフィルター式分光装置ができるようになった。
【0008】
一般に分光装置として求められている性能項目を以下に示す。
(1)分光した光をできるだけ多く集められる明るい系である。
(2)波長選別が多く出来る。
(3)波長選択(波長切換走査)が素早く出来る。
(4)迷光が少ない。
【0009】
そこで、フィルター式分光装置には、(2)項の波長選別性能の向上にはフィルター数を多くすることが求められる。しかし、波長選別性能は、フィルターの数に依存するが、装着するフィルター数を増やすことは容易ではなかった。しかし、フィルター式は、分光されて強い光を必要とする分野(拡散・光反射率の測定、蛍光測定、センサーなどの校正用分光光源など)での応用が望まれていた。
【0010】
特許文献1は、顕微鏡に設けたバンドパスフィルターや偏光フィルターなどの光学要素の切り替えターレットに関するもので、偏光フィルターの回転方向の位置決め調整もあり、必要とする第1、第2の光学要素を切り替えターレットの4つの開口部に回転させながら、着脱自在に取り付け、取替える構成の発明である。
【0011】
特許文献2は、複数種類の励起フィルターを備えたターレットと、ダイクロイックミラーを備えたターレットと、吸収フィルターを備えたターレットとをそれぞれ独立して回転させて、種々の組み合わせの光路幅の一つを選択可能とした構成の発明である。
【0012】
特許文献3は、多角錘形状のターレットに光学要素(励起フィルターと吸収フィルター)を取り付け、ターレットを回転させて切換える構成の装置の発明である。以上いずれの発明にあっても、フィルター切換え、或は取替えの際に時間がかかる問題があった。
【0013】
このため、測定部のある位置から離れた場所へ置かれた多数のフィルター群のひとつを選別可能に、且つ切換え・セット時間の短い構造のフィルター式分光装置が望まれていた。
【0014】
【特許文献1】特開2002−31763号公報(第2頁、第1図)
【特許文献2】特開平8−94940号公報(第2、3頁、第1図)
【特許文献3】特開2001−208981号公報(第2、3頁、第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
多数のフィルターを装着し、且つ短時間でフィルター切換えが可能な、フィルター式モノクロメータの提供。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するため本発明のフィルター式モノクロメータは、波長帯の異なる複数の光学干渉フィルターとその切替機構を設けた分光装置であって、
前記光学干渉フィルターと、それらが多重の同心円にそって設けた複数の貫通孔にそれぞれ着脱自在に配設された円盤状のターレットと、
そのターレットを周方向に回転させるための第1のモータと、
その第1のモータの回転軸に接続された回転円板と、
その回転円板に前記ターレットを着脱自在に固定させる接続部材と、
前記ターレットを水平方向に移動させる並行する2本のガイドシャフトと、
それらのガイドシャフトを水平に支持するため、該分光装置架台上に2ヶ所で固定され、そのガイドシャフトの両端をそれぞれ支持するガイドシャフト支持部材と、
前記2本のガイドシャフトの上に跨って、且つ囲むように設けられ、それぞれのガイドシャフトとの対向面はリニアベアリングを介して接触させ、シャフト軸方向移動自在の水平移動部材と、
その水平移動部材に前記第1のモータを連結させるために水平移動部材の上に載せて固定すると共に、前記第1のモータ外囲器の周縁部の把持部材を結合固定する連結部材と、
前記水平移動部材を水平方向へ移動させるため、その水平移動部材を接続部材で接続したテープ状のベルトと、
そのベルトを回転させる第1及び第2の滑車と、
その第1の滑車を回転させる回転軸に接続する第2のモータと、を具備し、
光源ランプユニットから集光レンズを介して照射する光路の位置を固定して、その光路の位置を基準にして、前記第1及び第2のモータを駆動して前記ターレットを周方向に移動させ、所望の光学干渉フィルターに逐次切換えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフィルター式モノクロメータによれば、ターレットに多重にフィルターを配設しているので、回転するターレットの円盤面の単位面積当たりのフィルターを従来と比較して増加させ、さらに、その円盤面の一つのフィルターを通過する光路の位置を固定して、その光路位置を基準としてその円盤面の径方向X及び周方向θをそれぞれモータを駆動して移動させ、所望のフィルターに短時間で切換え可能な分光装置となる。
【0018】
ターレットが多重円周形ターレットであることにより、多くのフィルターを集中して配置することができ、多くの波長選別性能を備えた分光装置とすることができる。
【0019】
コンピュータ制御を利用して、各フィルターのそれぞれの位置座標(X、θ)を予め記憶装置にメモリーし、表示部で必要なフィルターをクリックすれば、直ちにそのフィルターを計測光路位置へ自動的にセットさせることが可能な装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の最良の実施の形態を、図に基づいて詳細に説明する。図1は本発明のフィルター式モノクロメータを示す斜視図である。図2は図1に示した本発明のフィルター式モノクロメータの構造を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。図3は、図2に示したフィルター式モノクロメータの構造を示し、(a)は左側面図、(b)は右側面図である。以下図1、図2、図3を参照して説明する。
【0021】
符号1は、光学干渉フィルター、10はそれらの光学干渉フィルター1を配設した円盤状のターレットを示す。10aはその光学干渉フィルター1を着脱自在に設置できる貫通孔である。
【0022】
それら貫通孔10aは、多重の円周上にそってそれぞれ配設されている。図1、図2、図3の例では4重の円周上にそって複数設けられている。
【0023】
最外周の貫通孔列は、11−1、11−2、11−3・・・・・11−AのA個の貫通孔10aからなる。
【0024】
次の一つ内側の貫通孔列は、12−1、12−2、12−3・・・・、12−BのB個の貫通孔10aからなる。図1の実施例では、最内周の貫通孔列は14−1、14−2、14−3・・・、14−DのD個の貫通孔10aからなる。
【0025】
すなわち、この実施の形態の多重円周形のターレット10には、A+B+C+D個の貫通孔10aがあり、それらの総数A+B+C+D個の光学干渉フィルター1をセットすることができる。
【0026】
30は、そのターレット10を回転駆動させる第1のモータであり、31は、第1のモータ30の回転軸に接続されている回転円板である。
【0027】
ターレット10は、その回転円板31に複数のネジ留め等の接続部材30aで着脱自在に固定されている。
【0028】
40は、ターレット10を水平方向に移動させる並行する2本のガイドシャフトを示す。
【0029】
それらのガイドシャフト40を水平に支持するため、この分光装置を設置する架台80の上にガイドシャフト支持部材41がある。
【0030】
ガイドシャフト支持部材41は、所定の間隔を保ち、架台80上に固定され、そのガイドシャフト支持部材41、41の間には前記ガイドシャフト40が2本並行して、且つそのガイドシャフト40の両端はそれらガイドシャフト支持部材41のそれぞれの内側に設けた挿入口へ挿入された状態で水平方向を維持するように固定されている。
【0031】
42は、水平移動部材であり、2本のガイドシャフト40の上に跨って、且つ、それを囲むように設けられている。
【0032】
それぞれのガイドシャフト40との対向面はリニアベアリング等を介して接触させシャフト軸方向への水平移動をスムーズにしている。
【0033】
50は、その水平移動部材42にターレット10が接続されている第1のモータ30を連結させる連結部材である。
【0034】
連結部材50は、水平移動部材42の上に載せられ固定させると共に、第1のモータ30の外囲器の周縁部を把持する左右2枚の把持部材51、51の下端を結合固定する固定部材51aを介して連結させる。なお、連結部材50と把持部材51を一体として製造してもよい。
【0035】
水平移動部材42を水平方向へ(シャフト40の軸方向・X方向)へ直線運動させるため、水平移動部材42をネジ留などの接続部材で接続したエンドレス状のベルト60と、そのベルト60を回転させる第1及び第2の滑車61と、第1の滑車を回転させる回転軸に接続する第2のモータ70とから水平移動機構を構成している。
【0036】
ここで、第1の滑車61は第2のモータ70を収納固定する第2のモータ把持部材71の上側にあり、第2のモータ70の回転中心軸と第1の滑車61の回転中心軸はギアで回転数を低減させて接続されている。
【0037】
90aは光源ランプユニットを示し、90bはその集光レンズ系を示す。90は前述した光路を示し、その光路位置は固定しておく。その光路90位置を基準として前記第1のモータ30及び第2のモータ70を駆動してターレット10を回転方向(円周方向)θ及び水平方向(径方向)Xに回転及び水平移動させ、所望の光学干渉フィルタに逐次短時間に切換える。
【0038】
この様な構造としたことにより、この実施例においては、従来のモノクロメータに比べおおよそ10倍の高性能干渉フィルターが装着可能となり、さらにそれらを短時間で切換えることにより波長選別性能の高いモノクロメータを得ることができる。
【0039】
尚、本発明のフィルター式モノクロメータは、マイクロコンピュータ制御部と組み合わせれば容易に電子制御分光器とすることができる。
【0040】
すなわち多重円周形のターレットの各フィルターのそれぞれの位置座標(X、θ)を予めコンピュータ制御部の記憶装置にフィルターと座標位置の関係を記録する座標ファイルを備え、その表示部で座標一覧表を表示させ、その表の中から所望するフィルターをクリックすれば、自動的に第1及び第2のモータ30、70が駆動されて、前記光路位置90にクリックしたフィルターがセットされる。
【0041】
尚、ターレット10の貫通孔10aへ光学干渉フィルター1を挿入する際、嵌合する構成でもよく或は貫通孔10aの内側に雌ネジを切、フィルター1の外側は雄ネジとしてセットするようにしてもよい。後者の場合は、干渉フィルターの角度を容易に調整することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明のフィルター式モノクロメータを示す斜視図である。
【図2】本発明のフィルター式モノクロメータの構造を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図3】図2に示したフィルター式モノクロメータの構造を示し、(a)は左側面図、(b)は右側面図である。
【符号の説明】
【0043】
X 水平方向
θ 周方向
1 光学干渉フィルター
10 ターレット
10a 貫通孔
11−1,11−2・・・・最外周の貫通孔列
12−1、12−2・・・・次の外周の貫通孔列
30 第1のモータ
31 回転円板
31a 接続部材
40 ガイドシャフト
41 ガイドシャフト支持部材
42 水平移動部材
42a リニアベアリング
50 連結部材
50a 接続部材
51 モータ外囲器把持部材
51a 固定部材
60 ベルト
61 第1及び第2の滑車
70 第2のモータ
71 第2のモータ把持部材
80 架台(分光装置設置架台)
90 光路
100 フィルター式モノクロメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長帯の異なる複数の光学干渉フィルターとその切替機構を設けた分光装置であって、
前記光学干渉フィルターと、それらが多重の同心円にそって設けた複数の貫通孔にそれぞれ着脱自在に配設された円盤状のターレットと、
そのターレットを周方向に回転させるための第1のモータと、
その第1のモータの回転軸に接続された回転円板と、
その回転円板に前記ターレットを着脱自在に固定させる接続部材と、
前記ターレットを水平方向に移動させる並行する2本のガイドシャフトと、
それらのガイドシャフトを水平に支持するため、該分光装置架台上に2ヶ所で固定され、そのガイドシャフトの両端をそれぞれ支持するガイドシャフト支持部材と、
前記2本のガイドシャフトの上に跨って、且つ囲むように設けられ、それぞれのガイドシャフトとの対向面はリニアベアリングを介して接触させ、シャフト軸方向移動自在の水平移動部材と、
その水平移動部材に前記第1のモータを連結させるために水平移動部材の上に載せて固定すると共に、前記第1のモータ外囲器の周縁部の把持部材を結合固定する連結部材と、
前記水平移動部材を水平方向へ移動させるため、その水平移動部材を接続部材で接続したテープ状のベルトと、
そのベルトを回転させる第1及び第2の滑車と、
その第1の滑車を回転させる回転軸に接続する第2のモータと、を具備し、
光源ランプユニットから集光レンズを介して照射する光路の位置を固定して、その光路の位置を基準にして、前記第1及び第2のモータを駆動して前記ターレットを周方向に移動させ、所望の光学干渉フィルターに逐次切換えることを特徴とするフィルター式モノクロメータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−343295(P2006−343295A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−171705(P2005−171705)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(300021633)朝日分光株式会社 (7)
【Fターム(参考)】