説明

フィルタ及びその製造方法

【課題】NO浄化性能に優れ、粒子状物質の捕集効率が高く、圧力損失の小さいフィルタを提供する。
【解決手段】流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム形状の基材と、所定のセルの一方の端部と残余のセルの他方の端部とに配設された目封止部とを備え、隔壁が、金属イオンによりイオン交換されたゼオライトを含有し、隔壁に含有されるゼオライトの金属イオン含有量が、2〜10質量%であり、隔壁の気孔率が45〜65%であり、隔壁の平均細孔径が10〜35μmであるフィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、NO浄化性能に優れ、粒子状物質の捕集効率が高く、圧力損失の小さいフィルタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車排ガスに含有されるNOの排出量の規制強化により、排ガス中の粒子状物質(Particulate Matter:PM)を捕集するためのフィルタ(Diesel Particulate Filter:DPF)の上流側又は下流側に配置されたNO浄化触媒の、触媒量を増加させる必要性が高まっている。NO浄化触媒としては、例えば、選択還元触媒(Selective Catalytic Reduction:SCR)が使用されている。また、フィルタとしては、コージェライト等により形成されたハニカム形状の構造体(ハニカム構造体)が好適に使用されている。
【0003】
しかし、フィルタの上流側又は下流側にNO浄化触媒を配置する排ガス浄化システムにすると、排ガス浄化システムの全長が長くなるという問題があった。
【0004】
これに対し、排ガス浄化システムの全長を短くし、コスト削減することを目的に、フィルタにNO浄化触媒を担持し、フィルタにPM捕集機能とNO浄化機能との両方を付与する方法が開示されている(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【0005】
このように、フィルタにNO浄化触媒を担持する場合であっても、NO規制強化に対応するためには、NO浄化触媒の触媒量は増量しなければならない。そして、多量のNO浄化触媒をフィルタに担持すれば、圧力損失は高くなる。また、フィルタにNO浄化触媒を担持する場合、NO浄化触媒を単純にフィルタに担持したのでは、PM捕集機能が損なわれるという問題があった。従って、フィルタにNO浄化触媒を担持する場合には、フィルタの入口流路壁面上及び入口流路壁面内でのPM捕集機能を損なわないように、フィルタ出口流路壁面上及び入口流路壁面内にNO浄化触媒を選択的に担持する必要がある(例えば、特許文献4、5を参照)。
【0006】
一方、フィルタ(ハニカム構造体)自体を、金属イオンによりイオン交換処理されたゼオライトを含む成形原料を成形、焼成して、形成する方法が開示されている(例えば、特許文献6、7を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−291764号公報
【特許文献2】特開2007−170388号公報
【特許文献3】特開2006−274986号公報
【特許文献4】特開2006−183507号公報
【特許文献5】特開2009−247931号公報
【特許文献6】特開2007−296521号公報
【特許文献7】特開2007−296514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献7に記載の触媒体は、ゼオライトを含有するハニカム構造体のセルが目封止部により封止され、触媒体に流入する排気ガスが隔壁を透過するように形成されている。これは、触媒性能を向上させることが目的である。従って、隔壁を透過するのはPMを含まないガスであるためフィルタとは全く異るものであり、PMの捕集に使用することはできないのである。
【0009】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、NO浄化性能に優れ、粒子状物質の捕集効率が高く、圧力損失の小さいフィルタ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するため、本発明は、以下のフィルタ及びその製造方法を提供する。
【0011】
[1] 流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム形状の基材と、所定の前記セルの一方の端部と残余の前記セルの他方の端部とに配設された目封止部とを備え、前記隔壁が、金属イオンによりイオン交換されたゼオライトを含有し、前記隔壁に含有されるゼオライトの金属イオン含有量が、2〜10質量%であり、前記隔壁の気孔率が45〜65%であり、前記隔壁の平均細孔径が10〜35μmであるフィルタ。
【0012】
[2] ゼオライト粉末と、焼成工程において焼失する平均粒子径2〜200μmの造孔材とを含有する成形原料を押出成形して、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えるハニカム形状の成形体を形成する成形工程と、前記ハニカム形状の成形体を焼成する焼成工程と、前記焼成したハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を施すイオン交換処理工程とを有し、前記隔壁の気孔率が45〜65%であり、前記隔壁の平均細孔径が10〜35μmであり、前記隔壁に含有されるゼオライトの金属イオン含有量が、2〜10質量%であるフィルタを作製するフィルタの製造方法。
【0013】
[3] 前記金属イオンが、鉄イオン、銅イオン及び銀イオンからなる群から選択される少なくとも一種である[2]に記載のフィルタの製造方法。
【0014】
[4] 前記金属イオンが、少なくとも鉄イオン及び銅イオンを含む[3]に記載のフィルタの製造方法。
【0015】
[5] 前記イオン交換処理工程において、焼成したハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理であるイオン交換処理を複数回施し、少なくとも1回の前記イオン交換処理における前記金属イオンの種類が、残りの、前記イオン交換処理における前記金属イオンの種類とは、異なる種類である[2]〜[4]のいずれかに記載のフィルタの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフィルタは、「金属イオンによりイオン交換されたゼオライト」を含有する多孔質の隔壁により形成されたハニカム形状の基材と、目封止部とを備え、隔壁の気孔率が45〜65%であり、隔壁の平均細孔径が10〜35μmであり、隔壁に含有されるゼオライトの金属イオン含有量が2〜10質量%であるため、NO浄化性能に優れ、粒子状物質の捕集効率が高く、圧力損失の小さいフィルタである。
【0017】
更に詳細には、上記ゼオライトを含有するハニカム形状の基材と目封止部とを備え、隔壁に細孔が形成されることにより、粒子状物質を捕集する機能を有し、隔壁の平均細孔径が10μm以上であることにより、圧力損失を小さくしながらNO浄化性能を高くすることができる。また、隔壁の平均細孔径が35μm以下であることにより、粒子状物質の捕集効率を高くすることができる。更に、隔壁の気孔率が45%以上であり、隔壁に含有されるゼオライトの金属イオン含有量が、2〜10質量%であることにより、圧力損失を小さくしながらNO浄化性能を高くすることができる。また、隔壁の気孔率が65%以下であることにより、粒子状物質の捕集効率を高くし、フィルタの機械的強度を高くすることができる。
【0018】
本発明のフィルタの製造方法は、金属イオンでイオン交換されていないゼオライトを、押出成形して得られたハニカム形状の成形体を焼成し、焼成したハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を施すため、イオン交換処理されたゼオライトがバインダーや高温水蒸気に晒されることがなく、ゼオライト中の金属イオンが脱落したりゼオライト構造が破壊されることが防止される。そのため、触媒活性低下が防止される。また、本発明のフィルタの製造方法は、ゼオライト粉末と、焼成工程において焼失する平均粒子径2〜200μmの造孔材とを含有する成形原料を押出成形してハニカム形状の成形体を形成し、焼成、イオン交換処理を行うことによりフィルタを作製するため、隔壁の気孔率が45〜65%であり、隔壁の平均細孔径が10〜35μmであり、隔壁に含有されるゼオライトの金属イオン含有量が2〜10質量%である本発明のフィルタを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のフィルタの一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明のフィルタの一の実施形態の中心軸に平行な断面を示す模式図である。
【図3】圧力損失測定装置を示す模式図である。
【図4】実施例及び比較例のフィルタにおける、「平均細孔径(平均径)と圧力損失(圧損)」、「平均細孔径(平均径)とNO浄化性能」及び「平均細孔径(平均径)と捕集効率」のそれぞれの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0021】
(1)フィルタ:
本発明のフィルタの一の実施形態は、図1、図2に示すように、流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル2を区画形成する多孔質の隔壁1を有するハニカム形状の基材3と、所定のセル2の一方の端部と残余のセル2の他方の端部とに配設された目封止部5とを備え、隔壁1が、金属イオンによりイオン交換されたゼオライトを含有し、「隔壁1に含有されるゼオライト」の金属イオン含有量が、2〜10質量%であり、隔壁1の気孔率が45〜65%であり、隔壁1の平均細孔径が10〜35μmである。図1は、本発明のフィルタの一の実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、本発明のフィルタの一の実施形態の中心軸に平行な断面を示す模式図である。
【0022】
このように、本実施形態のフィルタ100は、「金属イオンによりイオン交換されたゼオライト」を含有する隔壁により形成されたハニカム形状の基材と、目封止部とを備え、隔壁の気孔率が45〜65%であり、隔壁の平均細孔径が10〜35μmであり、隔壁に含有されるゼオライトの金属イオン含有量が、2〜10質量%であるため、NO浄化性能に優れ、粒子状物質の捕集効率が高く、排ガスを流す際の圧力損失の小さいフィルタである。隔壁の平均細孔径及び気孔率は、水銀圧入式ポロシメータにより測定した値である。
【0023】
本実施形態のフィルタ100は、図1、図2に示すように、流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル2を区画形成する多孔質の隔壁1を有するハニカム形状の基材3と、所定のセル2の一方の端部と残余のセル2の他方の端部とに配設された目封止部5とを備えるものであるため、例えば、一方の端面11からフィルタ100のセル2(一方の端面11側に開口するセル)内に流入した排ガスは、多孔質の隔壁を透過して「他方の端面12側に開口するセル」内に流入し、当該「他方の端面12側に開口するセル」を通じて他方の端面12側から排出される。このとき、排ガス中に含有される粒子状物質は、多孔質の隔壁に捕集されるため、フィルタ100によって、排ガス中の粒子状物質を除去することができる。
【0024】
本実施形態のフィルタ100は、隔壁1の気孔率が45〜65%であり、隔壁1の平均細孔径が10〜35μmである。このように、隔壁の気孔率及び平均細孔径を特定の範囲にすることにより、浄化性能を向上させ、圧力損失を低減し、捕集効率を向上させることができる。更に詳細には、隔壁の平均細孔径が10μm以上であることにより、圧力損失を小さくしながらNO浄化性能を高くすることができ、隔壁の平均細孔径が35μm以下であることにより、粒子状物質の捕集効率を高くすることができる。更に、隔壁の気孔率が45%以上であることにより、圧力損失を小さくしながらNO浄化性能を高くすることができ、隔壁の気孔率が65%以下であることにより、粒子状物質の捕集効率を高くし、フィルタの機械的強度を高くすることができる。
【0025】
本実施形態のフィルタ100は、隔壁1の平均細孔径が10〜35μmであり、13〜30μmであることが好ましい。10μmより小さいと、圧力損失が高くなり、更にNO浄化性能が低下するため好ましくない。35μmより大きいと、粒子状物質の捕集効率が低下するため好ましくない。
【0026】
本実施形態のフィルタ100は、隔壁1の気孔率が45〜65%であり、50〜65%であることが好ましい。45%より小さいと、圧力損失が大きくなり、更にNO浄化性能が低下するため好ましくない。65%より大きいと、フィルタの機械的強度が低下するため好ましくない。
【0027】
本実施形態のフィルタ100においては、隔壁に、ゼオライトの結晶構造由来の細孔と、ゼオライト粒子間に形成される細孔とが形成されている。本実施形態のフィルタ100における、隔壁の「平均細孔径及び気孔率」は、上記ゼオライト粒子間に形成された細孔についての「平均細孔径及び気孔率」である。尚、ゼオライトの結晶構造に由来する細孔は、ゼオライトの種類毎に特有の構造を有しており、例えば、ZSM−5の場合、酸素10員環の細孔を有し、細孔径が約5〜6Åである。また、β−ゼオライトの場合、酸素12員環の細孔を有し、細孔径が約5〜7.5Åである。
【0028】
本実施形態のフィルタ100においては、隔壁1が、「金属イオンによりイオン交換されたゼオライト」を含有する。隔壁1に含有される「金属イオンによりイオン交換されたゼオライト」の含有率は、50〜100質量%が好ましく、70〜100質量%が更に好ましい。50質量%より低いと、NO浄化性能が低下することがある。
【0029】
隔壁中の「ゼオライトに含有される金属イオン」の含有量は、2〜10質量%であり、3〜8質量%であることが好ましい。2質量%より少ないと、NO浄化性能が低下するため好ましくない。10質量%より多いと、金属イオンが排ガスの浄化に効率的に利用されないため好ましくない。
【0030】
隔壁1に含有される(ゼオライトに含有される)金属イオンの単位体積当たりの含有量は、化学分析を用いて測定した値である。化学分析としては、湿式分析の方法を用いる。測定に際しては、フィルタの隔壁1枚を、30mm×30mmだけ切り出して、測定用サンプルとする。
【0031】
また、ゼオライトに含有される金属イオンは、鉄イオン、銅イオン及び銀イオンからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。そして、「当該好ましい条件を満たし、且つ、少なくとも「鉄イオン及び銅イオン」が含まれる」ことが更に好ましい。
【0032】
本実施形態のフィルタ100は、セル2の延びる方向に直交する断面における面積が、300〜200000mmであることが好ましい。300mmより小さいと、排ガスを処理することができる面積が小さくなることがあるのに加えて、圧力損失が高くなる。200000mmより大きいと、フィルタ100の強度が低下することがある。
【0033】
本実施形態のフィルタ100を構成するゼオライトの種類としては、ZSM−5、β−ゼオライト、ZSM−11、シャバサイト、フェリエライト等を挙げることができる。これらの中でも、良好な浄化性能を有することより、ZSM−5及びβ−ゼオライトが好ましい。
【0034】
また、本実施形態のフィルタ100は、図1、図2に示すように、隔壁1全体の外周を取り囲むように配設された外周壁4を備えることが好ましい。外周壁の材質は、必ずしも隔壁と同じ材質である必要は無いが、外周壁の材質が、耐熱性や熱膨張係数等の物性の観点で大きく異なると隔壁の破損等の問題が生じる場合があるので、主として同じ材質を含むか、同等の物性を有する材料を主として含有することが好ましく、同じ材質であることが更に好ましい。外周壁は、押出成形により、隔壁と一体的に形成されたものであってもよいし、成形後に外周部を所望形状に加工し、その後、外周部分に、所望の外周壁が形成されるコーティング材をコーティングすることによって形成されたものであってもよい。
【0035】
本実施形態のフィルタ100を構成するハニカムセグメントのセル形状(フィルタの中心軸方向(セルが延びる方向)に直交する断面におけるセル形状)としては、特に制限はなく、例えば、三角形、四角形、六角形、八角形、円形、又は、これらの組合せを挙げることができる。
【0036】
本実施形態のフィルタの隔壁厚さは、50μm〜2mmであることが好ましく、100μm〜1mmであることが更に好ましい。50μmより薄いと、フィルタの強度が低下することがある。2mmより厚いと、フィルタにガスが流通するときの圧力損失が大きくなることがある。また、本実施形態のフィルタの最外周を構成する外周壁4の厚さは、10mm以下であることが好ましい。10mmより厚いと、排ガス浄化処理を行う面積が小さくなることがある。
【0037】
また、本実施形態のフィルタのセル密度は、特に制限されないが、7.8〜46.5セル/cmであることが好ましく、31.0〜46.5セル/cmであることが更に好ましい。7.8セル/cmより小さいと、排ガス浄化処理を行う面積が小さくなることがある。46.5セル/cmより大きいと、フィルタにガスが流通するときの圧力損失が大きくなることがある。
【0038】
本実施形態のフィルタの全体の形状は特に限定されず、例えば、円筒形状、オーバル形状等所望の形状とすることができる。また、フィルタの大きさは、例えば、円筒形状の場合、底面の直径が20〜500mmであることが好ましく、118〜330mmであることが更に好ましい。また、フィルタの中心軸方向の長さは、10〜500mmであることが好ましく、50〜330mmであることが更に好ましい。
【0039】
(2)フィルタの製造方法:
次に、本発明のフィルタの製造方法の一の実施形態について説明する。本発明のフィルタの製造方法の一の実施形態は、上述した、本発明のフィルタの一の実施形態を製造するものである。
【0040】
本実施形態のフィルタの製造方法は、ゼオライト粉末と、焼成工程において焼失する平均粒子径2〜200μmの造孔材とを含有する成形原料を押出成形して、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えるハニカム形状の成形体を形成する成形工程と、ハニカム形状の成形体を焼成する焼成工程と、焼成したハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を施すイオン交換処理工程とを有し、隔壁の気孔率が45〜65%であり、隔壁の平均細孔径が10〜35μmであり、隔壁に含有されるゼオライトの金属イオン含有量が2〜10質量%であるフィルタを作製するものである。
【0041】
本実施形態のフィルタの製造方法は、金属イオンでイオン交換されていないゼオライトを、押出成形して得られたハニカム形状の成形体を焼成し、焼成したハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を施すため、イオン交換処理されたゼオライトがバインダーや高温水蒸気に晒されることがなく、ゼオライト中の金属イオンが脱落したりゼオライト構造が破壊されることが防止される。そのため、触媒活性低下を生じることが防止される。また、本発明のフィルタの製造方法は、ゼオライト粉末と、焼成工程において焼失する平均粒子径2〜200μmの造孔材とを含有する成形原料を押出成形してハニカム形状の成形体を形成し、焼成、イオン交換処理をおこなうことによりフィルタを作製するため、隔壁の気孔率が45〜65%であり、隔壁の平均細孔径が10〜35μmであり、隔壁に含有されるゼオライトの金属イオン含有量が2〜10質量%である本発明のフィルタを作製することができる。
【0042】
以下に、本実施形態のフィルタの製造方法について更に詳細に説明する。
【0043】
(2−1)成形工程;
まず、ゼオライト粉末と、焼成工程において焼失する平均粒子径2〜200μmの造孔材とを含有する成形原料を押出成形して、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えるハニカム形状の成形体を形成する。ハニカム形状の成形体は、図1、図2に示すフィルタ100のような形状である。
【0044】
成形原料は、ゼオライト粉末、「焼成工程において焼失する、平均粒子径2〜200μmの造孔材」、及び「その他の添加剤」を混合して作製する。「その他の添加剤」は必要に応じて添加するものである。
【0045】
ゼオライト粉末の種類としては、ZSM−5の粉末、β−ゼオライトの粉末、ZSM−11、シャバサイト、フェリエライト等を挙げることができる。これらの中でも、良好な浄化性能を有することより、ZSM−5の粉末及びβ−ゼオライトの粉末が好ましい。ゼオライト粉末の平均粒子径は、0.1〜20μmであることが好ましい。ゼオライト粉末の平均粒子径は、レーザー回折法で測定した値である。また、本実施形態のフィルタの製造方法に用いるゼオライト粉末は、金属イオンによるイオン交換処理を行っていないものである。
【0046】
成形原料に添加する造孔材は、平均粒子径が2〜200μmであり、焼成工程において焼失するものである。造孔材の平均粒子径は、10〜100μmであることが好ましい。造孔材がこのような平均粒子径を有することにより、隔壁の気孔率が45〜65%であり、隔壁の平均細孔径が10〜35μmであるフィルタを得ることができる。造孔材の平均粒子径が2μmより小さいと、造孔材がゼオライト粉末の粒子間の空隙に入り込み、細孔形成の効果が小さくなるため好ましくない。造孔材の平均粒子径が200μmより大きいと、隔壁の気孔率及び平均細孔径を所望の大きさにすることができなくなるため好ましくない。また、造孔材として発泡樹脂を用いた場合、平均粒子径が200μmより大きいと、発泡樹脂の強度が低下し、混練時や成形時に発泡樹脂が潰れ、細孔形成の効果が小さくなる。造孔材の平均粒子径は、レーザー回折法で測定したものである。焼成工程における焼成条件としては、大気雰囲気下、500〜900℃で1〜10時間加熱することが好ましいが、造孔材は、この条件において焼失するものである。尚、焼成工程においては、焼成の前に「仮焼き」を行うことが好ましく、造孔材は、この「仮焼き」において焼失するものであってもよい。具体的には、アクリル系マイクロカプセル等の発泡樹脂、グラファイト、小麦粉、澱粉、フェノール樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、又はポリエチレンテレフタレート等を挙げることができる。成形原料中の造孔材の含有量は、ゼオライト粉末100質量部に対して、0.5〜5.0質量部が好ましい。
【0047】
成形原料には、必要に応じて「その他の添加剤」を含有させることが好ましい。「その他の添加剤」としては、成形助材、水等を挙げることができる。また、必要に応じて、この他の添加剤を含有させることができ、例えば、バインダー、ゼオライト粉末等の分散を促進するための分散剤、等を含有させてもよい。
【0048】
成形助剤としては、アルミナゾル、モンモリロナイト等を挙げることができる。成形原料中のアルミナゾルの含有量は、ゼオライト粉末100質量部に対して、5〜50質量部が好ましい。また、成形原料中のモンモリナイトの含有量は、ゼオライト粉末100質量部に対して、5〜50質量部が好ましい。
【0049】
分散剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を挙げることができる。
【0050】
バインダーとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
【0051】
成形原料中の水の含有量は、ゼオライト粉末100質量部に対して、30〜70質量部が好ましい。
【0052】
ゼオライト粉末、造孔材等の混合方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、レディゲミキサー等の混合機を用いる方法が好ましい。
【0053】
次に、成形原料を混練して柱状の成形体を形成する。成形原料を混練して柱状の成形体を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。
【0054】
次に、柱状の成形体を押出成形して、図1、図2に示すフィルタ100のような形状の、ハニカム形状の成形体を形成する。ハニカム形状の成形体は、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えるものである。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚さ、セル密度等を有する口金を用いることが好ましい。口金の材質としては、摩耗し難い金属が好ましい。
【0055】
(2−2)乾燥工程;
得られたハニカム形状の成形体について、焼成前に乾燥を行うことが好ましい。乾燥の方法は特に限定されず、例えば、マイクロ波加熱乾燥、高周波誘電加熱乾燥等の電磁波加熱方式と、熱風乾燥、過熱水蒸気乾燥等の外部加熱方式とを挙げることができる。これらの中でも、成形体全体を迅速かつ均一に、クラックが生じないように乾燥することができる点で、電磁波加熱方式で一定量の水分を乾燥させた後、残りの水分を外部加熱方式により乾燥させることが好ましい。
【0056】
(2−3)焼成工程;
ハニカム形状の成形体を焼成(本焼成)する前には、そのハニカム形状の成形体を仮焼することが好ましい。仮焼は、脱脂のために行うものであり、その方法は、特に限定されるものではなく、中の有機物(バインダー、分散剤等)を除去することができればよい。仮焼の条件としては、酸化雰囲気において、200〜1000℃程度で、3〜100時間程度加熱することが好ましい。
【0057】
次に、ハニカム形状の成形体を焼成して、ハニカム形状の構造体を得る。従って、「焼成したハニカム形状の成形体」は、「ハニカム形状の構造体」のことである。焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。焼成条件は、大気雰囲気において、500〜900℃で、1〜10時間加熱することが好ましい。
【0058】
(2−4)イオン交換工程;
次に、焼成したハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を施す。このように、焼成後のハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を行い、ハニカム形状の成形体の焼成前には、当該イオン交換処理を施さないことにより、隔壁に含有されるゼオライトの金属イオン含有量を、2〜10質量%とすることができる。イオン交換処理を施した後に、焼成を行うと、ゼオライトに含有される金属イオンが脱落するため、隔壁に含有されるゼオライトの金属イオン含有量をコントロールすることができない。これに対し、焼成後のハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を行えば、イオン交換用溶液の濃度や、イオン交換処理の回数を下記のような条件とすることにより、隔壁に含有されるゼオライトの金属イオン含有量を、2〜10質量%とすることができる。
【0059】
本実施形態のフィルタの製造方法においては、金属イオンが、鉄イオン、銅イオン及び銀イオンからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0060】
焼成したハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を施す方法としては、以下の方法を挙げることができる。
【0061】
イオン交換する金属イオンを含有するイオン交換用溶液(金属イオン含有溶液)を調製する。例えば、銀イオンでイオン交換する場合には、硝酸銀、又は酢酸銀の水溶液を調製する。また、銅イオンでイオン交換する場合には、酢酸銅、硫酸銅、又は硝酸銅の水溶液を調製する。また、鉄イオンでイオン交換する場合には、硫酸鉄、又は酢酸鉄の水溶液を調製する。イオン交換用溶液の濃度は、0.005〜0.5(モル/リットル)が好ましい。そして、イオン交換用溶液にゼオライトを成形して形成したハニカム形状の構造体を浸漬する。浸漬時間は、イオン交換させたい金属イオンの量(隔壁に含有させたい金属イオンの量)等によって適宜決定することができる。そして、ハニカム形状の構造体をイオン交換用溶液から取り出し、乾燥及び仮焼を行うことが好ましい。乾燥条件は、80〜150℃で、1〜10時間が好ましい。仮焼の条件は、400〜600℃で、1〜10時間が好ましい。
【0062】
焼成したハニカム形状の成形体(ハニカム形状の構造体)に対して、「金属イオンでイオン交換する処理」であるイオン交換処理を複数回施し、「少なくとも1回の」イオン交換処理における金属イオンの種類が、「残りの」イオン交換処理における金属イオンの種類とは、異なる種類であることが好ましい。このように、複数回のイオン交換処理において、「少なくとも1回の」イオン交換処理における金属イオンの種類が、「残りの」イオン交換処理における金属イオンの種類とは、異なるものとすることにより、複数の金属イオンを有するフィルタを得ることができる。
【0063】
焼成したハニカム形状の成形体に対して、複数回のイオン交換処理を行う場合、各回のイオン交換処理毎に、イオン交換用溶液から取り出したハニカム形状の構造体について、乾燥及び仮焼を行っても良い。
【0064】
(2−5)目封止工程;
金属イオンでイオン交換する処理を施したハニカム形状の構造体(イオン交換処理済みハニカム焼成体)について、目封止部を形成してフィルタを得る。目封止部は、所定のセルの一方の端部と残余のセルの他方の端部とに配設することが好ましい。そして、当該所定のセルと当該残余のセルとが交互に並び、イオン交換処理済みハニカム焼成体(フィルタ)の両端面に市松模様が形成されるように、目封止部を形成することが更に好ましい。
【0065】
イオン交換処理済みハニカム焼成体に目封止部を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、以下の方法を挙げることができる。イオン交換処理済みハニカム焼成体の一方の端面にシートを貼り付けた後、当該シートの目封止部を形成しようとするセルに対応した位置に孔を開ける。そして、目封止部の構成材料をスラリー化した目封止用スラリーに、イオン交換処理済みハニカム焼成体の当該シートを貼り付けた端面(端部)を浸漬し、シートに開けた孔を通じて、目封止部を形成しようとするセルの開口部内に目封止用スラリーを充填する。
【0066】
そして、イオン交換処理済みハニカム焼成体の他方の端面については、一方の端面において目封止を施さなかったセルについて、上記一方の端面に目封止部を形成した方法と同様の方法で目封止部を形成する(目封止用スラリーを充填する)。目封止用スラリーは、イオン交換処理済みハニカム焼成体の作製に使用したゼオライト粉末と同じゼオライト粉末にメチルセルロースなどのバインダーを加えて、混合したものを使用することが好ましい。目封止部を形成した後に、上記焼成工程における焼成条件と同様の条件で焼成を行うことが好ましい。尚、ハニカム焼成体は、既に焼成されているため、金属イオン脱落やゼオライト構造破壊の原因となる隔壁中のバインダーは既に焼失している。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
ゼオライト粉末として、SiO/Ai(モル比)が30のZSM−5を用いた。ゼオライト粉末の平均粒子径は、13μmであった。平均粒子径はレーザー回折法で測定した値である。ゼオライト粉末に、造孔材として、平均粒子径が13μmの発泡樹脂を加え、成形助剤としてメチルセルロース及びベーマイトを加え、分散剤としてエチレングリコールを加え、更に水を加えて混合し、流動性のある混合物(成形原料)を得た。混合物中の造孔材(発泡樹脂)の含有量は、ゼオライト粉末100質量部に対して、9質量部であった。混合物中のメチルセルロースの含有量は、ゼオライト粉末100質量部に対して、5質量部であった。また、混合物中のベーマイトの含有量は、ゼオライト粉末100質量部に対して、30質量部であった。また、混合物中の分散剤(エチレングリコール)の含有量は、ゼオライト粉末100質量部に対して、1質量部であった。また、混合物中の水の含有量は、ゼオライト粉末100質量部に対して、55質量部であった。また、造孔材の平均粒子径は、レーザー回折法で測定した。そして、混合物を真空土練機により混練して円柱状の成形体を形成し、円柱状の成形体を押出成形することにより、ハニカム形状の成形体を得た。
【0069】
次に、得られたハニカム形状の成形体を乾燥し、その後脱脂を行い、その後焼成して、ハニカム形状の構造体を得た。乾燥条件としては、40℃で8時間乾燥させた後、更に120℃で48時間乾燥させた。脱脂の条件は、450℃で5時間とした。焼成の条件は、650℃で5時間とした。そして、得られた、ハニカム形状の構造体(焼成後)の形状は、底面が直径144mmの円形であり、中心軸方向の長さが100mmの円柱状であった。また、ハニカム形状の構造体の、隔壁厚さは0.3mmであり、セル密度は46.5セル/cmであった。また、セル形状は四角形であった。
【0070】
次に、金属イオンでイオン交換処理を行った。まず、0.2(モル/リットル)の濃度の硫酸銅水溶液(金属イオン含有溶液)に、ハニカム形状の構造体を、浸漬した。浸漬時間は、1時間とした。次に、この構造体を金属イオン含有溶液から取り出し、同じ濃度の硫酸銅水溶液に1時間浸漬することをもう一回実施した。
【0071】
次に、ハニカム形状の構造体を、金属イオン含有溶液から取り出し、100℃で3時間乾燥させた。その後、500℃で3時間仮焼して、イオン交換処理済ハニカム焼成体を得た。イオン交換処理済ハニカム焼成体においては、ゼオライトが銅イオンによりイオン交換されている。また、イオン交換処理済ハニカム焼成体において、イオン交換によりゼオライトに含有されるようになった金属イオンの総量(金属イオン総量)は、イオン交換処理済ハニカム焼成体に対して5.9質量%であった。
【0072】
次に、イオン交換処理済ハニカム焼成体に目封止部を形成して、フィルタを得た。得られたイオン交換処理済ハニカム焼成体の一方の端面にシートを貼り付けた後、当該シートの目封止部を形成しようとするセルに対応した位置(目封止部が交互に並ぶ位置)に孔を開ける。そして、シートを貼り付けた側の端部を目封止用スラリーに浸漬し、市松模様状に交互に配列された目封止部を形成した。更に、他方の端部については、一方の端部において目封止されなかったセルについて、上記一方の端部に目封止部を形成したのと同様の方法で目封止部を形成した。得られたフィルタの気孔率(隔壁の気孔率)は、65%であった。
【0073】
得られたフィルタについて、以下の方法で、隔壁の「気孔率」、隔壁の「平均細孔径」、「圧力損失」、「NO浄化性能」及び「捕集効率」の評価を行った。結果を表1に示す。表1において、「圧損」は、圧力損失を示す。
【0074】
(気孔率)
水銀圧入式ポロシメータ(マイクロメリティックス社製)を用いて測定する。
【0075】
(平均細孔径)
水銀圧入式ポロシメータ(マイクロメリティックス社製)を用いて測定する。
【0076】
(圧力損失)
図3に示すような、測定試料(フィルタ)24を保持するホルダー21と、測定試料24の流入直前の圧力と、測定試料24の流出直後の圧力との差(差圧)を測定する差圧計22と、測定試料24にガスG(空気)を流すために測定試料24の流出側に取り付けられたブロワー23とを備え、それぞれが配管で繋がれた圧力損失測定装置20を用いて、測定試料にガスを流した時の圧力損失(圧損)を測定する。尚、図3に示す圧力損失測定装置20においては、バルブ、計測機器(差圧計を除く)、バイパス等は省略している。ホルダー21に測定試料24を取り付け、ブロワー23によりガスG(25℃の空気)を測定試料24に流す。そして、ガスGを流しながら、差圧計により、測定試料24にガスGを流したときの圧力損失(圧損)を測定する。ここで、ガスGの流量は、9Nm/分とする。図3は、圧力損失測定装置を示す模式図である。
【0077】
(NO浄化性能)
フィルタに試験用ガスを流し、フィルタから排出された排出ガスのNO量をガス分析計で分析する。フィルタに流入させる試験用ガスの温度を250℃とした。試験に用いるフィルタとしては、底面の直径が約2.54cmの円柱状(中心軸方向長さは、10cmのまま変化させず)に切り出したものを用いる。フィルタ及び試験用ガスは、ヒーターにより温度調整することができるようにする。ヒーターとしては、赤外線イメージ炉を用いる。試験用ガスは、窒素に、二酸化炭素5体積%、酸素14体積%、一酸化窒素350ppm(体積基準)、アンモニア350ppm(体積基準)及び水10体積%が混合されたガスとする。尚、試験用ガスは、水と、その他のガスを混合した混合ガスと、を別々に準備しておき、試験を行う際に、配管中で、これらを混合させて得ることとする。ガス分析計としては、HORIBA社製、「MEXA9100EGR」を用いる。また、試験用ガスが、フィルタに流入するときの流束は、50000(時間−1)とする。表1には、NOの浄化率(%)を示す。NOの浄化率は、試験用ガスのNO量から、フィルタからの排出ガスのNO量を差し引いた値を、試験用ガスのNO量で除算し、100倍した値である。
【0078】
(捕集効率)
測定試料(フィルタ)をホルダーにセットする。そして、特開2007−155708号公報に開示されている粒子状物質(PM)発生装置を用いて発生させた、PMを含有する排ガスを、ホルダーにセットしたフィルタに流す。排ガスの条件は、「排ガス温度200±20℃、排ガス流量9Nm/分」とする。そして、フィルタの流入直前の圧力と、フィルタの流出直後の圧力との差が16kPaになったときに、フィルタの流入直前の排ガスと測定試料の流出直後の排ガスとをそれぞれサンプリングする。サンプリング方法としては、真空ポンプを用いて60±3秒間排ガスを吸引する。そして、サンプリングしたそれぞれの排ガスを濾紙に透し、サンプリングした排ガス中の粒子状物質を濾紙で捕集する。その後、それぞれの濾紙を、60℃、1時間の条件で乾燥し、質量を測定する。それぞれの濾紙は、予め、60℃、1時間の条件で乾燥し、質量を測定しておき、粒子状物質の捕集前後の質量差を、捕集した粒子状物質の質量とする。そして、捕集効率は、測定試料の流入直前の排ガスに含有される粒子状物質の質量Aから、測定試料の流出直後の排ガスに含有される粒子状物質の質量Bを差し引いて得られた値を、測定試料の流入直前の排ガスに含有される粒子状物質の質量Aで除して、100倍した値(100×(A−B)/A)とする。
【0079】
【表1】

【0080】
(実施例2〜4、比較例1〜4)
隔壁の気孔率及び平均細孔径を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にしてフィルタを作製した。隔壁の気孔率及び平均細孔径は、成形原料中の造孔材の平均粒子径を調整することにより、所望の値とした。上記方法により、隔壁の「気孔率」、隔壁の「平均細孔径」、「圧力損失」、「NO浄化性能」及び「捕集効率」の評価を行った。結果を表1に示す。また、「平均細孔径(平均径)と圧力損失(圧損)」、「平均細孔径(平均径)とNO浄化性能」及び「平均細孔径(平均径)と捕集効率」のそれぞれの関係を図4に示す。図4は、実施例及び比較例のフィルタにおける、「平均細孔径(平均径)と圧力損失(圧損)」、「平均細孔径(平均径)とNO浄化性能」及び「平均細孔径(平均径)と捕集効率」のそれぞれの関係を示すグラフである。
【0081】
表1、図4より、実施例1〜4のフィルタは、隔壁の気孔率が65%であり、隔壁の平均細孔径が10〜35μmであるため、圧力損失が小さく、NO浄化性能に優れ、捕集効率に優れることがわかる。
【0082】
一方、比較例1,2のフィルタは、平均細孔径が10μm未満と小さいため、圧力損失が大きいことが分かる。また、比較例3,4のフィルタは、平均細孔径が35μmより大きいため、NO浄化性能に劣ることがわかる。且つ、捕集効率が低下していることがわかる。
【0083】
(実施例5〜22、比較例5〜8)
製造条件を表2に示すように変えた以外は、実施例1と同様にしてフィルタを作製した。上記方法により、隔壁の「気孔率」、隔壁の「平均細孔径」、「圧力損失」、「NO浄化性能」及び「捕集効率」の評価を行った。結果を表2に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
表2において、「触媒担持」の欄には、隔壁に触媒を担持していない場合には「なし」と記載し、隔壁に触媒が担持されている場合には、担持された触媒名を記載している。「担持量」の欄は、隔壁に触媒を担持している場合の、触媒担持量(g/リットル)を示す。「イオン交換時期」の欄は、「隔壁の材料」又は「担持する触媒」として使用しているゼオライトを、金属イオンでイオン交換する時期を示す。「イオン交換時期」の欄における、「焼成後」は、「押出成形によりハニカム形状の成形体を形成した後に、乾燥、焼成して、ハニカム形状の構造体を作製した後に、イオン交換処理を行った」ことを意味し、「焼成前」は、「押出成形によりハニカム形状の成形体を形成し、乾燥した後であって、焼成する前に、イオン交換処理を行った」ことを意味する。「金属イオン」の欄は、イオン交換によりゼオライトに含有されるようになった金属イオンを示し、「Fe」は鉄イオンを示し、「Cu」は銅イオンを示す。「金属イオン総量」(質量%)の欄は、イオン交換によりゼオライトに含有されるようになった金属イオンの総量を示す。「セル密度」(セル/cm)の欄は、フィルタの、セルの延びる方向に直交する断面における、単位面積当たりのセルの個数を示す。また、「圧力損失(圧損)」の欄は、比較例11のフィルタにおける圧力損失の値に対する比率で示している。また、「NO浄化性能」の「判定」の欄は、NO浄化性能の値が、70%以上の場合を「A」、56%以上70%未満の場合を「B」、56%未満の場合「C」とし、「C」を不合格とした。
【0086】
(比較例9)
コージェライトにより形成されたハニカム基材に触媒を担持したフィルタを作製した。製造方法は以下の通りである。まず、コージェライト化原料として、タルク37質量%、溶融シリカB19質量%、及び水酸化アルミニウム44質量%を混合したものを用いた。そして、コージェライト化原料100質量部に、グラファイト20質量部、ポリエチレンテレフタレート7質量部、ポリメタクリル酸メチル7質量部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース4質量部、ラウリン酸カリ石鹸0.5質量部、水30質量部を混合し、混練して坏土を得た。得られた坏土を押出成形機により成形して、ハニカム形状のハニカム基材を得た。
【0087】
ハニカム基材の、隔壁厚さは0.3mmであり、セル密度は46.5セル/cmであった。
【0088】
得られたハニカム基材に、触媒として、銅イオンでイオン交換されたβ−ゼオライトを担持して、フィルタを作製した。β−ゼオライトの担持方法としは、銅イオンでイオン交換されたβ−ゼオライト粉末を水に分散させて担持用スラリーを作製し、得られた担持用スラリーをハニカム基材にコートし、乾燥及び焼付けさせる方法とした。得られたフィルタは、底面が直径144mmの円形であり、中心軸方向の長さが100mmの円柱状であった。
【0089】
上記方法により、隔壁の「気孔率」、隔壁の「平均細孔径」、「圧力損失」、「NO浄化性能」及び「捕集効率」の評価を行った。結果を表2に示す。表2において、「イオン交換時期」の欄の「担持前」は、β−ゼオライトをハニカム基材に担持する前に、β−ゼオライトにイオン交換処理を施すことを意味する。
【0090】
(比較例10〜12)
製造条件を表2に示すように変えた以外は、比較例9と同様にしてフィルタを作製した。上記方法により、隔壁の「気孔率」、隔壁の「平均細孔径」、「圧力損失」、「NO浄化性能」及び「捕集効率」の評価を行った。結果を表2に示す。
【0091】
表2より、実施例5〜22のフィルタは、圧力損失が低く、浄化性能が高く、更に、粒子状物質の捕集効率も高いことが分かる。これに対し、比較例9〜12のフィルタは、隔壁表面に触媒層が形成されるため、圧力損失が大きくなることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のフィルタは、自動車用エンジン、建設機械用エンジン、産業用定置エンジン、燃焼機器等から排出される排ガスに含有されるNO等を浄化するために好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1:隔壁、2:セル、3:基材、4:外周壁、5:目封止部、11:一方の端部、12:他方の端部、20:圧力損失測定装置、21:ホルダー、22:差圧計、23:ブロワー、24:測定試料、100:フィルタ、G:ガス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム形状の基材と、所定の前記セルの一方の端部と残余の前記セルの他方の端部とに配設された目封止部とを備え、
前記隔壁が、金属イオンによりイオン交換されたゼオライトを含有し、
前記隔壁に含有されるゼオライトの金属イオン含有量が、2〜10質量%であり、
前記隔壁の気孔率が45〜65%であり、前記隔壁の平均細孔径が10〜35μmであるフィルタ。
【請求項2】
ゼオライト粉末と、焼成工程において焼失する平均粒子径2〜200μmの造孔材とを含有する成形原料を押出成形して、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えるハニカム形状の成形体を形成する成形工程と、
前記ハニカム形状の成形体を焼成する焼成工程と、
前記焼成したハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を施すイオン交換処理工程とを有し、
前記隔壁の気孔率が45〜65%であり、前記隔壁の平均細孔径が10〜35μmであり、前記隔壁に含有されるゼオライトの金属イオン含有量が、2〜10質量%であるフィルタを作製するフィルタの製造方法。
【請求項3】
前記金属イオンが、鉄イオン、銅イオン及び銀イオンからなる群から選択される少なくとも一種である請求項2に記載のフィルタの製造方法。
【請求項4】
前記金属イオンが、少なくとも鉄イオン及び銅イオンを含む請求項3に記載のフィルタの製造方法。
【請求項5】
前記イオン交換処理工程において、焼成したハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理であるイオン交換処理を複数回施し、
少なくとも1回の前記イオン交換処理における前記金属イオンの種類が、残りの、前記イオン交換処理における前記金属イオンの種類とは、異なる種類である請求項2〜4のいずれかに記載のフィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−194346(P2011−194346A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65392(P2010−65392)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】