説明

フィルムのスリップ検出方法及びフィルムスリップ検出装置、並びにフィルムスリップ検出装置を備えたフィルム搬送型皮膜成膜装置

【課題】成膜において発生する搬送ローラ上でのフィルムのスリップ検出方法及び検出装置と、このスリップの検出結果に基づいて、成膜工程でのフィルムの搬送状態を監視し、搬送時のフィルムに掛かる張力などの条件を制御することで、スリップの発生を抑制し、スリップによる傷の発生を防ぐフィルムの成膜装置を提供する。
【解決手段】皮膜を表面に備えるフィルムを、少なくとも2個の搬送ローラを介して搬送するフィルム搬送装置に用いられるフィルムのスリップ検出方法であって、前記少なくとも2個の搬送ローラ間を搬送されるフィルムに付加した振動波の変化から、前記搬送ローラで発生する前記フィルムのスリップ状態を検出することを特徴とするフィルムのスリップ検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子フィルムを走行させて、その表面に金属皮膜のような導電性皮膜などの皮膜を連続的に付与するフィルム搬送型皮膜成膜装置において、フィルムと搬送用ローラとのスリップを検出するスリップ検出方法及びそれを用いた皮膜付フィルムの製造方法に関し、より詳しくは、成膜工程でのスリップ現象に起因する傷の低減、フィルム製品の品質管理を行い、或いは成膜工程でスリップを起こさないようにフィルムを保ち良好な品質の皮膜付きフィルムを得るフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、高分子フィルムを真空槽中で走行させて連続蒸着するフィルム搬送型の成膜装置においては、蒸着処理時に発生する熱により高分子フィルムの温度が上昇し、搬送のローラを通過する際にその温度が低下するといったことが繰り返される。この際、高分子フィルムは熱により膨張し、収縮を繰り返すため、高分子フィルムにかかる張力が不適切だと、搬送ローラとフィルムの間にスリップが生じフィルム上に傷が生じてしまう。
【0003】
また、このフィルムの膨張が大きい場合、若しくは張力が大き過ぎる場合には、搬送ローラ間で、フィルムは幅方向に波打ち、搬送ローラと接触する際にフィルムの幅方向に対してもスリップが発生する。
【0004】
そこで、このようなスリップを抑えてフィルム上に発生する皺や傷を防止する手段として、フィルムのグリップ力を高めるために、搬送ローラ表面に溝を設けること、或いは搬送ローラ表面を粗面化する方法が提案されている(特許文献1、2参照)。
しかし、これらの方法では、搬送ローラ表面に細かな溝加工を施すことは、搬送ローラの加工費が嵩んで生産コストの増加につながる、或いは粗面加工は搬送ローラ最表面に鋭利な突起が現れやすく、この突起がフィルム表面に傷を付けてしまうといった問題が生じる恐れがある。
【0005】
また、各ワークロール間を走行するフィルム状基体の張力を機械的な変位に変換し、この変位量を電気信号として出力して、張力設定器で与えられた張力信号と張力検出器で得られた張力信号との偏差を求めることにより上記スリップを検出する装置が提案されている(特許文献3参照)。
また、単純な方法としてはフィルムの進行方向について、エンコーダ等の回転検知により、フィルムの送り出し、巻取り量と、搬送ローラの周速(回転速度)とを比較することでスリップの検出を行う方法が提案されている。
【特許文献1】特開2003−055782号公報
【特許文献2】特開平10−088389号公報
【特許文献3】特開昭59−013069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの方法はメカニカルな張力差により、スリップを検知することから、フィルムの張力による伸びや膨張等の寸法変化の誤差を吸収できず、細かなスリップを検出することは不可能であったり、搬送ローラ間の差速によるスリップ検出であることから、原理的にフィルムの幅方向のスリップの検出は不可能であった。
【0007】
また、このようなフィルムのスリップが発生すると、フィルム表面に傷が発生するため、特に光学用途などのμmオーダーの傷も問題となる用途においては、スリップによる傷が歩留まりに大きく影響する。そこで、成膜時におけるフィルムのスリップ、特にマイクロスリップを検出、低減する手段が強く求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような現状に鑑み、本発明は、良好な品質のフィルムを得るためになされたものであって、成膜工程において発生するフィルムの搬送ローラ上でのスリップを検出する方法および検出装置である。
さらに、得られたフィルムのスリップの検出結果に基づいて、成膜工程でのフィルムの搬送状態を監視し、搬送時のフィルムに掛かる張力などの条件を制御することで、スリップの発生を抑制し、スリップによる傷の発生を最小限に保つフィルムの成膜装置である。
より詳細には、本発明の第1の発明は、皮膜を表面に備えるフィルムを、少なくとも2個の搬送ローラを介して搬送するフィルム搬送装置に用いられるフィルムのスリップ検出方法であって、
前記少なくとも2個の搬送ローラ間を搬送されるフィルムに付加した振動波の変化から、前記搬送ローラで発生する前記フィルムのスリップ状態を検出することを特徴とするフィルムのスリップ検出方法である。
また、本発明の第2の発明は、皮膜を表面に備えるフィルムが、少なくとも2個の搬送ローラを介して搬送されるフィルム搬送装置に備わるフィルムスリップ検出装置であって、
前記2個の搬送ローラ間を搬送されるフィルムに付加した振動波の変化を測定する振動検出系と、前記振動検出系から出力される振動波変化から前記搬送ローラで発生する前記フィルムのスリップ状態を検出する信号処理系とからなり、
前記振動検出系は、
振動波をフィルムに付加する振動子を備える搬送ローラ及び前記振動子からの振動波を検出する振動検出子を備える前記搬送ローラと対となる他方の搬送ローラと、
前記振動子を作動させる励起振動部と、
前記振動検出子が検出した振動波を電圧変換した0次電圧信号を出力する振動検出部とを備え、
前記信号検出系は、
前記振動検出部が出力した0次電圧信号から低周波変動成分を除去した1次電圧信号を出力するハイパスフィルターと、
前記1次電圧信号を増幅した2次電圧信号を出力する増幅器と、
前記搬送ローラが回転する時の回転周期信号を出力するエンコーダと、
前記回転周期信号に前記2次電圧信号を同期させて形成したローラ変動電圧信号を記録する波形記録装置と、
前記ローラ変動電圧信号並びに前記2次電圧信号を入力し、前記ローラ変動電圧信号と前記2次電圧信号との信号差を検出し、前記信号差を増幅したスリップ発生信号を出力する差動増幅器とを備え、
前記搬送ローラで発生する前記フィルムのスリップ状態を検出することを特徴とするフィルムスリップ検出装置である。
さらに、本発明の第3の発明は、上記第1の発明に記載のフィルムのスリップ検出方法によって得られたスリップ発生信号に基づいて前記フィルムのスリップ状態を抑制しながら、皮膜が成膜されたフィルムを搬送することを特徴とするフィルム搬送型皮膜成膜装置である。
また、本発明の第4の発明は、フィルム搬送型皮膜成膜装置であって、
対に設けられるフィルム送出部及びフィルム巻取部と、
フィルムを搬送する少なくとも2個以上の搬送ローラと、
前記フィルム上に皮膜を形成する成膜部と、
前記フィルムのスリップを検出する請求項2記載のフィルムスリップ検出装置と、
前記フィルムのスリップを抑制するスリップ制御装置とを備えることを特徴とするフィルム搬送型皮膜性膜装置である。
【0009】
本発明によれば、フィルムを走行させながらフィルム上に金属や非金属などの導電性或いは非導電性の皮膜を成膜、巻き取る成膜装置において、搬送ローラに振動子を設け、接触しているフィルムに超音波などの振動波を与え、この搬送ローラと対の搬送ローラに、この振動波を検出する振動検出子を設置し、フィルムを通して伝わる振動波の変動を検出することで、フィルムのスリップ時のノイズ成分を抽出し、フィルムと搬送ローラのスリップを検出するものである。
【0010】
また、このフィルムのスリップ検出方法により得られたスリップ信号から、フィルムを巻き取る際のトルク値、搬送速度等のフィルム搬送条件を制御し、スリップによる傷の発生を抑制する成膜装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、検出、管理が従来、困難であった、フィルム上の微小な傷の原因であるフィルム搬送、成膜工程における搬送ローラ上でのフィルムのマイクロスリップ、及び幅方向へのズレを容易に検出することができることから、フィルムのスリップ状況の管理及び制御が可能とし、フィルム製品の高品質化を実現することができる。
従って、本発明は工業的価値が高く、産業の発達に大いに貢献するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図を参照しながら説明する。
図1は、本発明の成膜装置1を示すもので、フィルム2、送出ロール10(フィルム送出部)、巻取ロール11(フィルム巻取部)、搬送ローラA〜D、CAN3、ターゲット4a、4b、振動子5a、振動検出子5bの位置関係を示し、さらにフィルムスリップ検出装置30及びスリップ制御装置40が設けられている。
尚、図1中の黒塗り矢印はフィルムの搬送方向を示している。
【0013】
送出ロール10から送り出されたフィルム2は、搬送ローラA、Bにて搬送され、水冷されたCAN3に達する。続いてフィルム2は、CAN3に密着しながら、さらに送り出され、このCAN3に対向して配置されたターゲット4a、4b上で、スパッタリングにより、表面に皮膜2aが形成される。皮膜形成後、フィルム2は、さらに送り出され、搬送ローラC、Dにより搬送されて、巻取ロール11で巻取られる。
その際、フィルム2のスリップがフィルムスリップ検出装置30により検出された場合には、検出された信号を基にスリップ制御装置40により適切なスリップ防止の制御が行われる。
【0014】
この搬送ローラCのローラ内部に超音波を発振するような振動子5aを内蔵し、ローラ内部で微小振動を発生させると、その発生した微小振動による振動波は、フィルム2を介してCAN3若しくは搬送ローラDまで伝わる。また、この成膜装置1が真空状態に載置されていると、軸受け部分などの回転機構を除いて、この微小振動は搬送されるフィルムを介してのみ伝えられる。
【0015】
さらに、この微小振動をフィルムの搬送に影響しない程度に十分小さな振動波とし、フィルムの搬送を行った場合、搬送ローラとフィルムの接触状態によって、この間の音響インピーダンスが大きく変化する。
この関係から、搬送ローラD或いはCAN3に、この微小振動による振動波を検出する振動検出子5bを設置すると、搬送ローラとフィルムの接触状態をモニターすることになり、この接触状態が変化するスリップを検出することができるものである。
【0016】
即ち、本発明は成膜時においてフィルムがスリップした際の音響インピーダンスの変化に着目し、この変化を読み取ることによってフィルム搬送におけるスリップ発生の検出を実現するものであるが、さらに、このフィルムのスリップを検出する機構について詳細に説明する。
【0017】
先ず、連続成膜する搬送型成膜装置において生じるフィルムのスリップの態様について説明する。
図2、3はフィルムに生じるスリップの態様の説明図で、フィルムのスリップには、図2に示されるフィルムが進行方向にずれるスリップと、図3(a)から(c)に示されるように、フィルムが幅方向にずれるスリップとがある。
尚、図3(b)は、図3(a)を白抜き矢印A側からの図で、図3(c)は白抜き矢印B側からの図である。
【0018】
図2のフィルムの進行方向のずれによるスリップは、フィルム2に掛かる張力が低下し搬送ローラ20とフィルム2の間の摩擦力が低下した場合や搬送ローラ20の回転速度に変動が発生した場合などに生じ、スリップの瞬間、ずれによりフィルム2の搬送ローラ20との接触点が減るために接触抵抗が大きくなる。また、ずれによりフィルム2の搬送ロール20との接触点が増えるため、接触抵抗が小さくなる場合もある。
【0019】
フィルムが幅方向にずれるスリップでは、図3(b)に示すようにずれによりフィルム2の搬送ローラ20との接触点が増えるため、接触抵抗は小さくなる。
フィルムの幅方向のずれによるスリップについては、図3(a)〜(c)にあるように、フィルム幅方向において不均等に掛かる張力やフィルムの膨張による幅方向の寸法の変化によってうねり6が発生し、このうねり6が生じているフィルム2が進み、搬送ローラ20に接触する際に平坦化させられ、その際に生じる。
このように、うねり6が発生すると、搬送ローラ20と皮膜(図示せず)との接触面積が変化するため、音響インピーダンスの変動が生じるものである。
【0020】
次に、このように搬送されるフィルムと搬送ローラとの接触状態の変化によって生じた音響インピーダンスの変動が検出信号として、どのように表現されるか図4を用いて説明する。
本発明では、図1に示すように、予め成膜後にフィルムと接触する2個の搬送ローラのどちらかに微小振動による振動波を発振する振動子5aを設け、他方の搬送ローラにフィルムを伝導する振動波を検出する振動検出子5bが設けられ、その振動波の変動を解析することによりフィルムスリップの発生を見出すものである。
【0021】
この検出される振動波は、スリップが発生した際の他にも、フィルム上に成膜された皮膜表面の状態、搬送ローラの運転状態の変化によっても変動するため、スリップのない状態であっても一定ではなく、図4(a)に示すように僅かながら絶えず変動している。
【0022】
但し、フィルムに設けられた皮膜表面の状態に起因する振動波の変動は、成膜条件の変化に起因するものであるため、スリップによる瞬間的な変動(図4(b)参照)に比べ極めて長周期、すなわち低周波の変動となる。また、搬送ローラの状態に起因する変動は、搬送ローラの回転に伴うものであるため、一定の周期性を有する。
【0023】
これらの点を考慮し、予め長周期のものを除去するフィルター回路系を設け(長周期の変動を除去した状態が図4(c)に示されている)、及び一定の周期性を有するものを除去するフィルター回路系を設けることにより、図4(d)に示すようにスリップによる信号変化だけを検出することが可能となる。
【0024】
本発明は、上記の如く振動波の変動を読み取ることで、搬送ローラ上において発生したフィルムのスリップを迅速かつ確実に検出するものである。
【0025】
尚、スパッタ法などによる真空製膜装置内のように、高周波電源や搬送系から発生するノイズが多い環境では、搬送ローラ間に加える電圧をパルス状に印加し、加えた電圧と同期を取りながら流れる電流値を測定して接触抵抗の変化を得ることにより、精度の高い検出を行うことが可能となる。
【0026】
続いて、本発明に係るフィルムスリップ検出装置の構成の概略を示す図5、スリップ信号検出の処理の流れを示す図6、及び図6の各処理に対応する信号波形を示す図7、8を用いてさらに詳細に説明する。
図5に示すように、本発明におけるフィルムスリップ検出装置30は、搬送ローラR、Rに振動波を付加する振動子Bまたは振動検出子Dを設け、振動子Bを駆動する励起振動部Vと、振動検出子Dで検出された振動波を電気信号処理化して、電圧信号を出力する振動検出部Sから構成される振動検出系と、この振動検出部Sから得たスリップ信号を含む電圧信号を処理するハイパスフィルター(HPF)F、増幅器A、波形記録装置M、差動増幅器A、エンコーダEから構成される信号処理系よりなる。
【0027】
この検出装置30は、フィルム2の搬送状態において、この搬送ローラR、R間の皮膜2aを含めたフィルム2の部分に、励起振動部Vにより制御された振動波が振動子Bから発振される。次いで、その伝わってきた振動波を振動検出子Dが検出し、搬送ローラRとフィルム2の接触状態の変動に基づく音響インピーダンスの変化を電圧変換した0次電圧信号を振動検出部Sが出力する。
【0028】
この出力された0次電圧信号は、図7(a)に見られるような変動を伴わない直流成分とスリップ信号の検出成分を含む変動成分が重畳された形となっている。
次に、この直流成分と、成膜時の影響による長周期の変動を除去するため、出力された0次電圧信号をハイパスフィルター(HPF)Fを通すことで1次電圧信号とし、さらにこの信号を増幅器Aに通し、解析処理可能なレベルまで増幅された2次電圧信号を出力する(図7(b)参照)。
【0029】
この2次電圧信号には、実際のフィルムのスリップにより発生する変動成分のほかに、搬送ローラR、Rの回転に伴う変動が残っているが、差動増幅器Aでの処理により、その変動を除去し、図7(c)に示されるスリップ信号を明瞭に示す電圧信号が得られる。
【0030】
そこで、この搬送ローラの変動成分を取り除く方法を次に示す。
図8(a)に示すエンコーダEで測定した搬送ローラ回転周期に同期させて2次電圧信号を波形記録装置Mで記録することで、図8(b)に示す搬送ローラの回転変動によって生じる接触抵抗値の周期的な変動であるローラ変動電圧信号を捉える。この際10回〜20回の平均化処理を実施して求めると良い。
【0031】
このローラ変動電圧信号と、図8(c)に示される2次電圧信号を、差動増幅器Aに入力して、その差を求めることで最終的に図8(d)に示すスリップ信号が得られる。
【0032】
さらに、電流記検出系を通じ信号処理系から出力されたスリップ信号に基づくスリップ検出結果情報は、信号処理を介してスリップ制御装置内の搬送制御部のプログラマブルロジックコントローラ(PLC)にフィードバックする。このPLCは受取った情報によってフィルムに掛かる張力、搬送ローラ回転速度、即ちフィルム搬送速度の調整を逐次実行し、成膜装置のフィルム搬送系の制御を行うことでフィルムのスリップを最小限に抑える。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を用いて本発明を、さらに詳細に説明する。
本発明における種々の特性値は、下記の通り測定した。なお、本発明は、その範囲を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
厚み100μm、280mフィルム幅のPETフィルムの中央部に約200mm、膜厚10nmの金属膜を成膜したものを使用し、このフィルムを0.5m/minで搬送した際のスリップ信号の確認を行った。
その後スリップ信号が検出された位置のフィルムのスリップによる傷の有無を確認し有効性を検証した。なお、信号処理系の増幅率については、最終出力である差動増幅器の出力が1V程度になるように適宜調整を行った。
【0035】
先に示したフィルムスリップ検出方法によって検出したスリップ信号に対応したフィルムのスリップにより生じたフィルムの傷の状況を図9に示す。
スリップ信号が得られたフィルム上の位置には、フィルムのスリップにより発生した数十μm程度の傷2bが実際に確認された。また、この傷の形状はフィルムの進行方向に対して斜めとなっており、幅方向にフィルムがずれたことを示唆していた。これらのことから、この検出手段が成膜装置におけるフィルムのスリップの検出に有効であることが分かる。
【0036】
従来の搬送ローラの回転差からフィルムのスリップ検出を行う方法では、このような数十μm程度の小さなスリップの検出は不可能であると同時に、幅方向のずれは検出できなかったが、本発明では、これらが確実に検出されており、精度の高い検出方法である。
【0037】
(実施例2)
図5のフィルムスリップ検出装置を備えた図1に示す成膜装置を用い、フィルムスリップ検出装置を機能させて金属膜をフィルム上に、スパッタ成膜を行ったところ、金属膜上に極めて傷の少ない金属膜付きフィルムを製造することができたが、スリップ検出装置の機能を使用しなかった場合には、成膜された金属膜の表面に少なからず傷の発生を見た。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のフィルム搬送型皮膜成膜装置の説明図である。
【図2】フィルムが進行方向にずれるスリップを示す説明図である。
【図3】フィルムが幅方向にずれるスリップを示す説明図である。
【図4】フィルム搬送に伴う接触抵抗変動の電圧信号を示す図である。
【図5】フィルムスリップ検出装置の概略構成の説明図である。の流れを示す図6、及び
【図6】フィルムスリップ検出装置のスリップ信号検出処理の流れを示す図である。
【図7】図6の各処理に対応する信号波形を示す図である。
【図8】図6の各処理に対応する信号波形を示す図である。
【図9】フィルムのスリップにより形成されたフィルムの傷を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 フィルム搬送型皮膜成膜装置
2 フィルム
2a 皮膜(金属皮膜)
2b 傷
3 CAN
4a、4b ターゲット
5a 振動子
5b 振動検出子
6 うねり
10 送出ロール
11 巻取ロール
20 搬送ローラ
30 フィルムスリップ検出装置
40 スリップ制御装置
A、B、C、D 搬送ローラ
、R 搬送ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膜を表面に備えるフィルムを、少なくとも2個の搬送ローラを介して搬送するフィルム搬送装置に用いられるフィルムのスリップ検出方法であって、
前記少なくとも2個の搬送ローラ間を搬送されるフィルムに付加した振動波の変化から、前記搬送ローラで発生する前記フィルムのスリップ状態を検出することを特徴とするフィルムのスリップ検出方法。
【請求項2】
皮膜を表面に備えるフィルムが、少なくとも2個の搬送ローラを介して搬送されるフィルム搬送装置に備わるフィルムスリップ検出装置であって、
前記2個の搬送ローラ間を搬送されるフィルムに付加した振動波の変化を測定する振動検出系と、前記振動検出系から出力される振動波変化から前記搬送ローラで発生する前記フィルムのスリップ状態を検出する信号処理系とからなり、
前記振動検出系は、
振動波をフィルムに付加する振動子を備える搬送ローラ及び前記振動子からの振動波を検出する振動検出子を備える前記搬送ローラと対となる他方の搬送ローラと、
前記振動子を作動させる励起振動部と、
前記振動検出子が検出した振動波を電圧変換した0次電圧信号を出力する振動検出部とを備え、
前記信号検出系は、
前記振動検出部が出力した0次電圧信号から低周波変動成分を除去した1次電圧信号を出力するハイパスフィルターと、
前記1次電圧信号を増幅した2次電圧信号を出力する増幅器と、
前記搬送ローラが回転する時の回転周期信号を出力するエンコーダと、
前記回転周期信号に前記2次電圧信号を同期させて形成したローラ変動電圧信号を記録する波形記録装置と、
前記ローラ変動電圧信号並びに前記2次電圧信号を入力し、前記ローラ変動電圧信号と前記2次電圧信号との信号差を検出し、前記信号差を増幅したスリップ発生信号を出力する差動増幅器とを備え、
前記搬送ローラで発生する前記フィルムのスリップ状態を検出することを特徴とするフィルムスリップ検出装置。
【請求項3】
請求項1記載のフィルムのスリップ検出方法によって得られたスリップ発生信号に基づいて前記フィルムのスリップ状態を抑制しながら、皮膜が成膜されたフィルムを搬送することを特徴とするフィルム搬送型皮膜成膜装置。
【請求項4】
フィルム搬送型皮膜成膜装置であって、
対に設けられるフィルム送出部及びフィルム巻取部と、
フィルムを搬送する少なくとも2個以上の搬送ローラと、
前記フィルム上に皮膜を形成する成膜部と、
前記フィルムのスリップを検出する請求項2記載のフィルムスリップ検出装置と、
前記フィルムのスリップを抑制するスリップ制御装置とを備えることを特徴とするフィルム搬送型皮膜性膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−95772(P2010−95772A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269217(P2008−269217)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】