説明

フィルムインサート成形用フィルム、及び、成形品

【課題】成形性に優れ、成形時にもクラックの発生がなく、かつ、高い耐傷付き性を備えた成形品が得られるフィルムインサート成形用フィルムと、製造の過程で不良品が発生しないので安価に製造できる、高い耐傷付き性を備えた成形品を提供する。
【解決手段】ベース樹脂層2の一方の面にハードコート層1が形成されたフィルムインサート成形用フィルムにおいて、前記ハードコート層が、ウレタンアクリレート系光硬化型樹脂、及び/または、エポキシアクリレート系光硬化型樹脂により構成されているフィルムインサート成形用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電製品、オーディオ製品、PC、オフィス機器、自動車内外装部品などの成形品の表面加飾に使用されるフィルムインサート成形用フィルムと、このようなフィルムインサート成形用フィルムを使用して成形される成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
家電製品は操作パネル部を有しており、この操作パネル部において電源の入/切などの機器動作制御を行う。
【0003】
従来の操作パネルは、例えば、「洗い」、「すすぎ」、「水量」、「スタート」、「入」、「切」等の文字が印刷されたフィルムインサート成形用フィルムをトリミング後、プレス成形等によりフォーミングし、これを射出成形金型内に挿入、セットし、型締め後に形成されたキャビティへABS樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、あるいは、ポリプロピレン等の成形用樹脂を射出し、上記キャビティ内を充填させることにより、成形と同時に、フィルムインサート成形用フィルムと成形樹脂とを一体化させるフィルムインサート成形法によって作製されている(特許第4073470公報(特許文献1))。
【0004】
ここで、フィルムインサート成形用フィルムと射出樹脂との密着性を高めるために、このフィルムの成形樹脂に接する側に、必要に応じて、予めアクリル系バインダ層やウレタン系バインダ層等のバインダ層を形成することが知られている。
【0005】
フィルムインサート成形で使用される上記フィルムは、成形品の形状が比較的浅く、フラットな形状の場合は、耐薬品性、耐候性、耐熱性、透明性、印刷適性、機械的強度に優れる二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下「PETフィルム」とも云う)が用いられているが、PETフィルムは表面に傷がつきやすい欠点を有しているために、製品を使用するにつれ、その外観に傷がつき、外観が損なわれてしまう問題が生じる。
【0006】
ここでこのようなPETフィルムの耐傷付き性を改良するために、フィルム表面にハードコート剤をコーティングすることが一般的に行われている。
【0007】
このようなハードコート剤としては、シリコン系、アクリル系、メラミン系等の熱硬化型ハードコート剤や、アクリル系、エポキシ系等の放射線硬化型ハードコート剤が知られているが、フィルムインサート成形用フィルムに、これらのハードコート剤を適用した場合、フォーミングの際の、賦形が甘くなったり(型に忠実な成形ができない)、絞りの深い部分や、エッジ部分、R(曲率半径)の小さい部分のハードコート層にクラックが入ってしまうなどの問題があった。
【特許文献1】特許第4073470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、これらの問題点を改善する、すなわち、成形性に優れ、成形時にもクラックの発生がなく、かつ、高い耐傷付き性を備えた成形品が得られるフィルムインサート成形用フィルムと、製造の過程で不良品が発生しないので安価に製造できる、高い耐傷付き性を備えた成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフィルムインサート成形用フィルムは上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、ベース樹脂層の一方の面にハードコート層が形成されたフィルムインサート成形用フィルムにおいて、前記ハードコート層が、ウレタンアクリレート系光硬化型樹脂、及び/または、エポキシアクリレート系光硬化型樹脂により構成されていることを特徴とするフィルムインサート成形用フィルムである。
【0010】
本発明の成形品は、請求項2に記載の通り、請求項1に記載のフィルムインサート成形用フィルムを用いて成形されたことを特徴とする成形品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフィルムインサート成形用フィルムによれば、上記構成により、成形性に優れ、成形時にもクラックの発生がなく、かつ、高い耐傷付き性を備えた成形品が得られる。
【0012】
また、本発明の成形品は、製造において歩留まりよく良品が得られるので、コストが低廉で、かつ、高い耐傷付き性を備えた成形品である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に本発明に係るフィルムインサート成形用フィルムの一例Aの断面をモデル的に示す。
【0014】
符号2はベース樹脂層であり、このベース樹脂層2の一方の面にハードコート層1が形成されている。一方、ベース樹脂層2のハードコート層1とは反対の面には部分的に印刷層(印刷インキ層)4が印刷によって形成され、さらに、バインダ層3が形成されている。
【0015】
ここでベース樹脂層としては、ポリエステル、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニルなどから適宜選択するが、その中で、ポリエステル、特に二軸延伸ポリエチレンテレフタレートであると、耐薬品性、耐候性、耐熱性、透明性、印刷適性、機械的強度に優れ、かつ、容易・安価に入手できるので好ましい。
また、上記ベース樹脂層は加熱成形時の寸法安定性が良好であるので二軸延伸フィルムから形成することが好ましい。
【0016】
このようなベース樹脂層の厚さとしては、通常10μm以上300μm以下とする。10μm未満であるとフィルムが破断しやすく、300μm超であると成形性が劣りやすい。より好ましい範囲は25μm以上250μm以下である。
【0017】
このようなベース樹脂層の一方の面にハードコート層が形成される。
このとき、ハードコート層が、ウレタンアクリレート系光硬化型樹脂、及び/または、エポキシアクリレート系光硬化型樹脂により構成されていることが必要である。
【0018】
すなわち、これ以外の場合には、フォーミングの際の充分な型忠実性が得られなかったり、成形品の絞りの深い部分や、エッジ部分、曲率半径の小さい部分などで、ハードコート層にクラックが入ってしまう。
【0019】
ハードコート層は、上記ウレタンアクリレート系光硬化型樹脂、及び/または、エポキシアクリレート系光硬化型樹脂(未硬化)を硬化後に所望の厚さとなるようにベース樹脂層の片面に塗布し、それぞれの樹脂に適した波長の光(紫外線を含む)を、所定の光線量となるように照射して形成する。
【0020】
ハードコート層の厚さとしては、通常、2μm以上20μm以下とする。2μm未満であると所望の硬度が得られにくく、20μm超であるとカールやクラックが発生しやすくなる。ここで、フィルムにカールが生じると後工程(印刷、トリミング、インサート成形等)が不可能になったり、作業性が著しく低下する。より好ましいハードコート層の厚さの範囲は4μm以上10μm以下である。
【0021】
ハードコート層は耐傷付き性に大きく影響を及ぼす。このために、ハードコート層には硬度が高いことが求められるが、硬度が余りに高すぎると成形時の曲げによってひび割れが生じやすくなるので、通常は鉛筆硬度でH以上4H以下であることが望ましい。
【0022】
なお、鉛筆硬度は、JIS K5600に準拠し、鉛筆引っかき試験機により、鉛筆としては三菱鉛筆社ユニ(UNI)を用いて、成形品の表面に、鉛筆を45度の角度で、上から750gの荷重を掛け、10mm程度引っかき、傷の付き具合を確認して判定して測定する。
【0023】
ここで、図2にモデル的に示したようにハードコート層を符号1a及び1bの2層設けてもよく、このとき、最外のハードコート層1aは第2の層であるハードコート層1bよりも硬度が高い樹脂から形成することが可能となり、最外層としてはより硬い、鉛筆硬度で2H以上5H以下としても成形時に瑕疵が生じないので耐傷つき性をより向上させることができる。
【0024】
ベース樹脂層の他の面(ハードコート層形成側とは反対の面)には最終の成形物のデザインに合わせて適宜、印刷を施すことができる(図1及び図2中の符号4)。印刷方法としてはシルクスクリーン法、オフセット法などが挙げられる。
【0025】
次いで、必要に応じて、印刷層に重ねて、バインダを同様の方法で印刷して、バインダ層を形成する(図1及び図2中の符号3)。
【0026】
バインダ層の形成により、成形樹脂とフィルムとの密着性が向上する。
すなわち、フィルムインサート成形時に溶融樹脂の熱によりバインダ層を形成するバインダが、溶融し、フィルムと成形樹脂とが密着する。バインダは、成形樹脂の種類に応じて、アクリル系、ウレタン系、PO系、PET系、PA系などより、適宜選択し、例えば印刷によって形成する。
【0027】
バインダ層の厚さは通常5μm以上50μm以下とする。5μm未満であるとバインダ層に剥がれが発生する場合があり、また50μm超である場合、成形性が劣る場合がある。特に好ましい厚さは10μm以上30μm以下以下である。
【0028】
このようにして得られた本発明に係るフィルムインサート成形用フィルムは、例えば、主にトムソン型あるいはプレス型による型抜きにより適切な大きさにトリミングする。すなわち、上記印刷の際には、多くの場合、多数個取りで行うために、1枚のフィルムに複数分の印刷が施されているので、このトリミング工程で成形品1個分となるようにフィルムを切断する。
【0029】
次いで、しわ発生を未然に防止するために、通常、フィルムのフォーミングを成形工程の前に行う。
【0030】
まず、フィルムインサート成形用フィルムをプレヒートする。このときの温度は通常150以上190℃以下の範囲であり、160℃付近が好ましい。数秒間プレヒートしたのち、プレス型にこのフィルムをセットし、プレス成形を行う。フォーミングを行うのは、成形品の表面が通常、平面でなく、3次元形状であるため、平面のフィルムの状態でインサート成形を行うと、型内でフィルムが部分的に重なってしまい、その結果、得られる成形品表面に、しわが発生するからである。
【0031】
フォーミングされたフィルムを射出成形の金型へ挿入し、所定の位置にセットし、型締め後に金型内に形成されたキャビティへ成形用樹脂を射出し、上記キャビティに樹脂を充填させることにより、成形と同時に、フィルムインサート成形用フィルムと成形樹脂とを一体化させ、冷却後、型から取りだして製品(成形品)を得る。
【実施例】
【0032】
<実施例1>
日本化薬社製のエポキシアクリレート系紫外線硬化型ハードコート剤KAYANOVA SKW−501(固形分:50%、溶媒:MEK(メチルエチルケトン)・MIBK(メチルイソブチルケトン)混合溶剤)を、東レ社製二軸延伸透明PETフィルムU34(厚さ188μm)の片面にリバースグラビアコーターにて塗工後、乾燥機によって90℃の温度で溶媒を除去・乾燥した後、120W/cmの高圧水銀灯を使用し、10cmの距離から紫外線を照射して硬化させて、ハードコート層を形成した。このとき、ハードコートの厚さは8μmであった。
【0033】
このようにハードコート層を片面に形成したフィルムのハードコート面にさらに、日本化薬製のウレタンアクリレート系紫外線硬化型ハードコート剤KAYANOVA SKW−240(固形分:50%、MEK・MlBK混合溶剤)をリバースコーターにて塗工し、上記同様に乾燥した後、120W/cmの高圧水銀灯を使用し、10cmの距離から紫外線を照射して、最外層のハードコート層を形成した。
【0034】
このとき、最外のハードコート層の厚さは2μmであり、ハードコート層の総厚は10μmとなった。このように2層のハードコート層を片面に形成した本発明に係るフィルムインサート成形用フィルム1を得た。
【0035】
次いで、このフィルムインサート成形用フィルム1を使用して、シルクスクリーン印刷法により印刷層とバインダ層とを形成したのち、トムソン型により所定形状に切断し、プレス成形によりフォーミング後、射出樹脂をABS樹脂として、フィルムインサート成形法により洗濯機タッチパネルを成形した(この洗濯機のタッチパネルの外観をモデル的に図3に示した)。
【0036】
成形品は細部にわたるまで、クラックの発生はなく、そのハードコート層側の表面鉛筆硬度は2Hであり、かつ、実際の使用時の耐傷つき性に優れたものであった。
【0037】
<実施例2>
日本化薬社製のウレタンアクリレート系紫外線硬化型ハードコート剤KAYANOVAFOP−4100(固形分50%MEK・MIBK混合溶剤)を、東レ社製二軸延伸透明PETフィルムU34(厚さ:188μm)の片面にリバースグラビアコーターにて塗工後、90℃の温度でオーブンにて乾燥し、120W/cmの高圧水銀灯を使用して、10cmの距離から紫外線照射し、ハードコート層を形成して本発明に係るフィルムインサート成形用フィルム2を得た。なお、ハードコート層の厚さは5μmであった。
【0038】
このフィルムインサート成形用フィルム2を使用して、上記実施例1同様にフィルムインサート成形法により洗濯機タッチパネルを成形した。成形品は細部にわたるまで、クラックの発生はなく、鉛筆硬度は2Hであり、かつ、実際の使用時の耐傷つき性に優れたものであった。
【0039】
<比較例>
日本化薬社製のポリエステルアクリレート系紫外線硬化型ハードコート剤KAYANOVAFOP−1100(固形分80%。トルエン・酢酸エチル混合溶剤)を、メチルエチルケトンによって固形分50%に調整後、東レ社製二軸延伸透明PETフィルムU34(厚さ:188μm)の片面にリバースグラピアコーターにて塗工後、90℃の温度で乾燥し、次いで、120W/cmの高圧水銀灯を使用して10cmの距離から紫外線照射し、ハードコート層を形成した。このとき、ハードコート層の厚さは5μmであった。
【0040】
このようにして得た比較例に係るフィルムインサート成形用フィルム3を使用して、洗濯機タッチパネルを上記同様に成形した。成形品はエッジ部分にクラックが発生し、製品としての品位を著しく損なうものであった。この成形品の表面(クラックのない平坦な部分)での鉛筆硬度は2Hであった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係るフィルムインサート成形用フィルムの断面を示すモデル断面である。
【図2】本発明に係る他のフィルムインサート成形用フィルムの断面を示すモデル断面である。
【図3】実施例で得られた成形品(洗濯機のタッチパネル)を示すモデル図である。
【符号の説明】
【0042】
2 ベース樹脂層
1、1a、1b ハードコート層
3 バインダ層
4 印刷層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂層の一方の面にハードコート層が形成されたフィルムインサート成形用フィルムにおいて、前記ハードコート層が、ウレタンアクリレート系光硬化型樹脂、及び/または、エポキシアクリレート系光硬化型樹脂により構成されていることを特徴とするフィルムインサート成形用フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルムインサート成形用フィルムを用いて成形されたことを特徴とする成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−274378(P2009−274378A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129475(P2008−129475)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(591178517)株式会社三和スクリーン銘板 (19)
【出願人】(508052455)株式会社NIC (2)
【出願人】(505360937)株式会社エスウェル (5)
【出願人】(505244394)日本ウェーブロック株式会社 (19)
【Fターム(参考)】