説明

フィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング方法およびその装置

【課題】成形品からはみ出している余剰フィルムを成形品の端部に沿って正確にかつ効率よくトリミングするフィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング方法とその方法を実施するための装置を提供する。
【解決手段】フィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング方法は、受治具30に載置された樹脂基材Aの表面に真空圧空成形により加飾フィルムBを貼着し、この加飾フィルムの製品部外周の余剰部分B2をトリミングするフィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング方法であって、樹脂基材Aは、外周縁が下方に向かって屈曲して裏面側が凹面形状の成形品であり、受治具は、この樹脂基材Aを載置する受型部31と受型部31に連続する基台部32との境界近傍に該境界の全周に亘って敷設された電熱線40を備え、この電熱線40に通電することで、貼着された加飾フィルムを樹脂基材Aの外周縁の下端部に沿って溶断することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空圧空成形によって製造されるフィルム加飾成形品の加飾フィルム貼着後の製品部外周の余剰フィルムをトリミングするトリミング方法とその方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム加飾成形品は、例えば、真空圧空成形法により受治具上に載置された成形品(以後、樹脂基材ともいう)の表面から受治具載置台上に亘って加飾フィルムを密着させ、しかる後に貼着された加飾フィルムの製品部外周の余剰部分をトリミングして得られる。このトリミング方法として、特許文献1では、加飾フィルム貼着後、装置内で大まかに余剰フィルムを切除する一次トリミング加工を施し、次に、加飾フィルムが貼着された成形品を受台とともに装置外の刃物台へ移載して、この刃物台上でさらに加飾フィルムの下端をトムソン刃により切除する二次トリミング加工を施す方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−228143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の従来技術では余剰フィルムのトリミングに二工程が必要であり作業能率が著しく低下するばかりでなく、コスト高になる。また、端面が三次元形状の樹脂基材ではトムソン刃による二次トリミングは困難であり、更なる改善が望まれていた。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、成形品からはみ出している余剰フィルムを成形品の端部に沿って正確にかつ効率よくトリミングするフィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング方法とその方法を実施するための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のフィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング方法は、受治具に載置された樹脂基材の表面に真空圧空成形により加飾フィルムを貼着し、この加飾フィルムの製品部外周の余剰部分をトリミングするフィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング方法であって、樹脂基材は、外周縁が下方に向かって屈曲して裏面側が凹面形状の成形品であり、受治具は、この樹脂基材を載置する受型部と受型部に連続する基台部との境界近傍に該境界の全周に亘って敷設された電熱線を備え、この電熱線に通電することで、貼着された加飾フィルムを樹脂基材の外周縁の下端部に沿って溶断することを特徴とする。
【0007】
本発明のフィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング方法において、電熱線は、前記外周縁下端部から加飾フィルムの厚さの2〜5倍の距離を隔てて敷設されていることが望ましい。また、このとき、電熱線の直径は、加飾フィルムの厚さの2〜5倍とするとよい。
【0008】
本発明のフィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング方法において、受治具は、境界部の全周に亘って段差部を有し、この段差部に電熱線が敷設されていてもよい。
【0009】
本発明のフィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング装置は、受治具に載置された樹脂基材の表面に真空圧空成形により加飾フィルムを貼着し、この加飾フィルムの製品部外周の余剰部分をトリミングするフィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング装置であって、樹脂基材は、外周縁が下方に向かって屈曲して裏面側が凹面形状の成形部材であり、受治具は、樹脂基材を載置する受型部とこの受型部に連続する基台部との境界近傍に境界の全周に亘って敷設された電熱線を備え、この電熱線に通電することで、貼着された加飾フィルムを樹脂基材の外周縁の下端部に沿って溶断するように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング方法によれば、受治具に配設された電熱線に通電するだけで、製品部外周の余剰フィルムを樹脂基材の外周縁の下端部に沿って正確に溶断することができる。そして、真空圧空成形装置からフィルム加飾成形品と溶断された余剰フィルムとを取り出すだけでトリミングは終了する。従って、作業者がカッタで余剰フィルムを切断する従来技術に比べて切断の作業能率が著しく高い。また、工程減によりリードタイムが短縮されるので、大幅にコストを低減することができる。
【0011】
また、余剰フィルムを樹脂基材の外周縁の下端部に沿って正確に溶断することができるので、トリミング部の見栄えがよい。
【0012】
また、真空圧空成形装置内に樹脂基材を載置した複数の受治具を配置すれば、複数のフィルム加飾成形品について同時に余剰フィルムをトリミングすることができる。従って、加工コストをさらに低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態の真空圧空成形装置を示す説明図である。
【図2】実施形態の受治具を示す斜視図である。
【図3】樹脂基材を載置した受治具に加飾フィルムを貼着した状態を示す断面図である。
【図4】発熱線を固定する固定手段の一例を示す断面図である。
【図5】段差部に発熱線を敷設した例を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好適な実施の形態を図1〜図5を参照しながら説明する。図1に本実施形態に係る真空圧空成形装置10の概要を断面模式図で示す。公知のように、真空圧空成形装置10は、上端が開口したボックス形状の下部チンバー11と、下端が開口したボックス形状の上部チャンバー12とから構成されている。
【0015】
下部チャンバー11は固定されており、内部に受治具セット台13を昇降自在に備えている。受治具セット台13の昇降手段は、公知のように、下部チャンバー11の下方に油圧シリンダ16を配設し、そのピストンロッド16aを下部チャンバー11の下面中央部にシール材を介して気密的に上下摺動自在に挿通し、ピストンロッド16aの上端にテーブル17を固定して、このテーブル17上の中央部に受治具セット台13を設置した構造とされている。
【0016】
一方、上部チャンバー12は上面に連結した油圧シリンダ15によって上下動が可能であり、その上部内に赤外線ヒータからなる複数個のヒータ14が配設されている。そして、真空圧空成形装置10は、これらの上下チャンバー11、12の開口端を互いに当接あるいは離間させることにより開閉自在に構成されている。
【0017】
上下チャンバー11、12の外部には真空タンク18と圧空タンク19とが設けられている。真空タンク18は配管20、21を介して上下チャンバー11、12に連通されている。また、上部チャンバー12側に連通した配管20には切替弁22が設けられており、圧空タンク19と切替弁22との間は圧気供給管23によって連通されている。
【0018】
受治具セット台13には樹脂基材Aを載置する受治具30が配設されている。なお本実施形態において、樹脂基材Aは自動車の内外装部品などのABS樹脂やポリカーボネート樹脂などの合成樹脂材よりなる成形品であって、外周縁部A1が下方に向かって屈曲している裏面側が凹面形状とされる立体成形品である。そして、受治具30には、電熱線40が敷設されている。
【0019】
図2に受治具30の一例を斜視図で示し、図3には、樹脂基材Aが載置されさらに加飾フィルムBが貼着された受治具30の断面図を示す。受治具30はPTFE(テフロン(登録商標))やエポキシ樹脂など耐熱性と絶縁性に優れた樹脂よりなり、樹脂基材Aの裏面側A2の内周面に密着可能な受型部31と、この受型部31に連続するほぼ直方体形状の基台部32とよりなる。そして、受型部31と基台部32との境界33近傍には電熱線40が境界33の全周に亘って敷設されている。境界33は、受型部31に樹脂基材Aを載置した際にその外周縁部A1の下端部A12に沿う周壁であり、電熱線40は、境界33から所定距離a隔てて周壁に形成された断面半円形の溝部34に半ば埋設されるように配置されている。電熱線40は後述する固定手段42によって溝部34に固定されている。
【0020】
なお、所定距離aは加飾フィルムBの厚さの2〜5倍程度で電熱線40の直径の2〜5倍程度とするとよい。例えば、加飾フィルムBの厚さが0.2〜0.5mmの場合には、直径が0.4〜2.5mmの電熱線40を境界33から0.5〜1.0mm程度離間して配置するとよい。電熱線の径と所定距離aとをこのように設定することで、加飾フィルムBが樹脂基材Aの端面A14に確実に貼着されており、かつ、加飾フィルムBの端部A12からのはみ出し部が1.0mm未満である見栄えのよいフィルム加飾成形品Sを得ることができる。なお、電熱線40としては、周知のニクロム線が好適であるが、ヒーター線やシーズヒータなどを用いてもよい。
【0021】
図4は、電熱線40を溝部34に固定する固定手段42を示す拡大断面図である。本実施形態では固定手段42は溝部34に適宜の間隔で穿設された基台部32の側壁32aを貫通する固定孔35と、電熱線40を保持する線材44と、側壁32aの裏面側において線材44を係止する棒状の絶縁体46よりなる。ここで、電熱線40を固定手段42によって側壁32aに固定するには、まず線材44を中央部で折り曲げ、折り曲げ部に電熱線40を挟んで保持する。次に、線材44の両端を固定孔35に挿通して側壁32aの裏面で絶縁体46に巻き付ける。その後、線材44の両端を撚り合わせて結び目(または溶接部)48を形成する。このようにして電熱線40を側壁32aに牽引固定することができる。なお、線材44は高温でも変質しないステンレスや電熱線40と同材質のものとするとよく、その線径は電熱線40よりも細いものが望ましい。また、絶縁体46としては受治具30と同材質のPTFEやエポキシ樹脂あるいはセラミックなど用いることができる。
【0022】
また、図5に示すように、受型部31と側壁部32との境界部33の全周に段差部36を形成して、この段差部36に電熱線40を配置するようにしてもよい。
【0023】
図5は、図3における円Cで囲んだ部分であって、段差部36を設けた場合を拡大して模式的に示した部分断面図である。段差部36の段差面36aは樹脂基材Aの端面A14に連続するように端面A14と面一に形成されている。ここで、電熱線40は、段差部外周36bから所定距離a隔てて段差面36aに形成された溝部34に半ば埋設されるようにして敷設されている。
【0024】
このように段差部36を設けてその段差面36aに電熱線40を敷設することで、貼着後の加飾フィルムBの端部B1が加飾成形品Sの端面A14において加飾成形品Sの内周側を指向した状態で溶断することができるので、さらに見栄えのよいフィルム加飾成形品Sを得ることができる。
【0025】
次に、上記のように構成した真空圧空成形装置10によって樹脂基材20の表面に加飾フィルムBを貼着した後、貼着された加飾フィルムBの製品部外周の余剰部分をトリミングするトリミング方法について説明する。なお、この樹脂基材Aの表面に貼着する加飾フィルムBとしては、例えば、アクリル系又はウレタン系のフィルムに適宜な印刷や塗装あるいは金属蒸着を施して使用される。なお、加飾フィルムBの裏面には樹脂基材に接着する接着剤が塗布されている。
【0026】
まず、上記真空圧空成形装置10によって成形品Aの表面に加飾フィルムBを貼着する方法を簡単に説明する。図1に示すように、上部チャンバー12を上動させて下部チャンバー11の上端開口部を開放させると共に受治具セット台13を下部チャンバー11の上端開口部にまで上昇させ、受治具セット台13に受治具30を配設し、受治具30の受型部31に樹脂基材Aを載置する。
【0027】
次に、受治具セット台13を固定させているテーブル17を下動させて樹脂基材Aと受治具30を下部チャンバー11内に収容した状態にすると共に、下部チャンバー11の開口端に加飾フィルムBを張設してその周縁端を下部チャンバー11の口縁に設けられているクランプ24によって挟持、固定する。
【0028】
次いで、上部チャンバー12を下動させて上下チャンバー11、12の開口端を当接させることにより上下チャンバー11、12を密閉する。そして、真空タンク18により配管20、21を通じて上下チャンバー11、12内を真空とする。続いて、ヒータ14を発熱させて上下チャンバー11、12間を仕切った状態で張設されている加飾フィルムBを加熱して軟化させる。
【0029】
しかるのちに、油圧シリンダ16を作動させて受治具セット台13を上昇させることにより、このセット台13上の受治具30に載置されている樹脂基材Aの上面を加飾フィルムBの下面中央部に押し付けて加飾フィルムBを樹脂基材Aの上面A3に密着させる。
【0030】
この状態にして切替弁22を切り替えて上部チャンバー12側の配管20を圧気供給管23側に連通させることにより、圧空タンク19から空気を上部チャンバー12内に流入させる。すると加飾フィルムBの下方側は真空状態を保持しているので、加飾フィルムBは、空気圧によって図3および図5に示すように、樹脂基材Aの外周縁部A1の表面から下端面A14、さらに下端面A14に隣接する受治具30の境界部33(又は段差部36)および、基台部32の外周面に密着した状態となる。
【0031】
このように加飾フィルムBを樹脂基材Aから受治具30の下端に亘って被着させたのち、上下チャンバー11、12内を大気に開放させ、しかるのちに、上部チャンバー12を上動させて上下チャンバー11、12間を開放させる。
【0032】
この状態にして受治具30に敷設した電熱線40に通電する。貼着後の加飾フィルムBには引張応力が残留しているので、電熱線40に通電して加熱することにより、加飾フィルムBを電熱線40が敷設されている樹脂基材Aの下端部近傍で全周に亘って正確に且つ容易に溶断することができる。このようにして加飾フィルムBを溶断した後、真空圧空成形装置10からフィルム加飾成形品Sと余剰フィルムB2(図3)とを取り出して1サイクルの成形加工を終了する。こうして得られたフィルム加飾成形品Sは、樹脂基材Aの表面(上面)A3から外周縁部A1の下端面A14にわたって加飾フィルムBがきれいに貼着されてなり、かつ、下端面A14からはみ出す余剰フィルムの長さを1mm未満に抑制することができるので見栄えのよい外観を呈することができる。特に、段差部36に電熱線40を埋設した場合には、下端面A14からはみ出す余剰フィルムB1(図5)の先端がフィルム加飾成形品Sの内周側を指向した状態となるので、さらに見栄えのよいフィルム加飾成形品Sを得ることができる。
【0033】
また、真空圧空成形装置内に樹脂基材を載置した複数の受治具を配置すれば、複数のフィルム加飾成形品について同時に余剰フィルムをトリミングすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のフィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング方法は、車両の内装部材としてのフィルム加飾成形品に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0035】
A:樹脂基材 A1:外周縁 A14:下端部 A3:(基材)表面 B:加飾フィルム 30:受治具 31:受型部 32:基台部 33:境界 34:溝部 35:固定孔 36:段差部 36a:段差面 40:電熱線 42:固定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受治具に載置された樹脂基材の表面に真空圧空成形により加飾フィルムを貼着し、該加飾フィルムの製品部外周の余剰部分をトリミングするフィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング方法であって、
前記樹脂基材は、外周縁が下方に向かって屈曲して裏面側が凹面形状の成形品であり、
前記受治具は、該樹脂基材を載置する受型部と該受型部に連続する基台部との境界近傍に該境界の全周に亘って敷設された電熱線を備え、
該電熱線に通電することで、貼着された前記加飾フィルムを前記樹脂基材の前記外周縁の下端部に沿って溶断することを特徴とするフィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング方法。
【請求項2】
前記電熱線は、前記外周縁下端部から前記加飾フィルムの厚さの2〜5倍の距離を隔てて敷設されている請求項1に記載のフィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング方法。
【請求項3】
前記電熱線の直径は、前記加飾フィルムの厚さの2〜5倍である請求項2に記載のフィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング方法。
【請求項4】
前記受治具は、前記境界部の全周に亘って段差部を有し、前記電熱線は、該段差部に敷設されている請求項1〜3のいずれか一項に記載のフィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング方法。
【請求項5】
受治具に載置された樹脂基材の表面に真空圧空成形により加飾フィルムを貼着し、該加飾フィルムの製品部外周の余剰部分をトリミングするフィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング装置であって、
前記樹脂基材は、外周縁が下方に向かって屈曲して裏面側が凹面形状の成形部材であり、
前記受治具は、該樹脂基材を載置する受型部と該受型部に連続する基台部との境界近傍に該境界の全周に亘って敷設された電熱線を備え、
該電熱線に通電することで、貼着された前記加飾フィルムを前記樹脂基材の前記外周縁の下端部に沿って溶断することを特徴とするフィルム加飾成形品の余剰フィルムトリミング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−71271(P2013−71271A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210122(P2011−210122)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】