説明

フィルム加飾部品

【課題】所定のABS成形基材と所定の表面硬度を所望する場合、フィルムの貯蔵弾性率が摂氏130℃で5MPa以上かつ30MPa以下とすることによって、寸法変化を抑えたフィルム加飾部品を提供することを目的とする。
【解決手段】真空成形または真空圧空成形により加飾される部品であり、部品本体を構成する厚み1.0mm以上かつ2.5mm以下のABS成形基材と、成形基材を覆う鉛筆硬度HBと同等以上に硬いフィルムと、成形基材とフィルムとの間に接着層とを有するフィルム加飾部品であって、フィルムの裾部は成形基材の意匠面に露出する構成とし、フィルムの貯蔵弾性率が摂氏130℃で5MPa以上かつ30MPa以下とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空成形または真空圧空成形によりフィルムを貼り合わせて加飾した加飾成形部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
成形部品の外観品位を向上させる手段として、外観表面を意匠性のあるフィルムによって加飾することが行われている。一般に、三次元形状を有する成形品を加飾する方法として、真空成形または真空圧空成形、インサート成形、インモールド成形がある。
【0003】
真空成形は、フィルムに熱をかけて軟化させて、フィルムと成形品の間の空気を部品側から引き抜くことで真空に近い状態を作って、部品に密着させるものであり、真空圧空成形は、さらに部品の上部のフィルム側から空気圧をかけて密着させるものである(以下、真空成形)。インサート成形は、予めフィルムを所定形状に賦形し、金型に挿入して加熱溶融樹脂を圧力を加えて金型へ流し込み(射出成形)、冷却固化させてフィルムと成形品を一体化させた部品を作製する方法である。また、インモールド成形は、離型層を介して意匠印刷のあるフィルムを金型に挿入し、射出成形して冷却固化させた後、フィルムを剥がすことによって意匠を転写させて一体部品を作製する方法である。
【0004】
インサート成形及びインモールド成形は、部品の成形と同時に加飾され、強固に一体化されていることが特徴である。一方、真空成形では、成形部品の完成後、加熱したフィルムを貼り合わせることによって加飾する方法である(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3924760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、真空成形法は、100〜200℃程度に加熱して軟化させた樹脂フィルムを伸ばし、常温の成形部品(以下、被加飾部品)に張り合わせた後、冷却するため、フィルムが収縮し、被加飾部品には大きな内部応力が発生する。これは、フィルム配向に起因する内部応力と、加熱フィルムと被加飾部品との熱収縮率の違いに起因する応力である。
【0007】
このフィルム成形体に内在する応力が原因で、成形品の変形等の寸法変化が発生するという課題があった。
【0008】
これを抑えるために、被加飾部品の肉厚を増加させたり、別部材と組み合わせたりして構造強度を確保することが成されている。
【0009】
また、柔軟性ある(例えば、配向の小さい)フィルムを使用すれば内部応力も小さくなり、寸法変化を抑えることができるが、柔軟性があり柔らかいフィルムの表面硬度は低く、HB鉛筆でも傷が付いてしまうため(鉛筆硬度B以下)、柔軟性あるフィルムを使用することもできない。
【0010】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、所定のABS成形基材と所定の表面硬度を所望する場合、フィルムの貯蔵弾性率が摂氏130℃で5MPa以
上かつ30MPa以下とすることによって、寸法変化を抑えたフィルム加飾部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記従来の課題を解決するために、本発明のフィルム加飾成形部品は、真空成形または真空圧空成形により加飾される部品であり、部品本体を構成する厚み1.0mm以上かつ2.5mm以下のABS成形基材と、前記成形基材を覆う鉛筆硬度HBと同等以上に硬いフィルムと、前記成形基材と前記フィルムとの間に接着層とを有するフィルム加飾部品であって、前記フィルムの裾部は前記成形基材の意匠面に露出する構成とし、前記フィルムの貯蔵弾性率が摂氏130℃で5MPa以上かつ30MPa以下としたものである。
【0012】
ここで、貯蔵弾性率は、JIS K7244−1及び7244−4に準拠し、試験片の幅5mm、長さ20mのシートを開始温度25℃、終了温度160〜200℃、昇温速度2℃/分、測定周波数1Hzの条件下にて測定した値である。
【0013】
これによって、端面部(トリミング周辺部)が固定されない部材に加飾成形した場合でも、フィルム加飾成形体の内部応力を低減でき、フィルム加飾部品のソリ等の寸法変化を抑えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフィルム加飾成形部品は、表面硬度を確保しつつ、内部応力を抑えて、寸法安定性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1における掃除機の全体斜視図
【図2】本発明の実施の形態1における掃除機本体、及びダストカバーの斜視図
【図3】本発明の実施の形態1におけるフィルム加飾部品の断面図
【図4】本発明の実施の形態1におけるフィルム加飾工程を説明する断面図
【図5】本発明の実施の形態1におけるフィルム加飾工程を説明する断面図
【図6】本発明の実施の形態1におけるフィルム加飾工程を説明する断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1の発明は、部品本体を構成する厚み1.0mm以上かつ2.5mm以下のABS成形基材と、前記成形基材を覆う鉛筆硬度HBと同等以上に硬いフィルムと、前記成形基材と前記フィルムとの間に接着層とを有するフィルム加飾部品であって、前記フィルムの裾部は前記成形基材の意匠面に露出する構成とし、前記フィルムの貯蔵弾性率が摂氏130℃で5MPa以上かつ30MPa以下としたものである。
【0017】
ここで、フィルム加飾部品は、意匠性のあるフィルムを真空成形によって密着させた部品であり、フィルムの裾部とは、真空成形後に余分のフィルムを取り除いた後のカットラインの部分であり、意匠面とは、人の目に触れる表面である。
【0018】
摂氏130℃のときのフィルムの貯蔵弾性率が5MPa未満であれば、フィルム加飾部品の表面硬度が低くて傷付きやすくなり、30MPaより大きければ成形後の内部応力が大きく、フィルム加飾部品の寸法変化、特にフィルムの裾部の寸法変化が大きくなる。
【0019】
一方、ABS成形基材の厚み1.0から2.5mmの薄い肉厚の部材であっても、フィルムの貯蔵弾性率が摂氏130℃で5MPa以上かつ30MPa以下であれば、表面の鉛筆硬度HBと同等以上に硬く、かつ、フィルムの裾部の寸法変化を抑えることができる。
【0020】
第2の発明は、特に、加飾フィルムが積層フィルムであり、フィルムの最外層の材質がアクリルであり、中間層の材質がABSであるものである。
【0021】
フィルム材質がアクリルのみでは、表面硬度が高い一方、成形加熱温度が120℃以上と高いため、部品との熱収縮差が大きくなり、内部応力が大きくなる。また、ABSのみでは、成形加熱温度が100℃以下であって部品との熱収縮差が小さく、内部応力は小さくなるが、表面硬度が低くなる。また、ABSは着色フィルムが一般的であり、最外層の使用には不適である。
【0022】
本発明は、最外層アクリルと中間層ABSを積層するものである。この積層フィルムにより、貯蔵弾性率が摂氏130℃で5MPa以上かつ30MPa以下、表面の鉛筆硬度HBと同等以上に硬い構成とすることができ、内部応力を緩和させて、寸法変化を抑えることができる。
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0024】
(実施の形態1)
フィルム加飾部品の実施の形態の例として、掃除機のダストカバーをフィルム加飾した場合について説明する。
【0025】
図1は、本発明の第1の実施の形態における掃除機の斜視図を、図2は、ダストカバーが開いている状態の掃除機本体の斜視図を、図3は、図2のダストカバーのX面での断面図を示すものである。
【0026】
図1及び図2において、掃除機本体1はダストカバーを構成する成形基材2を有している。ダストカバーは、掃除機によって吸引したゴミくずを取り出すための蓋であり、自在に開閉することができる。また、成形基材2は、加飾フィルム3によって加飾されており、フィルム加飾部品4を構成する。
【0027】
ここで、フィルム加飾部品4は、開けたり閉めたりする部品であるため、フィルムのカット部分が内部に隠れることなく、人の目に触れる表に現れることとなる。
【0028】
以下、フィルム加飾部品4であるダストカバーのフィルム加飾方法について説明する。
【0029】
使用する加飾フィルム3は、貯蔵弾性率が摂氏130℃で5MPa以上かつ30MPa以下を特徴とするものである。フィルムが積層である場合、個々のフィルムの貯蔵弾性率は前記の値である必要はなく、積層フィルムとしての値が前記の通りであれば良い。
【0030】
個々のフィルムとしては、加熱によって軟化する樹脂フィルムである必要があり、例えば、アクリル(ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸ブチルなど)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)、PC(ポリカーボネート)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキシルジメチレンテレフタレートなど)、ポリオレフィン、などがある。
【0031】
最外層のフィルムとしては、アクリルフィルムが透明性、耐傷付き性、耐候性の点で優れているため、加飾目的で最外層に使用するフィルムとして好ましい。また、アクリルフィルムを使用する場合、貯蔵弾性率の点から、ABSフィルムを積層することが望ましい。
【0032】
加飾フィルム3に対する印刷方法では、グラビア印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷など使用でき、要求する外観の意匠性、フィルムに対する印刷性、フィルム作製数量により選択することができる。
【0033】
接着層としては、ホットメルト系、感圧系、反応型、などがあるが、3次元形状に対する追従性から感圧型が望ましい。また、感圧系は、常温で接着、剥離が可能であるため、余分なフィルムの切除(トリミング)作業がし易い。さらに、剥離時は成形基材との界面で剥離するために、成形基材の表面に接着剤が残らず、外観品位を損なわない利点がある。
【0034】
ここで、接着層の材質は、特に指定するものではなく、例えば、アクリル系、シリコーン系、ゴム系、ウレタン系などがある。特に、密着性、耐候性、耐熱性、耐溶剤性に優れるアクリル系が望ましい。
【0035】
成形基材2は、肉厚が1.0から2.5mmのABS樹脂であり、機械強度(表面硬度)、表面平滑性(ひけが生じ難い)などで優れたものである。
【0036】
以上の材料を使用して、一般的な真空圧空成形法によって、フィルム加飾を行うことができる。次に、フィルム加飾工程について説明する。
【0037】
初めに、図4に示すように、成形基材2を乗せた受治具11を、下ボックス12内の下テーブル13に配置し、加飾フィルム3を下ボックス12上面にセットする。その後、上ボックス14を降下させ、上と下のボックス内をそれぞれ気密状態とする。
【0038】
そして、上下ボックス内を真空ポンプ15によって真空状態(減圧状態)とし(矢印)、ヒーター16を点灯させて加飾フィルム3の加熱を行う。
【0039】
加飾フィルム3が軟化する所定の温度に到達したとき、図5に示すように、下ボックス12内の下テーブル13が上昇し、加飾フィルム3に成形基材2が接触する。その後、上ボックス14の真空を開放して大気圧状態とすることにより、大気により加飾フィルム3を成形基材2に均一に加圧することで、その形状に沿って被覆することができる。また、このとき、上ボックス14内に圧空タンク17から圧縮空気を入れることにより、加飾フィルム3をさらに大きな力で成形基材2に密着させることもできる。
【0040】
そして、ヒーター16を消灯し、冷却する。図6に示すように、下ボックス12内を大気圧状態に戻し、上ボックス14を上昇させる。
【0041】
その後、成形基材2の突起部に沿って、カット治具18により横から切り取りラインを入れ、トリミングを行う。これによって、突起部がガイドとなり、一度の工程で作業性良く余分なフィルムを取り除くことができる。なお、ボックス内でラフカットしてボックスから取り出し、トリミング治具等に固定して、トリミングすることも可能である。トリミングに使用するカット治具18は、樹脂フィルムが切断できれば良く、例えば、金属製の鋭利な刃物(カッター)、ホットナイフ、超音波カッター、レーザーなど使用可能である。
【0042】
以下、フィルムの貯蔵弾性率について、実験により導き出した結果について説明する。
【0043】
実験に使用する成形基材2はABS樹脂製の一辺100mmの四角平板であり、厚みは0.5mm、1.0mm、2.5mm、3.5mmを使用した。加飾フィルム3はアクリ
ルとABSの積層フィルムであり、接着層を含めたフィルムの総厚みは0.3〜0.4mmである。
【0044】
アクリルとABSの各フィルムの厚み、及びフィルムのグレードを変えることによって、積層フィルムとしての貯蔵弾性率を変化させた。得られた積層フィルムの貯蔵弾性率は、摂氏130℃で1MPa、5MPa、30MPa、80MPaであった。
【0045】
加飾は上述の真空圧空成形法によって140℃にて成形し、平板と同じ寸法でトリミングを行い、評価サンプルを得た。
【0046】
評価は、平板の反り量をJIS7524準拠の厚さ0.80mm、0.50mmの隙間ゲージを使用することによって判定した。すなわち、隙間が0.50mmと同等以下であれば寸法変化は○、0.80mmと同等以下であれば寸法変化は△、隙間が0.80mmより大きければ寸法変化は×とした。ここで、隙間0.8mmとは、例えば、フィルム加飾部品が掃除機のダストカバーである場合、開け閉めするために必要なクリアランスから算出できる値である。
【0047】
さらに、評価サンプルの鉛筆硬度がHBと同等以上に硬ければ(HBで傷が付かない)○、鉛筆硬度がHBより柔らかければ×とした。
【0048】
ここで、貯蔵弾性率は、上記のとおり、JIS K7244−1及び7244−4に準拠し、試験片の幅5mm、長さ20mのシートを速度2℃/分で昇温し、130℃にて測定した値であり、鉛筆硬度は、JIS K5600−5−4に準拠し、測定した値である。
【0049】
以下、実験結果を表1、表2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
実験結果に示すように、ABS成形基材の厚さが0.5mmの場合、フィルムの貯蔵弾性率が1MPaと小さな値であっても、寸法変化が発生する。また、鉛筆硬度はABS成形基材の厚さに依存せず、フィルムの貯蔵弾性率に依存して、1MPaの場合に、鉛筆硬度HBで傷付くこととなる。
【0053】
次に、各貯蔵弾性率と寸法変化及び鉛筆硬度については、貯蔵弾性率が5MPaのとき、ABS成形基材の厚さ1.0mmから2.5mmの間では、寸法変化も抑えられ、鉛筆
硬度もHBと同等以上である。また、貯蔵弾性率が30MPaと大きくなっても、ABS成形基材の厚さ1.0mmから2.5mmの間では、寸法変化も小さく、鉛筆硬度もHBと同等以上である。しかし、貯蔵弾性率が80MPaとなると、ABS成形基材の厚さが2.5mmであっても、寸法変化が大きい(厚さ3.5mmでは寸法変化○)。
【0054】
上記の要素を考察してみると、フィルムの貯蔵弾性率を5MPaまで小さくすると、フィルムの配向に由来する内部応力が小さくなるため、成形後、フィルムの収縮による平板への応力(反らせる力)が弱くなり、平板の厚さ1.0mmであっても寸法変化が起こり難くなる。一方、フィルムの貯蔵弾性率が80MPaとなると、フィルムの内部応力が大きいため、ABS樹脂物性と平板の厚さ2.5mmに依存する構造体としての耐性が相対的に負け、寸法変化が発生することとなる。また、貯蔵弾性率が1MPaのフィルムでは、弾性が小さいために鉛筆硬度測定のための鉛筆の芯が沈み込みやすく、傷付きやすい結果となったと推定する。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上のように、本発明にかかるフィルム加飾部品は、外観意匠を向上させた部品に適用できる。例えば、掃除機、エアコン、温水洗浄便座、冷蔵庫、洗濯機、などの家電製品に利用可能である。さらに、本発明の構成は、特に、フィルム加飾部品が開け閉めする部品のように可動し、フィルム裾部が人の目に触れる部品に好適に用いられる。例えば、掃除機のダストカバーや、エアコンのパネルなどに利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 掃除機本体
2 成形基材
3 加飾フィルム
4 フィルム加飾部品
11 受治具
12 下ボックス
13 下テーブル
14 上ボックス
15 真空ポンプ
16 ヒーター
17 圧空タンク
18 カット治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空成形または真空圧空成形により加飾される部品であり、部品本体を構成する厚み1.0mm以上かつ2.5mm以下のABS成形基材と、前記成形基材を覆う鉛筆硬度HBと同等以上に硬いフィルムと、前記成形基材と前記フィルムとの間に接着層とを有するフィルム加飾部品であって、前記フィルムの裾部は前記成形基材の意匠面に露出する構成とし、前記フィルムの貯蔵弾性率が摂氏130℃で5MPa以上かつ30MPa以下であることを特徴とするフィルム加飾部品。
【請求項2】
フィルムの最外層の材質が肉厚75μmのアクリルであり、中間層の材質が肉厚200μmのABSである請求項1記載のフィルム加飾部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−59968(P2013−59968A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201435(P2011−201435)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】