説明

フィルム延伸装置及び方法

【課題】クリップを冷却する冷却風がフィルムにあたるのを防止する。
【解決手段】各レール11,12の各往路部11d,12dに沿って移動するクリップ5は、往路室45内に収納され、各復路部11e,12eに沿って移動するクリップ5は、復路室46内に収納される。往路室45及び復路室46は、蛇腹68により連結された複数のカバー61により覆われる。復路室46内には、スリット状のノズル58aを有するチャンバ58が設けられ、このチャンバ58は、略密閉状態となるようにダクト54に取り付けられる。冷風器57から送風された冷却風は、ダクト54の給気口54bからチャンバ58内に入り、ノズル58aから、復路部12eに沿って移動するクリップ5の把持部31b及びベース32bに向けて冷却風が吹き付けられる。ノズル58aから吹き付けられた冷却風は、ダクト54に形成された排気口54cから排気される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムを延伸するフィルム延伸装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ等の急速な発展・普及により、これら液晶ディスプレイの保護フィルム等に用いられるポリマーフィルム、特にセルロースアシレートフィルムの需要が増大している。この需要の増大に伴い生産性の向上が望まれている。セルロースアシレートフィルム(以下、フィルム)は、連続走行する支持体に、流延ダイを用いてドープを流延し、この流延膜を支持体から剥がした後、乾燥させて巻き取ることにより製造されている。
【0003】
フィルムの光学特性、特にレタデーションを調節する方法として、テンター装置等のフィルム延伸装置を用いてフィルムを幅方向に延伸することが行われている。テンター装置では、フィルムの両側縁部を把持するクリップを、一対のレールに沿って移動させる。レールには、往路部及び復路部が設けられ、クリップは、フィルムの両側縁部を把持しながらレール往路部に沿って移動してフィルムを幅方向に延伸するとともに、フィルムの把持を開放した後にレール復路部に沿って移動してレール往路部に戻る。クリップは、フィルムが載せられるベースを有するフレームと、このフレームに変位自在に取り付けられ、ベースとの間にフィルムを把持する把持位置と把持を開放する開放位置との間で変位するクランパとを備える。
【0004】
クリップがレール往路部を移動してフィルムを搬送するときには、延伸し易いように加熱風を吹き付けてフィルムを加熱しており、この加熱風により、レール往路部を移動するクリップも加熱される。加熱された状態のままのクリップ、詳しくは、フィルムのガラス転移点温度(Tg)よりも高い温度に加熱されたクリップでフィルムを把持すると、把持した部分のフィルムが千切れてしまうため、特許文献1記載の多段式テンターでは、冷却室内に設けられた冷風ダクトからクリップに向けて冷却風を送風して、クリップを冷却している。
【0005】
また、特許文献2記載のテンタクリップでは、冷却用エアノズルからクランパ及びベースに向けて冷却風を吹き付けている。これにより、フィルムが接する部分であるクランパ及びベースがピンポイントで冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−182654号公報
【特許文献2】特開昭62−018242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、クリップ全体を冷却しているため、フィルムが接する部分のみを冷却するものに比べて、冷風ダクトから送風する冷却風の風量を上げる必要がある。冷却風の風量を上げると、冷却室内の気圧が上がるため、冷却室から冷却風が漏れて、この漏れた冷却風がフィルムにあたることがある。冷却風がフィルムにあたると、その部分のフィルムの温度が低下する。温度が低下した部分のフィルムは充分な延伸を行うことができないため、フィルムの延伸ムラが発生することがある。
【0008】
また、特許文献2では、冷却用エアノズルは、1個のクリップに対して冷却風を吹き付けており、これを連続して行うことで複数のクリップを冷却しているため、1個のクリップあたりの冷却風吹き付け時間は短い。この短い時間でクリップを充分に冷却するためには、冷却風の風量を上げる必要がある。冷却風の風量が上がると、吹き出された冷却風が、クリップを通過して、フィルムにもあたることがある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、レール復路部を移動する把持部材を冷却しながら、冷却風がフィルムにあたるのを防止することができるフィルム延伸装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のフィルム延伸装置は、フィルムの搬送方向に延びる直線部と、前記フィルムの搬送方向に対して傾斜した傾斜部とをそれぞれ有する往路部及び復路部からなる一対のレールと、前記フィルムを加熱する加熱器と、前記フィルムの側縁部が載せられるベースを有するフレームと、前記フレームに変位自在に取り付けられ、前記ベースとの間に前記フィルムを把持する把持位置と把持を開放する開放位置との間で変位するクランパとを有し、前記フィルムの両側縁部を把持しながら前記レールの往路部に沿って移動して前記加熱器により加熱された前記フィルムを延伸するとともに、前記フィルムの把持を開放した後に前記レールの復路部に沿って移動して前記レールの往路部に戻る複数のクリップと、前記クリップ及びレールを覆う複数のカバーと、前記複数のカバーを連結するとともに、前記複数のカバーのうちの前記傾斜部を覆うカバーが前記傾斜部に応じた傾斜角度で配されるように、前記傾斜部の傾斜角度に応じて変形される複数の連結部材と、前記レールの復路部に沿って移動する前記クリップを冷却するための冷却風を送風する冷風器と、前記複数のカバーに対応して複数設けられ、前記冷風器から送風された冷却風が入る給気口と、前記クリップを冷却した後の冷却風を排気する排気口とを有するダクトと、前記給気口から入った前記冷却風を前記クリップのベース及びクランパに向けて吹き付けるスリット状のノズルを有し、前記給気口と連通され、前記排気口と連通しないように前記複数のダクトそれぞれに略密閉状態で取り付けられる複数のチャンバと、を備えることを特徴とする。なお、前記フィルムは、ポリマーフィルムであることが好ましく、セルロースアシレートフィルムであることがさらに好ましい。セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)やジアセチルセルロース(DAC)が挙げられる。また、前記クランパの変位としては、回転や移動が挙げられる。
【0011】
また、前記排気口は、前記連結部材の近傍に設けられていることが好ましい。
【0012】
さらに、前記レールの往路部に沿って移動する前記クリップを収納する往路室と、前記往路室と通気しないように設けられ、前記レールの復路部に沿って移動する前記クリップを収納する復路室と、を備え、前記ダクトは、前記復路室内を略密閉状態にすることが好ましい。
【0013】
また、本発明のフィルム延伸方法は、フィルムの側縁部が載せられるベースを有するフレームと、前記フレームに変位自在に取り付けられ、前記ベースとの間に前記フィルムを把持する把持位置と把持を開放する開放位置との間で変位するクランパとを有し、前記フィルムの両側縁部を把持する複数のクリップと、前記フィルムの搬送方向に延びる直線部と、前記フィルムの搬送方向に対して傾斜した傾斜部とをそれぞれ有する往路部及び復路部からなる一対のレールとを、複数のカバーで覆うとともに、前記複数のカバーのうちの前記傾斜部を覆うカバーが前記傾斜部に応じた傾斜角度で配されるように、前記傾斜部の傾斜角度に応じて変形される複数の連結部材で前記複数のカバーを連結した状態で、前記フィルムの両側縁部を把持した前記複数のクリップを前記レールの往路部に沿って移動させて、加熱器により加熱された前記フィルムを延伸する延伸工程と、前記フィルムの把持を開放した前記複数のクリップを前記レールの復路部に沿って移動させて、前記レールの往路部に戻す戻し工程と、給気口と排気口とを有し、前記複数のカバーに対応して複数設けられたダクトの前記給気口に、前記レールの復路部に沿って移動する前記クリップを冷却するための冷却風を入れる給気工程と、前記給気口と連通され、前記排気口と連通しないように前記複数のダクトそれぞれに略密閉状態で取り付けられる複数のチャンバに設けられたスリット状のノズルから、前記レールの復路部に沿って移動する前記クリップのベース及びクランパに向けて前記冷却風を吹き付ける冷却工程と、前記排気口から、前記クリップを冷却した後の冷却風を排気する排気工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、クリップ及びレールを覆う複数のカバーに対応して設けられた複数のダクトそれぞれに、チャンバを略密閉状態で取り付け、この複数のチャンバに形成されたスリット状のノズルから、冷却風をクリップのベース及びクランパに向けて吹き付けるから、1個のチャンバで複数のカバー内の全てのクリップを冷却するものに比べて少ない風量の冷却風をチャンバ内に送るだけで、クリップのベース及びクランパを冷却することができる。これにより、チャンバ内の気圧上昇が抑制され、チャンバからの空気漏れも抑制される。
【0015】
また、ダクトの排気口を、複数のカバーを連結する連結部材の近傍に設けたから、連結部材内の気圧を下げることができ、連結部材からの空気漏れを抑制することができる。これらの効果により、クリップ部からもれて製品に当たる冷却風の風量低減を実現して、製品温度の低下を防止することが出来るようになり、製品得率の大幅なアップを実現することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】クリップテンター装置を示す平面図である。
【図2】クリップテンター装置のクリップと第2レールとダクトとチャンバとカバーとを示す正面図である。
【図3】クリップを示す斜視図である。
【図4】クリップと第2レールとダクトとカバーと蛇腹とを示す斜視図である。
【図5】クリップと第2レールとダクトとチャンバとを示す分解斜視図である。
【図6】クリップと第2レールとダクトとチャンバとカバーと蛇腹とを示す平面図である。
【図7】溶液製膜設備の概略図である。
【図8】チャンバを設けたクリップテンター装置とチャンバを設けていないクリップテンター装置との延伸後におけるレタデーションのバラツキの実験結果を示す表である。
【図9】カバー内に上排気通路及び下排気通路を設けた実施形態のクリップと第2レールとダクトとチャンバとカバーとを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示すように、クリップテンター装置2は、ポリマーフィルム3の両側縁部をクリップ5で把持してフィルム搬送方向Aに搬送しながらフィルム幅方向Bに延伸するとともに、ポリマーフィルム3を乾燥させる。
【0018】
クリップテンター装置2は、第1レール11と、第2レール12と、これらレール11,12に案内される第1,第2チェーン(エンドレスチェーン)13,14とを備えている。第1,第2チェーン13,14には、クリップ5が一定のピッチで多数取り付けられている。
【0019】
各レール11,12は、フィルム搬送方向Aに延びる第1直線部11a,12aと、フィルム搬送方向Aに対して外側方向に傾斜した傾斜部11b,12bと、フィルム搬送方向Aに延びる第2直線部11c,12cとを備える。また、第1,第2レール11,12は、クリップ5を把持開始位置PAから把持開放位置PBまで案内する往路部11d,12dと、クリップ5を把持開放位置PBから把持開始位置PAまで案内する復路部11e,12eとを備える。
【0020】
クリップテンター装置2は、図示しない乾燥室内に配置されている。乾燥室は、フィルム搬送方向Aで、予熱ゾーン2a、延伸ゾーン2b、延伸緩和ゾーン2cに区画されている。各レール11,12の第1直線部11a,12aの範囲となる予熱ゾーン2aでは、ポリマーフィルム3は、加熱器16(図2参照)から送風される加熱風により、例えば80℃以上200℃以下で予熱される。この予熱ゾーン2aでは、一対のクリップ間距離は変化がなく、クリップ5によるフィルム幅方向Bでの延伸は行われない。
【0021】
各レール11,12の傾斜部11b,12bの範囲となる延伸ゾーン2bでは、ポリマーフィルム3は、加熱器16から送風される加熱風により、例えば80℃以上200℃以下で加熱される。この延伸ゾーン2bでは、クリップ5が傾斜部11b,12bを移動することにより、一対のクリップ間距離が漸増し、ポリマーフィルム3は、クリップ5によりフィルム幅方向Bに延伸される。第2直線部11c,12cの範囲となる延伸緩和ゾーン2cでは、一対のクリップ間距離は変化がなく、延伸緩和が行われる。なお、延伸倍率は所望の光学特性等に合わせて適宜変更されるものである。
【0022】
第1,第2チェーン13,14は、原動スプロケット21,22及び従動スプロケット23,24の間に掛け渡されており、これらスプロケット21〜24の間では、第1チェーン13は第1レール11によって、第2チェーン14は第2レール12によって案内される。原動スプロケット21,22はテンタ出口27側に設けられており、これらは図示しない駆動機構により回転駆動され、従動スプロケット23,24はテンタ入口26側に設けられている。
【0023】
図2及び図3に示すように、クリップ5は、クリップ本体28とレール取付部29とから構成されている。クリップ本体28は、クランパ31と、略コ字形状のフレーム32とから構成されている。このフレーム32は、クランパ31を回動自在に支持する取付軸32aと、ポリマーフィルム3の側縁部が載せられるベース32bとを備える。
【0024】
クランパ31は、フレーム32に取り付けられる軸部31aと、ベース32bとの間にポリマーフィルム3を把持する把持部31bと、頭部31cとからなる。クランパ31は、ベース32bとの間にポリマーフィルム3を把持する把持位置(図2の左側のクランパ31及び図3(A)参照)と、把持を開放する開放位置(図2の右側のクランパ31及び図3(B)参照)との間で回転する。クランパ31は、把持位置と開放位置との中間位置から把持位置までの間では、把持位置に向けて付勢され、中間位置から開放位置までの間では、開放位置に向けて付勢される。把持開始位置PAでは、ベース32bと把持部31bとによりポリマーフィルム3が把持される。
【0025】
レール取付部29は、取付フレーム35と、ガイドローラ36,37,38とから構成されている。取付フレーム35には、第1チェーン13または第2チェーン14が取り付けられる。ガイドローラ36〜38は、原動スプロケット21,22の各支持面に接触するか、第1レール11または第2レール12の支持面に接触するかして、回転する。これにより、各スプロケット21,22や各レール11,12からクリップ本体28が脱落することなく、各レール11,12に沿って案内される。
【0026】
図1に示すように、テンタ出口27の原動スプロケット21,22に近接して、クリップ5を開放する周知のクリップオープナ41が2個配置されている。このクリップオープナ41は、ポリマーフィルム3の把持開放位置PBで、クリップ5の頭部31c,32cに接触してこれを開放状態にし、クリップ5によるポリマーフィルム3の側縁部の把持が開放される。クリップオープナ41により開放位置に回転されたクランパ31は、開放位置に位置し続け、この状態でクリップ5は把持開放位置PBから把持開始位置PAに向けて戻り方向Cに移動する。
【0027】
テンタ入口26の従動スプロケット23,24に近接して、クリップ5を閉じる周知のクリップクローザ42が2個配置されている。このクリップクローザ42は、ポリマーフィルム3の把持開始位置PAで、クリップ5の頭部31cに接触してこれを閉じ状態にし、クリップ5によりポリマーフィルム3の側縁部が把持される。クリップクローザ42により把持位置に回転されたクランパ31は、把持位置に位置し続け、ポリマーフィルム3を把持した状態で移動する。
【0028】
クリップテンター装置2では、延伸開始位置PCでポリマーフィルム3の延伸が開始され、延伸終了位置PDでポリマーフィルム3の延伸が終わる。
【0029】
図2〜図6に示すように、第2レール12の往路部12dに沿って移動するクリップ5は、往路室45内に配され、第2レール12の復路部12eに沿って移動するクリップ5は、復路室46内に配されている。
【0030】
往路室45は、第2レール12の中心板51、上板52、下板53及びダクト54の上板54aにより構成された空間であり、復路室46は、中心板51、上板52、下板53及びダクト54により構成された空間である。往路室45と復路室46とは、通気しないように設けられ、復路室46は、ダクト54により略密閉状態にされている。同様に、第1レール11にも、往路室45及び復路室46が設けられている。
【0031】
ダクト54の側方には、冷却風を送風する冷風器57が設けられている。ダクト54の側面には、冷風器57から送風された冷却風が入る給気口54bが形成されている。復路室46内には、冷却風を吹き付けるノズル58aを有するチャンバ58が設けられている。このノズル58aは、フィルム搬送方向Aに延びるスリット状に形成され、複数のクリップ5の把持部31b及びベース32bに向けて同時に冷却風を吹き付ける。チャンバ58は、ダクト54の内面に取り付けられ、チャンバ58内は略密閉状態となる(ノズル58aを抜かした部分は密閉状態)。ノズル58aから吹き付けられる冷却風により、復路室46内を復路部12eに沿って移動するクリップ5の把持部31b及びベース32bがピンポイントで冷却される。ノズル58aから吹き付けられた冷却風は、ダクト54に形成された排気口54cからダクト54の側方に排気される。この排気口54cは、蛇腹68の近傍に設けられている。
【0032】
往路室45及び復路室46は、カバー61により覆われている。カバー61は、上カバー61a及び下カバー61bから構成される。各カバー61a,61bは、ポリマーフィルム3に接触しないように、ポリマーフィルム3との間に隙間がある。
【0033】
複数のカバー61は、変形可能な蛇腹68によって連結されている。蛇腹68は複数設けられ、複数の蛇腹68のうち、第2レール12の第1直線部12aから傾斜部12bへの切り換わり部分、傾斜部12bから第2直線部12cへの切り換わり部分に配されたものは、カバー61が傾斜部12bに応じた傾斜角度で配されるように、傾斜部12bの傾斜角度に応じて変形されている。同様に、第1レール11の往路室45及び復路室46を覆う複数のカバー61も、複数の蛇腹68によって連結されている。
【0034】
次に上記ポリマーフィルム3の製造方法について説明する。ただし、以下に述べる製造方法ならびに製造装置は、本発明の一例であり、これに限定されるものではない。
【0035】
図7に示すように、溶液製膜設備70は、ドープ71と流延室72とピンテンター装置73とクリップテンター装置2と乾燥室74と冷却室75と巻取室76とを有する。
【0036】
ドープ71は、ジアセチルセルロースフィルムとしてのポリマーフィルム3を製造するためのものであり、このドープ71は、流延ダイ80に送られる。
【0037】
流延室72には、流延ダイ80、回転ドラム81、この回転ドラム81に掛け巡らされて移動する流延バンド82、剥取ローラ83、減圧チャンバ84が設置されている。回転ドラム81は駆動装置(図示せず)により回転されており、この回転ドラム81の回転により移動する流延バンド82に向けて、流延ダイ80からドープ71が吐出され、流延バンド82に流延膜85が形成される。
【0038】
流延室72は、温調装置(図示せず)によって、流延膜85が冷却固化(ゲル化)し易い温度に設定されている。そして、流延バンド82が移動する間に、流延膜85は自己支持性を有するゲル強度に達し、剥取ローラ83は、流延バンド82上の流延膜85を湿潤フィルム88として剥ぎ取る。また、流延室72内では、流延膜85は乾燥風が吹き付けられて乾燥され、流延室72を出た湿潤フィルム88は、残留溶媒量が95質量%程度となる。
【0039】
減圧チャンバ84は、流延ダイ80に対し、ドラム走行方向上流側に配置されており、減圧チャンバ84内を負圧に保っている。これにより、流延ビードの背面(後に、流延バンド82に接する面)側を所望の圧力に減圧し、回転ドラム81が高速で回転することにより発生する同伴風の影響を少なくしている。
【0040】
流延室72の下流には、渡り部91、ピンテンター装置73、クリップテンター装置2が順に設置されている。渡り部91は、搬送ローラ92によって湿潤フィルム88をピンテンター装置73に導入する。ピンテンター装置73は、湿潤フィルム88の両端部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。この走行中に湿潤フィルム88に対し乾燥風が送られ、湿潤フィルム88は走行しつつ乾燥され、ポリマーフィルム3となる。このポリマーフィルム3は、クリップテンター装置2に送られる。
【0041】
クリップテンター装置2においてポリマーフィルム3は延伸されるとともに乾燥され、クリップテンター装置2を出たポリマーフィルム3には所望の光学特性が付与される。なお、ポリマーフィルム3への延伸による光学特性の付与は、ポリマーフィルム3の巻取後にオフラインで行っても良く、この場合には、溶液製膜設備70からクリップテンター装置2を省略してもよい。
【0042】
ピンテンター装置73及びクリップテンター装置2の下流にはそれぞれ耳切装置93が設けられている。耳切装置93はフィルム両端部の耳を裁断する。この裁断した耳は風送によりクラッシャ94に送られて、ここで粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0043】
乾燥室74には、複数のローラ97が設けられており、これらにポリマーフィルム3が巻き掛けられて搬送されることにより乾燥が行われる。乾燥室74には吸着回収装置98が接続されており、ポリマーフィルム3から蒸発した溶媒が吸着回収される。
【0044】
乾燥室74の出口側には冷却室75が設けられており、この冷却室75でポリマーフィルム3が室温となるまで冷却される。巻取室76には、プレスローラ102を有する巻取機101が設置されており、ポリマーフィルム3が巻き芯にロール状に巻き取られる。
【0045】
本実施形態では、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いている。セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)やジアセチルセルロース(DAC)が挙げられる。
【実施例1】
【0046】
図7に示す溶液製膜設備70において、流延バンド82の表面上に、ドープ71を流延して流延膜85を形成した。自己支持性を有する流延膜85を剥取ローラ83で支持しながら剥ぎ取り、湿潤フィルム88を得た。
【0047】
ピンテンター装置73では、その入口付近で湿潤フィルム88の両側端部にピンを差し込み保持した後、残留溶媒量が95質量%の湿潤フィルム88を乾燥し、ポリマーフィルム3とした。
【0048】
ピンテンター装置73でフィルム中の溶媒を規定量まで除去した後、下流に設置した耳切装置93でポリマーフィルム3の両側端部を切断した後、ポリマーフィルム3をクリップテンター装置2に送る。
【0049】
ポリマーフィルム3が、クリップテンター装置2内の把持開始位置PAまで搬送されると、クリップ5のクランパ31は、頭部31cがクリップクローザ42に接触して把持位置に回転され、ポリマーフィルム3の両側縁部が把持される。
【0050】
ポリマーフィルム3の両側端部を把持したクリップ5を、第1,第2レール11,12の各往路部11d,12dに沿って移動させてポリマーフィルム3を搬送するとともに、加熱器16から140℃の加熱風をポリマーフィルム3に向けて送風する。ポリマーフィルム3は、加熱風により加熱された状態でフィルム搬送方向Aに搬送されながら、フィルム幅方向Bに延伸される。延伸前のポリマーフィルム3の幅を100%としたときに、延伸ゾーン2bにおける延伸率は120%とした。加熱器16からポリマーフィルム3に向けて送風された加熱風は、ポリマーフィルム3とカバー61との隙間から、往路室45内に流れ込み、往路室45内を移動するクリップ5は加熱される。
【0051】
冷風器57は、給気口54bに向けて冷却風を送風する。この冷却風は、給気口54bからチャンバ58内に送られ、復路室46内を各復路部11e,12eに沿って移動するクリップ5の把持部31b及びベース32bに向けてノズル58aから冷却風が吹き付けられる。このノズル58aから吹き付けられた冷却風により、把持部31b及びベース32bが冷却される。ノズル58aは、フィルム搬送方向Aに延びているから、複数のクリップ5の把持部31b及びベース32bに同時に冷却風が吹き付けられる。
【0052】
ノズル58aにより、ポリマーフィルム3が接する把持部31b及びベース32bのみをピンポイントで冷却することで、クリップ5全体を冷却するものに比べて少ない風量の冷却風で充分に冷却が行われるから、復路室46内の気圧上昇が抑制され、復路室46からの空気漏れも抑制される。
【0053】
把持部31b及びベース32bを冷却した冷却風は、ダクト54に形成された排気口54cからダクト54の側方に排気される。
【0054】
ポリマーフィルム3とカバー61との隙間から、往路室45内に流れ込んだ加熱風は、クリップ5にあたって温度が低下して低温空気となる。往路室45と復路室46とは、通気されていないから、低温空気が復路室46内に流れ込むことがなく、復路室46内の温度は一定に保たれる。
【0055】
クリップテンター装置2の下流に設置した耳切装置93でポリマーフィルム3の両側端部を切断した後、乾燥室74において複数のローラ97に巻き掛けて搬送する間に、ポリマーフィルム3の乾燥を十分に促進させた。冷却室75においてポリマーフィルム3を略室温となるまで冷却した後、巻取室76に送り、プレスローラ102で押圧しながら巻き芯に巻き取ってロール状のポリマーフィルム3を得た。なお、巻き取りの前に、強制除電装置99により帯電圧を調整し、また、ナーリング付与ローラ100により、ナーリングを付与した。
【0056】
実施例1では、チャンバ58を設けたクリップテンター装置2を用いてポリマーフィルム3の延伸を行った。この実施例1では、40℃の冷却風を、冷風器57からダクト54の給気口54bを介してチャンバ58内に送り、チャンバ58内の気圧を2.5KPaとし、高さ5mmのノズル58aから、20m/sの冷却風を把持部31b及びベース32bに吹き付けた。そして、クリップテンター装置2で延伸されたポリマーフィルム3において、複数の幅方向位置におけるレタデーション(nm)を測定した。以下、実施例1に対して、チャンバ58を設けず、クリップ5全体を冷却するとともに、蛇腹から離れた位置に排気口を設けたダクトを備えた従来のクリップテンター装置を用いて同様の実験を行い、比較例1を得た。この比較例1では、40℃の冷却風を、10m/sで冷風器からダクトの給気口を介して復路室内に送った(冷却風の給気圧(ダクト内の気圧)=2KPa)。この実験の結果を図8に示す。
【0057】
本実験の結果、実施例1は、チャンバ58内の気圧が2.5KPaと比較例1に対し高圧になるにもかかわらず、チャンバ58には蛇腹68のような連結部がなく、内部を容易に密閉することができるから、チャンバ58からの空気漏れが抑制される。また、ノズル58aから吹き付けられる冷却風により、把持部31b及びベース32bのみをピンポイントで冷却するから、ダクト54内を通る冷却風の風速を2m/sと低速にすることができ、ダクト54及び蛇腹68からの空気漏れが抑制される。さらに、ダクト54の排気口54cを、蛇腹68の近傍に設けたから、蛇腹68内の気圧が下がり、蛇腹68からの空気漏れが抑制される。この結果、クリップ部から製品に流れる空気の風量低減と温度上昇の効果によって、製品端部の温度低下が抑えられ、レタデーションの差が4nm以下(Δレタデーション≦4nm)であり、ポリマーフィルム3を製品として使用することができる得率を、比較例1に対して1.67倍まで大幅にアップさせることが出来た。また風量を100m/minから18m/minに、大幅に低減できるため、製品得率の大幅アップとともに、使用エネルギの大幅な低減も同時に実現することが出来た。
【0058】
比較例1では、ダクト内部の気圧が2KPaと高いため、この高い気圧の冷却風が通過するダクトや蛇腹からの空気漏れが多量に発生した。また、ダクトの排気口が、蛇腹から離れているため、蛇腹内の気圧が下がらず、蛇腹からの空気漏れが多量に発生した。この結果、ダクトや蛇腹から漏れた空気がポリマーフィルムにあたるため、ポリマーフィルム3の温度が低下して製品として使用することができる得率が低く、多量の製品ロスが発生することが問題となった。なお、実施例1及び比較例1と同じ条件で複数回実験を行ったところ、同様の実験結果を得た。
【0059】
なお、図9に示すように、往路室45及び復路室46を覆うカバー111を、上カバー111a及び下カバー111bから構成し、上カバー111aと往路室45及び復路室46との間に、往路室45内の空気をカバー111の側方に排気する上排気通路112を設け、下カバー111bと往路室45及び復路室46との間に、往路室45内の空気をカバー61の側方に排気する下排気通路113を設けてもよい。なお、各排気通路112,113は、高さ10mm〜30mmが好ましい。同様に、第1レール11に設けられた往路室45及び復路室46も、カバー111により覆われている。
【0060】
各カバー111a,111bは、ダクト54の上板54aまたは下板53との間に、フィルム搬送方向Aにおいて所定ピッチで設けられた複数の固定部材(図示せず)により、ダクト54の上板54aまたは下板53に取り付けられている。
【0061】
往路室45内の低温空気は、上排気通路112及び下排気通路113を通って、カバー111の側方に排気される。これにより、往路室45内の低温空気が、ポリマーフィルム3に向けて逆流することがないから、低温空気によるポリマーフィルム3側縁部の温度低下が抑制される。また、各排気通路112,113は、復路室46の上下を通っているから、復路室46内は、常に一定の温度の空気によって保温されている。これにより、復路室46内の温度は、確実に一定に保たれる。
【0062】
なお、上記実施形態では、チャンバに形成した1つのノズルによりクリップのベース及びクランパの両方に冷却風を吹き付けているが、チャンバに、ベース冷却用のノズルとクランパ冷却用のノズルとを別個に形成してもよい。
【符号の説明】
【0063】
2 クリップテンター装置
3 ポリマーフィルム
5 クリップ
11,12 第1,第2レール
11b,12b 傾斜部
11d,12d 往路部
11e,12e 復路部
16 加熱器
45 往路室
46 復路室
54 ダクト
54b 給気口
54c 排気口
57 冷風器
58 チャンバ
58a ノズル
61 カバー
68 蛇腹

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの搬送方向に延びる直線部と、前記フィルムの搬送方向に対して傾斜した傾斜部とをそれぞれ有する往路部及び復路部からなる一対のレールと、
前記フィルムを加熱する加熱器と、
前記フィルムの側縁部が載せられるベースを有するフレームと、前記フレームに変位自在に取り付けられ、前記ベースとの間に前記フィルムを把持する把持位置と把持を開放する開放位置との間で変位するクランパとを有し、前記フィルムの両側縁部を把持しながら前記レールの往路部に沿って移動して前記加熱器により加熱された前記フィルムを延伸するとともに、前記フィルムの把持を開放した後に前記レールの復路部に沿って移動して前記レールの往路部に戻る複数のクリップと、
前記クリップ及びレールを覆う複数のカバーと、
前記複数のカバーを連結するとともに、前記複数のカバーのうちの前記傾斜部を覆うカバーが前記傾斜部に応じた傾斜角度で配されるように、前記傾斜部の傾斜角度に応じて変形される複数の連結部材と、
前記レールの復路部に沿って移動する前記クリップを冷却するための冷却風を送風する冷風器と、
前記複数のカバーに対応して複数設けられ、前記冷風器から送風された冷却風が入る給気口と、前記クリップを冷却した後の冷却風を排気する排気口とを有するダクトと、
前記給気口から入った前記冷却風を前記クリップのベース及びクランパに向けて吹き付けるスリット状のノズルを有し、前記給気口と連通され、前記排気口と連通しないように前記複数のダクトそれぞれに略密閉状態で取り付けられる複数のチャンバと、
を備えることを特徴とするフィルム延伸装置。
【請求項2】
前記排気口は、前記連結部材の近傍に設けられていることを特徴とする請求項1記載のフィルム延伸装置。
【請求項3】
前記レールの往路部に沿って移動する前記クリップを収納する往路室と、
前記往路室と通気しないように設けられ、前記レールの復路部に沿って移動する前記クリップを収納する復路室と、を備え、
前記ダクトは、前記復路室内を略密閉状態にすることを特徴とする請求項1または2記載のフィルム延伸装置。
【請求項4】
フィルムの側縁部が載せられるベースを有するフレームと、前記フレームに変位自在に取り付けられ、前記ベースとの間に前記フィルムを把持する把持位置と把持を開放する開放位置との間で変位するクランパとを有し、前記フィルムの両側縁部を把持する複数のクリップと、前記フィルムの搬送方向に延びる直線部と、前記フィルムの搬送方向に対して傾斜した傾斜部とをそれぞれ有する往路部及び復路部からなる一対のレールとを、複数のカバーで覆うとともに、前記複数のカバーのうちの前記傾斜部を覆うカバーが前記傾斜部に応じた傾斜角度で配されるように、前記傾斜部の傾斜角度に応じて変形される複数の連結部材で前記複数のカバーを連結した状態で、前記フィルムの両側縁部を把持した前記複数のクリップを前記レールの往路部に沿って移動させて、加熱器により加熱された前記フィルムを延伸する延伸工程と、
前記フィルムの把持を開放した前記複数のクリップを前記レールの復路部に沿って移動させて、前記レールの往路部に戻す戻し工程と、
給気口と排気口とを有し、前記複数のカバーに対応して複数設けられたダクトの前記給気口に、前記レールの復路部に沿って移動する前記クリップを冷却するための冷却風を入れる給気工程と、
前記給気口と連通され、前記排気口と連通しないように前記複数のダクトそれぞれに略密閉状態で取り付けられる複数のチャンバに設けられたスリット状のノズルから、前記レールの復路部に沿って移動する前記クリップのベース及びクランパに向けて前記冷却風を吹き付ける冷却工程と、
前記排気口から、前記クリップを冷却した後の冷却風を排気する排気工程と、
を有することを特徴とするフィルム延伸方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−189630(P2011−189630A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57790(P2010−57790)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】