説明

フィルム露光装置

【課題】フィルム基材の熱膨張に拘わらず、所定の間隔で偏光部を形成することができ、偏光部が高精度で形成された偏光フィルムを得ることができるフィルム露光装置を提供する。
【解決手段】配向材料が塗布されたフィルム10は、バックロール5に巻き架けられた後、偏光フィルムの巻取装置に送給される。フィルム10はバックロール5によりシワを伸ばされて支持されており、そのフィルム移動域に、2個のスリットマスク7,17が配置されている。このスリットマスク7,17は、露光光源6,16からの露光光を帯状にしてフィルム10に照射する。このフィルム10がバックロール5に接触する手前に、冷却ロール8が配置されていて、冷却ロール8はフィルム10に転動してこれを冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FPR(Film Patterned Retarder(フィルム・パターンド・リターダー))方式、即ちフィルム偏光方式の3次元(3D)映像表示装置に使用されるフィルム露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
FPR方式の3D技術においては、液晶表示装置等の表示装置の画面に、走査線1ライン毎に光線の方向を変える偏光フィルムを張り、表示装置が、走査線1ライン毎に右目用と左目用の画像を表示すると共に、偏光メガネに張られた偏光フィルムが右目用のものが右目に入射させるべき光のみを通過させ、左目用のものが左目に入射させるべき光のみを通過させることにより、右目及び左目に入射した画像に視差を生じさせて、立体表示を可能とする。
【0003】
図4は、FPR方式の偏光フィルム1を示す模式図である。この偏光フィルム1は、表示装置の水平の1走査線に対応する幅を持つ帯状の左目用の偏光部1aと、同じく表示装置の水平の1走査線に対応する幅を持つ帯状の右目用の偏光部1bとが、垂直方向に交互に配置されるようにして、透明の基材上に塗布されている。左目用の偏光部1aは−45°の直線偏光を有するか、又は時計方向に偏光するCW(clockwise)円方向偏光を有する。一方、右目用の偏光部1bは+45°の直線偏光を有するか、又は反時計方向に偏光するCCW(counter clockwise)円方向偏光を有するものである。そして、この偏光フィルム1を、その偏光部1a及び偏光部1bを夫々液晶表示装置の走査線に対応させ、左目用偏光部1aが液晶表示装置の左目用信号の走査線に一致し、右目用偏光部1bが液晶表示装置の右目用信号の走査線に一致するようにして、液晶表示装置の画面に貼り付ける。そうすると、液晶表示装置の画面の左目用走査線から出射した表示光は、偏光フィルム1の左目用偏光部1aを透過し、偏光メガネの左目用レンズに張られた左目用偏光フィルムを透過して左目に入射し、液晶表示装置の画面の右目用走査線から出射した表示光は、偏光フィルム1の右目用偏光部1bを透過し、偏光メガネの右目用レンズに張られた右目用偏光フィルムを透過して右目に入射する。これにより、右目と左目とは、視差をもつ画像を見ることができ、立体的な画像を視認することができる。
【0004】
図5は、この従来の偏光フィルム1の露光装置を示す模式図である。透明のフィルム基材の表面に配向材料が塗布されたフィルム10が、ロール100から巻き解かれ、ロール102,103を介してその移動軌跡が規制されて露光光源104,105の配設位置の近傍を通過し、ロール101に巻き取られる。このロール102,103間において、フィルム10は水平に進行し、このフィルム10の水平移動域の上方に、この移動方向に沿ってスリットマスク106,107が配置され、これらのスリットマスク106,107の上方に露光光源104,105が配置されていて、露光光源104,105からの露光光がスリットマスク106,107を介してフィルム10の表面の配向材料膜に照射される。スリットマスク106,107の一端部の上方、即ち、露光光源104,105の側方には、アライメントマークを観察するためのカメラ108,109が設置されている。フィルム移動方向におけるスリットマスク106の上流側には、フィルム10の側部にアライメントマークを形成するためのレーザマーカ110が設置されている。
【0005】
この従来の露光装置においては、図6に示すように、ロール102,103間を移動するフィルム10に対して、レーザマーカ110により、フィルム10の側部にアライメント用のマーク111を形成し、カメラ108がスリットマスク106の一端部に設けられた開口106bからマーク111を観察し、このマーク111に対するスリットマスク106のフィルム移動方向に垂直方向の位置を調整する。また、スリットマスク107においても、カメラ109がスリットマスク107の一端部に設けられた開口107bからマーク111を観察し、スリットマスク107のフィルム移動方向に垂直方向の位置を調整する。その上で、露光光源104からの露光光がスリットマスク106のスリット106aを透過してフィルム10の表面の配向材料膜に照射され、フィルム10は白抜き矢印にて示す方向に連続的に搬送されているので、配向膜に同一の方向に配向した帯状の偏光部1aが形成される。また、露光光源105からの露光光がスリットマスク107のスリット107aを透過してフィルム10の表面の配向材料膜に照射され、偏光部1a間に偏光部1bが形成される。この帯状の偏光部1a、1bは、走査線1ライン分に相当する間隔を有して相互に離隔しており、相互に異なる方向に配向した偏光部を形成している。これにより、図4に示すように、隣接する帯状の偏光部間で配向方向が90°異なる偏光フィルム1を製造することができる。
【0006】
しかしながら、上述の従来技術においては、ロール102,103間にフィルム10を張った状態で、フィルム10上の配向材料膜を露光するので、フィルム10の搬送時のフィルム10の上下振動によりスリットマスク105,106とフィルム10との間の間隔が変動し、高精度で偏光部1a、1bを形成することが困難であった。また、ロール102,103間に張架されたフィルム10には、シワが発生しやすく、これによっても、偏光部1a、1bを高精度で形成することが困難であった。
【0007】
なお、液晶表示装置に使用される光学フィルム等の製造方法に関し、特許文献1及び2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−250172号公報
【特許文献2】特開2007−114563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の従来技術の欠点を解消するために、バックロールを使用して、フィルム10に露光処理をすることが考えられる。図7はこのバックロールを使用したFPR方式の偏光フィルム1の製造方法を示す模式図である。透明のフィルム基材11は、塗布装置2において、その表面(図示は下面)に配向材料が塗布される。この配向材料が塗布されたフィルム10は、エアターンバー3,4によりその進行軌跡を規定されて、巻取ロール100に送給されて、巻き取られる。その後、バックロール5に送給され、バックロール5の表面に一旦巻き架けられた後、露光されて偏光フィルム1となり、その後、偏光フィルム1の巻取装置に送給される。この場合に、フィルム10はその表面に配向材料が塗布された状態で、その進行軌跡をエアターンバー3,4により規制され、フィルム10の配向材料膜が塗布された表面側がエアターンバー3,4側になるので、このエアターンバー3,4には、図8に示すように、その表面に空気の吐出孔31が多数設けられており、この吐出孔31から空気を吐出することにより、フィルム10がエアターンバー3,4に接触しないようになっている。つまり、フィルム10はエアターンバー3,4から浮いた状態で、その進行軌跡が規制される。
【0010】
バックロール5においては、フィルム10が巻き架けられ、フィルム10の裏面がバックロール5に接触すると共に、フィルム10の表面、即ち、配向材料膜が外面を向く。このバックロール5を間に挟んで対向するようにして、スリットマスク7、17が配向材料膜に面してフィルム10から若干の距離(200μm程度)をおいて設置されており、更に、このスリットマスク7、17の背後には、露光光源6、16が設置されている。これにより、図9に示すように、表面に配向膜が塗布されたフィルム10は、バックロール5の周面に接触し、フィルム10の搬送時の若干の張力によりシワが伸ばされた状態で、バックロール5により支持される。そして、図10に示すように、フィルム10を白抜き矢印方向に連続的に搬送し、露光装置6、16から露光光を連続的に照射することにより、この露光光はスリットマスク7、17のスリット7a、7bを透過してフィルム10に照射され、配向膜に同一の方向に配向した帯状の偏光部1a、1bが形成される。この帯状の偏光部1a、1bは、走査線1ライン分に相当する間隔を有して相互に離隔しており、相互に異なる方向に配向した偏光部を形成している。これにより、図4に示すように、隣接する帯状の偏光部間で配向方向が90°異なる偏光フィルム1を製造することができる。
【0011】
しかしながら、従来の偏光フィルムの製造方法においては、以下に示す問題点がある。図7に示すように、露光前のフィルム10は、表面に配向膜が塗布されているので、エアターンバー3,4に接触しないようにするために、このエアターンバー3,4の表面に形成された吐出孔31から、空気が吐出されている。このため、このフィルム10は吐出空気により加熱されてしまい、図10にバックロール5及びスリットマスク7、17の近傍を平面的に展開して示すように、スキャンマスク7、17及びバックロール5に到達したときに、フィルム10はその幅方向に膨張している。例えば、このフィルム10の材質は、COP(シクロオレフィンポリマー)又はTAC(トリアセチルセルロース)フィルムであり、フィルム10の幅は1500mm、厚さは100μm、長さは2kmであり、通常、2〜10m/分の速度で搬送されるが、例えば、このフィルム10の熱膨張により、幅Dが15〜20μm(=2ΔD)程度伸びてしまうことがある。このように、フィルム10の常温時の幅Dに対し、スリットマスク7に到達したときに、フィルム10の幅方向両端縁が夫々ΔDだけ膨張していると、この膨張したフィルム10に所定ピッチのスリットマスク7、17のスリット7a、7bを介して露光すると、得られた偏光フィルム1が、その後、冷却されて常温に戻ったときに、伸び代2ΔDが0になるために、偏光部1a、1bのピッチがその分小さくなり、所望のピッチの帯状偏光部1a、1bを得ることができない。このため、従来、スリットマスク7、17のスリットの配列ピッチを、走査線1ラインの間隔に対し、熱膨張を加味した膨張分を上乗せしたものに設定し、偏光フィルム1の常温への冷却後に所定ピッチになるようにしている。しかし、フィルム10の材質及び搬送速度等により、フィルム10の熱膨張量が異なり、この熱膨張量を予め見込んでスリットマスク7、17を作成しておくことは煩雑であり、偏光部1a、1bを高精度で形成することは容易ではなかった。
【0012】
また、露光光源6による露光時にも、フィルム10は加熱される。このため、バックロール5は内部が空洞になっていて、この内部が冷却水で充填されており、水冷されている。従って、フィルム10はバックロール5に接触して冷却されるものの、フィルム10はバックロール5の周面に接触して一定の摩擦力を受けており、幅方向に拘束されたままであるため、このバックロール5に接触して冷却されても、フィルム10はその幅方向に急速に縮むことはなく、図10に示すように、フィルム10は露光時には幅方向に膨張したままであり、その後、バックロール5から離れた後、バックロール5により冷却されていたことにより降温して常温時の幅に戻る。よって、バックロール5を冷却しても、得られた偏光フィルム1は、偏光部1a、1bの線幅のずれが生じたままである。
【0013】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、フィルム基材の熱膨張に拘わらず、所定の間隔で偏光部を形成することができ、偏光部が高精度で形成された偏光フィルムを得ることができるフィルム露光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るフィルム露光装置は、
透明のフィルム基材の一面に配向膜が塗布されたフィルムが前記配向膜を外側にして巻き架けられ、前記フィルムをその周面で支持しつつ前記フィルムをその周面に沿って移動させるバックロールと、
前記バックロールに巻き架けられた前記フィルムに対向するように配置され、前記フィルムの移動方向に平行の複数個の第1のスリットが形成された第1のスリットマスクと、
前記第1のスリットマスクを介して前記フィルムの前記配向膜を露光する第1の露光光源と、
前記フィルムの移動方向における前記第1のスリットマスクの下流側において、前記バックロールに巻き架けられた前記フィルムに対向するように配置され、前記フィルムの移動方向に平行の複数個の第2のスリットが形成された第2のスリットマスクと、
前記第2のスリットマスクを介して前記フィルムの前記配向膜を露光する第2の露光光源と、
前記フィルムの進行方向における前記バックロールの上流側に設けられ、前記フィルムを冷却する冷却部材と、
を有し、
前記第2のスリットマスクの前記第2のスリットは、前記第1のスリットマスクの前記第1のスリットの配列ピッチと同一のピッチで配置されており、
前記第1のスリットと前記第2のスリットは、前記フィルムの幅方向について、前記第1及び第2のスリットの配列ピッチの1/2のピッチだけ、前記フィルムの幅方向に偏倚するように、前記第1のスリットマスクと前記第2のスリットマスクとが配置されていることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る他のフィルム露光装置は、
透明のフィルム基材の一面に配向膜が塗布されたフィルムが前記配向膜を外側にして巻き架けられ、前記フィルムをその周面で支持しつつ前記フィルムをその周面に沿って移動させるバックロールと、
前記バックロールに巻き架けられた前記フィルムに対向するように配置され、前記フィルムの移動方向に平行の複数個の第1のスリットが形成された第1のスリットマスクと、
前記第1のスリットマスクを介して前記フィルムの前記配向膜を露光する第1の露光光源と、
前記フィルムの移動方向における前記第1のスリットマスクの下流側において、前記バックロールに巻き架けられた前記フィルムに対向するように配置され、前記フィルムの幅方向に延びる開口が形成された第3のマスクと、
前記第3のマスクを介して前記フィルムの前記配向膜を露光する第3の露光光源と、
前記フィルムの進行方向における前記バックロールの上流側に設けられ、前記フィルムを冷却する冷却部材と、
を有することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る更に他のフィルム露光装置は、
透明のフィルム基材の一面に配向膜が塗布されたフィルムが前記配向膜を外側にして巻き架けられ、前記フィルムをその周面で支持しつつ前記フィルムをその周面に沿って移動させるバックロールと、
前記バックロールに巻き架けられた前記フィルムに対向するように配置され、前記フィルムの移動方向に平行の複数個の第1のスリットが形成された第1のスリットマスクと、
前記第1のスリットマスクを介して前記フィルムの前記配向膜を露光する第1の露光光源と、
前記フィルムの移動方向における前記第1のスリットマスクの上流側において、前記バックロールに巻き架けられた前記フィルムに対向するように配置され、前記フィルムの幅方向に延びる開口が形成された第4のマスクと、
前記第4のマスクを介して前記フィルムの前記配向膜を露光する第4の露光光源と、
前記フィルムの進行方向における前記バックロールの上流側に設けられ、前記フィルムを冷却する冷却部材と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フィルム基材は、バックロールに至る前に、冷却部材により冷却されるので、バックロールに巻き架けられるときには、例えば、常温になっており、常温で有効なスリットマスクを使用して、高精度で帯状の偏光部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態のフィルム露光装置を示す模式図である。
【図2】同じく、そのバックロール及びスリットマスクの近傍でフィルムを展開して示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態のフィルム露光装置を示す模式図である。
【図4】FPR方式の偏光フィルムを示す模式図である。
【図5】従来の偏光フィルムの露光方法を示す模式図である。
【図6】同じく、そのスリットマスクによる露光方法を示す平面図である。
【図7】従来の偏光フィルムの製造方法を示す図である。
【図8】エアターンバーを示す模式的斜視図である。
【図9】バックロールを使用したフィルム露光装置を示す図である。
【図10】同じく、そのバックロール及びスリットマスクの近傍でフィルムを展開して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は本発明の実施形態に係るフィルム露光装置を示す模式図である。従来同様に、フィルム10は塗布装置2によりその表面に配向材料が塗布された後、エアターンバー3,4を経由してバックロール5まで搬送されてくる(図5参照)。そして、フィルム10はバックロール5にその周面の略半分(下半分)だけ巻き架けられ、偏光フィルム1の巻取装置に搬送される。バックロール5は内部を水冷された水冷ロールであり、その中心軸の周りに回転可能になっている。そして、このバックロール5は、自由に回転することができ、フィルム10の移動とともに、その周速度がフィルム10の移動速度と同一になるように回転する。これにより、フィルム10はバックロール5の周面に相対的速度差が存在しない状態で支持される。従って、適宜の張力を印加されて搬送されるフィルム10は、バックロール5の周面上で、シワが発生することが防止される。
【0020】
バックロール5の周面におけるフィルム10が巻き架けられた部分の始端部の近傍には、このバックロール5に対向するようにして、スリットマスク7が配置されており、このスリットマスク7の背後には、スリットマスク7を介してフィルム10を露光する露光光の光源6が配置されている。また、バックロール5の周面におけるフィルム10が巻き架けられた部分の後端部の近傍には、このバックロール5に対向するようにして、スリットマスク17が配置されており、このスリットマスク17の背後には、スリットマスク17を介してフィルム10を露光する露光光の光源16が配置されている。この光源6及び光源16は、配向材料膜の材質にも依存するが、例えば、照射する露光光の偏光方向が相互に異なるか、又はフィルム10に対して相互に異なる方向から露光光を照射することにより、図4に示すように、相互に異なる方向に配向した偏光部1a、1bを交互に形成することができるものである。
【0021】
そして、フィルム10の進行方向におけるバックロール5の上流側には、冷却ロール8がその中心軸の周りに回転可能に配置されている。この冷却ロール8は、内部を水冷された水冷ロールであり、フィルム10の移動域において、冷却ロール8がフィルム10に転動して回転し、フィルム10を冷却するようになっている。
【0022】
図2はバックロール5及びスリット7、17の近傍でフィルム10を展開して示す模式図である。スリットマスク7、17には、夫々複数個のスリット7a、7bが形成されており、そのスリット7a、7bの配列ピッチは、FPR方式の3D液晶表示装置に対応して、走査線2ライン分に相当する。そして、スリットマスク7,17の配置は、スリットマスク7のスリット7aによる帯状の露光部分の間の未露光部が、スリットマスク17のスリット7bにより露光されるように、走査線1ライン分だけフィルム10の幅方向にシフトしている。即ち、スリットマスク17のスリット7bは、スリットマスク7のスリット7aの配列ピッチと同一のピッチで配置されており、スリットマスク17は、スリット7a、7bの配列ピッチの1/2のピッチだけ、フィルム10の幅方向に偏倚して配置されている。
【0023】
次に、上述のごとく構成された本実施形態のフィルム露光装置の動作について説明する。フィルム10は、その表面に配向材料が塗布され、エアターンバー3,4から空気を吹き付けられて浮遊した状態でその移動軌跡を規制されて、バックロール5に搬送される。この際、吹き付けられる空気は、エアターンバー3,4からの排出の過程で、常温よりも例えば0〜3℃高い温度に昇温してしまっており、その温度もばらついている。よって、フィルム10は、常温での幅D(例えば、1500mm)よりも、2ΔD(例えば、15〜20μm)だけ、幅が伸張して、冷却ロール8の配設位置に到来する。そして、この冷却ロール8がこのフィルム10の裏面に転動することにより、フィルム10が冷却され、冷却ロール8からスリットマスク7に至る途中で、フィルム10が徐々に降温して収縮し、その幅が徐々に減少していく。そして、フィルム10の幅は、フィルム10がスリットマスク7の配設位置に到達したときには、エアターンバー3,4等による加熱前の常温時の幅に戻っており、フィルム10は、スリットマスク7の配設位置において、スリットマスク7を介して、露光光源6からの露光光の照射を受ける。
【0024】
即ち、表面に配向材料が塗布されたフィルム10は、バックロール5の周面の下半部に接触し、フィルム10の搬送時の張力によりバックロール5の周面上でシワが伸ばされた状態で支持される。そして、フィルム10を白抜き矢印方向に連続的に搬送し、バックロール5により支持した部分の始端部で、露光光源6から露光光を連続的に照射することにより、この露光光はスリットマスク7のスリット7aを透過してフィルム10に照射され、配向膜に同一の方向に配向した帯状の偏光部1aが形成される。この帯状の偏光部1aは、走査線1ライン分に相当する間隔を有して相互に離隔しており、走査線2ライン分のピッチで形成される。
【0025】
次いで、フィルム10はバックロール5による支持部の後端部におけるスリットマスク17の配設位置に移動してくるので、露光光源16からスリットマスク17を介して露光光をフィルム10に照射する。そうすると、スリット7aによる未露光部は、スリットマスク7に対して走査線1ライン分だけフィルム10の幅方向にシフトした別のスリットマスク17のスリット7bを介して、露光光源16からの露光光の照射を受ける。これにより、同一の方向に配向した帯状の偏光部1bが偏光部1a間に形成され、帯状の偏光部1a、1bが交互に形成される。偏光部1aは−45°の直線偏光、偏光部1bは+45°の直線偏光であるか、又は偏光部1aはCW円方向偏光であり、偏光部1bはCCW円方向偏光の膜である。これにより、FPR方式の偏光フィルムを製造することができる。
【0026】
この場合に、露光時に露光光の照射によりフィルム10は加熱されるが、水冷のバックロール5により冷却されてフィルム10が昇温することはない。よって、フィルム10は、バックロール5に接触して支持されている間、常に一定の温度を有し、その幅Dが熱により変動することはない。従って、フィルム10に対し、走査線の各ラインに対応する変更部1a、1bを走査線の各ラインの位置に高精度で一致させて形成することができる。
【0027】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図3は本実施形態を示す模式図である。本実施形態の露光光源6とバックロール5との間には、図3に示すように、開口7cがフィルム10の幅方向に延びるマスク27が設けられている。従って、本実施形態においては、フィルム10はバックロールによる支持が開始される支持部の始端部で、全面に露光光源6の露光光が照射され、その後、前記支持部の後端部で、スリットマスク17のスリット7bを透過した露光光の照射を受ける。
【0028】
本実施形態においても、フィルム10は冷却ロール8による冷却を受けて、常温に降温した後、バックロール5に巻き架けられるので、フィルム10はバックロール5に支持されている間、常に一定の温度(常温)で推移する。
【0029】
また、本実施形態においては、フィルム10の表面の配向膜は、マスク27にて露光光源6の露光光により全面露光され、スリットマスク17にて露光光源16の露光光によりスリット7bに対応する部分のみ帯状に露光される。本実施形態においては、フィルム10の表面上に、露光光の照射により硬化量が変化する露光材料からなる配向材料膜が形成されており、先ず、マスク27を介する露光光により、フィルム10の表面の配向材料膜の全域が所定の第1の硬化量になるまで露光される。次いで、スリットマスク17のスリット7bからの露光光により、スリット7bに対応する帯状の領域を第1の硬化量より大きな第2の硬化量になるまで露光する。例えば、配向膜が所定の偏光方向で形成され、露光光を更に照射しても偏光方向が変化しないときの硬化量を100%とした場合に、開口7cを透過した露光光源6からの露光光により、配向材料膜を硬化量が50%になるまで、硬化させる。その後、スリット7bを透過した露光光源16からの露光光により、配向材料膜を硬化量が100%になるまで、硬化させる。そうすると、このフィルム10におけるスリット7bに対応する帯状の部分は、配向方向が固定され、スリット7b間の部分に対応する帯状の部分は、硬化量が50%で配向方向が固定されていないが、この部分はその後のポストベーク(乾燥温度より高い温度での熱硬化)により硬化量を100%にすれば、配向方向を固定することができる。このようにして、本実施形態においても、図4に示すようなFPR方式の偏光フィルムを製造することができる。
【0030】
なお、開口7cによるフィルム基材の表面の配向膜の全面露光と、スリット7bによる帯状の露光とは、図3に示すような順番ではなく、逆にしてもよい。つまり、第1段階で、帯状の露光領域を100%硬化量で硬化させ、その後、第2段階で、全面露光することにより、既に100%硬化している帯状の領域はその配向方向が変化せず、その帯状の領域の相互間の領域を第2段階の露光光で硬化させることができる。
【0031】
いずれにしても、本発明においては、フィルム10は冷却ロール8により冷却された後、バックロール5に至るので、バックロール5に支持されている間、温度変化がないため、スリットマスクにより高精度で、偏光部1a、1bを交互に形成することができる。
【0032】
本発明は上記各実施形態に限らず、種々の変形が可能である。冷却部材としては、冷却ロール8に限らず、低温の物体をフィルム基材に非接触で使用しても良い。即ち、フィルム10を低温の物体の近傍に通過させることにより、輻射伝熱で、フィルム10を冷却することができる。
【0033】
また、本発明は、FPR方式の偏光フィルムの製造に限らず、例えば、視野角を拡大するための配向膜の形成にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、FPR方式の偏光フィルム等を高精度で製造することができ、3D方式の液晶表示装置の高精細化に寄与する。
【符号の説明】
【0035】
1:偏光フィルム
1a、1b:偏光部
2:塗布装置
3,4:エアターンバー
5:バックロール
6,16:露光光源
7,17:スリットマスク
7a、7b:スリット
7c:開口
8:冷却ロール
10:フィルム
11:フィルム基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明のフィルム基材の一面に配向膜が塗布されたフィルムが前記配向膜を外側にして巻き架けられ、前記フィルムをその周面で支持しつつ前記フィルムをその周面に沿って移動させるバックロールと、
前記バックロールに巻き架けられた前記フィルムに対向するように配置され、前記フィルムの移動方向に平行の複数個の第1のスリットが形成された第1のスリットマスクと、
前記第1のスリットマスクを介して前記フィルムの前記配向膜を露光する第1の露光光源と、
前記フィルムの移動方向における前記第1のスリットマスクの下流側において、前記バックロールに巻き架けられた前記フィルムに対向するように配置され、前記フィルムの移動方向に平行の複数個の第2のスリットが形成された第2のスリットマスクと、
前記第2のスリットマスクを介して前記フィルムの前記配向膜を露光する第2の露光光源と、
前記フィルムの進行方向における前記バックロールの上流側に設けられ、前記フィルムを冷却する冷却部材と、
を有し、
前記第2のスリットマスクの前記第2のスリットは、前記第1のスリットマスクの前記第1のスリットの配列ピッチと同一のピッチで配置されており、
前記第1のスリットと前記第2のスリットは、前記フィルムの幅方向について、前記第1及び第2のスリットの配列ピッチの1/2のピッチだけ、前記フィルムの幅方向に偏倚するように、前記第1のスリットマスクと前記第2のスリットマスクとが配置されていることを特徴とするフィルム露光装置。
【請求項2】
透明のフィルム基材の一面に配向膜が塗布されたフィルムが前記配向膜を外側にして巻き架けられ、前記フィルムをその周面で支持しつつ前記フィルムをその周面に沿って移動させるバックロールと、
前記バックロールに巻き架けられた前記フィルムに対向するように配置され、前記フィルムの移動方向に平行の複数個の第1のスリットが形成された第1のスリットマスクと、
前記第1のスリットマスクを介して前記フィルムの前記配向膜を露光する第1の露光光源と、
前記フィルムの移動方向における前記第1のスリットマスクの下流側において、前記バックロールに巻き架けられた前記フィルムに対向するように配置され、前記フィルムの幅方向に延びる開口が形成された第3のマスクと、
前記第3のマスクを介して前記フィルムの前記配向膜を露光する第3の露光光源と、
前記フィルムの進行方向における前記バックロールの上流側に設けられ、前記フィルムを冷却する冷却部材と、
を有することを特徴とするフィルム露光装置。
【請求項3】
透明のフィルム基材の一面に配向膜が塗布されたフィルムが前記配向膜を外側にして巻き架けられ、前記フィルムをその周面で支持しつつ前記フィルムをその周面に沿って移動させるバックロールと、
前記バックロールに巻き架けられた前記フィルムに対向するように配置され、前記フィルムの移動方向に平行の複数個の第1のスリットが形成された第1のスリットマスクと、
前記第1のスリットマスクを介して前記フィルムの前記配向膜を露光する第1の露光光源と、
前記フィルムの移動方向における前記第1のスリットマスクの上流側において、前記バックロールに巻き架けられた前記フィルムに対向するように配置され、前記フィルムの幅方向に延びる開口が形成された第4のマスクと、
前記第4のマスクを介して前記フィルムの前記配向膜を露光する第4の露光光源と、
前記フィルムの進行方向における前記バックロールの上流側に設けられ、前記フィルムを冷却する冷却部材と、
を有することを特徴とするフィルム露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−88679(P2013−88679A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230195(P2011−230195)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(500171707)株式会社ブイ・テクノロジー (283)
【Fターム(参考)】