フイルムの延伸方法及び溶液製膜方法
【課題】面内レターデーションReの分布が幅方向に略均一のフイルムを製造する。
【解決手段】TACフイルム3は、幅方向の両側縁部3a、3bから中央部3cにかけて膜厚が薄くなる、いわゆる船底状の膜厚プロファイルを有する。TACフイルム3は、膜厚プロファイルに起因して、船底状の面内レターデーションReプロファイルを有する。TACフイルム3をテンタ部5に導入する。テンタ部5では、クリップ32a、32bにより両側縁部3a、3bを把持して、幅方向にTACフイルム3を延伸し、延伸前後における幅方向における面内レターデーションReの増大量分布と、膜厚プロファイルに起因する幅方向におけるレターデーションReの変化量分布とを、相殺する。
【解決手段】TACフイルム3は、幅方向の両側縁部3a、3bから中央部3cにかけて膜厚が薄くなる、いわゆる船底状の膜厚プロファイルを有する。TACフイルム3は、膜厚プロファイルに起因して、船底状の面内レターデーションReプロファイルを有する。TACフイルム3をテンタ部5に導入する。テンタ部5では、クリップ32a、32bにより両側縁部3a、3bを把持して、幅方向にTACフイルム3を延伸し、延伸前後における幅方向における面内レターデーションReの増大量分布と、膜厚プロファイルに起因する幅方向におけるレターデーションReの変化量分布とを、相殺する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フイルムの延伸方法及び溶液製膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ等の急速な発展・普及により、これら液晶ディスプレイに用いられる偏光膜の保護フイルム等に用いられるセルロースアシレートフイルム、特にトリアセチルセルロースフイルム(以下、TACフイルムと称する)の需要が増大している。この需要の増大に伴い、TACフイルムの生産性の向上が望まれている。TACフイルムは、連続走行する支持体に、流延ダイを用いて、TACと溶媒とを含むドープを流延し、この流延膜を乾燥や冷却等により自己支持性を持たせた後に、支持体から剥がして、乾燥させて巻き取ることにより製造されている。このような溶液製膜方法では、溶融押出による製膜方法に比べて、異物が無く、透過性や光学等方性などの光学特性に優れたフイルムが得られる。
【0003】
TACフイルムの光学特性、特にレターデーションを調節する方法として、ポリマー分子を所定の方向に配向させるために、テンタなどを用いて、TACフイルムの両側縁部をクリップ等で把持しながらTACフイルムを所定方向に延伸する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−311240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載するように、両側縁部をクリップ等で把持しながら長尺状のTACフイルムを幅方向に延伸する際、幅方向の両側縁部、及び両側縁部近傍では、中央部に比べて、ポリマー分子の配向が起こりにくい。したがって、延伸前に対する延伸後の面内レターデーションReの増大量は、両側縁部から中央部にかけて大きくなる。このように、幅方向における面内レターデーションReが均一でなく、ばらつきがあるTACフイルムは、光学異方性を示すため、保護フイルム等に適さない。また、延伸後のTACフイルムの両側縁部を切断することにより、面内レターデーションReが均一な部分を製品用フイルムとして切り出すことは可能ではあるが、面内レターデーションReのばらつきが大きくなると、切断量が大きくなり、生産効率の向上に限界がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであり、幅方向における面内レターデーションReのばらつきを抑えながら、所望の面内レターデーションReを付与するフイルムの延伸方法及び、均一な面内レターデーションReを有するフイルムを効率よく製造する溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、フイルムの幅方向における両側縁部を把持して、前記フイルムを前記幅方向に延伸するフイルムの延伸方法において、前記フイルムの前記幅方向における膜厚が前記両側縁部から中央部に向かうに従い次第に薄くなる膜厚プロファイルを有する前記フイルムを前記幅方向に延伸し、前記延伸時の前記両側縁部の伸びにくさに起因して前記フイルムに生じ、前記両側縁部から前記中央部に向かうに従い次第に大きくなる前記延伸前後の面内レターデーションReの増大量分布を、前記厚みプロファイルに起因し、前記両側縁部から前記中央部に向かうに従い次第に小さくなる前記面内レターデーションReの変化量分布で相殺することを特徴とする。
【0007】
前記延伸前の前記フイルムの膜厚が、式1及び式2を満たすことが好ましい。
(式1)1.02≦THe/THc≦1.04
(式2)THe−THc≦3μm
(ただし、THeは前記フイルムの前記両側縁部の膜厚であり、THcは前記フイルムの前記中央部の膜厚である。)
【0008】
前記延伸前の前記フイルムをローラに巻き取った後、前記ローラから送り出され、残留溶媒量が0.1重量%以上10重量%以下の前記フイルムに前記延伸を行うことが好ましい。また、前記延伸時における前記フイルムの前記両側縁部の温度を、前記フイルムの前記中央部の温度よりも1℃以上20℃以下高くすることが好ましい。更に、前記フイルムが、単一の層からなることが好ましい。
【0009】
本発明の溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含むドープを、エンドレスに走行する支持体上に流延し、前記支持体上の前記ドープから流延膜を形成し、冷却によりゲル化した前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取り、前記支持体から剥ぎ取られた前記流延膜を前記フイルムとし、前記フイルムの延伸方法のうちいずれか1つを前記フイルムに行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフイルムの延伸方法によれば、前記延伸時の前記両側縁部の伸びにくさに起因する前記延伸前後の面内レターデーションReの増大量分布を、前記厚みプロファイルに起因する前記面内レターデーションReの変化量分布で相殺するため、幅方向におけるレターデーションReのばらつきを抑えながら、所望の面内レターデーションReをフイルムに付与することができる。また、本発明の溶液製膜方法によれば、面内レターデーションReが略均一のフイルムを容易に効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1に示すように、オフライン延伸装置2は、TACフイルム3を延伸するものであり、供給室4と、テンタ部5と、熱緩和室6と、冷却室7と、巻取室8とを備える。供給室4には、溶液製膜設備で製造され、ロール状にされたTACフイルム3が収納されており、供給ローラ9により、TACフイルム3をテンタ部5に供給する。テンタ部5に送られたTACフイルム3には、延伸処理が施される。延伸処理では、TACフイルム3の両側縁部をクリップ等で把持し、方向MDに搬送しながら、TACフイルム3を幅方向TD(図2参照)に延伸する。
【0012】
TACフイルム3は、テンタ部5で延伸された後、耳切装置12に送り出される。TACフイルム3は、耳切装置12により、クリップで把持された両側縁部が切り離され、切り離されたスリット状の側縁部である耳屑は、カットブロア13で細かく小片にカットされる。カットされた耳屑小片は、図示しない風送装置によりクラッシャ14に送られ、粉砕されてチップとなる。このチップはドープ調製用に再利用されるので、この方法はコストの点において有効である。
【0013】
熱緩和室6には、多数のローラ16が備えられており、TACフイルム3はローラ16により熱緩和室6内を搬送されて熱緩和された後、冷却室7に送られる。なお、熱緩和室6では、送風機(図示せず)から所望の温度の風が送風される。このときの風の温度は、20℃〜250℃であることが好ましい。
【0014】
熱緩和後のTACフイルム3は、冷却室7で30℃以下に冷却された後、巻取室8に送られる。巻取室8の内部には、巻取ローラ17、プレスローラ18が設けられている。巻取室8に送られたTACフイルム3は、プレスローラ18により押圧されながら、巻取ローラ17に巻き取られる。
【0015】
次に、テンタ部5の詳細について説明する。図2及び図3のように、テンタ部5には、乾燥条件が異なる3つのゾーン(以下、第1ゾーン21〜第3ゾーン23と称する)が設けられる。
【0016】
第1ゾーン21には、供給室4から送り出されたTACフイルム3を導入する入口5aと、入口5aから導入されたTACフイルム3の両側縁部3a、3bの把持を開始する把持開始部25と、入口5aから把持開始部25へTACフイルム3を案内するローラ(図示しない)とが設けられる。また、第2ゾーン22と第3ゾーン23との境界には、TACフイルム3の両側縁部3a、3bの把持を解除する把持解除部26が設けられる。そして、第3ゾーン23には、把持解除部26を経たTACフイルム3を下流へ案内する搬送ローラ28と、搬送ローラ28によって案内されたTACフイルム3を耳切装置12へ送る出口5bとが設けられる。なお、両側縁部3a、3bとは、TACフイルム3の側端から200mm以内の範囲を指す。
【0017】
また、テンタ部5は、第1ゾーン21〜第3ゾーン23内を走行する1対のチェーン31a、31bと、チェーン31a、31bに所定のピッチで取り付けられるクリップ32a、32bと、チェーン31a、31bの走行を案内するレール33a、33bとを備える。また、チェーン31a、31bは、駆動部35a、35bにより回転駆動するチェーンスプロケット36a、36bに巻き掛けられている。
【0018】
クリップ32aは、略コ字形状のフレーム41とフラッパ42とレール取付部43とから構成されており、フラッパ42は、取付軸41aによりフレーム41に回動自在に取り付けられている。フラッパ42は鉛直状態となるフイルム把持位置(図3参照)と、開放部材44に係合頭部42aが接触して斜めに起立した状態となる開放位置との間で、取付軸41aを中心に回動し、通常は自重によりフイルム把持位置となるように付勢されている。また、レール取付部43には、チェーン31aが取り付けられるため、クリップ32aは、チェーン31aから脱落することなく、レール33aに沿って案内される。なお、クリップ32bもクリップ32aと略左右対称の構造を有する。こうして、駆動部35a、35bの制御の下、クリップ32a、32bは、レール33a、33bに沿って、第1ゾーン21〜第3ゾーン23内をエンドレスに走行する。
【0019】
クリップ32a、32bが把持開始部25を通過すると、開放部材44と係合頭部42aが非接触となり、フラッパ42は、自重により把持位置となって、把持開始部25に案内されたTACフイルム3の両側縁部3a、3bを把持する。両側縁部3a、3bが把持されたTACフイルム3は、クリップ32a、32bの走行により、把持開始部25から把持解除部26へ案内される。クリップ32a、32bが把持解除部26を通過すると、開放部材44により、フラッパ42は、開放位置となって、TACフイルム3の両側縁部3a、3bの把持を解除する。両側縁部3a、3bの把持が解除されたTACフイルム3は、第3ゾーン23へ案内される。搬送ローラ28は、把持解除部26を経たTACフイルム3を、出口5bへ案内する。
【0020】
また、一対のレール33a、33bの間隔をレール間隔とすると、第1ゾーン21でのレール間隔は略一定であり、第2ゾーン22でのレール間隔は徐々に広がるように、一対のレール33a、33bが、テンタ部5に配される。このレール間隔を調節することにより、所望の延伸率Lxで、TACフイルム3を幅方向TDに延伸することができる。ここで、延伸率Lxとは、第1ゾーン21と第2ゾーン22との境界におけるTACフイルム3の幅をL1とし、テンタ部5におけるTACフイルム3の最大幅、すなわち把持解除部26におけるTACフイルム3の幅をL2とするときに、L2/L1で表される。
【0021】
また、第1ゾーン21〜第3ゾーン23には、空調機51〜53が設けられる。空調機51〜53は、第1ゾーン21〜第3ゾーン23内の空気の温度や湿度などを、独立に調節する。また、第1ゾーン21〜第3ゾーン23には図示しない循環機が備えられる。この循環器は、第1ゾーン21〜第3ゾーン23内の空気を循環させて、第1ゾーン21〜第3ゾーン23内の雰囲気の条件を均一に保つ。こうして、第1ゾーン21〜第3ゾーン23を通過するTACフイルム3の乾燥の進行度と温度とを所望のものにすることができる。なお、TACフイルム3の乾燥の進行度の指標として、TACフイルム3の残留溶媒量を用いることができる。
【0022】
次に、図4を用いて、延伸処理前のTACフイルム3の膜厚TH、複屈折率ΔN、面内レターデーションReについて説明する。図4(A)〜(C)において、横軸は、幅方向TDにおけるTACフイルム3の位置を表し、Paは側縁部3a側の側端部、Pbは側縁部3b側の側端部、そして、Pcは中央部3cを表す。また、縦軸は、(A)では膜厚THを、(B)では複屈折率ΔNを、そして、(C)では面内レターデーションReを表す。なお、複屈折率ΔNは、TACフイルム3の遅相軸方向の屈折率Nxと、TACフイルム3の遅相軸方向と略垂直の方向の屈折率Nyとの差であり、面内レターデーションReは式3で表される。
(式3)Re=TH・(Nx−Ny)
(ただし、THは前記フイルムの膜厚であり、Nxは、前記フイルムの遅相軸方向の屈折率であり、Nyは、前記フイルムの遅相軸方向と略垂直の方向の屈折率である。)
【0023】
また、図4(A)〜(B)のように、延伸処理前のTACフイルム3は、膜厚THが幅方向TDの両側縁部から中央部にかけて次第に小さくなるような、いわゆる船底状の膜厚プロファイルを有し、複屈折率ΔNは、略一定になるように形成されるため、面内レターデーションReは、幅方向TDの両側縁部から中央部にかけて次第に小さくなる、いわゆる船底状のプロファイルを有する(図4(C))。延伸処理前のTACフイルム3の面内レターデーションReは、−20nm以上20nm以下であることが好ましく、厚み方向レターデーションRthは、100nm以上300nm以下であることが好ましい。ここで、厚み方向レターデーションRthは式4で与えられるものとする。ただし、Nthは、厚み方向の屈折率とする。なお、船底状の膜厚プロファイルを有するTACフイルム3を製造する方法は後述する。
(式4)Rth=TH・{(Nx+Ny)/2−Nth}
【0024】
また、TACフイルム3は、長手方向に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、TACフイルム3の幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、2500mmより幅広の場合にも効果がある。さらに、厚みが40μm以上または120μm以下の薄いTACフイルム3を製造する際にも本発明は適用される。
【0025】
更に、TACフイルム3の残留溶媒量は、0.1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。ここで、残留溶媒量とは、TACフイルム3等に残留する溶媒量を乾量基準で示したものであり、その測定方法は、対象のフイルム等からサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0026】
次に、テンタ部5におけるTACフイルム3の延伸処理の詳細について説明する。図2のように、把持開始部25では、クリップ32a、32bが、把持開始部25に案内されたTACフイルム3の両側縁部3a、3bを把持する。走行するクリップ32a、32bの把持により、TACフイルム3は、把持解除部26まで搬送される。把持解除部26では、クリップ32a、32bによるTACフイルム3の把持が解除され、TACフイルム3は第3ゾーン23に案内される。搬送ローラ28は、把持解除部26を経たTACフイルム3を、出口5bを介して、耳切装置12へ案内する。空調機51〜53は、第1ゾーン21から第3ゾーン23の雰囲気を所定の乾燥条件に調節する。第1ゾーン21から第3ゾーン23を通過するTACフイルム3は、各ゾーン21〜23の乾燥条件に応じて、乾燥する。
【0027】
走行するクリップ32a、32bによって保持されたTACフイルム3は、TACフイルム3の幅がL1のまま、第1ゾーン21を通過し、TACフイルム3の幅がL1からL2まで徐々に広がるようにして、第2ゾーン22を通過する。その後、把持解除部26にて、クリップ32a、32bによる両側縁部3a、3bの保持が解除されるため、TACフイルム3は、幅を自然収縮させながら、第3ゾーン23を通過する。
【0028】
第2ゾーン22では、TACフイルム3に対し、幅方向TDに20%以上70%以下の延伸率Lxの延伸処理が施される。延伸率Lxは、25%以上65%以下であることが好ましく、30%以上60%以下あることがより好ましい。延伸率Lxが20%未満の場合には、面内レターデーションReが十分に増加しないため、好ましくなく、一方、延伸率Lxが70%を超える場合には、ヘイズの悪化やTACフイルム3が破断する恐れがあるため好ましくない。
【0029】
この延伸処理では、両側縁部3a、3bを把持して、幅方向TDにTACフイルム3を延伸するため、延伸によるポリマー分子の配向は、両側縁部3a、3bから中央部3cになるに従い起こりやすい。したがって、延伸処理前後において、屈折率Nyは略一定のまま、屈折率Nxの増大量が両側縁部3a、3bから中央部3cにかけて大きくなるため、延伸処理前後における複屈折率ΔNの増大量は、幅方向TDの両側縁部3a、3bから中央部3cにかけて大きくなる(図4(B)及び図5(B)参照)。したがって、延伸処理前後におけるTACフイルム3の面内レターデーションReの増大量は、幅方向TDの両側縁部3a、3bから中央部3cにかけて、大きくなる。
【0030】
本発明では、膜厚プロファイルが船底状のTACフイルム3(図4(A)参照)の両側縁部3a、3bを把持して幅方向TDに延伸するため、膜厚プロファイルに起因する幅方向TDの面内レターデーションReの変化量分布と、延伸によって生じる面内レターデーションReの増大量分布とを相殺することができる(図5(C)参照)。したがって、面内レターデーションReを所望の値に調節しつつ、幅方向TDにおいてレターデーションReが略均一のTACフイルム3を効率よく製造することができる。
【0031】
なお、延伸処理前のTACフイルム3の幅方向TDにおける膜厚プロファイルは、式1及び式2を満たすことが好ましい。THe/THcが1.02未満の場合は、延伸前後により生じる面内レターデーションReの増大量を十分に相殺することができず、一方、THe/THcが1.04を超える場合には、延伸処理後のTACフイルム3の厚み変動が残ってしまうため、好ましくない。
【0032】
なお、延伸処理前のTACフイルム3の幅方向TDにおける膜厚プロファイルの形状は、上記の形状に限定されない。本発明は、膜厚プロファイルに応じて、延伸率Lx、TACフイルム3の温度、延伸速度などの各パラメータを調節して、延伸処理を行なうことにより、上記実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0033】
なお、上記実施形態では、延伸処理前後における、屈折率Nyは略一定としたが、本発明は、これに限られず、延伸処理前後において屈折率Nyが変動する場合も、延伸処理前後におけるΔNの変動量に応じて、延伸条件を決定することにより、延伸前の幅方向TDの面内レターデーションReの変化量分布と、延伸によって生じた面内レターデーションReの増大量分布とを相殺することも可能である。
【0034】
なお、延伸処理前、或いは延伸処理中のTACフイルム3の両側縁部3a、3bの温度を中央部3cの温度よりも高くすることが好ましい。TACフイルム3の両側縁部3a、3bの温度を中央部3cの温度よりも高くする方法として、例えば、図3のように、TACフイルム3の両側縁部3a、3bと対向するダクト56、57と、ダクト56、57に高温乾燥風400、401を供給する乾燥風供給装置61、62と、高温乾燥風400、401の温度や湿度などの条件を独立に調節する制御部65とを第1ゾーン21や第2ゾーン22に設けてもよい。そして、制御部65の制御の下、第1ゾーン21或いは第2ゾーン22の雰囲気温度よりも高い温度の高温乾燥風400、401を両側縁部3a、3bに送ることにより、第1ゾーン21や第2ゾーン22を通過するTACフイルム3の両側縁部3a、3bの温度を中央部3cの温度よりも高くすることができる。
【0035】
ここで、空調機51により、第1ゾーン21におけるTACフイルム3の温度は、130℃以上190℃以下にすることが好ましく、空調機52により、第2ゾーン22におけるTACフイルム3の温度は、130℃以上190℃以下にすることが好ましい。そして、両側縁部3a、3bの温度を中央部3cの温度よりも、1℃以上20℃以下高くすることが好ましく、2℃以上18℃以下高くすることがより好ましい。なお、ダクト56,57は、TACフイルム3の片面側のみならず、TACフイルム3の両面側に設け、TACフイルム3の両面側から高温乾燥風400、401をあててもよい。
【0036】
上記実施形態では、TACフイルム3の両側縁部3a、3bを把持して、幅方向TDにTACフイルム3を延伸したが、本発明はこれに限られず、幅方向TDからθ1の角度の方向にTACフイルム3を延伸してもよい。なお、θ1は、0°より大きく90°未満である。
【0037】
また、両側縁部3a、3bの厚みが異なる場合は、膜厚の厚い側縁部に送る高温乾燥風の温度を、膜厚の薄い側縁部に送られる高温乾燥風の温度よりも低くすればよい。
【0038】
延伸前のTACフイルム3は、図6のように、片面3gが側縁部から中央部にかけて凹状に形成され、他面3fが側縁部から中央部にかけて平らに形成される。なお、両面3f、3gが側縁部から中央部にかけて凹状に形成されるTACフイルムであってもよい。
【0039】
上記実施形態では、膜厚プロファイルが船底状のTACフイルム3に延伸処理を行ったが、本発明はこれに限られず、幅方向TDにおける面内レターデーションReプロファイルが、船底状のTACフイルムに延伸処理を施してもよい。幅方向TDにおける面内レターデーションReプロファイルが船底状のTACフイルムの実施形態としては、幅方向TDにおける膜厚プロファイルが略一定であり、幅方向TDにおけるレターデーション上昇剤の含有濃度C1のプロファイルが、船底状のTACフイルムでもよい。なお、含有濃度C1は、TACフイルム103における、レターデーション上昇剤の重量濃度である。
【0040】
図7のように、幅方向TDにおける膜厚プロファイルが略一定であり、幅方向TDにおけるレターデーション上昇剤の含有濃度C1のプロファイルが船底状のTACフイルム103は、船底状の面内レターデーションReのプロファイルを有する。このTACフイルム103を、両側縁部を把持して、幅方向TDに延伸すると、延伸処理前後における、含有濃度C1は略一定のまま(図7(A)及び図8(A)参照)、そして、屈折率Nyは略一定のまま、屈折率Nxの増大量が両側縁部から中央部にかけて大きくなるため、延伸処理後における複屈折率ΔNの幅方向TDのプロファイルは略一定となる(図7(B)及び図8(B)参照))。したがって、本発明により、延伸処理後におけるTACフイルム103の面内レターデーションReを、両側縁部から中央部にかけて、略一定にすることができる(図7(C)及び図8(C)参照)。
【0041】
なお、延伸処理前のTACフイルム103の幅方向TDにおける含有濃度C1のプロファイルは、次式を満たすことが好ましい。ただし、CeはTACフイルム103の両側縁部における含有濃度C1であり、CcはTACフイルム103の中央部における含有濃度C1である。
1.02≦Ce/Cc≦1.04
Ce−Cc≦0.3(重量%)
【0042】
なお、上記実施形態のほか、TACの平均酢化度の幅方向TDのプロファイルが、両側縁部から中央部にかけて大きくなるTACフイルムを用いてもよい。この場合、中央部に含まれるTACの平均酢化度よりも、0.5%以上低くすることが好ましく、1.0%以上低くすることがより好ましい。
【0043】
図9に、船底状の面内レターデーションReプロファイルを有するTACフイルムを製造する溶液製膜設備200の概略図を示す。溶液製膜設備200は、ストックタンク211と流延室212とピンテンタ213と乾燥室215と冷却室216と巻取室217とオフライン延伸装置2を有する。
【0044】
ストックタンク211は、モータ211aで回転する攪拌翼211bとジャケット211cとを備える。ストックタンク211の内部には、TACフイルム3の原料となるポリマーが溶媒に溶解したドープ221が貯留されている。ストックタンク211内のドープ221は、ジャケット211cにより温度が略一定となるように調整される。また、攪拌翼211bの回転によって、ポリマーなどの凝集を抑制しつつ、ドープ221を均一な品質に保持している。配管222は、ストックタンク211と流延ダイ230とを接続する。
【0045】
流延室212には、流延ダイ230、支持体としての流延ドラム232、剥取ローラ234、温調装置235,236、及び減圧チャンバ237が設置されている。流延ドラム232は図示を省略した駆動装置により軸232aを中心に、方向Z1へ回転する。流延室212内及び流延ドラム232は、温調装置235,236によって、流延膜233が冷却固化(ゲル化)し易い温度に設定されている。
【0046】
流延ダイ230は、幅方向TDに伸びるように形成されるスリットを有する。流延ダイ230は、スリットから回転する流延ドラム232の周面232bに向けて、ドープ221を吐出する。その後、流延ドラム232の周面232b上のドープ221から流延膜233が形成される。そして、流延ドラム232が約3/4回転する間に、ゲル化による自己支持性が流延膜233に発現し、流延膜233は剥取ローラ234によって流延ドラム232から剥ぎ取られ、湿潤フイルム238となる。剥ぎ取り時の流延膜233の残留溶媒量は、150重量%以上320重量%以下であることが好ましい。
【0047】
減圧チャンバ237は、流延ダイ230に対し、方向Z1の上流側に配置されており、減圧チャンバ237内を負圧に保ち、流延ビードの背面(後に、流延ドラム232の周面232bに接する面)側を所望の圧力に減圧する。流延ビードの背面側の減圧により、流延ドラム232の回転により発生する同伴風の影響を少なくし、流延ダイ230と流延ドラム232との間に安定した流延ビードを形成し、膜厚ムラの少ない流延膜233を形成することができる。
【0048】
流延ダイ230の材質は、電解質水溶液、ジクロロメタンやメタノールなどの混合液に対する高い耐腐食性、及び低い熱膨張率を有する素材から形成される。流延ダイ230の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。
【0049】
流延ドラム232の周面232bは、クロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。また、温調装置236は、流延ドラム232の周面232bの温度を所望の温度に保つために、流延ドラム232に伝熱媒体を循環させる。伝熱媒体は所望の温度に保持されており、流延ドラム232内の伝熱媒体流路を通過することにより、流延ドラム232の周面232bの温度が所望の温度に保持される。
【0050】
流延ドラム232の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。流延ドラム232の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム232の周面232bに施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0051】
厚み調整ボルト(ヒートボルト)を流延ダイ230の幅方向TDにおいて所定の間隔で設け、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を備えられていることがより好ましい。このヒートボルトを用いて、両側縁部のスリット幅を、中央部のスリット幅よりも大きくすることにより、上記の船底状の膜厚プロファイルを有するTACフイルムを製造することができる。
【0052】
また、流延ダイ230のスリット端に流出する流延ビードの両端部近傍に、レターデーション上昇剤或いは、ドープに含まれるTACよりも平均酢化度が低いTACを含む液を供給してもよい。この液を流延ビードに供給後、液に含まれるレターデーション上昇剤或いは、平均酢化度が低いTACが、流延膜233、湿潤フイルム238、或いはフイルム220中を拡散する結果、幅方向TDにおける面内レターデーションReのプロファイルが船底状のTACフイルムをつくることができる。
【0053】
また、図10に示す、流延ダイ330を用いて、幅方向TDにおける面内レターデーションReのプロファイルが船底状のTACフイルムをつくることができる。流延ダイ330は、ドープが供給される第1〜第3供給口340a〜340cと、ドープが流延ビード335として流出する流出口341と、第1供給口340aと流出口341とを連通するスロット342を有する。スロット342には、仕切部材345が、スロット342においてドープが流れる方向A1に沿って伸びるように設けられる。仕切部材345は、スロット342を幅方向TDに、中央部スロット342aと両端部スロット342b、342cとに分ける。両端部スロット342b、342cは、第2、第3供給口340b、340cと接続する。仕切部材345の先端部345aは鋭角に形成される。第1供給口340aには、中央部ドープ350aを供給し、第2及び第3供給口340b、340cには、両端部ドープ350b、350cを供給する。各スロット342a〜342cを経た各ドープ350a〜350cは、鋭角に形成された先端部345aを介して合流するため、1つの流延ビード335となって、流出口341から流出する。このときに、両端部ドープ350b、350cとして、中央部ドープ350aよりも、レターデーション上昇剤の含有濃度C1が高いドープを用いることにより、幅方向TDにおける面内レターデーションReのプロファイルが船底状の流延膜を、最終的には、同様の面内レターデーションReのプロファイルを有するTACフイルムをつくることができる。
【0054】
各スロット342a〜342cにおける各ドープ350a〜350cの流量が大きくなるに従い、流延ビード335の膜厚が厚くなることを利用して、図示しない各ポンプにより各ドープ350a〜350cを個別に制御し、両端部スロット342bにおける両端部ドープ350bの流量や両端部スロット342cにおける両端部ドープ350cの流量を、中央部スロット342aにおける中央部ドープ350aの流量よりも大きくした状態で、各ドープ350a〜350cを合流させて、流出口341から吐出することにより、船底状の膜厚プロファイルを有するTACフイルムを製造することができる。また、各スロット342a〜342cにおける各ドープ350a〜350cの流速が大きくなるに従い、流延ビード335の膜厚が厚くなることを利用して、各スロット342a〜342cにおける各ドープ350a〜350cの流速が、幅方向TDの両側端部から中央部に向かうに従い小さくなるように各スロット342a〜342cを形成してもよい。
【0055】
なお、各スロット342b〜342cにおける各ドープ350b〜350cの流量や流速は略等しいことが好ましいが、異なっていてもよい。また、各ドープ350b〜350cのレターデーション上昇剤の含有濃度C1は、ドープ350aのレターデーション上昇剤の含有濃度C1と等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0056】
また、流延室212内には、蒸発している溶媒を凝縮液化するための凝縮器(コンデンサ)239と凝縮液化した溶媒を回収する回収装置240とが備えられている。凝縮器239で凝縮液化した溶媒は、回収装置240により回収される。その溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
【0057】
流延室212の下流には、渡り部241、ピンテンタ213が順に設置されている。渡り部241では、搬送ローラ242が、湿潤フイルム238をピンテンタ213に導入する。ピンテンタ213は、湿潤フイルム238の両側縁部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。ピンプレートにより走行する湿潤フイルム238に対し乾燥風が送られ、湿潤フイルム238は乾燥し、フイルム220となる。
【0058】
ピンテンタ213は、フイルム220の両側縁部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を走行する。クリップにより走行するフイルム220に対し乾燥風が送られ、フイルム220には、フイルム幅方向TDへの延伸処理とともに乾燥処理が施される。
【0059】
ピンテンタ213の下流にはそれぞれ耳切装置243が設けられている。耳切装置243はフイルム220の両側縁部を裁断する。この裁断した両側縁部は、送風によりクラッシャ244に送られて、粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0060】
乾燥室215には、多数のローラ247が設けられており、これらにフイルム220が巻き掛けられて搬送される。乾燥室215の出口側には冷却室216が設けられており、この冷却室216でフイルム220が室温となるまで冷却される。冷却室216の下流には強制除電装置(除電バー)249が設けられており、フイルム220が除電される。さらに、強制除電装置249下流側には、ナーリング付与ローラ250が設けられており、フイルム220の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室217には、プレスローラ252を有する巻取機251が設置されており、フイルム220が巻き芯にロール状に巻き取られ、巻取機251により、フイルムロール255が得られる。
【0061】
フイルムロール255は、巻取室217からオフライン延伸装置2の供給室4(図1参照)に送られ、供給室4からTACフイルム3として、送り出される。
【0062】
上記実施形態では、延伸処理をオフライン延伸装置2にて行ったが、本発明はこれに限られず、溶液製膜設備200のピンテンタ213と乾燥室215との間で、オフライン延伸装置2で行った延伸処理と同様の延伸処理を行ってもよい。
【0063】
なお、本実施形態では、ポリマーフイルムとしてTACフイルム3、103を用いて説明を行ったが、TACフイルム3、103に限定されることなく、本発明は各種ポリマーフイルムに適用可能である。
【0064】
上記実施形態では、支持体として、流延ドラム232を用いたが、本発明はこれに限られず、ローラに掛け渡され、ローラの回転により、エンドレスに走行する流延バンドを用いてもよい。
【0065】
上記実施形態では、冷却により流延膜233に自己支持性を発現させたが、本発明はこれに限られず、乾燥により流延膜233に自己支持性を発現させてもよい。
【0066】
上記実施形態では、1種類のドープから流延膜を形成したが、本発明はこれに限られない。上記の溶液製膜方法において、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させることもできる。さらに両共流延を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフイルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フイルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0067】
上記実施形態ではTACフイルムを用いたが、本発明はこれに限られず、セルロースアシレートフイルムのほか、溶液製膜方法によって製造され、環状オレフィン等、他のポリマーからなるポリマーフイルムを用いることもできる。
【0068】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわちアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBはアシル基の置換度を表わし、置換度Aはアセチル基の置換度、また置換度Bは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
また、本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではない。
【0069】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0070】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0071】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0072】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0073】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0074】
(溶媒)
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0075】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度など及びフイルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0076】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
【0077】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明にも適用できる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
【0078】
上記実施形態では、溶液製膜方法により製造されたポリマーフイルムを用いたが、本発明はこれに限られず、溶融製膜方法によって製造されたポリマーフイルムを用いてもよい。
【0079】
(溶融製膜設備)
次に、溶融製膜方法によりポリマーフイルムを製造する製造設備(以下、溶融製膜設備と称す)について説明する。溶融製膜設備410は、図11に示すように、液晶表示装置等に使用できる熱可塑性フイルムFを製造する装置である。熱可塑性フイルムFの原材料であるペレット状の熱可塑性樹脂を乾燥機412に導入して乾燥させた後、このペレットを押出機414によって押し出し、ギアポンプ416によりフィルタ418に供給する。次いで、フィルタ418により異物がろ過され、ダイ420から溶融樹脂(溶融した熱可塑性樹脂)が押し出される。溶融樹脂は、第1キャスティングロール428とタッチロール424で挟まれて押圧成形された後、第1キャスティングロール428にて冷却固化されて所定の表面粗さのフイルム状とされ、さらに、第2キャスティングロール426、第3キャスティングロール427によって搬送されることで未延伸フイルムFaが得られる。この未延伸フイルムFaは、この段階で巻き取られてもよいし、連続的に長スパン延伸を行う横延伸部442に供給されてもよい。また、一度巻き取られた未延伸フイルムFaを再度横延伸部442に供給しても、連続的に長スパン延伸を行う横延伸部442に供給した場合と同様の効果が得られる。
【0080】
横延伸部442では、未延伸フイルムFaが搬送方向(以下、MD方向と称する)と直交する幅方向(以下、TD方向と称する)に延伸され、横延伸フイルムFbとされる。横延伸部442の上流側に予熱部436を設けてもよいし、横延伸部442の下流側に熱固定部444を設けてもよい。これにより、延伸中のボーイング(光学軸のズレ)を小さくできる。予熱温度は横延伸温度より高いこと、熱固定温度は横延伸温度より低いことが好ましい。すなわち、通常、ボーイングは幅方向中央部が進行方向に向かって凹となるが、予熱温度>横延伸温度、横延伸温度>熱固定温度とすることによりボーイングを低減できる。予熱処理、熱固定処理はどちらか一方でもよく、両方行ってもよい。
【0081】
横延伸の後に後熱処理を行なった後、熱処理ゾーン446でMD方向に横延伸フイルムFbを収縮させる。熱処理ゾーン446では、図12に示すように、横延伸フイルムFbの側端部をチャックで把持しない状態で、TD方向の収縮が起こらずに、MD方向の収縮のみが起こるように複数のロール448a〜448dで横延伸フイルムFbを搬送する。このとき、図13に示すように、複数のロール448a〜448dは、ロールラップ長(D)とロール間長(G)の比(G/D)が0.01以上3以下となるように配置される。これにより横延伸フイルムFbと各ロール448〜448dとの摩擦によりTD方向の収縮が抑制される。そして、横延伸フイルムFbは、上流側のロール448aによる周速度(V1)と下流側のロール448dによる周速度(V2)の比(V2/V1)が0.6以上0.999以下で搬送しながら熱処理される。つまり、横延伸フイルムFbは熱処理ゾーンにてMD方向に収縮する。
【0082】
横延伸フイルムFbが熱処理ゾーンにて熱処理されることで、配向角、レターデーションが調整された最終製品である熱可塑性フイルムFが製造される。このフイルムFは巻取部449によって巻き取られる。
【0083】
TD方向への延伸の前又は後にMD方向の延伸を行ってもよい。MD方向の延伸は、MD方向に並ぶ複数のニップロール対を用いてフイルムを搬送し、上流側のニップロール対の周速度より下流側のニップロール対の周速度を速くすることで達成できる。MD方向におけるニップロール間の距離(L)と上流側のニップロール対でのフイルム幅Wの比(L/W)の大きさで延伸方式が異なり、L/Wが小さいと特開2005−330411号公報、特開2006−348114号公報記載のような縦延伸方法を採用できる。この方式は、Rthが大きくなり易いが装置をコンパクトにすることができる。一方、L/Wが大きい場合は特開2005−301225号公報記載のようなMD方向の延伸を用いることができる。この方式はRthを小さくできるが、装置が長大になり易い。
【0084】
なお、溶融製膜設備410にて、船底状の膜厚プロファイルを有するフィルムを製造する場合にも、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を幅方向TDにおいて所定の間隔でダイ420に設け、このヒートボルトを用いて、両側縁部のスリット幅を、中央部のスリット幅よりも大きくすることにより、上記の船底状の膜厚プロファイルを有するTACフイルムを製造することができる。
【0085】
溶融製膜方法で用いることのできるポリマーは、熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状オレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状オレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状オレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状オレフィンである。
【0086】
(環状オレフィン)
環状オレフィンはノルボルネン系化合物から重合されるものが好ましい。この重合は開環重合、付加重合いずれの方法でも行える。付加重合としては例えば特許3517471号公報記載のものや特許3559360号公報、特許3867178号公報、特許3871721号公報、特許3907908号公報、特許3945598号公報、特表2005−527696号公報、特開2006−28993号公報、国際公開第2006/004376号パンフレットに記載のものが挙げられる。特に好ましいのは特許3517471号公報に記載のものである。
【0087】
開環重合としては国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報、特許3220478号公報、特許3273046号公報、特許3404027号公報、特許3428176号公報、特許3687231号公報、特許3873934号公報、特許3912159号公報記載のものが挙げられる。なかでも好ましいのが国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報記載のものである。
【0088】
これらの環状オレフィンの中でも付加重合のものの方がより好ましい。
【0089】
(ラクトン環含有重合体)
下記(一般式1)で表されるラクトン環構造を有するものを指す。
【0090】
【化1】
【0091】
(一般式1)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0092】
(一般式1)のラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。
【0093】
(一般式1)で表されるラクトン環構造以外に、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記(一般式2)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0094】
【化2】
【0095】
(一般式2)中、R4は水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R5基、又は−C−O−R6基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R5及びR6は水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。
【0096】
例えば、国際公開第2006/025445号パンフレット、特開2007−70607号公報、特開2007−63541号公報、特開2006−171464号公報、特開2005−162835号公報記載のものを用いることができる。
【実施例】
【0097】
(実験1)
次に、実験1について説明する。フイルム製造に使用したポリマー溶液(ドープ)の調製に際しての配合を下記に示す。
【0098】
[ドープの調製]
原料ドープの調製に用いた化合物の処方を下記に示す。
セルローストリアセテート(置換度2.86) 89.3重量%
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.1重量%
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 3.6重量%
の組成比からなる固形分(溶質)を
ジクロロメタン 80重量%
メタノール 13.5重量%
n−ブタノール 6.5重量%
からなる混合溶剤に適宜添加し、攪拌溶解して原料ドープを調製した。なお、原料ドープのTAC濃度は略23重量%になるように調整した。原料ドープを濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した後にストックタンクに入れた。
【0099】
[セルローストリアセテート]
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1重量%以下であり、Ca含有率が57ppm、Mg含有率が41ppm、Fe含有率が0.4ppmであり、遊離酢酸38ppm、さらに硫酸イオンを13ppm含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.91であった。また、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基の水素が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8重量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であった。このTACは、綿から採取したセルロースを原料として合成されたものである。
【0100】
[マット剤液の調製]
下記の処方からマット剤液を調製した。
シリカ(日本アエロジル(株)製アエロジルR972) 0.67重量%
セルローストリアセテート 2.93重量%
トリフェニルフォスフェート 0.23重量%
ビフェニルジフェニルフォスフェート 0.12重量%
ジクロロメタン 88.37重量%
メタノール 7.68重量%
上記処方からマット剤液を調製して、アトライターにて体積平均粒径0.7μmになるように分散を行った後、富士フイルム(株)製アストロポアフィルタにてろ過した。そして、マット剤液用タンクに入れた。
【0101】
[紫外線吸収剤溶液の調製]
下記の処方から紫外線吸収剤溶液を調製した。
2(2´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−tert―ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール 5.83重量%
2(2´−ヒドロキシ3´,5´−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール 11.66重量%
セルローストリアセテート 1.48重量%
トリフェニルフォスフェート 0.12重量%
ビフェニルジフェニルフォスフェート 0.06重量%
ジクロロメタン 74.38重量%
メタノール 6.47重量%
上記処方から紫外線吸収剤溶液を調製し、富士フイルム(株)製のアストロポアフィルタにてろ過した後に紫外線吸収剤液法用タンクに入れた。
【0102】
図9に示すように、溶液製膜設備200を用いてフイルム220を製造した。紫外線吸収剤溶液にマット剤液を混合し、インラインミキサで混合攪拌して混合添加剤を得た。添加剤供給ラインは、混合添加剤を配管内に送液した。インラインミキサは原料ドープと混合添加剤とを混合攪拌して流延ドープを得た。流延ドラム232は、制御部の制御の下、軸232aを中心に回転し、走行方向Z1における周面232bの速度を50m/分以上200m/分以下の範囲内でほぼ一定となるように保持した。流延ドラム232の周面232bの温度を、−10℃以上10℃以下の範囲内でほぼ一定となるように保持した。流延ダイ230は、流延ドープを周面232b上に流延し、周面232bに流延膜233を形成した。冷却により、流延膜233が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ234を用いて、流延ドラム232から流延膜233を湿潤フイルム238として剥ぎ取った。剥取不良を抑制するために流延ドラム232の速度に対する剥取速度(剥取ローラドロー)を、100.1%〜110%の範囲で適切に調整した。湿潤フイルム238は、渡り部241、ピンテンタ213、及び乾燥室215へ順次案内された。渡り部241、ピンテンタ213、及び乾燥室215では、湿潤フイルム238に乾燥空気をあてて、所定の乾燥処理を行った。この乾燥処理によって得られるフイルム220を冷却室216に送った。冷却室216では、フイルム220を30℃以下になるまで冷却した。その後、フイルム220に、除電処理、ナーリング付与処理などを行った後、巻取室217に搬送した。巻取室217では、フイルム220は、プレスローラ252で所望のテンションを付与されながら、巻取機251の巻き芯に巻き取られ、フイルムロール255となった。
フイルムロール255を、オフライン延伸装置2に送った。
【0103】
図1に示すオフライン延伸装置2を用いて、TACフイルム3に延伸処理を施した。厚み調整ボルト(ヒートボルト)による自動厚み調整機構を用いて、厚みプロファイルは船底型のフィルムを製造した。延伸前のTACフイルム3は、幅2000mmであり、厚みTHcは65μmであり、厚み比率THe/THcは1.03であった。延伸率L2/L1は、1.4であり、高温乾燥風400,401により、延伸時のTACフイルム3の両側縁部3a、3bを、中央部3cの温度よりも15℃高い温度に保持した。中央部3cの温度Tcは185℃であった。
【0104】
(実験2)
延伸時のTACフイルム3の両側縁部3a、3bを、中央部3cの温度よりも0.5℃高い温度に保持したこと以外は、実験1と同様にして、延伸処理を行った。
【0105】
(実験3)
厚み比率THe/THcを1.05としたこと、及び延伸時のTACフイルム3の両側縁部3a、3bを、中央部3cの温度よりも0.5℃高い温度に保持したこと以外は、実験1と同様にして、延伸処理を行った。
【0106】
(実験4)
厚み比率THe/THcを1.01としたこと、及び延伸時のTACフイルムの両側縁部を、中央部の温度よりも0.5℃高い温度に保持したこと以外は、実験1と同様にして、延伸処理を行った。
【0107】
1.面内レターデーション(Re)の評価
実験1〜4にて延伸処理を施したTACフイルムを幅方向に切断し、サンプルを切り出した。そして、このサンプル上に、幅方向に沿って9箇所の測定点を設けた。各測定点について、温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(KOBRA21DH 王子計測(株))を用いて、垂直方向における面内レターデーションReを測定した。測定波長は632.8nmであった。そして、面内レターデーションReについての評価を以下基準で行った。
○:ReXが80%以上であること。
×:ReXが80%未満であること。
ここで、ReXとは、面内レターデーションReの測定値が次式を満たす領域の幅W1を、TACフイルムの幅W0で除したものである。なお、Reavは、測定値Reの平均値である。
|Re−Reav|/Reav≦0.07
【0108】
2.厚み変動評価
実験1〜4での延伸処理を施したTACフイルムのうち、面内レターデーションReの測定値が前記式を満たす領域について、次の方法で測定して、厚み変動評価を行った。測定方法は、延伸後のTACフイルムを25℃,60RH%下でアンリツ電気社製、電子マイクロメーターを用いて、5箇所を測定し、測定値TH1の平均値THavを算出した。そして、TACフイルムの厚み変動の評価を、以下基準で行った。
○:|TH1−THav|≦2μm
×:|TH1−THav|>2μm
【0109】
実験1〜4についての各条件、測定値及び評価結果を表1に示す。なお、表1における符号は、次の内容を表す。THe/THcは、延伸処理前のTACフイルムの両側縁部の膜厚THeと、中央部の膜厚THcとの厚み比率である。ΔTは、延伸処理時のTACフイルムの両側縁部の温度Teと、中央部の温度Tcとの温度差(Te−Tc)であり、単位は℃である。延伸率Lxは、L2/L1で表される値である。また、表1中の評価結果の番号は、前述した評価内容に付した番号を示す。
【0110】
【表1】
【0111】
実験1〜4の結果より、THe/THcが一定値以上のTACフイルムに延伸処理をすることにより、幅方向における面内レターデーションReが均一のフイルムを製造することができる。そして、両側縁部の温度を中央部の温度よりも高い状態で延伸処理を行うと、幅方向における面内レターデーションReがより均一になることがわかった。
【0112】
(実験11〜実験12)
溶液製膜方法を用いて、特開2001−188128の実施例1に記載のフイルムNo.1(セルロースアセテートプロピオネート(表1では、「CAP」と表記する):厚みTHcが120μm)得たこと、及び各条件を表1に示す値としたこと以外は、実験1と同様にして、実験11〜12を行った。
【0113】
(実験21〜実験22)
国際公開第2006/025445号パンフレット記載の実施例1に従って、溶融製膜方法を行い、ラクトン環含有重合体樹脂(表1では、「ラクトン」と表記する)からなるポリマーフイルム(厚みTHcが100μm)を得たこと、延伸時の中央部3cの温度Tcは170℃であったこと、及び各条件を表1に示す値としたこと以外は、実験1と同様にして、実験21〜22を行った。
【0114】
(実験31〜実験32)
溶融製膜方法を用いて、シクロオレフィン樹脂A(表1では、「シクロオレフィン」と表記する)からポリマーフイルム(厚みTHcが100μm)を得たこと、延伸時の中央部3cの温度Tcは190℃であったこと、及び各条件を表1に示す値としたこと以外は、実験1と同様にして、実験31〜32を行った。
シクロオレフィン樹脂A(付加重合系):ポリプラスチックス(株)製TOPAS6013(Tg=130℃)
【0115】
実験31〜実験32における溶融製膜方法の詳細は次の通りである。シクロオレフィン樹脂Aを110℃の真空乾燥機で乾燥し含水率を0.1%以下とした後、1軸混練押出し機を用い260℃で溶融しギアポンプから送り出した後、濾過精度5μmのリーフディスクフィルタにて濾過し、スタティックミキサーを経由してスリット間隔0.8mm、270℃のハンガーコートダイから、(Tg−5)℃、Tg℃、(Tg−10)℃に設定した3連のキャストロール上にメルト(溶融樹脂)を押出した。この時、最上流側のキャストロールに面圧0.1MPaでタッチロールを接触させ、厚みTHcが100μmの未延伸フイルムを製膜した。タッチロールは特開平11−235747号公報の実施例1に記載のもの(二重抑えロールと記載のあるもの)を用い、Tg−5℃に調温した(但し薄肉金属外筒厚みは2mmとした)。
【0116】
この後、巻き取り直前に両端(全幅の各3%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ20μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた。各水準とも、幅は1.5mで30m/分で3000m巻き取った。
【0117】
実験11〜32についての各条件、測定値及び評価結果を表1に示す。
【0118】
以上の各実験より、本発明によれば、各種のポリマーフイルムにおいて、幅方向における面内レターデーションReを均一にすることができたことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】オフライン延伸装置の概要を示す説明図である。
【図2】テンタ部の概要を示す平面図である。
【図3】クリップの概要を示す側面図である。
【図4】(A)〜(C)は、延伸処理前のTACフイルムの幅方向における、各物性の変化量分布の概要を示す説明図である。横軸は、TACフイルムの一の側端部から他の側端部までの間の位置を示し、縦軸は当該位置における各物性を示す。縦軸に示される物性は、(A)では膜厚THであり、(B)では複屈折率ΔNであり、(C)では面内レターデーションReである。
【図5】(A)は、延伸処理後のTACフイルムの幅方向における、膜厚THの変化量分布の概要を示す説明図であり、(B)は複屈折率ΔNの変化量分布を、(C)は、面内レターデーションReの変化量分布の概要を示す説明図である。
【図6】本発明のTACフイルムの概要を示す断面図である。
【図7】(A)は、延伸処理前のTACフイルムの幅方向における、レターデーション添加剤の含有濃度C1の変化量分布の概要を示す説明図であり、(B)は複屈折率ΔNの変化量分布を、(C)は、面内レターデーションReの変化量分布を示す説明図である。
【図8】(A)は、延伸処理後のTACフイルムの幅方向における、レターデーション添加剤の含有濃度C1の変化量分布の概要を示す説明図であり、(B)は複屈折率ΔNの変化量分布を、(C)は、面内レターデーションReの変化量分布を示す説明図である。
【図9】溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図10】流延ダイの概要を示す断面図である。
【図11】溶融製膜設備の概要を示す説明図である。
【図12】熱処理ゾーンにおける複数のロールの配置状態を示す斜視図である。
【図13】熱処理ゾーンにおける複数のロールのロールラップ長(D)及びロール間長(G)を示す説明図である。
【符号の説明】
【0120】
2 オフライン延伸装置
3,103 TACフイルム
3a,3b 両側縁部
3c 中央部
32a,32b クリップ
5 テンタ部
56,57 ダクト
200 溶液製膜設備
400,401 高温乾燥風
【技術分野】
【0001】
本発明は、フイルムの延伸方法及び溶液製膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ等の急速な発展・普及により、これら液晶ディスプレイに用いられる偏光膜の保護フイルム等に用いられるセルロースアシレートフイルム、特にトリアセチルセルロースフイルム(以下、TACフイルムと称する)の需要が増大している。この需要の増大に伴い、TACフイルムの生産性の向上が望まれている。TACフイルムは、連続走行する支持体に、流延ダイを用いて、TACと溶媒とを含むドープを流延し、この流延膜を乾燥や冷却等により自己支持性を持たせた後に、支持体から剥がして、乾燥させて巻き取ることにより製造されている。このような溶液製膜方法では、溶融押出による製膜方法に比べて、異物が無く、透過性や光学等方性などの光学特性に優れたフイルムが得られる。
【0003】
TACフイルムの光学特性、特にレターデーションを調節する方法として、ポリマー分子を所定の方向に配向させるために、テンタなどを用いて、TACフイルムの両側縁部をクリップ等で把持しながらTACフイルムを所定方向に延伸する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−311240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載するように、両側縁部をクリップ等で把持しながら長尺状のTACフイルムを幅方向に延伸する際、幅方向の両側縁部、及び両側縁部近傍では、中央部に比べて、ポリマー分子の配向が起こりにくい。したがって、延伸前に対する延伸後の面内レターデーションReの増大量は、両側縁部から中央部にかけて大きくなる。このように、幅方向における面内レターデーションReが均一でなく、ばらつきがあるTACフイルムは、光学異方性を示すため、保護フイルム等に適さない。また、延伸後のTACフイルムの両側縁部を切断することにより、面内レターデーションReが均一な部分を製品用フイルムとして切り出すことは可能ではあるが、面内レターデーションReのばらつきが大きくなると、切断量が大きくなり、生産効率の向上に限界がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであり、幅方向における面内レターデーションReのばらつきを抑えながら、所望の面内レターデーションReを付与するフイルムの延伸方法及び、均一な面内レターデーションReを有するフイルムを効率よく製造する溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、フイルムの幅方向における両側縁部を把持して、前記フイルムを前記幅方向に延伸するフイルムの延伸方法において、前記フイルムの前記幅方向における膜厚が前記両側縁部から中央部に向かうに従い次第に薄くなる膜厚プロファイルを有する前記フイルムを前記幅方向に延伸し、前記延伸時の前記両側縁部の伸びにくさに起因して前記フイルムに生じ、前記両側縁部から前記中央部に向かうに従い次第に大きくなる前記延伸前後の面内レターデーションReの増大量分布を、前記厚みプロファイルに起因し、前記両側縁部から前記中央部に向かうに従い次第に小さくなる前記面内レターデーションReの変化量分布で相殺することを特徴とする。
【0007】
前記延伸前の前記フイルムの膜厚が、式1及び式2を満たすことが好ましい。
(式1)1.02≦THe/THc≦1.04
(式2)THe−THc≦3μm
(ただし、THeは前記フイルムの前記両側縁部の膜厚であり、THcは前記フイルムの前記中央部の膜厚である。)
【0008】
前記延伸前の前記フイルムをローラに巻き取った後、前記ローラから送り出され、残留溶媒量が0.1重量%以上10重量%以下の前記フイルムに前記延伸を行うことが好ましい。また、前記延伸時における前記フイルムの前記両側縁部の温度を、前記フイルムの前記中央部の温度よりも1℃以上20℃以下高くすることが好ましい。更に、前記フイルムが、単一の層からなることが好ましい。
【0009】
本発明の溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含むドープを、エンドレスに走行する支持体上に流延し、前記支持体上の前記ドープから流延膜を形成し、冷却によりゲル化した前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取り、前記支持体から剥ぎ取られた前記流延膜を前記フイルムとし、前記フイルムの延伸方法のうちいずれか1つを前記フイルムに行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフイルムの延伸方法によれば、前記延伸時の前記両側縁部の伸びにくさに起因する前記延伸前後の面内レターデーションReの増大量分布を、前記厚みプロファイルに起因する前記面内レターデーションReの変化量分布で相殺するため、幅方向におけるレターデーションReのばらつきを抑えながら、所望の面内レターデーションReをフイルムに付与することができる。また、本発明の溶液製膜方法によれば、面内レターデーションReが略均一のフイルムを容易に効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1に示すように、オフライン延伸装置2は、TACフイルム3を延伸するものであり、供給室4と、テンタ部5と、熱緩和室6と、冷却室7と、巻取室8とを備える。供給室4には、溶液製膜設備で製造され、ロール状にされたTACフイルム3が収納されており、供給ローラ9により、TACフイルム3をテンタ部5に供給する。テンタ部5に送られたTACフイルム3には、延伸処理が施される。延伸処理では、TACフイルム3の両側縁部をクリップ等で把持し、方向MDに搬送しながら、TACフイルム3を幅方向TD(図2参照)に延伸する。
【0012】
TACフイルム3は、テンタ部5で延伸された後、耳切装置12に送り出される。TACフイルム3は、耳切装置12により、クリップで把持された両側縁部が切り離され、切り離されたスリット状の側縁部である耳屑は、カットブロア13で細かく小片にカットされる。カットされた耳屑小片は、図示しない風送装置によりクラッシャ14に送られ、粉砕されてチップとなる。このチップはドープ調製用に再利用されるので、この方法はコストの点において有効である。
【0013】
熱緩和室6には、多数のローラ16が備えられており、TACフイルム3はローラ16により熱緩和室6内を搬送されて熱緩和された後、冷却室7に送られる。なお、熱緩和室6では、送風機(図示せず)から所望の温度の風が送風される。このときの風の温度は、20℃〜250℃であることが好ましい。
【0014】
熱緩和後のTACフイルム3は、冷却室7で30℃以下に冷却された後、巻取室8に送られる。巻取室8の内部には、巻取ローラ17、プレスローラ18が設けられている。巻取室8に送られたTACフイルム3は、プレスローラ18により押圧されながら、巻取ローラ17に巻き取られる。
【0015】
次に、テンタ部5の詳細について説明する。図2及び図3のように、テンタ部5には、乾燥条件が異なる3つのゾーン(以下、第1ゾーン21〜第3ゾーン23と称する)が設けられる。
【0016】
第1ゾーン21には、供給室4から送り出されたTACフイルム3を導入する入口5aと、入口5aから導入されたTACフイルム3の両側縁部3a、3bの把持を開始する把持開始部25と、入口5aから把持開始部25へTACフイルム3を案内するローラ(図示しない)とが設けられる。また、第2ゾーン22と第3ゾーン23との境界には、TACフイルム3の両側縁部3a、3bの把持を解除する把持解除部26が設けられる。そして、第3ゾーン23には、把持解除部26を経たTACフイルム3を下流へ案内する搬送ローラ28と、搬送ローラ28によって案内されたTACフイルム3を耳切装置12へ送る出口5bとが設けられる。なお、両側縁部3a、3bとは、TACフイルム3の側端から200mm以内の範囲を指す。
【0017】
また、テンタ部5は、第1ゾーン21〜第3ゾーン23内を走行する1対のチェーン31a、31bと、チェーン31a、31bに所定のピッチで取り付けられるクリップ32a、32bと、チェーン31a、31bの走行を案内するレール33a、33bとを備える。また、チェーン31a、31bは、駆動部35a、35bにより回転駆動するチェーンスプロケット36a、36bに巻き掛けられている。
【0018】
クリップ32aは、略コ字形状のフレーム41とフラッパ42とレール取付部43とから構成されており、フラッパ42は、取付軸41aによりフレーム41に回動自在に取り付けられている。フラッパ42は鉛直状態となるフイルム把持位置(図3参照)と、開放部材44に係合頭部42aが接触して斜めに起立した状態となる開放位置との間で、取付軸41aを中心に回動し、通常は自重によりフイルム把持位置となるように付勢されている。また、レール取付部43には、チェーン31aが取り付けられるため、クリップ32aは、チェーン31aから脱落することなく、レール33aに沿って案内される。なお、クリップ32bもクリップ32aと略左右対称の構造を有する。こうして、駆動部35a、35bの制御の下、クリップ32a、32bは、レール33a、33bに沿って、第1ゾーン21〜第3ゾーン23内をエンドレスに走行する。
【0019】
クリップ32a、32bが把持開始部25を通過すると、開放部材44と係合頭部42aが非接触となり、フラッパ42は、自重により把持位置となって、把持開始部25に案内されたTACフイルム3の両側縁部3a、3bを把持する。両側縁部3a、3bが把持されたTACフイルム3は、クリップ32a、32bの走行により、把持開始部25から把持解除部26へ案内される。クリップ32a、32bが把持解除部26を通過すると、開放部材44により、フラッパ42は、開放位置となって、TACフイルム3の両側縁部3a、3bの把持を解除する。両側縁部3a、3bの把持が解除されたTACフイルム3は、第3ゾーン23へ案内される。搬送ローラ28は、把持解除部26を経たTACフイルム3を、出口5bへ案内する。
【0020】
また、一対のレール33a、33bの間隔をレール間隔とすると、第1ゾーン21でのレール間隔は略一定であり、第2ゾーン22でのレール間隔は徐々に広がるように、一対のレール33a、33bが、テンタ部5に配される。このレール間隔を調節することにより、所望の延伸率Lxで、TACフイルム3を幅方向TDに延伸することができる。ここで、延伸率Lxとは、第1ゾーン21と第2ゾーン22との境界におけるTACフイルム3の幅をL1とし、テンタ部5におけるTACフイルム3の最大幅、すなわち把持解除部26におけるTACフイルム3の幅をL2とするときに、L2/L1で表される。
【0021】
また、第1ゾーン21〜第3ゾーン23には、空調機51〜53が設けられる。空調機51〜53は、第1ゾーン21〜第3ゾーン23内の空気の温度や湿度などを、独立に調節する。また、第1ゾーン21〜第3ゾーン23には図示しない循環機が備えられる。この循環器は、第1ゾーン21〜第3ゾーン23内の空気を循環させて、第1ゾーン21〜第3ゾーン23内の雰囲気の条件を均一に保つ。こうして、第1ゾーン21〜第3ゾーン23を通過するTACフイルム3の乾燥の進行度と温度とを所望のものにすることができる。なお、TACフイルム3の乾燥の進行度の指標として、TACフイルム3の残留溶媒量を用いることができる。
【0022】
次に、図4を用いて、延伸処理前のTACフイルム3の膜厚TH、複屈折率ΔN、面内レターデーションReについて説明する。図4(A)〜(C)において、横軸は、幅方向TDにおけるTACフイルム3の位置を表し、Paは側縁部3a側の側端部、Pbは側縁部3b側の側端部、そして、Pcは中央部3cを表す。また、縦軸は、(A)では膜厚THを、(B)では複屈折率ΔNを、そして、(C)では面内レターデーションReを表す。なお、複屈折率ΔNは、TACフイルム3の遅相軸方向の屈折率Nxと、TACフイルム3の遅相軸方向と略垂直の方向の屈折率Nyとの差であり、面内レターデーションReは式3で表される。
(式3)Re=TH・(Nx−Ny)
(ただし、THは前記フイルムの膜厚であり、Nxは、前記フイルムの遅相軸方向の屈折率であり、Nyは、前記フイルムの遅相軸方向と略垂直の方向の屈折率である。)
【0023】
また、図4(A)〜(B)のように、延伸処理前のTACフイルム3は、膜厚THが幅方向TDの両側縁部から中央部にかけて次第に小さくなるような、いわゆる船底状の膜厚プロファイルを有し、複屈折率ΔNは、略一定になるように形成されるため、面内レターデーションReは、幅方向TDの両側縁部から中央部にかけて次第に小さくなる、いわゆる船底状のプロファイルを有する(図4(C))。延伸処理前のTACフイルム3の面内レターデーションReは、−20nm以上20nm以下であることが好ましく、厚み方向レターデーションRthは、100nm以上300nm以下であることが好ましい。ここで、厚み方向レターデーションRthは式4で与えられるものとする。ただし、Nthは、厚み方向の屈折率とする。なお、船底状の膜厚プロファイルを有するTACフイルム3を製造する方法は後述する。
(式4)Rth=TH・{(Nx+Ny)/2−Nth}
【0024】
また、TACフイルム3は、長手方向に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、TACフイルム3の幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、2500mmより幅広の場合にも効果がある。さらに、厚みが40μm以上または120μm以下の薄いTACフイルム3を製造する際にも本発明は適用される。
【0025】
更に、TACフイルム3の残留溶媒量は、0.1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。ここで、残留溶媒量とは、TACフイルム3等に残留する溶媒量を乾量基準で示したものであり、その測定方法は、対象のフイルム等からサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0026】
次に、テンタ部5におけるTACフイルム3の延伸処理の詳細について説明する。図2のように、把持開始部25では、クリップ32a、32bが、把持開始部25に案内されたTACフイルム3の両側縁部3a、3bを把持する。走行するクリップ32a、32bの把持により、TACフイルム3は、把持解除部26まで搬送される。把持解除部26では、クリップ32a、32bによるTACフイルム3の把持が解除され、TACフイルム3は第3ゾーン23に案内される。搬送ローラ28は、把持解除部26を経たTACフイルム3を、出口5bを介して、耳切装置12へ案内する。空調機51〜53は、第1ゾーン21から第3ゾーン23の雰囲気を所定の乾燥条件に調節する。第1ゾーン21から第3ゾーン23を通過するTACフイルム3は、各ゾーン21〜23の乾燥条件に応じて、乾燥する。
【0027】
走行するクリップ32a、32bによって保持されたTACフイルム3は、TACフイルム3の幅がL1のまま、第1ゾーン21を通過し、TACフイルム3の幅がL1からL2まで徐々に広がるようにして、第2ゾーン22を通過する。その後、把持解除部26にて、クリップ32a、32bによる両側縁部3a、3bの保持が解除されるため、TACフイルム3は、幅を自然収縮させながら、第3ゾーン23を通過する。
【0028】
第2ゾーン22では、TACフイルム3に対し、幅方向TDに20%以上70%以下の延伸率Lxの延伸処理が施される。延伸率Lxは、25%以上65%以下であることが好ましく、30%以上60%以下あることがより好ましい。延伸率Lxが20%未満の場合には、面内レターデーションReが十分に増加しないため、好ましくなく、一方、延伸率Lxが70%を超える場合には、ヘイズの悪化やTACフイルム3が破断する恐れがあるため好ましくない。
【0029】
この延伸処理では、両側縁部3a、3bを把持して、幅方向TDにTACフイルム3を延伸するため、延伸によるポリマー分子の配向は、両側縁部3a、3bから中央部3cになるに従い起こりやすい。したがって、延伸処理前後において、屈折率Nyは略一定のまま、屈折率Nxの増大量が両側縁部3a、3bから中央部3cにかけて大きくなるため、延伸処理前後における複屈折率ΔNの増大量は、幅方向TDの両側縁部3a、3bから中央部3cにかけて大きくなる(図4(B)及び図5(B)参照)。したがって、延伸処理前後におけるTACフイルム3の面内レターデーションReの増大量は、幅方向TDの両側縁部3a、3bから中央部3cにかけて、大きくなる。
【0030】
本発明では、膜厚プロファイルが船底状のTACフイルム3(図4(A)参照)の両側縁部3a、3bを把持して幅方向TDに延伸するため、膜厚プロファイルに起因する幅方向TDの面内レターデーションReの変化量分布と、延伸によって生じる面内レターデーションReの増大量分布とを相殺することができる(図5(C)参照)。したがって、面内レターデーションReを所望の値に調節しつつ、幅方向TDにおいてレターデーションReが略均一のTACフイルム3を効率よく製造することができる。
【0031】
なお、延伸処理前のTACフイルム3の幅方向TDにおける膜厚プロファイルは、式1及び式2を満たすことが好ましい。THe/THcが1.02未満の場合は、延伸前後により生じる面内レターデーションReの増大量を十分に相殺することができず、一方、THe/THcが1.04を超える場合には、延伸処理後のTACフイルム3の厚み変動が残ってしまうため、好ましくない。
【0032】
なお、延伸処理前のTACフイルム3の幅方向TDにおける膜厚プロファイルの形状は、上記の形状に限定されない。本発明は、膜厚プロファイルに応じて、延伸率Lx、TACフイルム3の温度、延伸速度などの各パラメータを調節して、延伸処理を行なうことにより、上記実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0033】
なお、上記実施形態では、延伸処理前後における、屈折率Nyは略一定としたが、本発明は、これに限られず、延伸処理前後において屈折率Nyが変動する場合も、延伸処理前後におけるΔNの変動量に応じて、延伸条件を決定することにより、延伸前の幅方向TDの面内レターデーションReの変化量分布と、延伸によって生じた面内レターデーションReの増大量分布とを相殺することも可能である。
【0034】
なお、延伸処理前、或いは延伸処理中のTACフイルム3の両側縁部3a、3bの温度を中央部3cの温度よりも高くすることが好ましい。TACフイルム3の両側縁部3a、3bの温度を中央部3cの温度よりも高くする方法として、例えば、図3のように、TACフイルム3の両側縁部3a、3bと対向するダクト56、57と、ダクト56、57に高温乾燥風400、401を供給する乾燥風供給装置61、62と、高温乾燥風400、401の温度や湿度などの条件を独立に調節する制御部65とを第1ゾーン21や第2ゾーン22に設けてもよい。そして、制御部65の制御の下、第1ゾーン21或いは第2ゾーン22の雰囲気温度よりも高い温度の高温乾燥風400、401を両側縁部3a、3bに送ることにより、第1ゾーン21や第2ゾーン22を通過するTACフイルム3の両側縁部3a、3bの温度を中央部3cの温度よりも高くすることができる。
【0035】
ここで、空調機51により、第1ゾーン21におけるTACフイルム3の温度は、130℃以上190℃以下にすることが好ましく、空調機52により、第2ゾーン22におけるTACフイルム3の温度は、130℃以上190℃以下にすることが好ましい。そして、両側縁部3a、3bの温度を中央部3cの温度よりも、1℃以上20℃以下高くすることが好ましく、2℃以上18℃以下高くすることがより好ましい。なお、ダクト56,57は、TACフイルム3の片面側のみならず、TACフイルム3の両面側に設け、TACフイルム3の両面側から高温乾燥風400、401をあててもよい。
【0036】
上記実施形態では、TACフイルム3の両側縁部3a、3bを把持して、幅方向TDにTACフイルム3を延伸したが、本発明はこれに限られず、幅方向TDからθ1の角度の方向にTACフイルム3を延伸してもよい。なお、θ1は、0°より大きく90°未満である。
【0037】
また、両側縁部3a、3bの厚みが異なる場合は、膜厚の厚い側縁部に送る高温乾燥風の温度を、膜厚の薄い側縁部に送られる高温乾燥風の温度よりも低くすればよい。
【0038】
延伸前のTACフイルム3は、図6のように、片面3gが側縁部から中央部にかけて凹状に形成され、他面3fが側縁部から中央部にかけて平らに形成される。なお、両面3f、3gが側縁部から中央部にかけて凹状に形成されるTACフイルムであってもよい。
【0039】
上記実施形態では、膜厚プロファイルが船底状のTACフイルム3に延伸処理を行ったが、本発明はこれに限られず、幅方向TDにおける面内レターデーションReプロファイルが、船底状のTACフイルムに延伸処理を施してもよい。幅方向TDにおける面内レターデーションReプロファイルが船底状のTACフイルムの実施形態としては、幅方向TDにおける膜厚プロファイルが略一定であり、幅方向TDにおけるレターデーション上昇剤の含有濃度C1のプロファイルが、船底状のTACフイルムでもよい。なお、含有濃度C1は、TACフイルム103における、レターデーション上昇剤の重量濃度である。
【0040】
図7のように、幅方向TDにおける膜厚プロファイルが略一定であり、幅方向TDにおけるレターデーション上昇剤の含有濃度C1のプロファイルが船底状のTACフイルム103は、船底状の面内レターデーションReのプロファイルを有する。このTACフイルム103を、両側縁部を把持して、幅方向TDに延伸すると、延伸処理前後における、含有濃度C1は略一定のまま(図7(A)及び図8(A)参照)、そして、屈折率Nyは略一定のまま、屈折率Nxの増大量が両側縁部から中央部にかけて大きくなるため、延伸処理後における複屈折率ΔNの幅方向TDのプロファイルは略一定となる(図7(B)及び図8(B)参照))。したがって、本発明により、延伸処理後におけるTACフイルム103の面内レターデーションReを、両側縁部から中央部にかけて、略一定にすることができる(図7(C)及び図8(C)参照)。
【0041】
なお、延伸処理前のTACフイルム103の幅方向TDにおける含有濃度C1のプロファイルは、次式を満たすことが好ましい。ただし、CeはTACフイルム103の両側縁部における含有濃度C1であり、CcはTACフイルム103の中央部における含有濃度C1である。
1.02≦Ce/Cc≦1.04
Ce−Cc≦0.3(重量%)
【0042】
なお、上記実施形態のほか、TACの平均酢化度の幅方向TDのプロファイルが、両側縁部から中央部にかけて大きくなるTACフイルムを用いてもよい。この場合、中央部に含まれるTACの平均酢化度よりも、0.5%以上低くすることが好ましく、1.0%以上低くすることがより好ましい。
【0043】
図9に、船底状の面内レターデーションReプロファイルを有するTACフイルムを製造する溶液製膜設備200の概略図を示す。溶液製膜設備200は、ストックタンク211と流延室212とピンテンタ213と乾燥室215と冷却室216と巻取室217とオフライン延伸装置2を有する。
【0044】
ストックタンク211は、モータ211aで回転する攪拌翼211bとジャケット211cとを備える。ストックタンク211の内部には、TACフイルム3の原料となるポリマーが溶媒に溶解したドープ221が貯留されている。ストックタンク211内のドープ221は、ジャケット211cにより温度が略一定となるように調整される。また、攪拌翼211bの回転によって、ポリマーなどの凝集を抑制しつつ、ドープ221を均一な品質に保持している。配管222は、ストックタンク211と流延ダイ230とを接続する。
【0045】
流延室212には、流延ダイ230、支持体としての流延ドラム232、剥取ローラ234、温調装置235,236、及び減圧チャンバ237が設置されている。流延ドラム232は図示を省略した駆動装置により軸232aを中心に、方向Z1へ回転する。流延室212内及び流延ドラム232は、温調装置235,236によって、流延膜233が冷却固化(ゲル化)し易い温度に設定されている。
【0046】
流延ダイ230は、幅方向TDに伸びるように形成されるスリットを有する。流延ダイ230は、スリットから回転する流延ドラム232の周面232bに向けて、ドープ221を吐出する。その後、流延ドラム232の周面232b上のドープ221から流延膜233が形成される。そして、流延ドラム232が約3/4回転する間に、ゲル化による自己支持性が流延膜233に発現し、流延膜233は剥取ローラ234によって流延ドラム232から剥ぎ取られ、湿潤フイルム238となる。剥ぎ取り時の流延膜233の残留溶媒量は、150重量%以上320重量%以下であることが好ましい。
【0047】
減圧チャンバ237は、流延ダイ230に対し、方向Z1の上流側に配置されており、減圧チャンバ237内を負圧に保ち、流延ビードの背面(後に、流延ドラム232の周面232bに接する面)側を所望の圧力に減圧する。流延ビードの背面側の減圧により、流延ドラム232の回転により発生する同伴風の影響を少なくし、流延ダイ230と流延ドラム232との間に安定した流延ビードを形成し、膜厚ムラの少ない流延膜233を形成することができる。
【0048】
流延ダイ230の材質は、電解質水溶液、ジクロロメタンやメタノールなどの混合液に対する高い耐腐食性、及び低い熱膨張率を有する素材から形成される。流延ダイ230の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。
【0049】
流延ドラム232の周面232bは、クロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。また、温調装置236は、流延ドラム232の周面232bの温度を所望の温度に保つために、流延ドラム232に伝熱媒体を循環させる。伝熱媒体は所望の温度に保持されており、流延ドラム232内の伝熱媒体流路を通過することにより、流延ドラム232の周面232bの温度が所望の温度に保持される。
【0050】
流延ドラム232の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。流延ドラム232の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム232の周面232bに施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0051】
厚み調整ボルト(ヒートボルト)を流延ダイ230の幅方向TDにおいて所定の間隔で設け、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を備えられていることがより好ましい。このヒートボルトを用いて、両側縁部のスリット幅を、中央部のスリット幅よりも大きくすることにより、上記の船底状の膜厚プロファイルを有するTACフイルムを製造することができる。
【0052】
また、流延ダイ230のスリット端に流出する流延ビードの両端部近傍に、レターデーション上昇剤或いは、ドープに含まれるTACよりも平均酢化度が低いTACを含む液を供給してもよい。この液を流延ビードに供給後、液に含まれるレターデーション上昇剤或いは、平均酢化度が低いTACが、流延膜233、湿潤フイルム238、或いはフイルム220中を拡散する結果、幅方向TDにおける面内レターデーションReのプロファイルが船底状のTACフイルムをつくることができる。
【0053】
また、図10に示す、流延ダイ330を用いて、幅方向TDにおける面内レターデーションReのプロファイルが船底状のTACフイルムをつくることができる。流延ダイ330は、ドープが供給される第1〜第3供給口340a〜340cと、ドープが流延ビード335として流出する流出口341と、第1供給口340aと流出口341とを連通するスロット342を有する。スロット342には、仕切部材345が、スロット342においてドープが流れる方向A1に沿って伸びるように設けられる。仕切部材345は、スロット342を幅方向TDに、中央部スロット342aと両端部スロット342b、342cとに分ける。両端部スロット342b、342cは、第2、第3供給口340b、340cと接続する。仕切部材345の先端部345aは鋭角に形成される。第1供給口340aには、中央部ドープ350aを供給し、第2及び第3供給口340b、340cには、両端部ドープ350b、350cを供給する。各スロット342a〜342cを経た各ドープ350a〜350cは、鋭角に形成された先端部345aを介して合流するため、1つの流延ビード335となって、流出口341から流出する。このときに、両端部ドープ350b、350cとして、中央部ドープ350aよりも、レターデーション上昇剤の含有濃度C1が高いドープを用いることにより、幅方向TDにおける面内レターデーションReのプロファイルが船底状の流延膜を、最終的には、同様の面内レターデーションReのプロファイルを有するTACフイルムをつくることができる。
【0054】
各スロット342a〜342cにおける各ドープ350a〜350cの流量が大きくなるに従い、流延ビード335の膜厚が厚くなることを利用して、図示しない各ポンプにより各ドープ350a〜350cを個別に制御し、両端部スロット342bにおける両端部ドープ350bの流量や両端部スロット342cにおける両端部ドープ350cの流量を、中央部スロット342aにおける中央部ドープ350aの流量よりも大きくした状態で、各ドープ350a〜350cを合流させて、流出口341から吐出することにより、船底状の膜厚プロファイルを有するTACフイルムを製造することができる。また、各スロット342a〜342cにおける各ドープ350a〜350cの流速が大きくなるに従い、流延ビード335の膜厚が厚くなることを利用して、各スロット342a〜342cにおける各ドープ350a〜350cの流速が、幅方向TDの両側端部から中央部に向かうに従い小さくなるように各スロット342a〜342cを形成してもよい。
【0055】
なお、各スロット342b〜342cにおける各ドープ350b〜350cの流量や流速は略等しいことが好ましいが、異なっていてもよい。また、各ドープ350b〜350cのレターデーション上昇剤の含有濃度C1は、ドープ350aのレターデーション上昇剤の含有濃度C1と等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0056】
また、流延室212内には、蒸発している溶媒を凝縮液化するための凝縮器(コンデンサ)239と凝縮液化した溶媒を回収する回収装置240とが備えられている。凝縮器239で凝縮液化した溶媒は、回収装置240により回収される。その溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
【0057】
流延室212の下流には、渡り部241、ピンテンタ213が順に設置されている。渡り部241では、搬送ローラ242が、湿潤フイルム238をピンテンタ213に導入する。ピンテンタ213は、湿潤フイルム238の両側縁部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。ピンプレートにより走行する湿潤フイルム238に対し乾燥風が送られ、湿潤フイルム238は乾燥し、フイルム220となる。
【0058】
ピンテンタ213は、フイルム220の両側縁部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を走行する。クリップにより走行するフイルム220に対し乾燥風が送られ、フイルム220には、フイルム幅方向TDへの延伸処理とともに乾燥処理が施される。
【0059】
ピンテンタ213の下流にはそれぞれ耳切装置243が設けられている。耳切装置243はフイルム220の両側縁部を裁断する。この裁断した両側縁部は、送風によりクラッシャ244に送られて、粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0060】
乾燥室215には、多数のローラ247が設けられており、これらにフイルム220が巻き掛けられて搬送される。乾燥室215の出口側には冷却室216が設けられており、この冷却室216でフイルム220が室温となるまで冷却される。冷却室216の下流には強制除電装置(除電バー)249が設けられており、フイルム220が除電される。さらに、強制除電装置249下流側には、ナーリング付与ローラ250が設けられており、フイルム220の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室217には、プレスローラ252を有する巻取機251が設置されており、フイルム220が巻き芯にロール状に巻き取られ、巻取機251により、フイルムロール255が得られる。
【0061】
フイルムロール255は、巻取室217からオフライン延伸装置2の供給室4(図1参照)に送られ、供給室4からTACフイルム3として、送り出される。
【0062】
上記実施形態では、延伸処理をオフライン延伸装置2にて行ったが、本発明はこれに限られず、溶液製膜設備200のピンテンタ213と乾燥室215との間で、オフライン延伸装置2で行った延伸処理と同様の延伸処理を行ってもよい。
【0063】
なお、本実施形態では、ポリマーフイルムとしてTACフイルム3、103を用いて説明を行ったが、TACフイルム3、103に限定されることなく、本発明は各種ポリマーフイルムに適用可能である。
【0064】
上記実施形態では、支持体として、流延ドラム232を用いたが、本発明はこれに限られず、ローラに掛け渡され、ローラの回転により、エンドレスに走行する流延バンドを用いてもよい。
【0065】
上記実施形態では、冷却により流延膜233に自己支持性を発現させたが、本発明はこれに限られず、乾燥により流延膜233に自己支持性を発現させてもよい。
【0066】
上記実施形態では、1種類のドープから流延膜を形成したが、本発明はこれに限られない。上記の溶液製膜方法において、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させることもできる。さらに両共流延を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフイルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フイルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0067】
上記実施形態ではTACフイルムを用いたが、本発明はこれに限られず、セルロースアシレートフイルムのほか、溶液製膜方法によって製造され、環状オレフィン等、他のポリマーからなるポリマーフイルムを用いることもできる。
【0068】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわちアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBはアシル基の置換度を表わし、置換度Aはアセチル基の置換度、また置換度Bは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
また、本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではない。
【0069】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0070】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0071】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0072】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0073】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0074】
(溶媒)
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0075】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度など及びフイルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0076】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
【0077】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明にも適用できる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
【0078】
上記実施形態では、溶液製膜方法により製造されたポリマーフイルムを用いたが、本発明はこれに限られず、溶融製膜方法によって製造されたポリマーフイルムを用いてもよい。
【0079】
(溶融製膜設備)
次に、溶融製膜方法によりポリマーフイルムを製造する製造設備(以下、溶融製膜設備と称す)について説明する。溶融製膜設備410は、図11に示すように、液晶表示装置等に使用できる熱可塑性フイルムFを製造する装置である。熱可塑性フイルムFの原材料であるペレット状の熱可塑性樹脂を乾燥機412に導入して乾燥させた後、このペレットを押出機414によって押し出し、ギアポンプ416によりフィルタ418に供給する。次いで、フィルタ418により異物がろ過され、ダイ420から溶融樹脂(溶融した熱可塑性樹脂)が押し出される。溶融樹脂は、第1キャスティングロール428とタッチロール424で挟まれて押圧成形された後、第1キャスティングロール428にて冷却固化されて所定の表面粗さのフイルム状とされ、さらに、第2キャスティングロール426、第3キャスティングロール427によって搬送されることで未延伸フイルムFaが得られる。この未延伸フイルムFaは、この段階で巻き取られてもよいし、連続的に長スパン延伸を行う横延伸部442に供給されてもよい。また、一度巻き取られた未延伸フイルムFaを再度横延伸部442に供給しても、連続的に長スパン延伸を行う横延伸部442に供給した場合と同様の効果が得られる。
【0080】
横延伸部442では、未延伸フイルムFaが搬送方向(以下、MD方向と称する)と直交する幅方向(以下、TD方向と称する)に延伸され、横延伸フイルムFbとされる。横延伸部442の上流側に予熱部436を設けてもよいし、横延伸部442の下流側に熱固定部444を設けてもよい。これにより、延伸中のボーイング(光学軸のズレ)を小さくできる。予熱温度は横延伸温度より高いこと、熱固定温度は横延伸温度より低いことが好ましい。すなわち、通常、ボーイングは幅方向中央部が進行方向に向かって凹となるが、予熱温度>横延伸温度、横延伸温度>熱固定温度とすることによりボーイングを低減できる。予熱処理、熱固定処理はどちらか一方でもよく、両方行ってもよい。
【0081】
横延伸の後に後熱処理を行なった後、熱処理ゾーン446でMD方向に横延伸フイルムFbを収縮させる。熱処理ゾーン446では、図12に示すように、横延伸フイルムFbの側端部をチャックで把持しない状態で、TD方向の収縮が起こらずに、MD方向の収縮のみが起こるように複数のロール448a〜448dで横延伸フイルムFbを搬送する。このとき、図13に示すように、複数のロール448a〜448dは、ロールラップ長(D)とロール間長(G)の比(G/D)が0.01以上3以下となるように配置される。これにより横延伸フイルムFbと各ロール448〜448dとの摩擦によりTD方向の収縮が抑制される。そして、横延伸フイルムFbは、上流側のロール448aによる周速度(V1)と下流側のロール448dによる周速度(V2)の比(V2/V1)が0.6以上0.999以下で搬送しながら熱処理される。つまり、横延伸フイルムFbは熱処理ゾーンにてMD方向に収縮する。
【0082】
横延伸フイルムFbが熱処理ゾーンにて熱処理されることで、配向角、レターデーションが調整された最終製品である熱可塑性フイルムFが製造される。このフイルムFは巻取部449によって巻き取られる。
【0083】
TD方向への延伸の前又は後にMD方向の延伸を行ってもよい。MD方向の延伸は、MD方向に並ぶ複数のニップロール対を用いてフイルムを搬送し、上流側のニップロール対の周速度より下流側のニップロール対の周速度を速くすることで達成できる。MD方向におけるニップロール間の距離(L)と上流側のニップロール対でのフイルム幅Wの比(L/W)の大きさで延伸方式が異なり、L/Wが小さいと特開2005−330411号公報、特開2006−348114号公報記載のような縦延伸方法を採用できる。この方式は、Rthが大きくなり易いが装置をコンパクトにすることができる。一方、L/Wが大きい場合は特開2005−301225号公報記載のようなMD方向の延伸を用いることができる。この方式はRthを小さくできるが、装置が長大になり易い。
【0084】
なお、溶融製膜設備410にて、船底状の膜厚プロファイルを有するフィルムを製造する場合にも、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を幅方向TDにおいて所定の間隔でダイ420に設け、このヒートボルトを用いて、両側縁部のスリット幅を、中央部のスリット幅よりも大きくすることにより、上記の船底状の膜厚プロファイルを有するTACフイルムを製造することができる。
【0085】
溶融製膜方法で用いることのできるポリマーは、熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状オレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状オレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状オレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状オレフィンである。
【0086】
(環状オレフィン)
環状オレフィンはノルボルネン系化合物から重合されるものが好ましい。この重合は開環重合、付加重合いずれの方法でも行える。付加重合としては例えば特許3517471号公報記載のものや特許3559360号公報、特許3867178号公報、特許3871721号公報、特許3907908号公報、特許3945598号公報、特表2005−527696号公報、特開2006−28993号公報、国際公開第2006/004376号パンフレットに記載のものが挙げられる。特に好ましいのは特許3517471号公報に記載のものである。
【0087】
開環重合としては国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報、特許3220478号公報、特許3273046号公報、特許3404027号公報、特許3428176号公報、特許3687231号公報、特許3873934号公報、特許3912159号公報記載のものが挙げられる。なかでも好ましいのが国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報記載のものである。
【0088】
これらの環状オレフィンの中でも付加重合のものの方がより好ましい。
【0089】
(ラクトン環含有重合体)
下記(一般式1)で表されるラクトン環構造を有するものを指す。
【0090】
【化1】
【0091】
(一般式1)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0092】
(一般式1)のラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。
【0093】
(一般式1)で表されるラクトン環構造以外に、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記(一般式2)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0094】
【化2】
【0095】
(一般式2)中、R4は水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R5基、又は−C−O−R6基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R5及びR6は水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。
【0096】
例えば、国際公開第2006/025445号パンフレット、特開2007−70607号公報、特開2007−63541号公報、特開2006−171464号公報、特開2005−162835号公報記載のものを用いることができる。
【実施例】
【0097】
(実験1)
次に、実験1について説明する。フイルム製造に使用したポリマー溶液(ドープ)の調製に際しての配合を下記に示す。
【0098】
[ドープの調製]
原料ドープの調製に用いた化合物の処方を下記に示す。
セルローストリアセテート(置換度2.86) 89.3重量%
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.1重量%
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 3.6重量%
の組成比からなる固形分(溶質)を
ジクロロメタン 80重量%
メタノール 13.5重量%
n−ブタノール 6.5重量%
からなる混合溶剤に適宜添加し、攪拌溶解して原料ドープを調製した。なお、原料ドープのTAC濃度は略23重量%になるように調整した。原料ドープを濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した後にストックタンクに入れた。
【0099】
[セルローストリアセテート]
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1重量%以下であり、Ca含有率が57ppm、Mg含有率が41ppm、Fe含有率が0.4ppmであり、遊離酢酸38ppm、さらに硫酸イオンを13ppm含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.91であった。また、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基の水素が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8重量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であった。このTACは、綿から採取したセルロースを原料として合成されたものである。
【0100】
[マット剤液の調製]
下記の処方からマット剤液を調製した。
シリカ(日本アエロジル(株)製アエロジルR972) 0.67重量%
セルローストリアセテート 2.93重量%
トリフェニルフォスフェート 0.23重量%
ビフェニルジフェニルフォスフェート 0.12重量%
ジクロロメタン 88.37重量%
メタノール 7.68重量%
上記処方からマット剤液を調製して、アトライターにて体積平均粒径0.7μmになるように分散を行った後、富士フイルム(株)製アストロポアフィルタにてろ過した。そして、マット剤液用タンクに入れた。
【0101】
[紫外線吸収剤溶液の調製]
下記の処方から紫外線吸収剤溶液を調製した。
2(2´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−tert―ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール 5.83重量%
2(2´−ヒドロキシ3´,5´−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール 11.66重量%
セルローストリアセテート 1.48重量%
トリフェニルフォスフェート 0.12重量%
ビフェニルジフェニルフォスフェート 0.06重量%
ジクロロメタン 74.38重量%
メタノール 6.47重量%
上記処方から紫外線吸収剤溶液を調製し、富士フイルム(株)製のアストロポアフィルタにてろ過した後に紫外線吸収剤液法用タンクに入れた。
【0102】
図9に示すように、溶液製膜設備200を用いてフイルム220を製造した。紫外線吸収剤溶液にマット剤液を混合し、インラインミキサで混合攪拌して混合添加剤を得た。添加剤供給ラインは、混合添加剤を配管内に送液した。インラインミキサは原料ドープと混合添加剤とを混合攪拌して流延ドープを得た。流延ドラム232は、制御部の制御の下、軸232aを中心に回転し、走行方向Z1における周面232bの速度を50m/分以上200m/分以下の範囲内でほぼ一定となるように保持した。流延ドラム232の周面232bの温度を、−10℃以上10℃以下の範囲内でほぼ一定となるように保持した。流延ダイ230は、流延ドープを周面232b上に流延し、周面232bに流延膜233を形成した。冷却により、流延膜233が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ234を用いて、流延ドラム232から流延膜233を湿潤フイルム238として剥ぎ取った。剥取不良を抑制するために流延ドラム232の速度に対する剥取速度(剥取ローラドロー)を、100.1%〜110%の範囲で適切に調整した。湿潤フイルム238は、渡り部241、ピンテンタ213、及び乾燥室215へ順次案内された。渡り部241、ピンテンタ213、及び乾燥室215では、湿潤フイルム238に乾燥空気をあてて、所定の乾燥処理を行った。この乾燥処理によって得られるフイルム220を冷却室216に送った。冷却室216では、フイルム220を30℃以下になるまで冷却した。その後、フイルム220に、除電処理、ナーリング付与処理などを行った後、巻取室217に搬送した。巻取室217では、フイルム220は、プレスローラ252で所望のテンションを付与されながら、巻取機251の巻き芯に巻き取られ、フイルムロール255となった。
フイルムロール255を、オフライン延伸装置2に送った。
【0103】
図1に示すオフライン延伸装置2を用いて、TACフイルム3に延伸処理を施した。厚み調整ボルト(ヒートボルト)による自動厚み調整機構を用いて、厚みプロファイルは船底型のフィルムを製造した。延伸前のTACフイルム3は、幅2000mmであり、厚みTHcは65μmであり、厚み比率THe/THcは1.03であった。延伸率L2/L1は、1.4であり、高温乾燥風400,401により、延伸時のTACフイルム3の両側縁部3a、3bを、中央部3cの温度よりも15℃高い温度に保持した。中央部3cの温度Tcは185℃であった。
【0104】
(実験2)
延伸時のTACフイルム3の両側縁部3a、3bを、中央部3cの温度よりも0.5℃高い温度に保持したこと以外は、実験1と同様にして、延伸処理を行った。
【0105】
(実験3)
厚み比率THe/THcを1.05としたこと、及び延伸時のTACフイルム3の両側縁部3a、3bを、中央部3cの温度よりも0.5℃高い温度に保持したこと以外は、実験1と同様にして、延伸処理を行った。
【0106】
(実験4)
厚み比率THe/THcを1.01としたこと、及び延伸時のTACフイルムの両側縁部を、中央部の温度よりも0.5℃高い温度に保持したこと以外は、実験1と同様にして、延伸処理を行った。
【0107】
1.面内レターデーション(Re)の評価
実験1〜4にて延伸処理を施したTACフイルムを幅方向に切断し、サンプルを切り出した。そして、このサンプル上に、幅方向に沿って9箇所の測定点を設けた。各測定点について、温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(KOBRA21DH 王子計測(株))を用いて、垂直方向における面内レターデーションReを測定した。測定波長は632.8nmであった。そして、面内レターデーションReについての評価を以下基準で行った。
○:ReXが80%以上であること。
×:ReXが80%未満であること。
ここで、ReXとは、面内レターデーションReの測定値が次式を満たす領域の幅W1を、TACフイルムの幅W0で除したものである。なお、Reavは、測定値Reの平均値である。
|Re−Reav|/Reav≦0.07
【0108】
2.厚み変動評価
実験1〜4での延伸処理を施したTACフイルムのうち、面内レターデーションReの測定値が前記式を満たす領域について、次の方法で測定して、厚み変動評価を行った。測定方法は、延伸後のTACフイルムを25℃,60RH%下でアンリツ電気社製、電子マイクロメーターを用いて、5箇所を測定し、測定値TH1の平均値THavを算出した。そして、TACフイルムの厚み変動の評価を、以下基準で行った。
○:|TH1−THav|≦2μm
×:|TH1−THav|>2μm
【0109】
実験1〜4についての各条件、測定値及び評価結果を表1に示す。なお、表1における符号は、次の内容を表す。THe/THcは、延伸処理前のTACフイルムの両側縁部の膜厚THeと、中央部の膜厚THcとの厚み比率である。ΔTは、延伸処理時のTACフイルムの両側縁部の温度Teと、中央部の温度Tcとの温度差(Te−Tc)であり、単位は℃である。延伸率Lxは、L2/L1で表される値である。また、表1中の評価結果の番号は、前述した評価内容に付した番号を示す。
【0110】
【表1】
【0111】
実験1〜4の結果より、THe/THcが一定値以上のTACフイルムに延伸処理をすることにより、幅方向における面内レターデーションReが均一のフイルムを製造することができる。そして、両側縁部の温度を中央部の温度よりも高い状態で延伸処理を行うと、幅方向における面内レターデーションReがより均一になることがわかった。
【0112】
(実験11〜実験12)
溶液製膜方法を用いて、特開2001−188128の実施例1に記載のフイルムNo.1(セルロースアセテートプロピオネート(表1では、「CAP」と表記する):厚みTHcが120μm)得たこと、及び各条件を表1に示す値としたこと以外は、実験1と同様にして、実験11〜12を行った。
【0113】
(実験21〜実験22)
国際公開第2006/025445号パンフレット記載の実施例1に従って、溶融製膜方法を行い、ラクトン環含有重合体樹脂(表1では、「ラクトン」と表記する)からなるポリマーフイルム(厚みTHcが100μm)を得たこと、延伸時の中央部3cの温度Tcは170℃であったこと、及び各条件を表1に示す値としたこと以外は、実験1と同様にして、実験21〜22を行った。
【0114】
(実験31〜実験32)
溶融製膜方法を用いて、シクロオレフィン樹脂A(表1では、「シクロオレフィン」と表記する)からポリマーフイルム(厚みTHcが100μm)を得たこと、延伸時の中央部3cの温度Tcは190℃であったこと、及び各条件を表1に示す値としたこと以外は、実験1と同様にして、実験31〜32を行った。
シクロオレフィン樹脂A(付加重合系):ポリプラスチックス(株)製TOPAS6013(Tg=130℃)
【0115】
実験31〜実験32における溶融製膜方法の詳細は次の通りである。シクロオレフィン樹脂Aを110℃の真空乾燥機で乾燥し含水率を0.1%以下とした後、1軸混練押出し機を用い260℃で溶融しギアポンプから送り出した後、濾過精度5μmのリーフディスクフィルタにて濾過し、スタティックミキサーを経由してスリット間隔0.8mm、270℃のハンガーコートダイから、(Tg−5)℃、Tg℃、(Tg−10)℃に設定した3連のキャストロール上にメルト(溶融樹脂)を押出した。この時、最上流側のキャストロールに面圧0.1MPaでタッチロールを接触させ、厚みTHcが100μmの未延伸フイルムを製膜した。タッチロールは特開平11−235747号公報の実施例1に記載のもの(二重抑えロールと記載のあるもの)を用い、Tg−5℃に調温した(但し薄肉金属外筒厚みは2mmとした)。
【0116】
この後、巻き取り直前に両端(全幅の各3%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ20μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた。各水準とも、幅は1.5mで30m/分で3000m巻き取った。
【0117】
実験11〜32についての各条件、測定値及び評価結果を表1に示す。
【0118】
以上の各実験より、本発明によれば、各種のポリマーフイルムにおいて、幅方向における面内レターデーションReを均一にすることができたことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】オフライン延伸装置の概要を示す説明図である。
【図2】テンタ部の概要を示す平面図である。
【図3】クリップの概要を示す側面図である。
【図4】(A)〜(C)は、延伸処理前のTACフイルムの幅方向における、各物性の変化量分布の概要を示す説明図である。横軸は、TACフイルムの一の側端部から他の側端部までの間の位置を示し、縦軸は当該位置における各物性を示す。縦軸に示される物性は、(A)では膜厚THであり、(B)では複屈折率ΔNであり、(C)では面内レターデーションReである。
【図5】(A)は、延伸処理後のTACフイルムの幅方向における、膜厚THの変化量分布の概要を示す説明図であり、(B)は複屈折率ΔNの変化量分布を、(C)は、面内レターデーションReの変化量分布の概要を示す説明図である。
【図6】本発明のTACフイルムの概要を示す断面図である。
【図7】(A)は、延伸処理前のTACフイルムの幅方向における、レターデーション添加剤の含有濃度C1の変化量分布の概要を示す説明図であり、(B)は複屈折率ΔNの変化量分布を、(C)は、面内レターデーションReの変化量分布を示す説明図である。
【図8】(A)は、延伸処理後のTACフイルムの幅方向における、レターデーション添加剤の含有濃度C1の変化量分布の概要を示す説明図であり、(B)は複屈折率ΔNの変化量分布を、(C)は、面内レターデーションReの変化量分布を示す説明図である。
【図9】溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図10】流延ダイの概要を示す断面図である。
【図11】溶融製膜設備の概要を示す説明図である。
【図12】熱処理ゾーンにおける複数のロールの配置状態を示す斜視図である。
【図13】熱処理ゾーンにおける複数のロールのロールラップ長(D)及びロール間長(G)を示す説明図である。
【符号の説明】
【0120】
2 オフライン延伸装置
3,103 TACフイルム
3a,3b 両側縁部
3c 中央部
32a,32b クリップ
5 テンタ部
56,57 ダクト
200 溶液製膜設備
400,401 高温乾燥風
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フイルムの幅方向における両側縁部を把持して、前記フイルムを前記幅方向に延伸するフイルムの延伸方法において、
前記フイルムの前記幅方向における膜厚が前記両側縁部から中央部に向かうに従い次第に薄くなる膜厚プロファイルを有する前記フイルムを前記幅方向に延伸し、
前記延伸時の前記両側縁部の伸びにくさに起因して前記フイルムに生じ、前記両側縁部から前記中央部に向かうに従い次第に大きくなる前記延伸前後の面内レターデーションReの増大量分布を、前記厚みプロファイルに起因し、前記両側縁部から前記中央部に向かうに従い次第に小さくなる前記面内レターデーションReの変化量分布で相殺することを特徴とするフイルムの延伸方法。
【請求項2】
前記延伸前の前記フイルムの膜厚が、式1及び式2を満たすことを特徴とする請求項1記載のフイルムの延伸方法。
(式1)1.02≦THe/THc≦1.04
(式2)THe−THc≦3μm
(ただし、THeは前記フイルムの前記両側縁部の膜厚であり、THcは前記フイルムの前記中央部の膜厚である。)
【請求項3】
前記延伸前の前記フイルムをローラに巻き取った後、
前記ローラから送り出され、残留溶媒量が0.1重量%以上10重量%以下の前記フイルムに前記延伸を行うことを特徴とする請求項1または2記載のフイルムの延伸方法。
【請求項4】
前記延伸時における前記フイルムの前記両側縁部の温度を、前記フイルムの前記中央部の温度よりも1℃以上20℃以下高くすることを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載のフイルムの延伸方法。
【請求項5】
前記フイルムが、単一の層からなることを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項記載のフイルムの延伸方法。
【請求項6】
ポリマーと溶媒とを含むドープを、エンドレスに走行する支持体上に流延し、
前記支持体上の前記ドープから流延膜を形成し、
冷却によりゲル化した前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取り、
前記支持体から剥ぎ取られた前記流延膜を前記フイルムとし、
請求項1ないし5のうちいずれか1項の前記フイルムの延伸方法を前記フイルムに行うことを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項1】
フイルムの幅方向における両側縁部を把持して、前記フイルムを前記幅方向に延伸するフイルムの延伸方法において、
前記フイルムの前記幅方向における膜厚が前記両側縁部から中央部に向かうに従い次第に薄くなる膜厚プロファイルを有する前記フイルムを前記幅方向に延伸し、
前記延伸時の前記両側縁部の伸びにくさに起因して前記フイルムに生じ、前記両側縁部から前記中央部に向かうに従い次第に大きくなる前記延伸前後の面内レターデーションReの増大量分布を、前記厚みプロファイルに起因し、前記両側縁部から前記中央部に向かうに従い次第に小さくなる前記面内レターデーションReの変化量分布で相殺することを特徴とするフイルムの延伸方法。
【請求項2】
前記延伸前の前記フイルムの膜厚が、式1及び式2を満たすことを特徴とする請求項1記載のフイルムの延伸方法。
(式1)1.02≦THe/THc≦1.04
(式2)THe−THc≦3μm
(ただし、THeは前記フイルムの前記両側縁部の膜厚であり、THcは前記フイルムの前記中央部の膜厚である。)
【請求項3】
前記延伸前の前記フイルムをローラに巻き取った後、
前記ローラから送り出され、残留溶媒量が0.1重量%以上10重量%以下の前記フイルムに前記延伸を行うことを特徴とする請求項1または2記載のフイルムの延伸方法。
【請求項4】
前記延伸時における前記フイルムの前記両側縁部の温度を、前記フイルムの前記中央部の温度よりも1℃以上20℃以下高くすることを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載のフイルムの延伸方法。
【請求項5】
前記フイルムが、単一の層からなることを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項記載のフイルムの延伸方法。
【請求項6】
ポリマーと溶媒とを含むドープを、エンドレスに走行する支持体上に流延し、
前記支持体上の前記ドープから流延膜を形成し、
冷却によりゲル化した前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取り、
前記支持体から剥ぎ取られた前記流延膜を前記フイルムとし、
請求項1ないし5のうちいずれか1項の前記フイルムの延伸方法を前記フイルムに行うことを特徴とする溶液製膜方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−96183(P2009−96183A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242027(P2008−242027)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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