説明

フェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体と白金−異種金属複合ナノ微粒子並びに燃料電池用触媒

【課題】従来のバルク白金触媒に代わるスケールの燃料電池用触媒として利用可能な、新規な白金−異種金属複合ナノ微粒子およびそれを用いた燃料電池用触媒と、その前駆体である新規なフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体の提供。
【解決手段】次式(I)


(式中のR1、R2は有機分子基等を示す。Mは白金および異種金属で、それら両方が存在している。mはデンドリマーの世代数を表し、nはR1に対するデンドロン部位の結合数を示す。)で表される金属錯体を調整後、還元して白金−異種金属複合ナノ微粒子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体と白金−異種金属複合ナノ微粒子並びに燃料電池用触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年において新たなエネルギー源として期待されている燃料電池の触媒として、白金が使用されている。具体的には、燃料電池の電極表面で、空気極における酸素還元反応、あるいは燃料極における水素、メタノールなどの酸化反応のための触媒として、導電性カーボンに担持した白金微粒子(白金ナノ粒子)が用いられている。
【0003】
従来、白金ナノ粒子は、単純な濃度制御や担体の添加などの条件下で、還元法により白金錯体などの金属塩から合成している。従来、燃料電池用の白金触媒としては粒径が2〜5nm、白金原子数に換算すると1000原子以上のものが知られている。
【0004】
しかし、白金の希少さによる高コストなどの問題を解決するためにも、燃料電池用触媒としての白金の使用量を低減する技術の開発が望まれている。近年のナノテクノロジーの進歩に伴い、ナノ粒子の触媒活性が粒子のサイズ(構成金属原子の数)に強く依存する現象や、微粒子化に伴う量子サイズ効果の発現などが報告されているが、白金触媒の高活性化により白金使用量の低減を図る手段としては、更なる微粒子化などが考えられる。
【0005】
ところが、白金イオンのバルク還元などによる手法では、生成した白金微粒子の凝集などのため、微小かつ均一な白金微粒子、たとえば粒径2nm未満の白金微粒子の合成は困難であった。
【0006】
一方、ナノ微粒子の製造方法として、デンドリマーを鋳型として用いる方法が知られている。不対電子対を有する窒素などを骨格に持つデンドリマーは、ルイス酸との錯形成が可能となり内側にさまざまな分子を取り込むことができる。さらに、デンドリマーの構造は中心部が疎、外側が密であるといった特徴を有していることから金属や有機分子などを内包することができる。
【0007】
近年本発明者らにより開発され、その検討が続けられているフェニルアゾメチンデンドリマーは、骨格に高い配位性を示すイミン部位を多数有していることからルイス酸と錯形成が可能である。フェニルアゾメチンデンドリマーは、イミンからの電子供与が末端から中心に向けて増加することで、末端のイミンから中心に向かってイミンの電子密度が増加するという電子勾配を有している。
【0008】
このような電子勾配は自然の光合成を模した機構であり、フェニルアゾメチンデンドリマー独自のユニークな特徴である。この電子勾配に起因して、ルイス酸と錯形成させた場合にはデンドリマーの内側から順に錯形成させることが可能となり、デンドリマーの各層に順に金属錯体を錯形成させることで、金属錯体の数と位置を正確に制御することが可能となる。そのため、デンドリマー金属錯体を還元することで、粒径の分布が極めて小さい精密に制御されたナノクラスターの形成が可能となる(たとえば特許文献1〜3参照)。
【0009】
さらに、フェニルアゾメチンデンドリマーは、π共役による剛直な構造であるため、薄膜とした際に、構造が変形することなく緻密に並んだ状態が観測されている。従来のデンドリマーでは、構造が溶媒などの周辺環境により変化し、内包された微粒子がデンドリマーの外へ排出され易い。しかし、フェニルアゾメチンデンドリマーでは、剛直な骨格に内包されることでデンドリマーのシェル効果が向上する。これにより、内包された微粒子同士の凝集を抑制し、微粒子の触媒活性の安定性、耐久性を期待することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開WO2004/076531号パンフレット
【特許文献2】特開2006−240984号公報
【特許文献3】特開2006−76965号公報
【特許文献4】特開2003−221442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らによる検討の過程から以上のような知見が得られており、フェニルアゾメチンデンドリマーと金属との錯体については大きな可能性が見込まれ、燃料電池用触媒への応用も期待される。しかし、その詳細についての検証は依然として多くの未踏の課題として残されており、たとえば、フェニルアゾメチンデンドリマーに2種以上の金属錯体を配位させた場合の詳細な知見は得られていないのが現状である。
【0012】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来のバルク白金触媒に代わるスケールの燃料電池用触媒として利用可能な、新規な白金−異種金属複合ナノ微粒子およびそれを用いた燃料電池用触媒と、その前駆体である新規なフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0014】
第1:次式(I)
【0015】
【化2】

【0016】
(式中のR1は有機分子基を示し、R2は1以上の置換基を有していてもよいフェニル基を示す。Mはそれぞれ独立に白金化合物または白金とは異種の遷移金属による異種金属化合物を示し、全体として白金化合物および異種金属化合物の両方を含有している。mはデンドリマーの世代数を表す1以上の整数を示し、nは有機分子基R1に対するデンドロン部位の結合数を示す。)で表されることを特徴とするフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体。
【0017】
第2:デンドリマーの第1世代から第m世代未満までのイミン部位に異種金属化合物が配位しており、その外側のイミン部位に白金化合物が配位していることを特徴とする上記第1のフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体。
【0018】
第3:上記第1または第2のフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体が還元されたものであることを特徴とする白金−異種金属複合ナノ微粒子。
【0019】
第4:上記第3の白金−異種金属複合ナノ微粒子からなることを特徴とする燃料電池用触媒。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来のバルク白金触媒に代わるスケールの燃料電池用触媒として利用可能な、新規な白金−異種金属複合ナノ微粒子およびそれを用いた燃料電池用触媒と、その前駆体である新規なフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1において得られたPt24Sn4@dendrimerのTEM像である。
【図2】Pt24Sn4@dendrimer担持グラッシーカーボン電極を作用極として測定した酸素飽和状態におけるサイクリックボルタモグラムである。各曲線は、異なる白金担持量で測定したボルタモグラムに対応する。
【図3】グラッシーカーボン電極に担持する白金の重量と、得られるサイクリックボルタモグラムのピーク電流値との関係を示すグラフである。各プロットは、本発明の方法で作成した異なる組成の金属複合ナノ粒子(PtnSn28-n@dendrimer)および、市販の燃料電池触媒として入手可能なカーボン担持白金ナノ粒子(粒径分散2-5 nm)に対応する。
【図4】金属複合ナノ微粒子(PtnSn28-n@dendrimer)担持グラッシーカーボン電極を作用極として測定したエタノール存在下(1.5M)におけるリニアスイープボルタモグラムである。
【図5】各触媒の触媒担持量(白金重量)と、0.0 V vs. Ag/AgClにおける速度論的限界電流値の関係を示すグラフである。
【図6】各触媒の触媒担持量(白金重量)と、0.35 V vs. Ag/AgClにおける速度論的限界電流値の関係を示すグラフである。
【図7】ヘテロバイメタリッククラスター溶液(Pt16Sn12)とホモクラスター混合溶液(16/28Pt28+12/28Sn28)との触媒活性比較実験の結果を示し、(A)は合成スキーム、(B)は回転ディスクボルタモグラム(300rpm)、(C)は0.0 Vにおける速度論的限界電流値の白金質量依存性、(D)は0.35 Vにおける速度論的限界電流値の白金質量依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
式(I)で表されるフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体において、符号R1は、1価または多価の有機分子基であり、置換基を有していてもよい炭化水素基あるいは複素環基などの各種のものが対象とされる。その具体例としては、単環または多環の芳香族基、ポルフィリン基、フタロシアニン基、サイクロン基またはこれらの誘導基などを挙げることができ、下記のものが例示される。
【0024】
【化3】

【0025】
(上記において、Mは2つの水素原子または任意の金属原子を示し、Dはデンドロン結合部位を示す。)
式(I)の符号R2は、置換基を1つ以上有していてもよいフェニル基であり、全てが同一のものであっても互いに異なっていてもよい。置換基を有するフェニル基R2の具体例としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、アミノ基、シアノ基またはジメチルアミノ基などの置換基がo位、m位、p位のいずれか1ヶ所または2ヶ所以上に置換した置換フェニル基が挙げられる。
【0026】
式(I)の符号mはデンドリマーの世代数を表し、1以上の整数であり、たとえば1〜4の範囲の整数である。
【0027】
式(I)の符号nは有機分子基R1に対するデンドロン部位の結合数を示すものである。なお、有機分子基R1に複数のデンドロンが結合する場合、各デンドロンの世代は同一であっても異なっていてもよい。また、本発明において使用されるフェニルアゾメチンデンドリマーは、部分的に分岐ユニットの欠陥をもつハイパーブランチ型高分子であってもよい。
【0028】
本発明において使用されるフェニルアゾメチンデンドリマーは、たとえば、デンドリマーの中心から外に向かって合成するDivergent法や、デンドリマー末端から中心に向かって合成するConvergent法、あるいはこれらを組み合わせた方法などにより合成することができる。
【0029】
式(I)の符号Mは、それぞれ独立に、1価もしくは多価の白金化合物または、白金とは異種の遷移金属による1価もしくは多価の異種金属化合物を示し、全体として白金化合物および異種金属化合物の両方を含有している。
【0030】
白金化合物は、イミン部位に対して錯形成することができるものであれば特に制限はないが、その具体例としては塩化白金(IV)などの白金塩または白金錯体が挙げられる。
【0031】
異種金属化合物の具体例としては、SnCl2等の錫化合物、VCl3等のバナジウム化合物、FeCl3等の鉄化合物、CuCl2等の銅化合物、GaCl3等のガリウム化合物、CoCl3等のコバルト化合物、RhCl3等のロジウム化合物、RuCl3等のルテニウム化合物、Ti(acac)Cl3等のチタン化合物などの異種金属塩または異種金属錯体が挙げられる。
【0032】
デンドリマーにおける一部のイミン部位に白金化合物が配位し、他のイミン部位に異種金属化合物が配位した本発明のデンドリマー錯体は、たとえば、最初にイミン部位を有するフェニルアゾメチンデンドリマーに他の金属化合物を滴下することで錯形成させ、次いで白金化合物を滴下することで錯形成させることにより得ることができる。
【0033】
この際、滴下した化合物は、内側から外側へと段階的に規則正しく錯形成により集積されていく。上記のように異種金属化合物を滴下させ次いで白金化合物を滴下させた場合には、最初に滴下した異種金属化合物はデンドリマーの第1世代のイミン部位から外側に世代順に配位し、次いで滴下した白金化合物は、異種金属化合物が配位したイミン部位からさらに外側に世代順に配位する。
【0034】
白金化合物と異種金属化合物は、滴下量などにより当量を制御することで、意図した数をデンドリマーの内部に集積させることができ、一分子内に白金と異種金属の両方を精密に制御して錯形成させることができる。これは、フェニルアゾメチンデンドリマーが分子構造内に電子密度勾配を有しているためと考えられる。
【0035】
本発明の白金−異種金属複合ナノ微粒子は、上述したデンドリマー錯体を還元することで製造することができる。デンドリマー錯体の還元は、一般に白金塩に対して還元作用を有し、これを0価の状態まで還元することができる試薬を用いて行うことができる。このような試薬の具体例としては、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化シアノホウ素ナトリウム(NaBH3CN)、水素(H2)、ヒドラジン類、水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ホウ素リチウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、ボラン錯体類、トリエチルシラン、水素化ビスアルミニウムナトリウム、水素化ホウ素ニッケル、水素化トリアセトキシホウ素ナトリウム、水素化ホウ素亜鉛、水素化トリブチルホウ素リチウム、水素化トリブチルホウ素カリウム、Schwartz試薬、Stryker試薬、水素化トリブチルスズ、水素化ナトリウム、水素化リチウム、水素化カルシウム、ナトリウムベンゾフェノンケチル、過酸化水素などが挙げられる。
【0036】
水素化ホウ素ナトリウムを用いた場合、その使用量は、たとえば1.5〜5.5当量の範囲である。
【0037】
このようにしてデンドリマー錯体を還元することで、下記の概念図に例示するように、配位させた金属錯体の数に相当する大きさのナノ微粒子を、デンドリマーに内包されたものとして調製することができる。
【0038】
【化4】

【0039】
たとえば、ベンゼンをコアとするDPA G4デンドリマーは、内層のイミン部位から2、6、14、30個の白金化合物もしくは異種金属化合物を集積可能であり、テトラフェニルメタン(TPM)をコアとするTPM-DPA G4デンドリマーは、内層のイミン部位から4、12、28、60個の白金化合物もしくは異種金属化合物を集積可能であり、これを化学的に還元することで個数を精密に制御した微粒子の合成が可能である。このように、コアの有機分子基Rおよびデンドロン(分岐鎖)の世代を適宜のものとすることで、たとえば構成原子数2〜124個の白金−異種金属複合ナノ微粒子を合成することができる。
【0040】
本発明の白金−異種金属複合ナノ微粒子を燃料電池用触媒として使用する場合、白金−異種金属複合ナノ微粒子の組成は、好ましくはPty‐xMx(X=2〜59、Y=3〜60、Y>X)である。本発明の燃料電池用触媒は、燃料電池の電極表面や活性炭素表面などに担持して利用することができる。
【0041】
本発明の燃料電池用触媒に使用される白金−異種金属複合ナノ微粒子は、分子量分布を有しておらず、精密に金属の個数と比率が制御された原子集合体(クラスター)である。そして粒径は従来の製法では不可能であった1nm以下と大幅に小さくすることもでき、白金量当たりの比表面積を大幅に増大させることができる。しかも、デンドリマーのある程度閉鎖された空間内に白金含有微粒子が包接されることで、ナノ粒子同士の凝集が抑制され、かつ、完全に白金含有微粒子を被覆しているのではないため触媒活性の低下を最小限に抑えることができ、高活性触媒として使用できる。したがって、本発明の白金−異種金属複合ナノ微粒子は、燃料電池の酸素還元触媒や、その他メタノール酸化、水素酸化、および炭化水素燃料の酸化の触媒に使用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>
3.3μMのTPM-DPA G4 dendrimer(クロロホルム:アセトニトリル=1:1)溶液2mlに、塩化錫(II)アセトニトリル溶液を、dendrimer:Sn=1:4の比率となるように加え、さらに塩化白金(IV)アセトニトリル溶液をdendrimer:Pt=1:24の比率となるように加えて十分に錯形成させた。
【0043】
このようにして得られた((PtCl4)24(SnCl2)4@dendrimer含有溶液に、還元剤として20mg/Lの水素化ホウ素ナトリウム−メタノール溶液を10ml加えて、約50分間攪拌した。
【0044】
紫外可視吸収スペクトルの変化の収束により、反応の終了を確認した。得られたPt24Sn4@dendrimerのTEM像を図1に示す。同図のTEM像にも示されるように、クラスターの粒度分布が全くないことが確認された。
<実施例2>
実施例1において合成したPt24Sn4@dendrimer、および同様の方法で合成した異なる組成の金属複合ナノ粒子(PtnSn28-n@dendrimer)について、燃料電池用触媒としての活性を評価した。撹拌終了後のナノ微粒子を分散させた溶液を、炭素基板(グラッシーカーボン)上に少量(1μL〜5μL)滴下し、溶媒を揮発させることによって微粒子修飾電極を作成した。
【0045】
この得られた電極の電解酸素還元反応に対する触媒活性をサイクリックボルタンメトリー法によって解析した。図2は、Pt24Sn4@dendrimer担持グラッシーカーボン電極を作用極として測定した酸素飽和状態におけるサイクリックボルタモグラムである。各曲線は、異なる白金担持量で測定したボルタモグラムに対応する。図3は、グラッシーカーボン電極に担持する白金の重量と、得られるサイクリックボルタモグラムのピーク電流値との関係を示すグラフである。各プロットは、本発明の方法で作成した異なる組成の金属複合ナノ粒子(PtnSn28-n@dendrimer)および、市販の燃料電池触媒として入手可能なカーボン担持白金ナノ粒子(粒径分散2-5 nm)に対応する。
【0046】
図2より、酸素を飽和させた電解質溶液(1 mol/L 硫酸)に浸した修飾電極にて、0.4 V vs. Ag/AgCl付近より不可逆な還元波が観測され、本電極が酸素に対して触媒活性を有していることが確認された。なお試験条件は次のとおりである。
対極:白金
参照極:Ag/AgCl 3M NaCl
作用極:GCE(Φ=6mm)にPt24Sn4@dendrimerを担持
電解質:1 N H2SO4 (O2飽和)
スキャンレート:5 mV/s
同様の手法によって得た白金単独からなる微粒子(Pt28@dendrimer)で観測される酸素還元の開始電位は0.40 Vであるが、これと比較してPt24Sn4@dendrimerでは開始電位が0.41 Vに向上し、Pt16Sn12@dendrimerでは0.44 Vとさらに向上した。この開始電位の向上は、酸素還元反応に必要な過電圧の低下に対応しており、燃料電池触媒として用いた場合には起電力の向上に寄与する。
【0047】
一方、CVのピーク電流値を各微粒子間で比較したところ、同量の白金使用量においてはPt24Sn4@dendrimerが白金単独であるPt28@dendrimerより高い値を示すことが確認された(図3)。このことは、燃料電池において取り出せる電流値の大きさが大きいことを示している。
<実施例3>
上記において得られた金属複合ナノ微粒子について、メタノールの酸化反応に対する触媒活性を評価した(図4)。図4の試験条件は次のとおりである。
対極:白金
参照極:Ag/AgCl 3M NaCl
作用極:GCE(Φ=6mm) にPt24Sn4@dendrimer等を担持
電解質:1 N H2SO4 + 1.5 M ethanol
スキャンレート:5 mV/s
図4より、上記において得られた金属複合ナノ微粒子は、メタノールの酸化反応に対しても高い触媒活性を示した。即ち、実施例2の結果と併せて、本発明の金属複合ナノ微粒子は、燃料電池において、酸素還元反応が生起する空気極、酸化反応が生起する燃料極のいずれにおいても高い触媒活性を発揮することが示された。
<実施例4>
Pt16M12(Mはバナジウム、鉄、銅、ガリウム、スズいずれかの金属元素を示す。)の組成を有する白金-異種金属複合ナノ微粒子を調製した。
【0048】
金属塩(三塩化バナジウム、三塩化鉄、二塩化銅、三塩化ガリウム、二塩化スズ)をアセトニトリル溶媒に溶解し、3mmolL-1の濃度となるように溶液を調製した。同様に、四塩化白金のアセトニトリル溶液を3mmolL-1の濃度となるように調製した。
【0049】
実施例1と同様のデンドリマーをアセトニトリル/クロロホルムの混合溶媒(体積比1:1)に溶解し、3μmol-1の濃度となるように溶液を調製した。
【0050】
上記のデンドリマー溶液1mLに、上記で調製した金属塩(M)の溶液をモル濃度比でデンドリマー:M = 1:12となるように加えた。5分間室温で撹拌を行い、デンドリマーの金属錯体を得た。
【0051】
この金属錯体溶液にさらに、上記において調製した四塩化白金の溶液をデンドリマー:M:Pt = 1:12:16のモル濃度比となるように加え、60分間撹拌を行った。
【0052】
還元剤である水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)のメタノール溶液(20mgmL-1の濃度で調製)を10μL分の間、上記の溶液に加えて金属塩の還元を行い、合金クラスターの分散溶液を得た。
<実施例5>
実施例4において得られた白金-異種金属複合ナノ微粒子の評価を行った。市販の電気化学測定用グラッシーカーボン電極(φ=6mm)に、各異種金属(M)を含む複合ナノ微粒子の分散溶液を均等に載せ、乾燥させた。この際の分散溶液積載量は、均一分散した複合ナノ微粒子の質量のうち、白金相当量がそれぞれ17.1, 25.7, 34.3ngとなるように設定した。
【0053】
以下の条件において、回転ディスクボルタンメトリー(RDV)法によって測定を行った。
作用極:白金触媒を担持したグラッシーカーボンディスク電極(φ=6mm)
参照電極:Ag/AgCl (3molL-1NaCl)
対極:Ptコイル
電解質溶液:0.5molL-1硫酸水溶液 (O2ガスパージによる酸素飽和)
電極回転数ω=120, 180, 300rpm
それぞれの異種金属種(M)、白金積載量、電極回転数におけるボルタモグラムより、参照電極(Ag/AgCl)基準で0.0V, 0.35Vのそれぞれにおける電流値を読み取り、図5(0.0V)、図6(0.35V)にそれぞれ得られたデータをもとに以下の手順で速度論的限界電流値(jK)を算出し、プロットした。
【0054】
Koutecky-Levich式にて、観測された電流密度jobsより、基質である酸素の拡散過程を取り除いた界面反応速度成分jKを算出した。この際、Fはファラデー定数(9.65×104Cmol-1)、C0は電解質溶液への大気圧下における酸素分子飽和濃度(1.1×10-6molL-1)、D0は酸素分子の拡散係数(1.9×10-5cm2s-1)、ωは電極の回転数(単位rpm)、νは水溶液の動粘度(1.0×10-2cm2s-1)である。
【0055】
【化5】

【0056】
図5より、同一サイズの白金単一触媒(Pt28)と比較して、速度論的限界電流値が合金化に伴って維持もしくは向上することが示された。また、図6では、触媒の開始電位が大幅に向上することが明らかとなった。これは酸素還元反応に必要な過電圧の低下に対応しており、燃料電池触媒として用いた場合には起電力の向上に寄与する。
<実施例6>
バイメタリッククラスター(Pt16Sn12)と、ホモクラスター(Pt28)の触媒活性の比較検証実験を行った。実施例4と同様に、二塩化スズおよび四塩化白金のアセトニトリル溶液を3mmolL-1の濃度となるように調製した。
【0057】
実施例4と同様のデンドリマーをアセトニトリル/クロロホルムの混合溶媒(体積比1:1)に溶解し、3μmol-1の濃度となるように溶液を調製した。
【0058】
このデンドリマー溶液1mLに、上記において調製した四塩化白金の溶液をモル濃度比でデンドリマー:Pt=1:28となるように加えた(溶液A)。同様に、二塩化スズについてもモル濃度比でデンドリマー:Sn=1:28となるように加えた(溶液B)。それぞれの溶液について、5分間室温で撹拌を行い、デンドリマーの金属錯体を得た。
【0059】
溶液Aと溶液Bを、それぞれ16:12の比率で混合した溶液Cを調製した。溶液Cに還元剤である水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)のメタノール溶液(20mgmL-1の濃度で調製)を10μL加え、金属塩の還元を行い、合金クラスターの分散溶液を得た。これをPt16Sn12とした。
【0060】
溶液A、溶液Bのそれぞれについて、還元剤である水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)のメタノール溶液を別個に加え、ホモクラスター(Pt28, Sn28)を合成した。そしてそれぞれのホモクラスター分散溶液を16:12の比率で混合しホモクラスター混合物16/28Pt28+12/28Sn28を得た。
【0061】
ヘテロバイメタリッククラスター溶液(Pt16Sn12)とホモクラスター混合溶液(16/28Pt28+12/28Sn28)に含まれるそれぞれの元素の質量は全く同一であると見なせる。これらのそれぞれについて、実施例5と同様に触媒活性評価を行った。その結果を図7に示す。
【0062】
図7より、Pt16Sn12ではクラスター混合物に比べて、酸素還元が開始する電位がより高電位側に観測される。このことは酸素還元に必要な過電圧が低下していることを意味しており、0.35Vにおける触媒活性の差として明確に現れている。一方で、バイメタリッククラスターになることで、十分な過電圧(0.0V)を印加した場合の電流値は殆ど失われず、十分な触媒活性を保った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I)
【化1】

(式中のR1は有機分子基を示し、R2は1以上の置換基を有していてもよいフェニル基を示す。Mはそれぞれ独立に白金化合物または白金とは異種の遷移金属による異種金属化合物を示し、全体として白金化合物および異種金属化合物の両方を含有している。mはデンドリマーの世代数を表す1以上の整数を示し、nは有機分子基R1に対するデンドロン部位の結合数を示す。)で表されることを特徴とするフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体。
【請求項2】
デンドリマーの第1世代から第m世代未満までのイミン部位に異種金属化合物が配位しており、その外側のイミン部位に白金化合物が配位していることを特徴とする請求項1に記載のフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフェニルアゾメチンデンドリマー金属錯体が還元されたものであることを特徴とする白金−異種金属複合ナノ微粒子。
【請求項4】
請求項3に記載の白金−異種金属複合ナノ微粒子からなることを特徴とする燃料電池用触媒。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−18610(P2010−18610A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139497(P2009−139497)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】