説明

フェニルケトン尿症および他の代謝障害の栄養管理のためのグリコマクロペプチド医療食品

グリコマクロタンパク質および付加的な添加物量のアルギニン、ロイシンおよび所望によりチロシンなどの他のアミノ酸を含有する医療食品が開示される。この医療食品は、フェニルケトン尿症などの代謝障害を有する患者に完全なタンパク質必要量を提供するために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年6月12日に出願された米国仮出願第61/186,690号の利益を主張するものであり、その全内容は引用することにより本明細書の一部とされる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、次の機関:NIH−助成番号DK071534によって授与された米国政府の助成を受けてなされたものである。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、一般に、フェニルケトン尿症などの代謝障害の栄養管理に用いられる医療食品に関する。特に、本発明は、付加量のアミノ酸アルギニン、ロイシンおよびチロシンを添加した、腫瘍タンパク源としてのグリコマクロペプチドを含有する医療食品に関する。
【0004】
発明の背景
フェニルアラニン(Phe)は、代謝の正常な人において、酵素フェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH;EC1.14.16.1)によってチロシンに変換される不可欠アミノ酸である。年間産まれる15,000人の乳児に約1人がこの酵素を欠いているか、または機能不全であり、代謝障害フェニルケトン尿症(PKU)と診断される(Scriver C. R. 2001, The Metabolic & Molecular Bases of Inherited disease, 8th ed. New York: McGraw-Hill)。PKUを有する人の食事が生涯の最初の20日以内に改善されなければ、Pheおよびその分解産物が血中や脳に蓄積し、神経損傷や認知障害を引き起こす。
【0005】
PKUの食事管理には、生存のために提案される低Phe食を必要とする。肉類、乳製品、豆類およびパンなどの食品はPheが高含量であるために、PKUを有する人は避けなければならない。低タンパクの自然食品には低Phe食に許容されるものがあるが(主として特定の果物および野菜)、標準的なPKU食における食事性タンパク質の大部分は一般にPheフリーアミノ酸配合物によって供給される。19歳を超える成人の総Phe摂取量の毎日の記録は、女性では目標値220〜770mg/日または男性では290〜1,200mg/日を超えてはならない(Acosta P & Yanicelli S. 2001, Protocol 1-Phenylketonuria (PKU), in Division, R. P., (editor), The Ross Metabolic Formula System Nutrition Support Protocols. 4th ed.: Ross Product Division)。
【0006】
PKUのための標準アミノ酸処方物に基づく食事は、遵守が難しく、限定され、まずいものである。標準PKU食に伴う一般的な問題である不履行は、重大な神経心理学的障害を招くおそれがある。よって、当技術分野では、この標準アミノ酸に基づく処方物よりも味が良く、かつ、血中および脳内において低Pheレベルを有効に維持しつつ、必須アミノ酸を含む必要なタンパク質をPKU患者に提供する医療食品の必要性がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、PKUなどの代謝障害を有する人にとって食事のコンプライアンスと生活の質を高めるように設計された医療食品を提供する。一つの態様では、本発明は、代謝障害の管理のための医療食品を包含する。このような食品はグリコマクロペプチド(GMP)と、アルギニンおよびロイシンを含む付加的な添加物量の特定のアミノ酸を含有する。好ましくは、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸アルギニンの重量比は、アルギニン約60〜90ミリグラム/総タンパク質グラムであり、より好ましくは、その重量比はアルギニン約75ミリグラム/総タンパク質グラムである。好ましくは、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ロイシンの重量比は、ロイシン約100〜200ミリグラム/総タンパク質グラムであり、より好ましくは、ロイシン約100ミリグラム/総タンパク質グラムである。
【0008】
特定の実施態様では、この医療食品は添加物量のアミノ酸チロシンをさらに含有する。好ましくは、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸チロシンの重量比は、チロシン約62〜93ミリグラム/総タンパク質グラムであり、より好ましくは、チロシン約85ミリグラム/総タンパク質グラムである。
【0009】
いくつかの実施態様では、医療食品内の付加的な添加アミノ酸の総重量は、GMP由来のタンパク質と添加アミノ酸を合わせた総重量の約22%〜38%である。これらの食品は、限定されるものではないがヒスチジンおよびトリプトファンを含む他のアミノ酸を付加的に添加してもよい。好ましくは、添加物量のアミノ酸トリプトファンおよびヒスチジンをさらに含有する実施態様では、付加的な添加アミノ酸の総重量は、GMP由来のタンパク質と添加アミノ酸を合わせた総重量の約25%〜42%である。所望により、この医療食品はアミノ酸メチオニンを付加的に添加してもよい。
【0010】
特定の実施態様では、本発明により包含される医療食品は、食品に含まれる付加的な添加アミノ酸の好ましい組合せを変えることによって特定の代謝障害を標的とすることができる。例えば、フェニルケトン尿症などのフェニルアラニン代謝障害の管理では、食品は好ましくは、GMPに加えて、添加物量のアミノ酸アルギニン、ロイシンおよびチロシンを含む。しかしながら、チロシン血症などのチロシン代謝障害の管理では、食品は添加物量のチロシンを含まない。
【0011】
本発明により包含される医療食品は、一種の標準食品の形態であってもよい。好ましい形態としては、飲料、バー、ウエハース、プディング、ゼラチン、クラッカー、フルーツレザー、ナッツバター、ソース、サラダドレッシング、クリスプ・シリアル・ピース、フレーク、パフ、ペレットまたは押出固体が挙げられる。
【0012】
特定の実施態様では、医療食品は、例えば、食品を焼くなどして、製造中に熱処理を行ってもよい。本発明者らは、熱処理中に、アミノ酸レベル、特に任意の添加トリプトファン、チロシン、ヒスチジン、ロイシンまたはアルギニンのアミノ酸レベルが低下する場合があることを確認した。従って、このようないくつかの実施態様では、医療食品の製造に用いる最初の付加的な添加アミノ酸を、熱処理を行わない食品の場合よりも多くして、最終重量比が好ましい範囲に収まるようにする。限定されない例として、好ましい実施態様では、熱処理前の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸トリプトファンの初期重量比は、トリプトファン約12ミリグラム/総タンパク質グラムより大きく、熱処理前の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸チロシンの初期重量比は、チロシン約85ミリグラム/総タンパク質グラムより大きく、熱処理前の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ヒスチジンの初期重量比は、ヒスチジン約23ミリグラム/総タンパク質グラムより大きく、熱処理前の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ロイシンの初期重量比は、ロイシン約100ミリグラム/総タンパク質グラムより大きく、かつ/または熱処理前の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸アルギニンの初期重量比は、アルギニン約75ミリグラム/総タンパク質グラムより大きい。
【0013】
このような例示的実施態様では、医療食品内の初期アミノ酸レベルは、熱処理後の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸トリプトファンの最終重量比がトリプトファン約12〜14ミリグラム/総タンパク質グラムとなり、熱処理後の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸チロシンの最終重量比がチロシン約62〜93ミリグラム/総タンパク質グラムとなり、熱処理後の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ヒスチジンの最終重量比がヒスチジン約20〜24ミリグラム/総タンパク質グラムとなり、熱処理後の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ロイシンの最終重量比がロイシン約100〜200ミリグラム/総タンパク質グラムとなり、かつ/または熱処理後の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸アルギニンの最終重量比がアルギニン約60〜90ミリグラム/総タンパク質グラムとなるようなものであり得る。
【0014】
PKU管理食に用いられる本発明の医療食品は、極めて低いフェニルアラニンレベルでなければならない。従って、特定の好ましい実施態様では、医療食品中に含まれるGMPは、GMPタンパク質1グラム当たり2.0ミリグラムを超えるフェニルアラニン混入物を含まない。このような純度のGMPは商業的供給者によっても供給可能であるが、特定のこのような実施態様では、GMPは医療食品に含められる前に精製することができる。精製されたGMP中には含まれない添加物量のアミノ酸の食品への添加のために、特定の好ましい実施態様では、本発明の医療食品が含むフェニルアラニンは総タンパク質1グラム当たり1.5ミリグラム未満である。チョコレートなどの特定の非タンパク質成分が、医療食品に対する微量のフェニルアラニンの原因となるので、特定の実施態様では、医療食品は総タンパク質1グラム当たり約1.2〜約1.8ミリグラムのフェニルアラニンを含む。
【0015】
チロシン代謝障害の管理に用いられる本発明の医療食品が含むフェニルアラニンおよびチロシンレベルは極めて低い。従って、このような実施態様は、添加物量のチロシンを含まない。好ましくは、チロシン代謝障害の管理のための実施態様では、医療食品が含む総タンパク質1グラム当たりのフェニルアラニンおよびチロシンは合わせて2.0ミリグラム未満である。
【0016】
添加物量のアミノ酸アルギニンおよびロイシンを含む、チロシン代謝障害のためのいくつかの実施態様では、医療食品内の付加的な添加アミノ酸の総重量は、GMP由来のタンパク質と添加アミノ酸を合わせた総重量の約16%〜29%である。チロシン代謝障害の管理のためのこのような実施態様のさらに他のものでは、ロイシンおよびアルギニンに加えて、医療食品は付加的な添加物量のアミノ酸ヒスチジンおよびトリプトファンを含有する。好ましくは、このような実施態様では、付加的な添加アミノ酸の総重量は、GMP由来のタンパク質と添加アミノ酸を合わせた総重量の約19%〜33%である。チロシンの不在下で、他の添加アミノ酸の、推奨される添加レベルを維持するために、その医療食品に付加的GMPを加えてもよい。
【0017】
第二の態様において、本発明は、従前に記載した医療食品の製造方法を包含する。この方法は、グリコマクロペプチド(GMP)と、アルギニンおよびロイシンを含む付加的な添加物量の特定のアミノ酸を供給する工程、および供給された材料と1種類以上の非タンパク質成分を混合して食品を製造する工程を含む。好ましくは、供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸アルギニンの重量比は、アルギニン約60〜90ミリグラム/総タンパク質グラム、より好ましくは、アルギニン約75ミリグラム/総タンパク質グラムである。好ましくは、供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸ロイシンの重量比は、ロイシン約100〜200ミリグラム/総タンパク質グラムであり、より好ましくは、この比はロイシン約100ミリグラム/総タンパク質グラムである。
【0018】
本方法のいくつかの好ましい実施態様では、添加物量のアミノ酸チロシンもまた供給される。好ましくは、供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸チロシンの重量比はチロシン約62〜93ミリグラム/総タンパク質グラムであり、より好ましくは、この比はチロシン約85ミリグラム/総タンパク質グラムである。いくつかのこのような実施態様では、付加的な添加アミノ酸の総重量は、GMP由来のタンパク質と添加アミノ酸を合わせた総重量の約22%〜38%である。
【0019】
特定の実施態様では、本発明により包含される方法は、添加アミノ酸の供給組合せを変えることによって、特定の代謝障害を標的とする医療食品を製造するように改変することができる。例えば、フェニルケトン尿症などのフェニルアラニン代謝障害の管理に用いる医療食品を製造するためには、GMPに加えて、添加物量のアミノ酸アルギニン、ロイシンおよびチロシンが供給される。しかしながら、チロシン血症などのチロシン代謝障害の管理に用いる医療食品を製造するためには、添加物量のチロシンは供給されない。
【0020】
特定の好ましい実施態様では、本方法は、GMPタンパク質1グラム当たり2.0mgを超えるフェニルアラニン混入物を含まないようにGMPを精製する工程を含む。いくつかのこのような実施態様では、このGMPを精製する工程は、以下の技術:陽イオン交換クロマトグラフィー、限外濾過およびダイアフィルトレーションのうち1以上によって行うことができる。このような実施態様はまた、精製されたGMPを凍結乾燥または噴霧乾燥によって乾燥させる付加的工程を含んでもよい。
【0021】
特定の実施態様は、食品を固化させてプディング、ゼラチンまたはフルーツレザーの形態とする付加的工程を含んでもよい。他の実施態様は、バー、クラッカー、フレーク、パフもしくはペレットへ食品を成型する工程、または押出固体として食品を押し出す工程を含んでもよい。
【0022】
特定の実施態様は、食品を製造する際に、供給された混合物を熱処理する付加的工程を含んでもよい。このような工程の限定されない例は、オーブンまたは他の加熱チャンバーで食品を焼くことである。本発明者らは、チロシン、トリプトファン、アルギニン、ロイシンおよびヒスチジンを含む特定のアミノ酸が熱処理中に損失または分解されることを確認した。従って、このような実施態様では、医療食品の製造に用いる付加的な添加アミノ酸の初期量を、熱処理を行わない食品の場合よりも高レベルに供給して、熱処理によってアミノ酸が損失又は分解されても最終重量比が好ましい範囲に収まるようにすることが好ましい。
【0023】
限定されない例として、好ましい実施態様では、熱処理前の供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸トリプトファン初期重量比は、トリプトファン約12ミリグラム/総タンパク質グラムより大きくすればよく、熱処理前の供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸チロシンの初期重量比は、チロシン約85ミリグラム/総タンパク質グラムより大きくすればよく、熱処理前の医療食品内の供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸ヒスチジンの初期重量比は、ヒスチジン約23ミリグラム/総タンパク質グラムより大きくすればよく、熱処理前の医療食品内の供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸ロイシンの初期重量比は、ロイシン約100ミリグラム/総タンパク質グラムより大きくすればよく、かつ/または熱処理前の供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸アルギニンの初期重量比は、アルギニン約75ミリグラム/総タンパク質グラムより大きくすればよい。
【0024】
熱処理中、食品内のこれらのアミノ酸レベルは低下することがある。熱処理後の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸トリプトファンの最終重量比は、トリプトファン約12〜14ミリグラム/総タンパク質グラムであり、熱処理後の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸チロシンの最終重量比は、チロシン約62〜93ミリグラム/総タンパク質グラムであり、熱処理後の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ヒスチジンの最終重量比は、ヒスチジン約20〜24ミリグラム/総タンパク質グラムであり、熱処理後の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ロイシンの最終重量比は、ロイシン約100〜200ミリグラム/総タンパク質グラムであり、かつ/または熱処理後の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸アルギニンの最終重量比は、アルギニン約60〜90ミリグラム/総タンパク質グラムであることが好ましい。
【0025】
第三の態様では、本発明は、限定されるものではないが、フェニルアラニン代謝障害、チロシン代謝障害、トリプトファン代謝障害またはヒスチジン代謝障害を含む代謝障害を治療する方法を包含する。これらの方法は、代謝障害を有するヒトにグリコマクロペプチド(GMP)と、アルギニンおよびロイシンを含む付加的な添加物量の2種類以上のアミノ酸を含有する医療食品を投与する工程を含む。好ましくは、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸アルギニンの重量比は、アルギニン約60〜90ミリグラム/総タンパク質グラムであり、より好ましくは、この比はアルギニン約75ミリグラム/総タンパク質グラムである。好ましくは、医療食品内のタンパク質に対するアミノ酸ロイシンの重量比は、ロイシン約100〜200ミリグラム/総タンパク質グラムであり、より好ましくは、ロイシン約100ミリグラム/総タンパク質グラムである。
【0026】
このような実施態様では、医療食品にさらにチロシンが添加されない場合、この医療食品で治療されるヒトは、限定されるものではないが、I型チロシン血症、II型チロシン血症、III型チロシン血症/ホーキンシン尿症、またはアルカプトン尿症/組織黒変症を含むチロシン代謝障害を有していてもよい。このような実施態様では、好ましくは、医療食品が含むフェニルアラニンおよびチロシンは合わせて総タンパク質1グラム当たり2.0ミリグラム未満である。
【0027】
さらに他の実施態様では、投与される医療食品は、添加物量のアミノ酸チロシンを付加的に含む。好ましくは、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸チロシンの重量比は、チロシン約62〜93ミリグラム/総タンパク質グラムであり、より好ましくは、この比はチロシン約85ミリグラム/総タンパク質グラムである。このような実施態様では、医療食品で治療されるヒトは、限定されるものではないがフェニルケトン尿症(PKU)を含むフェニルアラニン代謝障害、限定されるものではないが高トリプトファン血症を含むトリプトファン代謝障害、または限定されるものではないがカルノシン血症、ヒスチジン血症もしくはウロカニン酸尿症を含むヒスチジン代謝障害を有してもよい。トリプトファン代謝障害を有するヒトが治療される実施態様では、投与される医療食品は添加物量のトリプトファンを含まない。ヒスチジン代謝障害を有するヒトが治療される実施態様では、投与される医療食品は添加物量のヒスチジンを含まない。
【0028】
治療されるヒトがフェニルアラニン代謝障害を有する実施態様では、このヒトは好ましくは少なくとも2歳である。好ましくは、投与される医療食品が含むフェニルアラニンは総タンパク質1グラム当たり1.5ミリグラム未満である。
【0029】
本発明のこれらの、またその他の特徴は、以下の詳細な説明を添付の図面とともに考慮すれば当業者には明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】カゼイン、限定IAAを添加したGMP(適正GMP)、またはPheを除く限定IAAを添加したGMP(Pheを欠くGMP)を含有する餌を与えた離乳WTマウスにおける、42日間の体重を時間の関数として示す。値は平均±SEM;n=10である。GMP Phe欠乏群には、4日目から試験の終了時まで飲み水にPhe(1g Phe/L)を加えた。14日目から42日目まで、日々のBW変化に有意差はなかった。
【図2】47日間GMPまたはアミノ酸(AA)食を与えたPKUマウスの脳、小脳、脳幹、視床下部、頭頂皮質および前部嗅皮質の5つの切片におけるPhe濃度を示す。値は平均±SEM;n=8である。AAとの差、P≦0.001。
【図3】47日間GMPまたはアミノ酸(AA)食を与えたPKUマウスの小脳Pheレベルを血漿トレオニン(Thr)+イソロイシン(Iso)+バリン(Val)レベルの関数として示す。
【図4】製品100g当たりのアミノ酸のgとして表したグリコマクロペプチド(BioPURE-GMP; Davisco Foods International Inc., LeSueur, MN)およびカゼイン(ALACID; New Zealand Milk Products, Santa Rosa, CA)のアミノ酸特性を示す。
【図5】15週間アミノ酸(AA)またはグリコマクロペプチド(GMP)食を自由に与えた1個体のPKU被験体から、朝食前に一晩絶食させた後に得られた平均Phe濃度を示す。Phe含量が既知の食品だけを被験体に与えた場合の15週間の試験期間のうち6週間のデータを示した:3週間および15週間(AA食)、4週間、7週間、11週間および13週間(GMP食)。血中および血漿中のPhe濃度は、Pheの取り込みに関して補正し、Pheの取り込み100mg当たりのmmol Phe/Lとして表した。Phe濃度は、2つの方法、すなわち、タンデム質量分析法(MS/MS)を用いた血液スポット採取の分析およびAA分析装置を用いた血漿Pheの測定のうちの1つを用いて測定した。値は平均±SEである;AA食(血漿Phe n=4および血液Phe n=4)、GMP食(血漿Phe n=4および血液Phe n=8)。AA食との差、p<0.05。
【図6】グリコマクロペプチド(GMP)またはAA食の摂取を行った食後血漿中の総アミノ酸(AA)および血中尿素窒素の濃度を示す。血漿は朝食摂取の2.5時間後に得た;n=6であった試験日数5日目および6日目の血中尿素窒素以外はn=11。総血漿AAは、血漿で測定された総てのAAの合計を示す。値は平均±SEMである。AA食摂取の4日目に比べてGMP食摂取の場合には、総血漿AAは増加し、血中尿素窒素は低下した。反復測定ANOVAにおいては、時間の有意な効果があった。4日目のAA食との有意差、P<0.05(対応のあるt検定、被験体に対して対応有り)。
【図7】4日間、アミノ酸(AA)食またはグリコマクロペプチド(GMP)食を摂取した後のフェニルケトン尿症を有する個々の被験体(n=11)の血漿中のフェニルアラニン濃度を示す。血液は朝食摂取の2.5時間後に得、完全AA特性の分析のために血漿を単離した。被験体は、4日間AA食またはGMP食を摂取した後に一定範囲の血漿フェニルアラニン濃度を示した。AA食の最終日(4日目)とGMP食の最終日(8日目)を比べた場合、血漿中のフェニルアラニン濃度に有意差はなかった;被験体に対して対応がある、対応のあるt検定によればP=0.173。群平均±SEMは619±82μmol/L(AA食)および676±92μmol/L(GMP食)であった。血漿中のフェニルアラニン濃度の平均変化は57±52μmol/Lであった。pheはフェニルアラニン。
【図8】4日間アミノ酸(AA)食に比べ、グリコマクロペプチド(GMP)を与えたフェニルケトン尿症被験体における絶食(絶食、一晩絶食)血漿に比べた食後(PP;朝食摂取の2.5時間後)のフェニルアラニン濃度を示す。群平均および個々の被験体の応答を示す;n=6(4日目と8日目の比較)。GMP食を摂取した場合には、絶食とPPの濃度を比較しても血漿フェニルアラニン濃度に有意な変化はなかったが(P=0.349)、AA食は、被験体に対して対応がある、対応のあるt検定によれば、血漿フェニルアラニンに有意な増加を示した(P=0.048)。pheはフェニルアラニン。
【図9】4日間(5日目〜8日目)グリコマクロペプチド(GMP)食を摂取した後の食後血漿中のトレオニンおよびイソロイシン濃度を示す。値は、朝食2.5時間後に得た血漿の平均±SEM;n=11である。試験3日間および4日間は、総ての被験体にアミノ酸(AA)食を摂らせ、5〜8日目には、総てのAA処方物をGMP食品に置き換えた。反復測定ANOVAにおいては、時間の有意な効果があった。AA食の最終日(4日目)との有意差、P<0.05(対応のあるt検定、被験体に対して対合有り)。**AA食の最終日(4日目)との有意差、P<0.0001。5日後および7日後にそれぞれイソロイシンおよびトレオニンの血漿濃度にさらなる有意な増加はなかった。ileはイソロイシン、thrはトレオニン。
【図10】アミノ酸処方物(Phlexy-10 Drink Mix, SHS North America, Rockville, Md., U.S.A.)と比較したGMPストロベリープディングのアミノ酸特性を示す。値は平均±SDである。サンプルサイズはn=2であった。GMPストロベリープディングおよびアミノ酸バーの上の同じ文字は、値に統計学的な差がないことを示す(P>0.05)。
【図11】本発明のGMP食品であるBettermilk(商標)および慣用アミノ酸処方物であるPhenex−2(商標)の双方の4つの異なる判定基準(臭い、味、後味および総合)を用いた許容性評価を示す棒グラフである。これらの評価は、27人の非PKU成人(白いバー)および4人のPKU成人(影付きのバー)から平均をとったものである。値は平均±SDである;*p≦0.01、対応のあるt検定。許容性のランク付けは、1−極めて好ましくない、2−あまり好ましくない、3−好ましくない、4−やや好ましくない、5−やや好ましい、6−好ましい、7−非常に好ましい、および8−極めて好ましい。
【図12】GMP食およびアミノ酸食の場合の、PKU被験体のグレリン、インスリンおよびアミノ酸の血漿濃度を示す棒グラフである。グレリンおよびインスリン値は、被験体ごとに、AA朝食の場合には3日目と4日目、GMP朝食の場合には7日目と8日目からの血漿を等量合わせたものに相当する。AA食の最終日(4日目)とGMP食の最終日(8日目)の食後(PP)血漿AA値の合計。値は総て平均±SEM;グレリン絶食値はn=6。は、AA朝食の食後グレリンとの有意差を示す(p=0.03、対応のあるt検定、被験体に対して対応有り;n=10)。**は、AA朝食の場合のインスリンとのやや有意差を示す(p=0.053、対応のあるt検定、被験体に対して対応有り;n=10)。***は、AA朝食の場合の血漿AAの合計との有意差を示す(p=0.049、対応のあるt検定、被験体に対して対応有り;n=11)。
【図13】GMP食(白丸)およびアミノ酸食(黒丸)の双方における、PKU被験体に関する、朝食開始180分後の血漿グレリン濃度(x軸)と朝食2時間後の満腹感(y軸)の間の関係のグラフである。食後グレリンが低いほど、より大きな満腹感と関連していた。直線は、個々の食事療法データに当てはめた最小二乗回帰直線を表し、AA朝食は破線であり、GMP朝食は実線である。これらの直線は有意に異なる。変数減少法を混合効果モデルとともに用いたところ、食後満腹スコアを推定する最良のモデルは食事療法、食後グレリンおよびグレリンと食事療法の間の相互作用を含んだ。
【発明の具体的説明】
【0031】
I.概説
本材料および方法を記載する前に、本発明は記載される特定の方法論、プロトコール、材料および試薬は可変であるので、これらに限定されないと理解される。また、本明細書に用いられる用語は単に特定の実施態様を記載するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は、後の、仮出願ではない出願によってのみ限定されると理解すべきである。
【0032】
本明細書および添付の特許請求の範囲に用いられているように、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈がそうではないことを明確に示していない限り、複数形も含むことに留意されたい。同様に、「a」(または「an」)、「1以上の」および「少なくとも1つの」という語は、本明細書では互換的に使用することができる。また、「含んでなる」、「含む」および「有する」という語も互換的に使用することができることに留意されたい。
【0033】
そうではないことが定義されない限り、本明細書で用いられる総ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解しているものと同じ意味を有する。本発明の実施または試験には本明細書に記載されているものと同等または等価ないずれの方法および材料も使用可能であるが、好ましい方法および材料を以下に記載する。本明細書に明示されている総ての刊行物および特許は、本発明に関連して使用可能な刊行物に報告されている化学薬品、機器、統計分析および方法論の記載および開示を含め、あらゆる目的で引用することにより本明細書の一部とされる。本明細書に引用されている参照文献は総て、当技術分野の技術水準を示すものと考えるべきである。本明細書において、本発明が先行発明の効力によってかかる開示に先行する権利がないことを認めるものと解釈すべきではない。
【0034】
本明細書において、「約」とは、示された値の10%下〜10%上の範囲を意味する。
【0035】
本明細書において、「医療食品」とは、「医師の監督下で摂取または経腸投与されるべく処方され、特有の栄養要求が、認知されている科学的原理に基づき、医学的評価によって確立されているある疾患または症状の特別な食事管理のために意図される食品」を意味する(Orphan Drug Act, 21 U.S.C. 360ee (b) (3)第5節から)。医療食品は、医学的監督下で用いられ、ある疾患または症状の特別な食事管理を意図した、より広い特別用途食品のカテゴリーおよび医療食品が疾患または症状の特有の栄養要求を満たすことを意図したものであるという要件によって健康を増進するとされる食品とは区別される。
【0036】
「医療食品」とは、病気の患者に与える総ての食品を指すのではない。医療食品は、重篤な病状の患者または主要な治療法としてその製品を要する患者のために特別に処方および加工された(そのままの状態で用いる自然食品ではない)食品である。医療食品とみなされるためには、製品は、最低限、以下の判定基準を満たさなければならない:その製品が経口栄養または経管栄養用の食品であること;その製品が、特有の栄養要求がある特定の医学的障害、疾患または症状の食事管理用のものであることが表示されていること、およびその製品が医学的監督下での使を意図したものであること(U.S. Food and Drug Administration, Guidance for Industry: Frequently Asked Questions About Medical Foods, Center for Food Safety and Applied Nutrition, May 2007から)。
【0037】
本明細書において、「添加物量」のアミノ酸とは、(a)GMPタンパク質の微量の混入物、または(b)非タンパク質産物に含まれる微量のアミノ酸に由来するもではない、混合物に加えられる、または食品中に含まれるアミノ酸の量を意味する。非タンパク質産物の限定されない例としてチョコレートがあり、これは微量のPheを含むが、タンパク質またはアミノ酸の重要な供給源とは認識されない。添加物量は、限定されるものではないが市販のアミノ酸添加物をはじめとする、有意な量の、所定のアミノ酸または該アミノ酸を含有するタンパク質を含むと認識されている他の任意の供給源に由来するものであり得る。
【0038】
本明細書において、食品内の「総タンパク質」とは、その食品内のGMP由来のタンパク質とその食品内の付加的な添加アミノ酸に由来するタンパク質の凝集物を意味する。
【0039】
本発明では次の省略形を用いる:AA、アミノ酸;Ala、アラニン;Arg、アルギニン;Asn、アスパラギン;Asp、アスパラギン酸;BW、体重;Cys、システイン;DRI、食事摂取基準;Gln、グルタミン;Glu、グルタミン酸;Gly、グリシン;GMP、グリコマクロペプチド;His、ヒスチジン;IAA、不可欠アミノ酸;IsoまたはIle、イソロイシン;Leu、ロイシン;LNAA、大型中性アミノ酸;Met、メチオニン;MS/MS、タンデム質量分析法;PAH、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ;PE、タンパク質等価物;Phe、フェニルアラニン;PKU、フェニルケトン尿症;Pro、プロリン;SEM、平均の標準誤差;Ser、セリン;Thr、トレオニン;Tyr、チロシン;Trp、トリプトファン;Val、バリン;WT、野生型。
【0040】
II.本発明
今般、本発明者らは、付加量のアミノ酸アルギニン、ヒスチジン、ロイシン、および所望により他のアミノ酸を添加したグリコマクロペプチドタンパク質を食品中に含まれるアミノ酸/タンパク質源として用いて製造された医療食品が、PKUまたは他の代謝障害を有する人の食事における低Pheの完全タンパク源を提供することを見出した。これらの食品は標準AA処方物よりも味が良く、血中および脳内のPheレベルを引き下げるGMPを最適化する。よって、本発明は、医療食品、このような食品の製造方法、PKUなどの代謝障害を有する人にタンパク源としてこのような食品を投与する方法を提供する。
【0041】
一つの態様において、本発明は、低Pheの完全タンパク源を含有する医療食を提供する。本発明の医療食品の主要なタンパク源は、その純粋な形態でPheを含まない天然タンパク質であるグリコマクロペプチド(GMP)である。GMPは、チーズの製造中に、キモシンがκ−カゼインを105〜106アミノ酸残基の間で特異的に切断する場合に形成される。パラ−κ−カゼイン(残基1〜105)は凝集してチーズカードを形成するが、GMP(残基106〜169)は乳清中に残る。GMPは極性が高く、1以上のトレオニンアミノ酸部位でガラクトサミン、ガラクトースおよびο−シアル酸によってグリコシル化されている。
【0042】
「GMPタンパク質」とは、グリコシル化部分を持たない純粋なGMPポリペプチドを意味する。GMPタンパク質は、47%(w/w)の不可欠アミノ酸を含むが、ヒスチジン(His)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、アルギニン(Arg)、システイン(Cys)またはPheを含まない。
【0043】
いくつかの方法を用いて乳清からGMPを単離することができる。精製方法の詳細な例は、例えば、米国特許第5,968,586号に見出せる。乳清からGMPを単離するための現行の大規模技術は、イオン交換クロマトグラフィーまたは限外濾過を用いる。GMPはの等電点(pI)は3.8より小さいが、他の主要な乳清タンパク質のpI値は4.3より大きい。GMPと他の乳清タンパク質の間のこの物理化学的違いは、乳清からGMPを分離するための単離プロセスでよく用いられる。
【0044】
市販のGMPは、残留する乳清タンパク質由来のPhe混入物を含む。市販のGMP中のPhe混入物の量は幅広く異なる(すなわち、Phe5mg/製品g、manufacturer literature, Davisco Foods Intl., Eden Prairie, Minn., U.S.A;Phe2.0mg/製品g、Lacprodan cGMP-20 manufacturer literature, Arla Foods, Arhus, Denmark)。従来のアミノ酸処方物はPheフリーであり、PKUを有する人は自分の一日許容量を満たすようにPheを含有する自然食品を摂取することができる。本明細書で用いるのに好ましいGMPは、Phe2.0mg/GMPg以下を含む。
【0045】
特定の好ましい実施態様では、商業的に入手したGMPを、本発明の医療食品で用いる前に精製してPhe混入物を除去することができる。可能性のある精製プロセスは当技術分野で周知であり、限定されるものではないが、未精製GMP中の混入乳清タンパク質を陽イオン交換樹脂に吸着することにより捕捉すること、および通過画分中の精製されたGMPを回収することを含む。GMPを濃縮し、ペプチド、塩および非タンパク質性窒素を洗浄するために、例えば、限外濾過/ダイアフィルトレーション(UF/DF)などの当技術分野で公知のさらなる技術を使用することもできる。精製および濃縮工程後、限定されるものではないが、凍結乾燥および噴霧乾燥を含む当技術分野で公知のいくつかの技術を用いて、精製、濃縮されたGMPを乾燥させることもできる。
【0046】
純粋なGMPは、His、Tyr、Trp、Cys、ArgまたはPheを含まず、ロイシン(Leu)が低い。His、Trp、PheおよびLeuは総て不可欠アミノ酸である。TyrおよびArgは条件付き不可欠アミノ酸であり、これはPheがTyrの前駆体であり、グルタミン酸、プロリンおよびアスパラギン酸がArgの前駆体であるためである。結果として、栄養的に完全なタンパク質を提供するには、食品中の主要タンパク源としてのGMPに添加を行わなければならない。本発明者らは、当技術分野でこれまでに提案されているものとは異なる、添加物量のアミノ酸アルギニン、ロイシンおよびチロシンの最適範囲を決定した。
【0047】
よって、特定の好ましい実施態様では、本発明は、医療食品がグリコマクロペプチド(GMP)と、付加的な、至適化された添加物量のアミノ酸アルギニン、ロイシンおよび/またはチロシンを含む場合の、代謝障害の管理のための医療食品を含む。他のアミノ酸も本発明の医療食品に含めることができる。しかしながら、本発明者らはメチオニン添加の必要はなく、実際にことを決定付け、実際に医療食品の食味を悪くすることから、特定の好ましい実施態様では、本発明の医療食品は、付加的な添加物量のアミノ酸メチオニンを含まない。食品における使用が認可されているアミノ酸は、当技術分野で公知の様々な商業ソースから得ることができる。
【0048】
医療食品内の各添加アミノ酸の好ましい重量比は、最終医療食品中の、総タンパク質1グラム当たりのアミノ酸ミリグラムの単位で表され、ここで、総タンパク質のグラムは、GMP由来のタンパク質(窒素g×6.25)と付加的な添加アミノ酸由来のタンパク質(窒素g×6.25)の合計と定義される。特定の好ましい実施態様では、付加的な添加アミノ酸の総重量は、好ましくは、GMP由来のタンパク質と加えた添加アミノ酸を合わせた総重量の約22%〜38%である。
【0049】
好ましくは、医療食品内のタンパク質に対するアミノ酸アルギニンの重量比は、アルギニン約60〜90ミリグラム/総タンパク質グラムであり、より好ましくは、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸アルギニンの重量比は、約75ミリグラムアルギニン/総タンパク質グラムである。
【0050】
医療食品内のタンパク質に対するアミノ酸ロイシンの好ましい重量比は、ロイシン約100〜200ミリグラム/総タンパク質グラムであり、より好ましくは、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ロイシンの重量比は、ロイシン約100ミリグラム/総タンパク質グラムである。
【0051】
添加物量のチロシンを含有する実施態様では、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸チロシンの好ましい重量比は、チロシン約62〜93ミリグラム/総タンパク質グラムであり、より好ましくは、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸チロシンの重量比は、チロシン約85ミリグラム/総タンパク質グラムである。
【0052】
特定の実施態様では、医療食品は所望により付加的な添加アミノ酸を含んでもよい。例えば、ヒスチジンおよび/またはトリプトファンが医療食品に含まれてもよい。ヒスチジン添加の場合、医療食品内の総タンパク質に対するヒスチジンの好ましい重量比は、ヒスチジン約20〜24ミリグラム/総タンパク質グラムであり、より好ましくは、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ヒスチジンの重量比は、ヒスチジン約23ミリグラム/総タンパク質グラムである。
【0053】
トリプトファン添加の場合、医療食品内の総タンパク質に対するトリプトファンの好ましい重量比は、トリプトファン約12〜14ミリグラム/総タンパク質グラムであり、より好ましくは、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸トリプトファンの重量比は、トリプトファン約12ミリグラム/総タンパク質グラムである。
【0054】
特定の実施態様では、医療食品は必須ビタミンおよびミネラルを付加的に添加して、完全なタンパク源に加えて、必要な非タンパク質性の栄養添加を提供してもよい。さらに、医療食品は、従来の食品に一般に含まれている様々な低Phe物質(非タンパク質成分)を含んでもよい。
【0055】
本発明はPKUなどのPhe代謝障害の治療用の医療食品に限定されず、GMPには存在しない他のアミノ酸の代謝障害(すなわち、His、Trp、TyrまたはPheの代謝障害)の管理のための食品をさらに含む。チロシン血症などのチロシン代謝障害の管理に用いられる実施態様の場合には、最適な添加物量のアルギニンおよびロイシンが食品に組まれるが、添加物量のチロシンは含まれない。損失したチロシンを調整するために、GMP量を増やすことができる。いくつかのこのような実施態様では、付加的な添加アミノ酸の総重量は、好ましくは、GMP由来のタンパク質と加えた添加アミノ酸を合わせた総重量の約16%〜29%である。好ましくは、チロシンとフェニルアラニンを合わせた量は、このような実施態様では、総タンパク質1グラム当たり2.0mgより少ない。
【0056】
本発明の医療食品は、限定されるものではないが、処方物、飲料、バー、ウエハース、プディング、ゼラチン、クラッカー、フルーツレザー、ナッツバター、ソース、サラダドレッシング、フレーク、クリスプ・シリアル・ピース、パフ、ペレットまたは押出固体を含む、多様な食品種を包含する。これら、また、その他のあり得る食品種は当業者に容易に認識され、従来の製造方法を用い、本発明の成分を従来の食品に一般に用いられている他の低Phe物質とともに用いて本発明の医療食品を製造することができる。
【0057】
本発明により包含される、いくつかのあり得る食品種は、製造中に熱処理を受ける。限定されない例としては、クラッカー、バーおよびクリスプ・シリアル・ピースは焼くことができる。押出固体は、押出し前に加熱してもよい。フルーツレザー、ソースおよびクリスプ・シリアル・ピースは、冷却前、また、場合によっては最終製品の乾燥前に混合物を加熱することによって製造することができる。よって、特定の実施態様では、本発明の医療食品は製造中に熱処理される。
【0058】
本発明者らは、熱処理が付加的な添加アミノ酸の著しい損失を招き得ることを決定付けた。例えば、Trp、Tyr、His、LeuおよびArgなどの遊離アミノ酸はメイラード反応を受け得る。露光はTyrの光分解反応を加速化する。熱処理または露光による付加的な添加アミノ酸の損失は、その医療食品に加えなければならない付加的な添加アミノ酸の量を引き上げる。従って、いくつかの好ましい実施態様では、各添加アミノ酸の初期重量比は、各添加アミノ酸の最終残存量が好ましい重量比の範囲内に収まるように、熱処理される食品では、熱処理されない食品の場合よりも高く設定される。
【0059】
別の態様では、本発明は、PKUなどの代謝障害の管理のための医療食品を製造する方法を包含する。この方法は、グリコマクロペプチド(GMP)と、アルギニンおよびロイシンを含む付加的な添加物量のアミノ酸を供給する工程、および供給された材料を他の物質と混合して食品を製造する工程を含む。本方法の特定の実施態様では、供給されたタンパク質に対する供給されたアミノ酸アルギニンの重量比は、ロイシン約60〜90ミリグラム/総タンパク質グラム、好ましくは、アルギニン約75ミリグラム/総タンパク質グラムである。本方法の特定の実施態様では、供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸ロイシンの重量比は、ロイシン約100〜200ミリグラム/総タンパク質グラム、好ましくは、ロイシン約100ミリグラム/総タンパク質グラムである。
【0060】
上記のように、従来の食品の製造に一般に用いられている非タンパク質成分をはじめとする様々な他の物質が本食品の製造に使用可能である。しかしながら、用いる他の物質は低PheまたはPheフリー物質でなければならない。
【0061】
いくつかの実施態様では、本法で用いる付加的な添加アミノ酸の総重量は、GMP由来のタンパク質と添加アミノ酸を合わせた総重量の約22%〜38%であることが好ましい。本方法は、様々な食品種を製造するために用いられる従来技術を包含する。限定されない例として、本食品混合物は、固化させてプディング、ゼラチンまたはフルーツレザーを形成させてもよく、本食品混合物は、バー、クラッカー、フレーク、パフまたはペレットに成型してもよく、または本食品は押出固体として押し出してもよい。本方法のいくつかの実施態様では、本食品混合物は熱処理される。熱処理の例としては、限定されるものではないが、食品混合物を焼くこと、食品混合物の低温殺菌、加熱混合物の煮沸、または混合物への加熱押出の適用が挙げられる。
【0062】
本方法の特定の実施態様では、供給されたタンパク質に対する供給されたアミノ酸チロシンの重量比は、チロシン約62〜93ミリグラム/総タンパク質グラム、好ましくは、チロシン約85ミリグラム/総タンパク質グラムである。
【0063】
本方法の特定の実施態様では、供給されたタンパク質に対する供給されたアミノ酸ヒスチジンの重量比は、ヒスチジン約20〜24ミリグラム/総タンパク質グラム、好ましくは、ヒスチジン約23ミリグラム/総タンパク質グラムである。
【0064】
本方法の特定の実施態様では、食品内のタンパク質に対するアミノ酸トリプトファンの重量比は、トリプトファン約12〜14ミリグラム/総タンパク質グラム、好ましくは、トリプトファン約12ミリグラム/総タンパク質グラムである。
【0065】
本方法はまた、GMPを、GMPタンパク質1グラム当たり2.0ミリグラムを超えるフェニルアラニン混入物を含まないように精製する工程を含み得る。限定されるものではないが、陽イオン交換クロマトグラフィー、限外濾過およびダイアフィルトレーションの使用を含む、当技術分野で公知のいくつかの技術を用いてGNPを精製することができる。精製されたGNPは、限定されるものではないが、凍結乾燥または噴霧乾燥を含む、いくつかの既知の乾燥技術のいずれか1つを用いてさらに乾燥させてもよい。
【0066】
さらに別の態様では、本発明は、代謝障害を治療する方法を包含する。この方法は、代謝障害を有する患者を選択する工程、およびその患者にグリコマクロペプチド(GMP)と付加的な最適添加物量のアミノ酸アルギニンおよびロイシンを含んでなる医療食品を投与する工程を含む。好ましくは、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸アルギニンの重量比は、アルギニン約60〜90ミリグラム/総タンパク質グラム、より好ましくは、アルギニン約75ミリグラム/総タンパク質グラムである。好ましくは、食品中の総タンパク質に対するアミノ酸ロイシンの重量比は、ロイシン約100〜200ミリグラム/総タンパク質グラム、より好ましくは、ロイシン約100ミリグラム/総タンパク質グラムである。
【0067】
代謝障害は好ましくは、Phe代謝障害、His代謝障害、Trp代謝障害、Tyr代謝障害またはPhe代謝障害の1つである。いくつかの実施態様では、投与される医療食品中の付加的な添加アミノ酸の総重量は、GMPタンパク質と添加アミノ酸を合わせた総重量の約22%〜38%である。
【0068】
本方法の特定の実施態様では、医療食品はチロシンの添加はされず、選択された患者はチロシン代謝障害を有する。このような実施態様では、医療食品は好ましくは、総タンパク質1グラム当たり2.0ミリグラム未満のフェニルアラニンおよびチロシンを含有する。いくつかのこのような実施態様では、投与される医療食品中の付加的な添加アミノ酸の総重量は、GMPタンパク質と添加アミノ酸を合わせた総重量の約16%〜29%である。
【0069】
本方法の特定の実施態様では、本法で用いる医療食品は、付加的な最適添加物量のアミノ酸チロシンをさらに含有する。好ましくは、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸チロシンの重量比は、チロシン約62〜93ミリグラム/総タンパク質グラム、より好ましくは、チロシン約85ミリグラム/総タンパク質グラムである。最適量のアルギニン、ロイシンおよびチロシンが含まれる場合、選択される患者はフェニルアラニン代謝障害、ヒスチジン代謝障害、またはトリプトファン代謝障害を有し得る。患者がヒスチジン代謝障害を有する場合、投与される医療食品は、添加物量のヒスチジンを含まない。患者がトリプトファン代謝障害を有する場合、投与される医療食品は、添加物量のトリプトファンを含まない。
【0070】
上述の制限を条件として、本法で用いる医療食品に所望により他のアミノ酸が含まれてもよい。本方法の特定の実施態様では、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ヒスチジンの重量比は、ヒスチジン約20〜24ミリグラム/総タンパク質グラム、好ましくは、ヒスチジン約23ミリグラム/総タンパク質グラムである。
【0071】
本方法の特定の実施態様では、食品内の総タンパク質に対するアミノ酸トリプトファンの重量比は、トリプトファン約12〜14ミリグラム/総タンパク質グラム、好ましくは、トリプトファン約12ミリグラム/総タンパク質グラムである。
【0072】
特定の好ましい実施態様では、選択される患者は代謝障害PKUを有する。本発明の医療食品は従来のアミノ酸処方物よりも味が良く、血漿中および脳内の有害なPheレベルを低下させる助けをし、このような患者におけるタンパク質の保持を改善する助けをする。いくつかの実施態様では、本食品は少なくとも2歳のヒトに投与される。
【0073】
特定の好ましい実施態様では、選択される患者は代謝障害PKUを有するが、本方法は他の代謝障害を有する患者への医療食品の投与を包含する。本発明の食品を投与することによって効果的に治療することができる他の代謝障害としては、チロシン代謝障害(I型チロシン血症、II型チロシン血症、III型チロシン血症/ホーキンシン尿症およびアルカプトン尿症/組織黒変症);トリプトファン(Tyrptophan)代謝障害(高トリプトファン血症);およびヒスチジン代謝障害(カルノシン血症、ヒスチジン血症およびウロカニン酸尿症)が挙げられる。
【0074】
以下の実施例は単に例示のために示すものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実際に、以上の記載および以下の実施例から、本明細書に示され、記載されているものの他、本発明の様々な改変が当業者には明らかとなり、これらも添付の特許請求の範囲内に含まれる。
【実施例】
【0075】
III.実施例
実施例1:ネズミPKUモデルにおける添加グリコマクロペプチド食
本実施例で、本出願者らは、標準的なマウスPKUモデルで、アミノ酸食に比べ、添加グリコマクロペプチド食が成長を助け、血漿中および脳内の双方のフェニルアラニン(phenyalanine)濃度を低下させることを実証する。ネズミPAH欠乏症モデルPahenu2マウス(PKUマウス)は、PKUを有するヒトと同様の高フェニルアラニン血症および認知欠陥を示すので、PKUの栄養管理の研究に好適なモデルである。さらに、食餌性タンパク質の大部分がアミノ酸によって供給されるヒト低Phe食と並行して、PKUマウスでの研究には、多くの場合Pheフリーのアミノ酸に基づく食餌を用い、飲み水中にPheを供給した。本発明者らの目的は、唯一のタンパク源としてGMPを含有する食餌の摂取がどのように成長を助け、野生型(WT)マウスおよびPKUマウスの血漿中および脳内のアミノ酸、特にPhe濃度に影響を及ぼすかを評価することであった。結果は、アミノ酸食に比べ、GMPを摂取したPKUマウスの好適な成長ならびに血漿中および脳内のPhe濃度の有意な低下を示した。
【0076】
材料および方法
マウス
報告した動物施設およびプロトコールはウィスコンシン大学マディソン校所内動物実験委員会によって認可されたものである。体重18〜22gの雄および雌、4〜6週齢のWTマウスは、PKUマウスと同じバックグラウンドで交配されたものである(C57Bl/6、Jackson Laboratories)。PKUマウスはPah突然変異に関して同型接合性であるが、交配の容易さを高めるために交配およびC57Bl/6バックグラウンドとの戻し交配が行われたものであった。PKUマウスの交配ペアはCary O. Hard ing, Oregon Health and Science University, Portland, ORにより提供された。Pahenu2突然変異の存在に関する遺伝子型分析は、エキソン7の増幅領域に対する尾の生検DNAのPCR分析によって行った。マウスは、22℃、明暗周期12時間:12時間の室内の、ステンレス鋼、金網底のケージで個別に飼育し、水は自由に与えた。マウスの体重を毎日1000で測定し、食物摂取量を毎日求めた。各試験の終了時には、麻酔器(IsoFlo, Abbott Laboratories)を介してイソフルランを用いてマウスを麻酔し、屠殺1時間前に食物を除去して0800〜1000の間で心臓穿刺/放血によって屠殺した。
【0077】
食餌
精製食餌は、同等量のビタミン、ミネラル、エネルギーおよび多量要素を提供するように設計した(表1参照)。これらの食餌のタンパク源はカゼイン、遊離アミノ酸、GMP(BioPURE GMP, Davisco Foods)、および残留Phe含量を低くするように処理されたGMP(Etzel M.R., J Nutr. 2004;134:S996-1002参照)によって提供された。GMP食には、無傷なタンパク質に比べて吸収および分解の速いアミノ酸を補償するための以下の限定IAA:アルギニン、ヒスチジン、ロイシン、メチオニン、トリプトファンおよびチロシンに関しては、NRCにより提案された必要量(NRC, Nutrient Requirements of the Mouse, in Nutrient Requirements of Laboratory Animals, 4th ed. Washington D.C.: National Academy Press;1995参照)の1.5倍を添加した。アミノ酸食およびGMP低Phe食の窒素含量はそれぞれ窒素24.1gおよび22.9g/食餌kgと同等であり、両食餌ともアミノ酸175g/食餌kgを供給した。食餌の完全アミノ酸分析はExperiment Station Chemical Laboratories, University of Missouri-Columbia (Columbia, MO)で行った(表2参照)。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
試験計画
3種類の試験を行った。試験1では、42日間餌を与えた4週齢の雄WTマウスにおいて食物摂取および成長を助けるためのIAAを添加したGMPの適正量を試験した。3つの食餌療法群(n=10/群)を含めた:カゼイン対照、総ての限定IAAを添加したGMP(適正GMP)、および、Pheが限定因子であることを確認するために、残留Phe低下処理を施し、Pheを除く総ての限定IAAを添加したGMP(Pheを欠くGMP)。Pheを欠くGMPを与えて3日後に食物摂取が上手く行かなかった場合には、4日目に飲み水にPheを加えた(Phe1g/L)を加えた。
【0081】
試験2では、雄および雌PKUマウス(5〜8週齢)において、21日間Pheを飲み水に供給した場合(Phe1g/L)に成長を助けるアミノ酸およびGMP含有食の能力を試験した。3つの食餌療法群を含めた(n=10/群):Pheを欠くGMP食を与えたPKUマウス、Pheを欠くアミノ酸食を与えたPKUマウス、および適正GMP食を与えたWTマウス。本発明者らは、毎日、PKUマウスの飲み水の摂取を測定し、Pheの摂取量を決定するために蒸発に関して調整した。
【0082】
試験3では、47日間餌を与えた雄および雌PKUマウスにおいて最少量のPhe(試験2から決定した)を添加したアミノ酸およびGMP含有食の、成長を助け、血漿中および脳内のアミノ酸濃度に影響を与える能力を評価した。4つの食餌療法群を含めた:カゼイン(n=8)または適正GMP食(n=7)を与えた6週齢のWTマウス、および低Pheアミノ酸食(n=10)または低Phe GMP食(n=11)を与えた8〜10週齢のPKUマウス。各療法群における雄および雌マウスは同数であった。血液サンプルは、21日間餌を与えた後にヘパリン処理毛細管を用いてアミノ酸分析用に眼窩採血によって得た(n=5/群)。47日後にマウスを麻酔し、心臓放血によって屠殺し、断頭した。すぐに脳を摘出し、ドライアイスで冷却したガラス板の上に置いた。ビジュアルランドマークを用い、次の5領域:小脳、脳幹、視床下部、頭頂皮質および前部嗅皮質からサンプルを採取した。これらのサンプルを予め秤量したポリスチレン管に入れ、秤量してサンプル質量を求め、処理を行うまで−80℃で保存した。
【0083】
アミノ酸分析
血液を心臓穿刺により、終濃度2.7mmol/LのEDTAを含むシリンジに採取し、4℃、1700xgで15分の遠心分離によって血漿を単離した。血漿中の遊離アミノ酸の特性を、ポストカラムニンヒドリン誘導体化を用いるイオンクロマトグラフィーシステムを備えたBeckmann 6300アミノ酸分析装置を用いて決定した。これらのサンプルをスルホサリチル酸で除タンパクし、遠心分離し(14,000xg、5分)、0.2μmシリンジシルターを通した後、内部標準を加えてカラムに注入した。
【0084】
脳内の遊離アミノ酸の特性は、Amino Acid Analysis Laboratory, University of California-Davis, School of Veterinary Medicine (Davis, CA)にてBiochrom 30アミノ酸分析装置(Biochrom)を用いて測定した。脳サンプルからのアミノ酸の抽出手順は、内部標準としての100μmol/Lのノルロイシン(Sigma Chemicals)を含有する3%スルホサリチル酸を1:10(wt:v)の比率で添加すること、超音波ニードルで2分間ホモジナイズすること、4℃、14,000xgで20分間遠心分離すること、および上清を0.45μmシリンジドライブフィルターで濾過することを含んだ。濾液を0.4mol/LのLiOHでpH2.2に調整し、0.05mLをカラムに注入した。値はnmolアミノ酸/組織湿重として表す。
【0085】
統計学
統計分析は、SASバージョン8.2(SAS Institute)およびR(Universitat Wien, Vienna, Austria)を用いて行った。一般線形モデルを用いてデータを分析した。食餌療法群間の差は保護された最小有意差法によって決定した。いくつかのデータで見られたように、残差プロットが群間で不均等分散を示した場合には、対数変換したデータについて統計分析を行った。適当であれば、性差を共変量として含め、そのあり得る影響を調整した。療法群間の体重(BW)の変化は、試験1の反復測定分析を用いて評価した。PKUマウス間では、単純直線回帰を用いて、死亡48時間前の食餌性アミノ酸摂取と血漿中および脳内のアミノ酸濃度の間の相関を調べた。値は総て平均±SEとして表す。P≦0.05を有意とみなした。
【0086】
結果
試験1
3つの食餌療法群間で最初のBWと最終BWに差はなかった(図1参照)。試験42日間でカゼイン群と適正GMP群を比較すると、食物摂取およびBWに差はなかった。マウスは3日後にPheを欠くGMP食を食べるのを止め、この際にPheを飲み水に加え、食物摂取が再開した。3つの食餌群には、14日目〜42日目に毎日のBW変化における差はなかった。
【0087】
血漿中のアミノ酸特性は、カゼインに比べGMP摂取では有意に影響を受けた。適正GMPまたはPheを欠く食餌を与えたWTマウスは、IAA、トレオニン、イソロイシンおよびメチオニンの高い血漿濃度を示し、カゼイン食を与えたマウスにおける濃度のそれぞれ3倍、2.4倍および1.6倍であった(データは示されていない)。Pheを欠くGMP食を与えたマウスは、適正GMP群およびカゼイン群に比べて有意に低いPheおよびチロシン血漿濃度を示した。
【0088】
試験2
最初のBW(16〜18±1.4g)および最終BW(19〜21±1.3g)ならびに食物摂取(3.3〜4.1±0.3g/日)に、21日間、3つの療法群間で有意な有意な差はなかった。PKUマウスにおける平均Phe摂取量は、Pheを欠くアミノ酸食の摂取でPhe6.5±0.5mg/日、およびPheを欠くGMP食の摂取でPhe5.9±0.3mg/日であった(P>0.10)。飲み水中にPheを供給する場合には成長が制限されることがあるという試験1および2からの本発明者らの所見を考慮して、本発明者らは、試験3では低Pheアミノ酸食およびGMP食に、Phe2.5g/食餌kgを含むように添加を行うことにした。これにより、成長中のPKUマウスの毎日のPhe摂取は7.5〜10mg Pheとなった。
【0089】
試験3
BW増、摂食量とBW増の比率に基づく食物利用、およびタンパク質効率比には、4つの食餌療法群間で差はなかった(表3参照)。PKUマウスはWTマウスよりも約2g重く(P<0.05)、これは前者が2週齢早いことと一致していた。試験の終了時において、両遺伝子型とも雌マウスは雄マウスよりも体重が軽かった(20±1gと25±1g;n=17〜18;P<0.0001)。
【0090】
【表3】

【0091】
相対的臓器質量は、食餌および性差による有意な差を示した。腎臓質量は、アミノ酸食を与えたPKUマウスでは、他の群に比べ有意に重かった。心臓質量は、適正GMP食を与えたWTマウスでは、他の群に比べて有意に重かった。アミノ酸食またはGMP食を与えたPKUマウスは、WTマウスに比べ、相対的肝臓質量が有意に重かった。両遺伝子型とも、雌マウスは、雄マウスに比べ、有意に軽い相対的腎臓質量と有意に思い相対的心臓質量を示した。
【0092】
血漿中のアミノ酸特性は食餌および性差によって影響を受けた(表4参照)。
【0093】
【表4】

【0094】
アミノ酸食または低PheGMP食のいずれかを与えたPKUマウスは、カゼイン食またはGMP食のいずれかを与えたWTマウスに比べて、15倍高いPhe血漿濃度と、チロシンおよびプロリン血漿濃度における60〜70%の低下を示した。GMP食を与えたWTマウスおよびPKUマウスは双方とも、カゼイン食またはアミノ酸食を与えたWTマウスおよびPKUマウスにおける値の約2倍のトレオニンおよびイソロイシン血漿濃度を示した(P<0.002)。GMP食を与えたWTマウスおよびPKUマウス(272±11μmol/L)では、カゼイン食またはアミノ酸食を与えたWTマウスおよびPKUマウスに比べて低いリシンの血漿濃度が示された(443±31μmol/L;P<0.0001;n=17〜18)。両遺伝子型の雌マウスは、雄マウスに比べて高いチロシン(74±6対53±8μmol/L)およびトリプトファン(113±5対81±5μmol/L)血漿濃度を示した(P<0.01;n=17〜18)。
【0095】
アミノ酸食に比べてGMPを与えたPKUマウスは、血漿中のアミノ酸濃度に有意な差を示した。PKUマウスは、47日間、アミノ酸に比べてGMPを摂取した場合に、血漿中のPhe濃度に有意な11%の低下を示し、この効果は21日目には見られなかった。マウスを屠殺する前48時間のPhe摂取は、PKUマウスの場合と同等であったが(Phe16〜18mg/48時間)、WTマウスに比べて有意に低かった(Phe58〜66mg/48時間)。分枝型アミノ酸であるイソロイシン、ロイシンおよびバリンの血漿濃度の合計は、アミノ酸食に比べてGMP食を与えたPKUマウスでは50%増加したが、ロイシンの濃度は異ならなかった。PKUマウス間で、マウス屠殺前48時間の食餌性アミノ酸摂取と血漿中のアミノ酸濃度は相関していた。最も高い正の相関(P<0.0001;n=15)には、グリシン、R=0.88;トレオニン、R=0.45;イソロイシン、R=0.44;およびバリン、R=0.34が含まれる。
【0096】
小脳内のアミノ酸特性は食餌によっては有意に異なったが、性差によっては異ならなかった(表5参照)。PKUマウスの小脳内のPhe濃度は、WTマウスの値の3〜4倍であった(P<0.0001)。PKUマウスの小脳におけるチロシン濃度および分枝鎖アミノ酸の合計は、食餌に関係なく、WTマウスの約50%であった(P<0.0001)。GMP食を与えたPKUマウスは、アミノ酸食を与えたPKUマウスに比べて小脳内のPhe濃度に20%の低下を示した。
【0097】
さらに、このPhe濃度の20%の低下という応答は、採取した脳の5切片、すなわち、小脳、脳幹、視床下部、頭頂皮質および前部嗅皮質のそれぞれで示された(図2)。小脳内のトレオニンおよびイソロイシン濃度は、GMP食を与えたPKUマウスでは、アミノ酸食の場合よりも70〜100%増加した(P<0.0001)。GMP食を与えたPKUマウスの小脳では、アミノ酸食の場合よりもバリン濃度が高いという類似の傾向が示された(P<0.10)。PKUマウスの小脳内のPhe濃度は、血漿中のトレオニン、イソロイシンおよびバリン濃度、ならびに血漿中のトレオニン、イソロイシンおおよびバリン濃度の合計と逆相関していたR=0.65〜0.77(P<0.0001)(図3)。小脳内のグルタミン濃度は、食餌とは無関係に、WTマウスに比べてPKUマウスで11%低かった(P<0.05)。神経伝達物質セロトニンの前駆体であるトリプトファンおよび脳のグリシン作動性神経伝達物質系の前駆体であるグリシンの小脳内の濃度は群間で異ならなかった。
【0098】
【表5】

【0099】
考察
本試験では、IAAを添加したGMPを唯一のタンパク源として含有する食餌の、PKUマウスの成長を助け、血漿中および脳内のアミノ酸濃度に影響を与える能力を評価する。PKU食における低Pheタンパク質の供給源としてのGMPの利用を助ける上で、本発明者らは、アミノ酸食に比べてGMP食を与えたPKUマウスの血漿中および脳内のPhe濃度が有意に低いながら同等の成長を観察した。
【0100】
食餌性タンパク質の唯一の供給源として与える場合、GMPは、成長中のマウスでは、アルギニン、ヒスチジン、ロイシン、メチオニン、Phe、トリプトファンおよびチロシンを含む数種の限定量のIAAを含む。本発明者らの結果は、これらの限定IAAを添加したGMPを与えたマウスの十分な成長を示した。試験1では、カゼイン食または適正GMP食を与えた離乳WTマウスは、6週間にわたって事実上同じ成長を示した。試験3では、GMP食またはアミノ酸食を与えた、同様のPhe摂取のPKUマウスは、BW、食物効率およびタンパク質効率比の増加を示したが、これらは有意な差ではなかった。これらのデータは、限定IAAを添加したGMPが、成長中のマウスに関して食餌性タンパク質の、栄養的に十分な供給源を提供することを示した。
【0101】
IAAを欠く食餌の摂取は、ラットにおいて食物摂取を低下させるとともに、血漿中および脳内の限定IAA濃度を急速に低下させる(Harper, et al., Physiol Rev. 1970;50:428-39)。従って、試験1において、マウスがこの食餌のわずか3日後にPheを欠くGMP食を食べるのを止め、体重が低下したこと、および飲み水にPheを添加すると食物摂取が元に戻り、BWが増加したことは驚くことではない。適正GMP食を与えたWTマウスにおけるイソロイシンおよびトレオニンの血漿濃度は、カゼイン食を与えたWTマウスの2〜3倍であった。しかしながら、これらの血漿アミノ酸濃度の変化は、ひと度、Pheの欠乏が補正されてしまえば、GMPを与えたマウスにおける食物摂取を損なうことはなかった。従って、本発明者らは、総ての限定IAAを添加したGMPの摂取が、成長中のマウスにおける食物摂取を減退させずに血漿アミノ酸特性を変化させると結論付ける。
【0102】
他のIAAとは対照的に、トレオニンの肝臓取り込みは低く、肝臓トレオニンデヒドラターゼ活性(EC4.2.1.16)によるトレオニンのCOへの酸化は、ヒト(Darling et al., Am J Physiol Endocrinol Metab. 2000;278:E877-84)およびラット(Harper, et al., Physiol Rev. 1970;50:428-39)の双方に限定される。従って、総タンパク質の摂取を増加させずに食餌性トレオニンを増加させれば、食餌が通常レベルの15倍未満のトレオニンを供給するのであれば、毒性なく、血漿トレオニンプールが拡大される。血漿中のトレオニン濃度は、3つの試験の総てでカゼイン食およびアミノ酸食に比べてGMP摂取の場合に最大の増加を示した。
【0103】
トレオニンデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.103)によるトレオニンのグリシンへの分解は、ラットにおいては主要な異化経路であるが、ヒトではそうではない(Darling, et al., Am J Physiol Endocrinol Metab. 2000;278:E877-84)。高いグリシンレベルは、神経インパルスの伝達を阻害または刺激することができグリシン作動性神経伝達物質系のために、脳において神経毒性を示す可能性がある(Spencer et al., J Neurosci. 1989;9:2718-36)。しかしながら、血漿および脳の双方においてグリシン濃度の増加はないという本発明者らの実証は、通常のトレオニン摂取の3倍を与えるGMP食の供給が脳内のグリシン濃度の改変に十分でないことを示唆する。これらの所見を考え合わせると、食餌性GMPの安全性の裏付けとなる。
【0104】
さらに、47日間アミノ酸食に比べてGMPを与えたPKUマウスの血漿中のPhe濃度の11%の低下は、PKUの栄養管理についてのプラスの所見である。PKUの管理およびPheの既知の神経毒性作用に最も関連のある所見は、アミノ酸食に比べてGMPを与えたPKUマウスは脳の5切片においてPhe濃度の20%の低下を示したという本発明者らの所見である。脳内のPhe濃度は、PKUを有する個体の精神障害と最も高い相関がある(Donlon et al., Metabolic and Molecular Basis of Inherited Disease, in Scriver et al., editors, 8th ed. 77th chapter, Hyperphenylalaninemia: Phenylalanine Hydroxylase Deficiency, New York: McGraw-Hill; 2007)。GMPを与えたPKUマウスの脳内のPhe濃度が低いことの最も可能性の高い説明は、GMPの摂取によるLNAAの高い血漿レベルは、消化管に比べて脳におけるKmが有意に低いLNAA担体タンパク質を介した血液脳関門のPhe輸送を競合的に阻害するということである。この結論は、より高いトレオニン、イソロイシンおよびバリン血漿濃度とより低いPhe脳濃度との間の有意な逆相関によって裏付けられる。興味深いことに、従前の研究では、イソロイシンはラット脳のPhe輸送を競合的に阻害するがトレオニンはそうではないことが示されている(Tovar et al., J Neurochem. 1988;51:1285-93)。
【0105】
まとめると、本発明者らは、アミノ食に比べてIAAを添加した20%GMPを含む食餌を与えたPKUマウスは、同等の成長と低い血漿中および脳内Phe濃度を示すことを実証する。これらのデータにより、GMPは成長中のマウスにとって栄養的に十分な完全タンパク質へと処方することができることが確認され、長期摂食試験がGMP代謝へのさらなる洞察を与え得ることが示唆される。本発明者らの所見は、ヒトのPKUの栄養管理におけるGMPを用いて製造された食品および飲料の有効性を確認するための継続的研究を裏付けるものである。
【0106】
実施例2:GMPおよび添加AAを用いて製造された食品の食味
本実施例において、本出願者らは、GMPを含む種々の味の良い低phe食品および飲料を製造し、PKUを有する人における摂取者官能検査を行うことによってその許容性を評価した。結果は、GMPを用いて製造された製品の許容性を示す。
【0107】
材料および方法
食品および飲料
GMPを含有するストロベリープディング、ストロベリーフルーツレザー、チョコレート飲料、スナッククラッカーおよびオレンジスポーツ飲料は、Food Applications Laboratory at the Wisconsin Center for Dairy Research (CDR), University of Wisconsin-Madison (UW)において本試験のために開発された。BioPURE−GMP(Davisco Foods International, Inc., LeSueur, MN)をGMP製品へと処方した。BioPURE−GMPのアミノ酸特性をカゼインと比較して図4に示す。
【0108】
GMP製品と現行でPKU食に用いられている製品の間の比較を得る他ために食味試験に、市販のアミノ酸に基づくチョコレート飲料および低タンパク質クラッカーを含めた。GMPおよびアミノ酸飲料の窒素濃度は同等であった。総ての供試食品のエネルギーおよびタンパク質含量を表6に示す。
【0109】
【表6】

【0110】
食品および飲料の許容性を評価するための官能検査
官能検査のプロトコールは、the Social and Behavioral Sciences Institutional Review Board, UWによって認可されたものである。2004年および2005年のPKUサマーキャンプに、また、2005年のPKU家族会議に参加したPKU被験者(n=49;年齢12〜42歳)で3つの官能検査を行った。これらの検査はSensory Analysis Laboratory, Department of Food Science, UWまたはWaisman Centerで行った。
【0111】
20〜30gの試験サンプルに3桁のブラインドコードを付けてバランスの取れた無作為な順序で被験者に与えた。食品および飲料は、5点の快適尺度(1=極めて好ましくない、2=好ましくない、3=どちらでもない、4=好ましい、5=極めて好ましい)を用い、外観、臭い、味、食感および全体の許容性を含む5つの官能カテゴリーを評価した。
【0112】
統計分析
対応のあるt検定を行い、GMPチョコレート飲料およびアミノ酸チョコレート飲料の平均許容性スコアを分析した。群平均は、統計分析ソフトウエアパッケージ(SAS Institutes Inc., Version 9.1.3, Cary, NC, USA)を用いた両側t検定で決定したところ、p6 0.05で有意な差があるとみなされた。GMPスナッククラッカーおよび低タンパク質クラッカーの許容性スコアは、一般線形モデル法(PROC GLM)、次いで平均分離のためのフィッシャーの最小二乗平均を用いて比較した。データは平均と標準偏差で示す。
【0113】
結果
PKU被験者は、2004年と2005年のPKUイベント中に計7品目を試食した(表6)。これらの食品および飲料で、GMPストロベリープディングが最も許容性が高く(総スコア4.2±0.9)、他の食品の全体的な許容性はGMPスナッククラッカー(3.6±1.4)、GMPストロベリーフルーツレザー(3.4±1.0)、GMPチョコレート飲料(3.3±1.0)、GMPオレンジスポーツ飲料(3.3±1.1)および低タンパク質クラッカー(2.9±1.3)の順であった。アミノ酸チョコレート飲料は、最も許容性が低かった(2.5±1.4)。スコア3未満は、食品または飲料が特定のカテゴリーに関して許容されないことを示し、スコア3は、中立的な許容性を示す。
【0114】
PKU被験者は、GMPチョコレート飲料の外観、臭い、味および全体的な許容性を、アミノ酸に基づく飲料に比べて有意に許容性が高いと評価した(p≦0.05、表6B)。GMPスナッククラッカーの外観、臭いおよび味は、低タンパク質クラッカーに比べて有意に許容性が高いと評価されたが(p≦0.05)、全体的な許容性には、この2種類のクラッカー間で有意な差がなかった(表6C)。
【0115】
考察
これらのデータは、GMPの機能特性が飲料およびプディングなどの半固形食品に用いるのに特に十分好適であることを証明する。例えば、GMPは、等電点が3.8未満の酸に可溶であり、ゲルまたはフォームを形成し、良好な熱安定性を有する。GMPは、チョコレートフレーバーはGMPの乳製品臭をマスキングする助けをしたという付加的特徴をもって、飲料に用いられるチョコレートフレーバーを実際に増強した。これらのデータは、PKU食における主要タンパク源として現在必要とされているアミノ酸処方物よりも味の良い飲料を製造するためにGMPが使用可能であることを示唆する。
【0116】
実施例3:10週間GNP食後のPKU成人の事例研究
この実施例は、10週間、GMPに基づく食品を唯一のタンパク源として用いたPKUを有する29歳の男性の事例報告である。この被験者は、GMPに基づく食品が標準アミノ酸処方物よりも良い味であると報告し、彼の血漿Pheレベルは、GMPに基づく食事を摂取した10週間は総じて低かった。
【0117】
食事性GMPの安全性および許容性の評価を目的とするPKU被験者における外来患者試験を行うための認可は、ウィスコンシン大学マディソン校のヘルスサイエンス治験審査委員会によって与えられた。遺伝子型R261QおよびR408Wを有する29歳男性PKU被験者を試験した。この被験者は、生まれた時から12歳まで低Phe食を厳守してきたが、青年期に食事療法を止めたところ、痙性四肢不全麻痺および発作性疾患を発症し、これを抗痙攣薬療法で治療した。この被験者は、GMPと、食事性タンパク質の主要供給源としての自分の通常の処方アミノ酸処方物(Phenylade and Amino Acid Blend; Applied Nutrition, Cedar Knolls, NJ, USA)を比較する15週間の試験を遂行した。
【0118】
このプロトコールは、試験の最初の3週間と最後の2週間は通常のアミノ酸処方物を摂取する食事からなった。試験の中間の10週間は、アミノ酸処方物を総て被験者によって選択されたGMP食品に置き換え、これにはGMPオレンジスポーツ飲料(28oz/日;タンパク質28g)、GMPプディング(1.5カップ/日;タンパク質15g)およびGMPスナックバー(1バー/日;タンパク質5g)が含まれた。これらのGMP食品の栄養組成については表7を参照。
【0119】
試験6週間の間、Phe含量を厳密に管理して秤量小分けした食品を被験者宅に送った。食事のPhe含量は、選択された食品のアミノ酸含量に関する分析と、双方の食事において量およびパッキングロットを合致させ、残りの食品のPhe含量の計算によって求めた(US Department of Agriculture ARS (2005) USDA Nurient Database for Standard Reference, Release 18)。試験の残りの9週間では、被験者は、栄養士とともに計画を立てた献立を用い、自分で食品を購入し、秤量した。Phe摂取は15週間十分に管理されたが、ここに示す血液および血漿中のPhe濃度に関する結果は、食品が被験者に供給された6週間に基づくものである。
【0120】
【表7】

【0121】
アミノ酸食およびGMP食によって供給される多量要素特性は一定であり、10880〜11300kJ/日(2600〜2700kcal/日)、タンパク質から10〜11%のエネルギー(タンパク質0.84g/kg)、脂肪から24〜26%のエネルギー、および炭水化物から63〜66%のエネルギーを含んだ。被験者は試験中、87kgの体重を維持した。一日のPhe含量は、4週間はPhe1100mgであり、2週間はPhe1180mgであり、これは体重1kg当たりおよそ13mgのPheを供給した。アミノ酸処方物およびGMP食品はそれぞれ体重1kg当たり0.6gのタンパク質を供給した。これらのGMP食品に、次の限定アミノ酸に関して、完全タンパク質のアミノ酸スコアリングパターンの130%、またはチロシンに関しては150%を供給するように添加を行った:ヒスチジン23;ロイシン72;トリプトファン9;およびチロシン71(GMPタンパク質1g当たりのアミノ酸のmgで表す)。アミノ酸処方物によって供給されるものと同等の摂取量を確保するために、マルチビタミン/ミネラル添加物、カルシウム/リン添加物および500mgのL−チロシンを1日に2回、GMP食とともに摂取した。
【0122】
血液サンプルを、異なる値を得るために知られている2つの分析方法のうち1つ(Gregory et al (2007) Genet Med 9:761-765)を用いてPhe濃度の決定のために、一晩絶食後、朝食前に得た。09:00〜09:30の間に被験者によって濾紙上に採取された血液スポットのPhe濃度の分析のためにはタンデム質量分析法(MS/MS)を用い(Rashed et al. (1995) Pediatr Res 38: 324-331)、12:00〜12:30の間に診療施設現場で静脈穿刺によって得られた血漿アミノ酸特性の分析にはBeckman 6300アミノ酸分析装置を用いた(Slocum and Cummings (1991), Amino Acid Anaylsis of Physiological Samples, in Hommes, FA, ed., Techniques in Diagnostic Human Biochemical Genetics: A Laboratory Manual. New York: Wiley-Liss, 87?126)。
【0123】
アミノ酸食とGMP食期間の血液および血漿アミノ酸濃度の統計学的な差は、アミノ酸測定値が時間とは独立であったと仮定してt検定によって評価し、p<0.05を有意とみなした。Phe含量が既知の食事の供給に基づき100mgのPhe摂取に対して表した場合、平均空腹時血漿および血液Phe濃度は、アミノ酸食に比べてGMP食を摂取した場合に有意に13〜14%低下した(図5)。血漿中のPheの絶対濃度は、アミノ酸食に比べてGMP食を摂取した場合にはおよそ10%低下した(736から667mmol/Lへ)(表8参照)。血漿チロシン濃度には、GMP食とアミノ酸食で有意な差はなかった。健康診断、ならびに電解質、アルブミン、プレアルブミンおよび肝機能検査を含んだ血液化学検査の結果に基づけば、GMP食の摂取に伴う悪影響は示されなかった。
【0124】
GMPのアミノ酸特性およびPKUマウスでの試験(実施例1参照)と一致して、アミノ酸食に比べてGMP食を摂取した場合にLNAAの血漿濃度に有意な増加は示されなかった(表8)。トレオニンはGMP食の場合の2.6倍増加し、イソロイシンは1.7倍増加し、分枝鎖アミノ酸の合計は16%増加した。興味深いことに、この被験者は、従前に不可欠LNAA混合物の添加治験(PreKUnil; NiLab, Korsoer, Denmark)を受けていたが、発作が悪化したことからこれを停止した。このLNAA調製物は、トレオニンと分枝鎖アミノ酸の組合せから不可欠アミノ酸含量のおよそ80%を含むGMPよりも、チロシンおよびトリプトファン由来のアミノ酸割合が多く、トレオニンおよび分枝鎖アミノ酸由来の割合は少なかった。従って、GMPは、この被験者にとって安全な食事性LNAA源を提供するものと思われる。アミノ酸処方物に比べてGMPではプロリン摂取が2倍に増えることに関連して、GMP食でのプロリンの血漿濃度は40%増加した。アミノ酸食に比べてGMP食ではグルタミンおよびシトルリンの血漿濃度に微増があったが、これは肝機能検査における変化とは関連しなかった。
【0125】
【表8】

【0126】
全体として、被験者はGMP食を楽しみ、通常のアミノ酸食の場合よりも食事に注意を払っている感じがすると報告した。被験者はGMP食品を楽しんだことから、1日のうちにそれらを分配したいという気持ちが高まった。被験者は、アミノ酸処方物の場合は1日に1回であったのに対し、GMP食品は1日に約3回摂取した。PKU向けのアミノ酸医療食品では1日のうちに間隔をおくと、タンパク質合成のアミノ酸利用が改善されるために血中Pheレベルが低下することはよく知られている。従って、GMPの摂取に伴う血中Pheレベルの低下の1つの説明としては、1日を通じて十分量の高品質タンパク質を摂取することによるタンパク質合成の改善である。あるいは、GMPによるLNAAの摂取の増加は、血漿Pheレベルの低下、特に高いトレオニン摂取(1日当たり体重1kg当たり約70mg)に寄与する可能性がある。
【0127】
要するに、PKUの管理に必要とされる、制限の強い低Phe食のコンプライアンスは、青年期においても成人期においても依然として十分でなく、血中Pheレベルが上昇し、神経心理学的な悪化、母性PKUの悲劇的な結果がもたらされる。Phe含量が元々低い豊富な食品成分である食事性GMPは、PKUの栄養管理を改善する革新的なアプローチを提供する。本実施例は、PKU食にGMPを用いて製造された低Phe食品および飲料を処方すると、食事の味、多様性および利便性が向上することを示す。より味がよく、用途のより広い低Phe食は、PKUを有する人にとっての食事のコンプライアンス、代謝管理、および最終的には生活の質の改善をもたらし得る。
【0128】
実施例4:PKUの栄養管理のための主要タンパク源としての、限定アミノ酸を添加したGMPとアミノ酸処方物を比較する被験者11人の臨床試験
本実施例は、限定アミノ酸を添加したGMPをタンパク源として用いる食事が、PKUの栄養管理において合成AA処方物に代わる安全で許容性の高いものであることを示す。完全タンパク源として、GMPはAAに比べてタンパク質の保持およびフェニルアラニンの利用率を改善する。
【0129】
PKU食におけるGMPの利益の可能性をさらに評価するために、PKUを有する人において8日間の臨床試験を行った。この目的は、PKUを有する被験者における許容性、安全性、血漿AA濃度、およびタンパク質利用率の測定に関して、AA処方物の代わりにGMP食品を用いる効果を検討することであった。
【0130】
被験者および方法
被験者
2006年3月から2008年6月の間に本治験に参加した、ウィスコンシン大学マディソン校ウェイズマンセンターのバイオケミカル・ジェネティクス・プログラムで日常的に監視を受けていたPKUを有する12人の被験者。1人の被験者(10歳)は、本プロトコールを遂行できなかったために、試験から除外した。従って、11人の被験者からのデータ(年齢範囲:11〜31歳;男性7人、女性4人)を報告する(表9参照)。ウィスコンシン大学マディソン校ヘルスサイエンス治験審査委員会が本試験を認可した。
【0131】
参加基準は、従来型または変異型のPKUの診断、およびAA処方物の処方量の50%以上摂取することに同意することを含んだ。しかしながら、血漿フェニルアラニン濃度の最適な管理は、参加の必要条件ではなかった。最適な管理には、フェニルアラニン濃度を、新生児から12歳までは120〜360μmol/Lの間、青年は120〜600μmol/Lの間、成人は900μmol/L未満に維持することが含まれる。PKUの診断は、幼児期に食事療法を開始する前に測定されたフェニルアラニン濃度に基づくものであり、従来型PKUは1200μmol/L以下のフェニルアラニン濃度を示す(表9参照)。変異型PKUであると診断された1人の被験者(被験者1)以外、本試験の被験者は総て従来型PKUと診断された。
【0132】
突然変異分析は、Guldberg et al. (Hum Mol Genet 1993;2:1703-7)によって設計されたプライマーを用い、PAH遺伝子のDNA配列決定により各被験者について行った(Laboratory Service Section, Texas Department of State Health Services, Austin, TX)。総ての被験者が、PAH突然変異に関して異型接合性の混合型であった(表9)。5人の被験者が、主として従来型の表現型を表すと思われる2コピーの突然変異を示し、6人の被験者が、従来型の突然変異と、変異型および/または非PKU高フェニルアラニン血症突然変異を有するPKU患者に見られる突然変異を示した。
【0133】
各被験者の食事処方の正式な評価が2年の試験動員期間内に収まらなかったことから、総ての被験者のフェニルアラニン許容量は、試験開始前に決定した。この試験では、フェニルアラニン許容量は、血液スポットにおいて血中フェニルアラニン濃度を頻繁にモニタリングすることでフェニルアラニン摂取量の連続的な増加によって決定された一定血漿フェニルアラニン濃度(±5%分散)を考慮した食事性フェニルアラニン摂取量として定義した。各被験者の食事性フェニルアラニン許容量は、総ての食品、飲料および処方物を5日間供給し、各リハーサルの前と後に血液スポットのフェニルアラニン濃度を測定する1回以上の「リハーサル(dry runs)」を遂行することによって確認した。試験開始時の血漿フェニルアラニン濃度は192μmol/L(被験者10)〜1011μmol/L(被験者2;表9)の範囲であった。これらの血漿フェニルアラニン濃度を維持するための、被験者の食事性フェニルアラニン許容量は5.8mg/kg(被験者10)〜26.7mg/kg(被験者2)であった。
【0134】
【表9】

【0135】
試験プロトコール
本代謝試験では、各被験者は自分自身の対照としても用いられ、4日おきに2つの食事療法、すなわち、AA食(1〜4日)とGMP食(5〜8)を含んだ。ある24時間の献立はAA食で、別の24時間の献立はGMP食で計画され、各食事療法の全日に同じ献立を繰り返した(表10)。各食事において、AA処方物またはGMP製品は1日3回の食事のそれぞれに等しく分配した。1日のうちに等分のタンパク質を分布させると、タンパク質利用率が改善され、血漿フェニルアラニン濃度を低下させることができる。試験中、総ての食品、飲料、スナック、処方物およびGMP製品は、ウェイズマンセンターまたはウィスコンシン大学Clinical and Translational Research Core (UW-CTRC)で訓練を受けた食事療法スタッフによってグラム単位で秤量された。試験の全日で摂取量の同一化を図るために、被験者に総ての食品および飲料を摂取するように促した。被験者はこれを遂行できなかった。
【0136】
【表10】

【0137】
試験開始前2日間およびAA食の1日目と2日目は、自宅で摂取するように総ての食品および処方物を各被験者に提供した。AA食の継続(3日目と4日目)および4日間のGMP食(5〜8日目)のために、2日目の夕食前に各被験者をUW−CTRCに収容した。UW−CTRC収容中の全日に健康診断を遂行した。総ての被験者に、日常に見合った活動レベルを考慮して日に2〜3回の歩行または運動の遂行を要求した。また、食事およびスナックのタイミングも各被験者の日常と同じにした。
【0138】
1日目と2日目に、各被験者は、フェニルアラニンおよびチロシン分析のために濾紙に血液スポットを採取した。UW−CTRC収容中には、血漿AA用に毎日採血し、プレアルブミン、アルブミン、総タンパク質、電解質、グルコース、血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン、カルシウム、マグネシウム、リン酸塩、尿酸、総ビリルビンおよび直接ビリルビン、アルカリ性ホスファターゼならびに肝臓酵素(γ−グルタミルトランスペプチダーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼおよび乳酸デヒドロゲナーゼ)の血清濃度を測定するために化学血液検査を自動で行った。食後血液サンプルは総て、朝食開始3時間後または朝食2.5時間後に毎日採取した(3〜8日目)。
【0139】
最初の5人の被験者が本プロトコールを完了した後、データ安全性監視委員会がプロトコールおよび試験進行を評価した。委員会の提案の結果として、残りの6人の被験者では、GMP食の最初の2日(5日目と6日目)は血液化学検査用の採血を止め、AA食の最後の2日(3日目と4日目)およびGMP食の最後の2日(7日目と8日目)の朝食前の空腹時血液サンプルを追加した。総ての空腹時サンプルについて血漿AAを分析した。空腹時と食後の双方の血液サンプルが得られた6人の被験者の平均年齢は26±2歳であり、女性4人と男性2人(被験者6〜11;表9)が含まれた。
【0140】
GMP食品にはビタミンおよびミネラルを添加していなかったので、GMP食中には、総ての被験者にミネラルを添加した完全マルチビタミン(Phlexy-Vits; Nutritia North America, Gaithersburg, MD) またはTheragran M(Walgreen Co, Deerfield, IL)とTarget−Mins(Country Life, Hauppauge, NY)の組合せを与えた。AA食中にも、ビタミンおよびミネラルを含まない処方物を摂取した被験者には、GMP食の場合に供給したものと同じ添加物を与えた。必要であれば、年齢別食事摂取基準(Dietary Reference Intake)(DRI)(Institute of Medicine, Dietary Reference Intakes for Energy, Carbohydrates, Fiber, Fat, Protein and Amino Acids, Washington DC: National Academy Press, 2002)の奨励を満たすようにカルシウムの追加も行った。
【0141】
試験食
GMP(Bio-Pure GMP; Davisco, Le Sueur, MN)のAA含量は、ミズーリ大学Experimental Station Chemical Laboratoryで分析した。市販のGMPのフェニルアラニン含量は、フェニルアラニン0.4g/GMP100gであり、タンパク質含量は86.0g/GMP100gであった。このGMPを、フェニルアラニン耐性の高い3人の被験者に用いた。フェニルアラニン耐性の低い9人の被験者では、GMP原品をさらに精製して、フェニルアラニン含量を平均フェニルアラニン0.21±0.01g/GMP100g、平均タンパク質含量75.0±0.7g/GMP100gに引き下げた。GMPの精製はフェニルアラニン含量だけを低下させ、他のAAの割合は、市販のGMPに比べ精製GMPでは変化していなかった。
【0142】
GMPに4つの限定AA、すなわち、ヒスチジン23;ロイシン72;メチオニン28;およびトリプトファン9(GMPタンパク質1グラム当たりのAA終濃度をミリグラムで表す)を添加した。これは、2002 DRI(Institute of Medicine, Dietary Reference Intakes for Energy, Carbohydrates, Fiber, Fat, Protein and Amino Acids, Washington DC: National Academy Press, 2002)に基づいて見積もられた必要量の130%相当である。PKUではチロシンが不可欠AAであることから、チロシンを、終濃度71mg/GMPタンパク質となるように見積もられた必要量の150%で添加した。GMP食では、ほとんどの場合で、処方物のチロシン含量は見積もられた必要量よりも実質的に多かったことから、各被験者によって摂取された種々の処方物中に見られる添加チロシンの濃度を倍増させる試みは行わなかった。従って、総ての被験者で、AA食におけるチロシンの摂取量は、GMP製品が置き換えられた場合に摂取されるチロシンよりも多かった。
【0143】
タンパク源としてGMPを用いて製造された低フェニルアラニン食品は、本試験のためにウィスコンシン大学マディソン校のWisconsin Center for Dairy Researchによって開発された。試験の開始に、各被験者はGMPを用いて製造された種々の食品を試食し、GMP食の献立に含める2〜3品目を選択した。GMP飲料および食品には、オレンジフレーバースポーツ飲料、チョコレートフレーバーまたはキャラメルフレーバー飲料、チョコレートまたはストロベリープディング、およびシナモンクランチバーが含まれた(実施例3と同様;表7参照)。GMP食品中のフェニルアラニン含量の範囲はGMPの純度ならびにこれらの食品および飲料を製造するために用いられる付加的成分によって異なるが、一般に、一食分のGMP食品はタンパク質5〜10gおよびフェニルアラニン15〜30mgを供給した。
【0144】
食餌組成
AA食およびGMP食は、各被験者のフェニルアラニン許容量の試験前評価に基づいて計算され、エネルギー、タンパク質、フェニルアラニンおよび脂肪に関して管理された(表11参照)。AA食(1〜4日目)は被験者の通常のAA処方物を含み、被験者ごとに異なった。GMP食(5〜8日目)では、被験者のAA処方物の総一日摂取量をGMP製品に置き換えた。献立を作るのに用いた食品のフェニルアラニン含量は、選択された食品のAA分析によって、また、残りの食品のフェニルアラニン含量を計算することによって求めた。両食事とも、分析されなかった食品は量、銘柄およびパッキングロットを合致させ、フェニルアラニン含量が分析された食品は、GMP製品のフェニルアラニン含量を考慮した様々な量で用いた。
【0145】
食品のフェニルアラニン含量を定量するためのデータが限定されているため、食事混成物をフェニルアラニン含量の計算値を確認するためのフェニルアラニン分析用に回収した。従って、AA食およびGMP食の双方において2日間、24時間の間に各被験者によって摂取された総ての食品、処方物およびGMP食品を2回分採取した。この2回分をそれぞれ粉砕し、凍結乾燥させ、各混成物のアリコートをAA分析のためにミズーリ大学へ送った。各被験者のこの混成物分析を比較すると、AA食とGMP食のフェニルアラニン含量は有意に異なっていた(P=0.061)。
【0146】
【表11】

【0147】
測定
フェニルアラニン許容量を確定するために試験1日前および2日前に各被験者によって採取された血液スポットを、タンデム質量分析(MS/MS;データは示されていない)によってフェニルアラニンおよびチロシンに関して分析した。AA特性は、3〜8日目に採取した総ての空腹時および食後血漿サンプルについて、ポストカラムニンヒドリン誘導体化を用いるイオンクロマトグラフィーシステムを備えたBeckman 6300アミノ酸分析装置(Beckman-Coulter Inc, Fullerton, CA)を用いて得た。サンプルをスルホサリチル酸で徐タンパクし、遠心分離し(14,000xg;5分)、0.2μmシリンジフィルターを通した後、内部標準を加え、これをカラムに注入した。
【0148】
血清化学特性は、the Clinical Laboratory, the University of Wisconsin-Madison Hospital and Clinicsにおいて、標準的技術を用いることにより分析した。血漿インスリンは食後サンプルにおいて、3日目と4日目および7日目と8日目で被験者内でプールしたサンプルに対して、ヒトインスリンに特異的なラジオイムノアッセイ(Linco Research, St Charles, MO)を用いることにより測定した。インスリン様増殖因子I(IGF−I)は、4日目と8日目の食後血漿サンプルにおいて、IGF結合タンパク質を除去した後にHPLCにより測定した。なお、IGF−1の回収率は85〜90%であった。
【0149】
統計分析
統計分析は総て、Mac OS Xバージョン1.12用の統計プログラムR(R Project for Statistical Computing, Wirtschaftsuniversitat, Vienna, Austria)を用いて行った。食事混成物を分析した後、各被験者(n=2)について各食事内のAA値の平均を求めた後、値を両食事間で、対応のあるt検定を用いることにより比較した。また、対応のあるt検定(被験者に対して対応有り)を行い、AA食の最終日(4日目)からGMP食の最終日(8日目)までの食後および空腹時双方のサンプルで血漿AA値を比較した。血液化学検査および肝機能検査の変化も、同じ方法を用いることにより比較した。さらに、対応のあるt検定を行い、空腹時血漿を得ることができた6人の被験者のサブセットにおいて各食事内の空腹時AA濃度と食後AA濃度を比較した。どの比較も、P≦0.05であれば、統計的に有意であるとみなされた。AA食の最終日(4日目)の血漿フェニルアラニン濃度とGMP食の最終日(8日目)の血漿フェニルアラニン濃度を比較する主要エンドポイントに基づけば、達成されたサンプルサイズ(n=11)は、血漿フェニルアラニン濃度の変化が150μmol/Lであった場合に、P=0.05で検出力80%を与えるのに十分なものであった。
【0150】
結果
食事の許容性とAA組成
4日間GMP食を摂取した後、11人中10人の被験者が、GMP製品が通常のAA処方物よりも感覚的品質が優れていると主張した。さらに、試験の結論として、7人中6人の成人被験者が、GMPが食事の選択肢として利用できるようになったとしたら、通常のAA処方物よりもGMP製品を摂取するという強い好みを示した。
【0151】
現在の奨励と比較して、総ての不可欠AAの分析された摂取量(アミノ酸mg/食事性タンパク質g)はAA食およびGMP食の双方とも要件を満たす(World Health Organization, Protein and Amino Acid Requirements in Human Nutrition, Geneva Switzerland: United Nations University, 2007)。しかしながら、食事混成物のAA分析では、GMP食に比べてAA食を摂取する場合のAA摂取量にいくつかの有意な差が示された(表12参照)。GMPは高濃度のLNAAトレオニンおよびイソロイシンを含むことから、これらのAAの双方の平均摂取量は、AA食よりもGMP食で有意に高かった。GMPにチロシンをDRIの150%で、ロイシン、ヒスチジン、トリプトファンおよびメチオニンをDRIの130%で添加したにもかかわらず、これらのAAの摂取量は、メチオニン以外、AA食よりもGMPで有意に低かった。AA食に比べてGMP食を摂取した場合に有意に低かった他のAAには、不可欠AAであるリシン、ならびに可欠AAであるアルギニン、アラニン、グリシンおよびタウリンが含まれた。
【0152】
【表12】

【0153】
健康診断および血液化学
被験者が4日間主要タンパク源としてGMPを摂取した場合に、健康診断で検出された、または健康状態に悪影響を示すような被験者が訴えた身体の問題はなかった。GMP食(8日目;表13)に比べてAA食の最終日(4日目)に測定されたタンパク質の状態の指標としてのアルブミン、プレアルブミンもしくは総タンパク質の血清濃度、または腎臓の状態の指標としてのクレアチニンに有意な差はなかった。しかしながら、肝臓の尿素生成の指標としてのBUNは、4日目のAA食よりも7日目および8日目双方のGMP食の摂取で有意に低かった(図6参照)。IGF−Iの血漿濃度にはAA食とGMP食で有意な差はなく、これは両食事とも十分なタンパク質栄養であることを示唆している。血漿インスリン濃度はAA食に比べてGMP食で高く、わずかに有意であり(P=0.053)、血清グルコース濃度には有意な差はなかった。血清二酸化炭素含量(主として重炭酸である)は、AA食に比べてGMP食で有意に高く、これは全身酸含量の低さと一致している。電解質および肝機能検査を含む他の標準化学の平均濃度は、両食事とも正常範囲内に留まっていた(データは示されていない)。例外は、発作性疾患のために抗痙攣薬の投薬中にあった被験者2で測定された種々の肝機能検査(アラニンアミノトランスフェラーゼおよびγ−グルタミルトランスペプチダーゼ)の高い濃度であった。しかしながら、本試験下で測定されたこの上昇に比べてGMP食の摂取に伴ってこれらの肝機能検査におけるさらなる上昇は検出されなかった。
【0154】
【表13】

【0155】
血漿AA濃度
朝食2.5時間後に測定した場合、AA食に比べてGMP食で、血漿中の総AAの濃度は有意に高く、BUNの濃度は有意に低かった(図6参照)。これは、合成AAに比べて無傷なタンパク質源からのAAの吸収が遅いこと、およびGMPの摂取の場合のインスリン濃度の高さと一致している。
【0156】
フェニルアラニンおよびチロシン
GMP食(8日目;図7)に比べてAA食(4日目)の摂取では、血漿中のフェニルアラニンの平均食後濃度に有意な差はなかった(P=0.173)。T血漿中のフェニルアラニン濃度における平均変化は、フェニルアラニン57±52μmol/Lであった。個々の被験者間で、GMP食の摂取に対する血漿フェニルアラニン濃度の応答は一様でなく、フェニルアラニン175μmol/Lの低下からフェニルアラニン257μmol/Lの増加までの範囲であった。全体として、GMP食に比べてAA食を摂取する場合の血漿中のphe濃度の変化と性別、遺伝子型および年齢との間に一貫した関連はなかった。
【0157】
空腹時血漿と食後血漿の双方におけるフェニルアラニン濃度は、6人の成人被験者のサブセットに関して、4日目(AA食)および8日目(GMP食)に得られた。GMP食に対する食後応答は、このサブセット(n=6)では、最初の5人の被験者の場合よりも有意な差がなかった。4日間AA食を摂取すると、朝食2.5時間後に得た食後血漿中のフェニルアラニン濃度に比べて、一晩絶食後に得た血漿中のフェニルアラニン濃度には有意な10%の増加が見られた(P=0.048;図8参照)。これに対し、4日間GMP食を摂取した場合には、空腹状態で得た血漿と食後状態で得た血漿を比べても、血漿中のフェニルアラニン濃度に有意な変化はなかった。
【0158】
チロシンは、不可欠であり、アドレナリン、ノルエピネフリン、メラニンおよびチロキシンの前駆体であることから、PKU食において重要なAAである。食後または空腹時サンプルにおいて得られた血漿中チロシン濃度には、GMP食またはAA食の摂取で有意な差はなかった(表14参照)。一晩絶食後の血漿中チロシン濃度は、GMP食およびAA食双方の摂取で、食後濃度に比べて低かったが、GMP食は、正常範囲を下回る平均空腹時チロシン濃度をもたらした。
【0159】
付加的AA
AA食に比べてGMP食の摂取による、血漿中のAA特性の最も劇的な変化は、無毒なLNAAであるイソロイシンおよびトレオニンの食後濃度における2.25〜2.47倍の増加であり、これにより、これらの値は正常臨床範囲を超えるものとなった(表14参照)。GMP食によるイソロイシンおよびトレオニンの血漿濃度の有意な増加は、GMP食を摂取して24時間以内に生じ、GMP中のこれらのAAの高い濃度と一致していた(図9参照)。しかしながら、それぞれ5日後および7日後にイソロイシンおよびトレオニンの血漿濃度にはさらなる有意な増加は見られなかった。イソロイシン濃度は、一晩絶食後に得た血漿では差がなかったが、空腹時血漿中のトレオニン濃度は、AA食に比べてGMP食を摂取した場合には、依然として約2倍高かった。
【0160】
GMP食混成物およびAA食混成物のAA特性と一致して、AA食に比べてGMP食を摂取した場合には、血漿中のオルニチンおよびトリプトファンの食後濃度が有意に低く、血漿中のイソロイシンおよびトレオニン濃度が有意に高かった。一晩絶食後、AA食に比べてGMP食では、アルギニンの血漿濃度が有意に低く、トレオニン濃度が有意に高かった(表14参照)。
【0161】
【表14】

【0162】
これは、PKUの栄養管理に現在必要とされている合成AA処方物をGMP食品由来の無傷なタンパク質に置き換える有効性を検討するための最初の臨床試験である。PKUを有する被験者が、この管理された代謝食事試験において4日間主要タンパク源としてGMPを摂取した場合、有害な健康問題は見られず、血液化学は正常内に留まった(表13)。さらに、GMP製品は被験者に好まれ、これにより、PKUを有する人においてGMP製品とAA製品を比較する盲検食味試験の結果が確認される(実施例2参照)。従って、GMPを用いて製造された食品および飲料は双方ともPKU向けのフェニルアラニン制限食において用いるのに安全かつ許容性が高い。
【0163】
4日間にわたって、GMP製品を摂取した場合、AA処方物に比べて血漿フェニルアラニン濃度に有意な差はなかった(図7)。無傷なタンパク源としてのGMPは、合成AA源に比べてAAの吸収を遅延させ、フェニルアラニンおよびタンパク質合成のための他のAAを改善する。本試験では、AA食は、食後フェニルアラニン濃度に比べて有意に高い平均空腹時フェニルアラニン濃度を示したが(図8)、GMP食の場合に明らかな空腹時および食後フェニルアラニン濃度の有意差はなかった(表14)。このことは、GMP食が24時間にわたって、血漿中のフェニルアラニンの低い変動およびおそらくは低い平均濃度を誘導したことを示唆する。これは、AA処方物などの遊離型のAA源に比べて、GMPなどの無傷なタンパク質である場合に、タンパク質保持の増大およびより緩慢なAAの吸収速度に関連したAAの酸化の低減と一致する。
【0164】
GMP食の場合のタンパク質保持の向上の証拠はまた、AAを含有する朝食に比べてGMPを含有する朝食を食べた2.5時間後に測定した場合の、より低い血清BUNならびにより高い血漿インスリンおよび総AA濃度によっても示された(表13、図6)。尿素は血漿AA濃度に応答して直線的に生産され、窒素バランスの制御は主として尿素生産によって調節される。尿素合成のためのAAの肝臓利用の指標としてのBUNは、緩慢な内臓AA放出と相まって低いままであると思われる。従って、低いBUN濃度に関連して、無傷なタンパク源を用いた場合の血漿AA濃度のより緩慢な、より段階的な、持続的上昇は、主要タンパク質として合成AAをGMPに置き換えた場合に、尿素生産のために分解されるAAが少なく、その代わりにタンパク質合成のために保持されることを示唆する。
【0165】
イソロイシンおよびトレオニンを含む吸収後のAA(Calbet et al., J Nutr 2002;132:2174-82)は、インスリン放出を刺激し、その後、タンパク質合成を刺激し、タンパク質分解を阻害することが知られている(Schmid, et al., Pancreas 1992;7:698-704)。GMPはより緩慢で長期のアミノ酸放出を誘導するので、インスリン応答と正味のタンパク質合成の刺激を増強することができる。さらに、乳清タンパク質は、他の乳汁タンパク質画分または他の無傷なタンパク源よりも高い程度でインスリン濃度を上昇させることが示されている(Nilsson et al., Am J Clin Nutr 2004;80:1246-53)。従って、GMPの、AA異化作用および尿素生成を遅延させる能力は、インスリン分泌促進薬として作用するトレオニンおよびイソロイシンの食後濃度の上昇ならびにAA吸収の遅延を反映する。
【0166】
本試験では、2002 DRI推奨に基づいて、GMPに次の5つの限定AA、すなわち、ヒスチジン、ロイシン、メチオニン、トリプトファンおよびチロシンを添加した。ヒスチジン、ロイシンおよびトリプトファンの血漿濃度は正常範囲内に収まったが、このことは、GMP食にこれらのAAが十分に添加されていることを示唆する(表14)。これに対し、空腹状態で測定した場合、チロシンの血漿濃度は正常範囲を下回り(表14)、このことは、GMPにさらなるチロシン添加が必要とされ得ることを示唆する。実際に、1000mg/日を供給する添加からの付加的チロシンは、10週間、主要タンパク源としてGMPを摂取した1人の被験者に関して正常範囲内に収まるような血漿チロシン濃度を考慮したものである(実施例3参照)。要するに、本発明者らのデータは、PKU食において完全な食事性タンパク質源を提供するには、GMPにアルギニン、ヒスチジン、ロイシン、トリプトファンおよびチロシンを添加しなければならないことを示唆する。
【0167】
生涯PKU食を厳守することは極めて難しく、多くの場合、十分なコンプライアンスが得られず、高フェニルアラニン血症の神経心理学的帰結をもたらす。この研究は、合成AAの代わりに無傷な低フェニルアラニンタンパク質GMPを用いて製造された味の良い食品および飲料の使用によって、新たな改良されたパラダイムを示す。限定不可欠AAを添加した場合、GMPは、PKUの栄養管理のための主要タンパク源として合成AAに代わる安全かつ許容性のある選択肢であるのが明らかである。無傷なタンパク質として、大部分の窒素をAAから供給する食事に比べて、GMPはAAの吸収を遅延させ、タンパク質の保持およびフェニルアラニンの利用を改良する。
【0168】
実施例5:GMP純度の向上およびGMPに基づく食品のアミノ酸添加に関する質量収支計算の使用
本実施例は、GMPに基づく食品において用いるGMPの純度を高める方法を示す。さらに、本実施例は、GMPに基づく食品の不可欠アミノ酸添加の程度を決定するための質量収支計算の使用を示す。
【0169】
導入
1歳を超える人に関する不可欠アミノ酸の一日推奨摂取量(daily recommended intake)(DRI)は、食品の窒素含量に基づいて設定されたものである(表15参照)。
【0170】
【表15】

【0171】
アミノ酸のDRI値は、多くの場合、総窒素(N)×変換係数6.25の定義に基づきタンパク質当量(PE)で表される(Inst. of Medicine 2005)。ほとんどのタンパク質は約16%の窒素を含有し、変換係数6.25(タンパク質100g/N 16g=タンパク質6.25g/N g)が適当である(Nielsen SS 2003, Food Analysis, 3rd ed. New York : Kluwer Academic/Plenum Publishers)。しかしながら、この窒素/タンパク質変換係数は食品によって異なる。例えば、ほとんどの食事性タンパク質に用いられる窒素/タンパク質変換係数は6.38である(同著)。GMPはヘテロなペプチドであり、GMP分子にはグリコシル化されているものとされていないものがある。このために、GMP分子の変換係数はグリコシル化の存在程度に応じて6.70〜9.55の範囲であり得る。(Dziuba and Minkiewicz 1996, Int Dairy J 6(11-2):1017-44)。タンパク質を表すには変換係数6.47、GMPを表すには7.07を持ち類似体GMPの製造業者によって、タンパク質質量の定義におけるあいまいさが示されている(Davisco Foods Intl.)。
【0172】
食品の実際のタンパク質含量は、正確な窒素/タンパク質変換係数が知られていない場合には、測定が困難である。タンパク質は非タンパク質性の窒素、または塩基性アミノ酸を含み得るが、これらは他のアミノ酸よりも窒素が高い。食事に推奨レベルの不可欠アミノ酸を供給するGMPの場合、摂取される食品のタンパク質組成を、1gのタンパク質を構成するか明確な定義を用いて知らなければならない。本実施例では、1歳を超える人に関する不可欠アミノ酸のDRIの設定に用いられたタンパク質のInst of Medicine (Inst. of Medicine. 2005)の定義に従って、変換係数6.25を用いた(表15参照)。
【0173】
乳清からGMPを単離するための現行の大規模技術は、イオン交換クロマトグラフィーまたは限外濾過を用いる。GMPはの等電点(pI)は3.8より小さいが、他の主要な乳清タンパク質のpI値は4.3より大きい。GMPと他の乳清タンパク質の間のこの物理化学的違いは、乳清からGMPを分離するための単離プロセスでよく用いられる。イオン交換クロマトグラフィーによって単離された市販のGMPは、一般に、残留する乳清タンパク質由来のPhe含量が多すぎるので、PKU食品として十分な純粋がない(すなわち、Phe 5mg/製品g、製造業者の文献、Davisco foods Intl., Eden Prairie, Minn., U.S.A.)。従来のアミノ酸処方物はPheフリーであり、PKUを有する人は自分の一日許容量を満たすようにPheを含有する自然食品を摂取することができる。PKU食においてアミノ酸処方物の代わりとしてGMPを実現可能なタンパク質とするためには、GMP純度を高め、Phe含量を低減する改良型のプロセスが必要とされる。
【0174】
PKUを有する人のためのGMP食品の安全性および実現可能性を試験すべくヒト臨床試験を行うために、4日間15人に供給するのに十分な精製度の高いGMPを調製するためのパイロットスケールプロセスを開発した。食品級の材料および食品に認可されている施設を用い、次の作業単位:(1)陽イオン交換クロマトグラフィー、(2)限外濾過およびダイアフィルトレーション(UF/DF)、および(3)凍結乾燥をこの順序で用いて、5kgの精製GMPを製造した。さらに、アミノ酸置換に関して明確に定義された基準を設定するために質量収支計算を開発した。添加を行った精製GMPを用い、ヒト臨床試験で摂取されるGMP食品を調製した。
【0175】
材料および方法
このセクションは、3つのサブセクションに分けられている:(1)食品級の材料を用いて精製GMPを製造するために用いた作業単位、(2)GMP回収率および精製GMPに添加するためのアミノ酸の質量を決定するために用いる質量収支計算、および(3)臨床試験および1患者応答において摂取されたGMP食品の調製および分析。
【0176】
GMP精製プロセス
未精製GMP(BioPure GMP, Davisco Foods Intl.)中の夾雑乳清タンパク質を陽イオン交換樹脂への吸着によって捕捉し、GMPをフロースルー画分中に回収した。限外濾過/ダイアフィルトレーション(UF/DF)を用い、GMPを濃縮し、ペプチド、塩および非タンパク質性窒素を洗い流した。凍結乾燥を用い、精製、濃縮GMPを乾燥させた。
【0177】
陽イオン交換クロマトグラフィー
20cm径クロマトグラフィーカラム(INdEX, GE Healthcare, Piscataway, N.J., U.S.A.)SP Sepharose Bigビーズ(GE Healthcare)を充填した。カラム体積(CV)は5.34Lであり、ベッド高は18cmであった。
【0178】
フィード液(75g/L)は、未精製GMP(BioPure GMP, Davisco Foods Intl.)と10mM乳酸ナトリウムpH4を混合し、0.45μm孔径フィルター(Sartobran P, Sartorius, Edgewood, N.Y., U.S.A.)で濾過することによって調製した。平衡バッファーおよび溶出バッファーは、それぞれ食品級の50mM乳酸ナトリウムpH4、および10mM NaOH pH12であった。平衡バッファーおよびGMPフィード液は4℃に保持して、微生物の成長を抑えた。溶出バッファーは22℃に保持した。流速は950mL/分であった。各陽イオン交換サイクルは4工程からなった:(1)2CVの平衡バッファーを用いてカラムをpH4とし、(2)0.5CVのフィード液をカラムに適用し、(3)カラムを平衡バッファーですすぎ(この場合、まず、0.3CVの流出液を廃棄し(カラム排除容積量)、次に、2CVの精製GMPを回収しり)、(4)2.5CVの溶出バッファーを用い、結合したタンパク質をカラムから脱着させた。5回の試みはそれぞれ9〜11回の連続サイクルからなった。各試みから約100Lの希釈GMPタンパク質溶液を作製した。陽イオン交換カラムを0.2M NaOHを送り込むことで洗浄し、1時間保持した後、カラムを10mM NaOH中で保存した。
【0179】
限外濾過およびダイアフィルトレーション
陽イオン交換体からのGMP流出液を、1M NaOHを加えることでpH7に調整し、中空繊維限外濾過膜(3kDa、3.3m、UFP−3−C−55、GE Healthcare)を用いて60℃で濃縮した。適用圧力は1.4バールであった。GMP溶液を100Lから10Lに濃縮した後、20Lの蒸留水を加え、この溶液を再び10Lに濃縮した。この濃縮液を、0.45μm孔径フィルター(Sartorius)を用いて清浄な容器中へ濾過し、4℃で保存した。使用する度にその前後に、UF膜を、100ppのNaOCl(漂白剤)を含有する0.2M NaOHを用い、50℃で30分間洗浄した。UF膜は10ppmのNaOCl中で保存した。
【0180】
凍結乾燥
濃縮し、濾過除菌したGMP溶液を1.2または2Lガラス凍結乾燥フラスコ上の薄膜として凍結させ、48時間乾燥させた(Lyphlock6, Labconco, Kansas City, Mo., U.S.A.)。GMP粉末を回収し、秤量し、一部を分析に用いた。
【0181】
組成分析
粗タンパク質分析(CP)および完全なアミノ酸プロファイリング(AAP)は、Experiment Station Chemical Laboratories (Univ. of Missouri-Columbia, Columbia, Mo., U.S.A.)によって行った。AAPにはAOAC公定法982.30を用い、CPにはAOAC公定法990.03を用いた([AOAC] Assn. of Official Analytical Chemists, Intl. 2005. Official methods of analysis of official analytical chemists. 18th ed. Gaithersburg , Md. : AOAC)。結果は、精製GMP乾重100g当たりのグラムとして報告した。変換係数6.25×総窒素を用いて、結果をPEに基づいて表した。全てのサンプルについて分析を2回行った。
【0182】
質量収支計算
質量収支計算は、(1)製造プロセスからのGMP回収率を決定するために用いる計算、(2)アミノ酸添加に用いるリシン基準、および(3)添加アミノ酸の必要量を決定するために用いる方法を表すために提案するものである。
【0183】
GMP回収率
回収率は、PEに基づいて計算した。フィード液中のPEのグラム(MPE,feed)は、GMP供給濃度(75g/L)に粉末1グラム当たりのPEグラム(CP分析から)を掛け、次に、処理されたフィード液の総容量を掛けることによって求めた。回収されたPEの総グラム(MPE,recovered)は、精製GMP粉末の質量と精製GMP1グラム当たりのPEグラム(CP分析から)を掛けることによって得た。GMP回収率(%)は、MPE,recovered/MPE,feed×100に相当した。
【0184】
アミノ酸添加のためのリシン基準
精製GMPがDRIおよび臨床試験によって設定された栄養目標値を満たすためには、アミノ酸添加が必要である。リシン(Lys)は目標値に最も近いため、添加の質量収支計算の基準として選択された(表16参照、C欄とD欄を比較)。PKUに対しては、His、Leu、Met、TrpおよびTyrの5つの不可欠アミノ酸の添加だけを要した。可決の、条件による不可欠アミノ酸は添加しなかった。
【0185】
遊離アミノ酸は、無傷なタンパク質によって供給されるものよりも速く吸収および分解される。従って、臨床試験の目標アミノ酸組成はDRIレベルを超えるように設定した。His、Leu、MetおよびTrpの目標値はDRIレベルの130%に設定した。アミノ酸処方物は高レベルのTyrが富化されていることが多いので、Tyrは、DRIレベルの150%を添加した。DRIを満たすためのGMPへの添加に関する表および図では、PheとTyrは、MetとCysの場合と同様に一緒に示すが、これはTyrとCysが、それぞれPheおよびMetから合成可能な、条件による可欠アミノ酸であるためである。しかしながら、PKU患者では、TyrはPheから合成できない。
【0186】
【表16】

【0187】
アミノ酸添加計算
添加による試みは、精製GMPにアミノ酸を添加することは、分子(アミノ酸mg)と分母(PE g)の双方を変化させることによってアミノ酸目標値(アミノ酸mg/PE g)を変化させるということである。添加計算のための2つの方法を示す。一方は分母に変化を含み、他方は含まない。両方法とも分子の変化を考慮する。アミノ酸添加を計算するために用いるステップは、上の表16に示されている。AAPに関する試験結果を用いて、精製GMP1グラム当たりの各アミノ酸のミリグラムを得た(A列)。CPに関する試験結果(B列)をA列で割って、PE基準のGMPアミノ酸組成を得た(C列)。精製GMPアミノ酸組成を臨床試験目標値に匹敵させるためには、PE基準への変換(C列)は必要であった(D列)。各臨床試験目標値から精製GMPのアミノ酸値を差し引いて、各添加アミノ酸の必要な質量を得た(E列)。必要なアミノ酸値(E列)を精製GMPアミノ酸値(C列)に加えることによって、添加を行ったGMPの組成を計算した(F列)。添加計算のためのこの方法は、アミノ酸組成の分母にアミノ酸を加える影響を無視した(mg/PE g)。
【0188】
分母の変化を考慮するためには、添加による、精製GMP1グラム当たりのPEグラムの増加を考慮に入れなければならない(表16、GおよびH列)。このために、1gの精製GMPに対して必要とされる添加アミノ酸の総窒素寄与率を分子式から決定し、6.25を掛けて、添加されたアミノ酸が寄与するPEの総グラムを求めた。添加アミノ酸由来のPEグラムを、精製GMP1g当たりのPEグラム(B列)に加え、精製GMP1グラム当たりのPEグラム補正値を得た(G列)。添加を行った組成(F列)にB列を掛け、G列で割って、分母の変化を考慮した(H列)。
【0189】
添加を行ったGMP組成補正値は、補正前の組成と統計的な有意差はなかった(表16、H列とF列を比較)(P>0.05)。従って、本試験において精製GMPに添加を行うために用いた計算方法では、添加されたアミノ酸の分母への寄与は無視できるものと思われた。
【0190】
GMP食品の調製および分析
GMPストロベリープディングの調理法を表17に示す。精製GMP、添加アミノ酸およびコーヒーフレッシュ(Flavorite Non-Dairy Creamer, SuperValu, Eden Prairie, Minn., U.S.A.)は、GMPストロベリープディングにアミノ酸を与えた。精製GMP、コーヒーフレッシュ、添加アミノ酸からのアミノ酸寄与を用いて、表16で従前に示されている方法を用いて、プディングのアミノ酸組成をPE基準で計算した。
【0191】
【表17】

【0192】
統計分析
統計分析は、一元配置分散分析(ANOVA)(Minitab Statistical Software, Release 13.32, State College, Pa., U.S.A.)を用いて行い、添加を行ったGMPの組成を、分母を考慮に入れる場合と入れない場合で比較した(表16)。信頼区間は、計算されたGMPストロベリープディングの組成と見られた組成およびDRI値と比較するために設定した。95%信頼水準を用いて信頼区間を設定し、統計的有意性をα<0.05で表した。
【0193】
結果
本試験の目的は、15人のPKU被験者に8日間の臨床試験に参加している間にGMPを供給するのに十分な量で、低Pheの精製GMPを製造することであった。精製GMPには、GMP食品で用いる栄養的に完全なタンパク源を提供するために、不可欠限定アミノ酸の添加が必要であった。PKU食用の味の良いタンパク源としてのGMP食品の安全性および有効性を調べた。以下のセクションは、どのようにしてこれらの目的を満たしたかを述べるが、精製GMPの回収率およびPhe含量に対するパイロットプラントプロセスの影響、GMPストロベリープディングにおけるアミノ酸に関する質量収支、およびGMPストロベリープディングのアミノ酸組成とDRIおよびアミノ酸処方物の比較、およびPKU被験者の血漿アミノ酸レベルに対する精製、添加したGMP食品の影響に分けた。
【0194】
Phe含量およびGMP回収率に対する精製プロセスの影響
表18は、Phe含量、回収率および各実験の陽イオン交換の回数を含む。未精製GMP中のPheは、精製プロセスによって、4.7±0.5mg/PE gから2.7±0.4mg/PE gに、47%低減された。平均GMP回収率は52±4%であった。このGMPの低い回収率は、主として、GMPの一部が陽イオン交換カラムに結合し、フロースルー画分に回収されないためであった。市販のGMPの純度を高めるために用いた精製プロセスは、一貫した、再現性のあるPhe濃縮を与え、5回の実験によって生産された精製GMPのPhe濃度間に統計的な差はなかった(P>0.05)。
【0195】
【表18】

【0196】
実験ごとのUF膜を経たGMP伝達を表19に示す。全体として、UF膜によるGMP保持は96±2%であった。GMPの分子量は約7kDaであるが、pH4以上では見掛けの分子量は45kDaである。GMP溶液のpHは、3kDa膜を経たGMP伝達を最小にするために、UF/DF工程では7まで引き上げた。このことがおそらく、UF工程で見られた高い回収率を説明する。
【0197】
【表19】

【0198】
アミノ酸添加計算値およびGMP食品組成の比較
GMPストロベリープディングを分析し、組成を計算されたアミノ酸組成と比較した(表20)。精製GMP(表20、A列)に、コーヒーフレッシュ由来の添加アミノ酸の場合(C列)と同様に添加されたアミノ酸による分母の変化を無視した質量収支法を用いて決定したアミノ酸(B列)を添加した。A、BおよびC列の合計は、分母の変化を無視するGMPプディングの計算組成であった(D列)。
【0199】
【表20】

【0200】
比較のため、GMPストロベリープディングのアミノ酸組成を、分母の変化を含めて計算した(表20、E列)。分母の寄与を無視すると、観測値に比べてアミノ酸組成計算値が平均30%の過大評価となった(表20、D列とF列を比較)。分母の寄与を含めることで、アミノ酸組成の計算補正値は、Tyr(P<0.05)を除き、組成観測値と有意差はなかった(P>0.05)(表20、E列とF列を比較)。GMPストロベリープディングのアミノ酸組成観測値(F列)は、全てのDRI目標値を満たすか、上回った(表15)。
【0201】
GMPストロベリープディングのアミノ酸組成をアミノ酸処方物と比較した(図10参照)。アミノ酸処方物はGMPストロベリープディングよりも有意に多いHis、Leu、Met+Cys、TyrおよびTrpを含んでいた(P<0.05)。しかしながら、アミノ酸処方物およびGMPストロベリープディングは双方とも、全ての不可欠アミノ酸に関するDRI目標値を満たすか、上回った(P>0.05、表15)。
【0202】
考察
精製GMPの製造
GMPの総回収率の低さ(52±4%)は、GMPと陽イオン交換カラムの間の相互作用にあり、GMPの一部のカラムへの結合が起こった。GMPのカラムへの結合は、GMPの不均質性によるものであった。GMP分子の中には、操作pH4で他のものよりも負電荷が小さく、従って、陽イオン交換カラムに結合したものがある。それより高いpHで操作すると、GMPの負電荷が増すことにより、GMPのカラムへの結合が最小となってしまう。これは、残留する乳清タンパク質の正電荷が減るので、これらのタンパク質と陽イオン交換カラムの間の静電気力の低下も招く。操作pHを4より大きくすると、純度が劣ってしまう。純度は、臨床試験において用いるGMPの製造では、回収率よりも優先されるものであった。
【0203】
UF/DFは、最終乾燥工程の前に、低分子量の溶質を除去し、GMPを濃縮した。UF/DFはALAおよびBLGなどの夾雑乳清タンパク質を除去することができないが、これはこれらのタンパク質が3kDaの膜を透過するには大きい過ぎるためである。他方、乳清ペプチドなどの低分子量溶質は、UF/DFによって除去されるのに十分小さく、Pheを含み得る。
【0204】
凍結乾燥は、フレーバーまたは臭いがなく、水に溶けて透明となる微細な白色粉末を生産した(データは示されていない)。しかしながら、この乾燥法の欠点は、処理時間が長いことであった。このプロセスの他の各工程は1日で完了することができたが、凍結乾燥は完了に数日かかった。集中的に時間を要するにもかかわらず、凍結乾燥は、本試験で用いるための精製GMPを乾燥させるのに最も実際的な選択肢であった。噴霧乾燥は、GMPの損失の可能性があり、少量の製品を乾燥さあせる方法では制限があったので使用しなかった。大規模生産では、噴霧乾燥は方法の選択肢となる。
【0205】
製造されたGMPのアミノ酸添加
GMPの添加に用いる計算方法は、分母において、添加されたアミノ酸由来のPEグラムを無視したが、容易に実装され、全ての不可欠アミノ酸のDRI目標値を満たすか、上回ったGMPストロベリープディングが得られた(表20)。GMP単独では、添加されるアミノ酸からの分母の変化を無視すると、統計的に有意に異なるGMP組成は得られなかった(表16、F列とH列を比較)。
【0206】
コーヒーフレッシュおよび添加アミノ酸の双方の添加からの分母の変化を無視すると、観測値に比べてアミノ酸が30%過大評価され、9つのうち6つのアミノ酸が統計的に有意に観測値を下回った(表20、D列とF列を比較)。他方、分母において添加されるアミノ酸によるPEを考慮した場合には、計算補正値は、Tyr(P<0.05)以外は、観測値と一致した(P>0.05)(表20、E列とF列を比較)。しかしながら、Tyrは、α<0.01(P>0.01)で観測値と比べて統計的に有意な差はなかった。Tyr期待値よりも低いのは、Tyr添加物の純度の低さによるものであった。Tyrの光分解が起こり得、製造または貯蔵中のいくつかの時点で起こることがあり、これにより期待される純度よりも低くなる。TyrのDRIはGMP食品に見合っていたが、Tyr添加を増すと、より高いTyrレベルが得られる。
【0207】
GMP単独の添加計算では、アミノ酸組成への影響を無視でき、実装形態が容易なために、簡単であることが合理的であるが、GMP食品に対して質量収支計算を行う場合には、それを行うのは合理的ではなかった。GMPと添加アミノ酸はGMPプディングの15%(w/w)を構成するが、コーヒーフレッシュはプディングの40%(w/w)近くを構成し、最終組成に有意な影響を有した。
【0208】
アミノ酸の栄養要求は静態的対象ではないが、本研究の質量収支計算法は一般に、最新の科学に基づくヒト食事の栄養要求を満たすか、上回るために、GMP食品に添加を行うのは有用である。
【0209】
実施例6:AAに基づく処方物に比べた場合の本発明のGMP食品の許容性
本実施例において、本発明者らは、Cambrooke Foods, LLC, Ayer, Massachusettsによって製造された本発明の医療食品Bettermilk(商標)と、Abbott Nutrition, Columbus, Ohioによって製造されたPKU食用の従来のアミノ酸処方物Phenex−2(商標)の許容性を比較するための官能検査を行った。Bettermilkは、GMPおよび添加物量のアミノ酸アルギニン、ロイシン、チロシン、トリプトファンおよびヒスチジンを含有した。両処方物にビタミンおよびミネラルを添加し、栄養的に完全な医療食品とした。これらの結果は、GMP Bettermilkは、PKUおよび非PKU成人被験者の双方で、AAに基づくPhenex−2に比べて有意に許容性が高いことを示す。
【0210】
本試験において、27人の非PKU成人と4人のPKU成人がBettermilkとPhenex−2の双方を試食した。次に、参加者が1〜8の尺度で各製品の許容性を評価した。1−極めて好ましくない;2−あまり好ましくない;3−好ましくない;4−やや好ましくない;5−やや好ましい;6−好ましい;7−非常に好ましい;および8−極めて好ましい。結果を図11に示す。示されたデータから分かるように、参加者は、総ての許容性判定基準(臭い、味、後味および全体)において、GMP食品をAA処方物よりもずっと高いと評価し、許容性の違いは、非PKU参加者に比べてPKU参加者の方が実質的に大きかった。このことは、従来のアミノ酸処方物に比べて本発明のGMP医療食品の利点のさらなる証拠となる。
【0211】
実施例7:PKUを有する人におけるグレリンレベルに対する、アミノ酸に比べてのGMP食品の効果
満腹感を増進するGMP医療食品の可能性が与えられたことから、本試験の目的は、AAに基づく朝食に比べてGMP医療食品の朝食を摂取したPKUを有する人において、視覚的評価スケール(VAS)を用いて満腹感を評価し、グレリンの血漿濃度を比較することであった。
【0212】
本試験では、上記の実施例4で報告された試験からの付加的データを用い、PKUを有する人において、AAに基づく朝食に比べた場合の、GMP食品の朝食の、満腹感を増進し、食欲刺激ホルモンであるグレリンの血漿濃度に影響を及ぼす能力を示す。実施例4で特徴を示した11人のPKU被験者(成人8人と11〜14歳の少年3人)を、4日間2回の処置、すなわち、AAに基づく食事の後に総てのAA処方物をGMP食品に置き換えた食事を用いた入院患者代謝試験において、自身の対照として用いた。グレリンの血漿濃度を朝食前と180分後に得た。満腹感は、朝食前、朝食直後および150分後に視覚的評価スケール度を用いて評価した。食後グレリン濃度は、AAに基づく朝食に比べてGMPで有意に低く(p=0.03)、空腹時グレリンには差はなかった。食後グレリン濃度の低さは朝食後の満腹感の高さと関連しており、GMPによる満腹感がAAに比べて高いことを示唆する。これらの結果は、持続的なグレリンの抑制を示し、GMPを含有する食事を摂取した場合の満腹感がAAを摂取した場合に比べて大きいことを示唆する。
【0213】
材料および方法
血漿グレリンの測定
食後血液サンプルは総て、朝食開始の180分後(完了から150分後)に採取した。最後の6人の被験者(被験者6〜11)については、AA食の最後の2日(3日目と4日目)およびGMP食の最後の2日(7日目と8日目)の朝食前に空腹時血液サンプルも採取した。総血漿グレリンを、ラジオイムノアッセイ(Linco Research, St. Charles, MO)によって、空腹時サンプル(n=6)および食後サンプル(n=11)で測定し、被験者ごとに、3日目+4日目(AA食)および7日目+8日目(GMP食)で等量の血漿を合わせた(これらの日で血漿AA特性の安定性が見られたことで裏付けが得られたため)。被験者2の総グレリンは、その挿入値が標準曲線の最高濃度を大きく超えた明らかな統計的アウトライアーであったことから、分析から除外した。
【0214】
摂食動機付けVAS質問
各被験者は、4問の摂食動機付けVAS質問を、朝食前、朝食直後および朝食終了から2時間後の3回遂行し、食欲および満腹感の主観的尺度を評価した。各質問は、どちらかの端に反対の記述がある100mmの線からなった。被験者には、次の質問に関してその時の自分の感じを最もよく表す線の上に垂直のマークを付けて示してもらった:(1)どのくらい強く食べたいと思いますか、(2)どのくらい空腹を感じますか、(3)どのくらい満腹感を感じますか、および(4)どのくらいの食品を食べることができると思いますか(食品摂取見込み(prospective food consumption)、PFC)。摂食動機付けVAS質問の4つの質問を反映する食欲スコアを質問ごとに、下式:食欲スコア(mm)=[摂食欲求+空腹感+(100−満腹感)+PFC]/4を用いて計算した。
【0215】
統計分析
統計分析は総て、Mac OS Xバージョン2.9用統計プログラムR(R Project for Statistical Computing, Wirtschaftsuniversitat, Vienna, Austria)を用いて行った。一次分析は、対応のある両側t検定(被験者に対して対応有り)を用いて行った。検定はp<0.05で有意とみなし、値は平均±SEMである。空腹時および食後血漿グレリン値を、各食事処置内(例えば、空腹時AAと食後AA)および食事処置間(例えば、空腹時AAと空腹時GMP)で、対応のあるt検定(被験者に対して対応有り)を用いて比較した。AA食の最終日とGMP食の最終日の摂食動機付けVAS質問を、食事内(例えば、空腹時AAと食後AA)および食時間(例えば、空腹時AAと空腹時GMP)で比較した。二次分析は、毎日のVAS質問への回答およびグレリン(gherlin)血漿値に対するBMI、食事処置、年齢、朝食時の多量要素摂取量、血漿pheおよび血漿値(グレリン、インスリンおよび/または総AA)の影響を調べるために線形混合効果モデルを用い、ランダム被験者効果を管理した。被験者効果がなければ、固定された効果線形モデルを用いた。有意でない変数を除去する変数減少法を用いて、ベストモデルを見出した。
【0216】
結果
摂食動機付けVAS特性
摂食動機付けVAS特性は、いずれの時点でもAA食(4日)とGMP食(8日)の間に有意な差はなかった。しかしながら、予想されたように、食欲特性は、AA朝食またはGMP朝食のいずれかを摂取する前、摂取直後、2時間後で有意に変化した(データは示されていない)。タンパク質摂取量は、混合効果統計モデルを用い、VAS質問に関して最も一般的な有意変数であると確認された。朝食のタンパク質含量は、朝食直後の食欲スコアと有意な負の関係が示され(p=0.01)、従って、朝食時にタンパク質摂取量が増すにつれ、食欲スコアは下がった。朝食直後の食欲スコアに関する最終モデルでは、タンパク質含量に加えて他の有意な因子として、BMI、年齢および食事処置と試験日との相互作用が含まれた。混合効果モデル分析で、BMIは、総ての時点でVAS回答に有意に影響を及ぼした。BMIの高さは、摂食欲求、空腹感および食欲スコアの高さ、ならびに満腹感の低さと関連していた。
【0217】
血漿グレリン
一晩絶食後に得た血漿中のグレリン濃度にAA食とGMP食の間で有意な差はなく(図12参照)、空腹時血漿グレリン濃度と様々な変数の間に有意な関係はなかった。特に、この多様なサンプル集団において、空腹時グレリンとBMIの間に直接的な関係は見られなかった。空腹時血漿における総AA濃度もまた、2つの食事間で有意な差はなかった(データは示されていない)。AA朝食の開始180分後に採取した食後血漿グレリン濃度は、AA朝食を摂る前の空腹時グレリンと差がなかった(図12)。これに対し、GMP朝食は、食事後に予想される応答である有意に低い食後血漿グレリン濃度を誘導した。さらに、GMP朝食後の食後グレリンは、AA朝食後の食後グレリンよりも有意に低かった。食後グレリン濃度とBMIの間に有意な関係はなかった。線形混合効果モデルを用いる変数減少法を使用したところ、GMP朝食を用いた場合に食後血漿グレリンが低かったという意味で、食後グレリンを推定する唯一の因子が食事処置であった。食後血漿グレリン濃度は、朝食2時間後の満腹感の推定において有意な因子であった(図13参照)。満腹スコアの高さは、食後グレリン濃度の低さ、食事処置およびグレリンと食事の相互作用と有意な関係があった。
【0218】
考察
食事にタンパク源が存在しないと、1日中空腹感が増すことになる。味および嗜好性の改良とGMPによる多様な美味しい食品を製造する能力を組み合わせることで、GMPが、1日のうちにより容易に間隔をおくことができるタンパク源を提供することによってPKUの食事管理を改良し得るという概念が裏付けられる。さらに、本発明者らは、合成AAに比べて無傷なGMP由来のタンパク質を摂取すると、PKUを有する人の食後のグレリンが持続的に抑制されることを初めて報告する。
【0219】
グレリンは唯一知られている食欲促進ホルモンであり、空腹状態および食事前に最高濃度となり、食事後には濃度が抑えられる。本発明者らは、自身の対照として用いたPKUを有する3人の小児(11〜14)と8人の成人においてAA朝食とGMP朝食を比較したところ、空腹時グレリン濃度に差がないことを見出した。
【0220】
これらのデータは、食事に対するグレリンの応答についての新たな情報を提供する。本発明者らは、合成AAに比べて無傷なタンパク質GMPを含有する等カロリー朝食処置が違ったグレリン応答を誘導することを実証する。グレリンレベルは食後、カロリー含量に比例して低下し、タンパク質および炭水化物は、タンパク質または炭水化物からの20%以上のエネルギーの等カロリー置換を行った試験と同程度にグレリンを抑制した。従って、GMP朝食において炭水化物によって供給されたより高い割合のエネルギー(7.8%)は、本試験で見られる示差的なグレリン応答を説明するものとは思えない。
【0221】
グレリン濃度は、空腹時および朝食開始180分後の2つの時点で測定したに過ぎないので、最下点は見逃した可能性がある。しかしながら、AAの場合には見られなかったが、GMP朝食を摂った場合のこれら2時点間のグレリン濃度に見られた有意な低下は、AA朝食の摂取が朝食180分後のグレリンの持続的抑制が可能でないことを示す。実際に、AA食事の3時間後のグレリン空腹シグナルは、12時間絶食後と差がなかった。AAに比べて無傷なタンパク質を用いた食事の後の、より高いグレリン抑制は、GMPに比べて合成AAの吸収速度が変動したことによるものであり得る。血漿におけるAAの出現は、AA摂取の場合には1時間以内、そして匹敵する無傷なタンパク質を摂取した場合にはおよそ2時間以内に見られる。AAの速い吸収は、ラットおよびヒトにおいてタンパク質の保持および利用に負の影響を及ぼすことが示されている。
【0222】
長期AA摂取の最も有意な結果はタンパク質保持の低下であり得るが、血漿AA濃度の急激な上昇も生理的な満腹シグナルに影響を及ぼす。アミノスタティック仮説によれば、血漿AA濃度の上昇に伴ってGIホルモンの刺激の上昇と食欲低下が起こり、その後、血漿AA濃度が低下すると食欲が戻るということが提案される(S.M. Mellinkoff, M. Frankland, D. Boyle, M. Greipel, Relationship between serum amino acid concentration and fluctuations in appetite. 1956, Obes. Res. 5 (1997) 381-384)。従って、GMPなどの乳清タンパク質は、急速な吸収と血漿AAレベルの持続によって食欲を低下させ得るが、合成AAは血漿AAの急速な上昇を引き起こすものの、これは無傷なタンパク質に比べて血漿からより迅速に、高い程度で消失し、その結果、食事後短時間で食欲が高まる。この仮説を裏付けるように、GMPを含有する朝食は合成AAに比べて高い総食後血漿AAおよび低いグレリン濃度を誘導した。さらに、本発明者らのデータは低い食後グレリン濃度と大きな満腹感の間の関係を示し、GMP食がAAに比べて満腹感を持続することを示唆する。
【0223】
グレリンの抑制はポストガストリック・フィードバック(postgastric feedback)によって調節され(D.L. Williams, D.E. Cummings, H.J. Grill, J.M. Kaplan, Meal-related ghrelin suppression requires postgastric feedback (Endocrinology 144 (2003) 2765-2767))、胃または十二指腸ではなく、遠位腸に管腔栄養を必要とする。AAに基づく処方物を摂取した後の血漿AAの急速な上昇は、より短時間で管腔栄養が存在し、従って、それらのグレリン抑制能が限られていることを示唆する。
【0224】
さらに、グレリンはインスリンとの相互様式で働く(D.E. Cummings, J.Q. Purnell, R.S. Frayo, K. Schmidova, B.E. Wisse, D.S. Weigle, A preprandial rise in plasma ghrelin levels suggests a role in meal initiation in humans, Diabetes 50 (2001) 1714-1719)。同様に、本発明者らの結果は、AAに基づく朝食に比べてGMPを含有する朝食の後には、食後血漿インスリン濃度が高く、グレリンが低いことを示す。従って、GMP食品は、従来のアミノ酸食に比べて、PKUを有する人のインスリンおよびグレリンの調節、満腹シグナル伝達およびタンパク質保持を改善し得る。
【0225】
結論
PKUの栄養管理は、代謝管理を改善し、空腹を制御するために、1日を通じて低pheタンパク源の摂取を助ける、合成AA以外の新たな食事選択肢の必要がある。これらの結果により、満腹感を向上させるための食事中のタンパク質摂取の重要性が確認され、GMP朝食がAA朝食に比べてより長い時間、満腹ホルモングレリンの血漿レベルを抑制するという新たな証拠を提供する。無傷な低pheタンパク質GMPを用いて製造された食品は、食事の選択肢を改善し、タンパク質分布およびPKUの代謝管理を助ける、生理学上より完全な食事を提供するための第一段階である。
【0226】
実施例8:本発明に推奨されるアミノ酸添加
この予備的実施例で、本発明者らは、本発明に推奨されるアミノ酸添加を提供する。特に、本発明者らは、これまでの実施例で用いた添加量からの推奨される変動を提供する。
【0227】
メチオニン
本発明者らは、本発明の医療食品にメチオニンが添加されることを推奨しない。最近、学童期の子供および成人に対するメチオニンとシステインの最小必要量がこれまでに考えられていたものよりもかなり低いことが決定付けられた(Turner, et al., Am J Clin Nutr 2006;83:619-23; Ball, et al., J Nutr 2006;136 (suppl 2):1682S-93S)。このことは、GMPが十分な量のメチオニンを含有すること、メチオニン添加が必要でないことを示唆する。メチオニンは味が好ましくない硫黄含有アミノ酸であるので、GMPに基づく食品にメチオニンを添加しないことが食品の味の良さをさらに高める。
【0228】
アルギニン
これまでに示された実施例とは対照的に、本発明者らは、本発明の医療食品におけるGMPに付加的アルギニンを添加することを推奨する。具体的には、本発明者らは、本発明の医療食品にアルギニンを、食品内のタンパク質に対するアルギニンの総重量比が好ましくはアルギニン約60〜90ミリグラム/総タンパク質グラム、より好ましくはアルギニン約75ミリグラム/総タンパク質グラムとなるように添加することを提案する。
【0229】
アルギニンは当技術分野において栄養的に可欠なアミノ酸として認識されているが(Tharakan et al., Clin Nutr 2008;27:513-22)、アルギニンは、タンパク質、尿素および酸化窒素(PAHの補因子であるテトラヒドロビオプテリンはまた、酸化窒素シンセターゼの補因子でもある)の合成の基質としての働きをはじめ、複数の非栄養的機能を持つ。アルギニンは、腎臓でグルタミンに由来する腸管シトルリンから合成され、尿素回路で酸化されたオルニチンとなる。GMPではアルギニンが最小限であることに一致して、実施例4の臨床試験で報告したアルギニンおよびオルニチンの血漿濃度は、AA食に比べてGMPを摂取した場合に有意に低かった(表14参照)。従って、本発明者らは、GMPに、PKU食において利用されるアルギニンを添加すべきであると結論付ける。
【0230】
ロイシン
本発明者らは、本発明の医療食品に、公開されている推奨摂取必要量によって示されているものよりも、または上記の実施例のいずれかで用いられている量よりも実質的に多い量のロイシンを添加することを推奨する。具体的には、本発明者らは、本発明の医療食品にロイシンを、食品内のタンパク質に対するロイシンの総重量比が好ましくはロイシン約100〜200ミリグラム/総タンパク質グラム、より好ましくはロイシン約100ミリグラム/総タンパク質グラムとなるように添加することを提案する。
【0231】
本発明者らは、ロイシンの高い血漿レベルが、特定の担体タンパク質を介して腸管粘膜および血液脳関門を通過するPhe輸送を競合的に阻害し得ると決定付けた。従って、栄養必要レベルを超えるロイシンを添加すると驚くことに、血漿およびPheがその神経毒性作用を発揮する主要な器官である脳の双方でPheレベルが低下する。そして、推奨されるものよりも高いロイシンレベルは、本発明のGMPに基づく食品を用いるPKUを有する人の血漿および脳のPheレベルに低下をもたらし得る。
【0232】
さらに、最近の証拠は、ロイシンがmRNA訳開始率の増強によって骨格筋タンパク質の合成を刺激することを示している(Norton LE et al., J Nutr 2009; 139:1103-1109 and Crozier, SJ et al., J Nutr 2005; 135:376-382)。PKUを有する人において骨格筋タンパク質の合成を改善することで血中pheレベルを低くし、除脂肪体重を増加させることができる。
【0233】
チロシン
添加物量のチロシンは、チロシン血症などのチロシン代謝障害の処置向けの医療食品には添加しない。PKU食を含む他の適用では、本発明者らは、本発明の医療食品に、上記の実施例のいずれかで用いた量よりもいくらか多い量のチロシンを添加することを推奨する。具体的には、本発明者らは、本発明の非加熱処理医療食品にチロシンを、食品内のタンパク質に対するチロシンの初期総重量比が好ましくはチロシン約62〜93ミリグラム/総タンパク質グラム、より好ましくはチロシン約85ミリグラム/総タンパク質グラムとなるように添加することを提案する。
【0234】
チロシンは、不可欠であり、アドレナリン、ノルエピネフリン、メラニンおよびチロキシンの前駆体であることから、PKU食において重要なAAである。上記の実施例4において、本発明者らは、食後または空腹時サンプルにおいて得られた血漿中チロシン濃度には、GMP食またはAA食の摂取で有意な差はなかったことを見出した(上記の表14参照)。一晩絶食後の血漿中チロシン濃度は、GMP食およびAA食双方の摂取で、食後濃度に比べて低かった。しかしながら、GMP食は、正常範囲を下回る平均空腹時チロシン濃度をもたらした。従って、本発明者らは、実施例4で検討した食品の150%DRI添加レベルを上回るチロシン添加を推奨する。
【0235】
さらに、上記の実施例5において、本発明者らは、分母において添加アミノ酸が寄与するPEを考慮した場合、Tyr(P<0.05)以外の、測定した総てのアミノ酸の補正計算値が観測値と一致した(P>0.05)ことを見出した(上記の表20、E列とF列を比較)。予想されたTyr値よりも低い値は、Tyr製造または貯蔵プロセス中のいくつかの時点で分解したことを示唆する。TyrのDRIはGMP食品に見合うものであったが(DRIの150%を添加)、Tyr添加を増やすと、より高レベルのTyrが得られる。
【0236】
トリプトファン
添加物量のトリプトファンは、高トリプトファン血症などのトリプトファン代謝障害の処置向けの医療食品には添加しない。PKU食を含む他の適用では、本発明者らは、本発明の医療食品に所望によりトリプトファンを、食品内のタンパク質に対するトリプトファンの初期総重量比が好ましくはトリプトファン約12〜14ミリグラム/総タンパク質グラム、より好ましくはトリプトファン約12ミリグラム/総タンパク質グラムとなるように添加することを提案する。
【0237】
実施例4において、本発明者らは、AA食に比べてGMP食で、食後血漿trpレベルにおいて29%の低下を見出した。GMP食におけるtrpレベルは、AA処方物のtrp範囲(trp 〜15mg/タンパク質g)より十分低かった。また、trpは神経伝達物質セロトニンの合成に重要であるという証拠もある(Passcuchi et al., Intl J Neuropsychopharmacology (2009), 12:1067-79)。従って、これらの推奨レベルは、WHOによって発表されている推奨最小摂取量ガイドライン(World Health Organization, Protein and Amino Acid Requirements in Human Nutrition, Geneva, Switzerland: United Nations University, 2007)の130〜160%を用いて設定された範囲、または2002 DRI(Institute of Medicine, Dietary Reference Intakes for Energy, Carbohydrates, Fiber, Fat, Protein and Amino Acids, Washington, DC: National Academy Press, 2002)の130%に基づく推奨量の双方を有意に上回る。
【0238】
ヒスチジン
添加物量のヒスチジンは、ヒスチジン血症などのヒスチジン代謝障害の処置向けの医療食品には添加しない。PKU食を含む他の適用では、本発明者らは、本発明の医療食品に所望によりヒスチジンを、食品内のタンパク質に対するヒスチジンの初期総重量比が好ましくはヒスチジン約20〜24ミリグラム/総タンパク質グラム、より好ましくはヒスチジン約23ミリグラム/総タンパク質グラムとなるように添加することを提案する。好ましい範囲は、WHOによって発表されている推奨最小摂取量ガイドライン(World Health Organization, Protein and Amino Acid Requirements in Human Nutrition, Geneva, Switzerland: United Nations University, 2007)の130〜160%に基づくものである。より好ましい値は、2002 DRI(Institute of Medicine, Dietary Reference Intakes for Energy, Carbohydrates, Fiber, Fat, Protein and Amino Acids, Washington, DC: National Academy Press, 2002)の130%に基づくものである。他のアミノ酸の推奨とは異なり、ヒスチジンに関するこれらの推奨値は、実施例で用いたGMP医療食品に含まれるものとは変わらない。
【0239】
この実施例に示されているアミノ酸添加量に基づき、血漿および脳組織中のPheレベルを最小にする働きをするとともに、PKUを有する人に必要なタンパク質を供給するためのGMPに基づく改良医療食品を製造することができる。
【0240】
当業者ならば、本明細書に記載の特定の材料および方法との多くの等価物を認識できるか、または慣例の実験だけを用いて確認することができよう。このような等価物も本発明の範囲内にあるとみなされ、特許請求の範囲に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコマクロペプチド(GMP)と添加物量の2種類以上のアミノ酸を含んでなる代謝障害の管理のための医療食品であって、その添加アミノ酸の1つがアルギニンであり、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸アルギニンの重量比がアルギニン約60〜90ミリグラム/総タンパク質グラムであり、添加アミノ酸の他の1つがロイシンであり、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ロイシンの重量比がロイシン約100〜200ミリグラム/総タンパク質グラムである、医療食品。
【請求項2】
添加物量のアミノ酸チロシンをさらに含んでなり、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸チロシンの重量比がチロシン約62〜93ミリグラム/総タンパク質グラムである、請求項1に記載の医療食品。
【請求項3】
付加的な添加アミノ酸の総重量が、GMP由来のタンパク質と添加アミノ酸を合わせた総重量の約22%〜38%である、請求項2に記載の医療食品。
【請求項4】
添加物量のアミノ酸トリプトファンおよびヒスチジンをさらに含んでなり、付加的な添加アミノ酸の総重量が、GMP由来のタンパク質と添加アミノ酸を合わせた総重量の約25%〜42%である、請求項2に記載の医療食品。
【請求項5】
医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸アルギニンの重量比がアルギニン約75ミリグラム/総タンパク質グラムである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医療食品。
【請求項6】
医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ロイシンの重量比がロイシン約100ミリグラム/総タンパク質グラムである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の医療食品。
【請求項7】
医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸チロシンの重量比がチロシン約85ミリグラム/総タンパク質グラムである、請求項2〜4のいずれか一項に記載の医療食品。
【請求項8】
添加物量のアミノ酸チロシンを含有しない、請求項1に記載の医療食品。
【請求項9】
総タンパク質1グラム当たりのフェニルアラニンおよびチロシンの含有量が、合わせて2.0ミリグラム未満である、請求項8に記載の医療食品。
【請求項10】
付加的な添加アミノ酸の総重量が、GMP由来のタンパク質と添加アミノ酸を合わせた総重量の約16%〜29%である、請求項8または9に記載の医療食品。
【請求項11】
添加物量のアミノ酸トリプトファンおよびヒスチジンをさらに含んでなり、付加的な添加アミノ酸の総重量が、GMP由来のタンパク質と添加アミノ酸を合わせた総重量の約19%〜33%である、請求項8〜10のいずれか一項に記載の医療食品。
【請求項12】
飲料、バー、ウエハース、プディング、ゼラチン、クラッカー、フルーツレザー、ナッツバター、ソース、サラダドレッシング、クリスプ・シリアル・ピース、フレーク、パフ、ペレットまたは押出固体の形態である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の医療食品。
【請求項13】
(a)医療食品が製造中に熱処理され;
(b)熱処理前の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸アルギニンの初期重量比がアルギニン約75ミリグラム/総タンパク質グラムより大きく、かつ、熱処理前の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ロイシンの初期重量比がロイシン約100ミリグラム/総タンパク質グラムより大きく;かつ、
(c)熱処理後の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸アルギニンの最終重量比がアルギニン約60〜90ミリグラム/総タンパク質グラムであり、かつ、熱処理後の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ロイシンの最終重量比がロイシン約100〜200ミリグラム/総タンパク質グラムである、
請求項1〜12のいずれか一項に記載の医療食品。
【請求項14】
(a)医療食品が製造中に熱処理され;
(b)熱処理前の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸チロシンの初期重量比がチロシン約85ミリグラム/総タンパク質グラムより大きく、熱処理前の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸アルギニンの初期重量比がアルギニン約75ミリグラム/総タンパク質グラムより大きく、かつ、熱処理前の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ロイシンの初期重量比がロイシン約100ミリグラム/総タンパク質グラムより大きく;かつ、
(c)熱処理後の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸チロシンの最終重量比がチロシン約62〜93ミリグラム/総タンパク質グラムであり、熱処理後の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸アルギニンの最終重量比がアルギニン約60〜90ミリグラム/総タンパク質グラムであり、かつ、熱処理後の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ロイシンの最終重量比がロイシン約100〜200ミリグラム/総タンパク質グラムである、
請求項2〜4または7のいずれか一項に記載の医療食品。
【請求項15】
添加物量のアミノ酸トリプトファンおよびヒスチジンをさらに含んでなり、
(a)熱処理前の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸トリプトファンの初期重量比がトリプトファン約12ミリグラム/総タンパク質グラムより大きく、かつ、熱処理前の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ヒスチジンの初期重量比がヒスチジン約23ミリグラム/総タンパク質グラムより大きく;かつ、
(b)熱処理後の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸トリプトファンの最終重量比がトリプトファン約12〜14ミリグラム/総タンパク質グラムであり、かつ、熱処理後の医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ヒスチジンの最終重量比がヒスチジン約20〜24ミリグラム/総タンパク質グラムである、
請求項14に記載の医療食品。
【請求項16】
添加物量のアミノ酸メチオニンを含有しない、請求項1〜15のいずれか一項に記載の医療食品。
【請求項17】
GMPが、GMPタンパク質1グラム当たり2.0ミリグラムを超えるフェニルアラニン混入物を含まないように精製される、請求項1〜16のいずれか一項に記載の医療食品。
【請求項18】
総タンパク質1グラム当たりのフェニルアラニンの含有量が1.5ミリグラム未満である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の医療食品。
【請求項19】
代謝障害の管理のための医療食品を製造する方法であって、
(a)グリコマクロペプチド(GMP)および添加物量の2種類以上のアミノ酸を供給する工程(ここで、添加アミノ酸の1つがアルギニンであり、供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸アルギニンの重量比がアルギニン約60〜90ミリグラム/総タンパク質グラムであり、第二の添加アミノ酸がロイシンであり、供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸ロイシンの重量比がロイシン約100〜200ミリグラム/総タンパク質グラムである);
(b)供給された材料と1種類以上の非タンパク質成分を混合して食品を製造する工程
を含んでなる、方法。
【請求項20】
添加物量の第三のアミノ酸チロシンが、供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸チロシンの重量比がチロシン約62〜93ミリグラム/総タンパク質グラムとなるように、さらに供給される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸アルギニンの重量比がアルギニン約75ミリグラム/総タンパク質グラムである、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸チロシンの重量比がチロシン約85ミリグラム/総タンパク質グラムである、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸ロイシンの重量比がロイシン約100ミリグラム/総タンパク質グラムである、請求項19〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
GMPタンパク質1グラム当たり2.0mgを超えるフェニルアラニン混入物を含まないようにGMPを精製する工程をさらに含んでなる、請求項19〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
GMPタンパク質1グラム当たり2.0mgを超えるフェニルアラニン混入物を含まないようにGMPを精製する工程が、陽イオン交換クロマトグラフィー、限外濾過およびダイアフィルトレーションからなる群の1以上の使用をさらに含んでなる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
精製されたGMPを凍結乾燥または噴霧乾燥によって乾燥させる工程をさらに含んでなる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
食品を固化させてプディング、ゼラチンまたはフルーツレザーの形態とする工程をさらに含んでなる、請求項19〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
バー、クラッカー、フレーク、パフまたはペレットへ食品を成型する工程をさらに含んでなる、請求項19〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
押出固体として食品を押し出す工程をさらに含んでなる、請求項19〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
チロシンが供給されない、請求項19に記載の方法。
【請求項31】
食品を熱処理する工程をさらに含んでなる、請求項19〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
食品を熱処理する工程が食品を焼くことを含んでなる、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
(a)熱処理前の供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸アルギニンの初期重量比がアルギニン約75ミリグラム/総タンパク質グラムより大きく、かつ、熱処理前の供給された総タンパク質に対するアミノ酸ロイシンの初期重量比がロイシン約100ミリグラム/総タンパク質グラムより大きく;かつ、
(b)熱処理後の食品内の総タンパク質に対するアミノ酸アルギニンの最終重量比がアルギニン約60〜90ミリグラム/総タンパク質グラムであり、かつ、熱処理後の食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ロイシンの最終重量比がロイシン約100〜200ミリグラム/総タンパク質グラムである、
請求項31に記載の方法。
【請求項34】
食品を熱処理する工程をさらに含んでなる、請求項20または22に記載の方法。
【請求項35】
食品を熱処理する工程が食品を焼くことを含んでなる、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
(a)熱処理前の供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸ロイシンの初期重量比がロイシン約100ミリグラム/総タンパク質グラムより大きく、熱処理前の供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸チロシンの初期重量比がチロシン約85ミリグラム/総タンパク質グラムより大きく、かつ、熱処理前の供給された総タンパク質に対するアミノ酸アルギニンの初期重量比がアルギニン約75ミリグラム/総タンパク質グラムより大きく;かつ、
(b)熱処理後の食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ロイシンの最終重量比がロイシン約100〜200ミリグラム/総タンパク質グラムであり、熱処理後の食品内の総タンパク質に対するアミノ酸チロシンの最終重量比がチロシン約62〜93ミリグラム/総タンパク質グラムであり、かつ、熱処理後の食品内の総タンパク質に対するアミノ酸アルギニンの最終重量比がアルギニン約60〜90ミリグラム/総タンパク質グラムである、
請求項34に記載の方法。
【請求項37】
(a)添加物量のアミノ酸トリプトファンおよびヒスチジンもまた、熱処理前の供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸トリプトファンの初期重量比がトリプトファン約12ミリグラム/総タンパク質グラムより大きくなり、かつ、熱処理前の供給された総タンパク質に対する供給されたアミノ酸ヒスチジンの初期重量比がヒスチジン約23ミリグラム/総タンパク質グラムより大きくなるように供給され;かつ、
(b)熱処理後の食品内の総タンパク質に対するアミノ酸トリプトファンの最終重量比がトリプトファン約12〜14ミリグラム/総タンパク質グラムであり、かつ、熱処理後の食品内の総タンパク質に対するアミノ酸ヒスチジンの重量比がヒスチジン約20〜24ミリグラム/総タンパク質グラムである、
請求項33または36に記載の方法。
【請求項38】
代謝障害を治療する方法であって、代謝障害を有するヒトに医療食品を投与することを含んでなり、該医療食品が、グリコマクロペプチド(GMP)、添加物量のアミノ酸アルギニン(ここで、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸アルギニンの重量比はアルギニン約60〜90ミリグラム/総タンパク質グラムである)、および添加物量のアミノ酸ロイシン(ここで、医療食品内の総タンパク質に対するロイシンの重量比はロイシン約100〜200ミリグラム/総タンパク質グラムである)を含んでなるものであり、代謝障害がフェニルアラニン代謝障害、チロシン代謝障害、トリプトファン代謝障害およびヒスチジン代謝障害から選択される、方法。
【請求項39】
医療食品が、添加物量のアミノ酸チロシンを、医療食品内の総タンパク質に対するアミノ酸チロシンの重量比がチロシン約62〜93ミリグラム/総タンパク質グラムとなるようにさらに含んでなる、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
医療食品が添加物量のアミノ酸チロシンを含有しない、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
医療食品が含む総タンパク質1グラム当たりのフェニルアラニンおよびチロシンが、合わせて2.0ミリグラム未満である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
医療食品が添加物量のアミノ酸フェニルアラニンを含まず、代謝障害がフェニルアラニン代謝障害であるフェニルケトン尿症(PKU)である、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
医療食品が含む総タンパク質1グラム当たりのフェニルアラニンが、1.5ミリグラム未満である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
医療食品が投与されるヒトが少なくとも2歳である、請求項38〜43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
代謝障害が、チロシン代謝障害であるI型チロシン血症、II型チロシン血症、III型チロシン血症/ホーキンシン尿症、およびアルカプトン尿症/組織黒変症からなる群から選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項46】
医療食品が添加物量のアミノ酸トリプトファンを含まず、代謝障害がトリプトファン代謝障害である高トリプトファン血症である、請求項39に記載の方法。
【請求項47】
医療食品が添加物量のアミノ酸ヒスチジンを含まず、代謝障害が、ヒスチジン代謝障害であるカルノシン血症、ヒスチジン血症およびウロカニン酸尿症からなる群から選択される、請求項39に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2012−530067(P2012−530067A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515187(P2012−515187)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/038340
【国際公開番号】WO2010/144821
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(591057706)ウィスコンシン・アルムニ・リサーチ・ファウンデーション (26)
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】