説明

フェノール系樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物、それらの硬化物、水性塗料、新規フェノール系樹脂、及び新規エポキシ樹脂

【課題】フェノール系樹脂中のフェノール性水酸基、或いは、エポキシ樹脂中のエポキシ基を何等変性することなく、かつ、多量の乳化剤を用いることなく水性媒体中で自己分散可能な新規フェノール系樹脂又は新規エポキシ樹脂、及びこれを含有し保存安定性に優れ、かつ、その硬化塗膜の機械的強度に優れるフェノール系樹脂組成物又はエポキシ樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】下記構造式
【化1】


で表されるフェノール系樹脂又はそのエポキシ化物を水性媒体中に分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性や得られる加工物の耐食性・密着性等に優れる水性フェノール系樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物、それらの硬化物、新規フェノール系樹脂、及び、新規エポキシ樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール系樹脂或いはエポキシ樹脂を主剤とする熱硬化性樹脂組成物は、得られる硬化物の機械的強度、耐食性、密着性等に優れるため、塗料、接着剤、積層板、電気・電子部品用途等の各分野で広く使用されている。これらの熱硬化性樹脂は一般に水に対する親和性が低く、通常、固形分のまま、或いは、有機溶剤に希釈した組成物として使用されている。しかしながら、近年の環境問題から、フェノール系樹脂或いはエポキシ樹脂の本来有する前記特徴を有したまま、該組成物中から排出される有機溶剤量の低減が望まれており、近年、水媒体中に該熱硬化性樹脂を分散させた水性樹脂組成物の開発が進められている。
【0003】
このような水媒体中に熱硬化性樹脂を溶解乃至分散させる技術としては、エポキシ樹脂の水性化という観点から、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂とポリオキシアルキルアミンとを反応させることにより、樹脂構造中に親水基を導入したもの(下記、特許文献1参照)、及び、エポキシ樹脂とアルカノールアミン類を反応させ、側鎖にカルボキシル基を導入後、アミン類で中和したもの(下記、特許文献2参照)などが知られている。
【0004】
然し乍ら、これらのエポキシ樹脂を原料として用いた水性樹脂は、いずれもエポキシ基を活性点として他の化合物で変性することによって親水性基をポリマー構造中に導入したものであり、エポキシ基が変性によって消失してしまう為に、エポキシ樹脂用硬化剤を併用しても硬化反応させること自体困難であって、エポキシ樹脂硬化物が本来有する前記した機械的強度、耐食性等の特性が発現されなくなる他、汎用のエポキシ樹脂用硬化剤を分散させた際に安定した水性塗料が得られないものであった。
【0005】
一方、エポキシ樹脂中のエポキシ基に対して何等変性を加えることなく、エポキシ樹脂自体を水性分散体にするには、多量の乳化剤が必要となって硬化塗膜の高度や密着性を低下させるものであった。また、硬化物の物性を重視して乳化剤の量を低減させた場合には、エマルジョン自体の保存安定性を著しく害するものであった。
【0006】
他方、フェノール系樹脂の分野においては、フェノール系樹脂中に親水性基を導入するには、やはりフェノール系樹脂中のフェノール性水酸基を変性する必要がある他、水性化を目的にエマルジョン化するには多量の乳化剤、保護コロイドなどを使用する必要があり、上記水性エポキシ樹脂の場合と同様の問題を抱えていた。
【0007】
【特許文献1】特開平10−183055号公報(第3〜4頁)
【特許文献2】特開2000−053745号公報(第3〜4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、フェノール系樹脂中のフェノール性水酸基、或いは、エポキシ樹脂中のエポキシ基を何等変性することなく、かつ、多量の乳化剤を用いることなく水性媒体中で自己分散可能な新規フェノール系樹脂又は新規エポキシ樹脂、及びこれを含有し保存安定性に優れ、かつ、その硬化塗膜の機械的強度に優れるフェノール系樹脂組成物又はエポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、フェノール系樹脂又はエポキシ樹脂の分子構造中に特定の部分構造を導入することにより、フェノール系樹脂或いはエポキシ樹脂が、その官能基を何等消失させることなく、自己分散性の水性分散体が得られ、かつ、その保存安定性が著しく良好となることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、フェノキシ構造を主骨格中に有するフェノール系樹脂であって、該フェノキシ構造として下記構造式(1)
【0011】
【化1】


(式中、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は直接結合を表す。)
で表される化学構造を有するフェノール系樹脂(A)、及び、硬化剤(B)を必須成分とすることを特徴とするフェノール系樹脂組成物に関する。
【0012】
本発明は、更に、上記フェノール系樹脂組成物を硬化させてなる硬化物に関する。
【0013】
本発明は、更に、フェノール系樹脂(A)及び硬化剤(B)に加え、更に水性媒体(C)を含むフェノール系樹脂組成物からなる水性塗料に関する。
【0014】
本発明は、更に、フェノキシ構造を主骨格中に有するフェノール系樹脂であって、該フェノキシ構造として下記構造式(1)
【0015】
【化2】


(式中、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は直接結合を表す。)
で表される化学構造を有するフェノール系樹脂(A)及び水性媒体(C)を必須成分とすることを特徴とするフェノール系樹脂組成物に関する。
【0016】
本発明は、更に、フェノキシ構造を主骨格中に有するエポキシ樹脂であって、該フェノキシ構造として下記構造式(1)
【0017】
【化3】


(式中、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は直接結合を表す。)
で表される化学構造を有するエポキシ樹脂(A’)、及び、硬化剤(B’)を必須成分とすることを特徴とするエポキシ樹脂組成物に関する。
【0018】
本発明は、更に、上記エポキシ樹脂組成物を硬化させてなる硬化物に関する。
【0019】
本発明は、更に、エポキシ樹脂(A’)及び硬化剤(B’)に加え、更に水性媒体(C)を含むエポキシ樹脂組成物からなる水性塗料に関する。
【0020】
本発明は、更に、フェノキシ構造を主骨格中に有するエポキシ樹脂であって、該フェノキシ構造として下記構造式(1)
【0021】
【化4】


(式中、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は、直接結合を表す。)
で表される化学構造を有するエポキシ樹脂(A’)及び水性媒体(C)を必須成分とすることを特徴とするエポキシ樹脂組成物に関する。
【0022】
本発明は、更に、下記構造式(3)
【0023】
【化5】


(式中、R、R、R、R、Rは同一でも異なっても良い、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基であり、Rは水素原子又はメチル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、pは繰り返し数の平均値であって0〜50であり、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は直接結合を表す。)
で表される分子構造を有することを特徴とする新規フェノール系樹脂に関する。
【0024】
本発明は、更に、下記構造式(5)
【0025】
【化6】


(式中、R、R、R、R、Rは同一でも異なっても良い、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基又は水素原子であり、Rは水素原子又はメチル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、pは繰り返し数の平均値であって0〜50であり、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は直接結合を表す。)
で表される分子構造を有することを特徴とする新規エポキシ樹脂に関する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、フェノール系樹脂中のフェノール性水酸基、或いは、エポキシ樹脂中のエポキシ基を何等変性することなく、かつ、多量の乳化剤を用いることなく水性媒体中で自己分散可能な新規フェノール系樹脂又は新規エポキシ樹脂、及びこれを含有し保存安定性に優れ、かつ、その硬化塗膜の機械的強度に優れるフェノール系樹脂組成物又はエポキシ樹脂組成物を提供できる。
従って、本発明のフェノール系樹脂組成物及びエポキシ樹脂組成物は、塗料、接着剤、繊維集束剤、コンクリートプライマー等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のフェノール系樹脂組成物に用いるフェノール系樹脂(A)は、フェノキシ構造を主骨格中に有するフェノール系樹脂であって、該フェノキシ構造として下記構造式(1)
【0028】
【化7】


(式中、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は、直接結合を表す。)
で表される化学構造を有することを特徴としている。
【0029】
本発明では、かかる部分化学構造をフェノキシ構造として分子構造中に有することから、乳化剤、分散剤、及び保護コロイドを使用することなく優れた自己分散性を発現させることができる。また、上記構造式(1)においてアルキレンオキサイド部分の長さ、即ち、nの値を調節することによってフェノール系樹脂(A)の親水性と疎水性とのバランスを調節することできる。
【0030】
また、前記フェノール系樹脂(A)は前記構造式(1)中のXとして下記構造式(2)
【0031】
【化8】

(式中、Xは単結合又は炭素原子数1〜4のアルキレン基であり、Rは水素原子又はメチル基である。)で表される化学構造部位を有するものがフェノール系樹脂(A)の水性媒体中での自己分散性がより良好となり貯蔵安定性が良好となる他、塗料に用いた際の効果塗膜の機械的強度が良好となる点から好ましい。
【0032】
また、上記フェノール系樹脂(A)は、更に、具体的には、
1)下記構造式(3)
【0033】
【化9】


(式中、R、R、R、R、Rは同一でも異なっても良い、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基であり、Rは水素原子又はメチル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、pは繰り返し数の平均値であって0〜50であり、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は直接結合を表す。)
で表される分子構造を有するフェノール系樹脂(a)、
【0034】
2)該フェノール系樹脂(a)と2官能性エポキシ樹脂とを反応させて得られる構造を有するフェノール系樹脂(b)、
3)該フェノール系樹脂(a)と、2官能性フェノールと、2官能性エポキシ樹脂とを反応させて得られたフェノール系樹脂(c)、
以上のフェノール系樹脂(a)、(b)、(c)が挙げられる。
【0035】
ここでフェノール系樹脂(b)の製造に用いられる2官能性フェノールは、具体的には、ハイドロキノン、レゾルシノール、カテコール等の2価フェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール類、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニルなどが挙げられる。
【0036】
また、フェノール系樹脂(b)の製造に用いられる2官能性エポキシ樹脂は、前記2価フェノール、ビスフェノール類、ジヒドロキシナフタレン、及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルのジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0037】
上記したフェノール系樹脂(A)は、前記(a)〜(c)の中でも特に水性分散体にした場合の保存安定性に優れる点、また、硬化塗膜の機械的強度に優れる点から前記フェノール系樹脂(a)が好ましい。
【0038】
ここで、上記構造式(3)中、R、R、R、Rは、前記した通り、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、該炭素原子数1〜4のアルキル基は、具体的には、水素原子又はエチレン、プロピレン、メチレン、n−ブチル、t−ブチル基等が挙げられる。これらのなかでも特に硬化塗膜の機械的強度に優れる点から水素原子又はメチル基であることが好ましく、特に水素原子であることが好ましい。
【0039】
また、上記構造式(3)中、Rは、前記した通り、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、該炭素原子数1〜4のアルキル基は、具体的には、水素原子又はエチレン、プロピレン、メチレン、n−ブチル、t−ブチル基等が挙げられる。
【0040】
また、構造式(3)中、Xは、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は、直接結合を表すが、具体的には、前記した通り、下記構造式(2)
【0041】
【化10】

(構造式(2)中、Xは単結合又は炭素原子数1〜4のアルキレン基であり、Rは水素原子又はメチル基である。)で表される構造部位が好ましい。
【0042】
ここで構造式(2)中、Xにおける炭素原子数1〜4のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、1,3−プロピレン基、1,2−プロピレン基、2,2−プロピリデン基、1,4−ブチレン基が挙げられる。
【0043】
また、構造式(3)中、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基である。ここで炭素原子数1〜15のアルキル基とはメチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等が挙げられる。
【0044】
また、構造式(3)中、nは繰り返し単位の平均値で1〜50である。前記構造式(3)で表されるフェノール系樹脂(a)は、前記した通り、乳化剤、分散剤、及び保護コロイドを使用することなく優れた自己分散性を発現させることができる。また、上記構造式(3)においてアルキレンオキサイド部分の長さ、即ち、nの値を調節することによってフェノール系樹脂(A)の親水性と疎水性とのバランスを調節することできる。このような観点から前記nの値は特に10〜45であることが好ましい。
【0045】
以上詳述したフェノール系樹脂(a)の中でも特に、下記構造式(4)
【0046】
【化11】


で表される構造を有するもの(以下、これを「フェノール系樹脂(a2)」と略記する。)が特に、工業的生産が容易である他、水性分散体として保存安定性に優れ、かつ、その硬化塗膜の強度が著しく良好となる点から好ましい。
上記構造式(4)中、R、R、R、R、R、Rは構造式(3)の場合と同義であるが、これらのなかでもR、R、R、Rは特に硬化塗膜の機械的強度に優れる点から水素原子又はメチル基であることが好ましく、特に水素原子であることが好ましく、Rは水素原子であることが好ましい。更に、Xは前記構造式(2)と同義であり、メチレン基、エチレン基、1,3−プロピレン基、1,2−プロピレン基、2,2−プロピリデン基、1,4−ブチレン基が挙げられるが、特にフェノール系樹脂(A)の親水性と疎水性とのバランスに優れる点からメチレン基が好ましい。
【0047】
上記構造式(4)中、pは繰り返し数の平均値であって0〜50であるが、特に該フェノール系樹脂(A)をエポキシ樹脂原料として用いる場合、或いは、エポキシ樹脂用硬化剤として水性媒体(C)への分散性が良好である点からp=0である下記構造式(4’)
【0048】
【化12】


であらわされる化合物(以下、これを「フェノール系樹脂(a3)」と略記する。)が好ましい。
【0049】
以上詳述したフェノール系樹脂(A)は、水性分散体にした場合の保存安定性の点、及び、水性塗料として硬化塗膜の防食性が良好となる点からその水酸基当量が150〜3000g/eq.の範囲であることが好ましい。
【0050】
ここで構造式(4’)中、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であるが、前記した通り、水性分散体の保存安定性の点から特に10〜45であることが好ましい。また、前記フェノール系樹脂(A)は、pは繰り返し単位の平均値で0〜50であるが、防食性の点から特に0〜30であることが好ましい。
【0051】
上記したフェノール系樹脂(A)を製造する方法は、例えば、前記フェノール系樹脂(a)を製造するには、具体的には、下記1)〜3)の方法が挙げられる。
【0052】
方法1)下記構造式(i)
【0053】
【化13】

(式中、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立的に水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基である。)
で示されるモノフェノールと、下記構造式(ii)
【0054】
【化14】

(式中、Rは、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、Xは、炭素原子数1〜4のアルキレン基を表す。)で示されるカルボニル化合物とを酸触媒下に反応させる方法。
方法2)前記方法1)で得られたフェノール系樹脂とエピハロヒドリン類とを前者/後者のモル比が1/0.5〜1/0.9となる割合で反応させる方法。
方法3)下記構造式(iii)
【0055】
【化15】


(式中、R、R、R、R、R及びXは前記と同じである。)
で表されるカルボキシル基含有ビスフェノール類(iii)とポリアルキレングリコール鎖を有するモノグリシジルエーテル(iv)とを反応させる方法。
方法4)前記方法3)で得られたフェノール系樹脂とエピハロヒドリン類とを前者/後者のモル比が1/0.5〜1/0.9となる割合で反応させる方法。
【0056】
上記方法1)〜4)の中でも、工業的生産が容易である他、水性分散体として保存安定性に優れ、かつ、その硬化塗膜の強度が著しく良好となる点から前記方法3)及び方法4)が好ましく、特に方法3)が好ましい。
【0057】
上記方法1において用いられる酸触媒は、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、シュウ酸などの有機酸、三弗化ホウ素、無水塩化アルミニウム、塩化亜鉛などのルイス酸を挙げられる。
【0058】
また、上記方法3)で用いるカルボキシル基含有ビスフェノール類(iii)は、例えば、無触媒あるいは触媒の存在下、オルソクレゾール、2,6−キシレノール、オルソブチルフェノールなどのオルソ位に置換基を有していても良いフェノール類と、2−オキソプロパン酸、3−オキソブタン酸、3−アセチルプロピオン酸、グリオキシル酸などの1分子中にカルボキシル基とこれとは独立したカルボニル基を含有する化合物との反応によって得ることが出来る。前記触媒としては、種々のものが使用できるが、例えば、酸性触媒としては塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、シュウ酸などの有機酸、三弗化ホウ素、無水塩化アルミニウム、塩化亜鉛などのルイス酸が挙げられる。塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム等のアルカリ(土類)金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩などが挙げられる。これら触媒の使用量は特に限定されるものではないが、原料として用いるオルソ位に置換基を有していてもよいフェノール類に対して0.1〜30質量%用いるのが好ましい。前記触媒の形態も特に限定されず、水溶液であっても、固形のまま使用しても良い。
【0059】
前記反応は無溶剤下で、あるいは有機溶剤の存在下で行うことができる。用いうる有機溶剤としては、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、単独でも、2種以上を混合して用いても良い。有機溶剤の使用量としては、用いる原料の総質量に対して通常50〜300質量%、好ましくは100〜250質量%である。反応温度としては通常40〜180℃、反応時間は通常1〜10時間である。また、反応中に生成する水は系外に分留管などを用いて留去することは、反応を速やかに行う上で好ましい。
【0060】
また、前記反応によって得られるカルボキシル基含有のビスフェノール類(iii)の着色が大きい場合は、それを抑制するために、酸化防止剤や還元剤を添加しても良い。前記酸化防止剤としては特に限定されないが、例えば、2,6−ジアルキルフェノール誘導体などのヒンダードフェノール系化合物、2価のイオウ系化合物、3価のリン原子を含む亜リン酸エステル系化合物などを挙げることができる。又、前記還元剤としては特に限定されないが、例えば次亜リン酸、亜リン酸、チオ硫酸、亜硫酸、ハイドロサルファイトまたはこれら塩などが挙げられる。
【0061】
反応終了後、反応混合物のpH値が3〜7、好ましくは5〜7になるまで中和あるいは水洗処理を行う。中和処理や水洗処理の方法については特に制限されず、例えば、酸性触媒を用いた場合は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア、トリエチレンテトラミン、アニリン等の塩基性物質を、塩基性触媒を用いた場合は塩酸、第一リン酸水素ナトリウム、蓚酸等の酸性物質を中和剤として用いることができる。
【0062】
中和あるいは水洗処理を行った後、減圧加熱下で溶剤及び未反応物を留去することによって、カルボキシル基含有ビスフェノール類(iii)を得ることが出来る。
【0063】
この様にして得られるカルボキシル基含有ビスフェノール類(iii)の中でも、得られるフェノール系樹脂(a2)又は(a3)の水溶性に優れ、水性フェノール系樹脂組成物とした時の保存安定性に優れる点、得られる化合物の耐食性・機械的強度等に優れる点から、前記一般式(iii)中のR、R、R、Rが水素原子であり、Rがメチル基であることが好ましく、又、前記一般式(iii)中のXがエチレン鎖であることが好ましく、ジフェノール酸であることがもっとも好ましい。尚、ジフェノール酸としては、大塚化学株式会社から市販されているので、該市販品をそのまま使用することが可能である。
【0064】
次に、方法3)で用いるポリアルキレングリコール鎖を有するモノグリシジルエーテル(iv)は、例えば、下記構造式(iv)
【0065】
【化16】

(R炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基であり、Rは水素原子又はメチル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50である)で表されるものが挙げられ、具体的には、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルモノグリシジルエーエル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテルモノグリシジルエーエル、ポリテトラメチレングリコールモノエチルエーテルモノグリシジルエーエル、ポリヘキサメチレングリコールモノプロピルエーテルモノグリシジルエーエル、その他、前記構造式(iv)において、Rが水素原子、nが15、Rがエチレン、Yが炭素原子数12のアルキル基である化合物(例えば、ナガセ化成工業株式会社製「デナコールEX−171」エポキシ当量:943g/eq)、Rが水素原子、nが41、Rがエチレン、Yが炭素原子数12のアルキル基である化合物(例えば、ナガセ化成工業株式会社製「デナコールFCA−050」エポキシ当量:1442g/eq)が挙げられる。
【0066】
これらの中でも水性分散体の保存安定性、塗膜性能、及び硬化性のバランスが良好である点からポリエチレングリコールモノメチルエーテルモノグリシジルエーエル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテルモノグリシジルエーエルが好ましい。
【0067】
特に入手が容易である点からは前記構造式(iv)において、Rが水素原子、nが15、Rがエチレン、Yが炭素原子数12のアルキル基である化合物(例えば、ナガセ化成工業株式会社製「デナコールEX−171」エポキシ当量:943g/eq)、Rが水素原子、nが41、Rがエチレン、Yが炭素原子数12のアルキル基である化合物(例えば、ナガセ化成工業株式会社製「デナコールFCA−050」エポキシ当量:1442g/eq)が好ましい。
【0068】
前記カルボキシル基含有ビスフェノール類(iii)とポリアルキレングリコール鎖を有するモノグリシジルエーテル(iv)とを反応させる具体的方法は、前記カルボキシル基含有ビスフェノール類(iii)中のカルボキシル基とモノグリシジルエーテル(iv)中のグリシジル基とを優先的に反応させるものであれば良く、無触媒下あるいは触媒存在下で行うことができるが、反応が速やかに進行する点から適宜触媒を使用することが好ましい。ここで使用しうる触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム等のアルカリ(土類)金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、ブトキシリチウム、メトキシナトリウム等の金属アルコラート、塩化リチウム、塩化アルミニウム等のルイス酸およびルイス酸とトリフェニルホスフィンオキサイド等のルイス塩基との混合物、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム等のクロライド、ブロマイド、ヨーダイド、テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、ベンジルトリブチルホスホニウム等のクロライド、ブロマイド、ヨーダイド、アセテート等の4級アンモニウム塩、トリエチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等の3級アミン類、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類等が挙げられる。これらは2種以上を併用しても構わない。触媒の使用量としては、通常、前記モノグリシジルエーテル(iv)との合計質量に対して、5ppm(質量基準)〜2質量%の範囲で使用され、好ましくは20ppm(質量基準)〜0.5質量%である。これら触媒の形態も特に限定されず、適当な溶剤に希釈してもよいし、水溶液の形態で使用してもよいし、固形の形態で使用してもよい。
【0069】
前記反応を行う際の反応温度としては、適度な反応速度と、副反応の抑制の点から100〜150℃の範囲であることが好ましい。
【0070】
又、前記反応は無溶剤下で、あるいは溶剤の存在下で行うことができる。前記溶剤としては、前記カルボキシル基含有ビスフェノール類(iii)と前記モノグリシジルエーテル(iv)とを均一に溶解し、且つ、カルボキシル基含有ビスフェノール類(iii)、モノグリシジルエーテル(iv)および反応生成物である、フェノール系樹脂(a3)に対して不活性であれば特に限定されるものではなく、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール等のアルコール類、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、デカリン等の炭化水素類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、エトキシエチルプロピロネート、3−メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート、セロソルブアセテート等のエステル類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、イソブチルセロソロブ、tert−ブチルセロソロブ等のセロソルブ類、モノグライム、ジグライム、トリグライム等のグライム類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル等、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらは1種でも2種以上の混合溶剤としても使用することができる。これらの中でも得られる反応生成物の溶液をそのまま本発明の水性エポキシ樹脂組成物として用いることが可能である点から、水単独、又は、アルコール類、セロソルブ類、グライム類、非プロトン性極性溶媒、あるいはそれぞれの混合溶剤を用いることが好ましい。
【0071】
前記カルボキシル基含有ビスフェノール類(iii)と前記モノグリシジルエーテル(iv)との反応比率としては、特に限定されないが、カルボキシル基含有ビスフェノール類(iii)中のカルボキシル基当量とモノグリシジルエーテル(iv)中のエポキシ当量との比(iii)/(iv)が小さいときは、カルボキシル基が残存し、得られるフェノール系樹脂(a3)とエピハロヒドリン類との反応時に、該カルボキシル基とエピハロヒドリン類とが反応するため、最終的にもろい分岐構造を形成しやすくなる。また、該比率が大きい場合は、未反応のモノグリシジルエーテル(iv)が多くなり、後述する、得られるフェノール系樹脂(a3)とエピハロヒドリン類との反応時に、該フェノール系樹脂(a3)中のフェノール性水酸基とモノグリシジルエーテル(iv)との副反応が起こり、この結果、分子の片末端がエポキシ基で一方がポリアルキレングリコール鎖の構造である1官能性のエポキシ樹脂や、両末端がポリアルキレンブリコール鎖の構造である無官能性の樹脂が生成され、後記する硬化剤(B’)との反応で三次元架橋に寄与しないものが混入しやすくなる。従って、前記比率(iii)/(iv)の値は0.8以上、2以下であること、特に1以上1.5以下であることが好ましい。
【0072】
このようにして得られたフェノール系樹脂(A)は、そのまま使用しても、必要に応じて溶剤の除去や未反応のモノグリシジルエーテル(iv)、副生成物(重合物など)の除去等の精製工程を行っても良い。
【0073】
また、得られるフェノール系樹脂(A)の着色が大きい場合は、それを抑制するために、酸化防止剤や還元剤を添加しても良い。酸化防止剤としては特に限定されないが、例えば2,6−ジアルキルフェノール誘導体などのヒンダードフェノール系化合物や2価のイオウ系化合物や3価のリン原子を含む亜リン酸エステル系化合物などを挙げることができる。還元剤としては特に限定されないが、例えば次亜リン酸、亜リン酸、チオ硫酸、亜硫酸、ハイドロサルファイトまたはこれら塩などが挙げられる。
【0074】
また、フェノール系樹脂(A)は、後述する本発明のエポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂(A’)の原料(エピハロヒドリン類との反応原料や汎用エポキシ樹脂への伸長剤)としても有用である。
【0075】
次に、本発明のフェノール系樹脂組成物において使用し得る硬化剤(B)は、ヘキサメチレンテトラミン、水性メラミン等のアミノ樹脂、メチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物、該イソシアネート化合物を変性した水性イソシアネート化合物、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0076】
ここでエポキシ樹脂を硬化剤(B)として用いる場合、該エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、カテコール型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂等の液状エポキシ樹脂、ブロム化フェノールノボラック型エポキシ樹脂等の臭素化エポキシ樹脂、固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール付加反応型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール系樹脂型エポキシ樹脂、ビフェニル変性ノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0077】
また、硬化剤(B)としてエポキシ樹脂を使用する場合には、更に、前記フェノール系樹脂(A)との合成質量に対して、70質量%未満、望ましくは60質量%未満となる範囲で、エポキシ樹脂硬化剤を併用してもよい。ここで併用しうるエポキシ樹脂硬化剤は、特に限定されるものではなく、種々のものが使用可能であり、例えばアミン系化合物、酸無水物系化合物、アミド系化合物、フェノール系樹脂(A)の他のフェノ−ル系化合物などが挙げられる。
【0078】
前記アミン系化合物としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミンなどの脂肪族ポリアミン類や、メタキシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、フェニレンジアミンなどの芳香族ポリアミン類や、1、3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミンなどの脂環族ポリアミン類等や、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂が挙げられる。
【0079】
前記酸無水物系化合物としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。
【0080】
フェノール系樹脂(A)の他のフェノール系化合物としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール系樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール系樹脂、アミノトリアジン変性フェノール系樹脂やこれらの変性物等が挙げられる。また潜在性触媒として、イミダゾ−ル、BF3−アミン錯体、グアニジン誘導体なども挙げられる。
【0081】
また、これらのアミン系化合物、酸無水物系化合物、アミド系化合物、フェノ−ル系化合物等の硬化剤は単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。尚、アンダーフィル材等の用途や一般塗料用途においては、前記酸無水物系化合物又はアミン系化合物を用いることが好ましい。また、接着剤などの用途ではアミン系化合物が好ましい。更に、フレキシル配線基板用途においてはアミン系化合物、特にジシアンジアミドが作業性、硬化性の点から好ましい。また、半導体封止材料用途においては硬化物の耐熱性の点から固形タイプのフェノール系化合物が好ましい。
【0082】
本発明のフェノール系樹脂組成物において、フェノール系樹脂(A)と硬化剤(B)との配合割合は、該フェノール系樹脂(A)が良好に硬化する配合比率を適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、硬化剤(B)としてエポキシ樹脂を用いる場合には、エポキシ樹脂のエポキシ基の合計1当量に対して、フェノール系樹脂(A)中のフェノール性水酸基が0.7〜1.5当量となる割合であることが得られる硬化物の機械的物性等が良好となる点から好ましい。
【0083】
次に、本発明のエポキシ樹脂組成物は、フェノキシ構造を主骨格中に有するエポキシ樹脂であって、該フェノキシ構造として下記構造式(1)
【0084】
【化17】


(式中、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は、直接結合を表す。)
で表される化学構造を有するエポキシ樹脂(A’)、及び、硬化剤(B’)を必須成分とすることを特徴とするものである。
【0085】
前記エポキシ樹脂(A’)は、前記フェノール系樹脂(A)の場合と同様に、乳化剤、分散剤、及び保護コロイドを使用することなく優れた自己分散性を発現させることができる。また、上記構造式(1)においてアルキレンオキサイド部分の長さ、即ち、nの値を調節することによってエポキシ樹脂(A’)の親水性と疎水性とのバランスを調節することできる。
【0086】
また、前記エポキシ樹脂(A’)は前記構造式(1)中のXとして下記構造式(2)
【0087】
【化18】

(式中、Xは単結合又は炭素原子数1〜4のアルキレン基であり、Rは水素原子又はメチル基である。)で表される化学構造部位を有するものがエポキシ樹脂(A’)の水性媒体中での自己分散性がより良好となり貯蔵安定性が良好となる他、塗料に用いた際の効果塗膜の機械的強度が良好となる点から好ましい。
【0088】
このような観点から、前記エポキシ樹脂(A’)は、そのエポキシ当量が200〜3100g/eq.の範囲であることが特にエポキシ樹脂(A’)の親水性と疎水性とのバランスに優れる点から好ましい。
【0089】
上記エポキシ樹脂(A’)は、更に、具体的には、
1)下記構造式(5)
【0090】
【化19】


(式中、R、R、R、R、Rは同一でも異なっても良い、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基又は水素原子であり、Rは水素原子又はメチル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、pは繰り返し数の平均値であって0〜50であり、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は、直接結合を表す。)
で表される分子構造を有するエポキシ樹脂(a’)、
【0091】
2)該エポキシ樹脂(a’)に、更に2官能フェノールを反応させて得られたエポキシ樹脂(b’)、
【0092】
3)前記フェノール系樹脂(A)と2官能性エポキシ樹脂とを反応させて得られたエポキシ樹脂(c’)、及び、
【0093】
4)前記フェノール系樹脂(A)と、2官能性フェノールと、2官能性エポキシ樹脂とを反応させて得られたエポキシ樹脂(d’)、
以上のエポキシ樹脂(a’)、(b’)、(c’)、(d’)が挙げられる。
【0094】
ここで、前記エポキシ樹脂(b’)及び(d’)の製造に用いられる2官能性フェノールは、具体的には、ハイドロキノン、レゾルシノール、カテコール等の2価フェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール類、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニルなどが挙げられる。
【0095】
また、前記エポキシ樹脂(b’)〜(d’)の製造に用いられる2官能性エポキシ樹脂は、前記2価フェノール、ビスフェノール類、ジヒドロキシナフタレン、及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルのジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0096】
これらのなかでも本発明では特に水性分散体の保存安定性の点から前記エポキシ樹脂(a’)が好ましく、また、水性塗料として硬化塗膜の防食性が良好となる点からは前記(b’)〜(d’)の高分子量化したエポキシ樹脂であることが好ましいが、とりわけ水性分散体の保存安定性、塗膜性能、及び硬化性のバランスが良好である点から、前記エポキシ樹脂(a’)が好ましい。
【0097】
また、エポキシ樹脂(a’)において前記構造式(5)中、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であるが、水性分散体の保存安定性の点から特に10〜45であることが好ましい。
【0098】
以上詳述したエポキシ樹脂(a’)の中でも特に、下記構造式(6)
【0099】
【化20】


(式中、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、R炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基又は水素原子であり、Rは水素原子又はメチル基であり、Xは単結合又は炭素原子数1〜4のアルキレン基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、pは繰り返し数の平均値であって0〜50である。)
で表される構造を有するものが特に工業的生産が容易である他、水性分散体として保存安定性に優れ、かつ、その硬化塗膜の強度が著しく良好となる点から好ましい。
【0100】
上記構造式(6)中、R、R、R、R、R、Rは構造式(5)の場合と同義であるが、これらのなかでもR、R、R、Rは特に硬化塗膜の機械的強度に優れる点から水素原子又はメチル基であることが好ましく、特に水素原子であることが好ましく、Rは水素原子であることが好ましい。更に、Xは前記構造式(2)と同義であり、メチレン基、エチレン基、1,3−プロピレン基、1,2−プロピレン基、2,2−プロピリデン基、1,4−ブチレン基が挙げられるが、特にエポキシ樹脂(a’)の親水性と疎水性とのバランスに優れる点からメチレン基が好ましい。
【0101】
また、上記構造式(6)中、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であるが、水性分散体の保存安定性の点から特に10〜45であることが好ましい。pは繰り返し単位の平均で0〜50であるが、特に水性媒体への分散性が良好となる点から0〜0.4であることが好ましい。
【0102】
上記エポキシ樹脂(a’)を製造する方法は、具体的には、前記フェノール樹脂(a)又は(a’)と、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、β−メチルエピクロルヒドリン等のエピハロヒドリン類とを反応させる方法が挙げられる。
【0103】
かかる方法につき詳述すれば、該方法は、具体的には、前記フェノール樹脂(a)又は(a’)のフェノール性水酸基1モルに対し、エピハロヒドリン類0.3〜20モルを添加し、この混合物に、該フェノール樹脂(a)又は(a’)のフェノール性水酸基1モルに対し0.9〜2.0モルの塩基性触媒を一括添加または徐々に添加しながら20〜120℃の温度で0.5〜10時間反応させる方法が挙げられる。このエピハロヒドリン類の添加量は、エピハロヒドリン類の過剰量が多くなる程、得られるエポキシ樹脂は理論構造に近いものとなり、未反応フェノール性水酸基とエポキシ基との反応で生じる2級水酸基の生成を抑制することができる。かかる観点から中でも2.5〜20当量の範囲であることが好ましい。この塩基性触媒は固形でもその水溶液を使用してもよく、水溶液を使用する場合は、連続的に添加すると共に、反応混合物中から減圧下、または常圧下、連続的に水及びエピハロヒドリン類を留出させ、更に分液して水は除去しエピハロヒドリン類は反応混合物中に連続的に戻す方法でもよい。
【0104】
なお、工業生産を行う際は、エポキシ樹脂生産の初バッチでは仕込みエピハロヒドリン類の全てを新しいものを使用するが、次バッチ以降は、粗反応生成物から回収されたエピハロヒドリン類と、反応で消費される分及で消失する分に相当する新しいエピハロヒドリン類とを併用することが好ましい。この時、使用するエピハロヒドリン類は特に限定されないが、例えばエピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン等が挙げられる。なかでも入手が容易なことからエピクロルヒドリンが好ましい。また、塩基性触媒は特に限定されないが、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属水酸化物等が挙げられる。特にエポキシ樹脂合成反応の触媒活性に優れる点からアルカリ金属水酸化物が好ましく、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、等が挙げられる。使用に際しては、これらのアルカリ金属水酸化物を10〜55質量%程度の水溶液の形態で使用してもよいし、固形の形態で使用しても構わない。また、有機溶媒を併用することにより、エポキシ樹脂の合成における反応速度を高めることができる。このような有機溶媒としては特に限定されないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、1−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール等のアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、ジエトキシエタン等のエーテル類、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいし、また、極性を調整するために適宜二種以上を併用してもよい。
【0105】
これらのグリシジル化反応の反応物を水洗後、加熱減圧下、蒸留によって未反応のエピハロヒドリン類や併用する有機溶媒を留去する。また更に加水分解性ハロゲンの少ないエポキシ樹脂とするために、得られたエポキシ樹脂を再びトルエン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなどの有機溶媒に溶解し、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液を加えてさらに反応を行うこともできる。この際、反応速度の向上を目的として、4級アンモニウム塩やクラウンエーテル等の相関移動触媒を存在させてもよい。相関移動触媒を使用する場合のその使用量としては、用いるエポキシ樹脂に対して0.1〜3.0質量%の範囲が好ましい。反応終了後、生成した塩を濾過、水洗などにより除去し、更に、加熱減圧下トルエン、メチルイソブチルケトンなどの溶剤を留去することにより高純度のエポキシ樹脂(a’)を得ることができる。
【0106】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲でその他のエポキシ樹脂と併用してもよい。その他のエポキシ樹脂を併用する場合には、エポキシ樹脂成分全体に占める前記エポキシ樹脂(A’)の割合が30質量%以上となる範囲、特に40質量%以上となる範囲であることが好ましい。
【0107】
ここで前記エポキシ樹脂(A’)と併用され得るその他のエポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール付加反応型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール系樹脂型エポキシ樹脂、ビフェニル変性ノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。またこれらのエポキシ樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。これらのその他のエポキシ樹脂を併用する場合には、本発明では本来不要である界面活性剤や造膜助剤(有機溶剤)を水と併用して、予め水性化し、水性分散体として用いてもよい。
【0108】
次に、本発明のエポキシ樹脂組成物で用いる硬化剤(B’)は、例えばアミン系硬化剤、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリカルボン酸類、ポリカルボン酸無水物類、フェニルイミダゾール等のイミダゾール類、ジシアンジアミド類、アジピン酸ジヒドラジド等のジヒドラジン等が挙げられる。
【0109】
これらの中でも、2個以上のアミノ基を有する化合物からなるアミン系硬化剤が好ましく、その構造は2個以上の1〜3級アミノ基を有する化合物であれば特に制限されるものではないが、水との相溶性が良好な点から、脂肪族系多官能性アミン類を主成分とするものが更に好ましく、例えば、ペンタエチレンヘキサミン、テトラエチレンペンタミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、メタキシレンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルネンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、N−アミノエチルピペラジン等、前記脂肪族系多官能性アミン類のアミノ基の一部を脂肪族ジカルボン酸と重縮合しアミド化したポリアミドポリアミン類、及びそれらの変性物等が挙げられる。
【0110】
前記脂肪族ジカルボン酸としては、トール油脂肪酸、リノレン酸、リノール酸等からなるダイマー酸等が挙げられる。
【0111】
前記変性物としては、エポキシ樹脂(A’)との相溶性、ならびに塗膜の乾燥性、耐薬品性、耐食性等が良好な点から、前記多官能性アミン類、若しくは、前記ポリアミドポリアミン類と2価以上のフェノール類とエピクロルヒドリンから誘導される化合物とのアダクト物、及び/または、前記多官能性アミン類、若しくは、前記ポリアミドポリアミン類とフェノール類とホルムアルデヒドから誘導される化合物とのマンニッヒ変性ポリアミンが特に好ましい。
【0112】
アミン系硬化剤を用いる場合は、そのままでも、また、アミンを酸中和後、水を添加して水溶液としたものや、水性分散体化したものも使用することができる。これらの硬化剤は1種類で用いることもできるし、2種類以上で併用することも可能である。
【0113】
本発明の水性エポキシ樹脂組成物中の硬化剤(B’)として、アミン系硬化剤を用いる場合のその配合量としては、特に制限されるものではないが、得られる加工物の耐衝撃性、耐食性等に優れる点から、エポキシ樹脂(A’)を含む、水性エポキシ樹脂組成物中のエポキシ基の総量とアミン系硬化剤中の活性水素基のモル比(エポキシ基/活性水素基)が100/60〜100/120であることが好ましい。
【0114】
また、硬化剤(B’)としては前記エポキシ樹脂(A’)中における水酸基と硬化反応が可能である化合物を使用することができる。かかる化合物として、工業的入手の容易さから、アミノ樹脂、イソシアネート化合物、又はフェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0115】
前記アミノ樹脂としては、例えば、メラミンとアルデヒド化合物から誘導されるメラミン樹脂、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン等とアルデヒド化合物から誘導されるグアナミン樹脂、尿素、チオ尿素等とアルデヒド化合物から誘導される尿素樹脂等が挙げられる。
【0116】
更に、前記アミノ樹脂としてはメラミン、尿素等のアミノ成分が共縮合されたものや樹脂中のメチロール基がメタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等のアルコールで置換されたものも使用することができる。
【0117】
前記アミノ樹脂の使用割合としては、本発明のエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A’)を含むエポキシ樹脂固形分総量100質量部に対してアミノ樹脂中の固形分が1〜40質量部となる割合であることが好ましく、特に2〜30質量部となる割合であることが特に好ましい。
【0118】
前記イソシアネート化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、ジイソシアネートとして、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート類、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類、イソホロンジイソシアネート、水素化トリレジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、水素化メタキシリレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート類等が挙げられ、無溶剤でも、溶剤に希釈されているものも使用できる。
【0119】
前記ジイソシアネート以外のポリイソシアネートとしては、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ジメチルトリフェニルメタンテトライソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアナートフェニル)−トリホスフェート等が挙げられる。
【0120】
更にイソシアネート化合物としては、上記イソシアネートを用いて、蒸気圧低下や粘度、官能基数、反応性の調整、特殊な物性を付与する等の目的で、種々の変性反応を行ったものも使用することができる。これらの例としては、アルコール類との反応物であるウレタンプレポリマー類、イソシアネート基同士を付加反応させて得られるアロファネート変性イソシアネート類、ビウレット変性イソシアネート類、ウレトジオン変性イソシアネート類、イソシアヌレート変性イソシアネート類、イソシアネート基の縮合反応等を利用したカルボジイミド変性体、ウレトニミン変性体、アシル尿素ジイソシアネート体等が挙げられる。
【0121】
前記ウレタンプレポリマー類としては、例えば、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、オレイルアルコール等の不飽和アルコールの2量体からなるジオール類、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ポリエステルポリオール等のポリオールと上記イソシアネート化合物とを反応させて得られる、末端にイソシアネート基を有する化合物類等が挙げられる。
【0122】
これらのイソシアネート化合物は、単独で用いても、2種類以上の混合物として用いても良い。
【0123】
前記イソシアネート化合物と使用割合としては、特に制限されるものではないが、得られる硬化物の前記性能に優れる点から、水性エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A’)を含むエポキシ樹脂固形分総量100質量部に対してイソシアネート化合物中の固形分を1〜30質量部で用いることが好ましく、更に好ましくは3〜25質量部である。
【0124】
前記フェノール樹脂としては、フェノール類とアルデヒド化合物とを触媒の存在下に縮合反応させた化合物であれば特に限定されず、単独でも2種類以上の併用も可能である。
【0125】
前記フェノール類としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−tert−ブチルフェノール、m−tert−ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−シクロヘキシルフェノール、ノニルフェノール、キシレノール等の1価フェノール類や、ビスフェノールA、ビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールZ等のビスフェノール類、1,5−ジオキシナフタレン、1,6−ジオキシナフタレン等のナフタレンジオール類、ビフェノール、テトラメチルビフェノールが挙げられ、これらは単独または2種類以上の併用も可能である。
【0126】
前記触媒としては、塩基性触媒または酸触媒を使用することができる。塩基性触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、アミン類、アンモニアなどが挙げられ、レゾール型縮合物が得られる。酸触媒としては塩酸、リン酸、シュウ酸等が挙げられ、ノボラック型縮合物が得られる。
【0127】
前記フェノール樹脂の使用割合は、特に限定されないが、本発明のエポキシ樹脂組成物のエポキシ樹脂(A)を含むエポキシ樹脂固形分総量100質量部に対して該フェノール系樹脂中の固形分が1〜40質量部となる割合であることが好ましく、特に2〜30質量部となる割合であることが好ましい。
【0128】
また本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて硬化促進剤を併用することも可能であり、例えば、2,4,6−トリ(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン(DBU)等の第三級アミン類、2−メチル−4−エチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルフォスフィン等のフォスフィン類、フェノール、クレゾール等のフェノール類が挙げられる。
【0129】
以上詳述したフェノール系樹脂(A)及び硬化剤(B)を必須成分とするフェノール系樹脂組成物、或いは、エポキシ樹脂(A’)及び硬化剤(B’)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物は、それぞれ、更に水性媒体(C)を併用して水溶性樹脂組成物或いは水性分散体として用いることが好ましい。本発明では特に水性分散体であることが、保存安定性に優れる点から好ましい。
【0130】
また、本発明のフェノール系樹脂組成物は、前記したフェノール系樹脂(A)と硬化剤(B)とを必須成分とするものの他、前記フェノール系樹脂(A)、及び水性媒体(C)を必須成分とするものであってもよい。この場合、該フェノール系樹脂組成物は、前記フェノール系樹脂(A)が水性媒体(C)中に分散してなる水性分散体を形成する。この水性分散体は塗料用途や接着剤用途に適用する場合、使用する際に必要量の硬化剤(B)を該分散体に配合して塗工等に供することができる。
【0131】
このようなフェノール系樹脂(A)及び水性媒体(C)を必須成分とする水性分散体の状態では、その固形分濃度が保存安定性の点から10〜70質量%であることが好ましく、固形分たるフェノール系樹脂(A)の分散粒子径は、平均10nm〜10μmであることが好ましい。
【0132】
同様に、本発明のエポキシ樹脂組成物は、前記したエポキシ樹脂(A’)と硬化剤(B’)とを必須成分とするものの他、前記エポキシ樹脂(A’)、及び水性媒体(C)を必須成分とするものであってもよく、この場合、該エポキシ樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂(A’)が水性媒体(C)中に分散してなる水性分散体を形成する。この水性分散体は塗料用途や接着剤用途に適用する場合、使用する際に必要量の硬化剤(B’)を該分散体に配合して塗工等に供することができる。
【0133】
このようなエポキシ樹脂(A’)及び水性媒体(C)を必須成分とする水性分散体の状態では、その固形分濃度が保存安定性の点から10〜70質量%であることが好ましく、固形分たるエポキシ樹脂(A’)の分散粒子径は、平均10nm〜10μmであることが好ましい。
【0134】
ここで用いる水性媒体(C)は、特に限定されるものではないが、脱イオン水が好ましい。水性媒体(C)は、フェノール系樹脂(A)の合成段階又は合成後、或いは、エポキシ樹脂(A’)の合成段階又は合成後の任意の段階で加え、均一に攪拌混合することによって、水性分散体を形成させることができる。
【0135】
本発明のフェノール系樹脂組成物又はエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて親水性の助剤として水溶性有機溶剤を使用してもよい。水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール類、メチルソロソルブ、エチルセロソルブ、n−プロピルセロソルブ、イソプロピルセロソロブ、ブチルセロソルブ、イソブチルセロソルブ、tert−ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、モノグライム、ジグライム、トリグライム等のグライム類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類などが挙げられ、これらの中でも、エポキシ樹脂(A)に対する溶解性が良好である点から、イソプロパノール、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、イソブチルセロソルブ、tert−ブチルセロソルブ、ジグライム、プロピレングリコールモノメチルエーテルを用いることが好ましい。
【0136】
本発明の本発明のフェノール系樹脂組成物又はエポキシ樹脂組成物は、前記した通り、何等界面活性剤を用いなくとも容易に水性分散体を形成し、優れた安定性を発現するものであるが、より一層の保存安定性の改善を目的として、硬化物である塗膜物性の低下を招かない範囲で、ごく少量の界面活性剤を用いてもよい。
【0137】
ここで用いる界面活性剤は、例えば、脂肪酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンエーテルリン酸エステル類などの陰イオン性界面活性剤、アルキルベタイン、アルキルベンジルアンモニウム塩、アルキルアンモニウムハイドロオキサイド等の両性イオン界面活性剤、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンスチレン化フェノールなどの非イオン性界面活性剤が挙げられる。これらの中でも、エポキシ樹脂との相溶性、及びエポキシ基との非反応性の点から、非イオン性界面活性剤が好ましく、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテルが更に好ましい。これら界面活性剤の使用量は、水性分散体化が可能であれば特に制限はないが、水性エポキシ樹脂組成物中におけるエポキシ樹脂総量100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、かつ、水性塗料用途等に用いる場合は乾燥塗膜の耐水性が良好な点から、5質量部以下であることが好ましく、2.5質量部以下であることが更に好ましい。
【0138】
また、本発明のフェノール系樹脂組成物又はエポキシ樹脂組成物は、本発明の特性を損なわない範囲で、必要に応じて、他のポリエステル系水性樹脂、アクリル系水性樹脂等を併用しても良い。
【0139】
更に、本発明のフェノール系樹脂組成物又はエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、ハジキ防止剤、ダレ止め剤、流展剤、消泡剤、硬化促進剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0140】
本発明のフェノール系樹脂組成物又はエポキシ樹脂組成物の用途は、例えば、塗料、接着剤、繊維集束剤、コンクリートプライマー等として好適に用いることができ、特に耐食性や水による無限希釈性に優れる点から水性塗料として用いることが好ましい。
【0141】
本発明のフェノール系樹脂組成物又はエポキシ樹脂組成物を塗料用途に用いる場合には、必要に応じて、防錆顔料、着色顔料、体質顔料等の各種フィラーや各種添加剤等を配合することが好ましい。前記防錆顔料としては亜鉛粉末、リンモリブテン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、クロム酸バリウム、クロム酸アルミニウム、グラファイト等の鱗片状顔料等が挙げられ、着色顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、硫化亜鉛、ベンガラが挙げられ、また体質顔料としては硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、カオリン等が挙げられる。これらフィラーの配合量としては、エポキシ樹脂、水、及び硬化剤の合計100質量部に対して、10〜70質量部であることが、塗膜性能、塗装作業性等の点から好ましい。
【0142】
本発明のフェノール系樹脂組成物又はエポキシ樹脂組成物を塗料用に使用する場合における塗装方法については、特に限定されず、ロールコート、スプレー、刷毛、ヘラ、バーコーター、浸漬塗装、電着塗装方法にて行う事ができ、その加工方法としては、常温乾燥〜加熱硬化を行うことができる。加熱する場合は50〜250℃、好ましくは60〜230℃で、2〜30分、好ましくは5〜20分反応させることにより、塗膜を得ることが出来る。
【0143】
また、本発明のフェノール系樹脂組成物又はエポキシ樹脂組成物を接着剤として使用する場合は、特に限定されず、スプレー、刷毛、ヘラにて基材へ塗布後、基材の接着面を合わせることで行う事ができ、接合部は周囲の固定や圧着する事で強固な接着層を形成することができる。基材としては鋼板、コンクリート、モルタル、木材、樹脂シート、樹脂フィルムが適し、必要に応じて研磨等の物理的処理やコロナ処理等の電気処理、化成処理等の化学処理などの各種表面処理を施した後に塗布すると更に好ましい。
【0144】
また、本発明のフェノール系樹脂組成物又はエポキシ樹脂組成物を繊維集束剤として使用する場合は、例えば、紡糸直後の繊維にローラーコーターを用いて塗布し、繊維ストランドとして巻き取った後、乾燥を行う方法が挙げられる。用いる繊維としては、特に制限されるものではなく、例えば、ガラス繊維、セラミック繊維、石綿繊維、炭素繊維、ステンレス繊維等の無機繊維、綿、麻等の天然繊維、ポリエステル、ポリアミド、ウレタン等の合成繊維等が挙げられ、その基材の形状としては短繊維、長繊維、ヤーン、マット、シート等が挙げられる。繊維集束剤としての使用量としては繊維に対して樹脂固形分として0.1〜2質量%であることが好ましい。
【0145】
また、本発明のフェノール系樹脂組成物又はエポキシ樹脂組成物をコンクリートプライマーとして使用する場合は、特に限定されず、ロール、スプレー、刷毛、ヘラ、鏝にて行う事ができる。
【0146】
本発明の硬化物を得る方法としては、一般的なエポキシ樹脂組成物の硬化方法に準拠すればよいが、加熱温度及び時間は、組み合わせる硬化剤の種類により異なるためそれぞれの最適温度、最適時間を選択することが好ましい。また、成形方法などもエポキシ樹脂組成物の一般的な方法が用いられ、特に本発明の水性エポキシ樹脂組成物に特有の条件は不
要である。
【実施例】
【0147】
次に本発明を実施例、比較例により具体的に説明する。なお、以下に記載の部及び%は、特に断りがない限り質量基準である。
実施例1 フェノール系樹脂(Ph−1)の合成
温度計、撹拌装置、滴下ロート、冷却管、窒素ガス導入管、下部に分液コックが装着された4つ口フラスコに、
ジフェノール酸(水酸基当量143g/eq、カルボキシル当量286g/eq、大塚化学株式会社製)286g、前記構造式(iv)において、Rが水素原子、nが15、Rがエチレン、Yが炭素原子数12のアルキル基である化合物(ナガセ化成工業株式会社製「デナコールEX−171」エポキシ当量:943g/eq)1037gを仕込み、120℃まで加熱撹拌することによって、均一溶液とした。その後、4質量%水酸化ナトリウム水溶液13gを添加し、更に同温度で8時間反応させた。その後、中和量のリン酸ソーダを添加し、フェノール系樹脂1320gを得た(以下、この化合物を「フェノール系樹脂(Ph−1)」と略記する。)。このフェノール系樹脂(Ph−1)は、図1のNMRスペクトル(13C)から、下記構造式(p1)で表される構造のフェノール系樹脂を含有することが確認された。
このフェノール系樹脂(Ph−1)の水酸基当量は615g/eqであった。
【0148】
【化21】

【0149】
実施例2 エポキシ樹脂(Ep−1)の合成
温度計、滴下ロート、冷却管、撹拌機を取り付けたフラスコに実施例1で得られたフェノール系樹脂(Ph−1)615g(水酸基当量615g/eq.)、エピクロルヒドリン925g(10モル)、n−ブタノール222gを仕込み溶解させた。その後、窒素ガスパージを施しながら、65℃に昇温した後に、共沸する圧力までに減圧して、49%水酸化ナトリウム水溶液122g(1.5モル)を5時間かけて滴下した。次いでこの条件下で0.5時間撹拌を続けた。この間、共沸で留出してきた留出分をディーンスタークトラップで分離して、水層を除去し、有機層を反応系内に戻しながら反応した。その後、常圧に戻し、水240gを仕込み生成した塩を洗浄した。洗浄後、未反応のエピクロルヒドリンを減圧蒸留して留去した。それで得られた粗エポキシ樹脂にトルエン1000gを加え溶解した。その後、中和量のリン酸ソーダを添加し、次いで共沸によって系内を脱水し精密濾過を経た後に溶媒を減圧下で留去して液状のエポキシ樹脂685gを得た(以下、このエポキシ樹脂を「エポキシ樹脂(Ep−1)」と略記する。)。このエポキシ樹脂(Ep−1)は、NMRスペクトル(13C)から下記構造式(e1)で表されるエポキシ樹脂を含有することが確認された。得られたエポキシ樹脂(Ep−1)のエポキシ当量は755g/eq.、粘度は1200mm/s(25℃,キャノンフェンスケ法)、エポキシ当量から算出される下記構造式中のpは0.2であった。また、構造式(e1)中のnの値は15であった。なお、該構造式(e1)中n、pは繰り返し単位の平均を表す。
【0150】
【化22】

【0151】
実施例3 フェノール系樹脂(Ph−2)の合成
実施例1において、「デナコールEX−171」1037gを、前記構造式(iv)において、Rが水素原子、nが41、Rがエチレン、Yが炭素原子数12のアルキル基である化合物(ナガセ化成工業株式会社製「デナコールFCA−050」エポキシ当量:1442g/eq)1870gに変更した以外は実施例1と同様の操作より、フェノール系樹脂1540gを得た(以下、このフェノール系樹脂を「フェノール系樹脂(Ph−2)」と略記する。このフェノール系樹脂(Ph−2)の水酸基当量は1195g/eqであった。
【0152】
実施例4 エポキシ樹脂(Ep−2)の合成
実施例2において、用いる原料をフェノール系樹脂(Ph−1)508gからフェノール系樹脂(Ph−2)1195g(水酸基当量1195g/eq.)に変更した以外は実施例2と同様の操作にて液状のエポキシ樹脂1290gを得た(以下、このエポキシ樹脂を「エポキシ樹脂(Ep−2)」と略記する。)。このエポキシ樹脂(Ep−2)のエポキシ当量は1410g/eq.、粘度は860mm/s(25℃,キャノンフェンスケ法)、エポキシ当量から算出される前記構造式(e1)中のpは0.2であった。また、構造式(e1)中のnは41であった。
【0153】
実施例5 フェノール系樹脂(Ph−3)の合成
実施例1において、「デナコールEX−171」1037gを、前記構造式(iv)中Rが水素原子、Yの炭素原子数が1、Rがエチレン、nが41のポリエチレングリコールモノメチルエーテルモノグリシジルエーエル(エポキシ当量:1288g/eq、)1415gに変更した以外は実施例1と同様の操作より、フェノール系樹脂1700gを得た(以下、このフェノール系樹脂を「フェノール系樹脂(Ph−3)」と略記する。このフェノール系樹脂(Ph−3)の水酸基当量は1040g/eqであった。
【0154】
実施例6 エポキシ樹脂(Ep−3)の合成
実施例2において、用いる原料をフェノール系樹脂(Ph−1)508gからフェノール系樹脂(Ph−3)1040g(水酸基当量1040g/eq.)に変更した以外は実施例2と同様の操作にて液状のエポキシ樹脂1060gを得た(以下、このエポキシ樹脂を「エポキシ樹脂(Ep−3)」と略記する。)。このエポキシ樹脂(Ep−3)のエポキシ当量は1230g/eq.、粘度は1100mm/s(25℃,キャノンフェンスケ法)、エポキシ当量から算出される前記構造式(e1)中のpは0.2であった。また、構造式(e1)中のnは41であった。
【0155】
実施例7 エポキシ樹脂(Ep−4)の合成
温度計、撹拌装置、滴下ロート、冷却管、窒素ガス導入管が装着された4つ口フラスコに、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製「EPICLON850−S」、エポキシ当量188g/eq)752g、実施例5で得られたフェノール系樹脂(Ph−3)690g、ビスフェノールA(水酸基当量114g/eq)228gを仕込み、140℃まで30分間要して昇温した後、4質量%水酸化ナトリウム水溶液10gを仕込んだ。その後、30分間要して150℃まで昇温し、さらに150℃で8時間反応させた。その後、中和量のリン酸ソーダを添加し、エポキシ樹脂1260gを得た(以下、このエポキシ樹脂を「エポキシ樹脂(Ep−4)」と略記する。)。このエポキシ樹脂(Ep−4)のエポキシ当量は1280g/eq.、25℃で半固形であった。
【0156】
比較例1 (特許文献1記載の化合物)
温度計、撹拌装置、滴下ロート、冷却管、窒素ガス導入管が装着された4つ口フラスコに、EPICLON 1055(ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂、エポキシ当量475g/eq、大日本インキ化学工業株式会社製)300g、ブチルセロソルブ135gを仕込み、100℃に昇温して攪拌均一化後、モノエタノールアミン(アルカノールアミン、日本触媒株式会社製)4g、ジェファーミンM−1000(ポリオキシアルキレンアミン化合物、ピー・ティー・アイジャパン株式会社製)101gを発熱に注意しながら順次仕込み、130℃において溶液粘度が飽和するまで反応を行う事によってエポキシ樹脂(A’−1)を得た。エポキシ樹脂(A’−1)に対し、イオン交換水360gを添加し、攪拌均一化することによって、不揮発分45%の水性エポキシ樹脂組成物(E’−1)を得た。
【0157】
比較例2 (特許文献2記載の化合物)
温度計、撹拌装置、滴下ロート、冷却管、窒素ガス導入管が装着された4つ口フラスコに、EPICLON 2055(ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂、エポキシ当量625g/eq、大日本インキ化学工業株式会社製)300g、ジグライム180gを仕込み、70℃に昇温して攪拌均一化後、モノエタノールアミン21g、を加え、100℃にて7時間反応させた。70℃に冷却後、無水コハク酸59gを添加し95℃に昇温し1時間反応させた。次に、反応液を60℃に冷却し、29%アンモニア水35gを添加、攪拌均一化後にイオン交換水527gを加え、攪拌均一化させることによって不揮発分33%の水性エポキシ樹脂組成物(E’−2)を得た。
【0158】
実施例8〜12、及び比較例3〜6
上記のようにして合成された4種類のエポキシ樹脂(Ep−1)、(Ep−2)、(Ep−3)、(Ep−4)、フェノール系樹脂(Ph−1)、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル(Ep−5、ナガセ化成工業株式会社製「デナコール EX−861」エポキシ当量587g/eq、エチレングリコールの繰り返し数の平均値22)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製「EPICLON 1055」、エポキシ当量480g/eq.)を用いて以下の方法にて各性能評価を行った。
【0159】
[水ワニス安定性]
表1に従った配合で、各エポキシ樹脂とプロピルセロソルブを加え攪拌均一化する事によって不揮発分90%のエポキシ樹脂組成物を得た。このエポキシ樹脂組成物に表1に従った配合でイオン交換水を加え、攪拌均一化することによって不揮発分45%の水性エポキシ樹脂組成物を得た。これを100ml容量のマヨネーズ瓶に90g量り取り、40℃の乾燥機内にて保管し、3ヵ月後の外観を目視にて観察した。
〇:沈殿、分離なし、×:分離または凝集物が確認される
【0160】
[アミン臭気性]
安定性試験3ヵ月後のマヨネーズ瓶を開け、アミン臭気について官能試験を行った。
○:アミン臭気無、×:アミン臭気有
【0161】
【表1】


【0162】
実施例13〜16及び比較例7、8
次に、得られた水性エポキシ樹脂組成物を用いて表2の配合比で水性塗料を作成し、#400のサンドペーバーで表面処理を行った冷却圧延鋼板に対しバーコーターにて塗布した後、塗膜物性評価を行った。なお、表2記載の塗料はPWC=50%、塗膜物性は膜厚60μm、25℃×7日養生後の試験結果である。尚、各試験方法及び評価基準は下記の通りである。
【0163】
耐おもり落下性:JIS K−5600−5−3(1999)に準拠し、デュポン式にて、撃心1/2インチ、荷重500gにて行った。
〇:50cmで亀裂等の発生無し。×:50cmで亀裂等の発生が認められる。
【0164】
付着性試験:JIS K−5600−5−6(1999)に準拠し、1mm間隔で切れ目を入れ、テープを貼り付け後に引き剥がした後の塗膜状態を目視で観察した。
〇:剥がれなし。×:剥がれが見られる。
【0165】
【表2】

表2中の略号は以下の通りである。
「8290Y60」:ジャパンエポキシレジン社製ポリアミン樹脂「エピキュア 8290Y60」活性水素当量(溶液値=272g/eq)、不揮発成分:60%
「K−ホワイト」:テイカ株式会社製防錆顔料「K−ホワイト」
「CR−97」:石原産業株式会社製酸化チタン「タイペークCR−97」
「SNデフォーマー777」:サンノプコ株式会社製消泡剤
「BYK−341」:ビックケミー社製添加剤
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】実施例1で得られたフェノール系樹脂の13C−NMRスペクトルである。
【図2】実施例2で得られたエポキシ樹脂の13C−NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノキシ構造を主骨格中に有するフェノール系樹脂であって、該フェノキシ構造として下記構造式(1)
【化1】


(式中、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は直接結合を表す。)
で表される化学構造を有するフェノール系樹脂(A)、及び、硬化剤(B)を必須成分とすることを特徴とするフェノール系樹脂組成物。
【請求項2】
前記フェノール系樹脂(A)が、前記構造式(1)中のXとして下記構造式(2)
【化1】

(式中、Xは単結合又は炭素原子数1〜4のアルキレン基であり、Rは水素原子又はメチル基である。)で表される化学構造部位を有するものである請求項1記載のフェノール系樹脂組成物。
【請求項3】
前記フェノール系樹脂(A)が、下記構造式(3)
【化2】


(式中、R、R、R、R、Rは同一でも異なっても良い、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基であり、Rは水素原子又はメチル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、pは繰り返し数の平均値であって0〜50であり、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は直接結合を表す。)
で表される分子構造を有するものである請求項1記載のフェノール系樹脂組成物。
【請求項4】
前記フェノール系樹脂(A)が下記構造式(4)
【化3】


(式中、R、R、R、R、Rは同一でも異なっても良い、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、R炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基又は水素原子であり、Rは水素原子又はメチル基であり、Xは単結合又は炭素原子数1〜4のアルキレン基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、pは繰り返し数の平均値であって0〜50である。)
で表される構造を有するものである請求項3記載のフェノール系樹脂組成物。
【請求項5】
前記フェノール系樹脂(A)が、その水酸基当量が150〜3000g/eq.の範囲にあるものである請求項1〜4の何れか1つに記載のフェノール系樹脂組成物。
【請求項6】
前記硬化剤(B)が、エポキシ樹脂である請求項1〜5の何れか1つに記載のフェノール系樹脂組成物。
【請求項7】
前記フェノール系樹脂(A)及び硬化剤(B)に加え、更に水性媒体(C)を含む請求項1〜6の何れか1つに記載のフェノール系樹脂組成物。
【請求項8】
前記請求項1〜7の何れか1つの記載のフェノール系樹脂組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項9】
請求項7記載のフェノール系樹脂組成物からなる水性塗料。
【請求項10】
フェノキシ構造を主骨格中に有するフェノール系樹脂であって、該フェノキシ構造として下記構造式(1)
【化1】


(式中、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は直接結合を表す。)
で表される化学構造を有するフェノール系樹脂(A)及び水性媒体(C)を必須成分とすることを特徴とするフェノール系樹脂組成物。
【請求項11】
フェノキシ構造を主骨格中に有するエポキシ樹脂であって、該フェノキシ構造として下記構造式(1)
【化1】


(式中、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は、直接結合を表す。)
で表される化学構造を有するエポキシ樹脂(A’)、及び、硬化剤(B’)を必須成分とすることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項12】
前記エポキシ樹脂(A’)が下記構造式(5)
【化4】


(式中、R、R、R、R、Rは同一でも異なっても良い、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基又は水素原子であり、Rは水素原子又はメチル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、pは繰り返し数の平均値であって0〜50であり、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は直接結合を表す。)
で表される分子構造を有するものである請求項11記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項13】
前記エポキシ樹脂(A’)が下記構造式(6)
【化5】


(式中、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、R炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基又は水素原子であり、Rは水素原子又はメチル基であり、Xは単結合又は炭素原子数1〜4のアルキレン基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、pは繰り返し数の平均値であって0〜50である。)
で表される構造を有するものである請求項12記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項14】
前記エポキシ樹脂(A’)が、そのエポキシ当量が200〜3100g/eq.の範囲にあるものである請求項11、12、又は13記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項15】
前記エポキシ樹脂(A’)及び硬化剤(B’)に加え、更に水性媒体(C)を含む請求項11〜14の何れか1つに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項16】
前記請求項11〜15の何れか1つの記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項17】
請求項15記載のエポキシ樹脂組成物からなる水性塗料。
【請求項18】
フェノキシ構造を主骨格中に有するエポキシ樹脂であって、該フェノキシ構造として下記構造式(1)
【化1】


(式中、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立的に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は、直接結合を表す。)
で表される化学構造を有するエポキシ樹脂(A’)及び水性媒体(C)を必須成分とすることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項19】
下記構造式(3)
【化6】


(式中、R、R、R、R、Rは同一でも異なっても良い、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基であり、Rは水素原子又はメチル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、pは繰り返し数の平均値であって0〜50であり、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は直接結合を表す。)
で表される分子構造を有することを特徴とする新規フェノール系樹脂。
【請求項20】
下記構造式(5)
【化7】


(式中、R、R、R、R、Rは同一でも異なっても良い、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素原子数2〜5のアルキレン基であり、Yは炭素原子数1〜15のアルキル基又は水素原子であり、Rは水素原子又はメチル基であり、nは繰り返し単位の平均値で1〜50であり、pは繰り返し数の平均値であって0〜50であり、Xは、複数の炭素原子数1〜4のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボニルオキシ基で結節された脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基に更に水酸基を有する構造部位、又は直接結合を表す。)
で表される分子構造を有することを特徴とする新規エポキシ樹脂。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−222732(P2008−222732A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58521(P2007−58521)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】