説明

フェライト焼結磁石

【課題】 実用に十分なHcJを有しつつ、Brが大幅に高められたフェライト焼結磁石を提供すること。
【解決手段】 好適なフェライト焼結磁石は、六方晶構造を有するフェライト相が主相をなし、
フェライト焼結磁石を構成する金属元素の組成は下記一般式(1)で表され、
Ca1−x−m(Fe12−y’y’’Coy’Zny’’…(1)
(RはLaを必須成分として含むLa、Ce、Pr、Nd及びSmからなる群より選ばれる元素を示し、AはSrを必須成分として含むSr及びBaから選ばれる元素を示す。)
当該式(1)中、x、m、y’、y’’及びzは、0.23≦x≦0.5、0.12≦m≦0.39、0.17≦y’z≦0.36、0.01≦y’’z≦0.11、0.19≦y’z+y’’z≦0.40、9.8≦12z≦11.7を全て満足し、且つ、副成分として、Si成分をSiOに換算して0.13〜0.48質量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フェライト焼結磁石に用いられる磁性材料として、六方晶系のBaフェライト及びSrフェライトが知られている。近年、そのようなフェライトの中でも、マグネトプランバイト型(M型)のBaフェライト及びSrフェライトが主に採用されている。M型フェライトはAFe1219の一般式で表され、Aで示される元素としてBa、Srが用いられる。
【0003】
M型フェライトの中で、Aで示される元素がSrであり、かつその一部が希土類元素で置換され、さらにFeの一部がCoで置換されたM型フェライトは、残留磁束密度や保磁力といった磁気特性に優れていることが知られている(例えば特許文献1、2参照)。このようなM型フェライトは、希土類元素としてLaを含むことが必須とされている。Laは、六方晶M型フェライトに対する固溶限界量が希土類元素の中でも最も多いためである。また、特許文献1、2には、Aで示される元素の置換元素としてLaを用いることにより、Feの一部を置換するCoの固溶量を多くでき、その結果、磁気特性が向上することが開示されている。
【0004】
ここで、上述の一般式におけるAで示される元素が、SrやBaよりもイオン半径の小さなCaであると、六方晶フェライトの結晶構造とはならないため、これを磁性材料として用いることはできない。しかしながら、Aで示される元素がCaであっても、その一部がLaで置換されると、六方晶フェライトの結晶構造をとることができる。さらにFeの一部がCoで置換されると、フェライト焼結磁石は高い磁気特性を示すことが知られている(特許文献3参照)。すなわち、この磁性材料は、Aで示される元素がCaであり、かつその一部を、Laを必須成分として含む希土類元素で置換し、さらにFeの一部をCoで置換したM型フェライトである。
【0005】
Aで示される元素がCaであるM型フェライトは、上記特許文献3の他、特許文献4、5にも開示されている。特許文献4によると、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を向上させ、なおかつ高い角型比を示す酸化物磁性材料及び焼結磁石を提供することを意図して、下記式(9)で表され、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライトを主相とする酸化物磁性材料が開示されている。
(1−x)CaO・(x/2)R・(n−y/2)Fe・yMO …(9)
【0006】
ここで式(9)中、Rは、La、Nd、Prから選択される少なくとも一種の元素であってLaを必ず含み、Mは、Co、Zn、Ni、Mnから選択される少なくとも一種の元素であってCoを必ず含み、モル比を表わすx、y、nがそれぞれ、0.4≦x≦0.6、0.2≦y≦0.35、4≦n≦6であり、かつ1.4≦x/y≦2.5の関係式を満足する組成を有する。
【0007】
また、特許文献5には、高い残留磁束密度を保持しながら薄型にしても低下しない高い保磁力を有することを意図して、下記一般式(10)で表される組成を有するフェライト焼結磁石が提案されている。
1−x−y+aCax+yy+cFe2n−zCoz+d19 …(10)
【0008】
ここで式(10)中、A元素はSr又はSr及びBa、R元素はYを含む希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含み、x、y、z及びnはそれぞれ仮焼体中のCa、R元素及びCaの含有量及びモル比を表し、a、b、c及びdはそれぞれ仮焼体の粉砕工程で添加されたA元素、Ca、R元素及びCoの量を表し、各々下記条件:
0.03≦x≦0.4、0.1≦y≦0.6、0≦z≦0.4、4≦n≦10、x+y<1、0.03≦x+b≦0.4、0.1≦y+c≦0.6、0.1≦z+d≦0.4、0.50≦[(1−x−y+a)/(1−y+a+b)]≦0.97、1.1≦(y+c)/(z+d)≦1.8、1.0≦(y+c)/x≦20、0.1≦x/(z+d)≦1.2を満足する。
【特許文献1】特開平11−154604号公報
【特許文献2】特開2000−195715号公報
【特許文献3】特開平12−223307号公報
【特許文献4】特開2006−104050号公報
【特許文献5】国際公開第2005/027153号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したようなフェライト焼結磁石は多様な用途に用いられており、そのため、近年では、単に磁気特性が高ければよいというわけではなく、その用途に適した特性を有することが求められている。例えば、フェライト焼結磁石は、自動車用、OA/AV機器用、家電機器用等のモータ部材に適用されることが増えてきているが、このようなモータ用途においては、モータの出力を向上させる観点から、ある程度のHcJを維持しつつ、特にBrを従来よりも大幅に高めることが求められている。これに対し、Br及びHcJの両方がバランスよく高められたフェライト焼結磁石は、上記で示したようにこれまで幾つか開示されてはいたものの、従来を大きく上回るモータの高出力化が可能となるような十分に高いBrを有するフェライト焼結磁石は未だ得られていなかった。
【0010】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、実用に十分なHcJを有しつつ、Brが大幅に高められたフェライト焼結磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のフェライト焼結磁石は、六方晶構造を有するフェライト相が主相をなすフェライト焼結磁石であって、フェライト焼結磁石を構成する金属元素の組成は下記一般式(1)で表され、
Ca1−x−m(Fe12−y’y’’Coy’Zny’’…(1)
(式(1)中、RはLaを必須成分として含むLa、Ce、Pr、Nd及びSmからなる群より選ばれる1種以上の元素を示し、AはSrを必須成分として含むSr及びBaから選ばれる少なくとも1種以上の元素を示す。)
当該式(1)中、x、m、y’、y’’及びzは、下記式(2)、(3)、(4)、(5)、(6)及び(7)で表される各条件を全て満足し、
0.23≦x≦0.5 …(2)
0.12≦m≦0.39 …(3)
0.17≦y’z≦0.36 …(4)
0.01≦y’’z≦0.11…(5)
0.19≦y’z+y’’z≦0.40…(6)
9.8≦12z≦11.7 …(7)
且つ、副成分として、Si成分をSiOに換算して0.13〜0.48質量%含有することを特徴とする。
【0012】
上記構成を有する本発明のフェライト焼結磁石は、Caを含み、且つその一部がLaを必須とするR元素で置換されるとともに、Feの置換元素としてCo及びZnを組み合わせて有する組成を有している。そのため、従来に比して特にBrが高められるとともに、十分に高いHcJを有するものとなる。このようにBrが高められる要因は必ずしも明らかではないが、特に、Feサイトに置換したZnは非磁性イオンであるため、このZnが置換することによって下向きの磁気モーメントが小さくなったことが一因であると考えられる。
【0013】
また、本発明では、主相に対する副成分としてSiOを適量含んでいることから、非磁性成分であるSiOに起因するBrの低下を少なくしながら、SiOによる焼結密度の向上や粒成長の抑制効果が良好に得られるようになる。その結果、本発明のフェライト磁石は、高いHcJを維持しながらも高いBr化がなされたものとなる。したがって、本発明のフェライト焼結磁石は、例えば、高出力のモータに対して極めて好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、実用に十分なHcJを有しつつ、Brが大幅に高められたフェライト焼結磁石を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。
【0016】
本実施形態のフェライト焼結磁石は、六方晶構造を有するフェライト相が主相をなすフェライト焼結磁石である。ここで、「フェライト相が主相をなす」とは、通常、主相(主相粒子)とこの主相の粒界部分からなる構造を有するフェライト焼結磁石において、この主相がフェライト相であることを意味する。
【0017】
このフェライト焼結磁石を構成する金属元素の組成は上記一般式(1)で表される。以下、一般式(1)で表される組成について説明する。
【0018】
上記一般式(1)中、Rは、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)及びSm(サマリウム)からなる群より選ばれる1種以上の元素を示す。ただし、これらの元素のうち、Laは必ず含まれ、磁気特性を向上させるのに最も好適な元素である。また、同様の観点から、La以外の上記元素としては、Prが好ましい。
【0019】
Rにおける各元素の組成比について、磁気特性(Br及びHcJ)の向上効果を更に有効に奏する観点から、Laを主成分とすることが好ましい。より具体的には、RにおけるLaの組成比が、80〜100原子%であると好ましく、90〜100原子%であるとより好ましい。この組成比が上記下限値を下回ると、上記数値範囲内にある場合と対比して、RのAサイトへの置換効果が低下し、十分な磁気特性が得られない場合がある。
【0020】
AはSr(ストロンチウム)及びBa(バリウム)からなる群より選ばれる1種以上の元素である。ただし、Aとしては、より高い磁気特性を得る観点から、Srを必須として含む。AにおけるSrの組成比は50〜100原子%であると好ましく、75〜100原子%であるとより好ましい。
【0021】
本実施形態のフェライト焼結磁石は、上記一般式(1)で表されるように、Feの置換元素としてCo及びZnの両方を組み合わせて含むことで、特に高Br化が可能となっている。なお、フェライト焼結磁石は、特性に大きく影響しない範囲であれば、Feの一部が更に他の元素によって置換されていてもよく、その元素としては、Ni(ニッケル)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)、Cr(クロム)等が挙げられる。
【0022】
上記一般式(1)中、x、m、1−x−m、(12−y’y’’)z、y’z、y’’z及びzは、それぞれ、R、Ca(カルシウム)、A、Fe、Co、Zn及びFe12−y’y’’Coy’Zny’’(Feサイトの合計)の原子比率を示している。これらのx、m、y’、y’’及びzは、上記式(2)、(3)、(4)、(5)、(6)及び(7)で表される各条件を全て満足する値である。
【0023】
ここで、Rの原子比率であるxが0.23未満であると、上記式(2)で表される条件を満足する数値範囲内にある場合と比べて、RのAサイトへの置換効果が低くなり、BrやHcJ等の磁気特性が低下する。また、xが0.5を超えると、上記式(2)で表される条件を満足する場合と比べて、Aサイトに置換されないRが増え、これに起因して、オルソフェライト等の非磁性相の生成量が増加してしまい、やはり磁気特性が低下する。同様の観点から、xは下記式(2a)で表される条件を満たすとより好ましい。
0.30≦x≦0.45…(2a)
【0024】
また、Caは、これを含む磁性材料の組成が、フェライト焼結磁石の磁気特性を向上させる要因となる。すなわち、Caを添加することによって、RのAサイトへの置換量を増加させることができ、それに伴い、FeサイトにCoやZnを十分に置換させることができる。このことによって、フェライト焼結磁石の磁気特性が優れたものとなる。mが0.12を下回ると、上記式(3)で表される条件を満足する場合と比較して、Caによる上述の磁気特性の向上効果が低減する。また、mが0.12を下回ると、六方晶フェライト相の結晶構造を安定的に存在させるために、Rの六方晶フェライトへの固溶量を削減せざるを得なくなる。これによっても、フェライト焼結磁石の磁気特性が低下する。
【0025】
一方、mが0.39を超えると、上記式(3)で表される条件を満足する場合と比較して、組成中のR及びAの総量が少なくなる。Rが少なくなるとRのAサイトへの置換効果が低下し、Aが少なくなると、α−Feが生成し易くなる。いずれにしても、mが0.39を超えることにより、磁石の磁気特性が低下することになる。同様の観点から下記式(3a)で表される条件を満足するとより好ましい。
0.16≦m≦0.35…(3a)
【0026】
y’zが0.17未満であると、上記式(4)で表される条件を満足する場合と比べて、CoのFeサイトへの置換効果が低くなり、Br及びHcJを十分に高めることが困難となる。また、y’zが0.36を超えると、上記式(4)の範囲内である場合に比べて、Coの置換量が多くなりすぎ、後述するようなZnによるBrの向上効果が十分に得られなくなる。これらの観点から、y’zは、下記式(4a)で表される条件を満足するとより好適である。
0.18≦y’z≦0.31…(4a)
【0027】
さらに、y’’zが0.01未満であるとZnのFeサイトへの置換効果が十分に得られず、本発明の目的であるBrを十分に向上させることができなくなる。一方、0.11を超える場合は、今度はCoの置換効果が阻害され、HcJが十分に維持されなくなる傾向にある。十分にHcJを維持しながら、Brを大幅に高める観点からは、y’’zは、更に下記式(5a)で表される条件を満足すると特に好ましい。
0.01≦y’’z≦0.08…(5a)
【0028】
y’z+y’’zは、Feサイトに置換したCo及びFeの合計の原子比率を示しているが、この値が0.19未満であると、Co及びZnの置換効果の両方が低下し、十分な磁気特性が得られなくなる。一方、0.40を超えると、FeサイトへのCo及びZnの置換量が限界を超えるために異相等が生成し、磁気特性が低下する。同様の観点から、y’z+y’’zは、下記式(6a)で表される条件を満足するとより好適である。
0.25≦y’z+y’’z≦0.38…(6a)
【0029】
12zが9.8を下回ると、Feサイトの原子比率が小さいため、六方晶フェライト相の結晶構造におけるAサイト元素が余剰となる。これにより、Aで示される元素が主相であるフェライト相から排出するため、非磁性の粒界成分を不必要に増加させてしまい、磁気特性が低下する。また、12zが11.7を超える場合、Aで示される元素に対するFeの組成比が高くなり、α−FeやCo又はZnを含む軟磁性スピネルフェライト相が生成し易くなる。その結果、磁気特性が低下する。同様の観点から、12zは、下記式(7a)で表される条件を満足するとより好適である。
10.4≦12z≦11.6…(7a)
【0030】
上記一般式(1)は、フェライト焼結磁石における金属元素であるR、Ca、A、Fe、Co及びZnの組成比を示したものである。フェライト焼結磁石は構成元素として当然にO(酸素)も含む。したがって、酸素も含めたフェライト焼結磁石の組成は、下記一般式(1a)で表される。
Ca1−x−m(Fe12−y’y’’Coy’Zny’’19 …(1a)
【0031】
本発明のフェライト焼結磁石は、この一般式(1a)で表される六方晶M型フェライト相(以下、「M相」ともいう。)の比率が95モル%以上であると好ましい。なお、酸素の組成比は、各金属元素の組成比、各元素(イオン)の価数に影響され、結晶内で電気的中性を維持するように増減する。また、後述する焼成工程の際に、焼成雰囲気を還元性雰囲気にすると酸素欠損が生じる場合もある。上記一般式(1a)において酸素の原子数は19であるが、これらの要因により多少偏倚してもよい。
【0032】
また、本実施形態のフェライト焼結磁石は、上述した組成を有するともに、副成分としてSi(ケイ素)成分を含有する。ここで、Si成分とは、Si原子そのものや、Siを含む化合物(SiO等)の両方を含むこととする。フェライト焼結磁石において、Siは、主相に含まれていても、粒界部分に含まれていてもよいが、もっぱら粒界部分に存在すると好ましい。
【0033】
副成分としてのSi成分を含有することにより、フェライト焼結磁石は、焼結性が改善され、また、磁気特性が良好に制御されるともに、焼結体の結晶粒径が適切に調整されたものとなる。Si成分の好適な含有量は、上述の如く、SiOに換算して0.13〜0.48質量%である。このSi成分の含有量が多すぎると、非磁性成分であるSi成分がフェライト焼結磁石中に多量に含まれることになるため、磁気特性(特にBr)が低くなる。一方、Si成分が少なすぎても、上述した良好な効果が得られず、HcJが不都合に低下する。このような観点から、Si成分の含有量は、SiOに換算して0.25〜0.45質量%であると更に好ましい。
【0034】
本実施形態のフェライト焼結磁石は、副成分としてSiOを含むほか、他の副成分を更に含んでいてもよい。例えば、まず、副成分としてCa成分を含んでいてもよい。ただし、本実施形態のフェライト焼結磁石は、上述したように主相であるフェライト相を構成する成分としてCaを含む。したがって、副成分としてCaを含有させた場合、例えば焼結体から分析されるCaの量は主相及び副成分の総量となる。したがって、副成分としてCa成分を用いた場合には、一般式(1)におけるCaの原子比率mは副成分をも含んだ値となる。原子比率mの範囲は、焼結後に分析された組成に基づいて特定されるものであるから、副成分としてCa成分を含む場合と含まない場合との両方に適用できる。
【0035】
また、フェライト焼結磁石は、副成分として、Bを含有してもよい。これにより、仮焼温度及び焼結温度を低くすることができ、生産上有利である。Bの含有量は、飽和磁化を高く維持する観点から、フェライト焼結磁石の全体量に対して、0.5質量%以下であることが好ましい。
【0036】
さらに、フェライト焼結磁石は、飽和磁化を高く維持する観点から、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Rb(ルビジウム)等のアルカリ金属元素は含有しないことが好ましい。ただし、アルカリ金属元素が不可避的不純物として含有されることもある。その場合、これらの含有割合は、酸化物(NaO、KO、RbO)に換算して、フェライト焼結磁石の全体量に対して、1.0質量%以下であることが好適である。
【0037】
さらにまた、フェライト焼結磁石は、例えば、Ga(ガリウム)、In(インジウム)、Li(リチウム)、Mg(マグネシウム)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(スズ)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Sb(アンチモン)、As(ヒ素)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)等を酸化物として含有してもよい。これらの含有量は、化学量論組成の酸化物に換算して、フェライト焼結磁石の全体量に対して、それぞれ、酸化ガリウム5.0質量%以下、酸化インジウム3.0質量%以下、酸化リチウム1.0質量%以下、酸化マグネシウム3.0質量%以下、酸化チタン3.0質量%以下、酸化ジルコニウム3.0質量%以下、酸化ゲルマニウム3.0質量%以下、酸化スズ3.0質量%以下、酸化バナジウム3.0質量%以下、酸化ニオブ3.0質量%以下、酸化タンタル3.0質量%以下、酸化アンチモン3.0質量%以下、酸化ヒ素3.0質量%以下、酸化タングステン3.0質量%以下、酸化モリブデン3.0質量%以下であることが好ましい。
【0038】
本実施形態のフェライト焼結磁石は、上述した特定組成を有しており、特に、Feの置換元素としてCo及びZnをそれぞれ所定の割合で含み、且つ、副成分としてSiOを特定量含んでいることから、実用に十分なHcJを有しつつ、従来に比して高いBrを発揮し得るものとなる。
【0039】
したがって、このフェライト焼結磁石は、モータに適用した場合に高出力化に大きく貢献することができ、高出力が求められるモータに対して極めて好適である。フェライト焼結磁石が適用されるモータとしては、例えば、フューエルポンプ用、パワーウィンドウ用、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)用、ファン用、ワイパ用、パワーステアリング用、アクティブサスペンション用、スタータ用、ドアロック用、電動ミラー用等の自動車用モータが挙げられる。また、FDDスピンドル用、VTRキャプスタン用、VTR回転ヘッド用、VTRリール用、VTRローディング用、VTRカメラキャプスタン用、VTRカメラ回転ヘッド用、VTRカメラズーム用、VTRカメラフォーカス用、ラジカセ等キャプスタン用、CD/DVD/MDスピンドル用、CD/DVD/MDローディング用、CD/DVD光ピックアップ用等のOA/AV機器用モータにも好適である。さらに、エアコンコンプレッサー用、冷凍庫コンプレッサー用、電動工具駆動用、ドライヤーファン用、シェーバー駆動用、電動歯ブラシ用等の家電機器用モータ等も挙げられる。さらにまた、ロボット軸、関節駆動用、ロボット主駆動用、工作機器テーブル駆動用、工作機器ベルト駆動用等のFA機器用モータの部材としても使用することが可能である。
【0040】
また、本実施形態のフェライト焼結磁石は、モータ以外の用途にも適用可能であり、例えば、オートバイ用発電器、スピーカ・ヘッドホン用マグネット、マグネトロン管、MRI用磁場発生装置、CD−ROM用クランパ、ディストリビュータ用センサ、ABS用センサ、燃料・オイルレベルセンサ、マグネトラッチ、アイソレータ等の部材として適用できる。あるいは、磁気記録媒体の磁性層を蒸着法又はスパッタ法等で形成する際のターゲット(ペレット)として用いることもできる。
【0041】
図1は、上述した組成を有するフェライト焼結磁石の形状の一例を示す模式斜視図である。このフェライト焼結磁石10は、断面弧状の柱体をなしており、その角部が面取りされている。フェライト焼結磁石10は、例えばモータの部材として好適に用いられる。ただし、本発明のフェライト焼結磁石の形状はこれに限定されず、上述の各用途に適した形状であればよい。
【0042】
次に、上述したようなフェライト焼結磁石の製造方法の好適な実施形態について説明する。このフェライト焼結磁石の製造方法は、配合工程、仮焼工程、粗粉砕工程、微粉砕工程、磁場中成形工程及び焼成工程を含む。
【0043】
<配合工程>
まず、配合工程では、フェライト焼結磁石の出発原料の粉末を所定の割合となるように秤量した後、湿式アトライタ、ボールミル等で混合及び粉砕処理して原料組成物の粉末を得る。混合及び粉砕処理の時間は、出発原料の量等に応じて適宜調整すればよく、例えば0.1〜20時間程度である。出発原料としては、フェライト焼結磁石を構成する金属元素の1種又は2種以上を有する化合物が挙げられる。具体的には、フェライト焼結磁石を構成する金属元素の酸化物や、焼成により酸化物となり得る金属元素の水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等が挙げられる。出発原料の平均粒径は特に限定されないが、0.1〜2.0μm程度であると好ましい。なお、配合工程においては、出発原料の全てを混合する必要はなく、その一部を後述する仮焼工程の後に添加、混合してもよい。また、所望とするフェライト焼結磁石の組成に対応する全量の出発原料を用いる必要はなく、同じ出発原料を配合工程と仮焼工程後とに分割して加えてもよい。
【0044】
<仮焼工程>
仮焼工程では、配合工程で得られた原料組成物の粉末を仮焼して仮焼体を得る。仮焼は、空気中等の酸化性雰囲気下で行うことができる。仮焼温度は1100〜1450℃であると好ましく、1150〜1400℃であるとより好ましく、1200〜1350℃であると更に好ましい。仮焼工程後、粉砕工程を始めるまでの安定時間は1秒間〜10時間であると好ましく、1秒間〜5時間であるとより好ましい。仮焼工程後の仮焼体は、通常M相を70モル%以上含有する。このM相の平均一次粒子径は、好ましくは10μm以下、より好ましくは5.0μm以下である。
【0045】
<粉砕工程>
仮焼体は、一般に顆粒状、塊状等になっているため、そのままでは所望の形状に成形できない。そこで粉砕工程では、仮焼体を所望の形状に成形できるように粉砕する。この粉砕工程においては、粉砕条件を適宜調整することで、好適な形状を有するフェライト相の結晶粒子を形成することができる。また、粉砕工程では、フェライト焼結磁石の組成を所望のものに調整する等の目的で、出発原料の粉末やその他の添加物等を更に添加、混合してもよい。なお、本発明において、仮焼工程の後に添加する出発原料の粉末及び添加物を総じて「後添加物」と呼ぶことにする。この粉砕工程は、(1)粗粉砕工程及び(2)微粉砕工程からなると好適である。
【0046】
(1)粗粉砕工程
粗粉砕工程では、顆粒状又は塊状等の仮焼体を粗粉砕して粗粉砕材を得る。上述のように、仮焼体は一般に顆粒状、塊状等であるので、この状態の仮焼体を粗粉砕することが好ましい。粗粉砕は、例えば振動ミル等の公知の粉砕装置を使用し、粗粉砕材の平均粒径が0.5〜5.0μm程度になるまで行う。
【0047】
(2)微粉砕工程
微粉砕工程では、粗粉砕材を更に粉砕して微粉砕材を得る。微粉砕は、例えば湿式アトライタ、ボールミル、又はジェットミル等の公知の粉砕装置を使用し、微粉砕材の平均粒径が、0.05〜0.5μm、好ましくは0.1〜0.4μm、より好ましくは0.1〜0.3μmになるまで行う。得られた微粉砕材の比表面積は、9〜20m/gであると好ましく、10〜15m/gであるとより好ましい。この比表面積が9m/g未満であると、微粉砕の程度が低くなることにより、得られるフェライト焼結磁石の密度、配向度及び角型比Hk/HcJが低下する傾向にある。また、この比表面積が20m/gを上回ると、湿式成形における水抜け性が悪化し、成形し難くなる傾向にある。なお、本明細書において、比表面積とはBET法により求められるものである。粉砕時間は、粉砕方法にもよるが、例えば湿式アトライタを用いる場合では30分間〜25時間、ボールミルによる湿式粉砕では20〜60時間程度であればよい。
【0048】
本実施形態のフェライト焼結磁石において必須の副成分であるSi成分は、配合工程において添加してもよいが、後添加物としてこの粉砕工程で添加することがより好ましい。また、上述したようなSi成分以外の副成分も、後添加物として粉砕工程で添加することが好ましい。これらの後添加物の添加によって、焼結性の改善、磁気特性の制御及び焼結体の結晶粒径の調整等を良好に行うことができる。これらの観点からは、後添加物は、特にこの(2)微粉砕工程において添加されることが好ましい。
【0049】
また、本実施形態においては、フェライト焼結磁石の磁気的配向度を高めるために、微粉砕工程において、一般式C(OH)n+2で示される非環式飽和多価アルコールを添加してもよい。ここで、上記一般式において、炭素数を表すnは好ましくは4〜100、より好ましくは4〜30、更に好ましくは4〜20、特に好ましくは4〜12である。この非環式飽和多価アルコールとしては、例えば、ソルビトールが好適である。非環式飽和多価アルコールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらには、非環式飽和多価アルコールに加えて、他の公知の分散剤が微粉砕工程において添加されてもよい。
【0050】
(2)微粉砕工程においては、上記非環式飽和多価アルコールに加えて、又はこれに代えて、不飽和多価アルコール及び/又は環式多価アルコールが添加されてもよい。なお、これらの多価アルコールは、分子中の水酸基数が炭素数nの50%以上であると、磁気的配向度の向上に有利である。ただし、水酸基数は多い方が好ましく、水酸基数と炭素数が同程度であると最も好ましい。この多価アルコールの添加量は、添加対象物である粗粉砕材及び微粉砕材に対して、好ましくは0.05〜5.0質量%、より好ましくは0.1〜3.0質量%、更に好ましくは0.3〜2.0質量%である。なお、添加した多価アルコールは、後述の磁場中成形工程後の焼成工程において熱分解除去される。
【0051】
微粉砕工程では、ただ1度の微粉砕処理を行ってもよい。また、微粉砕工程は、第1の微粉砕工程及び第2の微粉砕工程を備えてもよい。また、第1の微粉砕工程と第2の微粉砕工程との間に粉末熱処理工程を備えてもよい。以下、第1の微粉砕工程、粉末熱処理工程及び第2の微粉砕工程について説明する。
【0052】
(第1の微粉砕工程)
第1の微粉砕工程では、アトライタやボールミル又はジェットミル等の公知の粉砕装置を用いて、粗粉砕材を湿式又は乾式粉砕して第1の微粉砕材を得る。第1の微粉砕材の平均粒径は0.08〜0.8μmであると好ましく、0.1〜0.4μmであるとより好ましく、0.1〜0.2μmであると更に好ましい。この第1の微粉砕工程は、粗大な粒子を極力少なくすること、及び磁気特性向上のために焼結後の組織を微細にすることを目的とするものである。第1の微粉砕材の比表面積は、18〜30m/gであると好ましい。第1の微粉砕工程における粉砕時間は、粉砕方法にもよるが、粗粉砕材をボールミルで湿式粉砕する場合には、粗粉砕材220gあたり60〜120時間であることが好ましい。
【0053】
なお、保磁力の向上や焼結後の結晶粒子の粒径調整のために、第1の微粉砕工程に先立って、Si成分の粉末や、その他の後添加剤の粉末等を添加してもよい。
【0054】
(粉末熱処理工程)
粉末熱処理工程では、第1の微粉砕材を600〜1200℃、より好ましくは700〜1000℃で、好ましくは1秒〜100時間加熱して熱処理材を得る。本実施形態のフェライト焼結磁石の製造工程においては、第1の微粉砕工程を経ることにより、0.1μm未満の粉末である超微粉が不可避的に生じてしまう。この超微粉が存在すると、後続の磁場中成形工程で不具合が生じることがある。例えば、湿式成形時に超微粉が多いと水抜けが悪く成形できない等の不具合が生じる。そこで、本実施形態では、磁場中成形工程よりも前に、粉末熱処理工程を行うと好ましい。この粉末熱処理工程は、第1の微粉砕工程を経て生じた0.1μm未満の超微粉同士、並びに、超微粉とそれよりも粒径の大きな微粉(例えば粒径が0.1〜0.2μm程度の微粉)とを反応させて、超微粉の量を減少させることを目的とする。この熱処理により超微粉が減少し、成形性を向上させることができる。このときの熱処理雰囲気は、大気雰囲気とすればよい。
【0055】
(第2の微粉砕工程)
第2の微粉砕工程では、アトライタやボールミル又はジェットミルなどの公知の粉砕装置を用いて、熱処理材を湿式又は乾式粉砕して第2の微粉砕材を得る。第2の微粉砕材の平均粒径は0.5μm以下であると好ましく、0.05〜0.4μmであるとより好ましく、0.1〜0.3μmであると更に好ましい。この第2の微粉砕工程は、粒度調整やネックグロースの除去、添加物の分散性向上を目的とする。
【0056】
第2の微粉砕材の比表面積は、9〜20m/gであると好ましく、10〜15m/gであるとより好ましい。この数値範囲内に比表面積が調整されると、超微粉が存在していたとしてもその量は極めて少なく、成形性に与える悪影響の程度は非常に低くなる。第1の微粉砕工程及び第2の微粉砕工程、さらにはそれらの工程の間の粉末熱処理工程を経ることにより、成形性が向上し、しかもフェライト焼結磁石の組織を一層微細化できる。また、フェライト焼結磁石の配向度が向上し、その結晶粒子の粒径分布を改善することができる。
【0057】
第2の微粉砕工程における粉砕時間は、粉砕方法にもよるが、ボールミルで湿式粉砕する場合には、熱処理材200gあたり10〜40時間であればよい。ただし、第2の微粉砕工程における粉砕条件は、第1の微粉砕工程における粉砕条件よりも穏やかである条件、すなわち、より粉砕し難い条件であることが好ましい。これは、第2の微粉砕工程を第1の微粉砕工程と同程度の厳しい条件で行うと、超微粉が再度生成されることになること、並びに、第1の微粉砕工程で既に所望する粒径を有する微粉砕材がほとんど得られていることに因る。なお、粉砕条件がより穏やかであるか否かは、粉砕時間に限らず、粉砕時に投入される機械的なエネルギを基準にして判断すればよい。
【0058】
なお、保磁力の向上や焼結後の結晶粒子の粒径調整のためには、この第2の微粉砕工程に先立って、Si成分の粉末や、その他の後添加剤の粉末等を添加してもよい。
【0059】
以上のような粉砕工程を経ることで、後述する磁場中成形工程に供する微粉砕材が得られるが、この磁場中成形工程において湿式成形を行う場合は、微粉砕工程における粉砕処理を湿式で行うことで、微粉砕材を含有するスラリを得ることが好ましい。そして、それから、得られたスラリを所定の濃度に濃縮して、湿式成形用スラリを得ることができる。濃縮は、遠心分離やフィルタープレス等によって行えばよい。この場合、微粉砕材が、湿式成形用スラリ中の30〜80質量%程度を占めるようにすることが好ましい。分散媒としては水が好ましい。また、水に加えて、グルコン酸及び/又はグルコン酸塩、ソルビトール等の界面活性剤が分散媒に含有されてもよい。なお、分散媒は、水に限定されず、非水系分散媒であってもよい。非水系分散媒としては、例えばトルエン、キシレン等の有機溶媒が挙げられる。非水系分散媒を用いる場合、オレイン酸等の界面活性剤を分散媒に含有することが好ましい。
【0060】
<磁場中成形工程>
磁場中成形工程では、上述の粉砕工程で得られた微粉砕材(第2の微粉砕工程を経た場合は第2の微粉砕材)を用い、磁場を印加しながら乾式又は湿式成形を行うことで成形体を得る。磁気的配向度をより高くするためには、湿式成形が好ましい。湿式成形の場合、微粉砕材を含有する湿式成形用スラリの磁場中成形を行う。成形圧力は好ましくは0.1〜0.5ton/cm、印加磁場は好ましくは5〜15kOeである。
【0061】
<焼成工程>
その後、焼成工程において、成形体を焼成して、焼結体であるフェライト焼結磁石を得る。焼成は、大気中等の酸化性雰囲気中で行うことができる。この焼成工程における各焼成条件を調整することにより、フェライト焼結磁石の密度や、フェライト相の結晶粒子の大きさや形状を好適に制御することができる。
【0062】
焼成温度は、1100〜1220℃であると好ましく、1140〜1200℃であるとより好ましい。焼成温度が上記下限値未満であると、焼結不足で所望の密度が得られ難くなり、フェライト焼結磁石のBrが低下する傾向にある。また、焼成温度が上記上限値を超えると、結晶粒子が過度に粒成長し、フェライト焼結磁石のHcJや角型比Hk/HcJが低下する傾向にある。また、安定した焼成温度に保持する時間は0.5〜3時間程度とすることが好ましい。
【0063】
湿式成形により成形体を形成した場合、成形体を十分に乾燥させないまま急激に加熱すると、成形体にクラックが発生する可能性がある。そこで、焼成工程の初期においては、成形体から水等の分散媒を徐々に揮発除去させることが好ましい。その具体例としては、焼成工程の初期においては、室温から100℃程度まで10℃/時間程度のゆっくりとした昇温速度で成形体を加熱して、成形体を十分に乾燥する。これにより、成形体のクラックの発生をより抑制することができる。また、分散媒に界面活性剤等を添加した場合は、分散媒を除去した後に脱脂処理を行うことが好ましい。その具体例として、焼成工程における昇温過程の100〜500℃程度の温度範囲で、例えば2.5℃/時間程度の昇温速度とする。これにより、界面活性剤を十分に除去することができる。
【0064】
なお、上述のフェライト焼結磁石の製造方法の各工程における条件は、本発明のフェライト焼結磁石を得るための好適な範囲であって、このフェライト焼結磁石を製造可能な条件であれば、上記条件に限定されない。
【0065】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定され
るものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
[フェライト焼結磁石の製造方法]
まず、以下に示すフェライト磁石の各試料の製造方法の共通する工程について説明する。以下の各試料の製造方法の説明においては、試料ごとに異なる製造条件についてのみ説明を行うこととする。
【0068】
(配合工程)
まず、出発原料として、フェライト焼結磁石を構成する金属の化合物の粉末を準備した。ここで、La、Ca、Sr、Fe、Co及びZnの出発原料としては、水酸化ランタン(La(OH))、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、酸化鉄(Fe)、酸化コバルト(Co)及び酸化亜鉛(ZnO)をそれぞれ用い、これらを適宜選択して用いた。次いで、これらの粉末を、上記一般式(1)におけるx、m、1−x−m、(12−y’y’’)z、y’z、y’’z及びz(以下、単に「各元素の組成」という。)が、所定の原子比となるように試料毎に秤量した。次いで、それらの出発原料の粉末を湿式アトライタで混合、粉砕してスラリ状の原料組成物を得た。
【0069】
(仮焼工程)
上記で得られた原料組成物を乾燥した後、大気中にて1300℃で2.5時間保持する仮焼処理を行い、仮焼体を得た。
【0070】
(粉砕工程)
まず、粗粉砕工程において、仮焼体を小型ロッド振動ミルで粗粉砕して粗粉砕材を得た。
【0071】
次いで、粗粉砕材に対して、2段階の微粉砕処理を湿式ボールミルにより行った。第1の微粉砕工程では、粗粉砕材と水とを混合した後、88時間の微粉砕を行い、第1の微粉砕材を得た。その後、第1の微粉砕材を大気中、800℃で1時間加熱して、熱処理材を得た。
【0072】
続いて、第2の微粉砕工程において、熱処理材に対して水及びソルビトールを添加するとともに、所定の後添加剤(副成分となるSiOや組成を調整するための出発原料)を適宜添加し、湿式ボールミルにて25時間の微粉砕を行い第2の微粉砕材を含むスラリを得た。
【0073】
(磁場中成形工程)
次いで、第2の微粉砕材を含むスラリの固形分濃度を調整し、湿式磁場成形機を用いて磁場中成形を行い、直径30mm、高さ15mmの円柱状の成形体を得た。このとき、印加した磁場は12kOeであった。
【0074】
(焼成工程)
その後、成形体を大気中、室温にて十分に乾燥した後、1180℃で1時間焼成して、焼結体であるフェライト焼結磁石を得た。
【0075】
[試料1〜34]
試料1〜34のフェライト焼結磁石の製造においては、次の製造方法A、B又はCを実施した。
【0076】
(製造方法A)
配合工程において、La、Ca、Sr、Fe及びCoの出発原料を準備し、これらを、各元素の組成が、表1に示す原子比となるようにそれぞれ秤量して用いた。
【0077】
また、粉砕工程において、第2の微粉砕工程の際に、後添加剤として、La(OH)、ZnO、CaCO、Fe及びSiOを添加した。後添加剤の添加量は、主相の各元素の組成及びSiOの含有割合が表2に示す通りとなるように調整した。
【0078】
この製造方法は、Feサイトの置換元素であるZn成分及びCo成分を、粉砕工程において加えた場合の例である。
【0079】
(製造方法B)
配合工程において、La、Ca、Sr、Fe及びCoの出発原料を準備し、これらを、各元素の組成が、表1に示す原子比となるようにそれぞれ秤量して用いた。
【0080】
また、粉砕工程において、第2の微粉砕工程の際に、後添加剤として、CaCO及びSiOを添加した。後添加剤の添加量は、主相の各元素の組成及びSiOの含有割合が表2に示す通りとなるように調整した。
【0081】
この製造方法は、Feサイトの置換元素のうち、Zn成分を添加しなかった場合の例である。
【0082】
(製造方法C)
配合工程において、La、Ca、Sr、Fe及びCoの出発原料を準備し、これらを、各元素の組成が、表1に示す原子比となるようにそれぞれ秤量して用いた。
【0083】
また、粉砕工程において、第2の微粉砕工程の際に、後添加剤として、La(OH)、ZnO、CaCO、Fe及びSiOを添加した。後添加剤の添加量は、主相の各元素の組成及びSiOの含有割合が表2に示す通りとなるように調整した。
【0084】
この製造方法は、Feサイトの置換元素であるCo成分を配合工程で添加し、Zn成分を粉砕工程において添加した場合の例である。
【0085】
(組成)
上述した製造方法A〜Cにおいて、配合工程において調製したa1〜a4の原料組成物の組成は表1に示す通りである。
【表1】

【0086】
また、上記で得られた試料1〜34のフェライト焼結磁石について、それぞれ蛍光X線定量分析により組成を求めた結果を表2に示す。表2には、各試料の製造で用いた原料組成物及び製造方法の種類(A〜C)を併せて示した。
【表2】

【0087】
(フェライト焼結磁石の評価)
試料1〜34の各フェライト焼結磁石の磁気特性(残留磁束密度Br、保磁力HcJ及び角形比Hk/HcJ)を、円柱状の成形体の上下面を加工した後、最大印加磁場25kOeのB−Hトレーサを使用し、25℃で測定した。ここで、Hkは得られた磁気ヒステリシスループの第2象限において、磁束密度が残留磁束密度Brの90%になるときの外部磁界強度である。得られた結果を表3に示す。
【表3】

【0088】
上述した試料1〜34のうち、試料1、2、3及び34は、本発明の組成範囲外であるため比較例に該当し、それ以外の試料は本発明の実施例に該当する。なお、試料1及び2は、主相がZnを含まない組成(y’’z=0)であり、試料3及び34は、Si成分の配合量(SiO換算)が本発明の範囲外であった組成である。
【0089】
そして、表3に示すように、実施例の試料は全て、4700(G)を超えるBrを有していたのに対し、比較例に該当する試料は全て4700(G)を下回るBrを有していた。また、実施例の各試料は、いずれも4000(Oe)を超える実用に十分なHcJを有していた。
【0090】
このように、実施例のフェライト焼結磁石によれば、十分なHcJを有しながら、4700(G)を超えるという従来に比して遥かに高いBrの値が得られるようになる。ここで、4700(G)という値は、本発明のようなAFe1219で表される組成を有するM型フェライト焼結磁石であって、Aで示される元素がSrであり、かつその一部が希土類元素で置換され、さらにFeの一部がCoで置換されたM型フェライトについて、これまで予想されてきたBrの理論値に近い値である。しかしながら、4700(G)を超えるBrは、配向や焼結が不十分となったり不純物が混入したりすることによる特性低下に起因して、現実的には得ることができなかった値である。したがって、実施例のフェライト焼結磁石のように4700(G)を超えるBrが得られるということは、M型フェライト焼結磁石に期待されるBrの値を十分に達成できたことを意味しており、極めて有用である。
【0091】
[試料35〜59]
試料35〜59のフェライト焼結磁石の製造方法においては、上述した製造方法A、Cのほか、以下に示す製造方法D、E又はFを実施した。
【0092】
(製造方法D)
配合工程において、La、Ca、Sr、Fe、Co及びZnの出発原料を準備し、これらを、各元素の組成が、表4に示す原子比となるようにそれぞれ秤量して用いた。
【0093】
また、粉砕工程において、第2の微粉砕工程の際に、後添加剤として、La(OH)、CaCO、Fe及びSiOを添加した。後添加剤の添加量は、主相の各元素の組成及びSiOの含有割合が表5に示す通りとなるように調整した。
【0094】
この製造方法は、Feサイトの置換元素であるCo成分及びZn成分を配合工程において添加した例である。
【0095】
(製造方法E)
配合工程において、La、Ca、Sr、Fe、Co及びZnの出発原料を準備し、これらを、各元素の組成が、表4に示す原子比となるようにそれぞれ秤量して用いた。
【0096】
また、粉砕工程において、第2の微粉砕工程の際に、後添加剤として、La(OH)、CaCO、Fe及びSiOを添加した。後添加剤の添加量は、主相の各元素の組成及びSiOの含有割合が表5に示す通りとなるように調整した。
【0097】
この製造方法も、Feサイトの置換元素であるCo成分及びZn成分を配合工程において添加した例である。
【0098】
(製造方法F)
配合工程において、La、Ca、Sr及びFeの出発原料を準備し、これらを、各元素の組成が、表4に示す原子比となるようにそれぞれ秤量して用いた。
【0099】
また、粉砕工程において、第2の微粉砕工程の際に、後添加剤として、La(OH)、CaCO、Fe、Co、ZnO及びSiOを添加した。後添加剤の添加量は、主相の各元素の組成及びSiOの含有割合が表5に示す通りとなるように調整した。
【0100】
この製造方法は、Feサイトの置換元素であるZn成分及びCo成分を粉砕工程において添加した例である。
【0101】
(組成)
上述した製造方法A、C、D〜Fにおいて、配合工程で調製したb1〜b10の原料組成物の組成は表4に示す通りである。
【表4】

【0102】
また、上記で得られた試料35〜59のフェライト焼結磁石について、それぞれ蛍光X線定量分析により組成を求めた結果を表5に示す。表5には、各試料の製造で用いた原料組成物及び製造方法の種類(A、C、D〜F)を併せて示した。
【表5】

【0103】
(フェライト焼結磁石の評価)
試料35〜59の各フェライト焼結磁石の磁気特性(残留磁束密度Br、保磁力HcJ及び角形比Hk/HcJ)を、試料1等と同様にして測定した。得られた結果を表6に示す。
【表6】

【0104】
上述した試料35〜59のうち、試料35、37、38、42、46、49、53、54及び56は、本発明の組成範囲外であるため比較例に該当し、それ以外の試料は本発明の実施例に該当する。なお、試料35及び56は、Coの原子比率(y’z)及びCoとZnの合計の原子比率(y’z+y’’z)が本発明の範囲外であった比較例であり、試料37及び53は、Znの原子比率(y’’z)が本発明の範囲外であった比較例であり、試料38、42、46、49及び54は、SiOの含有量が本発明の範囲外であった比較例である。
【0105】
そして、表6に示すように、実施例の試料はいずれも4700(G)を超えるBrを有し、また4000(Oe)を超える実用に十分なHcJを有していた。これに対し、比較例に該当する試料は、殆どが4700(G)を下回るBrを有しており、また、Brが4700(G)を超えるものについてはHcJが4000(Oe)を大きく下回っていた。このことから、実施例のフェライト焼結磁石の各試料は、従来に比して高いHcJを維持しながら、高いBrを有していることが確認された。
【0106】
また、実施例の試料のうち、製造方法Dで得られた試料と製造方法Fで得られた試料とを比較しても、BrやHcJの値が大きく変わらなかったことから、ZnやCoは、配合工程において添加しても、また粉砕工程において添加しても、磁気特性(特にBr)の向上効果は十分に得られることが判明した。
【0107】
[試料60〜84]
試料60〜84のフェライト焼結磁石の製造においては、次の製造方法G、H又はIを実施した。
【0108】
(製造方法G)
配合工程において、La、Ca、Sr及びCoの出発原料を準備し、これらを、各元素の組成が、表7に示す原子比となるようにそれぞれ秤量して用いた。
【0109】
また、粉砕工程において、第2の微粉砕工程の際に、後添加剤として、La(OH)、ZnO、CaCO、Fe及びSiOを添加した。後添加剤の添加量は、主相の各元素の組成及びSiOの含有割合が表8に示す通りとなるように調整した。
【0110】
この製造方法は、Feサイトの置換元素のうち、Co成分を配合工程において、またZn成分を粉砕工程においてそれぞれ添加した例である。
【0111】
(製造方法H)
配合工程において、La、Ca、Sr、Co及びZnの出発原料を準備し、これらを、各元素の組成が、表7に示す原子比となるようにそれぞれ秤量して用いた。
【0112】
また、粉砕工程において、第2の微粉砕工程の際に、後添加剤として、La(OH)、CaCO、Fe及びSiOを添加した。後添加剤の添加量は、主相の各元素の組成及びSiOの含有割合が表8に示す通りとなるように調整した。
【0113】
この製造方法は、Feサイトの置換元素のうち、Co成分及びZn成分の両方を配合工程において添加した例である。
【0114】
(製造方法I)
配合工程において、La、Ca、Sr及びFeの出発原料を準備し、これらを、各元素の組成が、表7に示す原子比となるようにそれぞれ秤量して用いた。
【0115】
また、粉砕工程において、第2の微粉砕工程の際に、後添加剤として、Co、ZnO、CaCO、Fe及びSiOを添加した。後添加剤の添加量は、主相の各元素の組成及びSiOの含有割合が表8に示す通りとなるように調整した。
【0116】
この製造方法は、Feサイトの置換元素のうち、Co成分及びZn成分の両方を粉砕工程において添加した例である。
【0117】
(組成)
上述した製造方法G、H及びIにおいて、配合工程において調製したc1〜c19の原料組成物の組成は表7に示す通りである。
【表7】

【0118】
また、上記で得られた試料60〜84のフェライト焼結磁石について、それぞれ蛍光X線定量分析により組成を求めた結果を表8に示す。表8には、各試料の製造で用いた原料組成物及び製造方法の種類(G、H又はI)を併せて示した。
【表8】

【0119】
(フェライト焼結磁石の評価)
試料60〜84の各フェライト焼結磁石の磁気特性(残留磁束密度Br、保磁力HcJ及び角形比Hk/HcJ)を、試料1等と同様にして測定した。得られた結果を表9に示す。
【表9】

【0120】
上述した試料60〜84のうち、試料65及び78は、本発明の組成範囲外であるため比較例に該当し、それ以外の試料は本発明の実施例に該当する。なお、比較例の試料は、12z(Feサイトの合計の原子比率)の値が本発明の範囲外であったものである。
【0121】
そして、表9に示すように、実施例の試料はいずれも4700(G)を超えるBrを有し、また4000(Oe)を超える実用に十分なHcJを有していた。これに対し、比較例に該当する試料は、4700(G)を下回るBrを有しているか、またはHcJが4000(Oe)を大きく下回っていた。このことから、実施例のフェライト焼結磁石の各試料は、従来に比して高いHcJを維持しながら、高いBrを有していることが確認された。
【0122】
また、実施例の試料のうち、製造方法G、H又はIで得られた試料は、いずれもBrやHcJの値が大きく変わらなかったことから、ZnやCoは、配合工程と粉砕工程とに分けて添加しても、またこれらの工程で同時に添加しても、磁気特性(特にBr)の向上効果は十分に得られることが判明した。
【0123】
[試料85〜122]
試料85〜122のフェライト焼結磁石の製造においては、上記の製造方法Aのほか、次の製造方法J及びKを実施した。
【0124】
(製造方法J)
配合工程において、La、Ca、Sr、Fe及びCoの出発原料を準備し、これらを、各元素の組成が、表10に示す原子比となるようにそれぞれ秤量して用いた。
【0125】
また、粉砕工程において、第2の微粉砕工程の際に、後添加剤として、La(OH)、ZnO、CaCO、Fe及びSiOを添加した。後添加剤の添加量は、主相の各元素の組成及びSiOの含有割合が表11に示す通りとなるように調整した。
【0126】
この製造方法は、Feサイトの置換元素のうちCo成分を配合工程において、Zn成分を粉砕工程において添加した例である。
【0127】
(製造方法K)
配合工程において、La、Ca、Sr、Fe、Co及びZnの出発原料を準備し、これらを、各元素の組成が、表10に示す原子比となるようにそれぞれ秤量して用いた。
【0128】
また、粉砕工程において、第2の微粉砕工程の際に、後添加剤として、CaCO及びSiOを添加した。後添加剤の添加量は、主相の各元素の組成及びSiOの含有割合が表11に示す通りとなるように調整した。
【0129】
この製造方法は、Feサイトの置換元素のうちCo成分及びZn成分の両方を配合工程において添加した例である。
【0130】
(組成)
上述した製造方法J及びKにおいて、配合工程において調製したd1〜d38の原料組成物の組成は表10に示す通りである。
【表10】

【0131】
また、上記で得られた試料85〜122のフェライト焼結磁石について、それぞれ蛍光X線定量分析により組成を求めた結果を表11に示す。表11には、各試料の製造で用いた原料組成物及び製造方法の種類(J又はK)を併せて示した。
【表11】

【0132】
(フェライト焼結磁石の評価)
試料85〜122の各フェライト焼結磁石の磁気特性(残留磁束密度Br、保磁力HcJ及び角形比Hk/HcJ)を、試料1等と同様にして測定した。得られた結果を表12に示す。
【表12】

【0133】
上述した試料85〜122のうち、試料85、88、118及び122は、本発明の組成範囲外であるため比較例に該当し、それ以外の試料は本発明の実施例に該当する。なお、試料85及び122は、Caの原子比率が本発明の範囲外であった比較例であり、試料88及び118は、Laの原子比率が本発明の範囲外であった比較例である。
【0134】
そして、表12に示すように、実施例の試料はいずれも4700(G)を超えるBrを有し、また4000(Oe)を超える実用に十分なHcJを有していた。これに対し、比較例に該当する試料は、殆どが4700(G)を下回るBrを有しており、また、Brが4700(G)を超えるものについてはHcJが4000(Oe)を大きく下回っていた。このことから、実施例のフェライト焼結磁石の各試料は、従来に比して高いHcJを維持しながら、高いBrを有していることが確認された。
【0135】
[試料123〜135]
試料123〜135のフェライト焼結磁石の製造においては、次の製造方法L、M、N又はOを実施した。
【0136】
(製造方法L)
配合工程において、La、Ca、Sr、Ba、Fe及びCoの出発原料を準備し、これらを、各元素の組成が、表13に示す原子比となるようにそれぞれ秤量して用いた。
【0137】
また、粉砕工程において、第2の微粉砕工程の際に、後添加剤として、CaCO及びSiOを添加した。後添加剤の添加量は、主相の各元素の組成及びSiOの含有割合が表14に示す通りとなるように調整した。
【0138】
この製造方法は、A元素の出発原料としてSr成分に加えてBa成分を配合工程において添加するとともに、Feサイトの置換元素のうちZn成分を添加しなかった例である。
【0139】
(製造方法M)
配合工程において、La、Ca、Sr、Ba、Fe及びCoの出発原料を準備し、これらを、各元素の組成が、表13に示す原子比となるようにそれぞれ秤量して用いた。
【0140】
また、粉砕工程において、第2の微粉砕工程の際に、後添加剤として、La(OH)、ZnO、Fe、CaCO及びSiOを添加した。後添加剤の添加量は、主相の各元素の組成及びSiOの含有割合が表14に示す通りとなるように調整した。
【0141】
この製造方法は、A元素の出発原料としてSr成分に加えてBa成分を配合工程において添加し、また、Feサイトの置換元素のうちCo成分を配合工程で、Zn成分を粉砕工程でそれぞれ添加した例である。
【0142】
(製造方法N)
配合工程において、La、Ca、Sr、Ba、Fe、Co及びZnの出発原料を準備し、これらを、各元素の組成が、表13に示す原子比となるようにそれぞれ秤量して用いた。
【0143】
また、粉砕工程において、第2の微粉砕工程の際に、後添加剤として、CaCO及びSiOを添加した。後添加剤の添加量は、主相の各元素の組成及びSiOの含有割合が表14に示す通りとなるように調整した。
【0144】
この製造方法は、A元素の出発原料としてSr成分に加えてBa成分を配合工程において添加し、また、Feサイトの置換元素のうちCo成分及びZn成分の両方も配合工程において添加した例である。
【0145】
(製造方法O)
配合工程において、La、Ca、Sr、Ba及びFeの出発原料を準備し、これらを、各元素の組成が、表13に示す原子比となるようにそれぞれ秤量して用いた。
【0146】
また、粉砕工程において、第2の微粉砕工程の際に、後添加剤として、Co、ZnO、Fe、CaCO及びSiOを添加した。後添加剤の添加量は、主相の各元素の組成及びSiOの含有割合が表14に示す通りとなるように調整した。
【0147】
この製造方法は、A元素の出発原料としてSr成分に加えてBa成分を配合工程において添加し、また、Feサイトの置換元素であるCo成分及びZn成分の両方を粉砕工程において添加した例である。
【0148】
(組成)
上述した製造方法L〜Oにおいて、配合工程において調製したe1〜e6の原料組成物の組成は表13に示す通りである。
【表13】

【0149】
また、上記で得られた試料123〜135のフェライト焼結磁石について、それぞれ蛍光X線定量分析により組成を求めた結果を表14に示す。表14には、各試料の製造で用いた原料組成物及び製造方法の種類(L〜O)を併せて示した。
【表14】

【0150】
(フェライト焼結磁石の評価)
試料123〜135の各フェライト焼結磁石の磁気特性(残留磁束密度Br、保磁力HcJ及び角形比Hk/HcJ)を、試料1等と同様にして測定した。得られた結果を表15に示す。
【表15】

【0151】
上述した試料123〜135のうち、試料123、124及び129は、本発明の組成範囲外であるため比較例に該当し、それ以外の試料は本発明の実施例に該当する。なお、比較例の試料は、いずれもSiOの含有量が本発明の範囲外であった比較例である。
【0152】
そして、表15に示すように、実施例の試料はいずれも4700(G)を超えるBrを有し、また4000(Oe)を超える実用に十分なHcJを有していた。これに対し、比較例に該当する試料は、いずれも4700(G)を下回るBrを有しており、また、HcJが4000(Oe)を大きく下回るものもあった。このことから、実施例のフェライト焼結磁石の各試料は、従来に比して高いHcJを維持しながら、高いBrを有していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】フェライト焼結磁石の形状の一例を示す模式斜視図である。
【符号の説明】
【0154】
10…フェライト焼結磁石。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶構造を有するフェライト相が主相をなすフェライト焼結磁石であって、
前記フェライト焼結磁石を構成する金属元素の組成は下記一般式(1)で表され、
Ca1−x−m(Fe12−y’y’’Coy’Zny’’…(1)
(式(1)中、RはLaを必須成分として含むLa、Ce、Pr、Nd及びSmからなる群より選ばれる1種以上の元素を示し、AはSrを必須成分として含むSr及びBaから選ばれる少なくとも1種以上の元素を示す。)
当該式(1)中、x、m、y’、y’’及びzは、下記式(2)、(3)、(4)、(5)、(6)及び(7)で表される各条件を全て満足し、
0.23≦x≦0.5 …(2)
0.12≦m≦0.39 …(3)
0.17≦y’z≦0.36 …(4)
0.01≦y’’z≦0.11…(5)
0.19≦y’z+y’’z≦0.40…(6)
9.8≦12z≦11.7 …(7)
且つ、副成分として、Si成分をSiOに換算して0.13〜0.48質量%含有する、
ことを特徴とするフェライト焼結磁石。

【図1】
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【公開番号】特開2009−246243(P2009−246243A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92950(P2008−92950)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】