説明

フェライト粉末とフェライト質焼結体およびこれらの製造方法、並びにフェライトコア

【課題】粉体嵩密度が大きく、成形時にクラックが発生しにくい顆粒を製造できるフェライト粉末の提供。
【解決手段】FeをFe換算で35〜45mol%、NiをNiO換算で45〜55mol%、CuをCuO換算で0.1〜2mol%、MgをMgO換算で5〜10mol%、MnをMnO換算で0.1〜0.5mol%の範囲で含有する主成分100質量部に対して、SiをSiO換算で3〜8質量部の範囲で含有する酸化物からなるフェライト粉末で、X線回折におけるフォルステライトの(222)面に帰属するピーク強度をX、ニッケルフェライトの(311)面に帰属するピーク強度をX、シリカの(101)面に帰属するピーク強度をX3、銅マンガンシリケートの(224)面に帰属するピーク強度をX4とするとき、X1/X2≦0.011(ゼロを除く)、X3/X2≧0.02、X4/X2≧0.01とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト粉末およびフェライト粉末を用いてなるフェライト質焼結体とこれらの製造方法、およびこのフェライト質焼結体を用いてなるフェライトコアに関する。
【背景技術】
【0002】
Ni−Zn系のフェライト質焼結体は、インダクター、変圧器、安定器、電磁石、ノイズ除去のフェライトコアとして多用されている。Ni−Zn系のフェライト質焼結体は、先ず、フェライト粉末をボールミルやビーズミルにて湿式粉砕してスラリーを得、このスラリーに所定のバインダー等を添加した後、噴霧乾燥する造粒工程を経て成形用原料を得、次いで、得られた成形用原料を所定形状に成形して成形体を得、この成形体を焼成することで焼結体を得られるものである。また、前記フェライト粉末は、所定の原料粉末を調合して混合粉末とし、この混合粉末を造粒して顆粒を得、得られた顆粒を仮焼、粉砕して得られるものである。
【0003】
Ni−Zn系のフェライト質焼結体を得るためのフェライト粉末は、例えば特許文献1では、Fe、Ni、Cu、Mg、Mn、Bi、Si、Zr、Coを含むMg−Mn−Ni−Cu系の酸化物を混合した後、800〜950℃で仮焼して得られることが示されている。特許文献2には、Fe、Ni、Zn、Cuを主成分とするNi−Zn−Cu系の酸化物を混合した後、900℃以上で仮焼し、仮焼後の粉体のBET粒径を0.7μm以上に調整して得ることで、得られたフェライト粉末を用いて作製されたフェライト質焼結体は、電力損失の小さなフェライト焼結体を得ることが記載されている。
【特許文献1】特開2001−102209号公報
【特許文献2】特開2002−343621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のフェライト質焼結体は、フェライト粉末を得る際に800〜950℃で仮焼しているものの、得られた粉末を用いた成形体にクラックが発生しやすいという問題を有していた。これは、造粒後の平均粒径が大きく、または仮焼温度が低く、その結果、フェライト粉末を用いたスラリーを噴霧乾燥することで得られる成形用原料は、粉体嵩密度が低いものであったためと考えられる。粉体嵩密度とは、一定容積中に占める粉末の重量のことであり、粉体嵩密度の低い顆粒は成形時に圧縮比が著しく大きくなるため、金型内に封入された空気に起因するラミネーションクラックが発生するという欠点を有している。この場合、圧縮比とは、プレス用の金型に充填された粉体の厚みを、成形後の成形体の厚みで割った値を言う。成形における圧縮比を小さくするためには顆粒の粉体嵩密度は高い方が良いが、逆に粉体嵩密度の高い顆粒は硬くなりつぶれにくいので高い成形圧を必要とする。
【0005】
特許文献2のフェライト質焼結体は、フェライト粉末を得る際に仮焼温度と仮焼後の粉体の粒径を調整しているが、仮焼前の粉体の粒径が大きいと、仮焼合成が不十分となる場合がある。合成が不十分となる原因はFe、NiO、ZnO、CuOの各粉末が未反応のまま存在するためであり、仮焼合成が不十分な場合、後に粉砕、造粒しても成形用原料の粉体嵩密度が低くなりやすく、成形体にクラックが発生しやすいという問題を有している。一方、仮焼を十分に行いすぎた場合、仮焼粉の粉砕を十分に行わないと過度に大きな粒径のフェライト粉末が多くなり、焼成した際に結晶構造が十分規則化した焼結体が得られない。さらにこの場合、高い粉体嵩密度は得られるが、上記と同様に成形用原料が硬いためにつぶれにくく、高い成形圧を必要とする。このように仮焼温度や仮焼後の粉体の粒径、さらにはBET粒径を所定範囲にしたとしても、仮焼合成が適度に行われたか判断できないことがある。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、粉体嵩密度が大きく、成形時にクラックが発生しにくい顆粒を製造することができるフェライト粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、FeをFe換算で35mol%以上45mol%以下、NiをNiO換算で45mol%以上55mol%以下、CuをCuO換算で0.1mol%以上2mol%以下、MgをMgO換算で5mol%以上10mol%以下、MnをMnO換算で0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有する主成分100質量部に対して、SiをSiO換算で3質量部以上8質量部以下の範囲で含有する酸化物からなるフェライト粉末であって、X線回折におけるフォルステライト(2MgO・SiO)の(222)面に帰属するX線回折ピーク強度をX、ニッケルフェライト(NiFe4)の(311)面に帰属するX線回折ピーク強度をX、シリカ(SiO)の(101)面に帰属するX線回折ピーク強度をX3、銅マンガンシリケート(CuMn6SiO12)の(224)面に帰属するX線回折ピーク強度をX4とするとき、X1/X2≦0.011(ゼロを除く)、
3/X2≧0.02、X4/X2≧0.01であることを特徴とする。
【0008】
本発明は、前記X1、X2、X3、Xは、0.004≦X1/X2、X3/X2≦0.030、X4/X2≦0.025であることを特徴とする。
【0009】
本発明のフェライト粉末の製造方法は、Fe、Ni、Cu、Mg、Mn、Siの各金属元素の酸化物または加熱によりこれら金属元素の酸化物を生成する化合物から選択される原料粉末を混合して混合粉末を得る工程と、前記混合粉末を造粒することにより平均粒径1mm以上20mm以下の顆粒を得る工程と、前記顆粒を850℃以上で仮焼、粉砕する工程とを有することを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明のフェライト質焼結体の製造方法は、上述の製造方法によりフェライト粉末を得た後、該フェライト粉末を造粒することにより成形用原料を得る工程と、前記成形用原料を所定形状に成形して成形体を得る工程と、前記成形体を焼成する工程とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明は、これらフェライト粉末を用いたフェライト質焼結体、さらにはこのフェライト質焼結体を用いて成るフェライトコアであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフェライト粉末によれば、X線回折におけるフォルステライト(2MgO・SiO)の(222)面に帰属するX線回折ピーク強度をX、ニッケルフェライト(NiFe4)の(311)面に帰属するX線回折ピーク強度をX2、シリカ(SiO)の(101)面に帰属するX線回折ピーク強度をX3、銅マンガンシリケート(CuMn6SiO12)の(224)面に帰属するX線回折ピーク強度をX4とするとき、X1/X2≦0.011(ゼロを除く)、X3/X2≧0.020、X4/X2≧0.010であることから、このフェライト粉末を造粒して得られる成形用原料の粉体嵩密度を高くできるため、成形時にクラックの発生を抑制することができる。
【0013】
このフェライト粉末は、さらに上述のX線回折において0.004≦X1/X2、X3/X2≦0.030、X4/X2≦0.025とすることで、成形用原料の粉体嵩密度のばらつきを小さくすることができるため、成形時のクラックの発生を特に抑制することができるとともに、低圧での成形が可能になる。
【0014】
これらフェライト粉末を用いて成る本発明のフェライト質焼結体は、周波数150MHz以上でのQ値が100以上、透磁率が6以上、透磁率の温度係数((80℃における透磁率−20℃における透磁率)/20℃における透磁率)が150ppm/℃以下と優れた特性を有する焼結体とすることができる。
【0015】
本発明のフェライト粉末の製造方法は、Fe、Ni、Cu、Mg、Mn、Siの各金属元素の酸化物または加熱によりこれら金属元素の酸化物を生成する化合物から選択される原料粉末を混合して混合粉末を得る工程と、前記混合粉末を造粒することにより平均粒径1mm以上20mm以下の顆粒を得る工程と、前記顆粒を850℃以上で仮焼、粉砕する工程とを有することから、この製造方法によって得られたフェライト粉末を造粒して得られる成形用原料の粉体嵩密度を高くすることが可能となり、成形の際のクラックの発生を抑制することができる。
【0016】
本発明のフェライト質焼結体の製造方法は、上述の製造方法によりフェライト粉末を得た後、該フェライト粉末を造粒することにより成形用原料を得る工程と、前記成形用原料を所定形状に成形して成形体を得る工程と、前記成形体を焼成する工程とを有することから、上述と同様に成形用原料の粉体嵩密度を高くすることが可能となり、この成形用原料を用いて成形した際のクラックの発生を抑制することができる。
【0017】
また、本発明のフェライトコアは、得られたフェライト質焼結体を用いて成ることから、高周波で使用しても電力損失を少なくすることが可能となり、このフェライトコアを信号用チップインダクタ等に用いた場合、移動体通信機器や基地局、各種コンピュータの高周波化に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0019】
本発明のフェライト粉末およびこのフェライト粉末を用いたフェライト質焼結体は、各成分を以下の範囲で含有するものである。
【0020】
FeをFe換算で35mol%以上45mol%以下、
NiをNiO換算で45mol%以上55mol%以下、
CuをCuO換算で0.1mol%以上2mol%以下、
MgをMgO換算で5mol%以上10mol%以下、
MnをMnO換算で0.1mol%以上0.5mol%以下
の範囲で含有する主成分100質量部に対して、
SiをSiO換算で3質量部以上8質量部以下の範囲で含有する酸化物からなる。
【0021】
このフェライト粉末におけるFe、Ni、Cu、Mg、Mn、Siの含有量は、上述の範囲を外れるとフェライト粉末を用いて得られるフェライト質焼結体の周波数150MHz以上でのQ値、透磁率および透磁率の温度係数の各特性を低下させやすい。Feの含有量が35mol%未満では透磁率が低下し、45mol%を超えるとQ値が低下する。NiOの含有量が45mol%未満ではQ値が低下し、55mol%を超えると透磁率が低下する。CuOの含有量が0.1mol%未満では焼結性が低下し、2mol%を超えると温度係数が大きくなる。MgOの含有量が5mol%未満ではQ値が低下し、10mol%を超えると透磁率が低下する。MnOの含有量が0.1mol%未満では透磁率が低下し、0.5mol%を超えるとQ値が低下する。SiOの含有量が3質量部未満では透磁率の温度係数が大きくなり、8質量部を超えると透磁率が低下する。したがって、フェライト粉末およびこのフェライト粉末を用いたフェライト質焼結体は、各成分を上述の範囲で含有することに特定される。
【0022】
なお、フェライト粉末中におけるFe、Ni、Cu、Mg、Mn、Siの含有量の測定は、フェライト粉末にホウ酸と炭酸ナトリウムを加え、塩酸溶液に溶解させ、溶液中のFe、Ni、Cu、Mg、Mn、SiをICP発行分光分析装置(株式会社島津製作所製 ICPS−8100)にて定量分析を行えばよい。
【0023】
このように各成分を所定量含有するフェライト粉末は、X線回折におけるフォルステライト(2MgO・SiO)の(222)面に帰属するX線回折ピーク強度をX、ニッケルフェライト(NiFe4)の(311)面に帰属するX線回折ピーク強度をX、シリカ(SiO)の(101)面に帰属するX線回折ピーク強度をX3、銅マンガンシリケート(CuMn6SiO12)の(224)面に帰属するX線回折ピーク強度をX4とするとき、X1/X2≦0.011(ゼロを除く)、X3/X2≧0.020、X4/X2≧0.010とすることが重要である。
【0024】
X線回折において、それぞれX〜Xを規定した理由は、各ピーク比が仮焼温度、しいては仮焼状態の変化に敏感に反応するためである。
【0025】
フォルステライト(2MgO・SiO)は、例えばJCPDS−ICDDのNo.34−0189に記載された化合物であり、Cu−Kα線によるX線回折では(222)面に帰属するピークの回折角2θは52〜53°付近に現れ、その回折ピーク強度をXとする。ニッケルフェライト(NiFe4)は、例えばJCPDS−ICDDのNo.44−1485に記載された化合物であり、Cu−Kα線によるX線回折では(311)面に帰属するピークの回折角2θは35〜36℃付近に現れ、その回折ピーク強度をX2とする。シリカ(SiO)は、例えばJCPDS−ICDDのNo.05−0490に記載された化合物であり、Cu−Kα線によるX線回折では(101)面に帰属するピークの回折角2θは26〜27℃付近に現れ、その回折ピーク強度をX3とする。銅マンガンシリケート(CuMn6SiO12)、例えばJCPDS−ICDDのNo.41−0576に記載された化合物であり、Cu−Kα線によるX線回折では(224)面に帰属するピークの回折角2θは33〜34℃付近に現れ、その回折ピーク強度をX4とする。
【0026】
このように規定されるX〜Xを、X/X≦0.011(ゼロを除く)、X/X≧0.02、X/X≧0.01とすることで、このフェライト粉末を用いてフェライト質焼結体を得る際に生成される成形用原料の粉体嵩密度を1.5g/cmより高くすることができ、この成形用原料を用いて成形する際のクラックの発生を十分に抑制することができる。同時に、このフェライト粉末を用いて得られるフェライト質焼結体の周波数150MHz以上でのQ値を100以上、透磁率を6以上、透磁率の温度係数((80℃における透磁率−20℃における透磁率)/20℃における透磁率)を150ppm/℃以下とすることができる。
【0027】
フェライト粉末を用いてフェライト質焼結体を得る工程について、詳細は後述するが、フェライト粉末を湿式粉砕等によりスラリーを得、このスラリーにバインダー等を添加して噴霧乾燥する造粒工程を経て成形用原料を得る。その後、この成形用原料を所定形状に成形して成形体を得、成形体を焼成することでフェライト質焼結体を得ることができる。なお、前記粉体嵩密度は、フェライト粉末を造粒した後に得られる成形用原料の粉体嵩密度を示すものであり、粉体嵩密度とは、一定容積中に占める粉末の重量のことであり、粉体嵩密度の低い成形用原料は成形時に圧縮比が著しく大きくなるため、成形用の金型内に封入された空気に起因するラミネーションクラックが発生するという欠点を有する。ここで、圧縮比とは、成形用の金型に充填された成形用原料の厚みを成形後の成形体の厚みで割った値、即ち成形前後の厚みの比である。成形における圧縮比を小さくするためには成形用原料の粉体嵩密度は高い方が良いが、逆に粉体嵩密度の高い成形用原料は硬くなるために変形しにくく高い成形圧を必要とする。したがって、成形用原料の粉体嵩密度は1.6g/cm以下とすることが好ましく、上述で規定されたX〜Xが0.004≦X1/X2、X3/X2≦0.030、X4/X2≦0.025とすることで得られる。これにより、成形時のクラックの発生を十分に抑制することができ、圧縮比、成形圧のバラツキが小さくなる。さらに、成形時のクラックの発生を抑制し、圧縮比、成形圧のバラツキをより小さくするために、成形用原料の粉体嵩密度を1.52g/cm以上1.6g/cm以下とすることが好ましく、上述で規定されたX〜Xが0.004≦X1/X2、X3/X2≦0.030、X4/X2≦0.025とすることで得られる。これにより、成形時のクラックの発生を十分に抑制することができ、圧縮比、成形圧のバラツキが小さくなる。
【0028】
上述のようにX〜XをX/X≦0.011(ゼロを除く)、X/X≧0.02、X/X≧0.01としたフェライト粉末を用いて得られた成形用原料の粉体嵩密度を1.5g/cmより高くできる根拠は明確には不明であるが、フェライト粉末が上述のようなX線回折により観察される複数の結晶相を有し、これらが所定範囲にあることに起因するものと考えられる。また、フェライト粉末のX〜Xを、X/X≦0.011(ゼロを除く)、X/X≧0.02、X/X≧0.01とするには、詳細は後述するが、フェライト粉末を得る際の造粒後の顆粒の平均粒径および顆粒を仮焼するときの仮焼温度を調整することで得ることができる。
【0029】
一方、上述で規定されたX〜XがX/X>0.011、0.02>X/X、0.01>X4/X2の場合は、成形用原料の粉体嵩密度が1.5g/cmより低くなるため、成形用原料が成形用の金型に緻密に充填されにくく、成形時にクラックが発生しやすい。
【0030】
/X<0.004(ゼロを除く)、X/X>0.030、X/X>0.025の場合は、顆粒の粉体嵩密度が1.600g/cm以上になる。この場合、成形時の圧縮比はより小さくなるものの、顆粒は硬くなりつぶれにくく、成形圧が高くなり、また成形体内に空孔が残りやすく、高密度な焼結体を得ることができないおそれがある。
【0031】
なお、0.009<X1/X2<0.011、0.020<X/X<0.022、0.01<X/X<0.012の場合は、顆粒の粉体嵩密度が1.500−1.520g/cmとなり、成形時にクラックを発生させないという効果は得られるが、圧縮比を小さくできないおそれがある。
【0032】
なお、フェライト粉末のX線回折は、X線回折装置(スペクトリス社製 PW3050)を用い、回折角2θ=20〜70°にて測定を行うことができる。
【0033】
本発明のフェライト粉末およびこのフェライト粉末を用いたフェライト質焼結体の製造方法について図1を用いて説明する。
【0034】
本発明のフェライト粉末の製造方法は、図1に示すように、得られるフェライト粉末のFeをFe換算で35mol%以上45mol%以下、NiをNiO換算で45mol%以上55mol%以下、CuをCuO換算で0.1mol%以上2mol%以下、MgをMgO換算で5mol%以上10mol%以下、MnをMnO換算で0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有する主成分100質量部に対して、SiをSiO換算で3質量部以上8質量部以下の範囲で含有するように、Fe、Ni、Cu、Mg、Mn、Siの各金属元素の酸化物または加熱によりこれら金属元素の酸化物を生成する化合物から選択される原料粉末を混合して混合粉末を得る工程と、前記混合粉末を造粒することにより平均粒径1mm以上20mm以下の顆粒を得る工程と、前記顆粒を850℃以上で仮焼、粉砕する工程とを有する。
【0035】
原料粉末としては、例えば、酸化鉄粉末と、酸化ニッケル粉末と、酸化銅粉末と、水酸化マグネシウム粉末と、酸化マンガン粉末または炭酸マンガン粉末のうち少なくとも1種と、酸化珪素とを用いることができる。化合物としては、例えば水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、蓚酸塩を選択することができる。これら原料粉末を得られるフェライト粉末の各成分の含有量は上述の範囲になるように調合し混合粉末を得る。
【0036】
次いで、得られた混合粉末を造粒する。造粒の工程は、先ず混合粉末を乾式の場合は振動ミルで湿式の場合は混合粉末に水やバインダーを添加してアトライター、ボールミルまたは振動ミルを用いて粉砕した後に脱水を行う。このように粉砕混合された粉体に〜〜〜等を添加して転動造粒機等を用いて平均粒径1mm以上20mm以下の顆粒を得るための造粒を行う。
【0037】
次いで、得られた顆粒を、加熱され、回転する筒内を粉体が通過して仮焼が行われる炉内で850℃以上で仮焼する。
【0038】
その後、スチールボール等を粉砕用メディアとして用いた振動ミル等で粉砕することによって、本発明のフェライト粉末を製造する。
【0039】
ここで、顆粒の平均粒径を1mm以上20mm以下とするのは、平均粒径がこの範囲内であると、仮焼温度が850℃以上の場合に、得られたフェライト粉末を用いてフェライト質焼結体とする工程で得られる成形用原料の粉体嵩密度を1.5g/cm以上とすることができるからである。一方、平均粒径が20mmを超える場合または仮焼温度が850℃未満の場合には、得られる成形用原料の粉体嵩密度が1.5g/cm未満となってしまう。このような条件で造粒、仮焼することにより得られるフェライト粉末は上述で規定されたX線回折におけるX〜XをX1/X2≦0.011(ゼロを除く)、X3/X2≧0.02、X4/X2≧0.01の範囲とすることができる。
【0040】
また、顆粒の平均粒径は5mm以上15mm以下とすることがより好ましく、仮焼温度は850℃以上910℃以下とすることがより好ましい。これにより、得られる成形用原料の粉体嵩密度を1.52g/cm以上1.6g/cm以下とすることができる。これは、フェライト化した結晶の粒度分布を略一定にでき、さらに顆粒が緻密に充填されやすいからであると考えられる。これにより得られるフェライト粉末は上述で規定されたX線回折におけるX〜Xを0.004≦X1/X2、X3/X2≦0.030、X4/X2≦0.025とすることができる。
【0041】
このようにして得られたフェライト粉末を用いてフェライト質焼結体を得るには、図1に示すように、フェライト粉末を造粒することにより成形用原料を得る工程と、前記成形用原料を所定形状に成形して成形体を得る工程と、前記成形体を焼成する工程とを有する。先ず、フェライト粉末をボールミルやビーズミルで湿式粉砕してスラリーを得、得られたスラリーにバインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール、アクリル、トリエチレングリコール、ワックス等から選択される少なくとも1種を所定量添加して、噴霧乾燥した後、平均粒径が約80μmの成形用原料を得る。なお、上述の粉体嵩密度とはこの成形用原料の粉体嵩密度を示すものである。
【0042】
次いで、成形用原料を金型にて所定形状にプレス成形し、成形体を得る。
【0043】
最後に、成形体を焼成炉にて例えば950℃以上1200℃以下で焼成することによってフェライト焼結体が製造できる。
【0044】
このような方法にて得られたフェライト質焼結体は、周波数150MHz以上でのQ値が100以上で、6以上の透磁率を有し、透磁率の温度係数((80℃における透磁率−20℃における透磁率)/20℃における透磁率)が150ppm/℃以下の特性を有し、図2(a)に示すようなリング状のトロイダルコア1、あるいは図2(b)に示すようなボビン状コア2等のフェライトコアとして好適に用いられ、フェライトコアのそれぞれの巻き線部1a、2aに巻き線を施すことによってコイルとすることができる。これらコイルはチップインダクタ等に用いられ、高周波領域で高いQ値が要求される移動体通信機器やコンピュータ等の信号処理系の部品として利用することができる。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
酸化鉄粉末、酸化ニッケル粉末、酸化銅粉末、水酸化マグネシウム粉末、炭酸マンガン粉末、酸化珪素粉末をアトライターで粉砕混合した後、フィルタープレスで脱水した。脱水後、ロータリードライヤーで平均粒径が10mmになるように造粒した後、890℃で仮焼した。得られた仮焼粉をビーズミルにて粉砕した後、仮焼粉100質量部に対して、PVA1重量部、ポリエチレングリコール1重量部、パラフィンワックス1重量部をそれぞれ加えて、スプレードライヤーにより噴霧乾燥して、得られた成形用原料を金型を用いてトロイダルコアの形状に20個づつ加圧成形し、得られた各成形体を950〜1200℃で焼成し、大きさが外径14mm、内径8mm、厚み3.5mmの試料No.1〜24を作製した。
【0046】
また、表1、2に示した条件以外は、上述の実施例と同様にして本発明の範囲外の試料を作製し、実施例と同様に比較例として評価する。
【0047】
表1に示す得られたフェライト粉末におけるFe、Ni、Cu、Mg、Mn、Siの含有量の測定は、フェライト粉末にホウ酸と炭酸ナトリウムを加え、塩酸溶液に溶解させ、溶液中のFe、Ni、Cu、Mg、Mn、SiをICP発行分光分析装置(株式会社島津製作所製 ICPS−8100)にて定量分析により測定し、X線回折における各比は、実施形態に示した方法にて測定した。
【0048】
表2に示すフェライト粉末を製造する過程における造粒後の顆粒の平均粒径は、マイクロメーターにより測定した。また、仮焼粉の平均粒径D50の測定は日機装製マイクロトラックを用いて測定し、BETは一点法でマイクロメトリックス製フローソープII2300を用いて測定した。フェライト粉末を用いて造粒して得られた成形用原料の粉体嵩密度は、粉体を容器の中に自然落下させて充填し、一定容積を与える重量から求めることにより測定した。
【0049】
得られた試料の評価は、先ず成形性の評価は、成形体を双眼顕微鏡で観察して、クラックが発生している成形体の個数割合を求め、この割合を発生率とする方法により行った。◎(特に良好)は成形体のクラック発生率が0.5%未満、○(良好)はクラック発生率が0.5%以上1%未満、×(悪い)はクラックの発生率が1%以上である。また、成形圧の評価は、生密度が3.2g/cm以上となる成形圧が200MPa未満の場合に◎(特に良好)、200MPa以上の場合に○(良好)とした。また、焼結性の良否は、1200℃以下で焼結密度が5g/cm以上の焼結体が得られた場合を○(良い)、1200℃よりも高い温度範囲のみで焼結密度が5g/cm以上の焼結体が得られた場合を×(悪い)とした。
【0050】
次いで、得られたトロイダルコアに線径0.2mmの被膜銅線を巻き付けて、以下の各特性を測定した。100kHzの透磁率はLCRメーター(ヒューレットパッカード製HP4285A)を用いてJIS C−2561に準拠して評価した。また、150MHzのQ値は、Qメーター(目黒電波測器製MQ−171)を用いて測定した。温度係数はLCRメーター(ヒューレットパッカード製 HP4285A)を用い、基準温度を20℃、測定温度範囲を、20〜80℃としてJIS C−2561の規格に従い評価した。
【0051】
結果は表1、2に示す通りである。
【表1】

【表2】

【0052】
本発明の実施例(No.13〜24)は顆粒の粉体嵩密度が1.500g/cmよりも高く、クラックの発生率は1%以下であった。特に、0.004≦X1/X2≦0.009、0.022≦X/X≦0.03、0.012≦X/X≦0.025であった実施例(No.13−24)では成形用原料の粉体嵩密度が1.520−1.600g/cmの範囲となり、クラックの発生率は0.5%以下であった。さらに、本発明のフェライト粉末を用いて得られた焼結体は、周波数150MHz以上でのQ値が100以上となり、6以上の透磁率を有し、透磁率の温度係数((80℃における透磁率−20℃における透磁率)/20℃における透磁率)が150ppm/℃以下となり、1200℃以下で焼結するものであることがわかった。
【0053】
これに対し、比較例(No.1〜12)は、クラックの発生率は0.5%以下であり、成形圧も200MPa以下であったものの、Fe、Ni、Cu、Mg、Mn、Siの含有量が本発明の範囲外の試料の結果は、次の通りであった。
【0054】
Feの含有量が35mol%未満のもの(No.1)では透磁率が低くなった。Feの含有量が45mol%を超えるもの(No.2)ではQ値が低かった。NiOの含有量が45mol%未満のもの(No.3)ではQ値が低く、55mol%を超えるもの(No.4)は透磁率が低かった。CuOの含有量が0.1mol%未満のもの(No.5)では焼結性が悪く、1200℃以下で焼結せず、CuOの含有量が2mol%を超えるもの(No.6)では透磁率の温度係数が大きかった。MgOの含有量が5mol%未満のもの(No.7)ではQ値が低く、10mol%を超えるもの(No.8)では透磁率が低かった。MnOの含有量が0.1mol%未満のもの(No.9)では透磁率が低く、0.5mol%を超えるもの(No.10)ではQ値が低かった。SiOの含有量が3質量部未満のもの(No.11)では透磁率の温度係数が大きく、10質量部を超えるもの(No.12)では透磁率が低かった。
【0055】
(実施例2)
次に主成分として41mol%のFe、50mol%のNiO、0.8mol%のCuO、8.0mol%のMgO、0.2mol%のMnO、主成分100質量部に対してSiOを5質量部に固定し、造粒平均径と仮焼温度を表2の範囲で変化させ、その他の条件は上記実施例1と同様にして、試料No.30−33、35−38、40−43、45−48、50−53を得た。
【0056】
表3に示す得られたフェライト粉末におけるFe、Ni、Cu、Mg、Mn、Siの含有量の測定、X線回折における各比の測定、表4に示すフェライト粉末を製造する過程における造粒後の顆粒の平均粒径は、仮焼粉の平均粒径D50、BETは実施例1と同様の方法にて測定した。
【0057】
また、成形性、成形圧、そして焼結性の評価は実施例1と同様に行い、得られた焼結体に対して、実施例1と同様にして150MHzのQ値、100kHzの透磁率、温度係数を測定し、評価した。
【0058】
結果は表3,4に示す通りである。
【表3】

【表4】

【0059】
1/X2≦0.011(ゼロを除く)、X3/X2≧0.020、X4/X2≧0.010であった本発明の実施例は、顆粒の粉体嵩密度が1.500g/cmよりも高く、クラックの発生率は1%以下であった。その実施例は、造粒後の顆粒の平均粒径が1〜20mm以下、仮焼温度が850℃以上の時に得られていることがわかった。
【0060】
さらに、0.004≦X1/X≦0.009、0.022≦X/X≦0.03、0.012≦X/X≦0.025であった本発明の実施例(No.31、32、36、37、41、42、46、47)では成形用原料の粉体嵩密度が1.520−1.600g/cmの範囲となり、クラックの発生率は0.5%以下で、より少ないことが分かった。また、200MPa以下での成形も可能であった。その実施例は造粒平均径が5−15mm、仮焼温度が850−910℃の時に得られていることがわかった。
【0061】
次に、表3、4に示す以外は実施例と同様にして、X1/X、X/X、X/Xが本発明の範囲外の試料を作製し、実施例と同様に評価した。結果は次の通りであった。
【0062】
/X2>0.011、0.02>X3/X2、0.01>X4/X2の試料(No.25−29、34、39、44、49、54)は、成形用原料の粉体嵩密度が1.500g/cmよりも低くなり、クラックの発生率は1%以上であった。これらの試料は、仮焼温度が850℃以下では造粒平均径1−25mmの範囲で得られ、仮焼温度が850℃以上では造粒平均径25mmの時に得られていることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明のフェライト粉末およびフェライト質焼結体の製造方法を説明するための工程図である。
【図2】(a)、(b)は本発明のフェライト質焼結体からなるフェライトコアを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
1:トロイダルコア
1a:巻き線部
2:ボビンコア
2a:巻き線部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeをFe換算で35mol%以上45mol%以下、
NiをNiO換算で45mol%以上55mol%以下、
CuをCuO換算で0.1mol%以上2mol%以下、
MgをMgO換算で5mol%以上10mol%以下、
MnをMnO換算で0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有する主成分100質量部に対して、SiをSiO換算で3質量部以上8質量部以下の範囲で含有する酸化物からなるフェライト粉末であって、X線回折におけるフォルステライト(2MgO・SiO)の(222)面に帰属するX線回折ピーク強度をX、ニッケルフェライト(NiFe4)の(311)面に帰属するX線回折ピーク強度をX、シリカ(SiO)の(101)面に帰属するX線回折ピーク強度をX3、銅マンガンシリケート(CuMn6SiO12)の(224)面に帰属するX線回折ピーク強度をX4とするとき、X1/X2≦0.011(ゼロを除く)、X3/X2≧0.02、X4/X2≧0.01であることを特徴とするフェライト粉末。
【請求項2】
前記X1、X2、X3、Xは、0.004≦X1/X2、X3/X2≦0.030、X4/X2≦0.025であることを特徴とする請求項1に記載のフェライト粉末。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフェライト粉末を用いたことを特徴とするフェライト質焼結体。
【請求項4】
FeをFe換算で35mol%以上45mol%以下、
NiをNiO換算で45mol%以上55mol%以下、
CuをCuO換算で0.1mol%以上2mol%以下、
MgをMgO換算で5mol%以上10mol%以下、
MnをMnO換算で0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有する主成分100質量部に対して、SiをSiO換算で3質量部以上8質量部以下の範囲で含有する酸化物からなるフェライト粉末の製造方法であって、Fe、Ni、Cu、Mg、Mn、Siの各金属元素の酸化物または加熱によりこれら金属元素の酸化物を生成する化合物から選択される原料粉末を混合して混合粉末を得る工程と、前記混合粉末を造粒することにより平均粒径1mm以上20mm以下の顆粒を得る工程と、前記顆粒を850℃以上で仮焼、粉砕する工程と、を有することを特徴とするフェライト粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法によりフェライト粉末を得た後、該フェライト粉末を造粒することにより成形用原料を得る工程と、前記成形用原料を所定形状に成形して成形体を得る工程と、前記成形体を焼成する工程とを有することを特徴とするフェライト質焼結体の製造方法。
【請求項6】
請求項3に記載のフェライト質焼結体を用いて成ることを特徴とするフェライトコア。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−207988(P2008−207988A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45793(P2007−45793)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】