説明

フェライト膜の製造装置

【課題】 生成速度の向上と均質な柱状結晶の集合体であるフェライト膜の製造装置を提供する。
【解決手段】 フェライト形成面を下方向から横方向にの範囲に保持し、少なくとも第一鉄イオンを含む反応液および、少なくとも酸化剤、もしくは少なくとも酸素を含んだ酸化媒体を基体3に接触させる機構によって、固体表面以外で副次的に形成されたフェライトの微粒子を効率的に除去して生成速度を向上させ、均質な柱状結晶の集合体であるフェライト膜を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体、光磁気記録媒体、磁気ヘッド、磁気光学素子、マイクロ波素子、磁歪素子、磁気音響素子、及び高周波領域において不要電磁波の干渉によって生じる電磁障害を抑制するために用いられる電磁干渉抑制体などに広く応用される、スピネル型フェライト膜の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト膜の製造方法としてフェライトめっき法が知られており、例えば、特許文献1に示されているように、固体表面に、金属イオンとして少なくとも第1鉄イオンを含む水溶液を接触させ、固体表面にFe2+またはこれと他の水酸化金属イオンを吸着させ、続いて吸着したFe2+を酸化させることによりFe3+を得、これが水溶液中の水酸化金属イオンとの間でフェライト結晶化反応を起こし、これによって固体表面にフェライト膜を形成することができる。
【0003】
従来、この技術を基にフェライト膜の均質化、反応速度の向上を図ったもの(特許文献2)、固体表面に界面活性を付与して種々の固体にフェライト膜を形成しようとするもの(特許文献3)、フェライト膜の形成速度の向上に関するもの(特許文献4、特許文献5、及び特許文献6)がある。また、近年でも、例えば特許文献7では生成速度の向上と均質なフェライト膜の生成を目的としている。
【0004】
フェライトめっきは、膜を形成しようとする基体が前述した水溶液に対して耐性があれば何でも良い。更に、水溶液を介した反応であるため、温度が比較的低温(常温〜水溶液の沸点以下)でスピネル型フェライト膜を形成できるという特徴がある。そのため、他のフェライト膜の作製技術に比べて、基体の適用範囲が広い。
【0005】
【特許文献1】特開昭59−111929号公報
【特許文献2】特公平5−58252号公報
【特許文献3】特開昭62−30674号公報
【特許文献4】特公平4−56779号公報
【特許文献5】特公平7−6072号公報
【特許文献6】特開平02−116631号公報
【特許文献7】特開2004−107107公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前述したように、これまで膜の生成速度の向上に対して種々の改善が提案されているが、工業的な生産性という観点からみるとまだまだ不十分であり、生産性という点に関して大きな課題があった。
【0007】
また、フェライトめっきによって形成されたフェライト膜を磁気記録媒体、光磁気記録媒体、磁気ヘッド、磁気光学素子、マイクロ波素子、磁歪素子、磁気音響素子、及び電磁干渉抑制体に用いる場合には、膜の均質性が重要なポイントとなる。膜の均質性が、各用途におけるフェライト膜の特性に大きく影響を与えるためである。
【0008】
フェライトめっきによるフェライト膜は、前述のように固体表面を基点とした結晶成長によって形成される。その際、理想的な条件下で形成されたフェライト膜は、柱状結晶の集合体となる。しかし、従来は、固体表面以外で副次的に形成されたフェライトの微粒子が柱状結晶の成長を疎外することにより、また固体表面に吸着するFe2+の不均一性によって、均質な柱状結晶の集合体であるフェライト膜を得ることが困難であった。
【0009】
特許文献7においては、溶液の供給の調整で生成速度の向上と膜の均質性を保つことが記載されているが、例示されている基体への溶液の供給方法は上方からの例のみであり、また、均質化には回転磁界が必要である。
【0010】
図3は、従来のめっき装置の概略図である。回転台9上に基体13を設置し、溶液供給ノズル1,2から、基体13に上方より反応液と酸化媒体を供給し、回転台9を回転させることで、遠心力により溶液を除去するよう構成されている。しかしながら、この装置では、フェライト膜の形成はバッチ形式で連続した基体に連続してフェライト膜を形成することはできない。
【0011】
そこで、本発明における目的は、フェライトめっき法によって形成されたフェライト膜の製造において、懸かる従来の欠点を解消して工業的な生産性を増し、均質な柱状結晶の集合体であるフェライト膜を連続的に得ることができるフェライト膜の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、種々検討の結果、少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を下方向もしくは横方向から基体に接触させる機構、少なくとも酸化剤、もしくは少なくとも酸素を含んだ酸化媒体を下方向もしくは横方向から基体に接触させる機構によって、固体表面以外で副次的に形成されたフェライトの微粒子を効率的に除去して生成速度を向上し、均質な柱状結晶の集合体であるフェライト膜が得られることを見出した。また、同時に基体が連続して供給される機構によって、工業的な生産性を向上できることを見出した。
【0013】
更に、少なくとも第一鉄イオンを含む反応液、及び少なくとも酸化剤、もしくは少なくとも酸素を含んだ酸化媒体を基体に接触させる際、噴霧によって基体に供給することによって、フェライトめっき膜柱状結晶の長軸aを0.1〜50μm、短軸bを0.1〜3μm、また長軸a、短軸bの比a/bを1〜100に制御することが可能であることを見出した。
【0014】
即ち、本発明によれば、結晶が柱状であるフェライト膜の製造装置であって、基体のフェライト膜が形成される面を重力方向と前記面の法線方向とのなす角度が90度以下となるように保持して、第一鉄イオンを含む反応液、および酸化剤もしくは酸素を含んだ酸化媒体を接触させる機構と、前記基体が連続して供給される機構を具備してなるフェライト膜の製造装置によって、生成速度を向上して工業的な生産性を増し、均質な柱状結晶の集合体であるフェライト膜が得られる。
【0015】
更に本発明によれば、フェライト膜は結晶が柱状であって、柱状結晶の長軸aが0.01〜50μmで、短軸bが0.01〜3μm(望ましくは0.01〜1μm)であるフェライト膜の製造装置、また柱状結晶の長軸a、短軸bの比a/bが1〜100であるフェライト膜の製造装置が得られる。これは、上記反応液及び酸化媒体を基体に供給する時間を制御することで柱状結晶を制御したフェライト膜が得られる。
【0016】
また、本発明によれば、第一鉄イオンを含む反応液、および酸化剤もしくは酸素を含んだ酸化媒体を前記基体に接触させる際、噴霧によって供給するフェライト膜の製造装置が得られる。
【0017】
また、本発明によれば、第一鉄イオンを含む反応液、および酸化剤、もしくは酸素を含んだ酸化媒体を前記基体に接触させる際、前記基体と前記反応液、及び前記基体と前記酸化媒体の接触する角度が、5〜175°であるフェライト膜の製造装置が得られる。
【0018】
また、本発明によれば、基体として帯状の基体を使用し、帯状の基体を重力方向に略平行な円環状に、且つフェライト形成面が円環の中心部を向くように保持する機構を具備し、反応液と酸化媒体を基体に接触させる機構が円環の中心部を軸として回転しながら反応液と酸化媒体を噴霧するフェライト膜の製造装置が得られる。
【0019】
本発明の噴霧によって供給する構造が、フェライトめっき膜の生成速度を向上し、かつ均質な柱状結晶とすることの原因の詳細は明らかとなっていない。しかし、噴流によってフェライトめっき膜形成に寄与しない少なくとも第一鉄イオンを含む反応液、少なくとも酸化剤、もしくは少なくとも酸素を含んだ酸化媒体が効率的に除去され、固体表面以外での副次的なフェライト微粒子の形成を抑制、除去し、また固体表面に均一にFe2+を吸着させるものと考えられる。
【発明の効果】
【0020】
上記構成のように基体を下方向から横方向の範囲内に保持して反応液及び酸化媒体を接触させる機構と基体が連続して供給される機構を備えたフェライト膜の製造装置によって、生成速度を向上して工業的な生産性を増し、均質な柱状結晶の集合体であるフェライト膜を連続的に得ることができる。
【0021】
更に、反応液及び酸化媒体を基体に接触させる工程を制御することでフェライトめっき膜の柱状結晶の長軸aを0.1〜50μm、短軸bを0.1〜3μm(望ましくは0.01〜1μm)、また長軸a、短軸bの比a/bを1〜100に制御したフェライト膜が得られ、このように制御されたフェライトめっき膜は均質であり、上記の各種用途に適したフェライト膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のフェライト膜の製造装置は、少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を基体に接触させる機構と、基体を連続して供給する機構を備え、基体のフェライト膜形成面を下方向から横方向の範囲を向くように保持する機構を備えている。本発明者等の検討によれば、少なくとも第一鉄イオンを含む反応液と少なくとも酸化剤、もしくは少なくとも酸素を含んだ酸化媒体を基体に接触させる際に、基体のフェライト膜形成面を下方向から横方向の範囲を向くように保持することが、フェライトめっき膜の生成速度を向上し、かつ均質な柱状結晶とすることに対して重要である。下方向から横方向の範囲を向くように保持することにより、反応液、少なくとも酸化剤、もしくは少なくとも酸素を含んだ酸化媒体を重力により速やかに除去することができるだけではなく、基体表面以外で副次的に生成した不要なフェライト微粒子をも重力により速やかに除去できる。ここで、酸化媒体はNaNO2のような亜硝酸塩等の酸化剤もしくは酸素を溶存する水溶液等を用いることができる。
【0023】
また、少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を基体に接触させる工程と、少なくとも酸化剤、もしくは少なくとも酸素を含んだ酸化媒体を基体に接触させる工程と、基体が連続して供給される工程を制御することにより、フェライトめっき膜柱状結晶の長軸aを0.01〜50μm、短軸bを0.01〜3μm(望ましくは0.01〜1μm)、また長軸a、短軸bの比a/bを1〜100に制御することが可能である。
【0024】
以下、本発明の詳細について、図面を用いて説明する。図1に、基体のめっき形成面を下方向に保持して、溶液を供給するめっき装置の概略図を示す。フェライト膜を形成する基体3は、基体供給ロール4、基体巻き取りロール5によって連続的に供給される。少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を基体に供給するためのノズル1と少なくとも酸化剤、もしくは少なくとも酸素を含んだ酸化媒体を基体に供給するためのノズル2は2本のノズルを一組として基体の供給方向に複数組設置している。このような構成により、基体3を下方向に向け、反応液と少なくとも酸素を含んだ酸化媒体を接触させることができる。ここで、下方向とは重力の働く方向であり、重力方向と基体のフェライト形成面の法線方向が一致、即ち角度が0度の時の例である。また、フェライト膜を成膜するめっきエリア6は一定の温度に保たれる。
【0025】
基体のめっき形成面を横方向に保持して溶液を供給するめっき装置の一例の概略を図2に示す。フェライト膜を形成する基体3は、基体供給ロール4、基体巻き取りロール5によって連続的に供給される。少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を基体に供給するためのノズル1と少なくとも酸化剤、もしくは少なくとも酸素を含んだ酸化媒体を基体に供給するためのノズル2は2本のノズルを一組として基体の供給方向に複数組設置している。このような構成により、基体3を横方向に向け、反応液と少なくとも酸素を含んだ酸化媒体を接触させることができる。ここで、横方向とは重力の働く方向に直角な方向であり、重力方向と基体のフェライト形成面の法線方向が直交、即ち角度が90度の時の例である。また、フェライト膜を成膜するめっきエリア6は一定の温度に保たれる。
【0026】
図1、図2において、基体3に対して少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を基体に供給するためのノズル1と少なくとも酸化剤、もしくは少なくとも酸素を含んだ酸化媒体を基体に供給するためのノズル2はフェライト形成面の上方向、フェライト形成面の法線方向から85度以内に配置する。即ち、基体3のフェライト膜形成面と反応液の噴霧方向とのなす角度、及び基体3のフェライト膜形成面と少なくとも酸化剤、もしくは少なくとも酸素を含んだ酸化媒体の噴霧方向とのなす角度が5〜175°の範囲であれば良い。
【0027】
図6に、本発明のめっき装置の一例を示す。フェライト膜を形成する基体3は、基体供給ロール4、基体巻き取りロール5によって連続的に供給される。帯状の基体3は重力方向に略平行な円環状に、且つフェライト形成面が前記円環の中心部を向くように保持されている。少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を基体3に供給するためのノズル1と、少なくとも酸化剤、もしくは少なくとも酸素を含んだ酸化媒体を基体3に供給するためのノズル2は、2本を一組として基体3の供給方向に複数組設置され、円環の中心を軸として回転する構造となっている。N2ガスをガス供給口7より流入させ、内部を非酸化性雰囲気に保つようにする。8はN2ガス、及び、廃液排出口である。なお、製造装置本体10は基体3を支持し、一定の温度に保たれている。
【0028】
また、フェライト膜を形成しようとする基体3は、反応液及び酸素を含んだ酸化媒体に対して耐性があれば良く、更に、温度が比較的低温(常温〜溶液の沸点以下)でスピネル型フェライト膜を形成できるため、耐熱性も比較的緩やかであり、ポリイミドやポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルムや、ガラス、ステンレス等の板を用いることができる。円環状に保持する場合には基体3としては柔軟性のあるものが望ましいが、剛性の高いものでも、柔軟な帯状の搬送媒体に貼り付けたものを基体3としてフェライト膜を形成し、後で用途に応じて、搬送媒体から剥がす等すればよい。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
反応液として、純水1lに対してFeCl・4HOを3.3g、NiCl6HOを1.25g、ZnClを0.025gそれぞれ溶解した第一鉄イオンを含む水溶液を作製した。また、酸化媒体として、純水1lに対してNaNOを0.3g,CHCOONH、を5g溶解した酸化剤を含む水溶液を作製した。また、フェライト膜を形成する基体として、0.3mmのポリエチレンテレフタレートフィルム用意した。これらの溶液と基体を用いて、図1に示したような装置を用いてフェライト膜を作製した。
【0030】
フェライト膜の作製は、以下の手順で行った。まず、溶液供給ノズル1、2から供給される反応液、酸化媒体の流量を30ml/minに調整し、めっき膜の形成は、一組のノズルにおいて反応液、酸化媒体を連続的に供給するようにして行った。めっき膜を形成する基体3の温度を、支持部材のヒータを用いて90℃に調節した。また、反応槽内部は非酸化性雰囲気となるように窒素ガスを1.5l/minで供給した。基体の送り速度はめっきエリア6に1min、10min、60min、500min滞留するようにそれぞれ調節して行い、その滞留時間をめっき時間とした
【0031】
(実施例2)
反応液、酸化媒体、基体は実施例1と同じにして、図2に示したような装置を用いてフェライト膜を作製した。
【0032】
フェライト膜の作製は、以下の手順で行った。まず、溶液供給ノズル1、2から供給される反応液、酸化媒体の流量を30ml/minに調整し、めっき膜の形成は、一組のノズルにおいて反応液、酸化媒体を連続的に供給するようにして行った。めっき膜を形成する基体3の温度を、支持部材のヒータを用いて90℃に調節した。また、反応槽内部は非酸化性雰囲気となるように窒素ガスを1.5l/minで供給した。基体3の送り速度はめっきエリア6に1min、10min、60min、500min滞留するようにそれぞれ調節して行い、その滞留時間をめっき時間とした。
【0033】
(比較例1)
反応液、酸化媒体、基体は実施例1と同じにして、図3に示したような装置を用いてフェライト膜を作製した。
【0034】
フェライト膜の作製は、以下の手順で行った。まず、溶液供給ノズル1,2から供給される反応液、酸化媒体の流量を30ml/minに調整し、めっき膜の形成は、回転台9を150rpmで回転させながら、一組のノズル1,2から反応液、酸化媒体を連続的に基体3に供給して行った。めっき膜を形成する基体の温度を、ヒータを用いて90℃に調節した。また、めっき装置は非酸化性雰囲気となるように窒素ガスを1.5l/minで供給した。また、めっき膜の形成は、反応液、酸化媒体の供給時間を1min、10min、60min、500minで行い、その供給時間をめっき時間とした。
【0035】
(実施例3)
反応液、酸化媒体、基体は実施例1と同じにして、図6に示したような装置を用いてフェライト膜を作製した。
【0036】
フェライト膜の作製は、以下の手順で行った。まず、反応液、酸化媒体の流量を30ml/minに調整した。反応液、酸化媒体のノズルの回転数は10,100,300rpmとした。基体3の温度はヒータを用いて90℃に調節した。また、めっき装置には窒素ガスを1.5l/minで供給して、非酸化性雰囲気を得た。膜の生成時間は0.7〜4.2時間とした。
【0037】
表1に、本発明における実施例1、実施例2、及び比較例1において生成しためっき膜の、結晶の長軸a、短軸bの値、長軸a、短軸bの比a/b、及び成膜速度を示した。
【0038】
【表1】

【0039】
表1から分かるように、実施例1、実施例2、実施例3では、めっき時間の増加に伴って結晶の長軸a、短軸bの値、及び長軸a、短軸bの比a/bが増加している。このことは、本実施例において結晶の長軸a、短軸bの値、及びa/bを制御したフェライトめっき膜が得られたことを示している。これに対して、比較例1では、めっき時間を増加させても結晶の長軸a、短軸bの値、及びa/bにばらつきがあり、長軸a、短軸bの値、及びa/bが制御されていない。図4に、実施例1、実施例2、実施例3におけるフェライトめっき膜の断面の模式図を、図5に、比較例1におけるフェライトめっき膜の断面の模式図を示した。このように本実施例では、柱状晶の均質なフェライトめっき膜を得ることができた。
【0040】
更に、表1から分かるように、実施例1、実施例2で得られたフェライトめっき膜の成膜速度は、比較例1の約10倍となっている。このことは、即ち、本実施例において生成速度が向上したフェライトめっき膜が得られることを示している。
【0041】
また、表1から分かるように、実施例3では反応液、酸化液の溶液供給ノズルの回転数の増加に伴って結晶の長軸a、短軸bの値、及び長軸a、短軸bの比a/bが増加している。このことは、溶液供給ノズルの回転数が大きい方が、成膜速度が大きくなることを示している。実施例3の装置(図6)と実施例1(図1)、実施例2(図2)とでは、溶液供給ノズルの配置が異なる。理由は明確ではないが、実施例3のような装置では溶液供給ノズルの回転数をある程度以上大きくして、基体への溶液供給を連続的に行うことで、成膜速度を良好にできるものと考えられる。
【0042】
更に、表1から分かるように、実施例1〜実施例3で得られたフェライトめっき膜の成膜速度は、比較例1の約5〜15倍となっている。このことは、即ち、本実施例において生成速度が向上したフェライトめっき膜が得られることを示している。
【0043】
本発明において、柱状結晶の長軸a、短軸bの値が0.01μmを下回った場合、均質なフェライトめっき膜が得られないために本発明の範囲から除外される。また、長軸aの値が50μmを上回った場合、短軸bの値が3μm(より厳しくは1μm)を上回った場合、得られるフェライトめっき膜の実質的な機械的強度が低下するために本発明の範囲から除外される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の基体のめっき形成面を下方向に保持して、溶液を供給するめっき装置の概略図。
【図2】本発明の基体のめっき形成面を横方向に保持して、溶液を供給するめっき装置の概略図。
【図3】従来のめっき装置の概略図。
【図4】本発明のフェライトめっき膜の断面の模式図。
【図5】従来のフェライトめっき膜の断面の模式図。
【図6】本発明のめっき装置の概略図。
【符号の説明】
【0045】
1 溶液供給ノズル(反応液を基体に供給するためのノズル)
2 溶液供給ノズル(酸化媒体を基体に供給するためのノズル)
3,13 基体
4 基体供給ロール
5 基体巻き取りロール
6 めっきエリア
7 ガス供給口
8 ガス、及び廃液排出口
9 回転台
10 製造装置本体
11,12 フェライト結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶が柱状であるフェライト膜の製造装置であって、基体のフェライト膜が形成される面を重力方向と前記面の法線方向とのなす角度が90度以下となるように保持して、第一鉄イオンを含む反応液、および酸化剤もしくは酸素を含んだ酸化媒体を接触させる機構と、前記基体が連続して供給される機構を具備してなることを特徴とするフェライト膜の製造装置。
【請求項2】
前記フェライト膜は結晶が柱状であって、柱状結晶の長軸aが0.01〜50μmで、短軸bが0.01〜3μmであることを特徴とする請求項1記載のフェライト膜の製造装置。
【請求項3】
前記フェライト膜は結晶が柱状であって、柱状結晶の長軸a、短軸bの比a/bが1〜100であることを特徴とする請求項1または2記載のフェライト膜の製造装置。
【請求項4】
前記第一鉄イオンを含む反応液、および酸化剤もしくは酸素を含んだ酸化媒体を前記基体に接触させる際、噴霧によることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のフェライト膜の製造装置。
【請求項5】
前記第一鉄イオンを含む反応液、および酸化剤、もしくは酸素を含んだ酸化媒体を前記基体に接触させる際、前記基体と前記反応液、及び前記基体と前記酸化媒体の接触する角度が、5〜175°であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のフェライト膜の製造装置。
【請求項6】
前記基体として帯状の基体を使用し、該帯状の基体を重力方向に略平行な円環状に、且つフェライト形成面が前記円環の中心部を向くように保持する機構を具備し、前記反応液と酸化媒体を前記基体に接触させる機構が前記円環の中心部を軸として回転しながら前記反応液と酸化媒体を噴霧することを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のフェライト膜の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−108536(P2006−108536A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−295813(P2004−295813)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】