説明

フェライト膜作製技術を用いた材料定数等価変換型電波吸収体及び該電波吸収体の製造方法

【課題】樹脂を用いることなく、吸収特性の向上および制御が可能な電波吸収体を提供するとともに、該電波吸収体の簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】基材と、該基材に設けられた複数の孔とを有する電波吸収体であって、基材が樹脂を含まないフェライトで形成されたことを特徴とする。また、基材に複数の孔を形成して電波吸収体を製造する方法であって、エアロゾルデポジション法またはフェライトメッキ法により、樹脂を含まないフェライト基材を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト膜作製技術を用いて製造された材料定数等価変換型電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や携帯用情報端末などの携帯電子機器が一般的になるにつれ、こうした機器から発せられる電波による障害が問題になってきており、これに対応するために、機器に内装する電波吸収体としても、小型で高性能なものが要求され、種々の電波吸収体が開発されている。
【0003】
従来、エアロゾルデポジション法やフェライトメッキ法を用いることによって、フェライト膜を作製し、これを電波吸収体や電磁雑音抑制体等とする技術は公知である(特許文献1〜4参照)。
【特許文献1】特許公開2003−297628号公報
【特許文献2】特許公開2003−297629号公報
【特許文献3】特許公開2004−111477号公報
【特許文献4】特許公開2005−5641号公報
【0004】
特許文献1及び2に記載された発明は、形成する磁性膜の原料となる微粒子粉末をエアロゾル化して基板などの被成膜物に衝突させ、厚膜を形成するエアロゾル・デポジション(AD)法を用いるものであり、このAD法では、目的とする磁性膜の組成に等しい組成の原料粉末をエアロゾル化して被成膜物に衝突させることで、所望の組成および膜厚の磁性膜を効率的に形成することができるという利点がある。
【0005】
特許文献3及び4に記載された発明は、フェライトメッキ法、すなわち、基材表面に、少なくとも第1鉄イオンを含む水溶液(反応液)を接触させ、FeOH+またはこれと他の水酸化金属イオンを吸着させ、続いて吸着したFeOH+を酸化液により酸化させることによりFeOH2+を得、これが水溶液中の水酸化金属イオンとの間でフェライト結晶化反応を起こし、これによって基材表面にフェライト膜を形成する方法を用いるものであるが、前記反応液、酸化液の接触工程、除去工程を改善することにより、フェライト膜の生成速度を向上させて工業的な生産性を増すことを可能としたものである。
【0006】
また、電波吸収体について、材料特性を等価的に変換し、吸収特性(吸収する周波数)を制御する手法として材料定数等価変換法が知られており、吸収体に空孔等を規則的に配置することによって吸収特性が制御できることが知られている(特許文献5参照)。
【特許文献5】特開平11−17380号公報
【0007】
特許文献5に記載された発明は、「電波吸収材料を厚さが0.01μmないし1mmの板状にしたものである吸収基板に、整合周波数を調整する貫通穴である調整穴を形成したことを特徴とする電波吸収体。」(特許請求の範囲の請求項1)であり、この発明の原理は、微少空孔を設けることによって、この伝送線路終端の電波吸収体に相当する負荷インピーダンス部分が変化し、共振を起こすことによって、電波吸収状態が実現されるというものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、エアロゾルデポジション法やフェライトメッキ法を用いることによって、これまでもフェライト膜が作製され、電波吸収体として用いられているが、満足できるものではなかった。
【0009】
また、これまでに提唱されている材料定数等価変換型の吸収体は、樹脂とフェライト等の磁性材料との複合シートが用いられているが、複合シートの場合にはもともとの材料特性(透磁率)が低く、たとえ等価的に変換しても、その吸収特性はやはり制限される。
また、従来の材料定数等価変換型電波吸収体は、樹脂と磁性材料からなる複合シートに空孔を設ける手法で作製されていた。
本発明は、樹脂を用いることなく、吸収特性の向上および制御が可能な電波吸収体を提供すること及び該電波吸収体の簡便な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下のように、エアロゾルデポジション(AD)法やフェライトメッキ法等の従来の膜作製技術を応用して、樹脂を用いることなく、磁性材料のみを用いた材料定数等価変換型電波吸収体を得るものである。
(1)基材と、該基材に設けられた複数の孔とを有する電波吸収体であって、基材が樹脂を含まないフェライトで形成されたことを特徴とする電波吸収体である。
(2)基材と孔とが一連のプロセスで形成されたものであることを特徴とする前記(1)の電波吸収体である。
(3)基材に複数の孔を形成して電波吸収体を製造する方法であって、エアロゾルデポジション法またはフェライトメッキ法により、樹脂を含まないフェライト基材を形成することを特徴とする電波吸収体の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、樹脂を使用しないので、フェライト特性を最大限に利用できる優れた電波吸収体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1に材料定数等価変換型電波吸収体の概念図を示す。
図1に示すように、材料定数等価変換型電波吸収体は、シートに空孔を規則的に配置した構造になっている。これまでは、まずシートを作製し、その後、空孔を設けることによって吸収体を作製していた。
【0013】
本発明では、エアロゾルデポジション(AD)法やフェライトメッキ法等の薄膜作製技術を応用して、樹脂を用いずに、フェライト磁性材料のみを用いて電波吸収体を作製する。 また、薄膜形成をした後に、引き続くエッチング処理等により空孔を形成する。空孔の形成は、エッチング時にマスクを用いることによって比較的容易にできる。
【0014】
まず、本発明において、AD法を用いて、電波吸収体を作製する手法について説明する。
従来のAD法に用いられている、チャンバ内にノズルが配置され、ノズルの先端から原料粉末がエアロゾル化されて噴射される磁性膜形成装置を使用することができる。ノズルは、外部のミキサと配管を介して接続され、ミキサには、フェライト原料粉末が仕込まれ、ミキサの振動により、フェライト原料粉末が均一に混合され、粒度分布の偏りをなくすことができるように構成されている。また、ロータリーポンプによりチャンバ内の圧力を調整する。
【0015】
本発明においては、ノズルの先端側に、基板が配置され、フェライト原料粉末が噴射されると、原料粉末粒子が基板表面に衝突して順に積層していき、樹脂を含まないフェライト基材(フェライト膜)を形成することができるようになっている。
基板としては、ポリイミド系樹脂等の樹脂製の基板を用いることができる。
【0016】
続いて、このフェライト膜に孔を形成する方法を図2により説明する。
(a)上記のようにして作製されたフェライト膜の両側に孔の空いたマスクを、孔の中心に合わせて配置する。
(b)片側でマスクに孔が空いている部分のみをエッチング処理する。
(c)フェライト膜を180度回転させ(又はフェライト膜はそのままで、下側から直接)、反対側のマスクに孔が空いている部分のみをエッチング処理する。また、両側から同時にエッチング処理することも可能である。
(d)最後に、両側のマスクを除去して、孔が形成されたフェライト膜(電波吸収体)を得る。
【0017】
次に、本発明において、フェライトメッキ法を用いて、電波吸収体を作製するプロセスについて説明する。
(1)反応液としては、2価金属(Fe2+,Ni2+,Zn2+等)の塩化物の水溶液を用いて、その温度を100℃以下にする。
(2)pH調整剤(例えば、NH4OH水溶液)を用いて、pHを常に一定になるように調整しながら、基板表面に、上記塩化物の水溶液を供給し、Fe2+などの2価金属イオンを吸着させ、表面からH+を放出させる。
(3)適切な酸化剤(例えば、NaNO2)を用いて、吸着したFe2+イオンを酸化させFe3+にすることにより、表面にフェライト結晶層を形成させる。
(4)表面に形成されたフェライト結晶層の表面に、再度、2価金属(Fe2+,Ni2+,Zn2+等)を吸着させ、上記と同じプロセスで酸化させ3+に価数を変化させる過程を繰り返すことによって、スピネル構造のフェライト層を成長させる。
(5)基板がフェライト層で被覆された後に、洗浄し、樹脂を含まないフェライト基材を得る。
【0018】
本発明においては、上記のようにフェライトメッキ法を用いて作製されたフェライト膜に、図2に示すようなプロセスで、孔を形成することができる。
【0019】
フェライト基材に形成される孔の数及び直径は、限定されるものではなく、吸収したいノイズの周波数に吸収特性を合わせるために調整する。また、電波吸収体の吸収特性は、用いるフェライトの材料特性にも依存するので、フェライトの特性も加味した上で孔の数及び直径並びに孔の間隔を調整する。
本発明の手法により、現在、作製されている、孔の直径1〜10mm、孔の間隔が1〜10mmの電波吸収体を得ることができる。
【実施例1】
【0020】
AD法を用いて、電波吸収体を製造する例を示す。
フェライト基材の組成が、Ni0.5Zn0.5Fe24となるように、フェライト原料粉末を配合し、ミキサで混合した後、ノズルに供給し、チャンバ内の圧力を7Paに調整して、ノズルの先端からエアロゾル化されたフェライト原料粉末をポリイミド樹脂からなる基板に5リットル/minの流量で噴射することにより、膜厚5μmのフェライト基材を作製した。その後、このフェライト基材にエッチング処理により、直径2mmの孔を16個形成して、電波吸収体を得た。
得られた電波吸収体の特性を測定した結果を図3に示す。
【0021】
本電波吸収体は、磁気損失を利用したものであり、電波吸収エネルギーは、μ"fに比例する。図3は、試作した電波吸収体のμ"f特性を示したものである。図3に示すように、μ"fは3GHz付近でピークを取り、GHz帯のノイズを吸収する特性を有していることが分かる。
【実施例2】
【0022】
次に、フェライトメッキ法を用いて、電波吸収体を製造する例を示す。
フェライト基材の組成が、Ni0.5Zn0.5Fe24となるように、反応液としてFe2+,Ni2+,Zn2+を含む塩化物水溶液を調整し、その温度を90℃に保持した。pH調整剤として、NH4OH水溶液を用いて、pHを常に一定になるように調整しながら、ポリイミド樹脂からなる基板に、上記塩化物水溶液を噴射し、基板表面に、Fe2+,Ni2+,Zn2+の2価金属イオンを吸着させた。続いて、反応液の代わりに酸化剤としてNaNO2溶液を基板表面に噴射し、吸着したFe2+,Ni2+,Zn2+の2価金属イオンを酸化させることにより、表面にフェライト結晶層を形成させた。表面に形成されたフェライト結晶層の表面に、再度、同様に2価金属(Fe2+,Ni2+,Zn2+)を吸着させ、上記と同じプロセスで酸化させ3+に価数を変化させる過程を繰り返すことによって、スピネル構造のフェライト層を成長させた。最後に、洗浄し、樹脂を含まないフェライト基材を得た。
その後、このフェライト基材に、実施例1と同様のエッチング処理を施して、電波吸収体を得た。
【産業上の利用可能性】
【0023】
上述した電波吸収体が開発できれば、現在樹脂との複合シートとして用いられているフェライト電波吸収体の特性が飛躍的に向上し、また材料定数を等価的に変換できることから、どのような吸収帯域にも適用可能な電波吸収体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】材料定数等価変換型電波吸収体の概念図である。
【図2】本発明のフェライト基材にエッチングにより孔を形成するプロセスの概念図である。
【図3】試作した電波吸収体の電波吸収エネルギーμ"fの周波数依存性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材に設けられた複数の孔とを有する電波吸収体であって、基材が樹脂を含まないフェライトで形成されたことを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
基材と孔とが一連のプロセスで形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
基材に複数の孔を形成して電波吸収体を製造する方法であって、エアロゾルデポジション法またはフェライトメッキ法により、樹脂を含まないフェライト基材を形成することを特徴とする電波吸収体の製造方法。


【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−269675(P2006−269675A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−84624(P2005−84624)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】