説明

フェンダライナ及びその製造方法

【課題】防汚性能及び防着氷性能が良好で、かつ、吸音性能が良好なフェンダライナを提供することを課題とする。
【解決手段】自動車のホイールハウス12に取り付けられるフェンダライナ20に、繊維を集合させてホイールハウス12に沿う形状に成形された通気性の基材層30と、耐水性の素材で形成され、基材層30におけるホイールハウス12に面する側とは反対側の面30aに積層された保護層40とを設け、保護層40を通して基材層30における保護層の積層面30aへ空気を流通させる貫通穴42を保護層10に複数形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のホイールハウスに取り付けられるフェンダライナ、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のホイールハウスには、タイヤ上方を覆うようにフェンダライナが取り付けられている。走行中の自動車では、タイヤと路面との間で走行音が発生したり、タイヤが跳ね上げる小石、砂、水、等がフェンダライナに当たって打撃音が発生したりする。これらの走行音や打撃音等の騒音を低減するため、繊維とラテックスを混合したシート状材料を加熱しながらプレス成形した繊維系タイプのフェンダライナをホイールハウスに取り付けることが行われている。
【0003】
また、特開2000−264255号公報には、車体フェンダー内面形状に適合する形状に成形された硬質繊維板からなるフェンダーライナが記載されている。
【特許文献1】特開2000−264255号公報
【特許文献2】米国特許第4735427号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、繊維系タイプのフェンダライナは、自動車走行中にタイヤが跳ね上げる泥水や氷雪が付着しやすいため、防汚性能や防着氷性能に課題がある。なお、防着氷性能とは、氷の付着を防ぐ性能をいうものとする。特に、寒冷地域で雪道を走行すると、フェンダライナ自体が凍結することにより多量の氷や雪がフェンダライナに付着する可能性がある。自動車が走行するためには、フェンダライナに多量の氷や雪が付着しないようにする方が好ましい。
【0005】
米国特許第4735427号明細書には、自動車のホイールハウジングのためのホイールハウジングライニングにニードルされた樹脂繊維フリース材を用いることが記載されている。同明細書には、樹脂繊維フリース材におけるホイールハウジングに面する側とは反対側の面に不透水性のエラストメトリックな材料(water impermeable elastomeric material)がコーティングされることが記載されている。
しかし、樹脂繊維フリース材に不透水性のエラストメトリックな材料をコーティングすると、上述した走行音や打撃音等の騒音に対する吸音性能が低下してしまう問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、防汚性能及び防着氷性能が良好で、かつ、吸音性能が良好なフェンダライナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、自動車のホイールハウスに取り付けられるフェンダライナであって、繊維を集合させて前記ホイールハウスに沿う形状に成形された通気性の基材層と、耐水性の素材で形成され、前記基材層における前記ホイールハウスに面する側とは反対側の面に積層された保護層とを備え、前記保護層を通して前記基材層における該保護層の積層面へ空気を流通させる貫通穴が該保護層に複数形成されていることを特徴とする。
【0008】
すなわち、自動車走行中にタイヤが跳ね上げる泥水や氷雪は耐水性の素材からなる保護層である程度遮断され、繊維を集合させて成形された通気性の基材層に付着する泥水や氷雪が少なくなる。これにより、寒冷地域で自動車を走行しても、フェンダライナに付着する氷や雪が少なくなる。従って、本フェンダライナにより良好な防汚性能及び良好な防着氷性能が得られる。また、基材層に付着する泥水や氷雪が少なくなることにより、基材層の吸音性能が維持される。
また、上述した走行音や打撃音等の騒音は、保護層の貫通穴から基材層へ進入し、該基材層で吸収される。従って、本フェンダライナにより、良好な吸音性能も得られる。
【0009】
繊維を集合させて成形される上記基材層は、繊維のみを集合させて成形した基材層、繊維以外の素材を用いて繊維を集合させて成形した基材層、の両方が含まれる。同基材層には、多数の熱可塑性繊維をプレス成形等により熱成形した層、熱可塑性又は非熱可塑性の多数の母材繊維(マトリックス繊維)に熱可塑性繊維や熱可塑性樹脂等のバインダを添加した材料をプレス成形等により熱成形した層、等が含まれる。
耐水性の素材で形成される上記保護層には、熱可塑性の樹脂材料を熱成形しフィルム状にして基材層に積層した層、熱可塑性の樹脂材料を溶融させて基材層にコーティングして固化させたコーティング層、熱硬化性の耐水性フィルムからなる層、熱硬化性の液状材料を基材層にコーティングして硬化させたコーティング層、等が含まれる。なお、耐水性は、水の通過又は浸透に対し抵抗する性質をいい、防水性を含む概念とする。
【0010】
また、本発明は、自動車のホイールハウスに取り付けられるフェンダライナの製造方法であって、繊維を集合させた通気性のシート状材料の一面に耐水性で熱可塑性のフィルム状素材を重ね、複数の熱針を設けた開孔機で前記フィルム状素材側から該フィルム状素材に前記複数の熱針を貫通させて複数の貫通穴を形成し、前記複数の貫通穴を形成したフィルム状素材と前記シート状材料とを重ねた状態で加熱して前記ホイールハウスに沿う形状に成形して、フェンダライナを製造することを特徴とする。
【0011】
すなわち、耐水性で熱可塑性のフィルム状素材がシート状材料に重ねられているので、容易に開孔機の熱針でフィルム状素材に複数の貫通穴を形成することができる。また、フィルム状素材に複数の貫通穴が形成された後にシート状材料とフィルム状素材とがホイールハウスに沿う形状に成形されるので、フィルム状素材に複数の貫通穴を設けた立体的な形状のフェンダライナを容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、防汚性能及び防着氷性能が良好で、かつ、吸音性能が良好なフェンダライナを提供することができる。
請求項2、請求項3、請求項5、請求項6に係る発明では、防汚性能及び防着氷性能がさらに良好で、かつ、吸音性能がさらに良好なフェンダライナを提供することができる。
【0013】
請求項4に係る発明では、吸音性能を向上させることができる。
請求項7に係る発明では、防汚性能及び防着氷性能が良好で、かつ、吸音性能が良好なフェンダライナを効率よく製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)フェンダライナの構成:
(2)フェンダライナの製造方法:
(3)フェンダライナの作用、効果:
(4)変形例:
(5)実施例:
【0015】
(1)フェンダライナの構成:
図1は本発明の一実施形態に係るフェンダライナ20を取り付けた路上走行自動車1の前部を示す要部側面図、図2はフェンダライナ20及びその周辺を図1のA1−A1の位置から見て示す垂直端面図、図3はフェンダライナ20の外観を示す斜視図、図4と図7はフェンダライナ製造装置100を模式的に示す図、図5は図4に示す装置100で製造されたフェンダライナ20をホイールハウス12に取り付けた状態でフェンダライナ20及びその周辺の要部を示す垂直端面図、図6と図8はフェンダライナ20の保護層40側の要部を示す図である。図2,4,5,7,8では、分かりやすく示すため、背景に見える部分を描いていない。
本発明を適用可能な自動車1には、道路上で使用されるように設計及び装備されたステーションワゴンタイプやセダンタイプ等の乗用自動車等、種々の自動車がある。
【0016】
自動車1には、通常、前部の左右と後部の左右とにタイヤ14が配置され、これらのタイヤ14の上方にそれぞれホイールハウス12が配置されている。ホイールハウスは、ホイールハウスパネルやホイールハウジングとも呼ばれ、車体の一部を構成する。ホイールハウス12は、金属製とされ、タイヤ14の上方を覆うような形状に成形されている。ホイールハウス12におけるタイヤ14側の面は自動車の外側の面となっており、この外側の面を覆うようにフェンダライナ20がホイールハウス12に取り付けられる。フェンダライナ20は、自動車の走行中にタイヤが路面から跳ね上げる小石や泥水等によってポディパネルが傷つけられることを防止し、タイヤと路面とによって発生するロードノイズ等の騒音を低減させるための自動車の外装部品とされている。
【0017】
図3に示すように、フェンダライナ20は、ホイールハウス12に取り付けるための複数の取付孔22を有し、ホイールハウス12に沿う形状に成形されている。フェンダライナ20は、自動車の前後方向D2及び車幅方向D3が略半円弧状となるように形成され、車幅方向D3の両側縁部には下方へ湾曲して壁状に形成される。フェンダライナ20には、剛性や耐久性が良好で成形性や形状保持性も良好な材料が用いられる。
そして、各取付孔22にねじ、ボルト、クリップ、等を挿入してホイールハウス12に固定すると、フェンダライナ20がホイールハウス12に取り付けられて固定される。
本フェンダライナ20の概略は、以下の通りである。
【0018】
本フェンダライナ20は、ホイールハウス12側に配置された基材層30と、タイヤ14側に配置された保護層40とを備えている。
基材層30は、繊維を多数集合させてホイールハウス12に沿う形状に成形され、通気性を有する層とされている。従って、基材層30は、入射した音のエネルギーを吸収する吸音材の機能を有する。
【0019】
図5に示すように、保護層40は、耐水性の素材で形成され、基材層30におけるホイールハウス12に面する側とは反対側の面30aに積層されている。ここで、保護層40には、厚み方向D1へ貫通した貫通穴42が複数形成されている。貫通穴42は、保護層40を通して基材層30における保護層40の積層面30aへ空気を流通させる。ここで、基材層における保護層の積層面とは、保護層が積層される面全体をいうものとし、貫通穴42により露出する部位も含まれるものとする。なお、上記取付孔22は両層30,40を貫通する穴となっているが、取付孔22では積層面30aは露出しておらず、保護層40を通して積層面30aへは空気が流通しない。従って、取付孔22は、本発明の貫通穴42にはならない。
一方、ホイールハウス12に対向する基材層30の背面30bには、基本的には何も積層されていない。
以上により、タイヤ14と路面との間で発生する走行音、タイヤ14が跳ね上げる小石、砂、水、等がフェンダライナ20に当たって発生する打撃音、等の騒音は、貫通穴42から基材層30へ進入し、該基材層30で吸収される。
【0020】
次に、本フェンダライナ20の詳細を説明する。
基材層30は、吸音性能を持たせるために通気性の材質とされ、所要の成形性と成形後の形状保持性が付与されている。
基材層30を形成するための繊維は、全て熱可塑性繊維でもよいし、ガラス繊維やレーヨン繊維など熱可塑性を示さない繊維と熱可塑性繊維とを混合した繊維でもよい。基材層を形成するための熱可塑性繊維には、熱可塑性樹脂の繊維、熱可塑性樹脂に充てん材等の添加剤を添加した繊維等があり、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリアミド、等の熱可塑性樹脂からなる繊維、これらの熱可塑性樹脂を変性させて融点を調整した熱可塑性樹脂からなる繊維、これらの熱可塑性樹脂に充てん材等の添加剤を添加した材質の繊維、等を用いることができる。
【0021】
本実施形態では、図5に示すように、基材層30を形成するための繊維に、母材繊維37とバインダ繊維38とを用いている。母材繊維37には、熱可塑性樹脂の繊維、熱可塑性樹脂に充てん材等の添加剤を添加した繊維、等を用いることができ、PET繊維等のポリエステル繊維、PP繊維、ポリアミド繊維、ガラス繊維、レーヨン繊維、さらに充てん材等の添加剤を添加した材質の繊維、等を用いることができる。母材繊維の繊維径は5〜60μm程度とすることができ、母材繊維の繊維長は10〜100mm程度とすることができる。
【0022】
バインダ繊維38には、熱可塑性樹脂の繊維、熱可塑性樹脂に充てん材等の添加剤を添加した繊維等を用いることができ、PEやPP等のポリオレフィン、PET等のポリエステル、ポリアミド、等の熱可塑性樹脂からなる繊維、これらの熱可塑性樹脂を変性させて融点を調整した熱可塑性樹脂からなる繊維、これらの熱可塑性樹脂に充てん材等の添加剤を添加した材質の繊維、等を用いることができる。母材繊維が熱可塑性繊維である場合、バインダ繊維には、母材繊維よりも低い融点を持つ熱可塑性の繊維を用いるのが好ましい。例えば、バインダ繊維に母材繊維と相溶性のある繊維を用いると、母材繊維とバインダ繊維との接着性が良好になり、基材層に十分な形状保持性を付与することができる。バインダ繊維の融点は、100〜220℃程度とすることができる。
また、バインダ繊維に使用可能な繊維を鞘部とし、該鞘部よりも融点の高い芯部の外周を該鞘部で囲んだ芯鞘構造の繊維をバインダ繊維38として用いてもよい。この場合、芯部には、母材繊維37に使用可能な繊維を用いることができる。芯部と鞘部の組み合わせは、PPとPE、PETとPE、高融点のPETと低融点のPET、等とすることができる。芯鞘構造を有する繊維をバインダ繊維38に用いると、加熱時に鞘部のみが溶融して芯部が溶融しないため、立体的に成形されるフェンダライナの形状保持性を向上させることができる。
【0023】
バインダ繊維38の繊維径は4〜45μm程度とすることができ、バインダ繊維38の繊維長は10〜100mm程度とすることができる。母材繊維37とバインダ繊維38の配合比は、母材繊維を30〜95重量%程度(より好ましくは50〜95重量%)、バインダ繊維を5〜70重量%程度(より好ましくは5〜50重量%程度)とすることができる。
なお、バインダ繊維の代わりに繊維状でないバインダを用いて通気性の基材層を成形してもよい。この場合の基材層も、繊維を集合させて成形された基材層となる。
【0024】
基材層30を熱成形するための材料には、例えば、母材繊維37とバインダ繊維38とを混合してニードリング(ニードルパンチング)により絡合して得られる合繊フェルト(シート状材料)を用いることができる。この合繊フェルトを用いると、プレス成形等でフェンダライナの形状に熱成形し、冷却することにより、所要の形状のフェンダライナを得ることができる。むろん、一種類の繊維のみからなるシート状材料を用いることもできるし、ニードリング以外の方法で多数の繊維を集合させたシート状材料を用いることもできる。
【0025】
基材層30の厚みは、1.0〜10.0mmが好ましく、2.0〜6.0mmがより好ましい。基材層30の目付は、500〜1000kg/m2が好ましく、600〜900kg/m2がより好ましい。基材層の厚みや目付を前記下限以上にするのは、フェンダライナの剛性及び形状保持性を十分に得、十分な吸音性能を得るためである。一方、基材層の厚みや目付を前記上限以下にするのは、フェンダライナを十分に軽量化させるためである。
基材層30の流れ抵抗値は、20〜500Nsm-3が好ましく、60〜250Nsm-3がより好ましい。なお、本明細書の流れ抵抗値は、ISO 9053(Acoustics-Materials for acoustical applications-Determination of airflow resistance)に従った流れ抵抗値であるものとする。流れ抵抗値を前記範囲内にするのは、基材層を構成する繊維による粘性抵抗によって基材層への進入音を効率よく熱エネルギーに変換するためである。
【0026】
保護層40は、防汚性能及び防着氷性能を持たせるために耐水性の材質とされている。保護層40を形成するための素材には、PEやPP等のポリオレフィン、PET等のポリエステル、ポリアミド、等の熱可塑性の樹脂材料、熱硬化性の樹脂材料、これらの樹脂材料を変性させて融点を調整した変性樹脂材料(例えば変性ポリエステル樹脂)、等を用いることができる。これらの樹脂材料には、充てん材等の添加剤が添加されていてもよい。
保護層を構成する素材に熱可塑性の樹脂材料を用いると、樹脂材料をフィルム状に熱成形して容易に基材層に積層することができ、容易にフェンダライナを熱成形することができるので、好適である。
【0027】
一方、保護層40を通して基材層30における保護層の積層面30aへ空気を流通させるため、図5や図6に示すように、保護層40に厚み方向D1へ貫通した貫通穴42を多数形成している。本実施形態の貫通穴42は、略円形としているが、種々の形状にすることができる。保護層40に貫通穴42が形成されることにより、走行中の自動車でタイヤと路面との間に発生するロードノイズ等の騒音が貫通穴42を通して基材層30に取り込まれ、基材層30に十分な吸音性能を発揮させることができる。
保護層40の厚みは、100〜500μmが好ましい。保護層40の目付は、貫通穴42の面積も含めて100〜300g/m2が好ましい。保護層の厚みや目付を前記範囲内にするのは、保護層を形成するためのフィルム状素材に対して貫通穴の形成を容易にするためである。
【0028】
フェンダライナ20の吸音性能は、貫通穴42の孔径や単位面積あたりの孔数などを変えて保護層40の流れ抵抗値を調整することによって、制御可能である。保護層40の流れ抵抗値は、200〜3800Nsm-3が好ましく、300〜2300Nsm-3がより好ましい。保護層の流れ抵抗値を前記下限以上にするのはフェンダライナ全体の流れ抵抗を所要の流れ抵抗以上にする制御を容易にするためであり、保護層の流れ抵抗値を前記上限以下にするのはフェンダライナ全体の流れ抵抗を所要の流れ抵抗以下にする制御を容易にするためである。
【0029】
貫通穴42の径は、0.3〜5.0mmが好ましく、0.4〜1.6mmがより好ましく、0.6〜1.3mmがさらに好ましい。保護層40の開口率pは、面積比の百分率で0.5〜15.0%が好ましく、2.0〜10.0%がより好ましく、4.0〜7.0%がさらに好ましい。ここで、開口率pは、保護層40の全面積又は所定領域R1の面積S1に対する貫通穴42の総面積S2、すなわち、S2/S1とする。各貫通穴42の径をd1、面積S1の保護層に形成された貫通穴42の数をn1とすると、p=n1×π(d1/2)2/S1となる。貫通穴の径や保護層の開口率pを前記範囲内にするのは、保護層の流れ抵抗値を好ましい流れ抵抗値にして、フェンダライナの防汚性能、防着氷性能、吸音性能を全て良好にするためである。
【0030】
フェンダライナ20全体の流れ抵抗値を変えたときの吸音率の変化を実験により調べたところ、フェンダライナ全体の流れ抵抗値は、250〜4000Nsm-3が好ましく、730〜3000Nsm-3がより好ましく、830〜2500Nsm-3がさらに好ましいことが分かった。従って、フェンダライナ全体の流れ抵抗値を前記範囲内にすると、フェンダライナの吸音性能を特に良好にすることができる。
【0031】
図5に示すように、基材層30における保護層の積層面30aに、貫通穴42に繋がってホイールハウス12の方へ凹んだ穴32を形成してもよい。図示の例では、穴42,32が保護層40を貫通して基材層30の途中まで延長して深く形成されていることが示されている。タイヤと路面との間で発生する走行音等の騒音は、貫通穴42を通り抜けて基材層30の内部にまで達しやすく、エネルギーが吸収されやすくなる。特に、穴42,32が略円錐形状になっていると、音波が基材層30に取り込まれやすいので、好ましい。
以上より、貫通穴42に繋がる穴32を積層面30aに形成すると、フェンダライナの吸音性能をさらに向上させることができる。
【0032】
なお、図2や図5に示すように、フェンダライナ20とホイールハウス12との間に背後空気層(隙間CL1)が形成されてもよい。取付孔22の周囲でフェンダライナの基材層背面30bとホイールハウス12とが接触してフェンダライナ20がホイールハウス12に取り付けられる場合、例えば、取付孔22の周囲を除いてフェンダライナ20とホイールハウス12とが離間するようにフェンダライナ20を形成すればよい。隙間CL1の間隔L1は、例えば、5〜30mm程度にすることができる。
フェンダライナとホイールハウスとの間に背後空気層が形成されると、フェンダライナとホイールハウスとでヘルムホルツ型の吸音体が形成される。これにより、繊維質の基材層による吸音性能とは異なる吸音性能も同時に発揮され、繊維質の基材層による高周波数域に対して特に良好な吸音効果と、ヘルムホルツ型の吸音体による中周波数域に対して特に良好な吸音効果とが得られる。従って、車室内の静粛性をより一層高めることができる。
【0033】
(2)フェンダライナの製造方法:
図4はフェンダライナ製造装置100の一例を模式的に示し、図5は同装置100で得られるフェンダライナ20の要部を示している。図4に示す製造装置100は、押出成形機110、フィルム積層機120、開孔機130、加熱機140、切断機150、プレス成形機160、を備え、ホイールハウス12に取り付けられるフェンダライナ20を製造する。
まず、基材層30となるシート状材料36の一面に保護層40となるフィルム状素材46を重ねる。シート状材料36は、基材層30を形成するための材料であり、母材繊維とバインダ繊維とをニードリングにより絡合して形成した繊維板など、繊維を集合させた材料である。シート状材料36は、シート供給機等により連続してフィルム積層機120に供給される。
【0034】
一方、フィルム状素材46は、保護層40を形成するための素材であり、熱可塑性樹脂フィルム等、耐水性で熱可塑性の素材である。押出成形機110では、フィルム状素材46を形成するための熱可塑性素材が加熱されて溶融しており、溶融状態の熱可塑性素材がTダイ(フラットダイ)112からフィルム状に押し出し成形(熱成形)される。押し出されたフィルム状素材46は、フィルム積層機120のローラ122でシート状材料36とともに挟まれながら開孔機130の方へ送り出される。これにより、フィルム状素材46は、シート状材料36の方へ押圧され、シート状材料36に積層される。
【0035】
開孔機130には、長手方向を中心軸として回転可能な長尺のドラム132の外周に所要の密度で熱針134が多数設けられている。各熱針134は、フィルム状素材46の厚みよりも長く、シート状材料36の厚みよりも短くしている。これにより、基材層30における積層面30a側に途中の深さまでの穴32が形成される。また、長尺ドラム132に植設する熱針134の径と分布密度によって、保護層40の貫通穴42の径と密度(数)を調整することができる。貫通穴42の密度を変更する場合には、形成する貫通穴の密度に応じたドラムに変更するか、ドラムに対して熱針を進退可能にしたドラムを使用するかすればよい。さらに、ドラム132の回転数とフィルム状素材46の送り速度とを調節することより、貫通穴の密度を調整することも可能である。なお、フェンダライナの位置に応じてフィルム状素材に対する開口率を変えてもよい。
【0036】
針134の温度は、フィルム状素材46を形成するための熱可塑性素材の融点以上が好ましい。針の温度が熱可塑性素材の融点未満であると、フィルム状素材に針を突き通したときに貫通穴の周縁にばりが生じ、フィルム状素材をシート状材料に積層する時に貫通穴が閉じたり、シート状材料とフィルム状素材との積層体をフェンダライナの形状に熱成形した時に貫通穴が閉じたりすることがあるためである。
また、フィルム状素材46に形成する貫通穴47の径は、保護層に形成される貫通穴42よりも大きくするとよく、0.6〜10.0mmが好ましく、1.0〜7.0mmがより好ましく、1.5〜2.5mmがさらに好ましい。フィルム状素材46の開口率も、保護層の開口率よりも大きくするとよく、5.0〜35.0%が好ましく、10.0〜30.0%がより好ましく、20.0〜25.0%がさらに好ましい。
【0037】
開孔機130は、シート状材料36にフィルム状素材46を積層した積層体に対して、フィルム状素材46側から該フィルム状素材46に複数の熱針134を貫通させて複数の貫通穴47を形成する。このとき、保護層の積層面30aには貫通穴47に繋がってホイールハウス12の方へ凹んだ穴32が形成されるので、フェンダライナの吸音性能を特に良好にさせることができる。
貫通穴47を形成した積層体は、加熱機140の方へ送り出される。
【0038】
その後、複数の貫通穴47を形成したフィルム状素材46とシート状材料36とを重ねた状態で加熱してホイールハウス12に沿う形状に成形して、フェンダライナ20を得る。図示の例では、加熱機140のヒータ142で上記積層体を加熱し、該積層体をクランプしながら切断機150で所定の大きさに切断し、積層体50をプレス成形機160の成形型(上型162と下型164)の間に移送して型締めしてプレス成形することが示されている。この場合、溶融したバインダ繊維38により積層体50が塑性変形するとともに、溶融したバインダ繊維38によりフィルム状素材46が基材層の積層面30aに固着したり、再溶融したフィルム状素材46が基材層の積層面30aに固着したりする。
むろん、上述した製造方法は一例にすぎないため、種々の方法によりフェンダライナを製造することができる。例えば、フィルム積層機には、ロール状に巻かれたフィルム状素材を連続してほどきながら供給してもよい。
【0039】
本製造方法では、フィルム状素材46がシート状材料36に重ねられているので、容易に熱針134でフィルム状素材46に多数の貫通穴47を形成することができる。また、フィルム状素材46に貫通穴47が形成された後に積層体50がホイールハウスに沿う形状に成形されるので、保護層40に多数の貫通穴42を有し立体的な形状のフェンダライナ20を容易に形成することができる。従って、防汚性能及び防着氷性能が良好で、かつ、吸音性能が良好なフェンダライナを効率よく製造することができる。
【0040】
また、図7に例示するフェンダライナ製造装置300で図8に例示するフェンダライナ220を製造してもよい。図7に示す製造装置300は、開孔機130、フィルム積層機320、加熱機140、切断機150、プレス成形機160、を備えている。
耐水性で熱可塑性のフィルム状素材46は、フィルム供給機等により連続して開孔機130に供給される。まず、フィルム状素材46に対して、開孔機130で複数の熱針134を貫通させて複数の貫通穴47を形成する。本製造装置の開孔機130は、フィルム状素材46のみに対して熱針134を貫通させて貫通穴47を形成する。貫通穴47を形成したフィルム状素材246は、フィルム積層機320の方へ送り出される。
一方、繊維を集合させたシート状材料36は、シート供給機等により連続してフィルム積層機320に供給される。
【0041】
貫通穴47を形成したフィルム状素材246は、フィルム積層機320のローラ322でシート状材料36とともに挟まれながら加熱機140の方へ送り出される。これにより、フィルム状素材246は、シート状材料36の方へ押圧され、シート状材料36の一面に重ねられる。
その後、フィルム状素材246とシート状材料36とを重ねた状態で加熱機140により加熱し、積層体250をプレス成形機160によりホイールハウス12に沿う形状に成形して、フェンダライナ220を得る。図8に示すように、フェンダライナ220は、基材層230の積層面230aにおいて保護層240の貫通穴242に繋がる部位232に穴が形成されていない。
以上の製造方法でも、フィルム状素材46に多数の貫通穴47が形成された後に積層体50がホイールハウスに沿う形状に成形されるので、保護層40に多数の貫通穴42を有し立体的な形状のフェンダライナ20を容易に形成することができる。
【0042】
(3)フェンダライナの作用、効果:
以下、図5を参照して、フェンダライナ20の作用、効果を説明する。同図には、騒音の進行方向の例を矢印FL1で示している。
フェンダライナ20におけるホイールハウス12とは反対側の面には耐水性の保護層40が形成されているため、自動車1が走行中にタイヤ14から跳ね上げる泥水や氷雪は、比較的平滑な保護層40である程度遮断される。すなわち、比較的凹凸の多い繊維質の基材層30にほとんど泥水や氷雪が付着せず、比較的平滑な保護層40から泥水や氷雪が落ちやすくなっている。これにより、寒冷地域の雪道等で自動車を走行しても、フェンダライナ20に付着する氷や雪が少なくなる。従って、本フェンダライナ20により良好な防汚性能及び良好な防着氷性能が得られる。また、繊維質の基材層30に付着する泥水や氷雪が少なくなることにより、基材層30の吸音性能が維持される。
【0043】
ここで、図15に示す比較例のフェンダライナ920のように、ホイールハウスとは反対側の面に形成された不透水性の材料に貫通穴が形成されていないと、走行音や打撃音等の騒音がほとんど不透水性の材料で反射してしまう。同図には、騒音の進行方向の例を矢印FL2で示している。すなわち、走行音等の騒音が繊維質の基材にほとんど入射しないため、騒音のエネルギーがほとんど減衰せず、フェンダライナ920の吸音性能が良好とは言えない。
【0044】
一方、本実施形態のフェンダライナ20では、走行音や打撃音等の騒音が保護層の貫通穴42から基材層30へ進入し、騒音のエネルギーが基材層30内で減衰する。従って、本フェンダライナ20により、良好な吸音性能も得られ、車室内の静粛性を高めることができる。
また、フェンダライナ20とホイールハウス12との間に隙間CL1が設けられると、ヘルムホルツ型の吸音特性により人の耳に比較的聞こえやすい中周波数域で良好な吸音性能が得られる。走行音や打撃音等の騒音の周波数域は広いが、繊維質の基材層30自体による高周波数域の吸音効果とヘルムホルツ型の吸音効果とにより良好な吸音性能が得られる。
以上より、本発明によると、防汚性能及び防着氷性能が良好で、かつ、吸音性能が良好なフェンダライナを提供することができる。
【0045】
なお、保護層の貫通穴の大きさや数などを調節することにより、フェンダライナの流れ抵抗値を調整することができる。そして、フェンダライナの流れ抵抗値を調整することができると車両特性に適した周波数域の音波を効率的に吸音させることができるため、所要の吸音特性を有するフェンダライナを容易に設計することができる。
【0046】
また、保護層に形成される貫通穴42よりも大きな貫通穴47をフィルム状素材に形成することから、本発明の製造方法は、耐水性で熱可塑性のフィルム状素材に対して、複数の熱針を設けた開孔機で前記複数の熱針を貫通させて複数の貫通穴を形成し、前記複数の貫通穴を形成したフィルム状素材と繊維を集合させた通気性のシート状材料とを重ねた状態で加熱してホイールハウスに沿う形状に成形して、フェンダライナを製造することを特徴とする。これにより、シート状材料とフィルム状素材との積層体を熱成形した時に貫通穴が閉じることが抑止され、防汚性能及び防着氷性能が良好で、かつ、吸音性能が良好なフェンダライナを効率よく製造することが可能になる。
【0047】
(4)変形例:
保護層を形成するためのフィルム状素材は、樹脂層に接着層が積層された層状構造のフィルムでもよい。
フィルム状素材に貫通穴を形成する際には、打抜きに使用するパンチ(工具)を使用して貫通穴を形成してもよい。
本発明のフェンダライナには、基材層及び保護層とは別の部位が付加されてもよい。例えば、基材層の背面にも、貫通穴を形成したフィルム状素材を積層してもよい。
【0048】
図9に示すように、保護層40の開口率pが自動車の前後方向D2の位置に応じた開口率とされてもよい。寒冷地域で自動車が走行すると、跳ね上げられた泥水や氷雪により、フェンダライナ20の後部に多くの氷I1が付着し、それからフェンダライナ20の前部に多くの氷I2が付着することが分かった。そこで、フェンダライナ20の前部と後部とでは開口率pf,prを比較的小さくし、前部と後部との間の中間部では開口率pmを比較的大きくすると、防汚性能及び防着氷性能をさらに向上させ、吸音性能をさらに向上させることができる。なお、フェンダライナ20の前部は、タイヤ14の回転軸AX1を通り前後方向D2に向けた水平線HL1から前側の上方であって回転軸AX1を中心とする所定の角度θf(0°<θf<90°)以内となる部位とする。また、フェンダライナ20の後部は、タイヤ14の回転軸AX1を通り前後方向D2に向けた水平線HL1から後側の上方であって回転軸AX1を中心とする所定の角度θr(0°<θr<90°)以内となる部位とする。
【0049】
例えば、保護層の単位面積当たりに形成する貫通穴の数を各部位で同じにする場合、フェンダライナの前部に形成する貫通穴の径をdf、フェンダライナの後部に形成する貫通穴の径をdr、フェンダライナの中間部に形成する貫通穴の径をdmとすると、df<dm、dr<dmとすればよい。さらに、dr<dfとしてもよい。むろん、保護層に形成する貫通穴の径を各部位で同じにする場合、保護層の単位面積当たりに形成する数を前部と後部とで比較的少なく、中間部で比較的多くしてもよい。さらに、フェンダライナの後部に形成する貫通穴の単位面積当たりの数をフェンダライナの前部に形成する貫通穴の単位面積当たりの数よりも少なくしてもよい。
【0050】
(5)実施例:
以下、実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
母材繊維には、繊度17デシテックス、繊維長76mm、融点260℃のPET繊維を用いた。バインダ繊維には、繊維径4.4μm、繊維長51mm、融点160℃のPET繊維を用いた。保護層を形成する素材には、融点130℃のPEを用いた。
母材繊維を目付375g/m2、バインダ繊維を目付375g/m2となるように混合してニードリングにより絡合し、厚み3.4mmのシート状材料を作製した。一方、PEを150℃に加熱して目付150g/m2となるようフィルム状に押し出し、シート状材料に積層した。そして、加熱した多数の熱針を用いて、開口率10%となるように径1.3mmの貫通穴を多数保護層に形成した。作製したフェンダライナサンプルの全体の厚みは3.5mmであり、全体の流れ抵抗値は600Nsm-3であった。
【0052】
[実施例2]
実施例1と同じシート状材料を作製した。一方、PEを150℃に加熱して目付250g/m2となるようフィルム状に押し出し、シート状材料に積層した。そして、加熱した多数の熱針を用いて、以下の開口率及び径となり、単位面積当たりの個数が同じになるように貫通穴を多数保護層に形成した。
試験区1 試験区3 試験区3 試験区4
開口率 15% 10% 7% 4%
貫通穴の径 1.6mm 1.3mm 1.1mm 0.6mm
作製したフェンダライナサンプルの全体の厚みはいずれも3.5mmであり、全体の流れ抵抗値は、試験区1が600Nsm-3、試験区2が730Nsm-3、試験区3が830Nsm-3、試験区4が2000Nsm-3であった。
【0053】
[比較例1]
母材繊維には、繊度17デシテックス、繊維長76mm、融点260℃のPET繊維を用いた。バインダには、スチレンブタジエンゴム(SBR)のラテックスを用いた。
母材繊維を目付630g/m2、バインダを目付270g/m2となるように混合してニードリングにより絡合し、厚み3.5mmのフェンダライナサンプルを作製した。作製したフェンダライナサンプルの全体の厚みは3.5mmであり、全体の流れ抵抗値は500Nsm-3であった。
【0054】
[比較例2]
PP70重量%にエチレンプロピレンラバー(EPR)10重量%とタルク20重量%が添加された樹脂材料を、厚み2.0mmとなるようシート状に成形し、フェンダライナサンプルを作製した。このフェンダライナサンプルは、目付が1000g/m2であり、通気性を有していなかった。
【0055】
[比較例3]
実施例1と同じシート状材料を作製した。一方、PEを150℃に加熱して目付250g/m2となるようフィルム状に押し出し、シート状材料に積層した。ただし、保護層に貫通穴を形成しなかった。
作製したフェンダライナサンプルの全体の厚みは3.5mmであり、通気性を有していなかった。
【0056】
[吸音試験の試験方法]
実施例1,2及び比較例1,3のサンプルについて、ブリューエル・ケアー社製の測定装置を用いて、周波数200〜6300Hzの範囲でISO 354に準拠した残響室法吸音率を測定した。
【0057】
[遮音試験の試験方法]
タイヤが跳ね上げる小石等がフェンダライナに当たって生じる打撃音に対する遮音性能を評価するため、APAMAT II(Rieter社製)設備を使用した。
図10は、遮音性能測定装置810を模式的に示している。この測定装置810には、上部に無響室811、下部に騒音発生室812を設け、これらの部屋811,812の間にフェンダライナサンプルS1を取り付けるための鉄板816を設けた。この鉄板816には、サイズ840x840mm±0.5mm、厚み0.75mm±0.05mm、重量4300gの鉄板を用いた。この鉄板816の下側に、サイズ840x840mmとしたフェンダライナサンプルS1を取り付けた。実施例1のサンプルについては、保護層が下側を向くよう鉄板816に取り付けた。騒音発生室812内には、一対のローラ813,813を設置し、計200個の鉄球814(直径8mm)を入れ、これらの鉄球814がローラ813,813によって跳ね上げられてサンプルS1に衝突するようにした。一方、無響室811内には、ブリューエル&ケアー社製Type4190 1/2のマイクロフォン815を設置した。そして、鉄板816にサンプルS1を設置しない場合に対して鉄板816にサンプルS1を設置した場合の音圧レベルの低減量(dB)を測定することにより、鉄球814がサンプルS1に当たって発生する打撃音などの騒音に対する遮音性能を評価した。
以上の測定を、実施例1及び比較例1,2のサンプルについて行った。
【0058】
[着氷力の測定方法]
図11は、着氷力測定装置820を模式的に示している。この測定装置820は、平板状の鉄製固定基板821と略U字型の鉄製押さえ部材822とでフェンダライナサンプルS2を挟持し、ステンレス製リング部材824内でサンプルS2に付着した氷825を押し部材823でせん断するのに必要なせん断力を測定する装置とされている。リング部材824には、内径15mm、外形35mm、高さ15mmのSUS304製の部材を用いた。予め水を滲み込ませたサンプルS2にリング部材824を載置し、リング部材824内に水を入れて凍らせた。そして、サンプルS2を固定基板821と押さえ部材822とで挟持し、ボルトで固定した。
押し部材823をリング部材824に向けて10mm/minの速度で下降させ、押し部材824に加わる最大の力、すなわち、サンプルに付着した氷825のせん断力を測定した。
以上の測定を、実施例1、実施例2の試験区1〜3、及び、比較例1のサンプルについて行った。
【0059】
[防着氷性能の試験方法]
寒冷地の雪道(積雪量:50〜150mm、天候:晴れ、外気温−15〜−10℃)において、突施例1及び比較例1のフェンダライナサンプルを装着したスポーツ用多目的車(sport utility vehicle)を平均速度50km/hで60分間(走行距離約30km)走行させた後、フェンダライナサンプルを車両から取り外して、その質量を測定した。なお、防着氷性能を評価し易くさせるため、装着前のフェンダライナサンプル全面に水分を付着させた後、試験を行なった。
【0060】
[試験結果]
図12は、実施例1と比較例1について1/3オクターブバンド毎の周波数帯域(単位:Hz)に対する残響室法吸音率(単位:%)をグラフにより示している。図に示すように、実施例1の吸音率は、周波数500〜5000Hzの範囲で比較例1の吸音率よりも大きかった。この周波数範囲は、人の耳に比較的聞こえやすい中周波数域を含み、特に、人の耳の感度が最も高い2000Hzを含んでいる。
図13は、実施例2試験区1〜4と比較例3について1/3オクターブバンド毎の周波数帯域(単位:Hz)に対する残響室法吸音率(単位:%)をグラフにより示している。図に示すように、比較例3の吸音率は、ピーク周波数が1000Hzであった。一方、実施例2の吸音率は、ピーク周波数が1600〜4000Hzであった。この周波数範囲は、人の耳に比較的聞こえやすい中周波数域を含み、特に、人の耳の感度が最も高い2000Hzを含んでいる。これより、保護層に貫通穴を形成したフェンダライナは、保護層に貫通穴を形成していないフェンダライナと比べて吸音性能が向上していることになる。
従って、本発明のフェンダライナは、良好な吸音性能が得られることが確認された。
なお、開口率が小さくなる程ピーク周波数が低くなり、貫通穴の径が小さくなる程ピーク周波数が低くなるため、保護層の開口率や貫通穴の径を調整することにより所望の吸音特性を得ることが可能になる。
【0061】
図14は、実施例1と比較例1,2について1/3オクターブバンド毎の周波数帯域(単位:Hz)に対する音圧レベルの低減量(単位:dB)をグラフにより示している。図に示すように、実施例1の音圧レベル低減量は、概ね比較例1,2の音圧レベル低減量よりも大きかった。従って、本発明のフェンダライナは、良好な遮音性能が得られることが確認された。
【0062】
表1は、実施例1と比較例1について着氷力に相当するせん断力を測定した結果を示している。
【表1】

表に示すように、実施例1の着氷力は、比較例1の着氷力よりも小さかった。従って、本発明のフェンダライナは、氷が付着しても剥がれ易く、良好な防着氷性能が得られることが確認された。
【0063】
表2は、実施例2試験区1〜3について着氷力に相当するせん断力を測定した結果を示している。
【表2】

表に示すように、開口率が小さくなるほど着氷力が小さくなり、貫通穴の径が小さくなるほど着氷力が小さくなることが判った。また、実施例2の着氷力は、いずれも比較例1の着氷力よりも小さかった。従って、本発明のフェンダライナは、氷が付着しても剥がれ易く、良好な防着氷性能が得られることが確認された。
【0064】
表3は、実施例1と比較例1について着氷性に相当する着氷質量を測定した結果を示している。
【表3】

表に示すように、実施例1の着氷質量は、比較例1の着氷質量よりも小さかった。従って、本発明のフェンダライナは、良好な防着氷性能が得られることが確認された。
【0065】
以上示したように、本発明のフェンダライナによると、良好な防着氷性能と良好な吸音性能が同時に得られることが確認された。
【0066】
なお、本発明は、上述した実施形態や変形例に限られず、上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】フェンダライナを取り付けた自動車の一例を示す要部側面図。
【図2】フェンダライナ及びその周辺の要部を図1のA1−A1の位置から見て示す垂直端面図。
【図3】フェンダライナの一例を示す斜視図。
【図4】フェンダライナ製造装置の一例を模式的に示す図。
【図5】図4に示す装置で製造されたフェンダライナ及びその周辺の要部を示す垂直端面図。
【図6】フェンダライナの保護層側の要部を示す図。
【図7】フェンダライナ製造装置の一例を模式的に示す図。
【図8】図7に示す装置で製造されたフェンダライナ及びその周辺の要部を示す垂直端面図。
【図9】変形例に係るフェンダライナ及びその周辺を示す垂直端面図。
【図10】実施例に使用した遮音性能測定装置を模式的に示す図。
【図11】実施例に使用した着氷力測定装置を模式的に示す図。
【図12】周波数に対する残響室法吸音率をグラフにより示す図。
【図13】周波数に対する残響室法吸音率をグラフにより示す図。
【図14】周波数に対する音圧レベル低減量をグラフにより示す図。
【図15】従来例に係るフェンダライナの作用を模式的に示す垂直端面図。
【符号の説明】
【0068】
1…自動車、12…ホイールハウス、14…タイヤ、
20,220…フェンダライナ、22…取付孔、
30,230…基材層、30a,230a…積層面、30b…背面、32…穴、
36…シート状材料、37…母材繊維、38…バインダ繊維、
40,240…保護層、42,242…貫通穴、
46,246…フィルム状素材、47…貫通穴、
50,250…積層体、
100,300…フェンダライナ製造装置、
110…押出成形機、112…フラットダイ、
120,320…フィルム積層機、122,322…ローラ、
130…開孔機、132…ドラム、134…熱針、140…加熱機、142…ヒータ、
160…プレス成形機、162,164…成形型、
810…遮音性能測定装置、820…着氷力測定装置、
CL1…隙間、D1…厚み方向、D2…前後方向、D3…車幅方向、
FL1…音の進行方向、
I1,I2…付着した氷、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のホイールハウスに取り付けられるフェンダライナであって、
繊維を集合させて前記ホイールハウスに沿う形状に成形された通気性の基材層と、
耐水性の素材で形成され、前記基材層における前記ホイールハウスに面する側とは反対側の面に積層された保護層とを備え、
前記保護層を通して前記基材層における該保護層の積層面へ空気を流通させる貫通穴が該保護層に複数形成されていることを特徴とするフェンダライナ。
【請求項2】
前記基材層は、母材繊維とバインダ繊維とを混合してニードリングにより絡合して得られるシート状材料を熱成形して形成され、
前記保護層は、熱可塑性の樹脂材料を熱成形して得られるフィルム状素材に前記貫通穴が複数形成されて前記基材層に積層され、
本フェンダライナの流れ抵抗値が250〜4000Nsm-3とされている、請求項1に記載のフェンダライナ。
【請求項3】
前記保護層の貫通穴の径が0.3〜5.0mmとされ、該保護層の開口率が面積比で0.5〜15.0%とされている、請求項1または請求項2に記載のフェンダライナ。
【請求項4】
前記基材層における前記保護層の積層面には、前記貫通穴に繋がって前記ホイールハウスの方へ凹んだ穴が形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のフェンダライナ。
【請求項5】
前記保護層の開口率が前記自動車の前後方向の位置に応じた開口率とされている、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のフェンダライナ。
【請求項6】
前記基材層となる繊維を集合させたシート状材料の一面に、前記保護層となる耐水性で熱可塑性のフィルム状素材を重ね、複数の熱針を設けた開孔機で前記フィルム状素材側から該フィルム状素材に前記複数の熱針を貫通させて複数の貫通穴を形成し、該複数の貫通穴を形成したフィルム状素材と前記シート状材料とを重ねた状態で加熱して前記ホイールハウスに沿う形状に成形して得られた、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のフェンダライナ。
【請求項7】
自動車のホイールハウスに取り付けられるフェンダライナの製造方法であって、
繊維を集合させた通気性のシート状材料の一面に耐水性で熱可塑性のフィルム状素材を重ね、
複数の熱針を設けた開孔機で前記フィルム状素材側から該フィルム状素材に前記複数の熱針を貫通させて複数の貫通穴を形成し、
前記複数の貫通穴を形成したフィルム状素材と前記シート状材料とを重ねた状態で加熱して前記ホイールハウスに沿う形状に成形して、フェンダライナを製造することを特徴とするフェンダライナの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−1045(P2009−1045A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161135(P2007−161135)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(390031451)株式会社林技術研究所 (83)
【Fターム(参考)】