説明

フォトクロミックフィルムおよびその製造方法

【課題】
【解決手段】本発明は、2以上の官能基を有する多官能性(メタ)アクリレート系単量体およびフォトクロミック染料を含むフォトクロミック組成物を硬化して形成したフォトクロミックフィルム、それを含む製品、および前記フォトクロミックフィルムの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォトクロミックフィルムおよびその製造方法に関する。より具体的には、本発明は、透明性および耐久性に優れるだけでなく、厚さ偏差が小さく、フィルムの表面不良が少なく、密度が比較的に大きいフォトクロミックフィルムおよびその製造方法に関する。本出願は2007年8月24日に韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10−2007−0085336号の出願日の利益を主張し、その内容の全ては本明細書に含まれる。
【背景技術】
【0002】
一般的に車両や建物のガラスなどのように光透過性であり、用途上、直射光線を長期間直接受けなければならない物品に、光の一部を遮断させるために有色のフィルムを塗布するか、表面に金属成分を真空蒸着したガラスを用いる方法が利用されている。しかし、これらの方法によれば、光量に関係なく、いつも一定比率の可視光線を遮断するようになっており、夜間や曇った日には視野が暗くなる欠点がある。
【0003】
既にフォトクロミックフィルムと命名された製品がいくつかあるが、大概、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABSなどの樹脂をマスターバッチ化して成形押出したフィルムであった。このようなフィルムは、大概が透明性が良くないために農業用フィルムなどのように透明性が要求されないところに使われており、高度の視野確保が必要な自動自用フォトクロミックフィルムとしては使用が不可能であった。
【0004】
大韓民国特許公開公報第2003−0089544号(特許文献1)には、ポリエステル(PET)フィルムを基礎フィルムとして用い、該フィルムに適当な厚さでフォトクロミックアクリル系粘着剤をコーティングして製造したフォトクロミックフィルムを車両用スモークフィルムとして使おうとした試みが記載されているが、この場合、フォトクロミックフィルムの耐久性が良くないために損傷しやすい問題点がある。
【0005】
一方、フォトクロミックフィルムをはじめとするフィルムの製造方法のうちのキャスティング方法は、図1および図2に示すように、ガラスなどからなる2枚のセルキャスト板の間にフィルムの厚さ調節のための軟質または硬質のガスケットを入れて縫い合わせた後、重合性原料を充填し、これを恒温水槽やオーブンで硬化させた後にフィルムを分離する方式で行われる。
【0006】
前記のようなキャスティング方法によって厚さ1mmを超過するフィルムを製造するには特に問題はないが、厚さ1mm以下の薄型のフィルムを製造する時には、硬化途中にフィルムにシワが形成されたり、フィルムの表面に不良が発生したりするなどのフィルムが変形する問題がある。特に、フィルムを形成するための材料として高分子そのものを溶媒に溶解させて用いる場合に比べ、単量体を直接鋳型に注入してキャスティングする場合には、フィルムが重合および硬化しつつ収縮するため、厚さの均一度を達成するのがより難しい。しかし、高分子そのものを用いる場合よりは単量体を用いてフィルムを成形する場合にフィルムの密度を高められる長所があるため、前記のような問題がなく、単量体を用いて厚さ1mm以下のフィルムを製造するための技術の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国公開公報第2003−0089544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、自動車や建物用ガラスに適用できるように透明性および耐久性に優れるだけでなく、厚さ偏差が小さく、フィルムの表面不良が少なく、密度が相対的に大きいフォトクロミックフィルムおよびそれを含む製品を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、前記のようなフォトクロミックフィルムを厚さ1mm以下の薄型に製造する場合にも、厚さ偏差が少なく、表面不良の少ないフォトクロミックフィルムの製造方法を提供することをまた他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、2以上の官能基を有する多官能性(メタ)アクリレート系単量体およびフォトクロミック染料を含むフォトクロミック組成物を硬化して形成したフォトクロミックフィルムを提供する。
【0011】
また、本発明は、透明基板および前記透明基板の少なくとも1面に備えられた前記フォトクロミックフィルムを含む透明製品を提供する。
【0012】
また、本発明は、1対の基板と前記1対の基板の間に配置されるガスケットから形成される空間部にフォトクロミック組成物を注入し硬化させるステップを含み、前記硬化ステップを経た後の前記ガスケットの収縮率が10%以上であることを特徴とするフォトクロミックフィルムの製造方法を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、1対の基板と前記1対の基板の間に配置されるガスケットから形成される空間部にフォトクロミック組成物を注入し硬化させるステップを含み、前記硬化ステップを経た後の前記ガスケットの収縮率が前記フォトクロミック組成物の収縮率と同じであるかより大きいものであることを特徴とするフォトクロミックフィルムの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るフォトクロミックフィルムは、透明性および耐久性に優れるだけでなく、厚さ偏差が小さく、表面不良が少なく、密度が相対的に大きい。また、本発明に係るフォトクロミックフィルムの製造方法は、フィルムを厚さ1mm以下の薄型に製造する場合にも、厚さ偏差が少なく、表面不良の少ないフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】フォトクロミックフィルムをキャスティングするための2枚の基板と、2枚の基板の間に配置されるガスケット(gasket)の配置順を示す分解斜視図である。
【図2】フォトクロミックフィルムをキャスティングするための2枚の基板と、2枚の基板の間に配置されるガスケットが積層された状態の断面図である。
【図3】本発明のフォトクロミックフィルムを含む製品の一例を示す断面図である。
【図4】本発明のフォトクロミックフィルムと接着層を含む製品の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0017】
本発明に係るフォトクロミックフィルムは、2以上の官能基を有する多官能性(メタ)アクリレート系単量体およびフォトクロミック染料を含むフォトクロミック組成物を硬化して形成することを特徴とする。本明細書において、(メタ)アクリレートとはアクリレートとメタクリレートを全て含むものとして解釈される。
【0018】
本発明に係るフォトクロミックフィルムは、上記のように、フォトクロミック染料と共に2以上の官能基を有する多官能性(メタ)アクリレート系単量体を含むフォトクロミック組成物から形成されるため、低い酸素透過率を示し、そのために耐久性に優れる。具体的に説明すれば、フォトクロミックフィルムにおいて、フォトクロミック染料としてはスピロオキサジンやナフトピラン系の有機化合物が用いられるが、これらの染料は、UV光の照射により、開環(ring opening)して着色(coloration)され、UV光の照射を止めれば、閉環(ring closing)して脱色(decoloration)される。前記フォトクロミック染料は、色相を帯びている開環状態では酸素によって形成された過酸化ラジカル(peroxi radical)によって光酸化(photo−oxidation)が起こって化合物の分解が始まる。したがって、フォトクロミックフィルムの酸素透過度を下げるのはフィルムの耐久性を向上させるのに重要な役割をする。本発明においては、フォトクロミック組成物の成分として2以上の官能基を有する多官能性(メタ)アクリレート系単量体を用い、この単量体はフォトクロミック染料の構造変化が起こり得る自由体積(free volume)を提供すると同時に酸素透過度の低い構造を提供する。本発明に係るフォトクロミックフィルムは、酸素透過度が300cc/m2・day・atm以下、より好ましくは100cc/m2・day・atm以下である。また、本発明に係るフォトクロミックフィルムは、透明性に優れ、変色時の光学密度(optical density、transmittance atλmin)は35%以下、より好ましくは20%以下である。
【0019】
また、本発明においては、フォトクロミックフィルムの形成材料が高分子ではなく、単量体であるため、溶媒を用いることなくフィルムを形成することができ、これにより、高分子に溶媒を添加してフィルムを形成する場合に比べ、フィルムの形成工程上、生じ得るマトリックスポア(matrix pore)の発生を減らすことができる。その結果、本発明に係るフォトクロミックフィルムは相対的に密度が大きい。
【0020】
また、本発明に係るフォトクロミックフィルムが以下でより詳しく説明する本発明に係るフォトクロミックフィルムの製造方法によって製造される場合には、厚さ1mm以下の薄型に製造される場合にも、厚さ偏差が30%以内であり、好ましくは10%以内であり、より好ましくは5%以内であり得る。
【0021】
また、本発明に係るフォトクロミックフィルムは、耐候性の尺度としてλmin(透過度が最も小さい波長値)における透過度が初期の変色時の透過度の半分まで増加するのにかかる時間が1,000時間以上、好ましくは1,500〜2,000時間である。前記λminにおける透過度が初期の変色時の透過度の半分まで増加するのにかかる時間を測定するために、促進耐候性試験機であるATLAS UV 2000において、UVA蛍光ランプを使い、340nmの光量0.77W/m2、60℃の条件で8時間照射、50℃で4時間コンデンセーション(condensation)を繰り返すサイクル(cycle)にサンプルを露出させ、光学密度を測定する方法を利用することができる(ASTM G 154−99)。
【0022】
本発明において、前記2以上の官能基を有する多官能性(メタ)アクリレート系単量体としてはビスフェノールA系アクリレートモノマー;ポリアルキレングリコール系ジ(メタ)アクリレートおよびその他の多官能性アクリレートモノマーなどを用いることができ、これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。本発明において、前記2以上の官能基を有する多官能性(メタ)アクリレート系単量体は、本発明のフォトクロミックフィルムを形成するためのフォトクロミック組成物中、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上含まれることができる。
【0023】
前記ビスフェノールA系アクリレートモノマーとしては、好ましくは、ジ(メタ)アクリレートを用いることができ、具体的には、BP4PA(Diacrylate of propylene oxide modified bisphenol A、KYOEISHA Chemical Co.Ltd.)などが挙げられる。
【0024】
前記ポリアルキレングリコール系ジ(メタ)アクリレートとしては、例えば、繰り返し単位2〜20個のエトキシ基を含有するビスフェノールAエトキシレートジ(メタ)アクリレート、繰り返し単位2〜20個のプロポキシ基を含有するビスフェノールAプロポキシレートジ(メタ)アクリレート、繰り返し単位2〜20個のエポキシ基およびプロポキシ基を含有するビスフェノールAアルコキシレートジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAグリセロレートジメタクリレート、ビスフェノールAグリセロレート(1グリセロール/フェノール)ジメタクリレート、またはこれらの混合物を用いることができる。
【0025】
その他の多官能性アクリレートモノマーとしては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA、dipentaerythritol hexa acrylate)、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチレンプロピルトリアクリレート(TMPTA)、プロポキシ化グリセロールトリアクリレート、トリメチルプロパンエトキシトリアクリレートまたはこれらの混合物を用いることができる。
【0026】
より具体的には、前記2以上の官能基を有する多官能性(メタ)アクリレート系単量体としてBP4PA、EGDA(ethlyeneglycoldiacrylate)、EGDMA(ethyleneglycoldimethacrylate)、DPHA(dipentaerythritol hexa acrylate)、TMPTA(trimethylene propyl triacrylate)を用いることが好ましく、特に、BP4PA、EGDA(ethlyeneglycoldiacrylate)およびEGDMA(ethyleneglycoldimethacrylate)の混合物を用いることが好ましい。
【0027】
本発明においては、前記フォトクロミック組成物に芳香族環を含むビニル系単量体をさらに添加することができ、例えば、スチレン(styrene)、ジビニルベンゼン(divinylbenzene)などを用いることができる。前記芳香族環を含むビニル系単量体はフォトクロミック染料を溶かす役割をすることもできる。本発明において、前記芳香族環を含むビニル系単量体を用いる場合、これは、本発明のフォトクロミックフィルムを形成するためのフォトクロミック組成物中、30重量%以下で含まれることが好ましい。
【0028】
本発明において、鎖(chain)の長さが短いジビニルベンゼン(divinylbenzene)およびEGDMA(ethyleneglycoldimethacrylate)を用いる場合、これらの成分の量を調節することにより、フィルムの形成時に適切な架橋程度と構造を達成することができる。これにより、フィルムに酸素透過度の低い構造を持たせることができるため、フォトクロミックフィルムの耐久性をより向上させることができる。
【0029】
本発明に係るフォトクロミックフィルムを形成するためのフォトクロミック組成物には、官能基の二重結合の間に位置するC−C結合個数が15個以上である長鎖単量体が総単量体中、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上含まれることが好ましい。長鎖単量体としてはBP4PA、9−EGDAなどが挙げられる。また、本発明に係るフォトクロミックフィルムを形成するためのフォトクロミック組成物には、官能基の二重結合の間に位置するC−C結合個数が15個未満である短鎖単量体が総単量体中、50重量%未満であることが好ましい。短鎖単量体としてはEGDMA、DVB、ヘキサアクリレート、ペンタアクリレート、トリアクリレートなどが挙げられる。
【0030】
本発明において、前記フォトクロミック染料としては当技術分野で知られているものなどを用いることができ、例えば、スピロピラン(spiropyran)系、フルジド(fulgide)系、フルジミド(fulgimide)系、アゾ−ベンゼン(azo−benzene)系、ビオロゲン(viologen)系、スピロオキサジン(spiro−oxazine)系、またはナフトピラン(naphtopyran)系の有機化合物を用いることができる。本明細書において、特定化学構造系の化合物とは、その化学構造をコア構造として含む化合物であって、その化学構造だけからなる化合物およびその誘導体を全て含む。本発明においては、スピロオキサジン系又はナフトピラン系の化合物を用いることがより好ましい。前記フォトクロミック染料は、0.01重量%〜5重量%、好ましくは0.1重量%〜3重量%で用いることができる。
【0031】
本発明に係るフォトクロミックフィルムを形成するためのフォトクロミック組成物には、当技術分野で知られている添加剤を最終用途のための物性を阻害しない範囲内で添加することができる。例えば、重合開始剤、安定化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、IR吸収剤、消泡剤、帯電防止剤、離型剤などを添加することができる。これらの添加剤は各々0.01重量%〜5重量%で用いることができる。
【0032】
具体的には、前記単量体を重合させるために、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−(2,4−ジメチルイソバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)などのアゾ系重合開始剤や、ラウロイルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジシクロヘキサンパーオキシジカーボネートなどの過酸化物系重合開始剤を用いることができる。
【0033】
酸化防止剤としては、ラジカルスカベンジャー(radical scavenger)として、フェノール(phenol)系、ヒドロキシアミン(hydroxylamine)系、ラクトン(lactone)系などが挙げられ、紫外線吸収剤としては、トリアジン(triazine)系、ベンゾトリアゾール(benzotriazole)系、ベンゾフェノン(benzophenone)系などが挙げられる。安定化剤としては、ヒンダードアミン光安定剤(hindered amine light stabilizer)が挙げられる。前記離型剤としては、PDMS(polydimethylsiloxanes)、ポリシロキサンポリエーテル共重合物、フッ素系表面処理剤などを用いることができる。
【0034】
本発明に係るフォトクロミックフィルムは厚さが1mm以下であることが好ましい。
【0035】
本発明に係るフォトクロミックフィルムは押出成形、キャスティング、ブレード、スピンコーティング法などによって形成することができるが、後述する本発明に係る方法によるキャスティングによって製造することが最も好ましい。
【0036】
本発明に係るフォトクロミックフィルムは、特に制限されず、当技術分野で知られている用途として用いることができる。例えば、車両用または建築用ガラス、高耐久性スキーゴーグル、機能性看板などに使うことができる。
【0037】
本発明の一実施状態によれば、本発明に係るフォトクロミックフィルムは、2枚の透明基板の間に挿入された状態で用いることができる。本発明に係るフォトクロミックフィルムを形成した後に前記透明基板に接着層を利用して接着することもでき、前記透明基板に直接コーティングしてフォトクロミックフィルムとして形成することもでき、2枚の透明基板の間にフォトクロミック組成物を充填し、熱と圧力を加えて2枚の透明基板の間に挿入することもできる。
【0038】
前記透明基板はガラス基板またはプラスチック基板であってもよく、前記ガラスとしては安全ガラスまたは強化ガラスであってもよい。図3は本発明に係るフォトクロミックフィルムを含む製品の一例を示す断面図である。図3に示された製品10は、透明基板(11,15)の間に本発明に係るフォトクロミックフィルム13が挿入された構造を有する。図4は、2枚の透明基板(21,25)とその間に備えられたフォトクロミックフィルム23が接着層(22,24)によって接着された構造の製品20の断面図を例示したものである。
【0039】
また、本発明は、前述したフォトクロミックフィルムを厚さ1mm以下の薄型に製造する場合にも、厚さ偏差が少なく、表面不良の少ないフィルムを提供できるフォトクロミックフィルムの製造方法を提供する。
【0040】
本発明の一実施状態によれば、1対の基板と前記1対の基板の間に配置されるガスケットから形成される空間部にフォトクロミック組成物を注入し硬化させるステップを含み、前記硬化ステップを経た後の前記ガスケットの収縮率が10%以上であることを特徴とするフォトクロミックフィルムの製造方法を提供する。具体的に説明すれば、前記フォトクロミックフィルムをキャスティング方法によって製造する場合、外部空気の流入を遮断し、閉じられた状態でラジカル重合を介して硬化し製造される。この硬化ステップでアクリルの収縮が起こり、現在の工程システムでは約10%の収縮が起こる。厚さ1mm以下の薄型フィルムの場合は、前記のようなアクリルの収縮をガスケットの収縮率で補わないとフィルムの表面にシワが発生する。したがって、収縮率10%以上であるガスケットを使わないと、表面状態が良好な厚さ1mm以下のフォトクロミックフィルムを得ることができない。しかし、収縮率が50%を超過するガスケットを使うと、重合時にガスケットに含まれた空気気泡がアクリルの間に侵入することによってアクリル重合を阻害し得るし、気泡の流入通路がアクリル表面に現れることによって表面不良が生じ得る。また、アクリルモノマーが漏れることもある。
【0041】
また、本発明のまた他の一実施状態によれば、1対の基板と前記1対の基板の間に配置されるガスケットから形成される空間部にフォトクロミック組成物を注入し硬化させるステップを含み、前記硬化ステップを経た後の前記ガスケットの収縮率が前記フォトクロミック組成物の収縮率と同じであるかより大きいものであることを特徴とするフォトクロミックフィルムの製造方法を提供する。具体的に説明すれば、硬化したアクリルシートは、硬化が起こる時に収縮が起こって空いた空間に真空圧が発生し、これは、上下部ガラス板に引力として作用する。仮に、ガスケットの収縮率がフォトクロミック組成物の収縮率より低ければ、真空圧が発生し、ガラス板の間の空間が放物線の形に縮んで中央に近いほどフィルム厚さが薄くなる問題が発生し得る。したがって、本発明においては、フォトクロミック組成物の収縮率と同じであるかより大きい収縮率を有するガスケットを使うことにより、表面状態が良好で、厚さが一定である厚さ1mm以下のフォトクロミックフィルムを得ることができる。この時に使われるガスケットの収縮率はフォトクロミック組成物の収縮率より最小1倍から最大10倍までである。
【0042】
本発明に係るフォトクロミックフィルムの製造方法において、前記ガスケット材料としては、フォトクロミック組成物に溶解しないつつ、前述したような硬化による収縮率を有するものであれば特に制限されない。例えば、発泡ポリエチレン、発泡ポリビニルクロライド、発泡PDMS(polydimethylsiloxanes)、発泡ポリスチレン、発泡ウレタンなどを用いることができる。前記ガスケットは内部が空いている中空形態でってもよく、内部が満たされている形態であってもよい。また、その断面は円形、長方形、台形などであってもよく、これらは角状であってもよい。当技術分野に属する通常の知識を有した者は所望のフィルム厚さに応じてガスケットの厚さを決めることができ、ガスケットの大きさは得ようとするフィルムの大きさに合わせて決めることができる。
【0043】
本発明において、前記基板の材料は、当技術分野で知られているものであれば、制限されることなく用いることができる。例えば、ガラス、金属、プラスチック基板などを用いることができるが、ガラスが最も好ましい。また、前記基板は、表面が扁平であってもよいが、必要により、表面に特定形状を有するものであってもよい。好ましい基板の厚さは基板の大きさと種類によって異なるが、ガスケットと基板が接着した時に基板が曲げられないほどの厚さを有しなければならない。例えば、1m2面積のガラス基板の場合、厚さが5mm以上であることが好ましい。
【0044】
必要によっては、前記ガスケットと基板を接着するための接着シートが前記ガスケットと基板との間に備えられることができ、または前記ガスケットと基板を縫い合わせるためのシーリングフィルムが用いられることもできる。
【0045】
本発明において、さらに前記フォトクロミック組成物を注入する前に前記ガスケットと基板の表面に表面離型剤を塗布するか、前記フォトクロミック組成物に表面離型剤を添加することができる。表面離型剤としてはPDMS(polydimethylsiloxanes)、ポリシロキサンポリエーテル共重合物、フッ素系表面処理剤などを用いることができる。
【0046】
本発明において、前記フォトクロミック組成物を硬化するための条件は次の通りである。常圧条件下で、25℃から始まって2〜5時間にかけて100℃まで順次温度を上げる。100℃で1〜3時間維持した後、2〜5時間にかけて25℃まで温度を下げてフィルムを硬化する。但し、前記条件によって本発明の範囲が限定されるのではなく、当技術分野で知られている硬化条件を用いることもできる。
【0047】
本発明に係る方法は、硬化ステップ後、基板およびガスケットを分離し、アクリルフィルムを分離するステップをさらに含むことができる。
【0048】
本発明の方法によれば、20cm×20cm以上のフィルムを厚さ1mm以下、好ましくは0.1〜0.5mm、より好ましくは約0.3mmに製造することができる。また、本発明によって製造されたフィルムは厚さ偏差が少ない。厚さ偏差はフィルムの用途により異なるが、好ましくは厚さ偏差が30%以下であることがよく、より好ましくは10%未満がよい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例および比較例によってより詳細に説明するが、これらは本発明を例示するためのものに過ぎず、これらによって本発明の範囲が限定されるのではない。
【0050】
実施例1
3mm厚さのガラス板2枚の縁部に、真空圧着下における硬化時、厚さ500μm(micrometer)から400μmに20%の収縮率を示す発泡PVC(ポリビニルクロライド)からなるガスケットを当てた。次に、ガラス板の間に下記表1の成分からなるフォトクロミック組成物(収縮率:17%)を充填した後、常圧条件下で25℃から始まって4時間にかけて100℃まで温度を順次高め、100℃で2時間維持した後、4時間にかけて25℃まで温度を下げて硬化させた。硬化後、ガラス板およびガスケットから分離したフィルムの厚さ偏差は5%以内であり、厚さは最高410μmで、最低395μmであった。また、前記フィルムの変色時の光学密度は20%未満であり、酸素透過度は100cc/m2・day・atmであった。促進耐候性試験機であるATLAS UV 2000において、UVA蛍光ランプを使い、340nmの光量0.77W/m2、60℃の条件で8時間照射、50℃で4時間コンデンセーション(condensation)を繰り返すサイクル(cycle)にサンプルを露出させ、光学密度を測定し、λminにおける透過度が初期の変色時の透過度の半分まで増加するのにかかる時間を測定した結果、1540時間であった。
【0051】
【表1】

実施例2
ガスケットとして、真空圧着下における硬化時、厚さ400μmから300μmに25%の収縮率を示す発泡PE(ポリエチレン)を用いたことを除いては、実施例1と同様にフィルムを製造した。硬化後、ガラス板およびガスケットから分離したフィルムの厚さ偏差は8%以内であり、厚さは最高330μmで、最低305μmであった。また、前記フィルムの変色時の光学密度は20%未満であり、酸素透過度は100cc/m2・day・atmであった。促進耐候性試験機であるATLAS UV 2000において、UVA蛍光ランプを使い、340nmの光量0.77W/m2、60℃の条件で8時間照射、50℃で4時間コンデンセーション(condensation)を繰り返すサイクル(cycle)にサンプルを露出させ、光学密度を測定し、λminにおける透過度が初期の変色時の透過度の半分まで増加するのにかかる時間を測定した結果、1550時間であった。
【0052】
実施例3
ガスケットとして、真空圧着下における硬化時、厚さ300μmから299μm以上に0.1%の収縮率を示す発泡していないPVCを用いたことを除いては、実施例1と同様にフィルムを製造した。硬化後、ガラス板およびガスケットから分離したフィルムの厚さ偏差は56%以内であり、厚さは最高350μmで、最低180μmであっ0た。また、前記フィルムの変色時の光学密度は22%未満であり、酸素透過度は100cc/m2・day・atmであった。促進耐候性試験機であるATLAS UV 2000において、UVA蛍光ランプを使い、340nmの光量0.77W/m2、60℃の条件で8時間照射、50℃で4時間コンデンセーション(condensation)を繰り返すサイクル(cycle)にサンプルを露出させ、光学密度を測定し、λminにおける透過度が初期の変色時の透過度の半分まで増加するのにかかる時間を測定した結果、1400時間であった。
【0053】
比較例
ポリカーボネートフィルム上に下記表2の成分からなる熱硬化型ポリウレタン樹脂組成物をコーティングしてフォトクロミック層を形成したフィルムの酸素透過率および耐久性を測定した。得られたフィルムのコーティングの厚さ偏差は18%であり、変色時の光学密度は31%であり、実施例と同じ方法により、λminにおける透過度が初期の変色時の透過度の半分まで増加するのにかかる時間を測定した結果、170時間であった。
【0054】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、透明性および耐久性に優れるだけでなく、厚さ偏差が小さく、表面不良が少なく、密度が相対的に大きいフォトクロミックフィルムを製造することができる。また、本発明の方法によれば、フィルムを厚さ1mm以下の薄型に製造する場合にも、厚さ偏差が少なく、表面不良の少ないフォトクロミックフィルムを製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の官能基を有する多官能性(メタ)アクリレート系単量体およびフォトクロミック染料を含むフォトクロミック組成物を硬化して形成したフォトクロミックフィルム。
【請求項2】
変色時の光学密度(optical density)が35%以下であり、酸素透過度が300cc/m2・day・atm以下であり、λmin(透過度が最も小さい波長値)における透過度が初期の変色時の透過度の半分まで増加するのにかかる時間が1,000時間以上である、請求項1に記載のフォトクロミックフィルム。
【請求項3】
厚さが1mm以下であり、厚さ偏差が30%以内である、請求項1に記載のフォトクロミックフィルム。
【請求項4】
前記2以上の官能基を有する多官能性(メタ)アクリレート系単量体は、ビスフェノールA系アクリレートモノマーおよびポリアルキレングリコール系ジ(メタ)アクリレートのうちから選択される1種または2種以上の混合物を含む、請求項1に記載のフォトクロミックフィルム。
【請求項5】
前記2以上の官能基を有する多官能性(メタ)アクリレート系単量体は、BP4PA、EGDA(エチレングリコールジアクリレート)およびEGDMA(エチレングリコールジメタクリレート)を含む、請求項4に記載のフォトクロミックフィルム。
【請求項6】
前記2以上の官能基を有する多官能性(メタ)アクリレート系単量体は、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA、dipentaerythritol hexa acrylate)、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチレンプロピルトリアクリレート(TMPTA)、プロポキシ化グリセロールトリアクリレートおよびトリメチルプロパンエトキシトリアクリレートからなる群から選択される1種または2種以上の混合物を含む、請求項4に記載のフォトクロミックフィルム。
【請求項7】
前記2以上の官能基を有する多官能性(メタ)アクリレート系単量体は、前記フォトクロミック組成物中50重量%以上含まれる、請求項1に記載のフォトクロミックフィルム。
【請求項8】
前記フォトクロミック組成物は、芳香族環を含むビニル系単量体を30重量%以下で含む、請求項1に記載のフォトクロミックフィルム。
【請求項9】
前記芳香族環を含むビニル系単量体は、スチレンおよびジビニルベンゼンを含む、請求項8に記載のフォトクロミックフィルム。
【請求項10】
前記フォトクロミック組成物は、官能基の二重結合の間に位置するC−C結合個数が15個以上である長鎖単量体を総単量体中50重量%以上含み、官能基の二重結合の間に位置するC−C結合個数が15個未満である短鎖単量体を総単量体中50重量%未満含む、請求項8に記載のフォトクロミックフィルム。
【請求項11】
前記フォトクロミック染料は、スピロオキサジン系又はナフトピラン系の有機化合物である、請求項1に記載のフォトクロミックフィルム。
【請求項12】
前記フォトクロミック組成物は、重合開始剤、安定化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、IR吸収剤、消泡剤、帯電防止剤および離型剤からなる群から選択される1以上の添加剤をさらに含む、請求項1に記載のフォトクロミックフィルム。
【請求項13】
前記フォトクロミックフィルムは、1対の基板と前記1対の基板の間に配置されるガスケットから形成される空間部にフォトクロミック組成物を注入し硬化させて形成したものであって、前記ガスケットは、硬化ステップを経た後の収縮率が10%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のフォトクロミックフィルム。
【請求項14】
前記フォトクロミックフィルムは、1対の基板と前記1対の基板の間に配置されるガスケットから形成される空間部にフォトクロミック組成物を注入し硬化させて形成したものであって、前記ガスケットは、硬化ステップを経た後の収縮率が前記フォトクロミック組成物の収縮率と同じであるかより大きいものであることを特徴とする、請求項1に記載のフォトクロミックフィルム。
【請求項15】
透明基板および前記透明基板の少なくとも1面に請求項1〜14のうちのいずれか一項によるフォトクロミックフィルムが備えられた透明製品。
【請求項16】
2枚の透明基板の間に前記フォトクロミックフィルムが挿入された構造を有する、請求項15に記載の透明製品。
【請求項17】
前記透明基板と前記フォトクロミックフィルムとの間に接着層が備えられる、請求項16に記載の透明製品。
【請求項18】
前記透明製品は、建築用または車両用ガラス、高耐久性スキーゴーグルまたは機能性看板である、請求項15に記載の透明製品。
【請求項19】
1対の基板と前記1対の基板の間に配置されるガスケットから形成される空間部にフォトクロミック組成物を注入し硬化させるステップを含み、前記硬化ステップを経た後の前記ガスケットの収縮率が10%以上であることを特徴とする請求項1〜14のうちのいずれか一項によるフォトクロミックフィルムの製造方法。
【請求項20】
1対の基板と前記1対の基板の間に配置されるガスケットから形成される空間部にフォトクロミック組成物を注入し硬化させるステップを含み、前記硬化ステップを経た後の前記ガスケットの収縮率が前記フォトクロミック組成物の収縮率と同じであるかより大きいものであることを特徴とする請求項1〜14のうちのいずれか一項によるフォトクロミックフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−536983(P2010−536983A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521787(P2010−521787)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際出願番号】PCT/KR2008/004876
【国際公開番号】WO2009/028833
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】