説明

フォトニック結晶面発光レーザ及びその製造方法

【課題】2次元フォトニック結晶と、これと同一周期の網目構造を有する放熱層との位置合わせをすることなく同時に形成することができ、放熱特性が良く、光学特性を損なうことを抑制することが可能となるフォトニック結晶面発光レーザ等を提供する。
【解決手段】フォトニック結晶面発光レーザであって、基板101上の活性層104で発光した光を面内で共振させる、第1の半導体106a及び第1の半導体よりも低屈折率の低屈折率媒質106bとが2次元的に配置された2次元フォトニック結晶層106と、2次元フォトニック結晶層上の第2の半導体を有する層107と、第2の半導体を有する層上の放熱層108と、を有し、放熱層は、第2の半導体よりも熱伝導率の高い材料からなる放熱部108aと、第3の半導体108bとで構成され、放熱部は第1の半導体の上部に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶面発光レーザ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、フォトニック結晶を2次元回折格子として用いた面発光レーザの研究が盛んに行われている(例えば、特許文献1)。
この2次元フォトニク結晶面発光レーザは、半導体と空気や誘電体などの媒質で2次元周期的に屈折率を変化させた構造が活性層近傍に配置された構造になっている。
キャリアの注入によって活性層で発生した光は2次元フォトニック結晶で規定する波長で基板面内に2次元的に回折し増幅する。
そして、増幅した光は2次元フォトニック結晶で垂直方向に回折されて取り出される。
基板面内で光を増幅させるため、2次元フォトニック結晶面発光レーザは大面積での発振が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開06/062084号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フォトニック結晶面発光レーザは大面積で発振することが出来るが、その分注入電流も多くなり発熱が問題になる。
特に、レーザの中心部は、その周りも熱が発生するため、熱が逃げにくい構造になっている。
そこで、レーザ中心部の熱を逃がすために、フォトニック結晶面発光レーザの内部、特に活性層近傍に熱伝導率の高い放熱層を形成することが望まれる。
熱伝導率の良い材料として、例えば金属やセラミックス等(BN,AlN,SiC、ダイヤモンド等)が挙げられる。
これらのうち、金属は光を吸収してしまうためフォトニック結晶面発光レーザの内部に挿入することは難しい。
【0005】
一方、セラミックスはワイドバンドギャップな材料であり、光の吸収は問題にはならない。
抵抗率が高い材料ではあるが、面内に網状に形成された網目構造を構成することで電流経路を確保して放熱層として形成することができる。
しかし、網目構造を有する放熱層を形成する場合、つぎのような問題が生じる。2次元フォトニック結晶の周期構造と、放熱層の網目構造の周期が異なっていた場合や、あるいはランダムに形成されていた場合、基板面内で屈折率分布が変わるため2次元フォトニック結晶で面内を回折する光が散乱されてしまい光学特性が悪化する。
このような光学特性の悪化に対処するため、2次元フォトニック結晶の周期と放熱層の網目構造の周期とを同一周期に構成しようとする場合、これらを別々に形成すると、数百nmオーダーの微細構造の位置合わせをしなければならないこととなる。これらの位置合わせはきわめて困難であり、また位置がずれると光学特性が悪化するという課題が生じる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、2次元フォトニック結晶と、これと同一周期の網目構造を有する放熱層との位置合わせをすることなく同時に形成することができ、
放熱特性が良く、光学特性を損なうことを抑制することが可能となるフォトニック結晶面発光レーザ及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のフォトニック結晶面発光レーザは、
基板上に形成された活性層で発光した光を面内で共振させるための、第1の半導体及び該第1の半導体よりも低屈折率の低屈折率媒質とが2次元的に配置された2次元フォトニック結晶層と、
前記2次元フォトニック結晶層の上に設けられた第2の半導体を有する層と、
前記第2の半導体を有する層の上に設けられた放熱層と、を有し、
前記放熱層は、前記第2の半導体よりも熱伝導率の高い材料からなる放熱部と、第3の半導体とにより構成され、
前記放熱部は、前記第1の半導体の上部に形成され、
前記第3の半導体は、前記低屈折率媒質の上部に、マストランスポートにより前記第2の半導体を有する層の一部を構成する層と共に形成されていることを特徴とする。
また、本発明のフォトニック結晶面発光レーザの製造方法は、
基板上に、第1の半導体からなる層と、第2の半導体からなる層と、該第2の半導体からなる層よりも熱伝導率の高い材料からなる層と、第3の半導体からなる層とを、この順で形成する工程と、
前記第3の半導体からなる層から前記第1の半導体からなる層に亙って、これらの層をエッチングすることにより、該第1の半導体からなる層に2次元フォトニック結晶層を形成する工程と、
前記第3の半導体がマストランスポートを起こす温度で熱処理を行い、
前記エッチングにより形成された前記第2の半導体からなる層の空孔部に、該第3の半導体を構成する原子を充填して、第2の半導体からなる層の一部を構成する層を形成すると共に、
前記エッチングにより形成された前記第2の半導体よりも熱伝導率の高い材料からなる層の空孔部に、前記第3の半導体を構成する原子を充填して、放熱層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、2次元フォトニック結晶と、これと同一周期の網目構造を有する放熱層との位置合わせをすることなく同時に形成することができ、
放熱特性が良く、光学特性を損なうことを抑制することが可能となるフォトニック結晶面発光レーザ及びその製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態におけるフォトニック結晶面発光レーザの構造を説明する図である。
【図2】実施形態におけるフォトニック結晶面発光レーザの製造方法を説明する断面図である。
【図3】空孔を形成したGaNの熱処理工程後のキャップ層と熱処理温度の関係を示す図である。
【図4】実施形態における輸送層の厚さと放熱層の厚さによって熱処理後の形態が異なることを示す断面図である。
【図5】実施形態における輸送層の厚さと放熱層の厚さによって熱処理後の形態が異なることを示す断面図である。
【図6】実施例1における2次元フォトニック結晶面発光レーザの製造方法を説明する断面図である。
【図7】実施例2における2次元フォトニック結晶面発光レーザの製造方法を説明する断面図である。
【図8】実施例3における2次元フォトニック結晶面発光レーザの製造方法を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態におけるフォトニック結晶面発光レーザの構成例について、図を用いて説明する。
本実施形態のフォトニック結晶面発光レーザ100を構成する半導体はAlGaInN系のIII族窒化物半導体で構成される。
図1(a)において、101は基板、102はn型クラッド層、103はn側ガイド層、104は活性層、105は電子ブロック層、106は2次元フォトニック結晶層である。
2次元フォトニック結晶層106中の106aは第1の半導体、106bは低屈折率媒質である。
107は第2の半導体を有する層、108は放熱層である。放熱層108中の108aは放熱部、108bは第3の半導体である。
109はp型クラッド層、110はコンタクト層、111はp電極、112はn電極である。
【0011】
本実施形態のフォトニック結晶面発光レーザ100は、基板101上に順にn型クラッド層102、n側ガイド層103、活性層104、電子ブロック層105を備える。
そして、本発明の特徴となる2次元フォトニック結晶層106、第2の半導体を有する層107、放熱層108をこの順に備える。最後に、電流注入のためのp型クラッド層109、コンタクト層110を順に備える。
本実施形態では、2次元フォトニック結晶層106、第2の半導体を有する層107、放熱層108の3層を、活性層104とp型クラッド層109の間にp側ガイド層として挿入している。しかしこれらは、前記3層の積層順を変えなければn側ガイド層103の内部に挿入しても良い。
フォトニック結晶層106は図1(c)の様に、第1の半導体106a中にそれより低屈折な低屈折率媒質106bを備え柱状に配置する。
【0012】
図1(b)では、フォトニック結晶の単位格子を斜方格子で示しているが、正方格子でも三角格子でも良い。また、孔形状も円形で示しているが、四角形や三角形など特に形状は問わない。
【0013】
つぎに、本発明を適用する際の特徴的構成である、フォトニック結晶層106、第2の半導体を有する層107、放熱層108と、それらの位置関係について説明する。
基板上に形成されたフォトニック結晶層106は活性層104で発生した光を共振させるために、第1の半導体106a中に、それより低屈折率な低屈折率媒質106bを2次元的に配置する。
低屈折率媒質106bは第1の半導体106aより屈折率の低い材料で構成し、例えば空気で形成する。
また、空気以外にSiO,SiN,Al,AlN,TiO,TiNなどで構成されていても良い。
ここで、第2の半導体を有する層107は、2次元フォトニック結晶層106と後述する放熱層108の間に備えられる。
また、放熱層108は、放熱部108aと第3の半導体108bで構成され、これらは第2の半導体より熱伝導率の高いセラミックス系の物質で構成される。例えば、BlN,AlN,SiC、ダイヤモンドなどである。
【0014】
放熱部に用いるセラミックス系の物質は基本的には絶縁物である。
電流を導通できる構造にするためにフォトニック結晶層106の周期構造に合わせて放熱部108aを網状に形成した網目構造とし、その網目の部分に第3の半導体108bを形成する。
より具体的には、図1(c)のように、第1の半導体106aの上部に放熱部108aを配置し、低屈折率媒質106bの上部に第3の半導体108bを配置する。
さらに、フォトニック結晶層106と放熱層108の間に第2の半導体を有する層107を配置することで、pクラッド層109から第3の半導体108b、第2の半導体を有する層107、第1の半導体106aを経由して電流を流すことが出来る。
このような構造にすることで、面内屈折率分布の周期性を保つことができる。従って、回折光の散乱を防ぎ光学特性の悪化を起こさすことは無い。
さらに、高抵抗な放熱層108をフォトニック結晶面発光レーザ100全面にわたって形成しつつ、電流経路を形成することが出来るので、フォトニック結晶面発光レーザ100の中央付近で発生した熱を効率よく周辺部へ放熱することが出来る。
【0015】
つぎに、本実施形態におけるフォトニック結晶面発光レーザの製造方法について説明する。
本実施形態の製造方法には、マストランスポートが用いられる。マストランスポートを用いることで、フォトニック結晶層106の形状制御性が良くなりフォトニック結晶面発光レーザの特性を向上させることが出来る。
本実施形態の製造方法では、つぎのように各層が形成される。
まず、MOCVD装置やMBE装置などで基板101上にnクラッド層102、n側ガイド層103、活性層104、電子ブロック層105を形成する。
次に、第1の半導体からなる層206、第2の半導体層からなる層207、第2の半導体からなる層207よりも熱伝導率の高い材料からなる層208(以下高熱伝導層とする)を形成する。
最後に、第3の半導体からなる層213(以下輸送層とする)を形成する(図2(a))。
【0016】
次に、輸送層213の表面に、フォトリソグラフィーや電子ビームリソグラフィーなどでフォトニック結晶のパターンが転写されたマスクを形成する。
そして、RIEやICPなどで輸送層213から第1の半導体からなる層をエッチングし、その後マスクを除去する。
以上のリソグラフィーの工程で、空孔214が形成される。
また、高熱伝導層208は放熱部108aになり、第1の半導体からなる層206は第1の半導体106aになる(図2(b))。
【0017】
次に、輸送層213がマストランスポートを起こす温度で熱処理をする。
輸送層213がマストランスポートすると、図2(c)に示すように、空孔214の上部が輸送層213である第3の半導体によって充填される。
具体的には、第2の半導体からなる層の空孔部と、高熱伝導層208の空孔部に第3の半導体が充填される。
その結果、第1の半導体106aと低屈折率媒質106bから構成されるフォトニック結晶層106と、第2の半導体を有する層107と、放熱部108aと第3の半導体108bから構成される放熱層108が同時に形成される。
最後に、残りのpクラッド層109、コンタクト層110を形成し、基板表面にp電極111と裏面にn電極112を形成することで、フォトニック結晶面発光レーザ100が完成する(図2(d))。
【0018】
つぎに、第3の半導体からなる層がマストランスポートを起こす温度で熱処理をする工程についてより詳しく説明する。
本実施形態のマストランスポートによる熱処理工程においては、輸送層213がマストランスポートを起こす温度で熱処理することにより、輸送層213を構成する原子をマストランスポートで移動させ、空孔214の上部を第3の半導体で充填する。
すなわち、輸送層213の形成後、図4(a)の断面構造のフォトニック結晶格子の構造を形成し、熱処理することで図4(b)又は図4(c)の構造を形成する。
これにより、空孔214の上部を第3の半導体で充填させることで、フォトニック結晶面発光レーザの全面にわたって、高抵抗な放熱層を形成しつつ電流注入が可能となる。
ここでいう空孔214の上部とは、第2の半導体からなる層207の空孔部と第2の半導体よりも熱伝導率の高い材料からなる層208の空孔部を指す。
この構造を形成するためには、マストランスポートを起こす第3の半導体からなる層213の厚さ、放熱部108aの厚さ、空孔214の径、そして空孔214の上部が第3の半導体で充填されて形成される層(以下キャップ層と記述する)の厚さが適切な量でなければならない。
【0019】
ここで、これら輸送層213、放熱部108a、キャプ層の厚さ等について、更に説明する。
図3はGaNにフォトニック結晶の空孔を形成し、900℃〜1150℃まで昇温しマストランスポートを発生させ、空孔上部に形成されたキャップ層の厚さと熱処理温度の関係をグラフにしたものである。
昇温後の保持時間は0分で実施している。なお、900℃試料については、空孔上部が完全に塞がらず細くなった。
また、950℃の試料は、空孔の一部分が塞がらなかった。1025℃以上の試料は空孔上部が完全に塞がった。
グラフからキャップ層の厚さは熱処理温度に依存し、熱処理温度の増加に伴いキャップ層の厚さが減少していることが分かる。
熱処理温度を制御することで、任意の厚さのキャップ層を形成することができる。
【0020】
つぎに、輸送層213の厚さと放熱部108aの厚さの関係について説明する。
輸送層213の質量をキャップ層として移動させるので、空孔214上部を完全に塞ぐ場合、空孔214を形成した後の輸送層213の体積が、マストランスポート後に形成されるキャップ層の体積よりも大きいか、または同じである必要がある。
図4(a)〜(c)、5(d)〜(f)の様に、輸送層213の厚さをtmt、放熱部108aの厚さをths、キャップ層の厚さをtcapと定義する。
また、図1(b)の様に、低屈折率媒質106bの面積Shole、フォトニック結晶の単位格子の面積をSPhCと定義する。
上記関係は次の式(1)で表すことが出来る。

【0021】
式(1)を満たす層構造でマストランスポートを用いてキャップ層を形成後、残った輸送層213とキャップ層の厚さの合計が放熱部108aの厚さより大きくなければならない。
残った輸送層213とキャップ層の厚さの合計が放熱部108aの厚さより小さい場合、第2の半導体を有する層107を形成することが出来ず、電流が流せる構造に出来ない。これらの関係を式で表すと次の式(2)になる。

【0022】
式(1)と式(2)を満たす場合、図4(b)に示すような形状に変化する。空孔214上部が完全に塞がり、輸送層213が放熱部108a上に残った構造になる。
式(2)が満たされているので、第2の半導体を有する層107が形成され、電流が流せる構造になる。
また、式(1)の右辺と左辺が等しい時、つまり空孔214を形成した後の輸送層213の体積とマストランスポート後に形成されるキャップ層が等しく、式(2)が満たされる時にも、電流が流せる構造となる。
すなわち、図4(c)に示すような輸送層213が完全に空孔214上部にマストランスポートされ空孔214上部が塞がった構造になる。
これに対して、式(1)が満たされて、式(2)が満たされない場合、図5(d)に示す構造になる。
キャップ層の厚さが輸送層213の残りの厚さと放熱部108aの厚さの合計より小さいため、第2の半導体を有する層107の空孔部分が輸送層213で充填されない。従って電流を流せる構造にはならない。
【0023】
ここで、式(1)が満たされない場合を考える。
式(1)が満たされない場合、輸送層213の体積が十分ではないので、空孔214の上部に輸送層213の原子をマストランスポートしても完全に塞がらず、空孔214の上部が細くなるだけである。
空孔214上部に形成されるキャップ層の厚さは、輸送層213の体積不足で完全に塞がらない場合でも、熱処理温度で決まる。
従って、第2の半導体を有する層107の空孔部の一部が輸送層213で充填されるかどうかは、放熱部108aの厚さとキャップ層の厚さのみが関係する。
キャップ層が放熱部108aより厚い場合、式で表すと次の式(3)のようになる。

【0024】
式(3)を満たす場合、図5(e)のような第2の半導体層を有する層の空孔側壁部分が輸送層213で充填された構造になる。
第2の半導体層を有する層の一部が充填されているため電流を流すことが可能な構造である。
空孔214の上部が細くなっているので、III族原料を供給して再成長をさせると、原料が空孔214底部に到達できず空孔214上部を完全に充填することができる。
式(3)を満たさない場合、図5(f)のような構造になる。第2の半導体を有する層は何も充填されない。従って電流を流すことが出来ない構造になる。
以上のことから、式(1)、式(2)を満たす構造が最も好ましい。
また、式(1)を満たさず、式(3)を満たす構造は、その後再成長させることで空孔214上部を塞ぐことができ、電流を流すことが可能な構造とすることができる。
【0025】
つぎに、熱処理で第3の半導体をマストランスポートさせ空孔214上部を充填させるための熱処理温度や、ガス条件、空孔の形状などについて説明する。
マストランスポートを起こす温度は第3の半導体の成長温度付近が良いが、成長温度より1割〜2割低い温度でも、マストランスポートは生じる。
例えば、GaNの場合成長温度は1000℃〜1200℃であるが、上記で説明した図3の実験結果から900℃でも空孔214は完全に塞がらなかったがマストランスポートは生じる。
熱処理温度が低い場合、空孔上部は完全に塞がらないが、熱処理時間を長くすることで空孔上部を完全に塞ぐこともできる。
以上のことから、熱処理温度は900℃以上が良い。より好ましくは950℃以上(空孔上部一部のみが塞がった結果)、さらに好ましくは1025℃以上(完全に空孔上部が塞がった結果)である。
【0026】
第3の半導体がAlGaInN系の場合、第3の半導体を構成する窒素元素の脱離を防ぐためアンモニアやジメチルヒドラジンなどの窒素元素を含むガス雰囲気中で熱処理をする。
空孔214の深さ/幅の比であるアスペクト比が小さい場合、空孔214全体がマストランスポートで埋まってしまう。従って、アスペクト比は1以上が好ましい。より好ましくは1.5以上である。さらに好ましくは2以上が良い。
輸送層213はアンドープでも導電性を持たせるためにドーピングされていても良い。
輸送層213がアンドープの場合は、ドーパントを供給しながら熱処理をしてマストランスポートさせることで導電性を有する第3の半導体108bを形成することが出来る。
また、輸送層213がドーピングされていて導電性を有する場合、ドーパントを供給しないで熱処理をすることが出来る。
しかし、輸送層213にドーピングされたドーパントの種類によっては熱処理中にドーパントが気相に脱離する場合や、ドーパント自身がマストランスポートされない場合があるため、ドーパントを供給しながら熱処理をすることが好ましい。
本発明のフォトニック結晶面発光レーザはAlGaInN系を用いた場合について説明したが他の材料系でも適用は可能である。
また、マストランスポートを用いた形成について説明したが、再成長を用いて構造を作製することも出来る。輸送層213を形成せずに、リソグラフィーでフォトニック結晶を形成し、再成長で残りの層を形成する。
しかし、フォトニック結晶の孔形状の制御性や、第2の半導体を有する層の厚さの制御などの点においては、本発明のマストランスポートを用いた製造方法が優れているので本製造方法を用いることがより好ましい。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1として、上記式(1)、式(2)を満たし、式(1)の左辺が右辺より大きい場合の形態を用いた構成例について説明する。
これは、図4(b)の形態に相当するものであり、ここではフォトニック結晶層を活性層より上部のp側に形成される。
本実施例のフォトニック結晶層の形成においては、まず、図6(a)の構造を形成する。基板101としてn−GaN基板501を用いる。
次に、MOCVD装置で以下の層を順に形成する。
始めに、結晶性向上のためのバッファ層としてn−GaN515を2μm成長させる。
続いて、n型クラッド層102としてn−Al0.07Ga0.93N502を800nm、n側ガイド層103としてGaN503を80nm成長させる。
その上に、活性層104として3周期のIn0.10Ga0.90N/GaNの多重量子井戸504を成長させる。
井戸層であるIn0.10Ga0.90Nの厚さは2.5nmで、障壁層であるGaNの厚さは7.5nmで発光波長は400nmである。
次に、電子ブロック層105としてp−Al0.20Ga0.80N505を20nm成長させる。
そして、第1の半導体からなる層206としてp−GaN506を180nm、第2の半導体からなる層207としてp−GaN507を13nm、第2の半導体からなる層より熱伝導率の高い材料からなる層208として、AlN508を10nm成長させる。
さらに、第3の半導体からなる層213としてp−GaN513を15.4nm成長させる。
【0028】
次に、MOCVD装置から基板を取り出してフォトニック結晶のパターンを形成させる。
まず、基板表面にSiOを形成する。次に、レジストを塗布し電子線リソグラフィーを用いて、半径30nmの円形のパターンを正方格子状に格子長さ160nmで描画する。これを現像することで、SiO上に円形パターンの正方格子状に配置されたレジストが残る。
次に、ICP装置を用いて、CFガスでSiOをエッチングし、レジストを除去することで、SiOをハードマスクとしたパターンが形成される。
Clガスを用いたICP装置で、p−GaN513からp−GaN506までの層を、168.4nmエッチングする。
ハードマスクとして用いたSiOを除去することで、空孔214が形成され図6(b)の構造が出来る。
【0029】
再び、MOCVD装置に基板をセットして窒素ガスとNHガスを供給しながら1025℃まで加熱しp−GaN513をマストランスポートさせ空孔214上部をp−GaN513で充填する。
また、p−GaN513で充填したキャップ層の抵抗率を下げるために、ドーパントとしてCpMgも供給しながら熱処理を行う。
図3を参照して、1025℃で熱処理すると厚さ34nmのキャップ層が形成される。この熱処理工程で図6(c)のように、p−GaN507の空孔部分と、AlN508の空孔部分がp−GaN513で充填され、第2の半導体を有する層107と、AlN508とp−GaN513で構成される放熱層108が形成される。
さらに、低屈折率媒質106bとして空気506bとp−GaN506で構成される2次元フォトニック結晶106も形成される。p−GaN513はマストランスポートで4.4nm薄くなる。
【0030】
最後に、図6(d)のように残りの層と電極を形成する。
まず、p型クラッド層109としてp−Al0.07Ga0.93N509を400nm、コンタクト層110としてp−GaN510を50nm成長させる。MOCVD装置から基板を取り出し、蒸着装置でp電極111としてNi/Auからなる電極511を形成する。
基板裏面に、n電極112として、Ti/Al/Ti/Alからなる電極512を形成する。
以上の工程で、フォトニック結晶面発光レーザが完成する。
【0031】
[実施例2]
実施例2として、上記式(1)、式(2)を満たし、式(1)の左辺と右辺が等しい場合の形態を用いた構成例について説明する。
これは図4(c)の形態に相当するものであり、フォトニック結晶層を活性層より下部のn側に形成される。
本実施例のフォトニック結晶層の形成においては、まず、図7(a)の構造を形成する。基板101としてn−GaN基板601を用いる。
次に、MOCVD装置で以下の層を順に形成する。
始めに、結晶性向上のためのバッファ層としてn−GaN615を2μm、n型クラッド層102としてn−Al0.07Ga0.93N602を500nm成長させる。
次に、第1の半導体からなる層206としてn−GaN606を150nm、第2の半導体からなる層207としてn−GaN607を12nm成長させる。MOCVD装置から基板を取り出し、プラズマCVD装置で第2の半導体からなる層より熱伝導率の高い材料からなる層208として、ダイヤモンド608を50nm堆積させる。
さらに、第3の半導体からなる層213としてGaN613を13nm堆積する。
次に、フォトニック結晶のパターンを形成する。実施例1と同様に電子線リソグラフィーとICP装置を用いて、GaN613層からn−GaN606まで合計163nmエッチングする。
エッチング後、SiOを除去することで空孔214が形成され図7(b)の構造が出来る。
【0032】
再び、MOCVD装置に基板をセットして窒素ガスとNHガスを供給しながら950℃まで加熱しGaN613をマストランスポートさせ空孔214上部をGaN613で充填する。
また、孔214上部に充填するGaN613をn型にするために、ドーパントとしてSiHも供給しながら熱処理を行う。図3を参照して、950℃で熱処理すると厚さ62nmのキャップ層が形成される。
この熱処理工程で図7(c)のように、n−GaN607の空孔部分と、ダイヤモンド608の空孔部分がGaN513で充填され、第2の半導体を有する層107と、ダイヤモンド608とGaN613で構成される放熱層108が形成される。
さらに、低屈折率媒質106bとして空気606bとn−GaN606で構成される2次元フォトニック結晶106も形成される。GaN613はマストランスポートで完全に空孔214上部に輸送される。
【0033】
最後に、図7(d)のように残りの層と電極を形成する。
まず、GaN層614を40nm、活性層104として3周期のIn0.10Ga0.90N/GaNの多重量子井戸604を成長させる。
井戸層であるIn0.10Ga0.90Nの厚さは2.5nmで、障壁層であるGaNの厚さは7.5nmで発光波長は400nmである。
次に、p−GaN614を80nm、電子ブロック層105としてp−Al0.20Ga0.80N605を20nm成長させ、p型クラッド層109としてp−Al0.07Ga0.93Nを500nm、コンタクト層110としてp−GaN610を50nm成長させる。
MOCVD装置から基板を取り出し、基板表面に蒸着装置でp電極111としてNi/Auからなる電極611を形成する。
基板裏面に、n電極112として、Ti/Al/Ti/Alからなる電極612を形成する。
以上の工程で、フォトニック結晶面発光レーザが完成する。
【0034】
[実施例3]
実施例3として、上記式(1)を満たさず、式(3)を満たす場合の形態を用いた構成例について説明する。これは図5(e)の形態に相当するものであり、フォトニック結晶層を活性層より下部のn側に形成される。
本実施例のフォトニック結晶層の形成においては、まず、図8(a)の構造を形成する。基板101としてn−GaN基板701を用いる。
次に、MOCVD装置で以下の層を順に形成する。
始めに、結晶性向上のためのバッファ層としてn−GaN715を2μm成長させる。
続いて、n型クラッド層102としてn−Al0.07Ga0.93N702を800nm、n側ガイド層103としてGaN703を80nm成長させる。
その上に、活性層104として3周期のIn0.10Ga0.90N/GaNの多重量子井戸704を成長させる。
井戸層であるIn0.10Ga0.90Nの厚さは2.5nmで、障壁層であるGaNの厚さは7.5nmで発光波長は400nmである。
次に、電子ブロック層105としてp−Al0.20Ga0.80N705を20nm成長させる。
そして、第1の半導体からなる層206としてp−GaN706を180nm、第2の半導体からなる層207としてp−GaN707を24nm、第2の半導体からなる層より熱伝導率の高い材料からなる層208として、AlN708を10nm成長させる。
さらに、第3の半導体からなる層213としてp−GaN713を2nm成長させる。
【0035】
次に、MOCVD装置から基板を取り出してフォトニック結晶のパターンを形成する。まず、基板表面にSiOを形成する。
次に、レジストを塗布し電子線リソグラフィーを用いて、半径30nmの円形のパターンを正方格子状に格子長さ160nmで描画する。これを現像することで、SiO上に円形パターンの正方格子状に配置されたレジストが残る。
次に、ICP装置を用いて、CFガスでSiOをエッチングし、レジストを除去することで、SiOをハードマスクとしたパターンが形成される。
Clガスを用いたICP装置で、p−GaN513からp−GaN706までの層を、136nmエッチングする。ハードマスクとして用いたSiOを除去することで、空孔214が形成され図8(b)の構造が出来る。
【0036】
再び、MOCVD装置に基板をセットして窒素ガスとNHガスを供給しながら1025℃まで加熱しp−GaN713をマストランスポートさせる。
図3を参照して、1025℃で熱処理すると厚さ34nmのキャップ層が形成される。
しかし、p−GaN713の厚さが十分ではないため、図8(c)のように空孔上部の一部分のみp−GaN713で充填される。
この後III族原料としてトリメチリガリウムとp型ドーパントとしてCp2Mgを供給してp−GaN715を成長させる。
前熱処理工程で空孔214の上部が細くなっているため、原料が空孔214の底まで到達できない。
その結果、空孔214の上部は完全に成長によって塞がれ、第2の半導体を有する層107と、AlN708とp−GaN713で構成される放熱層108が形成される。さらに低屈折率媒質106bとして空気706bとp−GaN706で構成される2次元フォトニック結晶106も形成される。
【0037】
最後に、図8(d)のように残りの層と電極を形成する。
まず、p型クラッド層109としてp−Al0.07Ga0.93N709を400nm、コンタクト層110としてp−GaN710を50nm成長させる。MOCVD装置から基板を取り出し、蒸着装置でp電極111としてNi/Auからなる電極711を形成する。
基板裏面に、n電極112として、Ti/Al/Ti/Alからなる電極712を形成する。
以上の工程で、フォトニック結晶面発光レーザが完成する。
【符号の説明】
【0038】
100:フォトニック結晶面発光レーザ
101:基板
102:n型クラッド層
103:n側ガイド層
104:活性層
105:電子ブロック層
106:2次元フォトニック結晶層
106a:第1の半導体
106b:低屈折率媒質
107:第2の半導体を有する層
108:放熱層
108a:放熱部
108b:第3の半導体
109:p型クラッド層
110:コンタクト層
111:p電極
112:n電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトニック結晶面発光レーザであって、
基板上に形成された活性層で発光した光を面内で共振させるための、第1の半導体及び該第1の半導体よりも低屈折率の低屈折率媒質とが2次元的に配置された2次元フォトニック結晶層と、
前記2次元フォトニック結晶層の上に設けられた第2の半導体を有する層と、
前記第2の半導体を有する層の上に設けられた放熱層と、を有し、
前記放熱層は、前記第2の半導体よりも熱伝導率の高い材料からなる放熱部と、第3の半導体とにより構成され、
前記放熱部は、前記第1の半導体の上部に形成され、
前記第3の半導体は、前記低屈折率媒質の上部に、マストランスポートにより前記第2の半導体を有する層の一部を構成する層と共に形成されていることを特徴とするフォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項2】
前記放熱部は、AlN、BlN、SiC、ダイヤモンドのいずれか一つの材料で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のフォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項3】
フォトニック結晶面発光レーザの製造方法であって、
基板上に、第1の半導体からなる層と、第2の半導体からなる層と、該第2の半導体からなる層よりも熱伝導率の高い材料からなる層と、第3の半導体からなる層とを、この順で形成する工程と、
前記第3の半導体からなる層から前記第1の半導体からなる層に亙って、これらの層をエッチングすることにより、該第1の半導体からなる層に2次元フォトニック結晶層を形成する工程と、
前記第3の半導体がマストランスポートを起こす温度で熱処理を行い、
前記エッチングにより形成された前記第2の半導体からなる層の空孔部に、該第3の半導体を構成する原子を充填して、第2の半導体からなる層の一部を構成する層を形成すると共に、
前記エッチングにより形成された前記第2の半導体よりも熱伝導率の高い材料からなる層の空孔部に、前記第3の半導体を構成する原子を充填して、放熱層を形成する工程と、
を有することを特徴とするフォトニック結晶面発光レーザの製造方法。
【請求項4】
前記第3の半導体がマストランスポートを起こす温度で熱処理を行い、
前記第2の半導体からなる層の空孔部に、該第3の半導体を構成する原子を充填すると共に、
前記第2の半導体よりも熱伝導率の高い材料からなる層の空孔部に、前記第3の半導体を構成する原子を充填する際に、
ドーパントを供給しながら熱処理を行うことを特徴とする請求項3に記載のフォトニック結晶面発光レーザの製造方法。
【請求項5】
前記第3の半導体がマストランスポートを起こす温度で熱処理を行い、
前記第2の半導体からなる層の空孔部に、該第3の半導体を構成する原子を充填すると共に、
前記第2の半導体よりも熱伝導率の高い材料からなる層の空孔部に、前記第3の半導体を構成する原子を充填する際に、
つぎの式(1)及び式(2)を満たすことを特徴とする請求項3または請求項4に記載のフォトニック結晶面発光レーザの製造方法。



【請求項6】
前記第3の半導体がマストランスポートを起こす温度で熱処理を行い、
前記第2の半導体からなる層の空孔部に、該第3の半導体を構成する原子を充填すると共に、
前記第2の半導体よりも熱伝導率の高い材料からなる層の空孔部に、前記第3の半導体を構成する原子を充填する際に、
つぎの式(1)を満たさず、式(3)を満たすことを特徴とする請求項3または請求項4に記載のフォトニック結晶面発光レーザの製造方法。



【請求項7】
前記第2の半導体からなる層よりも熱伝導率の高い材料からなる層は、AlN、BlN、SiC、ダイヤモンドのいずれか一つの材料を用いて形成されることを特徴とする請求項3から6のいずれか1項に記載のフォトニック結晶面発光レーザの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−58686(P2013−58686A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197291(P2011−197291)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】