説明

フォーミング現象鎮静剤

【課題】 以降の使用が不可能な産業廃棄物を有益なフォーミング現象鎮静剤として再生することにより、環境負担の発生を抑制することを可能とする。
【解決手段】 本発明では、銑滓または鋼滓中に投入してフォーミング現象を鎮静するための鎮静剤であって、古紙が回収されて再生される過程で発生する短繊維の再生されない製紙スラッジと、衛生陶器の製造工程で発生する衛生陶器排水汚泥とを混合した後に圧縮成形することにより得られる固形体であることを特徴とすることにより、
以降の使用が不可能な産業廃棄物を有益なフォーミング現象鎮静剤として再生し、環境負担の発生を抑制することを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグの表面張力を低下させ激しい泡立ちを防ぐことに係り、特に銑鉄を高炉から転炉へ移す際に、予備処理剤(酸素ガスや酸化カルシウム等)を吹き込んで溶銑中に微量含まれる不純物(ケイ素、リン、硫黄、アルミ)を除去する溶銑予備処理の際に発生する一酸化炭素などにより、スラグが発泡・膨張する鋼滓のフォーミング現象を鎮静することに好適なフォーミング現象鎮静剤に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来のフォーミング現象鎮静剤は、環境負担を配慮した産業廃棄物活用の立場から、古紙が回収されて再生される過程で発生する短繊維の再生されない製紙スラッジと、廃プラスチックとを混合した後に圧縮成形することにより得られた固形体をフォーミング現象鎮静剤として利用している(例えば、特許文献1参照。)。
このような場合、環境負担を配慮した産業廃棄物の活用ができるが、得られるフォーミング現象鎮静剤の比重が小さく、転炉中で所定の深さに沈下させることができないため、目的としているスラグの激しい泡立ちを防ぐ目標が達成されないことがあるという問題があった。またプラスチックには、その製造工程で混入が想定される水銀、六価クロム、鉛などの重金属が含まれることがあり、フォーミング現象鎮静剤利用に伴う鉄の製造工程で有害な物質が発生する恐れもあった。
【0003】
また、リサイクル化率の低い耐火物廃材を利用して、その粒度を調整することで、適度な比重を有し、溶鋼とスラグ層との界面付近にまで到達させ、効果的な鎮静効果を期待するものもある。(例えば、特許文献2参照。)。
しかし、この場合も耐火物廃材には種々の金属成分が混在しており、その中には、上記のような重金属を含む有害な物質が存在することは否めない。
【0004】
【特許文献1】特開平08−269521号公報
【特許文献2】特開2007−302951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、フォーミング現象鎮静剤利用に伴う鉄の製造工程で有害な物質が発生する恐れを抑制し、目的とする激しい泡立ちを防止し、かつ、そのために投入されるフォーミング現象鎮静剤は別の産業廃棄物から生産することによって環境負担の発生を抑制しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明によれば、銑滓または鋼滓中に投入してフォーミング現象を鎮静するための鎮静剤であって、古紙が回収されて再生される過程で発生する短繊維の再生されない製紙スラッジと、衛生陶器の製造工程で発生する衛生陶器排水汚泥とを混合した後に圧縮成形することにより得られる固形体であることを特徴とすることにより、
以降の使用が不可能な産業廃棄物を有益なフォーミング現象鎮静剤として再生し、原料組成中に有害物質がもともと入らない製紙スラッジと衛生陶器排水汚泥の産業廃棄物を利用することで、環境負担の発生を抑制し、フォーミング現象鎮静剤利用に伴う有害物質の発生を抑制することを可能とした。
【0007】
また、請求項2記載の発明によれば、前記製紙スラッジの水分量は20〜30%、および前記衛生陶器排水汚泥の水分量は5〜30%であり、前記製紙スラッジ90〜95質量%と、前記衛生陶器排水汚泥5〜10質量%とを混合した後に圧縮成形することにより得られる固形体であることを特徴とする。
衛生陶器排水汚泥は、水分が殆どを占めるスラリー状のものを例えば、フィルタープレス等で適度な水分を持った状態にしたもが利用できる。そのため、先行文献2のような乾燥した粉体を原料として利用しないので、原料調整時に粉塵を発生したり、改めて水分調整のために水を投入することをしないでフォーミング現象鎮静剤を製造でき、そのフォーミング現象鎮静剤も製紙スラッジと衛生陶器排水汚泥との組成、適度な水分率が、転炉に供給したときに、スラグと溶融銑鉄の界面にフォーミング現象鎮静剤を沈降させ、激しい泡立ちを防止することを可能とした。
【0008】
また、請求項3記載の発明によれば、前記製紙スラッジと前記衛生陶器排水汚泥は、少なくとも水銀、六価クロム、鉛を含まないものであることを特徴とする。
フォーミング現象鎮静剤投入以降の鉄の製造工程で有害な物質が発生する恐れを防止することを可能とした。また古紙が回収されて再生される過程、および衛生陶器の製造工程共に重金属を含む製造工程でないことから、特殊な負担無く少なくとも水銀、六価クロム、鉛を含まないものとすることが可能である。
【0009】
また、請求項4記載の発明によれば、前記衛生陶器排水汚泥の粒径は0.1mm以下であることを特徴とする。
衛生陶器排水汚泥は、例えば、便器や洗面器といった衛生陶器製品を、微粒子状の粒度がある程度管理された粒子と水が混在したスラリーを利用し、セッコウなどの多孔質型にスラリーを吸水させる際に粒子分が堆積することで、製造される所謂鋳込み成形で製造される際のスラリーのロス分を利用したものであり、その粒子は、0.1mm以下の粒子群からなっている。そのため、特段の粒度調整の必要もなく、微細粒子を調整でき、その微細な粒子が、転炉中で目的とする激しい泡立ちを防止することを可能とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以降の使用が不可能な産業廃棄物を有益なフォーミング現象鎮静剤として再生するものであり、激しい泡立ちを防止するという目的を達成するためのフォーミング現象鎮静剤の利用に伴う有害物質の発生の抑制が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に本発明の実施例について説明する。図1はフォーミング現象鎮静剤製造工程を示す工程図である。本実施例のフォーミング現象鎮静剤は、古紙が回収されて再生される過程で発生する短繊維の再生されない製紙スラッジと、衛生陶器の製造工程で発生する衛生陶器排水汚泥とを混練機を用いて、適度に分散させた状態に混合した後に圧縮成形することにより得られた固形体で構成とした。製紙スラッジと衛生陶器排水汚泥は事前に乾燥させて水分を調整し、製紙スラッジの水分量は20〜30%、前記衛生陶器排水汚泥の水分量は5〜30%とした。水分調整を行った製紙スラッジ90〜95質量%と、衛生陶器排水汚泥5〜10質量%とを混合した後に圧縮成形を実施し、固形体とした。なお本実施例で示した水分量を上回った場合、分散性が悪くなる。また本実施例で示した水分量より小さい場合、粉塵としてロスが発生してしまうことから、本出願人は所定の水分量を定めた。
【0012】
また、製紙スラッジが90質量%より小さいとフォーミング現象鎮静剤としての圧縮強度が小さくなってしまう。これは、製紙スラッジの繊維分が固定中で繋がったり、絡まったりして保形性を保つ働きを有するため、その機能が低下するためと推測される。製紙スラッジが95質量%より大きいと衛生陶器排水汚泥分が足りなくなり、フォーミング現象鎮静剤比重低下、強度低下といった不具合が起きる。
また、衛生陶器排水汚泥が5質量%より小さい場合は、製紙スラッジが95質量%より大きい場合と同じであり、また、衛生陶器排水汚泥が10質量%より大きい場合には、製紙スラッジが90質量%より小さい場合と同じであり、また、混練機の負荷が大きく、生産性の低下を引き起こす。
【0013】
一般に転炉内において、フォーミング現象鎮静剤は、比重が軽いとスラグと溶融銑鉄の界面に沈降せず、また比重が重いと沈んでしまって、目的とする激しい泡立ちを防止できないとされている。スラグと溶融銑鉄の界面にフォーミング現象鎮静剤を沈降させ、転炉中で発生する激しい泡立ちを防止する必要があるが、所定位置に沈降させるための比重調整は、変数としての水分量と混練比率を変更することで実現できる。水分量及び衛生陶器排水汚泥分を多くすることで、比重を重くできる。なお、フォーミング現象鎮静剤水分量としては、15%以下が望ましい。それ以上の場合には、強度が低下する不具合を生じる。
【0014】
図2は、本発明のフォーミング現象鎮静剤の写真である。大きさとしては、フォーミング現象鎮静剤自身の持つ強度が適切であり、物流を含む転炉への供給工程で破損等が発生しにくい大きさとして、□50mm×長さ50〜100mmとした。
【0015】
本実施例ではちり紙用古紙スラッジを製紙スラッジとして使用するものである。製紙スラッジは古紙が回収されて再生される過程で発生する短繊維の再生されないものである。組成としての主成分は酸化アルミニウムAlと酸化シリコンSiOと酸化カルシウムCaOであり、ほぼ等量質量で構成されている。
【0016】
また衛生陶器排水汚泥は衛生陶器の製造工程で発生するものであり、粒子径は概ね0.1mm以下のものである。なお、0.1mm以上の粒径の存在は、フォーミング現象鎮静剤の強度を低下させる要因となる恐れがあり、投入前のフォーミング現象鎮静剤が欠損してしまい期待の効果を得られない恐れが生じる。また、組成としての主成分は酸化シリコンSiOと酸化アルミニウムAlである。衛生陶器の製造工程に使用する粘土は、その安定生産のために粒度と組成が厳密に管理され水銀、六価クロム、鉛などの重金属が含まれていない。結果的に鉄の生産工程に悪影響を与えたり、環境問題を発生させる恐れのある重金属が供給される恐れが無いことになる。共に再生が不可能なものの再利用であり、新たなバージン素材を利用することなく、フォーミング現象鎮静剤製造工程の環境負荷が小さい。衛生陶器排水汚泥は衛生陶器を生産するために使用されたものであり、粒子が微細でフォーミング現象鎮静効果が良好であることを本出願人は確認した。また副次的な効果であるが、衛生陶器排水汚泥は微細で、かつすべりが良好であることから原料素材の流動性を確保できるため、混練・成形工程が大変に良好であることも確認している。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施例により更に詳細に説明する。
製紙スラッジの水分量は20〜30%および衛生陶器排水汚泥の水分量は3〜7%のものを、表1記載の配合割合で混練し、フォーミング現象鎮静剤としての圧縮成形体(□50mm×長さ80mm)を得た。得られた成形体の水分量は、何れも12〜15%の範囲であった。得られた圧縮成形体の外観を検査した結果、ひび割れが確認できるものを×、ひび割れがないものを○とした。
【0018】
【表1】

【0019】
また、実施例1乃至4のものは、比重1.5前後の値を有し、十分なフォーミング抑制効果を有した。
【0020】
なお表2は実施例1乃至4の生産されたフォーミング現象鎮静剤の成分分析結果である。水銀、六価クロム、鉛などの重金属を含まないことを生産品においても確認している。
【0021】
【表2】

【0022】
以上述べた如く本実施例のフォーミング現象鎮静剤は、銑滓または鋼滓中に投入した場合に、その適度な比重により転炉中に適度な速度で沈降する。構成する製紙スラッジと衛生陶器排水汚泥は素材サイズが管理されているものであるため、製品を均質化しバラツキが発生しにくく、短時間でフォ−ミング現象を鎮静することができる。一方燃焼熱量が冷材添加物の吸熱量を上回るため鋼浴の温度の低下を防いで作業の生産性を向上させることも期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】フォーミング現象鎮静剤製造工程を示す工程図である。
【図2】本発明のフォーミング現象鎮静剤の写真である。
【符号の説明】
【0024】
1…フォーミング現象鎮静剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銑滓または鋼滓中に投入してフォーミング現象を鎮静するためのフォーミング現象鎮静剤であって、前記フォーミング現象鎮静剤は、古紙が回収されて再生される過程で発生する短繊維の再生されない製紙スラッジと、衛生陶器の製造工程で発生する衛生陶器排水汚泥とを混合した後に圧縮成形することにより得られる固形体であることを特徴とするフォーミング現象鎮静剤。
【請求項2】
請求項1に記載のフォーミング現象鎮静剤において、前記製紙スラッジの水分量は20〜30%、および前記衛生陶器排水汚泥の水分量は5〜30%であり、前記製紙スラッジ90〜95質量%と、前記衛生陶器排水汚泥5〜10質量%とを混合した後に圧縮成形することにより得られる固形体であることを特徴とするフォーミング現象鎮静剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフォーミング現象鎮静剤において、前記製紙スラッジと前記衛生陶器排水汚泥は、少なくとも水銀、六価クロム、鉛を含まないものであることを特徴とするフォーミング現象鎮静剤。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のフォーミング現象鎮静剤において、前記衛生陶器排水汚泥の粒径は0.1mm以下であることを特徴とするフォーミング現象鎮静剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−256755(P2009−256755A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109927(P2008−109927)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【出願人】(508122116)九州製紙株式会社 (1)
【出願人】(508122127)HOKO株式会社 (1)
【Fターム(参考)】