説明

フッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含有する廃液から酸成分を分離・回収する方法およびその装置

【解決手段】フッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液中の固形分を分離した後、蒸留によりまず廃液を濃縮し、主としてフッ化水素酸を含む水溶液と主としてケイフッ化水素酸を含む水溶液をそれぞれ回収する。その他の物質は釜残に残す。
【効果】フッ化水素を含む水溶液は、フッ化水素酸を加えて濃度を調製した後、ガラスのケミカルエッチング処理液として再利用できる。ケイフッ化水素酸を含む水溶液は、2酸化ケイ素を加えてフッ化水素酸をケイフッ化水素酸に変換することにより、さらに水で希釈して所定の濃度に調製することにより、市販用のケイフッ化水素酸およびケイフッ化物の合成原料として再利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
近年、電子産業の発展とともに、フラットパネルディスプレイやウエハーなどケイ酸を主成分とする材料のケミカルエッチングやケミカルクリーニング等の分野で、フッ化水素酸の使用が増大している。
それとともに、使用後の廃酸量も増加しており、地球環境保全の観点からその適切な処理、とりわけ廃酸中に残留している未反応酸や反応生成物などの有価物を、効率的に回収・再利用できる技術の確立が望まれている。
【0002】
本発明は、フッ化水素酸を主成分とするガラスのケミカルエッチング剤を使用した後のフッ素含有廃液から、未反応のフッ化水素酸を蒸留により回収し、再度ガラスケミカルエッチング剤や表面処理剤として利用することを特徴とするフッ化水素酸の再利用方法とその装置に関するものである。また、蒸留によりフッ化水素酸の後に留出するケイフッ化水素酸を回収し、ケイフッ化水素酸として、またはケイフッ化物の原料として供することを特徴とするケイフッ化水素酸の回収方法および再利用法ならびにその装置に関するものである。
【0003】
さらに、半導体用ウエハー洗浄廃液など、電子産業で多量に発生しているフッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含有する廃液からフッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を蒸留による回収する方法および再利用法ならびにその装置に関するものである。
【背景技術】
【0004】
一般にフッ化水素酸やフッ素化合物を含む廃液の処理には、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウムなどのカルシウム化合物と反応させ、難溶性のフッ化カルシウムとして固定化する方法が用いられる。廃液にホウ素を含有する場合にはカルシウム化合物による処理だけではアルミニウム化合物を用いたホウフッ化物の分解処理(例えば、特許文献1参照)が必要となる。
【0005】
【特許文献1】特公昭54−5628号公報(森田化学工業株式会社、発明の名称:ホウフッ素物を含む廃液中のフッ素固定方法)
【0006】
しかし、このような処理で生成したフッ化カルシウムなどは、粒径が非常に細かく、そのままではほとんど濾過できないため凝集剤を用いてフロックにし、シックナーなどで沈降分離したのち、沈降したスラリーはフィルタープレスなどの濾過を行っている。濾過後の水分が50〜60%もあり、さらに、不純物を多量に含むため産業用として再利用できないだけでなく、そのボリュームも大きいためその処分が問題となっている。
【0007】
近年、ガラスのケミカルエッチング廃液からの廃物の負荷を軽減するためのいくつかの方法が報告されている。エッチングで生成する不要なケイフッ化水素酸に難溶性のケイフッ化物を生成するナトリウム化合物やカリウム化合物を加え、ケイフッ化ナトリウムやケイフッ化カリウムとして取り除き、処理後の液をガラスのケミカルエッチング剤として再利用する方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献2】特許第3623663号公報(松下電器産業株式会社・株式会社化研、発明の名称:ガラス洗浄用溶液の再生方法と再生装置、および珪酸塩ガラスの洗浄方法と洗浄装置)
【0009】
ガラスのケミカルエッチング廃液に対して、まずナトリウム化合物やカリウム化合物を加えて廃液中のケイフッ化水素酸を難溶性のケイフッ化物として固定化処理した後、カルシウム塩を加えてフッ素を固定化するか、ホウフッ化物を含有する場合はあらかじめアルミニウム化合物を加えてホウフッ化物をホウ酸とフッ化物に分解した後、カルシウム塩を加えてフッ素の固定化処理を行っている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
【特許文献3】特許第3635643号公報(西山ステンレスケミカル株式会社、発明の名称:廃液の処理方法)
【0011】
しかしながら、これらの方法で回収した、ケイフッ化ナトリウムおよびケイフッ化カリウムは市販されているものと比べて純度が低く、再利用のためのハードルが高く、結局産業廃棄物として処理するしかないという問題がある。
【0012】
最近、蒸留によりガラスのケミカルエッチング廃液からフッ化水素酸を回収する試みがなされ、蒸留時のリボイラーで発生するスケールを除去するために故意に少量の硫酸を加えている(例えば、特許文献4、5参照)。
【0013】
【特許文献4】特開2006−76811号公報(出願人:三菱化学エンジニアリング株式会社・菱化フォワード株式会社・日本リファイン株式会社、発明の名称:フッ化酸の回収方法)
【0014】
【特許文献5】特開2006−111487号公報(三菱化学エンジニアリング株式会社・菱化フォワード株式会社・日本リファイン株式会社、発明の名称:フッ化酸の回収方法)
【0015】
しかしながら、これらの文献ではケイフッ化水素酸が共存する場合の蒸留特性やその再利用などについては言及されていない。
【0016】
なお、半導体用ウエハー洗浄廃液など、電子産業で多量に発生しているフッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含有する廃液については、ガラスのケミカルエッチング廃液に比べてフッ化水素酸およびケイフッ化水素酸以外の成分の種類・量がはるかに少ないため、蒸留による回収方法および再利用法は、より容易である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、以上のような化学的な処理を主体とする背景技術では成し得ず、かつ背景技術の問題点を解消し、フッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含有する廃液から、再利用可能なフッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を効率よく分離・回収する方法とその装置とを提供することを目的とする。
【0018】
一般に、ガラスのケミカルエッチングには、濃度10〜30重量%程度のフッ化水素酸をベースとした酸が使用されている。ガラスケミカルエッチングに使用されるフッ化水素酸濃度や組成は、エッチングメーカーのノウハウとしてブラックボックス化されているが、いずれも決められた成分の濃厚原液を、決められた濃度となるように混合してエッチング液を調整して用いるのが一般的である。
【0019】
ガラスケミカルエッチング後の廃液は、エッチングするガラスの種類、使用するエッチング液、エッチング液中のフッ化水素酸の利用度により大きく変化する。通常のフッ化水素酸の利用率は1/5〜1/2程度と考えられ、廃液中には多量の未反応のフッ化水素酸と反応で生成したケイフッ化水素酸、ガラス成分に起因する各種のフッ化物を含んでいる。
【0020】
例えば、液晶用ガラスに一般に使用されているアルミノホウケイ酸ガラス(代表的な組成は:SiO:60%、Al:17%、B:7.4%、MgO;3.9%、CaO;4.1%、Sr:7.5%である。)をケミカルエッチングすると、これらの各組成は、フッ化水素酸と反応して次のようなフッ素化合物を生成する。
SiO + 6HF → HSiF + 2HO (1)
+ 8HF → 2HBF + 3HO (2)
Al + 6HF → 2AlF + 3HO (3)
MgO + 2HF → MgF + HO (4)
CaO + 2HF → CaF + HO (5)
SrO + 2HF → SrF + HO (6)
【0021】
この内、Al、MgO、CaO、SrO、BaOは、難溶性のフッ素化合物を生成するのでこれにより多量のスラッジを生成する。一方、SiOおよびBは、ケイフッ化水素酸とホウフッ化水素酸となり、いずれもアルカリ土類金属やアルミニウムとは難溶性の化合物を生成しないために廃液中に残る。
【0022】
廃液中のケイフッ化水素酸とホウフッ化水素酸は、例えば特許文献3に記載されているように、ケイフッ化水素酸は、ナトリウム化合物やカリウム化合物で処理することにより難溶性のNaSiFやKSiFを生成し、ホウフッ化水素酸は、カリウム化合物で処理することにより難溶性のKBFとして除去できるが、これらを再利用するにははるかに高純度のものが求められ難しい。
【0023】
フッ素は資源的に非常に乏しい原子の一つで、このように反応に利用されなかったフッ酸を多量に含有しているため、これを回収して再利用するのが望ましい。
【0024】
上記従来技術では、蒸留法によりフッ化水素酸の一部が回収されているが、多量に含まれるケイフッ化水素酸やアルミニウムの回収・再利用については全く触れていない。
【0025】
本発明は、ガラスのケミカルエッチング廃液からフッ化水素酸を回収するだけでなく、多量に存在するケイフッ化水素酸も回収・再利用することを目的として鋭意研究した結果、酸の相対揮発度が、溶液の酸性条件により異なることを利用して、常圧または減圧下での蒸留法により、酸をほとんど含まない水、フッ化水素酸と塩酸を主成分とした水溶液、少量のフッ化水素酸を含むケイフッ化水素酸水溶液の順に分離・回収でき、さらに、そのための装置を簡素化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
ガラスケミカルエッチング後の廃液は、エッチングするガラスの種類、使用するエッチング液、エッチング液中のフッ化水素酸の利用度により大きく変化する。例えば、液晶用ガラスに一般に使用されているアルミノホウケイ酸ガラス(代表的な組成は:SiO:60%、Al:17%、B:7.4%、MgO:3.9%、CaO:4.1%、Sr:7.5%である。)をケミカルエッチングすると、これらの各組成は、フッ化水素酸と反応して、それぞれHSiF、AlF、HBF、MgF、CaF、SrFを生成する。
【0027】
ガラスエッチング後の廃液は、固形物を含むスラリー状である。その固形分を濾過・乾燥後分析した一例を示すと、
(蛍光X線分析)
F:43.4%、Sr:29.5%、Al:11.8%、Ca:3.2%、Mg:3.95%、Ba:1.27%、K:0.42%、Si:0.25%、Na:0.053%、Fe:0.015%
(X線回折分析)
BaAlF、SrAlF、CaAlF,CaAlF
などが確認された。
【0028】
一方、ガラスエッチング後の廃液を濾過した後の液には、ガラスエッチング処理液に含まれる酸類の他にエッチングしたガラスに相当するケイフッ化水素酸、ホウフッ化水素酸が存在し、他に0.1〜0.3%のアルミニウムが溶解しており、アルカリ土類金属はいずれも0.01%以下であった。
【0029】
半導体用ウエハー洗浄廃液など、電子産業で多量に発生しているフッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含有する廃液については、ガラスのケミカルエッチング廃液に比べてフッ化水素酸およびケイフッ化水素酸以外の成分はいずれも0.1%以下で、スラッジの発生などは見られないため、蒸留による回収方法および再利用法は、より容易である。
【0030】
本発明は、フッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含有するフッ化水素酸を用いたガラスエッチング廃液、また、半導体用ウエハー洗浄など電子産業で多量に発生している廃液から、廃液蒸留により回収したフッ化水素酸およびケイフッ化水素酸のリサイクルに関するものである。
【0031】
そのケミカルエッチング廃液の中には多量のフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸およびホウフッ化水素酸を含んでいる。この3種類の酸の相対揮発度が、溶液の酸性条件により異なることを利用して、蒸留法により、酸をほとんど含まない水、ケイフッ化水素酸をほとんど含まないフッ化水素酸水溶液、および、フッ化水素酸を含むケイフッ化水素酸を含む水溶液の順に留出させることにより分離できる。ホウフッ化水素酸および金属不純物などは釜残として分離できる。
【0032】
フッ化水素-水系では、フッ化水素濃度38%付近で共沸する。このため、薄いフッ化水素酸水溶液は蒸留により容易に35%程度まで濃縮できる。また、塩酸、硝酸およびフッ化水素酸の様な揮発性の酸は、共存する酸や塩類により揮発し易さ(揮発度)が変化し、通常、硫酸やリン酸および塩類の存在により揮発し易くなることが知られている。
発明者らは、低濃度やフッ化水素酸では強酸であるケイフッ化水素酸やホウフッ化水素酸の存在下で同様の効果があることを見出した。
【0033】
例えば、フッ化水素酸15%、ケイフッ化水素酸5%を含有する水溶液を調製し、それをフッ素樹脂製の単蒸留を用いて蒸留した結果は、表1のとおりであった。
【0034】
【表1】

【0035】
ケイフッ化水素酸の存在により、フッ化水素酸だけの場合に比べてのフッ化水素酸の揮発が増す。留分1、2にはケイフッ化水素酸はほとんど含まれていないが、釜中のケイフッ化水素酸濃度が10%を超えると明らかにケイフッ化水素酸の留出が見られる。
【0036】
表1と同一組成の調製液にホウフッ化水素酸を1%添加して単蒸留した結果、表1とほぼ同様の結果が得られ、ホウフッ化水素酸は揮発せずに釜残中に残った。
【0037】
これらの結果を基に、本発明(第1の発明)は、フッ化水素酸、およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収するに当って、前記廃液を常圧もしくは減圧下における蒸留操作によって、また、若干の精留効果を持たすことにより、酸をほとんど含まない水主体の留分、ケイフッ化水素酸をほとんど含まずフッ化水素酸を主成分として含む留分、ならびにフッ化水素酸とケイフッ化フッ化水素酸を主成分として含む留分とに、順次分離して回収する。
【0038】
蒸留は常圧もしくは減圧のいずれの条件で行なうことができるが、温度を80℃以下で操作できる減圧条件(10kPa以下)で実施すれば、フッ素樹脂等の高価な装置材料を必要とせず、ポリエチレン、ポリプロピレンや耐熱ポリ塩化ビニール等の安価な材料を選択できるので有利である。
【0039】
また、本発明(第2の発明)では、前記の場合において分離・回収した、フッ化水素酸とケイフッ化水素酸を主成分として含む留分に酸化ケイ素を加えて反応させる(前記式(1))ことにより、共存するフッ化水素酸をケイフッ化水素酸に変換して、ケイフッ化水素酸水溶液を主成分とする溶液を調製する。
【0040】
すなわち、第2の発明は、分離・回収するケイフッ化水素酸溶液の純度と濃度を高めることを目的としており、フッ化水素酸と酸化ケイ素との反応によりケイフッ化水素酸が生成することを利用している。添加する酸化ケイ素は、溶存するフッ化水素酸との反応等量分で十分である。
【0041】
本発明で回収したケイフッ化水素酸は、例えばフッ化水素酸と酸化ケイ素との反応で合成される工業用ケイフッ化水素酸と比べて使用する酸化ケイ素が少なく、これに起因する不純物分が少ないので、ケイフッ化水素酸として問題なく適用できる。
【0042】
また、本発明(第3の発明)では、前記の場合において、蒸留により濃縮されて析出するフッ化アルミニウム・3水和物を濾過手段により分離して有価物を回収することができる。回収したフッ化アルミニウム・3水和物は、純度が高いので工業的に再利用が可能である。
【0043】
本発明による蒸留法により分離されたフッ化水素酸は、工業用酸原液と同等の酸液として再利用が可能であり、実際にケミカルエッチング液や金属洗浄液に問題なく適用できることが確認されている。
【0044】
前記いずれかの場合において、フッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液は、ガラスのケミカルエッチング廃液として利用することができる。これらの場合において回収されたフッ化水素酸は、ガラスのケミカルエッチング液として再利用することができる。
【0045】
また、フッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液は、半導体用洗浄廃液として利用することができる。この場合において回収されたフッ化水素酸はそのまま半導体産業用には使用できないが、一般工業用として再利用することができる。
【0046】
一方、本発明(第4の発明)は、フッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収するための常圧または減圧蒸留装置であって、蒸発缶、精留塔、初留受器、フッ化水素酸および塩酸の混合酸回収槽ならびに後留受器を備えたことを特徴とする。
【0047】
この場合において、釜残液に含まれる固形物を濾別する手段を備えていることが望ましい。この装置を用いて分離・回収される固形物は、高純度のフッ化アルミニウム・3水和物であり、工業的に再利用が可能である。
【発明の効果】
【0048】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法および請求項6または7記載の装置を用いて、フッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収することにより、少なくともフッ化水素酸を効率よく回収することができる。回収されたフッ化水素酸は、ケミカルエッチング液はもとより工業用酸液として再利用でき、ケイフッ化水素酸含有酸および高純度のフッ化アルミニウム・3水和物は工業的に再利用が可能であるとともに、産業廃棄物の量を著しく低減することができ、環境対策に大きく貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
供試液として、フッ化水素酸13.5%、ケイフッ化水素酸5.9%、ホウフッ化水素酸0.8%、アルミニウム0.23%などを含むアルミノホウケイ酸ガラスのケミカルエッチング廃液を使用した。
図1は、ケミカルエッチング廃液の蒸留処理のためのベンチプラント図を示す。
ケミカルエッチング廃液を蒸発缶1に約5kgを仕込み、凝縮器3および凝縮器4に冷却水を流す。真空ポンプ9を作動させて系内を10kPaに保持したのち、蒸発缶1の熱交換器にスチームを一定速度で流して加熱して減圧蒸留を開始した。留出物は精留塔2を通り、凝縮器3および4で凝縮される。凝縮液の一部は精留塔2に戻して還流させ、残りは初留受器5、HF回収槽6、HF−HSiF回収槽7の順に抜き出した。蒸留後、真空ポンプ9を停止し、系内を常圧に戻す。初留受器5中の液はフッ化水素酸が5%前後であり、集めて蒸留して薄いフッ化水素酸と20%前後の再利用できるフッ化水素酸に分離するのが好ましい。HF回収槽6中の液はケイフッ化水素酸をほとんど含まず(0.1%以下)にフッ化水素酸を主成分として含んでおり、抜き出した後、フッ化水素酸濃度を調整してケミカルエッチング液などとして再利用する。HF−HSiF回収槽7中の液は0.5〜2.0%のケイフッ化水素酸を含んでおり、蒸発缶1に戻しエッチング廃液と共に再蒸留することが好ましい。
【0050】
蒸発缶1に残った釜残は、フッ化アルミニウム・3水和物を含むスラリーで、濾過器10でフッ化アルミニウム・3水和物を濾別・回収し、フッ化水素酸とケイフッ化水素酸を主成分として含む濾液を粗製HSiF貯槽11に回収し、集めて蒸発缶1に戻し、蒸留して大部分のフッ化水素酸およびケイフッ化水素酸をHF−HSiF回収槽7に留出させて、フッ化水素酸とケイフッ化水素酸水溶液を回収し、集めて例えば図2に示す攪拌機を備えた反応器で酸化ケイ素を加えて反応せる(前記式(1))ことにより、共存するフッ化水素酸をケイフッ化水素酸に変換し、さらに水を加えて所定濃度のケイフッ化水素酸水溶液を調製してケイフッ化水素酸水溶液およびケイフッ化物合成用などの原料として再利用する。この際に生じた釜残は、フッ素固定化処理する。
【実施例】
【0051】
(実施例1:請求項1および請求項3の実施例)
図1に示す装置を用い、フッ化水素酸13.5%、ケイフッ化水素酸5.9%、ホウフッ化水素酸0.8%、アルミニウム0.23%などを含むアルミノホウケイ酸ガラスのケミカルエッチング廃液の5.0kgの蒸留試験を、10kPaの減圧下、50〜70℃の条件で蒸留を行った。得られた留分および釜残の分析結果を、表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
他に、高純度のフッ化アルミニウム・3水和物121gを通常の濾過操作で回収した。
【0054】
新たな供試液4.5kgに前回の後留分449gを加えて蒸留を行い、発生した後留分を次に回す操作を繰り返し計8回の減圧蒸留を行った。得られた留分および釜残の分析結果を、表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
主留分に水を加えて、20%フッ化水素酸水溶液を調製し、アルミノホウケイ酸ガラスのケミカルエッチング剤に供した結果、何ら問題は見られなかった。
【0057】
(実施例2)
実施例1で得た、釜残5.0kgを蒸発缶1に仕込み、10kPaで減圧蒸留した。得られた留分および釜残の分析結果を、表4に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
主留分のフッ化水素分を当量のSiOを加えて反応させてケイフッ化水素酸に変換し、水を加えて40%ケイフッ化水素酸を調製した。
【0060】
(実施例3)
実施例1で得た初留分、5000gを蒸発缶1に仕込み、10kPaの減圧下で蒸留した。得られた留分および釜残の分析結果を、表5に示す。
【0061】
【表5】

【0062】
(実施例4)
供試液として、フッ化水素酸6.1%、ケイフッ化水素酸0.9%、その他の不純物0.2%以下の半導体産業廃液5000gを蒸発缶1に仕込み、10kPaの減圧下で蒸留した。得られた留分および釜残の分析結果を、表6に示す。
【0063】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】ケミカルエッチング廃液の蒸留処理のためのベンチプラント図を示す。
【図2】回収したフッ化水素酸とケイフッ化水素酸水溶液から、フッ化水素酸をケイフッ化水素酸に変換するための装置図を示す。
【符号の説明】
【0065】
1 蒸発缶
2 精留塔
3 凝縮器
4 凝縮器
5 初留受器
6 HF回収槽
7 HF−HSiF回収槽
8 バッファータンク
9 真空ポンプ
10 濾過器
11 粗製HSiF貯槽
12 HF−HSiF貯槽
13 送液ポンプ
14 反応槽
15 HSiF貯槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収するに当って、前記廃液を常圧もしくは減圧下における蒸留操作によって、酸をほとんど含まない水主体の留分、ケイフッ化水素酸をほとんど含まずフッ化水素酸を主成分として含む留分、ならびにフッ化水素酸とケイフッ化フッ化水素酸を主成分として含む留分とに、順次分離して回収することを特徴とする、フッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収する方法。
【請求項2】
請求項1において、分離・回収した、フッ化水素酸とケイフッ化水素酸を主成分として含む留分に、酸化ケイ素SiOを加え、共存するフッ化水素酸をケイフッ化水素酸に変換して、ケイフッ化水素酸を主成分とする溶液を調製することを特徴とする、フッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収する方法。
【請求項3】
請求項1または2において、廃液中にアルミニウムを含有する系で蒸留により濃縮されて発生し釜残に含まれるフッ化アルミニウム・3水和物を濾過して分離・回収することを特徴とする、フッ加水素酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収する方法。
【請求項4】
前記フッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液が、ガラスのケミカルエッチング廃液である請求項1〜3のいずれかに記載のフッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収する方法。
【請求項5】
前記フッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液が、半導体用洗浄廃液である請求項1〜4のいずれかに記載のフッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収する方法。
【請求項6】
蒸発缶、精留塔、初留受器、主留受器ならびに後留受器を備えることを特徴とする、フッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収するための装置。
【請求項7】
釜残液に含まれる固形物を濾別する手段を備えた、請求項6記載のフッ化水素酸およびケイフッ化水素酸を含む廃液から酸成分を分離・回収するための装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−189484(P2008−189484A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22934(P2007−22934)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(390024419)森田化学工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】