説明

フッ硝酸廃液の精製装置および方法

【課題】 アルカリなど不純物となるイオンを添加することなく、フッ硝酸廃液に含まれるケイフッ酸を効率よく除去し、廃棄されるフッ酸と硝酸の量を少なくし、ケイフッ酸濃度が低く、フッ酸および硝酸濃度が高い精製フッ硝酸液を効率的に回収する装置、方法を提案する。
【解決手段】 陰極2と陽極3間に第1、第2のカチオン交換膜C1、C2が配置され、これらのカチオン交換膜間に第1、第2の1価選択性アニオン交換膜AS1、AS2が配置され、これらの1価選択性アニオン交換膜間に脱塩室4が形成され、第1のカチオン交換膜C1と第1の1価選択性アニオン交換膜AS1間に濃縮液室5が形成され、第2の1価選択性アニオン交換膜AS2と第2のカチオン交換膜C2間に精製液室6が形成され、脱塩室4にケイフッ酸を含むフッ硝酸廃液を導入し、脱塩室4から濃縮液室5に電解液を移送して電気透析し、精製液室6から精製液を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイフッ酸を含むフッ硝酸廃液を精製する装置および方法、特にフッ硝酸廃液からケイフッ酸を除去して、フッ硝酸濃度の高い精製フッ硝酸液を回収する装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池製造分野などシリコンウエハの表面加工や表面洗浄を行う工程では、ケイフッ酸を含むフッ硝酸廃液が排出される。例えば結晶シリコン太陽電池の表面加工工程(テクスチャー工程)で、処理液としてフッ酸と硝酸の混酸であるフッ硝酸液を使用すると、シリコンウエハの表面がエッチングされてケイフッ酸(ケイフッ化水素酸、HSiF)が副生成する。このフッ硝酸液はこれら副生成物の発生に伴い、エッチング能力が低下するので、ケイフッ酸濃度が高くなった段階で処理液が廃棄、交換されている。
【0003】
ここで廃棄されるフッ硝酸廃液はケイフッ酸を含み、フッ酸および硝酸濃度が高いので、窒素負荷、フッ素負荷共に非常に高く、産廃処理が困難である。またこのフッ硝酸廃液はフッ酸および硝酸濃度が高いため、これをそのまま廃棄すると、使用薬剤であるフッ硝酸液の使用量が増えることになり、薬液購入量も莫大となるため、フッ硝酸液を回収して再利用することが望まれている。
【0004】
従来、鋼板等の金属表面処理にフッ硝酸液が使用され、フッ酸および硝酸を含むフッ硝酸廃液が生成しており、このフッ硝酸廃液からフッ硝酸液を回収するために電気透析装置が採用されていた。例えば特許文献1(特開平9−10557号公報)には、拡散透析で脱酸した後、KOHなどのアルカリ金属水溶液を添加して中和後に、金属析出物をろ過し、そのろ液(KFまたはKNO)をカチオン交換膜、アニオン交換膜およびバイポーラ膜を備えた電気透析装置で回収する方法が記載されている。
【0005】
また特許文献2(特開2009−39672号公報)には、電気透析(一対のアニオン交換膜Aの間に陽極側からカチオン交換膜C、1価選択カチオン交換膜CSを複数対配置した脱塩脱酸槽;A−C−CS−A)において、脱塩室(A−C)で金属イオン(Fe2+、Cr2+、Ni2+)と無機酸(F、NO)にそれぞれ分離した後、そのカチオン濃縮液に硫酸を添加し、該硫酸添加濃厚廃液を(C−CS)に入れてHのみを回収酸室(CS−A)に通してフッ硝酸を得る方法が記載されている。
【0006】
しかしこれらの特許文献1、2に示されたフッ硝酸廃液は金属表面処理から発生するもので、金属酸化物、金属塩等の不純物を溶解し、金属イオン、塩化物イオン、硫酸イオン等の金属塩不純物を含むフッ硝酸廃液から、カチオンあるいはアニオン透過膜を利用してこれらの金属塩不純物を除去し、フッ硝酸を回収する方法であり、シリコンウエハの表面加工や表面洗浄から発生するケイフッ酸を含むフッ硝酸廃液からケイフッ酸を除去して、フッ硝酸濃度の高い精製フッ硝酸液を回収する方法については開示がない。
【0007】
特許文献1、2の方法を、シリコンウエハの表面加工や表面洗浄から発生するケイフッ酸を含むフッ硝酸廃液に適用しても、ケイフッ酸の分離は困難である。すなわち特許文献1、2では、カチオンあるいはアニオン交換膜を通して、フッ酸や硝酸イオンを分離しているが、通常のアニオン交換膜による電気透析では、回収したいフッ酸や硝酸の1価イオンと、除去したいケイフッ酸イオン(SiF2−、HSiF)は同じ挙動を示すので、フッ酸や硝酸イオンとケイフッ酸イオンを分離することができない。また特許文献1、2では、アルカリなど添加物を加えて金属塩を分離しているが、このような操作をケイ
フッ酸を含むフッ硝酸廃液に適用すると、アルカリなどの除去にさらなる工程を要するとともに、不純物が加わることになり、シリコンエッチング工程への影響が出るなどの問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−10557公報
【特許文献2】特開2009−39672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、前記のような従来の問題点を解決するため、アルカリなど不純物となるイオンを添加することなく、フッ硝酸廃液に含まれるケイフッ酸を効率よく除去するとともに、廃棄されるフッ酸および硝酸の量を少なくし、ケイフッ酸濃度が低く、フッ酸および硝酸濃度が高い精製フッ硝酸液を効率的に回収することができるフッ硝酸廃液の精製装置および方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は次のフッ硝酸廃液の精製装置および方法である。
(1) 陰極および陽極間に配置された第1および第2のカチオン交換膜と、
第1および第2のカチオン交換膜間に配置された第1および第2の1価選択性アニオン交換膜と、
第1および第2の1価選択性アニオン交換膜間に形成された脱塩室と、
第1のカチオン交換膜および第1の1価選択性アニオン交換膜間に形成された濃縮液室と、
第2の1価選択性アニオン交換膜および第2のカチオン交換膜間に形成された精製液室と、
脱塩室へケイフッ酸を含むフッ硝酸廃液を導入する廃液導入路と、
脱塩室から濃縮液室へ電解液を移送する電解液移送路と、
濃縮液室からケイフッ酸濃縮液を取出す濃縮液排出路と、
精製液室から精製液を取出す精製液取出路と、
陰極および第1のカチオン交換膜間に形成された陰極室と、
陽極および第2のカチオン交換膜間に形成された陽極室とを含むことを特徴とするフッ硝酸廃液の精製装置。
(2) 1価選択性アニオン交換膜は、ケイフッ酸(へキサフルオロケイ酸)と1価のアニオンの透過選択性が、
ケイフッ酸/1価アニオン<1
である上記(1)記載の装置。
(3) 陰極室に硝酸液を導入する陰極室液路および陽極室に硝酸液を導入する陽極室液路を含む上記(1)または(2)記載の装置。
(4) 上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の装置の廃液導入路から脱塩室へ、ケイフッ酸を含むフッ硝酸廃液を導入し、
脱塩室から電解液移送路を通して濃縮液室へ電解液を移送して、
陰極および陽極間に通電して電気透析を行い、
濃縮液室から濃縮液排出路を通してケイフッ酸濃縮液を取出し、
精製液室から精製液取出路を通して精製液を取出すことを特徴とするフッ硝酸廃液の精製方法。
(5) 精製液取出路を通して取出した精製液に、硝酸および/またはフッ酸を加えて処理液を調製する上記(4)記載の方法。
【0011】
本発明において、精製の対象となるフッ硝酸廃液は、ケイフッ酸を含むフッ硝酸廃液である。このようなフッ硝酸廃液としては、太陽電池製造分野などシリコンウエハの表面加工や表面洗浄を行う工程において、ケイフッ酸液を処理液として処理を行う際排出されるフッ硝酸廃液があげられる。具体的には結晶シリコン太陽電池の表面加工工程(テクスチャー工程)で、処理液としてフッ酸と硝酸の混酸であるフッ硝酸液を使用することにより、シリコンウエハの表面がエッチングされて副生成するケイフッ酸を含むフッ硝酸廃液があげられる。本発明で処理対象とするフッ硝酸廃液としては、硝酸1〜68重量%、好ましくは4〜60重量%、フッ酸0.5〜30重量%、好ましくは1〜20重量%およびケイフッ酸0.5〜30重量%好ましくは1〜10重量%を含む水溶液が適している。
【0012】
本発明では、このようなフッ硝酸廃液からケイフッ酸を除去して、フッ硝酸濃度の高い精製フッ硝酸液を回収する。シリコンウエハの表面加工や表面洗浄を行う工程において、処理液として用いられるフッ硝酸液は、フッ酸と硝酸の混酸であり、フッ酸と硝酸の組成比は目的とする処理により変わる。またこれらの処理により生成するフッ硝酸廃液の組成比も、処理の目的や処理対象物等により変化するが、フッ硝酸廃液を組成する成分は、硝酸、フッ酸およびケイフッ酸を主成分とし、他の不純物を含む。
【0013】
ケイフッ酸は一般的にはケイフッ化水素酸として、HSiFで表されるが、水溶液中では一部が解離し、pHにより解離状態が分かれる。酸液中では化学平衡によって、HSiF、HSiF、SiF2−に解離し、化学種の存在割合が異なる。このようなケイフッ酸からフッ酸および硝酸を分離するためにアニオン交換膜を用いて透析すると、フッ酸のFおよび硝酸のNOとともにHSiF、SiF2−も透過する。そしてHSiF、SiF2−が透過すると、化学平衡を維持するようにHSiFはさらに解離するため、これらの分離は困難である。
【0014】
本発明においては、HSiFおよびSiF2−の透過を防止するために、1価選択性アニオン交換膜を用いるが、ケイフッ酸はpHで解離状態が分かれており、1価のアニオンが透過すると、平衡状態を維持するようにケイフッ酸が解離してくるため、1価選択透析膜1枚では阻止率が50%以下と低い。通常このような場合には多段処理が行われるが、本発明では1対のカチオン交換膜と、1対の1価選択性アニオン交換膜とを組合わせて用いることにより、ケイフッ酸とフッ酸および硝酸との分離性能を高め、ケイフッ酸濃度が低く、フッ酸および硝酸濃度が高い精製フッ硝酸液を回収する。
【0015】
本発明のフッ硝酸廃液の精製装置では、陰極および陽極間に第1および第2のカチオン交換膜が配置され、第1および第2のカチオン交換膜間に第1および第2の1価選択性アニオン交換膜が配置されている。そして第1および第2の1価選択性アニオン交換膜間に脱塩室が形成され、第1のカチオン交換膜および第1の1価選択性アニオン交換膜間に濃縮液室が形成され、第2の1価選択性アニオン交換膜および第2のカチオン交換膜間に精製液室が形成されている。脱塩室にはケイフッ酸を含むフッ硝酸廃液を導入する廃液導入路が連絡し、脱塩室および濃縮液室には電解液を移送する電解液移送路が連絡し、濃縮液室にはケイフッ酸濃縮液を取出す濃縮液排出路が連絡し、精製液室には精製液を取出す精製液取出路が連絡している。陰極および第1のカチオン交換膜間には陰極室が形成され、陽極および第2のカチオン交換膜間には陽極室が形成されており、それぞれ硝酸液を導入する陰極室液路および硝酸液を導入する陽極室液路に連絡しているのが好ましい。
【0016】
第1および第2のカチオン交換膜は、電気透析によりカチオンを選択的に透過させ、アニオンの透過を阻止する透過膜であり、従来から電気透析に用いられているカチオン交換膜を用いることができる。このようなカチオン交換膜としては、例えばポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、フッ素系樹脂などからなる織布、不織布、多孔性フィルム等を基材とし、この基材にイオン交換樹脂が充填された構造を有するものがあげられる。イオン交
換樹脂としては、炭化水素系、フッ素系等の基材樹脂にカチオン交換基が導入されたものである。カチオン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基等が挙げられるが、一般的には強酸性基であるスルホン酸基が好ましい。カチオン交換容量は0.1〜3.0meq/g、好ましくは0.5〜2.5meq/g、膜厚は10〜500μm、好ましくは30〜300μmのものが好適である。
【0017】
第1および第2の1価選択性アニオン交換膜は、電気透析により1価のアニオンを選択的に透過させ、カチオンおよび2価以上のアニオンの透過を阻止する透過膜であり、従来から電気透析に用いられている1価選択性アニオン交換膜を用いることができる。このような1価選択性アニオン交換膜としては、例えば特開平8−71387号に記載された陰イオン交換膜の少なくとも片側の面にパーフルオロ系陽イオン交換層を持つもの、あるいは他の市販のものなどがあげられる。1価選択性アニオン交換膜は、ケイフッ酸(へキサフルオロケイ酸)と1価のアニオンの透過選択性が、ケイフッ酸/1価アニオン<1であるものが好ましい。アニオン交換容量は0.1〜5meq/g、好ましくは1.5〜4.5 meq/g、膜厚は10〜500μm、好ましくは50〜200μmのものが好適である。
【0018】
各透過膜の大きさは、処理目的、装置の規模等によって任意に決められるが、一般的には、横200〜500mm、縦300〜1000mm、好ましくは横200〜300mm、縦300〜600mm、膜間隔は一般的には、0.2〜2.0mm、好ましくは0.3〜0.8mm、透析時の電流密度は0.1〜10A/dm、好ましくは1〜5A/dmとするのが好ましい。フッ硝酸廃液の精製装置は、上記各透過膜からなるセルスタックを1個用いることができるが、複数を並列または直列に接続することもできる。
【0019】
本発明のフッ硝酸廃液の精製方法は、上記のフッ硝酸廃液の精製装置を用いてフッ硝酸廃液の精製を行う方法である。この場合、廃液導入路から脱塩室へ、ケイフッ酸を含むフッ硝酸廃液を導入し、脱塩室から電解液移送路を通して濃縮液室へ電解液を移送して、陰極および陽極間に通電して電気透析を行い、濃縮液室から濃縮液排出路を通してケイフッ酸濃縮液を取出し、精製液室から精製液取出路を通して精製液を取出す。脱塩室からは、解離した1価アニオンが第2の1価選択性アニオン交換膜を通して精製液室へ透過し、精製液が形成される。濃縮液室からは、解離した1価アニオンが第1の1価選択性アニオン交換膜を通して脱塩室へ透過し、脱塩室内のケイフッ酸の1価イオンへの解離を抑制する。
【0020】
精製液室へは、両側の膜を通して1価アニオンおよび水素イオンが透過し、フッ硝酸の精製液が形成される。精製液を循環することにより濃度分極を防止し、フッ硝酸の濃度を高めることができる。濃厚なフッ硝酸を得る場合には精製液を循環させてF、NOが脱塩室側へ逆拡散しない濃度まで濃縮させることが好適である。トータルイオン濃度でおよそ2〜3Mの濃度とすることができる。ただしフッ酸は低pHで非解離状態のHFで存在するため、硝酸濃度が高い場合はより濃縮することが可能である。精製液取出路を通して取出した精製液は、硝酸および/またはフッ酸を加えて所定濃度の処理液を調製し、表面処理、洗浄等の処理工程に返送することができる。
【0021】
陰極室には陰極室液路から硝酸液を導入し、陽極室には陽極室液路から硝酸液を導入して循環し、発生するガスを排出するとともに液を攪拌するのが好ましい。精製液室には脱イオン水、硝酸および/またはフッ酸水溶液などを供給することができる。脱イオン水の場合はイオンの拡散により導電性が得られた状態で本格運転に移るのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のフッ硝酸廃液の精製装置および方法では、陰極および陽極間に第1および第2
のカチオン交換膜が配置され、第1および第2のカチオン交換膜間に第1および第2の1価選択性アニオン交換膜が配置され、第1および第2の1価選択性アニオン交換膜間に脱塩室が形成され、第1のカチオン交換膜および第1の1価選択性アニオン交換膜間に濃縮液室が形成され、第2の1価選択性アニオン交換膜および第2のカチオン交換膜間に精製液室が形成され、脱塩室にケイフッ酸を含むフッ硝酸廃液を導入し、脱塩室から濃縮液室に電解液を移送して電気透析するようにしたので、アルカリなど不純物となるイオンを添加することなく、フッ硝酸廃液に含まれるケイフッ酸を効率よく除去するとともに、廃棄されるフッ酸および硝酸の量を少なくし、ケイフッ酸濃度が低く、フッ酸および硝酸濃度が高い精製フッ硝酸液を効率的に回収することができるなどの効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態のフッ硝酸廃液の精製装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図1により説明する。図1において、フッ硝酸廃液の精製装置1は、陰極2と陽極3との間に第1のカチオン交換膜C1および第2のカチオン交換膜C2が配置されている。第1のカチオン交換膜C1と第2のカチオン交換膜C2との間に、第1の1価選択性アニオン交換膜AS1および第2の1価選択性アニオン交換膜AS2が配置されている。これにより第1の1価選択性アニオン交換膜AS1と第2の1価選択性アニオン交換膜AS2との間に脱塩室4が形成されている。また第1のカチオン交換膜C1と第1の1価選択性アニオン交換膜AS1との間に濃縮液室5が形成され、第2の1価選択性アニオン交換膜AS2と第2のカチオン交換膜C2との間に精製液室6が形成されている。
【0025】
脱塩室4には廃液貯槽7から廃液導入路L1が連絡し、ケイフッ酸を含むフッ硝酸廃液11を導入するように構成されている。脱塩室4と濃縮液室5との間には電解液移送路L2が連絡し、電解液を脱塩室4から濃縮液室5へ移送するように構成されている。濃縮液室5には濃縮液排出路L3が連絡し、ケイフッ酸濃縮液を系外へ取出すように構成されている。精製液室6には精製液取出路L4が連絡し、弁V1を通して精製液を取出して、処理工程へ返送するように構成されている。精製液取出路L4の弁V1の手前から分岐路L5が精製液貯槽8に連絡し、精製液貯槽8から精製液循環路L6が精製液室6に連絡し、精製液貯槽8内の精製液12がポンプPにより循環するように構成されている。L7は補給水路で、脱イオン水を精製液貯槽8に導入するように連絡している。
【0026】
陰極2と第1のカチオン交換膜C1との間には陰極室9が形成され、陰極室液を導入する陰極室液導入路L8、陰極室液を循環する陰極室液循環路L9および水素ガス排出路L10が連絡している。また陽極3と第2のカチオン交換膜C2との間には陽極室10が形成されており、陽極室液を導入する陽極室液導入路L11、陽極室液を循環する陽極室液循環路L12および酸素ガス排出路L13が連絡している。陰極室液および陽極室液としては、それぞれ硝酸水溶液が用いられている。
【0027】
上記の精製装置1によるフッ硝酸廃液の精製方法は、廃液貯槽7からケイフッ酸を含むフッ硝酸廃液11を、廃液導入路L1を通して脱塩室4へ導入し、脱塩室4から電解液移送路L2を通して濃縮液室5へ電解液を移送し、陰極2および陽極3間に通電して電気透析を行う。このとき濃縮液室5から濃縮液排出路L3を通してケイフッ酸濃縮液を取出す。精製液室6の精製液は精製液取出路L4から弁V1を通して取出す。精製液の一部は分岐路L5から精製液貯槽8に入って貯留され、ポンプPにより精製液循環路L6から精製液室6に循環する。精製液貯槽8には補給水路L7から脱イオン水を補給水として導入する。
【0028】
電気透析により、脱塩室4のフッ硝酸廃液中の解離したF、NO、HSiF等の1価アニオンが第2の1価選択性アニオン交換膜AS2を通して精製液室6へ透過し、一方陽極室10から第2のカチオン交換膜C2を通してHが精製液室6へ透過する。これにより精製液室6で精製液が形成され、精製液取出路L4から取出される。また脱塩室4のHは第1の1価選択性アニオン交換膜AS1を通して濃縮液室5へ透過する。脱塩室4に残留する1価イオンおよび透過しなかった2価以上または解離しないケイフッ酸を含む電解液は、電解液移送路L2を通して脱塩室4から濃縮液室5へ移送される。精製液取出路L4を通して取出した精製液は、硝酸および/またはフッ酸を加えて所定濃度の処理液を調製し、表面処理、洗浄等の処理工程に返送する。
【0029】
濃縮液室5では、電解液中の解離した1価アニオンが第1の1価選択性アニオン交換膜AS1を通して脱塩室4へ透過し、Hが第1のカチオン交換膜C1を通して陰極室9へ透過する。これにより濃縮液室5では電解液中のケイフッ酸が濃縮されて、ケイフッ酸濃縮液が生成し、濃縮液排出路L3から系外へ取出される。
【0030】
ケイフッ酸廃液中のケイフッ酸は化学平衡によって、解離しないHSiFのほか、2価のSiF2−および1価のHSiFに解離している。このうち1価のHSiFは第1の1価選択性アニオン交換膜AS1および第2の1価選択性アニオン交換膜AS2を通して脱塩室4および精製液室6へ透過するが、解離しないHSiFおよび2価のSiF2−は透過しないでそのまま残る。ケイフッ酸のイオン組成が平衡関係にあるということは、1価のHSiFが透過により失われると、これを補うようにHSiFおよび2価のSiF2−が解離する方向に平衡が移動することを意味しており、一義的にはHSiFの解離と透過が繰返されることになる。1価選択透析膜1枚で透過を行う場合の阻止率が50%以下と低いのは、このような原因によるものと推測される。
【0031】
これに対し上記の精製装置1では、1価のHSiFは第1の1価選択性アニオン交換膜AS1および第2の1価選択性アニオン交換膜AS2を通して透過するので、脱塩室4の1価のHSiFが第2の1価選択性アニオン交換膜AS2を通して透過することにより失われても、濃縮液室5から第1の1価選択性アニオン交換膜AS1を通して1価のHSiFが脱塩室4へ透過してくるため、脱塩室4の1価のHSiFの濃度に大きな変化はない。このため脱塩室4内のケイフッ酸の1価イオンへの解離は抑制され、精製液室6へのケイフッ酸の透過は最小限に抑えられる。
【0032】
他のイオンについても、脱塩室4のフッ硝酸廃液中のFおよびNOが精製液室6へ透過して、電解液中のFおよびNO濃度が低下すると、導電性、透析力等の点からこれらの透過性が低下するが、濃縮液室5から第1の1価選択性アニオン交換膜AS1を通してFおよびNOが脱塩室4へ透過してくるため、脱塩室4の1価のFおよびNOの濃度に大きな変化はなくなり、これらの透析性も高く維持され、分離性能を高く維持することができる。
【0033】
陰極室9では、水の電解により水素ガスが発生し、このとき生成するOHは、第1のカチオン交換膜C1を透過してくるHと結合して水が生成する。陰極室9には陰極室液導入路L8から陰極室液として硝酸液を導入し、陰極室液循環路L9を通して陰極室液を循環することにより陰極室液を攪拌し、発生する水素ガスを押し流して水素ガス排出路L10から排出する。
【0034】
陽極室10では、水の電解により酸素ガスが発生し、このとき生成するHは、第2のカチオン交換膜C2を通して精製液室6に透過する。陽極室10には陽極室液導入路L1
1から陽極室液として硝酸液を導入して陽極室液循環路L12を通して陰極室液を循環し、発生する酸素ガスを排出するとともに液を攪拌する。陰極室液および陽極室液として硝酸液を使用すると、電極および膜の損傷、汚染、析出等がないので好ましいが、他の液を用いてもよい。
【0035】
補給水路L7から脱イオン水を精製液貯槽8に導入することにより、精製液室に脱イオン水を供給することができるが、脱イオン水の場合は導電性がないので、イオンの拡散により導電性が得られた状態で本格運転に移るのが好ましい。スタート時には、硝酸またはフッ硝酸水溶液などを供給し、透過イオンが濃縮された段階で脱イオン水を供給するようにしてもよい。
【0036】
上記の方法において、ケイフッ酸が混合したフッ硝酸廃液を脱塩室4に通すと、第2の1価選択性アニオン交換膜AS2を通してFとNOが精製液室6に透過して、ケイフッ酸の一部(SiF2−)は阻止される。これはケイフッ酸のうちHSiF、HSiF、SiF2−と化学平衡によって、化学種の存在割合が違い、HSiFのみが透過するからである。これにより通常のアニオン交換膜では、それぞれのイオンのモル濃度と無限希釈におけるモル導電率の乗じたものがイオン移動速度となり、その速度比によって、透過イオン組成が決まる。
【0037】
本発明の場合、SiF2−が1価選択アニオン交換膜を透過しにくいので、透過したイオン比はSiF2−/(F+NO)が供給する廃液よりも小さい方向となる。したがって脱塩室4を通過した電解液は、ケイフッ酸の一部が阻止され、F、NOが精製液室6へ移動するために、供給廃液よりも脱塩室4の出口でケイフッ酸がフッ硝酸よりも高い比率となっている。この脱塩室4出口の電解液を濃縮液室5に通すと、そこでもケイフッ酸の一部は阻止されて、F、NOが脱塩室4に移動するために脱塩室4はさらにケイフッ酸よりもフッ硝酸比率が高い溶液となる。
【0038】
こうして脱塩室4は供給廃液のケイフッ酸/フッ硝酸比率がより低い液が供給されるため、第2の1価選択性アニオン交換膜AS2を通して精製液室6へ移動するF、NO比率も高くなる。これにより精製液室6から得られる精製液は硝酸および/またはフッ酸濃度が高く、ケイフッ酸濃度が低くなり、処理工程への返送が可能になる。一方、濃縮液室5から得られる濃縮液は、ケイフッ酸濃度が濃度が高く、硝酸および/またはフッ酸濃度が低くなり、不純物が少ないため廃液処理が容易になる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例、比較例について説明する。各例中、%は重量%である。
【0040】
〔実施例1、比較例1〕:
図1に示す一対のセルスタック(陰極−C1−AS1−AS2−C2−陽極)の構造の電気透析装置(ラボテスト用ミニモジュール)を用いて、下記模擬酸廃液の精製を行った。実施例1では、カチオン交換膜C1、C2として、アストム社製ネオセプタCMX(商標)、1価選択性アニオン交換膜AS1、AS2として、アストム杜ネオセプタACS(商標)を用いた。比較例1では、実施例1の1価選択性アニオン交換膜AS1、AS2に代えて、通常のアニオン交換膜であるアストム社製ネオセプタAMX(商標)を用いたほかは、実施例1と同様に試験した。
【0041】
実施例1、比較例1とも、精製装置1のカチオン交換膜およびアニオン交換膜1枚の片面の膜面積は5cm×11cm-=55cm(0.55dm)、電流密度は2A/dm、膜間隔は0.6mmであり、HNO濃度;5%、HF濃度;2%、HSiF濃度;2%の組成の模擬酸廃液を1L、脱塩室4における通水速度LVが約0.15cm
/secとして、6hr通液して処理した。このとき陰極室9、陽極室10にはそれぞれ1MのHNO水溶液500mLを導入し、循環通水した。また精製室6には100mLの純水を導入し、循環通水した。実施例1、比較例1の試験結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
上記表1より、本発明の実施例1では比較例1よりも、精製液室6の出口の回収精製液のHNOおよびHFの比率が高く、ケイフッ酸(HSiF)の比率が低くなり、フッ硝酸の回収が可能であることが分かる。また実施例1では比較例1よりも、濃縮液室5の出口の廃棄濃縮液のHNOおよびHFの比率が低く、ケイフッ酸(HSiF)の比率が高くなり、廃液の処理が容易であることが分かる。
【0044】
上記の回収精製液はフッ硝酸の濃厚溶液で濃度調整を行った後、プロセスヘ返戻して再利用することも可能である。シリコンエッチング工程では、廃液時のシリコンエッチングレートを考慮して、非常に高いフッ硝酸濃度で建浴するが、常時工程液を引き抜いて本発明の電気透析処理を行うことで、低濃度のフッ硝酸濃度による工程管理が可能となった。またフッ硝酸工程液の濃度ばらつきが少なくなるため、エッテングレートのばらつきを抑えることも可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、太陽電池製造分野などシリコンウエハの表面加工や表面洗浄を行う工程から排出されるケイフッ酸を含むフッ硝酸廃液を精製する装置および方法、特にフッ硝酸廃液からケイフッ酸を除去して、フッ硝酸濃度の高い精製フッ硝酸液を回収する装置および方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0046】
1: フッ硝酸廃液の精製装置、2: 陰極、3: 陽極、4: 脱塩室、5: 濃縮液室、6: 精製液室、7: 廃液貯槽、8: 精製液貯槽、9: 陰極室、10: 陽極室、11: フッ硝酸廃液、12: 精製液、C1: 第1のカチオン交換膜、C2:
第2のカチオン交換膜、AS1: 第1の1価選択性アニオン交換膜、AS2: 第2の1価選択性アニオン交換膜、L1: 廃液導入路、L2: 電解液移送路、L3: 濃縮液排出路、L4: 精製液取出路、L5: 分岐路、L6: 精製液循環路、L7: 補給水路、L8: 陰極室液導入路、L9: 陰極室液循環路、L10: 水素ガス排出路、L11: 陽極室液導入路、L12: 陽極室液循環路、L13: 酸素ガス排出路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極および陽極間に配置された第1および第2のカチオン交換膜と、
第1および第2のカチオン交換膜間に配置された第1および第2の1価選択性アニオン交換膜と、
第1および第2の1価選択性アニオン交換膜間に形成された脱塩室と、
第1のカチオン交換膜および第1の1価選択性アニオン交換膜間に形成された濃縮液室と、
第2の1価選択性アニオン交換膜および第2のカチオン交換膜間に形成された精製液室と、
脱塩室へケイフッ酸を含むフッ硝酸廃液を導入する廃液導入路と、
脱塩室から濃縮液室へ電解液を移送する電解液移送路と、
濃縮液室からケイフッ酸濃縮液を取出す濃縮液排出路と、
精製液室から精製液を取出す精製液取出路と、
陰極および第1のカチオン交換膜間に形成された陰極室と、
陽極および第2のカチオン交換膜間に形成された陽極室とを含むことを特徴とするフッ硝酸廃液の精製装置。
【請求項2】
1価選択性アニオン交換膜は、ケイフッ酸(へキサフルオロケイ酸)と1価のアニオンの透過選択性が、
ケイフッ酸/1価アニオン<1
である請求項1記載の装置。
【請求項3】
陰極室に硝酸液を導入する陰極室液路および陽極室に硝酸液を導入する陽極室液路を含む請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の装置の廃液導入路から脱塩室へ、ケイフッ酸を含むフッ硝酸廃液を導入し、
脱塩室から電解液移送路を通して濃縮液室へ電解液を移送して、
陰極および陽極間に通電して電気透析を行い、
濃縮液室から濃縮液排出路を通してケイフッ酸濃縮液を取出し、
精製液室から精製液取出路を通して精製液を取出すことを特徴とするフッ硝酸廃液の精製方法。
【請求項5】
精製液取出路を通して取出した精製液に、硝酸および/またはフッ酸を加えて処理液を調製する請求項4記載の方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−125723(P2012−125723A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280743(P2010−280743)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】