説明

フッ素樹脂フィルムの接合方法

【課題】フッ素樹脂フィルムの接合技術を、接合強度を強くし、接合後に剥離しづらくできるように改良する。
【解決手段】フッ素樹脂フィルム201の例えば縁部同士を接合するにあたり、フッ素樹脂(ETFE)の繊維を織って作られた溶着用織物を、フッ素樹脂フィルム201の重ね合わせられた縁部の間に挟み込み、その状態で溶着用織物ごとフッ素樹脂フィルム201の縁部同士を溶着する。そのとき、溶着の温度は、溶着用織物を構成する繊維を形成するフッ素樹脂の融点の70℃〜85℃上とし、溶着後においても溶着用織物を構成する繊維の一部の芯が残るようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂フィルム同士を接合する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば膜構造物を構築するための建材として用いられる膜材料の中に、フッ素樹脂で形成された、例えばガラス繊維織物等の基材を有さない、典型的にはフィルム一層のみの、略透明なフッ素樹脂フィルムがある。そして、かかるフッ素樹脂フィルムは、フッ素樹脂フィルムの一部と他の一部(異なるフッ素樹脂フィルムの一部同士の場合、同じフッ素樹脂フィルムの一部と他の一部の場合を含む)を接続する必要性に迫られる場合がある。例えば、フッ素樹脂フィルムは、膜構造物を構築するために用いられるのであれば大面積にする必要が生じる場合がままあり、その使用の際には隣接するフッ素樹脂フィルムの縁部同士を接合する必要性に迫られる。
【0003】
フッ素樹脂フィルムの接合は一般に、加熱を伴う溶着によって行われる。かかる溶着は、フッ素樹脂の融点よりも高温で、隣接するフッ素樹脂フィルムの重なりあった縁の部分を、多くの場合は適当な圧力で加圧しながら加熱することにより実行されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶着時の加圧しながらの加熱は、多くの場合、フッ素樹脂フィルムに当接する部材であるヒーターを有する加熱溶着機を用いて行われる。
しかしながら、フッ素樹脂フィルムの接合された部分の強度は、フッ素樹脂フィルムの他の部分よりも低下するのが常である。特に、ガラス繊維織物等の基材を有さないフッ素樹脂フィルムの場合は、基材が存在しないため、フッ素樹脂フィルムの接合部近辺では、フッ素樹脂の厚さむら等に起因してその部分から引裂が生じるおそれがないとはいえない。上述したように基材を有さないフッ素樹脂フィルムの場合には、引裂が生じた場合にはその伝播を止めることが難しいから、引裂の発生はなるべく防止したいという要求があり、また仮に引裂が生じたとしてもその被害を最小限にするために引裂の伝播を防止したいという要求がある。
【0005】
本発明は、フッ素樹脂フィルムの接合技術を、接合強度を強くし、特に接合後の引裂を防止し易くする技術を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するための本願発明は、以下のようなものである。
本願発明は、フッ素樹脂にて形成のフッ素樹脂フィルム同士を接合するフッ素樹脂フィルムの接合方法である。そして、この接合方法では、前記フッ素樹脂フィルムの接合の対象となる範囲同士が重ねられた部分に、フッ素樹脂にて形成された繊維を織って作られた溶着用織物を挟み込み、その状態で前記フッ素樹脂フィルムの接合の対象となる範囲同士が重なった部分に前記溶着用織物を構成する前記繊維を形成するフッ素樹脂の融点以上の温度の熱を加えて、前記溶着用織物ごと前記フッ素樹脂フィルム同士を溶着する。
このフッ素樹脂フィルムの接合方法では、フッ素樹脂にて形成のフッ素樹脂フィルム同士を接合するにあたって、前記フッ素樹脂フィルムの接合の対象となる範囲同士が重ねられた部分に、フッ素樹脂にて形成された繊維を織って作られた溶着用織物を挟み込み、その状態で溶着用織物ごと溶着を行う。
本願発明者の研究によれば、溶着用織物を挟み込んだ状態でフッ素樹脂フィルムの接合を行うと、溶着用織物中の繊維が、引裂が生じることと、生じた引裂の伝播とを食い止めるため、溶着した部分が引裂に強くなる。
また、これは二次的な作用効果であるが、溶着用織物を挟み込んだ状態でフッ素樹脂フィルムの接合を行うと、溶着部分の質量が増すことから、フッ素樹脂フィルムに生じた振動が抑制されやすくなるので、雨音等の消音効果を得ることも可能となる。
【0007】
本願発明における溶着用織物を構成する繊維は、以下のフッ素樹脂にて形成されていてもよい。即ち、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという。融点は327℃である。)、テトラフルオロエチレン/エチレンの共重合体(以下、ETFEという。融点は260〜270℃である。)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体(以下、PFAという。融点は310℃である。)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体(以下、FEPという。融点は260℃である。)、ポリクロロトリフルオロエチレン(以下、PCTFEという。融点は220℃である。)、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFという。融点は151〜178℃である。)、ポリフッ化ビニル(以下、PVFという。融点は203℃である。)等である。これらのうち好ましいのは、ETFE、FEPであり、特に好ましいのはETFEである。
なお、溶着用織物を構成する繊維を形成するフッ素樹脂との関係にもよるが、フッ素樹脂フィルムを形成するフッ素樹脂としても上に例示したものを用いることができる。フッ素樹脂フィルムを形成するフッ素樹脂としても、ETFE、FEPが好ましく、特にETFEが好ましい。フッ素樹脂フィルムを形成するフッ素樹脂は、溶着用織物を構成する繊維を形成するフッ素樹脂と同じものでも良いし、異なるものでも良いが、両者が同じである方が好ましい。
【0008】
本願発明では、溶着の条件は適当な範囲で選択することができる。
例えば、本願発明では、前記溶着を行う際に、溶着の条件を、前記溶着用織物を構成する前記繊維の一部が溶融するものの、前記繊維のすべてがその形を失わないようなものとすることができる。
本願発明者の研究によれば、溶着用織物を構成する繊維の一部が溶融するものの、繊維のすべてがその形を失わないような条件で溶着を行った場合、接合後のフッ素樹脂フィルムの接合強度がより強くなり、結果としてより引裂が伝播しづらい状態となることが見出されている。溶着後においても形を失わなかった溶着用織物の繊維は、それを堺にして引裂の伝播を食い止める役目を果たすため溶着後の溶着用織物が、結果として引裂に強くなる。
なお、溶着用織物を構成する繊維の一部が溶融するものの、繊維のすべてがその形を失わないようなものとするための溶着の条件は、溶着用織物の性状、例えば、溶着用織物を構成する繊維を形成するフッ素樹脂の種類、同フッ素樹脂にて形成された繊維の太さ、含まれる繊維の詰まり具合等によって変化するが、具体的には、溶着の際の温度、加熱時間、加える圧の強さ等の各パラメータを適宜調整すればよい。そのような調整を行うことにより、溶着用織物を構成する繊維の一部が溶融するものの、繊維のすべてがその形を失わないような状態を作り出すことができる。
本願発明による接合方法では、上述したように、溶着の条件を、前記溶着用織物を構成する前記繊維の一部が溶融するものの、前記繊維のすべてがその形を失わないようなものとすることができるが、より具体的には、前記溶着を行う際における溶着の条件を、前記溶着用織物を構成する前記繊維の一部の芯が残るようなものとすることができる。ここでいう「繊維の一部の芯が残るような」とは、溶着後において、溶着用織物を構成していたフッ素樹脂繊維の存在が目視で確認できる状態にあれば良いものとする。
本願発明者の研究によれば、溶着用織物を構成する繊維の一部の芯が残るような状態で溶着を行った場合、接合強度がより強くなり、接合後により引裂に強くなることが見出されている。
【0009】
溶着の条件は、上述したように、接合の対象となるフッ素樹脂フィルムの性状に伴って適宜変更可能である。溶着を行う場合の温度についても同様であるが、前記溶着を行う際の温度を、前記溶着用織物を構成する前記繊維を形成する前記フッ素樹脂の融点から85℃上までの範囲の温度とするのが好ましい。
溶着の際の温度の上限を上述の85℃の範囲内とするのは、溶着時において、溶着用織物を構成する繊維を形成するフッ素樹脂の融点を85℃以上上回る温度で加熱した場合には、溶着用織物を構成する繊維が溶融し過ぎる状態になり易くなるため、引裂の伝播防止の効果を得にくくなるからである。つまり、溶着用織物を構成する繊維を形成するフッ素樹脂の融点を85℃以上上回る温度で加熱すると、他のパラメータとの兼ね合いもあるが、溶着用織物を構成する繊維の一部が溶融するものの、繊維のすべてがその形を失わないようにすること、更には、溶着用織物を構成する繊維の一部の芯が残るようにすること、が難しくなる。
更にいうと、前記溶着を行う際の温度は、前記溶着用織物を構成する前記繊維を形成する前記フッ素樹脂の融点を70℃〜85℃上回る温度とするのが好ましい。
溶着の際の温度範囲の上限を上述の85℃の範囲内とする理由は既述の通りであるが、温度範囲の下限を70℃までとしたのは以下の理由による。つまり、溶着の際の温度を、溶着用織物を構成する繊維を形成するフッ素樹脂の融点の70℃上の温度まで上げない場合には、繊維の形状は保たれるため引裂の強度は保たれるものの、溶着用織物の溶融が不十分となって剥離が生じやすくなる可能性があるためである。溶着用織物を構成する繊維を形成するフッ素樹脂の融点を70℃〜85℃上回る温度で溶着時に加熱すると、引裂に対する強さと剥離に対する強さの双方を両立させることができる。
【0010】
本願発明の接合方法で用いるフッ素樹脂フィルムは、フッ素樹脂にて形成されたものであるということ以外特に制限はない。もっとも、その厚さは、0.1mm〜0.5mmであることが好ましい。厚さが0.1mmより小さければ、溶着用織物を用いても接合強度(特に引裂についての強度)の向上を望めない場合が多いことが本願発明者の研究で明らかになっているし、他方厚さが0.5mmより大きければ溶着用織物を用いずとも接合強度を高めることができる場合が多いことが本願発明者の研究で明らかになっているからである。
本願発明では、基本的には、異なるフッ素樹脂フィルム所定の部分同士を接合するが、同一のフッ素樹脂フィルムの所定の部分同士を接合するものであっても構わない。また、フッ素樹脂フィルムの接合は、必ずしもその縁部同士を接合するには限られない。
異なるフッ素樹脂フィルム同士を接合する場合、接合される前記フッ素樹脂フィルムは、それらをそれぞれ形成するフッ素樹脂が同種のものであっても良いし、そうでなくても良い。異なるフッ素樹脂フィルムを接合する場合、それらをそれぞれ形成するフッ素樹脂が同種である方が、接合強度を高め易い。
【0011】
溶着用織物としてどのようなものを選択するかも適宜決定することができる。溶着用織物を構成する繊維を形成するフッ素樹脂は、フッ素樹脂フィルムを形成するフッ素樹脂の少なくとも一方と同種とすることもできるし、異なるフッ素樹脂フィルムを構成するフッ素樹脂が同種であるのであれば溶着用織物を構成する繊維を形成するフッ素樹脂をそれらと同種のものとすることもできる。溶着用織物を構成する繊維を形成するフッ素樹脂が、フッ素樹脂フィルムを構成するフッ素樹脂の少なくとも一方と同種なのであれば、溶着後の接合強度を高め易い。
もっとも、前記フッ素樹脂フィルム、及び前記溶着用織物として、接合の対象となる範囲の前記フッ素樹脂フィルムを形成している前記フッ素樹脂の融点のそれぞれと、前記溶着用織物を構成する繊維を形成するフッ素樹脂の融点との温度差が最大で10℃以内となるものを選択すれば、その後得られる接合強度は、剥離の生じ難さ、引裂の生じ難さ、伝播のし難さともに、十分に実用に耐えるものとなる。
溶着用織物の厚さは、これには限られないが、使用するフッ素樹脂フィルムの30%〜180%のものを使用することができる。溶着用織物は上述の如き繊維で織った目の詰まった織布であっても良いし、目の開いたメッシュ状の織布であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本願発明の実施形態によるフッ素樹脂フィルムの接合方法を応用した膜構造物の側断面図。
【図2】実験例の実験2により得られたフッ素樹脂フィルムの接合部分を拡大して写した写真。
【図3】実験例の実験2よりも高温の条件下で溶着された実験5により得られたフッ素樹脂フィルムの接合部分を拡大して写した写真。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0014】
本実施形態のフッ素樹脂フィルムの接合方法では、以下に説明するような2枚のフッ素樹脂フィルムの間に、以下に説明するような溶着用織物を挟み込み、溶着用織物ごとフッ素樹脂フィルムの接合を行う。
この実施形態のフッ素樹脂フィルムの接合方法で接合されるのは、これには限られないが、2枚のフッ素樹脂フィルムであり、それらの縁部同士が接合されることになる。
【0015】
2枚のフッ素樹脂フィルムはそれぞれ、これには限られないが、同じ形状、大きさ(縦400cm×横100cm)の矩形である。この実施形態では、必ずしもその必要はないが、2枚のフッ素樹脂フィルムの同じ長さの辺(この実施形態では縦の辺とした。)付近の一定の領域(縁部)同士を接合する。
【0016】
この実施形態で接合される2枚のフッ素樹脂フィルムはともに、フッ素樹脂にて形成されており、織物等の基材を持たない。2枚のフッ素樹脂フィルムを形成するフッ素樹脂は同じものでも同じものではなくてもよいが、この実施形態では同じものである。なお、2枚のフッ素樹脂フィルムを形成するフッ素樹脂が異なるものである場合には、この限りではないが、それらの融点の差が20℃以内に収まるようにする。
より詳細には、この実施形態では、2枚のフッ素樹脂フィルムを形成するフッ素樹脂を、PTFE、ETFE、PFA、FEP、PCTFE、PVDF、PVFのいずれかから選択するものとするが、この実施形態では、2枚のフッ素樹脂フィルムを形成するフッ素樹脂をともに、ETFEとする。
2枚のフッ素樹脂フィルムの厚さは、この限りではないが、0.1mm〜0.5mmの間から選択すればよいが、この実施形態では2枚のフッ素樹脂フィルムの厚さはともに、0.2mmとされている。
【0017】
この実施形態の接合方法で用いられる溶着用織物は、フッ素樹脂にて形成の繊維を織って作られた織布である。
この溶着用織物を構成する繊維を形成するフッ素樹脂は、これには限られないが、PTFE、ETFE、PFA、FEP、PCTFE、PVDF、PVFのいずれかである。ただし、この実施形態では、溶着用織物を構成する繊維を形成するフッ素樹脂は、その融点が、接合の対象となるフッ素樹脂フィルムを構成する繊維を形成するフッ素樹脂の融点から(2枚のフッ素樹脂フィルムのそれぞれを形成するフッ素樹脂が異なるものである場合には、それらの双方の融点から)10℃以上離れていないようにする。
例えば、この実施形態で接合の対象となる2枚のフッ素樹脂フィルムはETFEであり、その融点が260〜270℃であるから、溶着用織物を構成する繊維を形成するフッ素樹脂は、その融点が260〜270℃と当然等しいETFEか、さもなくばその融点が260〜270℃から10℃の範囲内であるフッ素樹脂(例えば、融点が260℃であるFEP)を用いる。
溶着用織物は、その目が詰まっていても、開いていてメッシュ状になっていても構わない。この実施形態では、目が詰まっている織物を用いた。
溶着用織物の厚さは、適宜選択することができるが、この実施形態では、使用するフッ素樹脂フィルムの30%〜180%のものを使用することとする。
【0018】
本実施形態では、以上説明したような2枚のフッ素樹脂フィルムの間に、溶着用織物を挟み込み、溶着用織物ごとフッ素樹脂フィルムの接合を行う。
フッ素樹脂フィルムの接合を行うに当たっては、まず、2枚のフッ素樹脂フィルムと一枚の溶着用織物とを、2枚のフッ素樹脂フィルムの縦の辺が適宜、例えば2cm程度重なり、且つ2枚のフッ素樹脂フィルムが重なっている範囲に、当該範囲に対応した形状、大きさの溶着用織物が挟まれた状態とする。
その後、2枚のフッ素樹脂フィルムが重なり合っている部分に、加熱溶着機のヒーターを当接させ、溶着用織物ごとフッ素樹脂フィルムの接合を行う。
加熱溶着機は既製品でよく、例えば、(クインライト電子精工社製、連続ヒートシーラー、LHP−W705)を用いることができる。加熱の温度は、溶着用織物を構成する繊維を形成するフッ素樹脂の融点よりも高い温度とすればよく、好ましくは、同融点以上であり同融点よりも85℃以上は高くない範囲、より好ましくは、同融点よりも70℃〜85℃高い範囲の温度とすることができる。具体的には、この実施形態において、溶着用織物を構成する繊維を形成するフッ素樹脂は、融点が260℃のETFEとした。その融点は260℃であるので、溶着の際の温度は、260℃より70℃上の330℃から、260℃より85℃上の345℃までの範囲内とするのがよい。
この条件で、本実施形態の一例では、溶着温度を345℃とし、溶着スピードを1350mm/minとする等、溶着温度、加熱時間等の各パラメータを適宜調整することにより、溶着用織物を構成する繊維の一部が溶融するものの、繊維のすべてがその形を失わないようなものとすることができた。更にいうと、溶着終了後において溶着用織物を構成する繊維の一部の芯が残る状態となっていた。
【0019】
以上で説明したフッ素樹脂フィルムの接合方法は、矩形のフッ素樹脂フィルム同士の接合に用いるものであったが、接合の対象となるフッ素樹脂フィルムはもちろん他の形であってもよい。
例えば、図1に示したような膜構造物を製造する場合にも本願発明のフッ素樹脂フィルムの接合方法を応用可能である。
図1は、断面円形のゴム製の棒状体100を起点として、上下三方向にフッ素樹脂フィルムの膜材を張り渡した膜構造物の側断面図である。
3枚のフッ素樹脂フィルム200はいずれも帯状であり、複数のフッ素樹脂フィルム体201を接合して構成されている。複数のフッ素樹脂フィルム体201の接合に、上述の接合方法が用いられている。 また、3枚のフッ素樹脂フィルム200のうち、下側のフッ素樹脂フィルム200Aは、その基端(棒状体100に近い側)側に棒状体100を下側から回り込ませた状態で、その上面を中央のフッ素樹脂フィルム200Bの下面と、その下面を上側のフッ素樹脂フィルム200Cの上面とそれぞれ接続している。また、中央のフッ素樹脂フィルム200Bの上面と、上側のフッ素樹脂フィルム200Cの下面が接合されている。これら接合のすべてに、上述した接合方法を応用可能である。
具体的には、図示しないフッ素樹脂繊維により形成した溶着用織物をフッ素樹脂フィルム同士が重ねられている間に挟み込んで接合する。
以上の接合箇所をどの順番で接合していくかは、上述のような膜構造物を製造できる範囲で適宜決定すればよい。
上述の膜構造物では、3枚のフッ素樹脂フィルム200の先端側は、所定の梁等の構造物の所定の駆体に固定されており、3枚のフッ素樹脂フィルム200の間に空気を送風することによって、すべてのフッ素樹脂フィルムに適度なテンションを与えられるようになっている。棒状体100を固定するためには例えば、棒状体100を係止するための適当な治具が必要となろうが、それは適当なものを選択して用いればよい。
なお、図1の膜構造物の下側のフッ素樹脂フィルム200Aの上面と中央のフッ素樹脂フィルム200Bの下面が接合されている部分におけるフッ素樹脂フィルム200Aの接合されている範囲は、フッ素樹脂フィルム200Aの縁部ではないが、本願発明はこのように、フッ素樹脂フィルムの縁部どうしではない接合にも応用可能である。
他にも、フッ素樹脂フィルムの縁部ではない所定の部分にも応用が可能である。例えば、いずれも図示を省略するが、空気を送風するために設けられるフッ素樹脂フィルムの開口部の周辺の補強するためにドーナツ型の他のフッ素樹脂フィルムをその開口部の周辺に接合する場合、フッ素樹脂フィルムの上面に押さえワイヤーを設置するときに押さえワイヤーとそのフッ素樹脂フィルムの間に更に必要となる補強用のフィルムとしての他のフッ素樹脂フィルムを、上記フッ素フィルムに接合する場合等でも、本願の方法を用いることができる。要するに、本願の方法は、あるフッ素樹脂フィルムと、他のフッ素樹脂フィルムを接合する場合であって、それらの間に他のフッ素樹脂フィルムに対応した形状、大きさの溶着用織物を挟み込めるのであれば、一般的には応用可能である。
【0020】
<実験例>
本願発明者は、以上の実施形態に倣った試料、倣わなかった試料を複数作成し、それらに対して引裂試験を行った。その結果を以下に示す。引裂試験は、JIS L 1096:1999 8. 15. 4 A-1(トラペゾイド法)と、JIS L 1096:1999 8. 15. 1 A-1(シングルタング法)の二通りとした。
【表1】

【0021】
表中の「溶着温度」は、各実験番号の実験でフッ素樹脂フィルム(ETFE製の繊維で織られた織布であり、その厚さが0.2mmである)の縁部同士を接合した際の温度である。
表中の「溶着用織物」は、各実験番号で引裂強度の試験対象となった試料(接合されたフッ素樹脂フィルム)を作成するために、上述した溶着用織物(ETFE製の繊維で織られた目の詰まった織布)を使用したか否かということを示している。「有」なら溶着用織物を使用し、「無」なら溶着用織物を使用していない。
表中のトラペゾイド法結果と、シングルタング法結果の欄は、これら試験の結果、どの程度の力で引裂が生じたかということを示している。なお、「剥がれ」の記載があるものは、接合部の剥離が生じたことを意味する。
【0022】
表からわかるように、溶着用織物を用い、且つ溶着温度がETFEの融点よりも80℃高い340℃である実験2の試料は、トラペゾイド法で23N、シングルタング法で12Nと極めて高い引裂強度を持っていることがわかる。溶着用織物を用い、且つ溶着温度がETFEの融点よりも75℃高い335℃である実験1の試料と、溶着用織物を用い、且つ溶着温度がETFEの融点よりも85℃高い345℃である実験3の試料も、実験2の試料よりも若干落ちるが、トラペゾイド法でそれぞれ15N、16N、シングルタング法でそれぞれ9Nと高い引裂強度を持っていることがわかる。なお、実験1の試料では接合部の剥離が生じているがそれは溶着時の温度が高くないため溶着用織物の溶融が多少不足したことが原因であると予想される。しかしながら、実験1の結果は、それでもなお実験1の試料では引裂についての強度は保たれており、剥離が生じてしまうくらいの力をかけても引裂きが生じない、と解釈することができる。
対して、溶着用織物を用い、且つ溶着温度がETFEの融点よりも90℃高い350℃である実験4では、トラペゾイド法で10N、シングルタング法で9Nと引裂強度が低下している。また、溶着用織物を用い、溶着温度を355℃として更に溶着温度をETFEの融点よりも95℃高めた実験5では、トラペゾイド法で12N、シングルタング法で6Nと、特にシングルタング法での引裂強度の低下が目立った。
また、実験6の結果から明らかなように、溶着温度がETFEの融点よりも80℃高い340℃である場合であっても、溶着用織物を用いない場合には、トラペゾイド法で10N、シングルタング法で5Nと引裂強度が極めて低い。
【0023】
参考までに、上述の実験2により溶着されたフッ素樹脂フィルムの溶着された部分の拡大写真を、図2に示す。図2は、後述する図3とともにフッ素樹脂フィルムの平面の写真である。図中Xで示した範囲が、溶着用織物がフッ素樹脂フィルムに挟まれた部分であり、図中Yで示した範囲がフッ素樹脂フィルム一枚のみが存在する部分である。図2を見ると、Xで示した範囲に、図中の縦方向に略等間隔の筋が入っているのがわかる。この筋が、溶着用織物に含まれていた繊維である。つまり、実験2による溶着では、溶着用織物を構成する繊維の一部が溶融するものの、繊維のすべてがその形を失わないようなものとなっており、更にいうと、溶着終了後において溶着用織物を構成する繊維の一部の芯が残る状態となっている。なお、この状態では、繊維のうちの長さ方向で2割り程度の部分で芯が残っている。
他方、図3に示したのは、上述の実験5により溶着されたフッ素樹脂フィルムの溶着された部分の拡大写真である。実験5では、溶着用織物を挟みこんで2枚のフッ素樹脂フィルムを溶着したものの、過溶着が生じ、溶着用織物の繊維のすべてがその形を失っている。図3の写真では、図2にあるような縦方向の筋が写っておらず、溶着用織物の繊維がすべて形を失い、また繊維の芯が残っていないことがわかる。
【符号の説明】
【0024】
100 棒状体
200 フッ素樹脂フィルム
201 フッ素樹脂フィルム体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂にて形成のフッ素樹脂フィルム同士を接合するフッ素樹脂フィルムの接合方法であって、
前記フッ素樹脂フィルムの接合の対象となる範囲同士が重ねられた部分に、フッ素樹脂にて形成された繊維を織って作られた溶着用織物を挟み込み、
その状態で前記フッ素樹脂フィルムの接合の対象となる範囲同士が重なった部分に前記溶着用織物を構成する前記繊維を形成するフッ素樹脂の融点以上の温度の熱を加えて、前記溶着用織物ごと前記フッ素樹脂フィルム同士を溶着する、
フッ素樹脂フィルムの接合方法。
【請求項2】
前記フッ素樹脂フィルム、及び前記溶着用織物として、接合の対象となる範囲の前記フッ素樹脂フィルムを形成している前記フッ素樹脂の融点のそれぞれと、前記溶着用織物を構成する繊維を形成するフッ素樹脂の融点との温度差が最大で10℃以内となるものを選択する、
請求項1記載のフッ素樹脂フィルムの接合方法。
【請求項3】
前記溶着を行う際に、溶着の条件を、前記溶着用織物を構成する前記繊維の一部が溶融するものの、前記繊維のすべてがその形を失わないようなものとする、
請求項1記載のフッ素樹脂フィルムの接合方法。
【請求項4】
前記溶着を行う際に、溶着の条件を、前記溶着用織物を構成する前記繊維の一部の芯が残るようなものとする、
請求項3記載のフッ素樹脂フィルムの接合方法。
【請求項5】
前記溶着を行う際の温度を、前記溶着用織物を構成する前記繊維を形成する前記フッ素樹脂の融点から85℃上までの範囲の温度とする、
請求項1記載のフッ素樹脂フィルムの接合方法。
【請求項6】
前記溶着を行う際の温度を、前記溶着用織物を構成する前記繊維を形成する前記フッ素樹脂の融点を70℃〜85℃上回る温度とする、
請求項5記載のフッ素樹脂フィルムの接合方法。
【請求項7】
前記フッ素樹脂フィルムとして、その厚さが0.1mm〜0.5mmのものを用いる、
請求項1記載のフッ素樹脂フィルムの接合方法。
【請求項8】
接合される前記フッ素樹脂フィルムとして、接合の対象となる範囲の前記フッ素樹脂フィルムを形成している前記フッ素樹脂が同種のものとなるものを選択する、
請求項1記載のフッ素樹脂フィルムの接合方法。
【請求項9】
前記溶着用織物として、接合の対象となる範囲の前記フッ素樹脂フィルムを形成している前記フッ素樹脂のいずれかと同種のフッ素樹脂にて形成された繊維を織って作られたものを選択する、
請求項1記載のフッ素樹脂フィルムの接合方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−51251(P2012−51251A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195963(P2010−195963)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000204192)太陽工業株式会社 (174)
【Fターム(参考)】