説明

フッ酸回収方法及びフッ酸回収装置

【課題】ケイフッ化水素酸を含むフッ酸廃液を簡便に処理してケイフッ化水素酸と金属成分を低濃度まで除去することによりフッ酸廃液を再利用可能とするフッ酸回収方法及び装置を提供する。
【解決手段】ケイフッ化水素酸を含むフッ酸廃液をナノ濾過するナノ濾過手段2と、ナノ濾過手段2を経た透過液をアニオン交換処理するアニオン交換手段5と、アニオン交換手段5を経たアニオン交換処理液をカチオン交換処理するカチオン交換手段6とを有するフッ酸回収装置により、上記課題を解決する。この装置において、ナノ濾過手段2で濾過した後の濃縮液をさらにナノ濾過する濃縮液ナノ濾過手段と、その濃縮液ナノ濾過手段で濾過した後の濃縮液を、ナノ濾過手段2に供給されるフッ酸廃液に混合する配管とをさらに備えるように構成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ酸回収方法及びフッ酸回収装置に関する。さらに詳しくは、フッ酸廃液からフッ酸を効率的に回収して再利用できるように精製するフッ酸回収方法及びフッ酸回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池や半導体等の製造工程では、フッ酸を用いた処理や加工が行われ、下記(1)〜(5)のようなフッ酸廃液が生じている。例えば、(1)結晶シリコン太陽電池の製造工程では、シリコン表面のSiOを除去する際に使用するフッ酸の廃液、(2)スマートフォンや小型タブレット等に用いる小型液晶基板の処理工程では、ガラス基板をエッチングする際に使用するフッ酸の廃液、(3)半導体の製造工程では、SiO絶縁膜を剥離する際に使用するフッ酸の廃液、(4)上記した各工程やSiウエハを用いたデバイスの製造工程では、フッ酸に他の成分が入った場合のフッ酸混合液(例えばバッファードフッ酸)の廃液、(5)Siウエハを用いたデバイスの製造工程では、Siウエハの裏面を研磨した後のSiウエハ表面の物理ダメージ層の除去に使用するフッ酸の廃液、又は裏面研磨の代替として使用するフッ酸の廃液、等が挙げられる。
【0003】
特に上記(1)について説明すると、例えば結晶シリコン太陽電池の製造工程のうち、pn接合を形成する際のイオンドーピングやプラズマ処理等のドライ工程の前では、Si表面の酸化されたSiO膜を剥離する際にフッ酸が一定量使われ、使用後のフッ酸が廃棄される。上記した他の場合においても、フッ酸は、SiO膜等のエッチング(溶解)に使用される場合が多い。
【0004】
しかし、フッ酸の使用対象によっては、フッ酸に混入する不純物成分が異なってくる。例えば、デバイス製造工程での処理対象から混入する成分、工程内で使用する治具から混入する成分、イオン注入工程でイオン注入されたSiから出てくるドーピング成分、SiO膜を溶解させた際に生じた副生成物としてのケイフッ化水素酸(HSiF:ヘキサフルオロケイ酸ともいう。)、又は、その他環境から入り込むごみやチリ等の混入成分等のように、種々の不純物成分が混入する。
【0005】
これらの工程では、処理対象である製品に不具合を与えないように、不純物の量が一定量を超える前に廃棄されている。そうした不純物のうち、主な不純物はケイフッ化水素酸と金属成分であり、それらの濃度が管理されて廃棄されている。具体的には、酸化ケイ素(SiO)をフッ酸(HF)で処理するとケイフッ化水素酸(HSiF)が生成することになるので、エッチングが進むほどフッ酸成分がケイフッ化水素酸成分に変わり、pHが上がることになる。つまり、6HF+SiO→HSiF+2HO、HF+H→HF+F と右へ解離が進み、Hが減ってpHが上がることになる。こうしたpHの変化は、エッチング液の交換前後でのエッチングレートに差を生じさせるので、処理対象に対するエッチングにバラツキが生じることになり、プロセスコントロールが難しくなる。そのため、処理液自体のエッチング能が未だ十分であるにもかかわらず、安全をみて早めにフッ酸廃液として廃棄されている。
【0006】
フッ酸廃液にはケイフッ化水素酸が含まれているため、ほとんどのフッ酸成分は有効利用されることなく廃棄されているのが現状である。しかし、フッ酸廃液はそのまま廃棄せず、フッ酸を回収して再利用することが望ましい。こうした再利用は、フッ酸の原料であるCaF(蛍石)の需給バランスが崩れるとフッ酸の流通が困難になること、また、薬液購入量も莫大になること等の理由に基づいて行われている。
【0007】
フッ酸を回収して再利用するための技術には、蒸留、カルシウム添加、電気透析、及び圧力透析(ナノフィルタ膜又はNF膜ともいう。)等があり、従来から種々提案されている。例えば、特許文献1では、フッ酸廃液を蒸留してフッ酸とケイフッ化水素酸とを分ける方法が提案されている。また、特許文献2では、圧力透析装置に硫酸廃液を供給して透析し、酸溶液と金属濃縮液とに分離し、金属濃縮液を拡散透析、イオン交換樹脂、電気透析、冷却晶析のいずれかにより、酸溶液と廃酸とに分離する方法が提案されている。また、特許文献3では、スパイラル型ナノフィルタ膜を装着した圧力透析装置に、廃酸溶液を透析圧で供給して透析し、酸溶液を回収する方法が提案されている。なお、一般的に、フッ酸廃液の再利用に際しては、金属等のカチオン成分はpn接合やMOS製造工程の中で歩留まりを悪くするため、混入がないことが望ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−189484号公報
【特許文献2】特開2003−144858号公報
【特許文献3】特開2002−320824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1で提案される技術は、蒸留設備が必要であり、設備コストと運転コストが過大になるとともに、処理温度が高いために腐食速度が上がり、装置の耐食性を充分に考慮しなければならないという課題がある。また、特許文献2で提案される技術は、硫酸廃液中にシリコンが含まれた場合はケイフッ化水素酸になり、これ自体が硫酸に類似した性質を持つ酸であるために、この技術では同じ酸同士の分離が不可能であるという問題がある。
【0010】
また、特許文献3で提案される技術は、その技術単独でケイフッ化水素酸を除去できたとしても、フッ酸として再利用できるほど金属成分及びケイフッ化水素酸の除去性能を持たない。また、濃縮液を濃縮循環槽に戻すので、不純物が濃縮して膜への供給濃度が上がる。そのため、透過流速が低下し、透過水質も悪化していく。また、濃縮廃液中のシリコンを回収することも提案されているが、圧力透析で濃縮するだけでは遊離酸も残っており、有効な回収方法にならない。さらに、0.5MPa以上の高圧環境下では、ハステロイ等の耐食合金を用いる必要があり、少なからず金属溶出があるため、ナノフィルタ膜単独での適用は難しい。
【0011】
ところで、フッ酸を精製するための金属除去手段としてイオン交換樹脂を用いた場合、イオン交換樹脂から有機物が溶出してしまい、高度な半導体基板製造工程向けには適用できない。また、ナノフィルタ膜を用いた圧力透析は3MPa程度の高圧が必要であり、特殊耐食合金を用いて対応しても若干の金属溶出は否めない。そのため、高度な半導体基板製造工程向けには適用できない。
【0012】
また、低グレードのフッ酸を用いる工程向けに、フッ酸を精製するための金属除去手段としてイオン交換樹脂を用いた場合、フッ酸廃液中のケイフッ化水素酸が多く存在するとイオン交換樹脂の破過を早め、その交換頻度が多くなるため、効率的でない。また、イオン交換樹脂だけでは除去効率も不十分であり、実用的でない。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、ケイフッ化水素酸を含むフッ酸廃液を簡便に処理してケイフッ化水素酸と金属成分を低濃度まで除去することにより、フッ酸廃液を再利用可能とする、フッ酸回収方法及びフッ酸回収装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、フッ酸廃液の回収手段の研究を行っている過程で、ケイフッ化水素酸を高濃度に含むフッ酸廃液からフッ酸を回収する場合、ケイフッ化水素酸をイオン交換樹脂のみで除去しようとすると、有機物溶出の問題、再生頻度や交換頻度が大きくなりすぎて非効率的であるという問題があるため、ケイフッ化水素酸を粗取りする前処理を行うことが好適であることを見出して本発明を完成させた。なお、硫酸中でケイフッ化水素酸は分子状とイオン状で存在するが、本願では、便宜上両者を区別せずに「ケイフッ化水素酸」と表記することがある。
【0015】
(1)上記課題を解決するための本発明に係るフッ酸回収方法は、ケイフッ化水素酸を含むフッ酸廃液をナノ濾過するナノ濾過工程と、前記ナノ濾過工程を経た透過液をアニオン交換処理するアニオン交換工程と、前記アニオン交換工程を経たアニオン交換処理液をカチオン交換処理するカチオン交換工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、イオン交換工程(アニオン交換工程及びカチオン交換工程)の前にナノ濾過工程を設け、処理対象であるフッ酸廃液に含まれるケイフッ化水素酸を事前に粗取りするので、ケイフッ化水素酸濃度を低減したフッ酸廃液をイオン交換工程でイオン交換して再利用できる。その結果、フッ酸廃液の効率的な再生を行うことができるとともに、工程から排出されるフッ酸廃液を精製して再利用することが可能になる。また、アニオン交換工程及びカチオン交換工程で用いるイオン交換樹脂の再生処理頻度や交換頻度を低減できる。
【0017】
本発明に係るフッ酸回収方法において、(2)前記ナノ濾過工程で濾過する前記フッ酸廃液中の前記ケイフッ化水素酸濃度が100mg/L以上である、(3)前記ナノ濾過工程での濾過が、前記フッ酸廃液に含まれるケイフッ化水素酸を50%以上除去する、(4)前記ナノ濾過工程での濾過を、分画分子量500〜2000のスパイラル型ナノフィルタ膜で行う、(5)前記アニオン交換工程でのアニオン交換処理を、F型弱塩基性アニオン交換樹脂及びF型強塩基性アニオン交換樹脂のいずれか、又はそれらを組み合わせて行い、前記カチオン交換工程でのカチオン交換処理を、H型強酸性カチオン交換樹脂及びキレート樹脂のいずれか、又はそれらを組合せて行う、(6)前記ナノ濾過工程で濾過した後の濃縮液をさらにナノ濾過する濃縮液ナノ濾過工程をさらに備え、該濃縮液ナノ濾過工程で濾過した後の濃縮液を、前記ナノ濾過工程に供給される前記フッ酸廃液に混合する、(7)前記ナノ濾過工程又は前記濃縮液ナノ濾過工程で濾過した後の濃縮液のケイフッ化水素酸濃度を計測し、該ケイフッ化水素酸濃度が所定値に達したときに、該濃縮液を系外に排出する、(8)前記ナノ濾過工程に供給される前記フッ酸廃液の不純物濃度を計測し、該不純物濃度が所定値以下であるとき、前記フッ酸廃液を前記ナノ濾過工程で濾過せずに前記アニオン交換工程に供給する、ように構成することが好ましい。
【0018】
これらの発明によれば、例えば太陽電池製造工程等のように、半導体製造工程ほどの極めて厳格な精製が要求されない工程で用いられるフッ酸への再利用のための回収に好ましく適用できる。具体的には、ナノ濾過工程での濾過によって、フッ酸廃液に含まれるケイフッ化水素酸を50%以上除去することにより、その後のイオン交換処理へ負荷を低減でき、効率的で現実的な再生が可能になる。
【0019】
上記課題を解決するための本発明に係るフッ酸回収装置は、ケイフッ化水素酸を含むフッ酸廃液をナノ濾過するナノ濾過手段と、前記ナノ濾過手段を経た透過液をアニオン交換処理するアニオン交換手段と、前記アニオン交換手段を経たアニオン交換処理液をカチオン交換処理するカチオン交換手段と、を有することを特徴とする。
【0020】
本発明に係るフッ酸回収装置において、前記ナノ濾過手段で濾過した後の濃縮液をさらにナノ濾過する濃縮液ナノ濾過手段と、該濃縮液ナノ濾過手段で濾過した後の濃縮液を、前記ナノ濾過手段に供給される前記フッ酸廃液に混合する配管とをさらに備えるように構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るフッ酸回収方法及びフッ酸回収装置によれば、イオン交換工程(アニオン交換工程及びカチオン交換工程)の前にナノ濾過工程を設け、処理対象であるフッ酸廃液に含まれるケイフッ化水素酸を事前に粗取りするので、ケイフッ化水素酸や金属成分の濃度を低減したフッ酸廃液をイオン交換工程でイオン交換することにより、再利用可能なフッ酸を回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るフッ酸回収装置の第1実施形態を示す構成図である。
【図2】本発明に係るフッ酸回収装置の第2実施形態を示す構成図である。
【図3】本発明に係るフッ酸回収装置の第3実施形態を示す構成図である。
【図4】本発明に係るフッ酸回収装置の第4実施形態を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係るフッ酸回収方法及びフッ酸回収装置について図1〜図4に示す各実施形態を参照して説明する。なお、本発明は、その技術的特徴を有すれば種々の変形が可能であり、以下に具体的に示す実施形態に限定されるものではない。
【0024】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態について図1を参照して説明する。図1は、本発明に係るフッ酸回収装置の第1実施形態を示す構成図である。図1に示すように、第1実施形態のフッ酸回収装置は、ケイフッ化水素酸を含むフッ酸廃液の処理装置であり、フッ酸廃液をナノ濾過(ナノ濾過工程)するナノ濾過手段2と、ナノ濾過された処理液(透過液)をアニオン交換処理(アニオン交換工程)するアニオン交換手段5と、アニオン交換処理された処理液をカチオン交換処理(カチオン交換工程)するカチオン交換手段6とを備えている。
【0025】
(装置構成)
第1実施形態のフッ酸回収装置には、被処理液であるフッ酸廃液が貯蔵されるフッ酸廃液タンク1とナノ濾過手段2の原液側とが配管によって接続され、該配管には該被処理液をナノ濾過手段2に加圧供給するための加圧ポンプ3と、該配管内の液圧(ナノ濾過の圧力)を測定する圧力計4とが順次介設されている。また、ナノ濾過手段2の透過液側とアニオン交換手段5の流入側とが配管によって接続され、アニオン交換手段5の流出側とカチオン交換手段6の流入側とが配管によって接続され、カチオン交換手段6の流出側とフッ酸精製液が貯蔵されるフッ酸精製液タンク7とが配管によって接続されている。
【0026】
一方、ナノ濾過手段2の濃縮液側とフッ酸廃液タンク1とが配管10によって接続されており、濃縮液がフッ酸廃液タンク1に返送されるように構成されている。また、配管10には、ナノ濾過の圧力を調節するためのニードル弁8と、配管10中の濃縮液を冷却する熱交換器9とが順次介設されている。さらに、配管10には、ニードル弁8と熱交換器9との間に分岐配管が接続されており、分岐配管を通じて濃縮液が系外排出されるように構成されている。なお、配管10から該分岐配管への分岐点と熱交換器9との間、及び分岐配管にはそれぞれ弁(図示しない)が介設されており、各々の弁の開度を調節することにより、フッ酸廃液タンク1への返送流量と分岐配管からの排出流量との流量比を適宜調節することができるように構成されている。
【0027】
(フッ酸廃液)
本発明に適用されるフッ酸廃液は、少なくともケイフッ化水素酸を汚染成分として含み、工場の製造ラインのエッチング工程や表面処理工程で用いられた後のフッ酸廃液等である。このフッ酸廃液は、エッチング工程や表面処理工程で使用されることにより、副生成物としてケイフッ化水素酸を含み、さらに金属イオンやその他の不純物も含まれている。ケイフッ化水素酸が含まれるのは、フッ酸が主に酸化ケイ素等のケイ素材料に対する溶解性を有するためである。
【0028】
一方、精製後のフッ酸の再利用の用途としては、太陽電池の製造工場で用いるフッ酸、ガラスエッチング用フッ酸、及び金属表面エッチング用のフッ酸洗浄液等、半導体製造工程において用いられるフッ酸ほど高純度のフッ酸を必須としないフッ酸として好適に用いられる。具体的には、結晶シリコン太陽電池の製造工程のうち、pn接合を形成する際のイオンドーピングやプラズマ処理等のドライ工程において、Si表面の酸化されたSiO膜を剥離する際に用いられるフッ酸が例示される。
【0029】
フッ酸廃液のフッ化水素の濃度は、20質量%以下であることが好ましい。この範囲のフッ酸廃液であれば、アニオン交換工程で選択的にケイフッ化水素酸を除去できる。また、フッ酸廃液に含まれるケイフッ化水素酸の濃度は100mg/L以上であることが好ましい。ケイフッ化水素酸の濃度が100mg/L以上のフッ酸廃液は、例えばイオン交換樹脂のみでの処理や、ナノフィルタ膜のみでの処理によっては、低コストで効率的な処理が困難であるため、本発明のフッ酸回収装置が好ましく適用される。なお、ケイフッ化水素酸の濃度の上限は特に限定されないが100000mg/L程度であればよい。一方、ケイフッ化水素酸の濃度が100mg/L未満の場合は、本発明に係るフッ酸回収方法以外の他の処理手段でも対応可能であることがある。
【0030】
フッ酸廃液には、ケイフッ化水素酸の他、金属イオン等の他の汚染成分が含まれていてもよいが、硝酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素等の酸化力の強い酸化性物質は実質的に含まれていないことが望ましい。これらの物質が高濃度に含まれるフッ酸廃液は、酸化力が強く、ナノフィルタ膜もイオン交換樹脂も硝酸の酸化作用により腐食され、損傷を受けてしまうことがあるためである。したがって、塩素換算で500mg−Cl/L未満であることが望ましく、0.1mg−Cl/L未満であることがより望ましい。
【0031】
(ナノ濾過工程)
ナノ濾過手段2で行われるナノ濾過工程は、ケイフッ化水素酸を含むフッ酸廃液をナノ濾過する工程である。このナノ濾過工程では、上記したフッ酸廃液に含まれるケイフッ化水素酸を50%以上除去できることが好ましい。なお、このナノ濾過工程では、ケイフッ化水素酸の除去と併せて、金属不純物等の汚染成分も除去することができる。
【0032】
ナノ濾過工程で用いるナノフィルタ膜(NF膜ともいう。)は、特に限定されないが、NF膜をスパイラル型にしたスパイラル型NF膜とすることが望ましく、低圧で効率的な濾過精度を実現できる。また、使用するスパイラル型NF膜の本数は、流量及び圧力損失を勘案して任意に選択される。例えば直径2.5インチのスパイラル型NF膜と、例えば直径100mmで高さが1000mmの樹脂カラムとで構成したスパイラル型NF膜モジュールを好ましく用いることができる。
【0033】
NF膜に対して0.5MPa以下の圧力が加わる場合は、NF膜モジュールの少なくとも接液部がテフロン(登録商標)で構成された部材を組み合わせて構成することが好ましい。こうすることで、部材からの不純物の溶出を回避することができる。一方、NF膜に対して0.5MPaを超える圧力が加わる場合は、テフロン(登録商標)では耐圧性が不十分であるため、0.5MPaを超える圧力が加わる部分についてはテフロン(登録商標)でなくハステロイC(登録商標、おもにニッケル基にモリブデンやクロムを多く加えることで耐食性や耐熱性を高めた合金のこと。)、スーパーアロイ等のフッ酸耐食合金を用いることが望ましい。なお、樹脂カラムは、塩化ビニル等のフッ酸耐性樹脂を用いることができるが、不純物の溶出防止の観点からは、テフロン(登録商標)を用いることが望ましい。こうしたナノ濾過工程は、通常、0℃〜25℃の範囲で行われる。
【0034】
前述のように、NF膜に0.5MPa以上の圧力をかける場合は、テフロン(登録商標)でなくフッ酸耐食合金を用いて装置を構成する必要がある。しかし、フッ酸耐食合金でも微量の腐食は生じる。例えば、ハステロイCはフッ酸に対して0.1mm/年程度の腐食があり、その際にモリブデンイオン等が溶出し、フッ酸廃液に混入する。したがって、フッ酸廃液中のケイフッ化水素酸濃度が100mg/L未満(好ましくは20mg/L未満)であれば、ケイフッ化水素酸を粗取りする前処理(ナノ濾過)をせずに直接アニオン交換処理を行う方が、ナノ濾過手段2からの金属イオンの混入を防止する観点で望ましい。そのためには、例えばナノ濾過工程の前にフッ酸廃液中のケイフッ化水素酸濃度を連続的又は定期的に測定し、ケイフッ化水素酸が所定濃度未満であればフッ酸廃液をナノ濾過せずに直接アニオン交換処理すればよい。
【0035】
本発明ではNF膜を用いているが、逆浸透膜(RO膜)でなくNF膜である理由は、逆浸透膜では分子状のフッ酸は透過するが、フッ化物イオンの多くが透過せずに除去されてしまう可能性があるため回収率が低くなり、フッ酸廃液を回収、精製して再利用すること自体ができなくなってしまうこと、浸透圧が高くなって操作圧力が高くなりすぎること等の理由に基づくものである。一方、NF膜を用いた場合は、フッ酸廃液の浸透圧分を操作圧力にする必要がないこと(濃厚な溶液でも圧力をかければ透過液が得られるため)、同じ操作圧力でもNF膜を透過しやすいこと等の理由に基づいている。こうした理由により、逆浸透膜ではなくて、NF膜を適用している。
【0036】
本発明ではNF膜を単独で適用していないが、その理由は、NF膜は逆浸透膜のように98%以上等の高除去率を達成できないルーズな膜である(例えば90%程度)からである。したがって、NF膜の単独での使用では不純物の粗取りになり、透過液に少なからず不純物が残留するため、NF膜単独での処理は適していない。本発明では、分画分子量が500〜2000のNF膜をイオン交換工程の前段の処理工程として用いて、ケイフッ化水素酸と金属成分の一部とを粗取りし、NF膜で取り切れなかった不純物成分を後段のイオン交換工程で除去する方法を採ることにしたものである。
【0037】
NF膜は、分画分子量500〜2000のスパイラル型NF膜を適用することが好ましい。この範囲の分画分子量を持つNF膜は、透過流速と不純物の除去能とのバランスがとれたナノ濾過を実現できる。フッ酸廃液には、SiO膜のエッチング等で副生成するSi化合物のケイフッ化水素酸や金属成分(金属錯体イオン、金属イオン等)が含まれる。こうした含有成分は、特許文献3に記載されているように、NF膜で除去可能であるが、NF膜の分画分子量によって除去率が変化することになる。例えば分画分子量が500未満では、NF膜が緻密なために透過流速が減少し、必要となるNF膜の数を増やさなければならない。一方、NF膜の分画分子量が2000を超える場合は、ケイフッ化水素酸の透過量が多くなり、濾過精度が低下してしまうことがある。
【0038】
ナノ濾過手段2において、ナノ濾過工程で処理されてケイフッ化水素酸濃度が低減された透過液は、アニオン交換手段5に移送されてアニオン交換工程に供される。一方、ナノ濾過工程で処理された後の濃縮液は、配管10を通じてフッ酸廃液タンク1に返送され、ナノ濾過工程に供給されるフッ酸廃液と混合され、再びナノ濾過手段2に移送されてナノ濾過工程に供される。なお、ナノ濾過工程で濾過した後の濃縮液のケイフッ化水素酸濃度を計測し、そのケイフッ化水素酸濃度が所定値に達したときには、濃縮液を分岐配管を通じて系外に排出する。
【0039】
また、フッ酸廃液タンク1からナノ濾過手段2に供給される前のフッ酸廃液の不純物濃度をモニタリングし、その不純物濃度が所定値以下であるときには、そのフッ酸廃液をナノ濾過手段2に移送せず、直接アニオン交換手段5に供給してもよい(図1中の破線参照)。こうした供給は、任意な切替手段(図示しない)で行うことができる。なお、所定値の不純物濃度としては、例えばケイフッ化水素酸の濃度については2000mg/L以下であり、金属成分については0.5mg/L以下である場合を例示できる。
【0040】
こうしたナノ濾過工程での濾過によって、フッ酸廃液に含まれるケイフッ化水素酸を50%以上除去することができる。その結果、その後のイオン交換処理が負う負荷を低減でき、効率的で現実的な再生が可能になる。
【0041】
(アニオン交換工程及びカチオン交換工程)
ナノ濾過工程を経た透過液は、ナノ濾過手段2からアニオン交換手段5に移送され、アニオン交換工程でアニオン交換処理される。このアニオン交換工程でのアニオン交換処理は、F型(フッ化物イオン型)弱塩基性アニオン交換樹脂及びF型強塩基性アニオン交換樹脂のいずれか、又はそれらを組み合わせて行うことが好ましい。
【0042】
また、アニオン交換工程を経たアニオン交換処理液は、アニオン交換手段5からカチオン交換手段6に移送され、カチオン交換工程でカチオン交換処理される。カチオン交換工程6でのカチオン交換処理は、H型強酸性カチオン交換樹脂及びキレート樹脂のいずれか、又はそれらを組合せて行うことが好ましい。
【0043】
本発明で適用するイオン交換処理は、イオン交換膜ではなくてイオン交換樹脂で行うことが好ましい。その理由としては、イオン交換膜には選択性がなく、しかもフッ化水素濃度が過剰なフッ酸廃液中のケイフッ化水素酸を選択的に除去することが難しく、また、強酸性の条件下で金属成分(金属錯体イオン、金属イオン等)を選択的に除去することも困難であることに基づいている。
【0044】
イオン交換樹脂としては、アニオン交換工程では、ケイフッ化水素酸を除去するためのF型弱塩基性アニオン交換樹脂又は強塩基性アニオン交換樹脂を用い、カチオン交換工程では、H型強酸性カチオン交換樹脂又はH型キレート樹脂を用いる。こうすることで、アニオン交換工程では、酸成分であるケイフッ化水素酸が除去されて[H]濃度が下がり(pHが上がり)、併せて金属錯体イオンが除去され、その後に引き続いて行われるカチオン交換工程では、処理液中の金属イオンの選択比が高まって金属イオンを除去しやすくなる。すなわち、Hと金属イオンの選択比として、Hの方が吸着しやすいため、アニオン交換工程でケイフッ化水素酸を除去した方がカチオン交換工程で金属イオンが取れやすくなる。
【0045】
なお、F型弱塩基性アニオン交換樹脂上での反応は、ケイフッ化水素酸イオン(SiF2−)とフッ素イオン(2F)との交換反応であり、ケイフッ化水素酸イオンとフッ素イオンとがイオン交換されるとpHが上がることになる。
【0046】
(再生工程)
アニオン交換工程において、アニオン交換樹脂のイオン交換量が低下したときは、再生剤により再生する再生工程を行う。例えば、F型弱塩基性アニオン交換樹脂については、F型に再生するために、フッ化水素濃度を1質量%以下にした後のフッ酸廃液が供給されることが好ましい。フッ化水素濃度が1質量%を超えるフッ酸廃液がアニオン交換工程に供給されると、イオン交換樹脂がF型化しにくいという不具合が生じることがある。
【0047】
強塩基性アニオン交換樹脂によるアニオン交換工程をSA、弱塩基性アニオン交換樹脂によるアニオン交換工程をWA、強酸性カチオン交換樹脂によるカチオン交換工程をSC、キレート樹脂によるカチオン交換工程をCR、と記号を付すと、イオン交換工程は以下の(1)〜(8)のフローで例示される。フロー(5)〜(8)のアニオン交換工程は第1アニオン交換工程と第2アニオン交換工程の2段処理を行うことを示す。また、カチオン交換工程での括弧()内はさらに付加してもよい工程であり、付加したときはカチオン交換工程は第1カチオン交換工程と第2カチオン交換工程の2段処理を行うことを示す。
【0048】
(1)ナノ濾過工程→アニオン交換工程[SA]→カチオン交換工程[SC(→CR)]
(2)ナノ濾過工程→アニオン交換工程[SA]→カチオン交換工程[CR(→SC)]
(3)ナノ濾過工程→アニオン交換工程[WA]→カチオン交換工程[SC(→CR)]
(4)ナノ濾過工程→アニオン交換工程[WA]→カチオン交換工程[CR(→SC)]
(5)ナノ濾過工程→アニオン交換工程[WA→SA]→カチオン交換工程[SC(→CR)]
(6)ナノ濾過工程→アニオン交換工程[WA→SA]→カチオン交換工程[CR(→SC)]
(7)ナノ濾過工程→アニオン交換工程[SA→WA]→カチオン交換工程[SC(→CR)]
(8)ナノ濾過工程→アニオン交換工程[SA→WA]→カチオン交換工程[CR(→SC)]
【0049】
本発明に係るフッ酸回収方法及び装置では、ナノ濾過工程でケイフッ化水素酸を50%以上(好ましくは60%〜95%)除去することができるとともに、金属イオンを除去することができる。次いで、アニオン交換工程では、残留ケイフッ化水素酸とアニオン状の金属フッ化物(例えばフッ素で錯体化された金属錯体イオン等)を除去することができる。このアニオン交換工程にF型アニオン交換樹脂を適用すればアニオン交換処理液中にはフッ素イオンが付加されることになるので好ましい。次いで、カチオン交換工程では、カチオン交換処理され、カチオン状の金属イオンが除去されてポリッシングされる。
【0050】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について図2を参照して説明する。ナノ濾過では透過液が少ないので、図1の構成図に示される第1実施形態のように、濃縮液の一部をフッ酸廃液タンク1に返送して残部を系外に排出するフィードアンドブリード方式を採用している。したがって、フッ酸廃液タンク1内の被処理液に返送された濃縮液が混合されて経時的に不純物濃度が高くなる。NF膜による不純物の除去率が一定すると、被処理液の不純物濃度と透過液の不純物濃度とが同程度になってしまうケースがある。例えば、除去率80%のNF膜を用いて回収率80%(5倍濃縮)で不純物濃度100mg/Lの被処理液をナノ濾過すると、被処理液中の不純物は経時的に約5倍濃縮されて不純物濃度が約500mg/Lに達し、このときの被処理液を除去率80%でナノ濾過すると、透過液中の不純物濃度は100mg/Lになる。
【0051】
このようなケースにおいては、ナノ濾過の濃縮液を、濃縮液中の不純物濃度を低減した上でフッ酸廃液タンク1に返送して被処理液であるフッ酸廃液に混合する必要がある。第2実施形態では、当該課題を解決するべく第1実施形態を一部改良したものである。
【0052】
図2は、本発明に係るフッ酸回収装置の第2実施形態を示す構成図である。図2に示すように、第2実施形態のフッ酸回収装置は、フッ酸廃液タンク1とナノ濾過手段2の原液側とが配管によって接続され、ナノ濾過手段2の透過液側とアニオン交換手段5の流入側とが配管によって接続されている。しかし、以下の点で図1に示すフッ酸回収装置と相違する。
【0053】
すなわち、第2実施形態のフッ酸回収装置では、ナノ濾過手段2の濃縮液側と濃縮液タンク11とがニードル弁8aを介して配管20aで接続されている。濃縮液タンク11と濃縮液ナノ濾過手段12とが送り配管20bによって接続され、該送り配管20bには該濃縮液を濃縮液ナノ濾過手段12に加圧供給するための加圧ポンプ3bが介設されている。濃縮液ナノ濾過手段12の濃縮液側と濃縮液タンク11とが戻り配管20cによって接続されており、濃縮液ナノ濾過の濃縮液が濃縮液タンク11に返送されるように構成されている。該戻り配管20cにはニードル弁8bと分岐配管とが順次接続されており、分岐配管を通じて濃縮液ナノ濾過の濃縮液が系外に排出できるように構成されている。該戻り配管20cから該分岐配管への分岐点と濃縮液タンク11との間、及び分岐配管にはそれぞれ弁(図示しない)が介設されており、各々の弁の開度を調節することにより、濃縮液タンク11への返送流量と分岐配管からの排出流量との流量比を適宜調節することができるように構成されている。
【0054】
一方、濃縮液ナノ濾過手段12の透過液とフッ酸廃液タンク1とが配管20dによって接続されており、濃縮液ナノ濾過の透過液がフッ酸廃液タンク1に返送されるように構成されている。また、配管20dには、濃縮液ナノ濾過の透過液を冷却する熱交換器9が介設されている。
【0055】
この第2実施形態においては、濃縮液ナノ濾過手段12の濃縮液ナノ濾過工程で処理された後の透過液は、配管20dを通じてフッ酸廃液タンク1に返送され、フッ酸廃液と混合され、再びナノ濾過手段2に移送されてナノ濾過工程に供される。なお、ナノ濾過手段2の場合と同様、濃縮液ナノ濾過手段12で濃縮液ナノ濾過された後の濃縮液のケイフッ化水素酸濃度を計測し、そのケイフッ化水素酸濃度が所定値に達したときには、その濃縮液を分岐配管を通じて系外に排出する。
【0056】
[第3実施形態]
前述したように、使用するNF膜の本数は、流量及び圧力損失を勘案して任意に選択される。例えば、図1のフッ酸回収装置において、NF膜を直列2段に設ける場合は、図3に示す第3実施形態のように構成することができる。図3に示す第3実施形態のフッ酸回収装置は、以下の点で図1示す第1実施形態のフッ酸回収装置と相違する。
【0057】
すなわち、フッ酸廃液タンク1と第1ナノ濾過手段2aの原液側とが配管によって接続され、第1ナノ濾過手段2aの透過液側と第2ナノ濾過手段2bの原液側とが配管によって接続され、第2ナノ濾過手段2bの透過液側とアニオン交換手段5の流入側とが配管によって接続されている。
【0058】
また、第1ナノ濾過手段2aの濃縮液側とフッ酸廃液タンク1とが配管10によって接続されており、濃縮液がフッ酸廃液タンク1に返送されるように構成されている。また、配管10aには、第1ナノ濾過の圧力を調節するためのニードル弁8と、配管10a中の濃縮液を冷却する熱交換器9とが順次介設されている。さらに、配管10aには、ニードル弁8と熱交換器9との間に分岐配管が接続されており、その分岐配管を通じて濃縮液が系外に排出されるように構成されている。また、第2ナノ濾過手段2bの濃縮液側と配管10aの熱交換器9の下流側とが配管10bによって接続されている。
【0059】
[第4実施形態]
図2のフッ酸回収装置において、NF膜を直列2段に設ける場合は、図4に示す第4実施形態のように構成することができる。図4に示す第4実施形態のフッ酸回収装置は、以下の点で図2示す第2実施形態のフッ酸回収装置と相違する。
【0060】
すなわち、フッ酸廃液タンク1と第1ナノ濾過手段2aの原液側とが配管によって接続され、第1ナノ濾過手段2aの透過液側と第2ナノ濾過手段2bの原液側とが配管によって接続され、第2ナノ濾過手段2bの透過液側とアニオン交換手段5の流入側とが配管によって接続されている。第1ナノ濾過手段2aの濃縮液側と濃縮液タンク11とがニードル弁8aを介して配管20aで接続されている。また、第2ナノ濾過手段2bの濃縮液側と配管20dの熱交換器9の下流側とが配管20eによって接続されている。
【0061】
以上、本発明に係るフッ酸回収方法及び装置によれば、イオン交換工程(アニオン交換工程及びカチオン交換工程)の前にナノ濾過工程を設け、処理対象であるフッ酸廃液に含まれるケイフッ化水素酸を事前に粗取りするので、ケイフッ化水素酸濃度を低減したフッ酸廃液をイオン交換工程でイオン交換して再利用できる。その結果、フッ酸廃液の効率的な再生を行うことができるとともに、工程から排出されるフッ酸廃液を工場内で精製して再利用することが可能になる。また、アニオン交換工程及びカチオン交換工程で用いるイオン交換樹脂の再生処理頻度や交換頻度を低減できる。
【0062】
本発明のフッ酸回収方法及び装置は、例えば太陽電池製造工程、ガラスエッチング工程、金属表面エッチング工程等のように、半導体製造工程ほどの極めて厳格な精製が要求されない工程で用いられるフッ酸としての再利用のための回収に好ましく適用できる。精製処理された処理液の再利用方法としては、不純物を取り除いたフッ酸の濃度を例えば超音波濃度計において測定し、濃厚フッ酸を加えて濃度調整した精製液を、フッ酸廃液を回収してきたエッチング工程に戻すことにより、エッチング液として再利用することができる。
【0063】
なお、本発明に係るフッ酸回収方法及び装置と比較されるであろう従来例である特許文献3では、NF膜装置において、供給液(原水)が濃厚液と透過液とに分かれて、その濃厚液の一部を廃棄し、大部分を供給液に戻すフィードアンドブリード方式がとられている。そうすると、同文献の図3からもわかるように、濃厚液が原水槽へ戻るため原水中の不純物濃度(除去対象物質)が上昇してしまい、除去率一定の場合は透過液にリークする不純物濃度が上昇してしまう。したがって、第一のNF膜の原水中不純物濃度が上がりにくくなるように、第一の濃厚液を第二の濃厚液濃縮部に入れることで解決している。第一のブラインは全量を第二の濃縮部に入れても、一部だけを入れて、残りを原水に戻してもかまわない。つまり、Fのラインをさらに別ラインに流して、その透過液を濃縮循環槽に戻すようになっている。
【実施例】
【0064】
実験例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明は以下の実験例に限定解釈されるものではない。各実験例で得られた試料に含まれる例えばケイフッ化水素酸、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マンガンイオン、アルミニウムイオン等の濃度は、原子吸光光度計やICP−MSで測定した。各実験例の結果を表1〜7に示した。
【0065】
[実験例1]
フッ酸に二酸化ケイ素を溶解させて5質量%のフッ化水素と、100mg/Lのケイフッ化水素酸と、100μg/Lのナトリウムイオンとを含む模擬のフッ酸廃液を調製した。このフッ酸廃液を分画分子量1000のスパイラル型2インチモジュールのNF膜(KOCH社製、MPS−36)とハステロイCとを用いて構成されたナノ濾過手段を備えた図1に示すフッ酸回収装置にて、フッ酸廃液の温度を30℃に調整し、加圧ポンプの操作圧力を2MPaにし、流速5L/分でナノ濾過して処理液(透過液)を得た。透過液のケイフッ化水素酸の濃度、ケイフッ化水素酸の除去率、及び透過流速の結果を表1に示した。
【0066】
[実験例2]
実験例1のNF膜を、分画分子量200〜300のスパイラル型2インチモジュールのNF膜(KOCH社製、MPS−34)にした以外は、実験例1と同様にナノ濾過して処理液(透過液)を得た。透過液のケイフッ化水素酸の濃度、ケイフッ化水素酸の除去率、及び透過流速の結果を表1に示した。
【0067】
[実験例3]
実験例1のNF膜を、分画分子量2000のスパイラル型2インチモジュールのNF膜(日東電工株式会社製、NTR−7410)にした以外は、実験例1と同様にナノ濾過して処理液(透過液)を得た。透過液のケイフッ化水素酸の濃度、ケイフッ化水素酸の除去率、及び透過流速の結果を表1に示した。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示されるように、実験例1〜3はいずれもNF膜によりフッ酸廃液中のケイフッ化水素酸を選択性高く除去することができた。ただし、NF膜の分画分子量が過度に小さい実験例2では、ケイフッ化水素酸の除去率は高いが、透過流速が小さく、処理効率が低かった。また、NF膜の分画分子量が過度に大きい実験例3では、透過流速は大きいが、ケイフッ化水素酸の除去率が低かった。
【0070】
[実験例4]
実験例1と同様にして、5質量%のフッ化水素と、100mg/Lのケイフッ化水素酸と、100μg/Lのナトリウムイオンとを含むフッ酸廃液を調製した。このフッ酸廃液を、分画分子量1000のスパイラル型2インチモジュールのNF膜(KOCH社製、MPS−36)を用いた図1のフッ酸回収装置にて、実験例1と同じ条件で所定時間ナノ濾過して処理液(透過液)を得た。透過液のフッ化水素濃度、ケイフッ化水素酸濃度、及びケイフッ化水素酸の除去率の結果を表2に示した。
【0071】
[実験例5]
実験例4のNF膜を用いた第1ナノ濾過手段(1段目)、及び第1ナノ濾過の透過液が供給される第2ナノ濾過手段(2段目)からなる2段のナノ濾過手段を備える図3のフッ酸回収装置にした以外は、実験例4と同様にして、各段での透過液を得た。各段での透過液のフッ化水素濃度、ケイフッ化水素酸濃度、及びケイフッ化水素酸の除去率の結果を表2に示した。
【0072】
【表2】

【0073】
表2に示されるように、ナノ濾過工程は1段処理の実験例4よりも2段処理の実験例5の方がフッ化水素濃度は若干低いものの、ケイフッ化水素酸を高度に除去することができた。
【0074】
[実験例6]
実験例5で得られた第2ナノ濾過の透過液を、弱塩基性アニオン交換樹脂(ランクセス社製、MP62)に通液した後、強酸性カチオン交換樹脂(三菱化学株式会社製、SK1B)に通液して処理液を得た。各樹脂量は6Lで、SVを5にした。処理液のナトリウムイオン濃度及びナトリウムイオンの除去率を表3に示した。
【0075】
[実験例7]
実験例6で、イオン交換樹脂に通液する順番を、強酸性カチオン交換樹脂に通液した後、弱塩基性アニオン交換樹脂に通液することにした以外は、実験例6と同様にして処理液を得た。処理液のナトリウムイオン濃度及びナトリウムイオンの除去率を表3に示した。
【0076】
【表3】

【0077】
表3に示されるように、アニオン交換処理を行った後にカチオン交換処理を行う実験例6の方が、カチオン交換処理を先に行った後にアニオン交換処理を行う実験例7よりもナトリウムを高度に除去することができた。
【0078】
[実験例8]
ナノ濾過工程の前の流路に導電率計を設け、フッ酸廃液に含まれるケイフッ化水素酸の濃度が20mg/L未満の場合は、ナノ濾過工程を経ずにアニオン交換工程に通液される図1のフッ酸回収装置を用いて、実験例1と同様の条件でナノ濾過処理とアニオン交換処理を行った。なお、フッ酸廃液中のモリブデンイオン濃度は50μg/Lであり、また、ケイフッ化水素酸濃度は10〜50mg/Lの範囲で変動するように調整した。そして、ナノ濾過工程を経ずにアニオン交換工程で処理されたフッ酸廃液を回収し、モリブデンイオン濃度を測定した。結果を表4に示した。
【0079】
[実験例9]
実験例8で、ナノ濾過工程を経てアニオン交換工程で処理されたフッ酸廃液を回収し、モリブデンイオン濃度を測定した。結果を表4に示した。
【0080】
【表4】

【0081】
表4に示されるように、ナノ濾過工程を経ずにアニオン交換工程で処理した実験例8よりもナノ濾過工程を経てアニオン交換工程で処理した実験例9の方がモリブデンイオン濃度は高く、ナノ濾過工程においてナノ濾過装置を構成するハステロイからモリブデンイオンが溶出していたことが示された。なお、モリブデンイオンはフッ化物イオンと錯体イオンを形成するため、錯体イオンがアニオン交換工程で除去されてモリブデンイオン濃度が低下している。
【0082】
[実験例10]
フッ酸廃液に含まれるケイフッ化水素酸の含有量を250mg/Lにし、フッ酸廃液の温度を15℃にし、圧力ポンプの操作圧力を3.5MPaにした以外は、実験例1と同様にしてナノ濾過を行い、処理液(透過液)を得た。フッ酸廃液の処理温度、処理液のケイフッ化水素酸濃度及びケイフッ化水素酸の除去率の結果を表5に示した。
【0083】
[実験例11〜13]
実験例10において、フッ酸廃液の温度をそれぞれ20℃、25℃、30℃にした以外は、実験例10と同様にしてナノ濾過を行い、処理液(透過液)を得た。フッ酸廃液の処理温度、処理液のケイフッ化水素酸濃度及びケイフッ化水素酸の除去率の結果を表5に示した。
【0084】
【表5】

【0085】
表5に示されるように、実験例10〜13のいずれもナノ濾過処理によってケイフッ化水素酸を除去できているが、フッ酸廃液の温度が高くなるにつれてケイフッ化水素酸の除去率は低下し、フッ酸廃液の温度が30℃に達すると除去率は50%未満に低下することが示された。
【0086】
[実験例14]
実験例1と同様にして、5質量%のフッ化水素と、140mg/Lのケイフッ化水素酸とを含有するフッ酸廃液を調製した。このフッ酸廃液を、アニオン交換樹脂を1質量%以下の希薄フッ酸を用いてF型にした弱塩基性アニオン交換樹脂(ランクセス社製、MP62)15mLに、流速1.3mL/分で24時間(SV5)の条件で通液し、ナノ濾過及びアニオン交換処理を行った。通液時間、アニオン交換処理液のケイフッ化水素酸濃度、及びケイフッ化水素酸の除去率の結果を表6に示した。
【0087】
[実験例15〜17]
実験例14において、通液時間をそれぞれ36時間、58時間、76時間にした以外は、実験例14と同様にしてナノ濾過及びアニオン交換処理を行った。通液時間、アニオン交換処理液のケイフッ化水素酸濃度、及びケイフッ化水素酸の除去率の結果を表6に示した。
【0088】
[実験例18〜21]
アニオン交換樹脂を強塩基性アニオン交換樹脂(三菱化学株式会社製、SA10A)とした以外は、それぞれ実験例14〜17と同様にしてナノ濾過及びアニオン交換処理を行った。通液時間、アニオン交換処理液のケイフッ化水素酸濃度、及びケイフッ化水素酸の除去率の結果を表6に示した。
【0089】
【表6】

【0090】
表6に示されるように、実験例14〜17及び実験例18〜21はいずれも通液時間が一定時間を超えるとアニオン交換樹脂が破過して急激にケイフッ化水素酸濃度が高くなるため、通液時間は24時間以下が好ましいことが示された。
【0091】
[実験例22]
5質量%のフッ化水素と、138μg/Lのマグネシウムイオンと、116μg/Lのカリウムイオンと、578μg/Lのカルシウムイオンと、4.5μg/Lのマンガンイオンと、6.9μg/Lのアルミニウムイオンとを含有するフッ酸廃液を調製し、そのフッ酸廃液300mLを、強酸性カチオン交換樹脂(三菱化学株式会社製、SK1B)15mLと混合し、20時間振とうさせてカチオン交換処理を行い、上澄みを回収してカチオン交換処理液を得た。なお、強酸性カチオン交換樹脂は、フッ酸廃液と混合する前に、10質量%の塩酸中で15時間振とうさせて、その後超純水中に10回置換させて前洗浄を行った。各イオンの除去率を表7に示した。
【0092】
[実験例23]
強酸性カチオン交換樹脂をキレート樹脂(ピュロライト社製、S910)とした以外は、実施例22と同様にしてカチオン交換処理を行った。各イオンの除去率を表7に示した。
【0093】
【表7】

【0094】
表7に示されるように、実験例22では強酸性カチオン交換樹脂によってマグネシウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン及びマンガンイオンが高度に除去されることが示され、一方、実験例23では、キレート樹脂によってアルミニウムイオンが高度に除去されることが示された。
【0095】
[比較実験例1]
実験例1で調製したフッ酸廃液を図1のフッ酸回収装置において、フッ酸廃液が常にフッ酸廃液タンク1からナノ濾過手段2を経ず、直接アニオン交換手段5に送液される(図1中の破線経路を参照。)ようにしてアニオン交換処理を行った。なお、アニオン交換樹脂量15mL、SV5[h-1]とした。その結果、アニオン交換処理液のケイフッ化水素酸濃度は10mg/Lであり、例えば実験例14〜16,18に比べて除去率が低かった。また、処理開始後10時間でアニオン交換樹脂が破過した。
【符号の説明】
【0096】
1 フッ酸廃液タンク
2 ナノ濾過手段
2a 第1ナノ濾過手段
2b 第2ナノ濾過手段
3,3a,3b 加圧ポンプ
4 圧力計
5 アニオン交換手段
6 カチオン交換手段
7 フッ酸精製液タンク
8,8a,8b ニードル弁
9 熱交換器
10,10a,10b 配管
11 濃縮液タンク
12 濃縮液ナノ濾過手段
20a,20d,20e 配管
20b 送り配管
20c 戻り配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイフッ化水素酸を含むフッ酸廃液をナノ濾過するナノ濾過工程と、前記ナノ濾過工程を経た透過液をアニオン交換処理するアニオン交換工程と、前記アニオン交換工程を経たアニオン交換処理液をカチオン交換処理するカチオン交換工程と、を有することを特徴とするフッ酸回収方法。
【請求項2】
前記ナノ濾過工程で濾過する前記フッ酸廃液中の前記ケイフッ化水素酸濃度が100mg/L以上である、請求項1に記載のフッ酸回収方法。
【請求項3】
前記ナノ濾過工程での濾過が、前記フッ酸廃液に含まれるケイフッ化水素酸を50%以上除去する、請求項1又は2に記載のフッ酸回収方法。
【請求項4】
前記ナノ濾過工程での濾過を、分画分子量500〜2000のスパイラル型NF膜で行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフッ酸回収方法。
【請求項5】
前記アニオン交換工程でのアニオン交換処理を、F型弱塩基性アニオン交換樹脂及びF型強塩基性アニオン交換樹脂のいずれか、又はそれらを組み合わせて行い、
前記カチオン交換工程でのカチオン交換処理を、H型強酸性カチオン交換樹脂及びキレート樹脂のいずれか、又はそれらを組合せて行う、請求項1〜4のいずれか1項に記載のフッ酸回収方法。
【請求項6】
前記ナノ濾過工程で濾過した後の濃縮液をさらにナノ濾過する濃縮液ナノ濾過工程をさらに備え、該濃縮液ナノ濾過工程で濾過した後の濃縮液を、前記ナノ濾過工程に供給される前記フッ酸廃液に混合する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のフッ酸回収方法。
【請求項7】
前記ナノ濾過工程又は前記濃縮液ナノ濾過工程で濾過した後の濃縮液のケイフッ化水素酸濃度を計測し、該ケイフッ化水素酸濃度が所定値に達したときに、該濃縮液を系外に排出する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のフッ酸回収方法。
【請求項8】
前記ナノ濾過工程に供給される前記フッ酸廃液の不純物濃度を計測し、該不純物濃度が所定値以下であるとき、前記フッ酸廃液を前記ナノ濾過工程で濾過せずに前記アニオン交換工程に供給する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のフッ酸回収方法。
【請求項9】
ケイフッ化水素酸を含むフッ酸廃液をナノ濾過するナノ濾過手段と、前記ナノ濾過手段を経た透過液をアニオン交換処理するアニオン交換手段と、前記アニオン交換手段を経たアニオン交換処理液をカチオン交換処理するカチオン交換手段と、を有することを特徴とするフッ酸回収装置。
【請求項10】
前記ナノ濾過手段で濾過した後の濃縮液をさらにナノ濾過する濃縮液ナノ濾過手段と、該濃縮液ナノ濾過手段で濾過した後の濃縮液を、前記ナノ濾過手段に供給される前記フッ酸廃液に混合する配管とをさらに備える、請求項9に記載のフッ酸回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−95629(P2013−95629A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239373(P2011−239373)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】