説明

フルオロカルボン酸エステルの製造方法

【課題】有毒物を発生させることなく、安全に製造することができるフルオロカルボン酸エステルの製造方法を提供する。
【解決手段】CX123CFX4OR(X1〜X4は同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基;Rはアルキル基である)で示されるフルオロエーテル(A)に、濃硫酸(B)と、アルカリ金属酸化物(C1)、アルカリ土類金属酸化物(C2)および13族金属酸化物(C3)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物(C)とを作用させることで、CX123COOR(X1〜X3およびRは上記と同じである)で示されるフルオロカルボン酸エステルを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロカルボン酸エステルの新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CHF2COOR(R:アルキル基)やCF3CHFCOOR(R:アルキル基)などのフルオロカルボン酸エステルは、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタなどにおける負極の被膜系製剤などとして有用であるが、合成法が困難である。
【0003】
たとえば、非特許文献1では、これらのフルオロカルボン酸エステルは、CHF2CF2OCH3やCF3CHFCF2OCH3などのフルオロエーテルを硫酸で加水分解する方法がとられており、その際、SiO2を使用することでHFが発生するのを抑制している。しかし、この場合、装置の腐食や、毒性ガスであるSiF4の発生などといった問題があった。また、収率も60%と優れたものではなかった。
【0004】
また、特許文献1には、所定のハロゲン化エタンを酸化することを特徴とするジフルオロ酢酸ハライドの製造方法と、得られたジフルオロ酢酸ハライドと水を反応させることを特徴とするジフルオロ酢酸の製造方法が記載されている。しかし、フルオロカルボン酸エステルを意図したものではなく、酸素や塩素と同封し、高圧水銀灯で照射して行う反応であり、作業上困難であった。
【0005】
さらに、特許文献2には、所定の1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを気相反応させることを特徴とするジフルオロ酢酸フルオライドの製造方法と、得られたジフルオロ酢酸フルオライドと所定のアルコールを反応させることを特徴とするジフルオロ酢酸エステルの製造方法が記載されている。しかし、200℃で酸化アルミニウムに吸着させて行う反応であり、高温を必要とし、作業上困難であった。
【0006】
【特許文献1】特開平8−53388号公報
【特許文献2】特開平8−92162号公報
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society 72, 1860 (1950)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、有毒物を発生させることなく、安全に製造することができるフルオロカルボン酸エステルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、式(1):
CX123CFX4OR
(式中、X1〜X4は同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基;Rはアルキル基である)
で示されるフルオロエーテル(A)に、
濃硫酸(B)と、
アルカリ金属酸化物(C1)、アルカリ土類金属酸化物(C2)および13族金属酸化物(C3)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物(C)とを作用させる式(2):
CX123COOR
(式中、X1〜X3およびRは式(1)と同じである)
で示されるフルオロカルボン酸エステルの製造方法に関する。
【0009】
前記フルオロエーテル(A)は、
式(3):
CX56=CFX7
(式中、X5〜X7は同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基である)
で示されるフルオロオレフィン(D)に、
塩基(E)と、
式(4):
ROH
(式中、Rは式(1)と同じである)
で示されるアルコール(F)とを作用して得られるフルオロエーテルであることが好ましい。
【0010】
前記フルオロエーテル(A)は、CHF2CF2OCH3、CF3CHFCF2OCH3、CHF2CF2OC25およびCF3CHFCF2OC25よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
前記濃硫酸(B)の濃度が50〜98質量%であることが好ましい。
【0012】
前記酸化物(C)は、Al23であることが好ましい。
【0013】
前記濃硫酸(B)の作用量がフルオロエーテル(A)に対して10〜150モル%、酸化物(C)の作用量がフルオロエーテル(A)に対して20〜60モル%であり、濃硫酸(B)の作用量/酸化物(C)の作用量の比が10/60〜100/20であることが好ましい。
【0014】
前記フルオロオレフィン(D)がCF2=CF2および/またはCF3CF=CF2であり、アルコール(F)がCH3OHおよび/またはC25OHであることが好ましい。
【0015】
前記塩基(E)は、KOHであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所定のフルオロエーテル(A)に、濃硫酸(B)と所定の酸化物(C)とを作用させることで、有毒物を発生させることなく、フルオロカルボン酸エステルを安全に製造することができる新規な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の新規な製造方法は、所定のフルオロエーテル(A)に、濃硫酸(B)と所定の酸化物(C)とを作用させることで、所定のフルオロカルボン酸エステルを製造することができる。また、前記フルオロエーテル(A)は、所定のフルオロオレフィン(D)に、塩基(E)と所定のアルコール(F)とを作用して得られるフルオロエーテルであることが好ましい。
【0018】
以下、各成分について説明する。
【0019】
(A)フルオロエーテル:
本発明で使用するフルオロエーテル(A)は、式(1):
CX123CFX4OR
(式中、X1〜X4は同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基;Rはアルキル基である)
で示されるものである。
【0020】
1〜X4の少なくとも1つがフルオロアルキル基の場合、パーフルオロアルキル基が反応性に優れる点から好ましく、その炭素数は、結晶性が小さく、固体化しにくい点から、1〜8が、さらには1〜5が好ましい。なお、有機合成しやすい点から、X1〜X4の1つは−Hであり、残り4つは−Fまたはフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0021】
1〜X3の好ましい組み合わせとしては、−H、−F、−Fの組み合わせ、−H、−F、−CF3の組み合わせ、−H、−F、−C25の組み合わせ、−H、−F、−C37の組み合わせなどがあげられ、合成が容易で、粘性が高く、塩の溶解性に優れる点から、−H、−F、−Fの組み合わせまたは−H、−F、−CF3の組み合わせが好ましい。
【0022】
また、X4としては、反応性に優れる点から、−Fが好ましい。
【0023】
式(1)において、CX123CFX4−の部分の具体例としては、たとえば、CHF2CF2−、CHF2CHF−、CHF2CH2−、CH2FCH2−、CH2FCHF−、CF3CHFCF2−、CF3CHFCH2−、CF3CH2CH2−、CF3CH2CF2−、C25CHFCF2−、C25CHFCH2−、C25CH2CH2−、C25CH2CF2−、C37CHFCF2−、C37CHFCH2−、C37CH2CH2−、C37CH2CF2−、CH(CF32CF2−などがあげられ、合成が容易で粘性および塩の溶解性に優れる点から、CHF2CF2−またはCF3CHFCF2−が好ましい。
【0024】
また、Rはアルキル基である。その炭素数は、1〜8が、さらには1〜4が、塩の溶解性、耐酸化性および粘性に優れる点から好ましい。
【0025】
好ましいフルオロエーテル(A)の具体例としては、たとえば、CHF2CF2OCH3、CF3CHFCF2OCH3、CHF2CF2OC25、CF3CHFCF2OC25、CHF2CF2OC37、CHF2CF2OCH(CH32、CF3CHFCF2OC37、CF3CHFCF2OCH(CH3)CH3、CHF2CF2OC49、CHF2CF2OCH2CH(CH3)CH3、CHF2CF2OC(CH33、CF3CHFCF2OC49、CF3CHFCF2OCH2CH(CH3)CH3、CF3CHFCF2OC(CH33などがあげられ、塩の溶解性および粘性に優れる点から、CHF2CF2OCH3、CF3CHFCF2OCH3、CHF2CF2OC25、CF3CHFCF2OC25が好ましく、CHF2CF2OC25がより好ましい。
【0026】
このようなフルオロエーテル(A)は、耐酸化性に優れる点から、式(3):
CX56=CFX7
(式中、X5〜X7は同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基である)
で示されるフルオロオレフィン(D)に、
塩基(E)と、
式(4):
ROH
(式中、Rは式(1)と同じである)
で示されるアルコール(F)とを作用して得られるフルオロエーテルが好ましい。
【0027】
(D)フルオロオレフィン:
フルオロオレフィン(D)は、式(3):
CX56=CFX7
(式中、X5〜X7は同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基である)
で示されるものが好ましい。
【0028】
式(3)において、X5〜X7は、耐酸化性に優れる点から、同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基が好ましい。
【0029】
5〜X7の少なくとも1つがフルオロアルキル基の場合、パーフルオロアルキル基が反応性に優れる点から好ましく、その炭素数は、結晶性が小さく、固体化しにくい点から、1〜8が、さらには1〜5が好ましい。
【0030】
フルオロオレフィン(D)の好ましい具体例としては、たとえば、CF2=CF2、CHF=CF2、CH2=CF2、CH2=CHF、CHF=CHF、CF3CF=CF2、CF3CH=CF2、CF3CF=CH2、CF3CH=CH2、C25CF=CF2、C25CH=CF2、C25CF=CH2、C25CH=CH2、C37CF=CF2、C37CH=CF2、C37CF=CH2、C37CH=CH2、C(CF32=CF2などがあげられ、粘性および塩の溶解性に優れる点から、CF2=CF2、CF3CF=CF2が好ましい。
【0031】
(E)塩基:
塩基(E)としては、後述するアルコール(F)に溶解してpHが7〜12になるものであればとくに制限はないが、たとえば、LiOH、KOH、NaOH、Ca(OH)2、Al(OH)3などがあげられ、安価な点から、KOHが好ましい。
【0032】
(F)アルコール:
アルコール(F)は、式(4):
ROH
(式中、Rは式(1)と同じである)
で示されるものが好ましい。
【0033】
式(4)において、Rは式(1)と同じとすることができる。
【0034】
好ましいアルコール(F)の具体例としては、たとえば、CH3OH、C25OH、C37OH、CH(CH32OH、C49OH、CH3CH(CH3)CH2、C(CH33などがあげられ、粘性および塩の溶解性に優れる点から、CH3OH、C25OHが好ましく、C25OHがより好ましい。
【0035】
フルオロオレフィン(D)に塩基(E)およびアルコール(F)を作用させる際、塩基(E)の作用量は、とくに制限されるわけではないが、後処理しやすい点から、フルオロオレフィン(D)に対して10〜100モル%が好ましく、30〜60モル%がより好ましい。また、アルコール(F)の作用量は、反応効率が高く、撹拌効果に優れる点から、フルオロオレフィン(D)に対して100〜150モル%が好ましく、120〜150モル%がより好ましい。
【0036】
この際、フルオロオレフィン(D)と系内の水分が反応しないように、真空雰囲気下で作用させることが好ましい。
【0037】
フルオロオレフィン(D)に塩基(E)およびアルコール(F)を作用させる際の溶媒については、とくに必要なものではないが、使用する場合には、極性溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、グライム系溶媒などを使用することができる。
【0038】
作用温度は、安全性および作業性に優れる点から、10〜80℃が好ましく、30〜50℃がより好ましい。
【0039】
作用圧力は、安全性および作業性に優れる点から、0.1〜0.5MPaが好ましく、0.1〜0.3MPaがより好ましい。
【0040】
(B)濃硫酸:
硫酸には、濃硫酸(B)以外に希硫酸もあるが、本発明では、反応性を促進させる点から、濃度が50〜98質量%の濃硫酸(B)を使用する。
【0041】
(C)酸化物:
酸化物(C)は、反応性が高い点から、アルカリ金属酸化物(C1)、アルカリ土類金属酸化物(C2)および13族金属酸化物(C3)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物(C)である。
【0042】
アルカリ金属酸化物(C1)としてはたとえば、Li2O、Na2O、Na22、K2O、K22、K23などがあげられ、アルカリ土類金属酸化物(C2)としてはたとえば、CaO、SrO、BaOなどがあげられ、13族金属酸化物(C3)としてはたとえば、Al23、Ga2O、Ga23、In2O、In23などがあげられる。なかでも、反応性が高く、化合物の入手が容易な点から、13族金属酸化物(C3)が好ましく、Al23がより好ましい。
【0043】
フルオロエーテル(A)に濃硫酸(B)および酸化物(C)を作用させる際、濃硫酸(B)の作用量は、反応性が高い点から、フルオロエーテル(A)に対して10〜150モル%が好ましく、120〜150モル%がより好ましい。また、酸化物(C)の作用量は、発生するフッ化水素(フッ酸)の吸収効率が高い点から、フルオロエーテル(A)に対して20〜60モル%が好ましく、30〜50モル%がより好ましい。さらに、濃硫酸(B)の作用量/酸化物(C)の作用量は、発生するフッ化水素(フッ酸)の吸収効率が高い点から、フルオロエーテル(A)に対して10/60〜100/20が好ましく、1/4〜6/4がより好ましく、2/4〜6/4がさらに好ましい。
【0044】
フルオロエーテル(A)に濃硫酸(B)および酸化物(C)を作用させる際の溶媒については、とくに必要なものではないが、使用する場合には、極性溶媒としてTHF、DMF、DMAC、NMP、グライム系溶媒などを使用することができる。
【0045】
作用温度は、安全性および作業性に優れる点から、10〜80℃が好ましく、30〜50℃がより好ましい。
【0046】
作用圧力は、安全性および作業性に優れる点から、0.1〜0.5MPaが好ましく、0.1〜0.3MPaがより好ましい。
【0047】
なお、本発明における濃硫酸(B)および酸化物(C)の働きについては必ずしも明確ではないが、酸化物(C)を欠くと、HFが発生して安全性に欠け、濃硫酸(B)を欠くと、反応は進まない。
【0048】
このように、本発明の製造方法により製造されたフルオロカルボン酸エステルは、式(2):
CX123COOR
(式中、X1〜X3およびRは式(1)と同じである)
で示されるものであり、従来除酸剤として使用していたSiO2を使用せず、SiF4などの有毒ガスが発生しないため、安全にフルオロカルボン酸エステルを製造することができる。
【実施例】
【0049】
つぎに本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0050】
なお、本発明で採用した測定法は以下のとおりである。
【0051】
NMR:BRUKER社製のAC−300を使用
1H−NMR:
測定条件:300MHz(テトラメチルシラン=0ppm)
19F−NMR:
測定条件:282MHz(トリクロロフルオロメタン=0ppm)
【0052】
実施例1(CHF2COOC25(フルオロカルボン酸エステル(1))の合成)
ステンレススチール製の3Lオートクレーブに、KOH(塩基(E))108g(1.9mol)およびC25OH(アルコール(F1))1104g(24mol)を入れ、室温で真空−窒素置換を3回行った。系内を真空にした後、反応系を40℃にし、テトラフルオロエチレン(フルオロオレフィン(D1)):
CF2=CF2
1560g(15.6mol)を少しずつ加えていった。圧力降下が見られなくなるまで、50℃で2.5時間反応させた。反応終了後、オートクレーブを室温に戻し、ブロー後、水洗を3回行い、15段オルダーショウで精留精製を行い、フルオロエーテル(A1):
CHF2CF2OC25
を2045g(収率93%、沸点:54℃)得た。
【0053】
次に、スリーワンモータ、冷却管、滴下ロート、温度計を備え付けた3L四つ口フラスコにAl23(酸化物(C3))419.06g(4.11mol:0.4当量)、98%H2SO4(濃硫酸(B))520g(5.15mol:0.5当量)を入れた。反応器を70℃に加熱し、滴下ロートからフルオロエーテル(A1)1500g(10.3mol)を5時間かけて滴下した。滴下終了後、70℃で2時間反応させた。さらに、この反応器に蒸留装置を備え付け、粗ジフルオロ酢酸エチル:
CHF2COOC25
を抜き出した。この粗溶液を水で1回、飽和NaHCO3水溶液で2回洗浄し、精留精製を行ない、ジフルオロ酢酸エチル(フルオロカルボン酸エステル(1)):
CHF2COOC25
を917g(収率:74%、沸点:95℃)得た。
【0054】
この生成物を19F−NMR、1H−NMRにより分析した。
19F−NMR:(neat):−128.11〜−129.28ppm(2F)
1H−NMR:(neat):0.20〜0.265ppm(3H)、3.19〜3.27ppm(2H)、4.69〜5.08ppm(1H)
なお、従来発生していたSiF4のような有毒物質の発生は認められなかった。
【0055】
実施例2(CHF2COOCH3(フルオロカルボン酸エステル(2))の合成)
ステンレススチール製の3Lオートクレーブに、KOH(塩基(E))108g(1.9mol)およびCH3OH(アルコール(F2))768g(24mol)を入れ、室温で真空−窒素置換を3回行った。系内を真空にした後、反応系を40℃にし、テトラフルオロエチレン(フルオロオレフィン(D1)):
CF2=CF2
1560g(15.6mol)を少しずつ加えていった。圧力降下が見られなくなるまで、50℃で2.5時間反応させた。反応終了後、オートクレーブを室温に戻し、ブロー後、水洗を3回行い、15段オルダーショウで精留精製を行い、フルオロエーテル(A2):
CHF2CF2OCH3
を1956g(収率95%、沸点:42℃)得た。
【0056】
次に、スリーワンモータ、冷却管、滴下ロート、温度計を備え付けた3L四つ口フラスコにAl23(酸化物(C3))419.06g(4.11mol:0.4当量)、98%H2SO4(濃硫酸(B))520g(5.15mol:0.5当量)を入れた。反応器を70℃に加熱し、滴下ロートからフルオロエーテル(A2)1360g(10.3mol)を5時間かけて滴下した。滴下終了後、70℃で2時間反応させた。さらに、この反応器に蒸留装置を備え付け、粗ジフルオロ酢酸メチル:
CHF2COOCH3
を抜き出した。この粗溶液を水で1回、飽和NaHCO3水溶液で2回洗浄し、精留精製を行い、ジフルオロ酢酸メチル(フルオロカルボン酸エステル(2)):
CHF2COOCH3
を860g(収率76%、沸点:85℃)得た。
【0057】
この生成物を19F−NMR、1H−NMRにより分析した。
19F−NMR:(neat):−128.4〜−129.6ppm(2F)
1H−NMR:(neat):2.81〜2.82ppm(3H)、4.75〜5.11ppm(1H)
なお、従来発生していたSiF4のような有毒物質の発生は認められなかった。
【0058】
実施例3(CF3CHFCOOC25(フルオロカルボン酸エステル(3))の合成)
ステンレススチール製の3Lオートクレーブに、KOH(塩基(E))56g(1.0mol)およびC25OH(アルコール(F1))460g(10mol)を入れ、室温で真空−窒素置換を3回行った。系内を真空にした後、反応系を40℃にし、ヘキサフルオロプロピレン(フルオロオレフィン(D2)):
CF3CF=CF2
1000g(6.67mol)を少しずつ加えていった。圧力降下が見られなくなるまで、50℃で3時間反応させた。反応終了後、オートクレーブを室温に戻し、ブロー後、水洗を3回行い、10段オルダーショウで精留精製を行い、フルオロエーテル(A3):
CF3CHFCF2OC25
を1240g(収率:95%、沸点:67℃)得た。
【0059】
次に、スリーワンモータ、冷却管、滴下ロート、温度計を備え付けた3L四つ口フラスコにAl23(酸化物(C3))251.4g(2.46mol:0.4当量)、98%H2SO4(濃硫酸(B))312g(3.1mol:0.5当量)を入れた。反応器を70℃に加熱し、滴下ロートからフルオロエーテル(A3)1200g(6.3mol)を5時間かけて滴下した。滴下終了後、70℃で2時間反応させた。さらに、この反応器に蒸留装置を備え付け、粗フルオロプロピオン酸エチル:
CF3CHFCOOC25
を抜き出した。この粗溶液を水で1回、飽和NaHCO3水溶液で2回洗浄し、精留精製を行い、フルオロプロピオン酸エチル(フルオロカルボン酸エステル(3)):
CF3CHFCOOC25
を855g(収率:78%、沸点:83℃)得た。
【0060】
この生成物を19F−NMR、1H−NMRにより分析した。
19F−NMR:(neat):−75.92〜−76.69ppm(3F)、−205.66〜−206.04ppm(1F)
1H−NMR:(neat):0.20〜0.265ppm(3H)、3.19〜3.27ppm(2H)、4.69〜5.08ppm(1H)
なお、従来発生していたSiF4のような有毒物質の発生は認められなかった。
【0061】
実施例4(CF3CHFCOOCH3(フルオロカルボン酸エステル(4))の合成)
ステンレススチール製の3Lオートクレーブに、KOH(塩基(E))56g(1.0mol)およびCH3OH(アルコール(F2))320g(10mol)を入れ、室温で真空−窒素置換を3回行った。系内を真空にした後、反応系を40℃にし、ヘキサフルオロプロピレン(フルオロオレフィン(D2)):
CF3CF=CF2
1000g(6.67mol)を少しずつ加えていった。圧力降下が見られなくなるまで、50℃で3時間反応させた。反応終了後、オートクレーブを室温に戻し、ブロー後、水洗を3回行い、10段オルダーショウで精留精製を行い、フルオロエーテル(A4):
CF3CHFCF2OCH3
を1120g(収率:92%、沸点:52℃)得た。
【0062】
次に、スリーワンモータ、冷却管、滴下ロート、温度計を備え付けた3L四つ口フラスコにAl23(酸化物(C3))244.4g(2.38mol:0.4当量)、98%H2SO4(濃硫酸(B))302g(3.0mol:0.5当量)を入れた。反応器を70℃に加熱し、滴下ロートからフルオロエーテル(A4)1120g(6.1mol)を5時間かけて滴下した。滴下終了後、70℃で2時間反応させた。さらに、この反応器に蒸留装置を備え付け、粗フルオロプロピオン酸メチル:
CF3CHFCOOCH3
を抜き出した。この粗溶液を水で1回、飽和NaHCO3水溶液で2回洗浄し、精留精製を行ない、フルオロプロピオン酸メチル(フルオロカルボン酸エステル(4)):
CF3CHFCOOCH3
を740g(収率76%、沸点:83℃)得た。
【0063】
この生成物を19F−NMR、1H−NMRにより分析した。
19F−NMR:(neat):−75.92〜−76.69ppm(3F)、−205.66〜−206.04ppm(1F)
1H−NMR:(neat):0.20〜0.265ppm(3H)、3.19〜3.27ppm(2H)、4.69〜5.08ppm(1H)
なお、従来発生していたSiF4のような有毒物質の発生は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
CX123CFX4OR
(式中、X1〜X4は同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基;Rはアルキル基である)
で示されるフルオロエーテル(A)に、
濃硫酸(B)と、
アルカリ金属酸化物(C1)、アルカリ土類金属酸化物(C2)および13族金属酸化物(C3)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物(C)とを作用させる式(2):
CX123COOR
(式中、X1〜X3およびRは式(1)と同じである)
で示されるフルオロカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項2】
フルオロエーテル(A)が、
式(3):
CX56=CFX7
(式中、X5〜X7は同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基である)
で示されるフルオロオレフィン(D)に、
塩基(E)と、
式(4):
ROH
(式中、Rは式(1)と同じである)
で示されるアルコール(F)とを作用して得られるフルオロエーテルである請求項1記載のフルオロカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項3】
フルオロエーテル(A)が、CHF2CF2OCH3、CF3CHFCF2OCH3、CHF2CF2OC25およびCF3CHFCF2OC25よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2記載のフルオロカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項4】
濃硫酸(B)の濃度が50〜98質量%である請求項1〜3のいずれかに記載のフルオロカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項5】
酸化物(C)がAl23である請求項1〜4のいずれかに記載のフルオロカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項6】
濃硫酸(B)の作用量がフルオロエーテル(A)に対して10〜150モル%、酸化物(C)の作用量がフルオロエーテル(A)に対して20〜60モル%であり、濃硫酸(B)の作用量/酸化物(C)の作用量の比が10/60〜100/20である請求項1〜5のいずれかに記載のフルオロカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項7】
フルオロオレフィン(D)がCF2=CF2および/またはCF3CF=CF2であり、アルコール(F)がCH3OHおよび/またはC25OHである請求項2〜6のいずれかに記載のフルオロカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項8】
塩基(E)がKOHである請求項2〜7のいずれかに記載のフルオロカルボン酸エステルの製造方法。

【公開番号】特開2008−280305(P2008−280305A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127202(P2007−127202)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】