説明

フレキシブルフラットケーブルのスプライス構造

【課題】作業工程を簡単にし、スペースを取らず通電容量に制限を生じさせずにFFCを分岐接続する。
【解決手段】導体を絶縁フィルムで被覆したFFC20、30同士を所要位置で分岐接続する接続構造であって、FFCでは導体21、31の接続部21a、31aを被覆する絶縁フィルムのみを穴空き状に剥離して接続部21a、31aの導体を露出させ、露出させた導体同士が互いに向き合うようにFFC20、30同士を配置し、これら導体21、31間に、厚さ方向に導電性を有すると共に面方向に絶縁性を有する異方性導電接着フィルム40を介在させ、該異方性導電接着フィルムの厚さ方向の両面40a、40bに前記FFCの導体を接触させて接着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルフラットケーブル(以下、FFCと略称する)のスプライス構造に関し、幹線のFFCに支線のFFCを重ねて所要の導体同士をスプライス接続するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より車載に搭載される電装品間を接続するため電線群を集束したワイヤハーネスが車両に配索されている。
しかし、電装品の増加に伴い各ワイヤハーネスの電線が増加し、ワイヤハーネス径が肥大化し、広い配索スペースが必要になると共に、その重量が車両の重量に対して無視できないものとなっている。
そこで、近時、銅箔からなる複数の導体を平行配置し、絶縁樹脂フィルムでラミネートして一体的したFFCが、前記電線群を集束したワイヤハーネスよりも偏平化および軽量化できる点より、信号回路用等として汎用されている。

【0003】
車両用の電装品は信号回路とアース回路の位置が別々であったり、複数の電装品が同一のヒューズに接続されることが多く、幹線回路から支線回路を分岐して接続する必要がある。このため、幹線用FFCに支線用FFCをスプライス接続する種々の接続方法が提案されている。
【0004】
例えば、特開2003−134630号公報(特許文献1)においては、図8に示すように、雌型端子1に端子板2を連接し端子板2の両側にクランプ片3を突設したピアス端子4を用い、FFC5の導体6に対応した箇所でピアス端子4のクランプ片3を突き刺し、クランプ片3の先端部を加締めている。ピアス端子4の雌型端子1に分岐する導体6を接続することで、FFC5の分岐接続が可能となる。
【0005】
【特許文献1】特開2003−134630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記ピアス端子はFFCの導体毎に取り付けなくてはならないため、接続回路数が多くなるとピアス端子の取付工程が多くなり、コスト高になる。さらに、導体同士を位置合わせして行う接続作業自体もカメラ等による位置検出が必要である程に高精度が要求され、設備も高価になる。また、ピアス端子のクランプ片と導体との接触面のみで導電するため、通電容量に制限が生じる問題がある。
【0007】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたもので、一度に複数の導体同士の接続を可能し、かつ、通電容量に制限を生じさせずにFFCのスプライス接続ができるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、
複数の導体を絶縁フィルムで被覆したフレキブルフラットケーブル(FFC)のスプライス接続構造であって、
前記FFCの各導体のスプライス接続部を被覆する絶縁フィルムのみを穴空き状に剥離して前記スプライス接続部の導体を露出させ、
一組または複数組の前記露出させた導体同士を互いに向き合うように前記FFC同士を重ね合わせ、これら導体間に、厚さ方向に導電性を有すると共に面方向に絶縁性を有する異方性導電接着フィルムを介在させ、該異方性導電接着フィルムの厚さ方向の両面に前記FFCの導体を接着して接続していることを特徴とするフレキシブルフラットケーブルのスプライス構造を提供している。
【0009】
本発明では、前記のように、スプライス接続用の導電材として、前記従来例の導体毎にピアス端子等の端子金具を用いた接続ではなく、一方向にのみ導電性を有する異方性導電接着フィルムを導電材として用いている。
前記異方性導電接着フィルムは、導電性金属繊維を粘着性を有する絶縁樹脂中に厚さ方向に配向させたフィルムからなり、前記導電性金属繊維の両端が接触する厚さ方向の導体同士のみを導電するものである。
即ち、異方性導電接着フィルムでは、各導電性金属繊維の両端が接着する導体同士を導通する機能だけを有り、導電性金属繊維間では導通せず、金属繊維が接触する導体が相違すれば、これら導体間での導通は発生しない。
よって、1枚の異方性導電接着フィルムを用い、その複数箇所において、異なる導体間に介在させた場合、それぞれ導体間を導通できると共に、他の導体間とは絶縁することができる。
【0010】
前記機能を有する異方性導電接着フィルムを用いることで、本発明では、FFC同士の複数組の導体同士の間に1枚の異方性導電接着フィルムを介在させるだけで同時に複数組の導体間の接続を行っている。なお、回路構成に応じて、1枚の異方性導電接着フィルムで1組の導体同士の接続を行ってもよい。
このように、各導体毎ではなく、複数の導体同時を同時に接続できると共に、粘着性を有する異方性導電接着フィルムの両面にFFCを配置して押し付けるだけで固着できるため、FFC同士のスプライス接続を簡単に形成することができ、スプライス接続部における導電材の取付工程を大幅に低減することができる。かつ、絶縁フィルムを剥離して露出させたスプライス接続部同士の位置が若干ずれても異方性導電接着フィルムで接着することで導通を確実に図ることができるため、前記従来例の端子金具を用いて導通する場合に必要であった高精度の位置合わせが不要となり、高価なカメラによる位置検出を不要とでき、設備費の低減も図ることができる。
しかも、各FFCの絶縁フィルムを剥離して露出させるスプライス接続部の面積を広くし、該面積全体に前記異方性導電接着フィルムを介して導通することで、スプライス接続部での許容通電量を増大することもできる。
さらに、異方性導電接着フィルムはFFCの間に介在されるだけで、突き刺し端子金具を用いた場合に発生するFFCの外面への露出はないため、外面露出部を絶縁する必要もない。さらに、異方性導電接着フィルムは薄い偏平なフィルムであるため、FFCの利点である偏平化を阻害しない。
【0011】
具体的には、各FFCは、断面平角状の前記導体を帯状に連続させると共に、複数本の前記導体を間隔をあけて平行に配置して前記絶縁フィルムでラミネートしたものを用い、前記重ね合わせる一方の前記FFCは幹線用、他方の前記FFCは支線用とし、
前記幹線用FFCでは長さ方向の中間位置で複数の前記スプライス接続部の導体を夫々個別に露出させる一方、前記支線用FFCでは長さ方向の一端位置で所要の導体を夫々個別に露出させ、
前記幹線用FFCの前記導体を露出させた中間位置に対して、前記支線用FFCの一端を直交方向あるいは傾斜方向に位置させ、前記露出させた導体同士を対向させて、その間に前記異方性導電接着フィルムを介在させて接続している。
【0012】
前記のように、幹線となるFFCに対して支線となるFFCを、その配線方向に対応して直交方向あるいは傾斜方向に配置しても、導体同士を重ね合わせて、その間に異方性導電接着フィルムを介在させることができれば、スプライス接続することができる。
【0013】
前記絶縁フィルムを穴空き状に剥離して露出させる接続部の導体は、隣接位置の導体間では長さ方向に位置をずらせていることが好ましい。
即ち、平行配線する導体同士を接続する場合、FFCの長さ方向と直交する幅方向において、同一線上に絶縁フィルムの穴あき部を形成して、露出させた導体同士を対向させて前記異方性導電接着フィルムで接続しても良いが、通常、FFCの隣接する導体間の隙間は狭いため、より確実に絶縁を図るためには、前記のように、長さ方向に位置をずらせることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
前述したように、本発明のFFCのスプライス接続構造によれば、FFCの導体同士の接続を異方性導電接着フィルムを介在して行っているため、複数組の導体間の接続を1枚の異方性導電接着フィルムを介在させるだけで同時に行うことができる。このように、スプライス接続部を簡単に形成できるため、製造コストを低下することができる。
また、導体の露出面積を大きくして異方性導電接着フィルムと接触する面積を大きくすると、導体同士が導電する面積が大きくなるため、通電容量を大きくすることができる。
さらに、FFCの間に薄い異方性導電接着フィルムを介在させるだけであるため、FFCの平面性を阻害せず、偏平な配索スペースへのFFCの配索に、スプライス接続部が阻害要因とならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図3に本発明の第1実施形態を示す。
第1実施形態では、幹線用FFC20の中間位置の上面に、支線用FFC30の長さ方向の一端を、異方性導電接着フィルム40を介在させて直角方向に重ねて載置し、幹線用FFCの導体21A、21Bと支線用FFC30の導体31A、31Bを異方性導電接着フィルム40で夫々導通している。
【0016】
幹線用FFC20は、帯状に連続させた断面平角状の複数の導体21(本実施形態では2本の導体21A、21Bのみを示している)を間隔をあけて平行に配置し、導体21の両面を第1絶縁フィルム22と第2絶縁フィルム23でラミネートしている。長さ方向Xの中間位置で、上面側の第1絶縁フィルム22のみを正方形状にレーザーで切除して穴空き部分24A,24Bとし、所要の導体21を夫々個別に露出させ、支線用FFC30とのスプライス接続部21A−a、21B−aとしている。スプライス接続部21aは、隣接位置の導体21間では長さ方向Xに位置をずらせている。
【0017】
支線用FFC30は幹線用FFC20と同様の形状で、平行に配置された導体31A、31Bを第1絶縁フィルム32と第2絶縁フィルム33でラミネートし、所要の導体31を夫々個別に露出させて幹線用FFC20との接続部31A−a、31B−aとしている。 支線用FFC30の長さ方向Yの一端位置に、下面側の第2絶縁フィルム33を切除して接続部31aを設けている点が幹線用FFC20と異なっている。
【0018】
幹線用FFC20の長さ方向Xの中間位置に対して、支線用FFC30の一端を、幹線用FFC20の長さ方向Xと支線用FFC30の長さ方向Yが直交するように位置させ、幹線用FFC20の各接続部21aと支線用FFC30の各接続部31aが互いに向き合うように対向させている。
【0019】
前記接続部21a、31aの間に、前記異方性導電接着フィルム40を介在させている。異方性導電接着フィルム40は、図1(B)に示すように、導電性金属繊維Fを厚さ方向Zに配向させ、粘着性を有する絶縁樹脂P中に埋設したフィルムからなり、導電性金属繊維Fの両端を厚さ方向Zの上下端面40a、40bに露出させている。
前記導電性金属繊維Fはニッケル繊維等、絶縁樹脂はエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂等からなり、厚さは100μm程度である。
【0020】
前記異方性導電接着フィルム40の厚さ方向Zの両端面40a、40bが各FFCの導体21、31のスプライス接続部21a、31aと接触すると、各導電性金属繊維Fの両端と導電して、導体21と31とを導通する。其の際、他の導電性金属繊維Fとは絶縁樹脂Pで絶縁されているため、厚さ方向Zと直交する面方向には導電せず、導体21Aと21B、31Aと31Bは導通せず、絶縁性を保持するものである。
【0021】
前記異方性導電接着フィルム40の絶縁樹脂Pは粘着性を有するものとしていることで、異方性導電接着フィルム40を介在させた幹線用FFC20と支線用FFC30の上下両面から所要の圧力をかけることで、異方性導電接着フィルム40の両面を幹線用FFC20と支線用FFC30に固着する。即ち、異方性導電接着フィルム40をFFC20、30の絶縁フィルムを剥離した穴空き部分では導体21、31と固着し、絶縁フィルムを剥離していない部分では絶縁フィルムの表面に固着している。
【0022】
前記構成によれば、幹線用FFC20と支線用FFC30の導体21、31を露出させてスプライス接続部21a、31aを異方性導電接着フィルム40を介在させるだけで導体21Aと導体31A,導体21Bと導体31B間がそれぞれ個別に導電することができる。
このように、幹線用FFC20と支線用FFC30の複数組の導体同士を1枚の異方性導電接着フィルム40で同士にスプライス接続することができるため、スプライス接続部の製造工程を従来と比較して非常に簡単とすることができる。
【0023】
図4に本発明の第2実施形態を示す。
第2実施形態では、幹線用FFC20の長さ方向の中間位置に対して、支線用FFC30の一端を傾斜方向に位置させている点が第1実施形態とは異なっている。
幹線用FFC20と支線用FFC30の接続部21a、31a同士が異方性導電接着フィルム40を介して導電していれば、傾斜方向の角度は自由に設定することができる。幹線用FFC20の長さ方向Xと、支線用FFC30の長さ方向Yの角度を直交方向だけでなく傾斜方向に分岐接続することができるので、車両内のFFCの配索の自由度を増すことができる。
なお、他の構成および作用効果は第1実施形態と同様のため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0024】
図5乃至図7に本発明の第3実施形態を示す。
第3実施形態では、幹線用FFC20の第1絶縁フィルム22の穴空き部分24および支線用FFC30の第2絶縁フィルム33の穴空き部分34は同じ正方形状とし、異方性導電接着フィルム40も該穴空き部分24、34と同じ形状としている。
異方性導電接着フィルム40の厚さは、幹線用FFC20の第1絶縁フィルム22と支線用FFC30の第2絶縁フィルム33の厚さの和とし、かつ、断面形状は前記穴空き部分24、34と同一の正方形状とした分割体40ー1、40ー2を設けている。
【0025】
第3実施形態のスプライス接続部の形成方法は、幹線用FFC20のスプライス接続部21A−a、21Baに夫々異方性導電接着フィルムの分割体40ー1、40ー2をはめ込んた後に、支線用FFC30を被せ、穴空き部34を分割体40ー1、40ー2に嵌合させ、分割体40ー1、40ー2の上面にプライス接続部31A−a、31B−aを接触させる。この状態で、幹線用FFC20と支線用FFC30の上下両面から圧力をかけることで、異方性導電接着フィルムの分割体40ー1、40−2の厚さ方向Zの両端面と各FFCのスプライス接続部21a、31aとを接触させて導通している。
【0026】
前記構成によれば、異方性導電接着フィルム40を分割体40−1、40−2として、スプライス接続部21a、31aの部分にのみ使用しているので、異方性導電接着フィルム40の使用量を少なくして、コストを削減することができる。
また、異方性導電接着フィルム40は幹線用FFC20と支線用FFC30の穴空き部分24、34で構成されるスペースに配置するので、幹線用FFC20と支線用FFC30の分岐部分の厚さをより薄くすることができる。
なお、他の構成および作用効果は第1実施形態と同様のため、同一の符号を付して説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態を示し、(A)は分解斜視図、(B)は異方性導電接着フイルムの拡大断面図である。
【図2】第1実施形態のFFCのスプライス接続構造を示す斜視図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】第2実施形態のFFCのスプライス接続構造を示す斜視図である。
【図5】第3実施形態の分解斜視図である。
【図6】第3実施形態のFFCのスプライス接続構造を示す斜視図である。
【図7】図6のB−B線断面図である。
【図8】従来例を示す図面である。
【符号の説明】
【0028】
20 幹線用FFC
30 支線用FFC
21、31 導体
21a、31a 接続部
22、32 第1絶縁フィルム
23、33 第2絶縁フィルム
24、34 穴空き部分
40 異方性導電接着フィルム
40a、40b 両端面
40−1、40−2 分割体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導体を絶縁フィルムで被覆したフレキブルフラットケーブル(FFC)のスプライス接続構造であって、
前記FFCの各導体のスプライス接続部を被覆する絶縁フィルムのみを穴空き状に剥離して前記スプライス接続部の導体を露出させ、
一組または複数組の前記露出させた導体同士を互いに向き合うように前記FFC同士を重ね合わせ、これら導体間に、厚さ方向に導電性を有すると共に面方向に絶縁性を有する異方性導電接着フィルムを介在させ、該異方性導電接着フィルムの厚さ方向の両面に前記FFCの導体を接着して接続していることを特徴とするフレキシブルフラットケーブルのスプライス構造。
【請求項2】
各FFCは、断面平角状の前記導体を帯状に連続させると共に、複数本の前記導体を間隔をあけて平行に配置して前記絶縁フィルムでラミネートしており、
前記重ね合わせる一方の前記FFCは幹線用、他方の前記FFCは支線用とし、
前記幹線用FFCでは長さ方向の中間位置で複数の前記スプライス接続部の導体を夫々個別に露出させる一方、前記支線用FFCでは長さ方向の一端位置で所要の導体を夫々個別に露出させ、
前記幹線用FFCの前記導体を露出させた中間位置に対して、前記支線用FFCの一端を直交方向あるいは傾斜方向に位置させ、前記露出させた導体同士を対向させて、その間に前記異方性導電接着フィルムを介在させて接続している請求項1に記載のフレキシブルフラットケーブルのスプライス構造。
【請求項3】
前記絶縁フィルムを穴空き状に剥離して露出させる接続部の導体は、隣接位置の導体間では長さ方向に位置をずらせている請求項1または請求項2に記載のフラットケーブルのスプライス構造。
【請求項4】
前記異方性導電接着フィルムは、導電性金属繊維を粘着性を有する絶縁樹脂中に厚さ方向に配向させたフィルムからなり、前記導電性金属繊維の両端が接触する厚さ方向の導体同士のみを導電するものである請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のフラットケーブルのスプライス構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−108578(P2008−108578A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290449(P2006−290449)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】