説明

フレキシブル基板用導体およびその製造方法並びにフレキシブル基板

【課題】導体周囲のSnめっき膜表面やはんだからウィスカが発生するおそれの少ない、あるいはほとんど発生せず、高温放置環境においても接触抵抗が増大することのないフレキシブル基板用導体およびその製造方法並びにフレキシブル基板を提供する。
【解決手段】フレキシブルフラットケーブルやフレキシブルプリント基板内部に配設される導体において、Cu又はCu合金からなる導体の表面にSn又はSn合金めっき膜15が形成され、そのめっき膜15の表面酸化膜16a,16bが、Sn以外の元素の酸化物、又はSn酸化物とSn以外の元素の酸化物の混合からなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線用導体及び端末接続部に係り、特に電子機器に使用されるフレキシブルフラットケーブル(FFC)、フレキシブルプリント配線板(FPC)等のフレキシブル基板に用いる導体およびその製造方法並びにフレキシブル基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、配線材、特に銅や銅合金の表面には、配線材の酸化を防ぐために、Sn,Ag,AuやNiのめっきが施される。
【0003】
例えば、図2に示すように、コネクタ11とフレキシブルフラットケーブル(以下、FFCという)13の端末接続部においては、コネクタ(コネクタ部材)11のコネクタピン(金属端子)12や、FFC13の導体14の表面などにめっきが施されている。なかでも、Snはコストが安価であり、軟らかいため嵌合の圧力で容易に変形し、接触面積が増え、接触抵抗が低く抑えられることから、配線材の表面にSnめっきを施したものが広く一般的に使用されている。
【0004】
このSnめっき用合金として、従来は、耐ウィスカ性が良好なSn−Pb合金が用いられてきたが、近年は環境面での対応の観点から、Pbフリー材(非鉛材)、ノンハロゲン材の使用が求められており、配線材に使用される各種材料に対してもPbフリー化、ノンハロゲン化が求められている
【特許文献1】特開2006−111898号公報
【特許文献2】特開2005−216749号公報
【特許文献3】特開2005−206869号公報
【特許文献4】特開2006−45665号公報
【非特許文献1】JEITA鉛フリー化完遂緊急提言報告会資料(2005.2.17)
【非特許文献2】JEITA鉛フリーはんだ実用化検討2005年成果報告書(2005.6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところがSnめっきのPbフリー化に伴って、特にSnまたはSn系合金めっきにおいては、図3に示すようにSnの針状結晶であるウィスカ21がめっきから発生し、ウィスカ21により隣接配線間の短絡事故が問題となっている。
【0006】
ウィスカの発生原因の一つとして考えられているSnめっき中の応力を緩和させるため、電気めっきしたSnをリフロー処理することにより、ウィスカの発生を低減させることが可能であるとされている。しかし、そのウィスカ抑制のメカニズムは正確にはわかっていない。また、コネクタとの嵌合など新たな外部応力がかかる場合は、リフロー処理を施してもウィスカの発生を抑えることができない。またBiやAgなどの合金電解あるいは無電解めっきによりウィスカを抑制することができるが、リフロー処理することにより逆に純Snのときよりもウィスカが発生してしまうことが報告されている。
【0007】
電子部品の場合は、部品実装のためリフロー処理が必須となっており、これら合金めっきにも問題がある。
【0008】
現在のところ有効な対策として1μm以下の薄いSnめっきを施す方法も開示されているが、特に高温放置時において従来よりも接触抵抗が増大するという問題がある。
【0009】
以上の事情を考慮して本発明は創案されたものであり、その目的は、特にコネクタとの嵌合など大きな外部応力がかかる環境下においても、導体周囲のSnめっき膜表面やはんだからウィスカが発生するおそれの少ない、あるいはほとんど発生せず、高温放置環境においても接触抵抗が増大することのないフレキシブル基板用導体およびその製造方法並びにフレキシブル基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、フレキシブルフラットケーブルやフレキシブルプリント基板内部に配設される導体において、Cu又はCu合金からなる導体の表面にSn又はSn合金めっき膜が形成され、そのめっき膜の表面酸化膜が、Sn以外の元素の酸化物、又はSn酸化物とSn以外の元素の酸化物の混合からなることを特徴とするフレキシブル基板用導体である。
【0011】
請求項2の発明は、上記Sn以外の元素が、Snよりも酸化傾向が高い元素である請求項1に記載のフレキシブル基板用導体である。ここに、酸化傾向が高い元素とは、その酸化物標準生成自由エネルギーの値が、Snよりも小さい(負の値で絶対値が大きい)元素を表し、例えば、Zn,P,Al,Tiなどがこれにあたる。
【0012】
請求項3の発明は、上記Sn以外の元素が、Zn,P,Al,Tiのうちから選ばれる少なくとも1種以上の元素である請求項1又は2に記載のフレキシブル基板用導体である。
【0013】
請求項4の発明は、上記Sn以外の元素の酸化物又はSn酸化物とSn以外の元素の酸化物の混合酸化物による表面酸化膜厚さが、5nm以下である請求項1乃至3に記載のフレキシブル基板用導体である。
【0014】
請求項5の発明は、フレキシブルフラットケーブルやフレキシブルプリント基板内部に配設される導体の製造方法において、Cu又はCu合金からなる導体の表面にSn又はSn合金めっき膜を形成すると共にその表面にZn,Pのうちから選ばれる少なくとも1種以上の元素のめっき膜を形成し、その後リフロー処理により、表面酸化膜を、これら選択した元素の酸化物、又はSn酸化物とこれら選択した元素の酸化物の混合としたことを特徴とするフレキシブル基板用導体の製造方法である。
【0015】
請求項6の発明は、フレキシブルフラットケーブルやフレキシブルプリント基板内部に配設される導体の製造方法において、Cu又はCu合金からなる導体の表面に、Zn,Pのうちから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含むSn又はSn合金めっき膜を形成し、その後リフロー処理により、表面酸化膜を、これら選択した元素の酸化物、又はSn酸化物とこれら選択した元素の酸化物の混合としたことを特徴とするフレキシブル基板用導体の製造方法である。
【0016】
請求項7の発明は、請求項1〜4いずれかに記載のフレキシブル基板用導体を、複数本並行に配列してなる導体群の両面に、絶縁層を設けたことを特徴とするフレキシブル基板である。
【0017】
請求項8の発明は、上記絶縁層を、片面に接着層を有する樹脂フィルム材で構成した請求項7に記載のフレキシブル基板である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、フレキシブルフラットケーブルやフレキシブルプリント配線板において嵌合部のような外部応力がかかる場合においてもSnの針状結晶であるウィスカを抑制することが可能になり、隣接配線間の短絡といった不具合を解決することができる。また高温環境においても接触信頼性を損なうことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
Snめっき導体の酸化膜は、通常Snの酸化物だけで構成されるが、上記目的を達成すべく、本発明に関わる導体は表面酸化膜をSn以外の元素の酸化物あるいはSn酸化物とSn以外の酸化物の混合としたことにある。Sn以外の元素としてZn,P,Al,Tiがある。
【0021】
例えば、図1(a)に示すように、Cu又はCu合金からなる導体(図示せず)の表面あるいは周囲に、SnまたはSn合金めっき膜15を形成し、その表面にZn酸化物あるいはSn酸化物とZn酸化物からなる表面酸化膜16aを形成したものである。
【0022】
また図1(b)に示すように、SnまたはSn合金めっき膜15の表面に、P酸化物あるいはSn酸化物とP酸化物からなる表面酸化膜16bを形成したものである。
【0023】
この表面酸化膜16a、16bは、SnまたはSn合金めっき膜15の表面にZn,P,AlやTiのめっきを形成した後に、これを酸化物としても、あるいはSnまたはSn合金にZnやPの元素を添加し、これを導体にめっきしてSnまたはSn合金めっき膜15を形成し、その表面を酸化して、Zn,P,AlやTiを含む表面酸化膜16a、16bを形成するようにしてもよい。
【0024】
通常、Snめっきに応力が加わったとき、表面酸化膜の欠陥がウィスカ発生の核となり、成長するということが言われている。(参考文献:錫ウィスカ成長プロセスの解明と対策 R&Dプランニング社)
特許文献1では、Snめっき膜を酸化処理することにより、厚く緻密なSn酸化物または水酸化膜を形成させ、表面の欠陥を減らし、ウィスカを抑制する方法が開示されている。
【0025】
しかし、コネクタの嵌合部などSnめっき膜が大きく変形する場合では、表面酸化膜の欠陥の発生を防ぐことはできない。また表面に厚く酸化膜を形成させることは接触抵抗を増大させることになり、好ましくない。
【0026】
本発明者らが鋭意研究した結果、Zn,P,Al,Tiのうち少なくとも1種の酸化物を表面に形成させることで、従来Snの酸化物のみからなる酸化膜の性状を変えることができ、ウィスカ発生頻度を低減できることを見出した。またこれら酸化物が厚くなると、コネクタ嵌合によるウィスカ発生頻度は逆に大きくなることが分かった。
【0027】
そこで、Cu平角線に溶融めっきにより、種々の濃度のZn,P,AlやTiを添加した厚さ8〜10μmのSnめっき膜を施し、XPS分析(X線光電子分光法)により表面酸化物の種類を、AES深さ方向分析(オージェ電子分光法)から酸化膜の厚さを調査した。またそれぞれの試料をコネクタと嵌合し、2週間室温放置後、コネクタから外し、嵌合部をSEM観察し10μm以上のウィスカのウィスカ発生頻度を計測した。
【0028】
表1にそれぞれのデータを示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表面酸化膜がSn酸化物のみからなる試料No.1と比較して、Zn酸化物からなる試料No.2〜4,Sn酸化物とP酸化物の混合からなる試料No.6,Al酸化物からなる試料No.7,Ti酸化物からなる試料No.8は、ウィスカ発生頻度を低減させることができた。
【0031】
このように表面をSn酸化物のみからなる場合と比較して、Sn以外の元素の酸化物あるいはSn酸化物とSn以外の元素の酸化物の混合とすることで、ウィスカ発生頻度を抑制できることを確認した。
【0032】
また試料5の結果から、表面酸化膜をSn以外の元素の酸化物としても、その厚さが厚い場合にはウィスカ抑制効果が得られないことが分かった。したがって、表面酸化膜は5nm以下好ましくは3nm以下とすることが望ましい。
【0033】
Zn,P,Al,TiはどちらもSnより酸化し易い傾向にあり、これら元素をSnめっきに添加し熱処理することで、自然にこれらの酸化物を形成させることができ、Snめっき表面酸化膜の性状を変化させることができる。
【0034】
Zn添加の方法としては、特許文献2に開示されているように、Snめっきの周囲にZnのめっきを施し、熱処理する方法がある。このときZnめっきの厚さを変化させることで、表面酸化膜の厚さを変化させることができる。
【実施例】
【0035】
(実施例)
Φ0.6mmのCu線の周囲に電気めっきにより厚さ5μmのSnめっき膜を施し、ついでその周囲にフラッシュめっきにより厚さ0.5μmZnを施した。その後、冷間伸線・圧延工程を経て厚さ0.05mm、幅0.3mmの平角線を作製した。ついで通電アニーラを使用してリフロー処理を施した。
【0036】
最後にこれら導体を50本、0.5mmピッチで並行に配列し、その両面を、片面にポリエステル系接着剤層を有するポリエステルフィルムでラミネートし、FFCを作製した。
【0037】
(従来例)
Φ0.6mmのCu線の周囲に電気めっきにより厚さ5μmのSnめっき膜を施した。その後、冷間伸線・圧延工程を経て厚さ0.05μm、幅0.3mmの平角線を作製した。その後の工程は実施例と全く同じ条件でFFCを作製した。
【0038】
実施例及び従来例で作製したFFC端子部におけるSnめっき導体のXPSを実施し、その表面酸化膜分析結果を図4、図5に示す。
【0039】
図4はSnのXPS分析を示し、実施例及び従来例とも結合エネルギー(Binding Energy)486、487eVで、X線強度(kCPS)のピークがみられ、SnO、SnO2 が形成されていることが認められた。
【0040】
またZnについては、図5に示すように、実施例では、結合エネルギー262eVで、X線強度のピークがみられ、ZnOが形成されていることが認められたが、従来例ではZnのピークは認められなかった。
【0041】
よって、従来例では表面酸化膜は、Sn酸化物のみから構成されているが、実施例ではSn酸化物とZn酸化物の混合で構成されていることが判る。
【0042】
次に、実施例及び従来例で作製したFFC端子部におけるSnめっき導体のAES深さ方向分析結果を図6(a)、図6(b)に示す。
【0043】
図6(a)の実施例と、図6(b)の従来例とを比較すると、Sn、Cu、O、Cの深さ方向の分布はほぼ同じであるが、実施例においては、深さ5nmまでにZn濃度のピークが認められる。
【0044】
次いで、実施例及び従来例のFFCをコネクタと嵌合し、250hr室温放置した。その後、FFCをコネクタから外し、嵌合部をSEM観察することにより1μm以上のウィスカ発生頻度を計測した。XPS分析結果及びAES深さ方向分析から得られた酸化膜厚さとともにウィスカ発生頻度を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
このように本発明の実施例は、従来例と比較しウィスカ発生頻度を22%から7.6%と、約1/3にまで低減することを確認した。
【0047】
さらに、熱処理による導体表面酸化の進行度合いを比較するため、実施例及び従来例で作製したFFCを150℃で24hrの熱処理を施した。その後、FFC端子部におけるSnめっきのAES深さ方向分析を実施した。その結果を図7(a)、図7(b)に示す。
【0048】
図7(b)の従来例では、初期状態の図6(b)と比較して、初期状態ではO原子は、5nm以下にピークがあったが、熱処理によってO原子が10nm以上の内部まで侵入し、酸化膜が厚く成長している。これに対して、図7(a)の本発明の実施例では、初期状態で、O原子の5nm以下にあるピークは、熱処理でもほぼ変わらず、O原子の侵入深さが初期状態と比較して差がそれほど見られない。
【0049】
このことから本発明の実施例では、通常FFCが使用される環境において、表面酸化膜がほとんど成長せず、良好なウィスカ特性・接触抵抗特性を維持することができることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施の形態を示す模式図である。
【図2】コネクタとFFCの嵌合例を示す斜視図である。
【図3】コネクタとFFCの嵌合で、ウイスカが発生し隣接配線間を短絡する様子を説明した拡大斜視図である。
【図4】本発明の実施例と従来例によるSnの表面酸化膜の同定のためのXPS分析結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例と従来例によるZnの表面酸化膜の同定のためのXPS分析結果を示す図である。
【図6】本発明の実施例と従来例による表面酸化膜、Snめっき膜のAES深さ方向の分析結果を示す図である。
【図7】本発明の実施例と従来例による導体を150℃、24hr熱処理した後の表面酸化膜、Snめっき膜のAES深さ方向の分析結果を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
11 コネクタ
12 コネクタピン
13 FFC
14 導体
15 Snめっき膜
16a、16b 表面酸化膜
21 ウィスカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブルフラットケーブルやフレキシブルプリント基板内部に配設される導体において、Cu又はCu合金からなる導体の表面にSn又はSn合金めっき膜が形成され、そのめっき膜の表面酸化膜が、Sn以外の元素の酸化物、又はSn酸化物とSn以外の元素の酸化物の混合からなることを特徴とするフレキシブル基板用導体。
【請求項2】
上記Sn以外の元素が、Snよりも酸化傾向が高い元素である請求項1に記載のフレキシブル基板用導体。
【請求項3】
上記Sn以外の元素が、Zn,P,Al,Tiのうちから選ばれる少なくとも1種以上の元素である請求項1又は2に記載のフレキシブル基板用導体。
【請求項4】
上記Sn以外の元素の酸化物又はSn酸化物とSn以外の元素の酸化物の混合酸化物による表面酸化膜厚さが、5nm以下である請求項1乃至3に記載のフレキシブル基板用導体。
【請求項5】
フレキシブルフラットケーブルやフレキシブルプリント基板内部に配設される導体の製造方法において、Cu又はCu合金からなる導体の表面にSn又はSn合金めっき膜を形成すると共にその表面にZn,Pのうちから選ばれる少なくとも1種以上の元素のめっき膜を形成し、その後リフロー処理により、表面酸化膜を、これら選択した元素の酸化物、又はSn酸化物とこれら選択した元素の酸化物の混合としたことを特徴とするフレキシブル基板用導体の製造方法。
【請求項6】
フレキシブルフラットケーブルやフレキシブルプリント基板内部に配設される導体の製造方法において、Cu又はCu合金からなる導体の表面に、Zn,Pのうちから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含むSn又はSn合金めっき膜を形成し、その後リフロー処理により、表面酸化膜を、これら選択した元素の酸化物、又はSn酸化物とこれら選択した元素の酸化物の混合としたことを特徴とするフレキシブル基板用導体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4いずれかに記載のフレキシブル基板用導体を、複数本並行に配列してなる導体群の両面に、絶縁層を設けたことを特徴とするフレキシブル基板。
【請求項8】
上記絶縁層を、片面に接着層を有する樹脂フィルム材で構成した請求項7に記載のフレキシブル基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−124048(P2008−124048A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288155(P2006−288155)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】