説明

フレキシブル配線基板

【課題】 2層の銅層からなるメッキ基板について耐屈折性をより良く改善する方法を提案する。
【解決手段】 絶縁性フィルム基材の表面に、銅スパッタ膜を介して銅メッキ層を形成した2層銅フレキシブル配線基板であって、該銅メッキ層の銅結晶の平均結晶粒径(d)と銅メッキ層厚(t)との比(d/t)が0.08〜0.3であるフレキシブル配線基板。前記銅メッキ層の層厚(t)は4〜18μmとするのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐屈折性を向上させた銅メッキ層を有する銅フレキシブル配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル配線基板は、ハードディスクの読み書きヘッドやプリンターヘッドなどの屈曲性を必要とされる電子機器やデジタルカメラ内の屈折配線などに広く用いられている。
フレキシブル配線基板には、電解銅箔や圧延銅箔をポリイミドフィルムに接着剤で接着した通称3層基板(銅層/接着剤層/絶縁性ベースフィルム層)と、ポリイミドフィルムにメッキ等で直接銅層を形成したメッキ基板もしくは銅箔に直接ポリイミドワニスを塗って絶縁層を形成したキャスト基板等の通称2層基板(銅層/絶縁性ベースフィルム層)の2種類がある。
【0003】
近年、フレキシブル配線基板の電気回路配線に用いられる銅箔の耐屈折性の評価として、JIS−P−8115やASTM−D2176で規格されたMIT耐折度試験(folding endurance test)が商業的に使用さている。この試験では、試験片の回路を形成している銅パターンが断線するまでの屈折回数でその配線基板の耐屈折性が評価され、屈折回数が大きいほど耐屈折性が良いとされている。
銅箔の耐屈折性の向上に関して、例えば銅箔表面に熱処理を行ったり(例えば、特許文献1参照。)、圧延加工を行うことで耐屈折性の向上を図っている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平8−283886号公報
【特許文献2】特開平6−269807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記に記載した方法は、すべて圧延銅箔や電解銅箔であり配線基板形成前の銅箔に対するもので、3層基板やキャスト基板への対応である。3層基板やキャスト基板は製造工程が煩雑であるためコストダウンには限界がある。
その点、メッキ基板は製造工程か簡単でコストダウンが容易である。メッキ基板についても銅メッキ層の耐屈折性が要求されるが、上記の耐屈折性の向上技術は適用することができない。
本発明は銅層からなる2層メッキ基板について耐屈折性をより良く改善する方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明のフレキシブル配線基板は、絶縁性フィルム基材の表面に銅スパッタ膜を介して銅メッキ層を形成した2層銅フレキシブル配線基板であって、該銅メッキ層の銅結晶の平均結晶粒径(d)と銅メッキ層厚さ(t)との比(d/t)が0.08〜0.3であるフレキシブル配線基板とした。
本発明においては、前記銅メッキ層の層厚さ(t)が4〜18μmであるのが好ましい。
フレキシブル配線基板をこのように構成することにより、耐屈折性の良い2層メッキフレキシブル配線基板が得られる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、銅メッキ2層フレキシブル配線基板において、銅メッキ層の耐屈折性の向上が可能となるので、より屈折回数の多い電子機器へと応用範囲を広げることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
銅メッキ2層フレキシブル配線基板に対する耐屈折性向上のための様々な検討を行った結果、銅メッキ層厚が一定の範囲においては、銅メッキ層厚さと銅メッキ層の銅結晶の結晶サイズとの比が一定の範囲において、銅メッキ層の耐屈折性が高くなることを見出した。
すなわち、上記課題を解決するために、本発明は絶縁性フィルム基材表面に導電性皮膜を介して銅メッキ層を形成したフレキシブル基板であって、銅メッキ層の銅結晶の平均結晶粒径(d)と銅メッキ層の厚さ(t)との比(以下、結晶比という)が0.08〜0.3になるメッキ皮膜を有することを特徴とするものである。ここで銅メッキ層の厚さは4μm〜18μmである銅メッキ2層フレキシブル配線基板とするのが好ましい。
すなわち、結晶比=平均結晶粒径d(単位:μm)/メッキ層厚さt(単位:μm)としたときに、d/t=0.08〜0.3であれば銅メッキ層の耐屈折性が飛躍的に向上する。ここで、t=4〜18とするのが好ましい。
【0008】
本発明は、表面に導電性を付与した銅メッキ2層メッキフレキシブル配線基板において、銅メッキ皮膜の結晶比が0.08〜0.3になるようにメッキ皮膜中の結晶粒の大きさを制御することで、耐屈折性の良い2層フレキシブル配線基板を得ることを可能にするものである。
具体的には基板となるポリイミド樹脂フィルム表面を導電化処理した後、銅メッキで銅メッキ皮膜厚が4〜18μmの範囲で所望の厚さに銅メッキを行う。次に、メッキした基板をオーブン等の加熱装置で温度と加熱時間を調節し加熱処理を行い、熱処理後の銅メッキ皮膜断面の平均結晶粒径を測定し、平均結晶粒径と皮膜の厚さ結晶比が0.08〜0.3になるように銅メッキ皮膜中の結晶粒径を制御すれば良く、熱処理条件もここで決定される。なお、本発明では結晶比で基板の耐屈折性が決定されるため、一度熱処理条件を決定すればメッキ厚を変えない限りメッキ皮膜の平均結晶粒径を測定する必要はない。
【0009】
前記絶縁性フィルム基材としてはポリイミド基板を使用することができる。さらに詳細について説明すると、絶縁性基材としてはフィルム状にした場合柔らかく、耐熱性、耐久性の良いポリイミド樹脂が良いが、熱処理温度と時間を適当に調整すれば他の樹脂でも良い。
絶縁性基材はメッキを容易にするため表面に導電性を付与する導電化処理を施す。導電化処理は極く薄い金属膜をスパッタ等で形成することにより、絶縁体表面に導電性を付与することができる。スパッタ等で形成する金属膜は、電気回路を形成する銅メッキ層と同じ銅金属で形成するのが好ましい。スパッタ膜厚は1μm以下で充分である。導電化処理後の絶縁性基材の導電層表面に銅メッキを施して電気回路を形成する。
銅メッキは結晶が細かくメッキ表面も滑らかな光沢メッキが望ましいが、特に限定されるものではない。通常の電気メッキ法が使用でき、メッキ浴温と電流密度を最適に選択して細かい結晶を析出させる。
メッキ層の厚さは、4μmより薄くなるとメッキの欠陥などで耐屈折性が低下し、結晶粒径との相関が見られなくなる。また、18μmより厚くなると屈折したときの表面近傍の引っ張り応力が大きくなるため破断しやすくなり、耐屈折性が低下すると共に耐屈折性と結晶粒径との相関が見られなくなる。従って析出させるメッキ層の厚さは4μmより厚く18μmより薄く形成するのが適当である。
【0010】
銅メッキ層を形成した後、メッキ層を熱処理して結晶粒径を調整する。熱処理温度と処理時間は基板の材質で左右されるが、基材にポリイミド樹脂を使用した場合は300℃くらいでも熱処理可能であるが、大気中で行うと銅メッキ皮膜の酸化が起きるため150℃〜250℃くらいが望ましい。これより低温で行う場合は熱処理時間を長めにする必要がある。また、250℃を越える場合は熱処理の雰囲気を窒素ガスなどで銅メッキ層の酸化防止をする必要がある。熱処理時間は200℃で15分から30分くらいが適当である。時間が長いと銅メッキ層の酸化が起きるので酸化防止対策が必要となる。熱処理後の銅結晶の平均結晶粒径は、熱処理した基板の銅メッキ部分の断面を研摩して、銅メッキ層の顕微鏡組織写真を撮り、図1のように任意の部分で線を引く(図1の点線参照)。そして、その線で切断された結晶粒のうち大きい結晶粒を5点ほど選び、厚さ方向に対して垂直方向の結晶サイズを測定し、平均結晶粒径を求める。そして、平均結晶粒径d(単位:μm)をメッキ層厚さt(単位:μm)で割って結晶比を求める。この比(d/t)が0.08〜0.3になるように熱処理温度と時間で制御することで耐屈折性の良い2層メッキ基板を得ることが可能となる。
【0011】
(実施例、比較例)
次に、実施例及び比較例を用いて本発明を説明する。
本実施例及び比較例では、厚さ38μmのポリイミドフィルムの表面に銅を厚さ0.2μmにスパッタして導電性を付与した銅−ポリイミド基板を用い、硫酸銅メッキ浴で市販の添加剤を用いて該銅−ポリイミド基板の銅スパッタ膜の表面に銅メッキを施し、銅メッキ層の層厚の異なる基板を作製した。銅メッキの条件はいずれもメッキ浴温度25℃、電流密度4A/dm とし、時間を変えて厚さ8μmと10μmのメッキ層を形成した。
次に、それぞれの基板を表1に示すように温度と時間を変えて熱処理した後、銅結晶の平均結晶粒径と銅メッキ層厚を測定し、これらの測定値から算出した結晶比と耐屈折回数を調べた。
なお、平均結晶粒径および銅メッキ層厚は、通常の金属材料の結晶組織観察で行う断面研磨法を採用し、耐屈折回数はMIT耐折度試験で調べた。MIT耐折度試験条件は、R=0.38mm、荷重500g、屈折回転数175rpmでJIS−P−8115に準じて行った。図1に銅メッキ2層フレキシブル基板の断面構造と結晶比の求め方を説明する図を示す。
また、図2に結晶比と耐屈折回数の関係を示す。
【0012】
【表1】

【0013】
この結果から、結晶比が0.08〜0.3の範囲で500回を越える高い耐屈折回数が得られたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明によって,製作の容易な2層メッキ配線基板を用いて電気配線パターン部を形成し、熱処理によって結晶粒径を調整することにより耐屈折性の良い2層フレキシブル配線基板を提供することができるので、耐久性に優れたフレキシブル配線基板を安価に提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】断面構造と結晶比の求め方を説明する図である。
【図2】結晶比と耐屈折回数の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0016】
1 絶縁性フレキシブル基材
2 銅スパッタ膜
3 銅メッキ層
4 銅結晶粒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性フィルム基材の表面に、銅スパッタ膜を介して銅メッキ層を形成した2層銅フレキシブル配線基板であって、該銅メッキ層の銅結晶の平均結晶粒径(d)と銅メッキ層厚(t)との比(d/t)が0.08〜0.3であることを特徴とするフレキシブル配線基板。
【請求項2】
前記銅メッキ層の層厚(t)が4〜18μmであることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル配線基板。
【請求項3】
前記絶縁性フィルム基材がポリイミド基板であることを特徴とする請求項1または2に記載のフレキシブル配線基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−317782(P2007−317782A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144180(P2006−144180)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】