説明

フレーム付き車両の車体構造

【課題】ポールに対する前面衝突を考慮したフレーム付き車両の車体構造を提供することを目的とする。
【解決手段】フレーム付き車両11の前部がポール衝突した際に、シャシフレーム10の前端部において車幅方向に張られているワイヤ14が車両後方に押し込まれる。このワイヤ14は、シャシフレーム10に設けられた滑車30やガイドリング32(ガイド手段)により案内された状態で、両側のサイドレール16に沿って夫々車両後方へ延びているので、シャシフレーム10の前端部のワイヤ14が車両後方に押し込まれるに従って、サイドレール16に沿ったワイヤ14が車両前方に引き込まれる。またこのワイヤ14は、シャシフレーム10の後部において最後部の滑車30(ガイド手段)により案内された状態で、車両前方側に折り返されてボデー12の後部12Rに結合されているので、該ボデー12が車両後方へ引っ張り込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレーム付き車両の車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
フレーム付き自動車の車体構造として、キャビン形成部をフレーム部材の前側部分及び後側部分の少なくとも何れか一方の変形方向から逃がす変形抑制手段により、車両衝突時、フレーム部材が変形した際には、キャビン形成部が、フレーム部材の前側部分又は後側部分の変形による影響を受けることを防止し、車両衝突時の安全性を高める構造が開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
この従来例には、フレーム部材を構成するサイドメンバの閉断面空間内に、該サイドメンバの長手方向に沿ってワイヤが張設された構造が例示されている。このワイヤは、サイドメンバの曲折部分に各々設けられた複数のガイドローラによってガイドされた状態でサイドメンバ内に張られており、その前端部は、サイドメンバの前端側に固定される一方、後端部は、サイドメンバの後部で折り返された上で、最後部のガイドローラでガイドされながらキャビン形成部のリヤパネルに固定されている。
【0004】
この構造によれば、車両が正面衝突した際に、フレーム部材の前側部分が前端部を下方に向けて折り曲げられる結果、ワイヤが前方に向かって引っ張られ、これに伴ってキャビン形成部のリヤパネルがワイヤで後方へ引っ張られるとされている。
【特許文献1】特開平6−286645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来例では、フレーム部材の前側部分が前端部を下方に向けて折り曲げられるような衝突形態(前面衝突)を想定しており、ポール衝突のような、車両の前部が比較的幅狭の物体に衝突する衝突形態については、何ら考慮されていない。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、ポールに対する前面衝突を考慮したフレーム付き車両の車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、車両下部に配設され、車幅方向の両側において夫々車両前後方向に延びるサイドレールを有するシャシフレームと、該シャシフレーム上に複数のボデーマウントを介して結合されるボデーと、前記シャシフレームの前端部において車幅方向に張られ、該シャシフレームに設けられたガイド手段により案内された状態で前記両側のサイドレールに沿って夫々車両後方へ延び、前記シャシフレームの後部において最後部の前記ガイド手段により案内された状態で車両前方側に折り返されて前記ボデーの後部に夫々結合されたワイヤと、を有することを特徴としている。
【0008】
請求項1に記載のフレーム付き車両の車体構造では、フレーム付き車両の前部がポール衝突のように比較的幅狭の物体に衝突した際に、該前部に対して局所的な衝突荷重が入力されると、シャシフレームの前端部において車幅方向に張られているワイヤが車両後方に押し込まれる。このワイヤは、シャシフレームに設けられたガイド手段により案内された状態で、両側のサイドレールに沿って夫々車両後方へ延びているので、上記のようにシャシフレームの前端部のワイヤが車両後方に押し込まれるに従って、サイドレールに沿ったワイヤが車両前方に引き込まれる。またこのワイヤは、シャシフレームの後部において最後部のガイド手段により案内された状態で、車両前方側に折り返されてボデーの後部に結合されているので、上記のようにサイドレールに沿ったワイヤが車両前方へ引き込まれる結果、ボデーマウントを介してシャシフレーム上に結合されたボデーが、車両後方へ引っ張り込まれることとなる。このため、ボデーがシャシフレームに対して車両前方側へ相対移動することを抑制して、ボデーマウントが受ける負荷を低減させることができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のフレーム付き車両の車体構造において、両側の前記サイドレールの前端には、車幅方向に延びるフロントバンパリインフォースメントが結合されており、前記ワイヤは、前記シャシフレームの前端部において、前記フロントバンパリインフォースメントの車両後側に沿って車幅方向に張られていることを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載のフレーム付き車両の車体構造では、フレーム付き車両の前部がポール衝突のように比較的幅狭の物体に衝突した際に、フロントバンパリインフォースメントに対して局所的な衝突荷重が入力され、該フロントバンパリインフォースメントが車両後方に屈曲変形すると、該フロントバンパリインフォースメントの車両後側に沿って車幅方向に張られているワイヤが、車両後方に押し込まれる。これに伴い、サイドレールに沿ったワイヤが車両前方に引き込まれることで、ボデーマウントを介してシャシフレーム上に結合されたボデーが、車両後方へ引っ張り込まれることとなる。車両前端部において、ワイヤをフロントバンパリインフォースメントの車両後側に配置することで、該ワイヤへ直接的に衝突荷重が入力されることを抑制することができる。これにより、ポール衝突のような衝突形態において、ボデーがシャシフレームに対して車両前方側へ相対移動することをより安定的に抑制することができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のフレーム付き車両の車体構造において、前記ガイド手段は、滑車、又は円環状のガイドリングであることを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載のフレーム付き車両の車体構造では、ガイド手段が、滑車、又は円環状のガイドリングであり、シャシフレームの形状に応じて滑車又はガイドリングを適宜使い分けることにより、ワイヤを円滑に案内することができる。特にガイドリングは、サイドレールのうち、車幅方向及び車両上下方向に湾曲した湾曲部に好適である。このため、サイドレールがこのような湾曲部を有していても、簡易かつ低コストな構成で、ワイヤを該サイドレールに沿って円滑に案内することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載のフレーム付き車両の車体構造によれば、ポールに対する前面衝突を考慮したフレーム付き車両の車体構造を提供することができる、という優れた効果が得られる。
【0014】
請求項2に記載のフレーム付き車両の車体構造によれば、ポール衝突のような衝突形態において、ボデーがシャシフレームに対して車両前方側へ相対移動することをより安定的に抑制することができる、という優れた効果が得られる。
【0015】
請求項3に記載のフレーム付き車両の車体構造によれば、サイドレールが車幅方向及び車両上下方向に湾曲した湾曲部を有していても、簡易かつ低コストな構成で、ワイヤを該サイドレールに沿って円滑に案内することができる、という優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。図1,図2において、本実施の形態に係るフレーム付き車両の車体構造Sは、シャシフレーム10と、ボデー12と、ワイヤ14とを有している。
【0017】
シャシフレーム10は、フレーム付き車両11の下部に配設され、車幅方向の両側において夫々車両前後方向に延びるサイドレール16を有する車両骨格部材である。図2に示されるように、サイドレール16は、例えば断面略四角形の中空閉断面構造に構成され、複数のクロスメンバ17により車幅方向に連結されている。これにより、シャシフレーム10は、車両平面視において、はしご形に構成されている。また両側のサイドレール16の前端には、車幅方向に延びるフロントバンパリインフォースメント18が結合され、また両側のサイドレールの後端には、車幅方向に延びるリヤバンパリインフォースメント20が結合されている。
【0018】
図1に示されるように、このシャシフレーム10には、図示しないサスペンション装置を介して、例えば4本の車輪22が懸架されている。前後の車輪22間に位置する、サイドレール16の中間部16Mは、車両前部に位置するフロントサイドレール16Fや車両後部に位置するリヤサイドレール16Rよりも、車両下方に位置している。これは、ボデー12におけるフロアパネル24の高さを低めて、乗降性や居住性を高めるためである。また図2に示されるように、フロントサイドレール16F及びリヤサイドレール16Rは、車輪22(図1)の配置に伴い、中間部16Mよりも車幅方向内側に位置している。
【0019】
これらに伴い、フロントサイドレール16Fと中間部16Mとの間には、第1湾曲部16A及び第2湾曲部16Bが形成され、また中間部16Mとリヤサイドレール16Rとの間には、第3湾曲部16C及び第4湾曲部16Dが形成されている。第1湾曲部16A、第2湾曲部16B、第3湾曲部16C及び第4湾曲部16Dは、車幅方向及び車両上下方向に夫々湾曲している。
【0020】
ボデー12は、シャシフレーム10上に複数のボデーマウント26を介して結合されている。具体的には、サイドレール16には、例えば左右夫々4箇所ずつのボデーマウントブラケット28が、車幅方向外側に張り出して設けられており、該ボデーマウントブラケット28上にボデーマウント26が配設されている。ボデー12は、該ボデーマウント26上に結合されている。
【0021】
ワイヤ14は、シャシフレーム10の前端部において、フロントバンパリインフォースメント18の車両後側に沿って車幅方向に張られ、該シャシフレーム10に設けられたガイド手段の一例たる滑車30又は円環状のガイドリング32により案内された状態で、両側のサイドレール16に沿って夫々車両後方へ延び、シャシフレーム10の後部において最後部のガイド手段の一例たる滑車30により案内された状態で車両前方側に折り返されて、ボデー12の後部12Rに夫々結合されている。
【0022】
本実施形態では、滑車30は、例えば両側のサイドレール16の前端部、即ちフロントサイドレール16Fの前端部における車幅方向内側の側面と、該サイドレール16の後端部付近に位置するリヤバンパリインフォースメント20に夫々設けられている。補足すると、図3(A)に示されるように、滑車30は、例えば断面略U字形の取付けブラケット34に、支持軸36を中心として回動自在に支持されており、取付けブラケット34の部分において、フロントサイドレール16Fやリヤバンパリインフォースメント20に固定されている。図1,図2に示されるように、支持軸36の軸方向は、フロントサイドレール16Fにおいては車両上下方向となっており、またリヤバンパリインフォースメント20においては車幅方向となっている。なお、滑車30は、図3(A)に示されるような、支持軸36の軸方向において幅狭のものには限られず、より幅広のものも含まれる。より幅広の滑車30とは、例えばフランジ付きドラム形のガイドローラである。
【0023】
一方、図1,図2に示されるように、ガイドリング32は、サイドレール16における車幅方向内側の側面のうち、第1湾曲部16A、第2湾曲部16B、第3湾曲部16C及び第4湾曲部16Dに夫々設けられている。これらの湾曲部では、ワイヤ14の案内方向が、車幅方向及び車両上下方向に夫々変化するが、ガイドリング32を用いることで、簡易かつ低コストな構成でこのような案内方向の変化に容易に対応できるようになっている。
【0024】
図3(B)に示されるように、ガイドリング32は、例えば基部38においてサイドレール16に固定されており、該基部38を中心として回動自在に構成されている。これにより、ガイドリング32は、ワイヤ14に生じた張力により矢印A方向及び矢印B方向に適宜回動することができるので、該ワイヤ14を円滑に案内できるようになっている。またガイドリング32が回動自在に構成されていることで、各湾曲部の形状に応じてガイドリング32の取付け角度を調整することが不要となる。
【0025】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。図4,図5において、本実施形態に係るフレーム付き車両の車体構造Sでは、フレーム付き車両11の前部が比較的幅狭の物体であるポール40に衝突した際に、フロントバンパリインフォースメント18に対して局所的な衝突荷重が入力され、該フロントバンパリインフォースメント18が車両後方に屈曲変形すると、該フロントバンパリインフォースメント18の車両後側に沿って車幅方向に張られているワイヤ14が、車両後方に押し込まれる。これに伴い、サイドレール16に沿ったワイヤ14が車両前方(矢印F方向)に引き込まれることで、ボデーマウント26を介してシャシフレーム10上に結合されたボデー12が、車両後方へ引っ張り込まれることとなる。
【0026】
ワイヤ14の作用について更に詳しく説明すると、該ワイヤ14は、シャシフレーム10に設けられた滑車30及びガイドリング32により案内された状態で、両側のサイドレール16に沿って夫々車両後方へ延びているので、上記のようにシャシフレーム10の前端部のワイヤ14が車両後方に押し込まれるに従って、サイドレール16に沿ったワイヤ14が車両前方(矢印F方向)に引き込まれる。またこのワイヤ14は、シャシフレーム10の後部において最後部の滑車30により案内された状態で、車両前方側に折り返されてボデー12の後部12Rに結合されているので、上記のようにサイドレール16に沿ったワイヤ14が車両前方(矢印F)へ引き込まれる結果、ボデーマウント26を介してシャシフレーム10上に結合されたボデー12が、車両後方(矢印R方向)へ引っ張り込まれることとなる。
【0027】
図4,図5では、比較のために、本実施形態に係る構造を有しない場合のボデー12やボデーマウント26を二点鎖線で示しているが、本実施形態に係るフレーム付き車両の車体構造Sでは、この二点鎖線で示されている位置よりもボデー12の前進が抑制される。このため、ポール衝突のような衝突形態において、ボデー12がシャシフレーム10に対して車両前方側へ相対移動することを安定的に抑制して、ボデーマウント26が受ける負荷を低減させることができる。
【0028】
なお本実施形態では、車両前端部において、ワイヤ14をフロントバンパリインフォースメント18の車両後側に配置することで、該ワイヤ14へ直接的に衝突荷重が入力されることを抑制することができる。
【0029】
また本実施形態に係るフレーム付き車両の車体構造Sでは、ガイド手段として、シャシフレーム10の形状に応じて滑車30又はガイドリング32を適宜使い分けることにより、ワイヤ14を円滑に案内することができる。特にガイドリング32は、サイドレール16のうち、車幅方向及び車両上下方向に湾曲した第1湾曲部16A、第2湾曲部16B、第3湾曲部16C及び第4湾曲部16Dに好適である。このため、サイドレール16がこのような湾曲部を有していても、簡易かつ低コストな構成で、ワイヤ14を該サイドレール16に沿って円滑に案内することができる。
【0030】
なおガイド手段は、滑車30やガイドリング32に限られるものではなく、ワイヤ14を案内可能であれば、どのような手段を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】フレーム付き車両の車体構造を示す側断面図である。
【図2】フレーム付き車両の車体構造について、ボデーの図示を省略して示す平面図である。
【図3】(A)滑車の拡大斜視図である。(B)ガイドリングの拡大斜視図である。
【図4】フレーム付き車両がポールに衝突した状態を示す側断面図である。
【図5】フレーム付き車両がポールに衝突した状態について、ボデーの図示を省略して示す平面図である。
【符号の説明】
【0032】
10 シャシフレーム
12 ボデー
12R 後部
14 ワイヤ
16 サイドレール
18 フロントバンパリインフォースメント
26 ボデーマウント
30 滑車(ガイド手段)
32 ガイドリング(ガイド手段)
S フレーム付き車両の車体構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両下部に配設され、車幅方向の両側において夫々車両前後方向に延びるサイドレールを有するシャシフレームと、
該シャシフレーム上に複数のボデーマウントを介して結合されるボデーと、
前記シャシフレームの前端部において車幅方向に張られ、該シャシフレームに設けられたガイド手段により案内された状態で前記両側のサイドレールに沿って夫々車両後方へ延び、前記シャシフレームの後部において最後部の前記ガイド手段により案内された状態で車両前方側に折り返されて前記ボデーの後部に夫々結合されたワイヤと、
を有することを特徴とするフレーム付き車両の車体構造。
【請求項2】
両側の前記サイドレールの前端には、車幅方向に延びるフロントバンパリインフォースメントが結合されており、
前記ワイヤは、前記シャシフレームの前端部において、前記フロントバンパリインフォースメントの車両後側に沿って車幅方向に張られていることを特徴とする請求項1に記載のフレーム付き車両の車体構造。
【請求項3】
前記ガイド手段は、滑車、又は円環状のガイドリングであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフレーム付き車両の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−196438(P2009−196438A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38220(P2008−38220)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】