説明

フロントフォーク

【課題】低コストで小型なソレノイドの使用を可能として、減衰力調節をアクティブ制御することができるフロントフォークを提供することである。
【解決手段】本発明の課題解決手段は、鞍乗車両の車体と車軸との間に介装されるフロントフォークFにおいて、圧側室R2或いは伸側室R1の一方を上流としリザーバRを下流としてこれらを連通する減衰力調節流路5と、減衰力調節流路5の途中に設けられたスプール収容部Sと当該スプール収容部S内に軸方向移動自在に挿入されたスプール弁7を備えるソレノイドバルブ1とを備え、減衰力調節流路5の上流側の圧力が作用するスプール弁7の軸方向両側の受圧面積を等しくし、減衰力調節流路5の下流側に少なくともスプール収容部Sの上端よりも上方へ配置される上方配置路Uを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントフォークの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フロントフォークとしては、たとえば、鞍乗車両の前輪を懸架するようになっており、このようなフロントフォークでは内蔵された緩衝器の減衰力を調節できるようになっているものがある。
【0003】
具体的には、アウターチューブに連結されるシリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されてシリンダ内を圧側室と伸側室とに区画するピストンと、シリンダ内に挿入されて一端が上記アウターチューブに摺動自在に挿入されるインナーチューブに連結されるとともに他端が上記ピストンに連結されるピストンロッドとを備えた緩衝器本体と、緩衝器本体の圧側室と伸側室と連通する通路と、通路の途中に設けられて圧側室から伸側室へ向かう流れのみを許容するか反対に伸側室から圧側室へ向かう流れのみを許容するチェック弁と、当該通路の途中に設けたニードル弁と、ピストンロッドの他端側に固定されるとともにニードル弁を駆動するステッピングモータとを備えて構成されるものがある(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
このフロントフォークでは、伸長時には、ピストンに設けたピストンバルブによって作動油の流れに抵抗を与えて減衰力を発揮し、収縮時には、シリンダの端部に設けたベースバルブによってシリンダからリザーバへ流出する作動油の流れに抵抗を与えて減衰力を発揮するようになっているが、これに加えて、ニードル弁を駆動してニードル弁における流路抵抗を調節することでフロントフォークの発生する減衰力を可変にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−14431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したフロントフォークによれば、ニードル弁を駆動するのにステッピングモータを使用しているので、弁開度の変更に時間がかかり、フロントフォークの減衰力をスカイフック制御等といったアクティブ制御にて調節しようとしても、減衰力調節の応答が間に合わず、上記制御を実施するは困難である。
【0007】
また、上記フロントフォークにあっては、減衰力調節の応答性を向上するためソレノイドを用いることもできるとしている。しかしながら、フロントフォーク等の鞍乗車両用緩衝器にあっては、ストローク量が四輪自動車に比較して非常に長く流量も大きいので、ニードル弁に作用する圧力は非常に高くなり、実際にニードル弁をソレノイドで駆動しようとするとソレノイドの推力を非常に大きくする必要がある。このため、ソレノイドが大型化してしまい鞍乗車両への搭載性を損なうとともにコスト高となって経済性も損なってしまう問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記不具合を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、低コストで小型なソレノイドの使用を可能として、減衰力調節をアクティブ制御することができるフロントフォークを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段は、鞍乗車両の車体に連結される車体側チューブと、上記鞍乗車両の車軸に連結され上記車体側チューブに摺動自在に嵌合して当該車体側チューブとともに内部に空間を形成する車軸側チューブと、内部に伸長時に圧縮される伸側室と収縮時に圧縮される圧側室とを備え、上記車体側チューブと上記車軸側チューブとの間に介装されて上記空間内に収容される緩衝器と、上記空間内であって緩衝器外に設けたリザーバとを備えたフロントフォークにおいて、上記圧側室或いは伸側室の一方を上流とし上記リザーバを下流としてこれらを連通する減衰力調節流路と、上記減衰力調節流路の途中に設けられたスプール収容部と当該スプール収容部内に軸方向移動自在に挿入されたスプール弁と当該スプール弁を軸方向に駆動するソレノイドとを有して当該減衰力調節流路の流路面積を調節するソレノイドバルブとを備え、上記減衰力調節流路の上流側の圧力が作用する上記スプール弁の軸方向両側の受圧面積を等しくし、上記減衰力調節流路の下流側に少なくとも上記スプール収容部の上端よりも上方へ配置される上方配置路を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフロントフォークによれば、低コストで小型なソレノイドの使用を可能として、減衰力調節をアクティブ制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施の形態におけるフロントフォークの断面図である。
【図2】一実施の形態におけるフロントフォークの一部拡大断面図である。
【図3】通路形成部材の一部切欠斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態におけるフロントフォークFは、図1および図2に示すように、鞍乗車両の図示しない上記車体に連結される車体側チューブ10と、鞍乗車両の図示しない車軸に連結され車体側チューブ10に摺動自在に嵌合して当該車体側チューブ10とともに内部に空間Lを形成する車軸側チューブ11と、内部に伸長時に圧縮される伸側室R1と収縮時に圧縮される圧側室R2とを備え、車体側チューブ10と車軸側チューブ11との間に介装されて空間L内に収容される緩衝器Dと、空間L内であって緩衝器D外に設けたリザーバRと、伸側室R1を上流としリザーバRを下流としてこれらを連通する減衰力調節流路5と、減衰力調節流路5の途中に設けられたソレノイドバルブ1とを備えて構成されている。
【0013】
緩衝器Dは、具体的には、シリンダ2と、シリンダ2内に摺動自在に挿入されてシリンダ2内を作動油等の液体が充填される伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン3と、シリンダ2内に挿入されてピストン3に連結されるピストンロッド4とを備えていて、伸縮時に当該伸縮を妨げる減衰力を発揮するようになっている。また、ソレノイドバルブ1は、緩衝器Dの伸側室R1とリザーバRとを連通して緩衝器Dの伸長時でのみ液体の通過を許容する減衰力調節通路5の途中に設けられて、緩衝器Dの発生する減衰力を調節することができるようになっている。
【0014】
なお、上記緩衝器Dは、鞍乗車両に向くように、さらに、ピストンロッド4を二輪車などの鞍乗車両の図示しない車体に連結される車体側チューブ10と、鞍乗車両の図示しない車軸に連結されて車体側チューブ10内へ摺動自在に挿入される車軸側チューブ11とで形成される空間L内に収容される。より詳しくは、緩衝器Dは、ピストンロッド4がハウジング6を介して車体側チューブ10へ連結され、シリンダ2が車軸側チューブ11へ連結されて、車体側チューブ10と車軸側チューブ11との間に介装されつつ、車体側チューブ10と車軸側チューブ11で閉鎖された空間L内に収容されている。なお、本実施の形態では、フロントフォークFは、車体側チューブ10内に車軸側チューブ11を摺動自在に嵌合する倒立型のフロントフォークとされているが、反対に、車体側チューブ10を車軸側チューブ11内へ摺動自在に嵌合する正立型のフロントフォークとされていてもよい。
【0015】
また、この緩衝器Dのピストンロッド4とシリンダ2との間には、懸架ばね12が介装されており、この懸架ばね12は緩衝器Dを介して車体側チューブ10と車軸側チューブ11を離間させる方向、つまり、フロントフォークFを伸長させる方向に弾発力を発揮していて、当該懸架ばね12により図外の鞍乗車両の車体が弾性支持されるようになっている。
【0016】
緩衝器Dについて詳細に説明すると、緩衝器Dは、図1に示すように、車軸側チューブ11に連結されたシリンダ2と、シリンダ2内に摺動自在に挿入されシリンダ2内を2つの作動室である伸側室R1および圧側室R2に区画するピストン3と、一端がピストン3に連結されるとともに他端が車体側チューブ10に連結されたピストンロッド4と、ピストン3に設けられて伸側室R1と圧側室R2とを連通するとともに通過する液体の流れに抵抗を与える減衰通路13と、シリンダ2の下端に設けられて圧側室R2からリザーバRへ向かう液体の流れに抵抗を与える圧側減衰通路15とリザーバRから圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する吸込通路16とを有するボトム部材14とを備えて構成され、伸側室R1および圧側室R2には液体として作動油等の液体が充満され、リザーバR内には液体と気体が充填されている。
【0017】
シリンダ2は、下端に嵌合されたボトム部材14を介して有底筒状に形成された車軸側チューブ11の底部に固定されている。また、シリンダ2の上端には、ピストンロッド4を摺動自在に軸支するロッドガイド17が設けられている。ピストンロッド4は、軸方向に沿って図1中上下に貫通する空孔4bを備えたピストンロッド本体4aと、ピストンロッド本体4aの図1中下端に固定されてピストン3を保持するピストン連結部4cとを備えて構成されており、その図1中上端となる先端がソレノイドバルブ1における後述するスプール弁7を収容するハウジング6を介して車体側チューブ10の上端に固定されている。ピストン連結部4cは、空孔4bと伸側室R1とを連通する連通路4dと、連通路4dの途中に設けられて伸側室R1から空孔4bへ向かう液体の流れのみを許容する逆止弁4eとを備えて構成されていて、図1中下端に環状のピストン3がピストンナット24を用いて固定されるようになっている。
【0018】
そして、ロッドガイド17とハウジング6の外周に設けた筒状のばね受18との間に懸架ばね12が介装され、緩衝器Dが懸架ばね12により伸長方向に附勢され、これにより、フロントフォークFも懸架ばね12により伸長方向に附勢されるようになっている。
【0019】
ピストン3は、ピストンロッド4の図1中下端、つまり、ピストン連結部4cの下端に固定されており、ピストン3に設けられる減衰通路13は、伸側室R1と圧側室R2とを連通する通路13aと、通路13aの途中に設けた減衰弁13bとを備えていて、通過する液体の流れに抵抗を与えるようになっている。この場合、減衰弁13bが絞り弁などとされていて、減衰通路13は、伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れと、圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れの双方向の流れを許容するようになっているが、通路を二つ以上設けて一部の通路に伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する減衰弁を設けるとともにそれ以外の通路に圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを許容する減衰弁を設けてもよい。
【0020】
リザーバRは、上記空間L内であって緩衝器D外に形成されており、リザーバRには、液体と気体が充填されている。ボトム部材14に形成される圧側減衰通路15は、圧側室R2とリザーバRとを連通する通路15aと、圧側室R2からリザーバRへ向かう液体の流れのみを許容して通過する液体の流れに抵抗を与える減衰弁15bとを備えて構成されており、圧側室R2からリザーバRへ向かう液体の流れのみを許容する一方通行の通路とされている。他方、ボトム部材14に形成される吸込通路16は、リザーバRと圧側室R2とを連通する通路16aと、リザーバRから圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する逆止弁16bとを備えて構成されており、圧側減衰通路15とは逆向きにリザーバRから圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する一方通行の通路とされている。なお、この緩衝器Dにあっては、圧側減衰力を減衰弁15bにて発生することができるので、上記したように圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを許容する通路を設ける場合、当該通路に減衰弁を設けずともよい。
【0021】
つづいて、ソレノイドバルブ1について説明する。ソレノイドバルブ1は、減衰力調節通路5の途中に設けられており、減衰力調節流路5の途中に設けられたスプール収容部Sと当該スプール収容部S内に軸方向移動自在に挿入されたスプール弁7と当該スプール弁7を軸方向に駆動するソレノイド8とを有して、当該減衰力調節流路5の流路面積を調節することができるようになっている。
【0022】
ソレノイドバルブ1は、より詳細には、上記スプール収容部Sの一部である中空部6aと外方から開口して中空部6aへ連通されるポート6bを有するハウジング6と、中空部6a内に軸方向に移動自在に挿入されるスプール弁7と、スプール弁7を附勢するスプールばね35と、スプール弁7をスプールばね35の附勢力に抗して軸方向へ軸方向に駆動するソレノイド8と、スプール弁7とハウジング6との間に軸方向に摺動自在に挿入される可動スリーブ9と、当該可動スリーブ9の軸方向両端を挟んで弾性支持する一対のスリーブばね25,26とを備えている。
【0023】
ハウジング6は、図1および図2に示すように、筒状とされており、図2中下端から開口して内部に形成される中空部6aと、側方から開口して中空部6aに通じるポート6bと、図2中上端から開口して中空部6aに通じて中空部6aより大径で上記ソレノイド8を収容するソレノイド収容部6cと、上端外周に設けたフランジ6dと、下端側外周を小径にして設けた小径部6eと段部6fとを備えて構成されている。
【0024】
そして、このハウジング6の中空部6aの図2中下方を小径にして設けた小内径部6gの下方内周には螺子部6hが設けてあり、ピストンロッド4の上端の外周には螺子部4fが設けてあって、小内径部6g内にピストンロッド4の上端を挿入しつつ螺子部6hに螺子部4fを螺合してハウジング6とピストンロッド4とを螺子締結することができるようになっている。なお、この実施の形態では、螺子部4fにナット19を螺着していて、当該ナット19の図2中上端をハウジング6の図2中下端に当接させてハウジング6に軸荷重をかけることで上記螺子部6hと螺子部4fとが緩まないように配慮している。
【0025】
また、ハウジング6の外周には、筒状の通路形成部材20が装着されている。この通路形成部材20は、図2および図3に示すように、有底筒状とされており、底部20aには、ハウジング6の小径部6eの挿通を可能とする嵌合孔20bと、底部20aの図中上端に嵌合孔20bに通じる環状凹部20cと、同じく底部20aの図中上端であって環状凹部20cの外周から放射状に延びる複数の溝20dとを備えている。また、通路形成部材20の筒部20eの内径は、ハウジング6の外周との間に環状隙間Aが形成できる径に設定されている。そして、この通路形成部材20の底部20aに設けた嵌合孔20bにハウジング6の小径部6eを底部20aに段部6fが当接するまで挿入し嵌合すると、通路形成部材20における環状凹部20cがハウジング6に設けたポート6bに対向するようになっている。また、環状凹部20cは、溝20dを介して上記した環状隙間Aに通じており、これにより、ポート6bは、環状凹部20c、溝20dおよび環状隙間Aを介して空間L内に設けたリザーバRに連通される。
【0026】
さらに、この通路形成部材20は、懸架ばね12の上端を支承する筒状のばね受18の上端を支持しており、懸架ばね12の附勢力によってハウジング6から離間しないようになっている。なお、通路形成部材20をハウジング6の小径部6eに圧入したり、螺着したりしてハウジング6に一体化してもよい。
【0027】
また、ハウジング6の図2中上方の外周には、螺子部6iが設けられており、車体側チューブ10の開口端にハウジング6に螺子締結することができるようになっていて、ハウジング6を介してピストンロッド4を車体側チューブ10に連結可能とされている。
【0028】
このようにハウジング6をピストンロッド4に連結すると、中空部6aがピストンロッド4の空孔4bとが同軸で且つ直列に接続されて、中空部6aは、当該空孔4bおよび連通路4dを介して緩衝器Dにおける伸側室R1に連通される。また、中空部6aは、ポート6b、環状凹部20c、溝20dおよび環状隙間Aを介して上記したリザーバRに連通される。よって、この実施の形態の場合、減衰力調節通路5は、上記した連通路4d、空孔4b、中空部6a、ポート6b、環状凹部20c、溝20dおよび環状隙間Aとで構成されており、伸側室R1とリザーバRとを連通している。
【0029】
また、減衰力調節通路5は、この場合、逆止弁4eによって、伸側室R1からリザーバRへ向かう液体の通過のみを許容するようになっている。したがって、この実施の形態の場合、減衰力調節流路5におけるソレノイドバルブ1よりも上流は、空孔4bおよび連通路4dにより構成され、減衰力調節流路5におけるソレノイドバルブ1よりも下流は、ポート6b、環状凹部20c、溝20dおよび環状隙間Aとで構成される。したがって、この実施の形態の場合、環状凹部20c、溝20dおよび環状隙間Aで減衰力調節流路5におけるソレノイドバルブ1の下流側となる下流通路を形成している。なお、下流通路は、通路形成部材20によって形成されてポート6bをリザーバRへ連通するものであるが、具体的構成は、上記した構成に限定されるものではなく、たとえば、通路形成部材をパイプ状として、ポート6bをリザーバRに連通するようにしてもよい。
【0030】
減衰力調節通路5を一方通行に設定する逆止弁は、ピストン連結部4cに設けるのではなく、他の箇所へ設けてもよく、具体的にはたとえば、ピストンロッド本体4aの空孔4b内に設けてもよいし、ピストンロッド本体4aの図1中上端における空孔4bの開口端に設けるようにしてもよい。
【0031】
つづいて、可動スリーブ9は、筒状とされてハウジング6の中空部6a内に軸方向に摺動自在に挿入されており、外周に周方向に沿って形成したスリーブ側環状溝9aと、内周に周方向に沿って形成した内周側環状溝9bと、スリーブ側環状溝9aと内周側環状溝9bとを連通するスリーブポート9cとを備えて構成されている。
【0032】
そして、この可動スリーブ9は、その上下端となる軸方向両端が一対のスリーブばね25,26で挟持されていて、何ら負荷がない状態では、これらスリーブばね25,26の附勢力がバランスする位置に位置決めされている。なお、スリーブばね25は、ハウジング6の中空部6aの下方の小内径部6gを形成することで設けられた内周段部6jと、可動スリーブ9の図2中下端との間に介装され、他方のスリーブばね26は、詳しくは後述するソレノイド8におけるケース30と可動スリーブ9の図2中上端との間に介装されていて、これらスリーブばね25,26はともに縮んだ状態で、可動スリーブ9を上下から附勢している。
【0033】
したがって、可動スリーブ9は、スリーブばね25,26によって弾性支持されているので、緩衝器Dに外力が加わって振動する際に、軸方向となる図2中上下方向へ振動するが、可動スリーブ9のストローク範囲では、常に、スリーブ側環状溝9aがポート6bに常に対向するようにスリーブ側環状溝9aの軸方向長さが設定されており、可動スリーブ9でポート6bを遮断することがないようになっている。なお、可動スリーブ9がポート6bの一部を遮る場合があっても、ここでの流路面積が可動スリーブ9とスプール弁7とで決する流路面積の最大値以上となるようになっている、つまり、ポート6b側で可動スリーブ9とスプール弁7とで形成される絞りよりも大きな抵抗を与えないように配慮されている。
【0034】
上記したところでは、可動スリーブ9の外周に円周方向に沿ってスリーブポート9cに連通されるスリーブ側環状溝9aを設けて、可動スリーブ9がハウジング6に対して軸方向へ移動しても、スリーブポート9cとポート6bとの連通を確保できるようになっており、加工しやすい外周加工を可動スリーブ9に施すことで、スリーブポート9cとポート6bとの連通を確保できる利点がある。なお、スリーブ側環状溝9aを設ける代わりにハウジング6の中空部6aの内周に円周方向に沿うとともにポート6bに連通されるハウジング側環状溝を設けて、これをスリーブポート9cに常に対向させてスリーブポート9cとポート6bとの連通を確保してもよい。
【0035】
また、可動スリーブ9の上下端は、それぞれ外径が小径に設定されていて、スリーブばね25,26が、当該小径部位の外周に配置されるようになっており、可動スリーブ9とスプール弁7の嵌合長を長くして、可動スリーブ9とスプール弁7の安定した相対摺動を保障している。
【0036】
次に、スプール弁7は、円柱状とされて、一端側を下方に向けて可動スリーブ9内に摺動自在に挿入されており、ハウジング6の中空部6a内を軸方向となる図2中上下方向へ移動自在とされている。詳しくは、スプール弁7は、この場合、スプール弁本体21と、スプール弁本体21の他端側に嵌合されて一体化された筒状の磁性部材22とを備えて構成されている。また、スプール弁本体21は、合成樹脂、アルミニウム、アルミニウム合金やマグネシウム合金といった材料から構成されており、磁性部材22よりも比重の小さい材料で構成されている。なお、合成樹脂を用いる場合には、摺動性に富み摩耗に強い材料を用いるとよく、たとえば、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタラート、ポリフェニレンサルフィド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルケトンを用いることができ、作動液体が油である場合には、上記以外にもフェノール樹脂を用いることもできる。
【0037】
そして、スプール弁本体21は、ソレノイド8を向く側とは反対側の反ソレノイド側端となる図2中下端に減衰力調節通路5を通過する液体の圧力を受けるようになっており、この反ソレノイド側端から開口してソレノイド側端となる図2中上端に通じる圧力導入孔21aと、外周から開口して圧力導入孔21aに連通するスプールポート21bと、ソレノイド側端の外周を小径にして形成した嵌合部21cとを備えて構成されている。
【0038】
また、磁性部材22は、鉄、ニッケル、コバルトやこれらを含む合金、フェライト等といった磁性材料で形成されていて筒状とされ、図2中上方側の基部22aと、基部22aから図2中下方側となるスプール弁本体21側へ伸びるとともに基部22aより薄肉筒状のソケット22bとを備え、外周径は単一径とされていて、ソケット22b内にスプール弁本体21の嵌合部21cを嵌合することでスプール弁本体21に一体化されている。なお、当該嵌合に当たり、たとえば、圧入することで、スプール弁本体21と磁性部材22とが強固に一体化される。スプール弁本体21が金属材料で形成される場合には、磁性部材22の嵌合に当たり焼き嵌めしてよい。また、上記一体化は、嵌合部に接着剤を塗布して行うこともできる。
【0039】
スプール弁7におけるスプールポート21bは、可動スリーブ9の内周側環状溝9bに対向することができるようになっており、対向状態では、スプールポート21bは、スリーブポート9cと連通されるとともに、このスリーブポート9cを介してポート6bに連通され、減衰力調節通路5は開放された状態となる。また、この実施の形態では、スプール弁7をソレノイド8側へ向けて移動させると、スプールポート21bと内周側環状溝9bのラップ面積(スプールポート21bと内周側環状溝9bとの対向面積)が小さくなり、ソレノイドバルブ1における流路面積を減少させる(流路を絞る)ことができるようになっている。このように、ソレノイドバルブ1にあっては、スプール弁7のスプールポート21bと可動スリーブ9のスリーブポート9cは、流路の一部を形成しており、スプール弁7と上記可動スリーブ9との軸方向の相対位置に応じて流路面積を可変にすることができる。なお、流路を絞る結果、可動スリーブ9の内周でスプール弁7のスプールポート21bを完全に閉塞して流路を遮断するように設定されてもよい。
【0040】
また、この場合、可動スリーブ9の内周に内周側環状溝9bを設けて、可動スリーブ9に対してスプール弁7が周方向に回転しても回転位置によらずスプールポート21bとスリーブポート9cとの連通を可能としているが、内周側環状溝9bの代わりにスプール弁7の外周にスプールポート21bに連通される環状溝を設けて可動スリーブ9のスリーブポート9cとスプールポート21bとの連通を可能としてもよい。
【0041】
なお、スプールポート21bを通過する液体の流れる際にスプール弁7と可動スリーブ9とを相対変位させる流体力が発生するが、この実施の形態の場合、スプールポート21bがスプール弁7の軸線に対して斜めに設けられていて、上記した流体力の低減を図っている。
【0042】
ソレノイド8は、内筒30aと外筒30bと内筒30aおよび外筒30bの図2中下端を接続する環状底部30cとでなり磁性体で形成されるケース30と、コイル31aをモールド樹脂31bにてモールドして形成されて上記外筒30bと内筒30aとの間に収容される筒状のモールドコイル31と、モールドコイル31の内周に挿入される筒状であって磁性体であるベース33と、ベース33とケース30の内筒30aとの間に環状のギャップを設ける非磁性リング32と、ベース33内に螺着されるアジャスタ34と、アジャスタ34とスプール弁7との間に介装されるスプールばね35とを備えて構成されている。ソレノイド8は、スプール弁7における磁性部材22を可動鉄心として、コイル31aへの通電によってスプール弁7を駆動することができるようになっている。
【0043】
ケース30の内筒30aは、その内径をスプール弁7が移動自在に挿入可能であって中空部6aの内径よりも小径に設定されていて、ハウジング6の収容部6c内に収容されると、スプール弁7の移動を妨げることがなく、また、上記スリーブばね26の図2上端を支えることができるようになっている。なお、当該内筒30aの内径をスプール弁7が摺動可能な径に設定されてもよい。
【0044】
また、ケース30のハウジング6に対する径方向の位置決めは、外筒30bとハウジング6の収容部6cへの嵌合によって行ってもよいし、ハウジング6の中空部6aとケース30の内筒30aの内周とにスプール弁7を摺接させる場合には、スプール弁7を利用して行うことも可能である。なお、ケース30とハウジング6との間は、ケース30の環状底部30cとハウジング6との間に介装される環状シール36によって密にシールされている。
【0045】
モールドコイル31は、コイル31aへ通電するための電源端子31cを内部に収容する筒状のコネクタ31dを備えており、このコネクタ31dは、モールド樹脂31bによってコイル31aに一体化されている。上記コネクタ31d内の電源端子31cを図外の外部電源へ接続することで、外部からコイル31aへの通電ができるようになっている。
【0046】
ベース33は、筒状とされてモールドコイル31の内周に挿入されており、図2中下端となるスプール弁側端の外周にスプール弁側へ突出する環状凸部33aを備えており、当該環状凸部33aは、外周がテーパ状に面取りされている。そして、この環状凸部33aとケース30の内筒30aとの間には、アルミニウム、銅、亜鉛、SUS305等の非磁性ステンレス鋼や高マンガン鋼等といった材料で形成した非磁性リング32が介装され、当該非磁性リング32は、ろう付け等によってケース30およびベース33に一体化されている。この非磁性リング32は、コイル31aの通電時に磁化されるベース33で磁性部材22を吸引する際に、ベース33とケース30との間にギャップを形成して、磁路が磁性部材22を経由するようにするとともに、ケース30とベース33とを一体化し、ケース30とベース33との間をシールする役割も果たしている。
【0047】
さらに、ベース33の外周であってモールドコイル31およびケース30の図2中上端には、コネクタ31dの通過を許容する割38aを備えた環状のエンドリング38が積層される。このエンドリング38の図2中上方からハウジング6の収容部6cの開口端となる図2中上端の内周にナット部材37を螺着し、ナット部材37とハウジング6とで、モールドコイル31およびケース30とこれに一体化された非磁性リング32とベース33とを挟持して、これら部材を当該ハウジング6に固定している。
【0048】
なお、ベース33とケース30の内筒30aとの間にギャップを設けるには、非磁性リング32を介装するほか、ケース30の内筒30aの外周とベース33の外周に筒状のフィラーリングを圧入してギャップを設けつつケース30とベース33とを一体化するようにしてもよく、その場合には、非磁性リング32を省略することも可能である。フィラーリングを用いる際には、フィラーリングとの嵌合長を確保しなければならないので、ケース30の内筒30aの軸方向長さが非磁性リング32でケース30とベース33とを一体化するよりも長くなる。換言すれば、非磁性リング32でケース30とベース33とを一体化する構造を採用することで、ソレノイド8の非可動部の全長を短くすることができる点で有利となる。
【0049】
転じて、アジャスタ34は、軸状であって図2中上端となる基端外周に螺子部を備えてベース33の筒部33aの内周に螺着されており、その先端となる図2中下端とスプール弁7との間にスプールばね35が圧縮状態で介装されている。
【0050】
ここで、スプール弁7における圧力導入孔21aの途中には段部21dが形成されており、当該段部21dとアジャスタ34との間にスプールばね35が介装される。そして、アジャスタ34を送り螺子の要領で、ベース33に対して軸方向となる図2中上下方向へ進退させて、スプールばね35の圧縮長さを調節することで、スプール弁7へスプールばね35が与える初期荷重を調節することができるようになっている。また、アジャスタ34は、中空部6aを密閉する蓋としても機能していて、中空部6a、ケース30、ベース33およびアジャスタ34でスプール弁7が収容されるスプール収容部Sを形成している。
【0051】
なお、磁性部材22内にスプールばね35を収容する構造を採用しているため、スプールばね35の収容スペースが確保され、アジャスタ34を含めたソレノイド8の全長を短くすることができる。
【0052】
このように構成されたソレノイド8は、コイル31aへ通電すると、ベース33が磁化されて磁性部材22を吸引する吸引力が発生し、スプール弁7をスプールばね35の附勢力に抗して図2中上方側へ駆動することができるようになっている。なお、磁性部材22がベース33に吸着した状態、つまり、磁性部材22の基部22aの図2中上端が完全にベース33の図2中下端内周に当接した状態で、ソケット22bより肉厚の基部22aが径方向でケース30の内筒30aに対向するようになっており、また、ソケット22bがスプール弁本体21の他端外周に嵌合していて上記内筒30aに対向しているので、磁路の断面積が小さくなりすぎて磁束密度が飽和して吸引力が低下してしまうことのないように配慮されている。
【0053】
このように、スプール弁7は、ハウジング6の中空部6a、ケース30、ベース33およびアジャスタ34で形成されるスプール収容部S内に収容されて、当該スプール収容部S内を軸方向に移動することができるようになっている。
【0054】
そして、スプール収容部Sの図2中上端より、上記した通路形成部材20がハウジング6と共に形成する環状隙間Aの上端の方が上方に配置されるようになっており、下流通路としての環状隙間Aのスプール収容部Sの上端より上方を上方配置路U(図2中の環状隙間Aの上端における網掛部分)としてあり、当該環状隙間Aの終端となる上端が上方配置路Uを成している。上方配置路Uの上端は、フロントフォークFが鞍乗車両に斜め姿勢で取り付けられることを勘案して、鞍乗車両への取付姿勢において少なくともスプール収容部Sの上端よりも上方となるようにしてある。この上方配置路Uの設置により、上方配置路U内における液面がスプール収容部Sより上方に配置されるため、リザーバR側からスプール収容部Sへ気体が侵入してしまうことが阻止される。なお、フロントフォークFは、鞍乗車両の走行中に前後および上下方向に振動が入力されるが、環状隙間Aの終端を上方配置路Uとすることで、流路面積を確保しつつも上方配置路U内の液面の乱れを押えることができ、スプール収容部Sへの気体の侵入を確実に防止している。
【0055】
戻って、上述のように、スプール弁7をスプールばね35で附勢すると、スプール弁7は、中空部6a内で最下方位置に位置決められる。具体的には、スプール弁7の下端が内周段部6jに当接すると、スプール弁7のそれ以上のピストンロッド4側への移動が制限され、スプール弁7がこの最下方位置に位置決められる。
【0056】
この最下方位置では、この場合、スプール弁7のスプールポート21bが内周側環状溝9bに対向して、スリーブポート9cを介してポート6bが連通状態におかれ、減衰力調節通路5は開放された状態となる。
【0057】
また、この実施の形態では、コイル31aへ通電してスプール弁7をベース33側へ向けて吸引して、スプール弁7を中空部6a内で図2中上方へ後退させることで、スプールポート21bと内周側環状溝9bのラップ面積を小さくして、流路面積を減じることができるようになっている。さらに、コイル31aの通電量によってスプール弁7の移動量をコントロールすることで、スプールポート21bと内周側環状溝9bのラップ面積を調節できる。つまり、コイル31aへの通電によりスプール弁7を図2中上方向へ駆動でき、コイル31aへの通電を停止すればスプール弁7を図2中下方向へ駆動でき、コイル31aの通電量でスプール弁7の位置を調節できる。このように、ソレノイド8でスプール弁7を軸方向となる図2中上下方向へ駆動することができる。
【0058】
そして、スプールポート21bとスリーブポート9bとで流路を絞ることで、流路を通過しようとする液体の流れに与える抵抗を、スプール弁7が最下方位置にある場合に比較して大きくすることができる。この場合、スプール弁7の後退量が大きくなればなるほど、スプールポート21bと内周側環状溝9bとのラップ面積が減少して流路の絞り度合が大きくなるので、スプール弁7の後退量の増加に伴って流路を通過する液体の流れに与える抵抗が大きくなる。
【0059】
ここで、スプール弁7の質量をMb、スプールばね35のばね乗数をKb、可動スリーブ9の質量をMsおよびスリーブばね25,26の合成ばね定数をKsとすると、Mb/Kb=Ms/Ksの関係を満たすように設定されている。
【0060】
したがって、ソレノイドバルブ1に外部からの入力でスプール弁7の軸方向となる図2中上下方向の加速度が作用する場合、スプール弁7は、スプールばね35で支持されているので当該加速度の作用によって慣性力が生じてハウジング6に対して相対移動し、可動スリーブ9も同様に慣性力が生じてハウジング6に対して相対移動する。
【0061】
上記加速度をαとすると、スプール弁7の慣性力は、Mb・αとなり、ハウジング6に対して変位Xbだけ移動すると、これがスプールばね35の附勢力と釣りあうことから、Mb・α=Kb・Xbが成り立つ。また、可動スリーブ9の慣性力は、Ms・αとなり、ハウジング6に対して変位Xsだけ移動すると、これがスリーブばね25,26の附勢力と釣りあうことから、Ms・α=Ks・Xsが成り立つ。
【0062】
すると、スプール弁7の変位Xbは、Xb=Mb・α/Kbとなり、可動スリーブ9の変位Xsは、Xs=Ms・α/Ksとなるが、Mb/Kb=Ms/Ksの関係となっているので、Xb=Ksとなり、スプール弁7の変位Xbと可動スリーブ9の変位Xsは等しくなる。
【0063】
よって、ソレノイドバルブ1に外部からの入力でスプール弁7の軸方向となる図2中上下方向の加速度が作用しても、スプール弁7は可変スリーブ9に対して相対変位することは無く、流路面積は変動しないことが理解できよう。
【0064】
また、車両が走行中にはフロントフォークFには上下方向の大きな加速度が作用するが、この加速度の方向がスプール弁7の摺動方向とほぼ一致するので、この実施の形態では、スプール弁7の重量を軽量にして上記加速度によるスプール弁7の慣性力を小さくしスプール弁7の振動をより一層軽微なものとするため、スプール弁7を可動鉄心として機能する磁性部材22と磁性部材22よりも比重の小さいスプール弁本体21とで構成し、ソレノイドバルブ1における可動部であるスプール弁7全体重量の軽量化を図っている。また、この実施の形態では、スプール弁本体21の重量の更なる軽減を図るため、圧力導入孔21aの内径を大きくして肉厚を極力薄くしている。
【0065】
なお、減衰力調節流路5のソレノイドバルブ1より上流側の圧力は、この実施の形態の場合、反ソレノイド側端となるスプール弁7の図2中下端に作用するだけでなく、圧力導入孔21aによってスプール弁7のソレノイド側端にも作用するようになっており、つまり、スプール弁7の軸方向両側の受圧面に作用するようになっている。そして、スプール弁7を図2中上方へ押し上げるように減衰力調節流路5のソレノイドバルブ1より上流側の圧力が作用するスプール弁7の反ソレノイド側端側の受圧面積と、スプール弁7を図2中下方へ押し下げるように当該圧力が作用するスプール弁7のソレノイド側端側の受圧面積とが等しくなるように設定されている。また、スプール弁7を図2中上方へ押し上げるように減衰力調節流路5の上流側の圧力を受ける受圧面積とスプール弁7を図2中下方へ押し下げるように減衰力調節流路5の上流側の圧力を受ける受圧面積は、必ずしもスプール弁7の両端面でなくともよい。つまり、スプール弁7を図2中下方へ押圧するように減衰力調節流路5の圧力を受ける面積と、スプール弁7を図2中上方へ押圧するように減衰力調節流路5の圧力を受ける面積とを等しくすればよく、たとえば、スプール弁7の途中に段部を設けて、段部の上面と下面に減衰力調節流路5の上流側の圧力を作用させるようにしてもよい。
【0066】
続いて、このように構成されたソレノイドバルブ1の作動について説明する。シリンダ2に対してピストン3が図1中上方へ移動する緩衝器Dの伸長時には、ピストン3によって圧縮される伸側室R1から圧側室R2へ移動する液体の流れに減衰通路13で抵抗を与えるとともに、伸側室R1からリザーバRへ向かう液体の流れに対してソレノイドバルブ1で抵抗を与えるようになっている。つまり、緩衝器Dは、この実施の形態にあっては、伸長時に減衰通路13およびソレノイドバルブ1によって伸側減衰力を発揮する。なお、伸長時に拡大する圧側室R2には、ボトム部材14に設けた吸込通路16を介してリザーバRから液体が供給されて、緩衝器Dの伸長時にシリンダ2内からピストンロッド4が退出することで生じるシリンダ2内の容積変化が補償される。
【0067】
反対に、シリンダ2に対してピストン3が図1中下方へ移動する緩衝器Dの収縮時には、ピストン3によって圧縮される圧側室R2から伸側室R1へ移動する液体の流れに減衰通路13で抵抗を与えるとともに、シリンダ2内へピストンロッド4が侵入することで生じるシリンダ2内の容積減少分の液体がボトム部材14の圧側減衰通路15を介してリザーバRへ排出されてシリンダ2内の体積変化が補償されるので、この圧側減衰通路15でも液体の流れに抵抗を与えることになる。よって、緩衝器Dの収縮時には、減衰通路13および圧側減衰通路15で圧側減衰力を発揮し、この場合、減衰力調節通路5には、液体が流れないようになっているので、ソレノイドバルブ1は圧側減衰力の発生には関与しない。
【0068】
つまり、この実施の形態では、ソレノイドバルブ1において、スプール弁7を駆動することで流路5の流路面積を可変にすることができるので、この緩衝器Dの伸長時における伸側減衰力を調節することができるようになっている。
【0069】
そして、減衰力調節流路5の下流側に少なくともスプール収容部Sの上端よりも上方へ配置される上方配置路Uを設けているので、液面がスプール収容部Sよりも上方にあってスプール収容部S内が常に液体で充満される。
【0070】
また、上記スプール弁の軸方向両側の受圧面に減衰力調節流路5の上流の圧力を作用させ、上記各受圧面積が等しくなっている。
【0071】
そのため、スプール収容部S内にリザーバRから気体が侵入しスプール収容部Sの上方に気室が形成されてしまうことがなく、減衰力調節流路5の上流の圧力によるスプール弁7を上方へ押し上げる推力に対して下方に押し下げる推力が小さくなってしまうことがない。
【0072】
その結果、減衰力調節の際、必要に応じてスプール弁7をソレノイド8で駆動して流路面積を変化させるが、このソレノイドバルブ1にあっては、減衰力調節流路5の上流の圧力でスプール弁7を上方へ押し上げる推力と下方に押し下げる推力とが等しくなるので、減衰力調節流路5の上流の圧力によってスプール弁7を軸方向の何れへも移動させることがないから、このソレノイドバルブ1にあっては、通過液体の圧力が高圧となっても、ソレノイド8による流路面積の調節に影響しない。
【0073】
これにより、このフロントフォークFにあっては、減衰力調節流路5の圧力が高圧となっても、ソレノイド8による減衰力調節流路5の流路面積の調節に影響しないので、ソレノイド8の推力を減衰力調節流路5の圧力に打ち勝つように大きくしなければならないという問題を解消でき、小型のソレノイド8でスプール弁7を駆動して減衰力の調節を行うことができる。
【0074】
また、減衰力調節流路5の圧力でスプール弁7が移動してしまうことがないので、この鞍乗車両用緩衝器1にあっては、流路5の圧力によってフロントフォークFの発生減衰力が変動せず、充分な制振効果を得ることができる。
【0075】
さらに、ソレノイド8の大型化を招かずに、スプール弁7の駆動が可能となるから、このフロントフォークFにあっては、鞍乗車両への搭載性を損なうこともなく、コスト高となって経済性も損なってしまう問題もない。
【0076】
以上により、このフロントフォークFによれば、搭載性を犠牲にせずに低コストで小型なソレノイド8を利用可能となり、フロントフォークFの減衰力調節応答性が飛躍的に向上して、減衰力調節をスカイフック制御等といったアクティブ制御にて行うことが可能となる。
【0077】
また、通路形成部材20を設けることによって、減衰力調節流路5の下流側となる下流通路を容易に形成でき上方配置路Uを簡単に設けることができる。なお、上記上方配置路Uは、減衰力調節流路5の下流側の一部を少なくともスプール収容部Sの上端よりも上方へ配置して設ければよいので、通路形成部材20を用いずに、減衰力調節流路5の下流側を形成するようにしてもよく、たとえば、ポート6bのハウジング6の外周に開口する開口端をスプール収容部Sの上端よりも上方に配置するようにしてもよい。
【0078】
さらに、このフロントフォークFでは、スプール弁7とハウジング6との間に軸方向に摺動自在に挿入される可動スリーブ9と、当該可動スリーブ9の軸方向両端を挟んで弾性支持する一対のスリーブばね25,26とを備えており、スプール弁7の質量Mb、スプールばね35のばね乗数Kb、可動スリーブ9の質量Msおよびスリーブばね25,26の合成ばね定数KsがMb/Kb=Ms/Ksの関係を満たすように設定されているので、フロントフォークFに外部からスプール弁7の軸方向の大きな加速度が作用しても、スプール弁7と可動スリーブ9とが軸方向に相対移動することがなく、これらスプール弁7と可動スリーブ9の相対位置が変化することがない。これにより、フロントフォークFの発生する減衰力が狙った減衰力とならずに振動的に変化してしまうことを防止でき、安定した減衰力を発揮することが可能である。
【0079】
なお、上記したところでは、スプール弁7を単一のスプールばね35のみで附勢しているが、スプール弁7を可動スリーブ9と同様に一対のばねで軸方向両端を弾性支持するようにしてもよく、その場合、スプールばねのばね定数は、上記二つのばねの合成ばね定数として上記関係を満たすように設定すればよい。
【0080】
この実施の形態のフロントフォークFは、外部からの振動の入力に対して流路面積の変動を抑制できるので、振動が絶えず入力されるような環境下で使用される鞍乗車両に適しており、大きな上下加速度が作用する悪路走行においても安定した狙い通りの減衰力を発揮することができる。
【0081】
なお、外部振動に対する配慮の配慮が不要であれば、可動スリーブ9を省略して、ハウジング6の中空部6aに直接にスプール弁7の外周を摺接させて、ポート6bにスプールポート21bを対向させて絞りを形成し、減衰力調節流路5の流路面積を調節するようにしてもよい。
【0082】
また、本実施の形態では、スプール弁7を可動鉄心として機能する磁性部材22と磁性部材22よりも比重の小さいスプール弁本体21とで構成し、全体が磁性部材で構成される場合に比較して、ソレノイドバルブ1における可動部であるスプール弁7全体重量の軽量化を図っているので、車両走行中に緩衝器1に入力される上下方向となる伸縮方向の大きな加速度によってスプール弁7に作用する慣性力を軽微なものとして、スプール弁7の振動を軽微にすることができるので、より一層、ソレノイドバルブ1の発生する減衰力が狙った減衰力とならずに振動的に変化してしまうことを防止でき、より安定した減衰力を発揮することが可能である。なお、スプール弁7の振動を軽微にする配慮が不要であれば、スプール弁7をスプール弁本体21と磁性部材22の二つの部材で構成せずに、磁性材料のみでスプール弁7を形成するようにしてもよい。
【0083】
また、スプール弁7が可動鉄心とされているので、ソレノイド8とスプール弁7とを至近に配置して別途の長尺な可動鉄心などを介さずにスプール弁7を駆動でき減衰力制御性が向上するとともに、スプール弁7といった可動部重量を軽減できるから緩衝器1に入力される振動加速度によって減衰力が変化してしまうことを抑制することができ、安定した減衰力の発生と調節が可能となる。
【0084】
また、ソレノイド8は、スプール弁7の挿通を可能とする内筒30aと、当該内筒30aの外周側に配置される外筒30bと、上記内筒30aと上記外筒30bを接続する環状底部30cとを備えたケース30と、ケース30内に収容されるコイル31aと、ケース30の内筒30aと環状のギャップを介して対向してコイル31aの内周に挿入されるとともにコイル31aへの通電により上記スプール弁7を吸引するベース33とを備え、磁性部材22は、ベース33に吸着した状態で少なくともケース30の内筒30aに径方向で対向する基部22aと、基部22aからスプール弁本体21側へ延長されてケース30の内筒30aに径方向で対向するとともにスプール弁本体21の他端外周を小径にして形成した嵌合部21eへ嵌合する筒状のソケット22bとを備えている。これにより、常時ケース30の内筒30aに対向する基部22aの肉厚を確保することができるので、磁路の断面積が小さくなりすぎて磁束密度が飽和して吸引力が低下してしまうことがなく、スプール弁7の振動をより抑制することができ、より一層安定した減衰力の発揮に寄与できる。
【0085】
また、スプール収容部S内にリザーバRから気体が侵入しスプール収容部Sの上方に気室が形成されてしまうことがないので、ソレノイドバルブ1を車体側チューブ10の上方へ集約することができ、ソレノイド8への通電も容易となるとともに、ソレノイドバルブ1が緩衝器Dにて制振される鞍乗車両の車体側へ連結されることになるから、車両走行中におけるスプール弁7の振動を抑制することができ、当該振動による減衰力変動を抑制することができる。
【0086】
また、ピストンロッド4が軸方向に沿って減衰力調節通路5の一部を形成する空孔4bを備え、ピストンロッド4と当該ピストンロッド4の先端に連結されるハウジング6とが中空部6aと上記空孔4bとを同軸かつ直列となるように連結されるので、スプール弁7の駆動方向がピストンロッド4の軸方向に一致するからスプール弁7を駆動するソレノイド8が側方へ張り出すことがなく、スプール弁7の駆動方向をピストンロッド4の軸線に対して交差する方向とする場合に比較して、緩衝器Dをスリムにすることができる。無論、当該効果と引き換えにスプール弁7の駆動方向を緩衝器Dの伸縮方向とは異なった方向とする、つまり、ピストンロッド4の軸線と一致させないようにすることもできるが、この場合、車両の振動と上記駆動方向とが一致しないため、当該振動によってスプール弁7の駆動方向へ加振させることを抑制することができる。
【0087】
なお、スプール弁7の形状、構造を上記のごとくとすることで、上記した種々の利点を享受することができるが、スプール弁7の形状、構造が上記した形状、構造と異なっていても、スプール弁7の質量Mb、スプールばね35のばね乗数Kb、可動スリーブ9の質量Msおよびスリーブばね25,26の合成ばね定数KsをMb/Kb=Ms/Ksの関係を満たすように設定することによる効果を得ることができることは当然である。
【0088】
さらに、ハウジング6が中空部6aに連なってソレノイド8を収容する収容部6cを備えて当該収容部6cを図2中外方へ臨ませて車体側チューブ10の開口端に固定され、ソレノイド8のスプールばね35の初期荷重を調節するアジャスタ34が車体側チューブ10の開口端から緩衝器1の外方へ臨んで設けられる。これにより、当該アジャスタ34を外部操作することができるので、上記初期荷重の調節が容易となる。なお、スプールばね35のばね定数にバラつきがある場合等にこの初期荷重調節を行うことで、製品毎でバラツキのない均一な減衰力調節を行うことができる。緩衝器1の減衰力調節の均一化は、ソレノイド8に与える電流量を補正することで行ってもよい。
【0089】
なお、上記したところでは、減衰力調節流路5は、伸側室R1とリザーバRとを連通していて、緩衝器Dが伸長する際にのみ液体の通過を許容するようになっており、ソレノイドバルブ1が緩衝器Dの伸側減衰力を発生する減衰力発生要素として機能しているので、緩衝器Dの伸側減衰力を調節することができるが、減衰力調節流路5で圧側室R2とリザーバRとを連通し緩衝器Dが収縮する際にのみ減衰力調節通路5が液体の通過を許容するように設定して、ソレノイドバルブ1で緩衝器Dの圧側減衰力を調節するようにしてもよい。つまり、ピストン連結部4cに設けられる連通路4dで伸側室R1の代わりに圧側室R2を中空部4bへ連通するようにすれば、ソレノイドバルブ1は、圧側減衰力の調節を行うことができる。このようにすると、緩衝器Dの収縮作動時にのみ減衰力調節通路5を液体が通過するように設定できる。
【0090】
さらに、上記したところでは、スプール弁7の後退時に流路面積が減少するように設定されているが、スプール弁7が最下方位置にて流路面積を最小とするように設定しておき、スプール弁7の後退で流路面積が大きくなるようにしてもよい。
【0091】
また、ハウジング6は、ピストンロッド4と一体とされて一部品とされてもよく、ハウジング6を複数の部品で構成するようにしてもよい。
【0092】
さらに、上記実施の形態では、コイル31aへ通電するためのコネクタ31dをモールドコイル31に一体化しているが、コネクタ31dをモールドコイル31から分離してコイル31aと電源端子31cとをコードで接続するようにしてもよいし、コネクタおよび電源端子を廃してコイル31aをコードのみを介して外部電源に接続するようにしてもよい。
【0093】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0094】
1 ソレノイドバルブ
4 ピストンロッド
5 減衰力調節流路
6a 中空部
6b ポート
6 ハウジング
7 スプール弁
8 ソレノイド
9 可動スリーブ
9b スリーブポート
9a スリーブ側環状溝
10 車体側チューブ
11 車体側チューブ
20 通路形成部材
21 スプール本体
21a 圧力導入孔
21b スプールポート
22 磁性部材
25,26 スリーブばね
35 スプールばね
A 環状隙間
D 緩衝器
F フロントフォーク
L 空間
R リザーバ
R1 伸側室
R2 圧側室
S スプール収容部
U 上方配置路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗車両の車体に連結される車体側チューブと、
上記鞍乗車両の車軸に連結され上記車体側チューブに摺動自在に嵌合して当該車体側チューブとともに内部に空間を形成する車軸側チューブと、
内部に伸長時に圧縮される伸側室と収縮時に圧縮される圧側室とを備え、上記車体側チューブと上記車軸側チューブとの間に介装されて上記空間内に収容される緩衝器と、
上記空間内であって緩衝器外に設けたリザーバと
を備えたフロントフォークにおいて、
上記圧側室或いは伸側室の一方を上流とし上記リザーバを下流としてこれらを連通する減衰力調節流路と、
上記減衰力調節流路の途中に設けられたスプール収容部と当該スプール収容部内に軸方向移動自在に挿入されたスプール弁と当該スプール弁を軸方向に駆動するソレノイドとを有して当該減衰力調節流路の流路面積を調節するソレノイドバルブとを備え、
上記減衰力調節流路の上流側の圧力が作用する上記スプール弁の軸方向両側の受圧面積を等しくし、
上記減衰力調節流路の下流側に少なくとも上記スプール収容部の上端よりも上方へ配置される上方配置路を設けたことを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
上記ソレノイドバルブは、上記減衰力調節流路の一部を形成する中空部と外方から開口して当該中空部へ連通され当該中空部より上記減衰力調節流路の下流の一部を形成するポートとを備えたハウジングを備え、
上記スプール弁は、上記減衰力調節流路の上流側の圧力を受ける軸方向の一端側から開口して軸方向の他端側へ連通する圧力導入孔と、外周から開口して上記圧力導入孔に連通するスプールポートとを備え、
ハウジングの外周に装着されてハウジングとの間に上記ポートをリザーバに連通する上記減衰力調節流路の下流の一部をなす環状隙間を形成する通路形成部材を備え、
上記環状隙間の終端を上記上方配置路としたことを特徴する請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
上記ソレノイドバルブが、上記スプール弁をソレノイドの吸引力に抗して附勢するスプールばねと、上記スプール弁と上記ハウジングとの間に軸方向に摺動自在に挿入される可動スリーブと、当該可動スリーブの軸方向両端を挟んで弾性支持する一対のスリーブばねとを備え、上記スプール弁の質量Mb、上記スプールばねのばね乗数Kb、上記可動スリーブの質量Msおよび上記スリーブばねの合成ばね定数KsがMb/Kb=Ms/Ksの関係を満たすように設定されることを特徴とする請求項2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
上記スプール弁は、上記可動スリーブ内に摺動自在に挿入されるスプール本体と、当該スプール本体のソレノイド側端に一体化されるとともに上記ソレノイドの可動鉄心としての磁性部材とを備え、上記スプール弁本体の比重を上記磁性部材の比重より小さくしたことを特徴とする請求項2または3に記載のフロントフォーク。
【請求項5】
上記可動スリーブの外周に周方向に沿って上記スリーブポートに連通されるスリーブ側環状溝を設け、当該スリーブ側環状溝は上記ハウジングの上記ポートに常時対向することを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載のフロントフォーク。
【請求項6】
上記ハウジングは、上記ピストンロッドの上端に連結されて、当該ピストンロッドを上記車体側チューブに連結されることを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載のフロントフォーク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−215189(P2012−215189A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79341(P2011−79341)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】