説明

フロントフォーク

【課題】 車軸側チューブに設けたガイドロッドを車体側チューブに設けたガイドシリンダの下部開口端に設けたロッドガイドのシール部材に通して、ガイドシリンダの内部に挿入してなるスプリング脚を有するフロントフォークにおいて、車軸側チューブの内部におけるガイドシリンダの外側室の下部に装填されている潤滑オイルによる潤滑性を向上すること。
【解決手段】 スプリング脚110が、車軸側チューブ112の内部の中央に設けたガイドロッド122を、ガイドシリンダ121の下部開口端に設けたロッドガイド136のシール部材139に通して、ガイドシリンダ121の内部に挿入してなるフロントフォークAにおいて、前記シール部材139がガイドロッド122に摺動自在に密接するリップ139Lを、車軸側チューブ112の内部におけるガイドシリンダ121の外側室161の方に向けてなるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフロントフォークに関する。
【背景技術】
【0002】
フロントフォークとして、特許文献1に記載の如く、ダンパを内蔵せず、懸架ばねを内蔵するスプリング脚を有してなるものがある。このとき、スプリング脚は、車体側チューブと車軸側チューブを互いに挿入し、ガイドシリンダを車体側チューブの内部の中央に設け、車軸側チューブの内部の中央に設けたガイドロッドを、ガイドシリンダの下部開口端に設けたロッドガイドのシール部材に通して、ガイドシリンダの内部に挿入している。
【0003】
また、特許文献1に記載のフロントフォークでは、ガイドシリンダの内部にガイドロッドの先端ガイドが区画する内側空気ばね室と、車体側チューブと車軸側チューブがガイドシリンダの外側に区画する外側空気ばね室とを有する。スプリング脚は、内側空気ばね室の空気ばねと外側空気ばね室の空気ばねにより懸架ばねを構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2010-242783
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のフロントフォークは、ガイドシリンダにおいてガイドロッドが挿入されている内部で、ガイドロッドを挿入かつ支持するロッドガイドと、ガイドロッドの先端ガイドとに挟まれて区画されるロッド側室を、ガイドシリンダに設けた横孔により、上述の外側空気ばね室に連通している。
【0006】
従って、特許文献1に記載のフロントフォークでは、圧側行程でガイドシリンダのロッド側室が負圧になると、車軸側チューブの内部におけるガイドシリンダの外側室の下部に装填されている潤滑オイルがガイドシリンダに設けた横孔からガイドシリンダの内部のロッド側室に吸い込まれる。このため、潤滑オイルがダンパシリンダの外側を上方へ向けて駆け上がる如くに移動できず、車体側チューブと車軸側チューブの摺動部、それらの摺動部のシール部材に対し、必要十分な潤滑オイルを供給できない。
【0007】
また、減衰力を発生させたくないスプリング脚でありながら、ガイドシリンダに設けた横孔への潤滑オイルの流通が不安定な減衰力の発生源になる。
【0008】
本発明の課題は、車軸側チューブに設けたガイドロッドを車体側チューブに設けたガイドシリンダの下部開口端に設けたロッドガイドのシール部材に通して、ガイドシリンダの内部に挿入してなるスプリング脚を有するフロントフォークにおいて、車軸側チューブの内部におけるガイドシリンダの外側室の下部に装填されている潤滑オイルによる潤滑性を向上することにある。
【0009】
本発明の他の課題は、スプリング脚における減衰力の発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、ダンパを内蔵せず、懸架ばねを内蔵するスプリング脚を有し、スプリング脚が、車体側チューブと車軸側チューブを互いに挿入し、ガイドシリンダを車体側チューブの内部の中央に設け、車軸側チューブの内部の中央に設けたガイドロッドを、ガイドシリンダの下部開口端に設けたロッドガイドのシール部材に通して、ガイドシリンダの内部に挿入してなるフロントフォークにおいて、前記シール部材がガイドロッドに摺動自在に密接するリップを、車軸側チューブの内部におけるガイドシリンダの外側室の方に向けてなるようにしたものである。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記スプリング脚に内蔵される懸架ばねが空気ばねであるようにしたものである。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記スプリング脚に内蔵される懸架ばねが金属ばねであるようにしたものである。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のフロントフォークであって、左右一方に前記スプリング脚を配置し、左右他方にダンパ脚を配置してなるようにしたものである。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項4に係る発明において更に、前記ダンパ脚がダンパのみを内蔵してなるようにしたものである。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項4に係る発明において更に、前記ダンパ脚がダンパと、懸架ばねを内蔵してなるようにしたものである。
【発明の効果】
【0016】
(請求項1)
(a)ガイドシリンダにおいてガイドロッドが挿入されている内部で、ガイドロッドを挿入かつ支持するロッドガイドと、ガイドロッドの先端ガイドとに挟まれて区画されるロッド側室が、該ロッドガイドのシール部材によってシールされる。このとき、シール部材はガイドロッドに摺動自在に密接するリップを、車軸側チューブの内部におけるガイドシリンダの外側室の方に向けている。即ち、シール部材は外側室からロッド側室へのオイルの侵入を阻止し、ロッド側室から外側室へのオイルの排出を許容する。
【0017】
従って、フロントフォークの通常の伸縮行程で、車軸側チューブの内部におけるガイドシリンダの外側室からロッド側室へのオイルの侵入が阻止される。このため、フロントフォークの圧側行程で、ガイドシリンダのロッド側室が負圧になっても、外側室の下部に装填されている潤滑オイルがロッド側室に吸い込まれることがない。そして、車軸側チューブの内部に対するガイドシリンダの侵入体積分の潤滑オイルがガイドシリンダの外側を上方へ向けて駆け上がる如くに移動し、少ないオイル量でも、車体側チューブと車軸側チューブの摺動部、それらの摺動部のシール部材に対し、必要十分な潤滑オイルを供給できる。
【0018】
フロントフォークの伸縮行程の繰り返しにより、ガイドロッドに付着した微量の潤滑オイルが、車軸側チューブの内部におけるガイドシリンダの外側室からロッド側室へ侵入して蓄積したときには、伸側行程の伸切端で高圧になるロッド側室の空気圧が蓄積オイルを加圧して外側室へ排出させる。これにより、ロッド側室に蓄積した潤滑オイルがガイドシリンダのシール構造を破損するおそれがない。
【0019】
(b)車軸側チューブの内部におけるガイドシリンダの外側室からロッド側室への潤滑オイルの流通がないから、このようなオイルの流れに伴なう減衰力の発生がない。即ち、スプリング脚における減衰力の発生を抑制できる。
【0020】
(請求項2)
(c)スプリング脚に内蔵される懸架ばねを空気ばねとすることができる。即ち、ガイドシリンダの内部にガイドロッドの先端ガイドが密封区画する内側空気ばね室が圧側行程で圧縮される空気ばねを生成し、車体側チューブと車軸側チューブを伸長させる方向に付勢する。また、車体側チューブと車軸側チューブがガイドシリンダの外側に区画する外側空気ばね室も、圧側行程で圧縮される空気ばねを生成し、車体側チューブと車軸側チューブを伸長させる方向に付勢する。
【0021】
(請求項3)
(d)スプリング脚に内蔵される懸架ばねを金属ばねとすることができる。即ち、車体側チューブの内部でガイドシリンダの周囲に設けたばね受と、車軸側チューブとの間に介装される圧縮コイルばねからなる金属ばねが、車体側チューブと車軸側チューブを圧側行程で伸長させる方向に付勢する。
【0022】
(請求項4)
(e)フロントフォークにおいて、左右一方に上述(a)〜(d)のスプリング脚を配置し、左右他方にダンパ脚を配置することができる。スプリング脚の懸架ばねのばね力による衝撃力の吸収に伴なう車体側チューブと車軸側チューブの伸縮振動を、ダンパ脚のダンパが発生する減衰力により制振する。
【0023】
(請求項5)
(f)上述(e)のダンパ脚がダンパのみを内蔵してなるものとすることができる。
【0024】
(請求項6)
(g)上述(e)のダンパ脚がダンパと、懸架ばねを内蔵してなるものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は実施例1のフロントフォークを示す断面図である。
【図2】図2はスプリング脚を示す断面図である。
【図3】図3は図2の下部断面図である。
【図4】図4は図2の上部断面図である。
【図5】図5はスプリング脚の要部拡大断面図である。
【図6】図6はシール部材のシール機能を示す模式図である。
【図7】図7は実施例2のフロントフォークを示す断面図である。
【図8】図8はスプリング脚を示す断面図である。
【図9】図9は図8の下部断面図である。
【図10】図10は図8の上部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(実施例1)(図1〜図6)
フロントフォークAは、ダンパ20を内蔵し、金属ばねからなる懸架ばねを内蔵しないダンパ脚10と、ダンパと金属ばねからなる懸架ばねを内蔵せず、空気ばね(内側空気ばね室150の空気ばねと外側空気ばね室160の空気ばね)からなる懸架ばね140を内蔵するスプリング脚110とを平行配置した。
【0027】
(ダンパ脚10)(図1)
ダンパ脚10は、図1に示す如く、車体側チューブ(アウタチューブ)11に、車軸側チューブ(インナチューブ)12をブッシュ13A、13B、シール部材13Cを介し密封して摺動自在に挿入し、車体側チューブ11と車軸側チューブ12の内部に単筒型ダンパ20を配置している。ダンパ20は、ダンパシリンダ21を車体側チューブ11の内部の中央に吊下げ、車軸側チューブ12の内部の中央に立設したピストンロッド22のピストン23をダンパシリンダ21に挿入し、ダンパ20(ダンパシリンダ21及びピストンロッド22)の外側を油溜室24としている。油溜室24では、油室25と空気室26が自由界面を介して接している。
【0028】
車体側チューブ11は車体側に支持され、車軸側チューブ12は車軸に結合される。車体側チューブ11の上端部にはダンパシリンダ21の上端部が螺着、密封され、ダンパシリンダ21の上部開口端はフォークボルト31により閉塞、密封される。
【0029】
車軸側チューブ12の下端部には車軸ブラケット32が螺着、密封され、車軸側チューブ12の内部の車軸ブラケット32上にはピストンロッド22の下端部が立設され、このピストンロッド22まわりの車軸ブラケット32上にはオイルロックカラー33Aが固定されている。ピストンロッド22の下端部が、車軸ブラケット32の底部に外側から係入、密封されるボトムボルトに螺着されるとともに、ロックナットで固定される。オイルロックカラー33Aは、車軸側チューブ12の下端面と車軸ブラケット32の底部との間に挟み止めされる。ピストンロッド22はダンパシリンダ21の下部開口端に螺着したロッドガイド34のブッシュ35、シール部材36に密封して摺動自在に支持され、ダンパシリンダ21の内部に挿入されている。尚、ロッドガイド34の外周部にはオイルロックピース33Bが設けられている。
【0030】
ダンパ20は、メインバルブ装置(伸側減衰力発生装置)40と、サブバルブ装置(圧側減衰力発生装置)50とを有している。ダンパ20は、メインバルブ装置40とサブバルブ装置50が発生する減衰力により、スプリング脚110の懸架ばね140の後述する空気ばねによる衝撃力の吸収に伴う車体側チューブ111と車軸側チューブ112の伸縮振動を制振する。
【0031】
(スプリング脚110)(図1〜図6)
スプリング脚110は、図1〜図6に示す如く、車体側チューブ(アウタチューブ)111に、車軸側チューブ(インナチューブ)112をブッシュ113A、113B、シール部材113Cを介し密封して摺動自在に挿入する。スプリング脚110は、ガイドシリンダ121を車体側チューブ111の内部の中央に吊下げ、車軸側チューブ112の内部の中央に立設したガイドロッド122の先端ガイド123をガイドシリンダ121に摺動自在に挿入している。
【0032】
車体側チューブ111は車体側に支持され、車軸側チューブ112は車軸に結合される。車体側チューブ111の上部開口端はキャップ130及びフォークボルト131により閉塞、密封される。キャップ130は車体側チューブ111に螺着され、フォークボルト131はキャップ130に螺着される。キャップ130の下端部にはガイドシリンダ121が連結されて吊下げられる。ガイドシリンダ121の下端側外周部には、車軸側チューブ112の内周と環状間隙を介する振れ止めカラー121Aが取着されている。
【0033】
車軸側チューブ112の下端部には車軸ブラケット132が螺着、密封され、車軸側チューブ112の下端面は車軸ブラケット132の底面との間にボトムピース133を挟み止めしている。そして、車軸側チューブ112の内部で車軸ブラケット132の中央部にはガイドロッド122の下端部が立設されている。ガイドロッド122の下端部が、車軸ブラケット132の底部に外側から係入、密封されるボトムボルト134に螺着されるとともに、ロックナット135で固定されている。ガイドロッド122はガイドシリンダ121の下部開口端に挿着したロッドガイド136のブッシュ137に摺動自在に支持され、ガイドシリンダ121の内部に挿入されている。ガイドシリンダ121の内部に挿入されたガイドロッド122の先端部にガイド123が螺着されている。
【0034】
ここで、ガイドロッド122は、ロッドガイド136に嵌着して設けたシール押え138、シール部材139を通って、ブッシュ137経由で、ガイドシリンダ121の内部に挿入されている。ロッドガイド136は上下に設けられるばね受191、シール押え138を介して、ガイドシリンダ121に係着される上下の止め輪136A、136Bにより、ガイドシリンダ121の下部開口端に固定されている。
【0035】
スプリング脚110は、ガイドシリンダ121の内部にガイドロッド122の先端ガイド123が区画する内側空気ばね室150と、車体側チューブ111と車軸側チューブ112がガイドシリンダ121の外側に区画する外側空気ばね室160とを有する。これにより、スプリング脚110は、内側空気ばね室150の空気ばねと外側空気ばね室160の空気ばねにより懸架ばね140を構成するものである。
【0036】
内側空気ばね室150は、ガイドシリンダ121においてガイドロッド122が存在しない側の内部に、フォークボルト131と、ガイドロッド122の先端ガイド123とに挟まれて区画される。内側空気ばね室150は、先端ガイド123がガイドシリンダ121の内周に対して設けたシール部材151と、フォークボルト131がキャップ130の内周に対して設けたシール部材152により気密に封止される。
【0037】
内側空気ばね室150の空気圧は内側空気圧調整部153により調整される。内側空気圧調整部153は、フォークボルト131の外界に臨む位置に取着された空気バルブからなり、フォークボルト131に穿設した孔154により内側空気ばね室150に連通し、内側空気ばね室150の封入空気圧を調整する。内側空気圧調整部153は、空気圧注入器の注射針が刺通できるゴム膜からなるものでも良い。フォークボルト131に外部から着脱されるカバー155が内側空気圧調整部153を覆っている。
【0038】
外側空気ばね室160は、車体側チューブ111と車軸側チューブ112がガイドシリンダ121の外側に区画する外側室161からなる。車体側チューブ111と車軸側チューブ112はそれらの摺動部に前述のシール部材113Cを介して気密に摺動する。外側室161(後述する孔168、169を含む)の上部は、キャップ130が車体側チューブ111の内周に対して設けたシール部材163Aと、フォークボルト131がキャップ130の内周に対して設けたシール部材163Bにより気密に封止される。外側室161の下部はボトムピース133が車軸側チューブ112の内周、車軸ブラケット132の底面に対して設けたシール部材164A、164Bと、ボトムボルト134が車軸ブラケット132の内周に対して設けたシール部材165により気密に封止される。
【0039】
外側空気ばね室160の空気圧は外側空気圧調整部167により調整される。外側空気圧調整部167は、フォークボルト131の外界に臨む位置に取着された空気バルブからなり、フォークボルト131に設けた孔168と、キャップ130とフォークボルト131の間の環状間隙と、キャップ130に設けた孔169により外側室161に連通し、外側空気ばね室160(外側室161)の封入空気圧を調整する。外側空気圧調整部167は、空気圧注入器の注射針が刺通できるゴム膜からなるものでも良い。フォークボルト131に外部から着脱される前述のカバー155が外側空気圧調整部167を覆っている。
【0040】
内側空気ばね室150の空気ばねのばね力F1と外側空気ばね室160の空気ばねのばね力F2は車体側チューブ111と車軸側チューブ112を伸長させる方向に付勢する。
【0041】
スプリング脚110は、ガイドシリンダ121の外側室161(外側空気ばね室160)の下部に潤滑オイルを装填した油室を形成できる。車体側チューブ111と車軸側チューブ112の摺動部、シール部材113C、ガイドシリンダ121とガイドロッド122の摺動部、シール部材139を潤滑する。
【0042】
スプリング脚110は、ガイドシリンダ121の外部で、ガイドシリンダ121の外周に設けたばね受171と、ガイドロッド122を立設した車軸側チューブ112の上端開口部に設けたばね受172との間にバランススプリング170を介装している。バランススプリング170は金属コイルばねからなる。バランススプリング170の金属ばねのばね力Fbは、車体側チューブ111と車軸側チューブ112が内側空気ばね室150と外側空気ばね室160の空気ばねのばね力F1、F2により付勢される伸切側で圧縮され、内側空気ばね室150の空気ばねのばね力F1と、外側空気ばね室160の空気ばねのばね力F2に抗して車体側チューブ111と車軸側チューブ112を収縮させる方向に付勢する。
【0043】
スプリング脚110は、図5に示す如く、ガイドシリンダ121においてガイドロッド122が存在する側の内部で、ガイドロッド122を挿入かつ支持するロッドガイド136と、ガイドロッド122の先端ガイド123とに挟まれて区画されるロッド側室180を有する。ロッド側室180は、ロッドガイド136と先端ガイド123がそれぞれ、ガイドシリンダ121の内周に対して設けたシール部材181、182と、ロッドガイド136に設けてある前述のシール部材139により気密に封止され、リバウンド空気ばね室を構成する。ロッド側室180(リバウンド空気ばね室)の空気ばねのばね力F3は、車体側チューブ111と車軸側チューブ112が内側空気ばね室150と外側空気ばね室160の空気ばねのばね力F1、F2により付勢される伸切側で圧縮され、内側空気ばね室150の空気ばねのばね力F1と、外側空気ばね室160の空気ばねのばね力F2に抗して車体側チューブ111と車軸側チューブ112を収縮させる方向に付勢する。
【0044】
このとき、ロッド側室180を封止するシール部材139は、ロッドガイド136に固定的に嵌着される状態で、ガイドロッド122に摺動自在に密接する内周側のリップ139Lを、車軸側チューブ112の内部におけるガイドシリンダ121の外側室161の方に向けている。これにより、シール部材139は、ガイドシリンダ121の外側室161(外側空気ばね室160)の下部に装填されている潤滑オイルの外側室161からロッド側室180へ向かおうとする流れを受けるリップ139Lをガイドロッド122の外周に密接するように閉じ(図6(A))、外側室161からロッド側室180へのオイルの侵入を阻止する。他方、シール部材139は、ロッド側室180から外側室161へ向かうオイルの流れにより開き(図6(B))、ロッド側室180から外側室161へのオイルの排出を許容する。
【0045】
スプリング脚110は、ガイドシリンダ121に設けた上述のロッド側室180(リバウンド空気ばね室)の内部で、ロッドガイド136の内側端面に設けたばね受191と、ガイドロッド122の先端ガイド123に衝接するばね受192との間にリバウンドスプリング190を介装している。リバウンドスプリング190は金属コイルばねからなる。リバウンドスプリング190の金属ばねのばね力Frは、車体側チューブ111と車軸側チューブ112が内側空気ばね室150と外側空気ばね室160の空気ばねのばね力F1、F2により付勢される伸切側で圧縮され、内側空気ばね室150の空気ばねのばね力F1と、外側空気ばね室160の空気ばねのばね力F2に抗して車体側チューブ111と車軸側チューブ112を収縮させる方向に付勢する。
【0046】
従って、フロントフォークAにあっては、スプリング脚110の伸縮ストロークに対し、車体側チューブ111と車軸側チューブ112を伸長させる方向に付勢する内側空気ばね室150の空気ばねのばね力F1及び外側空気ばね室160の空気ばねのばね力F2と、車体側チューブ111と車軸側チューブ112を伸切側で収縮させる方向に付勢するロッド側室180(リバウンド空気ばね室)の空気ばねのばね力F3並びにバランススプリング170の金属ばねのばね力Fb及びリバウンドスプリング190の金属ばねのばね力Frとが生じ、それらの総和となる合成ばね力Fを生ずる。合成ばね力Fは、伸縮ストロークの初期〜中間域のばね力を上げずに、後半のばね力を大きくするものになる。
【0047】
そして、フロントフォークAにあっては、スプリング脚110の上述の合成ばね力Fによる衝撃力の吸収に伴う車体側チューブ111と車体側チューブ112の伸縮振動を、ダンパ脚10のダンパ20における伸側減衰力発生装置40の伸側減衰バルブと圧側減衰力発生装置50の圧側減衰バルブが発生する減衰力により制振する。
【0048】
尚、フロントフォークAにあっては、ダンパ脚10、スプリング脚110の軽量化のため、ダンパ脚10のピストンロッド22、スプリング脚110のガイドロッド122を中空にしている。
【0049】
また、フロントフォークAにあっては、ダンパ脚10とスプリング脚110の剛性のバランスを図るため、ダンパ脚10の車体側チューブ11とスプリング脚110の車体側チューブ111を同一長、同一径(同一肉厚)にするとともに、ダンパ脚10のピストンロッド22とスプリング脚110のガイドロッド122を同一長、同一径(同一肉厚)にしている。また、ダンパ脚10のダンパシリンダ21とスプリング脚110のガイドシリンダ121を同一長、同一径(同一肉厚)にするとともに、ダンパ脚10のピストンロッド22とスプリング脚110のガイドロッド122を同一長、同一径(同一肉厚)にしている。
【0050】
また、フロントフォークAにあっては、ダンパ脚10とスプリング脚110の剛性のバランスを図るため、フロントフォークAの正面視(図1)で、ダンパ脚10のダンパシリンダ21に設けられてピストンロッド22を挿入かつ支持するロッドガイド34のブッシュ35と、スプリング脚110のガイドシリンダ121に設けられてガイドロッド122を挿入かつ支持するロッドガイド136のブッシュ137を、同一高さ位置に位置付けている。また、ダンパ脚10の車体側チューブ11に設けられて車軸側チューブ12を挿入かつ支持するブッシュ13Aと、スプリング脚110の車体側チューブ111に設けられて車軸側チューブ112を挿入かつ支持するブッシュ113Aを、同一高さ位置に位置付けている。
【0051】
本実施例によれば、以下の作用効果を奏する。
(a)ガイドシリンダ121においてガイドロッド122が挿入されている内部で、ガイドロッド122を挿入かつ支持するロッドガイド136と、ガイドロッド122の先端ガイド123とに挟まれて区画されるロッド側室180が、該ロッドガイド136のシール部材139によってシールされる。このとき、シール部材139はガイドロッド122に摺動自在に密接するリップ139Lを、車軸側チューブ112の内部におけるガイドシリンダ121の外側室161の方に向けている。即ち、シール部材139は外側室161からロッド側室180へのオイルの侵入を阻止し(図6(A))、ロッド側室180から外側室161へのオイルの排出を許容する(図6(B))。
【0052】
従って、フロントフォークAの通常の伸縮行程で、車軸側チューブ112の内部におけるガイドシリンダ121の外側室161からロッド側室180へのオイルの侵入が阻止される。このため、フロントフォークAの圧側行程で、ガイドシリンダ121のロッド側室180が負圧になっても、外側室161の下部に装填されている潤滑オイルがロッド側室180に吸い込まれることがない。そして、車軸側チューブ112の内部に対するガイドシリンダ121の侵入体積分の潤滑オイルがガイドシリンダ121の外側を上方へ向けてかけ上がる如くに移動し、少ないオイル量でも、車体側チューブ111と車軸側チューブ112の摺動部、それらの摺動部のシール部材113C、139に対し、必要十分な潤滑オイルを供給できる。
【0053】
フロントフォークAの伸縮行程の繰り返しにより、ガイドロッド122に付着した微量の潤滑オイルが、車軸側チューブ112の内部におけるガイドシリンダ121の外側室161からロッド側室180へ侵入して蓄積したときには、伸側行程の伸切端で高圧になるロッド側室180の空気圧が蓄積オイルを加圧して外側室161へ排出させる。これにより、ロッド側室180に蓄積した潤滑オイルがガイドシリンダ121のシール構造を破損するおそれがない。
【0054】
(b)車軸側チューブ112の内部におけるガイドシリンダ121の外側室161からロッド側室180への潤滑オイルの流通がないから、このようなオイルの流れに伴なう減衰力の発生がない。即ち、スプリング脚110における減衰力の発生を抑制できる。
【0055】
(c)スプリング脚110に内蔵される懸架ばね140を空気ばねとすることができる。即ち、ガイドシリンダ121の内部にガイドロッド122の先端ガイド123が密封区画する内側空気ばね室150が圧側行程で圧縮される空気ばねを生成し、車体側チューブ111と車軸側チューブ112を伸長させる方向に付勢する。また、車体側チューブ111と車軸側チューブ112がガイドシリンダ121の外側に区画する外側空気ばね室160も、圧側行程で圧縮される空気ばねを生成し、車体側チューブ111と車軸側チューブ112を伸長させる方向に付勢する。
【0056】
(d)フロントフォークAにおいて、左右一方に上述(a)〜(c)のスプリング脚110を配置し、左右他方にダンパ脚10を配置することができる。スプリング脚110の懸架ばね140のばね力による衝撃力の吸収に伴なう車体側チューブ111と車軸側チューブ112の伸縮振動を、ダンパ脚10のダンパ20が発生する減衰力により制振する。
【0057】
尚、本実施例によれば以下の作用効果も奏する。
(i)スプリング脚110に内蔵する懸架ばね140が、金属ばねでなく、空気ばね(内側空気ばね室150及び外側空気ばね室160)からなる。金属ばねの不採用により大幅に軽量化できる。また、車体側チューブ111や車軸側チューブ112に対する金属ばねの摺接がないから、それらのチューブ111、112と金属ばねとのフリクション、損傷、磨耗粉の発生、異音を生ずることがなく、作動性を向上できる。
【0058】
(ii)スプリング脚110が、ガイドシリンダ121の内部にガイドロッド122のガイド123が区画する内側空気ばね室150と、車体側チューブ111と車軸側チューブ112がガイドシリンダ121における少なくとも上記内側空気ばね室150の外側に区画する外側空気ばね室160とを有する。スプリング脚110における車体側チューブ111と車軸側チューブ112に囲まれる内部空間に設けられる空気室を、ガイドシリンダ121の内外の内側空気ばね室150と外側空気ばね室160に2分した。内側空気ばね室150と外側空気ばね室160のそれぞれは、2分化された分だけ小スペースになって高圧縮比になり、内側空気ばね室150の空気ばねのばね力F1と、外側空気ばね室160の空気ばねのばね力F2が大きくなり、スプリング脚110の全体の空気ばね力(F1+F2)を大きくできる。
【0059】
内側空気ばね室150と外側空気ばね室160が互いに独立しており、それらの各ばね室150、160の空気ばねのばね力F1、F2を変更することで、初期ばね荷重を調整できるし、フロントフォークAの自由長を調整して車体姿勢を設定替えできる。
【0060】
(iii)スプリング脚110の全体の空気ばね力(F1+F2)を、内側空気ばね室150のばね力F1と外側空気ばね室160のばね力F2に分担する分だけ、内側空気ばね室150の空気圧と外側空気ばね室160の空気圧を低減しながら全体の空気ばね力(F1+F2)を大きくとれる。これにより、内側空気ばね室150のシール部材151、152と外側空気ばね室160のシール部材113C、163A、163B、164A、164B、165に及ぼすシール負荷を低減しながら、一定の空気ばね力特性を確保できる。
【0061】
(iv)内側空気ばね室150と外側空気ばね室160が互いに独立しているから、万が一、車体側チューブ111又は車軸側チューブ112に石が当たるチッピング等によりチューブ傷を生じ、ひいては外側空気ばね室160のシール部材113Cが損傷し、外側空気ばね室160の空気圧が抜けても、1名乗車分程度の荷重は内側空気ばね室150のばね力により支持でき、走行継続できる。
【0062】
(v)スプリング脚110が、内側空気ばね室150の空気圧を調整するための内側空気圧調整部153と、外側空気ばね室160の空気圧を調整するための外側空気圧調整部167とを有する。内側空気ばね室150の空気圧と外側空気ばねの空気圧を調整することにより、スプリング脚110の全体の空気ばね力特性を多様に変更できる。
【0063】
(vi)スプリング脚110が、ガイドシリンダ121の外部で、ガイドシリンダ121の外周に設けたばね受171と、車体側チューブ111又は車軸側チューブ112であってガイドロッド122を設けたチューブとの間に介装される金属ばねからなり、外側空気ばね室160の空気ばねと内側空気ばね室150の空気ばねのばね力に抗して車体側チューブ111と車軸側チューブ112を収縮させる方向に付勢するバランススプリング170を有する。スプリング脚110は、内側空気ばね室150と外側空気ばね室160の全体の空気ばね力(F1+F2)と、バランススプリング170のばね力Fbとがつり合う位置で、伸縮両方向に自由長をなす初期状態になる。これにより、伸縮ストロークの初期〜中間域のばね力を上げずに、乗り心地の良いばね特性を得ることができる。そして、伸縮ストロークの後半のばね力を内側空気ばね室150と外側空気ばね室160の空気ばねのばね力の立上りにより大きくし、踏ん張りのあるばね力特性を得ることができる。
【0064】
(vii)スプリング脚110が、ガイドシリンダ121の内部で、ガイドシリンダ121に設けられてガイドロッド122を挿入かつ支持するロッドガイド136と、ガイドシリンダ121に挿入されたガイドロッド122のガイド123との間に介装される金属ばねからなり、車体側チューブ111と車軸側チューブ112の伸切側で圧縮されて車体側チューブ111と車軸側チューブ112を収縮させる方向に付勢するリバウンドスプリング190を有する。スプリング脚110は、内側空気ばね室150と外側空気ばね室160の全体の空気ばね力(F1+F2)と、リバウンドスプリング190のばね力Fr(又は上述(vi)のFbとFrの合計ばね力Fb+Fr)とがつり合う位置で、伸縮両方向に自由長をなす初期状態になる。これにより、伸縮ストロークの初期〜中間域のばね力を上げずに、乗り心地の良いばね特性を得ることができる。そして、伸縮ストロークの後半のばね力を内側空気ばね室150と外側空気ばね室160の空気ばねのばね力の立上りにより大きくし、踏ん張りのあるばね力特性を得ることができる。
【0065】
(viii)フロントフォークAの正面視で、スプリング脚110のガイドシリンダ121に設けられてガイドロッド122を挿入かつ支持するロッドガイド136のブッシュ137と、ダンパ脚10のダンパシリンダ21に設けられてピストンロッド22を挿入かつ支持するロッドガイド34のブッシュ35とが、同一高さ位置に位置付けられる。ダンパ脚10とスプリング脚110の剛性のバランスをとり、外乱入力時のハンドルの振られ(ヨー方向)を抑制できる。
【0066】
(ix)スプリング脚110の車体側チューブ111とダンパ脚10の車体側チューブ11を同一径にするとともに、スプリング脚110の車軸側チューブ112とダンパ脚10の車軸側チューブ12を同一径にし、スプリング脚110のガイドシリンダ121とダンパ脚10のダンパシリンダ21を同一径にするとともに、スプリング脚110のガイドロッド122とダンパ脚10のピストンロッド22を同一径にする。ダンパ脚10とスプリング脚110の剛性のバランスをとり、外乱入力時のハンドルの振られ(ヨー方向)を抑制できる。
【0067】
(実施例2)(図7〜図10)
フロントフォークBは、ダンパ20を内蔵し、金属ばねからなる懸架ばねを内蔵しないダンパ脚10と、ダンパを内蔵せず、金属ばね251と空気ばね(空気室226と空気室227の空気ばね)からなる懸架ばね250を内蔵するスプリング脚210とを平行配置した。
【0068】
(ダンパ脚10)(図7)
ダンパ脚10は、実施例1のダンパ脚10と同じである。
【0069】
(スプリング脚210)(図7〜図10)
スプリング脚210は、図7〜図10に示す如く、車体側チューブ(アウタチューブ)211に、車軸側チューブ(インナチューブ)212をブッシュ213A、213B、シール部材213Cを介し密封して摺動自在に挿入する。スプリング脚210は、ガイドシリンダ221を車体側チューブ211の内部の中央に吊下げ、車軸側チューブ212の内部の中央に立設したガイドロッド222の先端ガイド223をガイドシリンダ221に摺動自在に挿入している。スプリング脚210は、ガイドシリンダ221及びガイドロッド222の外側を外側室224としている。外側室224は、油溜室をなし、油室225と空気室226が自由界面を介して接している。また、ガイドシリンダ221の内部を空気室227(先端ガイド223と後述するフォークボルト231に挟まれる区画)にしている。
【0070】
車体側チューブ211は車体側に支持され、車軸側チューブ212は車軸に結合される。車体側チューブ211の上部開口端にキャップ230及びフォークボルト231により閉塞、密封される。キャップ230は車体側チューブ211に螺着され、フォークボルト231はキャップ230に螺着される。キャップ230の下端部にはガイドシリンダ221が連結されて吊下げられる。
【0071】
車軸側チューブ212の下端部には車軸ブラケット232が螺着、密封され、車軸側チューブ212の下端面は車軸ブラケット232の底面との間にボトムピース233を挟み止めしている。そして、車軸側チューブ212の内部で車軸ブラケット232の中央部にはガイドロッド222の下端部が立設されている。ガイドロッド222の下端部が、車軸ブラケット232の底部に外側から係入、密封されるボトムボルト234に螺着されるとともに、ロックナット235で固定されている。ガイドロッド222はガイドシリンダ221の下部開口端に挿着したロッドガイド236のブッシュ237に摺動自在に支持され、ガイドシリンダ221の内部に挿入されている。ガイドシリンダ221の内部に挿入されたガイドロッド222の先端部にガイド223が螺着されている。
【0072】
ここで、ガイドロッド222は、ロッドガイド236に嵌着して設けたシール押え238、シール部材239を通って、ブッシュ237経由で、ガイドシリンダ221の内部に挿入されている。ロッドガイド236は上下に設けられるばね受291、シール押え238を介して、ガイドシリンダ221に係着される上下の止め輪236A、236Bにより、ガイドシリンダ221の下部開口端に固定されている。
【0073】
スプリング脚210は、フォークボルト231及びガイドシリンダ221の周囲にばね荷重調整装置240を装備している。ばね荷重調整装置240は、車体側チューブ211の上部開口端のフォークボルト231に外部から操作部241を挿入、密封して枢支し、車体側チューブ211の内部に挿入された操作部241の外周に沿う軸方向に抜け止めプレート242、アジャスタボルト243を設ける。操作部241はアジャスタボルト243を固定的に螺着され、抜け止めプレート242を介してフォークボルト231から抜け止めされる。アジャスタボルト243には筒状アジャスタナット244が螺着され、アジャスタナット244の下端側の周方向複数位置には下向き爪244Aが設けられ、アジャスタナット244の下向き爪244Aはキャップ230に設けた回り止め孔を通って、キャップ230に吊下げられているガイドシリンダ221の周囲に突出している。操作部241がフォークボルト231への挿入部に設けたクリック機構245により一定回転角毎の節度感をもって外部から回転操作されるとき、アジャスタボルト243に対して螺動するアジャスタナット244が回り止めされて上下動する。アジャスタナット244の下向き爪244Aは、ガイドシリンダ221の周囲に設けられているスプリングシート246、スプリングカラー247を介して、上ばね受248を支持している。
【0074】
スプリング脚210は、車体側チューブ211と車軸側チューブ212の内周と、ガイドシリンダ221とガイドロッド222の外周の環状間隙(外側室224)をばね収容室252とし、懸架ばね250を構成する金属ばね251をこのばね収容室252に配置している。金属ばね251は、ばね荷重調整装置240の上ばね受248と、車軸ブラケット232上に設けてあるボトムピース233の上面からなる下ばね受249の間に介装される。金属ばね251は、ガイドシリンダ221の外周にガイドされ、車軸側チューブ212の内周に沿って伸縮する。ばね荷重調整装置240の操作部241によるアジャスタナット244の位置調整により、金属ばね251の初期荷重を調整できる。
【0075】
スプリング脚210は、金属ばね251のばね収容室252における上部を空気室226とするとともに、ガイドシリンダ221の内部の空気室227と連通している。操作部241は、空気室226、227の封入空気圧を調整する空気バルブ228を備える。そして、スプリング脚210の圧側行程で圧縮される空気室226と空気室227のばね力が、空気ばねを形成し、これらが金属ばね251とともに懸架ばね250を構成する。
【0076】
スプリング脚210は、外側室224(ばね収容室252)の油室225に潤滑オイルを装填している。車体側チューブ211と車軸側チューブ212の摺動部、ガイドシリンダ221とガイドロッド222の摺動部、金属ばね251と車軸側チューブ212、ガイドシリンダ221との摺動部を潤滑する。
【0077】
尚、懸架ばね250を構成する空気室226と空気室227は、相連通するとともに、キャップ230が車体側チューブ211の内周に対して設けたシール部材261と、フォークボルト231がキャップ230の内周に対して設けたシール部材262と、ボトムピース233が車軸側チューブ212の内周、車軸ブラケット232の底面に対して設けたシール部材263A、263Bと、ボトムボルト234が車軸ブラケット232の内周に対して設けたシール部材264と、先端ガイド223がガイドシリンダ221の内周に対して設けたシール部材265により気密に封止される。
【0078】
スプリング脚210は、ガイドシリンダ221においてガイドロッド222が存在する側の内部で、ガイドロッド222を挿入かつ支持するロッドガイド236と、ガイドロッド222の先端ガイド223とに挟まれて区画されるロッド側室280を有する。ロッド側室280は、ロッドガイド236と先端ガイド223がそれぞれ、ガイドシリンダ221の内周に対して設けたシール部材281、282と、ロッドガイド236に設けてある前述のシール部材239により気密に封止され、リバウンド空気ばね室を構成する。ロッド側室280(リバウンド空気ばね室)のばね力は、車体側チューブ211と車軸側チューブ212が空気室226と空気室227により付勢される伸切側で圧縮され、空気室226と空気室227の空気ばねのばね力に抗して車体側チューブ211と車軸側チューブ212を収縮させる方向に付勢する。
【0079】
このとき、ロッド側室280を封止するシール部材239は、ロッドガイド236に固定的に嵌着される状態で、ガイドロッド222に摺動自在に密接する内周側のリップ239Lを、車軸側チューブ212の内部におけるガイドシリンダ221の外側室224の方に向けている。これにより、シール部材239は、ガイドシリンダ221の外側室224(油室225)の下部に装填されている潤滑オイルの外側室224からロッド側室280へ向かおうとする流れを受けるリップ239Lをガイドロッド222の外周に密接するように閉じ、外側室224からロッド側室280へのオイルの侵入を阻止する。他方、シール部材239は、ロッド側室280から外側室224へ向かうオイルの流れにより開き、ロッド側室280から外側室224へのオイルの排出を許容する。
【0080】
スプリング脚210は、ガイドシリンダ221に設けた上述のロッド側室280(リバウンド空気ばね室)の内部で、ロッドガイド236の内側端面に設けたばね受291と、ガイドロッド222の先端ガイド223に衝接するばね受292との間にリバウンドスプリング290を介装している。リバウンドスプリング290は金属コイルばねからなる。リバウンドスプリング290の金属ばねのばね力は、車体側チューブ211と車軸側チューブ212が空気室226と空気室227の空気ばねのばね力により付勢される伸切側で圧縮され、空気室226の空気ばねのばね力と、空気室227の空気ばねのばね力に抗して車体側チューブ211と車軸側チューブ212を収縮させる方向に付勢する。
【0081】
従って、フロントフォークBにあっては、スプリング脚210の伸縮ストロークに対し、車体側チューブ211と車軸側チューブ212を伸長させる方向に付勢する空気室226の空気ばねのばね力及び空気室227の空気ばねのばね力と、車体側チューブ211と車軸側チューブ212を伸切側で収縮させる方向に付勢するロッド側室280(リバウンド空気ばね室)の空気ばねのばね力及びリバンドスプリング290の金属ばねのばね力とが生じ、それらの総和となる合成ばね力Fを生ずる。合成ばね力Fは、伸縮ストロークの初期〜中間域のばね力を上げずに、後半のばね力を大きくするものになる。
【0082】
そして、フロントフォークBにあっては、スプリング脚210の上述の合成ばね力Fによる衝撃力の吸収に伴う車体側チューブ211と車体側チューブ212の伸縮振動を、ダンパ脚10のダンパ20における伸側減衰力発生装置40の伸側減衰バルブと圧側減衰力発生装置50の圧側減衰バルブが発生する減衰力により制振する。
【0083】
尚、フロントフォークBにあっては、ダンパ脚10、スプリング脚210の軽量化のため、ダンパ脚10のピストンロッド22、スプリング脚210のガイドロッド222を中空にしている。
【0084】
また、フロントフォークBにあっては、ダンパ脚10とスプリング脚210の剛性のバランスを図るため、ダンパ脚10の車体側チューブ11とスプリング脚210の車体側チューブ211を同一長、同一径(同一肉厚)にするとともに、ダンパ脚10のピストンロッド12とスプリング脚210のガイドロッド222を同一長、同一径(同一肉厚)にしている。また、ダンパ脚10のダンパシリンダ21とスプリング脚210のガイドシリンダ221を同一長、同一径(同一肉厚)にするとともに、ダンパ脚10のピストンロッド22とスプリング脚210のガイドロッド222を同一長、同一径(同一肉厚)にしている。
【0085】
また、フロントフォークBにあっては、ダンパ脚10とスプリング脚210の剛性のバランスを図るため、フロントフォークBの正面視(図7)で、ダンパ脚10のダンパシリンダ21に設けられてピストンロッド22を挿入かつ支持するロッドガイド34のブッシュ35と、スプリング脚210のガイドシリンダ221に設けられてガイドロッド222を挿入かつ支持するロッドガイド236のブッシュ237を、同一高さ位置に位置付けている。また、ダンパ脚10の車体側チューブ11に設けられて車軸側チューブ12を挿入かつ支持するブッシュ13Aと、スプリング脚210の車体側チューブ211に設けられて車軸側チューブ212を挿入かつ支持するブッシュ213Aを、同一高さ位置に位置付けている。
【0086】
本実施例によれば、以下の作用効果を奏する。
(a)ガイドシリンダ221においてガイドロッド222が挿入されている内部で、ガイドロッド222を挿入かつ支持するロッドガイド236と、ガイドロッド222の先端ガイド223とに挟まれて区画されるロッド側室280が、該ロッドガイド236のシール部材239によってシールされる。このとき、シール部材239はガイドロッド222に摺動自在に密接するリップ239Lを、車軸側チューブ212の内部におけるガイドシリンダ221の外側室224の方に向けている。即ち、シール部材239は外側室224からロッド側室280へのオイルの侵入を阻止し、ロッド側室280から外側室224へのオイルの排出を許容する。
【0087】
従って、フロントフォークBの通常の伸縮行程で、車軸側チューブ212の内部におけるガイドシリンダ221の外側室224からロッド側室280へのオイルの侵入が阻止される。このため、フロントフォークBの圧側行程で、ガイドシリンダ221のロッド側室280が負圧になっても、外側室224の下部に装填されている潤滑オイルがロッド側室280に吸い込まれることがない。そして、車軸側チューブ212の内部に対するガイドシリンダ221の侵入体積分の潤滑オイルがガイドシリンダ221の外側を上方へ向けてかけ上がる如くに移動し、少ないオイル量でも、車体側チューブ211と車軸側チューブ212の摺動部、それらの摺動部のシール部材213Cに対し、必要十分な潤滑オイルを供給できる。
【0088】
フロントフォークBの伸縮行程の繰り返しにより、ガイドロッド222に付着した微量の潤滑オイルが、車軸側チューブ212の内部におけるガイドシリンダ221の外側室224からロッド側室280へ侵入して蓄積したときには、伸側行程の伸切端で高圧になるロッド側室280の空気圧が蓄積オイルを加圧して外側室224へ排出させる。これにより、ロッド側室280に蓄積した潤滑オイルがガイドシリンダ221のシール構造を破損するおそれがない。
【0089】
(b)車軸側チューブ212の内部におけるガイドシリンダ221の外側室224からロッド側室280への潤滑オイルの流通がないから、このようなオイルの流れに伴なう減衰力の発生がない。即ち、スプリング脚210における減衰力の発生を抑制できる。
【0090】
(c)スプリング脚210に内蔵される懸架ばね250を金属ばね251とすることができる。即ち、車体側チューブ211の内部でガイドシリンダ221の周囲に設けた上ばね受248と、車軸側チューブ212との間に介装される圧縮コイルばねからなる金属ばね251が、車体側チューブ211と車軸側チューブ212を圧側行程で伸長させる方向に付勢する。
【0091】
(d)フロントフォークBにおいて、左右一方に上述(a)〜(c)のスプリング脚210を配置し、左右他方にダンパ脚10を配置することができる。スプリング脚210の懸架ばね250のばね力による衝撃力の吸収に伴なう車体側チューブ211と車軸側チューブ212の伸縮振動を、ダンパ脚10のダンパ20が発生する減衰力により制振する。
【0092】
また、本実施例によれば、以下の作用効果も奏する。
(i)スプリング脚210が、車体側チューブ211と車軸側チューブ212を互いに挿入し、ガイドシリンダ221を車体側チューブ211の内部の中央に設け、車軸側チューブ212の内部の中央に設けたガイドロッド222のガイド223をガイドシリンダ221に挿入してなり、車体側チューブ211の内部でガイドシリンダ221の周囲に設けた上ばね受248と、車軸側チューブ212との間に、懸架ばね250を介装してなる。従って、ガイドシリンダ221と上ばね受248が軸方向で対向配置されて相対移動するものでなく、ガイドシリンダ221と上ばね受248の軸方向の対向間隔に、スプリング脚210の伸縮ストロークの最大値を超える長さを確保する必要がなくなり、設計の自由度が向上する。特に、スプリング脚210の全長が小さくなり、懸架ばね250のばね長さも必要以上に長くする必要がなくなる。
【0093】
また、懸架ばね250の上端はガイドシリンダ221の外周によりガイドされて胴曲りを抑制される。懸架ばね250の上端が仮に車軸側チューブ212の先端よりも上方に飛び出ることがあっても、胴曲りを抑制されている懸架ばね250の外周が車軸側チューブ212の先端に干渉する機会は少ない。車軸側チューブ212と懸架ばね250のフリクション、損傷、摩耗粉の発生、異音を防止できる。
【0094】
(ii)スプリング脚210において、車体側チューブ211の内部の中央に設けられるガイドシリンダ221は、減衰力発生装置等を内蔵するものでない。従って、ガイドシリンダ221の周囲にばね荷重調整装置240を設け、このばね荷重調整装置240の操作部241を車体側チューブ211の外部に設けることができる。スプリング脚210にばね荷重調整装置240を装備できる。
【0095】
(iii)フロントフォークAの正面視で、スプリング脚210のガイドシリンダ221に設けられてガイドロッド222を挿入かつ支持するロッドガイド236のブッシュ237と、ダンパ脚10のダンパシリンダ21に設けられてピストンロッド22を挿入かつ支持するロッドガイド34のブッシュ35とが、同一高さ位置に位置付けられる。ダンパ脚10とスプリング脚210の剛性のバランスをとり、外乱入力時のハンドルの振られ(ヨー方向)を抑制できる。
【0096】
(iv)スプリング脚210の車体側チューブ211とダンパ脚10の車体側チューブ11を同一径にするとともに、スプリング脚210の車軸側チューブ212とダンパ脚10の車軸側チューブ12を同一径にし、スプリング脚210のガイドシリンダ221とダンパ脚10のダンパシリンダ21を同一径にするとともに、スプリング脚210のガイドロッド222とダンパ脚10のピストンロッド22を同一径にする。ダンパ脚10とスプリング脚210の剛性のバランスをとり、外乱入力時のハンドルの振られ(ヨー方向)を抑制できる。
【0097】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、スプリング脚に内蔵される懸架ばねは金属ばねだけからなるものでも良い。また、ダンパ脚はダンパと懸架ばねを内蔵するものでも良い。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、ダンパを内蔵せず、懸架ばねを内蔵するスプリング脚を有し、スプリング脚が、車体側チューブと車軸側チューブを互いに挿入し、ガイドシリンダを車体側チューブの内部の中央に設け、車軸側チューブの内部の中央に設けたガイドロッドを、ガイドシリンダの下部開口端に設けたロッドガイドのシール部材に通して、ガイドシリンダの内部に挿入してなるフロントフォークにおいて、前記シール部材がガイドロッドに摺動自在に密接するリップを、車軸側チューブの内部におけるガイドシリンダの外側室の方に向けてなるものにした。これにより、車軸側チューブに設けたガイドロッドを車体側チューブに設けたガイドシリンダの下部開口端に設けたロッドガイドのシール部材に通して、ガイドシリンダの内部に挿入してなるスプリング脚を有するフロントフォークにおいて、車軸側チューブの内部におけるガイドシリンダの外側室の下部に装填されている潤滑オイルによる潤滑性を向上することができる。また、スプリング脚における減衰力の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0099】
A、B フロントフォーク
10 ダンパ脚
20 ダンパ
110、210 スプリング脚
140、250 懸架ばね
111、211 車体側チューブ
112、212 車軸側チューブ
121、221 ガイドシリンダ
122、222 ガイドロッド
123、223 先端ガイド
136、236 ロッドガイド
139、239 シール部材
139L、239L リップ
161、224 外側室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダンパを内蔵せず、懸架ばねを内蔵するスプリング脚を有し、
スプリング脚が、
車体側チューブと車軸側チューブを互いに挿入し、
ガイドシリンダを車体側チューブの内部の中央に設け、
車軸側チューブの内部の中央に設けたガイドロッドを、ガイドシリンダの下部開口端に設けたロッドガイドのシール部材に通して、ガイドシリンダの内部に挿入してなるフロントフォークにおいて、
前記シール部材がガイドロッドに摺動自在に密接するリップを、車軸側チューブの内部におけるガイドシリンダの外側室の方に向けてなることを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
前記スプリング脚に内蔵される懸架ばねが空気ばねである請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
前記スプリング脚に内蔵される懸架ばねが金属ばねである請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のフロントフォークであって、
左右一方に前記スプリング脚を配置し、左右他方にダンパ脚を配置してなるフロントフォーク。
【請求項5】
前記ダンパ脚がダンパのみを内蔵してなる請求項4に記載のフロントフォーク。
【請求項6】
前記ダンパ脚がダンパと、懸架ばねを内蔵してなる請求項4に記載のフロントフォーク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−96420(P2013−96420A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236382(P2011−236382)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】