説明

フローセルを用いた液体クロマトグラフ用の検出器及び液体クロマトグラフ

【課題】フローセルを備えた検出器を用いた測定において、室温変動に起因するノイズを低減した検出器を提供する。
【解決手段】本発明の液体クロマトグラフ用の検出器は、フローセル6の出口部分に圧力センサ9を備え、この圧力センサ9の信号を元にフローセル6の出力側の圧力を一定にするための熱交換部8を備えている。したがって、フローセル6の出力側の圧力を一定にすることができ、室温変動によって、廃液ライン内の液体の圧力が変化することに起因するノイズを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフローセルを用いた液体クロマトグラフ用の検出器及び液体クロマトグラフに関わる。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ用の検出器は、一般的にフローセルを通過する液体の吸光度や密度,電気伝導度などの変化を検出するものである。検出器は室温変動に起因するノイズが問題となることがある。特に、示差屈折率検出器は、フローセルを通過する液体の密度変化を検出する検出器であり、室温変動により配管内の液体の密度が変動することがノイズの原因となる。また、フローセルにかかる背圧の変化は、ノイズとして検出される。
【0003】
通常、フローセル以降の廃液ラインは単に廃液ボトルに排出されているのみであり、室温の変動などにより、廃液ライン内の液体の温度が変化し、密度が変わることで、フローセルにかかる背圧にも変化が生じる。フローセル以降における廃液ラインからフローセル自体に伝わる背圧の変化に着目し、廃液ラインから液体が排出される際に液滴が生じることによるノイズを低減するために、液滴を生じさせずに廃液タンクに排出する廃液装置を備える手法(特許文献1)がある。
【0004】
また、フローセル以降の配管上に圧力センサを備え、一定の圧力を超えたときに自動停止できるように監視し、圧力センサ以後に背圧構造部を備える手法(特許文献2)がある。フローセルを用いた検出器では、フローセル内に気泡を発生させないように背圧構造部を備えることは一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−209156号公報
【特許文献2】実開平2−109254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、廃液ラインから液体が排出される際に液滴が生じることに起因するノイズは低減することができるが、室温変動によって液体の温度が変わることにより、廃液ライン内の液体の圧力が変化することに起因するノイズを低減することはできない。
【0007】
特許文献2では、圧力センサは一定の圧力以上になった際に、ポンプを自動停止し、フローセルが破壊されないように監視するために備えた構造であり、検出器由来のノイズを低減するものではない。よって、従来技術では、室温変動によって液体の温度が変わることにより、廃液ライン内の液体の圧力が変化することに起因するノイズを低減することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の検出器は、フローセルを用いた液体クロマトグラフ用の検出器において、フローセルを通過した後の試料の圧力を検出する圧力センサと、フローセルを通過した後の試料の圧力を一定に保つ手段を備えたことを特徴としている。
【0009】
また、本発明の液体クロマトグラフは、フローセル用いた検出器を備えた液体クロマトグラフであって、フローセルを通過した後の試料の圧力を検出する圧力センサと、フローセルを通過した後の試料の圧力を一定に保つ手段とを備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、圧力センサの信号を元に圧力を一定にするための構造を備えることにより、室温変動によって、廃液ライン内の液体の圧力が変化することに起因するノイズを低減することができる。
【0011】
また、流量グラジエントを行う際、流量の変化に伴いフローセルにかかる圧力が変化するが、背圧を一定にコントロールすることによりグラジエントノイズを低減することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態の流路図である。溶離液は送液ポンプ,オートサンプラ,カラムオーブン内の分離カラム,検出器を通り、排出される。
【図2】フローセルを用いた検出器の構造を示す図である。斜線部が温度コントロールされる部分である。
【図3】フローセルを用いた検出器の構造を示す図である。13に示したシリンジやペリスタポンプなどで液を吸引または吐出する構造である。
【図4】一般的な示差屈折率検出器を用いて測定したクロマトグラムである。図中、横軸は時間(分)縦軸は信号強度(μRIU)を示す。
【図5】本発明を備えた示差屈折率検出器を用いて測定したクロマトグラムである。図中、横軸は時間(分)縦軸は信号強度(μRIU)を示す。
【図6】図4,図5を測定した際の室温変動を示す。平均して25.5℃となっているが、約20分の周期で±1℃の変動が見られた。
【図7】フローセルを用いた検出器を用いて、流量グラジエントを行った際のベースラインのクロマトグラムを模式化した図である。Aは一定流量で測定したクロマトグラムである。Bは従来の検出器を用い、流量グラジエントを行った際のベースラインを示したクロマトグラムである。Cは本発明を備えた検出器を用い、流量グラジエントを行った際のベースラインを示したクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づき本発明の好適な実施形態について説明する。
【0014】
図1は液体クロマトグラフの構造図である。液体クロマトグラフは、送液ポンプ1,試料を注入するインジェクタ(オートサンプラ)2,分離カラム3,分離カラムを恒温に保つためのカラムオーブン4、および検出器5を備えている。
【0015】
溶離液は、送液ポンプ1,オートサンプラ2,カラムオーブン4,フローセルを用いた検出器5の順に流れる。カラムオーブン4内の分離カラム3で分離された成分は、分離カラム3から溶出された後、フローセルを通過する際に吸光度や屈折率などを検知する検知器5により検出される。分離カラム4の出口部分までは通常数MPaの圧力がかかっており、急激に圧力を開放すると液体に溶解している空気が気泡となってしまう。フローセル内に気泡が発生すると検出に影響を与えてしまうので、通常、フローセル以降に背圧をかける構造を備えて気泡の発生を阻止することが一般的である。
【0016】
図2,図3は本発明の一実施形態にかかる、フローセルを用いた検出器である。分離カラム3から溶出された試料はフローセル6,背圧構造部7を通過する。試料がフローセル6を通過する際、光源10から照射される光はグレーティング11で目的の波長に分光され、フローセル6を透過する。透過する際の信号を検知器12を用いて感知し、検出する。
【0017】
特に、図2,図3に示す本実施の形態の検出器では、分離カラム3以降の配管において、圧力センサ9を備え、その後に圧力を一定にコントロールするための構造を備える。具体的には、図2に示す検出器では、背圧構造部(背圧部)7を温度コントロールする熱交換部8を備え、圧力センサ9で感知した圧力の変動に対して熱交換部8にて温度コントロールを行うことで圧力を一定に保つ。
【0018】
また、図3に示す検出器では、圧力センサ9で感知した圧力の変動に対して、シリンジ13(もしくは、ペリスタポンプなど)を用いて、加圧もしくは陰圧にすることにより圧力を一定にコントロールする。
【0019】
(実験例1)
示差屈折率検出器に図2に示す本発明を備えた際の測定例を図4,図5に示す。またこのときの室温変動を図6に示す。室温は空調でコントロールされ、平均して25.5℃となっているが、約20分の周期で±1℃ほどの変動を続けていた。廃液ラインを単に廃液ボトルに排出した従来の検出器を用いたクロマトグラム(図4)と本発明を備えた検出器を用いたクロマトグラム(図5)を比較すると、ノイズは約20分の1に抑えられた。従来の検出器を用いたクロマトグラムに見られるノイズの周期は室温変動に同期しており、室温変動が検出器ノイズに影響することは明らかである。
【0020】
(実験例2)
図2,図3に示す本発明を用いた紫外可視吸光光度検出器で、流量グラジエント分析を行う場合の模式図を図7に示す。Aは従来の検出器を用い、一定流量で送液したクロマトグラム、Bは従来の検出器を用い、流量グラジエント分析を行ったクロマトグラム、Cは本発明を用い、流量グラジエント分析を行ったクロマトグラムを模式化した図である。本発明によれば、流量変化に伴う圧力の変化によるベースラインの浮き上がりを低減することが可能となる。
【0021】
なお、上記した図2,図3の構成は、以下のようなものに変更可能である。
【0022】
図2において、熱交換部8の内側に圧力センサ9及び背圧構造部7を備えているが、必ずしもこの構成でなくてもよく、熱交換部8は少なくとも背圧構造部7を温度調整できれば、圧力センサ9まで含んでいなくてもよい。さらに、熱交換部8及び背圧構造部7は、検出器5の外側(廃液側)に配されていてもよい。また、圧力センサ9が検出器5の外側(廃液側)に配されていてもよい。また、図2では、上流側から圧力センサ9,背圧構造部7の順に並んでいるが、逆でもよい。
【0023】
また、図3において、シリンジ13は、検出器5の外側に配してもよい。圧力センサ9とシリンジ13は、位置関係が逆でもよい。圧力センサ9を検出器5の外側に配してもよい。
【0024】
なお、フローセルの出口部分に圧力センサを備え、この圧力センサの信号を元に圧力を一定にするための構造を備えることを特徴とする。圧力を一定にするための構造として、背圧をかける構造を持たせ、その構造部を温度コントロールする手段や、廃液ライン上にシリンジやペリスタポンプなどを用いて、液を吸引または吐出できる構造を備える手段などを用いることが望ましい。
【0025】
さらに、熱交換部8としては、電熱,ペルチェ,恒温流体,循環などを用いて加温もしくは冷却する部分である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明はフローセルを用いた検出器を備えるフローインジェクション装置に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 送液ポンプ
2 オートサンプラ
3 分離カラム
4 カラムオーブン
5,12 検出器
6 フローセル
7 背圧構造部
8 熱交換部
9 圧力センサ
10 光源
11 グレーティング
13 シリンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローセルを用いた液体クロマトグラフ用の検出器において、フローセルを通過した後の試料の圧力を検出する圧力センサと、フローセルを通過した後の試料の圧力を一定に保つ手段を備えたことを特徴とした検出器。
【請求項2】
フローセルの後段に背圧部を備え、
前記圧力を一定に保つ手段は、前記フローセルの後段に配され前記背圧部の温度を制御する温度制御部であることを特徴とする請求項1に記載の検出器。
【請求項3】
前記圧力を一定に保つ手段は、前記フローセルの後段に配された、流路の加圧及び減圧可能な加減圧部であることを特徴とする請求項1に記載の検出器。
【請求項4】
前記加減圧部は、シリンジであることを特徴とする請求項3に記載の検出器。
【請求項5】
前記加減圧部は、ペリスタポンプであることを特徴とする請求項3に記載の検出器。
【請求項6】
フローセル用いた検出器を備えた液体クロマトグラフであって、
フローセルを通過した後の試料の圧力を検出する圧力センサと、
フローセルを通過した後の試料の圧力を一定に保つ手段とを備えていることを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項7】
フローセルの後段に背圧部を備え、
前記圧力を一定に保つ手段は、前記フローセルの後段に配され前記背圧部の温度を制御する温度制御部であることを特徴とする請求項6に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項8】
前記圧力を一定に保つ手段は、前記フローセルの後段に配された、流路の加圧及び減圧可能な加減圧部であることを特徴とする請求項6に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項9】
前記加減圧部は、シリンジであることを特徴とする請求項8に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項10】
前記加減圧部は、ペリスタポンプであることを特徴とする請求項8に記載の液体クロマトグラフ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−175418(P2010−175418A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18950(P2009−18950)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】